糸条の流体処理装置及び交絡糸条の製造方法
【課題】交絡処理中の糸飛び出しを防ぎ、強伸度低下のない、交絡の均一性と集束性に優れたマルチフィラメント糸条を高い生産性で製造することができる方法と、かかる方法を実施する流体処理装置を提供する。
【解決手段】糸条通路と、糸条通路に連通し走行する糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、糸条通路に開口し糸条を糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路が形成された糸条通路部材とを備えた流体処理装置であり、開口部における流体噴射時の圧力を糸条の通過方向に沿って積分した値が負となるように構成する。
【解決手段】糸条通路と、糸条通路に連通し走行する糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、糸条通路に開口し糸条を糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路が形成された糸条通路部材とを備えた流体処理装置であり、開口部における流体噴射時の圧力を糸条の通過方向に沿って積分した値が負となるように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条の流体処理装置及び交絡糸条の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維マルチフィラメント糸条などの糸条が通過する糸条通路と、この糸条通路に連通し走行する糸条に流体を噴射する流体噴射孔とを有する糸条通路部材を備えた糸条の流体処理装置は、糸条の製造工程安定化のため走行する糸条に集束性を付与する交絡などを実現するため、多くの製造工場で用いられている。以下、流体処理として交絡を行う場合について説明する。
【0003】
このような流体噴射交絡処理においては、糸条に間歇的に交絡部と開繊部を形成せしめるものであり、一定の張力を保ちながら連続して走行する糸条が流体処理装置を通過する過程で糸条走行側面方向から圧縮空気(以下、圧空という)の噴射を受けることにより、圧空の噴射力で、噴射孔より糸条を遠ざけようとする力と、糸条の走行状態を維持するために付与された張力により、糸条を噴射孔に引きつけようとする力、さらには噴射孔を横切ろうとする力が発生し、この運動を高速で振動する如くに連続的に繰り返すという、走行糸条に連続した弦振動的挙動を励起させる。この弦振動的挙動により糸条が噴射孔を横切る際、噴射流の力により、マルチフィラメントからなる糸条が単糸(単繊維)1本1本に押し広げられ開繊する。そして、噴射孔から糸処理部へ高速で空気が連続的に噴射されていることにより発生している乱流の力により開繊した単糸(単繊維)1本1本が個々にランダムに運動する。その結果、連続走行する糸条において、噴射流の当たった部分に開繊部分が形成され、その上流・下流両サイドにおいては各単糸が交錯した交絡部が形成されて、開繊部と交絡部とが連続して交互に高速で形成される。この交絡部が糸条に集束性を与える。
【0004】
このような走行する糸条への糸条側面方向からの圧空噴射を利用した糸挙動に基づく加工処理は、極力少ない圧空の空気使用量で安定した上述の弦振動的挙動を連続して励起させるのが好ましいという観点から、トンネルの如き狭い糸条通路を確保した上で、その中で、圧空流などの流体を糸条側面方向から噴射させ、弦振動的挙動を生ぜしめ得る流体処理装置を用いるのが通常である。
【0005】
このような流体処理装置においては、連続して走行する糸条を、外部から閉ざされた上記糸条通路へ導入するのが極めて困難なため、通常上記糸条通路と外部とを連通する糸導入通路が設けられている。糸条導入路の効果により、非常に簡単に、走行する糸条を上記糸条通路に導くことができる。
【0006】
しかしながら、上記糸条導入路は、糸条を糸条通路へ導入する作業を簡便にする効果がある反面、上記糸条導入路は上記糸条通路に直接開口しているため、前記開口部で噴射された圧空の流れが乱れることになり、その影響で、糸条の連続的な弦振動的挙動が妨げられ糸条の運動が不規則となることがある。その結果、糸の挙動が不規則になることから、糸条と糸条通路壁面や糸条導入路の角部との接触抵抗が増加することで糸条の強伸度の低下を招いたり、更には、得られた交絡が不均一でバラツキの大きいものとなるなど重大な品質的欠陥を引き起こすことになる場合がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、上記弊害を引き起こすことなく、強伸度の高い、均一でバラツキの小さな交絡が付与できる流体処理装置を開発することが重要となると考えている。
【0008】
更に、糸条通路に糸条導入路が構成されていても、その影響を受けることなく集束性の高い交絡が安定して維持できる流体処理装置を提供する必要があると考えている。
【0009】
更に、流体交絡糸として極めて優れた品質を安定して実現するには、上述の弦振動的挙動を適正に発生させることが肝要なことであり、すなわち、もし、安定したかつ恒常的な弦振動励起を実現できなければ、開繊部と交絡部の存在頻度が糸長さ方向で変動の大きなものになったり、開繊部が異常に長くなったり、あるいは個々の開繊部や交絡部の長さに不規則な変動が大きく生じたりするなどの不都合を招くことになり、そのような不都合は、糸条が合成繊維の製造設備で製造される際、糸条が搬送ロールに巻き付いたり、糸道ガイドに引っかかったりすることにより糸切れが生じ、糸条の通過性が悪くなり生産性を低下することになる。さらに、高次工程において糸条が織機等を通過する際、開繊長の長い部分が糸道ガイドなどに引っかかり、織機を停機に至らしめたりするなど糸条の通過性が悪化し、非常にやっかいな結果を招くことになる。
【0010】
本発明者らの知見によれば、弦振動的挙動を適正に発生させ、流体交絡糸として極めて優れた品質を安定して実現するために、特に注意されるべき事項は、糸条通路からの糸条の飛び出しや、交絡度の低下更にはバラツキ増大などを引き起こさず、如何に糸条導入路を糸条通路に構成し糸条通路の構成を適正化するかが流体処理装置の交絡性能を左右する重要な要素となる。
【0011】
従来、交絡に適する流体処理装置としては、特許文献1〜3に揚げられたものが一般的に知られている。
【特許文献1】特開平6−212526号公報
【特許文献2】特開平6−220737号公報
【特許文献3】特開平7−82628号公報 特許文献1、2には、糸条通路方向に円形の断面を有し、その円形の接線方向に糸条導入路の開口部を設けた流体処理装置が開示されている。しかし、本発明者らの知見によれば、かかる構成では、糸条導入路の糸条通路に対する開口部において、糸条通路の内部の圧力が流体処理装置外部の圧力より高い領域が支配的になっていると考えられるため、糸条が装置外部へと飛び出すという不都合が生じる場合があり、その結果、安定した交絡処理を行えず、糸条の品位を低下させる場合があった。
【0012】
また、上記のような糸飛び出しを防ぐために、可撓性薄板により糸条導入路を塞ぐことのできる流体処理装置が一般的に知られているが、本発明者らの知見によれば、かかる複雑な構成は糸条通路内で交絡に適切な乱流場を発生させる妨げとなり、さらには製作コストの増大を招いていた。
【0013】
また、特許文献3には、糸条の飛び出しを防ぐために、糸条導入路を流体噴射孔を横断するように複雑に配置する流体処理装置が開示されている。しかし、本発明者らの知見によれば、糸条導入路が流体噴射孔の流体の流れを妨げ、その結果流体を均一に糸条通路へ噴射することが困難となり、安定した交絡性能が得られない場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上述のような問題点に鑑み、交絡処理による強伸度低下のない、交絡の均一性と集束性に優れたマルチフィラメント糸条を効率よく製造すると同時に、更に、糸条導入通路を構成しても交絡性能の低下を招くことなく、高品質のマルチフィラメント糸条を得ることができる方法と、かかる方法を実施する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明によれば、糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記開口部における流体噴射時の圧力を前記糸条の通過方向に沿って積分した値が負となるよう構成されている糸条の流体処理装置が提供される。
【0016】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条通路部材が、前記流体噴射孔が開口する上型部と、前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部とにより構成されており、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足する糸条の流体処理装置が提供される。
【0017】
0.9<A1/A2<1.1
また、本発明の好ましい形態によれば、糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、交点C1と、交点C1から前記流体噴射孔が開口する上型部と前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部との対向部における前記上型部の一対の端点の中点を通過するように伸ばした直線と前記糸条通路の稜線とが交わってできるもう一方の交点C2と、前記糸条導入路の中心軸CCと前記糸条通路の稜線とが交わってできる交点S1を通過し前記交点C1と前記交点C2とを結ぶ線分L1に垂直な直線と前記線分L1とが交わってできる交点をC3とすると、前記線分L1と、前記交点C2と前記交点C3を結ぶ線分L2の長さの比が、次式を満足するように構成されていることを特徴とする糸条の流体処理装置が提供される。
【0018】
1.5<L1/L2<2.5
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条通路部材が、前記上型部に対応する上型と、前記下型部に対応する下型とにより構成されており、前記横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足する糸条の流体処理装置が提供される。
【0019】
0.9<A1/A2<1.1
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条通路部材は前記糸条通路に面する部位が一体に形成されている糸条の流体処理装置。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条の流体処理装置を用いて糸条を製造する交絡糸条の製造方法が提供される。
【0021】
なお、本発明において、「上型」とは、糸条の流体処理装置において流体噴射孔が開口する壁面を有する側の部材をいい、「下型」とは、流体噴射孔が開口する壁面と対向する壁面を有する側の部材をいう。上記上型と下型とをその合わせ面において接合することにより、糸条通路が形成される。
【0022】
また、本発明において、「流体噴射孔の中心軸」とは、噴射流体の進行方向に対して垂直な方向における流体噴射孔の各断面の面積重心を結んだ線をいう。
【0023】
また、本発明において、「糸条通路の中心軸」とは、糸条の進行方向に対して素直な方向における糸条通路の各断面の面積重心を結んだ線をいう。
【0024】
「流体噴射孔の中心軸」は、「糸条導入路の中心軸」に対し直交するのが好ましいが、糸条通路に噴射した流体を糸条走行方向に対してどちらか一方に排気する必要がある時などは斜めに形成しても構わない。
【0025】
また、本発明において、「糸条導入路の中心軸」とは、交点C1を含み糸条通路の軸線に対し垂直な横断面において、「糸条導入路」形成する間隙の中心点を結んだ直線をいう。
【発明の効果】
【0026】
本発明による流体処理装置を適用することで、糸条導入路からの交絡処理中の糸飛び出しを防止し、集束性に優れ、交絡にバラツキのない、品位に優れたマルチフィラメント糸条を高い生産性で製造すること可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面などを参照しながら、本発明の流体処理装置と交絡糸条の製造方法の好ましい実施形態例について、更に詳しく説明する。
【0028】
図1は、本実施形態の流体処理装置10の構造をモデル的に示した概略斜視投影図である。この流体処理装置の糸条通路部材1は上型1aと下型1bとを備えており、これらの間に、糸条Yが走行する糸条通路2を形成するものである。上型1aは、糸条通路2に開口し走行する糸条Yに糸条Yの走行方向と直交する方向に流体(一般に圧空)を噴射する流体噴射孔3を備えていて、上型1aと下型1bの間の糸条通路2に連通する部位には糸条Yを装置外部から糸条通路2内に挿入するための糸条導入路4が形成されている。そして、図から明らかなとおり、本実施形態においては、この断面において、上型部は流体噴射孔3からみて凹形に湾曲しており、一方、下型の衝突面Wは流体噴射孔3の中心軸CAと直交する線分を含んでいる。ここで、図2Aは、図1に示した本発明にかかる流体処理装置10のA-A断面にける横断面図であり、流体噴射孔3の中心軸CAを含み、糸条通路2の糸条走行方向軸線に垂直な横断面形状を現す。図2Aに示すとおり、糸条通路2は、この断面において、流体噴射孔3を有する上型1aと、流体噴射孔3から噴射された流体が衝突する衝突面W1を有する下型1bとを、その合わせ面W2において接合することにより形成され、流体噴射孔3の中心軸CAに対して概略対称形をなし、糸条通路2の左右どちらか一方に糸条導入路4が形成される。また、糸条導入路4は糸条通路2に面する開口部Sにおいて糸条通路2に開口している。この時、糸条導入路4は、上側スリット面W3(上型1a側の面)と上側スリット面W3に対向する下側スリット面W4(下型1b側の面)とで形成され、合わせ面W2と上側スリット面W3、若しくは下側スリット面W4は、合わせ面W2を含む仮想平面Pと一致する。図3Aは下側スリット面W4と合わせ面W2が仮想平面Pと一致している状態を示し、図3Bは上側スリット面W3と合わせ面W2が仮想平面Pと一致している状態を示す。
【0029】
図3Aにおいて上型1aの糸条通路2を形成する稜線Qのうち合わせ面W2側の端点をD1、他方の端点をD2とし(本実施形態においては、稜線Qの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した仮想延長線QVと仮想平面Pとの交点となっている)、また下型1bの糸条通路2を形成する稜線Rのうち合わせ面W2側の端点をE1、稜線Rの糸条導入路4側の端点をE2とした場合に、上型1aの幅寸法A1を2点D1・D2間の距離として定義し、下型1bの幅寸法A2を2点E1・E2間の距離として定義し、一方図3Bにおいて上型1aの糸条通路2を形成する稜線Qのうち合わせ面W2側の端点をD1´、糸条導入路4側の端点をD2´とし、また下型1bの糸条通路2を形成する稜線Rのうち合わせ面W2側の端点をE1´、稜線Rの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した延長線RVと仮想平面Pとの交点をE2´とした場合に、上型1aの幅寸法A1を2点D1´・D2´間の距離として定義し、下型1bの幅寸法A2を2点E1´・E2´間の距離として定義すると、比A1/A2が0.9を越え1.1未満であることが好ましく、更には、A1とA2の値が等しいことがより好ましい。
【0030】
A1/A2の比を上記関係とすることで、糸条通路2内壁面の上型1aと下型1bとの合わせ面の段差を小さくでき、糸条Yが交絡処理を受ける際に段差の角部との擦過によるダメージを軽減でき、糸条の毛羽立ちと糸条の強伸度の低下を防ぐことができる。また、糸条通路2内で上記段差を小さくすることで、糸条の単糸が角部で引っかかったりすることがなくなり、交絡単繊維1本1本ごとの動きを規制する要因が少なくなるので、より自由かつランダムな動きが可能となり、バラツキの少ない均一で良好な交絡処理を行うことができる。更にA1とA2の値を等しくし、前記上型1aと下型1bの段差をなくすことで上記の効果を最大に発揮し、最も理想的な状態で交絡処理を行うことができる。
【0031】
A1/A2の値が0.9以下となったり、1.1以上になると、糸条通路2内において、上記上型1aの幅寸法A1と上記下型1bの幅寸法A2との差が拡大し段差による角部も大きくなり、交絡処理中の糸条が角部で擦過し、強伸度の低下、毛羽立ちの増加などの不都合が生じる。また、糸条通路2内で角部や段差が大きくなることで、糸条の単糸が角部で引っかかり、その結果、単糸の挙動が抑制され交絡バラツキが増加するなどの不都合が生じることとなる。
【0032】
流体処理装置は多くの場合、複数の部材から構成されるが、その部品点数は組み立ての煩わしさ、組立精度の面から可能な限り少ないことが好ましい。さらには、図11に示したように上記上型1aと上記下型1bとをあわせた糸条通路部材1を放電加工等により一体物で製作することが好ましい。また、一体物に製作することが容易でかつ耐摩耗性に優れたセラミックスで製作するのがより好ましい。特に、上記上型1aと上記下型1bの2つを一体物で製作することにより、組み立ての手間を省くことができ、更に上記A1とA2に対応する寸法を全く等しくすることも容易にできるので交絡処理を行う上で、上記糸条通路の内壁に段差が存在しない最も理想的な形状が実現できる。この場合において、上型に相当する部分(上型部)と下型に相当する部分(下型部)の境界が糸条導入路4の開口部を除いてなめらかに接続されているので、上記幅寸法A1,A2は明確には定義しにくいが、ここでは、糸条導入路の下側スリット面を含む仮想平面が上型部と下型部の境界をなすものとみなす。
【0033】
次に、図1の実施形態の糸条導入路4の位置について詳細に説明する。図1のA-A断面を表した図2Aにおいて、流体噴射孔3の中心軸CAと糸条通路2の上型1aの稜線とが交叉し形成される流体噴射孔3側の交点C1と、前記中心軸CAと前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型1aとの間に前記糸条導入路4を形成する糸条通路2の下型1bとの稜線とが交叉し形成される交点C2と、前記糸条導入路の中心軸CCと前記糸条通路の稜線とが交わってできる交点S1を通過し前記交点C1と前記交点C2とを結ぶ線分L1に垂直な直線と線分前記L1とが交わってできる交点をC3としたとき、上記交点C1と上記交点C2を結んだ線分L1と、上記交点C3と上記交点C2を結んだ線分L2の比L1/L2が、1.5を越え、2.5未満にすることが好ましく、さらには、上記比L1/L2が1.9を越え、2.1未満にすることがより好ましい。L1/L2の比を1.5を越え、2.5未満とすることで、糸条Yの糸条導入路4からの飛び出しを防ぐことが可能となり、良好な交絡処理を行うことができる。更にL1/L2を1.9を越え、2.1未満とすることで、糸条Yの飛び出しを最も効果的に防ぐことができ、最良な交絡処理を行うことが可能となる。
【0034】
次に糸条Yの飛び出しを抑制できるメカニズムを本発明者らの知見に基づいて説明する。
【0035】
図2Bは、図1に示した本発明の一実施形態における流体処理装置のA−A断面における圧縮流体の流れを示した概略図である。図2Bにおいて、上型1aに連通する流体噴射孔3から噴射された圧縮流体は、糸条通路2の内部を膨張しながら高速で通過し下型1bの衝突面W1で衝突、反射した後、衝突面W1に沿って糸条通路2の壁面方向へ移動し、その後、糸条通路2の壁面を上方へ向けて移動する。なお、圧縮流体は、糸条通路2の中央部から糸条Yの出入り口方向へ排気されることになる。
【0036】
図2Bにおける衝突面W1と糸条通路2の壁面が交わる場所、すなわち、糸条通路2の下部両端付近においては、圧縮流体が衝突面W1から一度離れて(はく離)、ふたたび糸条通路2の壁面で付着するような流れが起こっているものと推測される。同様に、糸条通路2の壁面と流体噴射孔3が交わる場所、すなわち、糸条通路2の上部両端付近においても、圧縮流体が糸条通路2の壁面から離れて、ふたたび流体噴射孔3からの圧縮流体と同じ方向に流れるものと推測される。
【0037】
この現象を、圧縮流体の速度の観点から捉えると、圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離しない場所においては、圧縮流体の速度低下は大きくないのに対し、圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離した場所においては、速度低下が著しいものと推測される。また、ベルヌーイの定理を考慮して、この現象を圧力の観点から捉えると、速度低下が大きくない場所においては、圧力が低い状態が維持されるため、流体処理装置外部の圧力に比べて低くなるのに対し、速度低下が著しい場所においては、圧力が高くなるため、流体処理装置外部の圧力に比べて高くなるものと推測される。
【0038】
これらの場所を図2BにおけるL1/L2の比で表してみると以下のようになる。
【0039】
L1/L2の比が2.5以上の場合、すなわち、糸条導入路4を圧縮流体が衝突面W1からはく離する場所に設けた場合においては、流体の速度低下が著しく、糸条通路2の内部の圧力が装置外部の圧力に比べ高くなる。このような場所に糸条導入路4を設けた場合には、噴射された圧縮流体が糸条導入路4から流体処理装置の外部へ吹き出されるため、これと同時に糸条通路2内の糸条Yが外へ飛び出してしまうという不具合が発生することになる。
【0040】
また、L1/L2の比が1.5以下の場合、すなわち、糸条導入路4を圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離する場所に設けた場合においても、同様に噴射された圧縮流体が糸条導入路4から流体処理装置の外部へ吹き出されることとなり同時に糸条Yが外へ飛び出すという不具合が発生することになる。
【0041】
一方、上記L1/L2の比が1.5を越え2.5未満の場合、すなわち、糸条導入路4を圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離しない場所に設けた場合においては、噴射された圧縮流体の速度低下が大きくなく、圧力が低い状態が維持され、流体処理装置外部の圧力に比べ低くなり、糸条導入路4から糸条通路2に外気が吸い込まれることとなり糸条Yの飛び出しを防ぐことができる。
【0042】
すなわち、本発明者らは、糸条走行方向において、糸条導入路4を糸条通路2の圧力の和が装置外部の圧力に対し高い(圧力積分値が正)場所に設ければ糸条Yが外に飛び出すという不具合が発生するが、糸条導入路4を設ける位置を、糸条通路2の圧力の和が装置外部の圧力に対し低い(圧力積分値が負)場所とすることで、糸条Yの飛び出しを防ぐことができるという新知見を見出した。
【0043】
また、流体噴射孔3から噴射された流体の速度が音速を超えるようなレベルのものであり、糸条通路2内には衝撃波が発生し、その影響により、糸条通路2の圧力の和が流体処理装置外部の圧力に対して低くなるような場所と高くなるような場所とは非常に微小な境界現象となり、前記衝撃波を境とする境界層で圧力が極端に変化する。その結果、上記範囲を境として圧力の臨界的な変化がみられる。
本実施形態において、具体的なA1,A2及びL1,L2の各部の寸法の一例としては、A1=A2=2mm、L1=1.8mm、L2=0.9mmといった数値が挙げられる。
【0044】
図4及び5は、本実施形態の流体処理装置10を相似的に8倍に拡大すると同時に糸条通路を省略したモデルZを用いた糸条通路の圧力測定方法を示した模式図で、図6は流体の噴射圧力を交絡処理を行う上で最も使用頻度の高い0.4MPaで実施した時の測定結果を示した図である。このように、糸条の流体処理装置は、形状が相似形であれば各部の寸法を2〜10倍に拡大しても圧力分布を本発明の目的に沿った範囲で再現することができるので、測定を容易にするために上記のように拡大し、糸条導入路の糸条通路側の開口部をふさいだモデルを用いて測定してもよい。
【0045】
図4に示す様に、糸条通路内の圧力の測定は、糸条通路端部から注射針PSを少しずつ挿入し、挿入量に対応した各点における圧力を注射針PSに取り付けた圧力計PRで測定した。測定は、各点において1回ずつ測定した。各測定点における値には再現性があるため、測定回数は1回で十分であった。また、図6は、糸条導入路4を形成する位置の比L1/L2を0.05おきに変化させたときの糸条通路2内の圧力分布を上記図4による方法で測定した時の結果をグラフで示したものである。
【0046】
図5Aは、図4に示したモデルZのB-B断面における縦断面図であり、図5Bは、図4に示したモデルZのB-B断面における横断面図である。また、図5Cは図5AにおいてモデルZにおける糸条通路2内の壁面近傍の圧力を糸条走行方向に沿って一方の端部から他方の端部までの圧力分布を図5BのX1からX3の範囲で測定し表した模式図である。なお、圧力は大気圧よりも高い場合を正(図5Cの圧力分布図における正圧領域N)、大気圧よりも低い場合を負(図5Cの圧力分布図における負圧領域M)とした。図5Cに示すように、本発明者らが、モデルZの実験結果を元に相似的に再現した図1及至図3の流体処理装置10を用いて鋭意検討を重ねた結果、糸条通路2内には糸条走行方向で圧力が正となる正圧領域Nと、圧力が負となる負圧領域Mが存在し、前記糸条通路の糸道方向に圧力を積分した値が負となる糸条通路壁面の領域に、前記糸条導入路の開口部を設けることにより、該糸条通路から糸条が外部へ飛び出すと言う不具合が発生しないという新知見を見出した。すなわち、正圧領域Nの方が負圧領域Mよりも支配的になる場合、つまり正圧領域Nの面積が負圧領域Mの面積よりも大きくなる場合において糸条が糸条導入路4から流体処理装置10の外部へと飛び出すという不具合が発生し、一方、負圧領域Mの方が正圧領域Nよりも支配的になる場合、つまり負圧領域Mの面積の方が正圧領域Nの面積よりも大きくなる場合には上述のような不具合を生じずに良好な交絡処理を施すことが可能となることを見出した。ここで、モデルZの糸条通路2内部の圧力を糸条走行方向に一方の端部から、流体噴射孔3の中心軸CAが位置する中央部まで積分した値を圧力積分値と定義し、負圧領域Mの面積の方が正圧領域Nの面積よりも大きくなるとは、上記圧力積分値が負となることを表す。
【0047】
さらに、本発明者らは、図5Aに示すように、比L1/L2が1.5を越え、2.5未満である領域をGとすると、領域G内に糸条導入路4をモデルZを相似的に再現した流体処理装置10に配置することにより、糸条導入路4の糸条通路2に対する開口部Sにおいて、圧力積分値が負となり、糸条導入路4より導入された糸条Yが、走行中に糸条通路2から外部に飛び出すことを防止できることを見出した。このように圧力積分値が負となる領域に糸条導入路4の開口部Sを配置することで、たとえ開口部Sの一部において流体処理装置10の外部よりも圧力が高い箇所(例えば、図5Cに示す正圧領域N)が存在していたとしても、全体として流体処理装置10の外部から糸条通路2の内部に外気が吹込まれることとなり、その結果、糸条Yが糸条通路2から流体処理装置10の外部へ飛び出すことを防止することが可能となり、良好な交絡処理を実現できる。
【0048】
一方、比L1/L2が1.5以下か、又は2.5以上である領域(糸条通路2内で領域G以外の領域H、Iを現す。)に糸条導入路4を配置すると、開通部分Sにおいて圧力積分値が正となり、流体噴射孔3から噴射されたエアーが糸条導入路4を通して、流体処理装置10の外部へと吹き出しやすくなるので、糸条が噴射された圧空と供に開通部分Sから飛び出し正常な交絡処理が行えなくなる。
【0049】
また、これらの現象は、流体噴射孔から噴射された流体の速度が音速を超えるため、糸条通路内に発生した衝撃波の影響で非常に微小な境界現象となり、前記衝撃波を境とする境界層で圧力が極端に変化する。よって、比L1/L2が1.5以下であったり或いは2.5以上であったりするとたちまち糸条Yの飛び出しが発生し臨界的な現象が起こることになる。
【0050】
なお、本実施形態の流体処理装置において、糸条通路の横断面形状は、図1、2では代表例として扁平半円形状のものを示したが、矩形状や円形状、三角形状、半円状、菱形状、トラック円形状あるいは楕円形状のものなど断面形状において内部に向かう突起様の部位がない単純な形の場合は、前述の原理がそのまま当てはまるので、いずれの形態を採用しても、上記効果を実現することができ、優れた交絡糸条を得ることが可能となる。ただし、星型形状など糸条通路の内側に突起物が形成するような複雑形状であるものは、前記突起物が糸条通路2内の流体の流れを阻害し糸条導入路4を上記範囲に構成しても糸条Yの飛び出しが発生し本発明の効果を発揮できないこともある。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本実施形態の効果をさらに詳細に説明する。
【0052】
図1乃至図3に示す流体処理装置10を用いて、ポリエステルマルチフィラメントからなる84dtex−36フィラメント糸を、糸速度5000m/分で走行させて、0.4MPa、糸張力0.2g/dtexで流体交絡処理を行った。
【0053】
こうして得られた交絡糸条について、交絡度とバラツキを測定し評価を行った。
【0054】
交絡度としては、得られたサンプルの開繊長を20回測定し単位長さ(1000mm)を開繊長で割った値を採用し、測定を50回繰り返した結果の平均値を求めた。交絡度の測定はロッシールド社製自動交絡測定装置R−2072を用いて、測定条件としてプリテンションを10CN(センチニュートン)に、トリップテンションを20CNに設定し測定した。
【0055】
また、糸条の品位については、上記交絡度のバラツキをCV値で比較した。ここでCV値とは、測定値の標準偏差を平均値で割り返した値をいう。
【0056】
本評価により得られた結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
なお、交絡度の評価は、3段階で行い、交絡度が30以上を「品位が優れている」として「○」で表示し、20以上30未満を「△」、20未満を「品位が劣る」として「×」で表示した。
【0059】
また、バラツキCV値の評価も3段階評価として行い、CV値が50未満を「品位が優れている」として「○」で表示し、50以上60未満を「△」、60以上を「品位が劣る」として「×」で表示した。
【0060】
総合評価としては、交絡度とバラツキのいずれかひとつでも「×」のもの「×」、交絡度が「△」でかつバラツキが「△」であるものを「△」、交絡度が「○」でかつバラツキが「△」であるものを「○」、交絡度もバラツキもともに「○」のものを最良として「◎」で表示し、総合判定で「○」以上のものを合格とした。
【0061】
さらに、各水準において、交絡処理を行った際に、糸条導入路から装置外部への糸飛び出しが発生していないかを確認した。
[実施例1]
図7において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1.05、糸条導入路をL1/L2が1.8になる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度が「○」、CV値が「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例2]
図8において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.92、糸条導入路をL1/L2が1.8になる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度が「○」、CV値が「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例3]
図9において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1、糸条導入路をL1/L2が2.4となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度が「○」、CV値が「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例4]
図10において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1、糸条導入路をL1/L2が1.64となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度は「○」、CV値は「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例5]
図10において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1、糸条導入路をL1/L2が2となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、更に交絡性能に於いても、交絡度、バラツキCV値、共に優れ、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が大幅に向上し、交絡品位に優れた高品質な糸条を得ることができた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[比較例1]
実施例1の流体処理装置において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1.1、糸条導入路をL1/L2が2.57となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0062】
その結果、その結果、糸条導入口をL1/L2が2.57であり、圧力積分値が正の値と本発明の範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が1.1と本発明の範囲に比べ大きいため交絡度は15に低下し、バラツキCV値が85に悪化した。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
[比較例2]
実施例2の流体処理装置において上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.85、糸条導入路をL1/L2が2.57となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0063】
その結果、糸条導入口をL1/L2が2.57であり、圧力積分値が正の値と本発明の範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が0.85と本発明の範囲に比べ小さいため交絡度は11に低下し、バラツキCV値が83に悪化した。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
[比較例3]
実施例2の流体処理装置において上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.88、糸条導入路をL1/L2が2.57となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0064】
その結果、糸条導入口をL1/L2が2.57であり、圧力積分値が正の値と本発明の範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が0.88と本発明の範囲に比べ小さいため交絡度は10に大幅低下し、バラツキCV値が80に悪化した。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い極めて低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
[比較例4]
実施例2の流体処理装置において上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.88、糸条導入路をL1/L2が1.44となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0065】
その結果、糸条導入口をL1/L2が1.44であり、圧力積分値が正の値と本発明の配範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が0.88と交絡度は9に悪化し、バラツキCV値が65と良くなかった。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い極めて低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、特に交絡品位に優れた交絡糸条の製造に好適な流体処理装置に適用できるがその応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態における流体処理装置の構造例をモデル的に示した概略斜視投影図である。
【図2A】図1に示した本発明の一実施形態における流体処理装置のA−A断面図である。
【図2B】図1に示した本発明の一実施形態における流体処理装置のA−A断面における圧縮流体の流れを示した概略図である。
【図3A】本発明の一実施形態における流体処理装置において下側スリット面W4が合わせ面W2を含む仮想平面Pと一致している状態を示した図である。
【図3B】本発明の一実施形態における流体処理装置において上側スリット面W3が合わせ面W2を含む仮想平面Pと一致している状態を示した図である。
【図4】糸条通路2内の圧力を測定する測定装置を示した模式図である。
【図5A】流体処理装置10の流体噴射孔3の中心軸CAを含みA−A断面に垂直なB-B断面図である。
【図5B】流体処理装置10の流体噴射孔3の中心軸CAを含みB−B断面に垂直なA-A断面図である。
【図5C】図4において流体処理装置10における糸条通路2内の圧力を糸条走行方向に一方の端部から他方の端部まで測定した圧力分布図である。
【図6】図4の測定装置により糸条通路2内の圧力分布を測定した結果を示す図である。
【図7】図2のA−A断面図のうちA1>A2である状態を示した図である。
【図8】図2のA−A断面図のうちA1<A2である状態を示した図である。
【図9】図2のA−A断面図のうち糸条導入路4が流体衝突面付近に配置された状態を示した図である。
【図10】図2のA−A断面図のうち糸条導入路4が流体噴射孔付近に配置された状態を示した図である。
【図11】図1の流体処理装置の上型と下型を一体物に構成した状態を示す概略斜視投影図である。
【符号の説明】
【0068】
1 糸条通路部材
1a 糸条通路部材1の上型
1b 糸条通路部材1の下型
2 糸条通路
3 流体噴射孔
4 糸条導入路
10 流体処理装置
Y 糸条
S 糸条導入路4の糸条通路2に対する開口部
S1 図1のA-A断面における糸条通路2の稜線と糸条導入路4の中心軸CBとの交点
CA 流体噴射孔3の中心軸
CB 糸条通路2の中心軸
CC 糸条導入路4の中心軸
C1 中心軸CAと上型1aの稜線との交点
C2 中心軸CAと下型1bの稜線との交点
C3 中心軸CBと直交し交点S1を通過する直線と線分L1との交点
W1 流体噴射孔3から噴射された流体が衝突する衝突面
W2 上型1aと下型1bとの合わせ面
W3 糸条導入路4のうち上型1a側の面
W4 糸条導入路4のうち面W3に対向する下型1b側の面
Q 図3AのA-A断面における上型1aの糸条通路2を形成する稜線
QV 稜線Qの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した仮想延長線
P 合わせ面W2を含む仮想平面
R 下型1bの糸条通路2を形成する稜線
RV 稜線Rの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した延長線
D1 稜線Qのうち合わせ面W2側の端点
D2 仮想延長線QVと仮想平面Pとの交点
E1 稜線Rのうち合わせ面W2側の端点
E2 稜線Rの糸条導入路4側の端点
A1 上型1aの横断面における下型1bとの対向部の巾寸法
A2 下型1bの横断面における上型1aとの対向部の巾寸法
L1 線分C1C2の長さ
L2 線分C2C3の長さ
G 糸条通路2内で比L1/L2が1.5を越え、5未満である領域
H 糸条通路2内で比L1/L2が1.5以下である領域
I 糸条通路2内で比L1/L2が5以上である領域
M 図5Cの圧力分布図における負圧領域
N 図5Cの圧力分布図における正圧領域
X1 圧力分布の測定位置
X2 圧力分布の測定位置
X3 圧力分布の測定位置
Z 糸条導入路の糸条通路側の開口部をふさいだモデル
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条の流体処理装置及び交絡糸条の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維マルチフィラメント糸条などの糸条が通過する糸条通路と、この糸条通路に連通し走行する糸条に流体を噴射する流体噴射孔とを有する糸条通路部材を備えた糸条の流体処理装置は、糸条の製造工程安定化のため走行する糸条に集束性を付与する交絡などを実現するため、多くの製造工場で用いられている。以下、流体処理として交絡を行う場合について説明する。
【0003】
このような流体噴射交絡処理においては、糸条に間歇的に交絡部と開繊部を形成せしめるものであり、一定の張力を保ちながら連続して走行する糸条が流体処理装置を通過する過程で糸条走行側面方向から圧縮空気(以下、圧空という)の噴射を受けることにより、圧空の噴射力で、噴射孔より糸条を遠ざけようとする力と、糸条の走行状態を維持するために付与された張力により、糸条を噴射孔に引きつけようとする力、さらには噴射孔を横切ろうとする力が発生し、この運動を高速で振動する如くに連続的に繰り返すという、走行糸条に連続した弦振動的挙動を励起させる。この弦振動的挙動により糸条が噴射孔を横切る際、噴射流の力により、マルチフィラメントからなる糸条が単糸(単繊維)1本1本に押し広げられ開繊する。そして、噴射孔から糸処理部へ高速で空気が連続的に噴射されていることにより発生している乱流の力により開繊した単糸(単繊維)1本1本が個々にランダムに運動する。その結果、連続走行する糸条において、噴射流の当たった部分に開繊部分が形成され、その上流・下流両サイドにおいては各単糸が交錯した交絡部が形成されて、開繊部と交絡部とが連続して交互に高速で形成される。この交絡部が糸条に集束性を与える。
【0004】
このような走行する糸条への糸条側面方向からの圧空噴射を利用した糸挙動に基づく加工処理は、極力少ない圧空の空気使用量で安定した上述の弦振動的挙動を連続して励起させるのが好ましいという観点から、トンネルの如き狭い糸条通路を確保した上で、その中で、圧空流などの流体を糸条側面方向から噴射させ、弦振動的挙動を生ぜしめ得る流体処理装置を用いるのが通常である。
【0005】
このような流体処理装置においては、連続して走行する糸条を、外部から閉ざされた上記糸条通路へ導入するのが極めて困難なため、通常上記糸条通路と外部とを連通する糸導入通路が設けられている。糸条導入路の効果により、非常に簡単に、走行する糸条を上記糸条通路に導くことができる。
【0006】
しかしながら、上記糸条導入路は、糸条を糸条通路へ導入する作業を簡便にする効果がある反面、上記糸条導入路は上記糸条通路に直接開口しているため、前記開口部で噴射された圧空の流れが乱れることになり、その影響で、糸条の連続的な弦振動的挙動が妨げられ糸条の運動が不規則となることがある。その結果、糸の挙動が不規則になることから、糸条と糸条通路壁面や糸条導入路の角部との接触抵抗が増加することで糸条の強伸度の低下を招いたり、更には、得られた交絡が不均一でバラツキの大きいものとなるなど重大な品質的欠陥を引き起こすことになる場合がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、上記弊害を引き起こすことなく、強伸度の高い、均一でバラツキの小さな交絡が付与できる流体処理装置を開発することが重要となると考えている。
【0008】
更に、糸条通路に糸条導入路が構成されていても、その影響を受けることなく集束性の高い交絡が安定して維持できる流体処理装置を提供する必要があると考えている。
【0009】
更に、流体交絡糸として極めて優れた品質を安定して実現するには、上述の弦振動的挙動を適正に発生させることが肝要なことであり、すなわち、もし、安定したかつ恒常的な弦振動励起を実現できなければ、開繊部と交絡部の存在頻度が糸長さ方向で変動の大きなものになったり、開繊部が異常に長くなったり、あるいは個々の開繊部や交絡部の長さに不規則な変動が大きく生じたりするなどの不都合を招くことになり、そのような不都合は、糸条が合成繊維の製造設備で製造される際、糸条が搬送ロールに巻き付いたり、糸道ガイドに引っかかったりすることにより糸切れが生じ、糸条の通過性が悪くなり生産性を低下することになる。さらに、高次工程において糸条が織機等を通過する際、開繊長の長い部分が糸道ガイドなどに引っかかり、織機を停機に至らしめたりするなど糸条の通過性が悪化し、非常にやっかいな結果を招くことになる。
【0010】
本発明者らの知見によれば、弦振動的挙動を適正に発生させ、流体交絡糸として極めて優れた品質を安定して実現するために、特に注意されるべき事項は、糸条通路からの糸条の飛び出しや、交絡度の低下更にはバラツキ増大などを引き起こさず、如何に糸条導入路を糸条通路に構成し糸条通路の構成を適正化するかが流体処理装置の交絡性能を左右する重要な要素となる。
【0011】
従来、交絡に適する流体処理装置としては、特許文献1〜3に揚げられたものが一般的に知られている。
【特許文献1】特開平6−212526号公報
【特許文献2】特開平6−220737号公報
【特許文献3】特開平7−82628号公報 特許文献1、2には、糸条通路方向に円形の断面を有し、その円形の接線方向に糸条導入路の開口部を設けた流体処理装置が開示されている。しかし、本発明者らの知見によれば、かかる構成では、糸条導入路の糸条通路に対する開口部において、糸条通路の内部の圧力が流体処理装置外部の圧力より高い領域が支配的になっていると考えられるため、糸条が装置外部へと飛び出すという不都合が生じる場合があり、その結果、安定した交絡処理を行えず、糸条の品位を低下させる場合があった。
【0012】
また、上記のような糸飛び出しを防ぐために、可撓性薄板により糸条導入路を塞ぐことのできる流体処理装置が一般的に知られているが、本発明者らの知見によれば、かかる複雑な構成は糸条通路内で交絡に適切な乱流場を発生させる妨げとなり、さらには製作コストの増大を招いていた。
【0013】
また、特許文献3には、糸条の飛び出しを防ぐために、糸条導入路を流体噴射孔を横断するように複雑に配置する流体処理装置が開示されている。しかし、本発明者らの知見によれば、糸条導入路が流体噴射孔の流体の流れを妨げ、その結果流体を均一に糸条通路へ噴射することが困難となり、安定した交絡性能が得られない場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上述のような問題点に鑑み、交絡処理による強伸度低下のない、交絡の均一性と集束性に優れたマルチフィラメント糸条を効率よく製造すると同時に、更に、糸条導入通路を構成しても交絡性能の低下を招くことなく、高品質のマルチフィラメント糸条を得ることができる方法と、かかる方法を実施する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明によれば、糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記開口部における流体噴射時の圧力を前記糸条の通過方向に沿って積分した値が負となるよう構成されている糸条の流体処理装置が提供される。
【0016】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条通路部材が、前記流体噴射孔が開口する上型部と、前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部とにより構成されており、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足する糸条の流体処理装置が提供される。
【0017】
0.9<A1/A2<1.1
また、本発明の好ましい形態によれば、糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、交点C1と、交点C1から前記流体噴射孔が開口する上型部と前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部との対向部における前記上型部の一対の端点の中点を通過するように伸ばした直線と前記糸条通路の稜線とが交わってできるもう一方の交点C2と、前記糸条導入路の中心軸CCと前記糸条通路の稜線とが交わってできる交点S1を通過し前記交点C1と前記交点C2とを結ぶ線分L1に垂直な直線と前記線分L1とが交わってできる交点をC3とすると、前記線分L1と、前記交点C2と前記交点C3を結ぶ線分L2の長さの比が、次式を満足するように構成されていることを特徴とする糸条の流体処理装置が提供される。
【0018】
1.5<L1/L2<2.5
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条通路部材が、前記上型部に対応する上型と、前記下型部に対応する下型とにより構成されており、前記横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足する糸条の流体処理装置が提供される。
【0019】
0.9<A1/A2<1.1
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条通路部材は前記糸条通路に面する部位が一体に形成されている糸条の流体処理装置。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記糸条の流体処理装置を用いて糸条を製造する交絡糸条の製造方法が提供される。
【0021】
なお、本発明において、「上型」とは、糸条の流体処理装置において流体噴射孔が開口する壁面を有する側の部材をいい、「下型」とは、流体噴射孔が開口する壁面と対向する壁面を有する側の部材をいう。上記上型と下型とをその合わせ面において接合することにより、糸条通路が形成される。
【0022】
また、本発明において、「流体噴射孔の中心軸」とは、噴射流体の進行方向に対して垂直な方向における流体噴射孔の各断面の面積重心を結んだ線をいう。
【0023】
また、本発明において、「糸条通路の中心軸」とは、糸条の進行方向に対して素直な方向における糸条通路の各断面の面積重心を結んだ線をいう。
【0024】
「流体噴射孔の中心軸」は、「糸条導入路の中心軸」に対し直交するのが好ましいが、糸条通路に噴射した流体を糸条走行方向に対してどちらか一方に排気する必要がある時などは斜めに形成しても構わない。
【0025】
また、本発明において、「糸条導入路の中心軸」とは、交点C1を含み糸条通路の軸線に対し垂直な横断面において、「糸条導入路」形成する間隙の中心点を結んだ直線をいう。
【発明の効果】
【0026】
本発明による流体処理装置を適用することで、糸条導入路からの交絡処理中の糸飛び出しを防止し、集束性に優れ、交絡にバラツキのない、品位に優れたマルチフィラメント糸条を高い生産性で製造すること可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面などを参照しながら、本発明の流体処理装置と交絡糸条の製造方法の好ましい実施形態例について、更に詳しく説明する。
【0028】
図1は、本実施形態の流体処理装置10の構造をモデル的に示した概略斜視投影図である。この流体処理装置の糸条通路部材1は上型1aと下型1bとを備えており、これらの間に、糸条Yが走行する糸条通路2を形成するものである。上型1aは、糸条通路2に開口し走行する糸条Yに糸条Yの走行方向と直交する方向に流体(一般に圧空)を噴射する流体噴射孔3を備えていて、上型1aと下型1bの間の糸条通路2に連通する部位には糸条Yを装置外部から糸条通路2内に挿入するための糸条導入路4が形成されている。そして、図から明らかなとおり、本実施形態においては、この断面において、上型部は流体噴射孔3からみて凹形に湾曲しており、一方、下型の衝突面Wは流体噴射孔3の中心軸CAと直交する線分を含んでいる。ここで、図2Aは、図1に示した本発明にかかる流体処理装置10のA-A断面にける横断面図であり、流体噴射孔3の中心軸CAを含み、糸条通路2の糸条走行方向軸線に垂直な横断面形状を現す。図2Aに示すとおり、糸条通路2は、この断面において、流体噴射孔3を有する上型1aと、流体噴射孔3から噴射された流体が衝突する衝突面W1を有する下型1bとを、その合わせ面W2において接合することにより形成され、流体噴射孔3の中心軸CAに対して概略対称形をなし、糸条通路2の左右どちらか一方に糸条導入路4が形成される。また、糸条導入路4は糸条通路2に面する開口部Sにおいて糸条通路2に開口している。この時、糸条導入路4は、上側スリット面W3(上型1a側の面)と上側スリット面W3に対向する下側スリット面W4(下型1b側の面)とで形成され、合わせ面W2と上側スリット面W3、若しくは下側スリット面W4は、合わせ面W2を含む仮想平面Pと一致する。図3Aは下側スリット面W4と合わせ面W2が仮想平面Pと一致している状態を示し、図3Bは上側スリット面W3と合わせ面W2が仮想平面Pと一致している状態を示す。
【0029】
図3Aにおいて上型1aの糸条通路2を形成する稜線Qのうち合わせ面W2側の端点をD1、他方の端点をD2とし(本実施形態においては、稜線Qの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した仮想延長線QVと仮想平面Pとの交点となっている)、また下型1bの糸条通路2を形成する稜線Rのうち合わせ面W2側の端点をE1、稜線Rの糸条導入路4側の端点をE2とした場合に、上型1aの幅寸法A1を2点D1・D2間の距離として定義し、下型1bの幅寸法A2を2点E1・E2間の距離として定義し、一方図3Bにおいて上型1aの糸条通路2を形成する稜線Qのうち合わせ面W2側の端点をD1´、糸条導入路4側の端点をD2´とし、また下型1bの糸条通路2を形成する稜線Rのうち合わせ面W2側の端点をE1´、稜線Rの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した延長線RVと仮想平面Pとの交点をE2´とした場合に、上型1aの幅寸法A1を2点D1´・D2´間の距離として定義し、下型1bの幅寸法A2を2点E1´・E2´間の距離として定義すると、比A1/A2が0.9を越え1.1未満であることが好ましく、更には、A1とA2の値が等しいことがより好ましい。
【0030】
A1/A2の比を上記関係とすることで、糸条通路2内壁面の上型1aと下型1bとの合わせ面の段差を小さくでき、糸条Yが交絡処理を受ける際に段差の角部との擦過によるダメージを軽減でき、糸条の毛羽立ちと糸条の強伸度の低下を防ぐことができる。また、糸条通路2内で上記段差を小さくすることで、糸条の単糸が角部で引っかかったりすることがなくなり、交絡単繊維1本1本ごとの動きを規制する要因が少なくなるので、より自由かつランダムな動きが可能となり、バラツキの少ない均一で良好な交絡処理を行うことができる。更にA1とA2の値を等しくし、前記上型1aと下型1bの段差をなくすことで上記の効果を最大に発揮し、最も理想的な状態で交絡処理を行うことができる。
【0031】
A1/A2の値が0.9以下となったり、1.1以上になると、糸条通路2内において、上記上型1aの幅寸法A1と上記下型1bの幅寸法A2との差が拡大し段差による角部も大きくなり、交絡処理中の糸条が角部で擦過し、強伸度の低下、毛羽立ちの増加などの不都合が生じる。また、糸条通路2内で角部や段差が大きくなることで、糸条の単糸が角部で引っかかり、その結果、単糸の挙動が抑制され交絡バラツキが増加するなどの不都合が生じることとなる。
【0032】
流体処理装置は多くの場合、複数の部材から構成されるが、その部品点数は組み立ての煩わしさ、組立精度の面から可能な限り少ないことが好ましい。さらには、図11に示したように上記上型1aと上記下型1bとをあわせた糸条通路部材1を放電加工等により一体物で製作することが好ましい。また、一体物に製作することが容易でかつ耐摩耗性に優れたセラミックスで製作するのがより好ましい。特に、上記上型1aと上記下型1bの2つを一体物で製作することにより、組み立ての手間を省くことができ、更に上記A1とA2に対応する寸法を全く等しくすることも容易にできるので交絡処理を行う上で、上記糸条通路の内壁に段差が存在しない最も理想的な形状が実現できる。この場合において、上型に相当する部分(上型部)と下型に相当する部分(下型部)の境界が糸条導入路4の開口部を除いてなめらかに接続されているので、上記幅寸法A1,A2は明確には定義しにくいが、ここでは、糸条導入路の下側スリット面を含む仮想平面が上型部と下型部の境界をなすものとみなす。
【0033】
次に、図1の実施形態の糸条導入路4の位置について詳細に説明する。図1のA-A断面を表した図2Aにおいて、流体噴射孔3の中心軸CAと糸条通路2の上型1aの稜線とが交叉し形成される流体噴射孔3側の交点C1と、前記中心軸CAと前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型1aとの間に前記糸条導入路4を形成する糸条通路2の下型1bとの稜線とが交叉し形成される交点C2と、前記糸条導入路の中心軸CCと前記糸条通路の稜線とが交わってできる交点S1を通過し前記交点C1と前記交点C2とを結ぶ線分L1に垂直な直線と線分前記L1とが交わってできる交点をC3としたとき、上記交点C1と上記交点C2を結んだ線分L1と、上記交点C3と上記交点C2を結んだ線分L2の比L1/L2が、1.5を越え、2.5未満にすることが好ましく、さらには、上記比L1/L2が1.9を越え、2.1未満にすることがより好ましい。L1/L2の比を1.5を越え、2.5未満とすることで、糸条Yの糸条導入路4からの飛び出しを防ぐことが可能となり、良好な交絡処理を行うことができる。更にL1/L2を1.9を越え、2.1未満とすることで、糸条Yの飛び出しを最も効果的に防ぐことができ、最良な交絡処理を行うことが可能となる。
【0034】
次に糸条Yの飛び出しを抑制できるメカニズムを本発明者らの知見に基づいて説明する。
【0035】
図2Bは、図1に示した本発明の一実施形態における流体処理装置のA−A断面における圧縮流体の流れを示した概略図である。図2Bにおいて、上型1aに連通する流体噴射孔3から噴射された圧縮流体は、糸条通路2の内部を膨張しながら高速で通過し下型1bの衝突面W1で衝突、反射した後、衝突面W1に沿って糸条通路2の壁面方向へ移動し、その後、糸条通路2の壁面を上方へ向けて移動する。なお、圧縮流体は、糸条通路2の中央部から糸条Yの出入り口方向へ排気されることになる。
【0036】
図2Bにおける衝突面W1と糸条通路2の壁面が交わる場所、すなわち、糸条通路2の下部両端付近においては、圧縮流体が衝突面W1から一度離れて(はく離)、ふたたび糸条通路2の壁面で付着するような流れが起こっているものと推測される。同様に、糸条通路2の壁面と流体噴射孔3が交わる場所、すなわち、糸条通路2の上部両端付近においても、圧縮流体が糸条通路2の壁面から離れて、ふたたび流体噴射孔3からの圧縮流体と同じ方向に流れるものと推測される。
【0037】
この現象を、圧縮流体の速度の観点から捉えると、圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離しない場所においては、圧縮流体の速度低下は大きくないのに対し、圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離した場所においては、速度低下が著しいものと推測される。また、ベルヌーイの定理を考慮して、この現象を圧力の観点から捉えると、速度低下が大きくない場所においては、圧力が低い状態が維持されるため、流体処理装置外部の圧力に比べて低くなるのに対し、速度低下が著しい場所においては、圧力が高くなるため、流体処理装置外部の圧力に比べて高くなるものと推測される。
【0038】
これらの場所を図2BにおけるL1/L2の比で表してみると以下のようになる。
【0039】
L1/L2の比が2.5以上の場合、すなわち、糸条導入路4を圧縮流体が衝突面W1からはく離する場所に設けた場合においては、流体の速度低下が著しく、糸条通路2の内部の圧力が装置外部の圧力に比べ高くなる。このような場所に糸条導入路4を設けた場合には、噴射された圧縮流体が糸条導入路4から流体処理装置の外部へ吹き出されるため、これと同時に糸条通路2内の糸条Yが外へ飛び出してしまうという不具合が発生することになる。
【0040】
また、L1/L2の比が1.5以下の場合、すなわち、糸条導入路4を圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離する場所に設けた場合においても、同様に噴射された圧縮流体が糸条導入路4から流体処理装置の外部へ吹き出されることとなり同時に糸条Yが外へ飛び出すという不具合が発生することになる。
【0041】
一方、上記L1/L2の比が1.5を越え2.5未満の場合、すなわち、糸条導入路4を圧縮流体が糸条通路2の壁面からはく離しない場所に設けた場合においては、噴射された圧縮流体の速度低下が大きくなく、圧力が低い状態が維持され、流体処理装置外部の圧力に比べ低くなり、糸条導入路4から糸条通路2に外気が吸い込まれることとなり糸条Yの飛び出しを防ぐことができる。
【0042】
すなわち、本発明者らは、糸条走行方向において、糸条導入路4を糸条通路2の圧力の和が装置外部の圧力に対し高い(圧力積分値が正)場所に設ければ糸条Yが外に飛び出すという不具合が発生するが、糸条導入路4を設ける位置を、糸条通路2の圧力の和が装置外部の圧力に対し低い(圧力積分値が負)場所とすることで、糸条Yの飛び出しを防ぐことができるという新知見を見出した。
【0043】
また、流体噴射孔3から噴射された流体の速度が音速を超えるようなレベルのものであり、糸条通路2内には衝撃波が発生し、その影響により、糸条通路2の圧力の和が流体処理装置外部の圧力に対して低くなるような場所と高くなるような場所とは非常に微小な境界現象となり、前記衝撃波を境とする境界層で圧力が極端に変化する。その結果、上記範囲を境として圧力の臨界的な変化がみられる。
本実施形態において、具体的なA1,A2及びL1,L2の各部の寸法の一例としては、A1=A2=2mm、L1=1.8mm、L2=0.9mmといった数値が挙げられる。
【0044】
図4及び5は、本実施形態の流体処理装置10を相似的に8倍に拡大すると同時に糸条通路を省略したモデルZを用いた糸条通路の圧力測定方法を示した模式図で、図6は流体の噴射圧力を交絡処理を行う上で最も使用頻度の高い0.4MPaで実施した時の測定結果を示した図である。このように、糸条の流体処理装置は、形状が相似形であれば各部の寸法を2〜10倍に拡大しても圧力分布を本発明の目的に沿った範囲で再現することができるので、測定を容易にするために上記のように拡大し、糸条導入路の糸条通路側の開口部をふさいだモデルを用いて測定してもよい。
【0045】
図4に示す様に、糸条通路内の圧力の測定は、糸条通路端部から注射針PSを少しずつ挿入し、挿入量に対応した各点における圧力を注射針PSに取り付けた圧力計PRで測定した。測定は、各点において1回ずつ測定した。各測定点における値には再現性があるため、測定回数は1回で十分であった。また、図6は、糸条導入路4を形成する位置の比L1/L2を0.05おきに変化させたときの糸条通路2内の圧力分布を上記図4による方法で測定した時の結果をグラフで示したものである。
【0046】
図5Aは、図4に示したモデルZのB-B断面における縦断面図であり、図5Bは、図4に示したモデルZのB-B断面における横断面図である。また、図5Cは図5AにおいてモデルZにおける糸条通路2内の壁面近傍の圧力を糸条走行方向に沿って一方の端部から他方の端部までの圧力分布を図5BのX1からX3の範囲で測定し表した模式図である。なお、圧力は大気圧よりも高い場合を正(図5Cの圧力分布図における正圧領域N)、大気圧よりも低い場合を負(図5Cの圧力分布図における負圧領域M)とした。図5Cに示すように、本発明者らが、モデルZの実験結果を元に相似的に再現した図1及至図3の流体処理装置10を用いて鋭意検討を重ねた結果、糸条通路2内には糸条走行方向で圧力が正となる正圧領域Nと、圧力が負となる負圧領域Mが存在し、前記糸条通路の糸道方向に圧力を積分した値が負となる糸条通路壁面の領域に、前記糸条導入路の開口部を設けることにより、該糸条通路から糸条が外部へ飛び出すと言う不具合が発生しないという新知見を見出した。すなわち、正圧領域Nの方が負圧領域Mよりも支配的になる場合、つまり正圧領域Nの面積が負圧領域Mの面積よりも大きくなる場合において糸条が糸条導入路4から流体処理装置10の外部へと飛び出すという不具合が発生し、一方、負圧領域Mの方が正圧領域Nよりも支配的になる場合、つまり負圧領域Mの面積の方が正圧領域Nの面積よりも大きくなる場合には上述のような不具合を生じずに良好な交絡処理を施すことが可能となることを見出した。ここで、モデルZの糸条通路2内部の圧力を糸条走行方向に一方の端部から、流体噴射孔3の中心軸CAが位置する中央部まで積分した値を圧力積分値と定義し、負圧領域Mの面積の方が正圧領域Nの面積よりも大きくなるとは、上記圧力積分値が負となることを表す。
【0047】
さらに、本発明者らは、図5Aに示すように、比L1/L2が1.5を越え、2.5未満である領域をGとすると、領域G内に糸条導入路4をモデルZを相似的に再現した流体処理装置10に配置することにより、糸条導入路4の糸条通路2に対する開口部Sにおいて、圧力積分値が負となり、糸条導入路4より導入された糸条Yが、走行中に糸条通路2から外部に飛び出すことを防止できることを見出した。このように圧力積分値が負となる領域に糸条導入路4の開口部Sを配置することで、たとえ開口部Sの一部において流体処理装置10の外部よりも圧力が高い箇所(例えば、図5Cに示す正圧領域N)が存在していたとしても、全体として流体処理装置10の外部から糸条通路2の内部に外気が吹込まれることとなり、その結果、糸条Yが糸条通路2から流体処理装置10の外部へ飛び出すことを防止することが可能となり、良好な交絡処理を実現できる。
【0048】
一方、比L1/L2が1.5以下か、又は2.5以上である領域(糸条通路2内で領域G以外の領域H、Iを現す。)に糸条導入路4を配置すると、開通部分Sにおいて圧力積分値が正となり、流体噴射孔3から噴射されたエアーが糸条導入路4を通して、流体処理装置10の外部へと吹き出しやすくなるので、糸条が噴射された圧空と供に開通部分Sから飛び出し正常な交絡処理が行えなくなる。
【0049】
また、これらの現象は、流体噴射孔から噴射された流体の速度が音速を超えるため、糸条通路内に発生した衝撃波の影響で非常に微小な境界現象となり、前記衝撃波を境とする境界層で圧力が極端に変化する。よって、比L1/L2が1.5以下であったり或いは2.5以上であったりするとたちまち糸条Yの飛び出しが発生し臨界的な現象が起こることになる。
【0050】
なお、本実施形態の流体処理装置において、糸条通路の横断面形状は、図1、2では代表例として扁平半円形状のものを示したが、矩形状や円形状、三角形状、半円状、菱形状、トラック円形状あるいは楕円形状のものなど断面形状において内部に向かう突起様の部位がない単純な形の場合は、前述の原理がそのまま当てはまるので、いずれの形態を採用しても、上記効果を実現することができ、優れた交絡糸条を得ることが可能となる。ただし、星型形状など糸条通路の内側に突起物が形成するような複雑形状であるものは、前記突起物が糸条通路2内の流体の流れを阻害し糸条導入路4を上記範囲に構成しても糸条Yの飛び出しが発生し本発明の効果を発揮できないこともある。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本実施形態の効果をさらに詳細に説明する。
【0052】
図1乃至図3に示す流体処理装置10を用いて、ポリエステルマルチフィラメントからなる84dtex−36フィラメント糸を、糸速度5000m/分で走行させて、0.4MPa、糸張力0.2g/dtexで流体交絡処理を行った。
【0053】
こうして得られた交絡糸条について、交絡度とバラツキを測定し評価を行った。
【0054】
交絡度としては、得られたサンプルの開繊長を20回測定し単位長さ(1000mm)を開繊長で割った値を採用し、測定を50回繰り返した結果の平均値を求めた。交絡度の測定はロッシールド社製自動交絡測定装置R−2072を用いて、測定条件としてプリテンションを10CN(センチニュートン)に、トリップテンションを20CNに設定し測定した。
【0055】
また、糸条の品位については、上記交絡度のバラツキをCV値で比較した。ここでCV値とは、測定値の標準偏差を平均値で割り返した値をいう。
【0056】
本評価により得られた結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
なお、交絡度の評価は、3段階で行い、交絡度が30以上を「品位が優れている」として「○」で表示し、20以上30未満を「△」、20未満を「品位が劣る」として「×」で表示した。
【0059】
また、バラツキCV値の評価も3段階評価として行い、CV値が50未満を「品位が優れている」として「○」で表示し、50以上60未満を「△」、60以上を「品位が劣る」として「×」で表示した。
【0060】
総合評価としては、交絡度とバラツキのいずれかひとつでも「×」のもの「×」、交絡度が「△」でかつバラツキが「△」であるものを「△」、交絡度が「○」でかつバラツキが「△」であるものを「○」、交絡度もバラツキもともに「○」のものを最良として「◎」で表示し、総合判定で「○」以上のものを合格とした。
【0061】
さらに、各水準において、交絡処理を行った際に、糸条導入路から装置外部への糸飛び出しが発生していないかを確認した。
[実施例1]
図7において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1.05、糸条導入路をL1/L2が1.8になる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度が「○」、CV値が「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例2]
図8において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.92、糸条導入路をL1/L2が1.8になる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度が「○」、CV値が「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例3]
図9において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1、糸条導入路をL1/L2が2.4となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度が「○」、CV値が「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例4]
図10において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1、糸条導入路をL1/L2が1.64となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、交絡性能に於いても、交絡度は「○」、CV値は「△」で総合評価は「○」と良好な結果が得られた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[実施例5]
図10において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1、糸条導入路をL1/L2が2となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。その結果、交絡処理中に糸条が上記糸条通路から外部に飛び出すことが無く、更に交絡性能に於いても、交絡度、バラツキCV値、共に優れ、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が大幅に向上し、交絡品位に優れた高品質な糸条を得ることができた。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「負」であった。
[比較例1]
実施例1の流体処理装置において、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を1.1、糸条導入路をL1/L2が2.57となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0062】
その結果、その結果、糸条導入口をL1/L2が2.57であり、圧力積分値が正の値と本発明の範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が1.1と本発明の範囲に比べ大きいため交絡度は15に低下し、バラツキCV値が85に悪化した。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
[比較例2]
実施例2の流体処理装置において上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.85、糸条導入路をL1/L2が2.57となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0063】
その結果、糸条導入口をL1/L2が2.57であり、圧力積分値が正の値と本発明の範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が0.85と本発明の範囲に比べ小さいため交絡度は11に低下し、バラツキCV値が83に悪化した。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
[比較例3]
実施例2の流体処理装置において上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.88、糸条導入路をL1/L2が2.57となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0064】
その結果、糸条導入口をL1/L2が2.57であり、圧力積分値が正の値と本発明の範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が0.88と本発明の範囲に比べ小さいため交絡度は10に大幅低下し、バラツキCV値が80に悪化した。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い極めて低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
[比較例4]
実施例2の流体処理装置において上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2を0.88、糸条導入路をL1/L2が1.44となる位置に構成した流体処理装置を用いテストを実施した。
【0065】
その結果、糸条導入口をL1/L2が1.44であり、圧力積分値が正の値と本発明の配範囲外に構成したので、交絡処理時に於いて、糸条通路からの糸飛び出しが発生、上型幅寸法A1と下型幅寸法A2の比A1/A2が0.88と交絡度は9に悪化し、バラツキCV値が65と良くなかった。また得られた交絡糸条は、原糸製造工程や次工程における糸条の通過性が悪化し、交絡品位の悪い極めて低品質な糸条となった。また拡大モデルによる圧力測定の積分値は「正」であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、特に交絡品位に優れた交絡糸条の製造に好適な流体処理装置に適用できるがその応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態における流体処理装置の構造例をモデル的に示した概略斜視投影図である。
【図2A】図1に示した本発明の一実施形態における流体処理装置のA−A断面図である。
【図2B】図1に示した本発明の一実施形態における流体処理装置のA−A断面における圧縮流体の流れを示した概略図である。
【図3A】本発明の一実施形態における流体処理装置において下側スリット面W4が合わせ面W2を含む仮想平面Pと一致している状態を示した図である。
【図3B】本発明の一実施形態における流体処理装置において上側スリット面W3が合わせ面W2を含む仮想平面Pと一致している状態を示した図である。
【図4】糸条通路2内の圧力を測定する測定装置を示した模式図である。
【図5A】流体処理装置10の流体噴射孔3の中心軸CAを含みA−A断面に垂直なB-B断面図である。
【図5B】流体処理装置10の流体噴射孔3の中心軸CAを含みB−B断面に垂直なA-A断面図である。
【図5C】図4において流体処理装置10における糸条通路2内の圧力を糸条走行方向に一方の端部から他方の端部まで測定した圧力分布図である。
【図6】図4の測定装置により糸条通路2内の圧力分布を測定した結果を示す図である。
【図7】図2のA−A断面図のうちA1>A2である状態を示した図である。
【図8】図2のA−A断面図のうちA1<A2である状態を示した図である。
【図9】図2のA−A断面図のうち糸条導入路4が流体衝突面付近に配置された状態を示した図である。
【図10】図2のA−A断面図のうち糸条導入路4が流体噴射孔付近に配置された状態を示した図である。
【図11】図1の流体処理装置の上型と下型を一体物に構成した状態を示す概略斜視投影図である。
【符号の説明】
【0068】
1 糸条通路部材
1a 糸条通路部材1の上型
1b 糸条通路部材1の下型
2 糸条通路
3 流体噴射孔
4 糸条導入路
10 流体処理装置
Y 糸条
S 糸条導入路4の糸条通路2に対する開口部
S1 図1のA-A断面における糸条通路2の稜線と糸条導入路4の中心軸CBとの交点
CA 流体噴射孔3の中心軸
CB 糸条通路2の中心軸
CC 糸条導入路4の中心軸
C1 中心軸CAと上型1aの稜線との交点
C2 中心軸CAと下型1bの稜線との交点
C3 中心軸CBと直交し交点S1を通過する直線と線分L1との交点
W1 流体噴射孔3から噴射された流体が衝突する衝突面
W2 上型1aと下型1bとの合わせ面
W3 糸条導入路4のうち上型1a側の面
W4 糸条導入路4のうち面W3に対向する下型1b側の面
Q 図3AのA-A断面における上型1aの糸条通路2を形成する稜線
QV 稜線Qの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した仮想延長線
P 合わせ面W2を含む仮想平面
R 下型1bの糸条通路2を形成する稜線
RV 稜線Rの糸条導入路4側の端点から中心軸CAに関する対称性を維持しつつ延長した延長線
D1 稜線Qのうち合わせ面W2側の端点
D2 仮想延長線QVと仮想平面Pとの交点
E1 稜線Rのうち合わせ面W2側の端点
E2 稜線Rの糸条導入路4側の端点
A1 上型1aの横断面における下型1bとの対向部の巾寸法
A2 下型1bの横断面における上型1aとの対向部の巾寸法
L1 線分C1C2の長さ
L2 線分C2C3の長さ
G 糸条通路2内で比L1/L2が1.5を越え、5未満である領域
H 糸条通路2内で比L1/L2が1.5以下である領域
I 糸条通路2内で比L1/L2が5以上である領域
M 図5Cの圧力分布図における負圧領域
N 図5Cの圧力分布図における正圧領域
X1 圧力分布の測定位置
X2 圧力分布の測定位置
X3 圧力分布の測定位置
Z 糸条導入路の糸条通路側の開口部をふさいだモデル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記開口部における流体噴射時の圧力を前記糸条の通過方向に沿って積分した値が負となるよう構成されていることを特徴とする糸条の流体処理装置。
【請求項2】
前記糸条通路部材が、前記流体噴射孔が開口する上型部と、前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部とにより構成されており、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足することを特徴とする請求項1に記載の糸条の流体処理装置。
0.9<A1/A2<1.1
【請求項3】
糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、交点C1と、交点C1から前記流体噴射孔が開口する上型部と前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部との対向部における前記上型部の一対の端点の中点を通過するように伸ばした直線と前記糸条通路の稜線とが交わってできるもう一方の交点C2と、前記糸条導入路の中心軸CCと前記糸条通路の稜線とが交わってできる交点S1を通過し前記交点C1と前記交点C2とを結ぶ線分L1に垂直な直線と前記線分L1とが交わってできる交点をC3とすると、前記線分L1と、前記交点C2と前記交点C3を結ぶ線分L2の長さの比が、次式を満足するように構成されていることを特徴とする糸条の流体処理装置。
1.5<L1/L2<2.5
【請求項4】
前記糸条通路部材が、前記上型部に対応する上型と、前記下型部に対応する下型とにより構成されており、前記横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足することを特徴とする請求項3に記載の糸条の流体処理装置。
0.9<A1/A2<1.1
【請求項5】
前記糸条通路部材は前記糸条通路に面する部位が一体に形成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の糸条の流体処理装置。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかに記載の糸条の流体処理装置を用いて糸条を製造する交絡糸条の製造方法。
【請求項1】
糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記開口部における流体噴射時の圧力を前記糸条の通過方向に沿って積分した値が負となるよう構成されていることを特徴とする糸条の流体処理装置。
【請求項2】
前記糸条通路部材が、前記流体噴射孔が開口する上型部と、前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部とにより構成されており、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足することを特徴とする請求項1に記載の糸条の流体処理装置。
0.9<A1/A2<1.1
【請求項3】
糸条が通過する糸条通路と、前記糸条通路に連通し走行する前記糸条に流体を噴射する流体噴射孔と、前記糸条通路に開口し前記糸条を前記糸条通路に導くための開口部を有する糸条導入路とが形成された糸条通路部材とを備えた糸条の流体処理装置であって、前記流体噴射孔の中心軸CAと前記糸条通路の稜線とが交叉し形成される前記流体噴射孔側の交点C1を含み前記糸条通路の中心軸CBと直交する横断面において、交点C1と、交点C1から前記流体噴射孔が開口する上型部と前記流体噴射孔から噴射された前記流体が衝突する衝突面を有し前記上型部との間に前記糸条導入路を形成する下型部との対向部における前記上型部の一対の端点の中点を通過するように伸ばした直線と前記糸条通路の稜線とが交わってできるもう一方の交点C2と、前記糸条導入路の中心軸CCと前記糸条通路の稜線とが交わってできる交点S1を通過し前記交点C1と前記交点C2とを結ぶ線分L1に垂直な直線と前記線分L1とが交わってできる交点をC3とすると、前記線分L1と、前記交点C2と前記交点C3を結ぶ線分L2の長さの比が、次式を満足するように構成されていることを特徴とする糸条の流体処理装置。
1.5<L1/L2<2.5
【請求項4】
前記糸条通路部材が、前記上型部に対応する上型と、前記下型部に対応する下型とにより構成されており、前記横断面において、前記上型と前記下型との対向部における前記上型の前記横断面の巾寸法A1と、前記上型と前記下型との対向部における前記下型の前記横断面の巾寸法A2が次式を満足することを特徴とする請求項3に記載の糸条の流体処理装置。
0.9<A1/A2<1.1
【請求項5】
前記糸条通路部材は前記糸条通路に面する部位が一体に形成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の糸条の流体処理装置。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかに記載の糸条の流体処理装置を用いて糸条を製造する交絡糸条の製造方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−314918(P2007−314918A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147860(P2006−147860)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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