説明

糸端処理装置、ボビン処理装置、及び糸巻取システム

【課題】ボビン回転機構を改良して糸端処理の成功率を向上させた糸端処理装置を提供する。
【解決手段】糸端処理装置11は、給糸ボビン15を回転させるボビン回転機構24と、回転する給糸ボビン15の外周に巻き付けられたバックワインド糸22に係合して捕捉するサーチャー25と、ボビン回転機構24を制御する回転制御部33を備えている。そして、ボビン回転機構24の駆動源は、ステッピングモータ30である。このように、給糸ボビン15を回転させるための駆動源としてステッピングモータ30を採用することにより、給糸ボビン15の回転速度を細かく調整できるようになるので、バックワインド糸22をより確実に捕捉できる。また、仮にボビン回転機構24の回転部に糸が絡まって回転不良が発生したとしても、ステッピングモータ30であれば脱調するため、当該モータの破損を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ボビン処理装置が備える糸端処理装置の駆動手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1が開示するようなボビン処理装置が知られている。特許文献1に記載のボビン処理部は、給糸ボビンに巻き付けられたバックワインド糸を切断して糸端を形成する糸端処理装置を備えている。
【0003】
この糸端処理装置は、給糸ボビンを軸線まわりに回転させるボビン回転機構を備えている。また、この糸端処理装置は、糸に係合する(糸を引っ掛ける)ことができるように構成されたサーチャーと呼ばれる部材を備えている。回転する給糸ボビンの外周面にサーチャーを接近させることにより、当該給糸ボビンの外周に巻き付けられたバックワインド糸をサーチャーに引っ掛ける(捕捉する)とともに、サーチャーが備えるカッタによって前記バックワインド糸を剪断する構成である。なお、従来、ボビン回転機構の駆動源としては、通常のインダクションモータが用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−247517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のボビン処理装置が備える糸端処理装置では、糸の種類によってはバックワインド糸の捕捉、及び切断が十分に行えない場合があった。
【0006】
また従来の糸端処理装置では、ボビン回転機構の回転部に糸が絡んだ場合、回転不良のためにモータが破損することがあった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、ボビン回転機構を改良して糸端処理の成功率を向上させた糸端処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の糸端処理装置が提供される。即ち、この糸端処理装置は、給糸ボビンを回転させるボビン回転機構と、回転する前記給糸ボビンの外周に巻き付けられたバックワインド糸に係合して捕捉する糸捕捉部と、前記ボビン回転機構を制御する回転制御部と、を備える。そして、前記ボビン回転機構の駆動源は、ステッピングモータである。
【0010】
このように、給糸ボビンを回転させるための駆動源としてステッピングモータを採用することにより、インダクションモータを採用している従来の構成に比べて、給糸ボビンの回転を容易に制御することができる。これにより、給糸ボビンを最適な回転速度で回転させることができるので、バックワインド糸をより確実に捕捉できる。また、仮にボビン回転機構の回転部に糸が絡まって回転不良が発生したとしても、ステッピングモータであれば脱調するため、当該モータの破損を防止することができる。
【0011】
上記の糸端処理装置において、前記回転制御部は、前記ボビン回転機構によって給糸ボビンを回転させる速度を、糸の種類に応じて変更する速度制御部を備えることが好ましい。
【0012】
即ち、ステッピングモータは回転速度の制御を容易に行うことができる。従って、上記のように、給糸ボビンの回転速度を糸の種類に応じて細かく調整することが容易である。これにより、給糸ボビンに巻かれたバックワインド糸の捕捉を、糸種に応じて適切に行うことができる。
【0013】
上記の糸端処理装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記回転制御部は、前記ボビン回転機構によってボビンを回転させる方向を制御する方向制御部を備える。前記方向制御部は、前記ボビン回転機構によって給糸ボビンを解舒方向に回転させることにより、当該給糸ボビンに形成されているボトムバンチの解舒を行う。次に、前記回転制御部は、前記ボビン回転機構によって前記給糸ボビンを巻き付け方向(解舒方向とは逆方向)に回転させることにより、当該給糸ボビンの外周に巻き付けられたバックワインド糸の捕捉を前記糸捕捉部によって行う正逆駆動を実行する。
【0014】
即ち、ステッピングモータは回転方向を容易に制御することができる。従って、上記のように、途中で回転方向を変更することができる。これにより、従来は別々の装置で行われていたボトムバンチの解舒とバックワインド糸の捕捉を、1つの装置で実現することができる。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成のボビン処理装置が提供される。即ち、このボビン処理装置は、上記の糸端処理装置を備える。このボビン処理装置は、供給された給糸ボビンに前記糸端処理装置による処理を行って、糸巻取装置に順次供給する。
【0016】
このボビン処理装置によれば、糸巻取装置に供給される給糸ボビンのバックワインド糸の処理を適切に行うことができる。
【0017】
本発明の第3の観点によれば、上記のボビン処理装置と、前記ボビン処理装置に給糸ボビンを供給するボビン供給部と、前記ボビン処理装置によって所定の処理が施された給糸ボビンから糸を巻き取る糸巻取装置と、を備える糸巻取システムが提供される。
【0018】
即ち、上記糸端処理装置によってバックワインド糸の処理の確実性を向上させることができるので、糸巻取システム全体の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダシステムの概略的な平面図。
【図2】給糸ボビンに形成されたバンチ巻きを説明する図。
【図3】糸端処理装置の斜視図。
【図4】糸端処理装置の側面図。
【図5】先端側巻付部が形成された様子を示す拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1に示すのは、本実施形態に係るボビン処理装置3を備えた自動ワインダシステム(糸巻取システム)1の概略的な平面図である。
【0021】
この自動ワインダシステム1は、自動ワインダ(糸巻取装置)2と、ボビン処理装置3と、ボビン供給装置(ボビン供給部)4と、を備えている。
【0022】
自動ワインダ2は、複数の巻取ユニット5を多数並べて備えている。各巻取ユニット5は、紡績糸が巻かれた給糸ボビンから紡績糸を解舒し、巻取ボビンに巻き取ってパッケージを形成する公知の構成である。自動ワインダ2には、各巻取ユニット5まで給糸ボビンを自動的に搬送するための供給路6が形成されている。また、自動ワインダ2には、各巻取ユニット5から排出される空ボビンを搬送するための回収路7が形成されている。
【0023】
前記供給路6及び回収路7はベルトコンベア等から構成されており、搬送トレイを搬送することができるように構成されている。図2に示すように、搬送トレイ14は、給糸ボビン15を略直立状態で載置することができるように構成されている。
【0024】
給糸ボビン15は、前工程の精紡機において生成された紡績糸を、ボビン管21の周囲に巻き付けたものである。ボビン管21には若干のテーパが形成されており、小径側の端部を先端部21a、大径側の端部を根元部21bと呼ぶことがある。精紡機においては、ボビン管21の大径側から小径端側に向けて紡績糸を巻き上げる。精紡機で生成された給糸ボビン15は、ボビン供給装置4まで運搬され、当該ボビン供給装置4に投入される。ボビン供給装置4は、投入された給糸ボビン15を、搬送トレイ14の上に一本ずつ略直立状態で載置していくように構成されている。このボビン供給装置4は、搬送トレイ14の上に給糸ボビン15を載置するためのボビンシュート9を備えている。
【0025】
ボビン処理装置3は、ボビン供給装置4と自動ワインダ2との間に配置されている。ボビン供給装置4から供給された給糸ボビン15には、バンチ巻きが形成されているので、そのままでは自動ワインダ2において糸を解舒できない。そこで、ボビン処理装置3において、ボビン供給装置4から供給された給糸ボビンに対して予め適切な処置を行うように構成されている。
【0026】
ここでバンチ巻きについて簡単に説明する。即ち、ボビン管21の大径側から小径側に向けて糸を巻き上げたままの状態の給糸ボビン15は、糸端がフリーとなっている。従って、このままの状態の給糸ボビン15では、精紡機からボビン供給装置4まで運搬するとき等に糸が出てきてしまい、給糸ボビン15同士で糸が絡まりあうといった不具合が発生し得る。そこで、図2に示すように、給糸ボビン15の糸層表面に、小径側から大径側に向けて糸を螺旋状に巻き付け、更にボビン管21の根元部21bに巻き付けるバンチ巻きを形成しておく。これにより、糸端がフリーでなくなるので、搬送中の給糸ボビン15から糸が出てきてしまうことを防止できる。なお、給糸ボビン15の糸層表面に小径側から大径側に向けて螺旋状に巻き付けられている部分の糸をバックワインド糸22、ボビン管21の根元部21bに巻き付けられている部分の糸をボトムバンチ23と称する。
【0027】
ボビン処理装置3には、搬送トレイ14を搬送する搬送路8が形成されている。この搬送路8は、ベルトコンベア等から構成されている。図1に示すように、搬送路8は、自動ワインダ2の供給路6と回収路7とを接続するように構成されている。そしてこの搬送路8の途中には、バンチ巻き解舒を行うためのバンチ解舒装置10、糸端処理を行うための糸端処理装置11、及び口出し処理を行うための口出し装置12が配置されている。
【0028】
また、ボビン処理装置3は、当該ボビン処理装置3が備える各構成を制御するための制御部を備えている。
【0029】
この自動ワインダシステムにおける搬送トレイ14の流れについて説明すると、以下のとおりである。
【0030】
ボビン処理装置3は、給糸ボビンの有無を検出するためのボビンセンサを、搬送路8の各所に備えている。また、ボビン処理装置3は、搬送トレイの有無を検出するためのトレイセンサを、搬送路8の各所に備えている。なお、以下の説明では、ボビンセンサとトレイセンサをまとめて、単に「センサ」と呼ぶ場合がある。
【0031】
例えば、空の搬送トレイ14(ボビンが載っていない搬送トレイ)がボビンシュート9の直下位置16まで到達すると、当該空の搬送トレイ14が前記センサによって検知される。この場合、制御部は、ボビンシュート9を作動させ、前記空の搬送トレイ14の上に給糸ボビン15を1つ、略直立状態で載置する。
【0032】
ボビンシュート9によって給糸ボビン15が載置された搬送トレイ14は、下流側のバンチ解舒装置10へ向けて搬送路8を搬送される。給糸ボビン15(及び搬送トレイ14)がバンチ解舒装置10の正面位置17に到達したことをセンサが感知した場合、制御部は、バンチ解舒装置10を動作させて、給糸ボビン15に形成されているボトムバンチ23を除去する。
【0033】
より具体的には、バンチ解舒装置10は、給糸ボビン15を回転させるためのボビン回転機構と、ボトムバンチ23を吸引する吸引機構と、吸引機構が吸引した糸を切断する切断機構と、を備えている。バンチ解舒装置10は、ボビン回転機構によって、糸が解舒される方向(解舒方向)に給糸ボビン15を回転させる。これと前後して、バンチ解舒装置10は、前記吸引機構によって、ボビン管21の根元部21b近傍に吸引空気流を発生させる。これにより、根元部21bに巻き付けられているボトムバンチ23が解舒され、吸引機構によって吸引される。バンチ解舒装置10は、吸引された糸を、前記切断機構によって切断する。以上により、給糸ボビン15に形成されたボトムバンチ23を除去することができる。
【0034】
ボトムバンチ23を除去された給糸ボビン15は、更に下流側の糸端処理装置11へ向けて搬送路8を搬送される。給糸ボビン15(及び搬送トレイ14)が糸端処理装置11の正面位置18に到達したことをセンサが感知した場合、制御部は、糸端処理装置11を動作させて、給糸ボビン15の糸層表面に巻き付いているバックワインド糸22を切断し、先端側巻付部を形成する(後述)。
【0035】
先端側巻付部が形成された給糸ボビン15は、更に下流側の口出し装置12へ向けて搬送路8を搬送される。給糸ボビン15(及び搬送トレイ14)が口出し装置12の正面位置19に到達したことをセンサが感知した場合、制御部は、口出し装置12を動作させて、糸端処理装置11で形成された先端側巻付部を上方に向けて吸引する。そして、口出し装置12は、吸引した糸をボビン管21の内側に挿入する(口出し)。このように糸端を口出ししておくことにより、巻取ユニット5において、給糸ボビン15の糸端を容易に捕捉することができ、当該巻取ユニット5における糸の巻き取りをスムーズに開始することができる。
【0036】
口出しされた給糸ボビン15(及び搬送トレイ14)は、搬送路8を更に下流へと搬送され、自動ワインダ2の供給路6へと供給される。給糸ボビン15(及び搬送トレイ14)は、供給路6を搬送され、巻取ユニット5のうち何れかに供給される。
【0037】
巻取ユニット5においては、給糸ボビン15から糸の解舒が行われ、解舒された糸がパッケージに巻き取られる。周囲の糸が全て解舒されたボビン管21(空ボビン)を乗せた搬送トレイ14は、巻取ユニット5から排出され、回収路7を介して再びボビン処理装置3の搬送路8に戻される。
【0038】
搬送路8において、ボビンシュート9の上流側には、ボビンプロー13が配置されている。ボビンプロー13は、回収路7から搬送路8に戻ってきた搬送トレイ14に載置されている空ボビンを抜き取るための装置である。空ボビンを乗せた搬送トレイ14がボビンプロー13の直下位置20に到達したことをセンサが検知した場合、制御部は、ボビンプロー13を動作させて、当該空ボビンを搬送トレイ14から抜き取る。
【0039】
次に、本実施形態の糸端処理装置11について、図3及び図4を参照して説明する。
【0040】
糸端処理装置11は、ボビン回転機構24と、サーチャー(糸捕捉部)25と、押さえ部材26と、吹付ノズル27と、回転制御部33と、を備えている。なお、図中に符号8aで示すのは、搬送路8を構成する丸ベルトコンベアの丸ベルトである。循環駆動される丸ベルト8aに乗って、搬送トレイ14が搬送される。
【0041】
ボビン回転機構24は、搬送トレイ14の外周に接触可能な3つのローラを備えている。3つのローラのうち2つは従動ローラ28,28であり、1つは駆動ローラ29である。
【0042】
従動ローラ28の何れか一方又は両方は、搬送路8を搬送される搬送トレイ14の外周に対して接触又は離間する方向に移動可能に構成されている。従動ローラ28を搬送トレイ14の外周に接触させることで、図3に示すように、2つの従動ローラ28と駆動ローラ29の3点によって搬送トレイ14に接触することができるので、丸ベルト8aによって搬送される搬送トレイ14を所定の位置(具体的には糸端処理装置11の正面位置18)に停止させることができる。
【0043】
ボビン回転機構24は、給糸ボビン15を回転させる駆動源としてのステッピングモータ30を備えている。このステッピングモータ30の出力軸は、駆動ローラ29の回転軸に接続されている。図3及び図4に示すように、駆動ローラ29及び従動ローラ28を搬送トレイ14に接触させた状態で、ステッピングモータ30によって駆動ローラ29を回転駆動することにより、搬送トレイ14を回転させることができる。これにより、搬送トレイ14に載置された給糸ボビン15を、当該給糸ボビン15の軸線まわりで回転させることができる。
【0044】
回転制御部33は、ステッピングモータ30の動作を制御するためのものである。このように回転制御部33がステッピングモータ30の動作を制御することにより、ボビン回転機構24による給糸ボビン15の回転を制御することができる。回転制御部33の構成は特に限定されないが、例えば、ステッピングモータ制御用のモータドライバ基板として構成されている。この回転制御部33は、ボビン処理装置3の前記制御部と通信可能に構成されており、前記制御部からの制御信号に応じて、ステッピングモータ30に所定の電圧を印加して、当該ステッピングモータ30の駆動制御を行う。なお、ボビン処理装置3の前記制御部と、糸端処理装置11の回転制御部33とは、必ずしも別体として構成する必要はなく、ボビン処理装置3の制御部の一部を構成するモジュールとして回転制御部33を構成しても良い。
【0045】
押さえ部材26は、ボビン回転機構24によって回転される給糸ボビン15のボビン管21の先端部21aに対して上側から接触し、当該給糸ボビン15を押さえるように構成されている。この押さえ部材26は、ボビン回転機構24によって回転駆動される搬送トレイ14の直上位置に配置されている。また、押さえ部材26は、上下に移動可能に構成されるとともに、ベアリングによって回転自在に支持されている。押さえ部材26の下面26aは、その中央部が上に向けて凹となっている。この下面26aによってボビン管21の先端部21aの上端面を押さえることにより、給糸ボビン15の回転中に軸ブレが発生することを防止する。
【0046】
サーチャー(糸捕捉部)25は、給糸ボビン15の糸に係合する(糸を引っ掛ける)ことができるように構成されたヘラ状の係合部25aを備えている。また、係合部25aの近傍には、糸を切断するための図略のカッターが配置されている。また糸端処理装置11は、サーチャー25を移動させることができるサーチャー移動機構31を備えている。このサーチャー移動機構31は、給糸ボビン15の外周面(糸層表面)に対して接触又は離間する方向で、サーチャー25を移動させることができるように構成されている。また、サーチャー移動機構31は、給糸ボビン15の軸線と平行な方向(上下方向)で、サーチャー25を移動させることができるように構成されている。
【0047】
吹付ノズル27は、図略の圧空源に接続されており、圧縮空気を噴出することが可能に構成されている。吹付ノズル27は、その噴出口を給糸ボビン15の外周に接近させて配置されており、かつ、先端部21aに向けて空気を吹き上げるように配置されている。
【0048】
次に、糸端処理装置11の動作について説明する。
【0049】
まず、給糸ボビン15を載せた搬送トレイ14が搬送路8を搬送されてきたことがセンサ等によって検出されると、制御部は、前記搬送トレイ14に従動ローラ28を接触させて、当該搬送トレイ14(及び給糸ボビン15)を糸端処理装置11の正面位置18に停止させる。なお前述のように、糸端処理装置11に搬送されてきた給糸ボビン15は、バンチ解舒装置10によってボトムバンチ23が除去された状態である。
【0050】
次に制御部は、押さえ部材26によって給糸ボビン15の先端部21aを押さえる。この状態で、回転制御部33は、ステッピングモータ30を駆動して駆動ローラ29を回転させることにより、給糸ボビン15を軸線まわりに回転させる。このとき、回転制御部33は、給糸ボビン15の回転方向を、当該給糸ボビン15に糸を巻き付ける方向(以下、巻き付け方向と呼ぶ。即ち、解舒方向の逆方向である)とする。なお、ここで仮に給糸ボビン15を解舒方向に回転させてしまうと、当該給糸ボビン15表面のバックワインド糸22が緩んでしまい、サーチャー25によるバックワインド糸22の捕捉及び切断(後述)を適切に行うことができない。従って、糸端処理装置11においては、バンチ解舒装置10における給糸ボビンの回転方向(解舒方向)とは反対方向に給糸ボビンを回転させる必要があるのである。
【0051】
続いて制御部は、サーチャー移動機構31によって、給糸ボビン15の糸層表面にサーチャー25を接近させる。回転する給糸ボビン15の糸層表面にサーチャー25が接近又は接触することにより、当該糸層表面に螺旋状に巻き付いているバックワインド糸22が、サーチャー25の係合部25aに係合する。即ち、バックワインド糸22を係合部25aに引っ掛けて捕捉することができる。
【0052】
この状態で、制御部は、サーチャー移動機構31によって、サーチャー25を下方に向けて移動させる。これによりサーチャー25が備えるカッターによってバックワインド糸22が切断され、糸端が形成される。
【0053】
また、サーチャー25によるバックワインド糸22の捕捉及び切断の開始と前後して、制御部は、吹付ノズル27からの圧縮空気の噴出を開始する。これにより、サーチャー25によって切断されたバックワインド糸22が先端部21aに向けて吹き上げられる。しかし、給糸ボビン15の先端部21aは押さえ部材26によって押さえられているので、吹き上げられた糸は、先端部21aの端面よりも上方に移動することができない。結果として、吹付ノズル27によって吹き上げられた糸は、給糸ボビン15の回転によってボビン管21の先端部21aの外周に巻き付けられ、図5に示すように先端側巻付部32が形成される。
【0054】
先端側巻付部32が形成されると、制御部は、サーチャー25及び押さえ部材26を待機位置まで復帰させるとともに、従動ローラ28を搬送トレイ14から離間させる。これにより、搬送トレイ14(及び給糸ボビン15)の搬送が再開され、当該搬送トレイ14(及び給糸ボビン15)が口出し装置12に向けて搬送される。口出し装置12においては、上記のようにして形成された先端側巻付部32を吸引することにより、給糸ボビン15の糸を容易に捕捉することができるので、口出し動作をスムーズに行うことができる。
【0055】
次に、本実施形態の特徴的構成について説明する。
【0056】
前述のように、糸端処理装置11においては、給糸ボビン15を回転させつつ、当該給糸ボビン15にサーチャー25を接近させることにより、当該サーチャー25にバックワインド糸22を係合させて捕捉し、切断している。しかしながら、糸の種類によっては、バックワインド糸22の捕捉又は切断の成功率が低下する場合があった。
【0057】
本願発明者らは鋭意研究の結果、糸端処理装置11において、糸の種類に応じて給糸ボビン15の回転速度を変更することにより、バックワインド糸22の捕捉及び切断の成功率を向上させることができることを突き止めた。即ち、糸端処理装置11において、給糸ボビン15の最適な回転速度は、糸の種類によって異なるのである。
【0058】
この点、従来の糸端処理装置においては、ボビン回転機構の駆動源として、通常のインダクションモータを採用していた。そして、このインダクションモータに供給する電流を一定としていたので、結果として給糸ボビンの回転速度は(糸の種類によらず)略一定となっていた。このため、従来の糸端処理装置では、糸の種類によっては給糸ボビン15の回転速度が不適切となり、サーチャーによるバックワインド糸22の捕捉又は切断の成功率が低下していたと考えられる。
【0059】
そこで本実施形態の糸端処理装置11において、回転制御部33は、給糸ボビン15の回転速度を、糸の種類に応じて変更するように制御を行っている。
【0060】
より具体的には、回転制御部33は、ステッピングモータ30の回転速度を制御する速度制御部34を備えている。速度制御部34は、糸の種類に応じて、ステッピングモータ30の回転速度を変更するように構成されている。これにより、給糸ボビン15の回転速度を、糸の種類に応じて変更することができる。即ち、糸の種類に応じた最適な条件(最適な回転速度)で、サーチャー25によるバックワインド糸22の捕捉及び切断を行うことができる。これにより、バックワインド糸22の捕捉及び切断の成功率を向上させることができる。
【0061】
なお、従来の糸端処理装置は、ボビン回転機構の駆動源としてインダクションモータを採用していたので、糸の種類に応じた最適な回転数で給糸ボビンを回転させことは困難であると考えられる。インダクションモータは、回転数を細かく調整する制御に向いていないためである。この点、本実施形態の糸端処理装置11では、ボビン回転機構24の駆動源としてステッピングモータ30を採用しているので、給糸ボビン15の回転速度を細かく制御することが容易である。
【0062】
また、従来の糸端処理装置のようにボビン回転機構の駆動源としてインダクションモータを採用した構成の場合、ボビン回転機構の回転部分に糸が絡まるなどにより回転不良が発生すると、モータに負荷がかかり、当該モータが故障することがあった。この点、ステッピングモータ30であれば、仮に回転不良が発生したとしても、脱調するだけでモータは故障しない。このように、ボビン回転機構24の駆動源としてステッピングモータ30を採用することにより、ボビン回転機構24の故障を防止することができる。
【0063】
以上で説明したように、本実施形態の糸端処理装置11は、給糸ボビン15を回転させるボビン回転機構24と、回転する給糸ボビン15の外周に巻き付けられたバックワインド糸22に係合して捕捉するサーチャー25と、前記ボビン回転機構24を制御する回転制御部33と、を備えている。そして、ボビン回転機構24の駆動源は、ステッピングモータ30である。
【0064】
このように、給糸ボビン15を回転させるための駆動源としてステッピングモータ30を採用することにより、インダクションモータを作用している従来の構成に比べて、給糸ボビン15の回転を容易に制御することができる。これにより、給糸ボビン15を最適な回転速度で回転させることができるので、バックワインド糸22をより確実に捕捉できる。また、仮にボビン回転機構24の回転部に糸が絡まって回転不良が発生したとしても、ステッピングモータ30であれば脱調するため、当該モータの破損を防止することができる。
【0065】
また、本実施形態の糸端処理装置11において、前記回転制御部33は、ボビン回転機構24によって給糸ボビン15を回転させる速度を、糸種に応じて変更する速度制御部34を備えている。
【0066】
即ち、ステッピングモータ30は回転速度の制御を容易に行うことができる。従って、上記のように、給糸ボビン15の回転速度を糸の種類に応じて細かく調整することが容易である。これにより、給糸ボビン15に巻かれたバックワインド糸22の捕捉を、糸種に応じて適切に行うことができる。
【0067】
また、本実施形態のボビン処理装置3は、上記の糸端処理装置11を備えている。このボビン処理装置3は、供給された給糸ボビン15に糸端処理装置11による処理を行って、自動ワインダ2に順次供給する。
【0068】
このボビン処理装置3によれば、自動ワインダ2に供給される給糸ボビン15のバックワインド糸22の処理を適切に行うことができる。
【0069】
また本実施形態の自動ワインダシステム1は、上記のボビン処理装置3と、ボビン処理装置に給糸ボビン15を供給するボビン供給装置4と、ボビン処理装置3によって所定の処理が施された給糸ボビン15から糸を巻き取る自動ワインダ2と、を備えている。
【0070】
即ち、本実施形態の糸端処理装置11によってバックワインド糸22の処理の確実性を向上させることができるので、自動ワインダシステム1全体の生産性を向上させることができる。
【0071】
次に、第2実施形態を説明する。なお、本実施形態の説明においては、前述の第1実施形態と同一又は類似の要素名には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0072】
まず、従来の構成について簡単に説明する。既に説明したように、ボトムバンチ23の解舒とバックワインド糸22の捕捉及び切断は、別々の装置(バンチ解舒装置と糸端処理装置)で行われていた。これは、ボトムバンチ23を解舒する際には給糸ボビン15を解舒方向に回転させ、バックワインド糸22を捕捉及び切断する際には給糸ボビン15を逆方向(巻き付け方向)に回転させる必要があるためである。
【0073】
即ち、ボトムバンチ23を解舒するときと、バックワインド糸22の捕捉及び切断を行うときとでは、回転方向を変更しなければならないのであるが、従来のボビン処理装置では、給糸ボビン15の回転駆動源としてインダクションモータを採用していたので、途中で回転方向を変更することができなかった。このため、従来のボビン処理装置では、ボトムバンチ23の解舒と、バックワインド糸22の捕捉及び切断は、別々の装置で行わざるを得なかったのである。
【0074】
この点、本発明のボビン処理装置3では、給糸ボビン15の回転駆動源としてステッピングモータ30を採用しているので、給糸ボビン15の回転方向を途中で変更するように制御することが容易である。即ち、1つの装置で、給糸ボビン15の回転方向を途中で切り替えることができる。
【0075】
以上の点に着目し、第2実施形態のボビン処理装置では、ボトムバンチ23の解舒と、バックワインド糸22の捕捉及び切断を、1つの装置で行うように構成されている。具体的には、糸端処理装置が、バックワインド糸22の切断という本来の機能に加えて、ボトムバンチ23の解舒も行うように構成されている。即ち、本実施形態の糸端処理装置は、バンチ解舒装置としての機能も兼ねている。
【0076】
より具体的に説明すると以下の通りである。この第2実施形態において、糸端処理装置の回転制御部33は、ステッピングモータ30の回転方向を制御する方向制御部を備えている。方向制御部がステッピングモータ30の回転方向を変更することにより、ボビン回転機構24によって給糸ボビン15を回転させる方向を切り替えることができる。即ち、給糸ボビン15を正逆駆動することができる。
【0077】
また、本実施形態の糸端処理装置は、第1実施形態で説明した糸端処理装置11の構成に加えて、ボトムバンチの解舒を行うために、ボトムバンチ23を吸引するための吸引機構と、吸引したボトムバンチ23の糸を切断する切断機構と、を更に備えている。なお、吸引機構及び切断機構については、上記第1実施形態においてバンチ解舒装置10が備えていたものと同等の構成であるから、詳細な説明は省略する。
【0078】
なお、本実施形態のボビン処理装置においては、第1実施形態のボビン処理装置3が備えていたバンチ解舒装置10が不要となるので、これを省略することができる。
【0079】
この第2実施形態の糸端処理装置の動作について説明すると、以下のようになる。即ち、この糸端処理装置において、前記方向制御部は、ボビン回転機構24によって給糸ボビン15を解舒方向に回転させることにより、当該給糸ボビン15に形成されているボトムバンチ23の解舒を行う。次に、方向制御部は、ボビン回転機構24によって給糸ボビン15を逆方向(巻き付け方向)に回転させることにより、当該給糸ボビン15の外周に巻き付けられたバックワインド糸22の捕捉及び切断をサーチャー25によって行う。
【0080】
以上のように、ステッピングモータ30は回転方向を容易に制御することができるので、途中で回転方向を変更することができる。これにより、従来は別々の装置で行われていたボトムバンチ23の解舒とバックワインド糸22の切断を、1つの装置で実現することができる。
【0081】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0082】
上記実施形態では、精紡機で生成された給糸ボビン15をボビン供給装置4まで運搬し、当該給糸ボビン15をボビン供給装置4に投入する構成として説明した。しかしこれに限らず、例えばボビン処理装置と精紡機との間を搬送路で繋ぎ、精紡機で生成された給糸ボビンがボビン処理装置に対して連続的に供給されるように構成しても良い。この場合、精紡機がボビン供給部に相当する。
【0083】
ボビン回転機構の構成は、図示したものに限らず、ステッピングモータ30の回転によって直接的又は間接的に給糸ボビン15を回転させることができるものであれば良い。
【0084】
糸端処理装置11における先端側巻付部32の形成は行わなくても良い。この場合、吹付ノズル27は省略することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 自動ワインダシステム(糸巻取システム)
2 自動ワインダ(糸巻取装置)
3 ボビン処理装置
11 糸端処理装置
15 給糸ボビン
22 バックワインド糸
23 ボトムバンチ
24 ボビン回転機構
25 サーチャー(糸捕捉部)
30 ステッピングモータ
33 回転制御部
34 速度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給糸ボビンを回転させるボビン回転機構と、
回転する前記給糸ボビンの外周に巻き付けられたバックワインド糸に係合して捕捉する糸捕捉部と、
前記ボビン回転機構を制御する回転制御部と、
を備え、
前記ボビン回転機構の駆動源がステッピングモータであることを特徴とする糸端処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸端処理装置であって、
前記回転制御部は、前記ボビン回転機構によって給糸ボビンを回転させる速度を、糸の種類に応じて変更する速度制御部を備えることを特徴とする糸端処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸端処理装置であって、
前記回転制御部は、前記ボビン回転機構によってボビンを回転させる方向を制御する方向制御部を備え、
前記方向制御部は、
前記ボビン回転機構によって給糸ボビンを解舒方向に回転させることにより、当該給糸ボビンに形成されているボトムバンチの解舒を行い、
次に、前記ボビン回転機構によって前記給糸ボビンを巻き付け方向に回転させることにより、当該給糸ボビンの外周に巻き付けられたバックワインド糸の捕捉を前記糸捕捉部によって行う正逆駆動を実行することを特徴とする糸端処理装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の糸端処理装置を備え、
供給された給糸ボビンに前記糸端処理装置による処理を行って、糸巻取装置に順次供給することを特徴とするボビン処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載のボビン処理装置と、
前記ボビン処理装置に給糸ボビンを供給するボビン供給部と、
前記ボビン処理装置によって所定の処理が施された給糸ボビンから糸を巻き取る糸巻取装置と、
を備えることを特徴とする糸巻取システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate