説明

紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法及び養殖方法

【課題】
効率良く大量に生産することを可能にする紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法及び養殖方法を提供する。
【解決手段】
採苗工程で、タオヤギソウの藻体を着生基質とともに水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、その海水を通気、攪拌しながら、藻体から放出される果胞子及び四分胞子を着生基質に付着させる。育苗工程で、採苗工程後の着生基質を、水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、その海水を通気、攪拌しながら、照度1,000〜3,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法及び養殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紅藻類マサゴシバリ目のタオヤギソウ(学名:Chrysymenia wrightii)は日本,韓国,朝鮮半島,中国などに分布することが知られている(非特許文献1参照)。しかし,今まで注目を集めることがなく、本種の養殖生産を目的とする種苗生産及び養殖が国内で行われた事例はこれまでに存在しない。
【0003】
国内で養殖されているワカメ・コンブの種苗生産では,成熟した藻体を6〜12時間程度空気中に干出させてからロープ又は化繊糸等の種糸と共に陸上水槽内の海水に浸漬し,藻体から放出された遊走子を種糸に着生させるタンク採苗が行われている。採苗前に藻体を干出させることによって海水中に浸漬した際に短時間に多量の遊走子を放出させることができ,藻体1個体からは億単位の遊走子が放出される。個々の遊走子は活発に遊泳して自ら種糸に着生するため,遊走子が放出された海水中に種糸を30分前後浸漬しておくだけで多量の種苗を採苗することができる。
【0004】
三陸沿岸で少量養殖されているマツモについては,天然藻体の繁茂域周辺に化繊糸等の種糸を設置しマツモから放出された遊走子及び配偶子を種糸に着生させる天然採苗と,ワカメ・コンブと同様の手段により藻体から放出された遊走子及び配偶子を種糸に着生させるタンク採苗が行われている。前者の手法は陸上採苗に比べて手間が軽減できる反面,遊走子又は配偶子の放出が自然条件により左右されやすく,均一かつ適正な着生密度の種苗を生産することが困難である。後者の手法は自ら遊泳する遊走子及び配偶子を種糸に着生させる手段としては有効である。
【0005】
タオヤギソウの生活史は非特許文献2で示されるとおりであり,タオヤギソウは雌性配偶体から放出された果胞子と,四分胞子体から放出された四分胞子がそれぞれ発芽生長して藻体を形成する。果胞子・四分胞子はともに遊泳力を持っておらず,海水中で緩やかに沈降しながら基質に着生する特徴がある。また,単位時間あたりの胞子の放出数はワカメ・コンブ・マツモ等に比べると大幅に少ない。このため,成熟した藻体と着生基質を水槽中に浸漬する従来の採苗方法では,胞子を均一かつ高密度に基質に着生させることができない。
【0006】
特許文献1には,石炭灰や石膏,セメント,粘度等で作られたサンゴ幼生定着基盤を適当な長さにそろえ,それを水平方向に均一に並べて上下に複数配置したサンゴ用採苗器具と,エアーホース(散気ホース)を密に並列配置し,エアホースのそれぞれに通気量調整弁をもうけたエアレーション装置を水槽内に設置し,採苗器へのサンゴ幼生着生を促進する方法が記載されている。
【0007】
この方法では,複数のエアホースを用いたエアレーション装置によって強い水流が発生し,母藻となるタオヤギソウを水槽内に収容した際にはタオヤギソウが採苗器に絡まり,水流の物理的作用で切断された藻体片は最終的に枯死する。また,採苗器に絡まった藻体は塊となり,その内側部分の藻体は水流に触れることができず,間もなく枯死する。枯死した藻体片の影響で水槽内の水質が悪化することにより,生残している藻体の枯死や,基質表面が汚れることによる果胞子及び四分胞子の着生阻害,さらに基質に着生した果胞子及び四分胞子の生長阻害の原因となる。
【0008】
特許文献2には,貝類採苗用ロープを水平方向に均一に密に並べたものを複数段配置した採苗器と,エアホースを密に並列配置したエアレーション装置を水槽内に設置する二枚貝の採苗方法が記載されている。この方法では,採苗器が密に設置されていることや,エアホースが複数用いられていることによる強いエアレーション効果によって母藻となるタオヤギソウが切断されて枯死し,水槽内の水質悪化による藻体の枯死や,果胞子及び四分胞子の着生阻害並びに生育阻害の原因となる。
【0009】
特許文献3には,予め培養槽内でトサカノリの果胞子及び四分胞子を放出させた胞子液を2cm/秒以下の流速に保持しながら,この培養槽中に着生基質を10〜60分浸漬して胞子を着生させる方法が記載されている。この方法では,トサカノリの母藻を海水に1晩浸漬することにより濃厚な果胞子及び四分胞子含有液を得ることができるとしているが,タオヤギソウでは単位時間あたりの放出量が少ないため,採苗に必要な量の果胞子及び四分胞子を得ることができない。また,胞子液中に着生基質を浸漬する時間が短いため,果胞子及び四分胞子の確実な着生が期待できない。
【0010】
特許文献4には,アオノリの母藻を小さく切断して塩水に入れ,胞子を放出させて胞子液を得る方法が記載されている。この方法では,タオヤギソウでは母藻の藻体を小さく切断すると枯死してしまい,果胞子及び四分胞子を得ることができない。
【0011】
特許文献5には,ムカデノリの胞子体及び配偶体から放出させた果胞子及び四分胞子を培養して得られた糸状胞子体及び糸状配偶体を細かく砕いて合成繊維材料に付着させ,さらに培養して胞子体及び配偶体の幼体が発芽したものを養殖して,ムカデノリを収穫する方法が記載されている。この方法では,養殖種苗を得るまでに,母藻から放出された果胞子及び四分胞子の採取と,一度発芽した胞子体及び配偶体を細かく砕いたものを合成繊維材料に付着させる2段階の採苗を要する。タオヤギソウでは,基質に着生した果胞子及び四分胞子をそのまま収穫可能サイズまで養殖する必要があり,基質から剥離・粉砕した藻体片では新たな藻体は発生しない。
【0012】
【非特許文献1】吉田忠生編,「新日本海藻誌」,1998年,内田老鶴圃,p.845
【非特許文献2】堀 輝三編,「藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類」,1993年9月20日,p.300〜301
【特許文献1】特開平11-276013号公報
【特許文献2】特開平9-74937号公報
【特許文献3】特開平5-41929号公報
【特許文献4】特開平9−224511号公報
【特許文献5】特開平7−155078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
タオヤギソウの種苗生産を行うには,藻体の成熟時期及び果胞子・四分胞子が放出される条件を把握した上で採苗を行う必要がある。タオヤギソウの果胞子及び四分胞子は自ら遊泳せず,緩やかに水中を沈降しながら基質に着生する。また,単位時間あたり藻体から放出される果胞子及び四分胞子の数がワカメ・コンブに比べて非常に少ないため,成熟した藻体と種糸等の着生基質を水槽内に浸漬する方法又は海中に繁茂している藻体の周囲に基質を設置するだけの方法では,十分な量の果胞子及び四分胞子を基質に着生させることができない。
【0014】
また,タオヤギソウが生育する内湾域では多種の雑海藻が生育しているが,これらはタオヤギソウに比べて生長速度が速く繁殖力が旺盛なものが多い。雑海藻がタオヤギソウの基質に着生した場合,タオヤギソウが生育不良となって産業的な規模で収量を確保することが困難となる。従って,タオヤギソウの種苗生産では果胞子及び四分胞子を高い密度で基質に着生させ,天然の漁場で生育するのに十分な藻体長まで育苗することが不可欠な課題である。また,天然のタオヤギソウは2〜5m付近、一般に3〜5m付近の水深帯に生育していることから,この水深帯で効率良く大量に養殖する方法の開発が企業化に向けての重要な課題である。
【0015】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、効率良く大量に生産することを可能にする、タオヤギソウに代表される紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法及び養殖方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法は、紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体を着生基質とともに水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、その海水を通気、攪拌しながら、前記藻体から放出される果胞子及び四分胞子を前記着生基質に付着させる採苗工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法は、前記採苗工程後の着生基質を、水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、その海水を通気、攪拌しながら、照度1,000〜3,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返す育苗工程を有することが好ましい。
【0018】
本発明に係る紅藻類マサゴシバリ目の海藻の養殖方法は、前述の紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法により幼体に生長した紅藻類マサゴシバリ目の海藻を付着させた着生基質を、水温15〜22℃、水深2〜5メートルの海中に沈めておくことを特徴とする。
【0019】
特に、本発明に係る紅藻類マサゴシバリ目の海藻の養殖方法は、
紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体を着生基質及びスライドガラスとともに水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、照度1,000〜1,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返し、前記海水に対し海水100リットルあたり毎分8リットル〜12リットルの空気を送ることにより攪拌しながら、前記藻体から放出される果胞子及び四分胞子を前記着生基質に付着させ、前記スライドガラスに付着した果胞子及び四分胞子の密度が1平方ミリあたり平均2〜6個に達するまで続ける採苗工程と、
前記採苗工程後の水槽から前記藻体を取り出し、前記採苗工程後の着生基質に対し、水温15〜22℃の海水中で、その海水を通気、攪拌しながら、照度1,300〜1,700ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返し、前記海水は10〜14日間ごとに新たな海水と交換し、前記着生基質に肉眼で確認可能な赤い斑点が生じたとき、前記水槽内の海水を新たな海水と交換してその海水にノリ糸状体培養試薬を添加し、前記着生基質に直立体を形成するまで続ける第1育苗工程と、
前記第1育苗工程後の着生基質に対し、水温15〜22℃の海水中で、その海水を通気、攪拌しながら、照度2,000〜3,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返し、前記海水は10〜14日間ごとに新たな海水と交換し、前記着生基質の直立体を幼体に生長させる第2育苗工程と、
前記第2育苗工程後の着生基質を、水温15〜22℃、水深2〜5メートルの海中に沈めておく生長工程とを、
有することが好ましい。
【0020】
前述の水温、照度、通気量、水深、その他の条件から外れた条件では、紅藻類マサゴシバリ目の海藻の効率の良い種苗生産又は養殖はできない。
前記着生基質は貝殻、天然繊維又は人工繊維であることが好ましいが、紅藻類マサゴシバリ目の海藻の果胞子及び四分胞子を付着させやすい基質であればいかなるものであってもよい。
本発明に係る種苗生産方法および養殖方法は、紅藻類マサゴシバリ目(学名:Rhodymeniales)の海藻、例えば、タオヤギソウ、カエルデグサ(学名:Binghamia), ハナノエダ(学名:Botryocladia), ワツナギソウ(学名:Champia),フクロツナギ(学名:Coelarthrum), ヒラタオヤギ(学名:Cryptarachne), マダラグサ(学名:Fauchea), イソマツ(学名:Gastroclonium), フシツナギ(学名:Lomentaria), マサゴシバリ(学名:Rhodymenia)などに適用可能であるが、特に、タオヤギソウに好適である。タオヤギソウでは、種苗生産方法または養殖方法の前述の水温の範囲は15〜17℃が好ましい。
【0021】
以下、本発明に係る紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法及び養殖方法において、好適な方法、条件について説明する。
【0022】
紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産を行うには,まず天然海域における藻体の成熟時期を把握する必要がある。気仙沼湾において周年の生育状況調査した結果,成熟時期は通常7〜8月であることが明らかとなったことから,この時期に採取した藻体を母藻として利用し、室内の水槽中にて貝殻や人工繊維又は天然繊維を果胞子又は四分胞子の付着基体として利用し、一定の環境条件下で育苗し、最後に海中で一定の条件を満たした中で養殖することで人工的に養殖ができることを見出した。
【0023】
紅藻類マサゴシバリ目の海藻の果胞子及び四分胞子は自ら遊泳力を持たず,単位時間あたりの放出数がワカメ・コンブ等から放出される遊走子数に比べてはるかに少ないことから,着生密度の高い種苗を生産するには,数日間にわたって母藻(藻体)を水槽内で培養しながら,放出された果胞子及び四分胞子を基質へ着生させる必要がある。そこで,海水水槽内に母藻と着生基質を通気しながら3日間収容し,果胞子及び四分胞子を基質に着生させる手法を開発した。通気を行うことで水槽内の海水が攪拌され,果胞子及び四分胞子をより均一な密度で基質へ着生させることが可能となるほか,母藻(藻体)の体表面に二酸化炭素及び海水中の栄養分が供給され,藻体の活力を水槽内で維持することができる。
【0024】
紅藻類マサゴシバリ目の海藻の採苗を行うには,天然海域から採取した藻体の成熟状況を確認することが望ましい。紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体には雌性配偶体・雄性配偶体・四分胞子体があるが,これらは同型同大であり肉眼での判別はほぼ不可能である。養殖によって紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体を得るには,成熟した雌性配偶体又は四分胞子体を母藻として採苗する必要がある。雌性配偶体上の嚢果は肉眼で確認できるため,選別は容易である。一方,四分胞子体では顕微鏡下で四分胞子嚢の有無を確認する必要がある。
【0025】
このようにして選別した母藻は,藻体上に付着した動物や藻類等を除去してから速やかに海水水槽内に収容する。水槽内には着生基質となる貝殻・ロープ等を前もって沈設しておく。この際,果胞子・四分胞子がより基質に着生し易くするため,基質表面をブラシ等で洗浄しておくとともに貝殻は垂下培養のためドリルで小穴を開けておくことが望ましい。
【0026】
水槽内に藻体を収容すると同時にエアポンプにより通気を開始する。通気量は,水槽内の海水がごく緩やかに攪拌される程度(100リットル水槽の場合は海水100リットルあたり10リットル前後/分)とする。水槽内の水温は漁場水温に合わせて15〜22℃前後とし,照度は1,000〜1,500ルクスに調整する。照度調整を人工照明で行う場合は市販の白色蛍光灯を使用し,明期は10〜12時間とする。
【0027】
着生基質への果胞子・四分胞子の着生状況は,水槽内にスライドガラスを垂下しておき,適時顕微鏡を用いて着生密度を観察する。着生密度が100倍1視野あたりで平均5〜20個程度(1平方ミリあたり平均2〜6個)に達した段階で,採苗は完了とする。採苗開始から採苗完了までの採苗工程の期間は、2〜4日間程度であり、適度な着生密度とするには特に3日間が好ましい。
【0028】
次に,種苗を育苗するため水槽内から母藻(藻体)を取り上げる。カキ殻,ホタテガイ殻は水槽内に効率良く収容するため,小穴にピンを差し込みロープに20枚程度吊り下げ垂下する。育苗は水温15〜22℃・水面上の照度1,300〜1,700ルクス(明期:暗期=10〜12時間:12〜14時間)で培養を開始する。水槽内では引き続き通気を行い,海水は10〜14日間毎に交換する。
【0029】
基質に着生した果胞子・四分胞子は同心円上で細胞分裂を繰り返しながら拡大し,平面的な円状の細胞塊を基質上に形成する。この細胞塊は肉眼で赤い斑点として確認されるので,この時点で海水を交換して市販されているノリ糸状体培養試薬(例えば、第一製網株式会社製造、商品名「ポルフィラン・コンコ」)を規定量の半分の濃度で添加する。さらに培養を継続すると,円状の細胞塊の中心部分で直立体を形成して伸長を始める。この段階で照度を2,000〜3,500ルクスとし,培養試薬の濃度を規定量どおりにして培養すると,最終的に藻体長5mm前後の幼体に生長する。ここまでに要する日数は採苗開始から約3ヶ月である。
【0030】
育苗を完了した紅藻類マサゴシバリ目の海藻を天然海域に沖出するには,その生育水深である水深2〜5m、好ましくは3〜5mに垂下する。この時の海水温は,垂下水深で15〜17℃の範囲が適当である。また,企業的規模で養殖生産を行うため,ロープ類を用いた基質では,より太いロープ(幹縄)に挟み込みや巻き込みを行い,上記水深帯にほぼ1m間隔で多段水平張りし養成する。カキ殻,ホタテガイ殻を用いた基質では,幹縄にほぼ30cm間隔に挟み込み垂下養成する。育苗完了後の海中での養殖期間は、約6ヶ月が好ましい。着生基質にカキ殻及びホタテガイ殻を用いてタオヤギソウを養殖した場合、約6ヶ月の養殖により、着生基質10個あたり約2〜3kgのタオヤギソウを収穫することができる。
【0031】
本発明により、これまで知られていない紅藻類マサゴシバリ目の海藻の人工的な養殖技術を提供することができる。具体的には、(1)紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体の生育に適した場所・水深で養殖が可能である。(2)既存の着生基質・養殖網・養殖施設を活用でき、初期投資に要する費用が安価である。(3)高い収穫量が確保でき、他の海藻類が繁茂しにくい養殖技術を提供することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、効率良く大量に生産することを可能にする紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法及び養殖方法を提供することができる。また,種苗生産の量産化とともに企業的な養殖生産が可能となり、これまで藻類養殖種としてワカメ・コンブに依存してきた漁場において,養殖種の多角化に寄与することができ,新たな漁業収入を養殖生産者にもたらす効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
なお、図1乃至図7において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は本発明の第1の実施の形態であり、タオヤギソウの採苗及び育苗用水槽の全体図を示す。図1において,タオヤギソウの母藻(藻体)1と着生基質2を収容した育苗用水槽3に海水を入れ、育苗用水槽3ごと、水温調節器4で水温15〜22℃に設定された大型水槽5の中に設置する。着生基質2には、カキ殻やホタテ貝殻を用いることができる。カキ殻やホタテ貝殻には,あらかじめドリルでロープ差込用の穴を開けておく。
【0034】
育苗用水槽3内の海水を通気装置6により通気、攪拌することでタオヤギソウの果胞子及び四分胞子を着生基質2へ均一な密度で付着、着生させることが可能となる。照度は市販されている白色蛍光灯などの人工照明7により1,000〜1,500ルクスに調整し,市販されている24時間タイマー8により照射時間を10〜12時間に設定する。果胞子及び四分胞子が着生基質2に着生した後,母藻1を取り上げて種苗の育苗を行う。照度は人工照明7により1,300〜3,500ルクスの範囲で調整し,24時間タイマー8により照射時間を10〜12時間に設定する。
【0035】
図2は本発明の第2の実施の形態であり、カキ殻及びホタテガイ殻の着生基質を用いたタオヤギソウの垂下培養方式を示す説明図である。
本発明の第1の実施の形態でタオヤギソウの果胞子及び四分胞子を付着させたカキ殻やホタテ貝殻の着生基質2を用いる。着生基質2の穴に留めたプラスチックピン9を固定用ロープ10に差込み,その複数の固定用ロープ10を支持棒11にそれぞれ垂下して、大型水槽5に収容する。これにより高密度での培養が可能となる。水温調節器4で水温を調整するとともに通気装置6により海水を攪拌し,人工照明7は1,300〜3,500ルクスの範囲で照度を調整し,24時間タイマー8により照射時間を10〜12時間に設定する。
【0036】
図3は本発明の第2の実施の形態であり、図2に示すカキ殻及びホタテガイ殻の着生基質2の固定状態を拡大した図である。
【0037】
図4は本発明の第3の実施の形態であり、ロープ類を用いたタオヤギソウの垂下培養方式を示す説明図である。プラスチック枠12に着生基質となるロープ類13を巻き付け,母藻を収容した水槽の底面に敷設し,本発明の第1の実施の形態に示す条件でロープ類13にタオヤギソウの果胞子及び四分胞子を付着させる。果胞子及び四分胞子を付着させた後、ロープ類13をプラスチック枠12ごと、海水を満たした水槽5の中で垂下培養する。これにより,大量の培養が可能となる。支持棒11,水温調整器4,通気装置6,人工照明7及びタイマー8は,本発明の第2の実施の形態と同様の条件に設定する。
【0038】
図5は本発明の第4の実施の形態であり、細縄を三角柱型の枠に300m程度巻き付けた採苗及び培養方式の説明図である。三角柱型の枠14にクレモナ糸等の細縄15を約300mを巻き付け,育苗用水槽3に収容し、タオヤギソウの母藻を浮かべて採苗及び培養する。これにより,更なる大量培養が可能となる。水温調整器4,通気装置6,人工照明7及びタイマー8は,本発明の第1の実施の形態と同様の条件に設定する。
【0039】
図6は本発明の第4の実施の形態であり、図5に示す三角柱型の枠14に細縄15を巻き付けた状態の拡大図である。
【0040】
図7は本発明の第5の実施の形態であり、カキ殻及びホタテガイ殻の着生基質2を用いたタオヤギソウの海中養殖方法を示す説明図である。本発明の第1の実施の形態でタオヤギソウの果胞子及び四分胞子を付着させたカキ殻やホタテ貝殻の着生基質2を用いる。浮き球Aを着けた幹縄Bに,着生基質2を約50cm間隔で挟み込み,垂下ロープCにより水深2〜5m層で垂下養殖する。
この方法で実験を行ったところ、7個のカキ殻及びホタテガイ殻を用いて、6ヶ月で約1.4kgのタオヤギソウを収穫することができた。
【0041】
図8は本発明の第6の実施の形態であり、ロープ類を用いたタオヤギソウの多段水平張り養殖方法を示す説明図である。本発明の第3又は第4の実施の形態でタオヤギソウの果胞子及び四分胞子を付着させた着生基質のロープ類13又は15を用いる。そのロープ類13又は15を巻き付けるか或いは挟み込んだ養成ロープDを,幹縄Bと垂下ロープCを用いて多段水平張りする。養成ロープDの垂直間隔は1m程度とし,タオヤギソウの適水深2〜5mの範囲に4段張りにすることができる。
【0042】
このように、垂下方式又は多段水平張り方式によるタオヤギソウの養殖方法の開発によって、企業的な規模で養殖生産を行うことが可能となり,養殖生産者にとっては養殖生物の多角化による新しい収入源を確保できるようになる。
なお、本発明の第1乃至第6の実施の形態に示すタオヤギソウの種苗生産方法および養殖方法は、紅藻類マサゴシバリ目の他の海藻にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施の形態であり、タオヤギソウの採苗及び育苗用水槽の全体図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態であり、カキ殻及びホタテガイ殻の着生基質を用いたタオヤギソウの垂下培養方式を示す説明図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態であり、図2に示すカキ殻及びホタテガイ殻の着生基質2の固定状態を拡大した図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態であり、ロープ類を用いたタオヤギソウの垂下培養方式を示す説明図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態であり、細縄を三角柱型の枠に巻き付けたタオヤギソウの採苗及び培養方式の説明図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態であり、図5に示す三角柱型の枠に細縄を巻き付けた状態の拡大図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態であり、カキ殻及びホタテガイ殻の着生基質を用いたタオヤギソウの海中養殖方法を示す説明図である。
【図8】本発明の第6の実施の形態であり、ロープ類を用いたタオヤギソウの多段水平張り養殖方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 タオヤギソウの藻体
2 着生基質(カキ又はホタテガイの貝殻)
3 育苗用水槽
4 水温調節器
5 大型水槽
6 通気装置
7 人工照明
8 24時間タイマー
9 プラスチックピン
10 固定用ロープ
11 支持棒
12 プラスチック枠
13 ロープ類
14 三角柱型の枠
15 細縄(クレモナ糸等)
A 浮き球
B 幹縄
C 垂下ロープ
D 養成ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体を着生基質とともに水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、その海水を通気、攪拌しながら、前記藻体から放出される果胞子及び四分胞子を前記着生基質に付着させる採苗工程を有することを特徴とする紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法。
【請求項2】
前記採苗工程後の着生基質を、水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、その海水を通気、攪拌しながら、照度1,000〜3,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返す育苗工程を有することを特徴とする請求項1記載の紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法。
【請求項3】
請求項2記載の紅藻類マサゴシバリ目の海藻の種苗生産方法により幼体に生長した紅藻類マサゴシバリ目の海藻を付着させた着生基質を、水温15〜22℃、水深2〜5メートルの海中に沈めておくことを特徴とする紅藻類マサゴシバリ目の海藻の養殖方法。
【請求項4】
紅藻類マサゴシバリ目の海藻の藻体を着生基質及びスライドガラスとともに水温15〜22℃の海水を入れた水槽に収容し、照度1,000〜1,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返し、前記海水に対し海水100リットルあたり毎分8リットル〜12リットルの空気を送ることにより攪拌しながら、前記藻体から放出される果胞子及び四分胞子を前記着生基質に付着させ、前記スライドガラスに付着した果胞子及び四分胞子の密度が1平方ミリあたり平均2〜6個に達するまで続ける採苗工程と、
前記採苗工程後の水槽から前記藻体を取り出し、前記採苗工程後の着生基質に対し、水温15〜22℃の海水中で、その海水を通気、攪拌しながら、照度1,300〜1,700ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返し、前記海水は10〜14日間ごとに新たな海水と交換し、前記着生基質に肉眼で確認可能な赤い斑点が生じたとき、前記水槽内の海水を新たな海水と交換してその海水にノリ糸状体培養試薬を添加し、前記着生基質に直立体を形成するまで続ける第1育苗工程と、
前記第1育苗工程後の着生基質に対し、水温15〜22℃の海水中で、その海水を通気、攪拌しながら、照度2,000〜3,500ルクスの明期10〜12時間と照度100ルクス未満の暗期12〜14時間とを交互に繰り返し、前記海水は10〜14日間ごとに新たな海水と交換し、前記着生基質の直立体を幼体に生長させる第2育苗工程と、
前記第2育苗工程後の着生基質を、水温15〜22℃、水深2〜5メートルの海中に沈めておく生長工程とを、
有することを特徴とする紅藻類マサゴシバリ目の海藻の養殖方法。
【請求項5】
前記着生基質は貝殻、天然繊維又は人工繊維であることを特徴とする請求項3又は4記載の紅藻類マサゴシバリ目の海藻の養殖方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−11734(P2008−11734A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184208(P2006−184208)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】