説明

純水製造装置及び方法

【課題】 複床式のイオン交換樹脂でも起動後、無臭で良好な水質の純水が短時間で採水可能となる純水製造装置と方法を提供する
【解決手段】 強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔2からI型の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔5へと原水を順次通水して純水を得る純水製造装置において、該装置内の滞留水をカチオン塔2からアニオン塔5を経てカチオン塔2へと循環可能とするラインを設け、採水停止時に一定時間の間隔で、前記滞留水を循環して洗浄するように構成したものであり、前記I型の強塩基性アニオン交換樹脂は、溶出物低減処理を施したものがよく、また、前記循環洗浄を行う間隔は、4時間以内とし、1回の循環洗浄時間は、10分以内とするのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起動時に速やかに良好な純水を提供することができる純水製造装置、及び方法に関するものであり、特に飲料水製造業、食品製造業で使用される純水の着臭を防止する純水製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂を使用した純水製造装置は広く使用されており、H形に再生したカチオン交換樹脂及びOH形に再生したアニオン交換樹脂に、原水を通水することにより、比較的簡単に純水を得ることができる。最も簡単な純水製造装置としては、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合して、1塔内に充填した混床式の純水製造装置がある。混床式では、高純度の純水が得られる反面、樹脂の再生に長時間を要し、多量の再生剤が必要となる等の欠点があり、大規模な純水製造装置には採用し難い。
大規模な純水製造装置に対しては、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を別々の塔に充填した複床式の純水製造装置がある。最も簡単な複床式は、カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔と、アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔を、直列に接続したもの(2床2塔式)で、原水はカチオン塔からアニオン塔の順に通水される。原水の炭酸成分が多い場合には、カチオン塔の後に脱炭酸塔を設ける(2床3塔式)ことにより、アニオン塔のイオン負荷となる炭酸成分を除去でき、純水製造コストを低減できる。
【0003】
最近の複床式純水製造装置に対しては、原水を流す方向と、再生剤を流す方向とを逆にする向流再生が採用されている。この再生方法は再生時間も短く、少ない再生剤使用量でも良好な処理水を得ることができる。一般的な使用目的に対しては、カチオン塔→(脱炭酸塔)→アニオン塔と通水すれば、十分に良好な純水を得ることができることが多い。より高純度の純水が要求される場合には、この後に何らかのポリッシャを設けることもあるが、その分、装置が複雑となり、より多大な設置面積を必要とする。
向流再生の採用により、2床2塔式、2床3塔式の純水製造装置でも、通常は良好な純水を得ることができる。しかし起動時には、イオン交換樹脂からの溶出物により、処理水水質が十分良好とならない場合がある。
【0004】
イオン交換樹脂は、スチレンをジビニルベンゼン(DVB)で架橋した共重合物に官能基を導入して製造される。酸性カチオン交換樹脂の官能基はスルフォン酸基(−SOH)であり、強塩基性アニオン交換樹脂の官能基は四級アンモニウム基(−NR)である。強塩基性アニオン交換樹脂には、トリメチルアミン(TMA)を導入したI型樹脂と、ジメチルエタノールアミンを導入したII型樹脂がある。
カチオン交換樹脂は、酸化劣化されると架橋が切れてポリスチレンスルフォン酸(PSS)を溶出するようになるが、新品樹脂からの溶出は少ない。カチオン交換樹脂から溶出するPSSは、混床式では混合されたアニオン交換樹脂により除去される。2床2塔式、2床3塔式の純水製造装置でも、後続のアニオン塔でほぼ除去されるために、PSSの溶出が問題となることは少ない。
【0005】
強塩基性アニオン交換樹脂の官能基は、高温で分解され易く、I型樹脂からは主にTMAが溶出し、II型樹脂からはジメチルエタノールアミンの他にメタノール、アセトアルデヒド等が溶出する。アニオン交換樹脂からの溶出は、新品樹脂で特に高濃度で生じ、強い臭気を感じるTMA、アセトアルデヒド等を溶出する。純水を飲料水、食品製造等の原料として使用する場合では、無臭の純水が要求されるため、アニオン交換樹脂からの溶出物に対しては、何らかの処理が必要となる。
I型樹脂から溶出するTMAの臭気はきついが、混床式では、混合されたカチオン交換樹脂により除去されるために、通常は問題となることはない。II型樹脂から溶出するジメチルエタノールアミンもTMAと同様に除去されるが、メタノール、アセトアルデヒド等はイオンでないため混床式でも除去されない。アセトアルデヒドは悪臭物質のひとつであり、また無臭レベルとなるには長時間の通水を要するため、II型樹脂に対しては混床式で使用する場合にも、何らかの方法で低臭気化することが必要である。特許第1573651号公報には、強塩基性アニオン交換樹脂を使用前に再生形とし、水の存在下に加熱処理を行うことを特徴とする強塩基性アニオン交換樹脂の安定化法が開示されており、この方法は、特にII型樹脂に対して有効との記載がある。また、特開平2−237641号公報には、OH形のII型樹脂から、使用中又は貯蔵中に放出される分解生成物(アセトアルデヒド)の濃度を減少させる方法として、塩形樹脂をOH形に再生する前に、重亜硫酸塩と接触させる方法が開示されている。
【0006】
I型樹脂から溶出するTMAは、混床式では問題とならないが、2床2塔式、2床3塔式の純水製造装置は、アニオン塔が最終段となるためカチオン交換樹脂での除去ができず、何らかの処理が必要となる。特許第3465291号公報には、I型の強塩基性アニオン交換樹脂に対して、極性有機溶媒で洗浄するか、又は、アルカリ性水溶液中において80℃以上で加熱処理することにより、処理水中のTMAの溶出量を、20μg/L以下に低減させる技術が開示されている。また、特許第2607534号公報には、後段にH形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填した樹脂塔を設定し、純水製造装置処理水を通水処理する方法が開示されている。
強塩基性アニオン交換樹脂からは、新品樹脂のみでなく、使用中の樹脂においても臭気物質が溶出する。純水製造装置は、樹脂再生後、設定された採水量(定収量)まで採水し、再生が行われる。採水は、必ずしも連続的に採水されるわけではなく、純水貯槽の水位により採水、停止を繰り返し、定収量まで採水される。純水貯槽の容量が大きいと採水、停止の回数は少ないが、純水貯槽の容量が小さいと採水、停止の回数が多くなる。
【0007】
停止中のイオン交換樹脂からは、前記した物質が溶出するため、起動時の処理水水質が悪化する。混床式では、起動時にブロー、循環等を行えば、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂からの溶出物は相互にイオン交換除去されるため、処理水水質は短時間で良好となり、採水可能となる。2床2塔式、2床3塔式では、同様な操作を行っても、強塩基性アニオン交換樹脂から溶出するTMAが、カチオン交換樹脂によって除去されることがない。TMAは、そのまま処理水に流出し、処理水のTMA濃度は容易に低下しない。このように2床2塔式、2床3塔式では、起動時に行う短時間のブロー、循環等では十分良好な処理水水質とはならない。現状では、完全に無臭と言える樹脂は存在しておらず、停止期間が長い場合、臭気物質濃度の低下には長時間を要し、その間は採水要求に応えることができない。
【特許文献1】特許第1573651号公報
【特許文献2】特開平2−237641号公報
【特許文献3】特許第3465291号公報
【特許文献4】特許第2607534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、2床2塔式、2床3塔式でも起動後、無臭で良好な水質の純水が短時間で採水可能となる純水製造装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明では、強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔からI型の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔へと原水を順次通水して純水を得る純水製造装置において、該装置内の滞留水を前記カチオン塔から前記アニオン塔を経て前記カチオン塔へと循環可能とするラインを設け、採水停止時に一定時間の間隔で、前記滞留水を循環して洗浄するように構成したことを特徴とする純水製造装置としたものである。
また、本発明では、原水を強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔からI型の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔へと順次通水して純水を得る純水製造方法において、前記純水製造工程内の滞留水を、前記カチオン塔から前記アニオン塔を経て前記カチオン塔へと循環するラインを設け、採水停止時には、一定時間の間隔で該ラインに滞留水を循環して、前記塔内のイオン交換樹脂を洗浄することを特徴とする純水製造方法としたものである。
本発明において、前記I型強塩基性アニオン交換樹脂としては、前記引用した特許文献1〜3に示すような方法、例えば加熱処理による溶出物低減処理を施したものを用いるのがよく、また、前記循環洗浄を行う間隔は、4時間以内とし、1回の循環洗浄時間は、10分以内とすることで常に短時間で起動できる純水製造装置が提供できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を別々の塔に充填した複床式の純水製造装置において、採水停止後の起動時にTMAによる着臭のない良好な処理水を短時間で得ることが可能となり、採水要求に短時間で応じることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に示す実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、2床3塔式の純水製造装置における本発明の1実施形態を示すフロー構成図である。原水は、原水ポンプ1により原水流入弁9を経て、強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔2へ、次いで、脱炭酸塔3に通水され、脱炭酸水は、中間ポンプ4によりI型の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔4に通水される。処理水の導電率を導電率計6で測定し、採水時には、採水弁7を開いて純水貯槽に送水される。起動時には、原水流入弁9を閉じて中間ポンプ4のみを運転し、処理水は採水弁7を閉じ、循環弁8を開くことによりカチオン塔の入口に戻され、循環洗浄を行う。
【0012】
図2は、2床2塔式純水製造装置における、採水を3時間停止した後の起動時(循環時)のアニオン塔出口の導電率の測定例を示すグラフである。2床2塔式では、短時間の採水停止後であっても、起動時には、著しい導電率ピークの発生が認められる。循環時のアニオン塔出口の処理水には、通常の無機イオンはほとんど含まれていないため、測定される導電率は、全てI型樹脂から溶出するTMAに起因する。本発明では、TMA濃度は直接測定せず、TMAの解離定数(pka=9.80)、各イオンの極限モル電導率等から導電率をTMA濃度に換算して求めた。
図2の導電率測定結果より、TMA濃度に換算したものを図3に、採水停止時間とTMAピーク濃度との関係を図4に示す。
【0013】
起動時に溶出するTMA濃度は、採水停止時間にほぼ比例して高くなり、短時間の採水停止であっても、mg/LレベルのTMAが2分間程度処理水に溶出する。TMAによる処理水の着臭に関しては、TMAの標準液を使用し、臭気を感じるTMA濃度を官能試験により求めた。着臭濃度は50〜100μg/Lであり、臭気に敏感な人では、50μg/L以下でも若干の臭気を感じた。起動時のTMA濃度は、着臭レベルをはるかに超えており、採水するには、これを速やかに低下させることが必要である。再生直後の新品樹脂では、TMAの溶出が著しく、10分程度の採水停止でも、起動時には高濃度のTMAが溶出し、循環を継続しても容易にTMA濃度は低下しない。図5は、再生直後の新品樹脂と再生後の樹脂を、90℃の純水中で4時間加熱処理した樹脂の起動時のTMA濃度を示したグラフである。加熱により溶出物低減処理した樹脂でも、起動時にはTMA濃度が上昇するが、TMAピーク濃度はほぼ一桁低下している。新品樹脂に対しては、前記の特許文献1〜3に示すような方法により、溶出物低減処理を施すことが望ましい。
【実施例】
【0014】
以下に実施例により、本発明を具体的に説明する。
使用したカチオン塔は、内径60mm、高さ1800mmで、強酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス MONO−600)を4.2L充填した。アニオン塔は、内径60mm、高さ1800mmで、弱塩基性アニオン交換樹脂(ダウエックス MONO WB MONOWB−500)を1.3L、I型の強塩基性アニオン交換樹脂(ダウエックス MONOA−625)を2.6Lを充填した。充填したイオン交換樹脂は全て新品樹脂充填後、6ヶ月間、約30サイクル使用したものである。
【0015】
比較例1
カチオン塔に対しては塩酸200gを使用し、アニオン塔に対しては水酸化ナトリウム160gを使用して向流再生した。採水流速60L/hで10時間採水した後、24時間停止した。起動時に際しては60L/hで循環し、処理水の導電率を測定した。導電率から換算した起動時のTMA濃度と循環時間の関係を図6に示す。循環開始後、2分間程度はTMA濃度が10mg/L程度と高く、その後TMA濃度は急激に低下する。循環を継続することにより、導電率(TMA濃度)は徐々に低下するが、直ぐには無臭レベルまでは低下しない。更に循環を継続すると、もはや導電率が低下しない平衡状態に達する。平衡状態に達してもTMA濃度はゼロではないが、処理水の着臭は感じられない。採水停止が24時間の場合、10分間の循環ではTMA濃度は十分に低下せず、無臭レベルの一定値を示すためには25分間の循環が必要であった。採水停止中に循環を全く行わない場合の採水停止時間と、処理水中のTMA濃度が無臭レベルの一定値を示すまでに要する時間を図7に示す。採水停止時間が8時間を越えると、10分以上の循環が必要となり、採水要求に短時間で応じることができなかった。I型強塩基性アニオン交換樹脂の官能基は高温で分解され易い。水温が高くなる夏季等においてはTMA濃度が上昇するため、10分以内で確実に採水要求に応えるためには循環洗浄を行う間隔は、4時間以内とすることが望ましい。
【0016】
実施例1
比較例と同一の条件で採水して停止し、採水停止中には、2時間毎に10分間の循環を行った。起動時のTMA濃度と循環時間の関係を図8に示す。2時間毎に循環を行うことにより、起動時のTMAピーク濃度は、1mg/L程度と大幅に低下し、5分程度の循環で、処理水中のTMA濃度が無臭レベルの一定値を示すようになり、採水要求に短時間で応じることができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の1実施形態を示すフロー構成図。
【図2】起動時のアニオン塔出口導電率の測定例を示すグラフ。
【図3】起動時のアニオン塔出口TMA濃度(換算値)を示すグラフ。
【図4】採水停止時間と起動時のアニオン塔出口TMA濃度(換算値)の関係を示すグラフ。
【図5】新品樹脂による起動時のアニオン塔出口TMA濃度(換算値)を示すグラフ。
【図6】比較例1における起動時のアニオン塔出口TMA濃度(換算値)を示すグラフ。
【図7】採水停止時間と起動時に必要な循環時間との関係を示すグラフ。
【図8】実施例1における起動時のアニオン塔出口TMA濃度(換算値)を示すグラフ。
【符号の説明】
【0018】
1:原水ポンプ、2:カチオン塔、3:脱炭酸塔、4:中間ポンプ、5:アニオン塔、6:導電率計、7:採水弁、8:循環弁、9:原水流入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔からI型の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔へと原水を順次通水して純水を得る純水製造装置において、該装置内の滞留水を前記カチオン塔から前記アニオン塔を経て前記カチオン塔へと循環可能とするラインを設け、採水停止時に一定時間の間隔で前記滞留水を循環して洗浄するように構成したことを特徴とする純水製造装置。
【請求項2】
前記I型の強塩基性アニオン交換樹脂は、溶出物低減処理を施したものであることを特徴とする請求項1記載の純水製造装置。
【請求項3】
原水を強酸性カチオン交換樹脂を充填したカチオン塔からI型の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン塔へと順次通水して純水を得る純水製造方法において、前記純水製造工程内の滞留水を、前記カチオン塔から前記アニオン塔を経て前記カチオン塔へと循環するラインを設け、採水停止時には、一定時間の間隔で該ラインに前記滞留水を循環して前記塔内のイオン交換樹脂を洗浄することを特徴とする純水製造方法。
【請求項4】
前記循環洗浄を行う間隔は、4時間以内とし、1回の循環洗浄時間は、10分以内とすることを特徴とする請求項3記載の純水製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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