説明

紙の製造方法、紙、及び紙ロールの製造方法

【課題】毛羽立ちを有せず、表面強度の向上した紙の製造方法とする。
【解決手段】基紙表面を加圧するカレンダーロールの表面に対して、薬液を付与し、この付与液を、前記加圧にともなって、前記カレンダーロール表面から前記基紙表面に転写させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造方法、紙、及び紙ロールの製造方法に関するものである。より詳しくは、紙が、例えば、高い表面強度の必要な印刷用紙や、使用時に摩擦を受けることが多い包装用紙、段ボールなどとして利用されるライナー等の板紙などである場合に、特に好ましい技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙機で紙を製造すると、ワイヤーパートで紙表面に、繊維の毛羽立ちができ、表面強度が弱くなる。この問題は、繊維間結合が弱いパルプ、すなわちフリーネスの高いパルプや古紙パルプを使用したときなどに顕著となる。そして、この問題は、プレスパートやカレンダーパートで、紙表面を加圧しても解消されない。
【0003】
そこで、サイズプレスに際して、紙表面に薬液を塗布して表面強度の低下を防止することも考えられる(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、サイズプレスは、ドライヤーパートの間に設けられるものであるところ、紙には、いまだ水分が多く含まれる。したがって、塗布した薬液が、紙の内部に浸透し易く、毛羽立ちを原因とする表面強度の低下を、十分に解消することはできない。
【非特許文献1】「紙パルプ製造技術シリーズ6 紙の抄造」、紙パルプ技術協会、P.319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる課題は、毛羽立ちを有せず、表面強度の向上した紙の製造方法、紙、及び紙ロールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
基紙表面を加圧するカレンダーのトップロール表面に対して、薬液を付与し、この付与液を、前記加圧にともなって、前記トップロール表面から前記基紙表面に転写させる、ことを特徴とする紙の製造方法。
【0006】
〔請求項2記載の発明〕
薬液付与の対象となるロールの表面温度を、70〜90℃とした、請求項1記載の紙の製造方法。
【0007】
〔請求項3記載の発明〕
基紙表面を加圧するカレンダーのトップロール表面に対して、薬液を付与することによって、この付与液が、前記加圧にともなって、前記トップロール表面から前記基紙表面に転写された、ことを特徴とする紙。
【0008】
〔請求項4記載の発明〕
請求項3記載の紙を巻き取って得た原反ロールを、巻き直して紙ロールとするワインダ処理において、スプレッダーとして、ロール式のものを使用する、ことを特徴とする紙ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、毛羽立ちを有せず、表面強度の向上した紙の製造方法、紙及び紙ロールの製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
〔用途〕
本発明の紙は、その用途が特に限定されない。例えば、印刷用紙や、包装用紙、段ボールなどとして利用されるライナー等の板紙などとして、利用することができる。
【0011】
〔原料パルプ〕
紙の原料となるパルプは、特に限定されない。例えば、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプ、などから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)等を原料とする合成パルプ、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0012】
〔抄紙工程等〕
原料パルプは、公知の抄紙工程、例えば、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、サイズプレスなどを経て、基紙とする。なお、本明細書では、カレンダー処理する前の紙、つまりカレンダー処理の対象となる紙を、基紙と表現する。
【0013】
本基紙は、単層であっても、2層、3層、4層又はそれ以上の多層であってもよい。また、本基紙の坪量も特に限定されず、例えば、単層であれば、坪量20〜200g/m2とすることができ、多層であれば、坪量80〜400g/m2とすることができる。
【0014】
〔カレンダーパート〕
以上のようにして得た基紙は、公知の方法と同様に、その表面を、カレンダーロールで加圧して、表面強度の向上・平滑化を図る。
【0015】
ただし、本形態の方法においては、この際、カレンダーロールの表面に対して、薬液を付与する。この付与により、カレンダーロール表面に付着した薬液(付与液)が、前記加圧にともなって、カレンダーロール表面から基紙表面に転写することになる。本形態のように、加圧にともなって、基紙表面に薬液を転写させると、薬液が基紙の表面の毛羽立ちを押さえ込んだ状態で固定される(固まる)ことになるので、毛羽立ちを原因とする表面強度の低下が、確実に解消される。また、カレンダー処理の対象となる基紙は、プレスパートやドライヤーパートにおけるのと異なり、十分に乾燥しているので、転写した薬液が、基紙の内部に浸透することはなく、極表面に留まる。したがって、毛羽立ちを原因とする表面強度の低下を解消するには、まさに好ましいものとなる。さらに、本薬液の転写は、従来から行われているカレンダー処理に際して行うので、製造工程が増えるとの問題もない。
【0016】
本工程におけるカレンダーロールの段数は、特に限定されない。例えば、得ようとする紙表面の平滑度などに基づいて、任意に設計することができる。そして、カレンダーロールを、2段、3段、4段又はそれ以上の複数段とする場合、本薬液付与の対象は、いずれのカレンダーロールであってもよく、また、複数のカレンダーロールを対象としてもよい。
【0017】
ただし、本薬液付与の対象は、最初に基紙の表面に接するカレンダーロール、つまりトップロールであるのが、好ましい。トップロールにおいて、薬液を基紙表面に転写させると、その後に基紙表面と接するカレンダーロールによって、薬液が、よりいっそう確実に、基紙表面の毛羽立ちを押さえ込んだ状態で固定されることになる。
【0018】
薬液付与の対象となるカレンダーロールの表面温度は、70〜90℃としておくのが好ましい。薬液を、均一かつ確実に、基紙表面に転写させるためである。
【0019】
本工程において、使用することができる薬液は、基紙表面の毛羽立ちを押さえ込んだ状態で固まる性質のものであればよく、その種類は、特に限定されない。例えば、鉱物油系ワックス、炭化水素系ワックス、シリコン油等のなかから、一種又は数種を、適宜選択して、使用することができる。また、本薬液として、特に好ましいものとしては、特許第3388450号公報に開示される汚染防止剤と同様の薬液を挙げることができる。なお、同公報において開示される汚染防止剤は、ロール等からの紙離れ向上を目的とするものであり、基紙表面に転写させて表面強度の向上を図る本発明とは、目的を異にする。したがって、同公報では、薬液付与の対象として、プレスロール及びドライヤーロールが挙げられているのに対し、本発明では、これらのロールでは、目的が達成されず、カレンダーロールに限定される、という違いが生じている。
【0020】
本工程において、カレンダーロールに対する薬液付与の方法は、特に限定されない。例えば、薬液をカレンダーロールに向けてスプレーして付与することや、刷毛によって塗布して付与することなどが、できる。この他に、薬液付与の方法としては、例えば、特許第3432819号公報に開示される装置・方法によることもできる。
【0021】
カレンダーロールに対して付与する薬液の量は、特に限定されない。基紙表面に転写させる薬液の量から逆算して、設定することができる。基紙表面に転写させる薬液の量としては、例えば、5×10-4g/m2〜50×10-4g/m2とすることができる。
【0022】
〔ワインダパート〕
以上のようにして得た紙は、通常、いったん巻き取って原反ロールとした後、巻き直して、所定の長さ・幅の製品ロール(紙ロール)とする(ワインダ処理)。そして、このワインダ処理においては、製品ロールのテンションを調節するスプレッダーとして、軸心回りに回転しないバー式(スプレッダーバー)ものが、多用されている。しかしながら、本形態においては、スプレッダーとして、軸心回りに回転するロール式(スプレッダーロール)のものを使用する、のが好ましく、スプレッダーロールを紙の巻き取り速度と同調させて回転させる、のがより好ましい。紙表面に固定された薬液を損傷して、基紙表面の繊維が毛羽立つのを防止するためである。
【0023】
本形態において、スプレッダーロールの具体的形状は、特に限定されず、公知の装置を、そのまま使用することができる。公知のスプレッダーロールとしては、例えば、特開2001−113497号公報が開示するものを、例示することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の試験例を説明する。
〔試験例1〜6〕
坪量210g/m2の未晒しK2ライナー(基紙表面に、鉱物油系ワックス「サントール311」日華化学株式会社製からなる薬液が、20×10-4g/m2転写されている。)について、ワックスピック(A)及び耐摩耗性を試験した。この試験は、薬液付与の際のカレンダーロールの温度を変えるとともに、スプレッダーバー又はスプレッダーロールのいずれかを用いて行った。結果を、試験例1〜6として、表1に示した。なお、ワックスピック(A)は、「JIS P 8129 紙及び板紙−紙むけ試験方法−ワックスを用いる方法」に基づいて、測定した。また、耐摩耗性は、「JIS P 8136 板紙の耐摩耗強さ試験方法」に基づいて、測定した。耐摩耗性については、摩耗回数を60回とし、この際に、板紙表面から脱落した繊維の質量を測定した。0.01g未満の場合を◎、0.01g以上0.05g未満の場合を○、0.05g以上0.1g未満の場合を△、0.1g以上の場合を×と判定した。
【0025】
【表1】

【0026】
〔試験例7、8〕
坪量210g/m2の未晒しK2ライナー(基紙表面に、薬液が転写されていない。)について、ワックスピック(A)及び耐摩耗性を試験した。試験に際しては、スプレッダーバー又はスプレッダーロールのいずれかを用いることとした。結果を、試験例7及び試験例8として、表1に示した。なお、ワックスピック(A)及び耐摩耗性の試験方法は、試験例1〜6と同様とした。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の紙は、例えば、印刷用紙や、包装用紙、段ボールなどとして利用されるライナー等の板紙などとして、適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙表面を加圧するカレンダーのトップロール表面に対して、薬液を付与し、この付与液を、前記加圧にともなって、前記トップロール表面から前記基紙表面に転写させる、ことを特徴とする紙の製造方法。
【請求項2】
薬液付与の対象となるロールの表面温度を、70〜90℃とした、請求項1記載の紙の製造方法。
【請求項3】
基紙表面を加圧するカレンダーのトップロール表面に対して、薬液を付与することによって、この付与液が、前記加圧にともなって、前記トップロール表面から前記基紙表面に転写された、ことを特徴とする紙。
【請求項4】
請求項3記載の紙を巻き取って得た原反ロールを、巻き直して紙ロールとするワインダ処理において、スプレッダーとして、ロール式のものを使用する、ことを特徴とする紙ロールの製造方法。

【公開番号】特開2006−104623(P2006−104623A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294521(P2004−294521)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】