説明

紙及び紙の製造方法

【課題】茶成分を配合した紙の製造において加熱乾燥時の変形、変色、歪みを抑制して、美観を備えた抗菌・消臭紙を提供する。
【解決手段】含水茶殻の搾汁液及び/又は茶殻粉砕物が配合された紙パルプスラリーを調製し、抄紙して水を除去する。また、茶由来のポリフェノールを含有し、含有する粒子の粒径が10μm以上500μm未満である水性液を調製し、この水性液を配合した紙パルプスラリーを抄紙し、水を除去する。得られる紙は、紙パルプと、ポリフェノールを含有する粒径が10μm以上500μm未満の粒子とを有する。また、紙は、紙パルプと、粒径が500μm未満の茶殻粉砕物とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性、抗菌性を有する紙及びその製造方法に関する。より詳しくは、茶成分の配合に伴う着色、変形、加熱変色を抑制しつつ、消臭性、抗菌性が好適に付与された紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康飲料指向の高まりによって茶系飲料の需要が伸び、含水茶系残渣の排出量が年々増加している。含水茶系残渣は、放置しておくと腐敗して含有成分の変質等が起こるため、適切な廃棄物処理が必要となる。一般的な有機性廃棄物の処理方法としては、乾燥、堆肥化、焼却、炭化等が挙げられるが、茶系残渣の含水量は極めて高いため、上記の何れの処理を行うにしても、処理装置の負担軽減や処理速度向上のために、予め茶系残渣を脱水する必要がある。脱水処理は、脱水後の廃棄物の再利用にとってはメリットがあるが、脱水廃液を排出可能な状態にするための適切な水処理が必要となり、廃液処理に大型のプラントを建設しなければならず、多額の費用が必要になるというデメリットがある。
【0003】
このため、茶殻の処理、再利用については様々な方法が考えられているにも拘わらず、上記のようなデメリットへの対応がリサイクルの進行を阻んでいる。
【0004】
その一方で、茶葉に含まれるポリフェノール等の有効成分による抗菌、消臭機能を紙に付与することが試みられている。これは、大別すると、1)茶葉又は茶殻を利用する、2)茶成分エキス又はこれを含有する溶液等を利用する、3)製茶工程で排出されるその他の廃棄物を利用する、の3種の方法に分類することができる。
【0005】
例えば、下記特許文献1〜3では、上記1)の方法が提案されており、特許文献1では、紙パルプスラリーに茶葉又は茶粕を添加して模様紙を製紙することが開示され、特許文献2では、抄紙機のワイヤーパート手前の段階で茶葉を混合して紙繊維中に茶葉が散在した紙を得ることが開示され、特許文献3では、破片状に調製した茶殻と繊維状紙パルプとを絡み合わせて抄紙した茶殻配合紙が開示されている。
【0006】
上記2)の方法が提案されるものとしては、下記特許文献4〜8があり、特許文献4では、植物エキスを紙又は合成紙に塗布又は含浸することが開示され、植物エキスとして緑茶エキスが記載されている。特許文献5では、天然パルプ主体の紙の表面に茶抽出物を塗工した食品用抗菌紙が開示され、特許文献6では、水酸基が2つ以上置換したベンゼン核を有する化合物を水解紙製造のウェブ形成時又は後に配合することが開示され、この化合物としてカテキン系化合物が例示されている。特許文献7,8では、カテキン類を紙に含有させて、鮮度保持や抗菌・消臭等の用途に利用することが開示されている。
【0007】
上記3)の方法が提案されるものとしては、下記特許文献9があり、緑茶の製造工程で揉機に付着した皮状物質を原料パルプに混合して抄紙することが開示される。
【特許文献1】特開平6−235198号公報
【特許文献2】特開2002−242095号公報
【特許文献3】特開2004−143640号公報
【特許文献4】特開2005−119967号公報
【特許文献5】特開2000−110099号公報
【特許文献6】特開2001−3297号公報
【特許文献7】特開2001−32195号公報
【特許文献8】特開2002−17828号公報
【特許文献9】特開平9−122216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、茶葉又は茶殻をパルプに配合する上記1)の方法の場合、茶葉又は茶殻の寸法が大きいと、紙に凹凸が生じたりして外観が悪くなるので、粉砕工程が必要となるが、このための設備に費用がかかる。また、抄紙後の乾燥において茶葉又は茶殻とパルプとで保持する含水率に差が生じるため、乾燥度がばらついて紙の変形や歪みを生じ易く、乾燥効率が悪いために乾燥装置に負担がかかる。しかも、乾燥が進むにつれてパルプと茶葉又は茶殻との間に隙間が生じて紙からパルプ繊維、茶葉又は茶殻が脱離し易くなる。更に、紙中の茶成分の分布も均一になり難い。
【0009】
また、茶成分エキス又はこれを含有する溶液等を紙に塗布する上記2)の方法の場合、乾燥時の加熱による茶成分の変色によって商品価値を損なう。変色を防止するために加熱温度を低下させると、乾燥に長時間を要し、紙の変形や生産効率の低下が問題となる。
【0010】
製茶工程で排出されるその他の廃棄物を利用する上記3)の方法の場合、上記1)の方法と同様に、廃棄物の粉砕工程が必要になる。特許文献9の方法について説明すると、揉機に付着する皮状の物質は、茶葉屑等の塊であり、紙パルプに添加するに適した寸法に粉砕したりして液体に分散する必要があり、上記1)又は2)の方法と同様な形態の工程を経ることから、上記の問題が同様に生じる。
【0011】
上記のように、茶抽出成分や茶殻そのものを製紙に利用する際には、抄紙の加熱乾燥に関連した変形・変色やコスト、製造効率等の様々な問題があり、外観を損なわずに茶成分の抗菌・消臭機能を付与した紙が効率よく得られる紙の製造方法は知られていなかった。
【0012】
本発明は、茶の有効成分を紙に配合して着色、変形、加熱変色を抑制し、好適な抗菌性、消臭性を発揮する紙を提供することを課題とする。
【0013】
又、本発明は、茶の有効成分による好適な抗菌性、消臭性を発揮し、美観に優れた紙を、低コストで効率よく提供可能な紙の製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
又、本発明は、抗菌性、消臭性を有し、美観に優れた紙を提供するに当たり、茶系飲料の製造残渣の有効利用に貢献し、地球環境に与える負荷を低減可能な紙の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明では、紙の美観を損なわずに紙に茶の有効成分を配合する手法を開発し、茶の有効成分による抗菌性、消臭機能を十分に活用できる紙の提供を実現した。
【0016】
本発明の一態様によれば、紙の製造方法は、含水茶殻の搾汁液及び/又は茶殻粉砕物が配合された紙パルプスラリーを調製し、該紙パルプスラリーを抄紙し、抄紙した含水紙から水を除去することを要旨とする。
【0017】
又、本発明の他の態様によれば、紙の製造方法は、茶由来のポリフェノールを含有し、含有する粒子の粒径が10μm以上500μm未満である水性液を調製し、前記水性液を配合した紙パルプスラリーを調製し、該紙パルプスラリーを抄紙し、抄紙した含水紙から水を除去することを要旨とする。
【0018】
更に、本発明の一態様によれば、紙は、紙パルプと、ポリフェノールを含有する粒径が10μm以上500μm未満の粒子とを有することを要旨とする。
【0019】
又、本発明の他の態様によれば、紙は、紙パルプと、粒径が500μm未満の茶殻粉砕物とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、色、形状等の美観を損なうことなく、茶の機能成分が紙に配合され、抗菌性、消臭性を有する紙を効率よく製造できる製造方法が確立され、好適な抗菌・消臭性を発揮する紙が安価に提供される。抗菌・消臭性を有する紙の提供に際し、茶系飲料の製造残渣の有効利用が進み、地球環境に与える負荷の低減に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
緑茶に含まれるポリフェノールは、抗菌性及び消臭性を有し、カテキンを配合して製品を製造することによって製品に抗菌性及び消臭性を付与することができる。消臭性成分については、カテキンだけでなく、それ以外のポリフェノール類にも存在し、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶類やコーヒー等にも消臭性成分は含まれる。
【0022】
抗菌性及び消臭性を紙に付与するために上述のような緑茶の有効成分エキスを紙パルプに配合すると、抄紙後の乾燥において加熱による変色が起こる。しかし、緑茶葉から茶液を抽出した後の残渣である含水茶殻から回収される搾汁を用いた場合には、加熱乾燥時の変色を抑制しつつ、茶成分による抗菌性、消臭性等を紙に付与することができ、紅茶、ウーロン茶等の茶類やコーヒー等の抽出残渣の搾汁でも好適に消臭性を紙に付与できる。含水茶殻の搾汁液は、茶葉から茶液(第1煎)を熱水抽出した残渣の残留液であるので、水溶性成分量は茶液より少なく、圧搾によって小さい茶葉粒子が茶葉から放散し、分散粒子を構成している。抽出した茶液を用いて抄紙した場合の紙が最も加熱変色し易いことから、機能成分であるポリフェノール水に溶解又は極小粒子状に分散するポリフェノール以外の成分も加熱変色に関係することが考えられ、溶解している状態や極小粒子の場合では、活性の高さや表面積の比率が高いことにより反応が進行し易いために変色が顕著になり、逆に粒子がある程度大きい場合は粒子内部で保護されることにより変色し難くなることなどが考えられる。又、茶殻(抽出後の茶葉)を配合しても、加熱変色を抑制しつつ抗菌性及び消臭性を付与することができるが、この場合、茶殻と紙パルプ繊維との乾燥速度の違いや乾燥による茶殻の収縮等によって紙パルプ繊維から茶殻が容易に脱離・剥離する。これを防止するためには、茶殻の乾燥が促進され、且つ、茶殻の収縮が問題にならない程度に茶殻を粉砕して粒子寸法を小さくする必要がある。このようなことに留意すれば、茶飲料製造後の含水茶殻を利用して、加熱乾燥時の変色を抑制しつつ抗菌・消臭紙を好適に製造することができる。以下に詳細に説明する。尚、本願において、「茶葉」は、上述の茶の有効成分を含む茶樹組織を広く意味し、茎茶、棒茶等を含み得るものであって、「葉」に限定されるものではない。
【0023】
緑茶、紅茶、ウーロン茶等の狭義の茶(茶樹を原料とする茶)及びこれらを含む混合茶等の飲料成分には、ポリフェノールや他の消臭・抗菌等の機能性成分を含んでいる。本発明において用いる茶成分は、これらの飲料に含まれているが、本発明では、茶葉からこれらの飲料を製造する際の残渣である含水茶殻に含まれるものを使用する。含水茶殻も、ポリフェノール類等の機能性成分を含んでおり、これを利用して紙に抗菌・消臭機能を付与可能である。含水茶殻は、スクリュープレス機、フィルタープレス機、攪拌脱水機、遠心脱水機等を用いた圧搾・分離による含有水分の脱液によって搾汁され、ポリフェノール類や消臭機能成分を含有する粒径が10μm以上の粒子が分散した搾汁液が得られる。この搾汁液を、そのまま製紙に用いることができ、必要に応じて希釈又は濃縮して利用してもよい。圧搾の際の加圧圧力は0.1MPa以上において有効であり、5MPaを越えると装置の負荷が問題となるので、0.1〜5MPa程度が好ましい。また、搾汁液を一旦乾燥固形物に調製してもよく、その場合、固形物は均一な分散水に再調製して利用することが望ましい。又、荒茶製造工程で生じるライン洗浄水等のポリフェノールを含む廃液も、粒径が10μm以上であれば、搾汁液に添加して用いてもよい。
【0024】
搾汁液を得た後の茶殻にも上記機能成分は残留しているので、抗菌・消臭紙の製造に利用できる。茶殻の有機繊維質は、ポリフェノール等の機能成分を保護する役割をする。茶殻を製紙に用いる場合は、茶殻を粉砕して粒径が500μm未満の粉砕物を用いる。茶殻の粒径が500μm以上であると、抄紙後の紙のパルプ繊維から茶殻が剥離・脱離し易くなるので、粉砕後に篩い分けにより10〜500μmの粉砕物を選別して使用すると、紙の外観(表面)に視覚的影響を与えずに茶成分による機能を付与でき、熱変色も抑制できる。茶殻の粉砕は、茶殻を乾燥して行うと容易であるが、含水状態で切断したり水中で茶殻をミル等を用いて磨砕してもよい。また、搾汁液及び茶殻粉砕物の混合物を用いてもよい。
【0025】
搾汁液及び/又は茶殻粉砕物は、抄紙工程以前の紙パルプに配合し、抄紙脱水及び加熱乾燥を経ることにより紙が得られる。
【0026】
紙パルプの原料としては、木チップ、古紙等から得られる化学パルプ、再生パルプ及び機械パルプが好適に用いられる。具体的には、木チップを原料とした場合は、木チップを蒸解し、脱リグニン処理を経て洗浄及び脱水を繰り返し行うことによって得られる無漂白パルプ、及び、この無漂白パルプを更に漂白・洗浄した漂白パルプの何れも本発明において使用でき、無漂白パルプ及び漂白パルプは、木チップをリファイナーによって磨り潰したものを用いて調製してもよい。古紙を原料とした場合は、パルパーを用いて古紙を解繊した後に洗浄して得られる無漂白パルプ、及び、この無漂白パルプを更に漂白・洗浄した漂白パルプの何れも使用可能である。このような化学パルプ、再生パルプ及び機械パルプは、単独で使用しても、適宜混合して用いてもよい。
【0027】
上述のような紙パルプを用いて、適量の水にパルプ繊維が分散し、前述の搾汁液及び/又は茶殻粉砕物が配合されたスラリーを調製し、得られたパルプスラリーを抄紙する。搾汁液及び/又は茶殻粉砕物の配合は、スラリー調製の前後何れでもよく、最終水分量が抄紙に適した量になるようにスラリー調製に使用する水量を適宜調整する。搾汁液の濃度及び茶殻粉砕物の添加量は、最終紙製品に付与される抗菌・消臭機能を勘案して適宜調整する。抄紙条件が適切であれば、スラリー中のポリフェノール類のほぼ全量を抄紙した紙に導入できるので、使用する紙パルプと配合する搾汁液及び/又は茶殻粉砕物との割合によって最終紙製品中のポリフェノール含有量を調節できる。良好な抗菌・消臭機能を付与するためには、紙パルプに対する総ポリフェノールの割合(乾燥質量換算)が約0.10〜1.50質量%となることが好ましく、0.16質量%以上において各種消臭性での有効性が明らかであり、0.40質量%以上では抗菌機能の向上が顕著になり、約0.78質量%以上で優れた抗菌・消臭機能が発揮される。1.50質量%を超えると、コスト増加が問題となり、加熱変色が進行し易くなる。スラリー調製の際に、一般的な製紙で用いられる添加剤等を配合してもよい。茶殻粉砕物を利用する場合、得られる紙の強度などを考慮すると、紙パルプの乾燥質量に対する茶殻粉砕物の乾燥質量の割合が25%以下であることが好ましく、15%以下であると更に好ましい。
【0028】
スラリー状の紙パルプは、目開きが500μm未満の網上に流し込みながら所望の厚さのフェルト状に成形することによって抄紙する。抄紙時の網の目開きが500μm以上であると、搾汁液の茶成分及び茶殻粉砕物が紙パルプ繊維と絡まずに網を通して流出するので、紙パルプに茶成分の機能が十分に付与されず、製品の歩留まりが低下する。抄紙したパルプ成形物、つまり含水紙は、プレス機等を用いて脱水する。この際、脱水物の含水率が40〜60質量%程度になるように脱水圧力を調節することが好ましい。含水率を40質量%未満に減少させるような脱水は、脱水機の機械的負担が過大になり、装置寿命が短くなる。脱水後の含水率が60質量%を超えるものは、この後の乾燥工程での装置負担及びエネルギー消費が大きくなる。
【0029】
脱水後の含水紙は、加熱乾燥により残留水分を十分に除去することにより、抗菌・消臭機能を有する紙が得られる。加熱乾燥時の温度は100〜160℃が好ましい。100℃未満では、乾燥が遅いため、未乾燥製品の混入が起こり易くなる。160℃を超える温度では紙パルプの変質が生じ、変色も激しくなる。乾燥中の紙の歪み等を防止する点では100〜130℃程度での乾燥が望ましく、空気乾燥との併用も好ましい。
【0030】
上述のようにして得られる紙は、抗菌・消臭機能を有し、悪臭物質の臭気放散を抑制する性質も備える。従って、雰囲気中の悪臭を吸収する性質を利用して壁紙や紙製展示製品として提供したり、又、悪臭放出抑制機能を利用して、悪臭発生物を処理するために利用するトイレットペーパーやティッシュペーパー、紙おむつ等の介護・生理用品、紙ナプキン、紙雑巾等の清掃用品として提供すると有用である。
【0031】
尚、コーヒー飲料製造で排出される含水コーヒー残渣の搾汁液を用いても、消臭性を備えた紙の製造が可能である。
【0032】
以下、実施例を参照して本発明を詳述する。本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0033】
<茶成分液の調製>
茶成分液として、下記のカテキン液A〜D、緑茶液A〜D及び搾汁液A〜Cを調製した。尚、以下の調製において、総ポリフェノール含有量は、酒石酸鉄と反応させて比色定量法に従って測定し、カテキン類の含有量は、高速液体クロマトグラフによって測定した。
【0034】
(カテキン液A〜D)
緑茶葉に熱水を加えて緑茶飲料を抽出し、常法に従って緑茶飲料に含まれる成分を溶媒抽出及びカラム分離により精製して、カテキン乾燥物(総ポリフェノール含有量:38質量%、EGC:10質量%、EGCg:14質量%、EC:2質量%、ECg:4質量%、エピ型カテキン類総含有量:30質量%)を得た。
【0035】
このカテキン乾燥物を水に添加して、カテキン液A〜D[A(固形分:0.05質量%、総ポリフェノール:0.02質量%)、B(固形分:0.1質量%、総ポリフェノール:0.04質量%)、C(固形分:0.2質量%、総ポリフェノール:0.08質量%)、D(固形分:1.0質量%、総ポリフェノール:0.38質量%)]を調製した。
【0036】
尚、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定したカテキン液中の分散粒子の平均粒径は2.0μm、粒度分布は0.2〜6.7μmであった。
【0037】
(緑茶液A〜D)
緑茶葉に熱水を加えて(緑茶葉:総量の2.3質量%)緑茶成分を熱水に抽出し、目開き425μmの篩いに通して緑茶液A(固形分:2.3質量%、総ポリフェノール:0.37質量%)を得た。この緑茶液A中の分散粒子の平均粒径は50.2μm、粒度分布は8.4〜425μmであり、この乾燥固形物は、総ポリフェノール含有量:16質量%、EGC:5質量%、EGCg:7質量%、EC:1.1質量%、ECg:1.6質量%、エピ型カテキン類総含有量:14.7質量%であった。
【0038】
この緑茶液Aの一部を用いて、水を加えて希釈することにより緑茶液B〜D[B(固形分:1.3質量%、総ポリフェノール:0.21質量%)、C(固形分:0.6質量%、総ポリフェノール:0.10質量%)、D(固形分:0.3質量%、総ポリフェノール:0.05質量%)]を調製した。
【0039】
尚、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した緑茶液中の分散粒子の平均粒径は50.2μm、粒度分布は8.4〜425μmであった。
【0040】
(搾汁液A〜C)
上記緑茶液の調製における緑茶成分抽出後の残渣である含水茶殻(含水率85質量%)をフィルタープレス機で圧搾して茶殻を脱水し、圧搾液を目開き425μmの篩いに通して搾汁液A(固形分:2.3質量%、総ポリフェノール:0.41質量%、EGC:0.18質量%、EGCg:0.14質量%、EC:0.04質量%、ECg:0.02質量%、エピ型カテキン類総含有量:0.38質量%)を得た。搾汁液A中の分散粒子の平均粒径は52.5μm、粒度分布は10.1〜425μmであった。
【0041】
この搾汁液Aの一部を用いて、水を加えて希釈することにより搾汁液B、C[B(固形分:1.2質量%、総ポリフェノール:0.21質量%)、C(固形分:0.60質量%、総ポリフェノール:0.10質量%)]を調製した。
【0042】
尚、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した搾汁液中の分散粒子の平均粒径は52.5μm、粒度分布は10.1〜425μmであった。
【0043】
<茶成分液の色彩評価>
上記で調製した各茶成分液について、分光式色彩計(日本電色工業(株)社製)を用いて茶成分液のLab値を測定し、更に、150℃に加熱して30分及び120分経過した時の茶成分液のLab値を測定した。加熱による茶成分液の変色を評価するために、測定した加熱前後のLab値を用いて、茶成分液の色差ΔEを下記式1に従って算出した。結果を表1に示す。
【0044】
ΔE=[(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2 (式1)
表1によれば、茶成分液の種類に関わらず、茶成分濃度が増加するに従って加熱による色差ΔEが増大し、変色が激しくなることは共通である。しかし、総ポリフェノール量がほぼ同じであるカテキン液、緑茶液及び搾汁液を比較すると、色差は茶成分液の種類によって異なり、搾汁液の色差ΔEは、カテキン液及び緑茶液よりもかなり小さいことが明らかである。又、熱による色差変化についても、カテキン液及び緑茶液より、搾汁液の方が少なく色合いが安定している。従って、茶成分を配合した紙の加熱による変色を防止するには、茶殻の圧搾液を用いることが好適であることが分かる。この理由として、溶解又は極小粒子状に分散するポリフェノール以外の親水性成分が熱変色に関係する、あるいは、粒子が小さいことにより反応が進行し易くなるために熱変色が強くなるなどが考えられ、粒度分布が10μm以上であるものを用いるのが適している。
【0045】
(表1)
加熱による変化
固形分量 総ポリフェノール 加熱による色差ΔE
(質量%) (質量%) 30分後 120分後
カテキン液A 0.05 0.02 1.38 1.86
カテキン液B 0.10 0.04 1.83 2.40
カテキン液C 0.20 0.08 1.86 3.21
カテキン液D 1.00 0.38 3.25 4.23
緑茶液A 2.30 0.37 4.53 5.01
緑茶液B 1.30 0.21 3.82 4.89
緑茶液C 0.60 0.10 2.85 4.52
緑茶液D 0.30 0.05 2.79 4.71
搾汁液A 2.30 0.41 1.53 2.58
搾汁液B 1.20 0.21 1.33 2.02
搾汁液C 0.60 0.10 1.02 1.52
【0046】
<乾燥茶殻の調製>
上記搾汁液の調製において得られる圧搾後の茶殻を105℃で乾燥して乾燥茶殻(総ポリフェノール:8.6質量%、EGC:2.1質量%、EGCg:1.3質量%、EC:0.6質量%、ECg:0.8質量%、エピ型カテキン類総含有量:4.8質量%)を得た。
【0047】
<紙スラリーの調製>
無地のA4サイズ古紙25gを蒸留水1000mlに浸漬し、ジューサーミキサー(商品名:JC−L80MR、(株)東芝社製)で3分間攪拌して紙スラリーを調製した。
【0048】
<水分率の比較>
上記紙スラリーに蒸留水50ml及び上記乾燥茶殻2gを投入して2時間静置した後、目開き100μmの網上に流し込んで上から2kg/cmの圧力を加えて脱水した。この脱水物をピンセットで茶殻と紙パルプとにより分けて、各々の水分率を赤外線水分計(商品名:FD−620、(株)ケット科学研究所製)によって測定したところ、紙パルプの水分率は45.7質量%、茶殻の水分率は55.5質量%であった。
【0049】
上記のように、紙パルプと茶殻とで水分率に差があるため、上記脱水物を乾燥すると、水分率の低い紙パルプの方が茶殻より先に乾燥する。従って、完全に乾燥する際には、紙パルプが過乾燥状態になって品質低下を起こし、茶殻が紙パルプから剥離し易くなる。逆に、紙パルプの品質低下を避けると、茶殻が未乾燥状態となる。紙パルプの品質が低下することなく好適に乾燥できるためには、茶殻の乾燥が促進されるように紙スラリーに投入する茶殻の粒径を調整する必要がある。
【0050】
<茶殻粉砕物の調製>
上記乾燥茶殻を粉砕して篩い分けし、茶殻粉砕物A〜D(A:粒径1.6mm以上、B:粒径1mm以上1.6mm未満、C:粒径500μm以上1mm未満、D:粒径500μm未満)を得た。
【0051】
<茶殻入り紙の調製>
上記茶殻粉砕物A〜Dの各々について、茶殻粉砕物2g及び蒸留水50mlを上記紙スラリー1000mlに投入し、ゆっくりと攪拌した後2時間静置して茶殻入りスラリーを得た。これを15cmx10cmの網(目開き100μm)上に流し込んで上から0.67kg/cmの圧力を加えて脱水した。この脱水物を105℃で3時間乾燥して茶殻入り紙A〜Dを得た。尚、乾燥後の茶殻入り紙の水分率は何れも5質量%以下であった。
【0052】
得られた茶殻入り紙について、下記に従って表面観察及び成分分散性の評価を行った。
【0053】
<搾汁液入り紙の調製>
乾燥固形物量2gに相当する量の上記搾汁液Aを上記紙スラリー1000mlに投入して蒸留水50ml加え、ゆっくりと攪拌した後2時間静置して搾汁液入りスラリーを得た。これを15cmx10cmの網(目開き100μm)上に流し込んで上から0.67kg/cmの圧力を加えて脱水した。この脱水物を105℃で3時間乾燥して搾汁液成分入り紙を得た。この紙の水分率は5質量%以下であった。
【0054】
得られた搾汁液成分入り紙について、下記に従って表面観察及び成分分散性の評価を行った。
【0055】
<表面観察>
茶殻入り紙A〜D及び搾汁液入り紙の各々を2cmx4cmに切断して、直径5cmの円柱の側面に沿って張り付け、紙の表面状態を目視及び実態顕微鏡(商品名:BS−D8000 Ver.6.14、ソニック(株)社製)によって観察した。目視において茶殻の少なくとも一部が紙面から脱離しているものを「C」、目視で茶殻の脱離は確認されないが、倍率50〜100倍の顕微鏡観察において茶殻の少なくとも一部が紙面から脱離している部分が10箇所以上確認されるものを「B」、目視で茶殻の脱離は確認されず、倍率50〜100倍の顕微鏡観察において確認される茶殻の少なくとも一部が紙面から脱離している部分が10箇所未満であるものを「A」と評価した。結果を表2に示す。
【0056】
<成分分散性>
茶殻入り紙A〜D及び搾汁液入り紙の各々を5cmx5cmに切断して、鉄イオンを含む水溶液を紙表面に噴霧し、ポリフェノールと鉄イオンとの反応による黒色変化を利用してポリフェノールを含む部分の分布を確認した。観察結果から、全体が均一に黒色変化したものを良好、黒色変化が部分的で不均一なものを不良、黒色変化が見られないものを未反応とした。
【0057】
表2の結果は、茶殻の粒径が500μm未満の茶殻入り紙Dにおいて、茶殻の脱離が少なく、ポリフェノールの分散性も良好であることを示している。又、茶殻入り紙A〜Cを顕微鏡観察した際に、茶殻と紙パルプ繊維との間に空隙が確認された。これは、含水状態の茶殻が乾燥する時の体積減少によるものと考えられる。従って、茶殻の粒径が大きいと、体積減少による空隙が大きくなり、茶殻の剥離が起こり易くなると考えられる。
【0058】
表1及び表2の結果を総合すると、紙パルプスラリーに添加する茶成分液としての適性を判断する際に、粒度分布が10μm以上500μm未満のものを選択することが有効であると考えられる。
【0059】
(表2)
茶殻による影響
茶殻入り紙 搾汁液成分
A B C D 入り紙
表面観察 C C B A A
(脱離箇所) (15箇所)(8箇所)(0箇所)
成分分散性 不良 不良 不良 良好 良好
【0060】
<搾汁液入り紙の調製>
表3の配合割合に従って、上記搾汁液A及び蒸留水を上記紙スラリー1000mlに投入して攪拌した後2時間静置して搾汁液入りスラリーを得た。これを100ml分取し、15cm×10cmの網(目開き100μm)上に流し込んで上から0.67kg/cmの圧力を加えて水分率が約50%になるまで脱水した。この脱水物を105℃で2時間乾燥して紙A0及び搾汁液入り紙A1〜A5を得た。紙の水分率は何れも5質量%以下であった。尚、表3中のポリフェノール配合率(%)は、混合スラリー中の総ポリフェノール量を示す。
【0061】
(表3)
抄紙用スラリーの配合割合
搾汁液入り紙
A0 A1 A2 A3 A4 A5
紙スラリー(ml) 1000 1000 1000 1000 1000 1000
搾汁液A(ml) 0 10 25 50 75 100
蒸留水(ml) 100 90 75 50 25 0
ポリフェノール
配合率(%) 0 0.04 0.10 0.21 0.31 0.41
乾物質量当りの
ポリフェノール(%) 0 0.16 0.40 0.78 1.15 1.50
【0062】
<搾汁液入り紙の評価>
上記紙A0及び搾汁液入り紙A1〜A5について、下記に従って悪臭放出抑制試験、消臭試験及び抗菌試験を行って、紙の消臭性、悪臭放出抑制及び抗菌性を評価した。結果を表4に示す。
【0063】
(消臭試験)
紙A0〜A5を各々3cm×3cmの試料に切断し、悪臭物質としてアンモニア(初期濃度:140ppm)及びホルムアルデヒド(初期濃度:30ppm)を含有する空気2Lと共にテドラーバックに詰め、常温で3時間静置した後、ガステック社製ガス検知管を用いてバック内の空気に存在する各悪臭物質の残存濃度を測定し、各悪臭物質における初期濃度及び残存濃度から、下記計算式に従って消臭率を算出した。結果を表4に示す。
【0064】
消臭率(%)=100×(初期濃度−残存濃度)/初期濃度
搾汁液を配合しない紙A0における消臭率は、アンモニアでは19%、ホルムアルデヒドでは35%であったことから、これらを消臭性の基準として、アンモニアについては29%以上(基準+10%以上)を良好、19%超29%未満を有効、ホルムアルデヒドについては45%以上(基準+10%以上)を良好、35%超45%未満を有効と評価した。
【0065】
(悪臭放出抑制試験)
試料が同重量になるように、紙A0〜A5を各々約4cm角の試料に切断し、アンモニア希釈水溶液(和光純薬(株)社製25%アンモニア水を蒸留水で2500倍に希釈したもの)0.5mlを浸透させた後に空気3Lと共にテドラーバッグに封入して常温で1時間静置した。この後、テドラーバック内の空気中のアンモニアガス濃度Aaをガステック社製アンモニアガス検知管で測定した。
【0066】
別途、上記アンモニア希釈水溶液0.5mlを空気3Lと共にテドラーバックに封入して常温で1時間放置した後、テドラーバック内の空気中のアンモニアガス濃度Cを測定した。この測定値は20ppmであった。
【0067】
測定されたアンモニアガス濃度Aa,Cから、下記計算式に従って悪臭放出抑制率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0068】
悪臭放出抑制率=100×(C−Aa)/C
上記悪臭放出抑制率は、搾汁液を配合しない紙A0における悪臭放出抑制率が63%であることを考慮して、10%以上の改善が見られる74%以上のものを良好、65%超74%未満のものを有効と評価した。
【0069】
(抗菌試験)
紙A0〜A5を、5cm×5cmの試料に切断し、1/500普通ブイヨンに浸漬した後に取り出し、抗菌製品技術協議会が定めるフィルム密着法に従って24時間経過後の試料上の菌液(MRSA:メスチリン耐性黄色ブドウ球菌)の生菌数(CFU/枚)を測定した。
【0070】
また、紙A0〜A5を、3cm×3cmの試料に切断し、菌液(MRSA)の混合平板培地上に密着貼付して35℃で24時間培養した後、試料周辺の培地に生じる透明な生育阻止体(ハロー)の有無を調べた。
【0071】
上記試験において、24時間後の生菌数が3.9×10未満であり、ハローが確認されたものをA、24時間後の生菌数が3.9×10未満であり、ハローが確認されなかったものをB、24時間後の生菌数が3.9×10以上であり、ハローが確認されなかったものをCと判定した。結果を表4に示す。
【0072】
表4によれば、含水茶殻の圧搾液は、消臭性や抗菌性等を有する紙の製造に有用であることが明らかであり、配合されるポリフェノール量が増加するに従って付与される機能も増大する。含水茶殻の圧搾液は加熱による色差増加が少ないので、紙の着色を抑制しつつ好適に茶成分の機能を付与することができる。圧搾液中の茶成分は、ほぼ全量が製紙・乾燥後の紙に移行し、得られる紙中の総ポリフェノールの割合は、紙A4において約1.15質量%、紙A5において約1.50質量%である。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水茶殻の搾汁液及び/又は茶殻粉砕物が配合された紙パルプスラリーを調製し、該紙パルプスラリーを抄紙し、抄紙した含水紙から水を除去することを特徴とする紙の製造方法。
【請求項2】
前記含水茶殻は、水を用いて原料茶葉から飲料茶を抽出した抽出残渣であり、前記茶殻粉砕物は、前記含水茶殻から調製する粒径500μm未満の粒子であり、前記搾汁液及び前記茶殻粉砕物は、ポリフェノールを含有する請求項1記載の紙の製造方法。
【請求項3】
前記原料茶葉は緑茶葉を含み、前記ポリフェノールはカテキンを含む請求項2記載の紙の製造方法。
【請求項4】
茶由来のポリフェノールを含有し、含有する粒子の粒径が10μm以上500μm未満である水性液を調製し、前記水性液を配合した紙パルプスラリーを調製し、該紙パルプスラリーを抄紙し、抄紙した含水紙から水を除去することを特徴とする紙の製造方法。
【請求項5】
前記茶由来のポリフェノールは、緑茶由来ポリフェノールであり、カテキンを含む請求項4記載の紙の製造方法。
【請求項6】
前記紙パルプスラリーは、紙パルプの乾燥質量に対する総ポリフェノール量が0.10〜1.50質量%となる割合のポリフェノールを含有する請求項1〜5の何れかに記載の紙の製造方法。
【請求項7】
前記含水紙は、加熱乾燥によって水を除去する請求項1〜6の何れかに記載の紙の製造方法。
【請求項8】
前記加熱乾燥における加熱温度は、100〜160℃である請求項7記載の紙の製造方法。
【請求項9】
紙パルプと、ポリフェノールを含有する粒径が10μm以上500μm未満の粒子とを有することを特徴とする紙。
【請求項10】
紙パルプと、粒径が500μm未満の茶殻粉砕物とを有することを特徴とする紙。
【請求項11】
前記茶殻粉砕物はポリフェノールを含有する請求項10記載の紙。
【請求項12】
前記ポリフェノールは、前記紙パルプの乾燥質量に対して総ポリフェノール量が0.10〜1.50質量%となる割合で含有される請求項11記載の紙。
【請求項13】
前記ポリフェノールはカテキンを含み、抗菌性及び消臭性を有する請求項9、11及び12の何れかに記載の紙。

【公開番号】特開2008−106403(P2008−106403A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291739(P2006−291739)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】