説明

紙用塗料、紙製品、紙製品の製造方法

【課題】紙製品の耐水性を向上できる紙用塗料、耐水性に優れる紙製品、紙製包装容器、および紙製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る紙用塗料は、流動パラフィン、ショ糖脂肪酸エステル、および水溶性樹脂を含有し、紙の表面に塗布される。ショ糖脂肪酸エステルは、6以下のHLB値を有することが好ましく、流動パラフィンの固形分含有量は、水溶性樹脂の固形分含有量に対し、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙用塗料、紙製品、および紙製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蟹やエビなどの甲殻類は、冷凍焼けと称される変色を抑制するため、甲羅などを水で充分に濡らした後に冷凍されることが通例である。このため、甲殻類を冷凍するための容器には、充分な耐水性が要求されることから、従来、発泡スチロール製容器が使用されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、発泡スチロール製容器は、折りたたんで搬送することができず、搬送コストが嵩み、また、プラスチックゴミとして廃棄する必要があるため、廃棄コストや再利用のコストも嵩むという問題を有する。また、容器に何らかの情報(たとえば、蟹やエビの内容物の図柄)を表示しようとする場合、発泡スチロールの表面に鮮明な印刷を施すことが技術的に困難であるため、発泡スチロール製容器の内容物を、鮮明な印刷が施された紙製容器(たとえば、店頭販売用の紙製容器)などへと移しかえる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−10179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような実情から、発泡スチロール製容器に代わる容器を、紙で構成することが望まれるが、紙製品は耐水性が低いという問題を有する。
【0006】
本発明は、紙製品の耐水性を向上できる紙用塗料、耐水性に優れる紙製品、紙製包装容器、および紙製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、塗料の成分として、流動パラフィンおよびショ糖脂肪酸エステルを併用することで、水溶性樹脂に充分に分散したエマルション状態の塗料が得られ、優れた耐水性を紙に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的に以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 流動パラフィン、ショ糖脂肪酸エステル、および水溶性樹脂を含有し、紙の表面に塗布される紙用塗料。
【0009】
(2) 前記ショ糖脂肪酸エステルは、6以下のHLB値を有する(1)記載の紙用塗料。
【0010】
(3) 前記流動パラフィンの固形分含有量は、前記水溶性樹脂の固形分含有量に対し、5質量%以上50質量%以下である(1)又は(2)記載の紙用塗料。
【0011】
(4) 前記紙用塗料の全質量に対し、5質量%以上50質量%以下の固形分含有量のシェラック樹脂又は酢酸ビニル樹脂をさらに含有する(1)から(3)いずれか記載の紙用塗料。
【0012】
(5) 前記紙用塗料の全質量に対し、2質量%以上15質量%以下の量の銀ゼオライトをさらに含有する(1)から(4)いずれか記載の紙用塗料。
【0013】
(6) 以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤をさらに含有する(5)記載の紙用塗料。
【化1】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【0014】
(7) 一般式(1)におけるm又はnは、4以上である(6)記載の紙用塗料。
【0015】
(8) (1)から(7)いずれか記載の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品。
【0016】
(9) 折り目が形成されている(8)記載の紙製品。
【0017】
(10) (8)又は(9)記載の紙製品で形成された紙製包装容器。
【0018】
(11) (9)記載の紙製品で形成され、前記折り目に沿って折り曲げられている紙製包装容器。
【0019】
(12) 食品の包装に用いられる(10)又は(11)記載の紙製包装容器。
【0020】
(13) 紙製品の製造方法であって、
(1)から(7)いずれか記載の紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、
前記紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を備える製造方法。
【0021】
(14) 紙用塗料が硬化した後の紙に対して折り目を形成する工程をさらに有する(13)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、塗料の成分として、流動パラフィンおよびショ糖脂肪酸エステルを併用することで、水溶性樹脂に充分に分散したエマルション状態の塗料が得られ、優れた耐水性を紙に付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これに本発明が限定されるものではない。
【0024】
本発明に係る紙用塗料は、流動パラフィン、ショ糖脂肪酸エステル、および水溶性樹脂を含有し、紙の表面に塗布される。耐水性および耐油性を有する流動パラフィンが、ショ糖脂肪酸エステルの作用により水溶性樹脂と充分に混合され、分散するため、本発明に係る紙用塗料は、紙に優れた耐水性および耐油性を付与することができる。
【0025】
水溶性樹脂は、塗料において従来使用されているポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、水溶性ワニスなどであってよい。これらの水溶性樹脂は、所定の粘性を有するため、塗料に粘性が付与され、例えば、印刷機の印刷用ロールに濡れやすくなる。これにより、紙の表面に塗料が均一に塗布されるので、紙に耐水性などを充分に付与できる。なお、水溶性樹脂の固形分含有量は、特に限定されないが、紙用塗料全体に対し3質量%〜50質量%程度であってよい。
【0026】
流動パラフィンは、耐水性および耐油性を紙製品に付与する。流動パラフィンの含有量は、特に限定されないが、過小であると、耐水性および耐油性を充分に付与することが困難であり、過大であると、塗料からなる膜を紙製品に形成するのが困難である。そこで、流動パラフィンの含有量の下限は、全樹脂、つまり水溶性樹脂、並びに、含有されている場合にはシェラック樹脂若しくは酢酸ビニル樹脂の固形分含有量に対し、1質量%であることが好ましく、より好ましくは5質量%、最も好ましくは10質量%である。流動パラフィンの固形分含有量の上限は、全樹脂の固形分含有量に対し、50質量%であることが好ましく、より好ましくは45質量%、最も好ましくは42質量%である。
【0027】
流動パラフィンとしては、特に限定されないが、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィンなどの1種以上であって、37.8℃における粘度が15〜88mm/Sのものが挙げられる。これにより、塗料に粘性が付与され、例えば、印刷機の印刷用ロールに濡れやすくなり、紙の表面に塗料が均一に塗布されるので、紙に耐水性などを充分に付与できる。
【0028】
ここで、流動パラフィンは水溶性樹脂との相溶性が極めて低く、水溶性樹脂に分散しにくい特性を有するため、水溶性樹脂と併用するためには、水溶性樹脂への分散性を向上させる必要がある。そこで、本発明に係る紙用塗料は、ショ糖脂肪酸エステルをさらに含有し、これにより流動パラフィンの水溶性樹脂への分散性が向上するため、紙に耐水性などを充分に付与できる。
【0029】
一般的な界面活性剤を流動パラフィンとともに混合する(通常、ホモジナイザを用いて約10000rpm以上の回転数での撹拌による)と、多量の泡が発生し、撹拌機器から外部への漏出が懸念されるため、消泡剤を併用することが必須である。しかし、ショ糖脂肪酸エステルは、流動パラフィンとともに混合されても発泡を高度に抑制するため、消泡剤の必要量を低減(消泡剤を使用しなくてもよい)でき、紙用塗料の製造コスト低減および安全性向上が期待できる。また、ショ糖脂肪酸エステル自体が安全性に優れるため、食品を包装する紙製包装容器を製造する場合などにおいて、特に有利である。
【0030】
ショ糖脂肪酸エステルの具体例としては、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステルなどが挙げられ、これらの1種単独又は2種以上を組み合わせて使用し得る。
【0031】
ショ糖脂肪酸エステルは、用いる流動パラフィンの特性によって異なるが、流動パラフィンの分散性をより向上できる点で、6以下のHLB値を有することが好ましい。このようなショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖中の2〜5の水酸基が脂肪酸でエステル化されたものなどが挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、用いるショ糖脂肪酸エステルおよび流動パラフィンの特性に応じて適宜設定されてよいが、流動パラフィンの固形分含有量に対して0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
手順の詳細は後述するが、上記の成分を含有する紙用塗料を紙に塗布し硬化することで、塗膜が紙表面に形成された紙製品を製造できる。かかる紙製品は耐水性に優れるため、紙製包装容器などの素材として有用であるところ、紙製品から包装容器を製造するためには、折り目(通常は複数)を形成する型抜きを行うのが一般的である。しかし、折り目を形成すると、塗膜に亀裂が生じ、耐水性などが低下しやすいという問題がある。
【0033】
そこで、本発明に係る紙用塗料は、紙用塗料の全質量に対し、5質量%以上50質量%以下の固形分含有量のシェラック樹脂又は酢酸ビニル樹脂をさらに含有することが好ましい。これにより、型抜きによる亀裂の形成が抑制されるため、耐水性などがより優れた紙製包装容器を製造することができる。シェラック樹脂又は酢酸ビニル樹脂の固形分含有量の下限は、紙用塗料の全質量に対し20質量%であることがより好ましく、上限は紙用塗料の全質量に対し45質量%であることがより好ましい。
【0034】
シェラック樹脂は、タイやインドに生息するラックカイガラムシが体内で生産する樹脂を精製することで得られるもので、その安全性はJECFA、FDA、EUなども認めており、日本では、1965年厚生省より食品に使用されるシェラックの取り扱いについての指針が示されるとともに、昭和55年度厚生省による食品添加物の安全性評価作業の「Ames試験」及び「哺乳動物培養細胞に対する異変原性試験」の双方においてマイナスであったとの結果が得られている。このように安全性が確立されていることから、従来頻繁に使用されている(日本シェラック工業社発行、ラックグレーズ類カタログ第1頁)。
【0035】
紙用塗料は、紙用塗料の全質量に対し2質量%以上15質量%以下の量の銀ゼオライトをさらに含有することが好ましい。これにより、乾燥時の紙製品の反りを抑制でき、また、紙に抗菌性を安全に付与できる。例えば、銀ゼオライトの一種である「ゼオミック」(シナネンゼオミック社製)が、米国食品医薬品局(FDA)に食品接触物質(Food Contact Substance Notification FCN000047)として認可され、全食品の包装樹脂に適応できるという実績がある。銀ゼオライトの含有量の下限は、紙用塗料の全質量に対し5質量%であることがより好ましく、上限は紙用塗料の全質量に対し10質量%であることがより好ましい。
【0036】
ただし、銀ゼオライトを用いると、銀イオンの触媒作用によって塗料が短時間でゲル化又は固化し、操作性が悪化することが懸念されるため、塗料を常時流動させたり、塗料を頻繁に製造し直したりする必要があり、製造コストが嵩む。そこで、紙用塗料は、一般式(1)で示される分散剤をさらに含有することが好ましい。
【化2】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【0037】
この分散剤の分子内のポリエチレングリコール構造と、銀ゼオライト中の銀イオンとで錯体が形成される。これにより、液体に分散された状態では、銀イオンが有する樹脂硬化作用が弱められる。しかも、プロピレングリコール基が親水基として作用し、銀ゼオライト自体の水分散性が向上する。よって、紙用塗料の寿命がより長期化するので、製造コストを低減できる。また、塗料を流動させる循環装置のような機構を設ける必要がないため、従来の印刷機を使用できる。
【0038】
また、インク等で印刷処理されていると、紙表面が疎水性になるため、水系塗料の紙表面への濡れ性が低下し、これにより水系塗料が紙表面に均一に塗布されず、均一な塗膜を形成するのが困難になることが懸念される。一方、疎水性表面への濡れ性のみを追求すると、銀ゼオライトの水系中での分散性が低下し、これにより均質な塗膜を形成するのが困難になることが懸念される。しかし、一般式(1)で示される分散剤は分子内にポリエチレングリコール構造及びアセチレングリコール構造を兼ね備えるので、ポリエチレングリコール構造によって、水と疎水性の紙表面との相溶性が向上するため、疎水性の紙表面への水系塗料の濡れ性を向上できる。また、アセチレングリコール構造によって、銀ゼオライトの水への分散性が向上する。これにより、紙表面が疎水性であっても、均一且つ均質な塗膜を形成できる。
【0039】
なお、一般式(1)におけるm又はnが小さすぎると、水と疎水性の紙表面との相溶性が充分に向上しないために、疎水性の紙表面への水系塗料の濡れ性を充分に向上できないことが懸念される。そこで、m又はnは4以上であることが好ましい。これにより、疎水性の紙表面への水系塗料の濡れ性を充分に向上でき、より均一な塗膜を形成できる。
【0040】
エタノール等の低沸点アルコールの添加量を変化させると、紙用塗料の粘性が増減する。よって、エタノールの添加量を適宜設定することで、所望の粘性を有する紙用塗料が製造され、紙に均一量の塗料を容易に印刷できる。また、エタノール等の低沸点アルコールは、塗布後に短い時間で乾燥するため、長時間の乾燥による紙製品の反り返り等を抑制できる。
【0041】
また、紙用塗料が塗布された紙製品に分散媒が残存していると、包装対象の特性(特に食品の味や香り)を損なうことが懸念される。しかし、エタノール等の低沸点アルコールによれば、速乾性を有し且つ人体への毒性がないので、紙製品への残存を抑制できるとともに、安全性を向上できる。
【0042】
なお、エタノール等の低沸点アルコールは、通常、シェラック樹脂の溶媒として用い、樹脂25〜50%溶液となるような添加量とすればよい。
【0043】
以上の成分などを含有する本発明に係る紙用塗料は、たとえば以下のような方法で製造できる。まず、流動パラフィンを水と混合し、この混合液にショ糖脂肪酸エステルを添加し混合する(通常、ホモジナイザを用いて約10000〜20000rpm以上の回転数での撹拌による)ことで、エマルションを得る。このエマルションを水溶性樹脂などの溶液と混合(従来公知の撹拌でよい)し、各成分を分散させることで、紙用塗料が製造される。
【0044】
本明細書で言う「紙用塗料」は、抗菌性が要求されるあらゆる用途、特に人体との直接的又は間接的な接触が予想される製品に適用できる。具体的には、ダンボールや厚紙に代表される包装用紙(特に食品)、建築関連の壁材、床材等が挙げられる。
【0045】
本発明は、以上の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品を包含する。ここで「塗布」は、紙の表面に抗菌効果が付与される限りにおいて、その方法は特に限定されない。例えば、含浸、印刷用ロール等による転写、スプレーによる散布等であってよい。また、「紙」としては、コートボール紙、和紙、不織布、ダンボール紙等が挙げられる。
【0046】
本発明に係る紙製品は、紙製包装容器などの素材として有用である。紙製包装容器などの素材として用いる場合、紙製品には、折り目が形成されていることが好ましい。これにより、折り目に沿って紙製品を折り曲げやすく、包装容器を容易に製造することができる。折り目の配置は、製造する包装容器の寸法に応じ適切に選択すればよい。なお、折り目の個数は、特に限定されず1または複数であってよく、折り目同士は連続していても、断続していてもよい。
【0047】
本発明に係る紙製品は、紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を備える製造方法によって製造される。
【0048】
紙用塗料の塗布は、従来公知の方法で行われてよく、たとえば印刷用ロールに接触された紙表面に、ロール表面に付着した紙用塗料を転写させればよい。この方法によれば、紙用塗料が無駄なく使用されるため、経済的であり、また平らな表面に紙用塗料を付着するので、ロールに接触された全表面に紙用塗料が転写される。よって、耐水性などをより向上できる。ここで、「平らな表面」とは、印刷用の凹凸の形成が行われていない表面を指す。また、「接触」の方式は、特に限定されないが、例えば、印刷用ロールに圧着されながら紙を通す方式であってよい。
【0049】
紙用塗料の硬化は、熱風乾燥、活性エネルギー線照射といった従来公知の種々の方法で行われてよい。このうち、活性エネルギー線(例えば、遠赤外線)照射は、熱による紙製品の損傷を抑制できる点で好ましい。
【0050】
なお、紙表面には、文字、模様、色彩を印字してもよい。印字内容としては、例えば、包装される内容物の情報が挙げられ、具体的には、包装される食品の絵柄、商品名、生産地、流通者等が挙げられる。印刷は、塗膜を被覆せずに塗膜の特性(特に抗菌性)を発揮できるよう、塗布の前に行われてもよいが、これに限られず、塗料の硬化の後に行われてもよい。いずれの態様においても、紙への印刷は、発泡スチロールへの印刷と異なり、容易に行うことができる。
【0051】
また、本発明は、以上の紙製品で形成された紙製包装容器を包含する。ここで「紙製包装容器」は、箱状、袋状等任意の形状であってよい。なお、紙製包装容器を分解(たとえば、折り曲げの一部又は全部を戻す)して紙製品へと戻し、この紙製品を再利用して紙製包装容器を製造することは、本発明に係る紙製包装容器の製造に該当する。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
蒸留水および流動パラフィンを質量比1:1で混合し、そこへショ糖脂肪酸エステル「F−20W」(第一工業製薬社製;HLB値は6)を混合液に対して0.35質量%の量で加えた後、ホモジナイザを用いて室温で毎分2万回転の速度で45分間にわたり撹拌することで、流動パラフィンワックスエマルション(以下、エマルションと称する)を得た。次に、ポリビニルアルコール樹脂(10%水溶液)、シェラック樹脂(50%エタノール溶液)、および上記エマルションを、質量比10:10:5の割合で、それぞれ加え、通常の撹拌方法にて撹拌し、均一に分散させることで、紙用塗料を製造した。
【0053】
グラビア印刷機の印刷用ロールとして印刷面の平らなロールを用い、そのロール表面に上記紙用塗料を付着し、それを紙表面に転写した。その後、紙を120℃の雰囲気中に3秒間おき、次に7秒間かけて送風乾燥させることで、紙製品を製造した。
【0054】
<実施例2>
アクリル樹脂系ワニス「F−68」(T&Kトーカ社製、樹脂成分40%)、シェラック樹脂(50%エタノール溶液)、および実施例1で得たエマルションを、質量比20:4:2の割合でそれぞれ加えた点を除き、実施例1と同様の手順で紙用塗料および紙製品を製造した。
【0055】
<実施例3>
ポリ乳酸モノマー(70%水溶液)、シェラック樹脂(50%エタノール溶液)、および実施例1で得たエマルションを、質量比20:4:2の割合でそれぞれ加えた点を除き、実施例1と同様の手順で紙用塗料および紙製品を製造した。
【0056】
<実施例4>
ビニルアルコール樹脂(10%水溶液)、酢酸ビニルエマルション(50%分散水)、および実施例1で得たエマルションを、質量比50:15:5の割合でそれぞれ加えた点を除き、実施例1と同様の手順で紙用塗料および紙製品を製造した。
【0057】
<実施例5>
アクリル樹脂系ワニス「F−68」(T&Kトーカ社製、樹脂成分40%)、酢酸ビニルエマルション(50%分散水)、および実施例1で得たエマルションを、質量比30:70:30の割合でそれぞれ加えた点を除き、実施例1と同様の手順で紙用塗料および紙製品を製造した。
【0058】
<実施例6>
ポリ乳酸モノマー(70%水溶液)、酢酸ビニルエマルション(50%分散水)、および実施例1で得たエマルションを、質量比10:25:10の割合でそれぞれ加えた点を除き、実施例1と同様の手順で紙用塗料および紙製品を製造した。
【0059】
[耐水性評価]
実施例1〜6で製造した紙製品の紙表面に1.5μLの水滴を滴下し、5分後に液滴の接触角を測定した。この結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示されるように、実施例1〜6のいずれの紙製品も、液滴の接触角が大きく、優れた耐水性を有することが分かった。
【0062】
さらに、実施例1〜6で製造した紙製品上に液滴を維持したところ、実施例2および5の紙製品では、1時間以上経過しても液滴の浸み込みは観察されなかった。実施例1、3、4および6の紙製品では、約30分経過すると液滴の軽度な浸み込みが観察されたものの、1時間以上経過しても依然として液滴は紙表面に存在していた。
【0063】
[耐油性評価]
実施例1〜6で製造した紙製品の紙表面に、オリーブオイル10μLの液滴を滴下し、液滴が紙に浸み込むまでの時間を計測した。また、対照として、塗料を塗布しなかった紙を用いた。
【0064】
対照では、10秒以内に液滴が紙に浸み込み、紙表面に存在しなくなったのに対し、実施例1〜6の紙製品では、12時間以上経過しても依然として液滴が紙表面に存在していた。これにより、実施例1〜6の紙製品が優れた耐油性も有することが分かった。
【0065】
[亀裂評価]
実施例1〜6で製造した紙製品を、厚み0.9mmの金属板の凸部と、この凸部と対称的な溝径2mmの金属製凹型との間に挟み込んだ状態で、金属板および凹型を400g/cmのプレス圧にて押すことで、折り目を形成した。折り目に沿って紙製品を90°に折り曲げて箱に成形し、折り曲げた部分に水1mLを滴下し、1時間にわたって放置した後、水の浸み込みを観察した。また、対照として、塗料を塗布しなかった紙を用いた。
【0066】
対照では、滴下後5秒以内に水が紙内部へと浸み込み、紙の強度が著しく低下した結果、箱の形状が維持できなくなってしまった。これに対し、実施例1〜3の紙製品では、水の浸み込みが観察されたものの、箱の形状は維持されていた。実施例4および6の紙製品では、水の浸み込みがわずかに観察されたものの、箱の形状は維持されていた。実施例5の紙製品では、水の浸み込みが観察されず、箱の強度および形状がほぼ完全に維持されていた。
【0067】
<実施例7〜12>
銀ゼオライト、水、およびポリアセチレングリコール(日信化学工業社製「サーフィノール485」)を質量比15.5:84.2:0.31の割合で混合した水溶液を、実施例1〜6で製造した塗料の質量に対し43.8%の量で、塗料に混合して、紙用塗料を製造した。実施例7〜12は、順に、実施例1〜6の各々を用いたものである。
【0068】
[抗菌性評価]
実施例7〜12で製造した紙製品について、「JIS Z2801」に基づき、抗菌性の評価を行った。具体的には、まず、実施例7〜12の紙製品及び無処理の紙の各々を湿熱滅菌(121℃、15分間)した後、各紙(4cm×4cm)の片面に、所定量の黄色ブドウ球菌又は大腸菌を接種した。続いて、35℃にて24時間保持した後、各紙上の菌数を測定した。この結果を、表2〜3に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2〜3に示されるように、実施例7〜12の紙製品では、実施例1〜6の紙製品と異なり、黄色ブドウ球菌および大腸菌がいずれも消滅していた。これにより、本発明に係る紙用塗料において銀ゼオライトを用いることで、優れた抗菌性を紙製品に付与できることが確認された。
【0072】
[耐応力評価]
コートボール紙(厚さ0.3mm程度)を5cm×10cmにカットし、その一表面に、実施例4〜6および10〜12で製造した紙用塗料を20g/mの量で塗布し、自然乾燥を行った。16時間後における紙の反り具合を測定した。各紙製品間の反りの差を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示されるように、実施例10〜12の紙製品では、実施例4〜6の紙製品よりも反りが小さく、銀ゼオライトの添加によって反りを抑制できることが分かった。なお、実施例4および10、6および12の反りの差が、実施例5および11の反りの差よりも大きいのは、水溶性樹脂の種類もしくは塗膜の硬度に起因する(ポリビニルアルコールを含む塗膜は、アクリル樹脂を含む塗膜よりも柔らかく、応力に弱い)ものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動パラフィン、ショ糖脂肪酸エステル、および水溶性樹脂を含有し、紙の表面に塗布される紙用塗料。
【請求項2】
前記ショ糖脂肪酸エステルは、6以下のHLB値を有する請求項1記載の紙用塗料。
【請求項3】
前記流動パラフィンの固形分含有量は、前記水溶性樹脂の固形分含有量に対し、5質量%以上50質量%以下である請求項1又は2記載の紙用塗料。
【請求項4】
前記紙用塗料の全質量に対し、5質量%以上50質量%以下の固形分含有量のシェラック樹脂又は酢酸ビニル樹脂をさらに含有する請求項1から3いずれか記載の紙用塗料。
【請求項5】
前記紙用塗料の全質量に対し、2質量%以上15質量%以下の量の銀ゼオライトをさらに含有する請求項1から4いずれか記載の紙用塗料。
【請求項6】
以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤をさらに含有する請求項5記載の紙用塗料。
【化1】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【請求項7】
一般式(1)におけるm又はnは、4以上である請求項6記載の紙用塗料。
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品。
【請求項9】
折り目が形成されている請求項8記載の紙製品。
【請求項10】
請求項8又は9記載の紙製品で形成された紙製包装容器。
【請求項11】
請求項9記載の紙製品で形成され、前記折り目に沿って折り曲げられている紙製包装容器。
【請求項12】
食品の包装に用いられる請求項10又は11記載の紙製包装容器。
【請求項13】
紙製品の製造方法であって、
請求項1から7いずれか記載の紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、
前記紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を備える製造方法。
【請求項14】
紙用塗料が硬化した後の紙に対して折り目を形成する工程をさらに有する請求項13記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−111703(P2011−111703A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271559(P2009−271559)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【特許番号】特許第4551992号(P4551992)
【特許公報発行日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【出願人】(397034316)株式会社丸善 (6)
【Fターム(参考)】