説明

紙葉類判別装置

【課題】識別能力及び識別速度が高い紙葉類識別装置を提供すること。
【解決手段】基準辞書を備え、前記基準辞書を参照して、読み込んだ紙葉類が基準の範囲内にあるかどうかの判定を行う紙葉類判別装置において、所定期間毎に、前記読み込んだ紙葉類のパタンと前記基準辞書(6、9)とのずれを補正する手段(8、11)を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動化、情報化社会の進展の中で、紙幣やカード等の紙葉類の真偽、種別を識別する紙葉類識別装置は、自動販売機、両替機など様々な分野で利用されている。かかる紙葉類識別装置は、光センサ等が配置された搬送路上において識別対象となる紙葉類を搬送し、上記紙葉類の先端から後端までの一定間隔毎に上記紙葉類の特徴量を上記光センサ等によって計測し、光センサ等によって計測された特徴量と比較対象となる紙葉類の特徴量とを上記紙葉類の先端から後端まで順次比較して、識別対象となる紙葉類と比較対象となる紙葉類とが同種か否かを識別している。ここで、比較対象となる紙葉類を複数設けることで、識別対象となる紙葉類の種類を特定することが可能となり、また、比較対象となる紙葉類のいずれにも該当しないこと、すなわち、偽造されたものであること等を判断することも可能となる。
【0003】
上記のような紙幣判別装置などの紙葉類の判別を行なう装置では、判別部で紙葉を搬送させながら磁気パタン、光学パタンをセンサで読取り、それを基準の辞書パタンと照合させることによって紙葉の判別、真偽判定を行っている。例えば、特許文献1には、次のような技術が記載されている。紙幣識別装置は、搬送路上を搬送される紙幣の特徴量を計測する2つの光センサ、2つの磁気センサを有する。領域別比較部は、紙幣を複数の領域に分割するとともに、当該分割された複数の領域毎に、上記センサによって計測された紙幣の特徴量とあらかじめ得られている比較対象となる紙幣の特徴量とを比較し、その比較結果を出力する。判断部は、領域別比較部から出力された上記領域毎の比較結果に基づいて、紙幣と比較対象となる紙幣それぞれとが同種か否かを識別する。
【0004】
しかし、判別装置に紙葉類を搬送させる搬送系には機械的な構造による機体固有差があり、また搬送系を構成するベルト、ローラなどの機構品は経年変化などにより搬送系の特性が変わってしまう可能性がある。更に、搬送系の特性変化により紙葉の搬送速度の変化や変動が発生すると、もともと定速度の搬送を期待して作成されている基準の辞書パタンと、サンプルのセンサ出力パタンのマッチングが取れなくなり、判定不良、誤判定が起きる可能性がある。
【0005】
上記の判別装置では、領域を分割し速度の影響を受けにくい処理をおこなう。または速度の変動をカバーする辞書パタンを数多く持ち、どれかに合致すれば良いという判定処理を行っている。しかし、さまざまな変動要素をすべて辞書化するのは困難であり、また判別すべき券種が増加すると変動を考慮した辞書も増え、CPUによる処理時間を圧迫することになる。
【特許文献1】特開2000−322620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、識別能力及び識別速度が高い紙葉類識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の局面に係る発明は、基準辞書を備え、前記基準辞書を参照して、読み込んだ紙葉類が基準の範囲内にあるかどうかの判定を行う紙葉類判別装置において、所定期間毎に、前記読み込んだ紙葉類のパタンと前記基準辞書とのずれを補正する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、搬送系の特性にあった判別処理を行うことができるので、識別能力が高くなる。更に、搬送系の特性に合わせて基準値、基準辞書を更新するので、識別速度が高い。加えて、搬送系の特性の経時変化に合わせて基準値、基準辞書を測定値から統計的に更新するので、識別速度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紙葉類識別装置の概略構成を示すブロック図である。図1における紙葉類識別装置は、判別部2と、センサ3と、パタンバッファ4と、測定値バッファ5と、基準値辞書6と、スカラ比較器7と、差分抽出補正器8と、基準パタン辞書9と、ベクタ比較器10と、差分抽出補正器11と、総合判定器12とを備えている。
【0010】
上記の構成において、紙葉類1は、図示しないベルト、ローラ、ベルトなどの搬送系により判別部2へ搬送される。その時、センサ3により紙葉類の表面の光学、磁気等の物理情報をサンプリングし、読み込みベクトルデータとしてパタンバッファ4に蓄積される。このパタンバッファ4から、一部のデータを抽出して、測定値バッファ5に出力する。
【0011】
測定値バッファ5に入力されたデータは、スカラ比較器7に出力され、スカラ比較器7は、当該データと基準値辞書6とを比較して、OK(良)又はNG(否)の判定を行う。それと同時に、スカラ比較器7は、該データと基準値辞書6とのずれである比較結果を差分抽出補正器8に出力する。差分抽出補正器8は、該データが基準値からどの程度ずれているかという情報を蓄積すると共に、統計的処理によりずれが小さくなるように最適な補正量を算出する。そして、差分抽出補正器8は、基準値辞書6を、前記補正量で補正して、更新する。
【0012】
同様に、パタンバッファ4のデータは、ベクタ比較器10に出力され、ベクタ比較器10は、該データを基準パタン辞書9と比較する。そして、ベクタ比較器10は、OK(良)又はNG(否)の判定を行う。それと同時に、ベクタ比較器10は、該データと基準パタン辞書9とのずれである比較結果を差分抽出補正器11に出力する。差分抽出補正器11は、該データが基準値からどの程度ずれているかという情報を蓄積すると共に、統計的処理によりずれが小さくなるように最適な補正量を算出する。そして、差分抽出補正器11は、基準パタン辞書9を、前記補正量で補正して、更新する。
【0013】
最終的に、スカラ比較器7とベクタ比較器10のそれぞれの判定結果は、総合判定器12に入力され、双方の情報を参照して、最終的な判別結果を出力する。
【0014】
上記のように構成された本発明の一実施形態に係る紙葉類識別装置の動作を説明する。
図2に示すように、紙葉から読み取った、例えば磁気データ、光学透過データ等の物理量Xは、機器の稼働時間経過T0 〜TnによりX0 〜Xnの経時変化が発生することが知られている。なお、物理量Xの変化は、図2において、上方向と下方向の2通りが考えられるが、説明の便宜上、図2に示すように、上方向のみに経時変化による特性の変化が見られるものとする。従来の紙葉類識別装置では、この物理量変化が一定の範囲を超えると判定NGにすることにより、すなわち図3に示すような方法で、判別動作を行っている。しかし、図3に示すような方法では、初期状態で基準値M0が設定されており、その許容値は±εとして、常に固定されているため、この許容範囲|ε|(±ε)を超えたところで、判定NGとされてしまう。しかしこれは系(すなわち、紙葉類識別装置自体)の経時変化を考えれば許容すべき範囲である。しかし、これを考慮してはじめから許容値εを大きくしておくと非常にゆるい判別動作になってしまう。
【0015】
このため、本発明の一実施形態では、最大限許容できる誤差(以下、「最大許容誤差」と称する)について、定めておき、経時変化によって、読み取ったパタンが変化していることが確かめられたら、最大許容誤差まで基準値辞書6或いは基準パタン辞書9を更新していく。図4にこのようすを示す。図4は、本発明の一実施形態に係る基準値辞書6或いは基準パタン辞書9の更新のようすを示す図である。
【0016】
まず、読取った物理量に対して、初期状態にある基準値、基準辞書パタンを用いて判別動作を行う。初期状態では基準M0から許容値±εにXが入っていれば判定OKである。一定区間毎、例えば、時間T1で、基準M0からの偏差の傾向を統計解析して、基準M0からのずれが大きいと判断した場合には、新たな基準M1を設定する。そして、許容値は新たな基準M1に対して許容値±εの範囲を許容範囲とする。すなわち、時間T1以降では、M1±εに物理量Xが入っていれば判定OKとする。このようにして、次の区間で用いる基準を算出しながら、次々と許容範囲をスライドしていくことにより、物理量Xの経時変化に追随することができる。更に、許容値±εの幅は変化させないので、任意の時点で初期状態と、ほぼ同じ精度の判別動作を行うことができる。
なお、機器が正常に動作する範囲は有限であることから、基準をスライドさせる上限Mmax、あるいは下限Mminを設けておき、例えば、図4において、時間TBで基準がMmaxを越えるので、時間TBで装置が老朽化或いは故障したものと判定し、それ以上の更新は行わないようにする。そして、このように、基準が上限Mmaxや下限Mminを越えるような場合には、装置の保守点検や更新を実行することが好ましい。
【0017】
上記の更新手順を、図5及び図6を参照して説明する。図5は、全体の更新処理に係るフローチャートであり、図6は、判定処理の詳細な動作を示すフローチャートである。まず、図5を参照して、全体の処理を説明する。
まず、基準値M0に0を代入することにより、基準値M0を初期化する(ステップS1)。次に、カウンタCNTに0を代入することにより、カウンタCNTを初期化する(ステップS2)。センサ3で紙葉類の表面の光学、磁気等の物理情報をサンプリングして、基準値M0と、スカラ比較器7及びベクタ比較器10による比較処理を行って、その比較処理に基づいて、総合判定器12により判定が行われる(ステップS3)。なお、ステップS3からステップS8までの処理は、図6のフローチャートで詳細に説明するので、以下の説明は、その概略のみを説明する。
【0018】
判定結果がOK(良)であれば(ステップS4のYes)、判定OKの処理を実行して(ステップS5)、ステップS3の処理に戻る。ステップS4において、判定結果がOK(良)でない場合において(ステップS4のNo)、判定結果がNG(否)であれば(ステップS6のYes)、判定NGの処理を実行して(ステップS7)、ステップS3の処理に戻る。
【0019】
また、ステップS6において、判定結果がNGではない場合には(ステップS6のNo)、本装置では、紙葉類の判定ができなかったことを意味するので、装置の故障や不具合の発生の可能性があるので、警告処理をしてステップS3の処理に戻る(ステップS8)。この警告処理は、警告音の発生や、警告表示を行うようにしても良い。また、本実施形態に係る紙葉類識別装置が通信回線で、保守担当に通信可能に接続されている場合には、該状況を通信回線で送信して、保守担当に状況を明示するようにしても良い。
【0020】
次に、図6を参照して、具体的な判定処理の詳細な動作を説明する。
まず、判定処理を開始すると、センサ3で、パタンPnを取得する(ステップS11)。そして、パタンバッファ4で、パタンPnから特徴(物理量。以下、「特徴」とも称する)を抽出(Xn←f(Pn))して(ステップS12)、スカラ比較器7及びベクタ比較器10にそれぞれ抽出した特徴を出力する。スカラ比較器7及びベクタ比較器10は、入力した特徴と、基準値辞書6或いは基準パタン辞書9を参照して、それぞれ比較処理を行う。総合判定器12は、その比較処理に基づいて判定を行う。この判定の結果、特徴Xnが基準値に入っているかどうか、すなわち|Xn−M|≦εであるかどうかを判定する(ステップS13)。そして、基準値の範囲内でなければ(ステップS13のNo)、であれば、判定NGの処理を実行する(ステップ14)。また、基準値の範囲内であれば(ステップS13のYes)、カウンタCNTを更新(例えば、インクリメント)する(ステップS15)。
【0021】
そして、規定の期間経過したかどうかを判定し(ステップS16)、経過していないのであれば、判定OKの処理を行う(ステップS21)。ステップS16において、規定の期間が経過しているのであれば、基準値の更新(M←Mn)を実行する(ステップS17)。そして、基準値が範囲内かどうか、すなわちM<Mmaxであるかどうかを判定し(ステップS18)、範囲内であれば、正常に基準値が更新されたので、カウンタを初期化(CNT←0)し(ステップS20)、判定OKの処理を行う(ステップS21)。なお、ステップS18において、基準値が範囲内でなくなった場合には、判定警告(WARNING)の処理を実行する(ステップS19)。
【0022】
本発明は、上記各実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。例えば、更新の間隔は、定期的であることが好ましいが、例えば、1月又は3月或いはそれ以上の期間でも良い。また、紙葉類の読み取り量に応じて、更新の間隔を決定するようにしても良い。定期的でなく、ある程度データがたまった時点で統計処理を実行して、更新するようにしても良い。なお、センサで入力したパタンに加え(又はパタンでなく)、搬送系の特性を測定しておき、その特性の変化に応じて、辞書を更新するようにしても良い。さらに、上記各実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0023】
また、例えば各実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る紙葉類識別装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】経時変化による物理量の変化のようすを示す図である。
【図3】基準辞書を更新しない従来の方法による判別動作を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る基準値辞書6或いは基準パタン辞書9の更新のようすを示す図である。
【図5】全体の更新処理に係るフローチャートである。
【図6】判定処理の詳細な動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
1…紙葉類
2…判別部
3…センサ
4…パタンバッファ
5…測定値バッファ
6…基準値辞書
7…スカラ比較器
8…差分抽出補正器
9…基準パタン辞書
10…ベクタ比較器
11…差分抽出補正器
12…総合判定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準辞書を備え、前記基準辞書を参照して、読み込んだ紙葉類が基準の範囲内にあるかどうかの判定を行う紙葉類判別装置において、
所定期間毎に、前記読み込んだ紙葉類のパタンと前記基準辞書とのずれを補正する手段を備えたことを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項2】
基準辞書を備え、前記基準辞書を参照して、読み込んだ紙葉類が基準の範囲内にあるかどうかの判定を行う紙葉類判別装置において、
前記紙葉類の処理量に応じて、前記読み込んだ紙葉類のパタンと前記基準辞書とのずれを補正する手段を備えたことを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の紙葉類判別装置において、前記補正手段は、前記基準辞書を、前記ずれに応じて更新することを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の紙葉類判別装置において、紙葉類を搬送する手段を更に具備し、前記搬送手段の特性を測定して、前記ずれを補正することを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の紙葉類判別装置において、前記補正手段は、前記読み込んだ紙葉類のパタンと前記基準辞書との前記ずれを自動的に測定し、累積する手段を有することを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項6】
請求項5に記載の紙葉類判別装置において、前記補正手段は、前記測定結果の累積値を統計処理することにより、前記基準辞書を更新することを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の紙葉類判別装置において、前記基準辞書の更新後の基準がしきい値を越える場合に、前記基準辞書を更新せずに、警告を発生する手段を更に具備することを特徴とする紙葉類判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−90427(P2008−90427A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268165(P2006−268165)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】