説明

紙葉類磁気特性検出装置

【課題】紙葉類の磁気的な特性を簡単な回路構成で精度良く検出する。
【解決手段】紙幣Sの磁気的な特性を磁気抵抗素子Rの抵抗値変化として検出する検出ヘッド2と、磁気抵抗素子Rの抵抗値変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路3と、発振波の位相ズレを検出する検出回路4とを備え、該検出回路4は、発振回路3から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、有価証券、書類、郵便物などの紙葉類の磁気的な特性を検出する紙葉類磁気特性検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙葉類の磁気的な特性(磁気インクの濃淡や種類、メタルスレッドの有無や種類など)を検出する紙葉類磁気特性検出装置が知られている。この種の紙葉類磁気特性検出装置には、様々な検出方式があるが、特に、紙葉類を着磁しながら磁気抵抗素子などの磁気検出素子で紙葉類の磁気的な特性を検出する方式や(例えば、特許文献1参照)、紙葉類を着磁又は着磁することなく磁気ヘッドで紙葉類の磁気的な特性を検出する方式が広く用いられている。
【特許文献1】特許4024964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の紙葉類磁気特性検出装置では、磁気抵抗素子に生じる僅かな抵抗値変化や、磁気ヘッドの検出コイルに生じる僅かなインダクタンス変化をアンプで多段階に増幅しているため、ノイズの影響を受けやすく、高精度な検出が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の如き実情に鑑み、これらの課題を解決することを目的として創作された本発明の紙葉類磁気特性検出装置は、紙葉類の磁気的な特性を検出する紙葉類磁気特性検出装置であって、紙葉類の磁気的な特性に応じて検出値が変化する磁気検出素子と、磁気検出素子の検出値が変化することに応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路と、発振波の位相ズレを検出する検出回路とを備え、検出回路は、発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出することを特徴とする。このようにすると、紙葉類の磁気的な特性を高精度に検出することができる。すなわち、上記のような発振回路から出力される発振波においては、紙葉類の磁気的な特性が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、蓄積された位相ズレにもとづいて紙葉類の磁気的な特性を高精度に検出できる。また、発振回路から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するので、発振波の位相ズレ成分を安価なデジタル回路を用いて高精度に測定することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の検出を行うことができる。
また、前記磁気検出素子は、紙葉類の磁気的な特性に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗素子であることを特徴とする。このようにすると、安価な磁気抵抗素子を用いて、紙葉類の磁気的な特性を高精度に検出することができる。
また、前記検出回路は、紙葉類の基準領域で磁気的な特性を検出し、該検出値を基準値として記憶する基準値記憶手段と、紙葉類の検出対象領域で磁気的な特性を検出する磁気特性検出手段と、検出対象領域の検出値と基準値との差分を求める差分検出手段とを備えることを特徴とする。このようにすると、検出値に含まれる温度誤差などを排除できるので、検出精度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0006】
図1は、本発明の実施形態に係る紙葉類磁気特性検出装置の構成を示すブロック図である。この図に示される紙葉類磁気特性検出装置1は、紙幣Sの磁気的な特性を検出するためのものであって、検出ヘッド2、発振回路3及び検出回路4を備えて構成されている。
【0007】
検出ヘッド2は、紙幣Sの表面を相対的に走査されるのに伴い、紙幣Sの磁気的な特性に応じて検出値が変化する磁気検出素子を備えている。例えば、紙幣Sを着磁する永久磁石(図示せず)と、紙幣Sの磁気的な特性に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗素子(MR素子)Rとを備えて構成されている。尚、磁気検出素子としては、磁気抵抗素子Rに限定されず、その他の磁気検出素子(ホール素子、MI素子など)を用いてもよい。
【0008】
発振回路3は、磁気抵抗素子Rの抵抗値変化に応じて発振波に位相ズレが生じるように構成される。例えば、シュミット発振回路の帰還回路3aに磁気抵抗素子Rを配置すれば、磁気抵抗素子Rの抵抗値変化に応じて発振波に位相ズレが生じる発振回路3を構成することができる。
【0009】
シュミット発振回路は、シュミットインバータINVなどが備えるシュミットトリガ回路のヒステリシス特性を利用した発振回路であり、シュミットインバータINVと、シュミットインバータINVの入力側に接続されるコンデンサCと、シュミットインバータINVの出力をシュミットインバータINVの入力側に帰還させる帰還回路3aと、この帰還回路3aに介在する抵抗要素とを備えて構成されている。
【0010】
初期状態のシュミット発振回路では、コンデンサCに電荷が溜まっていないため、コンデンサCの両端の電圧は0Vとなっている。このとき、シュミットインバータINVは、入力側電圧VinがV以下なので、出力がHレベル(5V)となる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが5Vのときは、帰還回路3aを介してシュミットインバータINVの入力側に電流が流れるので、コンデンサCに電荷が徐々に溜まり、その両端の電圧が上昇する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVに達すると、シュミットインバータINVの出力がLレベル(0V)に切換わる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが0Vになると、コンデンサCが放電し、シュミットインバータINVの入力側電圧Vinが徐々に降下する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVまで降下すると、シュミットインバータINVの出力がHレベルに切換わる。
【0011】
以上の動作の繰り返しにより、シュミットインバータINVの出力側から所定周波数の矩形波が得られる。そして、シュミット発振回路の発振周波数f(=1/T)は、蓄電期間Tと放電期間Tにより決まり、蓄電期間Tと放電期間Tは、コンデンサC及び抵抗要素の定数により決まる。したがって、抵抗要素として帰還回路3aに磁気抵抗素子Rを配置すれば、磁気抵抗素子Rの抵抗値変化に応じてシュミット発振回路の発振波に位相ズレを生じさせることができる。
【0012】
なお、本発明の発振回路がシュミット発振回路に限定されないことは勿論であり、磁気検出素子の検出値変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路であれば、CR発振回路、LC発振回路、水晶発振回路などを用いてもよい。
【0013】
検出回路4は、例えば、CPU、ROM、RAM、I/Oなどが内蔵された1チップマイコンを用いて構成され、ROMに書き込まれたプログラムに従い、後述する位相ズレ測定処理を行う。
【0014】
検出回路4は、発振回路3から発振される発振波の位相ズレにもとづいて紙幣Sの磁気的な特性を検出するにあたり、発振波の位相ズレを蓄積させて測定するように構成される。具体的には、発振回路3から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するようになっている。
【0015】
このような検出方法によれば、発振波の位相ズレを蓄積させてから測定するので、回路構成が複雑な同期検波回路や、高速なカウンタを持たない安価なデジタル回路でも、紙幣Sの磁気的な特性に応じた発振波の位相ズレを高精度に検出することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路3の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路3の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の検出を行うことができる。
【0016】
また、検出回路4は、紙幣Sの基準領域で磁気的な特性を検出し、該検出値を基準値として記憶する基準値記憶手段と、紙幣Sの検出対象領域で磁気的な特性を検出する磁気特性検出手段と、検出対象領域の検出値と基準値との差分を求める差分検出手段とを備えることが好ましい。このようにすると、検出値に含まれる温度誤差などを排除できるので、検出精度をさらに向上させることができる。
【0017】
また、検出回路4は、一回の発振波カウント処理における発振波のカウント数Nを変更するカウント数変更手段を備えることが好ましい。このようにすると、使用条件に応じてカウント数Nを変更し、測定精度や応答性能を調整することができる。例えば、測定精度が優先される状況では、一回の検出処理におけるカウント数Nを増やし、また、応答性能が優先される状況では、一回の検出処理におけるカウント数Nを減らすことができる。なお、カウント数Nの変更は、検出回路4の内部判断で実行しても良いし、外部からの設定数変更信号にもとづいて実行するようにしても良い。
【0018】
次に、本発明における発振波の位相ズレ蓄積作用について、図2及び図3を参照して説明する。
【0019】
図2は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図、図3は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。これらの図に示す波形は、一回の検出処理における発振回路3の出力波形であって、発振回路3から出力される発振波の数をカウントし、カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するにあたり、発振波カウント処理における発振波のカウント数Nを100とした場合の波形であり、上側の波形は、紙幣Sが検出ヘッド2に接触していない場合を示し、下側の波形は、紙幣Sの磁気インク部分又はメタルスレッド部分が検出ヘッド2に接触している場合を示している。これらの図から明らかなように、検出波形の始端部、つまり発振波カウント処理における発振波のカウント数Nが少ない段階では、位相ズレがあまり蓄積されていないため、その差が明確ではないが(図2参照)、カウント数Nが多くなると、発振波の位相ズレが蓄積され、その差が明確になるので、位相ズレの測定が容易になることがわかる(図3参照)。
【0020】
次に、検出回路4の具体的な検出処理手順について、図4〜図6を参照して説明する。
【0021】
図4は、検出回路の全体的な処理手順を示すフローチャート、図5は、検出回路のカウント数設定処理手順を示すフローチャート、図6は、検出回路の磁気特性検出処理手順を示すフローチャートである。図4に示すように、検出回路4は、後述するカウント数変更処理(S1)を実行しながら、検出開始信号の入力を判断し(S2)、該判断結果がYESになったら、基準領域信号の入力を判断する(S3)。そして、この判断結果がYESになったら、後述する磁気特性検出処理(S4)を実行して、紙幣Sにおける基準領域の磁気的な特性を検出し、該検出値を基準値として記憶する(S5:基準値記憶手段)。つぎに、検出対象領域信号の入力を判断し(S6)、該判断結果がYESになったら、磁気特性検出処理(S7:磁気特性検出手段)を実行して、紙幣Sにおける検出対象領域の磁気的な特性を検出すると共に、該検出値と基準値の差分を演算し、所定形式の信号として出力する(S8:差分検出手段)。そして、紙幣Sにおける検出対象領域の磁気特性検出(S7、S8)は、検出対象領域信号がOFFになるまで繰り返される(S9)。
【0022】
図5に示すように、カウント数変更処理は、上位コントローラなどから入力されるカウント数変更信号に応じて(S11)、発振波カウント数Nを変更する処理である(S12)。また、図6に示すように、磁気特性検出処理は、カウンタクリア処理(S21)と、発振波カウント処理(S22、S23)と、測定時間読み込み処理(S24)とを行う。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S21)。また、発振波カウント処理は、発振回路3から出力される発振波の数をカウントし(S22)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S23)。また、SK右定時間読み込み処理は、発振波のカウント数がNになったタイミングで、時間計測カウンタ値を読み込む処理である(S24)。
【0023】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、紙幣Sなどの紙葉類の磁気的な特性を検出する紙葉類磁気特性検出装置1であって、紙葉類の磁気的な特性に応じて検出値が変化する磁気検出素子(磁気抵抗素子R)と、磁気検出素子の検出値が変化することに応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路3と、発振波の位相ズレを検出する検出回路4とを備え、検出回路4は、発振回路3から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出するので、紙葉類の磁気的な特性を高精度に検出することができる。すなわち、上記のような発振回路3から出力される発振波においては、紙葉類の磁気的な特性が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、蓄積された位相ズレにもとづいて紙葉類の磁気的な特性を高精度に検出できる。また、発振回路3から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するので、発振波の位相ズレ成分を安価なデジタル回路を用いて高精度に測定することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路3の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路3の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の検出を行うことができる。
【0024】
また、本実施形態の磁気検出素子は、紙葉類の磁気的な特性に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗素子Rとしたので、安価な磁気抵抗素子Rを用いて、紙葉類の磁気的な特性を高精度に検出することができる。
【0025】
また、本実施形態の検出回路4は、紙葉類の基準領域で磁気的な特性を検出し、該検出値を基準値として記憶する基準値記憶手段と、紙葉類の検出対象領域で磁気的な特性を検出する磁気特性検出手段と、検出対象領域の検出値と基準値との差分を求める差分検出手段とを備えるので、検出値に含まれる温度誤差などを排除し、検出精度をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る紙葉類磁気特性検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図である。
【図3】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。
【図4】検出回路の全体的な検出処理手順を示すフローチャートである。
【図5】検出回路のカウント数設定処理手順を示すフローチャートである。
【図6】検出回路の磁気特性検出処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0027】
1 紙葉類磁気特性検出装置
2 検出ヘッド
3 発振回路
4 検出回路
R 磁気抵抗素子
S 紙幣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類の磁気的な特性を検出する紙葉類磁気特性検出装置であって、
紙葉類の磁気的な特性に応じて検出値が変化する磁気検出素子と、
磁気検出素子の検出値が変化することに応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路と、
発振波の位相ズレを検出する検出回路とを備え、
検出回路は、
発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出する
ことを特徴とする紙葉類磁気特性検出装置。
【請求項2】
前記磁気検出素子は、紙葉類の磁気的な特性に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗素子であることを特徴とする請求項1記載の紙葉類磁気特性検出装置。
【請求項3】
前記検出回路は、
紙葉類の基準領域で磁気的な特性を検出し、該検出値を基準値として記憶する基準値記憶手段と、
紙葉類の検出対象領域で磁気的な特性を検出する磁気特性検出手段と、
検出対象領域の検出値と基準値との差分を求める差分検出手段と
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の紙葉類磁気特性検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−282866(P2009−282866A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136133(P2008−136133)
【出願日】平成20年5月25日(2008.5.25)
【出願人】(591123274)株式会社アヅマシステムズ (31)
【Fターム(参考)】