説明

紙葉類識別方法及び装置

【課題】複数の紙葉種類においてその模様が近似しているもの、あるいは真券と巧妙に偽造された偽券のようにその模様が近似しているものにあって、できるだけ正確に紙葉種類を識別できるようにする。
【解決手段】センサからの検出データに基づき識別対象紙葉が複数の紙葉種類のうちのいずれかに該当するか否かを評価する。センサからの検出データによって示される特徴が互いに近似している複数の紙葉種類を示す情報を記憶したテーブルを有し、識別対象紙葉がいずれかの種類に該当すると評価されたとき、該テーブルを参照して該当すると評価された紙葉種類に近似する他の紙葉種類が存在しているか否かを調べ、存在している場合、前記識別対象紙葉が該他の種類にも該当するか否かの評価を行なう。識別対象紙葉が他の種類にも該当すると評価されたならば、該識別対象紙葉がいずれの種類に該当するか、またはどの種類にも該当しない、との決定を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動販売機や両替機およびゲーム装置等に利用される紙幣識別装置に関するものであり、紙幣、小切手、金券、証券等、所定の印刷模様を表面に具備する紙葉の真偽を識別するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣の搬送に同期して該紙幣各部の色や濃度または紙幣に含まれる磁性粉等をセンサで検出してサンプリングデータを取得し、このサンプリングデータを基準パターンと比較することによって紙幣の種別およびその真偽を判定する紙幣識別装置は、例えば、下記特許文献1(特公昭63−26918号公報),特許文献2(特公昭64−5354号公報)等において提案されている。これら従来の紙幣識別装置では、各位置でサンプリングされたデータの全てが基準パターンのデータに対して許容範囲に収まっている場合にのみ、その基準パターンに対応した紙幣種別の真券信号を出力するようになっており、種別および真偽判定の信頼性は各位置毎のサンプリングデータの値と基準パターンのデータとの間の偏差にのみ依存している。従って、このような従来方式により偽紙幣を確実に排除するためには、判定基準となる許容範囲を相当に狭く設定する必要があるが、許容範囲を余り狭く設定すると、流通紙幣に付着した全体的な汚れによって検出データの値が均一にシフトしたような場合であっても真正紙幣が偽紙幣として判定される恐れがある。
【特許文献1】特公昭63−26918号公報
【特許文献2】特公昭64−5354号公報 一方、米ドル紙幣等にあっては、異なる金種間においても模様パターンが近似しているようなものにおいては、許容範囲が重複してしまうことがあり、正確な識別が困難であった。
【0003】
紙幣の汚れや経年変化による検出データの変動および周囲温度の変化等に伴う検出データ値のドリフト等に対処するため、各位置でサンプリングされた検出データの平均により検出データに補正を加えて基準パターンと比較するようにした紙幣識別装置が特許文献3(特公昭58−9990号公報)として提案されているが、紙幣の一部に汚れが付着する等して部分的な変化が生じたような場合には、真正紙幣が偽紙幣としてリジェクトされてしまうという問題が残る。また、紙幣種別毎の基準データと度数分布との関係を記憶しておき、ファジイ理論に基づいて判定動作を行わせようとした紙幣識別装置が特許文献4(特開平2−148383号公報)として提案されているが、このものは、検出データ自体に変動が生じた場合であっても比較対象となる度数分布データとの間で整合性を保持するための補正作業は一切行われないので、紙幣やセンサ類の経年変化や汚れ等に対処することはできない。
【特許文献3】特公昭58−9990号公報
【特許文献4】特開平2−148383号公報
【0004】
紙幣の種別およびその真偽を適確に判定するためには多数のセンサ,多数のサンプリングデータを用いて判定操作を行うことになるので、光学式センサと磁気式センサを併用するのが一般的であるが、そうすると、光学式センサと磁気式センサとで別途の判定回路を設けねばならず、構成が複雑化する。
【0005】
更に、本発明に関連する従来技術としては、下記特許文献5及び6に記載された発明がある。特許文献5(特開平3−292589号公報)においては、センサ検出データを正規化するために、該センサ検出データの平均値を求め、所定の標準平均値に対するセンサ検出データ平均値の比を補正係数として求め、この比をセンサ検出データに掛けることにより正規化を行なうようにしている。しかし、極めて単純な正規化処理でしかないため、個別のセンサの汚れや、個別のセンサの特性誤差あるいは組立て誤差、及び検査対象たる個別紙幣の汚れ等を要因として、センサ検出データは固有の誤差をもっているため、この固有の誤差要因を確実に除去して正規化することはできなかった。
特許文献6(特開平4−102187号公報)においては、紙幣を複数のブロックに分割し、検査対象紙幣の各ブロック毎の検出データ平均値と或る金種についての各ブロック毎の標準平均値データとの差を夫々演算し、この差を合計する。このようにして各金種につきかかる差の合計値を求め、その値が最小のものを、当該検査対象紙幣の金種と判定するようにしている。しかし、この方法では、検出データの絶対値の平均値から差を求めるようにしているので、検査対象紙幣の汚れ等のバラツキの影響により、識別精度が劣る、という欠点がある。
【特許文献5】特開平3−292589号公報
【特許文献6】特開平4−102187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、複数の金種(紙葉の種類)においてその模様パターンが近似しているもの、あるいは真券と巧妙に偽造された偽券のようにその模様パターンが近似しているものにあって、できるだけ正確に紙葉種類(あるいは真偽)を識別できるようにした紙葉類識別装置及び方法を提供しようとするものである。
更に、磁気式センサを併用せずに、光学式センサのみでも、精度の高い識別を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明の紙葉類識別装置は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出データを出力するセンサと、前記センサからの検出データに基づき前記識別対象紙葉が複数の紙葉種類のうちのいずれかに該当するか否かを評価する評価部と、前記センサからの前記検出データによって示される特徴が互いに近似している複数の紙葉種類を示す情報を記憶したテーブルと、前記評価部で前記識別対象紙葉がいずれかの紙葉種類に該当すると評価されたとき、前記テーブルを参照して該当すると評価された前記紙葉種類に近似する他の紙葉種類が存在しているか否かを調べ、存在している場合、前記識別対象紙葉が該他の紙葉種類にも該当するか否かの評価を前記評価部において行なわせる制御部と、前記識別対象紙葉が前記他の紙葉種類にも該当すると評価されたならば、該識別対象紙葉がいずれの紙葉種類に該当するか、またはどの紙葉種類にも該当しない、との決定を行なう決定部とを具備する。
【0008】
請求項3に係る本発明の紙葉類識別装置は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出データを出力するセンサと、真券についての判定基準条件と巧妙に作成された所定の偽券についての判定基準条件とを設定する判定基準条件設定部と、前記各判定基準条件を参照して、前記センサからの検出データに基づき前記識別対象紙葉を評価する評価部と、前記評価部により前記識別対象紙葉が真券についての判定基準条件と前記所定の偽券についての判定基準条件の両方を充足していると評価された場合、該識別対象紙葉を偽券として拒絶する制御部とを具備する。
【0009】
請求項4に係る本発明の紙葉類識別装置は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出データを出力するセンサと、真券についての判定基準条件と巧妙に作成された所定の偽券についての判定基準条件とを設定する判定基準条件設定部と、前記各判定基準条件を参照して、前記センサからの検出データに基づき前記識別対象紙葉を評価する評価部と、前記評価部により前記識別対象紙葉が真券についての判定基準条件と前記所定の偽券についての判定基準条件の両方を充足していると評価された場合、その評価度に従って該識別対象紙葉を真券として受け入れるかまたは偽券として拒絶する制御部とを具備する。
【0010】
請求項5に係る本発明の紙葉類識別方法は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出対象サンプルデータを出力するステップと、紙葉種類に対応して予め用意された標準平均と標準偏差とを使用し、前記検出対象サンプルデータの前記標準平均に対する差を前記標準偏差の比で表わし、これにより該検出対象サンプルデータを正規化された値に変換するステップと、複数の紙葉種類に関して、前記検出対象サンプルデータの正規化された値と所定の判定基準値とを比較することにより、前記識別対象紙葉が何れかの紙葉種類に該当するか否かを判定するステップと、前記識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると判定された場合、該当する各種類に対応する前記検出対象サンプルデータの正規化された値のうち、最も評価度の高い値を持つ1つの種類を選択するステップとを具備する。
請求項6に係る本発明の紙葉類識別方法は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出対象サンプルデータを出力するステップと、紙葉種類に対応して予め用意された標準平均と標準偏差とを使用し、前記検出対象サンプルデータの前記標準平均に対する差を前記標準偏差の比で表わし、これにより該検出対象サンプルデータを正規化された値に変換するステップと、複数の紙葉種類に関して、前記検出対象サンプルデータの正規化された値と所定の判定基準値とを比較することにより、前記識別対象紙葉が何れかの紙葉種類に該当するか否かを判定するステップと、前記識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると判定された場合、該識別対象紙葉を不良と判定するステップとを具備する。
【0011】
請求項7に係る本発明の紙葉類識別方法は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、特徴検出データを出力するステップと、前記特徴検出データに基づき前記識別対象紙葉が複数の所定の紙葉種類のうちいずれに該当するかを判定する1次的評価ステップと、前記1次的評価ステップで前記識別対象紙葉が2以上の紙葉種類に重複して該当するとの判定結果が得られた場合、該当する紙葉種類の1つを前記識別対象紙葉の種類として選択する第1モードと前記識別対象紙葉を不良と判定する第2モードのいずれか1つのモードの従い処理する2次的評価ステップとを具備する。
請求項8に係る本発明の紙葉類識別方法は、識別対象である紙葉の特徴を検出し、特徴検出データを出力するステップと、所定の紙葉種類に関して、その真券についての判定条件を設定するデータと巧妙に作成された所定の偽券についての判定条件を設定するデータとを予め用意するステップと、前記特徴検出データが前記真券及び所定偽券についての前記各判定条件を充足するか否かを判定するステップと、前記判定するステップにより前記特徴検出データが前記真券についての判定条件を充足すると判定された場合であっても前記所定偽券についての判定条件も充足すると判定された場合は、前記識別対象紙葉を不良と判定するステップとを具備する。
【0012】
例えば、米ドル紙幣のように、異なる金種間において印刷模様パターンが比較的似ているような紙幣の識別に際しては、識別のための判定基準を厳しくすれば異金種間の識別を確実に行なうことができるが、その一方で、真券でありながら経年劣化や汚れ等のために、厳しい判定基準に合格しないものが出で来るので、真券を拒絶してしまう識別エラーが多く発生する。また、従来は磁気センサを使用して印刷インク中の磁気成分の違いによって金種を識別するようにもしているが、そうすると、光学式センサのみならず磁気センサも必要になるため、製造コストがかかってしまう。
【0013】
そこで、各請求項に係る本発明では、金種の識別のための判定基準をそれほど厳しくしないものとする、もしくは磁気センサを使用せずに光学式センサのみを使用する、等任意の設計に従い、1つの識別対象紙葉が複数の異なる種類に重複して該当するとの識別結果が1次的評価で出ることを許容する構成として、1次的評価においてそのような重複識別結果が出た場合、所定の2次的評価を行なうことにより、識別精度を上げるようにしたことを特徴としている。
この場合に、請求項1のように、センサからの検出データによって示される特徴が互いに近似している複数の紙葉種類を示す情報を記憶したテーブルを予め用意しておき、このテーブルを参照して処理を行なうようにすると、効率的である。
また、2次的評価のモードとしては、識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると判定された場合、最も評価度の高い値を持つ1つの種類を選択するモードであってもよい。2次的評価の別のモードとしては、識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると判定された場合、該識別対象紙葉を不良と判定して拒絶するようなモードであってもよい。その場合、どのモードを使用するかを、所定の近似する各紙葉種類の組合せ毎に、設定しておくようにしてもよい。
【0014】
更に、実際問題として、所定の高額紙幣については、巧妙に作成された偽券が出回る事例が多いので、本発明においては、そのような巧妙に作成された偽券を適切に排除するための新規な対策をも提案している。すなわち、請求項3、4、8のように、判定基準データとして、真券用の判定基準データのみならず、そのような巧妙に作成された所定の偽券についての判定基準データをも予め用意しておき、メモリ等に記憶しておく。そして、識別対象紙葉が真券用の判定基準データによる判定条件を充足したとしても、該所定の偽券用の判定基準データによる判定条件をも充足している場合は、該識別対象紙葉を不良と判定するようにしたことを特徴とするものである。これにより、巧妙に作成された偽券を適切に排除することができる。
【0015】
なお、この出願において、「離隔値」という用語は、説明の便宜上使用する用語にすぎず、必ずしも統計学上学術的に確立されている用語といえるものではない。すなわち、この出願において使用している「離隔値」の語の意義は、或るサンプルデータが、標準平均から標準偏差の何倍だけ隔たっているか、ということを具体的な数値で示すものである。このような意義は、統計学上一般に使用される「標準化変量」という用語に相当するものである。従って、この出願において使用している「離隔値」の用語を、「標準化変量」という用語に置き換えてもよい。かくして、センサ出力に基づく補正サンプルデータの離隔値(すなわち実施例における走査位置離隔値SPD(I))は、紙葉における所定の各位置毎の標準平均(実施例における走査位置標準平均HMXADR(I))からの該サンプルデータの隔たり具合を、正規化または標準化して表現するものである。よって、この離隔値の値の大小は、標準平均に対する近似度を正規化して示しているものであり、例えば離隔値が小さいほど標準平均により近いことを意味する。従って、この離隔値を、所定の判定基準値(後述する実施例における走査位置判定倍率PMSTに相当)と比較することにより、識別対象紙葉について適切な評価を下すことができる。すなわち、この判定基準値は真券として許容しうる離隔値の上限値を示し、離隔値が判定基準値より大であれば、識別対象紙葉は偽券と識別して受入れを拒絶する。ここで、離隔値は正規化された値であるから、1つのセンサに対応する全ての走査位置の離隔値に対して、共通の1つの判定基準値を使用することができる。従って、判定基準データの準備とその記憶構成を簡素化することができる。なお、真券として受入れ、偽券として拒絶するための最終基準は、適宜定めてよい。例えば、1つのセンサに対応する全ての走査位置の離隔値が所定の判定基準を満たしている場合に、真券と判定し、それ以外の場合は偽券と判定するようにしてもよいし、あるいは、それに限らない。なお、判定基準値は1つの数値であるから、これを調整可能とすることは容易に行なえるものであり、そうすれば、識別感度の調整を行なうことができる。よって、この発明では、紙葉識別の際の感度調整を極めて容易に行なうことができる。
【0016】
一例として、識別のためのパラメータとして、総合離隔値の概念を導入することは、極めて有利である。前記各位置毎の正規化された離隔値を合計することにより総合離隔値(実施例におけるTOD)を算出することができる。予め用意された統計的基準データを使用して、前記総合離隔値を統計的に評価することにより紙葉の真偽を識別することができる。この統計的基準データの一例は、多数のサンプル紙葉から得た総合離隔値に基づき、総合離隔値標準平均(実施例におけるRTXXX)と総合離隔値標準偏差(実施例におけるRTSIG)とを求め、そこにおける標準化変量の限界値をシミュレーションによって求め、これに基づき総合離隔値判定基準値(実施例における総合離隔値判定倍率TMST)を作成することにより得られる。このように、1つの値に集約された総合離隔値を導入し、識別に利用することは、識別精度を一層向上させる上で有利である。例えば、1つの識別対象紙葉について、複数の種類(金種)に該当するとの一次的評価が得られたような場合、総合離隔値により最も高い評価が示されている種類(金種)を選択することができるので、該当種類(金種)の絞り込みに有利に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態を詳細に説明しよう。
〔装置の全体的説明〕
図1は本発明に係る紙幣識別方法を適用する紙幣識別装置における紙幣搬送機構及びセンサ部を示す概略平面図である。図2は該紙幣識別装置の制御部の概略を示すブロック図である。
【0018】
図1において、紙幣搬送路を形成するプレート1の両側には、駆動側タイミングプーリ2および従動側タイミングプーリ3に巻回されたタイミングベルト4によって構成される2組のベルト搬送機構が設けられており、両側の駆動側タイミングプーリ2を回転駆動するモータMの作動により挿入紙幣が搬送されるようになっている。パルスコーダPCはモータMの所定回転毎に回転検出信号を出力するものである。所定の配置で複数対(例えば5対)の紙幣検知用光学式センサP0〜P4が設けられている。各センサP0〜P4は、プレート1上に形成された紙幣搬送路を挟んで上下に配置された一対の発光素子および受光素子(光電変換器)によって構成される透過型の光学センサであって、挿入紙幣を透過する光の量に応じて電気信号を出力するようになっている。なお、紙幣の挿入方向は図1の左から右に向かう方向(矢印X方向)である。
【0019】
図2に示されるように、センサP0〜P4の受光素子からの出力信号は、前置増幅器10〜14を介してA/D変換器20〜24に与えられ、ディジタルデータに変換される。各A/D変換器20〜24の出力は入出力回路30を介してCPU31に接続される。ROMおよび不揮発性RAM並びにワーキング用RAM等を含んで構成されるメモリ32には、紙幣識別装置のシーケンス動作や紙幣の判定等に関する制御プログラム、および、紙幣の判定等に必要とされる各種の基準データ(設定データ)が記憶される。また、紙幣の判定等に必要とされる各種の基準データの作成段階においては、基準データ作成用のプログラムもメモリ32に搭載される。CPU(中央処理装置)31は、メモリ32に記憶したプログラムを実行して、事前の基準データ作成のためのデータ集計処理及びその後の投入紙幣判定処理その他の各種処理を行う。データ入力装置33は、キーボード等を含んで構成されており、必要なデータやコマンドを手動入力するために利用される。ベルト搬送機構の駆動源となるモータMはモータ駆動回路25および入出力回路30を介してCPU31によって駆動制御され、また、パルスコーダPCからの回転検出信号が入出力回路30を介してCPU31に入力される。なお、34は入出力インターフェイスであり、該紙幣識別装置を装着した自動販売機やゲーム装置等との間で信号の入出力を行う。
【0020】
なお、通常の実施形態では、基準データ作成用プログラムは、ユーザーに供給される紙幣識別装置には搭載されず、ユーザーに供給する紙幣識別装置を製作することがオーソライズされた製造者側の装置において搭載される。製造者側の装置において、基準データ作成用プログラムに基づいて、後述のような処理手順で、紙幣の判定等に必要とされる多数のデータ集計処理がなされる。この事前のデータ集計処理は、複数の紙幣識別装置を用いて、様々な条件下及び環境下で行われ、最終的に中央のコンピュータシステム(図示せず)によって取りまとめられ、その取りまとめ結果に基づき各種の基準データが作成される。そして、この基準データを記憶したテーブルがファクトリー・セットで、ROM又は不揮発性RAMに記憶され、そのような基準データをメモリ32内のテーブルに記憶済の紙幣識別装置がユーザーに対して供給される。勿論、これに限らず、基準データ作成用プログラムを用いて、ユーザー自らが基準データを作成することができるようにしてもよい。
【0021】
紙幣の入口寄りに設けられたセンサP0,P1は、紙幣の挿入検知用に利用される。すなわち、挿入された紙幣の先端がセンサP0,P1の発光素子と受光素子との間に入ると、該センサP0,P1の受光素子による検出光量が減少することをもって該紙幣の挿入を検知し、モータMを正転して挿入紙幣の取り込みを開始する。モータMが回転すると、モータMの所定回転毎にパルスコーダPCから出力される回転検出信号に同期して挿入紙幣上の所定位置の光透過率を各センサP0〜P4で検出する。各センサP0〜P4は、紙幣搬送方向(矢印X)に直角な方向に関してそれぞれずれて配置されており、それぞれ異なる位置で紙幣の透過光量パターン(印刷模様及びすかし模様等)を検出する。
【0022】
図3(a)は紙幣5の平面略図を示し、かつ、該紙幣上における各センサP0〜P4による走査ラインを一点鎖線で示す。図3(b)は、1つのセンサ(例えばセンサP3)の検出信号レベルの一例を示す。縦軸は、ディジタル変換された検出信号レベルの絶対値を示す。横軸は、走査位置(時間)を示す。すなわち、パルスコーダPCからの回転検出信号に基づき走査位置が特定され、各走査位置に対応するセンサP3の出力信号のディジタル値を例示したものが図3(b)である。以下の説明においては、走査位置を順序数Iで示す。Iは、I=1,2,3,・所定の最大値"(これをImaxで示す)と変化する。図3の例では、センサP3の走査ラインにおいて、符号5aを付した箇所が最も印刷が濃く、最小透過レベルMINを示す。また、符号5bは透し模様の箇所であり、この部分では透過レベルは相対的に高い。最小透過レベルMINの絶対値は、紙幣5の全体的な汚れやセンサの固体誤差あるいは経年変化等、種々の要因に依存して、変動する。図3(b)の斜線を付した部分は、模様の変化パターンを反映している部分である。このように、各センサP0〜P4毎にその走査ラインに沿う模様(印刷模様及びすかし模様等)の透過光量パターンが固有のパターンを示す。
【0023】
〔基準データの作成の概略〕
次に、紙幣判定に必要とされる各種の基準データの作成手順について説明する。
図4は、紙幣判定に必要とされる各種の基準データを作成するための処理手順を大まかに示すフロー図である。
ステップS1:多数のサンプル紙幣についてのセンサデータの収集
最初のステップS1では、複数の紙幣識別装置を使用して、多数の紙幣についての様々な環境下、条件下での、センサデータ(各センサP0〜P4による検出データ)を収集し、多数のサンプルデータファイルを作成する。すなわち、ここでは、複数の各紙幣識別装置における各センサP0〜P4の組立誤差や固体誤差を考慮したサンプルデータ収集が行えるようにするために、複数の紙幣識別装置を使用して、かつ、異なる温度条件等の環境下で、多数のサンプル紙幣を該紙幣識別装置に挿入し、これに応じて各センサP0〜P4で検出した検出データをサンプルデータファイルとしてハードディスク等に保存する。サンプル紙幣としては、例えば、同じ金種ではあるが製造工場の異なる紙幣、新しい・未使用紙幣、汚れた・流通済紙幣など、様々な条件を満たす真券紙幣を、各金種毎に多数用意する。そして、各紙幣識別装置と中央のホストコンピュータシステムとをシリアル通信回線等で接続し、各紙幣識別装置で検出したセンサデータをホストコンピュータシステムに送信してサンプルデータファイルとしてハードディスク等に保存する。その場合、紙幣の金種、挿入方向、センサP0〜P4の区別等の付加情報も勿論記録しておく。
【0024】
ステップS2:センサデータ集計処理
次のステップS2では、ホストコンピュータシステムが、センサデータ集計処理用の所定のプログラム(図5A,図5B)を実行することにより、上記収集した多数のサンプルデータファイルについて、所定の集計処理を行う。この集計処理は、各金種毎に(例えば1ドル紙幣、5ドル紙幣、10ドル紙幣の3金種)、かつ、1金種につき複数の異なる挿入方向毎に(すなわち、表の一方向、表の逆方向、裏の一方向、裏の逆方向、の4方向)、かつ5個の各センサP0〜P4毎に、(すなわち、金種、挿入方向、センサという3つの項目の組合せに対応して、)それぞれ行われる。このステップS2では、図5A,図5Bに示す「センサデータ集計処理」プログラムに従って、1つの組合せに関する集計処理が行われる。1つの組合せに関する集計処理とは、1金種についての1挿入方向に関する1つのセンサの検出データについての集計処理である。例えば、「1ドル紙幣」を「表にして一方向に挿入」したときの「或るセンサ(例えばP3)」の検出データについての集計処理が、1つの組合せに関する集計処理である。この1つの組合せに関する集計処理が、多数枚(例えば7000枚位)のサンプルデータファイルを基にして行われる。換言すれば、1つの組合せに関する集計処理のために、所定の多数枚(例えば7000枚)分のサンプルデータファイルを、前記ステップS1で収集しておくものとする。
【0025】
従って、このステップS2では、実際は、上記の3金種、4挿入方向、5センサという条件では、合計60個の組合せに関する集計処理がそれぞれ行われることになる。しかし、各組合せに関する集計処理の手順は、図5A,図5Bに示されたような同じ処理手順からなるため、以下では、説明の簡単化のために、1つの組合せについての集計処理のみについて図5A,図5Bを参照して詳しく説明することにする。
【0026】
ステップS3:基準データテーブルの作成
次のステップS3では、前のステップS2で求めた集計結果に基づき、各組合せ毎(金種、挿入方向及びセンサ別)に、紙幣判定に必要とされる各種の基準データを作成し、それらをテーブル化してROM等に記憶する。基準データの詳しい内容については、追って説明する。
【0027】
〔センサデータ集計処理の概略説明〕
この「センサデータ集計処理」では、図5A,図5Bに示すメインルーチン、及び図6〜図9Bに示すサブルーチンを使用する。図示の都合上、メインルーチンは、図5Aと図5Bに分けられているが、「1」の記号が付された接続部を介して接続される。また、図9A,図9Bは連続するサブルーチンであり、「2」「3」「4」の記号が付された接続部を介してそれぞれ接続される。
この「センサデータ集計処理」の主な役割は、
(1)「絶対標準平均」の算出
(2)「パターン標準平均」の算出
(3)「走査位置標準平均」の算出
(4)「走査位置標準偏差」の算出
である。好ましくは、「センサデータ集計処理」の更なる役割は、
(5)「総合離隔値標準平均」の算出
(6)「総合離隔値標準偏差」の算出
である。
【0028】
なお、以下の説明で、「1サンプル」とは、1枚の紙幣についての1走査ラインに関するサンプルデータファイル(1センサの検出データ)のことである。従って、1サンプルデータファイルは、1つのセンサから得られる各走査位置番号I(ただし、I=1,2,3,・Imax)についての検出データからなっている。Imaxは、例えば「32」程度の数である。
各サンプルを区別するためのサンプル番号をNで示す。Nは、N=1,2,3,・「所定の最大値」(これをnmaxで示す)の値をとる順序数である。nmaxは、例えば「7000」程度の大きな数である。
1つのセンサデータを、NDATA(N,I)で示す。つまり、NDATA(N,I)は、サンプル番号Nのサンプルデータファイルにおける走査位置番号Iの検出データ(センサデータ)の絶対値を示す。
【0029】
(1)「絶対標準平均」(ABSX)とは、
下記「数1」の式で示される「1サンプルデータファイルの絶対値の平均値」Dav(N)を、すべてのNについて求め、これを下記「数2」の式で示されるように平均化することによって求められる1つの値である。このABSXの一例が例示的に図3(b)において示されている。
【0030】
【数1】

【数2】

【0031】
(2)「パターン標準平均」(PMX)とは、
下記「数3」の式によって、「1サンプルデータファイル内の各走査位置I毎の絶対値」NDATA(N,I)から「該サンプルデータファイル内の最小値」MINをそれぞれ引いて、「変化パターンデータ」Dp(N,I)を求め、
これを下記「数4」の式で示されるように平均化した値Dpav(N)を、すべてのNについて求め、
これを下記「数5」の式で示されるように平均化することによって求められる1つの値である。
このPMXの一例が例示的に図3(b)において示されている。最小値MINは、図3(b)でMINとして示されたものに相当する。また、図3(b)で斜線を付した部分(模様の変化パターンを反映している部分)が、上記「変化パターンデータ」Dp(N,I)の部分に相当している。
「数3」の式によって示された「変化パターンデータ」Dp(N,I)は、絶対値であるデータNDATA(N,I)を該ファイル内の最小値MINに対する差で表わした相対値データである。
【0032】
【数3】

【数4】

【数5】

【0033】
(3)「走査位置標準平均」(HMXADR(I))とは、
上記「数4」の式で示される「1サンプルの変化パターンデータの平均値」Dpav(N)と上記「数5」の式で示される「パターン標準平均」PMXとの比からなる「パターン補正係数」AJS(N)を、下記「数6」に示されるように、すべてのNについてそれぞれ求め、
上記「数3」の式で示される「1サンプルの変化パターンデータ」Dp(N,I)に上記「パターン補正係数」AJS(N)をそれぞれ掛け、その積に上記「絶対標準平均」ABSXと「パターン標準平均」PMXとの差を加算してなる「補正サンプルデータファイル」CDATA(N,I)を、下記「数7」に示されるように、すべてのN及びIについてそれぞれ求め、そして、
各走査位置I毎の上記「補正サンプルデータファイル」CDATA(N,I)の平均値を、下記「数8」の式で示されるように、それぞれ求めることにより得られる値である。
【0034】
「数7」の式によって示される「補正サンプルデータファイル」CDATA(N,I)は、相対値からなる補正サンプルデータを正規化したものである。なお、「数7」の式において、「絶対標準平均」ABSXと「パターン標準平均」PMXとの差を加算する部分を省略し、Dp(N,I)にAJS(N)を掛ける項のみとしてもよい。
【0035】
【数6】

【数7】

【数8】

【0036】
(4)「走査位置標準偏差」(HMSADR(I))とは、
上記「数7」で示される上記「補正サンプルデータファイル」CDATA(N,I)を用いて、各走査位置I毎に、下記の「数9」の式によって求める標準偏差である。
【数9】

【0037】
(5)「総合離隔値標準平均」(RTXXX)とは、
上記「数7」で示される「補正サンプルデータファイル」CDATA(N,I)と、上記「数8」で示される走査位置標準平均HMXADR(I)と、上記「数9」で示される走査位置標準偏差HMSADR(I)とから、下記の「数10」により、各サンプルN毎の「総合離隔値」TOD(N)を求め、
下記の「数11」によってその算術平均を求めることにより得られるものである。
【0038】
【数10】

【数11】

【0039】
(6)「総合離隔値標準偏差」(RTSIG)とは、
上記「数10」で示される「総合離隔値」TOD(N)を用いて、下記の「数12」の式によって求める標準偏差である。
【数12】

【0040】
〔センサデータ集計処理の詳細説明〕
次に、図5A〜図9Bによって、「センサデータ集計処理」の具体例を説明する。
図5Aにおいて、最初のステップS10では、すべてのデータ配列の初期化処理(レジスタ類の初期化)を行う。
次のステップS11では、図6に示す「絶対標準平均とパターン標準平均算出」のサブルーチンを行う。図6のサブルーチンでは、上記の「絶対標準平均」ABSXと「パターン標準平均」PMXを算出する。
まず、サンプル番号Nを記憶するレジスタの内容を最初の値「1」にセットする(ステップS30)。次のステップS31では、図8に示す「最小値検出(MIN検出)」のサブルーチンを行う。
【0041】
図8において、まず、ステップS50では、最小値MINをストアするレジスタの内容を、最大値「999」に初期設定する。
次に、走査位置番号Iを最初の値「1」にセットする(ステップS51)。
次のステップS52では、NとIによって特定される1サンプルデータファイル(N)内の1走査位置(I)のセンサデータの絶対値NDATA(N,I)が最小値レジスタMINのストア値よりも小さいかを判断する。YESであれば、ステップS53に行き、この値NDATA(N,I)をレジスタMINにストアする(MINを更新する)。次に、Iを1増加し(ステップS54)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS55)、NOであればステップS52に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、その値NDATA(N,I)の大小をチェックし、最後にレジスタMINにストアされている値が真の最小値MINを示していることになる。こうして、サンプル番号Nについての1サンプルデータファイル内のセンサデータの最小値MINが検出される。
【0042】
図6に戻ると、ステップS32では、計算途中のデータを一時記憶するためのレジスタAREGとBREGの内容をそれぞれ「0」にクリアする。レジスタAREGは「絶対標準平均」ABSXの計算に使用され、レジスタBREGは「パターン標準平均」PMXの計算に使用される。
ステップS33では、走査位置番号Iを最初の値「1」にセットする。
ステップS34では、NとIによって特定される1サンプルデータファイル(N)内の1走査位置(I)のセンサデータの絶対値NDATA(N,I)を、レジスタAREGの現在値に累算する。また、この値NDATA(N,I)と上記のように検出した最小値MINとの差を求め、これをレジスタBREGの現在値に累算する。
【0043】
次に、Iを1増加し(ステップS35)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS36)、NOであればステップS34に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、ステップS34での累算処理を行い、ステップS36がYESとなったときは、レジスタAREGには、そのサンプルデータファイル(N)についての全てのIについてのNDATA(N,I)の合計値がストアされ、レジスタBREGには、そのサンプルデータファイル(N)についての全てのIについての「NDATA(N,I)−MIN」の合計値がストアされている。
【0044】
ステップS37では、各レジスタAREG,BREGにストアされている上記合計値をImaxで割算して、平均値を求める。すなわち、「AREG/Imax」は、前記「数1」で求める「サンプル平均値Dav(N)」に相当する。また、「BREG/Imax」は、前記「数4」で求める「変化パターン平均値Dpav(N)」に相当する。そして、求めた各平均値を、それぞれレジスタABSX,PMXの現在値に累算して、該レジスタABSX,PMXの内容を更新する。なお、レジスタABSX,PMXの内容は、初期化処理によって最初は「0」にクリアされている。
【0045】
次に、Nを1増加し(ステップS38)、Nが最大値nmaxより大になったかを判断し(ステップS39)、NOであればステップS31に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのNについて、ステップS31〜S37の処理を行い、ステップS39がYESとなったときは、レジスタABSXには、すべてのNについての「サンプル平均値Dav(N)」の合計値(数2の式の左辺の分子)がストアされ、レジスタPMXには、すべてのNについての「変化パターン平均値Dpav(N)」の合計値(数5の式の左辺の分子)がストアされている。次のステップS40では、各レジスタABSX,PMXの内容を全サンプル数nmaxで割算して平均値を求め、その結果を各レジスタABSX,PMXにそれぞれストアする。こうして、最終的に、レジスタABSXには前記数2で示される「絶対標準平均ABSX」がストアされ、レジスタPMXには前記数5で示される「パターン標準平均PMX」がストアされる。
【0046】
図6のサブルーチンを終了すると、図5AのステップS12に戻る。
ステップS12では、サンプル番号Nを記憶するレジスタの内容を最初の値「1」にセットする。次のステップS13では、図7に示す「変化パターン平均算出」のサブルーチンを行う。
図7において、まず、ステップS41では、図8に示す「最小値検出(MIN検出)」のサブルーチンを行い、サンプル番号Nについての1サンプルデータファイル中の最小値MINを検出する。次に、レジスタAREGを「0」にクリアし(ステップS42)、Iを「1」にセットする(ステップS43)。
次のステップS44では、NとIによって特定される1サンプルデータファイル(N)内の1走査位置(I)のセンサデータの絶対値NDATA(N,I)と上記のように検出した最小値MINとの差を求め、これをレジスタAREGの現在値に累算する。この差は、前記数3の「変化パターンデータDp(N,I)」に相当する。
【0047】
次に、Iを1増加し(ステップS45)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS46)、NOであればステップS44に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、ステップS44での累算処理を行い、ステップS46がYESとなったときは、レジスタAREGには、そのサンプルデータファイル(N)についての全てのIについての「NDATA(N,I)−MIN」の合計値がストアされている。この合計値は、前記数4の左辺の分子に相当する。次のステップS47では、レジスタAREGにストアされている上記合計値をImaxで割算して、平均値を求め、これによってレジスタAREGの値を更新する。すなわち、「AREG/Imax」は、前記「数4」で求める「変化パターン平均値Dpav(N)」に相当する。
【0048】
図7のサブルーチンを終了すると、図5AのステップS14に戻る。
ステップS14では、「パターン標準平均PMX」を、レジスタAREGの「変化パターン平均値Dpav(N)」で割算し、前記数6に示された「パターン補正係数AJS(N)」を求め、これをレジスタAJSにストアする。
次に、Iを「1」にセットする(ステップS15)。
次のステップS16では、NとIによって特定される1サンプルデータファイル(N)内の1走査位置(I)のセンサデータの絶対値NDATA(N,I)と、該データファイルにおける最小値MINと、各レジスタABSX,PMX,AJSにストアした値とを使用して、
{NDATA(N,I)−MIN}*AJS+ABSX−PMX
という演算を行い、その結果をレジスタAREGにストアする。この演算は、1つのIについての前記「数7」の演算に相当している。すなわち、「数7」の「補正サンプルデータCDATA(N,I)」が特定のNとIに関して求められる。
【0049】
次のステップS17では、レジスタAREGにストアした上記「補正サンプルデータCDATA(N,I)」を、Iに対応するレジスタTOTAL(I)の内容に累算する。また、レジスタAREGにストアした上記「補正サンプルデータCDATA(N,I)」を二乗し、この結果をIに対応するレジスタTOLSIG(I)の内容に累算する。これらのレジスタTOTAL(I),TOLSIG(I)は、各I毎にそれぞれ設けられており、初期化処理によって最初は「0」にクリアされている。
【0050】
次に、Iを1増加し(ステップS18)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS19)、NOであればステップS16に戻って、演算処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、ステップS16,S17での演算処理を行うと、ステップS19がYESとなり、次のステップS20でNを1増加する。次に、Nが最大値nmaxより大になったかを判断し(ステップS21)、NOであればステップS13に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのNとIについて、ステップS13〜S17の演算処理を行うと、ステップS21がYESとなり、図5BのステップS23に行く。このとき、各I毎のレジスタTOTAL(I)の内容は、該IについてのCDATA(N,I)をすべてのNについた合計した値(前記「数8」の左辺の分子)に相当している。また、各I毎のレジスタTOLSIG(I)の内容は、該IについてのCDATA(N,I)の二乗をすべてのNについた合計した値に相当している。
【0051】
図5Bにおいては、Iを「1」にセットし(ステップS23)、それから所定の演算を行い(ステップS24)、それから、Iを1増加し(ステップS25)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS26)、NOであればステップS24に戻って、所定の演算処理を繰返す。
ステップS24で行う第1の演算
HMXADR(I)=TOTAL(I)/nmax
は、各I毎に、レジスタTOTAL(I)の内容をサンプル合計数nmaxで割算し、前記「数8」で示された「走査位置標準平均HMXADR(I)」を求めることに相当している。
ステップS24で行う第2の演算
TEMP=TOTAL(I)*TOTAL(I)
は、各I毎に、レジスタTOTAL(I)の内容を二乗し、これをテンポラリレジスタTEMPに一時記憶することである。
【0052】
ステップS24で行う最後の演算は、前記「数9」の「走査位置標準偏差HMSADR(I)」を求める演算である。すなわち、レジスタTOLSIG(I)にストアされた「CDATA(N,I)の二乗の合計値」からレジスタTEMPにストアされた「CDATA(N,I)の合計値の二乗」を「nmax」で割った数を引き算し、この結果を「nmax−1」で割り、その結果の平方根を求めることから成っている。
以上のようにして、すべてのIに関して、「走査位置標準平均HMXADR(I)」と「走査位置標準偏差HMSADR(I)」が求められると、ステップS26はYESとなり、ステップS27に行く。ステップS27では、図9A及び図9Bに示す「総合離隔値集計」のサブルーチンを行う。
【0053】
図9Aにおいて、まず、計算用のレジスタTTOLとTSIGをそれぞれ「0」にクリアし(ステップS60)、Nを「1」にセットする(ステップS61)。
次に、ステップS62では、図7に示す「変化パターン平均算出」のサブルーチンを行い、前記「数4」に示された「変化パターン平均値Dpav(N)」をレジスタAREGにストアする。
次のステップS63では、図5AのステップS14と同様に、「パターン標準平均PMX」を、レジスタAREGの「変化パターン平均値Dpav(N)」で割算し、前記数6に示された「パターン補正係数AJS(N)」を求め、これをレジスタAJSにストアする。
次に、レジスタCREGを「0」にクリアし(ステップS64)、Iを「1」にセットする(ステップS65)。
【0054】
次のステップS66では、図5AのステップS16と同様の処理を行う。すなわち、前記「数7」に示す「補正サンプルデータCDATA(N,I)」を特定のNとIに関して求め、レジスタAREGにストアする。
ステップS67では、レジスタAREGにストアした「補正サンプルデータCDATA(N,I)」が、「走査位置標準平均HMXADR(I)」より大きいか否かを判断し、YESであれば、ステップS68で「AREG−HMXADR(I)」を演算してその結果をレジスタBREGにストアし、NOであれば、ステップS69で「HMXADR(I)−AREG」を演算してその結果をレジスタBREGにストアする。こうして、前記「数10」に示す差分値「CDATA(N,I)−HMXADR(I)」の絶対値が求められ、レジスタBREGにストアされる。
【0055】
ステップS70では、レジスタBREGの値を「走査位置標準偏差HMSADR(I)」で割算して、その結果をレジスタBREGにストアする。
こうして、走査位置Iに関する「補正サンプルデータCDATA(N,I)」が、「走査位置標準平均HMXADR(I)」から「走査位置標準偏差HMSADR(I)」の何倍だけ隔たっているか、ということが正規化もしくは標準化された具体的な数値で示されることになり、この数値がレジスタBREGに一時ストアされる。この数値は、統計学上では「標準化変量」とも言われるものであるが、本明細書では、便宜上、「離隔値」と言うことにする。従って、各走査位置Iに関する「補正サンプルデータCDATA(N,I)」の離隔値は、以下、便宜上、「走査位置離隔値SPD(N,I)」という。
【0056】
明らかなように、この「走査位置離隔値」は、下記の「数13」の式で表わされるものである。
【数13】

【0057】
次のステップS71(図9B)では、レジスタBREGの値をレジスタCREGの内容に累算する。それから、Iを1増加し(ステップS72)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS73)、NOであればステップS66(図9A)に戻って、演算処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、ステップS66〜S70での演算処理を行うと、ステップS73がYESとなる。このとき、レジスタCREGの内容は、或る特定のサンプルNについての前記「数10」に示す「総合離隔値TOD(N)」を示している。すなわち、この「総合離隔値TOD(N)」は、上記「数13」で示される「走査位置離隔値」の算術的合計値である。
【0058】
ステップS74では、合計用レジスタTTOLの内容(最初は0)に対して上記レジスタCREGの内容を累算する。また、レジスタCREGにストアした上記「総合離隔値TOD(N)」を二乗し、この結果をレジスタTSIGの内容(最初は0)に累算する。
次に、Nを1増加し(ステップS75)、Nが最大値nmaxより大になったかを判断し(ステップS76)、NOであればステップS62(図9A)に戻って、演算処理を繰返す。こうして、すべてのIとNについて、ステップS62〜S74での演算処理を終了すると、ステップS76がYESとなり、ステップS77に行く。
【0059】
ステップS77で行う第1の演算
RTXXX=TTOL/nmax
は、レジスタTTOLの内容をサンプル合計数nmaxで割算し、前記「数11」で示された「総合離隔値標準平均RTXXX」を求めることに相当している。
ステップS77で行う第2の演算は、前記「数12」の「総合離隔値標準偏差RTSIG」を求める演算である。すなわち、レジスタTSIGにストアされた「総合離隔値TOD(N)の二乗の合計値」から、レジスタTTOLにストアされた「総合離隔値TOD(N)の合計値」の二乗を「nmax」で割った数、を引き算し、この結果を「nmax−1」で割り、その結果の平方根を求めることから成っている。
以上のようにして、「総合離隔値標準平均RTXXX」と「総合離隔値標準偏差RTSIG」が求められると、図9A及び図9Bに示す「総合離隔値集計」のサブルーチンが終了する。
【0060】
〔基準データテーブルの概略説明〕
以上の「センサデータ集計処理」によって、
(1)「絶対標準平均 ABSX」
(2)「パターン標準平均 PMX」
(3)「走査位置標準平均 HMXADR(I)」
(4)「走査位置標準偏差 HMSADR(I)」
(5)「総合離隔値標準平均 RTXXX」
(6)「総合離隔値標準偏差 RTSIG」
が、或る1つの金種とその1つの挿入方向と1つのセンサ(P0〜P4のうち1つ)の組合せに対応して求められる。これを紙幣識別用の基準データの1組として、金種、挿入方向及びセンサの情報をインデックスとして、テーブルに記憶する(図4のステップS3)。
【0061】
かくして、上述の「センサデータ集計処理」によって、すべての金種とすべての挿入方向とすべてのセンサP0〜P4の組合せに対応して、上記(1)〜(6)の6種の基準データをそれぞれ算出し、これらを上記テーブルに記憶する。各インデックスの表示法として、金種をKIN、挿入方向をINS、センサをSEN、で示すとすると、すべての金種とすべての挿入方向とすべてのセンサP0〜P4の組合せに対応する上記(1)〜(6)の6種の基準データは、下記のように表現できる。
絶対標準平均: ABSX(KIN,INS,SEN)
パターン標準平均: PMX(KIN,INS,SEN)
走査位置標準平均: HMXADR(KIN,INS,SEN,I)
走査位置標準偏差: HMSADR(KIN,INS,SEN,I)
総合離隔値標準平均: RTXXX(KIN,INS,SEN)
総合離隔値標準偏差: RTSIG(KIN,INS,SEN)
【0062】
なお、変形例として、「総合離隔値標準平均 RTXXX」と、「総合離隔値標準偏差 RTSIG」は、各センサ毎の「総合離隔値標準平均 RTXXX(KIN,INS,SEN)」、「総合離隔値標準偏差 RTSIG(KIN,INS,SEN)」を、それぞれ全センサについて合計して、下記のように、KINとINSのみをインデックスとするものとしてもよい。
総合離隔値標準平均: RTXXX(KIN,INS)
総合離隔値標準偏差: RTSIG(KIN,INS)
【0063】
図4のステップS3の処理では、さらなる紙幣識別用の基準データとして、次のような各種の判定パラメータを決定し、そのテーブルを作成する。
(7)走査位置判定基準(PMST)
これは、各走査位置I毎の離隔値(すなわち上記数13で示した「走査位置離隔値(SPD(N,I)」)の限界判定値を設定するものであり、数13から判るように走査位置標準偏差HMSADR(I)に対する或る倍率n(nは任意の数であり、小数を含む)を示す。この走査位置判定基準(PMST)の決定は、所定の1金種に関して多数の真券紙幣を挿入して、それに対応して得られる各「走査位置離隔値(SPD(N,I)」が、様々に設定された限界判定値nに照らして真券として受け入れられるかどうかをシミュレートする(真券受入れ度のシミュレーションを行う)ことにより、経験的に決定する。例えば、各走査位置離隔値についての限界判定値を、走査位置標準偏差HMSADR(I)の4.0倍から6.0倍までの範囲で0.2倍単位の倍率nで各種設定し、真券受入れ度のシミュレーションを行うことにより、希望する受入れ率を達成する最適な倍率nを示す1つの値を決定し、これを走査位置判定基準(PMST)とすることができる。この走査位置判定基準(PMST)は、複数の各金種及び挿入方向毎にそれぞれ決定し、下記のようにKINとINSをインデックスとするテーブル形式で記憶する。
走査位置判定基準: PMST(KIN,INS)
【0064】
(8)近似金種テーブル(KINJI)
これは、パターンの近似している金種があるかどうかを示すテーブルである。多数の紙幣を使用したシミュレーションによって、パターンの近似している金種があるかどうかを検出し、あれば、そのデータをテーブルに記憶する。この近似金種の有無は、各金種及び挿入方向毎に決定し、下記のようにKINとINSをインデックスとするテーブル形式で記憶する。
近似金種テーブル: KINJI(KIN,INS)
この近似金種テーブルに記憶するデータ内容は、近似している金種を示すコードとその挿入方向を示すコードとからなる。例えば、或る金種の紙幣の或る挿入方向についての検出パターンが、別の金種の紙幣の或る挿入方向についての検出パターンと近似している場合に、そのことを示すために、上記のように金種コード挿入方向コードがテーブルのインデックス指定位置に記憶される。近似金種がなければ、「0」のコードが記憶される。このような近似金種テーブルは、必須ではないが、あれば、近似金種が挿入された場合の識別感度調整等に便利であり、識別精度を上げるのに役立つ。
【0065】
(9)総合離隔値判定基準(TMST)
これは、総合離隔値TOD(N)の限界判定値を設定するものであり、総合離隔値標準偏差RTSIGをm倍(mは任意の数であり、小数を含む)した値(つまり積)に対して総合離隔値標準平均RTXXXを加算した値を示す。この総合離隔値判定基準(TMST)の決定にあたっても、所定の1金種に関して多数の真券紙幣を挿入して、様々な倍数(即ち乗数)mでの真券受入れ度のシミュレーションを行うことにより、経験的に決定する。例えば、各総合離隔値についての限界判定値を、総合離隔値標準偏差RTSIGに対する倍数(即ち乗数)mの値を3.0倍から5.0倍までの範囲で0.2倍単位で各種設定すると共に、それぞれの積に対して総合離隔値標準平均RTXXXを加算することにより求め、こうして真券受入れ度をシミュレーションを行うことにより、希望する受入れ率を達成するのに最適な、総合離隔値標準偏差RTSIGに対する倍数(即ち乗数)mの1つの値を決定することができる。ここで、総合離隔値判定基準(TMST)は、総合離隔値TOD(N)との直接的な比較処理を可能とするために、上記決定した倍数(即ち乗数)mを総合離隔値標準偏差RTSIGに掛けた積に対して、総合離隔値標準平均RTXXXを加算した値、の形で形成する。このようにして、総合離隔値判定基準(TMST)を、複数の各金種及び挿入方向毎にそれぞれ決定し、下記のようにKINとINSをインデックスとするテーブル形式で記憶する。
総合離隔値判定基準: TMST(KIN,INS)
【0066】
(10)近似金種処理フラグ(FKINJ)
これは、紙幣識別結果として2金種について真券との判定が出されたときに、どのように処理するかを設定するフラグである。最適の処理が行えるようにするために、各金種及び挿入方向毎にこのフラグを設定し、下記のようにKINとINSをインデックスとするテーブル形式で記憶する。
近似金種処理フラグ: FKINJ(KIN,INS)
このフラグのデータ内容は、例えば、返却処理をすべきときは「0」、総合離隔値の小さい方の金種を真券として決定するときは「1」である。
【0067】
なお、本発明に従って構成した紙幣識別装置を使用するユーザの側で、判定用の基準データを必要に応じて変更できるようにするために、上記の各種基準データのうち或るものに関しては、書き換え可能なROMに記憶するようにしておくとよい。例えば、「走査位置判定基準」テーブルPMST(KIN,INS)及び「総合離隔値判定基準」テーブルTMST(KIN,INS)のように、識別感度の調整に関与する基準データのテーブルや、「近似金種処理フラグ」テーブルFKINJ(KIN,INS)などは、書き換え可能なROMに記憶し、必要に応じて書き換えできるようにするとよい。勿論、これらの書き換え可能な基準データは、テーブル形式で記憶することに限らず、データ設定スイッチ等によって設定するようにしてもよい。
【0068】
〔紙幣識別処理の詳細説明〕
次に、本発明に従う紙幣識別処理の具体例について図10以降のフロー図を参照して説明する。
図10は、紙幣識別処理のメインルーチンを示す。このメインルーチンは、識別対象たる1枚の紙幣が紙幣識別装置に挿入され、各センサP0〜P4によって検出したデータファイルが所定のバッファレジスタBUF(SEN,I)内にストアされると、開始される。バッファレジスタBUF(SEN,I)のインデックスSENはセンサP0〜P4を示し、Iは各走査位置Iを示す。以下では、説明の簡単化のために、1つのセンサ(P0〜P4)の検出データに基づく識別処理について説明する。従って、以下では、検出データを記憶するバッファレジスタBUFは、SENの表示を除外して、BUF(I)で示す。また、判定のために使用する各種の基準データテーブルも、各センサに対応するものを使用するが、以下の説明では、センサ区別用のインデックス表示「SEN」の表示を除外して示す。例えば、「パターン標準平均」PMXは、インデックス表示付きでは、本来、PMX(KIN,INS,SEN)と表すのが正しいが、説明の簡略化のために、PMX(KIN)で示す。他も同様である。
【0069】
図10において、最初のステップS80では、図11に示す「パターン変化データ変換」サブルーチンを行う。
(1)変化パターンデータと変化パターン平均値の算出
図11の「パターン変化データ変換」サブルーチンでは、ステップS90〜S95の処理によって、バッファレジスタBUF(I)(ただし、I=1,2,3・Imax)内のセンサデータファイルにおける最小値MINを検出する。この処理は、図8のステップS50〜S55の処理と同様の手順からなる。
すなわち、まず、レジスタMINの内容を最大値「999」に初期設定し(ステップS90)、走査位置番号Iを最初の値「1」にセットする(ステップS91)。次のステップS92では、Iによって特定されるバッファレジスタBUF(I)にストアされている1走査位置のセンサデータの絶対値が最小値レジスタMINのストア値よりも小さいかを判断する。YESであれば、ステップS93に行き、このレジスタBUF(I)の内容をレジスタMINにストアする(MINを更新する)。次に、Iを1増加し(ステップS94)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS95)、NOであればステップS92に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、バッファレジスタBUF(I)にストアされている値の大小をチェックし、最後にレジスタMINにストアされている値が真の最小値MINを示していることになる。
【0070】
次のステップS96からS101までの処理は、図7のステップS42からS47までの処理と同様の手順からなり、挿入された紙幣の「変化パターンデータ」(前記数3のDp(I)に相当する)を算出してレジスタBUF(I)にストアすると共に、「変化パターン平均値」(前記数4のDpavに相当する)を算出し、これをレジスタXXXにストアする。
すなわち、レジスタXXXの内容を「0」にクリアし(ステップS96)、Iを「1」にセットする(ステップS97)。次に、Iによって特定されるバッファレジスタBUF(I)にストアされている1走査位置(I)のセンサデータの絶対値と上記のように検出した最小値MINとの差を求め、これによってバッファレジスタBUF(I)の内容を更新する(ステップS98)。この差は、前記数3の「変化パターンデータDp(I)」に相当する。そして、更新されたバッファレジスタBUF(I)の内容をレジスタXXXの現在値に累算する(ステップS98)。
【0071】
次に、Iを1増加し(ステップS99)、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し(ステップS100)、NOであればステップS98に戻り、処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、ステップS98での演算処理を行い、ステップS100がYESとなったときは、レジスタXXXには、挿入された紙幣のセンサデータファイルについての全てのIについての「変化パターンデータDp(I)」の合計値がストアされている。次のステップS101では、レジスタXXXにストアされている上記合計値をImaxで割算して、平均値を求め、これによってレジスタXXXの値を更新する。すなわち、「XXX/Imax」は、前記「数4」で示された「変化パターン平均値Dpav」に相当する。
以上によって、バッファレジスタBUF(I)には、挿入紙幣についての、前記数3の「変化パターンデータDp(I)」に相当する「変化パターンデータファイル」が保存され、レジスタXXXには、その「変化パターン平均値Dpav」が保存される。
【0072】
(2)パターン補正係数の算出
図10に戻り、ステップS80のサブルーチンが終了すると、レジスタKINの内容を最初の値「1」にセットし(ステップS81)、なお、レジスタKINの値は、演算処理すべき金種と挿入方向を示すものとする。例えば、3金種、4挿入方向の場合、レジスタKINの値は、1から12まで変化するものとする。レジスタKINの値の最大値をKmaxで示す。次に、図12に示す「離隔値判定」のサブルーチンを行う(ステップS82)。この「離隔値判定」のサブルーチンにおいては、挿入された紙幣についての各走査位置単位での離隔値の判定処理と、総合離隔値の判定処理を行う。
【0073】
図12において、まず、総合離隔値集計レジスタRISANの内容を「0」にクリアする(ステップS110)。次のステップS111では、前記数6と同様の演算を行い、挿入された紙幣についての「パターン補正係数」AJSを算出する。すなわち、レジスタKINが指定する金種及び挿入方向についての「パターン標準平均PMX」(これを便宜上、PMX(KIN)で図示するが、実際は、PMX(KIN,INS,SEN)で表されるべきものである)を基準データテーブルから引き出し、これをレジスタXXXの「変化パターン平均値(Dpav)」で割算し、その商を、挿入された紙幣についての「パターン補正係数」AJSとして、レジスタAJSにストアする。
【0074】
(3)走査位置離隔値と総合離隔値の算出
次に、Iを「1」にセットし(ステップS112)、次のステップS113では、図5AのステップS16と同様の処理を行う。すなわち、前記「数7」に示す「補正サンプルデータCDATA(N,I)」に相当する、挿入紙幣についての補正センサデータを特定のIに関して求め、レジスタBREGにストアする。すなわち、レジスタKINが指定する金種及び挿入方向についての「絶対標準平均ABSX」(これを便宜上、ABSX(KIN)で図示するが、実際は、ABSX(KIN,INS,SEN)で表されるべきものである)を基準データテーブルから引き出し、かつ、上記と同様に「パターン標準平均PMX(KIN)」を基準データテーブルから引き出し、これらと、上記レジスタAJSにストアした挿入された紙幣についての「パターン補正係数」AJSとを使用して、バッファレジスタBUF(I)にストアされている挿入紙幣についての「変化パターンデータ」(数3のDp(I)に相当)に対して、
BUF(I)*AJS+ABSX(KIN)−PMX(KIN)
という演算を行い、その結果をレジスタBREGにストアする。この演算は、1つのIについての前記「数7」の演算に相当している。前述と同様に、+ABSX(KIN)−PMX(KIN)の部分を省略し、BUF(I)*AJSの項のみとしてもよい。
【0075】
次に、ステップS114では、レジスタKINが指定する金種及び挿入方向についての「走査位置標準平均HMXADR(I)」(これを便宜上、HMXADR(KIN,I)で図示するが、実際は、HMXADR(KIN,INS,SEN,I)で表されるべきものである)を基準データテーブルから引き出し、レジスタBREGにストアした値が、この「走査位置標準平均HMXADR(KIN,I)」より大きいか否かを判断し、YESであれば、ステップS115で「BREG−HMXADR(KIN,I)」を演算してその結果をレジスタBREGにストアし、NOであれば、ステップS116で「HMXADR(KIN,I)−BREG」を演算してその結果をレジスタBREGにストアする。こうして、BREGとHMXADR(KIN,I)の差の絶対値が求められ、レジスタBREGにストアされる。
【0076】
ステップS117では、レジスタKINが指定する金種及び挿入方向についての「走査位置標準偏差HMSADR(I)」(これを便宜上、HMSADR(KIN,I)で図示するが、実際は、HMSADR(KIN,INS,SEN,I)で表されるべきものである)を基準データテーブルから引き出し、レジスタBREGの値を「走査位置標準偏差HMSADR(KIN,I)」で割算して、その結果をレジスタBREGにストアする。これにより、挿入紙幣についての当該走査位置Iのセンサデータの走査位置標準平均HMXADR(KIN,I)からの走査位置離隔値SPD(I)が求められ、レジスタBREGにストアされる。
次のステップS118では、レジスタBREGにストアされた走査位置離隔値SPD(I)を総合離隔値集計レジスタRISANの内容に累算する。これにより、挿入紙幣についての総合離隔値TODを得るための累算が行われる。すなわち、すべてのIについてステップS118でのRISANの累算が終わったとき、総合離隔値TODがレジスタRISAN内に算出される。
【0077】
ステップS119では、レジスタKINが指定する金種及び挿入方向についての「総合離隔値判定基準TMST」(これを便宜上、TMST(KIN)で図示するが、実際は、TMST(KIN,INS)で表されるべきものである)を基準データテーブルから引き出し、
RISAN ≦ TMST(KIN)
であるか否かを判断する。YESであれば、許容範囲内であり、ステップS120に進む。NOであれば、許容範囲外であり、ステップS124に進む。従って、このステップS119では、挿入された紙幣の総合離隔値が、総合離隔値判定基準値つまり総合離隔値判定基準TMST(KIN)に照らして、適正範囲内であるか否かが評価される。すべてのIについてステップS119での判定結果がYESであれば、挿入紙幣についての総合離隔値TODが、総合離隔値判定基準値つまり総合離隔値判定基準TMST(KIN)に照らして適正範囲内である、ということになる。
【0078】
ステップS120では、レジスタKINが指定する金種及び挿入方向についての「走査位置判定基準PMST」(これを便宜上、PMST(KIN)で図示するが、実際は、PMST(KIN,INS)で表されるべきものである)を基準データテーブルから引き出し、
BREG ≦ PMST(KIN)
であるか否かを判断する。YESであれば、許容範囲内であり、ステップS121に進む。NOであれば、許容範囲外であり、ステップS124に進む。従って、このステップS120では、挿入された紙幣の走査位置離隔値が、走査位置離隔値判定基準値つまり走査位置判定基準PMST(KIN)に照らして、適正範囲内であるか否かが評価される。
【0079】
ステップS121では、Iを1増加する。次のステップS122では、Iが最大値Imaxより大になったかを判断し、NOであればステップS113に戻って、演算処理を繰返す。こうして、すべてのIについて、ステップS113〜S120での演算処理を行い、かつ、と総合離隔値の判定結果がYESであれば、ステップS122がYESとなり、次のステップS123で判定フラグPASFLGを「0」にセットする。一方、ステップS119又はS120で一度でもNOと判断されると、ステップS124に行き、判定フラグPASFLGを「1」にセットする。
判定フラグPASFLGの「0」は、現在判定中の金種KINに関して、挿入紙幣が真券であると判定されたことを示す。
判定フラグPASFLGの「1」は、現在判定中の金種KINに関して、挿入紙幣が真券であると判定されなかったことを示す。
【0080】
なお、上記では、ステップS119及びS120において、総合離隔値判定及び走査位置離隔値判定の両方を行っているが、どちらか一方のみとしてもよい。また、図では、ステップS120の結果が1回(1走査位置)でもNOであれば、ステップS124で判定フラグPASFLGが「1」にセットされるようになっているが、これに限らず、ステップS120の結果がNOとなった回数をカウントし、所定回数以上NOとなった場合にステップS124で判定フラグPASFLGを「1」にセットするようにしてもよい。
【0081】
なお、最終的な真偽判定は、全センサP0〜P4の検出データが真券と判定している場合に真券と判定するものとする。図12では、図示の都合上、1つのセンサ(P0〜P4)についての演算処理フローを示し、他のセンサについての演算処理フローの図示を省略してある。詳しくは、例えば、ステップS113からS122までの処理を全P0〜P4の検出データについて行い、最終的に、総合離隔値集計レジスタRISANには、全センサP0〜P4についての総合離隔値を集計し、レジスタBREGには全センサP0〜P4についての走査位置離隔値の合計を集計するものとし、ステップS119及びS120では全センサP0〜P4についての合計値をストアしている各レジスタRISAN,BREGの内容と、所定の基準データTMST(KIN),PMST(KIN)とを比較するものとする。
【0082】
(4)近似金種テーブルの参照
図10に戻り、ステップS83では、前ステップS82での判定処理の結果得られた判定フラグPASFLGの値が0以外か否かを調べる。YESであれば、真券とは判定されなかったので、他の金種及び挿入方向についての判定を行う必要がある。そこで、レジスタKINの値を1増加し(ステップS87)、次にKINの値が所定の最大値Kmaxよりも大であるか否かを調べる。NOであれば、ステップS82に戻り、増加したKINについて、前述と同様の判定処理を行う。すべての金種及び挿入方向について、真券でないと判定された場合は、ステップS89に行き、挿入紙幣が偽券であるとの結論を出し、返却等の必要な処理を行う。
【0083】
一方、ステップS82のサブルーチンの判定処理によって、或る金種について真券であるとの結論が出されると、判定フラグPASFLGの値が0にセットされるから、ステップS83がNOと判断され、ステップS84に行き、図13に示す「近似金種テーブル判定」のサブルーチンを実行する。
この「近似金種テーブル判定」の処理は、近似金種テーブルKINJ(KIN,INS)の内容を参照して、真券との結論が出る可能性のある他の金種についてもその真偽を判定し、挿入紙幣の真の金種を1つに絞り込む処理を行う。なお、真の金種を1つに絞り込めなかった場合は、偽券として返却する。
【0084】
図13において、最初のステップS130では、次のような各処理を行う。
レジスタKINの値(前記ステップS82の処理によって最初に真券と判定された金種を示している)を、レジスタBKIN(0)にリザーブする。
総合離隔値集計レジスタRISANにストアされている、最初に真券と判定された金種についての挿入紙幣の総合離隔値を、レジスタRISTOL(0)にリザーブする。
真券判定カウンタBILCNTの内容を「1」にセットする。
近似金種テーブル読出用のポインタKINCNTの内容を「0」にセットする。
【0085】
次のステップS131では、前記近似金種テーブルKINJIから、レジスタBKIN(0)の値とポインタKINCNTの値とをアドレスとして、近似金種コードの読出を行い、この読出データをレジスタKINにストアする。
ステップS132では、読み出した近似金種コードKINが「0」でない(近似する金種が他にある)か否かをチェックする。ステップS132がNO(つまりKIN=0)の場合は、前記ステップS82の処理によって最初に真券と判定された金種に関して、他に近似する金種がないことを示す。この場合は、ステップS137に分岐する。ステップS132がYES(つまりKIN≠0)の場合は、前記ステップS82の処理によって最初に真券と判定された金種に関して、近似する金種が他にあることを示す。この場合は、ステップS133に進む。
【0086】
前記ステップS82の処理によって最初に真券と判定された金種に関して、他に近似する金種が有る場合について説明すると、ステップS133で前記図12の「離隔値判定」サブルーチンを行う。このとき、レジスタKINの値は、近似金種テーブルKINJIから参照した「近似する金種のコード」を示しているので、その「近似する金種」についての各種基準データを使用して図12の「離隔値判定」サブルーチンを実行し、該「近似する金種」に関しても、挿入紙幣が真券と判定されるか否かが判定される。
ステップS134では、判定フラグPASFLGが「0」であるか否かを判断する。該「近似する金種」に関しても、挿入紙幣が真券と判定された場合は、判定フラグPASFLGが「0」にセットされており、次のステップS135で次のような処理を行う。
【0087】
BKIN(BILCNT)=KIN:
レジスタKINの値(当該「近似する金種」を示している)を、真券判定カウンタBILCNTの値によって指示されたレジスタBKIN(BILCNT)にセットする。
RISTOL(BILCNT)=RISAN:
総合離隔値集計レジスタRISANにストアされている総合離隔値を、真券判定カウンタBILCNTの値によって指示されたレジスタRISTOL(BILCNT)にセットする。
BILCNT=BILCNT+1:
真券判定カウンタBILCNTの値を1増加する。
【0088】
その後、ステップS136に行き、近似金種テーブル読出用のポインタKINCNTの内容を1増加する(KINCNT=KINCNT+1)。該「近似する金種」に関しても、挿入紙幣が真券と判定されなかった場合は、判定フラグPASFLGが「1」にセットされており、ステップS134はNOで、ステップS135をジャンプしてステップS136に行く。
ステップS136の後、ステップS131に戻る。ステップS131では近似金種テーブルKINJIの次のアドレスから記憶データを読み出す。近似金種テーブルKINJIに更なる「近似する金種」のコードが記憶されている場合は、ステップS132はYESであり、前記ステップS133〜S136の処理を繰り返す。もう「近似する金種」のコードが記憶されていない場合は、「0」が読み出される。
【0089】
ステップS132がNOの場合、ステップS137に行き、真券判定カウンタBILCNTの値が「1」以外であるか否かをチェックする。
「近似する金種」のコードが近似金種テーブルにまったく記憶されていなかった場合、あるいは、「近似する金種」があったとしてもその金種については真券と判定されなかった場合は、真券判定カウンタBILCNTの値はステップS130で「1」にセットされたままであるから、ステップS137はNOであり、ステップS145に行く。ステップS145では、レジスタBKIN(0)にリザーブされていた値(最初に真券と判定された金種を示している)を、レジスタKINにセットし直す。
【0090】
「近似する金種」のコードが近似金種テーブルに記憶されていた場合であって、該「近似する金種」についても真券と判定された場合は、真券判定カウンタBILCNTの値はステップS135で増加されるから、ステップS137はYESであり、ステップS138に行く。ステップS138では、前記「近似金種処理フラグFKINJ」の内容を参照し、このフラグが2以上の金種について真券判定が得られたときは返却することを指示しているならば、「重複判定返却」YESと判断し、ステップS146に行く。ステップS146では、レジスタKINの値を「0」にクリアする。この場合、図10のステップS85におけるKINが「0」以外であるか否かの判断がNOとなり、ステップS89の偽券処理を行う。
【0091】
一方、前記「近似金種処理フラグFKINJ」が2以上の金種について真券判定が得られたときは、最適の1つの金種を真券として選択すべきことを指示しているならば、ステップS138はNOであり、ステップS139に行く。
ステップS139では、レジスタMINの値を最大値「999」に設定する。
ステップS140では、ポインタKINCNTの値を「0」にセットする。
ステップS141では、ポインタKINCNTによって指示されたレジスタRISTOL(KINCNT)にストアされている「総合離隔値」が、レジスタMINの値より小さいか否かを判断する。YESであれば、レジスタRISTOL(KINCNT)にストアされている「総合離隔値」をレジスタMINにストアし、かつ、ポインタKINCNTによって指示されたレジスタBKIN(KINCNT)にストアされている「金種コード」をレジスタKINにセットする(ステップS142)。なお、レジスタRISTOL(0)には、ステップS132の処理により、最初に真券と判定された金種についての挿入紙幣の総合離隔値がストアされている。レジスタRISTOL(1)には、ステップS135の処理により、次に真券と判定された金種についての挿入紙幣の総合離隔値がストアされている。また、レジスタBKIN(0)には、ステップS132の処理により、最初に真券と判定された金種のコードがストアされている。レジスタBKIN(1)には、ステップS135の処理により、次に真券と判定された金種のコードがストアされている。
【0092】
ステップS142の後、ステップS143に行く。また、ステップS141がNOであれば、ステップS142をジャンプして、ステップS143に行く。
ステップS143では、ポインタKINCNTの値を1増加する。
ステップS144では、ポインタKINCNTの値が、真券判定カウンタBILCNTの値から1を引いた値と同じか又はそれより大きいかをチェックする。NOであれば、ステップS141に戻り、処理を繰り返す。YESであれば、このサブルーチンを終了する。ステップS144がYESのとき、真券判定が得られた2以上の金種のうち「総合離隔値」が最小の金種を示す金種コードがレジスタKINにストアされている。こうして、真券判定が得られた2以上の金種のうち「総合離隔値」が最小の金種が、最適の真券として判定される。
【0093】
図10に戻ると、ステップS85においては、レジスタKINの値が「0」以外であるか否かを判断し、YESであれば、ステップS86に行き、該レジスタKINにストアされている「金種コード」が示す1つの金種が、挿入された紙幣の真券金種であるとして、挿入金の計数等の所定の真券処理を行う。
【0094】
本発明は、以上説明した各種処理の方法を範囲に含むに限らず、その各種処理を実行するように構成された装置をも範囲に含み、更に、その各種処理をコンピュータが実行するためのプログラムを記憶した記憶媒体についてもその範囲に含む。
また、本発明の範囲は、上述の各種処理をすべて備えている方法、又は装置、又は記憶媒体に限定されるものではなく、有益なその一部の処理のみを備えている方法、又は装置、又は記憶媒体であってもよい。
また、本発明の実施にあたっては、判定用の基準データの作成から、これに基づく紙幣識別判定処理に至るまでの全過程を実施してもよいし、あるいは、判定用の基準データの作成の過程のみを実施してもよいし、あるいは、予め作成された判定用の基準データに基づく紙幣識別判定処理の過程のみを実施してもよい。
【0095】
また、本発明によれば、光学式検出データのみに基づくだけでも、精度のよい紙幣識別判定を行うことができるが、必要に応じて、磁気式検出データ等を使用してもよい。また、光学式センサの形式は、透過光検出タイプに限らず、紙幣からの反射光を検出するタイプを使用してもよい。
なお、判定用の基準データとしては、真券用の基準データに限らず、有り得る偽券用の基準データを用意し、挿入紙幣がその偽券用の基準データの条件に該当する場合は、偽券と判定するようにしてもよい。
また、本発明は、通常の紙幣に限らず、証券、各種の金券、小切手等の所定の印刷模様又は透し模様等を具備する紙葉類一般についての真偽識別に適用できる。
【0096】
以上の通り、本実施例によれば、精度のよい、紙幣(紙葉)の真偽識別を行うことができる。すなわち、本発明によれば、印刷模様を抽出したパターン平均値を利用して、補正係数を生成し、各走査位置データの標準平均に正規化した統計的基準データを算出し、これに基づき紙幣(紙葉)の真偽識別を行うようにしているので、紙幣(紙葉)の汚れ度合いや識別装置の固体性能のバラツキ等の誤差要因を排除して、安定した紙幣(紙葉)の真偽識別・判定を行うことができる。
特に、米国のドル紙幣のように、異なる金種間で比較的近似したパターンを示す紙幣の真偽判定は、従来は非常に困難であったが、本発明によれば、その問題を解決することができる。特に、複数金種で重複して真券判定が出されたときは、本発明に従う「近似金種テーブル」を用いた判定処理は極めて有効である。また、統計的な基準データ作成処理によって、紙幣受入れ率の向上と偽券排除精度の向上という、併存しにくい要求に、応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施に使用する紙幣識別装置の機構例を示す平面図。
【図2】本発明の実施に使用する紙幣識別装置のハード構成例を示すブロック図。
【図3】(a)は紙幣の表面模様の一例を示す平面図、(b)は1つのセンサから得られる検出データの一例を示すグラフ。
【図4】本発明の一実施例に従う「基準データ作成処理」の手順を例示するフロー図。
【図5A】本発明の一実施例に従う「センサデータ集計処理」のメインルーチンの一部を例示するフロー図。
【図5B】本発明の一実施例に従う「センサデータ集計処理」のメインルーチンの残りの部分を例示するフロー図。
【図6】上記メインルーチンで行われる「絶対標準とパターン標準平均算出」サブルーチンを例示するフロー図。
【図7】上記メインルーチンで行われる「変化パターン平均算出」サブルーチンを例示するフロー図。
【図8】上記メインルーチンで行われる「最小値(MIN)検出」サブルーチンを例示するフロー図。
【図9A】上記メインルーチンで行われる「総合離隔値集計」サブルーチンの一部を例示するフロー図。
【図9B】上記メインルーチンで行われる「総合離隔値集計」サブルーチンの残りの部分を例示するフロー図。
【図10】本発明の一実施例に従う「紙幣識別処理」のメインルーチンのを例示するフロー図。
【図11】上記「紙幣識別処理」で行われる「パターン変化データ変換」サブルーチンを例示するフロー図。
【図12】上記「紙幣識別処理」で行われる「離隔値判定」サブルーチンを例示するフロー図。
【図13】上記「紙幣識別処理」で行われる「近似金種テーブル判定」サブルーチンを例示するフロー図。
【符号の説明】
【0098】
P0〜P4 光学式センサ
M 紙幣搬送用モータ
PC パルスコーダ
4 紙幣搬送用ベルト
30 入出力回路
31 CPU
32 メモリ
33 データ入力装置
_

【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出データを出力するセンサと、
前記センサからの検出データに基づき前記識別対象紙葉が複数の紙葉種類のうちのいずれかに該当するか否かを評価する評価部と、
前記センサからの前記検出データによって示される特徴が互いに近似している複数の紙葉種類を示す情報を記憶したテーブルと、
前記評価部で前記識別対象紙葉がいずれかの紙葉種類に該当すると評価されたとき、前記テーブルを参照して該当すると評価された前記紙葉種類に近似する他の紙葉種類が存在しているか否かを調べ、存在している場合、前記識別対象紙葉が該他の紙葉種類にも該当するか否かの評価を前記評価部において行なわせる制御部と、
前記識別対象紙葉が前記他の紙葉種類にも該当すると評価されたならば、該識別対象紙葉がいずれの紙葉種類に該当するか、またはどの紙葉種類にも該当しない、との決定を行なう決定部と
を具備する紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記テーブルは、近似する各紙葉種類の組合せ毎に、識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると評価された場合の対処モード情報を記憶しており、
前記決定部は、前記対処モード情報に応じて、最も評価の高い1つの種類に該当すると決定するモード、またはどの種類にも該当しないと決定するモード、のいずれかのモードに従って決定を行なう
請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出データを出力するセンサと、
真券についての判定基準条件と巧妙に作成された所定の偽券についての判定基準条件とを設定する判定基準条件設定部と、
前記各判定基準条件を参照して、前記センサからの検出データに基づき前記識別対象紙葉を評価する評価部と、
前記評価部により前記識別対象紙葉が真券についての判定基準条件と前記所定の偽券についての判定基準条件の両方を充足していると評価された場合、該識別対象紙葉を偽券として拒絶する制御部と
を具備する紙葉類識別装置。
【請求項4】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出データを出力するセンサと、
真券についての判定基準条件と巧妙に作成された所定の偽券についての判定基準条件とを設定する判定基準条件設定部と、
前記各判定基準条件を参照して、前記センサからの検出データに基づき前記識別対象紙葉を評価する評価部と、
前記評価部により前記識別対象紙葉が真券についての判定基準条件と前記所定の偽券についての判定基準条件の両方を充足していると評価された場合、その評価度に従って該識別対象紙葉を真券として受け入れるかまたは偽券として拒絶する制御部と
を具備する紙葉類識別装置。
【請求項5】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出対象サンプルデータを出力するステップと、
紙葉種類に対応して予め用意された標準平均と標準偏差とを使用し、前記検出対象サンプルデータの前記標準平均に対する差を前記標準偏差の比で表わし、これにより該検出対象サンプルデータを正規化された値に変換するステップと、
複数の紙葉種類に関して、前記検出対象サンプルデータの正規化された値と所定の判定基準値とを比較することにより、前記識別対象紙葉が何れかの紙葉種類に該当するか否かを判定するステップと、
前記識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると判定された場合、該当する各種類に対応する前記検出対象サンプルデータの正規化された値のうち、最も評価度の高い値を持つ1つの種類を選択するステップと
を具備する紙葉類識別方法。
【請求項6】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、検出対象サンプルデータを出力するステップと、
紙葉種類に対応して予め用意された標準平均と標準偏差とを使用し、前記検出対象サンプルデータの前記標準平均に対する差を前記標準偏差の比で表わし、これにより該検出対象サンプルデータを正規化された値に変換するステップと、
複数の紙葉種類に関して、前記検出対象サンプルデータの正規化された値と所定の判定基準値とを比較することにより、前記識別対象紙葉が何れかの紙葉種類に該当するか否かを判定するステップと、
前記識別対象紙葉が複数の紙葉種類に重複して該当すると判定された場合、該識別対象紙葉を不良と判定するステップと
を具備する紙葉類識別方法。
【請求項7】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、特徴検出データを出力するステップと、
前記特徴検出データに基づき前記識別対象紙葉が複数の所定の紙葉種類のうちいずれに該当するかを判定する1次的評価ステップと、
前記1次的評価ステップで前記識別対象紙葉が2以上の紙葉種類に重複して該当するとの判定結果が得られた場合、該当する紙葉種類の1つを前記識別対象紙葉の種類として選択する第1モードと前記識別対象紙葉を不良と判定する第2モードのいずれか1つのモードの従い処理する2次的評価ステップと
を具備する紙葉類識別方法。
【請求項8】
識別対象である紙葉の特徴を検出し、特徴検出データを出力するステップと、
所定の紙葉種類に関して、その真券についての判定条件を設定するデータと巧妙に作成された所定の偽券についての判定条件を設定するデータとを予め用意するステップと、
前記特徴検出データが前記真券及び所定偽券についての前記各判定条件を充足するか否かを判定するステップと、
前記判定するステップにより前記特徴検出データが前記真券についての判定条件を充足すると判定された場合であっても前記所定偽券についての判定条件も充足すると判定された場合は、前記識別対象紙葉を不良と判定するステップと
を具備する紙葉類識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−135067(P2008−135067A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31161(P2008−31161)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【分割の表示】特願平10−106248の分割
【原出願日】平成10年4月16日(1998.4.16)
【出願人】(307003777)株式会社日本コンラックス (140)
【Fターム(参考)】