説明

紙送りローラー及びその製造方法

【課題】耐食性は劣るが安価な棒材または円筒材を用いた場合であっても、棒材または円筒材をショットブラストし、その後メッキ層を形成しても、尖状部がなく滑らかな表面を有しかつ十分な紙の把持力を有し耐食性に優れた安価な紙送りローラーとその製造方法を提供する。
【解決手段】プリンターの紙送りローラーであって、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体2の側面にショットブラスト処理による微凹凸(凸部31、凹部32)が設けられ、更にその上が無電解メッキによる皮膜層4で覆われており、メッキ皮膜層の厚みが4〜7μmであるプリンターの紙送りローラー1。およびプリンターの紙送りローラーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字等のために用いられる家庭用等の小型プリンターの紙を送るための紙送りローラー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用等で用いられる小型プリンターは、パソコン、ドキュメントおよび写真の印刷等に用いられるが、カラープリンターの普及により高精細画像が要求されるようになり、印刷時の位置精度に対する要求が厳しくなっている。このため、プリンターの印字ヘッドの直前にある紙送りローラーには、形状面からは、長さ方向の真直性と断面形状の真円性が強く要求され、また、ローラーの表面は、紙との摩擦による確実な把持、的確な紙送りのできることが要求されている。また、ローラーの形状および表面性状(紙との摩擦維持)の長期耐久性も要求されている。更に、製造コストが安いことも要求されている。
【0003】
紙送りローラーは一般的に以下のようにして製造される。紙送りローラー本体には、軟鋼製の丸棒材または中空の丸管(以後「ロール本体」という)を用い、これらに矯正、研磨工程により真直性、真円性を付与したものを用いる。必要ならば、ローラーの軸受に合致するように両端部を切削等により加工される。このロール本体は、防錆性付与のためにメッキ処理される。メッキの後、加熱(ベーキング)処理後、ローラーの紙と接する面にコーティング等の表面処理が施されて、表面樹脂加工処理されたロール本体となり、紙送りローラーとして使用される。
【0004】
上記のコーティング等の表面処理としては、紙に対する摩擦による確実な把持性を付与するための微凹凸を付与するために、アルミナ粉等のセラミック微粒子を含む樹脂皮膜を形成させるものが一般的である。この樹脂に熱硬化性樹脂が用いられる場合は、硬化に熱エネルギーを要するので製造コストが上がり、また環境上好ましくない、
また、樹脂皮膜形成のために溶剤が用いられる場合は、溶剤回収を必要とするという環境上の問題がある。
更に、前述のベイキングと樹脂皮膜硬化過程との2度にわたる加熱によりローラーが曲がり、その性能を著しく低下させるという問題がある。
【0005】
特許文献1には、金属製のローラー部材の表面に粒径が60〜150μmのアルミナのような硬質粒子を含む合成樹脂粉体を静電粉体塗装し、それを焼付けて合成樹脂コート層を形成する方法が提案されているが、この場合も焼付けに180〜200℃の高温を必要とするので、熱エネルギーを要するため環境上好ましくない、という問題がある。
【0006】
上記のように、紙に対する把持性を付与するための表面処理として、セラミック微粒子や樹脂を使用するものは、それらの表面処理のための調合、塗装、乾燥又は硬化のための設備が高価で、樹脂等の原材料を要し、エネルギーや環境コストがかかるため製造コストが高くなるという問題がある。また、セラミック微粒子や樹脂を使用するものは、使用済みの紙送りローラーをリサイクルする際に、溶融して金属にする場合、樹脂が有害なガスを発生させ、またセラミック微粒子はスラグ等として分離除去しなければならないという問題もある。
【0007】
一方、特許文献2ではローラーにショットブラスト加工することにより微凹凸を作成することが記載されている。しかし尖状突起が生じるため研磨により表面層を削除している。
特許文献3にはローラー軸をショットブラストのみで加工した例が開示されている。表面に鋭角跡が形成されるため、紙粉や紙繊維等が付着しやすくなるという問題が指摘されている。
ただし特許文献2、3ともに紙の把持力が十分であったかについては不明である。
特許文献4にはステンレスシャフトの表面にショットブラスト処理を行い無電解ニッケルメッキ層を形成したところ、メッキ層は主に表面の凹部に形成され凸部の一部がメッキ層より突出していたことが記載されている。
被加工材がステンレスのような耐食性に優れた材料ではよいが、ステンレスは高価であるため、材料コスト等を抑えるために耐食性に劣る材料を用いた場合には、十分に耐食性を有するメッキ層が形成されなければ使用時に腐食し、錆により、紙を損傷するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−287845号公報
【特許文献2】特開平3−124655号公報
【特許文献3】特開平10−291677号公報
【特許文献4】特開平9−216746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐食性は劣るが安価な棒材または円筒材を用いた場合であっても、棒材または円筒材をショットブラストし、その後メッキ層を形成しても、尖状部がなく滑らかな表面を有しかつ十分な紙の把持力を有し耐食性に優れた安価な紙送りローラーとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、プリンターの紙送りローラーであって、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理による微凹凸が設けられ、更にその上が無電解メッキによる皮膜層で覆われており、前記メッキ皮膜層の厚みが4〜7μmであることを特徴とするプリンターの紙送りローラーである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jでショットブラスト処理されて形成されたものであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面にカバレージ50%以上で形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に鉄系材料からなる粒径0.2〜1.2mmの球形の粒子を投射材として形成されたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に、投射材の投射速度を35〜90m/secとして形成されたものであることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記ショットブラスト処理により形成された微凹凸の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmであることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記メッキ皮膜層の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmであることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1又は7記載のプリンターの紙送りローラーにおいて、前記メッキ皮膜層の表面硬度がHV750〜850であることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理を施して微凹凸を形成し、次いで無電解メッキ処理を行い、次いでメッキ層をベイキングして、ベイキング後のメッキ皮膜層の厚みが4〜7μmになるようにメッキ層厚みを調整して製造することを特徴とするプリンターの紙送りローラーの製造方法である。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項9記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、前記ショットブラスト処理が、前記ロール本体の側面に投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jで投射材を投射して微凹凸を形成することであることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は10記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ロール本体の側面にカバレージ50%以上で形成することを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の発明は、請求項9〜11のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ロール本体の側面に鉄系材料からなる粒径0.2〜1.2mmの球形の粒子を投射材として投射して形成することを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載の発明は、請求項9〜12のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ロール本体の側面に、投射材の投射速度を35〜90m/secで形成することを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載の発明は、請求項9〜13のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ショットブラスト処理により形成された微凹凸の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmとなるように形成することを特徴とする。
【0023】
請求項15に記載の発明は、請求項9〜14のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体を軸心を中心に回転しながらロール本体の側面に前記ショットブラスト処理を施すことを特徴とする。
【0024】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のプリンターの紙送りローラーは、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理による微凹凸が設けられ、更にその上が無電解メッキによる皮膜層で覆われており、前記メッキ皮膜層の厚みが4〜7μmである紙送りローラーである。
【0025】
本発明の紙送りローラーは、主として、印字等のために用いられる家庭用等の小型プリンターの紙を送るための紙送りローラーであり、この紙送りローラーで送給される紙は、特に限定されるわけではないが、少なくとも印刷用に使用される一般紙及び印画紙などが含まれるものである。
【0026】
図1は、本発明のプリンターの紙送りローラー1の一例の斜視図であり、図2は、図1の紙送りローラー1の胴体側面の要部を拡大して示す模式的な断面図である。金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体2の側面で紙と接する部分に、ショットブラスト処理による微凹凸3,3,・・・(図2においては、図1の微凹凸3を凸部31と凹部32に分けて示した)が設けられ、その上にメッキ皮膜層4が設けられている。
紙送りローラーの直径は特に制限はなく、数mm〜数十mmが好適に用いられるが、5〜15mmのものが特に好適に用いられる。長さは特に制限はなく、数十mm〜1m程度が好適に用いられるが、10cm〜30cmのものが特に好適に用いられる。
ショットブラスト処理はロール本体の側面全面にわたって行われていてもよいが、紙送りローラーとして被印刷物である紙に接する部分をショットブラスト加工すれば足りるため、両端から通常数mm〜数十mmは紙送りローラーとして被印刷物である紙には接しないのでショットブラスト加工されていなくてもよい。
【0027】
円柱体からなるロール本体2の材料としては金属が剛直性、加工性、価格から好ましく、中でも鉄系材料が好ましい。通常、軟鋼等の金属を伸線処理した丸棒材を所定長さに寸断したものが好適に用いられるが、いおう快削鋼が切削に適し、安価であるので特に好ましい。いおう快削鋼とはJIS G 4804に定める硫黄及び硫黄複合快削綱をいう。
通常、ロールの両端部は軸受けとの適合のために端部を切削等されて端部が形成される。
【0028】
中空円筒体からなるロール本体2としては、一般鋼等の長方形状の金属板材を長辺と長辺を突き合わせするように管状に折り曲げ、その突合せ部を溶接して中空円筒体としたものを所定長さに寸断したものである。言い換えると、中空円筒体からなるロール本体2とは管体の形状をしたロール本体のことである。一般鋼の中でも例えばSS400N(JIS G3101(1995))が、円筒状に加工する際アーク溶接しやすく割れにくいため好ましい。
中空円筒体の場合は、両端部は軸受けとの適合のため、端部材が接合されて端部が通常切削されて形成される。
なお、これらのロール本体2は、通常の矯正処理及び研磨処理により、真直性、真円性が付与される。
【0029】
上記の円柱体または中空円筒体からなるロール本体2の側面とは紙に接する面をいう。
【0030】
次に、上記側面にショットブラスト処理により形成された微凹凸について述べる。上記微凹凸は、円柱体または中空円筒体の側面が平滑であっては、特に金属製のロールの場合、ロールと紙の摩擦力が小さいために滑り、紙を正確に把持できないので、微凹凸を形成することにより紙の把持力を高めるために設けられたものである。後に詳述するがショットブラストにより、単独の投射材が当たった部分はクレーター状になる。すなわち中心部が陥没して痕と称する微凹部が形成されると同時に陥没部の周囲にあたかも火山の外輪山のように盛り上がった環状の微凸部が形成される。投射材が隣接して投射されると凹凸が重なりあい、複雑な形状の微凹凸が形成される。ここで、微凹凸のうち紙の把持に寄与するのは主には紙に食い込む凸部である。
【0031】
上記ショットブラスト処理による微凹凸の程度は、その微凹凸の表面粗さ(後述のメッキされる前の表面粗さ)が、JIS B 0601−1994に基づいて測定した表面粗さにおいて、十点平均粗さ(Rz)値で10〜80μmが好ましく、より好ましくは25〜65μmである。
上記の表面粗さが80μmよりも大きくなると表面の荒れが大きく紙に食い込み跡が残る恐れがあるため好ましくなく、また、10μmよりも小さくなると紙の把持が不確実になるため好ましくない。より好ましくは25〜65μmである。
【0032】
図7は、JIS B 0601−1994に基づいて測定した粗さ曲線の例である。上記の十点平均粗さ(Rz)とは、粗さ曲線で最高の山頂から高い順に5番目までの山高さの平均と、最深の谷底から深い順に5番目までの谷深さの平均の和である。
【0033】
以下にブラスト処理について述べる。ブラスト処理とは、投射材と呼ばれる粒体を被処理物に衝突させて、被処理物の表面加工等を行う手法である。ブラスト処理の投射方法には、主に機械式と空気式がある。空気式は、圧縮空気により投射材を加速、投射する手法であり、通常、エアーブラストと言い、局部的に狭い範囲に投射材を投射するのに適用する。一方、機械式は、主にインペラーと呼ばれる羽根車の遠心力により投射材を加速、投射し、被処理物の表面加工をする手法であり、通常、ショットブラストと言い、広範囲に投射材を投射するのに適用する。本発明におけるブラスト処理では、長尺の被処理物もあり、表面に均一かつ安定した微凹凸をつくるために機械式のショットブラスト処理が好ましい。
【0034】
ショットブラスト処理によって、ロール本体に微凹凸を形成し、その後メッキ皮膜を形成したものが、紙に対する所定の把持力を得るために、ショットブラスト処理に使用する投射材の粒径等の条件は、被処理物であるロール本体2の材料の表面硬度と処理に必要な投射材の運動エネルギーより主に決定される。具体的なショットブラストする場合の条件としては、投射材の種類(材質、粒径、密度、硬度)、投射速度、投射角度、投射量などがあり、被処理物の硬さや創製する表面粗さ等の加工条件によって適切なものを選定しなければならないが、この中でも特に投射材の粒径、硬度、投射速度、投射量が重要である。
【0035】
上記投射材の種類としては、一般的には、主に、金属系と非金属系がある。
非金属系投射材には、ガラス、アルミナ、炭化ケイ素など硬度のある球形粒子、多角形状の粒子、グリット形状の微粉粒等があるが、密度が低いため運動エネルギーが低くなるため適切な凹凸を形成しにくく、また表面に投射材の破砕した破片が突き刺さり残って尖状部を形成するため好ましくない。
【0036】
金属系投射材は、アトマイズ法等により作製され、鋳鉄や鋳鋼の球形粒子(スチールショット、スチールビーズ)、球形粒子を砕いた角のある非球形粒子のグリットや金属ワイヤーを切断したカットワイヤー、その角を丸めた粒子等が用いられるが、本発明においては投射材が当たったことで生じる微凹凸が滑らかで均一であることが好ましいため投射材は球形の粒子が好ましい。また、割れるものは、表面に投射材の破砕した破片が突き刺さって残ったりするために、尖状部を形成しやすく好ましくない。
金属系投射材は、密度が高いため同じ速度であれば運動エネルギーが高く微凹凸を形成する能力が高く、また強靭であるため破砕しにくく、被加工面の品質が良く、寿命が長く製造コスト上も好ましい。なかでも鉄系材料からなる球状の投射材が好ましい。
【0037】
ショットブラスト処理により、紙を把持するに十分な微凹凸を形成するためには、前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jでショットブラスト処理されて形成されたものであることが好ましく、0.5×10-3〜5.0×10-3 Jがより好ましい。運動エネルギーが大きければ痕と称する微凹部の直径が大きく、深さが深くなるとともに、周囲の、外輪山様の環状の凸部の高さが高くなる。
被処理物であるロール本体の材料は通常鉄系材料が用いられるため、そのような鉄系材料に対し有効な微凹凸をショットブラストで形成するには上記範囲の運動エネルギーが必要である。投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3 Jより小さければ、微凹凸の形成が不十分となるため、紙の把持が不十分となり易く、5.0×10-3Jよりも大きければ凹凸が粗大化し、紙裏面への押し跡が目立ち易くなる。
【0038】
上記の投射材の運動エネルギーは、以下のようにして求められるものである。
球形の投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、
その質量をm(単位:kg)、速度をv(単位:メートル/sec)とすると、
K=(1/2)mvで表される。
そこで、投射材の粒径をD(単位:メートル)、投射材の密度をρ(kg/m)とすると、
K=(1/2)mv=(1/2)・ρ・(4/3)π(D/2)・v
で表される。
この式で計算すると、例えば粒径0.6mmの球形の鋳鋼(密度ρは7200kg/m)製からなる投射材の場合、投射速度を61m/secとし、投射角度を90度とすると、投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、1.5×10−3Jとなる。
また、粒径0.8mmの球形の鋳鋼製からなる投射材の場合、投射速度を72m/secとし、投射角度を90度とすると、
投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、5.0×10−3Jとなる。
また、粒径0.5mmの球形の鋳鋼からなる投射材の場合、投射速度を46m/secとし、投射角度を90度とすると、
投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、0.5×10−3Jとなる。
なお、投射材として粒径1.2mmの球形の鋳鋼からなる投射材を使用する場合は適用運動エネルギー値の最大値5.0×10−3Jより逆算して投射速度を決めることができる。なお、この場合の投射角度を90度とすると、投射速度は39m/secとなる。
【0039】
ショットによる痕の大きさと深さは被加工物がいおう快削鋼の場合以下の程度である。
0.6mm径のショットを61m/sec で投射した時 痕の直径は凡そ200μm強、深さは20μm強、0.8mm径のショットを72m/sec で投射した時 痕の直径は300μm強、深さは40μm弱、0.5mm径のショットを46m/sec で投射した時 痕の直径は200μm弱、深さは10μ強、1.2mm径のショットを39m/sec で投射した時 痕の直径は400μm弱、深さは30μm程度である。外輪山部の高さは痕の深さや直径に関係する。
【0040】
表面が十分な把持力を有しかつ滑らかな微凹凸を形成するための投射量を表す指標としてはカバレージがある。高低差の大きなクレーターが散在していても密度高く存在していてもRzは同じであるが、紙の把持力は大きく異なる。当然ローラーの表面に面密度高くクレーターが多数存在している方が把持力が大きい。投射量は単位面積当たりの微凹凸の個数に影響するとともに、さらに後述するように微凹凸の形状、をも左右する。
ショットブラスト加工におけるカバレージとは加工面積(A)に対する投射材の衝突により生じた痕の総和(B)を比率で示すものである。例えば、カバレージ50%とは痕の面積の総和が加工面積の50%に相当することを示す。しかし、カバレージ50%でも裸眼で一見しただけでは加工面積の全面に投射材が当たり、痕が発生しているように見える。このため測定は拡大鏡を用いて行う。加工表面が設定したカバレージより低い値になった場合はショットブラスト処理面の品質が低下する。さらに詳しく述べると、この場合には、表面粗さのバラつきが大きくなり、またこのショットブラスト処理面におけるメッキ等コーティング膜の密着力が不足しやすくなる。
【0041】
カバレージは50%以上が好ましく、フルカバレージがより好ましい。フルカバレージとは投射による痕が加工表面の全面に生じており、未加工の素地面が残っていないことをいう。なお、フルカバレージに到達するまでの加工時間は投射材の粒径や投射速度により異なる。細かい投射材を速く投射するほどフルカバレージに到達する加工時間は短くなる。加工する上で設定するカバレージはショットブラスト処理目的により変える。
【0042】
なお、カバレージ15%、30%とフルカバレージ(カバレージ100%)でショットブラスト加工されたロール本体、及び、それにメッキ処理後ベイキングされた後のロール本体の光学顕微鏡写真を図10〜15に示す。図10はカバレージ15%のものであってメッキ前のもの、図11はカバレージ15%のものであってメッキ後のもの、図12はカバレージ30%のものであってメッキ前のもの、図13はカバレージ30%のものであってメッキ後のもの、図14はフルカバレージ(カバレージ100%)のものであってメッキ前のもの、図15はフルカバレージ(カバレージ100%)のものであってメッキ後のものである。具体的な製造条件は、ロール本体としては直径10mm、長さ350mmの円柱体を用い、投射材としてスチールボール(新東工業社製。高炭素鋳鋼製。球形で粒径0.3mm。硬度HV400〜500)を用い、機械式ショットブラスト装置(新東工業社製。型式:ローラー式コンベアショットブラスト)にて、投射速度61m/sec、投射角度80〜90度にてショットブラストしたものである。この場合、投射角度を90度とすると、投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、0.19×10−3Jである。メッキ皮膜層の厚みは4.2μmである。
【0043】
金属製の棒材または円筒材からなるロール本体の側面に破砕し難い球状の投射材を用い適宜な運動エネルギーにてショットブラスト処理を施すと、投射材の当たった表面にクレーター状の微凹凸ができる。中心部は、くぼんだ凹部、痕と称する、が形成され、くぼみの外周が火山の外輪山のように輪状にかつ傾斜がなだらかに盛り上がる。このとき生じる"外輪山"は先鋭な頂点を有さず、円周状に連なっているので、また投射材の破砕片が表面に突き刺さり残る事もないので、尖状突起は形成されないため、表面が滑らかで、メッキ後も紙に突き刺さったり、先端が折れたりすることもなく、長期使用しても形状維持性に優れる。
【0044】
カバレージが50%以上であれば、クレーターが孤立せずに、クレーターに隣接する表面に次のクレーターが形成され重なり合う確率が増す。このため全体として複雑なランダムな表面形状が形成されることとなり、高密度に外輪山が絡みあった微凹凸表面が形成される。更にフルカバレージ以上であればさらに複雑に痕の周囲に形成される外輪山様の凸部が重なりあい、高い稜の様な凸部が形成され、あるいは、稜の様な凸部が更に連なった山脈状の凸部が形成される。このような凸部が形成されると紙の把持力がより高くなる。但しこの場合であっても、もともと外輪山はなだらかなため、尖状の突起にはならない。
カバレージは高い方が好ましいが、粗さのピーク値を形成したあと、その後は高カバレージになるほど表面粗さは逆に細かくなる傾向がある。被加工物の表面硬度にも左右されるが、投射材の衝突による表面の磨耗作用(アブレージョン)により発生する現象で被加工面の凸部が摩滅するためである。このためカバレージは×2T(200%)以下が好ましい。
【0045】
なお、前記のカバレージが100%以上を表現する方法について説明を補足する。カバレージ100パーセント以上を表現したい時は「フルカバレージ×n」と示す。フルカバレージに到達する投射時間(T)を測定し、そのTの何倍と表現する。 例えば×2T、×3Tと示す。×2Tはカバレージ200パーセント、×3Tはカバレージ300パーセントに相当する数字である。
【0046】
投射角度はショットブラスト処理における投射材が被処理物に当たる角度を言い、被処理物の平面に対して直角に当たる場合が表面粗度のばらつきが少ない。投射材の当たる角度により形成される打痕の形状が異なる。異方性がなく、投射エネルギーを打痕形成に有効に活用するには、法線方向(投射角度90度)から投射することが好ましい。このため投射角度は70〜90度が好ましく、80〜90度がより好ましい。
【0047】
本発明の紙送りローラー1は、ショットブラスト処理によって表面に微凹凸3,3,・・・が設けられており、その上にメッキ皮膜層が設けられている。微凹凸の程度を示す表面粗さは、メッキの前後で多少変化するが、極端な変化はない。メッキ皮膜が形成され(ベイキング後)た後の表面粗さは、表面粗さ測定器を用い、JIS B 0601−1994に基づいて測定した十点平均粗さ(Rz)値で10〜80μmが好ましく、25〜65μmが更に好ましい。
【0048】
上記のメッキ皮膜層の表面粗さが、JIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25μmよりも小さくなると紙の十分な把持力を確保できなくなる恐れが生じ、65μmより大きくなると紙が傷つきやすくなる恐れが生じるので、25〜65μmの範囲が特に好ましい。言い換えると、本発明のメッキ皮膜層を表面に有する紙送りローラーは、紙との摩擦力が従来の表面が樹脂膜(アルミナ粉等のセラミック微粒子を含む)であるものに比べて小さいので、紙が傷つかずかつより十分な把持力を確保するために上記の範囲が特に好ましい。
【0049】
本発明の紙送りローラーは、ロール本体2の側面にショットブラスト処理による微凹凸が設けられ、更にその上に厚み4〜7μmのメッキ皮膜層4が設けられている。ベイキング後のメッキ皮膜層4の厚みは、4μmよりも小さくなると耐食性が不足し防錆性が低下するので4μm以上が好ましい。4μm以上あれば、表面の全てが十分メッキ層で覆われるためであると推測される。
一方メッキ皮膜層4が厚くなり過ぎると、紙に対する把持力が低下する。無電解メッキであっても、肥厚したメッキ層により、ショットブラストで形成された凹凸の差が小さくなるため、あるいは上記"外輪山"、"稜"、"山脈"状の突部の先端の曲率半径が大きくなるため、紙に食い込みにくくなるためではないかと推測される。特にベイキング後のメッキ層厚が7μmよりも大きくなると把持力の低下が著しい。このためメッキ皮膜層4の厚みは7μm以下が好ましい。
【0050】
上記メッキ処理としては、無電解Niメッキが好ましい。無電解Niメッキではメッキ液に浸漬するだけで簡易にメッキ層が形成され、メッキ膜はショットブラストで形成された凹凸に対し均等な膜厚にて形成されるからである。
メッキ後ベイキング処理(350℃1時間程度の加熱処理)をすることで硬度が上がる。ベイキング後のビッカース硬さ(HV)は750〜850が好ましい。この硬度であれば、ローラー両端の軸部の表面は摩耗に対して耐久性が向上し、また、ロール本体の側面は、紙との接触によっても表面の微凹凸が殆ど摩耗しなくなるためである。
【0051】
また、上記の無電解Niメッキ皮膜層の上に、耐摩耗性を向上させるために電解によるクロムメッキ層が更に施こされていてもよい。硬質クロムメッキ処理をすれば、更に、硬度が高くなり、長期に安定した紙の把持力が維持できる。
【0052】
次に、本発明のプリンターの紙送りローラーの製造方法について説明する。
本発明のプリンターの紙送りローラーの製造方法は、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理を施して微凹凸を形成し、次いで無電解メッキ処理を行い、次いでメッキ層をベイキングして、ベイキング後のメッキ皮膜層の厚みが4〜7μmになるようにメッキ層厚みを調整して製造することを特徴とする。
【0053】
製造工程としては、より詳しくは素材切断→両端面取り→脱脂→ショットブラスト処理→軸端面機械加工→脱脂→メッキ→ベイキング工程が通常である。尚、主要なショットブラストとメッキ以外の部分は従来通りの加工工程であるため説明は省略している。
端面加工の順序を変えて、ローラ本体両端の軸受部機械加工→耐摩耗性の弾性体からなる保護カバーを軸受部に取付け→ブラスト加工→該保護カバー取外し→脱脂→メッキ→ベイキング工程としてもよく、
ローラ本体両端に機械加工用センタ穴の加工→ブラスト加工→ローラ本体両端の軸受部機械加工→脱脂→メッキ→ベイキング工程としてもよい。
【0054】
本発明のプリンターの紙送りローラーの製造方法は、上記のように、まず、金属製の円柱体または中空円筒体からなる紙送りローラーの素材を脱脂し、続いてショットブラスト処理を施して微凹凸を形成する。
【0055】
上記の円柱体または中空円筒体からなるロール本体2としては、本発明の紙送りローラーの説明の中で述べた通りである。
【0056】
上記のショットブラスト処理の説明、投射材の種類と粒径、ショットブラスト処理する際の条件選定などについても本発明の紙送りローラーの説明の中で述べた通りである。
【0057】
ショットブラスト処理は、紙送りローラーの素材である金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体をショットブラスト機内で軸心を中心に回転しながらロール本体の胴体側面にショットブラスト処理を施すが、この場合の処理は連続或いはバッチ処理であっても制限はない。また前記の軸心を中心に回転しながら胴体側面にショットブラスト処理ができるショットブラスト機であれば、被処理物の搬送姿勢は搬送方向に対して軸長手方向が平行或いは直角であっても制限は無い。なお、前記の被処理物胴体側面に均一にショットブラストによる微凹凸の表面を得るため、被処理物を回転させる方法としてローラー方式、ベルト方式を適用するのが好ましい。
【0058】
本発明のプリンターの紙送りローラーの製造方法において、ロール本体の側面に形成する微凹凸の表面粗さ(メッキされる前の表面粗さ)は、JIS B 0601−1994に基づいて測定した表面粗さにおいて、十点平均粗さ(Rz)値で10〜80μmが好ましく、より好ましくは25〜65μmである。この値が80μmよりも大きくなると表面の荒れが大きく紙に食い込み跡が残る恐れがあるため好ましくなく、また、10μmよりも小さくなると紙の把持が不確実になるため好ましくない。
【0059】
上記微凹凸を与えるための投射材1個の運動エネルギーは0.1×10-3〜5.0×10-3 Jが好ましく0.5×10-3〜5.0×10-3 Jがより好ましい。0.1×10-3 Jより小さければ、凹凸が不十分となるため、紙の把持が不十分となり易く、5.0×10-3 Jより大きければ凹凸が粗大化し、紙裏面への押し跡が目立ち易くなる。なお、投射材の運動エネルギーの求め方及び計算例は本発明の紙送りローラーの説明の中で述べた通りである。
【0060】
ショットブラスト処理によって表面に微凹凸3,3,・・・を設けるには、投射材は硬度、密度、価格等から鉄系のものが好ましく、硬度、価格から鋳鋼が好ましく、中でも高炭素鋳鋼が好ましくその場合の粒径は、0.2〜1.2mm径のものが好ましく、より好ましく0.5〜1.2mmである。
1.2mm径を超えた粒径のものを使用した場合は所定のカバレージを得るのに加工時間が長くなるなどの問題がある。また、0.2mm径未満の粒径は上記粗さにするには、粗さが小さくなりすぎる。
尚0.2mm径未満のものは、一旦ショットブラスト処理をした後に更に高度の表面性が必要とされる場合に表面粗さを調整するために使用することができる。
【0061】
投射速度は、投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jの範囲に入るならば、特に限定されないが、通常、35〜90m/secに設定するのが好ましい。この投射速度を超えると投射材が衝突により割れやすくなりランニングコストの増加に繋がり、また35m/sec未満になると、投射材の粒度管理を的確に行うことが必要となり、ショットブラスト装置が高価なものになるので好ましくない。
【0062】
処理物の表面に対する投射材の投射角度は制限されないができた粗面の等方性及び運動エネルギーを面の粗化に有効に活用できる点から投射角度は90度(法線方向)が好ましい。このため投射角度は70〜90度が好ましく、80〜90度がより好ましい。
【0063】
前述の表面粗さを得るためのショットブラスト量としてはカバレージ50%以上フルカバレージが好ましい。カバレージが高ければ、確率的ではあるが、クレーターに隣接する表面に次のクレーターが形成され重なり合うため、全体として複雑なランダムな模様が形成されることになるため、面的に高密度に外輪山が絡みあった微凹凸表面が形成される。痕の周囲に形成される外輪山様の凸部が重なりあい高い稜の様な凸部あるいは、稜の様な凸部が連なった山脈状の凸部が形成されると紙の把持力がより高くなる。このためカバレージはフルカバレージよりも更に高い方がよいが、あまり高いと逆に凹凸が減じるため×2T(200%)以下が好ましい。
ショットブラスト加工におけるカバレージに関する詳細な説明は、本発明の紙送りローラーの説明の中で述べた通りである。
【0064】
本発明のプリンターの紙送りローラーの製造方法は、上述のように、まず、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理を施して微凹凸を形成し、次いで無電解メッキ処理を行い、次いでメッキ層をベイキングして、ベイキング後のメッキ皮膜層の厚みが4〜7μmになるようにメッキ層厚みを調整して製造する。以下、メッキ処理について説明する。
【0065】
無電解メッキ処理は、ショットブラスト処理を施して微凹凸を形成したロール本体をメッキ液中に浸漬することにより行う。これによりロール本体全体の防錆処理が一度でできる。上記無電解メッキ処理としては、無電解Niメッキが好ましい。
メッキ液の廃液処理は従来、中和、重金属イオンの回収が難しかったが、最近は電解処理等により、容易に処理できるようになったため、環境に対する弊害は緩和された。
【0066】
NiP無電解メッキは通常のメッキ処理にて行えばよく、例えば、硫酸ニッケルと次亜リン酸ソーダの混合液に浸漬して行う。処理液の温度は90〜95℃が好ましい。処理時間は所望のメッキ厚みにより変わるが、例えば、メッキ厚み5μmで15〜20分程度である。
【0067】
無電解メッキ処理後、水洗、乾燥後、ベイキング処理という加熱処理(例えば、350℃×60分)により、表面硬度の向上、および、素地への定着を強固にする。加熱処理によりメッキ層の硬度が上がる。加熱処理後の硬度がビッカース硬度で750〜850HVの範囲になるようにベイキングすることが好ましい。
【0068】
メッキ皮膜層4の厚みはベイキング後のメッキ層の厚みが4〜7μmになるようにメッキ膜厚を調整して形成される。膜厚の調整は浸漬時間を調整すること等により行うことができる。例えば一定のメッキ浴液に異なる時間浸漬したサンプルを複数作成し、その後ベイキングして、膜厚を測定することで、適切な浸漬時間が求められる。この場合メッキ時に一部をマスキング材でマスキングしておきベイキング後マスキング材を剥がして断面の高さを測定することにより好適な条件を選ぶことができる。
ベイキング後のメッキ層の厚みは前述のように、4μmよりも小さくなると防錆性が低下するので4μm以上が好ましく、一方メッキ皮膜層が厚くなり過ぎると、紙に対する把持力が低下し、またメッキコストが高くなるため、メッキ皮膜層の厚みは7μm以下である。
【0069】
メッキ皮膜が形成され(ベイキング後)た後の表面粗さは、表面粗さ測定器を用い、JIS B 0601−1994に基づいて測定した値で、十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmが特に好ましい。十点平均粗さ(Rz)値が65μmよりも大きくなると表面の荒れが大きく紙に食い込み跡が残る恐れがあり、また十点平均粗さ(Rz)値が25μmよりも小さくなると紙の把持力が低下するおそれがある。
【0070】
メッキ後の表面粗さは、上記のように、JIS B 0601−1994による表面粗さで25〜65μmが特に好ましいが、通常、生産ラインの中でメッキの厚さ管理はメッキ時の工程時間等で行うが、品質は表面粗さ測定値を主体にした非破壊試験法を以って評価する。表面粗さがこの範囲外の場合はメッキ皮膜層が薄い或いは厚い範囲にあることを示しており、品質管理上注意を要する。
【0071】
この無電解メッキ処理の利点は、メッキ液中に浸漬するのみで皮膜が形成できるので簡易であること、全面被覆できるのでロール本体の防錆処理が一度でできること、メッキにより表面の硬度が向上するので耐摩耗性が向上することなどである。
【0072】
また、上記無電解メッキ処理に続けて、電解によるクロムメッキ処理を行ってもよい。こうすると、ローラーの耐摩耗性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0073】
請求項1に記載の発明によれば、紙と接する部分に微凹凸がショットブラスト処理により形成されているので紙送りが正確である。紙と接する部分の微凹凸にメッキ皮膜層が厚みが4〜7μmで設けられているので硬度が高く摩耗せずに耐久性が高く、更にステンレスのような高価な材料を用いずとも防錆性能が十分かつ十分な紙の把持力を有する。
紙との把持性を付与するための表面処理として、セラミック微粒子や樹脂を使用しないので、それらを用いる表面処理工程にかかる費用や原材料費が不要である。また、ショットブラスト処理は安価に行えるので、製造コストが低い。
また、使用済みの紙送りローラーをリサイクルする際に、溶融して金属にする場合、樹脂による有害なガスを発生することがなく、またセラミック微粒子をスラグ等として分離除去する必要もない。
【0074】
また、単に微凹凸を形成する手段としては、エンボス、研磨等があるが、所定の粗度と微細な突起の形状を金属の円柱体又は中空円筒体の側面に安価に形成するには本発明で用いられるショットブラスト処理が適しているためである。
【0075】
また、請求項1に記載の発明によれば、メッキ皮膜層表面が微凹凸面になっているので、ロール面と紙面に巻き込まれた空気が従来の樹脂やゴムを使用するローラーより逃げやすく、紙送りに有害な紙粉、ほこり、ごみを落としやすい、という利点があり、また、紙送給時の発生静電気量もシャフトへの通電性が良いことから静電気量が低減することが予測される。特に高速印刷機にこのロールを適用させる際にこの効果が有効であると予測される。
【0076】
請求項2に記載の発明によれば、ショットブラスト処理による微凹凸が、投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jでショットブラスト処理して形成されているので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成されており、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーが提供される。
請求項3に記載の発明によれば、ショットブラスト処理による微凹凸がロール本体の側面にカバレージ50%以上で設けられているので、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーが提供される。
【0077】
請求項4に記載の発明によれば、ショットブラスト処理による微凹凸が、鉄系材料からなる粒径0.2〜1.2mmの球形の粒子を投射材として創製されているので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成され、尖状部が形成されず滑らかであり、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーが提供される。
請求項5に記載の発明によれば、ショットブラスト処理による微凹凸が、投射材の投射速度を35〜90m/secとして形成されたものであるので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成されており、メッキ皮膜層形成後も、紙送りが正確な紙送りローラーが提供される。
【0078】
請求項6に記載の発明によれば、ショットブラスト処理により形成された微凹凸の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmであるので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成されており、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーが提供される。
【0079】
請求項7に記載の発明によれば、メッキ皮膜層の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmであるので、メッキ皮膜層の微凹凸が最適に形成されており、紙送りが正確な紙送りローラーが提供される。
【0080】
請求項8に記載の発明によれば、メッキ皮膜層の表面硬度がHV750〜850であるので、ローラー両端の軸部の表面は摩耗に対して耐久性が向上し、また、ロール本体の側面は、紙との接触によっても表面の微凹凸が殆ど摩耗しなくなり耐久性が向上した紙送りローラーが提供される。
【0081】
請求項9に記載の発明は、紙との把持性を付与するための表面処理として、樹脂の硬化処理や溶剤を用いないので、エネルギー所要量が少なく、環境に優しい製造方法である。また、表面処理として、セラミック微粒子や樹脂を使用しないので、それらを用いる表面処理工程にかかる費用や原材料費が不要となるため、また、ショットブラスト処理は安価に行えるので、製造コストが低い。
また、使用済みの紙送りローラーをリサイクルする際に、溶融して金属にする場合、有害なガスを発生することがなく、またセラミック微粒子をスラグ等として分離除去する必要もない。
【0082】
請求項10に記載の発明は、ショットブラスト処理による微凹凸を、投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jでショットブラスト処理して形成するので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成され、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーを提供することができる製造方法である。
請求項11に記載の発明は、ショットブラスト処理による微凹凸をロール本体の側面にカバレージ50%以上で形成するので、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーを提供することができる製造方法である。
【0083】
請求項12に記載の発明は、ショットブラスト処理による微凹凸をロール本体の側面に、鉄系材料からなる粒径0.2〜1.2mmの球形の粒子を投射材として投射して形成するので、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーを提供することができる製造方法である。
【0084】
請求項13に記載の発明は、ショットブラスト処理による微凹凸をロール本体の側面に、投射材の投射速度を35〜90m/secで形成するので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成され、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーを提供することができる製造方法である。
【0085】
請求項14に記載の発明は、ショットブラスト処理による微凹凸を、ショットブラスト処理により形成された微凹凸の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmとなるように形成するので、ショットブラスト処理による微凹凸が最適に形成され、メッキ皮膜層形成後、紙送りが正確な紙送りローラーを提供することができる製造方法である。
【0086】
請求項15に記載の発明は、ショットブラスト時に被処理物である紙送りローラーの胴体部が回転しながらショットブラスト処理されるため形成される微凹凸は円周方向にばらつきがない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明のプリンターの紙送りローラーの1例の斜視図である。
【図2】図1の紙送りローラー1の胴体側面の要部を拡大して示す模式的な断面図である。
【図3】把持力測定機の原理を説明するための主要部の構成を示す模式的な右側面図である。
【図4】把持力測定機を用いて把持力を測定しようとしているところを、正面斜め上から見た模式的な斜視図である。
【図5】ロール本体の直径とショットブラスト時の運動エネルギーを一定にした場合における、把持力とメッキ皮膜層厚みとの関係を示すグラフである。
【図6】塩水噴霧試験の結果を示す図であり、メッキ皮膜層厚み3,4.2,7,10μmのものについて、試験時間とレイティングNo.との関係を示すグラフである。
【図7】JIS B 0601−1994に基づいて測定した粗さ曲線の例である。縦軸の単位はμm、横軸の単位はmmである。
【図8】実施例2で得られた紙送りローラーの表面写真である。1目盛りは1mmを表している。
【図9】実施例13で得られた紙送りローラーの表面写真である。1目盛りは1mmを表している。
【図10】比較例15で得られたロール本体(カバレージ15%でショットブラストされたロール本体)の光学顕微鏡写真である。
【図11】実施例15で得られたロール本体(カバレージ15%でショットブラストされた後、メッキ処理された後のロール本体)の光学顕微鏡写真である。
【図12】比較例14で得られたロール本体(カバレージ30%でショットブラストされたロール本体)の光学顕微鏡写真である。
【図13】実施例14で得られたロール本体(カバレージ30%でショットブラストされた後、メッキ処理された後のロール本体)の光学顕微鏡写真である。
【図14】比較例13で得られたロール本体(フルカバレージでショットブラストされたロール本体)の光学顕微鏡写真である。
【図15】実施例13で得られたロール本体(フルカバレージでショットブラストされた後、メッキ処理された後のロール本体)の光学顕微鏡写真である。
【図16】実施例16で得られた紙送りローラー表面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0089】
ロール本体として、いおう快削鋼SUM24Lを伸線処理した丸棒材を、矯正処理し、真直化処理および研磨により断面真円化処理して、直径7.5mm、A4サイズプリンター用(長さ350mm)の円柱体を得た。
【0090】
上記のロール本体の側面を、投射材としてスチールボール(新東工業社製。高炭素鋳鋼製。球形で粒径0.6mm。硬度HV400〜500)を用い、機械式ショットブラスト装置(新東工業社製。型式:ローラー式コンベアショットブラスト)にて、投射速度61m/sec、投射角度80〜90度にて両端部を除く、A4の紙を縦方向に印刷する場合に紙に接する部分全面にショットブラストした(なお、後述の実施例及び比較例の全てにおいて、ショットブラスト処理は、ロール本体の側面のうち両端部を除くA4の紙を縦方向に印刷する場合に紙に接する部分全面に行った。)。紙に接する部分全面にショットブラスト処理すると紙に接する部分全面が均一に紙に接することになりそれだけ紙の把持が確実になるからである。ショットブラスト量はフルカバレージとした。
この場合、投射角度を90度とすると、投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、1.5×10−3Jである。
【0091】
ショットブラスト処理されたロール本体の表面粗さを表面粗さ測定器(株式会社東京精密製、商品名「サーフコム 1400D」)を用い、JIS B 0601−1994に基づいて、十点平均粗さ(Rz )値を求めると、34.13μmであった。
【0092】
次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体を無電解メッキ液中に浸漬し常法によりメッキした。無電解メッキ液は、硫酸ニッケルと次亜リン酸ソーダの混合液を用いた。無電解メッキ処理液の温度は90〜95℃とし、15分浸漬した。
【0093】
メッキされて得られたロール本体を水洗し乾燥後、更に、350℃で1時間加熱しベイキング処理した。
【0094】
得られたロール本体のメッキ皮膜層の厚みは、4.2μmであった。
メッキ処理後のロール本体の表面粗さを上記と同様にして十点平均粗さ(Rz )値を求めると、30.91μmであった。ショットブラスト処理時の粗さと比較し数値がやや低下したが、これは粗さの谷の部分にメッキ層が形成され、谷の深さが浅くなったためと推測される。以上のようにして得られたロール本体が本発明の紙送りローラーである。
【0095】
上記の被処理物の大きさ、ショットブラスト条件、メッキ皮膜層厚み、並びに、ショットブラスト後及びメッキ・ベイキング後の表面粗さを表1に示した。また、後述の実施例及び比較例についても、同様の項目について表1に示した。なお、表面粗さの測定は、いずれもJIS B 0601−1994に基づく十点平均粗さ(Rz )値の測定であり実施例1と同様に行った。なお、表1において、表面粗さの欄に−とあるのは測定しなかったことを意味する。
【0096】
また、後述の実施例及び比較例におけるメッキ条件については、無電解メッキ液は、いずれも実施例1と同様の硫酸ニッケルと次亜リン酸ソーダの混合液を用い、無電解メッキ処理液の温度は90〜95℃であり、メッキ液への浸漬時間は、メッキ皮膜層厚みを3μmとする場合は10分、メッキ皮膜層厚みを4.2μmとする場合は15分、メッキ皮膜層厚みを7μmとする場合は30分、メッキ皮膜層厚みを10μmとする場合は40分とした。いずれの実施例及び比較例においても、メッキ終了後メッキ液中から取り出されたロール本体を水洗し乾燥後、更に、350℃で1時間加熱しベイキング処理した。
【0097】
【表1】

【実施例2】
【0098】
ショットブラスト処理までは実施例1と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚みが7μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
表1にあるように、メッキ処理後のロール本体の十点平均粗さ(Rz )値は31.01μmであった。この値と前記4.2μmの厚みの場合の粗さと比較すると粗さの谷の部分における変化はさほどなかったと解釈できる。
【0099】
上記のようにして得られたメッキ処理及びベイキング処理後のロール本体の写真を図8に示した。図8において、1目盛りは1mmである。
【0100】
(比較例1)
ショットブラスト処理までは実施例1と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、10μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
表1にあるように、メッキ処理後のロール本体の十点平均粗さ(Rz)値は30.87μmであった。この値と前記4.2μm、7μmの厚みの場合の粗さと比較するとほぼ同じ値であった。
【0101】
(比較例2)
ショットブラスト処理までを実施例1と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。
【実施例3】
【0102】
ロール本体として、いおう快削鋼SUM24Lを伸線処理した丸棒材を、矯正処理し、真直化処理および研磨により断面真円化処理して、直径10mm、長さ350mmの円柱体を得た。
【0103】
上記のロール本体の側面を実施例1と同様の条件でショットブラスト処理した。
【0104】
次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体を用い、無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【実施例4】
【0105】
ショットブラスト処理までは実施例3と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、7μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0106】
(比較例3)
ショットブラスト処理までは実施例3と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、10μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0107】
(比較例4)
ショットブラスト処理までを実施例3と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。
【実施例5】
【0108】
SS400Nからなる長方形状の板材を長辺と長辺を突き合わせするように管状に折り曲げ、その突合せ部を溶接して中空円筒体とし、次いで矯正処理したものを所定長さに寸断し、真直化処理および研磨により断面真円化処理して、直径12mm、長さ350mmの中空円筒体からなるロール本体を得た。
【0109】
上記のロール本体の側面を実施例1と同様の条件でショットブラスト処理した。次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体を用い、無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【実施例6】
【0110】
ショットブラスト処理までは実施例5と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、7μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0111】
(比較例5)
ショットブラスト処理までを実施例5と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。
【実施例7】
【0112】
ロール本体として、実施例1と同様にして直径7.5mm、長さ350mmの円柱体を得た。このロール本体の側面を、投射速度を72m/secとした他は実施例1と同様にしてショットブラストした。ショットブラスト量はフルカバレージとした。
この場合、投射角度を90度とすると、投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、2.1×10−3Jである。
【0113】
次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体を用い、無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【実施例8】
【0114】
ショットブラスト処理までは実施例7と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、7μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0115】
(比較例6)
ショットブラスト処理までは実施例7と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、10μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0116】
(比較例7)
ショットブラスト処理までを実施例7と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。
【実施例9】
【0117】
ロール本体として、実施例3と同様にして直径10mm、長さ350mmの円柱体を得た。このロール本体の側面を実施例7と同様の条件でショットブラスト処理した。上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体を用い、無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【実施例10】
【0118】
ショットブラスト処理までは実施例9と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、7μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0119】
(比較例8)
ショットブラスト処理までは実施例9と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、10μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0120】
(比較例9)
ショットブラスト処理までを実施例9と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。
【実施例11】
【0121】
ロール本体として、実施例5と同様にして直径12mm、長さ350mmの中空円筒体を得た。このロール本体の側面を実施例7と同様の条件でショットブラスト処理した。上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体を用い、無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【実施例12】
【0122】
ショットブラスト処理までは実施例11と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、7μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0123】
(比較例10)
ショットブラスト処理までは実施例11と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、10μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【0124】
(比較例11)
ショットブラスト処理までを実施例11と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。
【0125】
(比較例12)
ショットブラスト処理までは実施例7と同様にして得られたロール本体を用い、このロール本体に、無電解メッキ液処理条件を10分浸漬とした他は実施例1と同様にして無電解メッキ処理及びベイキング処理して、メッキ皮膜層の厚み、3μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
【実施例13】
【0126】
ロール本体として、実施例3と同様にして直径10mm、長さ350mmの円柱体を得た。
【0127】
上記のロール本体の側面を、投射材としてスチールボール(新東工業社製。高炭素鋳鋼製。球形で粒径0.3mm。硬度HV400〜500)を用い、機械式ショットブラスト装置(新東工業社製。型式:ローラー式コンベアショットブラスト)にて、投射速度61m/sec、投射角度80〜90度にてショットブラストした。ショットブラスト量はフルカバレージとした。
この場合、投射角度を90度とすると、投射材1個が持つ運動エネルギーK(単位:ジュール)は、0.19×10−3Jである。
【0128】
ショットブラスト処理されたロール本体の十点平均粗さ(Rz )値は16.85μmであった。
【0129】
次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体に、無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。
このようにして得られたメッキ処理及びベイキング処理後のロール本体の写真を図9に示した。図9において、1目盛りは1mmである。なお、ベイキング処理後のロール本体の直径は10mmであるが、図9においては、写真の上部と下部については、撮影時に光が十分に当たらなかったため、非常に暗くなっている。
図9を、実施例2で得られた紙送りローラーの表面写真である図8と比較すると、図9の方が凹凸は小さく、又コピー印刷用紙は把持できるが、薄くすべすべした紙は把持しがたかった。
また、この実施例で得られたロール本体の写真を図15にも示した。なお、図15と図9の違いは観察時の倍率の違いである。
【実施例14】
【0130】
ロール本体として、実施例13と同様にして直径10mm、長さ350mmの円柱体を得、これにショットブラスト時のショットブラスト量をカバレージ30%とした他は実施例13と同様にしてショットブラストした。
【0131】
次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体に、実施例13と同様にして無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。得られた紙送りローラー表面の顕微鏡写真を図13に示した。
【実施例15】
【0132】
ロール本体として、実施例13と同様にして直径10mm、長さ350mmの円柱体を得、これにショットブラスト時のショットブラスト量をカバレージ15%とした他は実施例13と同様にしてショットブラストした。
【0133】
次に、上記のショットブラスト処理により微凹凸が形成されたロール本体に、実施例13と同様にして無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。得られた紙送りローラー表面の顕微鏡写真を図11に示した。
【0134】
(比較例13)
ショットブラスト処理までを実施例13と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。得られた紙送りローラー表面の顕微鏡写真を図14に示した。
(比較例14)
ショットブラスト処理までを実施例14と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。得られた紙送りローラー表面の顕微鏡写真を図12に示した。
(比較例15)
ショットブラスト処理までを実施例15と同様に行って得られたロール本体で、無電解メッキをしなかったもの。得られた紙送りローラー表面の顕微鏡写真を図10に示した。
【実施例16】
【0135】
ショットブラスト時のショットブラスト量をフルカバレージ×1.25〜1.4(125〜140%)とした他は実施例1と同様にしてショットブラストし、実施例1と同様にして無電解メッキ処理及びベイキング処理してメッキ皮膜層の厚み、4.2μmのロール本体からなる紙送りローラーを得た。得られた紙送りローラー表面の光学顕微鏡写真を図16に示した。複雑な形状をしており一部に外輪山が連なった山脈状の凸部が観察される。
【0136】
(性能評価)
実施例1〜12、及び、比較例1〜12の紙送りローラーの性能評価をした。
1.把持力測定
1)試験装置
把持力測定機として図3及び図4に示す装置を製作した。図3は把持力測定機の原理を説明するための主要部の構成を示す模式的な右側面図、図4は把持力測定器を用いて把持力を測定しようとしているところを、正面斜め上から見た模式的な斜視図である。
試験しようとする試料(紙送りローラー)10と押圧ロール20の間に、印刷用紙30を挟み、押圧ロール20を試料(紙送りローラー)10側に押圧することにより、試料(紙送りローラー)10と押圧ロール20の間に、印刷用紙30をしっかりと固定する(なお、押圧ロール20は、図4においては、試料(紙送りローラー)10と印刷用紙30の後ろ側になるため見えていない)。印刷用紙30の下端にはクリップ40が付けられており、クリップ40はバネ秤50のフック520に接続されている。バネ秤50はフック520が上向きになるように置かれており、バネ秤50の下端の吊り具510には重り70が載せられている。バネ秤50の下端の吊り具510に重り70が載せられていることにより、バネ秤50のフック520が上方に引き上げられてもバネ秤50自体は上方に持ち上げられることがなく、位置は変わらないようにされている。また、試料10は試料取り付け具60に固定されている。試料取り付け具60は回転可能とされており、試料取り付け具60を回転させることにより、試料取り付け具60に固定された試料10が回転されるようにされている。なお、図4において、把持力測定機そのものは、この図から試料(紙送りローラー)10と印刷用紙30を除いた部分を指す。また、図3において、試料取り付け具60を描くと図が複雑になり分かりにくくなるため、試料取り付け具60の描画は省略した。
【0137】
2)把持力試験方法
試料(紙送りローラー)10と押圧ロール20の間に、印刷用紙30をしっかりと固定した状態で、試料10が取り付け固定されている試料取り付け具60を回転させることにより、試料10を図3に矢印で示した方向に回転させる。試料10の矢印方向への回転により、印刷用紙30が上方に引き上げられ、印刷用紙30にクリップ40を介して接続されたバネ秤50のフックが引き上げられ、引き上げ時の力がバネ秤50に表示される。バネ秤50に表示された最大値を試料の把持力(単位はグラム重)とした。試験に用いた印刷用紙はオフィスペーパー、NT中性紙、90ミクロン厚のA4サイズのものである。
【0138】
3)試験結果
実施例1〜12、及び、比較例1〜11の紙送りローラーの把持力測定の結果を表2及び図5に示した。
図5において、K2.1,K1.5などと省略して示したものは投射材の運動エネルギーを表し、それぞれ2.1×10−3J,1.5×10−3Jのことである。7.5φ,10φ,12φなどと省略して示したものは紙送りローラーの直径(mm)を表す。
【0139】
【表2】

【0140】
測定結果より、メッキ、ベイキング処理により把持力は低下し、メッキ皮膜層厚みが厚くなると、把持力は低下する。また、メッキに要する時間、材料コストは膜厚が大きい程、大きくなるので、この試験結果より、メッキ皮膜厚みは7μm以下が必要である。
上記のように、比較例のメッキをしない物に比べてメッキをすると、把持力は約200g重低下するが、メッキ処理物はメッキとベイキングによって形成されたメッキ皮膜層によって表面が滑らかになり、紙送りローラーの使用時に凸部が紙に接した時の当たりがよくなり、たとえ何らかの尖状部が前工程で形成されていたとしても印刷紙を削ったりキズをつけたりしないので、紙送りローラーの寿命が著しく伸びる、という利点がある。
【0141】
2.塩水噴霧試験
1)試験方法
JIS Z 2371に準拠して以下の条件で行った。
塩水タンク及び試験室温度:35±5℃
塩水濃度:5±0.5%
噴霧圧:0.098±0.01MPa
噴霧量:1〜2ml/80cm/1hr
試験時間:1,3,4時間
【0142】
2)判定結果
判定結果を表3に示した。
【0143】
【表3】

【0144】
3)試験試料と試験結果
比較例12(メッキ皮膜層厚み3μm)、実施例5(メッキ皮膜層厚み4.2μm)、実施例2(メッキ皮膜層厚み7μm)、比較例1(メッキ皮膜層厚み10μm)で得られた紙送りローラーについて試験した。
【0145】
メッキ皮膜層厚みとレイティングNo.との関係を表4及び図6に示した。
【0146】
【表4】

【0147】
この結果、メッキ皮膜層厚み3μmの場合、時間の経過と共に、レイティングNo.が大きく低下することが分る。これに対しメッキ皮膜層厚み4.2μmのものは実用的耐食性を備えている。
これより、メッキ皮膜層厚みは4μm以上が好ましい。4μm以上あれば、いおう快削鋼のような耐食性が、ステンレス鋼に比し低いものでも、メッキにより十分な実用的耐食性が得られる。
上記、把持力、及び塩水噴霧試験の結果、メッキ層の厚みは4〜7μmが好ましい。
【0148】
3.メッキ皮膜層の表面硬度
実施例1で得られた紙送りローラーのビッカース硬さを、ビッカース硬度計((株)マツザワ製 MMT−3)で測定した。その結果、ビッカース硬さは、メッキ膜厚4.25μmのものがHV756.8、メッキ膜厚4.31μmのものがHV774.1であった。
【0149】
(カバレージと把持力の関係)
実施例13〜15及び比較例13〜15の紙送りローラーの把持力測定結果を表5に示す。
【0150】
【表5】

【0151】
表5より、カバレージと把持力の間には強い関係があることがわかり、一定以上のカバレージが必要なことが解る。この結果より、把持力は50%以上が好ましく、フルカバレージがより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の紙送りローラーは、製造コストが低く、ローラー胴体側面の表面粗さ形状の凸部が樹脂で皮膜された従来のローラーに比較し、刃物のような鋭さがなく、紙に傷つき等が発生しづらい。また本発明の背景技術で述べたショットブラスト法で作成されたものに対しても尖状突起がなく滑らかなため、紙粉の発生が無く、耐食性があるので錆びず、且つ充分な把持力を確保するなど十分な紙送り性能を有し、紙送り性能が劣化しにくいので、プリンターの紙送りローラーとして有効に利用され得る。
本発明の紙送りローラーの製造方法は、環境に優しい方法であり、リサイクル面も考慮されたものである。各製造工程上安価に製造する方法なので、プリンターの紙送りローラーの製造に有効に用いることができる。
また、本発明の紙送りローラー及びその製造方法は、印刷用途の紙送りローラーとしてばかりでなく、写真焼付、模様付け、コーティング、ラミネート加工等に使用する紙を送給する金属ローラー及びその製造方法としても有効に利用され得る。
【符号の説明】
【0153】
1 紙送りローラー
2 ロール本体
3 微凹凸
31 凸部
32 凹部
4 メッキ皮膜層
10 試験しようとする試料(紙送りローラー)
20 押圧ロール
30 印刷用紙
40 クリップ
50 バネ秤
510 吊り具
520 フック
60 試料取り付け具
70 重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンターの紙送りローラーであって、金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理による微凹凸が設けられ、更にその上が無電解メッキによる皮膜層で覆われており、前記メッキ皮膜層の厚みが4〜7μmであることを特徴とするプリンターの紙送りローラー。
【請求項2】
前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jでショットブラスト処理されて形成されたものであることを特徴とする請求項1記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項3】
前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面にカバレージ50%以上で形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項4】
前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に鉄系材料からなる粒径0.2〜1.2mmの球形の粒子を投射材として形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項5】
前記ショットブラスト処理による微凹凸が、前記ロール本体の側面に、投射材の投射速度を35〜90m/secとして形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項6】
前記ショットブラスト処理により形成された微凹凸の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項7】
前記メッキ皮膜層の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmであることを特徴とする請求項1記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項8】
前記メッキ皮膜層の表面硬度がHV750〜850であることを特徴とする請求項1又は7に記載のプリンターの紙送りローラー。
【請求項9】
金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体の側面にショットブラスト処理を施して微凹凸を形成し、次いで無電解メッキ処理を行い、次いでメッキ層をベイキングして、ベイキング後のメッキ皮膜層の厚みが4〜7μmになるようにメッキ層厚みを調整して製造することを特徴とするプリンターの紙送りローラーの製造方法。
【請求項10】
前記ショットブラスト処理が、前記ロール本体の側面に投射材1個の運動エネルギーが0.1×10-3〜5.0×10-3 Jで投射材を投射して微凹凸を形成することであることを特徴とする請求項9記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法。
【請求項11】
前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ロール本体の側面にカバレージ50%以上で形成することを特徴とする請求項9又は10記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法。
【請求項12】
前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ロール本体の側面に鉄系材料からなる粒径0.2〜1.2mmの球形の粒子を投射材として投射して形成することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法。
【請求項13】
前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ロール本体の側面に、投射材の投射速度を35〜90m/secで形成することを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法。
【請求項14】
前記ショットブラスト処理による微凹凸を、前記ショットブラスト処理により形成された微凹凸の表面粗さがJIS B 0601−1994による十点平均粗さ(Rz)値で25〜65μmとなるように形成することを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法。
【請求項15】
金属製の円柱体または中空円筒体からなるロール本体を軸心を中心に回転しながらロール本体の側面に前記ショットブラスト処理を施すことを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載のプリンターの紙送りローラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−140249(P2012−140249A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276521(P2011−276521)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(506340275)木ノ本伸線株式会社 (2)
【Fターム(参考)】