説明

紙送り用ローラ

【課題】紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図ることが可能な紙送り用ローラを提供する。
【解決手段】紙送り用ローラ10は、軸体12と、軸体の外周に形成された弾性層14とを有する。弾性層14は、ローラ軸方向に沿って角のない弾性層側表面凹凸16が形成されている。軸体12の周表面には、ローラ軸方向に沿って軸体側表面凹凸18が形成されており、当該軸体側表面凹凸18に対応して弾性層14が弾性変形して弾性層側表面凹凸16が形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙送り用ローラに関し、さらに詳しくは、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の機器に用いられるピックアップローラ、フィードローラ、リタードローラ、搬送ローラ等として好適な紙送り用ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機等に用いられている紙送り用ローラは、一般に、軸体と、軸体の外周に形成された弾性層とを有している。この種の紙送り用ローラは、摩擦係数が長期にわたって維持されることが要求される。複写機等に、例えば、炭酸カルシウム等を多く含むいわゆる粗悪紙を用いる場合、その紙の成分(紙粉)が紙送り用ローラ表面に堆積し、それにより、摩擦係数が低下し、紙送り不具合(不送り、重送、etc)が生じるといった問題があった。
【0003】
この不具合を防止するため、従来、弾性層表面に、シボ加工を施して微細凹凸を形成したり、ローラ軸方向に延びる凹溝を複数形成したりして、シボの微細凹部や凹溝に紙粉を誘導堆積させるようにした紙送り用ローラが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
なお、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の機器に用いられる紙送り用ローラに関する技術ではないが、特許文献2には、アルミニウム箔等や合成樹脂フィルム等の連続する帯状体の蛇行やしわの発生を防止しながら給送できるローラが開示されている。このローラは、芯体部の円周方向に沿って所定間隔で溝部が形成されるとともに、この芯体部の外側に、弾性変形させて溝部に対応した多角形状の外周面を有する外層部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4042806号
【特許文献2】特開平6−271163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来知られる紙送り用ローラは以下の点で問題があった。すなわち、弾性層表面にシボ加工により微細凹凸を形成する場合、ローラ成型金型の加工方法や成型時の脱型性等の問題から、微細凹凸部の大きさには限界がある。この限界を打破するため、弾性層表面に凹溝を複数形成する手法は有効である。
【0007】
しかし、成型時の脱型性の観点から、溝方向は、ローラ軸方向と平行に配置せざるを得ないのが現状である。この場合、溝方向は、通紙方向と垂直になるので、紙の通過時に紙が溝によりせき止められ、紙送り不具合が発生しやすくなるといった問題が発生する。
【0008】
このように、従来の紙送り用ローラでは、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図ることが困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図ることが可能な紙送り用ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る紙送り用ローラは、軸体と、上記軸体の外周に形成された弾性層とを有する紙送り用ローラであって、上記弾性層の周表面には、ローラ軸方向に沿って角のない弾性層側表面凹凸が形成されていることを要旨とする。
【0011】
ここで、上記軸体の周表面には、ローラ軸方向に沿って軸体側表面凹凸が形成されており、当該軸体側表面凹凸に対応して上記弾性層側表面凹凸が形成されていることが好ましい。
【0012】
また、上記軸体側表面凹凸を構成する凸部は、角がないことが好ましい。
【0013】
また、ローラ軸を中心とし、上記弾性層側表面凹凸を構成する凸部に外接する外接円の半径をr1、ローラ軸を中心とし、上記弾性層側表面凹凸を構成する凹部に内接する内接円の半径をr2としたときに、r1−r2の値が0.05〜0.45mmの範囲内にあることが好ましい。
【0014】
また、上記弾性層の厚みは、上記軸体側表面凹凸の一部を構成する凸部の高さの1.60倍〜13.33倍の範囲内にあることが好ましい。
【0015】
また、上記弾性層表面は、シボ加工が施されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る紙送り用ローラは、軸体と、上記軸体の外周に形成された弾性層とを有しており、上記弾性層の周表面には、ローラ軸方向に沿って角のない弾性層側表面凹凸が形成されている。
【0017】
そのため、弾性層の周表面に紙粉が付着しても、紙粉は、弾性層側表面凹凸のうち凹部に誘導され、その部分に堆積する。それ故、紙粉の付着による紙送り性能の低下を抑制することができる。さらに、上記弾性層側表面凹凸は角がないため、表面凹凸形状が緩やかとなり、紙の引っ掛かりを防ぐことができる。それ故、紙送り不具合の抑制を図ることができる。
【0018】
したがって、本発明に係る紙送り用ローラを、ピックアップローラ、フィードローラ、リタードローラ、搬送ローラ等に適用すれば、紙送り不具合を低減しつつ、長期にわたって紙送り性能を維持することができる。とりわけ、本発明に係る紙送り用ローラを、紙送り不具合が生じやすいリタードローラに適用した場合には、本発明の効果が大きくなる。
【0019】
ここで、上記軸体の周表面に、ローラ軸方向に沿って軸体側表面凹凸が形成されており、当該軸体側表面凹凸に対応して弾性層が弾性変形して上記弾性層側表面凹凸が形成されている場合には、緩やかで均一な弾性層側表面凹凸を得やすくなる。そのため、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図るのに有利である。また、軸体に表面凹凸のない弾性層を圧入することにより、簡易に弾性層表面に表面凹凸を形成できるので、生産性、低コスト化に寄与することができる。
【0020】
この際、上記軸体側表面凹凸を構成する凸部に角がない場合には、緩やかで均一な弾性層側表面凹凸をより一層得やすくなり、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図るのに有利である。
【0021】
また、上記r1−r2の値が0.05〜0.45mmの範囲内にある場合には、弾性層の表面に付着した紙粉を、弾性層側表面凹凸の凹部に誘導堆積させやすく、通紙も阻害し難いため、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制とのバランスに優れる。
【0022】
また、上記弾性層の厚みが、上記軸体側表面凹凸の一部を構成する凸部の高さの1.60倍〜13.33倍の範囲内にある場合には、上記軸体の周表面にローラ軸方向に沿って軸体側表面凹凸が形成されている場合に、弾性層表面に軸体側表面凹凸に対応した弾性層側表面凹凸が形成されやすくなる。
【0023】
また、上記弾性層表面にシボ加工が施されている場合には、シボ加工による微細凹凸の凹部にも紙粉が堆積するため、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制効果が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る紙送り用ローラの正面図である。
【図2】図1に示した本実施形態に係る紙送り用ローラのA−A断面図である。
【図3】本実施形態に係る他の紙送り用ローラの正面図である。
【図4】図3に示した本実施形態に係る紙送り用ローラのB−B断面図である。
【図5】実施例3に係る紙送り用ローラの弾性層の断面形状を示す図である。
【図6】比較例1に係る紙送り用ローラの弾性層の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態に係る紙送り用ローラについて説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る紙送り用ローラの正面図である。図2は、図1に示した本実施形態に係る紙送り用ローラのA−A断面図である。図3は、本実施形態に係る他の紙送り用ローラの正面図である。図4は、図3に示した本実施形態に係る他の紙送り用ローラのB−B断面図である。これら図面に示すように、紙送り用ローラ10は、軸体12と、軸体12の外周面に沿って形成された弾性層14とを有している。
【0027】
軸体12の材料としては、例えば、ポリアセタール(POM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート、ナイロン等の合成樹脂、または、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属材料を例示することができる。軸体12は、導電性、非導電性の何れでも構わないが、好ましくは、導電性を有していると良い。通電時にローラ表面に発生する静電気を除電しやすく、紙粉の堆積抑制に利点があるからである。
【0028】
軸体12は、図2、図4に示すように中空状に形成されていても良いし、中実体であっても良い。好ましくは、軽量化、回転性等の観点から、中空状であると良い。軸体12の寸法は、紙送り用ローラとして適正なものにする観点から、通常、外径7〜30mmの範囲内、厚み0.5〜3.0mmの範囲内(中空状の場合)に設定すると良い。
【0029】
また、弾性層14の材料としては、例えば、ウレタン系ポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ノルボルネンゴム(NOR)等を例示することができる。とりわけ、紙送り機能、耐久性向上に適度な硬さを得やすく、信頼性および耐久性に優れる等の観点から、ウレタン系ポリマーが好ましい。なお、弾性層14は、2以上の材料から構成されていても構わない。
【0030】
弾性層14の寸法は、紙送り用ローラとして適正なものにする観点から、軸長5〜60mmの範囲内、外径10〜40mmの範囲内に設定すると良い。また、弾性層14の硬度は、紙送り機能、耐久性に優れる等の観点から、JIS−A硬度30〜90度の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは、JIS−A硬度40〜75度の範囲内であると良い。
【0031】
ここで、紙送り用ローラ10において、弾性層14は、その周表面に弾性層側表面凹凸16が形成されている。弾性層側表面凹凸16は、凹部16aと凸部16bとから構成されている。弾性層側表面凹凸16は、ローラ軸方向に沿って形成されている。つまり、凹部16aの溝部分は、ローラ軸方向に沿って延びており、この溝部分に紙粉が誘導されて堆積する。一方、凸部16bの突起部分も、同様にして、ローラ軸方向に沿って延びている。
【0032】
ここで、弾性層側表面凹凸16は、角がない状態とされている。弾性層側表面凹凸16は、ローラ軸方向に沿って形成されているので、角があると、紙の引っ掛かりが生じるが、角がないと、弾性層14の表面凹凸形状が緩やかとなり、紙の引っ掛かりを防ぐことが可能となる。
【0033】
弾性層側表面凹凸16における凹部16a、凸部16bの数は、特に限定されるものではない。図2では、凹部16aが8ヶ所、凸部16bが8ヶ所形成されている例を模式的に示している。また、図4では、凹部16aが6ヶ所、凸部16bが6ヶ所形成されている例を模式的に示している。他にも、凹部16aが4ヶ所、10ヶ所、凸部16bが4ヶ所、10ヶ所形成されていても良い。凹部16a、凸部16bの数は、好ましくは、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立がしやすいなどの観点から、図2に示すように、凹部16aが8ヶ所、凸部16bが8ヶ所それぞれが交互に形成されている、あるいは、図4に示すように、凹部16aが6ヶ所、凸部16bが6ヶ所それぞれが交互に形成されていると良い。
【0034】
また、図2、図4では、弾性層側表面凹凸16における凹部16a、凸部16bは、それぞれが所定間隔隔てて(図2では、ローラ軸の中心と隣り合う凹部16aの底とを結ぶ線のなす角が45°、ローラ軸の中心と隣り合う凸部16bの頂点とを結ぶ線のなす角が45°、図4では、ローラ軸の中心と隣り合う凹部16aの底とを結ぶ線のなす角が60°、ローラ軸の中心と隣り合う凸部16bの頂点とを結ぶ線のなす角が60°)形成されている例を模式的に示しているが、隣り合う凹部16a、隣り合う凸部16b同士の距離は必ずしも完全に一致している必要はない。
【0035】
弾性層14は、図2、図4に示すように、ローラ軸を中心とし、弾性層側表面凹凸16を構成する凸部16bに外接する外接円の半径をr1、ローラ軸を中心とし、弾性層側表面凹凸16を構成する凹部16aに内接する内接円の半径をr2としたときに、r1−r2の値が0.05〜0.45mmの範囲内にあることが好ましい。弾性層14の表面に付着した紙粉を、凹部16aに誘導堆積させやすく、通紙も阻害し難いため、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制とのバランスに優れるからである。r1−r2の値は、より好ましくは、0.10〜0.40mmの範囲内、さらに好ましくは、0.12〜0.25mmの範囲内にあると良い。
【0036】
また、弾性層14の表面には、シボ加工が施されていると良い。シボ加工による微細凹凸の凹部(不図示)にも紙粉が堆積するため、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制効果が大きくなるからである。
【0037】
上述した弾性層側表面凹凸16は、弾性層14を研磨したり、型転写等により形成することが可能である。なお、弾性層側表面凹凸16の表面凹凸形状は緩やかであるため、成型時の脱型性の問題について特に心配することはない。
【0038】
弾性層側表面凹凸16は、好ましくは、軸体12に形成された軸体側表面凹凸18に起因して弾性層14が弾性変形することによって形成されていると良い。表面凹凸のない弾性層を軸体12に圧入する等して、緩やかで均一な弾性層側表面凹凸16を軸体側表面凹凸18に対応させて簡易に形成することができるからである。以下、これについて説明する。
【0039】
図2、図4に示す軸体12は、その周表面に軸体側表面凹凸18が形成されている。軸体側表面凹凸18は、凹部18aと凸部18bとから構成されている。軸体側表面凹凸18は、ローラ軸方向に沿って形成されている。つまり、凹部18aの溝部分は、ローラ軸方向に沿って延びている。一方、凸部18bの突起部分も、同様にして、ローラ軸方向に沿って延びている。ここでは、軸体12の本体部12aの表面に、ローラ軸方向に沿って突出部が形成されることによって凸部18bが形成されており、この凸部18b同士の間が凹部18aとされている。なお、軸体側表面凹凸18は、弾性層14の軸長と同じか、またはそれより長く形成されていることが好ましい。均一な弾性層側表面凹凸16を得やすくなるためである。
【0040】
軸体側表面凹凸18のうち、凸部18bは角がないことが好ましい。緩やかで均一な弾性層側表面凹凸16をより一層得やすくなり、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図るのに有利であるからである。凸部18bの形状は、具体的には、断面略半円状(楕円状等も含む)などであると良い。図示はしないが、弾性層側表面凹凸16に角ができない範囲内であれば、軸体側表面凹凸18の凸部18bは、断面略半六角形状、断面略半八角形状等であっても良い。
【0041】
軸体側表面凹凸18における凹部18a、凸部18bの数は、特に限定されるものではない。図2では、凹部18aが8ヶ所、凸部18bが8ヶ所形成されている例を模式的に示している。また、図4では、凹部18aが6ヶ所、凸部18bが6ヶ所形成されている例を模式的に示している。他にも、凹部18aが4ヶ所、10ヶ所、凸部18bが4ヶ所、10ヶ所等形成されていても良い。凹部18a、凸部18bの数は、好ましくは、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立がしやすいなどの観点から、図2に示すように、凹部18aが8ヶ所、凸部16bが8ヶ所それぞれが交互に形成されている、あるいは、図4に示すように、凹部18aが6ヶ所、凸部16bが6ヶ所それぞれが交互に形成されていると良い。
【0042】
また、図2、図4では、軸体側表面凹凸18における凹部18a、凸部18bは、それぞれが所定間隔隔てて(図2では、ローラ軸の中心と隣り合う凹部18aの底の中心とを結ぶ線のなす角が45°、ローラ軸の中心と隣り合う凸部18bの頂点とを結ぶ線のなす角が45°、図4では、ローラ軸の中心と隣り合う凹部18aの底の中心とを結ぶ線のなす角が60°、ローラ軸の中心と隣り合う凸部18bの頂点とを結ぶ線のなす角が60°)形成されている例を模式的に示している。隣り合う凹部18a、隣り合う凸部18b同士の距離は、好ましくは、一定間隔に設定されていると良い。均一な弾性層側表面凹凸16をより一層得やすくなるからである。
【0043】
上述した軸体12の軸体側表面凹凸18は、無垢の軸体の研削加工や、型成形における型転写等によって形成することができる。
【0044】
軸体12に軸体側表面凹凸18を形成する場合、弾性層14の厚みは、軸体側表面凹凸18の凸部18bの高さをHとすると、1.60倍〜13.33倍の範囲内にあることが好ましい。弾性層14の表面に軸体側表面凹凸18に対応した弾性層側表面凹凸16が形成されやすくなるからである。上記高さHは、より好ましくは、1.70倍〜7.11倍の範囲内、さらに好ましくは、2.76倍〜5.89倍の範囲内にあると良い。弾性層14の厚みは、具体的には、好ましくは、1.0〜7.0mmの範囲内、より好ましくは、1.5〜5.0mmの範囲内に設定すると良い。
【0045】
上述した紙送り用ローラ10は、例えば、次のようにして好適に製造することができる。なお、以下では、軸体側表面凹凸18を有する軸体12を用いる場合について説明する。
【0046】
先ず、内周面に緩やかな表面凹凸のない断面円形状の貫通孔を有する成形金型金型を準備する。このとき、弾性層の表面にシボ加工を施したい場合には、貫通孔の内周面に放電加工を行うことにより転写のためのシボ形状を形成することができる。
【0047】
次いで、準備した成形金型の貫通孔に芯金を同軸的にセットする。芯金と貫通孔内周面との間の成形空間内に、弾性層の形成材料を充填した後、これを弾性層の形成材料に適した温度で加熱し、芯金の外周面に、弾性体を形成する。その後、脱型するとともに芯金から弾性体を抜き取り、所定の長さに切断する。このようにして弾性層側表面凹凸16が未だ形成されていない弾性体14’を作製する。なお、弾性体14’の表面には、シボ形状が導入されている。
【0048】
次いで、弾性体14’の中空部に、所定のピッチで軸体側表面凹凸18が形成されている軸体を圧入する。これにより紙送り用ローラ10を得ることができる。なお、軸体側表面凹凸18が形成されていない平滑な軸体12’を用いる場合には、芯金の外周面に形成した弾性体の表面を研磨・研削加工したり、成形金型の貫通孔の内周面に予め弾性層側表面凹凸に対応する表面凸凹を形成し、これを弾性体の表面に転写したりすれば良い。
【0049】
上述した紙送り用ローラは、複写機等における給紙装置に用いられるピックアップローラ、フィードローラ、リタードローラ(セパレートローラ)、給紙装置から送り出された紙を出口まで順に搬送する搬送ローラ等として好適である。他にも、自動販売機、自動改札機、現金自動引き取り装置、両替機、計数機、キャッシュディスペンサー等の紙送り用ローラとして使用することも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0051】
1.実施例および比較例に係る紙送り用ローラの作製
(実施例1)
<弾性層の形成材料の調製>
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)[Mn=2000]80質量部、ポリプロピレングリコール(PPG)[Mn=5000]20質量部(具体的には、PTMGおよびPPGの混合物「PREMINOL S3005」(旭硝子社製)を使用)を80℃にて1時間真空脱泡、脱水した後、MDIを48質量部混合し、窒素雰囲気下で80℃にて3時間反応させ、ウレタンプレポリマーを調製した。そして、このウレタンプレポリマーを90℃にて30分間真空脱泡した後、可塑剤[ジオクチルフタレート]65質量部、鎖延長剤[1,4−ブタンジオール(1,4−BD)]3質量部、鎖延長剤[トリメチロールプロパン(TMP)]2質量部を配合して、減圧下で2分間攪拌混合し、弾性層の形成材料である未架橋の熱硬化性ウレタン系ポリマーを調製した。
【0052】
<弾性層成形金型の作製>
断面円形状の貫通孔(内径φ20mm)を備えた金型を準備した。準備した金型の貫通孔内周面に対して、放電加工機(三菱電機社製、「DIAX VX10」)による放電加工を行った。上記放電加工は、成形される弾性体の表面にシボ形状を付与するために行ったものであり、上記シボ形状の山状部高さは30〜60μm程度、頂部間距離は50〜80μm程度となるようにした。この金型を成形金型Aという。
【0053】
(紙送り用ローラの作製)
成形金型Aの貫通孔に芯金(外径φ10mm)を同軸的にセットするとともに、両端開口部をキャップ型で閉栓し、その成形空間内に、弾性層の形成材料である上記未架橋の熱硬化性ウレタン系ポリマーを充填した後、その成形金型Aをオーブン内に入れ、架橋した(150℃×60分間)。そして、上記芯金の外周面に、架橋硬化された熱硬化性ウレタン系ポリマーよりなる弾性体(JIS−A硬度30度)を形成し、その後、脱型するとともに芯金から弾性体を抜き取り、長さ25mmに切断した。得られた各弾性体は、チューブ状(外径φ20mm、内径φ10mm、長さ25mm)であり、その表面にはシボ加工が施されている。
【0054】
次に、ポリアセタール(POM)製の軸体(長さ27mm、外径φ10mm)を準備した。この軸体は、本体部の周囲に、軸方向に沿って延びる凸部が6ヶ所形成されている。凸部の形状は、断面半円状であり、軸心と隣り合う凸部の頂部とを結ぶ線のなす角は60°に設定されている。また、凸部の高さHは0.1mmである。
【0055】
次いで、チューブ状弾性体の中空部に、上記軸体を圧入した。このようにして、概略図4に示した断面形状を有する実施例1に係る紙送り用ローラを得た。
【0056】
(実施例2)
凸部の高さHを0.3mmとした軸体を準備した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る紙送り用ローラを得た。
【0057】
(実施例3)
凸部の高さHを1.0mmとした軸体を準備した以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る紙送り用ローラを得た。
【0058】
(実施例4)
貫通孔の内周面に、図4の弾性層の外形を転写可能な、角のない緩やかな表面凹凸を形成した成形金型Bを別途準備した。実施例1において、成形金型Aに代えて成形金型Bを用い、チューブ状(外径φ20mm、内径φ10mm、長さ25mm)であって、かつ、その表面にシボ加工および型転写による緩やかな表面凹凸を有する弾性体を作製した。次いで、このチューブ状弾性体の中空部に、軸体側表面凹凸のないポリアセタール(POM)製の軸体(長さ27mm、外径φ10mm)を圧入した。このようにして、概略図4に示した断面形状を有する実施例4に係る紙送り用ローラを得た。
【0059】
(実施例5)
凸部の高さHを1.60mmとした軸体を準備した以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る紙送り用ローラを得た。
【0060】
(実施例6)
凸部の高さHを1.33mmとした軸体を準備した以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る紙送り用ローラを得た。
【0061】
(比較例1)
軸体側表面凹凸のないポリアセタール(POM)製の軸体(長さ27mm、外径φ10mm)を準備した。実施例1で作製したチューブ状弾性体の中空部に、上記軸体を圧入した。これにより、弾性層の断面がほぼ真円である比較例1に係る紙送り用ローラを得た。
【0062】
(比較例2)
チューブ状(外径φ20mm、内径φ10mm、長さ25mm)であって、かつ、その表面にシボ加工が施されており、さらに軸心に沿って0.2mm幅の角溝が8本形成されている弾性体を作製した。なお、この弾性体は、実施例1で作製した弾性体の表面に、ルーターにより角溝加工を行うことにより作製した。次いで、このチューブ状弾性体の中空部に、軸体側表面凹凸のないポリアセタール(POM)製の軸体(長さ27mm、外径φ10mm)を圧入した。これにより、弾性層の表面に角のある表面凹凸が形成されている比較例2に係る紙送り用ローラを得た。
【0063】
2.作製した紙送り用ローラの弾性層の形状
作製した各紙送り用ローラについて弾性層の表面形状を測定した。具体的には、各紙送り用ローラを、真円度測定装置(東京精密(株)製、「RONDCOM 60A」にセットし、基準軸に沿って調芯後、ロールを回転させながら円周の輪郭形状を測定した。その後、測定回転軸を中心とし、測定した輪郭形状の最小外接円の半径r1と最大内接円の半径r2との差r1−r2を求め、これを弾性層表面凹凸の凸部高さとした。
【0064】
図5に、実施例1〜6に係る紙送り用ローラの代表例として、実施例3に係る紙送り用ローラの弾性層の断面形状を示す。図5に示されるように、実施例3に係る紙送り用ローラは、弾性層の周表面にローラ軸方向に沿って角のない弾性層側表面凹凸が形成されていることが確認された。なお、図示はしないが、他の実施例に係るいずれの紙送り用ローラも、実施例3に係る紙送り用ローラと同様に、弾性層の周表面にローラ軸方向に沿って角のない緩やかな弾性層側表面凹凸が形成されていた。
【0065】
一方、図6に、比較例1に係る紙送り用ローラの断面形状を示す。図6に示されるように、比較例1に係る紙送り用ローラは、弾性層の周表面にローラ軸方向に沿って角のない緩やかな弾性層側表面凹凸を有していないことが分かる。なお、弾性層表面の微細凹凸は、シボ加工による表面凹凸である。
【0066】
(紙送り性能の評価)
各紙送り用ローラを、市販のカラープリンター(KYOCERA製、「KM−8030」)の給紙部(フィード部及びリタード部)に組み込み、300,000枚の用紙(INTERNATIONAL PAPER社製、「REY」)を通紙する耐久試験を行った。上記耐久試験において、フィードローラの摩耗・紙粉付着による給紙不具合が全く発生しなかった場合を「A」と判定した。上記給紙不具合が5回未満で発生した場合を「B」と判定した。上記給紙不具合が5回以上10回未満で発生した場合を「C」と判定した。上記給紙不具合が10回以上30回未満で発生した場合を「D」と判定した。上記給紙不具合が30回以上発生した場合を「E」と判定した。
【0067】
(紙送り不具合の評価)
各紙送り用ローラを、市販のカラープリンター(KYOCERA製、「KM−8030」)の給紙部(フィード部及びリタード部)に組み込み、300,000枚の用紙(INTERNATIONAL PAPER社製、「REY」)を通紙する耐久試験を行った。上記耐久試験において、リタードローラ部において用紙通過不具合が全く発生しなかった場合を「A」と判定した。上記用紙通過不具合が5回未満で発生した場合を「B」と判定した。上記用紙通過不具合が5回以上10回未満で発生した場合を「C」と判定した。上記用紙通過不具合が10回以上30回未満で発生した場合を「D」と判定した。上記用紙通過不具合が30回以上発生した場合を「E」と判定した。
【0068】
表1に、弾性層、軸体の詳細な構成と評価結果をまとめて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1を相対比較すると以下のことが分かる。すなわち、比較例1に係る紙送り用ローラは、弾性層の外形が真円に近く、表面にシボが形成されているだけである。そのため、シボの微細凹部に紙粉を堆積させる能力が低く、紙粉の付着による紙送り性能に劣る。
【0071】
比較例2に係る紙送り用ローラは、弾性層の表面にローラ軸に沿って角のある表面凹凸が形成されている。そのため、紙の通過時に紙が溝によりせき止められ、紙送り不具合が発生しやすい。
【0072】
これらに対し、実施例1〜6に係る紙送り用ローラは、いずれも本発明の構成を有している。そのため、紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制との両立を図ることができていることが分かる。とりわけ、弾性層側表面凹凸の凸部の高さ(r1−r2)が0.05〜0.45mmの範囲内にある実施例2〜5に係る紙送り用ローラは、紙粉の付着による紙送り性能の低下抑制と紙送り不具合の抑制とのバランスに優れていることが確認された。
【0073】
また、軸体の表面に軸体側表面凹凸を形成することにより、断面真円状の弾性体を用いて弾性層側表面凹凸を簡単に付与することができる。そのため、弾性層形成のための成形金型を簡易することができ、低コスト化に寄与できるなどの利点があることも確認された。
【0074】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能なものである。
【符号の説明】
【0075】
10 紙送り用ローラ
12 軸体
12a 本体部
14 弾性層
16 弾性層側表面凹凸
16a 凹部
16b 凸部
18 軸体側表面凹凸
18a 凹部
18b 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性層とを有する紙送り用ローラであって、
前記弾性層の周表面には、ローラ軸方向に沿って角のない弾性層側表面凹凸が形成されていることを特徴とする紙送り用ローラ。
【請求項2】
前記軸体の周表面には、ローラ軸方向に沿って軸体側表面凹凸が形成されており、当該軸体側表面凹凸に対応して前記弾性層側表面凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の紙送り用ローラ。
【請求項3】
前記軸体側表面凹凸を構成する凸部は、角がないことを特徴とする請求項2に記載の紙送り用ローラ。
【請求項4】
ローラ軸を中心とし、前記弾性層側表面凹凸を構成する凸部に外接する外接円の半径をr1、ローラ軸を中心とし、前記弾性層側表面凹凸を構成する凹部に内接する内接円の半径をr2としたときに、
r1−r2の値が0.05〜0.45mmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紙送り用ローラ。
【請求項5】
前記弾性層の厚みは、前記軸体側表面凹凸の一部を構成する凸部の高さの1.60倍〜13.33倍の範囲内にあることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の紙送り用ローラ。
【請求項6】
前記弾性層表面は、シボ加工が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紙送り用ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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