説明

紡糸ノズルプレートの洗浄方法

【課題】 紡糸ノズルプレートを損傷することなく、十分に洗浄できる方法を提供すること。
【解決手段】 ノズル孔を有する紡糸ノズルプレートの片面に研磨粒子を配置した後、ノズル孔を通過させる、紡糸ノズルプレートの洗浄方法である。この方法によれば、十分に洗浄することができる。また、この方法は紡糸ノズルプレートを損傷することなく、穏やかに洗浄することができ、特に、ノズル孔の直径が500μm以下であっても、十分に洗浄することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡糸ノズルプレートの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を紡糸する紡糸ノズルプレートを使用していると、徐々にノズル孔に樹脂が残留し、所望形状の繊維を紡糸できなくなる。そのため、所定時間紡糸した後に、紡糸ノズルプレートを洗浄し、ノズル孔に残留した樹脂を除去することによって、所望形状の繊維を紡糸できるように、メンテナンスを行うのが通常である。
【0003】
このような紡糸ノズルプレートの洗浄方法として、研磨材を噴射する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、このような研磨材を噴射する方法によると、紡糸ノズルプレート自体が研磨材によって削れてしまい、紡糸ノズルプレートの寿命が極端に短くなる可能性があった。
【0004】
別の紡糸ノズルプレートの洗浄方法として、ノズル孔の直径に相当する直径を有するドリルを挿入して洗浄する方法も知られている。しかしながら、この方法によると、ノズル孔を損傷しやすく、所望形状の繊維を紡糸できなくなる可能性の高い方法であった。
【0005】
更に別の洗浄方法として、紡糸ノズルプレートを450℃以上の温度でノズル孔内に残留する樹脂を焼いた後、高圧水流で洗浄する方法も知られている。しかしながら、この方法によっては樹脂を十分に除去することができず、早々に所望形状の繊維を紡糸できなくなる方法であった。
【0006】
このような紡糸ノズルプレートの問題はノズル孔の直径が小さくなればなるほど生じやすい問題であり、特に、ノズル孔の直径が500μm以下である場合に顕著な問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−150760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題点を解決するためになしたものであり、紡糸ノズルプレートを損傷することなく、十分に洗浄できる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「ノズル孔を有する紡糸ノズルプレートの片面に研磨粒子を配置した後、ノズル孔を通過させることを特徴とする、紡糸ノズルプレートの洗浄方法。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる紡糸ノズルプレートの洗浄方法は、研磨粒子を、ノズル孔を通過させることによって洗浄しているため、十分に洗浄することができる。なお、研磨材を噴射するわけではなく、また、ドリルを挿入するわけでもないため、紡糸ノズルプレートを損傷することなく、穏やかに洗浄することができる。特に、ノズル孔の直径が500μm以下であっても、十分に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】紡糸ノズルプレートの正面図の一例。
【図2】紡糸ノズルプレートを洗浄装置に設置し、片面に研磨粒子を配置した状態を示す模式的縦断面図。
【図3】実施例1における洗浄後の紡糸ノズルプレートにおけるノズル孔の偏光顕微鏡写真
【図4】実施例1における洗浄前の紡糸ノズルプレートにおけるノズル孔の偏光顕微鏡写真
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法で洗浄できる紡糸ノズルプレートは特に限定するものではないが、例えば、溶融紡糸に使用する紡糸ノズルプレート、乾式紡糸に使用する紡糸ノズルプレート、湿式紡糸に使用するノズルプレートに対して使用することができる。特に、溶融紡糸に使用する紡糸ノズルプレートは樹脂の炭化によって残留しやすいため、好適に使用できる。
【0013】
この溶融紡糸に使用する紡糸ノズルプレートとしては、例えば、単一成分繊維や海島型繊維、芯鞘型繊維、偏芯型繊維、貼合せ型繊維(サイドバイサイド型繊維)、多重バイメタル型繊維、オレンジ型繊維など複数成分繊維の紡糸ノズルプレートを挙げることができる。本発明の方法によれば、ノズル孔の直径が500μm以下であっても、十分に洗浄することができる方法であるため、ノズル孔の直径が500μm以下であることの多い海島型繊維の洗浄方法として有効である。
【0014】
例えば、紡糸ノズルプレートは、図1にその正面図を例示するように、円盤状のプレートにノズル孔1aが多数形成された構造を有する。なお、図1の紡糸ノズルプレート1においては、同一径のノズル孔1aがプレートの中心から外周へ向って放射状に配列した状態にある。なお、図1の紡糸ノズルプレート1においては、中心部付近及び外周部付近にはノズル孔1aが形成されていない。
【0015】
本発明の紡糸ノズルプレートの洗浄方法について、図2をもとに説明する。図2は紡糸ノズルプレート1を洗浄装置3に設置し、片面に研磨粒子2を配置した状態を示す模式的縦断面図である。
【0016】
図2における洗浄装置3を用いる紡糸ノズルプレート1の洗浄方法の場合、まず、洗浄装置3を用意する。図2における洗浄装置3は上部収納筒31と天板33とにより容器状となっており、この上部収納筒31と天板33により形成された空間に研磨粒子2を収納できるようになっている。なお、上部収納筒31と天板33とはボルトとナットなどの天板固定具35a、35bによって固定された状態にある。また、上部収納筒31の側壁には外部に通じる上部供給部31aが形成されているため、上部収納筒31と天板33により形成された空間に気体を供給することができる。
【0017】
また、下部収納筒32と底板34とにより容器状となっており、この下部収納筒32と底板34により形成された空間に、紡糸ノズルプレート1のノズル孔1aを通過した研磨粒子2を収納できるようになっている。なお、下部収納筒32と底板34とはボルトとナットなどの底板固定具37a、37bによって固定された状態にある。また、下部収納筒32の側壁には外部に通じる下部吸引部32aが形成されているため、下部収納筒32と天板33により形成された空間の気体を吸引できる吸引装置(図示せず)に接続可能な状態にある。
【0018】
次いで、洗浄装置3の上部収納筒31と下部収納筒32との間に紡糸ノズルプレート1を設置する。図2においては、上部収納筒31の下部フランジと下部収納筒32の上部フランジとの間に、ゴム等からなる上部緩衝材38a、紡糸ノズルプレート1、ゴム等からなる下部緩衝材38bの順に積層し、上部収納筒31の下部フランジから下部収納筒32の上部フランジまで貫通するボルトとナットなどの収納筒固定具36a、36bによって固定した状態にある。
【0019】
続いて、図2に示すように、上部収納筒31の上部供給部31aから研磨粒子2を供給し、紡糸ノズルプレート1の片面に研磨粒子2を配置する。この研磨粒子2の平均粒径は特に限定するものではないが、紡糸ノズルプレート1のノズル孔1aの直径の5〜50%であるのが好ましい。5%未満であると、通気抵抗が高くなり、研磨粒子2がノズル孔1aを通過しにくくなる傾向があり、50%を超えると、ノズル孔1aよりも大きな研磨粒子が混在していることがあり、ノズル孔1a内で目詰まりする可能性が高くなるためで、より好ましくは10〜40%である。なお、平均粒径が前記関係を満たしたとしても、ノズル孔1aの直径よりも大きい研磨粒子2が混在している場合があるため、研磨粒子2としては、ノズル孔1aの直径よりも小さい粒子径をもつ研磨粒子2のみを使用するのが好ましい。
【0020】
なお、研磨粒子の形状は特に限定するものではないが、例えば、球形、立方体形状、直方体形状、三角錐形状など規則性のある形状、又は規則性のない多面体形状であることができる。
【0021】
本発明における平均粒径はJIS R6002 電気抵抗試験方法(コールタカウンタ法)により測定した体積分布の累積値50%に相当する粒子径をいう。
【0022】
また、研磨粒子2の素材は特に限定するものではないが、例えば、アルミナ(褐色溶融アルミナ、白色アルミナなど)、アルミナ−ジルコニア、ダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化ケイ素(黒色炭化ケイ素、緑色炭化ケイ素など)、酸化クロム、酸化鉄、ステンレス、樹脂、などを挙げることができる。
【0023】
なお、研磨粒子2の配置量は研磨粒子2が紡糸ノズルプレート1のノズル孔1aを通過できる量であり、実験により適宜設定することができる。また、図2においては、研磨粒子2が山盛り状に配置されているが、研磨粒子2が紡糸ノズルプレート1のノズル孔1aを均等に通過しやすいように、ノズル孔存在領域に均一に配置するのが好ましい。
【0024】
そして、配置した研磨粒子2を、紡糸ノズルプレート1のノズル孔1aを通過させることにより、研磨粒子2がノズル孔1aを通過する際に樹脂等の残留物を除去する。研磨粒子2を紡糸ノズルプレート1の片面に単に配置するだけで、砂時計のように通過する場合には、特に何の操作も必要ではないが、研磨粒子2を単に配置しただけでは通過しない場合には、例えば、下部収納筒32の下部吸引部32aに吸引装置を接続し、研磨粒子2を吸引することができる。また、上部収納筒31の上部供給部31aに送風装置を接続し、研磨粒子2を加圧することもできる。更には、紡糸ノズルプレート1に超音波振動子を接続し、研磨粒子2を振動させることもできる。これら2つ以上の方法を併用する方法により、研磨粒子2を効率的に通過させることができる。
【0025】
このような、紡糸ノズルプレート1の片面に研磨粒子2を配置し、ノズル孔1aを通過させるという操作は1回である必要はなく、ノズル孔1aがきれいになるまで、何度でも繰り返し行うことができる。繰り返し操作する場合、紡糸ノズルプレート1の同じ面に研磨粒子2を配置して洗浄することができるし、紡糸ノズルプレート1の別の面に研磨粒子2を配置して洗浄することができる。好ましくは、研磨粒子2を配置する面を交互にして繰り返す。
【0026】
このように、本発明の洗浄方法は研磨粒子2を、ノズル孔1aを通過させることによって、十分に洗浄することができる。なお、研磨材を噴射するわけではなく、また、ドリルを挿入するわけでもないため、紡糸ノズルプレート1を損傷することなく、穏やかに洗浄することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
図1に示すような、海島型繊維の溶融紡糸に使用した円盤状紡糸ノズルプレート1(ノズル孔1aの直径:250μm、同一径のノズル孔数:15400)を用意した。
【0029】
他方、図2に示すような、次の寸法を有する洗浄装置3を用意した。
上部収納筒31(上部供給部31a付):内径150mm、高さ300mm
天板33:外径265mm
下部収納筒32:内径150mm、高さ300mm
底板34:外径265mm
下部吸引部32a:吸引装置(ケルヒャージャパン製、A2254Me)を接続
【0030】
次いで、洗浄装置3の上部収納筒31と下部収納筒32との間に、上部収納筒31の下部フランジ、エチレン−プロピレンゴムからなる上部緩衝材38a、紡糸ノズルプレート1、エチレン−プロピレンゴムからなる下部緩衝材38b、下部収納筒32の上部フランジの順となるように、紡糸ノズルプレート1を配置し、ボルトとナットからなる収納筒固定具36a、36bによって固定した。
【0031】
続いて、上部収納筒31の上部供給部31aから♯360アルミナ粒子(平均粒径:35μm、86μm以下の粒子径の研磨粒子2のみを使用、形状:多面体)を供給し、紡糸ノズルプレート1の片面に研磨粒子2を配置した(配置量:2kg)。
【0032】
そして、下部収納筒32に接続した吸引装置により研磨粒子2を吸引(風量:
65L/秒、真空度:120hPa)し、研磨粒子2を、ノズル孔1aを通過させてノズル孔1aの洗浄を行った。
【0033】
以上のような、「研磨粒子の配置−ノズル孔の通過」という操作を14回繰り返して洗浄を行った。なお、研磨粒子2の配置は紡糸ノズルプレート1の両面に、交互に行った。
【0034】
この操作後、紡糸ノズルプレート1のノズル孔1aを偏光顕微鏡により観察したところ、図3に偏光顕微鏡写真を示すように、樹脂等の残留物がきれいに除去されていた。また、紡糸ノズルプレート1の損傷は観察されなかった。参考までに、洗浄前の紡糸ノズルプレート1におけるノズル孔1aの偏光顕微鏡写真を図4に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の洗浄方法によれば、紡糸ノズルプレートを損傷することなく、十分に洗浄することができる。特にノズル孔の直径が500μm以下と小さい場合であっても十分に洗浄することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 紡糸ノズルプレート
1a ノズル孔
2 研磨粒子
3 洗浄装置
31 上部収納筒
31a 上部供給部
32 下部収納筒
32a 下部吸引部
33 天板
34 底板
35a、35b 天板固定具
36a、36b 収納筒固定具
37a、37b 底板固定具
38a 上部緩衝材
38b 下部緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔を有する紡糸ノズルプレートの片面に研磨粒子を配置した後、ノズル孔を通過させることを特徴とする、紡糸ノズルプレートの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207337(P2012−207337A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73787(P2011−73787)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】