説明

紡糸巻取設備

【課題】紡出機から紡出されるフィラメントを増やして製造される糸条の本数を増加させた場合であっても、ローラの異常振動を回避できるとともに糸条どうしの干渉や糸斑の発生を防ぎ、製造される糸条の糸品質を向上できる紡糸巻取設備を提供する。
【解決手段】フィラメントFを紡出する紡出機10と、前記フィラメントFを束ねて成る複数本の糸条Yをそれぞれのボビン31に巻き取る巻取機30と、を備えた紡糸巻取設備100であって、前記複数本の糸条Yが架けられるとともに回転することによって該複数本の糸条Yを送り出すローラ21を複数個有する糸送りローラ群20を具備し、前記糸送りローラ群20は、前記ローラ21の回転軸が互いに平行である平行ローラ群20Pを含み、前記平行ローラ群20Pを構成するそれぞれの前記ローラ21は、該ローラ21の円周長未満の接触長で前記複数本の糸条Yのそれぞれと接する、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸巻取設備の技術に関する。より詳細には、紡糸巻取設備により製造される糸条の糸品質を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡出機から紡出されたフィラメントを束ねることで複数本の糸条を構成し、この複数本の糸条を一対のローラに架け渡すように巻回することで予備加熱を行なう紡糸巻取設備が知られている(例えば特許文献1、特許文献2参照。)。このような紡糸巻取設備においては、複数本の糸条を一対のローラに複数回にわたって架け渡すように巻回するために糸条どうしの干渉を防止する必要があり、いわゆるネルソンローラ対を採用することが不可欠とされていた。
【0003】
また、予備加熱がなされた複数本の糸条をそれぞれ延伸した後に、この複数本の糸条を一対のローラに架け渡すように巻回することでヒートセットを行なう紡糸巻取設備も知られている(例えば特許文献1、特許文献2参照。)。このような紡糸巻取設備においては、複数本の糸条を一対のローラに複数回にわたって架け渡すように巻回するために糸条どうしの干渉を防止する必要があり、予備加熱を行なう場合と同様にネルソンローラ対を採用することが不可欠とされていた。
【0004】
そして、近年においては生産性の向上を図るために、紡出機から紡出されるフィラメントを増やして製造される糸条の本数を増加させた紡糸巻取設備が求められており、ネルソンローラ対のローラ軸長を長くするとともに傾角をより大きく設定することで、該ネルソンローラ対に架けられる糸条の本数が増加しても糸条どうしの干渉を防止できるとしたものが提案されていた。
【0005】
しかし、ローラ軸長を長くすると、ローラの機械共振点が低下するために糸条製造時の運転領域において該ローラに異常振動が発生するという問題が生じていた。
【0006】
また、ネルソンローラ対の傾角を大きくすると、該ネルソンローラ対に架け渡された糸条に振動が発生する場合があり、この振動した糸条と並進する他の糸条とが干渉すること、及び、糸条の延伸点(糸条がローラから送り出される点)の変動による糸斑が生じること、によって糸品質の低下を招くという問題も生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−45691号公報
【特許文献2】特開2008−106418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、紡出機から紡出されるフィラメントを増やして製造される糸条の本数を増加させた場合であっても、ローラの異常振動を回避できるとともに糸条どうしの干渉や糸斑の発生を防ぎ、製造される糸条の糸品質を向上できる紡糸巻取設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
次に、この課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、第1の発明は、フィラメントを紡出する紡出機と、
前記フィラメントを束ねて成る複数本の糸条をそれぞれのボビンに巻き取る巻取機と、を備えた紡糸巻取設備であって、
前記複数本の糸条が架けられるとともに回転することによって該複数本の糸条を送り出すローラを複数個有する糸送りローラ群を具備し、
前記糸送りローラ群は、前記ローラの回転軸が互いに平行である平行ローラ群を含み、
前記平行ローラ群を構成するそれぞれの前記ローラは、該ローラの円周長未満の接触長で前記複数本の糸条のそれぞれと接する、ものである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記糸送りローラ群は、表面温度を調節可能とする温度調節手段を備えた前記ローラを含む、ものである。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、前記糸送りローラ群は、前記糸条の予備加熱を行なう前記ローラから構成される加熱ローラ群と、
前記糸条のヒートセットを行なう前記ローラから構成される調質ローラ群と、を含む、ものである。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、前記加熱ローラ群は、表面温度が予備加熱の目標温度より高く設定された前記ローラを含む、ものである。
【0014】
第5の発明は、第3又は第4の発明において、前記調質ローラ群は、表面温度がヒートセットの目標温度より高く設定された前記ローラを含む、ものである。
【0015】
第6の発明は、第1から第5のいずれかに記載の発明において、前記糸送りローラ群は、周速度を調節可能とする周速調節手段を備えた前記ローラを含む、ものである。
【0016】
第7の発明は、第6の発明において、前記糸送りローラ群を構成するそれぞれの前記ローラは、前記糸条の糸道における上流側に配置された該ローラの周速度に対して下流側に配置された該ローラの周速度を同速若しくは高速とする、ものである。
【0017】
第8の発明は、第1から第7のいずれかに記載の発明において、前記糸送りローラ群を構成する前記ローラを共通の保温ケースに収める、ものである。
【0018】
第9の発明は、第1から第8のいずれかに記載の発明において、前記糸条を非接触で加熱する加熱手段を備える、ものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0020】
第1の発明によれば、紡出機から紡出されるフィラメントを増やして製造される糸条の本数を増加させた場合であっても、ローラの異常振動を回避できるとともに該ローラに架けられた糸条の振動を抑制することができる。これにより、糸条どうしの干渉や糸斑の発生を防ぐことができて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0021】
第2の発明によれば、糸送りローラ群を構成するローラの表面温度を個々に調節することにより、糸条の温度を該糸条の延伸やヒートセット等に適した目標温度まで、精度良く上昇させることができる。これにより、糸条の延伸や延伸された糸条のヒートセット等を良好に行なうことができて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0022】
第3の発明によれば、糸条の温度を該糸条の延伸に適した温度、即ち、予備加熱の目標温度まで精度良く上昇させることができる。また、延伸された糸条の温度を該糸条のヒートセットに適した温度、即ち、ヒートセットの目標温度まで精度良く上昇させることができる。これにより、糸条の延伸と延伸された糸条のヒートセットを良好に行なうことができて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0023】
第4の発明によれば、糸条の温度を該糸条の延伸に適した温度、即ち、予備加熱の目標温度まで素早く上昇させることができ、加熱ローラ群を構成するローラの個数を減少させることが可能となる。これにより、糸条とローラの接触回数を低減できて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0024】
第5の発明によれば、糸条の温度を該糸条のヒートセットに適した温度、即ち、ヒートセットの目標温度まで素早く上昇させることができ、調質ローラ群を構成するローラの個数を減少させることが可能となる。これにより、糸条とローラの接触回数を低減できて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0025】
第6の発明によれば、糸送りローラ群を構成するローラの周速度を個々に調節することにより、糸条の延伸やヒートセット等に応じた周速度で回転させることができる。これにより、糸条の延伸や延伸された糸条のヒートセット等を良好に行なうことができて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0026】
第7の発明によれば、糸送りローラ群を構成するそれぞれのローラを糸条の温度に応じた周速度で回転させることができ、該糸条を徐々に延伸することや該糸条に掛かる張力を一定に保った状態で送り出すことが可能となる。これにより、糸条の糸特性を安定化させることができて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0027】
第8の発明によれば、加熱ローラ群を構成するローラならびに調質ローラ群を構成するローラの表面温度の低下を防ぐことができる。これにより、ローラの表面温度を安定して維持することができて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【0028】
第9の発明によれば、加熱ローラ群を構成するローラならびに調質ローラ群を構成するローラの個数を減少させることができる。これにより、糸条とローラの接触回数を低減できて製造される糸条の糸品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一実施形態に係る紡糸巻取設備100の全体構成を示す正面図。
【図2】従来の紡糸巻取設備200の全体構成を示す正面図。
【図3】(3A)従来の紡糸巻取設備200に備えられた第1ネルソンローラ対40を示す斜視図。(3B)従来の紡糸巻取設備200に備えられた第2ネルソンローラ対50を示す斜視図。
【図4】(4A)第1ネルソンローラ対40の傾角αを示す平面図。(4B)第1ネルソンローラ対40に架け渡された糸条Yに振動が発生する状態を示す斜視図。
【図5】本発明の第一実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20を示す正面図。
【図6】糸送りローラ群20を構成する各ローラ21に架け渡された糸条Yを示す図。
【図7】本発明の第三実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20の別実施形態を示す正面図。
【図8】本発明の第四実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20を示す正面図。
【図9】本発明の第五実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、図1を用いて本発明の第一実施形態に係る紡糸巻取設備100の全体構成について説明する。図1は、本紡糸巻取設備100の全体構成を示す正面図である。なお、重力の作用方向を上下方向、巻取機30に備えられたボビンホルダ軸32の軸方向を左右方向と定義する。また、図中に示す矢印は、フィラメントFならびに糸条Yの送り方向を示している。
【0031】
紡糸巻取設備100は、主にフィラメントFを紡出する紡出機10と、フィラメントFを束ねて成る糸条Yの延伸ならびにヒートセットを行なう糸送りローラ群20と、糸送りローラ群20から送り出された糸条Yをボビン31に巻き取る巻取機30と、から構成される。
【0032】
紡出機10は、複数のフィラメントFを紡出し、紡出されたフィラメントFを上方から下方に向けて供給するものである。紡出機10は、投入された合繊原料(フィラメントFの原料)を押出機を用いて圧送することにより、スピニングヘッドに設けられた複数の紡出口から紡出する。
【0033】
そして、スピニングヘッドの紡出口から紡出された複数のフィラメントFは、所定の本数毎に束ねられて複数本の糸条Yを構成し、糸送りローラ群20へ導かれる。つまり、フィラメントFを束ねて成る糸条Yが複数本構成されて、この複数本の糸条Yが糸送りローラ群20へ導かれるのである。
【0034】
糸送りローラ群20は、フィラメントFを束ねて成る複数本の糸条Yをそれぞれ延伸するとともに延伸された糸条Yのヒートセットを行なうものである。糸送りローラ群20は、複数本の糸条Yが架けられるとともに回転することによって該複数本の糸条Yを送り出すローラ21を複数個具備したものである。
【0035】
糸送りローラ群20を構成する複数個のローラ21は、複数本の糸条Yをそれぞれ延伸するために該糸条Yの温度を上昇させる、即ち、予備加熱を行なう加熱ローラ群20Hと、延伸された糸条Yの温度を上昇させて該糸条Yの熱処理を行なう、即ち、ヒートセットを行なう調質ローラ群20Tと、に分けられる。
【0036】
なお、延伸とは、糸条Yを所定の温度条件下で引き伸ばすことにより、糸条Yの分子配向性を高めて繊維結晶を形成させる工程をいう。また、ヒートセットとは、糸条Yを所定の温度条件下に維持することにより、非晶領域の分子配向性を緩和させる工程をいう。これにより、所望の糸特性を得ることができるとともに糸特性の安定化を図ることが可能となる。
【0037】
糸送りローラ群20に導かれた糸条Yは、まず、加熱ローラ群20Hによって予備加熱の目標温度まで加熱される。そして、加熱ローラ群20Hによって加熱された糸条Yは、適宜に延伸された後に調質ローラ群20Tによってヒートセットの目標温度まで加熱される。その後、ヒートセットが完了した糸条Yは、巻取機30に送り出される。
【0038】
巻取機30は、延伸ならびにヒートセットが行なわれた複数本の糸条Yをそれぞれのボビン31に巻き取るものである。巻取機30は、回転することによって糸条Yを巻き取るボビン31と、複数のボビン31が装着されるボビンホルダ軸32と、ボビン31に巻き取られる糸条Yを綾振するトラバース装置33と、ボビン31ならびに該ボビン31上に形成されたパッケージ34を駆動回転させる駆動モータ(図示せず)と、トラバース装置33を駆動させる駆動装置35と、から構成される。
【0039】
巻取機30に導かれたそれぞれの糸条Yは、トラバース装置33によって左右方向(ボビンホルダ軸32の軸方向)に綾振されて回転するボビン31に巻き取られる。そして、ボビン31に巻き取られた糸条Yは、該ボビン31上に円筒形状のパッケージ34を形成するのである。
【0040】
このように、紡糸巻取設備100は、複数のフィラメントFを紡出して束ねることで複数本の糸条Y(マルチフィラメント糸条)を構成し、それぞれの糸条Yに延伸ならびにヒートセットを行なうことで所望の特性を有する糸条Yを製造可能としている。そして、紡糸巻取設備100は、このようにして製造された糸条Yを巻き取ることでパッケージ34を作成するのである。
【0041】
以上が本発明の第一実施形態に係る紡糸巻取設備100の全体構成であるが、本紡糸巻取設備100により製造される糸条Yの糸品質の優位性を示すため、次に、図2を用いて従来の紡糸巻取設備200の問題点について説明する。但し、前述した紡糸巻取設備100と同一の構成については同一の符号を付し、異なる部分を中心に説明する。また、図中に示す矢印は、フィラメントFならびに糸条Yの送り方向を示している。
【0042】
図2は、従来の紡糸巻取設備200の全体構成を示す正面図である。紡糸巻取設備200は、主にフィラメントFを紡出する紡出機10と、フィラメントFを束ねて成る糸条Yの予備加熱を行なう第1ネルソンローラ対40と、第1ネルソンローラ対40から送り出されて延伸された糸条Yのヒートセットを行なう第2ネルソンローラ対50と、第2ネルソンローラ対50から送り出された糸条Yをボビン31に巻き取る巻取機30と、から構成される。
【0043】
第1ネルソンローラ対40は、フィラメントFを束ねて成る複数本の糸条Yをそれぞれ延伸するために、該糸条Yの温度を延伸に適した温度まで上昇させる、即ち、予備加熱を行なうものである。第1ネルソンローラ対40は、該第1ネルソンローラ対40を構成する二つのローラ40a・40bの回転軸が互いに平行ではなく、所定の傾角αをもって回転する一対のローラユニットである(図4(A)、図4(B)参照。)。また、第1ネルソンローラ対40を構成する各ローラ40a・40bは、糸条Yの予備加熱を行なうものであるために、その表面温度を予備加熱の目標温度に維持するものとされる。
【0044】
図3Aに示すように、第1ネルソンローラ対40に導かれた糸条Yは、該糸条Yの温度を予備加熱の目標温度とするために加熱された各ローラ40a・40bに複数回にわたって架け渡すように巻回される。このとき、各ローラ40a・40bは、前述したように、互いの回転軸が所定の傾角αをもって回転するため、巻回された糸条Yの糸道は、巻回が行われる度に該ローラ40a・40bの軸方向へ移動していくこととなる。
【0045】
従って、第1ネルソンローラ対40を構成する各ローラ40a・40bに、糸条Yが複数回にわたって架け渡すように巻回された場合であっても、巻回毎に糸道が移動していくために、結果として糸条Yどうしの干渉を回避することが可能となるのである。
【0046】
第2ネルソンローラ対50は、延伸された糸条Yの温度を上昇させて該糸条Yの熱処理を行なう、即ち、ヒートセットを行なうものである。第2ネルソンローラ対50は、該第2ネルソンローラ対50を構成する二つのローラ50a・50bの回転軸が互いに平行ではなく、第1ネルソンローラ対40と同様に所定の傾角αをもって回転する一対のローラユニットである。また、第2ネルソンローラ対50を構成する各ローラ50a・50bは、糸条Yのヒートセットを行なうものであるために、その表面温度をヒートセットの目標温度に維持するものとされる。
【0047】
図3Bに示すように、第2ネルソンローラ対50に導かれた糸条Yは、該糸条Yの温度をヒートセットの目標温度とするために加熱された各ローラ50a・50bに複数回にわたって架け渡すように巻回される。このとき、各ローラ50a・50bは、前述したように、互いの回転軸が所定の傾角αをもって回転するため、巻回された糸条Yの糸道は、巻回が行われる度に該ローラ50a・50bの軸方向へ移動していくこととなる。
【0048】
従って、第2ネルソンローラ対50を構成する各ローラ50a・50bに、糸条Yが複数回にわたって架け渡すように巻回された場合であっても、巻回毎に糸道が移動していくために、結果として糸条Yどうしの干渉を回避することが可能となるのである。
【0049】
しかし、第1ネルソンローラ対40を構成する各ローラ40a・40bは、その回転軸が互いに平行ではなく、所定の傾角αをもって回転するために該ローラ40a・40bに架け渡された糸条Yに振動を発生させる場合があった。また、第2ネルソンローラ対50を構成する各ローラ50a・50bについても、その回転軸が互いに平行ではなく、所定の傾角αをもって回転するために該ローラ50a・50bに架け渡された糸条Yに振動を発生させる場合があった。
【0050】
これは、紡出機10から紡出されるフィラメントFを増やして製造される糸条Yの本数を増加させた場合に顕著に現れるとされ、詳細には、第1ネルソンローラ対40(第2ネルソンローラ対50)に架けられる糸条Yの本数が増加することに対し、各ローラ40a・40b(各ローラ50a・50b)の回転軸の傾角αを大きくすることによって糸条Yどうしの干渉を回避した場合に多く発生するとされる。
【0051】
ここで、第1ネルソンローラ対40を構成する各ローラ40a・40bの回転軸の傾角αを大きくした場合に発生する糸条Yの振動について図4Bを用いて詳細に説明する。なお、第2ネルソンローラ対50については、第1ネルソンローラ対40と同様となるために説明を省略する。
【0052】
図4Bは、第1ネルソンローラ対40に架け渡された糸条Yに振動が発生する状態を示す斜視図である。なお、簡略化のために複数本の糸条Yのうち一つについてのみを示している。また、図中に示す矢印は、糸条Yの送り方向を示している。
【0053】
第1ネルソンローラ対40に導かれた糸条Yは、まず、第1ネルソンローラ対40を構成する一方のローラ40aに架けられて該ローラ40aの回転によって送り出される。そして、ローラ40aによって送り出された糸条Yは、第1ネルソンローラ対40を構成する他方のローラ40bに架けられる。その後、ローラ40bの回転によって送り出された糸条Yは、再び、ローラ40aに架けられて、これを複数回繰り返す。
【0054】
こうして、第1ネルソンローラ対40の各ローラ40a・40bに複数回にわたって架け渡すように巻回された糸条Yは、巻回毎に糸道が移動していくことによって糸条Yどうしの干渉を回避することが可能とされるが、図中X1・X2・X3・・・点における糸条Yと各ローラ40a・40bとの摩擦力の不安定性から架け渡された糸条Yに振動を発生させる場合がある。
【0055】
図中X2点に着目して具体的に説明すると、X2a点における糸条Yは、ローラ40bとの高い摩擦力によって安定して保持されるが、ローラ40bの回転に伴ってX2b点に近づくと徐々に摩擦力が低減していく。そして、X2b点を通過してX2c点に近づくと糸条Yとローラ40bとの摩擦力は急激に低減し、X2c点で零となる。つまり、糸条Yは、X2c点でローラ40bから送り出されるのである。
【0056】
また、ローラ40aは、ローラ40bの回転軸に対して所定の傾角αをもって回転するため、ローラ40aの回転によって糸条Yに掛かる張力は、X2c点における糸道に屈曲角βを生じさせる。すると、糸条Yには、該糸条Yとローラ40bとの摩擦力がX2b点からX2cにかけて急激に低減しているうえに屈曲角β方向から張力が掛かかることとなり、糸道が突然ズレることに起因した振動が発生していたのである。
【0057】
このように、第1ネルソンローラ対40の各ローラ40a・40bは、所定の傾角αをもって回転するために、該ローラ40a・40bに架け渡すように巻回された糸条Yに振動を発生させる場合があった。特に、紡出機10から紡出されるフィラメントFを増やして製造される糸条Yの本数を増加させた場合には、各ローラ40a・40bの傾角αをより大きく設定する必要があるために顕著に振動が発生し、並進する糸条Yどうしが干渉することによって糸品質の低下を招くことがあったのである。
【0058】
また、第1ネルソンローラ対40の各ローラ40a・40bに糸条Yを複数回にわたって架け渡すように巻回するためには、該ローラ40a・40bのローラ軸長を長くする必要がある。例えばローラ21に架けられた複数本の糸条Yの架かり幅をBとして三回にわたって巻回した場合では、該ローラ21のローラ軸長をLとすると、少なくともL≒3Bが必要となる。そして、糸条Yと各ローラ40a・40bとの接触長を確保して該糸条Yの温度を効率良く上昇させるためには、該ローラ40a・40bのローラ径を大きくする必要もある。このため、第1ネルソンローラ対40の各ローラ40a・40bは、ローラ軸長が長く、且つ、ローラ径が大きくなるために該ローラ40a・40bの回転に伴って共振が発生し、異常振動を生じる場合があったのである。
【0059】
更に、第1ネルソンローラ対40の各ローラ40a・40bは、ローラ軸長が長く、且つ、ローラ径が大きくなるために表面温度が一定になり難く、糸品質が不安定になるという問題点や各ローラ40a・40bのコストが高くなるという問題点もあったのである。
【0060】
以上が従来の紡糸巻取設備200において、紡出機10から紡出されるフィラメントFを増やして製造される糸条Yの本数を増加させた場合の問題点であるが、以下に本発明の第一実施形態に係る紡糸巻取設備100について詳細に説明する。
【0061】
図5は、本実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20を示す正面図である。また、図中に示す矢印は、糸条Yの送り方向を示している。
【0062】
前述したように、本実施形態に係る糸送りローラ群20は、複数本の糸条Yが架けられるとともに回転することによって該複数本の糸条Yを送り出すローラ21を複数個具備したものである。なお、糸送りローラ群20を構成するそれぞれのローラ21は、周速調節手段である電動モータ22によって回転されて、各ローラ21の周速度を任意に調節可能としている。
【0063】
また、本実施形態に係る糸送りローラ群20は、該糸送りローラ群20を構成する全てのローラ21の回転軸が互いに平行である平行ローラ群20Pとされる。そして、糸送りローラ群20、即ち、平行ローラ群20Pを構成するローラ21は、糸条Yの予備加熱を行なう加熱ローラ群20Hと、糸条Yのヒートセットを行なう調質ローラ群20Tと、に分けられる。
【0064】
本実施形態においては、糸送りローラ群20の上段側に加熱ローラ群20Hを構成するローラ21を10個、下段側に調質ローラ群20Tを構成するローラ21を9個具備するものとされるが、そのローラ21の個数や配置について限定するものではなく、例えば下段側に加熱ローラ群20Hを配置し、上段側に調質ローラ群20Tを配置する構成であっても良い。なお、加熱ローラ群20Hならびに調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21には、温度調節手段である電熱ヒータ23が内蔵されており、該ローラ21の表面温度を任意に調節可能としている。
【0065】
ここで、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21について、糸条Yの糸道における上流側から下流側に向けて順にローラ21Ha、ローラ21Hb、ローラ21Hc、ローラ21Hd・・・と定義する。また、調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21について、糸条Yの糸道における上流側から下流側に向けて順にローラ21Ta、ローラ21Tb、ローラ21Tc、ローラ21Td・・・と定義する。
【0066】
糸送りローラ群20に導かれた糸条Yは、まず、加熱ローラ群20Hによって延伸に適した温度まで加熱される。つまり、加熱ローラ群20Hに導かれた糸条Yは、所定の表面温度に設定されたそれぞれのローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・に架けられて送り出されることにより、予備加熱の目標温度まで加熱されるのである。
【0067】
そして、予備加熱の目標温度まで加熱された糸条Yは、加熱ローラ群20Hから送り出されて調質ローラ群20Tに導かれる。このとき、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・よりも調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の周速度のほうが高速であるために、糸条Yは、加熱ローラ群20Hから調質ローラ群20Tへ向かう際に適宜に延伸されることとなる。
【0068】
調質ローラ群20Tに導かれた糸条Yは、該調質ローラ群20Tによってヒートセットに適した温度まで加熱される。つまり、調質ローラ群20Tに導かれた糸条Yは、所定の表面温度に設定されたそれぞれのローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・に架けられて送り出されることにより、ヒートセットの目標温度まで加熱されるのである。その後、ヒートセットを完了した糸条Yは、調質ローラ群20Tから送り出されて巻取機30に導かれることとなる。
【0069】
なお、本実施形態における糸送りローラ群20は、該糸送りローラ群20を構成するローラ21の回転軸が全て平行である、つまり、平行ローラ群20Pであるために、例えば所定の傾角をもって回転するネルソンローラ対は含まれない。そのため、それぞれのローラ21に架けられた複数本の糸条Yは、該ローラ21によって巻回されることなく送り出されるものとされ、加熱ローラ群20Hにおいてはローラ21Ha、ローラ21Hb、ローラ21Hc、ローラ21Hd・・・と順に送り出され、調質ローラ群20Tにおいてはローラ21Ta、ローラ21Tb、ローラ21Tc、ローラ21Td・・・と順に送り出される。
【0070】
つまり、本実施形態に係る紡糸巻取設備100においては、糸条Yをネルソンローラ対に架け渡すように巻回させて予備加熱やヒートセットを行なう構成を廃するものとし、少なくとも平行ローラ群20Pを構成するそれぞれのローラ21については、糸条Yが特定のローラ21に複数回にわたって巻回されることがなく、該ローラ21の円周長よりも短い接触長で糸条Yと接するものとされる。
【0071】
このような構成にすることで、紡出機10から紡出されるフィラメントFを増やして製造される糸条Yの本数を増加させた場合においても、ネルソンローラ対を用いないためにローラ21に架け渡された糸条Yの振動を抑制することができる。これにより、糸条Yどうしの干渉や糸斑の発生を防ぐことができて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0072】
また、平行ローラ群20Pを構成する各ローラ21とは別個にネルソンローラ対を具備する場合においても、該ネルソンローラ対のみで予備加熱やヒートセットを行なうものではないために糸条Yの巻回回数を低減できて該ネルソンローラ対における糸条Yの振動を抑制することができる。これにより、糸条Yどうしの干渉や糸斑の発生を防ぐことができて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0073】
更に、本実施形態における糸送りローラ群20は、ネルソンローラ対を用いることなく予備加熱やヒートセットを行ない、ネルソンローラ対を具備する場合であっても糸条Yの巻回回数を低減できるために、ローラ21のローラ軸長を短くすることが可能となる。例えばローラ21に架けられた複数本の糸条Yの架かり幅をBとして該ローラ21のローラ軸長をLとすると、L≒Bにすることが可能となる(図6参照。)。そして、加熱ローラ群20Hならびに調質ローラ群20Tを構成するそれぞれのローラ21を密集して配置することで糸条Yの温度を効率良く上昇させることができるため、ローラ21のローラ径を小さくすることも可能となる。これにより、糸送りローラ群20を構成する各ローラ21は、回転に伴って共振が発生しないために、異常振動を回避することが可能となるのである。
【0074】
なお、糸送りローラ群20を構成する各ローラ21は、ローラ軸長を短く、且つ、ローラ径を小さくできるために該ローラ21の表面温度を一定に維持することができ、糸条Yの延伸と延伸された糸条Yのヒートセットを安定して行なうことで製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となる。また、ローラ21のローラ軸長を短く、且つ、ローラ径を小さくできることによって該ローラ21のコストを抑えることも可能となるのである。
【0075】
また、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21は、個々にその表面温度を設定されて糸条Yを加熱するために、糸条Yを予備加熱の目標温度まで精度良く上昇させることができる。そして、調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21は、個々にその表面温度を設定されて糸条Yを加熱するために、糸条Yをヒートセットの目標温度まで精度良く上昇させることができる。これにより、糸条Yの延伸と延伸された糸条Yのヒートセットを良好に行なうことができて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0076】
更に、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21と調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21は、設定される表面温度が異なるのみでその構成態様は同様であるため、表面温度を変更することによって加熱ローラ群20Hと調質ローラ群20Tを構成するローラ21の個数を変更させたり、割合を変更させたり、組合せを変更させたりすることができる。これにより、糸条Yの種類に応じて予備加熱やヒートセットの態様を変更することができて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0077】
次に、本発明の第二実施形態に係る紡糸巻取設備100について詳細に説明する。
【0078】
本実施形態においては、加熱ローラ群20Hを構成するそれぞれのローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・の表面温度が予備加熱の目標温度より高いものを含むとされる。具体的に説明すると、予備加熱の目標温度をTh度とした場合、ローラ21Ha・21Hb・ローラ21Hc・・・のうち少なくとも一つの表面温度は、Th度より高いとされて、例えば下記のように表される。
表面温度:ローラ21Ha>Th=ローラ21Hb=ローラ21Hc=・・・
【0079】
上記の場合、ローラ21Haの表面温度のみが予備加熱の目標温度Th度より高いことを示している。この場合、糸条Yの温度は、ローラ21Haによって急激に上昇されて、その下流側のローラ21Hb・21Hc・・・によって該糸条Yの温度を予備加熱の目標温度Th度に近づけるのである。
【0080】
このような構成にすることで、糸条Yの温度を予備加熱の目標温度まで素早く上昇させることができ、加熱ローラ群20Hを構成するローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・の個数を減少させることが可能となる。これにより、糸条Yとローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・の接触回数を低減できて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0081】
また、糸条Yの温度を素早く上昇させることができるために該糸条Yの製造時間を短縮することが可能になる。更に、加熱ローラ群20Hを構成するローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・の個数を減少させて簡素な構造とすることができるためにコスト低減を図ることも可能となる。
【0082】
更に、本実施形態においては、調質ローラ群20Tを構成するそれぞれのローラ21Ta・21Tb・・・の表面温度がヒートセットの目標温度より高いものを含むとされる。具体的に説明すると、ヒートセットの目標温度をTt度とした場合、ローラ21Ta・21Tb・ローラ21Tc・・・のうち少なくとも一つの表面温度は、Tt度より高いとされて、例えば下記のように表される。
表面温度:ローラ21Ta>Tt=ローラ21Tb=ローラ21Tc=・・・
【0083】
上記の場合、ローラ21Taの表面温度のみがヒートセットの目標温度Tt度より高いことを示している。この場合、糸条Yの温度は、ローラ21Taによって急激に上昇されて、その下流側のローラ21Tb・21Tc・・・によって該糸条Yの温度をヒートセットの目標温度Tt度に近づけるのである。
【0084】
このような構成にすることで、糸条Yの温度をヒートセットの目標温度まで素早く上昇させることができ、調質ローラ群20Tを構成するローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の個数を減少させることが可能となる。これにより、糸条Yとローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の接触回数を低減できて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0085】
また、糸条Yの温度を素早く上昇させることができるために該糸条Yの製造時間を短縮することが可能になる。更に、調質ローラ群20Tを構成するローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の個数を減少させて簡素な構造とすることができるためにコスト低減を図ることも可能となる。
【0086】
次に、本発明の第三実施形態に係る紡糸巻取設備100について詳細に説明する。
【0087】
本実施形態において、糸送りローラ群20を構成するそれぞれのローラ21は、糸条Yの糸道における上流側に配置された該ローラ21の周速度に対して下流側に配置された該ローラ21の周速度を同速若しくは高速としている。加熱ローラ群20Hを用いて具体的に説明すると、該加熱ローラ群20Hを構成するそれぞれのローラ21Ha・21Hb・ローラ21Hc・・・の周速度は、例えば下記のように表される。なお、調質ローラ群20Tについては、加熱ローラ群20Hと同様となるために説明を省略する。
周速度:ローラ21Ha=ローラ21Hb<ローラ21Hc<ローラ21Hd=・・・
【0088】
上記の場合、ローラ21Haならびにローラ21Hbは、同速の周速度で回転されて、ローラ21Hcの周速度は、この周速度よりも高速であることを示している。また、ローラ21Hdの周速度は、ローラ21Hcの周速度よりも高速とされる。この場合、糸条Yは、まず、ローラ21Hbとローラ21Hcの間で延伸されて、その後にローラ21Hcとローラ21Hdの間で延伸される。つまり、糸条Yは、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21Ha・21Hb・ローラ21Hc・・・に加熱されながら送り出されて、それぞれのローラ21Ha・21Hb・ローラ21Hc・・・の通過時における該糸条Yの温度に応じて徐々に延伸されるのである。
【0089】
なお、本発明に係る紡糸巻取設備100においては、周速調節手段として電動モータ22を用いているが、例えばローラ21の脱着装置として該ローラ21を変更可能とし、図7に示すように、ローラ径が異なるものを用いることによって周速度を調節するとしても良い。加熱ローラ群20Hを用いて具体的に説明すると、該加熱ローラ群20Hを構成するそれぞれのローラ21Ha・21Hb・ローラ21Hc・・・のローラ径は、例えば下記のように表される。
ローラ径:ローラ21Ha<ローラ21Hb<ローラ21Hc<ローラ21Hd=・・・
【0090】
このような構成にすることで、糸送りローラ群20を構成するそれぞれのローラ21を糸条Yの温度に応じた周速度で回転させることができ、該糸条Yを徐々に延伸することが可能となる。これにより、糸条Yの糸特性を安定化させることができて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となるのである。
【0091】
また、糸送りローラ群20を構成するそれぞれのローラ21を糸条Yの熱膨張に応じた周速度で回転させることによって、糸条Yに掛かる張力を一定に維持することも可能となる。
【0092】
次に、本発明の第四実施形態に係る紡糸巻取設備100について詳細に説明する。
【0093】
図8は、本実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20を示す正面図である。また、図中に示す矢印は、糸条Yの送り方向を示している。
【0094】
本実施形態においては、糸送りローラ群20を構成する全てのローラ21は、共通の保温ケース24に収められる。具体的に説明すると、糸送りローラ群20を構成する全てのローラ21は、保温ケース24に内設されて該保温ケース24に設けられた入口部24aから加熱ローラ群20Hへ糸条Yが導かれる。そして、糸条Yは、加熱ローラ群20Hならびに調質ローラ群20Tに送り出されて保温ケース24に設けられた出口部24bから巻取機30へ向かうこととなる。
【0095】
このような構成にすることで、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・ならびに調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の表面温度の低下を防ぐことができる。これにより、それぞれのローラ21の表面温度を安定して維持することができて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となる。
【0096】
また、ローラ21の表面温度を安定して維持することができるため、該ローラ21の表面温度を頻繁に調節する必要が無く、運転コストの低減を図ることも可能となる。
【0097】
次に、本発明の第五実施形態に係る紡糸巻取設備100について詳細に説明する。
【0098】
図9は、本実施形態に係る紡糸巻取設備100の糸送りローラ群20を示す正面図である。また、図中に示す矢印は、糸条Yの送り方向を示している。
【0099】
本実施形態においては、非接触で糸条Yの加熱を行なう加熱手段を備えている。具体的に説明すると、糸送りローラ群20を構成する一のローラ21から他のローラ21へ架け渡された糸条Yの糸道を挟むように赤外線ヒータ25が配置されて、該糸条Yを加熱するとしている。
【0100】
なお、本実施形態においては、糸条Yの加熱手段として赤外線ヒータ25が用いられているが、例えばスチームヒータや誘電加熱ヒータであっても良く、糸条Yに直接照射することによって該糸条Yの温度を上昇させるレーザ等であっても良い。また、赤外線ヒータ25等の加熱手段は、糸条Yの予備加熱を行なう加熱ローラ群20Hの糸道ならびに糸条Yのヒートセットを行なう調質ローラ群20Tの糸道にそれぞれ配置するとしても良く、又は、いずれか一方に配置するとしても良い。
【0101】
このような構成にすることで、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・ならびに調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の個数を減少させることができる。これにより、糸条Yとローラ21の接触回数を低減できて製造される糸条Yの糸品質を向上させることが可能となる。
【0102】
また、糸条Yの温度を素早く上昇させることができるために該糸条Yの製造時間を短縮することが可能になる。更に、加熱ローラ群20Hを構成する各ローラ21Ha・21Hb・21Hc・・・ならびに調質ローラ群20Tを構成する各ローラ21Ta・21Tb・21Tc・・・の個数を減少させて簡素な構造とすることができるためにコスト低減を図ることも可能となる。
【符号の説明】
【0103】
10 紡出機
20 糸送りローラ群
20H 加熱ローラ群
20P 平行ローラ群
20T 調質ローラ群
21 ローラ
21Ha ローラ
21Hb ローラ
21Hc ローラ
21Hd ローラ
21Ta ローラ
21Tb ローラ
21Tc ローラ
21Td ローラ
22 電動モータ(周速調節手段)
23 電熱ヒータ(温度調節手段)
24 保温ケース
25 赤外線ヒータ(加熱手段)
30 巻取機
31 ボビン
32 ボビンホルダ軸
33 トラバース装置
34 パッケージ
35 駆動装置
100 紡糸巻取設備
200 紡糸巻取設備
F フィラメント
Y 糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントを紡出する紡出機と、
前記フィラメントを束ねて成る複数本の糸条をそれぞれのボビンに巻き取る巻取機と、を備えた紡糸巻取設備であって、
前記複数本の糸条が架けられるとともに回転することによって該複数本の糸条を送り出すローラを複数個有する糸送りローラ群を具備し、
前記糸送りローラ群は、前記ローラの回転軸が互いに平行である平行ローラ群を含み、
前記平行ローラ群を構成するそれぞれの前記ローラは、該ローラの円周長未満の接触長で前記複数本の糸条のそれぞれと接する、ことを特徴とする紡糸巻取設備。
【請求項2】
前記糸送りローラ群は、表面温度を調節可能とする温度調節手段を備えた前記ローラを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸巻取設備。
【請求項3】
前記糸送りローラ群は、前記糸条の予備加熱を行なう前記ローラから構成される加熱ローラ群と、
前記糸条のヒートセットを行なう前記ローラから構成される調質ローラ群と、を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の紡糸巻取設備。
【請求項4】
前記加熱ローラ群は、表面温度が予備加熱の目標温度より高く設定された前記ローラを含む、ことを特徴とする請求項3に記載の紡糸巻取設備。
【請求項5】
前記調質ローラ群は、表面温度がヒートセットの目標温度より高く設定された前記ローラを含む、ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の紡糸巻取設備。
【請求項6】
前記糸送りローラ群は、周速度を調節可能とする周速調節手段を備えた前記ローラを含む、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項7】
前記糸送りローラ群を構成するそれぞれの前記ローラは、前記糸条の糸道における上流側に配置された該ローラの周速度に対して下流側に配置された該ローラの周速度を同速若しくは高速とする、ことを特徴とする請求項6に記載の紡糸巻取設備。
【請求項8】
前記糸送りローラ群を構成する前記ローラを共通の保温ケースに収める、ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項9】
前記糸条を非接触で加熱する加熱手段を備える、ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の紡糸巻取設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−122276(P2011−122276A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282120(P2009−282120)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】