説明

紫外線放電ランプおよび殺菌装置

【課題】 ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプにおいて、ガラス管の内壁への酸化水銀およびアマルガムの付着、沈着を低減し、時間の経過に伴う光出力の低下を抑える。
【解決手段】 ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプであって、前記硼珪酸ガラスのガラス管1の内壁に、前記硼珪酸ガラス側から順に、第1の金属酸化物膜7としてシリカ、第2の金属酸化物膜8として帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線放電ランプおよび殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線(UV)放電ランプは、殺菌や滅菌、空気清浄、脱臭、水処理、精密部品の表面の洗浄、ゴム等樹脂の改質、半導体のエッチングレジストなどの灰化などに使用されており、紫外線放電ランプには、蛍光体を利用したものと、蛍光体の無いものとがある。蛍光体を利用したものはUV−B、UV−Aと呼ばれる280nmより長波長の波長(例えば365nm)を利用して光触媒を使った空気清浄などに応用されている。しかし、殺菌、脱臭能力としては280nmより短波長のUV−Cと呼ばれる紫外線(254nm付近、185nm付近の波長の紫外線)が有効であり、蛍光体の無いものが適している。以下に蛍光体の無い紫外線放電ランプについて説明する。
【0003】
紫外線放電ランプでは、ランプ内の水銀によって紫外線(254nm付近、185nm付近の波長の紫外線)が放射される。ここで、波長254nm付近の放射(殺菌線)は主に殺菌に用いられ、波長185nm付近の放射(オゾン線)によって生成されるオゾンは脱臭作用を有している。ただし、オゾンが多いと人体に悪影響があるため、余剰のオゾンは最終的には除去する必要がある。例えばオゾンによる脱臭機能を有する空気清浄器やエアコン等の用途では、殺菌線の254nm放射は多く必要であるのに対して、石英ガラスの185nmの放射に対する透過率は高すぎるため、オゾン生成は過多になることが多い。
【0004】
紫外線放電ランプには熱陰極型の低圧水銀ランプが多く用いられているが、例えば、家庭用のエアコンに装着する場合には長寿命(例えば5万時間点灯後における紫外線放射照度の維持率が初期の放射照度の50%以上)が要求され、このような長寿命の放電ランプには冷陰極型の低圧水銀ランプが用いられる。なお、紫外線放射照度の維持率とは、{(ある時間経過した時の放射照度)/(初期の放射照度)}×100%である。
【0005】
このように、紫外線放電ランプは、254nm付近、185nm付近の波長のスペクトルを発生させて、上記の効果をもたらすが、これらの波長を透過する石英ガラスは高価であるという問題がある。加えて、石英ガラスの熱膨張係数に近い金属材料がないため、単純なステム封止、ビード封止、ボタン封止という封止方法は適用できず、モリブデン(Mo)などの高融点金属を極めて薄い箔状にしてピンチ封止(プレス圧着)する必要がある。図1には、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110の例が示されている。図1において、符号101は石英ガラスのガラス管、符号102は電極、符号103はリード線、符号104はモリブデン箔、符号105はピンチ封止部(ピンチシール)である。このように、紫外線放電ランプに石英ガラスのガラス管101を用いる場合には、ピンチ封止部105を設ける必要があることから、ランプ長に対する封止部分の割合が大きくなり(紫外線放電ランプの発光長L2が短くなり)、紫外線(UV)の放射量が少なくなるという問題もある。また、構造が複雑なため加工費も高くなってしまう。
【0006】
紫外線放電ランプのガラス管に、石英ガラスのかわりに軟質ガラスを使うことも考えられるが、軟質ガラスは、不純物が多いため、紫外線(UV)、特に波長185nm付近の放射をほとんど透過しないという問題がある。
【0007】
これに対して、紫外線をある程度透過する硼珪酸ガラス(硬質ガラス)は、ガラス材料が石英ガラスよりも安価で、封止もビード封止やボタン封止ができるため、安価に製造することができる。また、紫外線(UV)に対して十分な透過性を有しているため、石英ガラスや軟質ガラスよりも、紫外線放電ランプのガラス管の材料に適している。
【0008】
例えば厚さ1mmの合成石英ガラスの波長254nmと波長185nmの放射に対する透過率は両者共に90%以上であるのに対して、紫外線透過の硼珪酸ガラスでは各々約85%、約20%である。波長254nmの透過率は石英ガラスに対して遜色なく、また、波長185nmの透過率は254nmの透過率よりも低い値であり、オゾン生成が過多になることを抑えるので、石英ガラスよりも適している。
【0009】
なお、ガラス管の材料に硼珪酸ガラスを使用していると認められる従来技術としては、特許文献1に記載のような、0.5mmガラスの厚さで、波長に対する透過率を規定したガラスを用いたUVフラッシュランプが知られている。また、硼珪酸ガラスは、一般に、SiO、Bの他に、さらに、NaOなどを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2004−507039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、蛍光ランプでは時間の経過と共に光出力が低下することが知られており、蛍光体とランプ内の酸化水銀が正と負に対電して引き合うことが、蛍光体への水銀付着、光出力低下を早めることが示唆されている(照明学会論文 1992年 「蛍光体の帯電傾向と蛍光ランプの黒化現象」)。
【0012】
紫外線放電ランプにおいては、水銀の発光スペクトルをそのまま利用するため、蛍光体を塗布しない。しかし、点灯時間の経過とともに、以下のような現象(黒化現象)が起こり、紫外線(UV)の透過が低下してしまう。
【0013】
すなわち、第1の現象(黒化メカニズム)として、ランプ内の不純物と水銀との生成物(主に酸化水銀)がランプ内壁表面に付着し、紫外線(UV)の透過を阻害し、また、同時に付着した水銀化合物の水銀イオンがガラス内に浸透し、ガラスが着色し、紫外線(UV)の透過を阻害するという問題があった。なお、この原因も、上述した蛍光ランプにおける光出力の低下の場合と同様と推定される。
【0014】
また、第2の現象(黒化メカニズム)として、ランプ内の水銀と、ガラス成分からランプ内壁表面に析出したNaとがアマルガムを形成し、アマルガムがランプ内壁表面に沈着して、紫外線(UV)の透過を阻害するという問題があった。特に、Naを含むガラス、例えば紫外線を透過する硼珪酸ガラスをガラス管に用いる場合には、この現象を避ける必要がある。
【0015】
本発明は、ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプにおいて、ガラス管の内壁への酸化水銀およびアマルガムの付着、沈着を低減し、時間の経過に伴う光出力の低下を抑えることの可能な紫外線放電ランプおよび殺菌装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプであって、前記硼珪酸ガラスのガラス管の内壁に、前記硼珪酸ガラス側から順に、第1の金属酸化物膜としてシリカ、第2の金属酸化物膜として帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜が形成されていることを特徴としている。
【0017】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の紫外線放電ランプにおいて、前記第2の金属酸化物膜は、アルミナまたはイットリアであることを特徴としている。
【0018】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の紫外線放電ランプにおいて、前記紫外線放電ランプは、冷陰極型の低圧水銀ランプであることを特徴としている。
【0019】
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の紫外線放電ランプが用いられていることを特徴とする殺菌装置である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1乃至請求項3記載の発明によれば、ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプであって、前記硼珪酸ガラスのガラス管の内壁に、前記硼珪酸ガラス側から順に、第1の金属酸化物膜としてシリカ、第2の金属酸化物膜として帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜が形成されているので、ガラス管の内壁への酸化水銀およびアマルガムの付着、沈着を低減し、時間の経過に伴う光出力の低下を抑えることができる。
【0021】
また、請求項4記載の発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の紫外線放電ランプが用いられていることを特徴とする殺菌装置であるので、長寿命かつ時間の経過に伴う紫外線出力の低下を抑えた殺菌装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプの例を示す図である。
【図2】本発明の紫外線放電ランプの構成例を示す図である。
【図3】ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプと、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプとの、全体のランプ長に対する発光長比を示す図である。
【図4】図2の紫外線放電ランプのガラス管の部分の詳細縦断面図である。
【図5】本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプと石英ガラス製の紫外線放電ランプの特性の比較結果を示す図である。
【図6】本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプと石英ガラス製の紫外線放電ランプの特性の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
本発明は、ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプ(より具体的には、例えば冷陰極型の低圧水銀ランプ)に関するものである。ここで、硼珪酸ガラスは、前述したように、一般に、SiO、Bの他に、さらに、NaOなどを含んでおり、波長254nm、波長185nmの放射に対する透過率が、各々、約85%、約20%となっている。
【0025】
ところで、前述したように、ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプでは、点灯時間の経過とともに、第1、第2の現象(黒化現象)が起こり(すなわち、ガラス管の内壁に酸化水銀、アマルガムが付着、沈着し)、紫外線(UV)の透過が低下してしまうという問題があった。具体的には、例えば5,000時間の点灯による結果からの50,000時間後の寿命予測では、波長185nmの放射照度の維持率が初期の放射照度の50%以下になってしまうという問題(短寿命であるという問題)があった。
【0026】
本願の発明者は、当初、上記第1の現象である酸化水銀のガラスへの付着を減らすために、ランプ内壁のガラスの表面に紫外線(UV)を透過する金属酸化物膜を形成し、酸化水銀の付着を抑制することを考えた。その金属酸化物選定の条件は、紫外線(UV)を透過すること、酸化水銀と帯電傾向が近いこと、NaとHgを触れさせないことであるが、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いる場合には、単一種類の金属酸化物で全ての条件を満足させるものは無いことがわかった。
【0027】
すなわち、紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いる場合、波長185nmの放射の透過率が波長254nmの放射の透過率に比べて低いため、酸化アルミニウム(アルミナ;Al)や酸化イットリウム(イットリア;Y)のように酸化水銀を付着させないが紫外線(UV)透過のあまり良くない金属酸化物膜をガラス管の内壁に形成させるときには、紫外線(UV)透過を確保するために金属酸化物膜の膜厚を薄くする必要があるが、このときにはガラス生地が露出する部分が出てきてしまい、その部分に酸化水銀、アマルガムが付着して、その部分の紫外線(UV)透過率の減少は他の部分よりも早くなってしまう。
【0028】
また、ガラス管の内壁に、紫外線(UV)透過の良い二酸化珪素(シリカ;SiO)をある程度の厚さでコーティングするとアマルガムの生成を抑えることはできるが、上記第1の現象と同様の現象である酸化水銀のシリカへの付着が生じ、酸化水銀のシリカへの付着による紫外線(UV)透過の低下を避けることができない。
【0029】
このように、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いる場合には、単一種類の金属酸化物だけをガラス管の内壁に形成させることによっては、紫外線(UV)透過の低下を回避することができないことがわかった。
【0030】
本発明は、本願の発明者のこのような知見に基づいてなされたものであり、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いる場合に、後述のように、2種類の金属酸化物膜をガラス管の内壁に形成することによって、紫外線(UV)透過の低下を回避することを意図している。
【0031】
図2は本発明の紫外線放電ランプ(例えば冷陰極型の低圧水銀ランプ)の構成例を示す図(概略図)である。
【0032】
図2を参照すると、本発明の紫外線放電ランプ(例えば冷陰極型の低圧水銀ランプ)10は、紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いたガラス管1と、ガラス管1内に配置された一対の電極2とリード線3とを有し、ガラス管1内には、不活性ガス、水銀(Hg)が封入されており、ガラス管1の内壁には、後述のように(図4に図2のガラス管1の部分について詳細に示すように)2種類の金属酸化物膜7、8が形成されている。なお、図2の例では、ガラス管1は、これが紫外線透過の硼珪酸ガラスであることから、ビード封止(ビードシール)されている。図2において、符号6はビード封止部である。
【0033】
本発明の紫外線放電ランプ10は、ガラス管1に紫外線透過の硼珪酸ガラス(石英ガラスに比べて安価なガラス)を用いているので、ガラス管に石英ガラスを用いる紫外線放電ランプに比べて安価な紫外線放電ランプを提供できる。
【0034】
また、図3(a),(b)には、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10と、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110との、全体のランプ長Lに対する発光長比が示されている。すなわち、図3(a)には、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10の全体のランプ長Lに対する発光長L1が示されており、図3(b)には、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110の全体のランプ長L(ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10の全体のランプ長Lと同じランプ長)に対する発光長L2が示されている。図3(a)と図3(b)とを比べればわかるように、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10では、ビード封止(ビードシール)やボタンステム等の安価で簡単な構造を用いることができるので、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10の全体のランプ長Lに対する発光長L1を、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110の全体のランプ長Lに対する発光長L2に比べて長くすることができ、これにより、全体のランプ長Lが同じである場合、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10では、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110に比べて、紫外線の放射量(波長254nmm、波長185nmの放射量)を多くすることができる。なお、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10は、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110に比べて、波長185nmの放射に対する透過率は低いが、波長185nmの放射に対する透過率が低いことによって、波長254nmmの放射量に対して実用的な波長185nmの放射量に近づけることができる。
【0035】
このように、ガラス管に紫外線透過の硼珪酸ガラスを用いている本発明の紫外線放電ランプ10は、ガラス管に石英ガラスを用いた紫外線放電ランプ110に比べて、いくつかの利点を有している。
【0036】
ところで、前述のように、ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプでは、点灯時間の経過とともに、第1、第2の現象(黒化現象)が起こり(すなわち、ガラス管の内壁に酸化水銀、アマルガムが付着、沈着し)、紫外線(UV)の透過が低下してしまうという問題があり、これを回避するため、本発明では、図4に図2のガラス管1の部分について詳細に示すように、硼珪酸ガラスのガラス管1の内壁に、硼珪酸ガラスのガラス管1側から順に、第1の金属酸化物膜7として二酸化珪素(シリカ;SiO)、第2の金属酸化物膜8として帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜(すなわち、酸化水銀(HgO)に近い帯電傾向によって酸化水銀(HgO)を静電気的に反発させて、水銀酸化物を付着させない金属酸化物膜)を形成している。この第2の金属酸化物膜8としては、具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ;Al)または酸化イットリウム(イットリア;Y)が形成される。
【0037】
上記第1の金属酸化物膜7としてのシリカは、紫外線(UV)透過率の良い物質であり、かつ、硼珪酸ガラスのようにNaなどを含んでいないので、シリカがガラス管1の内壁に形成されることでアマルガムの形成を阻止することができる。すなわち、シリカがガラス管1の内壁に形成されることで、前述した第2の現象であるアマルガムが生成されるのを防止できる。
【0038】
また、帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜である第2の金属酸化物膜8(具体的には、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ;Al)または酸化イットリウム(イットリア;Y))は、酸化水銀(HgO)に近い帯電傾向によって酸化水銀(HgO)を静電気的に反発させて、水銀酸化物、すなわち酸化水銀(HgO)が付着するのを防止できる。ここで、第2の金属酸化物膜8は、第1の金属酸化物膜7よりも紫外線(UV)の透過率が低いため、第2の金属酸化物膜8の膜厚はできるだけ薄くするのが良い。実際には、波長185nmの放射の必要量に応じて第2の金属酸化物膜8の膜厚は適宜調整することができる。例えば、波長185nmの放射量をより多くしたいときには、第2の金属酸化物膜8の膜厚は、できる限り薄くするのが良く、具体的には、第1の金属酸化物膜7の膜厚よりも薄くするのが良い。また、波長185nmの放射量を差程必要としないときには、第2の金属酸化物膜8の膜厚は、第1の金属酸化物膜7の膜厚と同じ程度にすることもできる。
【0039】
本発明の原理は、より詳細には次の通りである。すなわち、第1の金属酸化物膜7であるシリカは、アマルガムの生成を防止するために硼珪酸ガラスのすぐ内壁に形成するが、第1の金属酸化物膜7であるシリカは、ガラスと同様に比較的マイナスに帯電し易く、酸化水銀はプラスに帯電し易いため、酸化水銀は第1の金属酸化物膜7であるシリカに付着しやすい。酸化水銀が第1の金属酸化物膜7であるシリカに付着しないようにするために、本発明では、第1の金属酸化物膜7であるシリカの表面に酸化水銀と帯電傾向が近い第2の金属酸化物膜8を形成する。このとき、第2の金属酸化物膜8は、第1の金属酸化物膜7よりも紫外線(UV)の透過率が低いため、第2の金属酸化物膜8をできるだけ薄く形成するのが良く、その場合、第1の金属酸化物膜7であるシリカが部分的に露出することがあるが、このときにも前述した第2の現象であるアマルガムの生成は抑えることができるので、大きな問題にはならない。
【0040】
このように、本発明によれば、ガラス管1に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプであって、硼珪酸ガラスのガラス管1の内壁に、硼珪酸ガラス側から順に、第1の金属酸化物膜7としてシリカ、第2の金属酸化物膜8として帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜(具体的には、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ;Al)または酸化イットリウム(イットリア;Y))を形成するので、ガラス管の内壁への酸化水銀およびアマルガムの付着、沈着を低減し、時間の経過に伴う光出力の低下を抑えることができる。
【0041】
なお、第1の金属酸化物膜(シリカ)7、第2の金属酸化物膜(アルミナまたはイットリア)8は、次のように形成される。すなわち、最初に、平均粒径30nmの微細な第1の金属酸化物膜(シリカ)7の粒を、例えばアルコール等の有機物液体にニトロセルロースなどを溶かし粘度が調整された液体に、分散させたものを硼珪酸ガラスのガラス管1の内壁に塗布して、乾燥する。次いで、平均粒径30nmの微細な第2の金属酸化物膜(アルミナまたはイットリア)8を第1の金属酸化物膜(シリカ)7に塗布して、乾燥する。しかる後、封止される部分の金属酸化物を除去し、その後、焼成して、2層の膜、すなわち第1の金属酸化物膜(シリカ)7、第2の金属酸化物膜(アルミナまたはイットリア)8を形成する。または、最初に、平均粒径30nmの微細な第1の金属酸化物膜(シリカ)7の粒を、例えばアルコール等の有機物液体にニトロセルロースなどを溶かし粘度が調整された液体に、分散させたものを硼珪酸ガラスのガラス管1の内壁に塗布して乾燥後、封止部分を除去し、焼成する。次いで、平均粒径30nmの微細な第2の金属酸化物膜(アルミナまたはイットリア)8を第1の金属酸化物膜(シリカ)7に塗布して乾燥後、封止部分を除去し、2層の膜、すなわち第1の金属酸化物膜(シリカ)7、第2の金属酸化物膜(アルミナまたはイットリア)8を形成する。
【0042】
本願の発明者は、実際に、以下のようにして、図2、図4に示すような本発明の紫外線放電ランプを作製した。
【0043】
すなわち、硼珪酸ガラスのガラス管1の内壁に、シリカとアルミナの膜、または、シリカとイットリアの膜を、0.1μm〜2μmの厚さで形成した。ここで、紫外線放電ランプのガラス管1の直径は3〜6mmで、ガラス管1の長さは50mm〜500mmであり、ランプ形状、すなわちガラス管1の形状は、直管やU字管とした。また、ガラス管1内には、発光物質として、水銀(Hg)と純アルゴンまたはアルゴン・ネオン混合ガス(Ar−Ne)を封入した。また、電極2は、材料がNi、Mo、Fe−Moで、カップかスリーブ状のものにした。
【0044】
図5、図6には、上記のようにして作製した本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプと石英ガラス製の紫外線放電ランプの特性の比較結果が示されている。すなわち、図5には、オゾン量を一定にしたときの波長254nmのUV放射照度が示されており、オゾン量を一定にした場合、本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプでは、石英ガラス製の紫外線放電ランプに比べて、約1.5倍のUV放射照度が得られた。また、図6には、UV放射照度を一定にしたときのオゾン量およびランプ電力が示されており、UV放射照度を一定にしたとき、本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプでは、石英ガラス製の紫外線放電ランプに比べて約0.7倍とオゾンの量は減少するものの、オゾンの量は必要量以上は確保できる。また、UV放射照度を一定にしたとき、本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプでは、石英ガラス製の紫外線放電ランプに比べてランプ電力も抑えられるので、用途によっては省電力になる。
【0045】
本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプにおいて、5,000時間の点灯試験で50,000時間後のUV放射照度の維持率(初期のUV放射照度に対する比率)を以下のように予測した。
【0046】
すなわち、第1の例として、第1の金属酸化物膜7であるシリカの膜厚を0.4μm、第2の金属酸化物膜8であるアルミナの膜厚を0.2μmとして作製した紫外線放電ランプのUV放射照度の維持率(初期のUV放射照度に対する比率)は、波長254nmの維持率が84%、波長185nmの維持率が55%と、いずれも50%以上となった。
【0047】
また、第2の例として、第1の金属酸化物膜7であるシリカの膜厚を0.4μm、第2の金属酸化物膜8であるイットリアの膜厚を0.1μmとして作製した紫外線放電ランプのUV放射照度の維持率(初期のUV放射照度に対する比率)は、波長254nmの維持率が89%、波長185nmの維持率が72%と、いずれも50%以上となった。
【0048】
このように、本発明の硼珪酸ガラス製の紫外線放電ランプは、次の利点を有することがわかる。すなわち、先ず、蛍光体を利用した紫外線ランプに比べて、波長185nm、254nmが透過できるので、殺菌、脱臭の効果がある。また、硼珪酸ガラスを使用しているので、コストが安価になる。また、第1の金属酸化物膜7であるシリカと第2の金属酸化物膜8とを形成することにより、長寿命で波長185nm、波長254nmのUV放射照度の維持率(初期のUV放射照度に対する比率)が向上する(長寿命で脱臭、殺菌が出来る)という効果が得られる。また、紫外線の放射量が多くなる(同じ放射量の場合、電力を少なく出来る)という利点がある。
【0049】
上記のような利点を有しているので、本発明の紫外線放電ランプを殺菌装置(例えば、空気清浄器、エアコン、脱臭器、冷蔵庫、洗濯機、浄水器など)に用いるとき、長寿命かつ時間の経過に伴う紫外線出力の低下を抑えた殺菌装置を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、空気清浄器、エアコン、脱臭器、冷蔵庫、洗濯機、浄水器などの殺菌・脱臭に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 紫外線放電ランプ
1 ガラス管
2 電極
3 リード線
6 ビード封止部
7 第1の金属酸化物膜
8 第2の金属酸化物膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管に硼珪酸ガラスを用いた紫外線放電ランプであって、前記硼珪酸ガラスのガラス管の内壁に、前記硼珪酸ガラス側から順に、第1の金属酸化物膜としてシリカ、第2の金属酸化物膜として帯電傾向がシリカよりも酸化水銀(HgO)に近い金属酸化物膜が形成されていることを特徴とする紫外線放電ランプ。
【請求項2】
請求項1記載の紫外線放電ランプにおいて、前記第2の金属酸化物膜は、アルミナまたはイットリアであることを特徴とする紫外線放電ランプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の紫外線放電ランプにおいて、前記紫外線放電ランプは、冷陰極型の低圧水銀ランプであることを特徴とする紫外線放電ランプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の紫外線放電ランプが用いられていることを特徴とする殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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