説明

紫外線硬化性コーティングニス組成物

【課題】 本発明の課題は、オゾンを発生させない紫外線発光ダイオード(UV−LED)において硬化性に優れ、黄変性が低く、低臭気である紫外線硬化性コーティングニス組成物を提供することにある。
【解決手段】 紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤に更に紫顔料又は紫染料を配合することで、UV−LEDランプの発光波長において、硬化能は高いが黄変性の強い、又は原材料自体が黄色に着色しているアミン系化合物及び光重合開始剤を使用しても、低黄変性を維持することが可能な紫外線硬化性コーティングニス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線光源として紫外線発光ダイオード(UV−LED)によるUV硬化システムにおいて好適に硬化する紫外線硬化性コーティングニス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型印刷物の製造には、光源として低圧、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の紫外線ランプ(UVランプ)が硬化システムとして広く用いられてきた。
【0003】
近年、紫外線発光ダイオード(UV−LED)を光源とした照射モジュールが開発され、UV印刷分野への実用化が検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
UV−LEDはオゾンを発生しないという特徴から排気ダクトが不要となり、印刷機の省スペース化が進んでいる。
【0005】
一方で、UV−LEDの短所として、ランプ光源と比較してUV組成物の皮膜硬化性が大きく劣る点が挙げられ、本方式が広まらない障害と成っている。
【0006】
原因として、既存のUV−LED光源は発光波長域が365〜420nmに限られていることにより、広域波長の紫外線を発するランプ光源と比較して紫外線エネルギーの総量が小さく、光重合開始剤から生成するラジカルの発生量が少ない為に、重合反応が酸素阻害の影響を受けやすいことが挙げられる。また、相対的に短波長領域の紫外線エネルギー量が不足することから、これらの照射により得られた紫外線組成物は、一般に皮膜表面の硬化性が劣る傾向が確認される。
【0007】
現在、UV−LEDを光源とした照射機に対応するインキにはこれらの欠点を補うために、色インキでは長波長に吸収を持つ光重合開始剤を利用しているが、無彩色インキやコーティングニスでは、黄変性の観点から、黄変性の強いアミン系化合物や光重合開始剤を使用することが出来ない。
【0008】
一方で、従来の無彩色インキやコーティングニスで使用されてきた低黄変型の光重合開始剤では、UV−LEDで十分な硬化性能を得ることができない。例えば開始剤として、低黄変開始剤の代表であるBASF社製IRGACURE184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)を採用したとしても、UV−LEDを光源とした発行波長では殆ど硬化反応は進まない。
【0009】
黄変性の低いモノマー又はオリゴマーを使用した場合に十分な硬化性を持たせるためには、硬化能の高い光重合開始剤として例えば、BASF社製IRGCURE907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)を使用することで、良好な硬化性を得ることができるが、IRGACURE907は臭気が強いため、UV−LED条件下で硬化性・黄変性・臭気性を兼ね揃えたコーティングニスを提供するためには、IRGACURE907を使用することができない。
【0010】
さらに、アミン変性アクリレートとアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の併用によるコーティングニスは、UV−LEDで乾燥はするものの、IRGACURE907を使用せずに、更に硬化を上げるには高反応性モノマーやアミン系化合物、若しくはチオキサントン化合物等の割合を高める必要があり、この場合黄変などの問題が拭いきれない(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
【特許文献1】特開2006−511684号公報
【特許文献2】特開2006−176734号公報
【特許文献3】特開2006−206875号公報
【特許文献4】特開2011−001449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、オゾンを発生させない紫外線発光ダイオード(UV−LED)において硬化性に優れ、黄変性が低く、低臭気である紫外線硬化性コーティングニス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤に更に紫顔料又は紫染料を配合することで、UV−LEDランプの発光波長において、硬化能は高いが黄変性の強い、又は原材料自体が黄色に着色しているアミン系化合物及び光重合開始剤を使用しても、低黄変性を維持することが可能な紫外線硬化性コーティングニス組成物を見出し本発明に至った。
【0014】
すなわち本発明は、紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤及び紫顔料又は紫染料を含有することを特徴とする紫外線硬化性コーティングニス組成物を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、紫外線光源としてUV−LEDランプを用いて、硬化性に優れ、黄変性が低く、低臭気である紫外線硬化性コーティングニス組成物及び該ニス組成物による印刷物を得ることができる。
【0016】
次に、本発明で使用する紫外線硬化性コーティングニス組成に関して説明する。
【0017】
本発明の紫外線発光硬化性コーティングニス組成物に用いる紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、重合性オリゴマー等、公知慣用であるもの、ランプ方式で実績のあるものが、本発明で述べる紫外線発光ダイオード方式においてもそのまま使用することが可能である。
【0018】
本発明の紫外線硬化性コーティングニス組成物に用いる、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分は、後述の例に示されるが、紫外線硬化性コーティングニス中に、好ましくは50〜90質量%含有し、より好ましくは70〜85質量%含有する。
【0019】
低エネルギーで紫外線硬化性組成物を好適に硬化させるという点では、より反応性の高い3官能以上の紫外線硬化性モノマーを用いたほうが好ましいが、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能、2官能のモノマーを単独もしくは併用することが可能である。
【0020】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
重合性オリゴマーとしては、上述したアミン変性アクリレートの他に、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、特に、4官能以上のモノマーは硬化性や強度の向上に大きく寄与するが、使用量が過剰となると皮膜の柔軟性が損なわれ、割れが発生する場合がある。4官能以上のモノマーの使用量は、10〜30質量%が好ましい。
【0024】
本発明の紫外線硬化性コーティングニス組成物は、紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分とともに、光重合開始剤として、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを主要な特徴としている。
【0025】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2−メチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル等のモノアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられ、これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類が好ましく用いられ、特に、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドは、紫外線発光ダイオードの発光波長領域に合致するUV吸収波長を有することで、好適な硬化性が得られ、且つ、硬化皮膜の黄変が少ない点でより好ましい。
【0026】
黄色の補色である紫顔料又は紫染料を配合することで、黄変性を低減することができる。本発明で使用する紫顔料としては、例えば、CI.ピグメントバイオレット2、CI.ピグメントバイオレット2:2、CI.ピグメントバイオレット3、CI.ピグメントバイオレット3:1、CI.ピグメントバイオレット3:3、CI.ピグメントバイオレット5、CI.ピグメントバイオレット5:1、CI.ピグメントバイオレット19、CI.ピグメントバイオレット23、CI.ピグメントバイオレット25、CI.ピグメントバイオレット27、CI.ピグメントバイオレット32、CI.ピグメントバイオレット37、CI.ピグメントバイオレット39、CI.ピグメントバイオレット50等が挙げられ、紫染料としては、例えば、アシッドバイオレット6b、アシッドバイオレット17、アシッドバイオレット19、ベーシックバイオレット2、ベーシックバイオレット3、ベーシックバイオレット4、ベーシックバイオレット14、クロムバイオレットCg、クリスタルバイオレット、エチルバイオレット、ゲンチアンバイオレット、ホフマンズバイオレット、メチルバイオレット、メチルバイオレット2b、メチルバイオレット10b、モンダントバイオレット39等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いることもできる。紫顔料又は紫染料は紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス中に、0.001〜0.05質量%含有し、好ましくは0.005〜0.02質量%である。
【0027】
更に紫顔料又は紫染料の補色として、藍顔料を併用することもできる。本発明で使用する藍顔料としては、例えばCI.ピグメントブルー1、CI.ピグメントブルー2、CI.ピグメントブルー3、CI.ピグメントブルー8、CI.ビグメントブルー9、CI.ピグメントブルー12、CI.ピグメントブルー62等があげられる。これらは、どの紫顔料又は紫染料と組み合わせても良い。藍顔料は紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス中に、0.001〜0.05質量%含有し、好ましくは0.005〜0.02質量%である。
【0028】
本発明の紫外線硬化性コーティングニス組成物に用いるアミン変性アクリレートとしては、アミン変性ポリエーテルアクリレート、アミン変性エポキシアクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステルアクリレート、アミノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、市販品としては、BASF社製のLaromer PO77F,Laromer PO83F,Laromer PO84F,Laromer PO94F,Laromer LR8997,Laromer LR8889,Laromer LR8869,Laromer LR8996,Laromer LR9019,サートマー社製のCN371,CN372,CN373,CN383,CN374,CN386,ダイセル・サイテック社製のEBECRYL80,EBECRYL81,EBECRYL83,EBECRYL3708,EBECRYL7100,コグニス社製のPHOTOMER4662,4770,4771,4967等が挙げられる。紫外線硬化性コーティングニス中のアミン変性アクリレートの含有量は15〜50質量%であり、好ましくは25〜40質量%である。
【0029】
アミン変性アクリレートの量が少な過ぎる場合には十分な皮膜硬化性が得られず、逆に多過ぎる場合には皮膜の黄変発現が顕著となる。
【0030】
また上述の光重合開始剤に加えて、光増感剤を併用することで、より好適な硬化性を得ることが可能である。350〜420nmの紫外線発光ダイオードに反応し得る光増感剤としては、例えば、チオキサントン系化合物のうち、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等が挙げられ、黄変の発現性を考慮すると使用量は少量に限定されるが、併用することで皮膜硬化性を好適に向上させることが可能である。紫外線硬化性コーティングニス中のチオキサントン系化合物の含有量は0.01〜0.5質量%であり、好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0031】
また紫外線発光ダイオード発光波長領域に合致するUV吸収特性を有していないものであっても、上述したアミン変性アクリレート以外の3級アミン化合物を水素供与体として併用することでも、好適なUV硬化を得ることが可能である。例えば、脂肪族アミン誘導体としてトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジブチルエタノールアミン等が、安息香酸誘導体のアミンとして2−ジメチルアミノエチル安息香酸、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等が、アニリン誘導体のアミンとしてN,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等が挙げられる。
【0032】
これら光増感剤の使用量は黄変への影響を考慮すると、チオキサントン系化合物の場合、コーティングニス中の含有量は0.5質量%以下であり、アミン変性アクリレート以外の3級アミン化合物の場合、1質量%以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の紫外線硬化性コーティングニス組成物の対象とする印刷基材としては、特に限定は無く、例えば、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種基材を挙げることが出来る。
【0034】
本発明の紫外線硬化性コーティングニス組成物の対象とする印刷物の製造に用いられる印刷インキとしては、紫外線発光ダイオードより発せられる紫外線に対して好適に硬化する組成物であれば特に限定は無く、例えば印刷方式に応じて、オフセット、水無し、グラビア、フレキソ、シルクスクリーン、インクジェット、その他従来から印刷用途に使用されているUV硬化性インキを採用することが可能である。
【0035】
本発明の紫外線硬化性コーティングニス組成物の対象とする印刷物を製造するために使用する紫外線発光ダイオード光源より発せられる紫外線の発光波長としては、例えば、発光ピーク波長が350〜420nm程度であるものが好ましい。
【0036】
紫外線発光ダイオード光源よりUV硬化性組成物へ照射される紫外線の積算光量値に関しては、印刷基材上のUV硬化性組成物の種別や印刷層の厚み等により異なる為、厳密には特定出来ず、適宜好ましい条件を選択するものであるが、例えば、積算光量の総和が5〜200mJ/cm程度であり、より好ましくは、10〜100mJ/cm程度である。
【0037】
積算光量値5mJ/cmを下回る条件では十分な硬化性を得ることが困難となり、一方、積算光量値200mJ/cmを超える条件は、本発明で述べる印刷方式においては不必要であり、紫外線発光ダイオード光源の特徴である省エネルギー性を維持する目的においても過剰量のエネルギー照射は行わない。
【0038】
紫外線発光ダイオード光源より印刷基材上のUV硬化性組成物へ照射される紫外線の照射強度(mW/cm)に関しては、印刷方向に並べる紫外線発光ダイオード光源の個数、光源から組成物までの照射距離等の諸条件によっても適切な照射強度範囲が変動することから特に規定はしないが、本発明で述べる印刷方式における印刷基材の移動速度は60〜400m/min.程度であるから、該印刷速度で移動する印刷基材上のUV硬化性組成物に対して、積算光量値が先に述べた程度となる照射強度であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
次に実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
【0040】
(紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス(実施例ニス−1)の調製)
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(DAROCURE TPO)13.0部、ビスフェノールA変性ジアクリレート(MIRAMER240)35.0部、ポリエチレンオキサイド#300ジアクリレート(MIRAMER M284)36.3部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとペンタアクリレートの混合物(アロニックスM−402)15.0部、ポリエチレンワックスパウダー(サゾールワックスSPRAY40)0.2部、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(SH28PA)0.5部、ピグメントバイオレット23を0.001部の配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤及び光増感剤を完全に溶解させることで、実施例ニス−1を調製した。
【0041】
((実施例ニス−2〜5)及び(比較例ニス−1〜4)の調製)
原材料を表1〜2に示す配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤及び光増感剤を完全に溶解させることで、実施例ニス-1と同様の方法で調製した。
【0042】
(印刷物の製造方法)
前記のように調製された紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス(実施例ニス−1〜5及び比較例ニス−1〜4)を、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、0.45mlを使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に、紫外線発光ダイオード硬化性コーティング膜厚が約5μmとなるよう印刷した。
【0043】
(紫外線発光ダイオード光源による乾燥方法)
紫外線発光ダイオード光源として、発光波長ピークが385nmである紫外線発光ダイオード照射装置(パナソニック電工社製、ANUD8002T01)を使用し、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを印刷したPETフィルムに対して、紫外線発光ダイオード光源の直下を通過させるよう、ラインスピードを振って紫外線照射を施した。積算光量測定にはUNIMETER UIT−150−A(ウシオ電機社製)を使用し、紫外線受光機としてはUVD−C405を用い、ラインスピード120m/min.における積算光量の値を測定したところ、22mJ/cmであった。
【0044】
(印刷物の評価方法1:硬化性)
紫外線照射後における印刷物の硬化性の評価方法としては、上質紙によるラビングテストにより硬化皮膜の強度を確認し、皮膜に傷が発生し始めるコンベアスピード(m/min.)を記載した。スピードが速い程、硬化性が高い。
【0045】
(印刷物の評価方法2:黄変)
紫外線照射後における硬化皮膜の黄変に起因する色変化を目視で確認し、次の5段階で評価した。
5・・・色変化が全く無い、もしくは殆ど無い
4・・・5と3の中間程度の色変化が確認できる
3・・・若干の色変化が確認できる
2・・・3と1の中間程度の色変化が確認できる
1・・・明確に黄変による色変化が確認できる
【0046】
表1に実施例1〜5及び比較例1,2に記載のコーティングニスの組成、および評価結果を示す。
【0047】
【表1】


・EBECRYL 80:アミン変性ポリエーテルアクリレート(ダイセル・サイテック社製)、
・DAROCUR TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製)、
・MIRAMER M240:ビスフェノールA変性ジアクリレート(MIWON社製)
・MIRAMER M284:ポリエチレンオキサイド#300ジアクリレート(MIWON社製)、
・アロニックス M−402:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとペンタアクリレートの混合物(東亜合成社製)、
・Speedcure DETX:2,4−ジエチルチオキサントン(ランブソン社製)、
・SPRAY40:サゾールワックスSPRAY40、ポリエチレンワックスパウダー(サゾールワックス社製、皮膜表面滑り性の調整剤として添加)、
・SH28PA:ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、基材および下地インキ層との親和性を高めるレベリング剤として添加)、
・紫顔料ピグメントバイオレット23及び/又は藍顔料フタロシアニンブルーを添加。
【0048】
表2に比較例3〜4に記載のコーティングニスの組成、および評価結果を示す。加えて極一般的で低黄変開始剤による参考例1〜3の組成及び評価結果を併せて記す。
【0049】
【表2】





【0050】
実施例の結果において、適量の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分と、適量のアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、及び紫顔料又は紫染料を0.001〜0.05質量%含有する事で、本発明で述べる紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの硬化性は良好であり、本発明で述べる紫外線照射条件において硬化皮膜の黄変が発生しない事を確認した。
【0051】
比較例では、紫顔料又は紫染料を添加しない場合、硬化皮膜の黄変は防げない。比較例2の0.05質量%を超える0.1質量%を添加した場合、紫に着色してしまう。 尚、参考例1〜3として、UV光重合開始剤として極一般的で低黄変開始剤の代表であるBASF社製IRGCURE184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、Chitec社製CHIVACURE OMB(2−ベンゾイル安息香酸メチル)、Lamberti社製EsacureKIP150(オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)を採用したとしても、UV−LEDを光源とした発行波長では殆ど硬化反応は進まないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス組成物およびそれを用いた印刷物は、UV硬化による印刷が求められるグラフィックイメージの印刷、印字図形、プラスチック電子材料などにおいて、高光沢、エンボスパターン、ホログラムパターン転写といった高意匠性を発揮する分野に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤及び紫顔料又は紫染料を含有することを特徴とし、紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。
【請求項2】
紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を50〜90質量%、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%、及び紫顔料又は紫染料を0.001〜0.05質量%含有する請求項1に記載の紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。
【請求項3】
前記した紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分が、1分子中に4官能以上の重合基を有する紫外線硬化性モノマーを含有する請求項1又は2に記載の紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。
【請求項4】
前記したアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドである請求項1〜3の何れかに記載の紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。
【請求項5】
アミン変性アクリレートを15〜50質量%含有する請求項1〜4の何れかに記載の紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。
【請求項6】
藍顔料を0.001〜0.05質量%含有する請求項1〜5の何れかに記載の紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。
【請求項7】
チオキサントン系化合物を0.01〜0.5質量%含有する請求項1〜6の何れかに記載の紫外線発光ダイオードで硬化するコーティングニス。

【公開番号】特開2013−87188(P2013−87188A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228810(P2011−228810)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】