説明

細径同軸ケーブル

【課題】細径化、柔軟性、耐屈曲性向上と共に、シールド特性及び減衰量の低下が抑制された細径同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】導体断面積が0.003mm〜0.09mmの中心導体2、絶縁体3、横巻きシールド導体6および外被7を同軸構造で配した細径同軸ケーブル1で、横巻きシールド導体6は、巻き角度が73°〜83°で、横巻き方向が互いに異なる2層で形成され、シールド導体6を形成する横巻き導体4の素線径は、ケーブルのシールド部分の径の0.05〜0.12倍であることを特徴とする。なお、2層の横巻きシールド導体6の内側横巻き導体4の巻き角度をθ1、外側横巻き導体5の巻き角度をθ2としたとき、θ1≧θ2とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を用いた通信機器内の配線等に用いられる細径の同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン(無線LAN)、ゲーム機、車載用無線機器(ETC、GPS等)等の無線通信手段を備えた電子機器では、アンテナと送受信回路が必要となる。通常、アンテナ部分は電子機器の筐体近傍に配置され、送受信回部分はマザーボード等の回路基板上に形成されて機器本体の内部側に配置される構造となることが多い。この場合、アンテナ部分と送受信回路部分とは、高周波用の同軸ケーブルを用いて接続されるが、この同軸ケーブルとしては、細径、低減衰、高柔軟、高耐屈曲性等が必要とされる。
【0003】
近年の電子機器の小型化、開閉機能の多様化、使用周波数の広帯域・高周波化で、これらのニーズを備えた同軸ケーブルの提供が困難となっている。従来、この種の同軸ケーブルとしては、細径の中心導体、絶縁体、シールド導体、外被を同軸構造で配し、シールド導体を編組導体で形成するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。しかし、シールド導体に編組導体を用いると、同軸ケーブルのさらなる細径化が難しく、また、ケーブルの端末加工性を考慮すると柔軟性や耐屈曲性が低下し、生産性やコストの点でも改善が求められている。
【0004】
これに対し、シールド導体を横巻きで形成することにより、細径化、柔軟性、耐屈曲性、耐コストを改善することも提案されている(例えば、特許文献2参照)。ただ、シールド導体を横巻き導体で形成すると、編組導体に比べて減衰量が悪化することから、絶縁体を耐熱性のあるフッ素化された樹脂材料で形成することにより、減衰量の悪化を補っている。
【特許文献1】特開平8−102222号公報
【特許文献2】特開2007−188782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示のように、細径化、柔軟性、耐屈曲性向上させるため、シールド導体を1層の横巻き導体で形成すると、ケーブルを曲げたり捻ったりした際に、導体間に隙間ができたりしてシールドが不十分になることがあり、編組導体に比べてシールド特性が劣る。これを改善するために、横巻き導体を同方向に2層に巻いてシールド導体とすると、シールド特性は編組導体と同程度に改善されるものの減衰量が低下し、通常の編組導体の場合より悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、細径化、柔軟性、耐屈曲性向上と共に、シールド特性及び減衰量の低下が抑制された細径同軸ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による細径同軸ケーブルは、導体断面積が0.003mm〜0.09mmの中心導体、絶縁体、横巻きシールド導体および外被を同軸構造で配した細径同軸ケーブルで、横巻きシールド導体は、巻き角度が73°〜83°で、横巻き方向が互いに異なる2層で形成され、シールド導体を形成する横巻き導体の素線径は、ケーブルのシールド部分の径の0.05〜0.12倍であることを特徴とする。なお、2層の横巻きシールド導体の内側横巻き導体の巻き角度をθ1、外側横巻き導体の巻き角度をθ2としたとき、θ1≧θ2とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細径同軸ケーブルによれば、編組構造のシールド導体を有する細径同軸ケーブルと同程度のシールド特性を得ることができると共に、信号の減衰量を編組構造のシールド導体より10%程度低減することが可能となる。また、柔軟性に優れ機器内の配線が容易で、コスト的にも安価なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1(A)は本発明による細径同軸ケーブルの断面図、図1(B)は同斜視図、図2は側面の模式図、図3は本発明による細径同軸ケーブルの評価結果を説明する図、図4は本発明による細径同軸ケーブルのシールド特性を説明する図である。図中、1は細径同軸ケーブル、2は中心導体、3は絶縁体、4は内側の横巻き導体、5は外側の横巻き導体、6はシールド導体、7は外被を示す。
【0010】
本発明による細径同軸ケーブル1は、図1(A),図1(B)に示すように、中心導体2を絶縁体3で囲い、その外側に2層の横巻き導体4,5からなるシールド導体6を配し、その外側を外被7で被覆して構成される。中心導体2、絶縁体3、シールド導体6および外被7は、ケーブル全長に亘って同軸形状に形成され、特性インピーダンスが均一になるように形成されている。
【0011】
中心導体2は、単線または撚り線で形成することができ、撚り線の場合は通常7本撚りで形成される。単線の場合は、撚り線に比べて導体断面積を同じにすると、線径が多少細くなり、より細径化することができ、また、コネクタ等の接点部に半田付けしやすいという利点がある。他方、撚り線は単線と比べると可撓性が優れ、断線しにくいという利点がある。本発明においては、その用途に応じて、単線または撚り線のいずれにも適用することができる。
【0012】
本発明においては、中心導体2として、導体断面積で0.003mm〜0.09mm程度で、AWG( American Wire Gauge )の#28〜#42に相当する細径の導線を用いた同軸ケーブルを対象としている。中心導体2の線材としては、例えば、錫メッキ軟銅線が用いられ、外径0.05mmの素線を7本撚って、外径0.15mm(0.014mm AWG#36相当)の中心導体とし、あるいは、外径0.102mmの素線を7本撚って、外径0.31mm(0.057mm AWG#29相当)の中心導体とする。
【0013】
絶縁体3は、フッ素樹脂、架橋ポリオレフィン、フッ素化されたFEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、フッ素化されたPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)を用いることができる。絶縁体3の厚さおよび外径は、所定の特性インピーダンス(50Ω)を得るためには、中心導体外径0.15mmの場合は、0.14mm厚、絶縁体外径0.43mmとされ、中心導体外径0.31mmの場合は、0.30mm厚、絶縁体外径0.90mmとされる。なお、フッ素化されたフッ素樹脂(FEP,PFA)とは、末端基をフッ素化(例えばCFをつける)したフッ素樹脂である。
【0014】
シールド導体6は、2層の横巻き(螺旋状に巻く形態)導体で形成され、内側の横巻き導体4と外側の横巻き導体5からなり、横巻き導体4と5は互いに交叉して接触し、巻き方向が異なるように巻き付けられる。なお、内側の横巻き導体4と外側の横巻き導体5の巻き方向は、互いの巻き方向が異なっていれば、右巻きあるいは左巻きであるかは任意である。
【0015】
図2は、シールド導体の巻き付け状態を説明する図である。シールド導体6は、内側の横巻き導体4を巻き付け角度θ1(以下、巻き角度という)、外側の横巻き導体5を巻き角度θ2で巻き付けている。なお、「巻き角度」とは、ケーブルの軸方向に直交する横断線との角度を言うものとする。細径同軸ケーブルの横巻きシールド導体は、コネクタ等への接続の端末加工時にバラけるのを防止するには、一般に、上記の巻き角度θ1,θ2は、70°〜85°の範囲が好ましいとされている。本発明においては、さらに好ましい形態として、横巻きの巻き角度θ1,θ2は、73°〜83°としている。
【0016】
横巻き導体の巻き角度θ1,θ2は、小さいほどケーブルを曲げたときに、各横巻き導体の巻間隔が広がるように動き、曲げにより力に耐えることができる。しかし、シールド導体6を2層巻とした場合、ケーブルを曲げた際に、外側の横巻き導体5にかかる力は、内側の横巻き導体4にかかる力よりは大きくなる。したがって、外側の横巻き導体の巻き角度θ2を、内側の横巻き導体4の巻き角度θ1より多少小さくするのが望ましい。すなわち、θ1≧θ2とすることにより、外側の横巻き導体5と内側の横巻き導体4との曲げに対する耐力を同じにし、機械的信頼性を確保することができる。
【0017】
また、ケーブルを捻回するときには、内側の横巻き導体4の巻き付けが緩む方向の場合は、外側の横巻き導体5の巻き付けは反対に締まる方向となる。しかし、上記のように、θ1≧θ2とすることにより、外側の横巻き導体5の導体長が長くなり、内側の横巻き導体4が緩んで外側に盛り上がることに対して、外側の横巻き導体5の締まり量が少なくなる。この結果、ケーブル捻回時における内側の横巻き導体4と外側の横巻き導体5との摩擦力が小さくなり、断線に対する耐力が向上して、機械的信頼性を高めることができる。
【0018】
横巻き導体4および5は、例えば、中心導体2と同様な錫メッキ軟銅線を用いることができる。上記の中心導体外径0.15mmのものに対しては、例えば、内側横巻き導体4および外側横巻き導体5のいずれも、素線径が0.05mmのもの数十本(例えば、60本位)を並列状にしてピッチ7mm(θ1=78°、θ2=75°)で巻き付けて形成することができる。この場合、シールド導体を形成する横巻き導体の素線径は、ケーブルのシールド部分の径(以下、シールド巻径という)に対して、内側横巻き導体4では(0.05/0.53)=0.094倍、外側横巻き導体5では(0.05/0.63)=0.079倍となっている。
【0019】
また、中心導体外径0.31mmのものに対しては、内側横巻き導体4に素線径が0.05mmのものを用い、外側横巻き導体5に素線径が0.064mmのものを用いて、ピッチ12mm(θ1=76°、θ2=73°)で巻き付けて形成される。この場合、シールド導体を形成する横巻き導体の素線径は、シールド巻径に対して、内側横巻き導体4では(0.05/1.0)=0.05倍、外側横巻き導体5では(0.064/1.128)=0.057倍となっている。
【0020】
なお、中心導体2を導体断面積0.03mm(AWG#42相当)では、所定の特性インピーダンス(50Ω)を得るためには、絶縁体3の外径が0.2mmとされる。この場合、内側横巻き導体4の素線径が0.03mm以下とするのが望ましい。この場合、シールド導体を形成する横巻き導体の素線径は、シールド巻径に対して、内側横巻き導体4では(0.03/0.26)=0.115倍、外側横巻き導体5では(0.03/0.32)=0.09倍となる。
【0021】
上記のように、細径化された同軸ケーブルとして、シールド導体を形成する横巻き導体の素線径は、シールド巻径の0.05〜0.12倍とする。なお、横巻き導体の素線径が、シールド巻径の0.05倍未満の細さでは、シールド特性の確保が難しくなり、シールド導体の抵抗値も高くなり、減衰特性の点で不利となる。また、横巻き導体の素線径が、シールド巻径の0.12倍を超える太さでは、繰り返しの曲げにより切断されやすくなり、機械的信頼性の点で不利となる。
【0022】
外被7は、押出機による押出し成形により形成することができ、外被材料には上記のFEP,PFAのほかPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)を用いることができる。なお、これらのフッ素樹脂は、薄肉加工性が良好であるため、これらを外被として用いることで同軸ケーブルを細径化しやすい。また、動摩擦係数が低いため耐屈曲性がよくなることから、捻回部分を有する電子機器の同軸ケーブルに適している。
【0023】
外被7の厚さは、上記の中心導体外径0.15mmのものに対しては、例えば、PFAを用い、厚さ0.09mm、外被外径0.81mmで形成することができる。なお、中心導体外径0.31mmのものに対しては、厚さ0.12mm、外被外径1.35mmとすることができる。
【0024】
図3は、上述した本発明品と、従来標準品(編組シールド)、比較例(横巻き1層シールド、同方向2層シールド)についての、特性を比較評価した図である。なお、いずれの評価品も中心導体は、外径0.102mmの錫メッキ軟銅線を7本撚って、外径0.31mm(0.057mm AWG#29相当)のものを用い、絶縁体3の外径は0.9mmでフッ素化されたPFA(編組標準品は、通常のフッ素樹脂)で形成し、シールド導体6には錫メッキ軟銅線を用い、外被7は通常のPFAで外径1.35mmとなるように押出し成形で形成した。
【0025】
シールド導体については、従来標準品(編組)は素線径0.05mmで1層、比較例(1層横巻き)は素線径0.1mmで1層、比較例(2層同方向横巻き)は内側素線径0.05mm、外側素線径0.064mm、本発明品(2層異方向横巻き)は内側素線径0.05mm、外側素線径0.064mmとした。
【0026】
評価の結果、特性インピーダンスは、いずれの評価品も50Ω±2を確保できた。シールド特性(漏れ電圧の少なさ)は、図4に示すように、比較例(1層横巻き)は、従来の標準品(編組)に比べて劣る。しかし、比較例(2層同方向横巻き)および本発明品(2層異方向横巻き)は、従来の標準品(編組)と同程度のシールド特性を確保することができた。コストについては、比較例(1層横巻き)が最も安価で、従来標準品(編組)が最も高価で、比較例(2層同方向横巻き)と本発明品は、その中間であった。
【0027】
信号の減衰量については、比較例(1層横巻き)は、従来標準品(編組)に比べて低減されて良好な結果を示すが、シールド特性を改善した比較例(2層同方向横巻き)においては、周波数が高く(6.0GHz)なると損失が大きくなった。しかし、本発明の場合は、従来標準品(編組)に比べて10%程度低減し、比較例(1層横巻き)と同程度に抑制することができた。この高周波信号の減衰は、シールド導体同士の接触抵抗と表皮効果が影響する。このため、本発明のように、2層の横巻きシールド導体の巻き角度θ1,θ2が73°〜83°で、巻き方向が逆方向であると、2層のシールド導体同士が小さい接触抵抗で接していて、かつ、表皮効果の影響が小さい状態にあると考えられる。
【0028】
すなわち、本発明の同軸ケーブルによれば、シールド特性を編組シールドした同軸ケーブルと同程度に保つことができると共に、信号の減衰量を低減することが可能となる。また、コストも編組シールド構造の同軸ケーブルよりは、安価なものとすることができ、横巻きによる柔軟性に優れ機器内の配線を容易とし、細径化を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による細径同軸ケーブルの概略を説明する図である。
【図2】本発明による細径同軸ケーブルのシールド導体の構成を説明する図である。
【図3】本発明による細径同軸ケーブルの評価結果を示す図である。
【図4】本発明による細径同軸ケーブルのシールド特性の説明する図である。
【符号の説明】
【0030】
1…細径同軸ケーブル、2…中心導体、3…絶縁体、4…内側横巻き導体、5…外側横巻き導体、6…シールド導体、7…外被。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体断面積が0.003mm〜0.09mmの中心導体、絶縁体、横巻きシールド導体および外被を同軸構造で配した細径同軸ケーブルであって、
前記横巻きシールド導体は、巻き角度が73°〜83°で、横巻き方向が互いに異なる2層で形成され、シールド導体を形成する横巻き導体の素線径は、ケーブルのシールド部分の径の0.05〜0.12倍であることを特徴とする細径同軸ケーブル。
【請求項2】
前記2層の横巻きシールド導体の内側横巻き導体の巻き角度をθ1、外側横巻き導体の巻き角度をθ2としたとき、θ1≧θ2であることを特徴とする請求項1に記載の細径同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−9835(P2010−9835A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165918(P2008−165918)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】