細胞を培養するための容器
本発明は、2つ以上の培養区画とプーリング区画とを備える細胞を培養するための装置であって、該2つ以上の培養区画の各々は他の培養区画から分離されており、該2つ以上の培養区画の各々は培地の添加または除去のためのポートを備え、該プーリング区画は該2つ以上の培養区画と連通する、装置を提供する。本発明は、細胞を培養するための装置のためのスタンドにも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、細胞の培養に適する細胞培養容器に関し、特に、種々の条件に暴露させるために培養物を繰り返しスプリットおよびプールする必要がある培養プロトコルに適する細胞培養容器に関する。培養され得る細胞の例として、動物細胞、植物細胞、(全有機体を含む)細胞の群、初代細胞、細胞株、多能性細胞、全能性細胞、および幹細胞が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
ここ数年、細胞培養は、生命科学における中核技術になってきている。細胞培養は、「基礎細胞培養」と題する非特許文献1および「動物細胞培養」と題する非特許文献2に記載されている。これらの文献のいずれも、引用することによりそれらの全体が本明細書の一部をなすものとする。細胞培養は、細胞の生存能力、表現型、遺伝子型、増殖、および分化のような細胞プロセス、および生物学的な分子、中間体、および産出物の生成を研究するための基礎をもたらすものである。また、細胞培養は、単離されているか、または、トランスジェニック動物の全体であるかにかかわらず、遺伝子レベルから個々のタンパク質分子のレベルにわたって、これらのプロセスの調節を研究するための手段を提供してきている。
【0003】
生物学の現状への多大な寄与にもかかわらず、細胞培養は、最終的には遺伝子治療および組織工学の可能性をもたらす極めて刺激的な科学とはいえ、多くの点において、開発中の学問分野にとどまっている。細胞培養の重要な目標は、in vitroで多種多様な細胞を成長させることを可能にすることである。培養によって成長することができる種々の細胞型のリストは、広範囲に及んでおり(米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection, http://www.atcc.org)、欧州細胞培養コレクション(European Collection of Cell Cultures, http://www.ecacc.org.uk)、およびドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, http://www.dsmz.de)を参照)、殆どの細胞型の代表的なものを含んでおり、培養条件がさらに一層発見されるにつれて、継続的に増加している。
【0004】
当分野における安定した進歩にもかかわらず、最近まで、新しい細胞型の適切な培養条件を決定する方法は、まったく経験的なものにすぎなかった。すなわち、成長条件は、殆ど常に試行錯誤によって発見されている。出発点の選択は、多くの場合、同様の細胞に対して既に他者によって用いられたもの、または異なる細胞に対して実験室において現在用いられているものに基づいている。多くの場合、これらは、ただ全く不十分なものであり、試行錯誤のプロセスが新たに始められねばならない。新しい培養条件が成功した場合でも、以前のプロトコルを適用しているなら、歴史的な偏見が実験に導入されていることを記憶にとどめることが大事である。例えば、初期の組織培養実験の多くは、線維芽細胞を広く用いており、今日に至るまで、殆どの標準的な細胞培養条件として、中胚葉(線維芽細胞、内皮、筋芽細胞)から派生した細胞を成長させることが有利とされている。これらの条件に基づく上皮細胞型および他の細胞型のための選択的成長培地を開発することが課題であった。これらの細胞型のいくつかについて、血清(中胚葉細胞用の多くの培地の通常の成分)が実際には成長を妨げることが、現在では知られている。
【0005】
本発明者らは、特定の細胞型の生存能力、増殖または成長、および表現型の保存を考慮に入れた適切な培養条件を開発する方法をすでに記載している。細胞培養に伴ういくつかの共通の問題は、初代細胞系列の寿命、継代による細胞系列の特性の変化、およびそれらの形質変換が制限されることであり、それに伴って、興味のある細胞特性が失われることである。これらの影響は、実験またはアッセイに用いられる培養された細胞の有用性を著しく制限することになる。
【0006】
細胞を培養するための改良された技術、および成長、分化、代謝活性、および表現型発現のような細胞プロセスを調節するための技術を探索し、かつ実施するための方法が、本発明者らによる特許文献1に提示されている。この文献に記載されている手順によれば、例えば、ビーズ上の1つまたは複数の細胞培養物からなる細胞の「単位」は、種々の細胞単位を種々の培養条件に暴露するために、細胞培養物を繰り返しスプリットおよび再プールする、コンビナトリアル・スプリット−プール手順において、種々の成長条件に供されるようになっている。
【0007】
多数の細胞単位を取り扱う場合、それらの同一性および/または細胞培養履歴(例えば、任意の一つの群または単位が暴露されていた一連の培養条件の変遷および正確な特性)は、混乱をきたしていることがある。特許文献1は、細胞単位の同一性および/または細胞培養履歴を決定するための改良された方法を記載している。
【0008】
特許文献2では、本発明者らは、スプリット−プール手順を用いて、細胞に作用する薬剤の活性を決定するための方法を記載している。
【0009】
特許文献3では、本発明者らは、特定の状態を達成する上で細胞がどの薬剤およびどの栄養素に暴露されていたかを良好に決定するために、スプリットープール細胞培養実験において細胞をタグ付けするためのさらに改良された方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許出願公開第2004/031369号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願公開第2007/063316号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願公開第2007/023297号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】”Basic Cell Culture”, Oxford University Press (2002), Ed. J. M. Davis
【非特許文献2】”Animal Cell Culture”, Oxford University Press (2000), Ed. John R. W. Masters
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、スプリット−プール細胞培養実験の実行は、手動によるもので、手間が掛かり、時間を浪費し、培養容器間での、任意選択的には、フィルター装置と培養容器との間での細胞単位の反復移送を必要としている。濾過し、プールし、スプリットするための個々の容器間での細胞培養物の移送およびその後に続く同じラウンドによって、培養物が感染源および他の汚染源に暴露される可能性がさらに大きくなる。従って、培養物を容器間で連続的に移送させることなく、スプリット−プール培養を容易に行うことができる細胞培養容器が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、2つ以上の培養区画とプーリング区画とを備える、細胞を培養するための装置であって、前記2つ以上の培養区画の各々は、他の培養区画から分離されており、前記2つ以上の培養区画の各々は、培地の追加または除去のためのポートを備え、プーリング区画は、前記2つ以上の培養区画と連通する、装置が提供されている。
【0014】
従って、本発明は、細胞単位の培養物を種々の培養条件に隔離して暴露させる多数の培養区画を備えている単一容器を提供する。この容器は、プールすることによって細胞培養物を混合し、プールされた培養物を個別の細胞単位の培養物に再びスプリットし、種々の培養条件に再び暴露させる手段をさらに備えている。
【0015】
個別の細胞単位の培養物を培養するための個別の区画の各々は、培地、栄養素、試薬、因子などの添加および/または除去のためのポートを備えている。培養区画、および任意選択的にプーリング区画におけるポートは、有利には、フィルターを備えている。フィルターは、好ましくは、該当する細胞単位を区画内に保持しながら、液体培地、および任意選択的に過剰のタグの除去を可能にするものである。好ましい実施形態では、細胞単位は、複数の細胞を含んでおり、フィルターは、細胞単位から離脱している典型的には死細胞を除去するようになっている。
【0016】
好ましくは、2つ以上の培養物は、個別の培養区画からプーリング区画内に移送されることによって、プールされる。プーリング区画も、任意選択的に、培地、栄養素、試薬、因子などの添加および/または除去のためのポートを備えている。
【0017】
有利には、容器をプーリング区画に向かって傾転させることによって、細胞培養物は、培養区画からプーリング区画内に流れ、該プーリング区画において混合され、容器を培養区画に向かって傾転させることによって、細胞培養物は、培養区画内に流れ、これによって、分離した細胞培養物を生じさせる。
【0018】
有利には、容器は、前述のポートに加えて、1つまたは複数のさらなる経路を備えており、該経路を通って、培地が培養物に添加され、または培地が培養物から除去される。例えば、容器の一部が、実質的に開いており、任意選択的に、移動可能または取外し可能なダストシールドまたは蓋によって覆われていてもよい。
【0019】
一実施形態では、細胞を培養するための装置であって、分離壁によって互いに隔離された複数の培養区画を備え、前記培養区画の少なくとも2つは、前記培養区画の一端においてプーリング区画に接合されており、これによって、装置がプーリング区画の方向に傾転されたとき、培地が平行の区画からプーリング区画内に流れて、前記2つ以上の区画からの培地がプールされ、かつ、装置が培養区画の方向に傾転されたとき、プーリング区画内の培地が分離壁によって分離された前記2つ以上の培養区画内に分割され、ここで、各培養区画は、培地の添加または除去のためのポートを備える、装置が提供される。
【0020】
さらに他の実施形態では、培養区画は、容器内において、実質的に互いに平行に配置されている。
【0021】
さらに他の実施形態では、プーリング区画は、細胞単位の容易かつ完全な混合を促進する特徴部、例えば、液体の乱流を生じさせる特徴部を備えている。
【0022】
さらに他の実施形態では、この装置は、ロボット装置による取扱いを可能にする特徴部、例えば、ロボットアームによって把持されるかまたはスタンドによって保持される特徴部を含んでいる。
【0023】
さらに他の実施形態では、この装置は、ロボットアームによって把持されたときまたはスタンドによって保持されたとき、正確な装置の配向を確実なものとするために、非対称な外部特徴部、例えば、フィンを含んでいる。
【0024】
一実施形態では、この装置は、表面上に直立して配置されることが可能になるように形作られている。他の実施形態では、この装置は、表面上に直立することを可能にするホルダーまたはラックを備えている。
【0025】
この装置は、任意の適切な材料から構成され得る。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、アラミドポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および金属またはガラス、またはこれらの組合せからなる群から選択される材料が用いられ得る。例示的な金属として、例えば、ステンレス鋼、チタン、およびアルミニウムが挙げられる。好ましくは、本発明の培養容器は、細胞培養物に対して非毒性であり、細胞、マイクロキャリアを基礎とした細胞単位、および細胞および細胞単位を標識化するために用いられるタグが、該容器の表面に付着しないようになっている。
【0026】
光学的透明性は、細胞培養容器にとって有利である。従って、透明材料が特に示唆される。
【0027】
第2の態様では、細胞の培養物を繰り返しスプリットおよびプールするための方法であって、(a)一種または複数種の細胞培養物を準備し、先行する態様または実施形態のいずれかによる装置の2つ以上の培養区画間に培養物を分配するステップと、(b)任意選択的に、同じでもよいし、または異なっていてもよい一種または複数種の培地試薬を、前記2つ以上の区画の1つまたは複数に添加し、および/または前記2つ以上の区画の1つまたは複数から除去し、および/または細胞を培養するステップと、(c)細胞培養物をプーリング区画にプールし、プールされた細胞培養物を生じさせるステップと、(d)プールされた培養物を培養区画内に分配することによって、前記プールされた細胞培養物をスプリットするステップと、(e)任意選択的に、ステップ(b)〜(d)の1つまたは複数を繰り返すステップと、を含む方法が提供される。
【0028】
有利には、この方法は、細胞を前記区画の1つまたは複数から隔離するステップをさらに含む。
【0029】
ステップ(c)およびステップ(d)は、培養物が装置内に最初に導入されるときに、該培養物を2つ以上の培養区画間に分配するために、ステップ(a)の一部として行われてもよい。しかし、好ましくは、ステップ(c)およびステップ(d)は、ステップ(a)の後に行われる。ステップ(c)は、細胞培養物を培養区画からプーリング区画内に移送し、プールされた細胞培養物を生じさせることによって、ステップ(a)において分配された細胞培養物をプールすることを含んでいてもよい。
【0030】
培地試薬は、任意選択的なステップ(b)において、例えば、洗浄ラウンドを行うために、添加され、次いで、除去されてもよい。細胞を培養するステップは、一種または複数種の培地試薬を添加および/または除去するステップとは独立して行われてもよい。
【0031】
任意選択的なステップ(e)は、ステップ(b)のみを繰り返すことからなっていてもよいし、ステップ(c)およびステップ(d)のみを繰り返すことからなっていてもよいし、またはステップ(b)〜(d)の各々を繰り返すことからなっていてもよい。ステップ(c)およびステップ(d)は、ステップ(b)の前に行われてもよいし、または後に行われてもよい。これらのステップは、一回繰り返されてもよいし、または数回繰り返されてもよい。
【0032】
細胞を培養するステップは、一種または複数種の培地試薬の添加および/または除去とは独立して行われてもよい。換言すれば、細胞を培養するステップは、培地試薬を添加および/または除去することなく、行なわれてもよい。逆に、培地試薬を添加および/または除去するステップは、細胞を培養することなく、行われてもよい。
【0033】
細胞を培養するステップは、以下のサブステップ、すなわち、(i)細胞を前記2つ以上の区画から1つまたは複数の別の入れ物に移送するサブステップと、(ii)細胞を前記1つまたは複数の入れ物内において培養するサブステップと、(iii)任意選択的に、細胞を本明細書中の本発明の態様または実施形態のいずれかによる装置に戻すサブステップを含んでいてもよい。
【0034】
代替的に、細胞を培養するステップは、細胞をこの装置の前記2つ以上の区画において培養することを含んでいてもよい。
【0035】
細胞を培養するステップは、細胞をインキュベートすることを含んでいてもよい。
さらに他の態様によれば、細胞培養物を繰り返しスプリットおよびプールする方法であって、(a)一種または複数種の細胞培養物を準備し、該培養物を先行する態様または実施形態のいずれかによる装置の2つ以上の培養区画間に分配するステップと、(b)任意選択的に、同じであってもよいし、または互いに異なっていてもよい一種または複数種の培地試薬を、前記2つ以上の区画の1つまたは複数に添加または前記2つ以上の区画の1つまたは複数から除去し、細胞を培養するステップと、(c)培養物を培養区画からプーリング区画に移送することによって、ステップ(a)における細胞培養物をプールし、プールされた細胞培養物を生じさせるステップと、(d)前記プールされた培養物を培養区画内に分配することによって、プールされた細胞培養物をスプリットするステップと、(e)任意選択的に、ステップ(b)〜(d)を繰り返すステップと、を含む方法が提供される。
【0036】
さらに他の態様では、本発明の第1の態様に記載されている少なくとも1つの容器と、一種または複数種のマイクロキャリアと、細胞および/またはマイクロキャリアを標識化するためのタグと、を備えるキットが提供される。任意選択的に、このキットは、細胞、およびデータ解析ソフトウエアも備えていてもよい。
【0037】
さらに他の態様によれば、本発明は、装置のためのスタンドであって、装置を第1の方向に支持するための支持手段を備える、スタンドに関する。支持手段は、装置を少なくとも第1および第2の方向に支持するのに適するようになっていてもよい。ここで、前記第1および第2の方向は、互いに角度的にずれている。装置は、好ましくは、本明細書に記載される形式のものである。本明細書中に記載されるスタンドは、独立して特許可能であると考えられる。
【0038】
スタンドは、装置を2つの方向に保持するように適合されていてもよい。第1の方向は、装置が実質的に垂直に(すなわち、ポートを上方に向けて)配置される直立位置とすることができる。この直立位置は、ビーズ懸濁液の添加および除去に適している。第2の方向は、垂直から45°の角度とすることができる。この傾斜位置は、ユーザが、洗浄ステップの後、付着したビーズをフィルターの内側から容易に逆洗浄することを可能にするのに適している。好ましくは、両方の位置において、ビーズは、個別の培養区画において分離されている。支持手段が装置を3つ以上の方向に支持するように適合されていてもよいことは、明らかだろう。
【0039】
スタンドは、好ましくは、装置を前記第1の方向に支持するための第1の対の協働するスロットまたは凹部と、装置を前記第2の方向に支持するための第2の対の協働するスロットまたは凹部とを備えている。スロットは、好ましくは、各々、装置に設けられた突起を受け入れるように適合されている。代替的に、スタンドは、装置を前記第1の方向に支持するために装置に形成された第1の対のスロットまたは凹部に配置可能な1対の突起を備えていてもよく、これらの突起は、装置を前記第2の方向に支持するために装置に形成された第2の対のスロットまたは凹部に配置可能になっている。
【0040】
代替的な構成では、支持手段は、装置を移動可能に支持するように適合されていてもよく、装置を前記第1の位置から少なくとも第2の位置に移動させることが可能になっている。例えば、支持手段は、装置を枢動可能に支持するために枢動可能に取り付けられたクレードルまたはホルダーを備えていてもよい。少なくとも好ましい実施形態では、装置は、前記第1および第2の方向間において円滑に回転可能になっている。従って、装置の方向を連続的に変化させることができる。使用時に、装置は、種々のプール方向、スプリット方向、および洗浄方向に配置可能である。装置を所望の方向に係止するために、係止装置が設けられてもよい。スタンドは、装置からの液体、例えば、洗浄ステップ中に排出された液体を捕捉する廃棄トレイを含んでいてもよい。使用時に、装置が前述の第1および第2の位置に加えて、スプリット−プール−スプリット手順の位置を取ることを可能にするために、可動ホルダーが回転されるようになっていてもよい。
【0041】
装置は、スタンドに(永久的または半永久的に)連結されていてもよい。しかし、少なくとも好ましい実施形態では、装置は、スタンドから取外し可能になっている。
【0042】
以下、添付の図面を参照して、単なる例示にすぎないが、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の装置の一実施形態の斜視図である。
【図2】図1の実施形態の他の図である。
【図3】本発明の容器の第2の実施形態の図である。種々の図が、パネルA−Fに示されている。
【図4】図3の実施形態のプーリング区画の操作を示す図である。
【図5】培地の排出を可能にする、図3の実施形態の培養区画のポートの操作を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図7】装置の全体を覆うカバーを備える容器を示す図である。
【図8】分割された区画を覆う密封蓋を備える容器を示す図である。
【図9】通路間の仕切りの1つまたは複数または各々が容器の湾曲領域内に延在している容器の実施形態を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態による装置の改良された形態の斜視図である。
【図11】内部構造を透過して示す、図10の装置の斜視図である。
【図12】図10の装置の平面図である。
【図13】図10の装置の側面図である。
【図14】図10の装置の端面図である。
【図15】図10の線H−Hに沿った装置の断面図である。
【図16A.16B.16C】図10の装置を形成するための個別の構成要素の斜視図である。
【図17】装置のためのスタンドの斜視図である。
【図18A.18B】図17のスタンドにおける第1および第2の異なる位置にある装置を示す図である。
【図19A.19B】装置を第1の位置に配置させるためのスタンドの使用を概略的に示す図である。
【図20A.20B】装置を第1および第2の異なる位置に配置させるためのスタンドの使用を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[定義]
<細胞条件>
本明細書において用いられる「培養条件」という用語は、細胞の成長または分化を促進するために、該細胞が置かれる、または、暴露される環境を指す。さらに詳細には、この用語は、培地、および培地内に含まれ、細胞の成長および/または分化に影響を与える特定の薬剤を指す。
【0045】
<細胞>
本明細書において「細胞」と呼ばれるものは、独立に機能することができる生物の最小の構造単位として、または全体が半透過性細胞膜または細胞壁によって囲まれた1つまたは複数の核、細胞質、および種々の細胞小器官からなる単細胞生物として、定義される。細胞は、原核性であってもよいし、真核性であってもよいし、または古細菌であってもよい。例えば、細胞は、真核細胞であり得る。哺乳類細胞、特に、ヒト細胞が好ましい。細胞は、天然のものであってもよいし、または所望の特性を達成するために、遺伝子操作または継代培養によって変性されたものであってもよい。幹細胞は、後でより詳細に定義するが、2つ以上の分化した細胞型を生じさせることができる全能性細胞、多能性細胞、または複能性細胞である。幹細胞は、in vitroで分化されてそれら自体が複能性となり得る分化細胞を生じることがあり、または高度に分化されることもある。In vitroで分化した細胞は、細胞分化を促進する一種または複数種の薬剤に幹細胞を暴露することによって人工的に作られた細胞である。場合によっては、「細胞」という用語は、「細胞単位」とも呼ばれる、マイクロキャリア上またはマイクロキャリア内で成長する細胞の群を含むこともある。
【0046】
<細胞単位>
細胞の群を指しているが、この群は、1つの細胞からなる群であってもよい。細胞単位のプールは、細胞単位自体を実質的に解離することなく、選別され、再分割され、かつ取り扱われることが可能である。従って、細胞単位は、細胞のコロニーとして挙動し、細胞単位内の各細胞は、同一の培養条件に暴露されることになる。いくつかの実施形態では、細胞単位は、細胞の群が付着しているマイクロキャリアまたはビーズを含むことがある。
【0047】
<全能性>
全能性細胞は、生物において見られる任意の型の体細胞または生殖細胞に分化する潜在能力を有する細胞である。従って、どのような所望の細胞も、全能性細胞から何らかの手段によって派生させることができる。
【0048】
<多能性>
多能性細胞は、全てではないが、2種以上の細胞型に分化し得る細胞である。多能性細胞の例として、胚盤胞から派生した幹細胞または人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。
【0049】
<タグ>
一態様では、本明細書において用いられる「タグ」という用語は、細胞単位を同定し、および/または細胞単位が暴露されていた培養条件または培養条件の順序を決定するのに用いられる任意のタグを指す。他の態様では、「タグ」という用語は、細胞単位を明確に標識化し、これによって、細胞単位の同定、および/または細胞単位が暴露されていた培養条件および/または培養条件の順序の決定を容易にする手段として、細胞単位に加えられる任意のタグを指している。好適には、タグは、以下にさらに詳細に説明するように、多数の互いに関連しているが互いに異なる種々の形態で存在し、容易に区別できるようになっている。タグは、典型的には、マイクロキャリアとの複合体の一部を形成している。いくつかの実施形態では、タグは、球またはビーズ、例えば、微小球または微小ビーズである。いくつかの実施形態では、タグは、桿状粒子、例えば、ナノワイヤである。本明細書において「タグ」と呼ばれる用語は、「ラベル」という用語と同義語である。以下、培養条件への細胞の暴露について説明する。細胞は、細胞が培地と接触して置かれるか、または細胞の成長状態、分化状態、または代謝状態のような1つまたは複数の細胞プロセスに影響を与える条件下で成長する場合、培養条件に暴露されていることになる。従って、もし培養条件が培地内において細胞を培養することを含むのなら、細胞は、効果を発揮するのに十分な期間にわたって、培地内に置かれることになる。同様に、もし該条件が温度条件であるなら、細胞は、所望の温度において培養されることになる。
【0050】
<プーリング>
細胞単位の1つまたは複数の群のプーリングは、これらの群を混合し、単一の群または単一のプールを生じさせることを指している。好ましい実施形態では、この群またはプールは、2回以上の培養履歴を経ている細胞単位を含んでいる。例えば、この群またはプールは、2つ以上の異なる組の培養条件に暴露されていた細胞単位を含んでいる。プールは、無作為的または作為的に、多数の群にさらに再分割されてもよく、このような群は、本発明の目的に照らせば、それら自体「プール」ではないが、例えば、異なる組の培養条件に暴露した後に組み合わせることによって、それら自体がプールされることになる。
【0051】
<スプリッティング>
細胞の培養物、例えば、本明細書中に定義されたプールは、2つ以上の個体群に再分割されることによって、スプリットされ得る。再分割は、好ましくは、無作為的である。従って、細胞単位は、可能な限り、互いに異なる個体群に均一に分割されることになる。細胞単位自体は、損なわれることなく、そのまま保たれている。細胞の培養物は、出発培養物における細胞単位の数のみに制限される、どのような数の互いに異なる個体群にスプリットされてもよい。
【0052】
<増殖>
細胞成長および細胞増殖は、本明細書においては、互換的に用いられ、異なる細胞型または細胞系列に分化することのない細胞数の増加を意味している。換言すると、これらの用語は、生きた細胞数の増加を表している。いくつかの実施形態では、増殖は、表現型または遺伝子型の目立つほどの変化を伴わない。
【0053】
[発明の実施形態]
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の実施例を示す図面を参照されたい。添付の請求項の範囲内に含まれる、他の実施形態は、以下に述べる具体的な詳細から逸脱していてもよい。
【0054】
本発明の培養容器は、培地および細胞を含む細胞培養物が、容器から取り出されることなく、繰返しスプリットおよびプールされることを可能にし、または、スプリットおよびプールされた後、一連のスプリット−プールラウンド間においてインキュベーションのために容器から取り出されることを可能にする。この培養容器は、細胞を取り出すことなく、培地および試薬の取出しおよび添加をさらに可能にする。該装置は、マイクロキャリア上で成長する細胞を含む、細胞または細胞単位を培養するのに用いられてもよい。培養容器は、平坦トレイ、湾曲トレイ、および円筒を含む多数の基本的形状で構成されていてもよい。好ましくは、該容器は、使い捨て用に設計されており、無菌パッケージング内に入れて供給される。
【0055】
本発明の容器は、少なくとも2つの培養区画および少なくとも1つのプーリング区画を備えている。培地、細胞単位、および/または細胞を含む細胞培養物は、培養物を移送させるピペットのような外部器具を用いることなく、培養区画とプーリング区画との間で容易に移送可能である。好ましくは、培養物は、容器を回転または傾転させ、培養物を1つの領域から他の領域に流すことによって、移送される。
【0056】
各容器内に存在する培養区画の数は、各スプリット−プール手順における「スプリット」の数を決定する。好ましくは、2〜10個の培養区画、有利には、3、4、5、6、7、8、9または10個の区画であるとよい。より多くの区画、例えば、15、20、50、75、または100個の培養区画を有するより大きい容器が構成されてもよい。理論的には、培養区画の数に制限はないが、実際的には、極めて大きい容器の取扱いは容易ではなく、また、もしプーリング区画が極めて大きい場合、細胞の効果的な混合を得ることが困難になる。
【0057】
図1に示されている第1の実施形態を検討すると、培養容器10は、単純なトレイ設計の形態にある。この容器は、壁22によって分離された互いに平行の培養区画21を備えている。プーリング区画30が、通路状の培養区画の一端に配置されている。仕切り25がプーリング区画を培養区画から分離している。使用時に、培養区画21に存在している細胞培養物は、容器を傾転させて、細胞培養物が仕切り25を通り越すことを可能にすることによって、プーリング区画30に移送されるようになっている。仕切り25は、任意選択的なものである。何故なら、細胞培養物は、容器の傾斜を調整することによって、培養区画にとどまることができ、またはプーリング区画にとどまることができるからである。図2に示されているように、培養物が異物および培養区画間の漏出によって汚染するのを防ぐために、蓋50が設けられていてもよい。蓋50と壁22との間の密封によって、容器をより急勾配に傾転させることができ、これによって、細胞培養物の漏出を生じることなく、培養区画とプーリング区画との間の細胞培養物の移送を改良することができる。また、蓋と壁との間の密封によって、もし仕切り25が存在していない場合でも、傾転させたときに培養物を培養区画に保持する傾斜角度をより大きくすることができる。また、蓋と壁との間の密封によって、各培養区画の端に配置されたフィルターを用いる場合、装置を完全に傾転させることによって、培地を排出させることもできる。
【0058】
プーリング区画30は、細胞培養物が培養区画から移送されたとき、該細胞培養物を良好に収容するために、高くなった壁を備えているとよい。プーリング区画を密封するカバーが設けられていてもよい。
【0059】
図3は、湾曲トレイの形態にある第2の実施形態を示している。培養区画21は、壁22によって分離された通路の形態にあり、カバー51によって覆われている。容器の底および壁22は、容器の一端において、上方に向かって弧状に延在している。ここで、培養区画は、容器の湾曲した底にあり、プーリング区画30は、培養区画の上方の反転位置にある。容器を傾転させると、細胞培養物は、容器の端の湾曲領域における通路状の培養区画内において、互いに分離された状態でとどまっている。容器を該容器が反転するまでさらに傾転させると、細胞培養物は、プーリング区画30に移送されることになる。開口15によって、区画21、30へのアクセスが可能になっている。一実施形態では、図9に示されているように、通路間の仕切りは、培養物を湾曲領域において分離して保持するために、容器端の湾曲領域内にまで延在している。従って、例えば、ロボットによって、ピペットを開口15の直上から各区画に垂直方向に入れることが可能である。
【0060】
図4は、容器の反転の過程およびプーリング区画内における細胞培養物の混合を示している。ステップAでは、容器がその弧面を中心として傾転され、ステップBによって、細胞培養物は、培養区画から容器底の湾曲によって形成された空間内に流れ、もはや壁22によって分離されていない。ステップC、Dは、容器のさらなる傾転を示している。ここで、細胞培養物は、プーリング区画30内にとどまり、混合される。容器は、揺動されてもよく、これによって、ステップE、Fに示されているように、単一の混合された細胞培養物がもたらされる。
【0061】
図5は、フィルター被覆ポート40、および培地を培養区画21から排出するための培養容器の反転(図5b)を示している。ポート40は、フィルターを備えている。フィルターは、細胞またはマイクロキャリアを培養区画内にとどめながら、培地を培養容器から除去するものである。フィルターは、有利には、20ミクロン未満のタグを通過させ、100ミクロンを超えるマイクロキャリアをとどめるものである。フィルターは、好ましくは、例えば、どのようなタグ、細胞、またはマイクロキャリアも付着しないように、非付着性になっている。例えば、70ミクロンのナイロンメッシュが用いられてもよい。
【0062】
第3の実施形態が、図6に示されている。この実施形態では、容器は、培養区画21を形成するために半径方向壁22によって細分された円筒瓶10である。半径方向壁22は、円筒10の全周にわたって延存しておらず、これによって、円筒10の長さに沿って延在するプーリング区画30を形成している。図6bに示されるように、長軸を中心とする円筒の回転によって、培養区画21内の細胞培養物は、プーリング区画30内に流れることが可能である。プーリング区画では、細胞培養物は、もはや壁22によって互いに分離されていないので、混合されることになる。ポート40が、直径方向においてプーリング区画と実質的に反対側に配置されている。円筒をポート40の方向に回転させることによって(図6c)、培地を培養区画から排出させることができる。細胞培養物は、壁22によって互いに分離された状態でとどまっている。壁22は、密封板29と向き合っている。密封板29は、図6aに示されるように、実質的に垂直に配置されている。この板は、培地がポート40を通って排出されるとき、培養物の相互汚染を防ぐのに役立つ。円筒10は、その長さに沿って延在しているスロット27を備えている。スロット27によって、培養区画へのアクセスが可能になる。任意選択的なリップ28は、培養物がプーリング区画に移送されるときの漏出を防ぐのに役立つ。
【0063】
培養容器のさらに他の実施形態が、図7、8に示されている。図7に示されるように、容器は、汚染を防ぐために、装置の全体を覆うカバー61を備えている。図8では、容器は、区画間の汚染を防ぐために、分割された区画を覆う密封された蓋70を備えている。
【0064】
改良された培養容器100が、図10−16に示される。改良された培養容器100は、第2の実施形態に密接に基づいており、明瞭にするために、同様の参照番号が、100を足したものとして、同様の構成要素に用いられる。培養容器100の使用は、第2の実施形態に対して説明したものと同じである。
【0065】
培養容器100は、U形状に配置された第1および第2のアームを備えている。フィルター被覆ポート140のアレイが容器100の第1のアームに形成されており、プーリング区画130が第2のアームに形成されている。第1および第2のアームは、内部壁122によって互いに分離された複数の培養区画121を画定している中間部分によって、互いに接合されている。ポート140は、各々、培地の排出を可能にするために、それらの開端を覆うフィルターを有している。培養容器100の斜視図が、図10に示されており、内部構造が、図11の部分透過図に示されている。図11に示されているように、混合を促進するために、混合フィン132がプーリング区画130内に設けられている。
【0066】
培養容器100は、第1および第2の端壁160を有している。個々の培養容器の最大容積を示すために、容積レベルが両方の端壁にマークされている。培養容器100を、(図17−20を参照して以下に説明する)スタンド200に支持させるために、少なくとも1つの取付け部材162が、各端壁160に形成されている。この実施形態では、取付け部材162は、非対称であり、これによって、培養容器100は、(例えば、ポート140をスタンド200の正面または背面に向けて配置させる)所定の方向でのみ、スタンド200に配置可能になっている。具体的には、培養容器100の所望の非対称構成(または左/右利き構成)をもたらすために、2つの実質的に平行の取付け部材162が第1の端壁160に形成されており、1つの取付け部材162が第2の端壁160に設けられている。所望の非対称配置をもたらすために、取付け部材162の代替的構成が用いられてもよいことは、明らかであろう。
【0067】
しかし、培養容器100が非対称であることは、必要不可欠ではなく、対称構成が取付け部材162に用いられてもよい。
【0068】
図12の平面図および図13の側面図に示されているように、培養区画121は、細胞培養の良好な除去を可能にする凸状の外部輪郭を有している。培養容器の端面図が、図14に示されている。前述したように、一連の細長の混合フィン132が、プーリング区画130の長さに沿って設けられている。混合フィン132は、図15の断面図に最も明瞭に示されている。
【0069】
培養容器100は、(図16A、16Bに示されている)第1の構成部品164、および(図16Cに示されている)第2の構成部品166から作製されている。第1の構成部品164は、ポート140およびプーリング区画130を画定している。第2の構成部品166は、区画121および該区画を互いに分離する複数の中間壁122を画定している。第1および第2の構成部品164、166は、別々に射出成形され、次いで、互いに接合される。組み立てられると、第2の構成部品166内に形成された区画121は、培養容器100の第1および第2のアーム間の経路を画定することになる。
【0070】
本出願は、培養容器100用のスタンド200にも関する。図17に示されるように、スタンド200は、基部202、および第1および第2のフレーム部材204、206を備える。スタンド200は、例えば、70%エタノール溶液によって滅菌可能な材料から作製されている。スタンド200は、ステンレス鋼から作製されてもよいし、またはポリカーボネート、ポリスチレンまたはテフロンのようなプラスチック材料から作製されてもよいことが想定されている。フレーム部材204、206は、各々、取付け部材162が配置されることになる第1および第2の整合するスロット208a、208bを有する。各フレーム部材204、206のスロット208a、208bは、互いに角度的にずれている。この実施形態では、第1のスロット208aは、動作可能なように垂直方向に配置されており、第2のスロット208bは、動作可能なように垂直方向から45°の角度に傾斜されている。スロット208a、208bが種々の角度で配置されてもよいことも想定されている。さらに、フレーム部材204、206は、各々、単一のスロット208のみを有していてもよいし、または3つ以上のスロット208を有していてもよい。
【0071】
本発明の培養容器100は、図18Aでは、傾斜位置でスタンド200に配置されて示されている。培養容器100は、図18Bでは、垂直位置でスタンド200に配置さて示されている。培養容器100を垂直位置でスタンド200に位置決めする状態が、図19A、19Bに概略的に示されている。スタンド200は、図19Aに示されるように、培養容器に設けられた非対称フィン162と協働する非対称のスロット208a、208bを備えていてもよい。
【0072】
垂直位置および傾斜位置のそれぞれに配置された培養容器100によってユーザUに対してもたらされる種々の有利な点が、それぞれ、図20A、20Bに示されている。また、これらの種々の位置によって、例えば、ピペットPの培養容器100の内部へのアクセス、およびポートおよびフィルター140へのアクセスを変更することができる。
【0073】
本発明の培養容器は、2つのモード、すなわち、i)培養容器内においてスプリット−プール−培養ラウンドを実施するモード、およびii)培養容器においてプール−スプリットラウンドを実施した後、個別の入れ物でのインキュベーションのために細胞培養物を取り出すモードで操作することができることは、明らかであろう。第2の操作モードでは、細胞培養物を個々の区画から個別に取り出すことができ、またはプーリング区画から一括で取り出すこともできる。培養容器100は、スプリットされたビーズ懸濁液が別の入れ物でのインキュベーションのために取り出される第2のモードによる使用に特に適している。
【0074】
<スプリット−プール細胞培養>
本発明の培養容器は、細胞を多数の組織培養条件に暴露するのに有用である。好ましくは、細胞は、細胞単位にグループ化されている。各細胞単位は、種々の細胞培養条件に暴露され得る、取扱いが容易な単位を構成している。本発明によれば、細胞のグループ化は、典型的には、細胞をマイクロキャリア培養で成長させることによってもたらされ、細胞単位、細胞群、コロニー、およびビーズというそれぞれの用語は、互換的に用いられる。極めて多くの細胞培養条件をサンプリングするための特に効率的な方法は、コンビナトリアル細胞培養またはスプリット−プール細胞培養と呼ばれている。該方法は、一実施形態では、細胞培養条件の多数の組合せをサンプリングするために、細胞単位の群を連続的に再分割し、および組み合わせることを含む。
【0075】
本発明の一態様では、この方法は、細胞単位の最初の出発培養物(または別の出発培養物)を得て、該出発培養物を培養容器の培養区画に分離することによって、該出発培養物を多数のアリコートに分割することを含む。各区画は、多数の単位(ビーズ/群/コロニー/キャリア)を含んでいる。各区画における単位は、種々の培養条件に供される。所定時間にわたる細胞培養の後、細胞単位は、該細胞単位をプーリング区画に移送することによって、プールされる。このプールは、再び、培養区画にスプリットされ、細胞単位は、各々、所定時間にわたって、互いに異なる条件に供され、次いで、再びプールされる。細胞単位をスプリットし、培養し、プールする(または、細胞単位がサイクルに入る箇所によっては、細胞単位をプールし、スプリットし、培養する)この反復手順によって、細胞培養条件の多くの異なる組合せを体系的にサンプリングすることができる。実験の複雑性、換言すれば、試験される細胞培養条件の異なる組合せの数は、各ラウンドでサンプリングされる異なる条件の数の積に等しい。後続のスプリットの前に細胞培養の全てをプールするステップは任意選択的であり、限られた数の細胞単位をプールするステップであっても、同じ効果をもたらすことに留意されたい。このように、本発明は、細胞単位の群がバルクで取り扱われる細胞培養条件の多くの組合せを体系的にサンプリングする多くの関連する手法を容易にする。
【0076】
多様な細胞培養条件をこのようにサンプリングする正確な方法にもかかわらず、この方法の手順は、効率的である。何故なら、多数の細胞単位が単一の容器を共有しており、該容器において、(例えば、互いに異なる条件下で)培養され、または移送されるようになっているからである。スプリットされ得る試料の数は、容器に含まれている培養区画の数によって決定される。
【0077】
多くの点において、この手順の原理は、(コンビナトリアルケミストリーとして知られている)大きな化合物ライブラリーのスプリット合成の手順に類似している。化合物ライブラリーのスプリット合成は、化学合成ブロック基間の結合の全ての可能な組合せをサンプリングするものである(例えば、Combinatorial Chemistry;Oxford University Press (2000), Hicham Fenniri (Editor) を参照されたい)。スプリット−プール培養は、任意の数のラウンドにわたって繰り返すことができる。2つ以上の容器が同時に用いられてもよい。これは、任意の数の条件が各ラウンドにおいてサンプリングされ得ることを意味している。
【0078】
この手順を用いて、任意の細胞型のための成長条件または分化条件、または任意の細胞型による生体分子産出(例えば、エリスロポエチンまたはインターフェロンの産出)の効率をサンプリングすることができる。この手順は、反復的であるため、多段階の組織培養プロトコル−例えば、幹細胞分化と関連して前述したプロトコルを試験するのに理想的に適している。この技術を用いてサンプリングされ得る変数として、細胞型、細胞のグループ化(例えば、マイクロキャリア培養、細胞カプセル封入、全有機体)、成長基質(例えば、マイクロキャリア上のフィブロネクチン)、(種々の濃度の成分を含む)種々の培地、成長因子、馴化培地、種々の細胞型との共培養(例えば、支持細胞)、動物または植物の抽出物、薬剤、他の合成化学薬品、ウイルス(例えば、遺伝子組換えウイルス)感染、導入遺伝子の付加、アンチセンス分子またはアンチジーン分子(例えば、RNAi、トリプルへリックス)の付加、感覚入力(有機体の場合)、電気、光、温度、酸素分圧、二酸化炭素、分圧および/またはレドックス刺激、などが挙げられる。
【0079】
図3に示されるような容器を用いて行われるスプリット−プール手順の例では、ステップ1において、ピペット操作によって、細胞を担持しているマイクロキャリアを1つまたは複数の培養皿から、開口15を介して、個々の通路21またはプーリング区画30のいずれかに移送させる。もしマイクロキャリアをプーリング区画30に添加する場合、培養物を培養区画21に移送させるために、容器を反転させる。
【0080】
ステップ2では、容器を図5bに示されている位置に置き、成長培地およびタグを除去する。
【0081】
ステップ3では、ポート40のフィルターに付着しているマイクロキャリアを5mlの洗浄バッファーを用いる逆洗によって除去する。
【0082】
ステップ4では、培養区画を13mlの洗浄バッファーによって充填し、内容物と混合させる。
【0083】
ステップ5では、ステップ2と同じように操作し、洗浄バッファーを排出させる。ステップ3−5を3回繰り返し、過剰のタグおよび従前の培地成分を除去してもよい。ステップ6では、プール培地を添加し、容器を図4に示されているように傾転させることによって、マイクロキャリアをプールする。
【0084】
ステップ7では、図4に示されている手順を逆に行うことによって、マイクロキャリアを培養区画間にスプリットする。
【0085】
ステップ8では、容器を図5bに示されている位置に置くことによって、プール培地を除去する。
【0086】
ステップ9では、細胞を暴露することを意図している培地を用いて、フィルターに付着しているマイクロキャリアを除去する。
【0087】
ステップ10では、培養区画を所望の培地によって充填する。このとき、必要に応じて、さらなる試薬が添加されてもよい。
【0088】
ステップ11では、細胞が、培養区画においてin situに培養されてもよいし、またはインキュベーションするために、培養区画から新たな培養皿に移されてもよい。
【0089】
ここで、各培養区画内における条件を変更するために、選択されたタグおよび選択された細胞培養試薬が添加されてもよく、次いで、細胞が培養される。
【0090】
細胞培養物をバルク移送させる手段、例えば、手動ピペットまたは自動ピペットを用いて、細胞培養物を培養区画から他の容器(この容器は、本発明の容器であってもよいし、または培養皿のような通常の容器であってもよい)に移送することによって、さらに複雑なスプリット−プール組合せをもたらすことができる。例えば、細胞培養物は、本発明の容器のプーリング区画に移送され、繰返しスプリットおよびプールされ、細胞単位を多くの培養条件に暴露する。最終的なスプリットの後、個々の培養区画からの単位が、他の容器に移送され、任意選択的に、別の実験から得られた細胞単位と組み合わされてもよい。次いで、これらの単位がさらにスプリットされ、種々の培養条件に供されてもよい。
【0091】
必要に応じて、種々の容積の細胞培養物を受け入れる種々の大きさの培養容器が用いられてもよい。例えば、単一の培養区画の内容物がスプリットされるようになっているとき、より小さい容器が用いられてもよい。逆に、2つ以上の容器の内容物の全てがプールされるようになっている場合、より大きい容器が用いられてもよい。
【0092】
<マイクロキャリア>
本発明によるキットは、マイクロキャリアを備えていてもよい。種々の材料から作製された様々な形状および大きさのマイクロキャリアが市販されている。マイクロキャリアは、多孔性、マクロ多孔性、ミクロ多孔性、または固体であってもよい。例を挙げると、マイクロキャリアは、Cultispherマイクロキャリア、Cultisphere-Gマイクロキャリア、Cultisphere-GLマイクロキャリア、Cultisphere-Sマイクロキャリア、Informatrixマイクロキャリア、Microsphereマイクロキャリア、Siranマイクロキャリア、FibraCel(登録商標)Disksマイクロキャリア、Cytolineマイクロキャリア(例えば、Cytoline1マイクロキャリアまたはCytoline2マイクロキャリア)、Cytodexマイクロキャリア(例えば、Cytodex1マイクロキャリア、Cytodex2マイクロキャリア、またはCytodex3マイクロキャリア)、Cytopore マイクロキャリア(例えば、Cytopore1マイクロキャリアまたはCytopore2マイクロキャリア)、Biosilonマイクロキャリア、Bioglassマイクロキャリア、FACT IIIマイクロキャリア、Collagen Cマイクロキャリア、Hillex IIマイクロキャリア、ProNectin Fマイクロキャリア、Plasticeマイクロキャリア、Plastic Plusマイクロキャリア、Nunc2D MicroHexTMマイクロキャリア、Glassマイクロキャリア(Sigma Aldrich)、DE52/53マイクロキャリア、またはこれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0093】
マイクロキャリア培養は、培養物のスケールアップを含む著しい利点を有しており、所望の成長および/または分化条件を得るために、必要に応じて、細胞単位を選択された培養条件に暴露させることができる。マイクロキャリアの表面は、所望の電荷または他の所望の特性を有する分子実体の吸着または共有架橋のような物理的または化学的処理によって、さらに改質されていてもよい。マイクロキャリアは、帯電された(例えば、負に帯電された)タグと複合体を形成するようになっていてもよい。換言すれば、帯電された(例えば、負に帯電された)微小球に結合された、または、該微小球によって標識化されたマイクロキャリアが得られる。マイクロキャリアは、桿状タグと複合体を形成し、これによって、桿状タグに結合された、または、該桿状タグによって標識化されたマイクロキャリアを形成するようになっていてもよい。
【0094】
<タグ>
本発明のキットは、タグを備えていてもよい。タグは、マイクロキャリア、例えば、細胞に関係したマイクロキャリアに結合されたラベルまたはタグとして、用いられ得る。後続の検出および同定によって、細胞単位が暴露されていた細胞培養条件の履歴および同一性の明確な記録がもたらされる。種々の分子タグまたは高分子タグが、それらが検出可能である限り、マイクロキャリアと組み合わせて用いられ得る。タグは、典型的には、特異な形状を備えているか、またはマーキングおよび/または着色化合物または蛍光化合物によって修飾されたものからなる。一実施形態では、細胞単位を標識化するのに用いられるタグは、以下の属性の1つまたは複数(好ましくは、全て)を有している。
【0095】
i.タグは、それらが標識化するマイクロキャリアよりも小さく、および/または多孔性マイクロキャリアの平均孔径よりも小さい。
ii.タグは、実験の全体を通して結合が維持されるように、マイクロキャリアと複合体を形成することができ、結合されていないタグは、標識化された細胞単位に悪影響を与えることなく、該複合体から分離可能である。
iii.タグは、それらが複合体を形成している細胞単位から、タグの固有の性質を損なわない条件下で分離可能である。
iv.タグは、細胞単位の生態に実質的に影響を与えず、かつ細胞単位またはそれらの生態によって影響されない一種以上の不活性基材から作製されている。
v.タグは、大量に、さらに適切な技術を用いて容易に識別できる多くの互いに関連しているが互い異なる形態として、入手可能である。
vi.タグは、使い勝手がよく、信頼性が高く、かつ自動化可能である方法によって、識別可能である。
【0096】
一実施形態では、タグは、微小球、例えば、蛍光微小球および/または着色微小球である。乳化重合または懸濁重合、析出などによって作製されたポリスチレン、他のポリマー、コポリマー、ターポリマー、および/またはシリカなどからなる2000種を超える種々の微小球が、様々な大きさ、密度、または色などごとに市販されている。一般的な微細球は、ポリスチレン(PS)微細球およびスチレン/ジビニルベンゼンコポリマー(S/DVB)微細球である。他のポリマーの例として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルトルエン(PVT)、スチレン/ブタジエン(S/B)コポリマー、スチレン/ビニルトルエン(S/VT)コポリマーが挙げられる。これらの微小球の多くは、例えば、CML微小球におけるようなカルボキシル基によって官能化されていてもよいし、またはアミノ基によって、すなわち、一級、二級、三級、および四級脂肪族アミン、芳香族アミンのような窒素含有化合物によって官能化されていてもよいし、COOHビーズへの代替的カップリング反応をもたらすピリジンまたはスルホキシドによって官能化されていてもよい。
【0097】
好適には、微小球は、親水性微小球である。さらに好適には、微小球は、ポリスチレン微小球である。最も好適には、微小球は、カルボキシレート修飾(CML)微小球のような表面修飾微小球である。
【0098】
一実施形態では、1つまたは複数のCML微小球は、正の電荷を有する1つまたは複数のマイクロキャリアと複合体を形成する。CML微小球は、共重合化プロセスによって生じた高度に帯電したカルボキシル基の表面層を有している。この表面は、いくらか多孔性であり、比較的親水性であるが、全体的には疎水性を保持している。これらの粒子の電荷密度は、カルボキシル基あたり約10−125Å2の範囲内にあり、(一価塩の1Mに至る)高濃度の電解質に対して安定である。CMLラテックスは、タンパク質および他の生体分子を吸着するが、疎水性微小球ほど強く吸着しない。
【0099】
いくつかの実施形態では、微小球とタンパク質、例えば、ストレプトアビジンとの結合体が調製される。例えば、CML微小球との結合体は、以下のように調製され得る。CML微小球は、水溶性カルボジイミド試薬を用いて、活性化され得る。この試薬は、カルボキシル基を、結合されることになるタンパク質の一級アミンと反応させるものである。まず、pH6.0の50mM反応バッファーが調製される。酢酸ナトリウムまたは2−[N−モルフォリノ]エタンスルホン酸(MES)が、好適なバッファーである。タンパク質が、10mg/mLの濃度のこの反応バッファー中に溶解される。微小球の1%(w/v)懸濁液も、この反応バッファーに調合される。10容積の微小球懸濁液に対して1容量のタンパク溶液が調製され、混合物は、室温で20分間インキュベートされる。脱イオン水に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)が溶解された10mg/mL(52μMol/mL)の溶液が調製され、即時に用いられる。微小球懸濁液に対して計算された量のEDAC溶液が追加され、反応混合物のpHが、0.1NのNaOHによって6.5±0.2に調整される。混合物は、室温で2時間、揺動ホイールまたは混合ホイールによってインキュベートされる。未結合のタンパク質が除去され、次いで、貯蔵バッファー内に貯蔵される。
【0100】
有利には、CML微小球および他の微小球は、種々のフォーマットで得られる。これらのフォーマットとして、種々の色(例えば、青、赤、緑、黄、黒)、種々の蛍光体(例えば、Pacific Blue(青)、Alexa Fluor(登録商標)(青)、Fluorescein(緑)、Fluorescein(赤)、FirefliTM(赤)、Fluorescein(緑)、Fluorescein(赤)、または、FluoresceinおよびRhodamine(赤緑))、および種々の大きさ(例えば、5.4μm(1.14×1010ビーズ/グラム)および7.6μm(4.10×109ビーズ/グラム)などが挙げられる。CML微小球および他の微小球は、1つまたは複数の可視染料および/または蛍光体が付加されるように調製されてもよい。
【0101】
一実施形態では、微小球のようなタグは、タンパク質によって被覆されないようになっている。
【0102】
有利には、タンパク質(例えば、ストレプトアビジン)によって被覆されていないCML微小球は、高度に負に帯電されているので、正の電荷を有するマイクロキャリアに極めて緊密に付着する。製造プロセスの種々のパラメータを変化させることによって、Bangs Laboratoriesなどの商業的な微小球提供業者は、種々の大きさに基づいて互いに区別可能なビーズセット(例えば、4.4μmおよび5.5μm直径のビーズセット)を製造し得る。各寸法グループ内のビーズは、単一の蛍光染料の特異的な付加による種々の蛍光強度に基づいて、互いにさらに区別可能である。本明細書に記載されている微小球に付着させることができる種々の吸収特性または発光特性を有する多くの異なる染料を用いることができる。従って、タグの多様性は、種々のタグの大きさおよび/または蛍光体付加(すなわち、蛍光強度)および/または蛍光体の同一性/組合せから得られる。特に、タグの多様性は、タグが担持する蛍光体の型(例えば、ビーズにUV2またはStarfire Redが付加されてもよい)、大きさ(例えば、各蛍光体につき、5つの異なるビーズサイズ、1.87、4.41、5.78、5.37、および9.77ミクロン)および/またはタグが担持する蛍光体の量(各染料につき5つの異なる強度が利用可能である)から得られる。TRITCのような他の蛍光体が用いられてもよい。フィルターを用いて、任意の所定のビーズの少なくとも4つの異なる染料を検出することができる。例えば、TRITCを可視化するには、NikonのTRITCフィルター(ex 540/25;dm 565;ba 605/55)を用いることができる。UV2を可視化するには、NikonのDAPIフィルター(ex 340−380;dm 400;ba 435−485)を用いることができる。FITCを可視化するには、NikonのGFP-Bフィルター(ex 460−500;dm 505;ba 510−560)を用いることができる。Starfire Redを可視化するには、Cy5フィルターセット(Chroma Technology社のカタログ番号41008)を用いることができる。
【0103】
微小球は、可視染料または蛍光染料によって、内部的に染色されてもよいし、または外部的に染色されてもよい。典型的には微小球を染料または蛍光体を含む溶液に浸すことによって、染料を微小球塊内に含ませると、内部染色が生じる。染料を微小球の表面に結合させると、外部修飾、例えば、前述したようなイソチオシアン酸誘導体によるCML微小球の修飾が生じる。従って、いくつかの実施形態では、可視染料または蛍光染料によって、微小球を内部的または外部的に染色することができる。好都合に読み取ることができる極めて多数の種々の蛍光標識を得るために、「量子ドット」を用いることがさらに可能である。
【0104】
一実施形態では、フローサイトメトリーを用いて、1つまたは複数の微小球の同一性を決定してもよい。フローサイトメトリー読み出しに用いられるように設計された微小球は、当技術分野において入手可能である。
【0105】
いくつかの実施形態では、量子ドットは、光に暴露されたときに該量子ドットが退色(光漂白)しないという事実から、好ましい。例えば、蛍光体FITCは、光漂白することが知られており、FITCを含むタグによって処理された細胞単位は、暗い場所において理想的に取り扱われ、確実に解析することが困難である。量子ドットは、ポリスチレンを重合するときに微小球に組み入れられてもよく、その結果、タグの均一な付加が得られる。量子ドットは、多くの色で利用可能であるが、同一波長で励起されるので、カラ―CCDカメラを用いることによって、フィルターを用いることなく、多数の色を可視化することが可能である。量子ドットに関するさらなる背景情報は、米国特許第6,322,901号、米国特許第6,576,291号、米国特許出願公開第2003/0017264号、米国特許第6,423,551号、米国特許第6,251,303号、米国特許第6,319,426号、米国特許第6,426,513号、米国特許第6,444,143号、米国特許出願公開第2002/0045045号、米国特許第5,990,479号、米国特許第6,207,392号、米国特許第6,251,303号、米国特許第6,319,426号、米国特許第6,426,513号、および米国特許第6,444,143号から入手可能である。
【0106】
有利には、タグは、例えば、化学的改変または他の改変、またはカプセル封入によって、細胞培養物の成分による分解に対して保護されている。タグのカプセル封入は、多くの異なる媒体、例えば、本明細書において前述したビーズ、例えば、Bangs Laboratories Inc. (Fishers Ind, USA) のビーズに対して行うことができる。カプセル封入は、タグを増幅および/または検出するための構成要素を設けること(例えば、DNAタグと共に用いられるPCRプライマーを設けること)に加えて、タグの付加量を標準化させるために、用いられてもよい。タグの検出は、当業者に知られている種々の方法によって達成することができる。この方法として、質量分析、核磁気共鳴、シーケンシング、ハイブリダイゼーション、抗原検出、電気泳動、分光分析、顕微鏡分析、画像分析、蛍光検出などが挙げられる。いくつかの実施形態では、タグが典型的には色または蛍光体を含んでいるので、フローサイトメトリー、顕微鏡分析、分光分析、画像解析および/または蛍光検出が用いられてもよい。
【0107】
タグは、まず第1に、必ずしも、それらの化学的または分子構造によって互いに区別される必要がない。混合物中の所定の細胞単位の同一性を決定するために、または混合物を構成する種々の細胞単位の同一性を推測するために、非化学的タグ付け手法の多くの変形形態が考えられる。例えば、光学的または視覚的にタグ付けする方法が、すでに記載されている。これらの方法では、種々の形状の対象物、図式的にコード化された対象物、または異なる色によって、サンプルの同一性を示すようになっている(例えば、1998, Guiles et al, Angew. Chem. Intl Ed Engl, vol. 37, p926; Luminex Corp. Austin Tex., USA; BD Biosciences; Memobead Technologies, Ghent, Belgium参照)。好適には、タグは、帯電されたタグ(例えば、負に帯電されたタグ)である。好適には、タグは、マイクロキャリア、たとえば、多孔性マイクロキャリアと複合体を形成している。典型的には、マイクロキャリアは、実効電荷を有している。典型的には、マイクロキャリアおよびタグは、互いに逆の電荷を有している。マイクロキャリアは、タンパク質、セルロース、ポリエチレン、ポリスチロール、ガラス、コラーゲン、コラーゲン−グリコース−アミノグリカン、ゼラチン、またはこれらの誘導体を含んでいるか、またはそれらからなっているか、またはそれらから本質的になっている。マイクロキャリアは、Cultisphere-Gマイクロキャリア、Cultisphere-GLマイクロキャリア、Cultisphere-Sマイクロキャリア、Informatrixマイクロキャリア、Microsphereマイクロキャリア、Siranマイクロキャリア、FibraCel(登録商標)Disksマイクロキャリア、Cytolineマイクロキャリア(例えば、Cytoline1マイクロキャリアまたはCytoline2マイクロキャリア)、Cytodexマイクロキャリア(例えば、Cytodex1マイクロキャリア、Cytodex2マイクロキャリア、またはCytodex3マイクロキャリア)、Cytopore マイクロキャリア(例えば、Cytopore1 マイクロキャリアまたはCytopore2 マイクロキャリア)、Biosilonマイクロキャリア、Bioglassマイクロキャリア、FACT IIIマイクロキャリア、Collagen Cマイクロキャリア、Hillex IIマイクロキャリア、ProNectin Fマイクロキャリア、Plasticeマイクロキャリア、Plastic Plusマイクロキャリア、Nunc 2D MicroHexTMマイクロキャリア、Glassマイクロキャリア(Sigma Aldrich)、DE52/53マイクロキャリア、またはこれらの組合せまたは誘導体からなる群から選択され得る。
好適には、帯電されたタグは、球、例えば、約20μm未満の直径を有する微小球である。
【0108】
微小球は、カルボキシレート修飾(CML)微小球であってもよい。さらに他の実施形態では、タグは、桿状粒子である。好ましくは、桿状タグは、ナノワイヤである。ナノワイヤは、金または銀のような種々の金属を含んでいてもよいし、または該金属からなっていてもよいし、または本質的になっていてもよい。ナノワイヤは、銀および/または金のような種々の金属から作製された種々の長さのセグメントからなっていてもよい。好適には、ナノワイヤは、約1μm以下の直径および/または約10μm以下の長さを有している。ナノワイヤは、Science vol. 294, p. 137-141 (2001) に記載されているようなナノワイヤであってもよい。従って、マイクロキャリアおよびナノワイヤを備えている複合物も、ここに記載されることになる。簡単に述べると、ナノワイヤは、サブミクロンのストライプによって本質的にコード化された多金属微小桿である。金属イオンを均一な大きさの細孔を有するテンプレート上に連続的に析出させることによって、複合パターンを生じさせることができる。有利には、ナノワイヤは、各スプリットの後に添加可能なタグとして用いられるのに十分なほど小さい。これは、正のマイクロキャリアにおいてのみタグを読み取る必要があるので、より好都合である。ナノワイヤのような桿状粒子のパラメータとして、制限されるものではないが、サイズ、光学的性質、および/または金属組成が挙げられる。一実施形態では、光学的特性は、特定波長の光反射率などの光反射率、色、蛍光発光波長、および蛍光発光強度からなる群から選択されている。いくつかの実施形態では、ナノワイヤなどの桿状粒子は、外部的に染色されている。桿状タグと一緒に用いられるマイクロキャリアは、本明細書において説明したものである。
【0109】
有利には、桿状タグおよび電荷中性多孔性マイクロキャリアの使用は、同じマイクロキャリアに対する球状タグの使用よりも良好であることが見出されている。特定の理論に縛られることを望んではいないが、より小さいタグは、マイクロキャリアの孔に良好に貫入し、(おそらく、サイズ非対称に起因して)該孔に引っ掛かると考えられる。従って、ナノワイヤの結合は、例えば、微小球タグの結合よりも良好であり、高レベルの永続的なタグ付けをもたらすことになる。他の実施形態では、1つまたは複数のポリスチレンマイクロビーズが1つまたは複数のCultisphere-Gマイクロキャリアと複合体を形成している。いくつかの実施形態では、タグは、DNAタグではない。いくつかの実施形態では、タグは、外部的に染色されたタグである。
【0110】
さらに他の実施形態では、タグは、RFIDタグにおけるように、情報を伝達するために無線を用いている。RFIDは、一般的に、トランスポンダ(RFタグ)、アンテナ、およびリーダを用いている。RFタグは、通常はガラスまたはプラスチックによって包み込まれた小形電子回路であり、その最も単純な形態では、固有の識別コードにアクセスするようになっている。該識別コードは、適切な電子機器によって、接触することなくまたは視線方向に制限されることなく、「読み取り」可能である。また、タグは、ここでも接触することなくまたは視線方向に制限されることなく、ユーザによってもたらされた情報を記憶するようになっている。「リーダ」は、1つまたは複数のタグに情報を伝達し、かつ1つまたは複数のタグから情報を伝達する電子ユニットである(「リーダ」という用語は、読取専用ユニットおよび読取/書込ユニットの両方を意味するように、互換的に用いられることに留意されたい)。リーダの大きさおよび特徴は、著しく多種多様であり、単独で操作されてもよいし、または遠隔コンピュータシステムに接続されていてもよい。リーダからの情報をタグに伝達し、RFタグから送信された情報を受信するために、アンテナが用いられる。アンテナの大きさおよび構成は、具体的な用途によって異なり、小さい回路コイルから大きい平面構造まで多岐にわたっている。RFIDシステムは、単独で操作されてもよいし、またはタグから得られた識別子および関連データをより包括的に解釈および取り扱うために、遠隔コンピュータに接続されてもよい。1つのRFID手法が、Nicolaou et al.(1995, Angew Chem Intl Engl, vol. 34, p. 2289)に記載されている。このRFID手法は、(i)合成回路基板および半導体タグを含む多孔性筐体、(ii)固相合成樹脂、および(iii)高周波信号を受信し、記憶し、および発信することができる、ガラスに包み込まれた単一または複数アドレス可能な高周波タグ半導体ユニットを用いている。同様の装置が、固相合成樹脂を組織培養マイクロキャリアまたは適切な細胞単位に置き換えることによって、細胞単位を成長させ、かつ該細胞単位を追跡する方法に簡単に適合させることができる。この手法のさらに多くの変形形態、例えば、制限されるものではないが、細胞が直接(被覆または未被覆)RFタグ上に成長する形態、またはRFタグが細胞単位または有機体内に移植される形態も考えられる。
【0111】
<細胞単位の形成>
細胞の群(細胞コロニー)は、種々の条件下における細胞培養によって成長することができ、このコロニーは、種々の条件下において、例えば、撹拌されたとき、および他のコロニーと混合されたときに、その完全な状態を殆ど維持することができる。このような群またはコロニーは、本明細書において、細胞単位と呼ばれている。細胞単位の形成は、一例にすぎないが、キャリアのような固体基材上に付着した培養物として細胞を成長させることによって、達成される。もしキャリア上に蒔種した後に細胞増殖が生じたなら、娘細胞が同一キャリア上に付着し、同一コロニーの一部を形成する。一般的に、生きた付着細胞は、それらの成長基材から容易に解離せず、従って、細胞コロニーの完全な状態は、キャリアの任意の機械的操作、培地の撹拌、または他の組織培養システムへの移送にも関わらず、持続することになる。同様に、もし複数のキャリアが同一の容器に入れられるとき、例えば、多数のビーズがプールされるときはいつでも、細胞は、1つのビーズから他のビーズに実質的に移動することがない。細胞単位を固体基材上に形成する重要な利点は、基材、従って、該基材に付随している付着細胞を、本明細書に記載されているように、標識化することができることである。細胞がより小さいキャリア上で成長する場合、該細胞は、懸濁培養物として処理可能である。細胞を小さいキャリア上で成長させる一般的な方法は、マイクロキャリア細胞培養と呼ばれている(Amersham Biosciences (18-1140-62)から入手可能な“Microcarrier cell culture, Principles and Methods”、Edition AA参照。この文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)。マイクロキャリア培養物は、最大4000リットルの発酵装置内での抗体およびインターフェロンの産出のために商業的に用いられている。キャリアの物理的な特性がよく知られているので、実験に用いられるキャリアの数を算出することが容易である。
【0112】
キャリアは、乾燥生成物として入手可能である。この乾燥生成物としてのキャリアは、正確に秤量可能であり、次いで、液体培地内で膨張させることによって調製されることになる。加えて、マイクロキャリア培養物を接種するのに用いられる細胞の数は、算出することができ、変更することもできる。本明細書に記載されているマイクロキャリア上で成長した細胞の採取、またはマイクロキャリアからの標識の遊離は、細胞の酵素的剥離および/または必要に応じて、本明細書に記載されているようなキャリアの分解によって、達成することができる。
【0113】
図面に示されている寸法のいずれも、本明細書の好ましい実施形態のものであり、本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。
【0114】
前述の明細書に記載されている刊行物は、全て、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。当業者であれば、本発明の記載されている態様および実施形態の種々の修正形態および変更形態が、本発明の範囲から逸脱することなく、明らかになるであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して説明してきたが、請求項に記載の本発明は、このような特定の実施形態に過度に制限されるべきではないことを理解されたい。実際、当業者にとっては明らかである本発明を実施するためのここに記載されている態様の種々の変更形態は、以下の請求項の範囲内に含まれていることが意図されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、細胞の培養に適する細胞培養容器に関し、特に、種々の条件に暴露させるために培養物を繰り返しスプリットおよびプールする必要がある培養プロトコルに適する細胞培養容器に関する。培養され得る細胞の例として、動物細胞、植物細胞、(全有機体を含む)細胞の群、初代細胞、細胞株、多能性細胞、全能性細胞、および幹細胞が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
ここ数年、細胞培養は、生命科学における中核技術になってきている。細胞培養は、「基礎細胞培養」と題する非特許文献1および「動物細胞培養」と題する非特許文献2に記載されている。これらの文献のいずれも、引用することによりそれらの全体が本明細書の一部をなすものとする。細胞培養は、細胞の生存能力、表現型、遺伝子型、増殖、および分化のような細胞プロセス、および生物学的な分子、中間体、および産出物の生成を研究するための基礎をもたらすものである。また、細胞培養は、単離されているか、または、トランスジェニック動物の全体であるかにかかわらず、遺伝子レベルから個々のタンパク質分子のレベルにわたって、これらのプロセスの調節を研究するための手段を提供してきている。
【0003】
生物学の現状への多大な寄与にもかかわらず、細胞培養は、最終的には遺伝子治療および組織工学の可能性をもたらす極めて刺激的な科学とはいえ、多くの点において、開発中の学問分野にとどまっている。細胞培養の重要な目標は、in vitroで多種多様な細胞を成長させることを可能にすることである。培養によって成長することができる種々の細胞型のリストは、広範囲に及んでおり(米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection, http://www.atcc.org)、欧州細胞培養コレクション(European Collection of Cell Cultures, http://www.ecacc.org.uk)、およびドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, http://www.dsmz.de)を参照)、殆どの細胞型の代表的なものを含んでおり、培養条件がさらに一層発見されるにつれて、継続的に増加している。
【0004】
当分野における安定した進歩にもかかわらず、最近まで、新しい細胞型の適切な培養条件を決定する方法は、まったく経験的なものにすぎなかった。すなわち、成長条件は、殆ど常に試行錯誤によって発見されている。出発点の選択は、多くの場合、同様の細胞に対して既に他者によって用いられたもの、または異なる細胞に対して実験室において現在用いられているものに基づいている。多くの場合、これらは、ただ全く不十分なものであり、試行錯誤のプロセスが新たに始められねばならない。新しい培養条件が成功した場合でも、以前のプロトコルを適用しているなら、歴史的な偏見が実験に導入されていることを記憶にとどめることが大事である。例えば、初期の組織培養実験の多くは、線維芽細胞を広く用いており、今日に至るまで、殆どの標準的な細胞培養条件として、中胚葉(線維芽細胞、内皮、筋芽細胞)から派生した細胞を成長させることが有利とされている。これらの条件に基づく上皮細胞型および他の細胞型のための選択的成長培地を開発することが課題であった。これらの細胞型のいくつかについて、血清(中胚葉細胞用の多くの培地の通常の成分)が実際には成長を妨げることが、現在では知られている。
【0005】
本発明者らは、特定の細胞型の生存能力、増殖または成長、および表現型の保存を考慮に入れた適切な培養条件を開発する方法をすでに記載している。細胞培養に伴ういくつかの共通の問題は、初代細胞系列の寿命、継代による細胞系列の特性の変化、およびそれらの形質変換が制限されることであり、それに伴って、興味のある細胞特性が失われることである。これらの影響は、実験またはアッセイに用いられる培養された細胞の有用性を著しく制限することになる。
【0006】
細胞を培養するための改良された技術、および成長、分化、代謝活性、および表現型発現のような細胞プロセスを調節するための技術を探索し、かつ実施するための方法が、本発明者らによる特許文献1に提示されている。この文献に記載されている手順によれば、例えば、ビーズ上の1つまたは複数の細胞培養物からなる細胞の「単位」は、種々の細胞単位を種々の培養条件に暴露するために、細胞培養物を繰り返しスプリットおよび再プールする、コンビナトリアル・スプリット−プール手順において、種々の成長条件に供されるようになっている。
【0007】
多数の細胞単位を取り扱う場合、それらの同一性および/または細胞培養履歴(例えば、任意の一つの群または単位が暴露されていた一連の培養条件の変遷および正確な特性)は、混乱をきたしていることがある。特許文献1は、細胞単位の同一性および/または細胞培養履歴を決定するための改良された方法を記載している。
【0008】
特許文献2では、本発明者らは、スプリット−プール手順を用いて、細胞に作用する薬剤の活性を決定するための方法を記載している。
【0009】
特許文献3では、本発明者らは、特定の状態を達成する上で細胞がどの薬剤およびどの栄養素に暴露されていたかを良好に決定するために、スプリットープール細胞培養実験において細胞をタグ付けするためのさらに改良された方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許出願公開第2004/031369号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願公開第2007/063316号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願公開第2007/023297号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】”Basic Cell Culture”, Oxford University Press (2002), Ed. J. M. Davis
【非特許文献2】”Animal Cell Culture”, Oxford University Press (2000), Ed. John R. W. Masters
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、スプリット−プール細胞培養実験の実行は、手動によるもので、手間が掛かり、時間を浪費し、培養容器間での、任意選択的には、フィルター装置と培養容器との間での細胞単位の反復移送を必要としている。濾過し、プールし、スプリットするための個々の容器間での細胞培養物の移送およびその後に続く同じラウンドによって、培養物が感染源および他の汚染源に暴露される可能性がさらに大きくなる。従って、培養物を容器間で連続的に移送させることなく、スプリット−プール培養を容易に行うことができる細胞培養容器が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、2つ以上の培養区画とプーリング区画とを備える、細胞を培養するための装置であって、前記2つ以上の培養区画の各々は、他の培養区画から分離されており、前記2つ以上の培養区画の各々は、培地の追加または除去のためのポートを備え、プーリング区画は、前記2つ以上の培養区画と連通する、装置が提供されている。
【0014】
従って、本発明は、細胞単位の培養物を種々の培養条件に隔離して暴露させる多数の培養区画を備えている単一容器を提供する。この容器は、プールすることによって細胞培養物を混合し、プールされた培養物を個別の細胞単位の培養物に再びスプリットし、種々の培養条件に再び暴露させる手段をさらに備えている。
【0015】
個別の細胞単位の培養物を培養するための個別の区画の各々は、培地、栄養素、試薬、因子などの添加および/または除去のためのポートを備えている。培養区画、および任意選択的にプーリング区画におけるポートは、有利には、フィルターを備えている。フィルターは、好ましくは、該当する細胞単位を区画内に保持しながら、液体培地、および任意選択的に過剰のタグの除去を可能にするものである。好ましい実施形態では、細胞単位は、複数の細胞を含んでおり、フィルターは、細胞単位から離脱している典型的には死細胞を除去するようになっている。
【0016】
好ましくは、2つ以上の培養物は、個別の培養区画からプーリング区画内に移送されることによって、プールされる。プーリング区画も、任意選択的に、培地、栄養素、試薬、因子などの添加および/または除去のためのポートを備えている。
【0017】
有利には、容器をプーリング区画に向かって傾転させることによって、細胞培養物は、培養区画からプーリング区画内に流れ、該プーリング区画において混合され、容器を培養区画に向かって傾転させることによって、細胞培養物は、培養区画内に流れ、これによって、分離した細胞培養物を生じさせる。
【0018】
有利には、容器は、前述のポートに加えて、1つまたは複数のさらなる経路を備えており、該経路を通って、培地が培養物に添加され、または培地が培養物から除去される。例えば、容器の一部が、実質的に開いており、任意選択的に、移動可能または取外し可能なダストシールドまたは蓋によって覆われていてもよい。
【0019】
一実施形態では、細胞を培養するための装置であって、分離壁によって互いに隔離された複数の培養区画を備え、前記培養区画の少なくとも2つは、前記培養区画の一端においてプーリング区画に接合されており、これによって、装置がプーリング区画の方向に傾転されたとき、培地が平行の区画からプーリング区画内に流れて、前記2つ以上の区画からの培地がプールされ、かつ、装置が培養区画の方向に傾転されたとき、プーリング区画内の培地が分離壁によって分離された前記2つ以上の培養区画内に分割され、ここで、各培養区画は、培地の添加または除去のためのポートを備える、装置が提供される。
【0020】
さらに他の実施形態では、培養区画は、容器内において、実質的に互いに平行に配置されている。
【0021】
さらに他の実施形態では、プーリング区画は、細胞単位の容易かつ完全な混合を促進する特徴部、例えば、液体の乱流を生じさせる特徴部を備えている。
【0022】
さらに他の実施形態では、この装置は、ロボット装置による取扱いを可能にする特徴部、例えば、ロボットアームによって把持されるかまたはスタンドによって保持される特徴部を含んでいる。
【0023】
さらに他の実施形態では、この装置は、ロボットアームによって把持されたときまたはスタンドによって保持されたとき、正確な装置の配向を確実なものとするために、非対称な外部特徴部、例えば、フィンを含んでいる。
【0024】
一実施形態では、この装置は、表面上に直立して配置されることが可能になるように形作られている。他の実施形態では、この装置は、表面上に直立することを可能にするホルダーまたはラックを備えている。
【0025】
この装置は、任意の適切な材料から構成され得る。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、アラミドポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および金属またはガラス、またはこれらの組合せからなる群から選択される材料が用いられ得る。例示的な金属として、例えば、ステンレス鋼、チタン、およびアルミニウムが挙げられる。好ましくは、本発明の培養容器は、細胞培養物に対して非毒性であり、細胞、マイクロキャリアを基礎とした細胞単位、および細胞および細胞単位を標識化するために用いられるタグが、該容器の表面に付着しないようになっている。
【0026】
光学的透明性は、細胞培養容器にとって有利である。従って、透明材料が特に示唆される。
【0027】
第2の態様では、細胞の培養物を繰り返しスプリットおよびプールするための方法であって、(a)一種または複数種の細胞培養物を準備し、先行する態様または実施形態のいずれかによる装置の2つ以上の培養区画間に培養物を分配するステップと、(b)任意選択的に、同じでもよいし、または異なっていてもよい一種または複数種の培地試薬を、前記2つ以上の区画の1つまたは複数に添加し、および/または前記2つ以上の区画の1つまたは複数から除去し、および/または細胞を培養するステップと、(c)細胞培養物をプーリング区画にプールし、プールされた細胞培養物を生じさせるステップと、(d)プールされた培養物を培養区画内に分配することによって、前記プールされた細胞培養物をスプリットするステップと、(e)任意選択的に、ステップ(b)〜(d)の1つまたは複数を繰り返すステップと、を含む方法が提供される。
【0028】
有利には、この方法は、細胞を前記区画の1つまたは複数から隔離するステップをさらに含む。
【0029】
ステップ(c)およびステップ(d)は、培養物が装置内に最初に導入されるときに、該培養物を2つ以上の培養区画間に分配するために、ステップ(a)の一部として行われてもよい。しかし、好ましくは、ステップ(c)およびステップ(d)は、ステップ(a)の後に行われる。ステップ(c)は、細胞培養物を培養区画からプーリング区画内に移送し、プールされた細胞培養物を生じさせることによって、ステップ(a)において分配された細胞培養物をプールすることを含んでいてもよい。
【0030】
培地試薬は、任意選択的なステップ(b)において、例えば、洗浄ラウンドを行うために、添加され、次いで、除去されてもよい。細胞を培養するステップは、一種または複数種の培地試薬を添加および/または除去するステップとは独立して行われてもよい。
【0031】
任意選択的なステップ(e)は、ステップ(b)のみを繰り返すことからなっていてもよいし、ステップ(c)およびステップ(d)のみを繰り返すことからなっていてもよいし、またはステップ(b)〜(d)の各々を繰り返すことからなっていてもよい。ステップ(c)およびステップ(d)は、ステップ(b)の前に行われてもよいし、または後に行われてもよい。これらのステップは、一回繰り返されてもよいし、または数回繰り返されてもよい。
【0032】
細胞を培養するステップは、一種または複数種の培地試薬の添加および/または除去とは独立して行われてもよい。換言すれば、細胞を培養するステップは、培地試薬を添加および/または除去することなく、行なわれてもよい。逆に、培地試薬を添加および/または除去するステップは、細胞を培養することなく、行われてもよい。
【0033】
細胞を培養するステップは、以下のサブステップ、すなわち、(i)細胞を前記2つ以上の区画から1つまたは複数の別の入れ物に移送するサブステップと、(ii)細胞を前記1つまたは複数の入れ物内において培養するサブステップと、(iii)任意選択的に、細胞を本明細書中の本発明の態様または実施形態のいずれかによる装置に戻すサブステップを含んでいてもよい。
【0034】
代替的に、細胞を培養するステップは、細胞をこの装置の前記2つ以上の区画において培養することを含んでいてもよい。
【0035】
細胞を培養するステップは、細胞をインキュベートすることを含んでいてもよい。
さらに他の態様によれば、細胞培養物を繰り返しスプリットおよびプールする方法であって、(a)一種または複数種の細胞培養物を準備し、該培養物を先行する態様または実施形態のいずれかによる装置の2つ以上の培養区画間に分配するステップと、(b)任意選択的に、同じであってもよいし、または互いに異なっていてもよい一種または複数種の培地試薬を、前記2つ以上の区画の1つまたは複数に添加または前記2つ以上の区画の1つまたは複数から除去し、細胞を培養するステップと、(c)培養物を培養区画からプーリング区画に移送することによって、ステップ(a)における細胞培養物をプールし、プールされた細胞培養物を生じさせるステップと、(d)前記プールされた培養物を培養区画内に分配することによって、プールされた細胞培養物をスプリットするステップと、(e)任意選択的に、ステップ(b)〜(d)を繰り返すステップと、を含む方法が提供される。
【0036】
さらに他の態様では、本発明の第1の態様に記載されている少なくとも1つの容器と、一種または複数種のマイクロキャリアと、細胞および/またはマイクロキャリアを標識化するためのタグと、を備えるキットが提供される。任意選択的に、このキットは、細胞、およびデータ解析ソフトウエアも備えていてもよい。
【0037】
さらに他の態様によれば、本発明は、装置のためのスタンドであって、装置を第1の方向に支持するための支持手段を備える、スタンドに関する。支持手段は、装置を少なくとも第1および第2の方向に支持するのに適するようになっていてもよい。ここで、前記第1および第2の方向は、互いに角度的にずれている。装置は、好ましくは、本明細書に記載される形式のものである。本明細書中に記載されるスタンドは、独立して特許可能であると考えられる。
【0038】
スタンドは、装置を2つの方向に保持するように適合されていてもよい。第1の方向は、装置が実質的に垂直に(すなわち、ポートを上方に向けて)配置される直立位置とすることができる。この直立位置は、ビーズ懸濁液の添加および除去に適している。第2の方向は、垂直から45°の角度とすることができる。この傾斜位置は、ユーザが、洗浄ステップの後、付着したビーズをフィルターの内側から容易に逆洗浄することを可能にするのに適している。好ましくは、両方の位置において、ビーズは、個別の培養区画において分離されている。支持手段が装置を3つ以上の方向に支持するように適合されていてもよいことは、明らかだろう。
【0039】
スタンドは、好ましくは、装置を前記第1の方向に支持するための第1の対の協働するスロットまたは凹部と、装置を前記第2の方向に支持するための第2の対の協働するスロットまたは凹部とを備えている。スロットは、好ましくは、各々、装置に設けられた突起を受け入れるように適合されている。代替的に、スタンドは、装置を前記第1の方向に支持するために装置に形成された第1の対のスロットまたは凹部に配置可能な1対の突起を備えていてもよく、これらの突起は、装置を前記第2の方向に支持するために装置に形成された第2の対のスロットまたは凹部に配置可能になっている。
【0040】
代替的な構成では、支持手段は、装置を移動可能に支持するように適合されていてもよく、装置を前記第1の位置から少なくとも第2の位置に移動させることが可能になっている。例えば、支持手段は、装置を枢動可能に支持するために枢動可能に取り付けられたクレードルまたはホルダーを備えていてもよい。少なくとも好ましい実施形態では、装置は、前記第1および第2の方向間において円滑に回転可能になっている。従って、装置の方向を連続的に変化させることができる。使用時に、装置は、種々のプール方向、スプリット方向、および洗浄方向に配置可能である。装置を所望の方向に係止するために、係止装置が設けられてもよい。スタンドは、装置からの液体、例えば、洗浄ステップ中に排出された液体を捕捉する廃棄トレイを含んでいてもよい。使用時に、装置が前述の第1および第2の位置に加えて、スプリット−プール−スプリット手順の位置を取ることを可能にするために、可動ホルダーが回転されるようになっていてもよい。
【0041】
装置は、スタンドに(永久的または半永久的に)連結されていてもよい。しかし、少なくとも好ましい実施形態では、装置は、スタンドから取外し可能になっている。
【0042】
以下、添付の図面を参照して、単なる例示にすぎないが、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の装置の一実施形態の斜視図である。
【図2】図1の実施形態の他の図である。
【図3】本発明の容器の第2の実施形態の図である。種々の図が、パネルA−Fに示されている。
【図4】図3の実施形態のプーリング区画の操作を示す図である。
【図5】培地の排出を可能にする、図3の実施形態の培養区画のポートの操作を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図7】装置の全体を覆うカバーを備える容器を示す図である。
【図8】分割された区画を覆う密封蓋を備える容器を示す図である。
【図9】通路間の仕切りの1つまたは複数または各々が容器の湾曲領域内に延在している容器の実施形態を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態による装置の改良された形態の斜視図である。
【図11】内部構造を透過して示す、図10の装置の斜視図である。
【図12】図10の装置の平面図である。
【図13】図10の装置の側面図である。
【図14】図10の装置の端面図である。
【図15】図10の線H−Hに沿った装置の断面図である。
【図16A.16B.16C】図10の装置を形成するための個別の構成要素の斜視図である。
【図17】装置のためのスタンドの斜視図である。
【図18A.18B】図17のスタンドにおける第1および第2の異なる位置にある装置を示す図である。
【図19A.19B】装置を第1の位置に配置させるためのスタンドの使用を概略的に示す図である。
【図20A.20B】装置を第1および第2の異なる位置に配置させるためのスタンドの使用を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[定義]
<細胞条件>
本明細書において用いられる「培養条件」という用語は、細胞の成長または分化を促進するために、該細胞が置かれる、または、暴露される環境を指す。さらに詳細には、この用語は、培地、および培地内に含まれ、細胞の成長および/または分化に影響を与える特定の薬剤を指す。
【0045】
<細胞>
本明細書において「細胞」と呼ばれるものは、独立に機能することができる生物の最小の構造単位として、または全体が半透過性細胞膜または細胞壁によって囲まれた1つまたは複数の核、細胞質、および種々の細胞小器官からなる単細胞生物として、定義される。細胞は、原核性であってもよいし、真核性であってもよいし、または古細菌であってもよい。例えば、細胞は、真核細胞であり得る。哺乳類細胞、特に、ヒト細胞が好ましい。細胞は、天然のものであってもよいし、または所望の特性を達成するために、遺伝子操作または継代培養によって変性されたものであってもよい。幹細胞は、後でより詳細に定義するが、2つ以上の分化した細胞型を生じさせることができる全能性細胞、多能性細胞、または複能性細胞である。幹細胞は、in vitroで分化されてそれら自体が複能性となり得る分化細胞を生じることがあり、または高度に分化されることもある。In vitroで分化した細胞は、細胞分化を促進する一種または複数種の薬剤に幹細胞を暴露することによって人工的に作られた細胞である。場合によっては、「細胞」という用語は、「細胞単位」とも呼ばれる、マイクロキャリア上またはマイクロキャリア内で成長する細胞の群を含むこともある。
【0046】
<細胞単位>
細胞の群を指しているが、この群は、1つの細胞からなる群であってもよい。細胞単位のプールは、細胞単位自体を実質的に解離することなく、選別され、再分割され、かつ取り扱われることが可能である。従って、細胞単位は、細胞のコロニーとして挙動し、細胞単位内の各細胞は、同一の培養条件に暴露されることになる。いくつかの実施形態では、細胞単位は、細胞の群が付着しているマイクロキャリアまたはビーズを含むことがある。
【0047】
<全能性>
全能性細胞は、生物において見られる任意の型の体細胞または生殖細胞に分化する潜在能力を有する細胞である。従って、どのような所望の細胞も、全能性細胞から何らかの手段によって派生させることができる。
【0048】
<多能性>
多能性細胞は、全てではないが、2種以上の細胞型に分化し得る細胞である。多能性細胞の例として、胚盤胞から派生した幹細胞または人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。
【0049】
<タグ>
一態様では、本明細書において用いられる「タグ」という用語は、細胞単位を同定し、および/または細胞単位が暴露されていた培養条件または培養条件の順序を決定するのに用いられる任意のタグを指す。他の態様では、「タグ」という用語は、細胞単位を明確に標識化し、これによって、細胞単位の同定、および/または細胞単位が暴露されていた培養条件および/または培養条件の順序の決定を容易にする手段として、細胞単位に加えられる任意のタグを指している。好適には、タグは、以下にさらに詳細に説明するように、多数の互いに関連しているが互いに異なる種々の形態で存在し、容易に区別できるようになっている。タグは、典型的には、マイクロキャリアとの複合体の一部を形成している。いくつかの実施形態では、タグは、球またはビーズ、例えば、微小球または微小ビーズである。いくつかの実施形態では、タグは、桿状粒子、例えば、ナノワイヤである。本明細書において「タグ」と呼ばれる用語は、「ラベル」という用語と同義語である。以下、培養条件への細胞の暴露について説明する。細胞は、細胞が培地と接触して置かれるか、または細胞の成長状態、分化状態、または代謝状態のような1つまたは複数の細胞プロセスに影響を与える条件下で成長する場合、培養条件に暴露されていることになる。従って、もし培養条件が培地内において細胞を培養することを含むのなら、細胞は、効果を発揮するのに十分な期間にわたって、培地内に置かれることになる。同様に、もし該条件が温度条件であるなら、細胞は、所望の温度において培養されることになる。
【0050】
<プーリング>
細胞単位の1つまたは複数の群のプーリングは、これらの群を混合し、単一の群または単一のプールを生じさせることを指している。好ましい実施形態では、この群またはプールは、2回以上の培養履歴を経ている細胞単位を含んでいる。例えば、この群またはプールは、2つ以上の異なる組の培養条件に暴露されていた細胞単位を含んでいる。プールは、無作為的または作為的に、多数の群にさらに再分割されてもよく、このような群は、本発明の目的に照らせば、それら自体「プール」ではないが、例えば、異なる組の培養条件に暴露した後に組み合わせることによって、それら自体がプールされることになる。
【0051】
<スプリッティング>
細胞の培養物、例えば、本明細書中に定義されたプールは、2つ以上の個体群に再分割されることによって、スプリットされ得る。再分割は、好ましくは、無作為的である。従って、細胞単位は、可能な限り、互いに異なる個体群に均一に分割されることになる。細胞単位自体は、損なわれることなく、そのまま保たれている。細胞の培養物は、出発培養物における細胞単位の数のみに制限される、どのような数の互いに異なる個体群にスプリットされてもよい。
【0052】
<増殖>
細胞成長および細胞増殖は、本明細書においては、互換的に用いられ、異なる細胞型または細胞系列に分化することのない細胞数の増加を意味している。換言すると、これらの用語は、生きた細胞数の増加を表している。いくつかの実施形態では、増殖は、表現型または遺伝子型の目立つほどの変化を伴わない。
【0053】
[発明の実施形態]
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の実施例を示す図面を参照されたい。添付の請求項の範囲内に含まれる、他の実施形態は、以下に述べる具体的な詳細から逸脱していてもよい。
【0054】
本発明の培養容器は、培地および細胞を含む細胞培養物が、容器から取り出されることなく、繰返しスプリットおよびプールされることを可能にし、または、スプリットおよびプールされた後、一連のスプリット−プールラウンド間においてインキュベーションのために容器から取り出されることを可能にする。この培養容器は、細胞を取り出すことなく、培地および試薬の取出しおよび添加をさらに可能にする。該装置は、マイクロキャリア上で成長する細胞を含む、細胞または細胞単位を培養するのに用いられてもよい。培養容器は、平坦トレイ、湾曲トレイ、および円筒を含む多数の基本的形状で構成されていてもよい。好ましくは、該容器は、使い捨て用に設計されており、無菌パッケージング内に入れて供給される。
【0055】
本発明の容器は、少なくとも2つの培養区画および少なくとも1つのプーリング区画を備えている。培地、細胞単位、および/または細胞を含む細胞培養物は、培養物を移送させるピペットのような外部器具を用いることなく、培養区画とプーリング区画との間で容易に移送可能である。好ましくは、培養物は、容器を回転または傾転させ、培養物を1つの領域から他の領域に流すことによって、移送される。
【0056】
各容器内に存在する培養区画の数は、各スプリット−プール手順における「スプリット」の数を決定する。好ましくは、2〜10個の培養区画、有利には、3、4、5、6、7、8、9または10個の区画であるとよい。より多くの区画、例えば、15、20、50、75、または100個の培養区画を有するより大きい容器が構成されてもよい。理論的には、培養区画の数に制限はないが、実際的には、極めて大きい容器の取扱いは容易ではなく、また、もしプーリング区画が極めて大きい場合、細胞の効果的な混合を得ることが困難になる。
【0057】
図1に示されている第1の実施形態を検討すると、培養容器10は、単純なトレイ設計の形態にある。この容器は、壁22によって分離された互いに平行の培養区画21を備えている。プーリング区画30が、通路状の培養区画の一端に配置されている。仕切り25がプーリング区画を培養区画から分離している。使用時に、培養区画21に存在している細胞培養物は、容器を傾転させて、細胞培養物が仕切り25を通り越すことを可能にすることによって、プーリング区画30に移送されるようになっている。仕切り25は、任意選択的なものである。何故なら、細胞培養物は、容器の傾斜を調整することによって、培養区画にとどまることができ、またはプーリング区画にとどまることができるからである。図2に示されているように、培養物が異物および培養区画間の漏出によって汚染するのを防ぐために、蓋50が設けられていてもよい。蓋50と壁22との間の密封によって、容器をより急勾配に傾転させることができ、これによって、細胞培養物の漏出を生じることなく、培養区画とプーリング区画との間の細胞培養物の移送を改良することができる。また、蓋と壁との間の密封によって、もし仕切り25が存在していない場合でも、傾転させたときに培養物を培養区画に保持する傾斜角度をより大きくすることができる。また、蓋と壁との間の密封によって、各培養区画の端に配置されたフィルターを用いる場合、装置を完全に傾転させることによって、培地を排出させることもできる。
【0058】
プーリング区画30は、細胞培養物が培養区画から移送されたとき、該細胞培養物を良好に収容するために、高くなった壁を備えているとよい。プーリング区画を密封するカバーが設けられていてもよい。
【0059】
図3は、湾曲トレイの形態にある第2の実施形態を示している。培養区画21は、壁22によって分離された通路の形態にあり、カバー51によって覆われている。容器の底および壁22は、容器の一端において、上方に向かって弧状に延在している。ここで、培養区画は、容器の湾曲した底にあり、プーリング区画30は、培養区画の上方の反転位置にある。容器を傾転させると、細胞培養物は、容器の端の湾曲領域における通路状の培養区画内において、互いに分離された状態でとどまっている。容器を該容器が反転するまでさらに傾転させると、細胞培養物は、プーリング区画30に移送されることになる。開口15によって、区画21、30へのアクセスが可能になっている。一実施形態では、図9に示されているように、通路間の仕切りは、培養物を湾曲領域において分離して保持するために、容器端の湾曲領域内にまで延在している。従って、例えば、ロボットによって、ピペットを開口15の直上から各区画に垂直方向に入れることが可能である。
【0060】
図4は、容器の反転の過程およびプーリング区画内における細胞培養物の混合を示している。ステップAでは、容器がその弧面を中心として傾転され、ステップBによって、細胞培養物は、培養区画から容器底の湾曲によって形成された空間内に流れ、もはや壁22によって分離されていない。ステップC、Dは、容器のさらなる傾転を示している。ここで、細胞培養物は、プーリング区画30内にとどまり、混合される。容器は、揺動されてもよく、これによって、ステップE、Fに示されているように、単一の混合された細胞培養物がもたらされる。
【0061】
図5は、フィルター被覆ポート40、および培地を培養区画21から排出するための培養容器の反転(図5b)を示している。ポート40は、フィルターを備えている。フィルターは、細胞またはマイクロキャリアを培養区画内にとどめながら、培地を培養容器から除去するものである。フィルターは、有利には、20ミクロン未満のタグを通過させ、100ミクロンを超えるマイクロキャリアをとどめるものである。フィルターは、好ましくは、例えば、どのようなタグ、細胞、またはマイクロキャリアも付着しないように、非付着性になっている。例えば、70ミクロンのナイロンメッシュが用いられてもよい。
【0062】
第3の実施形態が、図6に示されている。この実施形態では、容器は、培養区画21を形成するために半径方向壁22によって細分された円筒瓶10である。半径方向壁22は、円筒10の全周にわたって延存しておらず、これによって、円筒10の長さに沿って延在するプーリング区画30を形成している。図6bに示されるように、長軸を中心とする円筒の回転によって、培養区画21内の細胞培養物は、プーリング区画30内に流れることが可能である。プーリング区画では、細胞培養物は、もはや壁22によって互いに分離されていないので、混合されることになる。ポート40が、直径方向においてプーリング区画と実質的に反対側に配置されている。円筒をポート40の方向に回転させることによって(図6c)、培地を培養区画から排出させることができる。細胞培養物は、壁22によって互いに分離された状態でとどまっている。壁22は、密封板29と向き合っている。密封板29は、図6aに示されるように、実質的に垂直に配置されている。この板は、培地がポート40を通って排出されるとき、培養物の相互汚染を防ぐのに役立つ。円筒10は、その長さに沿って延在しているスロット27を備えている。スロット27によって、培養区画へのアクセスが可能になる。任意選択的なリップ28は、培養物がプーリング区画に移送されるときの漏出を防ぐのに役立つ。
【0063】
培養容器のさらに他の実施形態が、図7、8に示されている。図7に示されるように、容器は、汚染を防ぐために、装置の全体を覆うカバー61を備えている。図8では、容器は、区画間の汚染を防ぐために、分割された区画を覆う密封された蓋70を備えている。
【0064】
改良された培養容器100が、図10−16に示される。改良された培養容器100は、第2の実施形態に密接に基づいており、明瞭にするために、同様の参照番号が、100を足したものとして、同様の構成要素に用いられる。培養容器100の使用は、第2の実施形態に対して説明したものと同じである。
【0065】
培養容器100は、U形状に配置された第1および第2のアームを備えている。フィルター被覆ポート140のアレイが容器100の第1のアームに形成されており、プーリング区画130が第2のアームに形成されている。第1および第2のアームは、内部壁122によって互いに分離された複数の培養区画121を画定している中間部分によって、互いに接合されている。ポート140は、各々、培地の排出を可能にするために、それらの開端を覆うフィルターを有している。培養容器100の斜視図が、図10に示されており、内部構造が、図11の部分透過図に示されている。図11に示されているように、混合を促進するために、混合フィン132がプーリング区画130内に設けられている。
【0066】
培養容器100は、第1および第2の端壁160を有している。個々の培養容器の最大容積を示すために、容積レベルが両方の端壁にマークされている。培養容器100を、(図17−20を参照して以下に説明する)スタンド200に支持させるために、少なくとも1つの取付け部材162が、各端壁160に形成されている。この実施形態では、取付け部材162は、非対称であり、これによって、培養容器100は、(例えば、ポート140をスタンド200の正面または背面に向けて配置させる)所定の方向でのみ、スタンド200に配置可能になっている。具体的には、培養容器100の所望の非対称構成(または左/右利き構成)をもたらすために、2つの実質的に平行の取付け部材162が第1の端壁160に形成されており、1つの取付け部材162が第2の端壁160に設けられている。所望の非対称配置をもたらすために、取付け部材162の代替的構成が用いられてもよいことは、明らかであろう。
【0067】
しかし、培養容器100が非対称であることは、必要不可欠ではなく、対称構成が取付け部材162に用いられてもよい。
【0068】
図12の平面図および図13の側面図に示されているように、培養区画121は、細胞培養の良好な除去を可能にする凸状の外部輪郭を有している。培養容器の端面図が、図14に示されている。前述したように、一連の細長の混合フィン132が、プーリング区画130の長さに沿って設けられている。混合フィン132は、図15の断面図に最も明瞭に示されている。
【0069】
培養容器100は、(図16A、16Bに示されている)第1の構成部品164、および(図16Cに示されている)第2の構成部品166から作製されている。第1の構成部品164は、ポート140およびプーリング区画130を画定している。第2の構成部品166は、区画121および該区画を互いに分離する複数の中間壁122を画定している。第1および第2の構成部品164、166は、別々に射出成形され、次いで、互いに接合される。組み立てられると、第2の構成部品166内に形成された区画121は、培養容器100の第1および第2のアーム間の経路を画定することになる。
【0070】
本出願は、培養容器100用のスタンド200にも関する。図17に示されるように、スタンド200は、基部202、および第1および第2のフレーム部材204、206を備える。スタンド200は、例えば、70%エタノール溶液によって滅菌可能な材料から作製されている。スタンド200は、ステンレス鋼から作製されてもよいし、またはポリカーボネート、ポリスチレンまたはテフロンのようなプラスチック材料から作製されてもよいことが想定されている。フレーム部材204、206は、各々、取付け部材162が配置されることになる第1および第2の整合するスロット208a、208bを有する。各フレーム部材204、206のスロット208a、208bは、互いに角度的にずれている。この実施形態では、第1のスロット208aは、動作可能なように垂直方向に配置されており、第2のスロット208bは、動作可能なように垂直方向から45°の角度に傾斜されている。スロット208a、208bが種々の角度で配置されてもよいことも想定されている。さらに、フレーム部材204、206は、各々、単一のスロット208のみを有していてもよいし、または3つ以上のスロット208を有していてもよい。
【0071】
本発明の培養容器100は、図18Aでは、傾斜位置でスタンド200に配置されて示されている。培養容器100は、図18Bでは、垂直位置でスタンド200に配置さて示されている。培養容器100を垂直位置でスタンド200に位置決めする状態が、図19A、19Bに概略的に示されている。スタンド200は、図19Aに示されるように、培養容器に設けられた非対称フィン162と協働する非対称のスロット208a、208bを備えていてもよい。
【0072】
垂直位置および傾斜位置のそれぞれに配置された培養容器100によってユーザUに対してもたらされる種々の有利な点が、それぞれ、図20A、20Bに示されている。また、これらの種々の位置によって、例えば、ピペットPの培養容器100の内部へのアクセス、およびポートおよびフィルター140へのアクセスを変更することができる。
【0073】
本発明の培養容器は、2つのモード、すなわち、i)培養容器内においてスプリット−プール−培養ラウンドを実施するモード、およびii)培養容器においてプール−スプリットラウンドを実施した後、個別の入れ物でのインキュベーションのために細胞培養物を取り出すモードで操作することができることは、明らかであろう。第2の操作モードでは、細胞培養物を個々の区画から個別に取り出すことができ、またはプーリング区画から一括で取り出すこともできる。培養容器100は、スプリットされたビーズ懸濁液が別の入れ物でのインキュベーションのために取り出される第2のモードによる使用に特に適している。
【0074】
<スプリット−プール細胞培養>
本発明の培養容器は、細胞を多数の組織培養条件に暴露するのに有用である。好ましくは、細胞は、細胞単位にグループ化されている。各細胞単位は、種々の細胞培養条件に暴露され得る、取扱いが容易な単位を構成している。本発明によれば、細胞のグループ化は、典型的には、細胞をマイクロキャリア培養で成長させることによってもたらされ、細胞単位、細胞群、コロニー、およびビーズというそれぞれの用語は、互換的に用いられる。極めて多くの細胞培養条件をサンプリングするための特に効率的な方法は、コンビナトリアル細胞培養またはスプリット−プール細胞培養と呼ばれている。該方法は、一実施形態では、細胞培養条件の多数の組合せをサンプリングするために、細胞単位の群を連続的に再分割し、および組み合わせることを含む。
【0075】
本発明の一態様では、この方法は、細胞単位の最初の出発培養物(または別の出発培養物)を得て、該出発培養物を培養容器の培養区画に分離することによって、該出発培養物を多数のアリコートに分割することを含む。各区画は、多数の単位(ビーズ/群/コロニー/キャリア)を含んでいる。各区画における単位は、種々の培養条件に供される。所定時間にわたる細胞培養の後、細胞単位は、該細胞単位をプーリング区画に移送することによって、プールされる。このプールは、再び、培養区画にスプリットされ、細胞単位は、各々、所定時間にわたって、互いに異なる条件に供され、次いで、再びプールされる。細胞単位をスプリットし、培養し、プールする(または、細胞単位がサイクルに入る箇所によっては、細胞単位をプールし、スプリットし、培養する)この反復手順によって、細胞培養条件の多くの異なる組合せを体系的にサンプリングすることができる。実験の複雑性、換言すれば、試験される細胞培養条件の異なる組合せの数は、各ラウンドでサンプリングされる異なる条件の数の積に等しい。後続のスプリットの前に細胞培養の全てをプールするステップは任意選択的であり、限られた数の細胞単位をプールするステップであっても、同じ効果をもたらすことに留意されたい。このように、本発明は、細胞単位の群がバルクで取り扱われる細胞培養条件の多くの組合せを体系的にサンプリングする多くの関連する手法を容易にする。
【0076】
多様な細胞培養条件をこのようにサンプリングする正確な方法にもかかわらず、この方法の手順は、効率的である。何故なら、多数の細胞単位が単一の容器を共有しており、該容器において、(例えば、互いに異なる条件下で)培養され、または移送されるようになっているからである。スプリットされ得る試料の数は、容器に含まれている培養区画の数によって決定される。
【0077】
多くの点において、この手順の原理は、(コンビナトリアルケミストリーとして知られている)大きな化合物ライブラリーのスプリット合成の手順に類似している。化合物ライブラリーのスプリット合成は、化学合成ブロック基間の結合の全ての可能な組合せをサンプリングするものである(例えば、Combinatorial Chemistry;Oxford University Press (2000), Hicham Fenniri (Editor) を参照されたい)。スプリット−プール培養は、任意の数のラウンドにわたって繰り返すことができる。2つ以上の容器が同時に用いられてもよい。これは、任意の数の条件が各ラウンドにおいてサンプリングされ得ることを意味している。
【0078】
この手順を用いて、任意の細胞型のための成長条件または分化条件、または任意の細胞型による生体分子産出(例えば、エリスロポエチンまたはインターフェロンの産出)の効率をサンプリングすることができる。この手順は、反復的であるため、多段階の組織培養プロトコル−例えば、幹細胞分化と関連して前述したプロトコルを試験するのに理想的に適している。この技術を用いてサンプリングされ得る変数として、細胞型、細胞のグループ化(例えば、マイクロキャリア培養、細胞カプセル封入、全有機体)、成長基質(例えば、マイクロキャリア上のフィブロネクチン)、(種々の濃度の成分を含む)種々の培地、成長因子、馴化培地、種々の細胞型との共培養(例えば、支持細胞)、動物または植物の抽出物、薬剤、他の合成化学薬品、ウイルス(例えば、遺伝子組換えウイルス)感染、導入遺伝子の付加、アンチセンス分子またはアンチジーン分子(例えば、RNAi、トリプルへリックス)の付加、感覚入力(有機体の場合)、電気、光、温度、酸素分圧、二酸化炭素、分圧および/またはレドックス刺激、などが挙げられる。
【0079】
図3に示されるような容器を用いて行われるスプリット−プール手順の例では、ステップ1において、ピペット操作によって、細胞を担持しているマイクロキャリアを1つまたは複数の培養皿から、開口15を介して、個々の通路21またはプーリング区画30のいずれかに移送させる。もしマイクロキャリアをプーリング区画30に添加する場合、培養物を培養区画21に移送させるために、容器を反転させる。
【0080】
ステップ2では、容器を図5bに示されている位置に置き、成長培地およびタグを除去する。
【0081】
ステップ3では、ポート40のフィルターに付着しているマイクロキャリアを5mlの洗浄バッファーを用いる逆洗によって除去する。
【0082】
ステップ4では、培養区画を13mlの洗浄バッファーによって充填し、内容物と混合させる。
【0083】
ステップ5では、ステップ2と同じように操作し、洗浄バッファーを排出させる。ステップ3−5を3回繰り返し、過剰のタグおよび従前の培地成分を除去してもよい。ステップ6では、プール培地を添加し、容器を図4に示されているように傾転させることによって、マイクロキャリアをプールする。
【0084】
ステップ7では、図4に示されている手順を逆に行うことによって、マイクロキャリアを培養区画間にスプリットする。
【0085】
ステップ8では、容器を図5bに示されている位置に置くことによって、プール培地を除去する。
【0086】
ステップ9では、細胞を暴露することを意図している培地を用いて、フィルターに付着しているマイクロキャリアを除去する。
【0087】
ステップ10では、培養区画を所望の培地によって充填する。このとき、必要に応じて、さらなる試薬が添加されてもよい。
【0088】
ステップ11では、細胞が、培養区画においてin situに培養されてもよいし、またはインキュベーションするために、培養区画から新たな培養皿に移されてもよい。
【0089】
ここで、各培養区画内における条件を変更するために、選択されたタグおよび選択された細胞培養試薬が添加されてもよく、次いで、細胞が培養される。
【0090】
細胞培養物をバルク移送させる手段、例えば、手動ピペットまたは自動ピペットを用いて、細胞培養物を培養区画から他の容器(この容器は、本発明の容器であってもよいし、または培養皿のような通常の容器であってもよい)に移送することによって、さらに複雑なスプリット−プール組合せをもたらすことができる。例えば、細胞培養物は、本発明の容器のプーリング区画に移送され、繰返しスプリットおよびプールされ、細胞単位を多くの培養条件に暴露する。最終的なスプリットの後、個々の培養区画からの単位が、他の容器に移送され、任意選択的に、別の実験から得られた細胞単位と組み合わされてもよい。次いで、これらの単位がさらにスプリットされ、種々の培養条件に供されてもよい。
【0091】
必要に応じて、種々の容積の細胞培養物を受け入れる種々の大きさの培養容器が用いられてもよい。例えば、単一の培養区画の内容物がスプリットされるようになっているとき、より小さい容器が用いられてもよい。逆に、2つ以上の容器の内容物の全てがプールされるようになっている場合、より大きい容器が用いられてもよい。
【0092】
<マイクロキャリア>
本発明によるキットは、マイクロキャリアを備えていてもよい。種々の材料から作製された様々な形状および大きさのマイクロキャリアが市販されている。マイクロキャリアは、多孔性、マクロ多孔性、ミクロ多孔性、または固体であってもよい。例を挙げると、マイクロキャリアは、Cultispherマイクロキャリア、Cultisphere-Gマイクロキャリア、Cultisphere-GLマイクロキャリア、Cultisphere-Sマイクロキャリア、Informatrixマイクロキャリア、Microsphereマイクロキャリア、Siranマイクロキャリア、FibraCel(登録商標)Disksマイクロキャリア、Cytolineマイクロキャリア(例えば、Cytoline1マイクロキャリアまたはCytoline2マイクロキャリア)、Cytodexマイクロキャリア(例えば、Cytodex1マイクロキャリア、Cytodex2マイクロキャリア、またはCytodex3マイクロキャリア)、Cytopore マイクロキャリア(例えば、Cytopore1マイクロキャリアまたはCytopore2マイクロキャリア)、Biosilonマイクロキャリア、Bioglassマイクロキャリア、FACT IIIマイクロキャリア、Collagen Cマイクロキャリア、Hillex IIマイクロキャリア、ProNectin Fマイクロキャリア、Plasticeマイクロキャリア、Plastic Plusマイクロキャリア、Nunc2D MicroHexTMマイクロキャリア、Glassマイクロキャリア(Sigma Aldrich)、DE52/53マイクロキャリア、またはこれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0093】
マイクロキャリア培養は、培養物のスケールアップを含む著しい利点を有しており、所望の成長および/または分化条件を得るために、必要に応じて、細胞単位を選択された培養条件に暴露させることができる。マイクロキャリアの表面は、所望の電荷または他の所望の特性を有する分子実体の吸着または共有架橋のような物理的または化学的処理によって、さらに改質されていてもよい。マイクロキャリアは、帯電された(例えば、負に帯電された)タグと複合体を形成するようになっていてもよい。換言すれば、帯電された(例えば、負に帯電された)微小球に結合された、または、該微小球によって標識化されたマイクロキャリアが得られる。マイクロキャリアは、桿状タグと複合体を形成し、これによって、桿状タグに結合された、または、該桿状タグによって標識化されたマイクロキャリアを形成するようになっていてもよい。
【0094】
<タグ>
本発明のキットは、タグを備えていてもよい。タグは、マイクロキャリア、例えば、細胞に関係したマイクロキャリアに結合されたラベルまたはタグとして、用いられ得る。後続の検出および同定によって、細胞単位が暴露されていた細胞培養条件の履歴および同一性の明確な記録がもたらされる。種々の分子タグまたは高分子タグが、それらが検出可能である限り、マイクロキャリアと組み合わせて用いられ得る。タグは、典型的には、特異な形状を備えているか、またはマーキングおよび/または着色化合物または蛍光化合物によって修飾されたものからなる。一実施形態では、細胞単位を標識化するのに用いられるタグは、以下の属性の1つまたは複数(好ましくは、全て)を有している。
【0095】
i.タグは、それらが標識化するマイクロキャリアよりも小さく、および/または多孔性マイクロキャリアの平均孔径よりも小さい。
ii.タグは、実験の全体を通して結合が維持されるように、マイクロキャリアと複合体を形成することができ、結合されていないタグは、標識化された細胞単位に悪影響を与えることなく、該複合体から分離可能である。
iii.タグは、それらが複合体を形成している細胞単位から、タグの固有の性質を損なわない条件下で分離可能である。
iv.タグは、細胞単位の生態に実質的に影響を与えず、かつ細胞単位またはそれらの生態によって影響されない一種以上の不活性基材から作製されている。
v.タグは、大量に、さらに適切な技術を用いて容易に識別できる多くの互いに関連しているが互い異なる形態として、入手可能である。
vi.タグは、使い勝手がよく、信頼性が高く、かつ自動化可能である方法によって、識別可能である。
【0096】
一実施形態では、タグは、微小球、例えば、蛍光微小球および/または着色微小球である。乳化重合または懸濁重合、析出などによって作製されたポリスチレン、他のポリマー、コポリマー、ターポリマー、および/またはシリカなどからなる2000種を超える種々の微小球が、様々な大きさ、密度、または色などごとに市販されている。一般的な微細球は、ポリスチレン(PS)微細球およびスチレン/ジビニルベンゼンコポリマー(S/DVB)微細球である。他のポリマーの例として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルトルエン(PVT)、スチレン/ブタジエン(S/B)コポリマー、スチレン/ビニルトルエン(S/VT)コポリマーが挙げられる。これらの微小球の多くは、例えば、CML微小球におけるようなカルボキシル基によって官能化されていてもよいし、またはアミノ基によって、すなわち、一級、二級、三級、および四級脂肪族アミン、芳香族アミンのような窒素含有化合物によって官能化されていてもよいし、COOHビーズへの代替的カップリング反応をもたらすピリジンまたはスルホキシドによって官能化されていてもよい。
【0097】
好適には、微小球は、親水性微小球である。さらに好適には、微小球は、ポリスチレン微小球である。最も好適には、微小球は、カルボキシレート修飾(CML)微小球のような表面修飾微小球である。
【0098】
一実施形態では、1つまたは複数のCML微小球は、正の電荷を有する1つまたは複数のマイクロキャリアと複合体を形成する。CML微小球は、共重合化プロセスによって生じた高度に帯電したカルボキシル基の表面層を有している。この表面は、いくらか多孔性であり、比較的親水性であるが、全体的には疎水性を保持している。これらの粒子の電荷密度は、カルボキシル基あたり約10−125Å2の範囲内にあり、(一価塩の1Mに至る)高濃度の電解質に対して安定である。CMLラテックスは、タンパク質および他の生体分子を吸着するが、疎水性微小球ほど強く吸着しない。
【0099】
いくつかの実施形態では、微小球とタンパク質、例えば、ストレプトアビジンとの結合体が調製される。例えば、CML微小球との結合体は、以下のように調製され得る。CML微小球は、水溶性カルボジイミド試薬を用いて、活性化され得る。この試薬は、カルボキシル基を、結合されることになるタンパク質の一級アミンと反応させるものである。まず、pH6.0の50mM反応バッファーが調製される。酢酸ナトリウムまたは2−[N−モルフォリノ]エタンスルホン酸(MES)が、好適なバッファーである。タンパク質が、10mg/mLの濃度のこの反応バッファー中に溶解される。微小球の1%(w/v)懸濁液も、この反応バッファーに調合される。10容積の微小球懸濁液に対して1容量のタンパク溶液が調製され、混合物は、室温で20分間インキュベートされる。脱イオン水に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)が溶解された10mg/mL(52μMol/mL)の溶液が調製され、即時に用いられる。微小球懸濁液に対して計算された量のEDAC溶液が追加され、反応混合物のpHが、0.1NのNaOHによって6.5±0.2に調整される。混合物は、室温で2時間、揺動ホイールまたは混合ホイールによってインキュベートされる。未結合のタンパク質が除去され、次いで、貯蔵バッファー内に貯蔵される。
【0100】
有利には、CML微小球および他の微小球は、種々のフォーマットで得られる。これらのフォーマットとして、種々の色(例えば、青、赤、緑、黄、黒)、種々の蛍光体(例えば、Pacific Blue(青)、Alexa Fluor(登録商標)(青)、Fluorescein(緑)、Fluorescein(赤)、FirefliTM(赤)、Fluorescein(緑)、Fluorescein(赤)、または、FluoresceinおよびRhodamine(赤緑))、および種々の大きさ(例えば、5.4μm(1.14×1010ビーズ/グラム)および7.6μm(4.10×109ビーズ/グラム)などが挙げられる。CML微小球および他の微小球は、1つまたは複数の可視染料および/または蛍光体が付加されるように調製されてもよい。
【0101】
一実施形態では、微小球のようなタグは、タンパク質によって被覆されないようになっている。
【0102】
有利には、タンパク質(例えば、ストレプトアビジン)によって被覆されていないCML微小球は、高度に負に帯電されているので、正の電荷を有するマイクロキャリアに極めて緊密に付着する。製造プロセスの種々のパラメータを変化させることによって、Bangs Laboratoriesなどの商業的な微小球提供業者は、種々の大きさに基づいて互いに区別可能なビーズセット(例えば、4.4μmおよび5.5μm直径のビーズセット)を製造し得る。各寸法グループ内のビーズは、単一の蛍光染料の特異的な付加による種々の蛍光強度に基づいて、互いにさらに区別可能である。本明細書に記載されている微小球に付着させることができる種々の吸収特性または発光特性を有する多くの異なる染料を用いることができる。従って、タグの多様性は、種々のタグの大きさおよび/または蛍光体付加(すなわち、蛍光強度)および/または蛍光体の同一性/組合せから得られる。特に、タグの多様性は、タグが担持する蛍光体の型(例えば、ビーズにUV2またはStarfire Redが付加されてもよい)、大きさ(例えば、各蛍光体につき、5つの異なるビーズサイズ、1.87、4.41、5.78、5.37、および9.77ミクロン)および/またはタグが担持する蛍光体の量(各染料につき5つの異なる強度が利用可能である)から得られる。TRITCのような他の蛍光体が用いられてもよい。フィルターを用いて、任意の所定のビーズの少なくとも4つの異なる染料を検出することができる。例えば、TRITCを可視化するには、NikonのTRITCフィルター(ex 540/25;dm 565;ba 605/55)を用いることができる。UV2を可視化するには、NikonのDAPIフィルター(ex 340−380;dm 400;ba 435−485)を用いることができる。FITCを可視化するには、NikonのGFP-Bフィルター(ex 460−500;dm 505;ba 510−560)を用いることができる。Starfire Redを可視化するには、Cy5フィルターセット(Chroma Technology社のカタログ番号41008)を用いることができる。
【0103】
微小球は、可視染料または蛍光染料によって、内部的に染色されてもよいし、または外部的に染色されてもよい。典型的には微小球を染料または蛍光体を含む溶液に浸すことによって、染料を微小球塊内に含ませると、内部染色が生じる。染料を微小球の表面に結合させると、外部修飾、例えば、前述したようなイソチオシアン酸誘導体によるCML微小球の修飾が生じる。従って、いくつかの実施形態では、可視染料または蛍光染料によって、微小球を内部的または外部的に染色することができる。好都合に読み取ることができる極めて多数の種々の蛍光標識を得るために、「量子ドット」を用いることがさらに可能である。
【0104】
一実施形態では、フローサイトメトリーを用いて、1つまたは複数の微小球の同一性を決定してもよい。フローサイトメトリー読み出しに用いられるように設計された微小球は、当技術分野において入手可能である。
【0105】
いくつかの実施形態では、量子ドットは、光に暴露されたときに該量子ドットが退色(光漂白)しないという事実から、好ましい。例えば、蛍光体FITCは、光漂白することが知られており、FITCを含むタグによって処理された細胞単位は、暗い場所において理想的に取り扱われ、確実に解析することが困難である。量子ドットは、ポリスチレンを重合するときに微小球に組み入れられてもよく、その結果、タグの均一な付加が得られる。量子ドットは、多くの色で利用可能であるが、同一波長で励起されるので、カラ―CCDカメラを用いることによって、フィルターを用いることなく、多数の色を可視化することが可能である。量子ドットに関するさらなる背景情報は、米国特許第6,322,901号、米国特許第6,576,291号、米国特許出願公開第2003/0017264号、米国特許第6,423,551号、米国特許第6,251,303号、米国特許第6,319,426号、米国特許第6,426,513号、米国特許第6,444,143号、米国特許出願公開第2002/0045045号、米国特許第5,990,479号、米国特許第6,207,392号、米国特許第6,251,303号、米国特許第6,319,426号、米国特許第6,426,513号、および米国特許第6,444,143号から入手可能である。
【0106】
有利には、タグは、例えば、化学的改変または他の改変、またはカプセル封入によって、細胞培養物の成分による分解に対して保護されている。タグのカプセル封入は、多くの異なる媒体、例えば、本明細書において前述したビーズ、例えば、Bangs Laboratories Inc. (Fishers Ind, USA) のビーズに対して行うことができる。カプセル封入は、タグを増幅および/または検出するための構成要素を設けること(例えば、DNAタグと共に用いられるPCRプライマーを設けること)に加えて、タグの付加量を標準化させるために、用いられてもよい。タグの検出は、当業者に知られている種々の方法によって達成することができる。この方法として、質量分析、核磁気共鳴、シーケンシング、ハイブリダイゼーション、抗原検出、電気泳動、分光分析、顕微鏡分析、画像分析、蛍光検出などが挙げられる。いくつかの実施形態では、タグが典型的には色または蛍光体を含んでいるので、フローサイトメトリー、顕微鏡分析、分光分析、画像解析および/または蛍光検出が用いられてもよい。
【0107】
タグは、まず第1に、必ずしも、それらの化学的または分子構造によって互いに区別される必要がない。混合物中の所定の細胞単位の同一性を決定するために、または混合物を構成する種々の細胞単位の同一性を推測するために、非化学的タグ付け手法の多くの変形形態が考えられる。例えば、光学的または視覚的にタグ付けする方法が、すでに記載されている。これらの方法では、種々の形状の対象物、図式的にコード化された対象物、または異なる色によって、サンプルの同一性を示すようになっている(例えば、1998, Guiles et al, Angew. Chem. Intl Ed Engl, vol. 37, p926; Luminex Corp. Austin Tex., USA; BD Biosciences; Memobead Technologies, Ghent, Belgium参照)。好適には、タグは、帯電されたタグ(例えば、負に帯電されたタグ)である。好適には、タグは、マイクロキャリア、たとえば、多孔性マイクロキャリアと複合体を形成している。典型的には、マイクロキャリアは、実効電荷を有している。典型的には、マイクロキャリアおよびタグは、互いに逆の電荷を有している。マイクロキャリアは、タンパク質、セルロース、ポリエチレン、ポリスチロール、ガラス、コラーゲン、コラーゲン−グリコース−アミノグリカン、ゼラチン、またはこれらの誘導体を含んでいるか、またはそれらからなっているか、またはそれらから本質的になっている。マイクロキャリアは、Cultisphere-Gマイクロキャリア、Cultisphere-GLマイクロキャリア、Cultisphere-Sマイクロキャリア、Informatrixマイクロキャリア、Microsphereマイクロキャリア、Siranマイクロキャリア、FibraCel(登録商標)Disksマイクロキャリア、Cytolineマイクロキャリア(例えば、Cytoline1マイクロキャリアまたはCytoline2マイクロキャリア)、Cytodexマイクロキャリア(例えば、Cytodex1マイクロキャリア、Cytodex2マイクロキャリア、またはCytodex3マイクロキャリア)、Cytopore マイクロキャリア(例えば、Cytopore1 マイクロキャリアまたはCytopore2 マイクロキャリア)、Biosilonマイクロキャリア、Bioglassマイクロキャリア、FACT IIIマイクロキャリア、Collagen Cマイクロキャリア、Hillex IIマイクロキャリア、ProNectin Fマイクロキャリア、Plasticeマイクロキャリア、Plastic Plusマイクロキャリア、Nunc 2D MicroHexTMマイクロキャリア、Glassマイクロキャリア(Sigma Aldrich)、DE52/53マイクロキャリア、またはこれらの組合せまたは誘導体からなる群から選択され得る。
好適には、帯電されたタグは、球、例えば、約20μm未満の直径を有する微小球である。
【0108】
微小球は、カルボキシレート修飾(CML)微小球であってもよい。さらに他の実施形態では、タグは、桿状粒子である。好ましくは、桿状タグは、ナノワイヤである。ナノワイヤは、金または銀のような種々の金属を含んでいてもよいし、または該金属からなっていてもよいし、または本質的になっていてもよい。ナノワイヤは、銀および/または金のような種々の金属から作製された種々の長さのセグメントからなっていてもよい。好適には、ナノワイヤは、約1μm以下の直径および/または約10μm以下の長さを有している。ナノワイヤは、Science vol. 294, p. 137-141 (2001) に記載されているようなナノワイヤであってもよい。従って、マイクロキャリアおよびナノワイヤを備えている複合物も、ここに記載されることになる。簡単に述べると、ナノワイヤは、サブミクロンのストライプによって本質的にコード化された多金属微小桿である。金属イオンを均一な大きさの細孔を有するテンプレート上に連続的に析出させることによって、複合パターンを生じさせることができる。有利には、ナノワイヤは、各スプリットの後に添加可能なタグとして用いられるのに十分なほど小さい。これは、正のマイクロキャリアにおいてのみタグを読み取る必要があるので、より好都合である。ナノワイヤのような桿状粒子のパラメータとして、制限されるものではないが、サイズ、光学的性質、および/または金属組成が挙げられる。一実施形態では、光学的特性は、特定波長の光反射率などの光反射率、色、蛍光発光波長、および蛍光発光強度からなる群から選択されている。いくつかの実施形態では、ナノワイヤなどの桿状粒子は、外部的に染色されている。桿状タグと一緒に用いられるマイクロキャリアは、本明細書において説明したものである。
【0109】
有利には、桿状タグおよび電荷中性多孔性マイクロキャリアの使用は、同じマイクロキャリアに対する球状タグの使用よりも良好であることが見出されている。特定の理論に縛られることを望んではいないが、より小さいタグは、マイクロキャリアの孔に良好に貫入し、(おそらく、サイズ非対称に起因して)該孔に引っ掛かると考えられる。従って、ナノワイヤの結合は、例えば、微小球タグの結合よりも良好であり、高レベルの永続的なタグ付けをもたらすことになる。他の実施形態では、1つまたは複数のポリスチレンマイクロビーズが1つまたは複数のCultisphere-Gマイクロキャリアと複合体を形成している。いくつかの実施形態では、タグは、DNAタグではない。いくつかの実施形態では、タグは、外部的に染色されたタグである。
【0110】
さらに他の実施形態では、タグは、RFIDタグにおけるように、情報を伝達するために無線を用いている。RFIDは、一般的に、トランスポンダ(RFタグ)、アンテナ、およびリーダを用いている。RFタグは、通常はガラスまたはプラスチックによって包み込まれた小形電子回路であり、その最も単純な形態では、固有の識別コードにアクセスするようになっている。該識別コードは、適切な電子機器によって、接触することなくまたは視線方向に制限されることなく、「読み取り」可能である。また、タグは、ここでも接触することなくまたは視線方向に制限されることなく、ユーザによってもたらされた情報を記憶するようになっている。「リーダ」は、1つまたは複数のタグに情報を伝達し、かつ1つまたは複数のタグから情報を伝達する電子ユニットである(「リーダ」という用語は、読取専用ユニットおよび読取/書込ユニットの両方を意味するように、互換的に用いられることに留意されたい)。リーダの大きさおよび特徴は、著しく多種多様であり、単独で操作されてもよいし、または遠隔コンピュータシステムに接続されていてもよい。リーダからの情報をタグに伝達し、RFタグから送信された情報を受信するために、アンテナが用いられる。アンテナの大きさおよび構成は、具体的な用途によって異なり、小さい回路コイルから大きい平面構造まで多岐にわたっている。RFIDシステムは、単独で操作されてもよいし、またはタグから得られた識別子および関連データをより包括的に解釈および取り扱うために、遠隔コンピュータに接続されてもよい。1つのRFID手法が、Nicolaou et al.(1995, Angew Chem Intl Engl, vol. 34, p. 2289)に記載されている。このRFID手法は、(i)合成回路基板および半導体タグを含む多孔性筐体、(ii)固相合成樹脂、および(iii)高周波信号を受信し、記憶し、および発信することができる、ガラスに包み込まれた単一または複数アドレス可能な高周波タグ半導体ユニットを用いている。同様の装置が、固相合成樹脂を組織培養マイクロキャリアまたは適切な細胞単位に置き換えることによって、細胞単位を成長させ、かつ該細胞単位を追跡する方法に簡単に適合させることができる。この手法のさらに多くの変形形態、例えば、制限されるものではないが、細胞が直接(被覆または未被覆)RFタグ上に成長する形態、またはRFタグが細胞単位または有機体内に移植される形態も考えられる。
【0111】
<細胞単位の形成>
細胞の群(細胞コロニー)は、種々の条件下における細胞培養によって成長することができ、このコロニーは、種々の条件下において、例えば、撹拌されたとき、および他のコロニーと混合されたときに、その完全な状態を殆ど維持することができる。このような群またはコロニーは、本明細書において、細胞単位と呼ばれている。細胞単位の形成は、一例にすぎないが、キャリアのような固体基材上に付着した培養物として細胞を成長させることによって、達成される。もしキャリア上に蒔種した後に細胞増殖が生じたなら、娘細胞が同一キャリア上に付着し、同一コロニーの一部を形成する。一般的に、生きた付着細胞は、それらの成長基材から容易に解離せず、従って、細胞コロニーの完全な状態は、キャリアの任意の機械的操作、培地の撹拌、または他の組織培養システムへの移送にも関わらず、持続することになる。同様に、もし複数のキャリアが同一の容器に入れられるとき、例えば、多数のビーズがプールされるときはいつでも、細胞は、1つのビーズから他のビーズに実質的に移動することがない。細胞単位を固体基材上に形成する重要な利点は、基材、従って、該基材に付随している付着細胞を、本明細書に記載されているように、標識化することができることである。細胞がより小さいキャリア上で成長する場合、該細胞は、懸濁培養物として処理可能である。細胞を小さいキャリア上で成長させる一般的な方法は、マイクロキャリア細胞培養と呼ばれている(Amersham Biosciences (18-1140-62)から入手可能な“Microcarrier cell culture, Principles and Methods”、Edition AA参照。この文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)。マイクロキャリア培養物は、最大4000リットルの発酵装置内での抗体およびインターフェロンの産出のために商業的に用いられている。キャリアの物理的な特性がよく知られているので、実験に用いられるキャリアの数を算出することが容易である。
【0112】
キャリアは、乾燥生成物として入手可能である。この乾燥生成物としてのキャリアは、正確に秤量可能であり、次いで、液体培地内で膨張させることによって調製されることになる。加えて、マイクロキャリア培養物を接種するのに用いられる細胞の数は、算出することができ、変更することもできる。本明細書に記載されているマイクロキャリア上で成長した細胞の採取、またはマイクロキャリアからの標識の遊離は、細胞の酵素的剥離および/または必要に応じて、本明細書に記載されているようなキャリアの分解によって、達成することができる。
【0113】
図面に示されている寸法のいずれも、本明細書の好ましい実施形態のものであり、本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。
【0114】
前述の明細書に記載されている刊行物は、全て、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。当業者であれば、本発明の記載されている態様および実施形態の種々の修正形態および変更形態が、本発明の範囲から逸脱することなく、明らかになるであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して説明してきたが、請求項に記載の本発明は、このような特定の実施形態に過度に制限されるべきではないことを理解されたい。実際、当業者にとっては明らかである本発明を実施するためのここに記載されている態様の種々の変更形態は、以下の請求項の範囲内に含まれていることが意図されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の培養区画とプーリング区画とを備える、細胞を培養するための装置であって、
前記2つ以上の培養区画の各々は、他の培養区画から分離されており、
前記2つ以上の培養区画の各々は、培地の添加または除去のためのポートを備え、
前記プーリング区画は、前記2つ以上の培養区画と連通する、
装置。
【請求項2】
前記2つ以上の培養区画に存在する細胞培養物が、前記プーリング区画に移送されることにより混合され得る、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プーリング区画に存在する細胞培養物が、前記培養区画に移送されることによりスプリットされ得る、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
細胞培養物が、前記装置を傾転させることによって、前記培養区画と前記プーリング区画との間で移送され得る、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
各培養区画に存在する前記ポートが、細胞単位を前記区画内に保持しながら、細胞単位から解離した培地、タグ、および細胞の任意の1つまたは複数の除去を可能にするフィルターを備える、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記ポートに加えて、培地の添加または除去のための1つまたは複数の経路を備える、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
細胞を培養するための装置であって、分離壁によって互いに隔離された複数の培養区画を備え、前記培養区画の少なくとも2つは、前記培養区画の一端においてプーリング区画に接合されており、これによって、前記装置が前記プーリング区画の方向に傾転されたとき、培地が前記平行の区画から前記プーリング区画に流れて、前記2つ以上の区画からの培地がプールされ、かつ、前記装置が前記培養区画の方向に傾転されたとき、前記プーリング区画内の培地が前記分離壁によって分離された前記2つ以上の培養区画に分割され、ここで、各培養区画は、培地の添加または除去のためのポートを備える、装置。
【請求項8】
前記培養区画が、前記容器内において、実質的に互いに配置されている、請求項8に記載の装置。
【請求項9】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、アラミドポリマー、および金属、またはこれらの組合せからなる群から選択される材料から構成される、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
少なくとも部分的に光学的に透明である、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記区画のいくつかまたは全てを少なくとも部分的に覆うダストシールドまたは蓋を備える、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
細胞の培養物を繰り返しスプリットおよびプールするための方法であって、
(a)一種または複数種の細胞培養物を準備し、先行する請求項のいずれかに記載の装置の2つ以上の培養区画間に前記培養物を分配するステップと、
(b)任意選択的に、同じでもよいし、または異なっていてもよい一種または複数種の培地試薬を、前記2つ以上の区画の1つまたは複数に添加し、および/または前記2つ以上の区画の1つまたは複数から除去し、および/または前記細胞を培養するステップと、
(c)前記細胞培養物を前記プーリング区画内にプールし、プールされた細胞培養物を生じさせるステップと、
(d)前記プールされた培養物を前記培養区画に分配することによって、前記プールされた細胞培養物をスプリットするステップと、
(e)任意選択的に、ステップ(b)〜(d)の1つまたは複数を繰り返すステップと
を含む、方法。
【請求項13】
前記細胞を前記区画の1つまたは複数から隔離するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞を培養するステップを含み、前記細胞を培養するステップは、(i)前記細胞を前記2つ以上の区画から1つまたは複数の別の入れ物に移送するサブステップと、(ii)前記細胞を前記1つまたは複数の入れ物内において培養するサブステップと、(iii)任意選択的に、前記細胞を請求項1〜11のいずれかに記載の装置に戻すサブステップとを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞を前記装置の前記2つ以上の区画において培養するステップを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の装置と、1つまたは複数のマイクロキャリアと、任意選択的に、1つまたは複数のタグとを備える、キット。
【請求項17】
前記タグが、マイクロキャリアを標識化するためにおよび/または細胞を標識化するために用いられる、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
細胞および/または細胞培養物または洗浄培地をさらに備える、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
請求項1〜11のいずれかに記載の装置のためのスタンドであって、前記装置を少なくとも第1および第2の方向に支持するための支持手段を備え、前記第1および第2の方向は互いに角度的にずれている、スタンド。
【請求項20】
前記装置を前記第1の方向に支持するための第1の対の協働するスロットと、前記装置を前記第2の方向に支持するための第2の対の協働するスロットとをさらに備える、請求項19に記載のスタンド、あるいは、前記支持手段が、前記装置が前記第1の位置から前記第2の位置に移動することができるように、前記装置を移動可能に支持するように適合されている、請求項16に記載のスタンド。
【請求項1】
2つ以上の培養区画とプーリング区画とを備える、細胞を培養するための装置であって、
前記2つ以上の培養区画の各々は、他の培養区画から分離されており、
前記2つ以上の培養区画の各々は、培地の添加または除去のためのポートを備え、
前記プーリング区画は、前記2つ以上の培養区画と連通する、
装置。
【請求項2】
前記2つ以上の培養区画に存在する細胞培養物が、前記プーリング区画に移送されることにより混合され得る、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プーリング区画に存在する細胞培養物が、前記培養区画に移送されることによりスプリットされ得る、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
細胞培養物が、前記装置を傾転させることによって、前記培養区画と前記プーリング区画との間で移送され得る、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
各培養区画に存在する前記ポートが、細胞単位を前記区画内に保持しながら、細胞単位から解離した培地、タグ、および細胞の任意の1つまたは複数の除去を可能にするフィルターを備える、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記ポートに加えて、培地の添加または除去のための1つまたは複数の経路を備える、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
細胞を培養するための装置であって、分離壁によって互いに隔離された複数の培養区画を備え、前記培養区画の少なくとも2つは、前記培養区画の一端においてプーリング区画に接合されており、これによって、前記装置が前記プーリング区画の方向に傾転されたとき、培地が前記平行の区画から前記プーリング区画に流れて、前記2つ以上の区画からの培地がプールされ、かつ、前記装置が前記培養区画の方向に傾転されたとき、前記プーリング区画内の培地が前記分離壁によって分離された前記2つ以上の培養区画に分割され、ここで、各培養区画は、培地の添加または除去のためのポートを備える、装置。
【請求項8】
前記培養区画が、前記容器内において、実質的に互いに配置されている、請求項8に記載の装置。
【請求項9】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、アラミドポリマー、および金属、またはこれらの組合せからなる群から選択される材料から構成される、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
少なくとも部分的に光学的に透明である、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記区画のいくつかまたは全てを少なくとも部分的に覆うダストシールドまたは蓋を備える、先行する請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
細胞の培養物を繰り返しスプリットおよびプールするための方法であって、
(a)一種または複数種の細胞培養物を準備し、先行する請求項のいずれかに記載の装置の2つ以上の培養区画間に前記培養物を分配するステップと、
(b)任意選択的に、同じでもよいし、または異なっていてもよい一種または複数種の培地試薬を、前記2つ以上の区画の1つまたは複数に添加し、および/または前記2つ以上の区画の1つまたは複数から除去し、および/または前記細胞を培養するステップと、
(c)前記細胞培養物を前記プーリング区画内にプールし、プールされた細胞培養物を生じさせるステップと、
(d)前記プールされた培養物を前記培養区画に分配することによって、前記プールされた細胞培養物をスプリットするステップと、
(e)任意選択的に、ステップ(b)〜(d)の1つまたは複数を繰り返すステップと
を含む、方法。
【請求項13】
前記細胞を前記区画の1つまたは複数から隔離するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞を培養するステップを含み、前記細胞を培養するステップは、(i)前記細胞を前記2つ以上の区画から1つまたは複数の別の入れ物に移送するサブステップと、(ii)前記細胞を前記1つまたは複数の入れ物内において培養するサブステップと、(iii)任意選択的に、前記細胞を請求項1〜11のいずれかに記載の装置に戻すサブステップとを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞を前記装置の前記2つ以上の区画において培養するステップを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の装置と、1つまたは複数のマイクロキャリアと、任意選択的に、1つまたは複数のタグとを備える、キット。
【請求項17】
前記タグが、マイクロキャリアを標識化するためにおよび/または細胞を標識化するために用いられる、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
細胞および/または細胞培養物または洗浄培地をさらに備える、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
請求項1〜11のいずれかに記載の装置のためのスタンドであって、前記装置を少なくとも第1および第2の方向に支持するための支持手段を備え、前記第1および第2の方向は互いに角度的にずれている、スタンド。
【請求項20】
前記装置を前記第1の方向に支持するための第1の対の協働するスロットと、前記装置を前記第2の方向に支持するための第2の対の協働するスロットとをさらに備える、請求項19に記載のスタンド、あるいは、前記支持手段が、前記装置が前記第1の位置から前記第2の位置に移動することができるように、前記装置を移動可能に支持するように適合されている、請求項16に記載のスタンド。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図6A)】
【図6B)】
【図6C)】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図19A】
【図19B】
【図20A】
【図20B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図6A)】
【図6B)】
【図6C)】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図19A】
【図19B】
【図20A】
【図20B】
【公表番号】特表2013−501509(P2013−501509A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524153(P2012−524153)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004976
【国際公開番号】WO2011/018234
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(511193640)プラスティセル リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Plasticell Limited
【住所又は居所原語表記】The London Bioscience Innovation Centre, 2 Royal College Street, London, NW1 0NH, United Kingdom
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004976
【国際公開番号】WO2011/018234
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(511193640)プラスティセル リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Plasticell Limited
【住所又は居所原語表記】The London Bioscience Innovation Centre, 2 Royal College Street, London, NW1 0NH, United Kingdom
【Fターム(参考)】
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