細胞侵襲用プローブ及び該細胞侵襲用プローブを有する細胞侵襲装置、並びに、細部侵襲方法
【課題】細胞膜に与える影響を極力抑えながら、死滅させることなく細胞内に侵襲する細胞侵襲用プローブおよび細胞侵襲装置の提供。
【解決手段】液中にて基板2上に培養されている細胞Sに対向配置されると共に、基板表面に平行なXY方向及び該XY方向に直交するZ方向に相対移動可能なプローブであって、先端が先鋭化され、細胞内に穿刺される探針3aと、該探針を片持ち状態に支持するレバー部3bと、探針の外表面上に形成された脂質二分子膜3cとを備え、探針を細胞に穿刺したときに脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化される細胞侵襲用プローブ。
【解決手段】液中にて基板2上に培養されている細胞Sに対向配置されると共に、基板表面に平行なXY方向及び該XY方向に直交するZ方向に相対移動可能なプローブであって、先端が先鋭化され、細胞内に穿刺される探針3aと、該探針を片持ち状態に支持するレバー部3bと、探針の外表面上に形成された脂質二分子膜3cとを備え、探針を細胞に穿刺したときに脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化される細胞侵襲用プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス分野、再生医療等に関連する分野において、細胞への各種の溶液の導入や、精子、卵子等の物質の導入や、細胞内の内容物の吸引等を行うために細胞内に侵襲する細胞侵襲用プローブ及び該細胞侵襲用プローブを有する細胞侵襲装置、並びに、細胞侵襲方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフサイエンス分野、再生医療やゲノム創薬等の分野において、細胞に遺伝子や各種の薬剤を導入して、細胞の性質を改変することが行われている。これは、タンパク質発現や細胞動態(細胞の大きさ、形や細胞そのものの動き等の変化)を観察することで、遺伝子機能の解析等を行うためである。
また、細胞生物学の分野においても、1つ1つの細胞の個性を調べる研究が行われるようになっており、1つの細胞での遺伝子発現変化等を観察するために、生きた細胞から僅かな量の生体分子を取り出して解析する技術が不可欠なものとされている。
このように、1つ1つの細胞に各種の溶液を導入したり、精子、卵子等の物質を導入したり、細胞内から生体分子等の内容物を吸引して採取したりすることが、近年では頻繁に行われている。
【0003】
ところで、細胞への導入方法としては、様々な方法が提供されている。例えば、電気刺激を利用した導入方法や、電荷の差異を利用した導入方法や、リポソームを利用した導入方法等が知られている。しかしながら、これらの方法は、一般的に1個の細胞をターゲットにすることができず、複数の細胞に対して統計的に導入を処理するものであった。具体的には、電気刺激やpHの調整等によって、細胞膜(脂質二分子膜)を一時的に破壊することによって細胞膜内への導入を促すものであった。そのため、上述したニーズに対応することができなかった。
【0004】
一方、単一細胞を対象とした導入方法として、所望する細胞にガラスキャピラリー等の微小針を挿入して、各種溶液や卵子等の物質を導入する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、1個の細胞に対してのみ導入を行うことができるので、上述したニーズに対応することが可能な方法である。
【特許文献1】特開2006−34174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では以下の課題が残されていた。
即ち、微小針を利用する方法は、該微小針を細胞に侵襲させる(刺す)ことで、各種の溶液や物質を導入したり、細胞内から生体分子等の物質を吸引して採取したりする方法であるが、図13に示すように、微小針30を細胞Sに刺したときに、穴が開く前に細胞Sが自身の軟性(弾性)により凹んでしまい、微小針30が確実に細胞S内に侵入したか否かを判断することが困難なものであった。
【0006】
また、仮に細胞S内への侵襲ができたとしても、図14に示すように、細胞Sに対して十分に小さくない微小針30が細胞膜S1を物理的に突き破って内部に侵襲するので、細胞S自体を破壊する可能性があった。また、細胞膜S1に存在する各種タンパク質を微小針30と一緒に、細胞S内に混入させる恐れもあった。更に、微小針30を細胞Sから引き上げる際にも、図15に示すように、細胞Sから細胞膜S1の一部を奪い取ってしまう恐れがあった。これは、細胞Sから微小針30を引き抜く際に、微小針30に付着した細胞膜S1の一部が微小針30と一緒に引き抜かれてしまうからである。
【0007】
このように従来の方法では、細胞膜S1表面に存在する各種タンパク質(Gタンパクを代表とする膜タンパク質等)や糖鎖糖を物理的に破壊したり、微小針30と一緒に引き抜いてしまったりする恐れがあった。そのため、細胞S投入した後に期待される細胞分裂や、細胞S内部でのタンパク合成等が阻害されてしまうという問題があった。特に、哺乳類等においては、この現象が顕著なものであった。
【0008】
一方、細胞S内に含まれる物質を観察したいというニーズが近年高まってきている。一般的な高分解能観察においては、光学顕微鏡を利用する手法が代表的であるが、高分解能とはいえ、やはり分解能に限界があり、細胞S内を正確に観察することは困難であった。そのため、光学顕微鏡に代わる方法として、細胞Sを乾燥させた後にレプリカ法等によってSEM(走査形電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)による高分解能観察を行ったり、細胞Sを凍結させた後にSEMによって観察を行ったりする等の手法が用いられてきた。
【0009】
しかしながらこれらの方法は、細胞Sを一旦死滅させた後に観察を行う方法であるので、正確な観察を行うことができなかった。また、生きたままの状態による経時的な観察に関しても行うことができなかった。
なお、細胞S内部に蛍光物質を導入した一分子蛍光観察も考えられるが、この手法は対象とした一分子又はその集団の蛍光を追跡することによる観察手法であり、形態学的な知見が得られるものではなかった。
【0010】
そこで、微小針30に代えて、先端に探針を有する走査型プローブ顕微鏡のプローブを細胞S内に侵襲させ、該プローブを利用して観察する方法が考えられる。しかしながら、この場合であっても、プローブを侵襲させる際に細胞Sが死滅する可能性があった。また、細胞Sが死滅しない場合であっても、図16に示すように、プローブ先端の探針31をスキャンさせる際に、探針31が細胞膜S1にダメージを与えてしまうと共に、細胞膜S1から探針31が微小な抵抗を受けてしまうので、正確な観察を行うことができなかった。
【0011】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、細胞膜に与える影響を極力抑えながら、死滅させることなく細胞内に侵襲することができると共に、細胞内の内容物を生きたままの状態で正確に観察することができる細胞侵襲用プローブ及び該細胞侵襲用プローブを有する細胞侵襲装置、並びに、細胞侵襲方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係る細胞侵襲用プローブは、液中にて基板上に培養されている細胞に対向配置されると共に、基板表面に平行なXY方向及び該XY方向に直交するZ方向に相対移動可能な細胞侵襲用プローブであって、先端が先鋭化され、前記細胞内に穿刺される探針と、該探針を片持ち状態に支持するレバー部と、前記探針の外表面上に形成された脂質二分子膜とを備え、前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とするものである。
【0013】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、レバー部によって支持された探針の外表面上に、細胞表面の細胞膜と同じ構成の脂質二分子膜が形成されている。つまり、親水性、疎水性の両方の性質を持つ両親媒性の単一の分子が、疎水部同士を内側にした状態で配列されて二分子となり、これら二分子が探針の外表面に複数形成されることで脂質二分子膜が形成されている。
そのため、探針と細胞とをXY方向及びZ方向に向けて相対的に移動させて、探針を細胞に近づけると、まず探針の外表面に形成された脂質二分子膜が細胞膜に接触する。すると細胞膜は、該細胞膜と同じ構成である脂質二分子膜と融合し始め、細胞膜と脂質二分子膜とが徐々に一体化し始める。即ち、細胞膜が脂質二分子膜に引っ張られて、探針の外表面に移動し始めると共に、脂質二分子膜が細胞膜に引っ張られて、細胞膜に移動し始める。このように、細胞膜と脂質二分子膜とが、相互に移動し合って融合する。これにより、探針を細胞内に押し込むにつれて、細胞膜及び脂質二分子膜を探針の外表面上に押し退けることができる。
【0014】
よって、細胞膜を物理的に突き破ることなく、探針部分のみを細胞内に穿刺することができる。従って、従来のものとは異なり、細胞膜に与える影響を極力抑えることができ、培養中の細胞を死滅させることなく探針を細胞内に入れて侵襲させることができる。特に、従来のように細胞を物理的に穿刺するのではなく、脂質二分子膜と細胞膜とを融合させて一体化できるので、探針を穿刺するにあたり、細胞が凹んで探針から逃げてしまうことがない。この点からも、細胞に刺激等の影響を与えることなく、確実に侵襲を行うことができる。しかも、従来のように細胞膜を細胞内に混入させてしまうこともない。
【0015】
上述したように、この細胞侵襲用プローブによれば、細胞膜に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞内に侵襲できるので、細胞膜に存在する各種タンパク質に影響を与えずに、探針によって各種の計測を行うという、従来技術では困難であったことを可能にすることができる。
【0016】
また、探針を細胞内から引き抜く場合であっても、従来のように細胞膜を引き抜いてしまう恐れがない。つまり、探針の外表面に形成されている脂質二分子膜は、細胞膜と融合して既に一体的になっているので、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて探針と共に移動し難い状態となっている。そのため、探針を引き抜くと、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて細胞側に残り易く、主に探針だけを引き抜くことができる。なお、探針側の膜残りの制御は、引き上げスピードを変える等の動作によって行うことが可能である。
その結果、細胞膜を引き抜くことなく、探針を細胞内から引き抜くことができる。従って、探針を引き抜いた後であっても、細胞を死滅させることがない。また、探針を引き抜くにつれて、細胞膜は徐々に元の状態に戻り始めるので、細胞の表面を再び覆うことができる。なお、脂質二分子膜は、その一部が細胞側に残る場合があるが、この場合にはそのまま細胞膜となる。
【0017】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明の細胞侵襲用プローブにおいて、前記探針の外表面が、親水化処理がされていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、探針の外表面が親水化処理されて濡れ性が向上しているので、脂質二分子膜と外表面との密着性を向上することができる。従って、脂質二分子膜が途中で剥がれてしまうことがなく、プローブの信頼性を向上することができる。
【0019】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明の細胞侵襲用プローブにおいて、前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、探針を細胞内に侵襲させた後、管路を介して細胞内に所定の物質、例えば、薬液、DNA溶液、精子や卵子等を導入したり、細胞内から内容物、即ち細胞を構成する各種物質を吸引したりすることができる。このように、管路を利用することで、容易且つ確実に、多種多用の細胞計測(例えば、導電性流体を導入することによる電気刺激反応計測やイオン計測等)を行うことができ、より多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。
【0021】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明のいずれかの細胞侵襲用プローブにおいて、前記探針の先端と前記脂質二分子膜との間には、前記細胞内に投入する特定物質が予め担持されていることを特徴とするものである。
【0022】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、探針の先端と脂質二分子膜との間に、予め特定物質が担持されているので、探針を細胞内に侵襲させた後、確実且つ速やかにこの特定物質を細胞内に投入することができる。よって、細胞の反応を観察する等、さらに多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。また、探針を細胞内に侵襲するだけで、特定物質を直ちに投入できるので使い易い。
【0023】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明のいずれかの細胞侵襲用プローブにおいて、前記脂質二分子膜が、リン脂質又は糖脂質の両親媒性分子からなる膜であることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、脂質二分子膜が、リン脂質(スフィンゴリン脂質、グリセロリン脂質)又は、糖脂質(スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質)の両親媒性分子からなる膜とされている。具体的には、ホスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、コレステロール、ガラクトセレブロシド、GM1ガングリオシド、シアル酸(NANA)等の両親媒性分子からなる膜とされている。
【0025】
また、本発明に係る細胞侵襲装置は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲用プローブと、該細胞侵襲用プローブと前記基板とを前記XY方向及び前記Z方向に相対移動させて、前記探針を前記細胞に穿刺させる移動手段と、前記細胞を観察する観察手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る細胞侵襲装置においては、移動手段により細胞侵襲用プローブと基板とを、XY方向及びZ方向に向けて適宜相対的に移動させることで、狙った細胞内に探針を確実に侵襲することができる。この際、観察手段で細胞を観察できるので、より正確に侵襲を行うことができる。また、侵襲後の細胞の動態を生きたままの状態で観察して、正確な解析を行うことができる。
【0027】
また、本発明に係る細胞侵襲装置は、上記本発明の細胞侵襲装置において、前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整手段を備えていることを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る細胞侵襲装置においては、環境調整手段により、培養されている細胞の周囲環境、例えば、温度、湿度、気圧や二酸化炭素濃度等を、所定の環境条件に調整することができる。よって、細胞の種類等に応じて、環境を最適な状態に調整することができる。従って、より正確に細胞の観察を行うことができると共に、長期的な観察を行って解析することができる。
【0029】
また、本発明に係る細胞侵襲装置は、上記本発明の細胞侵襲装置において、前記レバー部の撓みを測定する変位測定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0030】
この発明に係る細胞侵襲装置においては、変位測定手段によりレバー部の撓みを測定できるので、細胞への侵襲や細胞からの引き抜きがされたか否かをより正確に判断することができる。また、探針を細胞内に侵襲させた状態で、細胞内をAFM観察することができる。従って、細胞内に含まれる各種の細胞物質を、生きたままの状態で高分解能且つ高精度に観察することができる。特に、脂質二分子膜と細胞膜とが融合しているので、探針を走査したとしても、従来のように細胞膜にダメージを与えることはない。
【0031】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、レバー部に片持ち状態に支持され、先端が先鋭化された探針を液中にて基板上に培養されている細胞に穿刺させる細胞侵襲方法であって、前記探針の外表面上に脂質二分子膜を形成する脂質膜形成工程と、該脂質膜形成工程後、前記細胞を観察しながら該細胞上に前記探針を移動させる移動工程と、該移動工程後、前記探針と前記細胞とを接近させて、探針を細胞に穿刺させる穿刺工程とを備え、前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とするものである。
【0032】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、まず脂質膜形成工程により、レバー部に片持ち状に支持された探針の外表面上に、細胞表面の細胞膜と同じ構成の脂質二分子膜を形成する。形成方法としては、例えば、予め脂質膜を展開した水溶液に探針を浸漬させた後、ゆっくり引き上げることで、探針の外表面に脂質二分子膜を付着させて形成する。つまり、親水性、疎水性の両方の性質を持つ両親媒性の単一の分子が、疎水部同士を内側にした状態で配列されて二分子となり、これら二分子が複数形成されることで脂質二分子膜が形成される。
【0033】
次いで、培養されている細胞を観察しながら、目的の細胞上に探針を移動させる移動工程を行う。この際、細胞を観察しているので、探針を目的の細胞上に正確に位置決めすることができる。
【0034】
次いで、この状態から探針と細胞とを接近させて、探針を細胞に穿刺する穿刺工程を行う。この穿刺工程を行うにあたり、探針と細胞とを接近させていくと、まず探針の外表面に形成された脂質二分子膜が細胞膜に接触する。すると細胞膜は、該細胞膜と同じ構成である脂質二分子膜と融合し始め、細胞膜と脂質二分子膜とが徐々に一体化し始める。即ち、細胞膜が脂質二分子膜に引っ張られて、探針の外表面に移動し始めると共に、脂質二分子膜が細胞膜に引っ張られて、細胞膜に移動し始める。このように、細胞膜と脂質二分子膜とが、相互に移動し合って融合する。これにより、探針を細胞内に押し込むにつれて、細胞膜及び脂質二分子膜を探針の外表面上に押し退けることができる。
【0035】
よって、細胞膜を物理的に突き破ることなく、探針部分のみを細胞内に穿刺することができる。従って、従来のものとは異なり、細胞膜に与える影響を極力抑えることができ、培養中の細胞を死滅させることなく探針を細胞内に入れて侵襲させることができる。特に、従来のように細胞を物理的に穿刺するのではなく、脂質二分子膜と細胞膜とを融合させて一体化できるので、探針を穿刺するにあたり、細胞が凹んで探針から逃げてしまうことがない。この点からも、細胞に刺激等の影響を与えることなく、確実に侵襲を行うことができる。しかも、従来のように細胞膜を細胞内に混入させてしまうこともない。
【0036】
上述したように、この細胞侵襲方法によれば、細胞膜に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞内に侵襲できるので、細胞膜に存在する各種タンパク質に影響を与えずに、探針によって各種の計測を行うという、従来技術では困難であったことを可能にすることができる。
【0037】
また、探針を細胞内から引き抜く場合であっても、従来のように細胞膜を引き抜いてしまう恐れがない。つまり、探針の外表面に形成されている脂質二分子膜は、細胞膜と融合して既に一体的になっているので、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて探針と共に移動し難い状態となっている。そのため、探針を引き抜くと、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて細胞側に残り易く、主に探針だけを引き抜くことができる。なお、探針側の膜残りの制御は、引き上げスピードを変える等の動作によって行うことが可能である。
その結果、細胞膜を引き抜くことなく、探針を細胞内から引き抜くことができる。従って、探針を引き抜いた後であっても、細胞を死滅させることがない。また、探針を引き抜くにつれて、細胞膜は徐々に元の状態に戻り始めるので、細胞の表面を再び覆うことができる。なお、脂質二分子膜は、その一部が細胞側に残る場合があるが、この場合にはそのまま細胞膜となる。
【0038】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明の細胞侵襲方法において、前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の外表面を親水化処理する親水化工程を行うことを特徴とするものである。
【0039】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、親水化工程により、探針の外表面を親水化処理して濡れ性を向上させるので、脂質二分子膜と外表面との密着性を向上することができる。従って、脂質二分子膜が途中で剥がれてしまうことがなく、プローブの信頼性を向上することができる。
【0040】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明の細胞侵襲方法において、前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されており、前記穿刺工程後、前記管路を利用して前記細胞内に所定の物質を導入、若しくは、細胞内から内容物を吸引する導入吸引工程を備えていることを特徴とするものである。
【0041】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、探針を細胞内に侵襲させた後、導入吸引工程を行うことで、管路を介して細胞内に所定の物質、例えば、薬液、DNA溶液、精子や卵子等を導入したり、細胞内から内容物、即ち細胞を構成する各種物質を吸引したりすることができる。このように、導入吸引工程を行うことで、容易且つ確実に多種多様な細胞計測(例えば、導電性流体を導入することによる電気刺激反応計測やイオン計測等)を行うことができ、より多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。
【0042】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲方法において、前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の先端に前記細胞内に投入する特定物質を予め担持させる担持工程を行い、前記穿刺工程時に、前記特定物質を前記細胞内に投入することを特徴とするものである。
【0043】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、担持工程により探針の先端に予め特定物質を担持しているので、穿刺工程時に確実且つ速やかにこの特定物質を細胞内に投入することができる。よって、細胞の反応を観察する等、さらに多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。また、探針を細胞内に侵襲するだけで、特定物質を直ちに投入できるので使い易い。
【0044】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲方法において、前記穿刺工程後、前記探針を前記細胞内で走査させて細胞内をAFM観察する観察工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0045】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、細胞内に侵襲させた探針を細胞内で走査させて、細胞内をAFM観察する観察工程を行うことで、細胞内に含まれる各種の細胞物質を生きたままの状態で高分解能且つ高精度に観察することができる。特に、脂質二分子膜と細胞膜とが融合しているので、探針を走査したとしても細胞膜が外表面上に逃げていく。従って、従来のように細胞膜にダメージを与えることはない。
【0046】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲方法において、前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整工程を備えていることを特徴とするものである。
【0047】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、環境調整工程により、培養されている細胞の周囲環境、例えば、温度、湿度、気圧や二酸化炭素濃度等を、所定の環境条件に調整することができる。よって、細胞の種類等に応じて、環境を最適な状態に調整することができる。従って、より正確に細胞の観察を行うことができると共に、長期的な観察を行って解析することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係る細胞侵襲用プローブ及び細胞侵襲方法によれば、細胞膜に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞内に侵襲することができる。
また、本発明に係る細胞侵襲装置によれば、上記細胞侵襲用プローブを備えているので、細胞の動態を生きたままの状態で観察して、正確な解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明に係る細胞侵襲用プローブ、細胞侵襲装置及び細胞侵襲方法の一実施形態について、図1から図12を参照して説明する。
本実施形態の細胞侵襲装置1は、図1に示すように、液中で細胞Sを培養するセル(基板)2と、細胞侵襲用プローブ3を有する走査型プローブ顕微鏡4と、細胞Sを観察する光学顕微鏡5を有する光学装置(観察手段)6とを組み合わせた装置である。
【0050】
走査型プローブ顕微鏡4は、細胞Sに対向配置された細胞侵襲用プローブ3と、該細胞侵襲用プローブ3とセル2とを、セル2の底面(基板表面)に平行なXY方向及びこれらXY方向に垂直なZ方向に相対移動させて、細胞侵襲用プローブ3の探針3aを細胞Sに穿刺させる移動手段7と、細胞侵襲用プローブ3のレバー部3bの撓みを測定する変位測定手段8と、これら各構成品を総合的に制御する制御部9とを備えている。
【0051】
上記セル2は、光学的に透明な材料により、上部が開口した断面コ形形状に形成されており、ステージ10上に保持されている。このセル2の内部には、培地(細胞Sが正常な機能を営むための要素を含む培養液)Wが貯留されており、底面に複数の細胞Sが培養されている。また、このセル2には、図示しないヒータや二酸化炭素供給部等が組み込まれており、例えば、培地Wの温度が37±0.5℃、二酸化炭素濃度が5%になるように調整されている。また、このセル2は、密閉された容器11内に収納されている。そしてこの容器11には、内部の圧力を任意の圧力(例えば、真空状態)に調整する真空ポンプ12と、容器11内に所定の湿度を持った空気を供給して湿度を調整する湿度調整部13とが接続されている。
【0052】
これらヒータ、二酸化炭素供給部、真空ポンプ12及び湿度調整部13によって、容器11内における細胞Sの周囲環境を培養に適した所定の環境条件に調整できるようになっている。即ち、これら容器11、ヒータ、二酸化炭素供給部、真空ポンプ12及び湿度調整部13は、環境調整手段14を構成している。
なお、セル2には、図示しない管路を介して培地Wが循環するようになっており、常に新しい培地Wが供給されるようになっている。
【0053】
上記光学顕微鏡5は、ステージ10の下方に配置されており、ステージ10の略中心に形成された開口10aを通してセル2の下側から複数の細胞Sの培養状態を観察できるようになっている。また、この光学顕微鏡5は、観察した画像を制御部9に接続されたモニタ15に出力している。これにより、作業者は、モニタ15に表示された画像を見ながら操作部で細胞Sの位置を特定できるようになっている。即ち、これら光学顕微鏡5及びモニタ15は、上記光学装置6を構成している。なお、モニタ15は、容器11の外部に配置されている。
【0054】
上記細胞侵襲用プローブ3は、先端が先鋭化され、細胞S内に穿刺される探針3aと、基端側が本体部に支持された状態で探針3aを片持ち状態に支持するレバー部3bと、探針3aの外表面上に形成された脂質二分子膜3cとで構成されている。
脂質二分子膜3cは、図2に示すように、探針3aを包み込むように該探針3aの外表面上に形成されている。この脂質二分子膜3cは、親水性、疎水性の両方の性質を持つ両親媒性の単一の分子が、疎水部P1を内側且つ親水部P2を外側にした状態で配列されて二分子となり、これら二分子が探針3aの外表面に複数形成されて膜状となったものである。
【0055】
本実施形態の脂質二分子膜3cは、リン脂質(スフィンゴリン脂質、グリセロリン脂質)又は、糖脂質(スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質)の両親媒性分子からなる脂質膜とされている。具体的には、ホスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、コレステロール、ガラクトセレブロシド、GM1ガングリオシド、シアル酸(NANA)等の両親媒性分子からなる膜とされている。
【0056】
ここで、リン脂質についてより詳細に説明すると、このリン脂質は、リン酸を親水部に持つ脂質であり、グリセリンの3つの水酸基の内端の1つにリン酸が、残りに脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸は、炭素数12〜18の飽和、不飽和の炭素鎖の端にカルボン酸がついた疎水的な分子である。脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレイン酸等である。
【0057】
上述した脂質二分子膜3cは、図3に示すように、細胞Sの表面を覆っている細胞膜S1と同じ構成からなる脂質膜である。そのため、探針3aを細胞Sに穿刺したときに、脂質二分子膜3cが細胞膜S1に融合して一体化するようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
【0058】
この細胞侵襲用プローブ3は、図1に示すように、本体部3dを介してXYZスキャナ16の下面に固定された斜面ブロック17にワイヤ等により着脱自在に固定されている。この際、細胞侵襲用プローブ3は、斜面ブロック17によってセル2の底面に対してレバー部3bが所定角度傾くように固定されている。また、細胞侵襲用プローブ3は、少なくとも探針3a部分が培地Wに浸かるように位置が調整されている。
【0059】
上記XYZスキャナ16は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等からなる圧電素子であり、容器11内に設けられている。そして、このXYZスキャナ16は、容器11の外側に配置されたドライブ回路18から電圧が印加されると、その電圧印加量及び極性に応じて、XY方向(セル2の底面に対して平行な方向)及びZ方向(セル2の底面に対して垂直な方向)の3方向に対して微小移動するようになっている。これにより、細胞侵襲用プローブ3をXY方向及びZ方向に移動させることができるようになっている。即ち、XYZスキャナ16及びドライブ回路18は、上記移動手段7を構成している。
【0060】
なお、本実施形態では、細胞侵襲用プローブ3をXYZ方向に移動させる構成としたが、この場合に限られず、ステージ10側をXYZ方向に移動させる構成としても構わない。この場合においても、スキャン方式が異なるだけで、以降に説明する作用効果と同様の作用効果を奏することができる。なお、細胞侵襲用プローブ3側及びステージ10側を共にXYZ方向に移動できるように構成しても構わない。
【0061】
また、細胞侵襲用プローブ3の上方であって容器11の外側には、レーザ光Lを照射する半導体レーザ光源20と、レバー部3bの図示しない反射面で反射されたレーザ光Lを受光するレーザ受光部21とが、図示しない架台に取り付けられている。レーザ受光部21は、例えば、4分割フォトディテクタであり、レーザ光Lの入射位置に基づいて、レバー部3bの撓み変化を検出している。そして、レーザ受光部21は、検出したレバー部3bの撓み変化を撓み信号に変換した後、制御部9に出力している。即ち、これら半導体レーザ光源20及びレーザ受光部21は、上記変位測定手段8を構成している。
なお、レーザ光Lは、容器11の上部に取り付けられたウインドウ22を介して、容器11内に入射したり、容器11外に出射したりするようになっている。
【0062】
制御部9は、レーザ受光部21から送られてきた撓み信号に応じて、ドライブ回路18を作動させるようになっている。また、この制御部9には、作業者が各種条件を入力したり、ドライブ回路18等を作動させたりするための操作部9aが接続されている。これにより作業者は、操作部9aを介してXYZスキャナ16を3次元方向に適宜移動することができるようになっている。
【0063】
次に、このように構成された細胞侵襲装置1を利用して、探針3aを細胞S内に侵襲させると共に、細胞S内を観察する細胞侵襲方法について説明する。
本実施形態の細胞侵襲方法は、探針3aの外表面に脂質二分子膜3cを形成する脂質膜形成工程と、該脂質膜形成工程後、細胞Sを観察しながら該細胞S上に探針3aを移動させる移動工程と、該移動工程後、探針3aと細胞Sとを接近させて探針3aを細胞Sに穿刺させる穿刺工程と、該穿刺工程後、探針3aを細胞S内で走査させて細胞S内をAFM観察する観察工程とを行う方法である。また、本実施形態では、細胞Sの周囲を培養に適した所定の環境条件に調整する環境調整工程も同時に行う。以下、これら各工程について、詳細に説明する。
【0064】
まず初めに、脂質膜形成工程により、探針3aの外表面上に細胞膜S1と同じ構成の脂質二分子膜3cを形成する。この際の形成方法としては、例えば、予め脂質膜を展開した水溶液に探針3aを浸漬させた後、ゆっくり引き上げることで、探針3aの外表面に脂質二分子膜3cを形成することができる。
そして、脂質二分子膜3cを形成した後、細胞侵襲用プローブ3を斜面ブロック17にセットすると共に、ステージ10上にセル2をセットする。次いで、ヒータ、二酸化炭素供給部、真空ポンプ12や湿度調整部13を適宜作動させて、環境条件を培養に最適な条件に調整する環境調整工程を行う。これによって、長期的な細胞Sの培養も行うことができる。
【0065】
次いで、セル2内で培養されている複数の細胞Sの培養状態を、セル2の下面側から光学顕微鏡5で観察する。そして作業者は、この観察された画像をモニタ15で確認しながら、探針3aを侵襲させる細胞Sを特定する。続いて、細胞Sの位置を特定した後、該細胞S上に探針3aを移動させる移動工程を行う。即ち、XYZスキャナ16を適宜XYZ方向に移動させて、特定した細胞S上に探針3aを位置させる。この際、光学顕微鏡5で撮像している画像をモニタ15で確認しながら行うので、探針3aを特定した細胞S上に正確に位置決めさせることができる。
【0066】
次いで、この状態からXYZスキャナ16をZ方向に微小移動させて探針3aと細胞Sとを接近させ、探針3aを細胞Sに穿刺する穿刺工程を行う。この穿刺工程を行うにあたり、探針3aと細胞Sとを接近させていくと、図4に示すように、まず探針3aの外表面に形成された脂質二分子膜3cが細胞膜S1に接触する。すると細胞膜S1は、該細胞膜S1と同じ構成である脂質二分子膜3cと融合し始め、細胞膜S1と脂質二分子膜3cとが徐々に一体化し始める。即ち、細胞膜S1が脂質二分子膜3cに引っ張られて探針3aの外表面に移動し始めると共に、脂質二分子膜3cが細胞膜S1に引っ張られて細胞膜S1に移動し始める。このように、細胞膜S1と脂質二分子膜3cとが、相互に移動し合って融合する。これにより、図5及び図6に示すように、探針3aを細胞S内に押し込むにつれて、細胞膜S1及び脂質二分子膜3cを探針3aの外表面上に押し退けることができる。
【0067】
その結果、図7に示すように、細胞膜S1を物理的に突き破ることなく、探針3a部分のみを細胞S内に穿刺することができる。従って、従来のものとは異なり、細胞膜S1に与える影響を極力抑えることができ、培養中の細胞Sを死滅させることなく探針3aを細胞S内に入れて侵襲させることができる。
特に、従来のように細胞Sを物理的に穿刺するのではなく、脂質二分子膜3cと細胞膜S1とを融合させて一体化できるので、探針3aを穿刺するにあたり、細胞Sが凹んで探針3aから逃げてしまうことがない。この点からも、細胞Sに刺激等の影響を与えることなく、確実に侵襲を行うことができる。しかも、従来のように細胞膜S1を細胞S内に混入させてしまうこともない。
【0068】
このように、本実施形態の細胞侵襲装置1及び細胞侵襲方法によれば、細胞膜S1に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞S内に侵入できるので、細胞膜S1に存在する各種タンパク質に影響を与えずに、探針3aによって各種の計測を行うという、従来技術では困難であったことを可能にすることができる。
また、光学顕微鏡5により細胞Sを観察できるので、侵襲後の細胞Sの動態を生きたままの状態で観察して、正確な解析を行うことができる。
特に本実施形態では、培養されている細胞Sの周囲環境を、培養に適した最適な環境条件に調整できるので、より正確に細胞Sの観察を行うことができると共に、長期的な観察を行って解析することができる。
【0069】
更に、探針3aが確実に細胞S内に侵襲したか否かに関しては、光学顕微鏡5によっても観察することができるが、本実施形態では、変位測定手段8を有する走査型プローブ顕微鏡4を備えているので、より高精度に侵襲の可否を判断することができる。
つまり、探針3aと細胞Sとを近接させることにより、脂質二分子膜3cと細胞膜S1とが接触すると、脂質二分子膜3cと細胞膜S1との融合等によりレバー部3bが撓み始める。そのため、レーザ受光部21に入射するレーザ光L(反射面で反射したレーザ光L)の位置が変化する。レーザ受光部21は、この変化に応じた撓み信号を制御部9に出力する。このように、制御部9は、探針3aを穿刺する過程で生じるレバー部3bの変位を直ちに知ることができる。そして、制御部9は、この撓み信号と予め定められた規定値とを比較することで、上述したように細胞S内に侵襲したか否かを高精度に判断することができる。
【0070】
また、穿刺工程が終了した後、XYZスキャナ16により細胞S内に侵襲させた探針3aをXY方向に走査させて、細胞S内をAFM観察する観察工程を行う。これにより、細胞S内の内容物である各種物質、例えば、細胞核の孔や微小管、アクチンフィラメント等を、生きたままの状態で高分解能且つ高精度に観察することができる。特に、脂質二分子膜3cと細胞膜S1とが融合しているので、探針3aを走査したとしても細胞膜S1が探針3aの移動に合わせて探針3aの外表面上に逃げていく。そのため、従来のように細胞膜S1にダメージを与えることはない。
【0071】
なお、探針3aを細胞S内から引き抜く場合であっても、従来のように細胞膜S1を引き抜いてしまう恐れがない。つまり、探針3aの外表面に形成されている脂質二分子膜3cは、細胞膜S1と融合して既に一体的になっているので、脂質二分子膜3cは細胞膜S1に引っ張られて探針3aと共に移動し難い状態となっている。そのため、探針3aを引き抜くと、脂質二分子膜3cは細胞膜S1に引っ張られて細胞S側に残り易く、主に探針3aだけを引き抜くことができる。なお、探針3a側の膜残りの制御は、探針3aの引き上げスピードを変える等の動作によって行うことが可能である。
その結果、細胞膜S1を引き抜くことなく、探針3aを細胞S内から引き抜くことができる、従って、探針3aを引き抜いた後であっても、細胞Sを死滅させることはない。また、探針3aを引き抜くにつれて、細胞膜S1は徐々に元の状態に戻り始めるので、細胞Sの表面を再び覆うことができる。なお、脂質二分子膜3cは、その一部が細胞S側に残る場合があるが、この場合にはそのまま細胞膜S1となる。
【0072】
なお、上記実施形態において、脂質膜形成工程の前に、探針3aの外表面を親水化処理する親水化工程を行っても構わない。
具体的には、探針3aの外表面にプラズマを照射することで親水化したり、UVオゾン環境による表面改質を行うことで親水化したり、探針3aの外表面に極薄膜のSiO2膜を形成し、該SiO2膜に存在する微細クラックによる保湿効果を利用することで親水化したりする。このように各種の親水化処理を施すことで、外表面の濡れ性を向上することができ、脂質二分子膜3cと探針3aの外表面との密着性を高めることができる。従って、脂質二分子膜3cが途中で剥がれてしまうことがなく、細胞侵襲用プローブ3の信頼性を向上することができる。
【0073】
また、上記実施形態において、脂質膜形成工程の前に、探針3aの先端に細胞S内に投入する特定物質Nを予め担持させる担持工程を行っても構わない。この工程を行うことで、図8に示すように、探針3aの先端と脂質二分子膜3cとの間に、何らかの特定物質N(例えば卵子等)を担持させることができる。
こうすることで、穿刺工程によって探針3aを細胞S内に侵襲させた際に、図9に示すように、担持した特定物質Nを確実且つ速やかに細胞S内に投入することができる。よって、細胞Sの反応を観察する等、さらに多角的な解析を行うことができる。特に、細胞Sを死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。また、探針3aを細胞S内に侵襲するだけで、特定物質Nを直ちに投入できるので使い易い。
【0074】
また、上記実施形態において、図10に示すように、探針3aの先端に開口を有する管路3eを、先端側から基端側に亘って形成しても構わない。このような細胞侵襲用プローブ3を利用することで、より多種多用な細胞Sの計測を容易且つ確実に行うことができる。即ち、穿刺工程後に、管路3eを利用して細胞S内に所定の物質を導入、若しくは、細胞S内から内容物を吸引する導入吸引工程を行うことができる。
具体的には、図11示すように、管路3eを通じて細胞S内に薬液、DNA溶液、精子や卵子等の各種物質を容易且つ確実に導入することができる。また、図12に示すように、細胞S内から内容物である各種物質を、やはり管路3eを通じて吸引することもできる。このように導入吸引工程を行うことで、容易且つ確実に多種多用の細胞S計測(例えば、導電性流体を導入することによる電気刺激反応計測や、イオン計測等)を行うことができ、より多角的な解析を行うことができる。特に、細胞Sを死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。
【0075】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0076】
例えば、上記実施形態では、変位測定手段8がレーザ光Lを利用した光てこ方式によりレバー部3bの撓みを測定したが、光てこ方式に限定されるものではない。例えば、レバー部3b自身に変位検出機構(例えば、ピエゾ抵抗素子等)を設けた自己検知方式によりレバー部3bの撓みを測定するように構成しても構わない。
【0077】
また、上記実施形態では、光学顕微鏡5を用いた場合を説明したが、細胞Sの確認と探針3aの位置合わせとを行えれば、どのような観察手段でも構わない。例えば、CCD等でも良い。但し、好ましくは生物用倒立型光学装置を用いると良い。
更に、上記実施形態では、走査型プローブ顕微鏡4と光学装置6とを組み合わせた場合を例に挙げて説明したが、走査型プローブ顕微鏡4は必須なものではない。例えば、細胞侵襲用プローブ3を有するマイクロマニュピレータと、光学装置とを組み合わせたものでも構わない。このように、細胞侵襲用プローブ3を操作して探針3aを細胞Sに穿刺させる移動手段と、細胞Sを観察する観察手段とを少なくとも備えていれば、細胞侵襲装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る細胞侵襲装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す細胞侵襲装置の細胞侵襲用プローブの先端を拡大した図である。
【図3】図1に示す細胞侵襲装置のセルで培養されている細胞の拡大図である。
【図4】図1に示す細胞侵襲装置を利用して本発明に係る細胞侵襲方法を行う場合の工程図であって、探針と細胞とを近接させて脂質二分子膜と細胞膜とを接触させた状態を示す図である。
【図5】図4に示す状態から、さらに探針と細胞とを近づけた状態を示す図である。
【図6】図5に示す状態から、さらに探針と細胞とを近づけた状態を示す図である。
【図7】図6に示す状態から、さらに探針と細胞とを近づけて探針を細胞内に侵襲させた状態を示す図である。
【図8】本発明に係る細胞侵襲用プローブの変形例を示す図であって、探針の先端に特定物質が予め担持されている細胞侵襲用プローブの先端拡大図である。
【図9】図8に示す探針を細胞内に侵襲させて、細胞内に特定物質を投入している状態を示す図である。
【図10】本発明に係る細胞侵襲用プローブの変形例を示す図であって、探針の先端に開口を有する管路が形成されている細胞侵襲用プローブの先端拡大図である。
【図11】図10に示す探針を細胞内に侵襲させて、管路を通じて細胞内に各種物質を導入している状態を示す図である。
【図12】図10に示す探針を細胞内に侵襲させて、管路を通じて細胞内から内容物を吸引している状態を示す図である。
【図13】従来の細胞侵襲方法を説明するための図であって、微小針を細胞膜に押し付けている状態を示す図である。
【図14】図13に示す状態から、細胞膜を突き破って微小針を細胞内に穿刺した状態を示す図である。
【図15】図14に示す状態から、微小針を細胞内から引き抜いた状態を示す図である。
【図16】従来の細胞侵襲方法を説明するための図であって、細胞膜を突き破って細胞内に侵襲させた探針をスキャンさせている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
N 特定物質
S 細胞
S1 細胞膜
1 細胞侵襲装置
2 セル(基板)
3 細胞侵襲用プローブ
3a 探針
3b レバー部
3c 脂質二分子膜
3e 管路
6 光学装置(観察手段)
7 移動手段
8 変位測定手段
14 環境調整手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス分野、再生医療等に関連する分野において、細胞への各種の溶液の導入や、精子、卵子等の物質の導入や、細胞内の内容物の吸引等を行うために細胞内に侵襲する細胞侵襲用プローブ及び該細胞侵襲用プローブを有する細胞侵襲装置、並びに、細胞侵襲方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフサイエンス分野、再生医療やゲノム創薬等の分野において、細胞に遺伝子や各種の薬剤を導入して、細胞の性質を改変することが行われている。これは、タンパク質発現や細胞動態(細胞の大きさ、形や細胞そのものの動き等の変化)を観察することで、遺伝子機能の解析等を行うためである。
また、細胞生物学の分野においても、1つ1つの細胞の個性を調べる研究が行われるようになっており、1つの細胞での遺伝子発現変化等を観察するために、生きた細胞から僅かな量の生体分子を取り出して解析する技術が不可欠なものとされている。
このように、1つ1つの細胞に各種の溶液を導入したり、精子、卵子等の物質を導入したり、細胞内から生体分子等の内容物を吸引して採取したりすることが、近年では頻繁に行われている。
【0003】
ところで、細胞への導入方法としては、様々な方法が提供されている。例えば、電気刺激を利用した導入方法や、電荷の差異を利用した導入方法や、リポソームを利用した導入方法等が知られている。しかしながら、これらの方法は、一般的に1個の細胞をターゲットにすることができず、複数の細胞に対して統計的に導入を処理するものであった。具体的には、電気刺激やpHの調整等によって、細胞膜(脂質二分子膜)を一時的に破壊することによって細胞膜内への導入を促すものであった。そのため、上述したニーズに対応することができなかった。
【0004】
一方、単一細胞を対象とした導入方法として、所望する細胞にガラスキャピラリー等の微小針を挿入して、各種溶液や卵子等の物質を導入する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、1個の細胞に対してのみ導入を行うことができるので、上述したニーズに対応することが可能な方法である。
【特許文献1】特開2006−34174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では以下の課題が残されていた。
即ち、微小針を利用する方法は、該微小針を細胞に侵襲させる(刺す)ことで、各種の溶液や物質を導入したり、細胞内から生体分子等の物質を吸引して採取したりする方法であるが、図13に示すように、微小針30を細胞Sに刺したときに、穴が開く前に細胞Sが自身の軟性(弾性)により凹んでしまい、微小針30が確実に細胞S内に侵入したか否かを判断することが困難なものであった。
【0006】
また、仮に細胞S内への侵襲ができたとしても、図14に示すように、細胞Sに対して十分に小さくない微小針30が細胞膜S1を物理的に突き破って内部に侵襲するので、細胞S自体を破壊する可能性があった。また、細胞膜S1に存在する各種タンパク質を微小針30と一緒に、細胞S内に混入させる恐れもあった。更に、微小針30を細胞Sから引き上げる際にも、図15に示すように、細胞Sから細胞膜S1の一部を奪い取ってしまう恐れがあった。これは、細胞Sから微小針30を引き抜く際に、微小針30に付着した細胞膜S1の一部が微小針30と一緒に引き抜かれてしまうからである。
【0007】
このように従来の方法では、細胞膜S1表面に存在する各種タンパク質(Gタンパクを代表とする膜タンパク質等)や糖鎖糖を物理的に破壊したり、微小針30と一緒に引き抜いてしまったりする恐れがあった。そのため、細胞S投入した後に期待される細胞分裂や、細胞S内部でのタンパク合成等が阻害されてしまうという問題があった。特に、哺乳類等においては、この現象が顕著なものであった。
【0008】
一方、細胞S内に含まれる物質を観察したいというニーズが近年高まってきている。一般的な高分解能観察においては、光学顕微鏡を利用する手法が代表的であるが、高分解能とはいえ、やはり分解能に限界があり、細胞S内を正確に観察することは困難であった。そのため、光学顕微鏡に代わる方法として、細胞Sを乾燥させた後にレプリカ法等によってSEM(走査形電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)による高分解能観察を行ったり、細胞Sを凍結させた後にSEMによって観察を行ったりする等の手法が用いられてきた。
【0009】
しかしながらこれらの方法は、細胞Sを一旦死滅させた後に観察を行う方法であるので、正確な観察を行うことができなかった。また、生きたままの状態による経時的な観察に関しても行うことができなかった。
なお、細胞S内部に蛍光物質を導入した一分子蛍光観察も考えられるが、この手法は対象とした一分子又はその集団の蛍光を追跡することによる観察手法であり、形態学的な知見が得られるものではなかった。
【0010】
そこで、微小針30に代えて、先端に探針を有する走査型プローブ顕微鏡のプローブを細胞S内に侵襲させ、該プローブを利用して観察する方法が考えられる。しかしながら、この場合であっても、プローブを侵襲させる際に細胞Sが死滅する可能性があった。また、細胞Sが死滅しない場合であっても、図16に示すように、プローブ先端の探針31をスキャンさせる際に、探針31が細胞膜S1にダメージを与えてしまうと共に、細胞膜S1から探針31が微小な抵抗を受けてしまうので、正確な観察を行うことができなかった。
【0011】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、細胞膜に与える影響を極力抑えながら、死滅させることなく細胞内に侵襲することができると共に、細胞内の内容物を生きたままの状態で正確に観察することができる細胞侵襲用プローブ及び該細胞侵襲用プローブを有する細胞侵襲装置、並びに、細胞侵襲方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係る細胞侵襲用プローブは、液中にて基板上に培養されている細胞に対向配置されると共に、基板表面に平行なXY方向及び該XY方向に直交するZ方向に相対移動可能な細胞侵襲用プローブであって、先端が先鋭化され、前記細胞内に穿刺される探針と、該探針を片持ち状態に支持するレバー部と、前記探針の外表面上に形成された脂質二分子膜とを備え、前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とするものである。
【0013】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、レバー部によって支持された探針の外表面上に、細胞表面の細胞膜と同じ構成の脂質二分子膜が形成されている。つまり、親水性、疎水性の両方の性質を持つ両親媒性の単一の分子が、疎水部同士を内側にした状態で配列されて二分子となり、これら二分子が探針の外表面に複数形成されることで脂質二分子膜が形成されている。
そのため、探針と細胞とをXY方向及びZ方向に向けて相対的に移動させて、探針を細胞に近づけると、まず探針の外表面に形成された脂質二分子膜が細胞膜に接触する。すると細胞膜は、該細胞膜と同じ構成である脂質二分子膜と融合し始め、細胞膜と脂質二分子膜とが徐々に一体化し始める。即ち、細胞膜が脂質二分子膜に引っ張られて、探針の外表面に移動し始めると共に、脂質二分子膜が細胞膜に引っ張られて、細胞膜に移動し始める。このように、細胞膜と脂質二分子膜とが、相互に移動し合って融合する。これにより、探針を細胞内に押し込むにつれて、細胞膜及び脂質二分子膜を探針の外表面上に押し退けることができる。
【0014】
よって、細胞膜を物理的に突き破ることなく、探針部分のみを細胞内に穿刺することができる。従って、従来のものとは異なり、細胞膜に与える影響を極力抑えることができ、培養中の細胞を死滅させることなく探針を細胞内に入れて侵襲させることができる。特に、従来のように細胞を物理的に穿刺するのではなく、脂質二分子膜と細胞膜とを融合させて一体化できるので、探針を穿刺するにあたり、細胞が凹んで探針から逃げてしまうことがない。この点からも、細胞に刺激等の影響を与えることなく、確実に侵襲を行うことができる。しかも、従来のように細胞膜を細胞内に混入させてしまうこともない。
【0015】
上述したように、この細胞侵襲用プローブによれば、細胞膜に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞内に侵襲できるので、細胞膜に存在する各種タンパク質に影響を与えずに、探針によって各種の計測を行うという、従来技術では困難であったことを可能にすることができる。
【0016】
また、探針を細胞内から引き抜く場合であっても、従来のように細胞膜を引き抜いてしまう恐れがない。つまり、探針の外表面に形成されている脂質二分子膜は、細胞膜と融合して既に一体的になっているので、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて探針と共に移動し難い状態となっている。そのため、探針を引き抜くと、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて細胞側に残り易く、主に探針だけを引き抜くことができる。なお、探針側の膜残りの制御は、引き上げスピードを変える等の動作によって行うことが可能である。
その結果、細胞膜を引き抜くことなく、探針を細胞内から引き抜くことができる。従って、探針を引き抜いた後であっても、細胞を死滅させることがない。また、探針を引き抜くにつれて、細胞膜は徐々に元の状態に戻り始めるので、細胞の表面を再び覆うことができる。なお、脂質二分子膜は、その一部が細胞側に残る場合があるが、この場合にはそのまま細胞膜となる。
【0017】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明の細胞侵襲用プローブにおいて、前記探針の外表面が、親水化処理がされていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、探針の外表面が親水化処理されて濡れ性が向上しているので、脂質二分子膜と外表面との密着性を向上することができる。従って、脂質二分子膜が途中で剥がれてしまうことがなく、プローブの信頼性を向上することができる。
【0019】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明の細胞侵襲用プローブにおいて、前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、探針を細胞内に侵襲させた後、管路を介して細胞内に所定の物質、例えば、薬液、DNA溶液、精子や卵子等を導入したり、細胞内から内容物、即ち細胞を構成する各種物質を吸引したりすることができる。このように、管路を利用することで、容易且つ確実に、多種多用の細胞計測(例えば、導電性流体を導入することによる電気刺激反応計測やイオン計測等)を行うことができ、より多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。
【0021】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明のいずれかの細胞侵襲用プローブにおいて、前記探針の先端と前記脂質二分子膜との間には、前記細胞内に投入する特定物質が予め担持されていることを特徴とするものである。
【0022】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、探針の先端と脂質二分子膜との間に、予め特定物質が担持されているので、探針を細胞内に侵襲させた後、確実且つ速やかにこの特定物質を細胞内に投入することができる。よって、細胞の反応を観察する等、さらに多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。また、探針を細胞内に侵襲するだけで、特定物質を直ちに投入できるので使い易い。
【0023】
また、本発明に係る細胞侵襲用プローブは、上記本発明のいずれかの細胞侵襲用プローブにおいて、前記脂質二分子膜が、リン脂質又は糖脂質の両親媒性分子からなる膜であることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係る細胞侵襲用プローブにおいては、脂質二分子膜が、リン脂質(スフィンゴリン脂質、グリセロリン脂質)又は、糖脂質(スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質)の両親媒性分子からなる膜とされている。具体的には、ホスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、コレステロール、ガラクトセレブロシド、GM1ガングリオシド、シアル酸(NANA)等の両親媒性分子からなる膜とされている。
【0025】
また、本発明に係る細胞侵襲装置は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲用プローブと、該細胞侵襲用プローブと前記基板とを前記XY方向及び前記Z方向に相対移動させて、前記探針を前記細胞に穿刺させる移動手段と、前記細胞を観察する観察手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る細胞侵襲装置においては、移動手段により細胞侵襲用プローブと基板とを、XY方向及びZ方向に向けて適宜相対的に移動させることで、狙った細胞内に探針を確実に侵襲することができる。この際、観察手段で細胞を観察できるので、より正確に侵襲を行うことができる。また、侵襲後の細胞の動態を生きたままの状態で観察して、正確な解析を行うことができる。
【0027】
また、本発明に係る細胞侵襲装置は、上記本発明の細胞侵襲装置において、前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整手段を備えていることを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る細胞侵襲装置においては、環境調整手段により、培養されている細胞の周囲環境、例えば、温度、湿度、気圧や二酸化炭素濃度等を、所定の環境条件に調整することができる。よって、細胞の種類等に応じて、環境を最適な状態に調整することができる。従って、より正確に細胞の観察を行うことができると共に、長期的な観察を行って解析することができる。
【0029】
また、本発明に係る細胞侵襲装置は、上記本発明の細胞侵襲装置において、前記レバー部の撓みを測定する変位測定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0030】
この発明に係る細胞侵襲装置においては、変位測定手段によりレバー部の撓みを測定できるので、細胞への侵襲や細胞からの引き抜きがされたか否かをより正確に判断することができる。また、探針を細胞内に侵襲させた状態で、細胞内をAFM観察することができる。従って、細胞内に含まれる各種の細胞物質を、生きたままの状態で高分解能且つ高精度に観察することができる。特に、脂質二分子膜と細胞膜とが融合しているので、探針を走査したとしても、従来のように細胞膜にダメージを与えることはない。
【0031】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、レバー部に片持ち状態に支持され、先端が先鋭化された探針を液中にて基板上に培養されている細胞に穿刺させる細胞侵襲方法であって、前記探針の外表面上に脂質二分子膜を形成する脂質膜形成工程と、該脂質膜形成工程後、前記細胞を観察しながら該細胞上に前記探針を移動させる移動工程と、該移動工程後、前記探針と前記細胞とを接近させて、探針を細胞に穿刺させる穿刺工程とを備え、前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とするものである。
【0032】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、まず脂質膜形成工程により、レバー部に片持ち状に支持された探針の外表面上に、細胞表面の細胞膜と同じ構成の脂質二分子膜を形成する。形成方法としては、例えば、予め脂質膜を展開した水溶液に探針を浸漬させた後、ゆっくり引き上げることで、探針の外表面に脂質二分子膜を付着させて形成する。つまり、親水性、疎水性の両方の性質を持つ両親媒性の単一の分子が、疎水部同士を内側にした状態で配列されて二分子となり、これら二分子が複数形成されることで脂質二分子膜が形成される。
【0033】
次いで、培養されている細胞を観察しながら、目的の細胞上に探針を移動させる移動工程を行う。この際、細胞を観察しているので、探針を目的の細胞上に正確に位置決めすることができる。
【0034】
次いで、この状態から探針と細胞とを接近させて、探針を細胞に穿刺する穿刺工程を行う。この穿刺工程を行うにあたり、探針と細胞とを接近させていくと、まず探針の外表面に形成された脂質二分子膜が細胞膜に接触する。すると細胞膜は、該細胞膜と同じ構成である脂質二分子膜と融合し始め、細胞膜と脂質二分子膜とが徐々に一体化し始める。即ち、細胞膜が脂質二分子膜に引っ張られて、探針の外表面に移動し始めると共に、脂質二分子膜が細胞膜に引っ張られて、細胞膜に移動し始める。このように、細胞膜と脂質二分子膜とが、相互に移動し合って融合する。これにより、探針を細胞内に押し込むにつれて、細胞膜及び脂質二分子膜を探針の外表面上に押し退けることができる。
【0035】
よって、細胞膜を物理的に突き破ることなく、探針部分のみを細胞内に穿刺することができる。従って、従来のものとは異なり、細胞膜に与える影響を極力抑えることができ、培養中の細胞を死滅させることなく探針を細胞内に入れて侵襲させることができる。特に、従来のように細胞を物理的に穿刺するのではなく、脂質二分子膜と細胞膜とを融合させて一体化できるので、探針を穿刺するにあたり、細胞が凹んで探針から逃げてしまうことがない。この点からも、細胞に刺激等の影響を与えることなく、確実に侵襲を行うことができる。しかも、従来のように細胞膜を細胞内に混入させてしまうこともない。
【0036】
上述したように、この細胞侵襲方法によれば、細胞膜に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞内に侵襲できるので、細胞膜に存在する各種タンパク質に影響を与えずに、探針によって各種の計測を行うという、従来技術では困難であったことを可能にすることができる。
【0037】
また、探針を細胞内から引き抜く場合であっても、従来のように細胞膜を引き抜いてしまう恐れがない。つまり、探針の外表面に形成されている脂質二分子膜は、細胞膜と融合して既に一体的になっているので、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて探針と共に移動し難い状態となっている。そのため、探針を引き抜くと、脂質二分子膜は細胞膜に引っ張られて細胞側に残り易く、主に探針だけを引き抜くことができる。なお、探針側の膜残りの制御は、引き上げスピードを変える等の動作によって行うことが可能である。
その結果、細胞膜を引き抜くことなく、探針を細胞内から引き抜くことができる。従って、探針を引き抜いた後であっても、細胞を死滅させることがない。また、探針を引き抜くにつれて、細胞膜は徐々に元の状態に戻り始めるので、細胞の表面を再び覆うことができる。なお、脂質二分子膜は、その一部が細胞側に残る場合があるが、この場合にはそのまま細胞膜となる。
【0038】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明の細胞侵襲方法において、前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の外表面を親水化処理する親水化工程を行うことを特徴とするものである。
【0039】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、親水化工程により、探針の外表面を親水化処理して濡れ性を向上させるので、脂質二分子膜と外表面との密着性を向上することができる。従って、脂質二分子膜が途中で剥がれてしまうことがなく、プローブの信頼性を向上することができる。
【0040】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明の細胞侵襲方法において、前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されており、前記穿刺工程後、前記管路を利用して前記細胞内に所定の物質を導入、若しくは、細胞内から内容物を吸引する導入吸引工程を備えていることを特徴とするものである。
【0041】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、探針を細胞内に侵襲させた後、導入吸引工程を行うことで、管路を介して細胞内に所定の物質、例えば、薬液、DNA溶液、精子や卵子等を導入したり、細胞内から内容物、即ち細胞を構成する各種物質を吸引したりすることができる。このように、導入吸引工程を行うことで、容易且つ確実に多種多様な細胞計測(例えば、導電性流体を導入することによる電気刺激反応計測やイオン計測等)を行うことができ、より多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。
【0042】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲方法において、前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の先端に前記細胞内に投入する特定物質を予め担持させる担持工程を行い、前記穿刺工程時に、前記特定物質を前記細胞内に投入することを特徴とするものである。
【0043】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、担持工程により探針の先端に予め特定物質を担持しているので、穿刺工程時に確実且つ速やかにこの特定物質を細胞内に投入することができる。よって、細胞の反応を観察する等、さらに多角的な解析を行うことができる。特に、細胞を死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。また、探針を細胞内に侵襲するだけで、特定物質を直ちに投入できるので使い易い。
【0044】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲方法において、前記穿刺工程後、前記探針を前記細胞内で走査させて細胞内をAFM観察する観察工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0045】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、細胞内に侵襲させた探針を細胞内で走査させて、細胞内をAFM観察する観察工程を行うことで、細胞内に含まれる各種の細胞物質を生きたままの状態で高分解能且つ高精度に観察することができる。特に、脂質二分子膜と細胞膜とが融合しているので、探針を走査したとしても細胞膜が外表面上に逃げていく。従って、従来のように細胞膜にダメージを与えることはない。
【0046】
また、本発明に係る細胞侵襲方法は、上記本発明のいずれかの細胞侵襲方法において、前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整工程を備えていることを特徴とするものである。
【0047】
この発明に係る細胞侵襲方法においては、環境調整工程により、培養されている細胞の周囲環境、例えば、温度、湿度、気圧や二酸化炭素濃度等を、所定の環境条件に調整することができる。よって、細胞の種類等に応じて、環境を最適な状態に調整することができる。従って、より正確に細胞の観察を行うことができると共に、長期的な観察を行って解析することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係る細胞侵襲用プローブ及び細胞侵襲方法によれば、細胞膜に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞内に侵襲することができる。
また、本発明に係る細胞侵襲装置によれば、上記細胞侵襲用プローブを備えているので、細胞の動態を生きたままの状態で観察して、正確な解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明に係る細胞侵襲用プローブ、細胞侵襲装置及び細胞侵襲方法の一実施形態について、図1から図12を参照して説明する。
本実施形態の細胞侵襲装置1は、図1に示すように、液中で細胞Sを培養するセル(基板)2と、細胞侵襲用プローブ3を有する走査型プローブ顕微鏡4と、細胞Sを観察する光学顕微鏡5を有する光学装置(観察手段)6とを組み合わせた装置である。
【0050】
走査型プローブ顕微鏡4は、細胞Sに対向配置された細胞侵襲用プローブ3と、該細胞侵襲用プローブ3とセル2とを、セル2の底面(基板表面)に平行なXY方向及びこれらXY方向に垂直なZ方向に相対移動させて、細胞侵襲用プローブ3の探針3aを細胞Sに穿刺させる移動手段7と、細胞侵襲用プローブ3のレバー部3bの撓みを測定する変位測定手段8と、これら各構成品を総合的に制御する制御部9とを備えている。
【0051】
上記セル2は、光学的に透明な材料により、上部が開口した断面コ形形状に形成されており、ステージ10上に保持されている。このセル2の内部には、培地(細胞Sが正常な機能を営むための要素を含む培養液)Wが貯留されており、底面に複数の細胞Sが培養されている。また、このセル2には、図示しないヒータや二酸化炭素供給部等が組み込まれており、例えば、培地Wの温度が37±0.5℃、二酸化炭素濃度が5%になるように調整されている。また、このセル2は、密閉された容器11内に収納されている。そしてこの容器11には、内部の圧力を任意の圧力(例えば、真空状態)に調整する真空ポンプ12と、容器11内に所定の湿度を持った空気を供給して湿度を調整する湿度調整部13とが接続されている。
【0052】
これらヒータ、二酸化炭素供給部、真空ポンプ12及び湿度調整部13によって、容器11内における細胞Sの周囲環境を培養に適した所定の環境条件に調整できるようになっている。即ち、これら容器11、ヒータ、二酸化炭素供給部、真空ポンプ12及び湿度調整部13は、環境調整手段14を構成している。
なお、セル2には、図示しない管路を介して培地Wが循環するようになっており、常に新しい培地Wが供給されるようになっている。
【0053】
上記光学顕微鏡5は、ステージ10の下方に配置されており、ステージ10の略中心に形成された開口10aを通してセル2の下側から複数の細胞Sの培養状態を観察できるようになっている。また、この光学顕微鏡5は、観察した画像を制御部9に接続されたモニタ15に出力している。これにより、作業者は、モニタ15に表示された画像を見ながら操作部で細胞Sの位置を特定できるようになっている。即ち、これら光学顕微鏡5及びモニタ15は、上記光学装置6を構成している。なお、モニタ15は、容器11の外部に配置されている。
【0054】
上記細胞侵襲用プローブ3は、先端が先鋭化され、細胞S内に穿刺される探針3aと、基端側が本体部に支持された状態で探針3aを片持ち状態に支持するレバー部3bと、探針3aの外表面上に形成された脂質二分子膜3cとで構成されている。
脂質二分子膜3cは、図2に示すように、探針3aを包み込むように該探針3aの外表面上に形成されている。この脂質二分子膜3cは、親水性、疎水性の両方の性質を持つ両親媒性の単一の分子が、疎水部P1を内側且つ親水部P2を外側にした状態で配列されて二分子となり、これら二分子が探針3aの外表面に複数形成されて膜状となったものである。
【0055】
本実施形態の脂質二分子膜3cは、リン脂質(スフィンゴリン脂質、グリセロリン脂質)又は、糖脂質(スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質)の両親媒性分子からなる脂質膜とされている。具体的には、ホスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、コレステロール、ガラクトセレブロシド、GM1ガングリオシド、シアル酸(NANA)等の両親媒性分子からなる膜とされている。
【0056】
ここで、リン脂質についてより詳細に説明すると、このリン脂質は、リン酸を親水部に持つ脂質であり、グリセリンの3つの水酸基の内端の1つにリン酸が、残りに脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸は、炭素数12〜18の飽和、不飽和の炭素鎖の端にカルボン酸がついた疎水的な分子である。脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレイン酸等である。
【0057】
上述した脂質二分子膜3cは、図3に示すように、細胞Sの表面を覆っている細胞膜S1と同じ構成からなる脂質膜である。そのため、探針3aを細胞Sに穿刺したときに、脂質二分子膜3cが細胞膜S1に融合して一体化するようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
【0058】
この細胞侵襲用プローブ3は、図1に示すように、本体部3dを介してXYZスキャナ16の下面に固定された斜面ブロック17にワイヤ等により着脱自在に固定されている。この際、細胞侵襲用プローブ3は、斜面ブロック17によってセル2の底面に対してレバー部3bが所定角度傾くように固定されている。また、細胞侵襲用プローブ3は、少なくとも探針3a部分が培地Wに浸かるように位置が調整されている。
【0059】
上記XYZスキャナ16は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等からなる圧電素子であり、容器11内に設けられている。そして、このXYZスキャナ16は、容器11の外側に配置されたドライブ回路18から電圧が印加されると、その電圧印加量及び極性に応じて、XY方向(セル2の底面に対して平行な方向)及びZ方向(セル2の底面に対して垂直な方向)の3方向に対して微小移動するようになっている。これにより、細胞侵襲用プローブ3をXY方向及びZ方向に移動させることができるようになっている。即ち、XYZスキャナ16及びドライブ回路18は、上記移動手段7を構成している。
【0060】
なお、本実施形態では、細胞侵襲用プローブ3をXYZ方向に移動させる構成としたが、この場合に限られず、ステージ10側をXYZ方向に移動させる構成としても構わない。この場合においても、スキャン方式が異なるだけで、以降に説明する作用効果と同様の作用効果を奏することができる。なお、細胞侵襲用プローブ3側及びステージ10側を共にXYZ方向に移動できるように構成しても構わない。
【0061】
また、細胞侵襲用プローブ3の上方であって容器11の外側には、レーザ光Lを照射する半導体レーザ光源20と、レバー部3bの図示しない反射面で反射されたレーザ光Lを受光するレーザ受光部21とが、図示しない架台に取り付けられている。レーザ受光部21は、例えば、4分割フォトディテクタであり、レーザ光Lの入射位置に基づいて、レバー部3bの撓み変化を検出している。そして、レーザ受光部21は、検出したレバー部3bの撓み変化を撓み信号に変換した後、制御部9に出力している。即ち、これら半導体レーザ光源20及びレーザ受光部21は、上記変位測定手段8を構成している。
なお、レーザ光Lは、容器11の上部に取り付けられたウインドウ22を介して、容器11内に入射したり、容器11外に出射したりするようになっている。
【0062】
制御部9は、レーザ受光部21から送られてきた撓み信号に応じて、ドライブ回路18を作動させるようになっている。また、この制御部9には、作業者が各種条件を入力したり、ドライブ回路18等を作動させたりするための操作部9aが接続されている。これにより作業者は、操作部9aを介してXYZスキャナ16を3次元方向に適宜移動することができるようになっている。
【0063】
次に、このように構成された細胞侵襲装置1を利用して、探針3aを細胞S内に侵襲させると共に、細胞S内を観察する細胞侵襲方法について説明する。
本実施形態の細胞侵襲方法は、探針3aの外表面に脂質二分子膜3cを形成する脂質膜形成工程と、該脂質膜形成工程後、細胞Sを観察しながら該細胞S上に探針3aを移動させる移動工程と、該移動工程後、探針3aと細胞Sとを接近させて探針3aを細胞Sに穿刺させる穿刺工程と、該穿刺工程後、探針3aを細胞S内で走査させて細胞S内をAFM観察する観察工程とを行う方法である。また、本実施形態では、細胞Sの周囲を培養に適した所定の環境条件に調整する環境調整工程も同時に行う。以下、これら各工程について、詳細に説明する。
【0064】
まず初めに、脂質膜形成工程により、探針3aの外表面上に細胞膜S1と同じ構成の脂質二分子膜3cを形成する。この際の形成方法としては、例えば、予め脂質膜を展開した水溶液に探針3aを浸漬させた後、ゆっくり引き上げることで、探針3aの外表面に脂質二分子膜3cを形成することができる。
そして、脂質二分子膜3cを形成した後、細胞侵襲用プローブ3を斜面ブロック17にセットすると共に、ステージ10上にセル2をセットする。次いで、ヒータ、二酸化炭素供給部、真空ポンプ12や湿度調整部13を適宜作動させて、環境条件を培養に最適な条件に調整する環境調整工程を行う。これによって、長期的な細胞Sの培養も行うことができる。
【0065】
次いで、セル2内で培養されている複数の細胞Sの培養状態を、セル2の下面側から光学顕微鏡5で観察する。そして作業者は、この観察された画像をモニタ15で確認しながら、探針3aを侵襲させる細胞Sを特定する。続いて、細胞Sの位置を特定した後、該細胞S上に探針3aを移動させる移動工程を行う。即ち、XYZスキャナ16を適宜XYZ方向に移動させて、特定した細胞S上に探針3aを位置させる。この際、光学顕微鏡5で撮像している画像をモニタ15で確認しながら行うので、探針3aを特定した細胞S上に正確に位置決めさせることができる。
【0066】
次いで、この状態からXYZスキャナ16をZ方向に微小移動させて探針3aと細胞Sとを接近させ、探針3aを細胞Sに穿刺する穿刺工程を行う。この穿刺工程を行うにあたり、探針3aと細胞Sとを接近させていくと、図4に示すように、まず探針3aの外表面に形成された脂質二分子膜3cが細胞膜S1に接触する。すると細胞膜S1は、該細胞膜S1と同じ構成である脂質二分子膜3cと融合し始め、細胞膜S1と脂質二分子膜3cとが徐々に一体化し始める。即ち、細胞膜S1が脂質二分子膜3cに引っ張られて探針3aの外表面に移動し始めると共に、脂質二分子膜3cが細胞膜S1に引っ張られて細胞膜S1に移動し始める。このように、細胞膜S1と脂質二分子膜3cとが、相互に移動し合って融合する。これにより、図5及び図6に示すように、探針3aを細胞S内に押し込むにつれて、細胞膜S1及び脂質二分子膜3cを探針3aの外表面上に押し退けることができる。
【0067】
その結果、図7に示すように、細胞膜S1を物理的に突き破ることなく、探針3a部分のみを細胞S内に穿刺することができる。従って、従来のものとは異なり、細胞膜S1に与える影響を極力抑えることができ、培養中の細胞Sを死滅させることなく探針3aを細胞S内に入れて侵襲させることができる。
特に、従来のように細胞Sを物理的に穿刺するのではなく、脂質二分子膜3cと細胞膜S1とを融合させて一体化できるので、探針3aを穿刺するにあたり、細胞Sが凹んで探針3aから逃げてしまうことがない。この点からも、細胞Sに刺激等の影響を与えることなく、確実に侵襲を行うことができる。しかも、従来のように細胞膜S1を細胞S内に混入させてしまうこともない。
【0068】
このように、本実施形態の細胞侵襲装置1及び細胞侵襲方法によれば、細胞膜S1に与える影響を極力抑えながら死滅させることなく細胞S内に侵入できるので、細胞膜S1に存在する各種タンパク質に影響を与えずに、探針3aによって各種の計測を行うという、従来技術では困難であったことを可能にすることができる。
また、光学顕微鏡5により細胞Sを観察できるので、侵襲後の細胞Sの動態を生きたままの状態で観察して、正確な解析を行うことができる。
特に本実施形態では、培養されている細胞Sの周囲環境を、培養に適した最適な環境条件に調整できるので、より正確に細胞Sの観察を行うことができると共に、長期的な観察を行って解析することができる。
【0069】
更に、探針3aが確実に細胞S内に侵襲したか否かに関しては、光学顕微鏡5によっても観察することができるが、本実施形態では、変位測定手段8を有する走査型プローブ顕微鏡4を備えているので、より高精度に侵襲の可否を判断することができる。
つまり、探針3aと細胞Sとを近接させることにより、脂質二分子膜3cと細胞膜S1とが接触すると、脂質二分子膜3cと細胞膜S1との融合等によりレバー部3bが撓み始める。そのため、レーザ受光部21に入射するレーザ光L(反射面で反射したレーザ光L)の位置が変化する。レーザ受光部21は、この変化に応じた撓み信号を制御部9に出力する。このように、制御部9は、探針3aを穿刺する過程で生じるレバー部3bの変位を直ちに知ることができる。そして、制御部9は、この撓み信号と予め定められた規定値とを比較することで、上述したように細胞S内に侵襲したか否かを高精度に判断することができる。
【0070】
また、穿刺工程が終了した後、XYZスキャナ16により細胞S内に侵襲させた探針3aをXY方向に走査させて、細胞S内をAFM観察する観察工程を行う。これにより、細胞S内の内容物である各種物質、例えば、細胞核の孔や微小管、アクチンフィラメント等を、生きたままの状態で高分解能且つ高精度に観察することができる。特に、脂質二分子膜3cと細胞膜S1とが融合しているので、探針3aを走査したとしても細胞膜S1が探針3aの移動に合わせて探針3aの外表面上に逃げていく。そのため、従来のように細胞膜S1にダメージを与えることはない。
【0071】
なお、探針3aを細胞S内から引き抜く場合であっても、従来のように細胞膜S1を引き抜いてしまう恐れがない。つまり、探針3aの外表面に形成されている脂質二分子膜3cは、細胞膜S1と融合して既に一体的になっているので、脂質二分子膜3cは細胞膜S1に引っ張られて探針3aと共に移動し難い状態となっている。そのため、探針3aを引き抜くと、脂質二分子膜3cは細胞膜S1に引っ張られて細胞S側に残り易く、主に探針3aだけを引き抜くことができる。なお、探針3a側の膜残りの制御は、探針3aの引き上げスピードを変える等の動作によって行うことが可能である。
その結果、細胞膜S1を引き抜くことなく、探針3aを細胞S内から引き抜くことができる、従って、探針3aを引き抜いた後であっても、細胞Sを死滅させることはない。また、探針3aを引き抜くにつれて、細胞膜S1は徐々に元の状態に戻り始めるので、細胞Sの表面を再び覆うことができる。なお、脂質二分子膜3cは、その一部が細胞S側に残る場合があるが、この場合にはそのまま細胞膜S1となる。
【0072】
なお、上記実施形態において、脂質膜形成工程の前に、探針3aの外表面を親水化処理する親水化工程を行っても構わない。
具体的には、探針3aの外表面にプラズマを照射することで親水化したり、UVオゾン環境による表面改質を行うことで親水化したり、探針3aの外表面に極薄膜のSiO2膜を形成し、該SiO2膜に存在する微細クラックによる保湿効果を利用することで親水化したりする。このように各種の親水化処理を施すことで、外表面の濡れ性を向上することができ、脂質二分子膜3cと探針3aの外表面との密着性を高めることができる。従って、脂質二分子膜3cが途中で剥がれてしまうことがなく、細胞侵襲用プローブ3の信頼性を向上することができる。
【0073】
また、上記実施形態において、脂質膜形成工程の前に、探針3aの先端に細胞S内に投入する特定物質Nを予め担持させる担持工程を行っても構わない。この工程を行うことで、図8に示すように、探針3aの先端と脂質二分子膜3cとの間に、何らかの特定物質N(例えば卵子等)を担持させることができる。
こうすることで、穿刺工程によって探針3aを細胞S内に侵襲させた際に、図9に示すように、担持した特定物質Nを確実且つ速やかに細胞S内に投入することができる。よって、細胞Sの反応を観察する等、さらに多角的な解析を行うことができる。特に、細胞Sを死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。また、探針3aを細胞S内に侵襲するだけで、特定物質Nを直ちに投入できるので使い易い。
【0074】
また、上記実施形態において、図10に示すように、探針3aの先端に開口を有する管路3eを、先端側から基端側に亘って形成しても構わない。このような細胞侵襲用プローブ3を利用することで、より多種多用な細胞Sの計測を容易且つ確実に行うことができる。即ち、穿刺工程後に、管路3eを利用して細胞S内に所定の物質を導入、若しくは、細胞S内から内容物を吸引する導入吸引工程を行うことができる。
具体的には、図11示すように、管路3eを通じて細胞S内に薬液、DNA溶液、精子や卵子等の各種物質を容易且つ確実に導入することができる。また、図12に示すように、細胞S内から内容物である各種物質を、やはり管路3eを通じて吸引することもできる。このように導入吸引工程を行うことで、容易且つ確実に多種多用の細胞S計測(例えば、導電性流体を導入することによる電気刺激反応計測や、イオン計測等)を行うことができ、より多角的な解析を行うことができる。特に、細胞Sを死滅させることなく行えるので、正確な解析を行うことができる。
【0075】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0076】
例えば、上記実施形態では、変位測定手段8がレーザ光Lを利用した光てこ方式によりレバー部3bの撓みを測定したが、光てこ方式に限定されるものではない。例えば、レバー部3b自身に変位検出機構(例えば、ピエゾ抵抗素子等)を設けた自己検知方式によりレバー部3bの撓みを測定するように構成しても構わない。
【0077】
また、上記実施形態では、光学顕微鏡5を用いた場合を説明したが、細胞Sの確認と探針3aの位置合わせとを行えれば、どのような観察手段でも構わない。例えば、CCD等でも良い。但し、好ましくは生物用倒立型光学装置を用いると良い。
更に、上記実施形態では、走査型プローブ顕微鏡4と光学装置6とを組み合わせた場合を例に挙げて説明したが、走査型プローブ顕微鏡4は必須なものではない。例えば、細胞侵襲用プローブ3を有するマイクロマニュピレータと、光学装置とを組み合わせたものでも構わない。このように、細胞侵襲用プローブ3を操作して探針3aを細胞Sに穿刺させる移動手段と、細胞Sを観察する観察手段とを少なくとも備えていれば、細胞侵襲装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る細胞侵襲装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す細胞侵襲装置の細胞侵襲用プローブの先端を拡大した図である。
【図3】図1に示す細胞侵襲装置のセルで培養されている細胞の拡大図である。
【図4】図1に示す細胞侵襲装置を利用して本発明に係る細胞侵襲方法を行う場合の工程図であって、探針と細胞とを近接させて脂質二分子膜と細胞膜とを接触させた状態を示す図である。
【図5】図4に示す状態から、さらに探針と細胞とを近づけた状態を示す図である。
【図6】図5に示す状態から、さらに探針と細胞とを近づけた状態を示す図である。
【図7】図6に示す状態から、さらに探針と細胞とを近づけて探針を細胞内に侵襲させた状態を示す図である。
【図8】本発明に係る細胞侵襲用プローブの変形例を示す図であって、探針の先端に特定物質が予め担持されている細胞侵襲用プローブの先端拡大図である。
【図9】図8に示す探針を細胞内に侵襲させて、細胞内に特定物質を投入している状態を示す図である。
【図10】本発明に係る細胞侵襲用プローブの変形例を示す図であって、探針の先端に開口を有する管路が形成されている細胞侵襲用プローブの先端拡大図である。
【図11】図10に示す探針を細胞内に侵襲させて、管路を通じて細胞内に各種物質を導入している状態を示す図である。
【図12】図10に示す探針を細胞内に侵襲させて、管路を通じて細胞内から内容物を吸引している状態を示す図である。
【図13】従来の細胞侵襲方法を説明するための図であって、微小針を細胞膜に押し付けている状態を示す図である。
【図14】図13に示す状態から、細胞膜を突き破って微小針を細胞内に穿刺した状態を示す図である。
【図15】図14に示す状態から、微小針を細胞内から引き抜いた状態を示す図である。
【図16】従来の細胞侵襲方法を説明するための図であって、細胞膜を突き破って細胞内に侵襲させた探針をスキャンさせている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
N 特定物質
S 細胞
S1 細胞膜
1 細胞侵襲装置
2 セル(基板)
3 細胞侵襲用プローブ
3a 探針
3b レバー部
3c 脂質二分子膜
3e 管路
6 光学装置(観察手段)
7 移動手段
8 変位測定手段
14 環境調整手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中にて基板上に培養されている細胞に対向配置されると共に、基板表面に平行なXY方向及び該XY方向に直交するZ方向に相対移動可能な細胞侵襲用プローブであって、
先端が先鋭化され、前記細胞内に穿刺される探針と、
該探針を片持ち状態に支持するレバー部と、
前記探針の外表面上に形成された脂質二分子膜とを備え、
前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記探針の外表面は、親水化処理がされていることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されていることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記探針の先端と前記脂質二分子膜との間には、前記細胞内に投入する特定物質が予め担持されていることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記脂質二分子膜は、リン脂質又は糖脂質の両親媒性分子からなる膜であることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞侵襲用プローブと、
該細胞侵襲用プローブと前記基板とを前記XY方向及び前記Z方向に相対移動させて、前記探針を前記細胞に穿刺させる移動手段と、
前記細胞を観察する観察手段とを備えていることを特徴とする細胞侵襲装置。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞侵襲装置において、
前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整手段を備えていることを特徴とする細胞侵襲装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の細胞侵襲装置において、
前記レバー部の撓みを測定する変位測定手段を備えていることを特徴とする細胞侵襲装置。
【請求項9】
レバー部に片持ち状態に支持され、先端が先鋭化された探針を液中にて基板上に培養されている細胞に穿刺させる細胞侵襲方法であって、
前記探針の外表面上に脂質二分子膜を形成する脂質膜形成工程と、
該脂質膜形成工程後、前記細胞を観察しながら該細胞上に前記探針を移動させる移動工程と、
該移動工程後、前記探針と前記細胞とを接近させて、探針を細胞に穿刺させる穿刺工程とを備え、
前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞侵襲方法において、
前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の外表面を親水化処理する親水化工程を行うことを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の細胞侵襲方法において、
前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されており、
前記穿刺工程後、前記管路を利用して前記細胞内に所定の物質を導入、若しくは、細胞内から内容物を吸引する導入吸引工程を備えていることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載の細胞侵襲方法において、
前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の先端に前記細胞内に投入する特定物質を予め担持させる担持工程を行い、
前記穿刺工程時に、前記特定物質を前記細胞内に投入することを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか1項に記載の細胞侵襲方法において、
前記穿刺工程後、前記探針を前記細胞内で走査させて細胞内をAFM観察する観察工程とを備えていることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項に記載の細胞侵襲方法において、
前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整工程を備えていることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項1】
液中にて基板上に培養されている細胞に対向配置されると共に、基板表面に平行なXY方向及び該XY方向に直交するZ方向に相対移動可能な細胞侵襲用プローブであって、
先端が先鋭化され、前記細胞内に穿刺される探針と、
該探針を片持ち状態に支持するレバー部と、
前記探針の外表面上に形成された脂質二分子膜とを備え、
前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記探針の外表面は、親水化処理がされていることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されていることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記探針の先端と前記脂質二分子膜との間には、前記細胞内に投入する特定物質が予め担持されていることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞侵襲用プローブにおいて、
前記脂質二分子膜は、リン脂質又は糖脂質の両親媒性分子からなる膜であることを特徴とする細胞侵襲用プローブ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞侵襲用プローブと、
該細胞侵襲用プローブと前記基板とを前記XY方向及び前記Z方向に相対移動させて、前記探針を前記細胞に穿刺させる移動手段と、
前記細胞を観察する観察手段とを備えていることを特徴とする細胞侵襲装置。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞侵襲装置において、
前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整手段を備えていることを特徴とする細胞侵襲装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の細胞侵襲装置において、
前記レバー部の撓みを測定する変位測定手段を備えていることを特徴とする細胞侵襲装置。
【請求項9】
レバー部に片持ち状態に支持され、先端が先鋭化された探針を液中にて基板上に培養されている細胞に穿刺させる細胞侵襲方法であって、
前記探針の外表面上に脂質二分子膜を形成する脂質膜形成工程と、
該脂質膜形成工程後、前記細胞を観察しながら該細胞上に前記探針を移動させる移動工程と、
該移動工程後、前記探針と前記細胞とを接近させて、探針を細胞に穿刺させる穿刺工程とを備え、
前記探針を前記細胞に穿刺したときに、前記脂質二分子膜が細胞表面の細胞膜に融合して一体化されることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞侵襲方法において、
前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の外表面を親水化処理する親水化工程を行うことを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の細胞侵襲方法において、
前記探針には、先端に開口を有する管路が先端側から基端側に亘って形成されており、
前記穿刺工程後、前記管路を利用して前記細胞内に所定の物質を導入、若しくは、細胞内から内容物を吸引する導入吸引工程を備えていることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載の細胞侵襲方法において、
前記脂質膜形成工程の前に、前記探針の先端に前記細胞内に投入する特定物質を予め担持させる担持工程を行い、
前記穿刺工程時に、前記特定物質を前記細胞内に投入することを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか1項に記載の細胞侵襲方法において、
前記穿刺工程後、前記探針を前記細胞内で走査させて細胞内をAFM観察する観察工程とを備えていることを特徴とする細胞侵襲方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項に記載の細胞侵襲方法において、
前記細胞の周囲環境を所定の環境条件に調整する環境調整工程を備えていることを特徴とする細胞侵襲方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−92824(P2008−92824A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276291(P2006−276291)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/物性・生体情報ナノマッピングシステム(機能性プローブ)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/物性・生体情報ナノマッピングシステム(機能性プローブ)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]