説明

細胞傷害性薬剤としての非天然のリボヌクレアーゼ複合体

本発明は、病原性細胞、特に癌細胞への毒性タンパク質の輸送に関する。好ましい態様では、毒性タンパク質は、標的細胞に対して毒性があるように修飾された、および病原性細胞へ輸送するために、抗体などの標的細胞に特異的な輸送ベクターと接合可能なリボヌクレアーゼである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性細胞、特に癌細胞への毒性タンパク質の輸送に関する。好ましい態様では、毒性タンパク質は、標的細胞に対する毒性を示すように修飾された、および病原性細胞へ輸送するために、抗体などの標的細胞に特異的な輸送ベクターと接合可能なリボヌクレアーゼである。なお、本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2004年4月13日に出願された米国仮出願番号第60/561,609号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
「化学療法」という用語は、化学物質を使用する疾患の治療を単に意味する。化学療法の父であるエールリッヒ(Paul Ehrlich)は、完全な化学療法剤を「特効薬(magic bullet)」と考えており、そのような化合物であれば、侵入性の生物体または細胞を、宿主に害を及ぼすことなく死滅させるだろうと考えていた。癌細胞を死滅させる、または阻害する化合物の同定に関して、およびこのような化合物を、意図した標的細胞へ誘導する方法の同定に関しては大きな進展があるが、当技術分野では、優れた抗癌化合物の必要性は依然としてある。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、病原性細胞を選択的に死滅させることが望ましい、癌ならびに他の疾患および状態(例えば、ウイルスもしくは病原体の感染)を標的とするタンパク質の使用(例えば、治療的使用、診断的使用、研究的使用)に関する。例えば、いくつかの態様では、本発明は、細胞傷害性タンパク質の作製、および腫瘍細胞またはウイルス感染細胞などの病原性細胞への輸送に関する。リボヌクレアーゼも、病原性RNAを細胞外で分解するために使用することができる。いくつかの好ましい態様では、本発明は、細胞傷害性をもたせるためにアミノ酸配列が改変された(すなわち非天然の)リボヌクレアーゼタンパク質(例えばヒトのリボヌクレアーゼタンパク質)の使用を提供する。いくつかの態様では、このような変異タンパク質は、病原性の標的細胞に特異的な、または少なくとも部分的に選択的なターゲティングベクター(例えばヒトのタンパク質もしくはヒト化タンパク質)との接合によって病原性細胞に特異的に輸送される。このようなターゲティングベクターは、抗体、受容体、リガンド、ペプチド、核酸、脂質、ポリマー、小分子、および合成化合物を含むがこれらに限定されない。いくつかの態様では、変異リボヌクレアーゼの遺伝子は、発現ベクターを介してDNAまたはRNAとして輸送される。リボヌクレアーゼの遺伝子は、単独で発現可能か、またはリボヌクレアーゼの遺伝子と、細胞特異的なターゲティング部分の化学的複合体として発現可能である。
【0004】
本発明は、タンパク質および輸送ベクターに対するヒトの免疫応答を最小限にするか、または排除する条件における細胞傷害性リボヌクレアーゼの輸送を含む方法も提供する。本発明はさらに、変異リボヌクレアーゼの作用を介して、標的細胞における細胞の成長、および/またはウイルスの複製を選択的に阻害する方法を提供する。
【0005】
したがって、いくつかの態様では、本発明は、疾患を治療する、特性を解析する、または理解するための新しいファミリーのタンパク質を提供する。いくつかの態様では、本発明の組成物は治療的に、単独で、または(例えば、ヒトの癌の既存の治療法を増強するように)他の化合物もしくは介入との組み合わせで使用される。
【0006】
したがって、いくつかの態様では、本発明は、リボヌクレアーゼが細胞を死滅させるように構成された、細胞特異的なターゲティング部分に接合させた非天然のリボヌクレアーゼ(例えばヒトのリボヌクレアーゼ)を含む組成物を提供する。いくつかの態様では、非天然のヒトリボヌクレアーゼは、非天然のヒトのリボヌクレアーゼI(RNase I)を含む。適切な非天然のヒトRNase I化合物の例は、表1に示すような、天然のリボヌクレアーゼIと比較して変種配列を有する化合物を含むがこれらに限定されない。
【0007】
(表1)

本発明はさらに、このような配列の変種を提供する。例示的な変種を、以下の表2および表3、ならびに実施例2に列挙する。所望の機能を有する追加的な変種も本発明の範囲に含まれる。
【0008】
(表2)細胞傷害性を高めるための、ヒトリボヌクレアーゼIのアミノ酸の修飾

【0009】
(表3)

【0010】
いくつかの態様では、複数の異なるリボヌクレアーゼ、および/またはターゲティング部分は、組成物(例えば、キット、薬学的調製物など)中に提供される。
【0011】
本発明は、標的細胞の内容または位置に制限されない。いくつかの態様では、細胞は、癌細胞、ウイルス感染と関連するマーカーを発現する細胞、炎症性応答と関連する細胞、および自己免疫疾患と関連する細胞(例えば、マーカーを発現する細胞、もしくは細胞死の発生が異常に低下すること、もしくは自己抗原を提示することを特徴とする細胞)である。いくつかの態様では、細胞はインビトロで(例えば培養物中に)存在する。他の態様では、細胞はインビボで(例えば、移植細胞として組織中に、試験動物中に、疾患もしくは状態、(例えば癌)を有することが疑われるか、または診断された被験対象中に)存在する。
【0012】
いくつかの好ましい態様では、リボヌクレアーゼは、リンカーによって細胞特異的なターゲティング部分に接合されている。本発明は、リンカーの内容に制限されない。本発明による使用に適したリンカーは、リボヌクレアーゼの非天然のシステインに結合されたリンカー、切断され得ないリンカー、切断され得るリンカー、およびウシリボヌクレアーゼAのアミノ酸84〜95に対応するリボヌクレアーゼのループ領域内に結合したリンカーを含むがこれらに限定されない。
【0013】
いくつかの態様では、リボヌクレアーゼは、抗体または抗体断片などの疾患特異的なタンパク質との融合タンパク質として作製される。当業者であれば、このような融合体が、cDNAおよび標準的な分子生物学的手法によって作製可能なことを理解する。
【0014】
本発明は、細胞特異的なターゲティング部分の内容に制限されない。ターゲティング部分は、免疫グロブリン(例えば、抗体、ヒト化抗体、もしくは部分的にヒト化された抗体、抗体断片など)、タンパク質、ペプチド、受容体のリガンド、アプタマー、小分子、核酸分子、脂質などを含むがこれらに限定されない。
【0015】
いくつかの態様では、組成物の成分(例えば、リボヌクレアーゼ、細胞特異的なターゲティング部分)が、成分が被験対象の細胞内で産生されるように、または(例えば、エクスビボにおけるトランスフェクションと、続く移植によって)被験対象に提供された細胞内で産生されるように、発現ベクターを介して単独で、もしくはまとめて細胞に提供される。
【0016】
本発明はさらに、本明細書で説明された任意の組成物を使用して細胞を死滅させる方法を提供する。
【0017】
定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語およびフレーズを以下に定義する。
【0018】
本明細書で用いる「免疫グロブリン」または「抗体」という表現は、特定の抗原と結合するタンパク質を意味する。免疫グロブリンは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体、Fab断片、F(ab')2断片を含むがこれらに限定されず、およびIgG、IgA、IgM、IgD、IbE、ならびに分泌型免疫グロブリン(sIg)のクラスの免疫グロブリンを含む。免疫グロブリンは一般に、2本の同一な重鎖および2本の軽鎖を含む。しかしながら、「抗体」および「免疫グロブリン」という表現は、1本鎖抗体および2本鎖抗体も含む。
【0019】
本明細書で用いる「抗原結合タンパク質」という表現は、特定の抗原と結合するタンパク質を意味する。「抗原結合タンパク質」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体を含む免疫グロブリン;Fab断片、F(ab')2断片、およびFab発現ライブラリー;ならびに1本鎖抗体を含むがこれらに限定されない。
【0020】
本明細書で用いる「エピトープ」という表現は、特定の免疫グロブリンとの接触を可能とする抗原の部分を意味する。
【0021】
宿主動物の免疫化にタンパク質またはタンパク質断片を使用する場合は、タンパク質の数多くの領域が、タンパク質の任意の領域または3次元構造に特異的に結合する抗体の産生を誘導する可能性があり、このような領域または構造は「抗原決定基」と呼ばれる。抗原決定基は、抗体との結合に関して、完全な抗原(すなわち、免疫応答を誘導するために使用される「免疫原」)と競合する可能性がある。
【0022】
抗体とタンパク質またはペプチドの相互作用に関して使用される「特異的な結合」または「特異的に結合する」という表現は、相互作用が、タンパク質上の特定の構造(すなわち抗原決定基もしくはエピトープ)の存在に依存することを意味する。言い換えると、抗体は、タンパク質一般ではなく特定のタンパク質構造に認識されて結合される。例えば仮に抗体がエピトープ「A」に特異的な場合、標識された「A」および抗体を含む反応物中にエピトープA(もしくは遊離の非標識のA)を含むタンパク質が存在すると、抗体と結合する標識されたAの量を減らすことになる。
【0023】
本明細書で用いる、抗体とタンパク質またはペプチドの相互作用に関して使用される「非特異的な結合」および「バックグラウンド結合」という表現は、特定の構造の存在に依存しない相互作用を意味する(すなわち抗体は、エピトープなどの特定の構造ではなく、一般にタンパク質に結合している)。
【0024】
本明細書で用いる「被験対象」という表現は、特定の治療受給者となるヒト、非ヒト霊長類、齧歯類などを含むがこれらに限定されない任意の動物(例えば哺乳類)を意味する。典型的には、「被験対象」および「患者」という表現は本明細書で、ヒト被験者に関して互換的に使用される。
【0025】
本明細書で用いる「癌を有することが疑われる被験対象」という表現は、癌であることを示す1つもしくは複数の症状(例えば、注目すべき瘤もしくは塊)を呈する被験対象、または癌に関して(例えば、通常の健康診断中に)スクリーニングされる被験対象を意味する。癌を有することが疑われる被験対象は、1つもしくは複数のリスク因子を有する可能性がある。癌を有することが疑われる被験対象は一般に、癌に関する検討が行われていない。しかしながら、「癌を有することが疑われる被験対象」は、予備的診断(例えば、塊の存在を示すCTスキャン、もしくはPSAレベルの上昇)を受けているが、確認検査(例えば、生検、および/または組織学的検査)は実施されていないか、または癌の段階が不明である個人を含む。この表現はさらに、かつて癌を有していた人々(例えば寛解期の個人)を含む。「癌を有することが疑われる被験対象」は、時に癌であると診断され、および時には癌を有さないことが判明する。
【0026】
本明細書で用いる「癌であると診断された被験対象」という表現は、検査を受けて癌細胞を有することが判明した被験対象を意味する。癌は、生検、x線、血液検査、および本発明の診断法を含むがこれらに限定されない適切な方法で診断される場合がある。「予備的診断」は、視覚的な検査(例えばCTスキャンまたは瘤の存在)、および抗原検査(例えばPSA)のみに基づく診断である。
【0027】
本明細書で用いる「癌であるリスクのある被験対象」という表現は、特定の癌を発症する1つもしくは複数のリスク因子を有する被験対象を意味する。リスク因子は、性別、年齢、遺伝的素因、環境曝露、および癌の発症歴、既存の非癌疾患、および生活様式を含むがこれらに限定されない。
【0028】
本明細書で用いる「非ヒト動物」という表現は、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥類ほか、などの脊椎動物を含むがこれらに限定されない、すべての非ヒト動物を意味する。
【0029】
本明細書で用いる「遺伝子輸送系」という表現は、核酸配列を含む組成物を細胞または組織に輸送する任意の手段を意味する。例えば遺伝子輸送系は、ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、および他の核酸ベースの輸送系)、裸の核酸のマイクロインジェクション、ポリマーベースの輸送系(例えば、リポソームベースおよび金属粒子ベースのシステム)、微粒子銃による注入などを含むがこれらに限定されない。本明細書で用いる「ウイルス遺伝子輸送系」という表現は、所望の細胞または組織への試料の輸送を促す、ウイルス因子(例えば、完全なウイルス、修飾型ウイルス、および核酸もしくはタンパク質などのウイルス成分)を含む遺伝子輸送系を意味する。本明細書で用いる「アデノウイルス遺伝子輸送系」という表現は、アデノウイルス科に属する完全なウイルスまたは改変されたウイルスを含む遺伝子輸送系を意味する。
【0030】
「アミノ酸配列」、および「ポリペプチド」または「タンパク質」などの表現は、アミノ酸配列を、対象となるタンパク質分子と関連する完全な天然のアミノ酸配列に制限することを意味しない。
【0031】
「試験化合物」および「候補化合物」という表現は、疾患、病気、病、または身体機能の障害(例えば癌)を治療もしくは予防するための使用の候補となる任意の化学的または生物学的な実体、薬物、薬剤などを意味する。試験化合物は、既知の、および潜在的な治療的化合物の両方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング法を用いることで、スクリーニングによる治療に適しているか否かについて判定できる。
【0032】
本明細書で用いる「試料」という表現は、非常に広い意味で使用される。1つの意味では、この表現は、任意の供給源から得られる試料または培養物、ならびに生物学的試料および環境試料を含むことを意味する。生物学的試料は、動物(ヒトを含む)から入手可能であり、ならびに体液、固体、組織、および気体を含む。生物学的試料は、血漿、血清などの血液製剤を含む。環境試料は、表面物質、土壌、水、および工業的試料などの環境材料を含む。しかし、これらの例は、本発明に応用可能な試料のタイプを制限するとは解釈されない。
【0033】
「遺伝子」という表現は、ポリペプチドまたは前駆体の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)の配列(例えば、本発明のリボヌクレアーゼもしくはリボヌクレアーゼ複合体)を意味する。ポリペプチドは、完全長のコード配列に、またはコード配列の任意の部分に、完全長もしくは断片の所望の活性もしくは機能的特性(例えば酵素活性など)が保持される限りにおいて、コードされている可能性がある。この表現には、構造遺伝子のコード領域が含まれており、および遺伝子が完全長のmRNAの長さに対応するように、コード領域に隣接して5'端および3'端のいずれの側に約1 kbの距離にわたって、位置する配列も含まれる。コード領域の5'側に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'側すなわち下流に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という表現は、cDNA状およびゲノム状の遺伝子の両方を含む。遺伝子のゲノム型またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」もしくは「介在配列」と呼ばれる非コード配列が介在するコード領域を含む。イントロンは、核内RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり;イントロンは、エンハンサーなどの調節エレメントを含む場合がある。イントロンは、核転写物すなわち一次転写物から除去すなわち「スプライスアウト」され;したがってイントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物上には存在しない。mRNAは翻訳中に、新生ポリペプチド中のアミノ酸の配列または順序を指定するように機能する。
【0034】
「野生型」という表現は、天然の供給源から単離された遺伝子または遺伝子産物の特徴を有する遺伝子または遺伝子産物を意味する。野生型の遺伝子は、集団中に極めて高頻度で観察される遺伝子であり、および、したがって、任意に設計された(arbitrarily designed)「正常」な遺伝子または「野生」型の遺伝子と呼ばれる。これとは対照的に、「修飾された」、「変異体」、および「変種」という表現は、野生型の遺伝子もしくは遺伝子産物と比較時に、配列および/または機能的特性(すなわち特徴の変化)に修飾を示す遺伝子もしくは遺伝子産物を意味する。天然の変異体が単離可能なことに注意されたく;天然の変異体は、野生型の遺伝子または遺伝子産物との比較時に、改変された特徴を有するという事実によって同定される。これは、ヒトの(または機械的な)介入によって配列に変化が生じる合成変異体とは対照的である。
【0035】
本明細書で用いる「断片」という表現は、天然のタンパク質と比較してアミノ末端および/またはカルボキシ末端に欠失を有するが、残りのアミノ酸配列が、完全長のcDNA配列から推定されるアミノ酸配列の対応する位置と同一なポリペプチドを意味する。断片は典型的には、少なくとも4アミノ酸の長さであり、好ましくは少なくとも20アミノ酸の長さであり、通常は少なくとも50アミノ酸もしくはこれ以上の長さであり、かつ、そのさまざまなリガンドおよび/または基質と組成物の分子間結合に必要とされるポリペプチドにまたがった部分を含む。
【0036】
本明細書で用いる「精製された」または「〜を精製する」という表現は、試料からの不純物および混入物の除去を意味する。例えば抗体は、非免疫グロブリンタンパク質の除去によって精製され;意図される標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去によっても精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去、および/または意図される標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去は、試料中における標的反応性免疫グロブリンのパーセントの上昇をもたらす。別の例では、組換えポリペプチドは宿主細胞で発現され、およびポリペプチドは、宿主細胞タンパク質の除去によって精製され;したがって、試料中における組換えポリペプチドの割合は上昇する。
【0037】
本明細書で用いる「発現ベクター」という表現は、所望のコード配列、および特定の宿主生物における使用可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列は通常、プロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位を、時には他の配列とともに含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0038】
本明細書で用いる「宿主細胞」という表現は、インビトロもしくはインビボのいずれに位置するかに関わらず、任意の真核細胞または原核細胞(例えば、大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を意味する。例えば宿主細胞は、トランスジェニック動物中に位置してもよい。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、病原性細胞、特に癌細胞への毒性タンパク質の輸送に関する。毒性タンパク質は、疾患細胞に毒性を示すことなく病変部位に輸送されると有用な場合もある。好ましい態様では、毒性タンパク質は、標的細胞に対して毒性を示すように修飾され、かつ病原性細胞へ輸送するために、抗体などの標的細胞特異的な輸送ベクターと接合された修飾されたリボヌクレアーゼである。
【0040】
本発明の好ましい態様は、天然のリボヌクレアーゼ(例えばヒトのリボヌクレアーゼ)の、疾患、特に癌およびウイルス感染症の治療または治癒に使用される毒性タンパク質への変換に基づく。組成物は、(例えば、薬剤のスクリーニング、または癌の特性解析と関連する)診断的応用、および研究的応用にも有用である。このようなリボヌクレアーゼは、独立した(Stand alone)の試薬として使用可能であり、またはポリマー、デンドリマー、リポソーム、ポリマーナノ粒子、もしくはブロック共重合体ミセルなどの一般的もしくは特異的な輸送系に組み入れることが可能である。これらのタンパク質の1つの特徴は、これらが、輸送される対象の細胞に対して毒性を示すように人工的に改変されたタンパク質であることである。この特徴は、トキシンの天然の阻害剤に対して感受性の弱いトキシン複合体を提供する。別の特徴は、その出発点が、好ましくは天然のタンパク質(例えば天然のヒトタンパク質)であり、免疫系を有意に回避ような修飾(例えばヒト化)が必要な非天然の(例えば非ヒト)タンパク質ではなかったことである。本発明の1つの態様は、特定の病原性細胞に標的輸送するために、これらのタンパク質トキシンを抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)と結合させることである。このようなタンパク質複合体は、インビボで使用された場合に、副作用または免疫応答を誘導する可能性を大きく低める。
【0041】
いくつかの好ましい態様では、本発明は、EVADEヒトリボヌクレアーゼ(Quintessence Biosciences, Madison, Wisconsin)とターゲティング成分との複合体を提供する。したがってEVADEヒトリボヌクレアーゼは、両生類のリボヌクレアーゼと比較して優れた有効性を示す。なぜなら、特異的なリボ核酸切断活性がより高く、かつ副作用およびヒトの免疫応答を誘導する可能性が低いからである。加えて、天然の阻害因子であるリボヌクレアーゼ阻害因子との結合は、EVADEリボヌクレアーゼに関しては妨害されている。EVADEリボヌクレアーゼは、標的細胞内で細胞RNAを妨害することで腫瘍の細胞成長を阻害し、ならびに化学療法および放射線療法を含む従来の治療法の抗癌作用を高めもする。EVADEヒトリボヌクレアーゼが、両生類のリボヌクレアーゼのように、ヒトの腎臓中に保持されないことも想定される。両生類のリボヌクレアーゼの腎毒性は、マウスおよびヒトでは用量制限的である。従来の化学療法では、膜ベースの薬剤ポンプによって、低分子量抗癌剤が癌性細胞から除外されうるという問題が生じることがしばしばある。この事実は、より高用量の毒性薬剤の使用を必要とする。両生類のリボヌクレアーゼと同様に、EVADEリボヌクレアーゼが、これらの耐性細胞に、標準レベルの治療に対する感受性をもたせることが可能であり、このために、低用量で有効であり、かつ副作用を減じることが推定される。加えて、EVADEリボヌクレアーゼは、放射線療法または他の従来の介入と組み合わせて使用した時に、利益をもたらすと想定される。
【0042】
いくつかの態様では、本発明の組成物および方法は、被験生物(例えば、ヒトおよび獣医学的動物を含むがこれらに限定されない哺乳類被験対象)における、またはインビトロおよび/またはエクスビボにおける細胞、組織、ならびに器官における病的な細胞、組織、器官、もしくは病的条件および/または疾患状態を治療するために使用される。この点に関しては、さまざまな疾患および病態が、本発明の方法および組成物を用いる治療または予防に適している。このような疾患および条件の非制限的な例示的なリストは、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、皮膚癌、膵臓癌、結腸癌、黒色腫、悪性黒色腫、卵巣癌、脳腫瘍、原発性脳腫瘍、頭頚部癌、神経膠腫、膠芽腫、肝臓癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、頭部または頚部の癌、乳癌(breast carcinoma)、卵巣癌(ovarian carcinoma)、肺癌、小細胞肺癌、ウイルムス腫瘍、子宮頚部癌、精巣癌、膀胱癌(bladder carcinoma)、膵臓癌(pancreatic carcinoma)、胃癌、結腸癌(colon carcinoma)、前立腺癌(prostatic carcinoma)、泌尿生殖器癌、甲状腺癌、食道癌、骨髄腫、多発性骨髄腫、腺癌、腎細胞癌、子宮内膜癌、副腎皮質癌、悪性膵島細胞腺腫、悪性カルチノイド癌、絨毛癌、菌状息肉症、悪性高カルシウム血症、子宮頚部過形成(cervical hyperplasia)、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性顆粒球白血病、急性顆粒球白血病、有毛細胞白血病、神経芽腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、真性多血症、本態性血小板増多症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟組織肉腫、骨原性肉腫、原発性マクログロブリン血症、および網膜芽腫など、T細胞およびB細胞が介在する自己免疫疾患;炎症性疾患;感染症;過増殖性疾患;エイズ;変性疾患、血管疾患などを含むが、これらに限定されない。いくつかの態様では、治療対象となる癌細胞は転移性である。
【0043】
いくつかの好ましい態様では、本発明のリボヌクレアーゼまたはリボヌクレアーゼ複合体は、他の医学的介入と同じ時期に、同時に、または逐次1剤ずつ投与される。例えば癌の治療に関しては、癌の治療に常用されている任意の抗腫瘍剤(oncolytic agent)を、本発明の組成物および方法と同時に投与することができる。例えば米国食品医薬品局は、抗腫瘍剤が米国内における使用に承認されたとの公式見解を明らかにしている。米国FDAに相当する国際機関は、同様の見解を明らかにしている。表4は、米国内における使用が承認されている例示的な抗悪性腫瘍剤のリストである。当業者であれば、米国で承認された全ての化学療法剤に必要とされる「製品ラベル」に、例示的薬剤に関する承認された効用、用量情報、毒性データなどが記載されていることを理解するであろう。場合によっては、本発明の組成物との同時使用によって、このような化合物の低用量の使用が可能となることで、毒性を減らすことが想定される。
【0044】
(表4)








【0045】
癌治療に対する現在のアプローチ、および開発途上のアプローチは、癌細胞特異的な試薬を悪性腫瘍に標的輸送するように使用することを含む。このような毒性試薬は、毒性ペイロード(toxic payload)を細胞特異的な輸送ベクターに結合させることで作製できる。過去数年間に、抗体、抗体断片、および細胞表面受容体に対するリガンドを含む、さまざまな腫瘍特異的なターゲティング用タンパク質が開発されており、かつ臨床的に検討されている。このようなターゲティング分子は、患者に特異的に輸送するために、低分子量薬剤、酵素、放射性同位元素、タンパク質トキシン、および他のトキシンなどの、複数のクラスの治療的トキシンと接合されている。このような取り組みは、癌を治療することに成功しているが、より有効なトキシンを開発する、より頑健かつ特異的な輸送系を作る、およびヒトの免疫監視を逃れる治療的タンパク質およびタンパク質ベクターを設計するための大きな挑戦が未だ前方にある。
【0046】
腫瘍細胞を選択的に標的とすることから、リボヌクレアーゼ(RNase)タンパク質はヒト治療薬として検討されている。このことは、ヒョウガエル(Rana pipiens)の初期胚のRNaseにおいて最も明瞭に明らかにされている。ヒョウガエルは、ヒョウガエル(leopard frog)の仲間であり、および、その胚のRNaseは、より高度に保存された、ウシおよびヒトの膵臓リボヌクレアーゼと遠縁である。哺乳類細胞では、RNase Aなどの膵臓型リボヌクレアーゼは、RNAのリボヌクレオチドへの分解を触媒する分泌型酵素であり、およびその活性は、遍在性の細胞質タンパク質であるリボヌクレアーゼ阻害物質(RI)の結合によって阻害される。リボヌクレアーゼ阻害物質は、膵臓型RNaseに非常に緊密に結合し、その活性を弱め、およびこのために正常細胞または癌細胞に対して非毒性とする。仮にRNase活性が阻害されると、細胞内のRNAは損なわれなくなり、細胞は生存した状態で維持される。正常細胞では、リボヌクレアーゼ活性は緊密に制御されているが、仮にリボヌクレアーゼ活性が制御されなくなると、リボ核酸切断活性は細胞RNAを妨害して細胞を死滅させる。ヒト細胞、特に癌細胞に対する毒性を有するリボヌクレアーゼの作製には2つの主なアプローチが存在する。第1のアプローチは、進化的にヒトと遠く、かつヒトリボヌクレアーゼ阻害因子タンパク質によって阻害されないリボヌクレアーゼを選択することである。このカエル(Rana pipiens)のリボヌクレアーゼは、ヒト細胞中に配置されると、RIによって強く阻害されず、かつそのRNase活性は細胞のRNAを妨害して標的細胞を死滅させる。これは、ランピルナーゼ(Ranpirnase)と呼ばれる特定のヒョウガエルのRNaseを用いたアプローチとなっている。ランピルナーゼは米国特許第5,559,212号に記載され、かつ請求されている薬物の一般名であり、および現在ではONCONASEの登録商標によって知られている。
【0047】
第2のアプローチは、哺乳類のリボヌクレアーゼに変異を導入することで、高レベルのリボ核酸切断活性を維持するが、ヒトのリボヌクレアーゼ阻害物質によって有意に阻害されなくすることである。このような変異型酵素は、RIとの結合を妨害することから、癌細胞内で高レベルのリボ核酸切断活性を提供する。この非調節型の活性は特に癌細胞に致死的に作用する。この変異アプローチは、哺乳類のタンパク質であるウシRNase AおよびヒトRNase Iに関して報告されており、かつ全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,389,537号、および第6,280,991号に記載されている。
【0048】
癌治療に理想的なタンパク質候補は、非癌性細胞と比較して腫瘍細胞に大きな毒性を有し、かつ特定の腫瘍を標的化可能なものであろう。このような候補は副作用が少ないはずであり、かつヒトの免疫応答を刺激しないはずである。ヒトで免疫応答を誘導する治療的タンパク質は、常に問題となっており、かつ時には受入れられないことがある。本発明は、低い免疫原性および副作用を示しながら、かつ癌特異的な毒性をもたらす高リボ核酸切断活性を維持する、変異RNaseに由来するリボヌクレアーゼ複合体を提供する。
【0049】
本発明のある好ましい態様を以下に記載する。これらの態様は、変種のヒトリボヌクレアーゼタンパク質、および抗体ターゲティング部分に関して説明するが、本発明はこれらに制限されない。
【0050】
治療的抗体および細胞トキシンの輸送
抗体は、免疫系の白血球(Bリンパ球)が産生する糖タンパク質分子であり、かつその機能は、生物にとって有害な物質を認識して結合することである。ひとたび抗体が抗原にマークを付けると、抗原は免疫系の他の成分によって破壊される。典型的な生物は、それぞれが外来抗原上の特定のエピトープ(または抗原決定基)に結合するように設計された数百万の異なる抗体を産生する。抗体は天然の状態で、特異性(多様な有害分子を精密に区別する能力)、および親和性(標的の表面に緊密に結合する能力)を、抗体および補体が介在する細胞溶解および抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)などの免疫系のエフェクター機能を動員する能力と結びつける。抗体が関与する多くの新しい治療アプローチによって、天然の抗体機能を増強して疾患を治療または治癒することに成功している。
【0051】
または、抗体に結合させた「毒性ペイロード(toxic payload)」(放射性エレメントまたはトキシンなど)を、病原性の標的に正確に輸送することができる。下表に、リンパ腫および白血病に対する毒性ペイロードを運ぶ3種類の抗体複合体を含む、いくつかの癌の治療的抗体の機構を列挙する(Drug Discovery Today, Vol. 8, No. 11 June 2003)。この中の2つの複合体、ZEVALINおよびBEXXARは、放射性ヨウ素をトキシンとして運び、および第3のMYLOTARGは、細菌発酵物から単離される細胞傷害性抗腫瘍抗生物質calicheamininを運ぶ。Mylotarg抗体は、急性骨髄性白血病(AML)の80%以上の患者に存在する白血病性芽球の表面に発現されるCD33抗原に特異的に結合する。この複合体中の抗体は、ヒト起源のアミノ酸配列の約98.3%を有する。
【0052】
(表2)


【0053】
これらの製品で使用される任意のターゲティング用の抗体または薬剤を、本発明の組成物および方法に利用することもできる。
【0054】
一般に、トキシンを標的輸送する最も特異的な方法は、腫瘍細胞に特異的な表面抗原を認識するように設計されたモノクローナル抗体または抗体断片の使用である。正常細胞はこのような表面抗原を欠くので、トキシン複合体によって標的輸送されず、かつ死滅させられない。抗体全体は2つのドメインを有する:1つは、抗体に親和性および結合特異性をもたらす可変領域であり、かつもう1つは、免疫系の他の部分と相互作用して、宿主生物における免疫応答を促進する定常領域である。可変領域は、抗体の標的と結合する相補性決定領域(CDR)、およびCDRを抗体の残りの部分に係留してCDRの形状の維持を助けるフレームワーク領域を含む。各抗体中の6つのCDRは、異なる抗体間で長さおよび配列が異なり、および主に、標的マーカーに対する抗体の特異性(認識)および親和性(結合)に関与する。
【0055】
抗体の機能は、アミノ酸の一次配列によって、およびアミノ酸が機能性の3次元タンパク質鎖にどのように折りたたまれるかによって最終的に決定される、その特徴的な3次元構造に反映されている。治療的モノクローナル抗体を開発する1つの段階は、抗癌能に関する生化学的機能および細胞機能を同時に最適化する段階であり、および任意の抗-抗体ヒト免疫応答を最小限にするために、可能な限りタンパク質をヒト様に維持する段階である。
【0056】
モノクローナル抗体は当初マウスで作製されたが、ヒトの治療的応用に使用する場合は、厄介な障害を呈した。マウス抗体は、ヒト免疫系によって異物として認識され、および、したがって、ヒト抗マウス抗体(Human Anti-Mouse Antibody)すなわちHAMA反応を引き起こす。HAMA反応は、マウスのモノクローナル抗体の有効性を変化させ、重度の有害な症状を受給者に引き起こす恐れがある。さらにマウスの抗体は、悪性細胞を破壊するためのヒト免疫系への媒介として、単にヒト抗体ほど有効ではない。こうした理由から、可能な限りヒト様でありながら、それでも最適な生化学的、免疫学的、および治療的な能力を維持するモノクローナル抗体を設計することが望まれることがしばしばある。
【0057】
治療的抗体が免疫応答をヒト宿主に誘導するか否かに影響する複数の因子が存在する。これには、ピノサイトーシス、受容体介在型のエンドサイトーシス、または食作用を介したAPC(抗原提示細胞)による取り込みの効率が含まれる。取り込みの効率は、引いては投与経路、タンパク質の可溶性(または凝集)、その受容体結合特異性、およびタンパク質がクラスII主要組織適合性複合体(MHC)分子、T細胞受容体(TCR)、およびB細胞受容体(BCR)に認識されるか否かによる影響を受ける。ヒトの免疫応答を逃れる最もわかりやすい方法の1つは、可能な限りヒト様の治療的タンパク質の配列および構造を作製することである。
【0058】
ヒト抗体もしくはヒト化された治療的モノクローナル抗体を、治療薬として単独で使用するか、またはトキシン用の担体として作製する2つの主なアプローチが提案されている。これには、(1)ヒト免疫系に適合させるためにマウスまたは他の非ヒトの抗体を「ヒト化」すること、ならびに(2)完全ヒト抗体をトランスジェニックマウスで、または実験室における遺伝子工学的方法で作製することが含まれる。このプロセスで複数のカテゴリーのモノクローナル抗体が作製されている。マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体がこれに含まれる。これらを以下に簡単に説明する。
【0059】
1.マウスおよびラットに由来するマウスモノクローナル抗体:1975年の当初のKohlerおよびMilsteinの手法では、ハイブリドーマ法でマウスのモノクローナル抗体が得られた。このような抗体は治療的に使用されている。1986年に、マウスモノクローナル抗体の最初に承認された使用は、臓器拒絶を避けるために免疫系が抑制された移植患者に対するものであった。齧歯類の抗体は、同じ患者に対する反復的使用に関する有用性を制限する、強力なヒト抗マウス抗体(HAMA)免疫応答を引き起こす傾向がある。
【0060】
2.キメラ抗体:この抗体は、機能性のマウス抗体の可変領域の全体が、ヒト抗体の定常領域に連結された変異抗体である。この抗体は、補体の活性化および免疫細胞の動員などの、定常(Fc)領域に由来するヒトエフェクター機能を有する。キメラ抗体は、マウス抗体の定常領域に起因する免疫原性(HAMA)も減ずる。
【0061】
3.ヒト化抗体/CDR移植抗体/再形成型抗体:これらの抗体はキメラ抗体よりヒト様である。なぜなら、マウス抗体の可変領域に由来する相補性決定領域のみが、ヒト抗体の可変領域に由来するフレームワーク領域と結合されているからである。これらの抗体はキメラ抗体よりヒト様なので、ヒトに治療的用量を反復投与時に免疫原性が弱くなるように設計され得ることが予想される。マウス抗体のヒト化を支援するコンピュータモデル作製ソフトウェアを使用して、または配列のランダムシャッフリングと、続くスクリーニングによって、マウス抗体の結合の親和性および特異性の大半もしくは全てを保持するが、ヒトと90%を上回る類似性のある抗体を設計することが可能である。
【0062】
4.免疫ドナーに由来するヒト抗体:一部の抗体は、エプスタイン・バーウイルスによるB細胞の形質転換、またはPCRクローニングおよびファージディスプレイのいずれを使用して、免疫ヒトドナーから救済される。定義上、このような抗体は、完全にヒト起源である。
【0063】
5.ファージライブラリーに由来する完全ヒト抗体:合成ヒト抗体のV領域をランダムに組み合わせることで、合成ファージライブラリーが作製されている。このようなライブラリーを標的抗原に対してパニングすることで、いわゆる「完全ヒト抗体」が極めてヒト様となるが、おそらく天然の抗体よりは多様であると考えられる。
【0064】
6.トランスジェニックマウスに由来する完全ヒト抗体:機能的なヒト免疫グロブリンの生殖系列遺伝子の配列を有するトランスジェニックマウスが作製されている。このようなトランスジェニックマウスは、免疫化時にヒト様抗体を産生する。
【0065】
4、5、および6の方法で産生されるヒト抗体が典型的には最も望ましい。なぜなら、ヒト患者における免疫応答を刺激するであろうマウスまたは「外来」タンパク質配列を含まない開始用抗体を産生するからである。このアプローチ(4、5、および6)は、マウスのCDR領域をヒトのフレームワークに置換することにより、可変領域の3次元構造がしばしば変化させられ、このことにより抗体の結合および特異性が変化させられるという問題を迂回することもできる。このアプローチ(4、5、6)では、抗CD3抗体が良好に作製されている。マウスのバージョンは、検討された全患者への単回投与後に中和抗体を誘導したが、ヒト化バージョンの免疫原性は、複数回の注射後にわずか25%の患者においてのみ認められた。
【0066】
ヒトの免疫応答を逃れるために、モノクローナル抗体を、一次配列に関して可能な限りヒト様として作製することとは別に、他の複数のアプローチによって、抗体の免疫原性を弱め、かつ治療的有効性を高めることができる。1つのアプローチは、ポリエチレングリコール(PEG)などの試薬で抗体表面を共有結合的に修飾することで、その抗原性を抑制し、かつ可溶性を改善することである。このような生化学的な修飾は、毒性の低減、生物学的利用能の上昇、および有効性の改善などの、他の複数の利益も有する場合がある。別のアプローチは、定常領域などのマウス抗体の潜在的に抗原性を有する部分が除去された抗体断片を使用することである。このアプローチは典型的には、抗体の定常領域内の調節性成分が治療効果に必要とされない場合にのみ機能する。以上のアプローチはいずれも、完全に満足のゆくものであることは証明されておらず、上述の「理想的な」抗体候補を作製するためのヒト化の取り組みを促している。
【0067】
抗体輸送ベクターに加えて、ペプチド、ポリマー、デンドリマー、リポソーム、ポリマーナノ粒子、およびブロック共重合体ミセルを含む、他のいくつかの特異的および非特異的なベクターを使用して、毒性分子を癌細胞に輸送することができる。例えば、黄体形成ホルモン放出ホルモンに結合するペプチドが、小分子トキシンであるカンプトセシンを卵巣癌細胞に標的輸送するために使用されている(Journal of Controlled Release, 2003, 91, 61-73)。
【0068】
リボヌクレアーゼ阻害タンパク質を避けるリボヌクレアーゼは、ヒト細胞における、特に癌細胞に対する有効なトキシンである。全体が参照により本明細書に組み入れられる以下の参考文献では、ターゲティングタンパク質(タンパク質および抗体を含む)に対するリボヌクレアーゼのいくつかの化学的複合体について記載されている:Newton et al. (2001), Blood 97 (2): 528-35, Hursey et al. (2002) Leuk Lymphoma 43 (5): 953-9, Rybak et al., (1991) Journal of Biological Chemistry 266 (31): 21202-7, Newton et al. (1992) Journal of Biological Chemistry 267 (27): 19572-8, Jinno and Ueda (1996) Cancer Chemother Pharmacol 38: 303 308, Yamamura et al. (2002) Eur J Surg 168: 49-54, Jinno et al. (1996) Life Sci 58: 1901-1908, Suzuki et al. (1999) Nature Biotechnology 17 (3): 265-70, Rybak et al. (1992), Cell: Biophys 21 (1-3): 121-38, Jinno et al. (2002) Anticancer Res. 22: 4141-4146。
【0069】
非天然のリボヌクレアーゼポリヌクレオチド
上述したように、新しいファミリーの非天然のリボヌクレアーゼタンパク質が発見されている。このファミリーは、所望の細胞傷害活性を有するリボヌクレアーゼ配列の構造機能解析によって同定された。したがって本発明は、これらの新しい非天然のリボヌクレアーゼ、ホモログ、および変種(例えば変異および多型)をコードする核酸を提供する。いくつかの態様では、本発明は、表1〜3に列挙された任意のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。本発明は、このような核酸配列と、ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド配列が、リボヌクレアーゼの生物学的活性(例えば細胞傷害活性)を保持するタンパク質をコードする限りにおいて、低〜高ストリンジェンシーの条件でハイブリダイズ可能な核酸も提供する。上記の核酸分子は、産生されるアミノ酸配列がリボヌクレアーゼとターゲティング分子の融合体となるように、ターゲティング分子(例えば抗体)のコード配列と結合させることもできる。
【0070】
本発明のさらに他の態様では、クローニング、プロセシング、および/または遺伝子産物の発現を修飾する変化を含むがこれらに限定されない、さまざまな理由で、リボヌクレアーゼのコード配列を変化させるために、本発明のヌクレオチド配列を人工的に作製することができる。例えば変異を当技術分野で周知の手法で導入することができる(例えば、新しい制限酵素切断部位を挿入したりコドンの使用頻度を変化させたりする部位特異的変異導入など)。
【0071】
リボヌクレアーゼの活性(例えば細胞傷害活性)を高めるなどの目的のために、機能(例えばリボヌクレアーゼの機能)を有するペプチドの構造の修飾が可能なことが想定される。このような修飾型ペプチドは、本明細書で定義されたリボヌクレアーゼの活性を有するペプチドの機能的等価物であると見なされる。修飾型ペプチドは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、置換、欠失、または付加などによって変化させることで作製できる。特に好ましい態様では、これらの修飾は、修飾型リボヌクレアーゼの細胞傷害活性を有意に減じない。言い換えると、構築物「X」を評価して、構造的というよりも機能的に定義される、本発明の修飾型または変種のリボヌクレアーゼ群の成員か否かを判定することができる。好ましい態様では、変種のリボヌクレアーゼの活性は、本明細書に明示的に記載された方法、または参考文献に記載された方法を含む、任意の既知のスクリーニング法で評価される。
【0072】
さらに、表2および表3に示したリボヌクレアーゼの変種型を提供する。構造的および機能的な等価物を含む、これらの組成物の別の変種が想定される。例えば、ロイシンとイソロイシンもしくはバリンの、アスパラギン酸とグルタミン酸の、スレオニンとセリンの分離された置換、またはアミノ酸と構造的に関連したアミノ酸との類似の置換(すなわち保存的変異)は、結果として得られる分子の生物学的活性に対する主要な作用を有しないことが想定される。したがって、本発明のいくつかの態様は、保存的な置換を含む、本明細書に開示されたリボヌクレアーゼの変種を提供する。保存的置換は、アミノ酸の側鎖が関連するアミノ酸のファミリー内で生じる置換である。遺伝子にコードされたアミノ酸は、以下の4つのファミリーに分けることができる:(1)酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸);(2)塩基性(リシン、アルギニン、ヒスチジン);(3)無極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);および(4)非荷電性・極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン)。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、まとめて芳香族アミノ酸として分類されることがある。類似の様式で、アミノ酸のレパートリーを、(1)酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸);(2)塩基性(リシン、アルギニン、ヒスチジン);(3)脂肪族(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン)(セリンおよびスレオニンは、任意に個別に脂肪族ヒドロキシルにグループ分けされる);(4)芳香族(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン);(5)アミド(アスパラギン、グルタミン);および(6)硫黄含有(システインおよびメチオニン)のように分類することができる(例えば、Stryer ed., Biochemistry, pg. 17-21, 2nd ed., WH Freeman and Co., 1981)。ペプチドのアミノ酸配列の変化が機能性ホモログをもたらすか否かは、変種ペプチドが標準タンパク質と同様に機能する能力を評価することで容易に決定できる。複数の置換を有するペプチドは、同様の方法で容易に検討することができる。
【0073】
よりまれに変種は、「非保存的な」変化(例えばグリシンとトリプトファンの置換)を含む。類似の微小な変形形態は、アミノ酸の欠失もしくは挿入、またはこの両方を含む場合もある。どのアミノ酸残基が、生物学的活性を失うことなく、置換、挿入、または欠失が可能かを判定する際の指針は、コンピュータプログラムを用いて得られる(例えば、LASERGENE software, DNASTAR Inc., Madison, Wis.)。
【0074】
以下に詳細に説明するように、変種は、方向づけ進化、または変種の組み合わせライブラリーを作る他の手法などの方法で作製できる。本発明のさらに他の態様では、本発明のヌクレオチド配列を、遺伝子産物のクローニング、プロセシング、局在化、分泌、および/または発現を修飾する変化を含むがこれらに限定されない、リボヌクレアーゼのコード配列を変化させることを目的として、人工的に作製することができる。
【0075】
非天然のリボヌクレアーゼのポリペプチド
非天然のリボヌクレアーゼのポリペプチドを表1〜3に示す。本発明は、これらのリボヌクレアーゼタンパク質の断片、融合タンパク質、または機能的等価物も提供する。
【0076】
本発明のポリヌクレオチドは、組換え手法によるポリペプチドの作製に利用することができる。したがって例えば、本発明のポリヌクレオチドは、ポリペプチドを発現する、さまざまな発現ベクターの任意の1つに含まれる場合がある。本発明のいくつかの態様では、ベクターは、染色体、非染色体、および合成のDNA配列(例えば、SV40の誘導体、細菌プラスミド、ファージDNA;バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAの組み合わせに由来するベクター、ならびにワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなどのウイルスDNA)を含むがこれらに限定されない。任意のベクターが、宿主で複製可能かつ生存可能な限りにおいて使用可能なことが想定される。
【0077】
特に、本発明のいくつかの態様は、既に広く説明した1つもしくは複数の配列を含む組換え構築物を提供する。本発明のいくつかの態様では、このような構築物は、本発明の配列がフォワードもしくはリバースの方向に挿入されたプラスミドまたはウイルスのベクターなどのベクターを含む。さらに他の態様では、異種(heterologous)構造配列が、翻訳の開始および終結の配列と適切な相で集合される。本発明の好ましい態様では、適切なDNA配列は任意のさまざまな手順でベクターに挿入される。一般にDNA配列は、当技術分野で周知の手順で、適切な制限エンドヌクレアーゼ切断部位に挿入される。
【0078】
多数の適切なベクターが当業者に知られており、かつ市販されている。このようなベクターは以下のベクターを含むがこれらに限定されない:(1)細菌用--pQE70、pQE60、pQE-9 (Qiagen)、pBS、pD10、phagescript、psiX174、pbluescript SK、pBSKS、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A (Stratagene);ptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5 (Pharmacia);および(2)真核生物用--pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、PXT1、pSG (Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL (Pharmacia)。他の任意のプラスミドまたはベクターを、宿主内で複製可能かつ生存可能な限りにおいて使用することができる。本発明のいくつかの好ましい態様では、哺乳類の発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーターおよびエンハンサーを含み、ならびに任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位およびアクセプター部位、転写終結配列、および5'隣接非転写配列も含む。他の態様では、SV40のスプライス部位、およびポリアデニル化部位に由来するDNA配列を使用して、必要とされる非転写遺伝エレメントを提供することができる。
【0079】
本発明のある態様では、発現ベクター中のDNA配列は、mRNA合成を誘導するために、適切な発現制御配列(群)(プロモーター)に使用可能に連結されている。本発明に有用なプロモーターは、LTRもしくはSV40のプロモーター、大腸菌のlacもしくはtrp、ファージラムダPLおよびPR、T3プロモーターおよびT7プロモーター、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)の最初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼおよびマウスのメタロチオネイン-Iのプロモーター、ならびに原核細胞もしくは真核細胞、またはこれらのウイルスにおける遺伝子の発現を制御することが可能な他のプロモーターを含むがこれらに限定されない。本発明の他の態様では、組換え発現ベクターは、複製起点、および宿主細胞の形質転換を可能とする選択マーカー(例えば、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸還元酵素もしくはネオマイシン耐性、または大腸菌におけるテトラサイクリンもしくはアンピシリン耐性)を含む。
【0080】
本発明のいくつかの態様では、エンハンサー配列をベクターに挿入することで、高等真核生物による、本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写を増やす。エンハンサーは、通常、約10〜300 bpで、プロモーターに作用して、その転写を高めるDNAのシス作用性のエレメントである。本発明に有用なエンハンサーは、複製起点の後期側bp 100〜270の位置にあるSV40のエンハンサー、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側に位置するポリオーマのエンハンサー、およびアデノウイルスのエンハンサーを含むがこれらに限定されない。
【0081】
他の態様では、発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位、および転写ターミネーターも含む。本発明のさらに他の態様では、ベクターは、発現を増幅するために適切な配列も含む場合がある。
【0082】
別の態様では、本発明は、上記の構築物を含む宿主細胞を提供する。本発明のいくつかの態様では、宿主細胞は高等真核細胞(例えば哺乳類または昆虫の細胞)である。本発明の他の態様では、宿主細胞は下等真核細胞(例えば酵母細胞)である。本発明のさらに他の態様では、宿主細胞は原核細胞(例えば細菌細胞)の場合がある。宿主細胞の特定の例は、大腸菌、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)、枯草菌(Bacillus subtilis)、および緑膿菌(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、およびブドウ球菌(Staphylococcus)属のさまざまな種、ならびに出芽酵母(Saccharomyces cerivisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ショウジョウバエのS2細胞、ヨトウガ(Spodoptera)のSf9細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル腎臓線維芽細胞のCOS-7系列(Gluzman, Cell 23: 175 [1981])、C127、3T3、293、293T、HeLa、およびBHKの各細胞系列(Gluzman, Cell 23: 175 [1981])を含むがこれらに限定されない。
【0083】
宿主細胞における構築物は、組換え配列にコードされた遺伝子産物を産生させるために従来の様式で使用することができる。いくつかの態様では、宿主細胞への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン法によるトランスフェクション、またはエレクトロポレーションによって達成することができる(例えば、Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, [1986]を参照)。または、本発明のいくつかの態様では、本発明のポリペプチドは、従来のペプチド合成装置で合成的に作製することができる。
【0084】
タンパク質は、哺乳類細胞、酵母、細菌、または他の細胞で、適切なプロモーターの制御下で発現させることができる。無細胞翻訳系を利用して、本発明のDNA構築物に由来するRNAを用いて、このようなタンパク質を産生させることもできる。原核生物および真核生物の宿主の使用に適切なクローニング用および発現用のベクターは、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, N.Y., (1989)に記載されている。
【0085】
本発明のいくつかの態様では、適切な宿主株の形質転換、および適切な細胞密度への宿主株の成長に続いて、選択されたプロモーターを適切な手段(例えば、温度変化、または化学的誘導)によって誘導し、および細胞をさらに長時間、培養する。本発明の他の態様では、細胞を典型的には遠心して回収し、物理的もしくは化学的な手段で妨害し、および結果として生じる粗抽出物を保持してさらに精製を行う。本発明のさらに他の態様では、タンパク質の発現に利用される微生物細胞は、凍結融解サイクリング、超音波処理、機械的破砕、または細胞溶解剤の使用を含む、任意の従来の方法で妨害することができる。
【0086】
本発明のポリペプチドは化学的に合成することもできる(Gutte, B. and Merrifield, R.B. The synthesis of ribonuclease, A. J. Biol. Chem. 1971, 246I, 1722-1741)。
【0087】
本発明はさらに、本発明のリボヌクレアーゼタンパク質およびリボヌクレアーゼ複合体の一連の組み合わせ変異体のセットを作製する方法を想定している。ライブラリーをスクリーニングして、例えば、特性(例えば、標的細胞に対する細胞傷害性、細胞ターゲティング、低全身毒性、安定性、クリアランス、ならびに改善された保存、取扱い、および投与)が改善された新しいリボヌクレアーゼまたはリボヌクレアーゼ複合体の変種が得られる。
【0088】
本発明の組み合わせ変異誘発アプローチのいくつかの態様では、リボヌクレアーゼ変種、または他の関連タンパク質の集団に対するアミノ酸配列を、好ましくは最高のホモロジーを可能とするように整列させる。このような変種集団は例えば、1種もしくは複数の種に由来するリボヌクレアーゼ相同体、または同じ種に由来するが、変異のために異なるリボヌクレアーゼ変種を含む場合がある。整列させた配列の各位置のアミノ酸を選択して、縮重セット(degenerate set)の組み合わせ配列を得る。
【0089】
本発明の好ましい態様では、組み合わせリボヌクレアーゼライブラリーは、それぞれが潜在的なリボヌクレアーゼタンパク質の配列の少なくとも一部を含むポリペプチドのライブラリーをコードする遺伝子の縮重ライブラリーを用いて作製される。例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物は、遺伝子配列に、潜在的なリボヌクレアーゼ配列の縮重セットが、個々のポリペプチドとして、または一連のリボヌクレアーゼ配列を含む一連の、より大きな融合タンパク質(例えばファージディスプレイ用)として発現され得るように酵素学的に連結することができる。
【0090】
潜在的なリボヌクレアーゼ相同体および変種のライブラリーを縮重オリゴヌクレオチド配列から作製可能な方法は多くある。いくつかの態様では、縮重遺伝子配列の化学的合成を自動DNA合成装置で実施し、および合成遺伝子を発現目的で適切な遺伝子に連結させる。遺伝子の縮重セットの目的は、1つの混合物中に、所望の一連の潜在的なリボヌクレアーゼ配列をコードする配列の全てを提供することにある。縮重オリゴヌクレオチドの合成は、当技術分野で周知である(例えば、Narang, Tetrahedron Lett., 39: 3 9 [1983]; Itakura et al., Recombinant DNA, in Walton (ed.), Proceedings of the 3rd Cleveland Symposium on Macromolecules, Elsevier, Amsterdam, pp 273-289 [1981]; Itakura et al., Annu Rev. Biochem., 53: 323 [1984]; Itakura et al., Science 198: 1056 [1984]; Ike et al., Nucl. Acid Res., 11: 477 [1983]を参照)。このような手法は、他のタンパク質の方向づけ進化に利用されている(例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる、Scott et al., Science 249: 386-390 [1980]; Roberts et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 2429-2433 [1992]; Devlin et al., Science 249: 404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-6382 [1990];ならびに米国特許第5,223,409号、第5,198,346号、および第5,096,815号を参照)。
【0091】
リボヌクレアーゼの核酸が、方向づけ進化の開始用核酸として利用可能なことが想定される。このような手法は、所望の特性を有するリボヌクレアーゼの変種を開発するために利用され得る。
【0092】
いくつかの態様では、人工的な進化は、ランダム変異誘発によって(例えば、ランダム変異を任意のコード配列に導入する、誤りの多いPCRを利用することで)実施される。この方法は、変異の頻度が緻密に調整されることを必要とする。一般原則として、有益な変異はまれな一方で、有害な変異は一般的である。この理由は、有害な変異と有益な変異の組み合わせがしばしば不活性な酵素をもたらすことがあることによる。標的となる遺伝子に関して理想的な塩基置換数は、通常1.5〜5個である(Moore and Arnold, Nat. Biotech., 14, 458-67 [1996]; Leung et al., Technique, 1: 11-15 [1989]; Eckert and Kunkel, PCR Methods Appl., 1: 17-24 [1991]; Caldwell and Joyce, PCR Method Appl., 2: 28-33(1992);およびZhao and Arnold, Nuc. Acids. Res., 25: 1307-08 [1997])。変異誘発後に、結果として生じるクローンが、所望の活性について選択される(例えば、リボヌクレアーゼの活性および/または細胞傷害性に関してスクリーニングされる)。所望の特性を有する酵素を開発するためには、連続ラウンドの変異誘発および選択が必要なことがしばしばある。好ましくは、有用な変異のみが次回のラウンドの変異誘発に持ち越されることに注目すべきである。
【0093】
本発明の他の態様では、本発明のポリヌクレオチドを、遺伝子シャッフリングまたはセクシャル(sexual) PCR手順に使用する(例えば、全てが参照により本明細書に組み入れられる、Smith, Nature, 370: 324-25 [1994];米国特許第5,837,458号;第5,830,721号;第5,811,238号;第5,733,731号)。遺伝子シャッフリングは、複数の変異DNAのランダム断片化と、これに続くPCRによる完全長分子への再集合を含む。さまざまな遺伝子シャッフリング手順の例は、集合と、これに続くDNase処理、付着伸長プロセス(STEP)、およびランダムプライミングインビトロ組換えを含むがこれらに限定されない。DNaseによる方法では、陽性変異体のプールから単離されたDNAセグメントを、DNaseIの作用によってランダム断片に切断し、および追加プライマーなしに多数回のPCRを行う。ランダム断片の長さは、PCRサイクルの進行に伴い非切断セグメントの長さに接近し、結果として生じるいくつかの配列中に、異なるクローン上に存在する変異が混合され、蓄積することになる。多数回のサイクルの選択およびシャッフリングによって、複数の酵素の機能向上につながる(Stemmer, Nature, 370: 398-91 [1994]; Stemmer, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 10747-51 [1994]; Crameri et al., Nat. Biotech., 14: 315-19 [1996]; Zhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94: 4504-09 [1997];およびCrameri et al., Nat. Biotech., 15: 436-38 [1997])。
【0094】
点変異によって作られる組み合わせライブラリーの遺伝子産物のスクリーニング、およびcDNAライブラリーを対象とした特定の性質を有する遺伝子産物のスクリーニングには、さまざまな手法が当技術分野で周知である。このような手法は一般に、組み合わせ変異誘発、またはリボヌクレアーゼ相同体の組換えによって作製された遺伝子ライブラリーの迅速なスクリーニングに適合性がある。大規模遺伝子ライブラリーのスクリーニングに最も広く使用されている手法は典型的には、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクターへクローン化する段階、結果として生じるベクターのライブラリーで適切な細胞を形質転換する段階、および所望の活性の検出が、産物が検出対象となる遺伝子をコードするベクターの比較的容易な単離を促す条件において組み合わせ遺伝子を発現させる段階を含む。
【0095】
実施例
実施例1
例示的な態様
以下の実施例では、本発明の組成物および方法のいくつかの例示的な態様について説明する。
【0096】
リボヌクレアーゼ:
EVADEファミリーのリボヌクレアーゼは、ヒトリボヌクレアーゼI(RNase I、ヒト膵臓リボヌクレアーゼ、hpRNase、またはhRNaseとしても知られる)に基づく複数のリボヌクレアーゼを含む。EVADEリボヌクレアーゼの一部には、以下の数字(QBI-#####)が割り当てられており、ならびに1文字および数字はアミノ酸の変化を示す。例えばN88Cは、88位におけるアスパラギン(N)とシステイン(C)の置換を意味する。
【0097】
ウシリボヌクレアーゼAに関するアミノ酸配列

【0098】
ヒト膵臓リボヌクレアーゼIに関するアミノ酸配列



【0099】
いくつかの態様では、EVADEリボヌクレアーゼは、疾患(例えば、癌、ウイルス、自己免疫疾患)の細胞への標的輸送、および同細胞による取り込みを加速する分子と接合されている。このタイプの修飾は、EVADEリボヌクレアーゼの有用性を拡大し、かつ有効性を高める。任意のアミノ酸においてCysを有するように修飾されたEVADEリボヌクレアーゼは、この接合戦略の使用に容易に適合可能である。ウシリボヌクレアーゼAのアミノ酸84〜95に対応するループ領域内のアミノ酸は、接合に関して特に関心が寄せられている。好ましい接合パートナーは、細胞特異的なエピトープ(例えば癌のマーカー)と接合する抗体である。このような抗体は、切断され得ないクロスリンカー、または切断され得るクロスリンカーを介してEVADEリボヌクレアーゼに架橋される。切断され得ない化学的クロスリンカーは、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(MBS)を含む場合がある。または切断され得るリンカーは、酵素活性(例えばプロテアーゼもしくはラクタマーゼ)、または環境(例えば還元性もしくは酸性の環境)の変化の結果として生じる切断とともに使用することができる。アルデヒド(炭水化物の酸化によって生じる)、アミン(リシン側鎖上に存在する)、またはチオール(特にFab'断片もしくはscFvとの接合に有用である)を含む、いくつかの化合物が、抗体との接合に利用可能である。

【0100】
特に関心の高い切断され得るクロスリンカーは、プロテアーゼ感受性ペプチドをクロスリンカーに組み入れることで作製される。プロテアーゼは、いくつかの態様では、エンドソーム系およびリソソーム系のプロテアーゼを含むさまざまな天然の酵素から選択される。カテプシンB(パパインファミリーのリソソームのシステインプロテアーゼ)の発現は、一部の癌細胞では、特に腫瘍の浸潤先端部において上昇する。カテプシンBはArg-Argジペプチドを選択的に切断するが、その基質認識に選択性はない。フリン(Furin)は、分泌経路におけるタンパク質のタンパク質分解による成熟を触媒する細胞エンドプロテアーゼである。フリンはもっぱらトランスゴルジネットワークに局在するが、エンドソーム、リソソーム、分泌顆粒、および細胞表面を含む多くの細胞内区画に移動する。
【0101】
代替的な戦略は、β-ラクタマーゼに感受性のあるクロスリンカーを使用し、かつβ-ラクタマーゼを、標的となるEVADEリボヌクレアーゼと同時に投与することである。ペプチド結合、ジスルフィド結合、ヒドラゾン、およびホスホジエステルなどの切断され得る複数の追加的なタイプのリンカーが存在する。本発明は、本明細書で説明されたリンカーに制限されない。当業者であれば、さまざまなリンカーが本発明で有用なことを理解するであろう。
【0102】
接合用抗体:
本発明の複合体を作製するために、数多くのさまざまな抗体をEVADEリボヌクレアーゼに接合させることができる。CEA抗原は、癌細胞の表面で過剰に発現され、かつ分子標的療法剤を作製するために過去に使用された、既知の多くのタンパク質抗原の1つである。別の抗原は、急性骨髄性白血病細胞の表面に存在するCD33である。急性骨髄性白血病(AML)は、抗CD33戦略によって治療可能な癌である。MYLOTARGは、AMLの治療に承認されたCD33抗体-カリケアマイシンの複合体である。CD22は、抗体ベースの治療にも使用可能な、B細胞上に見出される細胞表面受容体である。
【0103】
標的となるEVADEリボヌクレアーゼは、他の癌細胞抗原に対する抗体を用いて作製することもできる。さまざまな抗体が、このような接合戦略に適している可能性がある。中でも関心の高い好ましい抗原は以下のような抗原である:
・正常細胞に対して癌細胞上で過剰発現されている抗原
・細胞に内在化される抗原(細胞質内へのリボヌクレアーゼの侵入を促すため)
・モノクローナル抗体によって認識される抗原
【0104】
以下の例は、CD33に特異的な抗体であるヒト化M195 (huM195)(Immunotoxin Resistance in Multidrug Resistant Cells. Cancer Res., 2003, 63, 72-79)、およびEVADEリボヌクレアーゼQBI-50112 (R4C、L86E、N88C、R91D、V118C RNase I)の複合体について説明する。リンカーは多様であり、および安定かつ切断され得るリンカーを含む。
【0105】
切断され得ないリンカー
マレイミド-ヒドラジン
抗体の定常領域中に見出される炭水化物は酸化されて、ヒドラジンと反応するアルデヒドとなる。クロスリンカー(BMPH、KMUH)のヒドラジンは、アルデヒド(酸化された炭水化物)と反応してヒドラゾンを形成する。修飾された抗体は次に、タンパク質中の遊離のチオールと反応するマレイミドを提示して、抗体-タンパク質の複合体を形成する。チオエーテルの形成は中性pHで起こる。
【0106】
huM195の炭水化物は、抗体を室温の10 mMの過ヨウ素酸ナトリウムで、約1時間、4℃で処理することで酸化される。この反応は、過ヨウ素酸ナトリウムが光感受性であるため暗所で行う。脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)を、接合用の酸化されたhuM195の使用に先立って使用する。BMPHの溶液を、酸化されたhuM195に添加し、および反応を室温で30〜60分間、進ませる。次に反応物を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)にアプライする。
【0107】
反応時間、試薬の比率、溶液濃度、および温度を最適化することで、複合体の収率および純度を高めることができる。フラクションを回収し、および280 nmにおける吸光度をモニタリングする。マレイミド-huM195を含むフラクションをプールしたら、遊離のシステイン残基を有するEVADEリボヌクレアーゼの変種QBI-50112の溶液(10 mM EDTAを添加した、20 mM リン酸ナトリウム緩衝液、0.15 M NaCl, pH 7.0(PBS))をマレイミド-huM195と1:1の比で添加する。この反応を30分間、進行させ、および次に、システインを含むTris緩衝液を添加して停止させる。複合体形成試料を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)にアプライし、および緩衝液(10 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl, pH 7.4)で溶出する。280 nmの吸光度を指標としてフラクションをモニタリングする。産物を含む(huM195-QBI-50112)フラクションをプールする。反応時間、試薬の比率、溶液濃度、および温度を最適化することで、複合体の収率および純度を高めることができる。
【0108】

【0109】
マレイミド-NHS
活性化されたエステル(N-ヒドロキシスクシニミド)は、マレイミドに影響を及ぼすことなく、抗体中のアミン(典型的にはリシン側鎖)と選択的に反応させることができる。共有結合性の化学的に安定なアミド結合が形成される。次に、修飾された抗体を、リボヌクレアーゼ変種中の1つの遊離のチオールと反応させて複合体を形成させる。リボヌクレアーゼ変種のチオールとマレイミドの反応は、pH 6.5〜7.5で最も選択性が高い。
【0110】
4倍過剰のクロスリンカー(EMCSもしくはSMCC; Pierce)をDMF(もしくは必要であればDMSO)に溶解し、および次に、緩衝液(20 mM リン酸ナトリウム緩衝液、0.15 M NaCl, pH 7.0(PBS))を溶媒とするhuM195の溶液に添加する。反応を30分間、4℃で進行させる。反応混合物を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)にアプライする。フラクションを回収し、および280 nmにおける吸光度をモニタリングする。マレイミド-huM195含有フラクションをプールしたら、遊離のシステイン残基を含むEVADEリボヌクレアーゼの変種QBI-50112 (10 mM EDTAを添加した、20 mM リン酸ナトリウム緩衝液、0.15 M NaCl, pH 7.0)の溶液を、マレイミド-huM195と1:1の比で添加する。反応を30分間、進行させ、および次に、システインを含むTris緩衝液を添加して停止させる。複合体形成試料を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)にアプライし、および緩衝液(10 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl, pH 7.4)で溶出する。このフラクションを280 nmにおける吸光度を用いてモニタリングする。産物を含む(huM195-QBI-50112)フラクションをプールする。反応時間、試薬の比率、溶液濃度、および温度を最適化することで、複合体の収率および純度を高めることができる。
【0111】

【0112】
α-ハロアセチル-NHS
活性化エステル(N-ヒドロキシスクシニミド)は、ハロアセチルに影響を及ぼすことなく、アミンと選択的に反応する。この反応の至適pHはpH 7〜9である。次に、修飾された抗体を、リボヌクレアーゼ変種中の1つの遊離のチオールと反応させて、複合体を形成させる。
【0113】
DMSO中のクロスリンカー(SBAPまたはSIAB)の溶液を、huM195溶液(0.1 Mリン酸ナトリウム、0.15 M NaCl, pH 7.2)に添加し、および約30分間反応させる。この反応混合物を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)に、ホウ酸緩衝液(50 mMホウ酸ナトリウム、pH 8.3, 5 mM EDTA)とともに流す。
【0114】
フラクションを回収し、および280 nmにおける吸光度をモニタリングする。EVADEリボヌクレアーゼの変種QBI-50112 (R4C, L86E, N88C, R91D, V118C RNase I)の溶液を添加し、およびRNaseの1つの遊離のチオールとハロアセチルの反応を約1時間行う。これらの反応は、副生成物が生じる恐れがあるため暗所で行う。反応は、システインを含むTris緩衝液を添加して停止させる。停止反応は、暗所で室温で15分間かけて進行させる。複合体形成試料を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)にアプライし、および緩衝液(10 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl, pH 7.4(PBS))で溶出する。このフラクションを280 nmの吸光度を用いてモニタリングする。産物を含む(huM195-QBI-50112)フラクションをプールする。反応時間、試薬の比率、溶液濃度、および温度を最適化することで、複合体の収率および純度を高めることができる。
【0115】

【0116】
切断され得るリンカー
このリンカーはペプチドベースであり、かつヒトプロテアーゼによって切断される。この例では、プロテアーゼフリンによって切断されるリンカーについて説明する。フリンはArg-Xaa-Yaa-Argを認識する。この式中、Xaaは非特定のアミノ酸であり、かつYaaはLysまたはArgである。加水分解はC末端のArgの後で生じる。
【0117】
プロテアーゼ感受性のクロスリンカーに使用される反応基(マレイミド、ヒドラジン、N-ヒドロキシスクシニミドエステル、α-ハロアセチル)は市販のリンカーと同じである。
【0118】
ペプチドをddH2Oに溶解し、および3倍モル過剰でhuM195(0.1 Mリン酸ナトリウム、0.15 M NaCl, pH 7.2)の溶液に添加し、ならびに約30分間、反応させる。この反応混合物を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)に、ホウ酸緩衝液(50 mMホウ酸ナトリウム、pH 8.3, 5 mM EDTA)とともに流す。フラクションを回収し、および280 nmにおける吸光度をモニタリングする。NaCl (0.15 M)およびEDTA (0.01 M)を含む20 mMリン酸ナトリウム、pH 7.0中のEVADEリボヌクレアーゼの変種QBI-112の溶液を添加する。この反応は、室温で攪拌しながら進行させる。このような条件で、マレイミドとチオールの反応は、マレイミドとアミンの反応の好ましくは1000倍高くなる。30分後に、濃度がペプチド置換基より10倍高いシステインを含むTris塩酸緩衝液を添加して反応を停止させる。α-ブロモ-アセチル基を有するペプチドを、以下の3点の例外を設けた同じ手順で接合させる。反応は、NaCl(150 mM)およびEDTA(0.1 mM)を含む20 mM MOPS緩衝液、pH 8.2を、60分間、37℃で、暗所で行う。複合体形成試料を脱塩カラム(Amersham Biosciences, Sephadex G-25 Fine)にアプライし、および緩衝液(10 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl, pH 7.4)で溶出する。フラクションを280 nmにおける吸光度を用いてモニタリングする。産物を含む(huM195-QBI-50112)フラクションをプールする。反応時間、試薬の比率、溶液濃度、および温度を最適化することで、複合体の収率および純度を高めることができる。
【0119】

【0120】
融合タンパク質
抗CEA scFv断片をコードするcDNAを、EVadeリボヌクレアーゼのQBI-50110 (R4C、L86E、N88R、G89D、R91D、V118C RNase I) RNaseをコードするcDNAの5'端と融合させる。6つのグリシン残基がscFvとリボヌクレアーゼの間に取り込まれると障害が最小となる。cDNAの配列を決定し、大腸菌でクローン化し、および封入体に閉じこめられた不溶性タンパク質として発現させる。封入体は変性させると再フォールディングする。再フォールディング後に、融合体をサイズ排除および疎水性相互作用を含む標準的なタンパク質クロマトグラフィー法で精製する。抗CEA scFv-EVade融合体の産生を最適化することで、収率および/または純度を高めることができる。
【0121】
全体が参照により本明細書に組み入れられる以下の参考文献は、本発明による接合に有用な、さまざまなリボヌクレアーゼ、ターゲティング部分、接合法、薬学的組成物、および治療法について説明している:
米国特許第3,627,876号、第4,331,764号、第4,882,421号、第4,904,469号、第5,200,182号、第5,270,204号、第5,286,487号、第5,286,637号、第5,359,030号、第5,389,537号、第5,484,589号、第5,529,775号、第5,540,925号、第5,559,212号、第5,562,907号、第5,595,734号、第5,660,827号、第5,702,704号、第5,728,805号、第5,786,457号、第5,840,296号、第5,840,840号、第5,866,119号、第5,955,073号、第5,973,116号、第6,045,793号、第6,051,230号、第6,083,477号、第6,175,003号、第6,183,744号、第6,197,528号、第6,235,313号、第6,239,257号、第6,271,369号、第6,280,991号、第6,290,951号、第6,312,694号、第6,395,276号、第6,399,068号、第6,406,897号、第6,416,758号、第6,423,515号、第6,541,619号、第6,558,648号、第6,649,392号、第6,077,499号、第4,888,172号、第6,653,104号、ならびに米国特許出願公開第20020006379号明細書、米国特許出願公開第20020037289号明細書、米国特許出願公開第20020048550号明細書、米国特許出願公開第20020111300号明細書、米国特許出願公開第20020119153号明細書、米国特許出願公開第20020187153号明細書、米国特許出願公開第20030031669号明細書、米国特許出願公開第20030219785号明細書、米国特許出願公開第20020106359号明細書、および米国特許出願公開第20030148409号明細書。
【0122】
実施例2
QBI-119による腫瘍成長の阻害
この実施例では、腫瘍の成長を阻害するためのRNaseの変種QBI-119の使用について説明する。QBI-119は、R4C、G38R、R39D、L86E、N88R、G89D、R91D、V118C RNase IであるRNAの変種である。このRNase変種のインビボにおける有効性は、標準的な異種移植片モデルで決定された。特にヒトのA549非小細胞肺癌細胞(American Type Culture Collection Number CRL-1687)、およびBx-PC-3膵臓細胞(American Type Culture Collection Number CCL-185)が無胸腺ヌードマウスで利用された。約2X106個の細胞を、5〜6週齢の雄のホモ接合性(nu/nu)ヌードマウス(Harlan)の右脇腹の後方に移植した。腫瘍を75 mm3以上の平均サイズになるまで成長させてから処置を開始した。適切なサイズの腫瘍を有する個々の腫瘍タイプの動物を、処置群と同じ投与スケジュールで溶媒(PBS)で処置される1群の個体群を含む処置群に分けた。QBI-119は、本研究を通じて15 mg/kg qdx5(週5回)で投与した。腫瘍をノギスを用いて週2回、測定した。腫瘍の体積(mm3)を、以下の楕円球の公式を用いて決定した:

腫瘍成長阻害の割合は、以下の式で決定する:

この実施例の結果を図1〜2に示す。図1Aは、QBI-119がA549細胞に及ぼす腫瘍成長阻害が有意(64%)であったことを示す。図1Bは、QBI-119が、この用量で、動物の体重に有意な影響を及ぼさなかったことを示す。図2Aは、QBI-119がBx-PC-3細胞に及ぼす腫瘍成長阻害が有意(60%)であったことを示す。図1Bは、QBI-119が、この用量で、動物の体重に有意な影響を及ぼさなかったことを示す。
【0123】
上記の明細書で言及された全ての出版物および特許は、本明細書に明示的に記載されたように、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の記載された方法およびシステムの、さまざまな変形および変更は、本発明の範囲および趣旨から解離することなく、当業者には明らかになるであろう。本発明を、特定の好ましい態様と関連して説明したが、請求される本発明が、そうした特定の態様に過度に制限されるべきではないと理解されるべきである。実際に、当業者に明らかな、本発明を実施するための記載された様式の、さまざまな変形は、特許請求の範囲内にあることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】1Aは、腫瘍体積(A549細胞)に対するQBI-119の成長阻害作用を日数に対して示すグラフであり、1BはQBI-119に毒性が無いことを示すグラフである。
【図2】2Aは、腫瘍体積(Bx-PC-3細胞)に対するQBI-119の成長阻害作用を日数に対して示すグラフであり、2Bは、QBI-119に毒性が無いことを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞特異的もしくは疾患特異的なターゲティング部分が接合された、非天然のヒトリボヌクレアーゼI (ヒトRNase I)を含む組成物であって、該リボヌクレアーゼが、このような細胞を死滅させるか、または病原性RNAを分解するように構成されている組成物。
【請求項2】
非天然のヒトリボヌクレアーゼIが、リボヌクレアーゼ阻害物質との結合を妨害する変種配列を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
非天然のヒトリボヌクレアーゼIが、天然のリボヌクレアーゼIと比較して、N88C/L86E、N88R、G89D、R91D/R4C、L86E、N88R、G89D、R91D、V118C/L86E、N88C、R91D/R4C、L86E、N88C、R91D、V118C/R4C、N88C、V118C/K7A、L86E、N88C、R91D/K7A、L86E、N88R、G89D、R91D/R4C、K7A、L86E、N88C、R91D、V118C/R4C、G38R、R39D、L86E、N88R、G89D、R91D、V118C/およびR4C、K7A、L86E、N88R、G89D、R91D、V118Cからなる群より選択される変種配列を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
細胞が癌細胞である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
病原性RNAがウイルス起源である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
リボヌクレアーゼが、細胞特異的または疾患特異的なターゲティング部分と、リンカーによって接合されている、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
リンカーが、リボヌクレアーゼの非天然のシステインに結合されている、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
ターゲティング部分が免疫グロブリンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
免疫グロブリンがヒト抗体またはヒト化抗体を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
免疫グロブリンが抗体断片を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
ターゲティング部分が受容体のリガンドを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
ターゲティング部分が小分子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
小分子が脂質または炭水化物を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
ターゲティング部分が、人工的に改変された非天然タンパク質を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
ターゲティング部分がポリマーを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
ターゲティング部分が、ウシリボヌクレアーゼAのアミノ酸84〜95に対応するリボヌクレアーゼのループ領域内でリボヌクレアーゼと接合されている、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
リボヌクレアーゼおよびターゲティング部分が融合タンパク質を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
請求項1記載の組成物をコードする核酸分子を含む組成物。
【請求項19】
細胞を、請求項1記載の組成物に曝露させる段階を含む、細胞を死滅させる方法。
【請求項20】
細胞が癌細胞である、請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−505853(P2008−505853A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508473(P2007−508473)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/012404
【国際公開番号】WO2005/115477
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(506344848)クインテセンス バイオサイエンシーズ インコーポレーティッド (3)
【Fターム(参考)】