説明

細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる細胞質露出添加剤および方法

本発明の粒子を細胞質に露出させる方法は、粒子を生きた細胞に導入し、前記細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損傷されずに維持された状態で前記粒子を小胞から細胞質に露出させる細胞質露出添加剤を前記細胞に接触させ、前記粒子が小胞から細胞質に露出されるようにすることを特徴とする。本発明によれば、生理的、生化学的または生物学的環境が損傷されずに維持された細胞(intact cell)において、細胞内に取り込まれた粒子が小胞(endocytic vesicles)から細胞質に効果的に露出されるようにする長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる細胞質露出添加剤および方法に関するものであって、さらに詳しくは、細胞内に取り込まれた粒子が効果的に小胞(endocytic vesicles)から細胞質に露出されるようにする細胞質露出添加剤および方法に関する。
【0002】
具体的に本発明は、生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された細胞(intact cell)において、細胞質露出添加剤により粒子が小胞(endocytic vesicles)から細胞質へ効果的に露出されるようにする技術に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞膜(cell membrane or plasma membrane)は、反透過性脂質の二重膜であって、細胞内の構成要素(intracellular components)と細胞外環境(extracellular environment)間の物理的障壁として作用する(Albert et al., 2002, Molecular Biology of the Cell. 4th ed., Garland Science)。細胞膜は、選択的透過性を有し、特定の物質に対して細胞内に取り込むか、或いは細胞外に送り出すかを調節する(Cell membrane, http://en.wikipedia.org/wiki/Cell_membraneから 2007年 10月 10日 ダウンロードする)。小さい分子または脂溶性物質、すなわち疎水性でありながら非極性の物質は、速やかに脂質の二重膜を通過して細胞内に広がるが、帯電した分子、すなわち、イオンは細胞膜の通過が難しい(Albert et al., 2002, Molecular Biology of the Cell. 4th ed., Garland Science)。
【0004】
したがって、細胞内に取り込まれ難い物質を細胞内に取り込む技術は、学術的な側面および医療的な側面において極めて重要であるといえる。すなわち、特定の物質が細胞内でいかなる作用をするかを観察したり、細胞そのものの研究などにおいて特定の物質を細胞内に取り込む技術は、その意味が大きいといえる。
【0005】
最近、ゴールドパーティクル、ビーズのような粒子が新薬開発および治療分野にて脚光を浴びているが、このような粒子(particles)は、細胞の標識、細胞内に物質を取り込むための伝達体、MRIイメージングなどの目的で広く使われているが、その大きさが数nmないし数百nmに達するため、細胞内に取り込むことが容易ではない(Berry & Curtis, 2003, Functionalization of magnetic nanoparticles for application in biomedicine. J. Phys. D: Appl. Phys. 36, R198−R206)。
【0006】
このような粒子を細胞内に取り込むため、エレクトロポレーション(electroporation)、マイクロインジェクション、脂質を利用したリポフェクション(lipofection)、蛋白質伝達ドメイン(protein transduction domains)を利用した伝達方法など(Derfus et al., 2004, Intracellular delivery of quantum dots for live cell labeling and organelle tracking. Adv. Mater. 16, 961−966; Matuszewski et al., 2005, Cell tagging with clinically approved iron oxides: feasibility and effect of lipofection, particle size, and surface coating on labeling efficiency. Radiology 235, 155−161; Berry & Curtis, 2003, Functionalization of magnetic nanoparticles for application in biomedicine. J. Phys. D: Appl. Phys. 36, R198−R206)が試みられてきた。
【0007】
ところが、エレクトロポレーションは、高電圧電気パルスをかけ、細胞膜にナノメータ程の微小の孔を形成することによって、粒子を直接細胞質に取り込むことができるという長所があるものの、粒子を細胞内に取り込む効率が著しく劣ったり、細胞に取り込まれた粒子を過度に凝集させる等の短所を有する(Derfus et al., 2004, Intracellular delivery of quantum dots for live cell labeling and organelle tracking. Adv. Mater. 16, 961−966; Rosen et al., 2007, Finding fluorescent needles in the cardiac haystack: tracking human mesenchymal stem cells labeled with quantum dots for quantitative in vivo three−dimensional fluorescence analysis. Stem Cells. 25, 2128−2138)。マイクロインジェクションは、マイクロニードルを利用して顕微鏡下で生きた単一細胞に粒子を直接取り込むことができる技術であるが、特殊な装備が必要であり、操作が非常に難しく、細胞1つ1つに対して粒子を取り込むため、多数の細胞に対して効率的な作業を行うことができないという限界がある。
【0008】
このような問題点により、最近は、脂質や蛋白質伝達ドメインを利用して粒子を細胞に取り込む技術が注目を集めているが、脂質や蛋白質伝達ドメインを利用して粒子を取り込んだ場合には、ほとんどがエンドサイトーシス(endocytosis)により粒子が取り込まれ、粒子が小胞(endocytic vesicles)内に存在するようになるため、細胞内に取り込まれた粒子が細胞質に露出できなくなるという短所がある(Derfus et al., 2004, Intracellular delivery of quantum dots for live cell labeling and organelle tracking. Adv. Mater. 16, 961−966; Patel et al., 2007, Cell penetrating peptides: intracellular pathways and pharmaceutical perspectives. Pharm. Res. 24, 1977−1992)。
【0009】
これと関連し、脂質または蛋白質伝達ドメインを利用し、カーゴ(cargo)を細胞に取り込む場合、取り込まれたカーゴが細胞質に露出されるようにする試みが報告されたが、これらは蛋白質伝達ドメイン自体を細胞に取り込むこと(Fischer et al., 2004, A stepwise dissection of the intracellular fate of cationic cell−penetrating peptides. J. Biol. Chem. 279, 12625−12635)(非特許文献1)、細胞内にDNAを取り込むこと(Ciftci & Levy, 2001, Enhanced plasmid DNA transfection with lysosomotropic agents in cultured fibroblasts. Int. J. Pharm. 218, 81−92)(非特許文献2)、また、細胞内に蛋白質を取り込むこと(Caron et al., 2004, Endosome disruption enhances the functional nuclear delivery of Tat−fusion proteins. Biochem. Biophy. Res. Commun. 319, 12−20)(非特許文献3)に関連するものであって、粒子形態の物質がエンドサイトーシスにより小胞を形成する場合の問題を解決するものではない。特に、細胞内に取り込まれた粒子を追跡したり、細胞内の構造と代謝過程を糾明するためには、細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損傷されずに維持された状態で粒子を小胞から細胞質に効果的に露出させなければならないが、今までは、このような問題点に対する認識さえ、学界から注目を受けられないのが、実情であり、なおかつこれに対する研究もやはり微弱な水準である。
【0010】
結局、本発明が属する技術分野においては、細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された状態で粒子を小胞から細胞質に効果的に露出させることによって、細胞内に取り込まれた粒子を追跡したり、細胞内の構造と代謝過程を効果的に確認することができる技術の提供が要されているといえる。
【0011】
これに本発明者は、生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された細胞(intact cell)において、細胞内に取り込まれた粒子が小胞(endocytic vesicles)から細胞質に効果的に露出されるようにする細胞質露出添加剤および技術を開発するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Fischer et al., J. Biol. Chem. 279: 12625−12635, 2004
【非特許文献2】Ciftci & Levy, Int. J. Pharm. 218: 81−92, 2001
【非特許文献3】Caron et al., Biochem. Biophy. Res. Commun. 319: 12−20, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決することにその目的があり、生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された細胞(intact cell)において、細胞内に取り込まれた粒子が小胞(endocytic vesicles)から細胞質に効果的に露出されるようにする細胞質露出添加剤を提供することにその目的がある。
【0014】
また、本発明は、生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された細胞(intact cell)において、細胞質露出添加剤を細胞に接触させることによって粒子が小胞(endocytic vesicles)から細胞質に効果的に露出されるようにする方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の細胞質露出添加剤は、粒子形態の物質がエンドサイトーシスにより細胞内で小胞を形成する場合の問題を解決するため、細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された状態で粒子を小胞から細胞質に効果的に露出させなければならない。すなわち、細胞内に取り込まれた粒子形態の物質を小胞から細胞質に露出させるとしても、細胞の基本骨格の構造、細胞膜、各種の細胞の小器官、および細胞内の構成物質の生理的、生化学的または生物学的活性などに決定的な変更を与える物質であってはならない。
【0016】
本発明の一実施例の細胞質露出添加剤は、NDGA(Nordihydroguaiaretic acid)、NEM(N−ethylmaleimide)、 NHCl、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)、メタノールおよびエタノールで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む。
【0017】
本発明の好ましい一実施例の細胞質露出添加剤は、NDGA、NEMおよび NHClで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む。
【0018】
本発明の粒子を細胞質に露出させる方法は、粒子を生きた細胞に導入し、前記細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された状態で前記粒子を小胞から細胞質に露出させる細胞質露出添加剤を前記細胞に接触させ、前記粒子が小胞から細胞質に露出されるようにすることを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施例の方法において、前記細胞質露出添加剤は、NDGA(Nordihydroguaiaretic acid)、NEM(N−ethylmaleimide)、NHCl、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)、メタノールおよびエタノールで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む。
【0020】
本発明の好ましい一実施例の方法において、前記細胞質露出添加剤は、NDGA、NEMおよび NHClで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む。
【0021】
本発明の一実施例の方法において、前記粒子は粒子形態を有する、または細胞内で粒子化することができる物質を含む。例えば、人工的に合成されたナノメータ大きさの直径を有する粒子があり得る。
【0022】
本発明の一実施例の方法において、前記粒子は約1ないし1,500nmの直径を有する。好ましくは、前記粒子は約20ないし350nmの直径を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された細胞(intact cell)において、細胞内に取り込まれた粒子が小胞(endocytic vesicles)から細胞質に効果的に露出されるようにする長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1のAは、ADRB2−EGFPが発現されたHeLa細胞に粒子を取り込んだ後、細胞が生きた状態で細胞内において取り込まれた粒子の細胞内での位置を確認したものである。図1のBは、粒子が取り込まれたHeLa細胞を固定した後、プルシアンブルー染色を施す前、細胞の透過光イメージの写真(before staining)とプルシアンブルー染色を施してから撮影した細胞の透過光イメージの原色写真(after staining)を比較して図示したものである。
【図2】細胞質露出添加剤によって小胞に取り込まれている粒子が細胞質に露出され、EGFP−ABL1蛋白質によりダサチニブで改質された粒子が蛍光で標識され、その結果、粒子と蛍光が重畳して現れるのを示す細胞写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に記述する。本発明の下記の実施例は本発明を具体化するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限したり限定するものでないことはもちろんである。本発明の詳細な説明および実施例から本発明が属する技術分野の専門家が容易に類推できるのは、本発明の権利範囲に属するものと解釈される。本発明に引用された参考文献は、本発明に参考として統合される。
【実施例1】
【0026】
実施例1:細胞内に取り込まれた粒子が小胞内に存在するか否かの確認
細胞内に取り込まれた粒子が小胞内に存在するか否かを確認するため、次のような実験を行った。
【0027】
まず、表面が改質された粒子を用意する。本実施例に用いられる粒子は、治療目的または研究目的で当業界にて広く用いられている粒子であれば、どんなものでも使用が可能である。例えば、ゴールドパーティクル、ビーズなどを挙げることができる。本実施例においては、一例として、ストレプトアビジンが結合されたスーパーパラマグネチック磁性粒子(ストレプトアビジン−磁性粒子)を当業界にてよく知られた方法(米国特許第5,665,582号;米国公開特許第2003/0092029A1号)で直接製作したり、磁性粒子を製作販売している会社から購入したりして用いることができる。
【0028】
次に、細胞内に取り込まれた粒子が小胞内に存在するか否かを確認するための標識物質を準備する。pDonr221にクローニングされているADRB2(GenBank Acc. No. BC073856)遺伝子をOpen Biosystems社で購入した後、公知の方法(Hartley, et al. (2000) DNA cloning using in vitro site−specific recombination. Genome Res. 10, 1788−1795)によって緑色蛍光蛋白質(EGFP)が結合された形態の蛋白質を発現できる発現ベクターを製作した。製作された発現ベクターを塩基序列を分析して確認した。ADRB2蛋白質は、膜蛋白質であるGPCRの一種であって、細胞膜、エンドソーム、ライソゾーム等に位置するとして知られている。したがって、ADRB2−EGFPは、細胞内に取り込まれた粒子が小胞内に存在するか否かを確認するための蛍光標識物質としての使用が可能である。
【0029】
HeLa細胞(ATCCから購入)を96−ウェルプレートに5,000〜10,000細胞/ウェル濃度で継代培養した後、前記用意されたADRB2−EGFP発現ベクターDNAでトランスフェクションした。DNAトランスフェクションは、公知の方法、その一例としてリポフェクタミン(lipofectamine)(Invitrogenで購入)あるいはヒュージーン6(Fugene 6)(Rocheから購入)を用いて行うことができる。DNAがトランスフェクションされた細胞に前述の通りに用意された粒子を、当業界にてよく知らされた方法(Josepthson, et al. (1999) High−efficiency intracellular magnetic labeling with novel superparamagnetic−Tat peptide conjugate. Bioconjug. Chem. 10, 186; Derfus, et al. (2004) Intracellular delivery of quantum dots for live cell labeling and organelle tracking. Adv. Mater. 16, 961; Frank, et al. (2003) Clinically applicable labeling of mammalian and stem cells by combining superparamagnetic iron oxides and transfection agents. Radiology 228, 480;米国公開特許第2005/0130167号;米国公開特許第2005/0271732号)で取り込んだ。
【0030】
細胞内に取り込まれた粒子とADRB2−EGFP蛋白質の蛍光が重畳するか否かを確認し、細胞内に取り込まれた粒子の細胞内の位置を確認した(図1のA)。細胞内に取り込まれた粒子は、透過光顕微鏡下で黒い点(dark spot)に観察された(図1のA、中間)、ADRB2−EGFP蛋白質による蛍光は、細胞膜およびエンドソームあるいはライソゾームのような小胞で観察された(図1のA、左方)。細胞内に取り込まれた粒子とADRB2−EGFP蛋白質の蛍光は、細胞内に存在する小胞で重畳して確認された(図1のA、右方)。
【0031】
一方、細胞内で観察される黒い点が細胞内に取り込まれた粒子であることを確認するため、プルシアンブルー染色(Prussian Blue Staining)を施した。プルシアンブルー染色は、細胞内に取り込まれた酸化鉄成分の粒子を特異的に染色し、観察するのに用いられる(Frank, J. A., Miller, B. R., Arbab, A. S., Zywicke, H. A., Jordan, E. K., Lewis, B. K., Bryant, L. H., & Bulte, J. W. M. (2003) Clinically applicable labeling of mammalian and stem cells by combining superparamagnetic iron oxides and transfection agents. Radiology 228: 480−487)。粒子が取り込まれた細胞をホルムアルデヒドで固定した後、プルシアンブルー染色前に細胞を光学顕微鏡で観察し、プルシアンブルー染色後、同一視野(field)で細胞を光学顕微鏡で観察した。プルシアンブルー染色は、プルシアンブルーアイアンステインキット[Prussian Blue Iron Stain Kit(Polysciencesから購入、 Cat. No. 24199)]を用いて行った。プルシアンブルー染色の結果、細胞内で観察される黒い点が酸化鉄成分の粒子によるものであることを確認した(図1のB)。
【0032】
このような結果はADRB2蛋白質が細胞膜、エンドソーム、ライソゾーム等に位置する蛋白質である点を勘案した時、細胞内に取り込まれた粒子は、生きた細胞においてエンドソームやライソゾームのような小胞により囲まれ、細胞内に位置していることを示唆する。
【実施例2】
【0033】
実施例2:多様な細胞質露出添加剤の処理による粒子の細胞質露出
本発明の露出添加剤により細胞内に取り込まれた粒子が小胞から細胞質に露出されるか否かを確認するため、次のような実験を行った。細胞内に取り込まれた粒子が小胞から細胞質に露出されたか否かは、多様な方法で確認することができる。例えば、実施例1のように蛍光標識物質が小胞を標識することを利用して蛍光標識物質と黒い点に観察される粒子の重畳可否により確認することができる。本発明の細胞質露出添加剤を細胞に接触させた後、図1のAに図示されたのとは異なり、細胞内に取り込まれた粒子である黒い点がADRB2−EGFP蛋白質の蛍光が現れる小胞の外で観察されると粒子が細胞質に露出されたと判断することができる。
【0034】
また、より効率的な細胞質露出確認方法を使用することができるところ、本実施例においては、媒介者を利用して表面が改質された粒子に蛍光物質が標識されるか否かを観察し、粒子の細胞質露出可否を確認することができる。媒介者は本発明が属する技術分野にて使用可能なものと認識されるリンカー物質を1つまたは複数個用いて構成することができる。以下では、一例として媒介者を2つのリンカー物質で構成したものを用いて実験を行った。
【0035】
媒介者を構成するリンカー物質の1つとしては、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia)の治療剤として使われているダサチニブ(dasatinib)を用いた[Lombardo, L. J., Lee, F. Y., Chen, P., et al. Discovery of N−(2−chloro−6−methyl−phenyl)−2−(4−(4−(2−hydroxyethyl)−piperazin−1−yl)−2−methylpyrimidin−4−4−ylamino)thiazole−5−carboxamide (BMS−354825), a dual Src/Abl kinase inhibitor with potent antitumor activity in preclinical assays. J. Med. Chem. 47, 6658−6661 (2004); Shah, N. P., Tran, C., Lee, F. Y. Chen, P., Norris, D., Sawyers, C. L. Oerriding imatinib resistance with a novel ABL kinase inhibitor. Science 305, 399−401 (2004)]。媒介者を構成するもう1つのリンカー物質としては、前述したリンカー物質であるダサチニブと結合するABL1(GenBank Acc. No. NM_198291)を使用した。また、粒子の表面をダサチニブで改質するため、公知の方法でダサチニブ−ビオチンを合成した。
【0036】
例えば、ダサチニブ−ビオチンの合成過程を説明すれば、次の通りである。
【0037】
(1)ダサチニブはTHFとDMFの混合液に溶かした後、トリエチルアミンを添加した上、冷却させた;(2)ダサチニブ溶液にメタンスルホニルクロリド(methanesulfonyl chloride)をゆっくり滴加した後、常温で一晩撹はんした;(3)反応液に NaN を入れ、摂氏50℃で一晩撹はんした;(4)反応液を減圧濃縮した後、残渣をコラムクロマトグラフィーにより精製した;(5)精製された産物をTHFに溶解し、過量のトリフェニルホスフィン(triphenylphosphine)を添加し、常温で5時間撹はんした;(6)反応液に水を添加し、摂氏70℃で一晩撹はんした後、減圧濃縮した;(7)残渣を窒素大気状態でDMFに溶解させた後、トリエチルアミン(triethylamine)を添加した;(8)化合物2をDMFに溶解して添加した後、常温で3日間撹はんした;(9)反応液を減圧濃縮した後、MeOH/MCコラムクロマトグラフィーで精製した;(10)合成された化合物はNMRおよびLC−MSを利用して確認した。
【0038】
EGFP−ABL1発現ベクターは、公知の方法により製作した(Sambrook & Russell, 2001, Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0039】
96−ウェルプレートにHeLa細胞(ATCCから購入、Cat. No. CCL−2)をウェル当たり6,000個細胞数(6,000cells/well)で継代培養(subculture)した後、前記発現ベクターを実施例1のように細胞に取り込んだ。DNAが取り込まれた細胞にダサチニブで改質された粒子を、次の通り取り込んだ。
【0040】
培養されたHeLa細胞に改質された粒子を、次のような過程によって処理した:
1)ストレプトアビジン−磁性粒子をダサチニブ−ビオチンと混合して反応させ、ダサチニブで改質された粒子を用意した;
2)前記反応後、混合液を当業界にて知られた分離方法、例えば、HGMS技術(High gradient magnetic separation)を利用して精製した(米国特許第4,247,398号(1981. 1. 27. 発行); Melville, D., F. Paul, and S. Roath (1975) Direct magnetic separation of red cells from whole blood. Nature 255:706参照);
3)上記の通りに用意されたダサチニブで改質された粒子を、DNAが取り込まれたHeLa細胞に当業界にてよく知らされた方法(Josepthson, et al. (1999) High−efficiency intracellular magnetic labeling with novel superparamagnetic−Tat peptide conjugate. Bioconjug. Chem. 10, 186; Derfus, et al. (2004) Intracellular delivery of quantum dots for live cell labeling and organelle tracking. Adv. Mater. 16, 961; Frank, et al. (2003) Clinically applicable labeling of mammalian and stem cells by combining superparamagnetic iron oxides and transfection agents. Radiology 228, 480;米国公開特許第2005/0130167号;米国公開特許第2005/0271732号)で取り込んだ。
【0041】
EGFP−ABL1発現ベクターDNAとダサチニブで改質された粒子が取り込まれた細胞にNDGA(Nordihydroguaiaretic acid、Sigmaから購入)、NEM(N−ethylmaleimide、Sigmaから購入)、またはNHCl(Sigmaから購入)を各々最終25〜50μM、5〜20μM、または10mMになるように処理した後、細胞を生きた状態で観察した。
【0042】
本実施例においては、対物レンズUplan Apo 40 X0.85が装着されたオリンパス社の蛍光顕微鏡FV1000を利用し、細胞の透過光イメージおよび蛍光イメージを得た。図2に図示するように、細胞質露出添加剤を添加する前(without additive)には細胞に取り込まれたダサチニブで改質された粒子が小胞に囲まれ、EGFP−ABL1蛋白質により蛍光標識されず、その結果、細胞に取り込まれた粒子の黒い点とEGFP−ABL1蛋白質の蛍光がお互い重畳していないままに観察される(図2、左方)。しかしながら、細胞質露出添加剤を添加すれば、小胞に取り込まれた粒子が細胞質に露出され、EGFP−ABL1蛋白質によりダサチニブで改質された粒子が蛍光で標識され、その結果、細胞に取り込まれた粒子の黒い点とEGFP−ABL1蛋白質の蛍光がお互い重畳して観察されることを確認した(図2、右方)。
【0043】
また、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)、メタノールおよびエタノールに対しても前述したような実験を行い、細胞質露出添加剤としての機能を確認した。ただし、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、メタノールおよびエタノールは、細胞を固定する機能をするため、これらを細胞に接触させて処理した場合、細胞を生きた状態で観察することはできないが、少なくとも細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損傷されずに維持された状態(intact cell)で粒子を小胞から細胞質に効果的に露出させることを確認することができた。
【0044】
以上、本発明を前記実施例を挙げて説明したが、本発明はこれに制限されるものでない。当業者ならば本発明の趣旨および範囲を外れることなく、修正、変更することができ、このような修正と変更もまた本発明に属するものであることを知ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる細胞質露出添加剤において、NDGA(Nordihydroguaiaretic acid)、NEM(N−ethylmaleimide)、NHCl、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)、メタノールおよびエタノールで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む細胞質露出添加剤。
【請求項2】
NDGA、NEMおよびNHClで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む、請求項1に記載の細胞質露出添加剤。
【請求項3】
細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法において、
粒子を生きた細胞に導入し、前記細胞の生理的、生化学的または生物学的環境が損なわれないように維持された状態で前記粒子を小胞から細胞質に露出させる細胞質露出添加剤を前記細胞に接触させ、前記粒子が小胞から細胞質に露出されるようにすることを特徴とする、細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法。
【請求項4】
前記細胞質露出添加剤は、NDGA(Nordihydroguaiaretic acid)、NEM(N−ethylmaleimide)、NHCl、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)、メタノールおよびエタノールで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む、請求項3に記載の細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法。
【請求項5】
前記細胞質露出添加剤は、NDGA、NEMおよびNHClで構成された群から選択された少なくとも1つの化合物を含む、請求項3または請求項4に記載の細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法。
【請求項6】
前記粒子は、粒子形態を有する、または細胞内で粒子化できる物質であることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法。
【請求項7】
前記粒子は、1ないし1,500nmの直径を有することを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法。
【請求項8】
前記粒子は、20ないし350nmの直径を有することを特徴とする、請求項7に記載の細胞内に取り込まれた粒子を小胞から細胞質に露出させる方法。



【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−508007(P2012−508007A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535514(P2011−535514)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006539
【国際公開番号】WO2010/053323
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511113556)メディスコブ インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】