細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー
【課題】細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供する。
【解決手段】該カンチレバーは、支持部と、支持部から突出するように支持部に設けられたレバー部3と、レバー部3の自由端近傍に設けられた探針部4とを備え、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられる。探針部4は、炭素系材料からなる導電性探針7と、導電性探針7の周囲を被覆した絶縁膜8とで構成されている。
【解決手段】該カンチレバーは、支持部と、支持部から突出するように支持部に設けられたレバー部3と、レバー部3の自由端近傍に設けられた探針部4とを備え、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられる。探針部4は、炭素系材料からなる導電性探針7と、導電性探針7の周囲を被覆した絶縁膜8とで構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に適した細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ分野において、細胞の生体機能の解明又は制御を行うことが注目されている。
このような細胞の生体機能の解明又は制御を行うためには、細胞内及び細胞間の微小空間の電位差の計測や細胞内に遺伝子等を導入したり取り出す等の操作が必要不可欠となっている。
【0003】
そこで、従来より、細胞内に遺伝子等の被導入物質を導入する方法又は装置に関する提案が数多くなされており、例えば、特許文献1及び特許文献2によって開示されたものがある。
【0004】
特許文献1は、細胞操作装置及びこれを用いた細胞操作方法に関する提案である。そして、この特許文献1には、遺伝子の導入から発現に至るまでの間、細胞に表れる経時的な動態変化をリアルタイムで詳細に観察でき、また、細胞分化の解明又は制御に対しても適用でき、さらに、遺伝子等の導入時における細胞のダメージを極力低減し得る細胞操作手段として、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)の探針に、遺伝子あるいは遺伝子の発現に関与する物質を固定化して細胞内に挿入するための針状物を設けた構成に関する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、この特許文献1に記載の従来技術では、遺伝子又は遺伝子発現に関与する物質は針状物に固定化されたままであり、針を抜去しても遺伝子等は細胞内に恒常的に保持されないため、遺伝子組換体を作製できないと問題点があった。
【0006】
そこで、このような問題点に鑑みてなされた提案が前記特許文献2である。すなわち、特許文献2は、細胞に対して物質を導入する方法に関する提案である。
そして、この特許文献2には、被導入物質を中間的な結合力で針状材料に結合し、この針状材料を細胞内に穿刺した際に被導入物質が残留することにより、被導入物質を細胞内に導入するといった方法に関する技術が開示されており、また、細胞内への針状材料の穿刺検知方法並びに被導入物質を細胞内に導入する導入装置として、原子間力顕微鏡(AFM)を使用する構成に関する技術が開示されている。
【0007】
具体的には、特許文献2に記載の方法では、図21に示すように、AFMカンチレバー100に設けられた探針101を集束イオンビームでエッチングすることで、針状材料として構成し、そして、この針状材料である探針101を用いて、細胞103及び細胞103内の核104内に穿刺操作を行うようにしている。
【0008】
また、特許文献2には、被導入物質を中間的な結合力で針状材料に結合する方法の一つとして静電気結合に関する技術が開示されている。このような静電気結合は、弱い結合であるため、細胞内で容易に被導入物質を分離することが可能である。また、この場合の静電気結合には、一般的にカチオン性ポリマーが用いられるようになっている。
【0009】
具体的には、特許文献2に記載の方法では、図22の模式図に示すように、シリコン製AFM探針をエッチングにより先鋭化した針状材料104にチオール基を導入してスクシンイミド活性エステルを表面に修飾し、ポリリジンを固定化した後に被導入物質であるプラスミドphrGFPを静電気結合させて、細胞内へ導入するようにしている。
【特許文献1】特開2003−3174号公報
【特許文献2】特開2006−166884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献2に記載の従来技術では、静電気結合は弱いため結合が外れ、細胞内に導入する以前に被導入物質が取れてしまう可能性があるため、所望の物質を細胞内に導入できない恐れがあるといった問題点があった。
【0011】
また、前記特許文献2に記載の従来技術には、細胞内から物質を取り出すこと、及び細胞内の電位分布計測に関してなんら示唆も開示もされてはおらず、このため、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行える具体的な装置が望まれている。
【0012】
そこで、本発明は前記問題点に鑑みてなされたもので、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、ナノ細胞マッピング、つまり細胞内及び細胞間の微小空間での測定と物質の導入及び取り出しを容易且つばらつきを抑えて再現性良く安定に行うことを可能にする細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーは、支持部と、前記支持部から突出するように前記支持部に設けられたレバー部と、前記レバー部の自由端近傍に設けられた探針部とを備え、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられる細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおいて、前記探針部は、炭素系材料からなる導電性探針と、前記導電性探針の周囲を被覆した絶縁膜とで構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することができる。
また、本発明によれば、ナノ細胞マッピング、つまり細胞内及び細胞間の微小空間での測定と物質の導入及び取り出しを容易且つばらつきを抑えて再現性良く安定に行うことを可能にする細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1から図7は本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの第1の実施の形態に係り、図1は第1の実施の形態の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの外観構成を示す斜視図、図2は図1の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおけるA−A’線に沿ったレバー部の一部破断した断面図、図3は図1の探針部の突出方向に対して鉛直方向における断面図、図4は図1の探針部の突出方向における先端部分の断面図、図5は探針部の第1の変形例を示す先端部分の断面図、図6は探針部の第2の変形例を示す先端部分の断面図、図7は探針部の第3の変形例を示す探針部及びレバー部の一部破断した断面図である。
【0018】
図1に示すように、第1の実施の形態の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー(以下、カンチレバー1と称す)1は、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられるものである。
【0019】
具体的には、カンチレバー1は、支持部2と、前記支持部2から突出するように前記支持部2に設けられたレバー部3と、前記レバー部3の自由端近傍に設けられた探針部4と、前記レバー部3の前記支持部2側の基端部に設けられた電極パッド6と、前記探針部4の後述する導電性探針7と前記電極パッド6とを前記レバー部3内部を介して電気的に接続するための配線部5とを有して構成されている。
【0020】
支持部2は、細胞内及び細胞間の微小空間計測又は操作を行う場合には、図示しない細胞操作装置内のカンチレバーホルダ等に保持される。また、この支持部2の例えば底面部には、レバー部3の基端側部分が支持された状態で固定されている。尚、レバー部3の支持部2への取付方法は、特に限定されることはなく、いずれの方法で取り付けても良い。
【0021】
レバー部3は、例えば、酸化シリコン又は窒化シリコン等の材料を用いて構成されている。具体的な構成については後述する。
【0022】
探針部4は、前記レバー部3の自由端近傍に形成されている。また、探針部4は、レバー部3の長手方向に対して鉛直方向に突出するように設けられている。
尚、第1の実施の形態では、探針部4は、レバー部3に対して鉛直方向に設けた構成について説明したが、これに限定されるものではなく、レバー部3に対していずれの方向に傾けるように形成しても良い。
【0023】
次に、カンチレバー1の主要部分であるレバー部3及び探針部4の具体的な構成について、図2から図7を参照しながら説明する。
本発明では、図2に示すように、探針部4は、炭素系材料からなる導電性部材である導電性探針7と、この導電性探針7の周囲を被覆するように設けられた絶縁膜8とを有して構成されている。
【0024】
また、図3には、探針部4の突出方向に対して鉛直方向における探針部4の断面の構成が示されている。すなわち、図3に示すように、第1の実施の形態では、探針部4の形状は、例えば円柱状に形成されている。そして、探針部4を構成する導電性探針7の形状は、例えば円柱状に形成されている。
【0025】
尚、探針部4及び導電性探針7の形状は、円柱状に限らず、それ以外の形状に形成しても良く、例えば、楕円柱又は多角柱などの柱状体形状、又は円錐や多角錘などの錐体形状に形成しても良い。但し、細胞へのダメージを低減するために、前記したように円柱状に形成することが望ましい。
【0026】
絶縁膜8は、このような形状の導電性探針7の周囲を被覆するように設けられている。従って、絶縁膜8の形状を変えることによって導電性探針7の形状はそのままで探針部4自体の形状を変えるように構成しても良い。尚、この絶縁膜8は、導電性探針7の周囲を完全に被覆して絶縁性が確保できれば、その形状や厚さ等は特に限定することはなく、柱状体形状でも錐体形状に構成しても良い。
【0027】
また、探針部4の先端面4aは、図2及び図4に示すように、例えば平面形状に形成されている。この先端面4aには、導電性探針7の先端面7aが設けられている。この先端面7aは、探針部4の先端面と同一面となるように設けられている。また、導電性探針7の先端面7aとは逆側の基端部には、基端面7bが形成されている。
絶縁膜8の下部には、前記レバー部3に係合して固定するための係合部8aが設けられている。
【0028】
ここで、探針部4を構成する導電性探針7及び絶縁膜8の材料について説明する。
具体的には、導電性探針7を構成する炭素系材料は、例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つである。そして、このような炭素系材料にボロン又はリン等をドープすることにより、導電性探針7として構成されるようになっている。
【0029】
したがって、このような炭素系材料を用いて導電性探針7を構成することにより、炭素系材料の導電性探針7は高剛性を有しているため、耐久性が向上すると共に、また、酸化されにくい特性を有しているため、信頼性が得られる。よって、このような耐久性及び信頼性のある導電性探針7を用いて探針部4を構成しているので、細胞内での安定した測定又は操作を容易に且つ安定して行うことが可能となる。
【0030】
また、絶縁膜8は、酸化膜、窒化膜又は有機膜のいずれか1層、又は酸化膜、窒化膜又は有機膜の少なくとも1つを含む積層膜で構成されている。このような積層膜は、一般的な方法で形成可能である。このため、絶縁膜8は、容易に導電性探針7を覆うように形成することが可能である。
【0031】
また、絶縁膜8は、前記積層膜に替えて、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つを含む炭素系材料を用いて形成しても良い。尚、第1の実施の形態では、絶縁膜8を形成する材料としては、生体への適合性及び、被導入物質の付着性向上のための表面処理(後述する表面修飾部を形成するための表面処理)性を考慮すると、炭素系材料を用いることが望ましい。
【0032】
したがって、導電性探針7の周囲を絶縁膜8で覆うことにより、後述するが、細胞内及び細胞間の微小空間での電位計測を正確に行うのに好適な構成となる。また、被導入物質を細胞内及び細胞間の微小空間の所望の位置に導入し易くなると共に、所望の位置から物質を取り出すことを可能にするのに好適な構成となる。
【0033】
尚、探針部4は、先端部の径が1μm以下、好ましくは400nm以下となるように形成することが望ましい。また、探針部4の長さは、2μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上となるように形成することが望ましい。
【0034】
このような構成の探針部4の導電性探針7は、図2に示すように、基端面7bがレバー部3内の配線部5と接触することにより、この配線部5と電気的に接続されるようになっている。
【0035】
ここで、レバー部3の構成を説明すると、レバー部3は、図2に示すように、前記探針部4の絶縁膜8の係合部8aと係合することにより探針部4自体を固定するとともに、内部の配線部5を保護するための保護膜9と、この保護膜9の次に配設される前記配線部5と、この配線部5を前記保護膜9とで挟持するレバー本体部3Aと、このレバー本体部3Aの外表面にコーティング処理された光学反射膜10とを有して構成されている。
【0036】
保護膜9は、絶縁性部材で構成されたもので、レバー部3の片側全面に亘って覆うように設けられている。また、この保護膜9は、図示はしないが支持部2の同じ側の全面に亘って設けられている。
【0037】
保護膜9の探針部4近傍には、絶縁膜8の係合部8aが露出するように開口9aが形成されている。尚、第1の実施の形態では、保護膜9の探針部4近傍に開口9aを設けた構成について説明したが、これに限定されることはなく、開口9aを設けずに、探針部4の絶縁膜8の周囲全体を覆うように形成しても良い。このことにより、探針部4を強固にレバー部3に固定することが可能となる。
【0038】
また、図示はしないが、保護膜9は、支持部2上の電極パッド6の対応する部分においては、内部の配線部5と電極パッド6との電気的な接続を行うために開口している。
【0039】
尚、第1の実施の形態では、保護膜9を設けた構成について説明したが、これに限定されることはなく、必要に応じて保護膜9を設けずに構成しても良い。
【0040】
配線部5は、導電性探針7の基端面7bと接触することにより、この導電性探針7と電気的に接続されている。そして、この配線部5の支持部2側の基端部は、例えば電位計等の外部装置と電気的に接続するための電極パッド6に電気的に接続されている。
【0041】
尚、配線部5の材料としては、白金又はイリジウムが望ましい。これは、炭素系材料の導電性探針7を堆積成長させ易いためである。また、配線部の5の材料としては、導電性探針7との密着性が確保できれば、その他の金属を用いて構成しても良い。また、その他に、ポリシリコン等の半導体材料を用いて配線部5を構成しても良い。
【0042】
また、配線部5とレバー本体部3Aとの間に、チタン又はクロム等の導電性材料を形成して、配線部5とレバー本体部3Aとの密着性を向上させるように構成しても良い。また、同様に配線部5と保護膜9との間に、チタン又はクロム等の導電性材料を形成して、配線部5と保護膜9との密着性を向上させるように構成しても良い。
【0043】
また、電極パッド6は、配線部5自体で形成しても良いが、その上に金、銅又はアルミニウム等の電極層を形成して、半田接続又はワイヤボンディング等による外部端子との電気的接続を取り易いように構成しても良い。この場合、電極パッド6と電極層との密着性を向上させるために、電極パッド6と電極層との間にチタン又はクロム等の導電性材料を形成しても良い。
【0044】
レバー本体部3Aの外表面に設けられた光学反射膜10は、アルミニウム又は金によってコーティング処理することによって形成されている。尚、このようなコーティング処理に限定されることはなく、他の方法を用いて光学反射膜10を構成しても良い。また、多層膜を設けて光学反射膜10を構成しても良い。
【0045】
この光学反射膜10は、例えば、このカンチレバー1と、外部光学系機器及びパーソナルコンピュータ等の外部装置とでシステムを構成した場合には、外部光学系機器から照射される光の反射角又は反射量を検出するためのものである。そして、このようなシステムでは、パーソナルコンピュータによって、光学反射膜10による検出結果を分析することにより、探針部4が細胞膜に接触したか否かを力学的に検知することが可能となるので、細胞内及び細胞間の微小空間での測定又は操作を行うのに有効である。
【0046】
従って、以上説明したように構成することによって、細胞に対して低侵襲なカンチレバー1を構成することができ、細胞内及び細胞間の微小空間でのばらつきを抑えて再現性良く安定した様々な測定又は操作が容易に行うことが可能となる。
【0047】
また、レバー部3及び電極パッド6を除く支持部2上を保護膜9にて覆うため、細胞が培養液又は生理食塩水等の水系溶液に浸っている場合等、さまざまな環境下においても、細胞内及び細胞間の微小空間での安定した測定や操作が容易に行うことができる。
【0048】
さらに、耐久性及び信頼性のある導電性探針7を用いて探針部4を構成しているので、高耐久性及び高信頼性のあるカンチレバー1を構成することが可能となる。
【0049】
尚、第1の実施の形態では、前記探針部4は、導電性探針7の先端面7aと絶縁膜8と同一平面ではなく、図5の第1の変形例に示す探針部4Aのように、導電性探針7の先端部7a1が絶縁膜8よりも突出する形状に先端部4a1を構成しても良い。
【0050】
この場合、探針部4Aの先端部4a1及び導電性探針7の先端部7a1は、例えば円錐又は多角錘等の錐体形状に構成される。
【0051】
また、前記探針部4は、図6の第2の変形例に示す探針部4Bのように、導電性探針7の先端部7a2が絶縁膜8よりも突出する形状に先端部4a2を構成した場合に、この導電性探針7の先端部7a2を半球状、楕円球状等の円弧形状に形成するとともに、この先端部7a2周囲の絶縁膜8の先端部についても半球状、楕円球状等の円弧形状に形成しても良い。すなわち、探針部4Bの先端部4a2を円弧形状に形成することにより、細胞へのダメージを低減できるといった効果がある。
【0052】
さらに、前記探針部4は、図7の第3の変形例に示す探針部4Cのように、導電性探針7の先端面7a3が絶縁膜8よりも突出する形状に先端部4a3を構成した場合に、導電性探針7の突出する突出部7cを設けるとともに、この突出部7cの先端面7a3と絶縁膜8の先端面とが同一平面ではなく、それぞれ異なる位置に設けられるように構成しても良い。すなわち、導電性探針7の突出部7cを設けたことにより、導電性探針7の露出する表面面積が大きくなるので、被導入物質及び細胞内物質の付着性能を向上させるのに有効である。
【0053】
次に、このような構成のカンチレバー1を用いて、実際に細胞内及び細胞間の微小空間電位差測定を行うためのシステムとして構成した場合の構成例及び動作について、図8及び図9を参照しながら説明する。
図8は第1の実施の形態のカンチレバー1を備えたシステム全体の概略構成を示す模式図、図9は細胞内電位差測定を行う場合のカンチレバー1の探針部4及び細胞内の拡大図である。
【0054】
図8に示すように、システムは、図1に示すカンチレバー1と、このカンチレバー1の電極パッド6に電気的に接続される接続線11と、この接続線11に電気的に接続され、カンチレバー1の探針部4の先端部と後述する導電ステージとの電位差を計測可能な電位計12と、この電位計12からの接続線11に電気的に接続され、細胞50を配置する配置面13aを有する導電性の部材で構成された導電性ステージ13とを有して構成されている。
【0055】
このような構成により、カンチレバー1と導電性ステージ13とが、接続線11及び電位計12を介して電気的に接続される。尚、説明簡略化のため、カンチレバー1の支持部2を保持するカンチレバーホルダ及びその他のパーソナルコンピュータ等の外部装置については説明を省略し、主要部のみの構成及び動作について説明する。
【0056】
いま、オペレータは、図8に示すように構成されたシステムを用いて、細胞内電位差測定を行うものとする。この場合、オペレータは、導電性ステージ13の配置面13a上に細胞50を配置させる。
【0057】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図9に示すように、カンチレバー1の探針部4を細胞50に向けて移動させる。尚、細胞50は、周知のように細胞内の核51と、細胞膜52とを有している。
【0058】
すると、カンチレバー1の探針部4の先端面4aが細胞50の細胞膜52に接触する。この場合、第1の実施の形態では、カンチレバー1の探針部4が細胞膜52に接触したことを、電位計12によって電気的に検知し又は前記したように光学反射膜10からの反射光等によって力学的に検知しても良く、いずれの検知方法で検知しても良い。
【0059】
その後、オペレータは、図9に示すように、カンチレバー1の探針部4を細胞膜52を突き破るようにして細胞50内に挿入させる。
【0060】
そして、オペレータは、電位計12を用いて、細胞50内の探針部4の先端面4aと導電性ステージ13との電位差を測定する。このときの測定結果は、図示しないパーソナルコンピュータ等によって記録されることになる。
【0061】
ここで、第1の実施の形態では、オペレータは、前記したような方法で細胞50内に探針部4を刺し直し、刺し直し毎に電位差を測定する。このことにより、細胞50内での所望位置における電位分布の測定結果が得られる。
【0062】
例えば、刺し直し回数は、数十回〜100回程度が望ましいが、特に限定されるものではなく、必要に応じた回数で行えば良い。この場合、探針部4を数十回刺し直しても、細胞50は死んでしまうことはない。また、細胞50内に刺し直す位置については、必要に応じた所望の位置を設定すれば良い。
【0063】
このように探針部4を細胞50内に複数回刺し直しながら、それぞれの電位差を測定することで、前記したようなシステムを用いることにより、細胞50での所望位置における微細電位分布の測定が可能になり、電位分布でのナノ細胞マッピングを行うことが可能となる。
【0064】
尚、ナノ細胞マッピングは、組織・気官に存在する細胞内及び細胞間の物質や電位等の物理的パラメータや、特定の生物機能の強弱の微細分布をマッピングするもので、電位分布に限るものではない。
【0065】
また、探針部4及びレバー部3がそれぞれ絶縁膜8及び保護膜9に覆われているため、細胞50が培養液又は生理食塩水等の水系溶液に浸っていても電位差及び電位分布の測定が可能である。
【0066】
従って、第1の実施の形態によれば、細胞内と細胞膜との電位差が容易に且つ安定して測定することができ、さらに、細胞内又は細胞間での電位分布もリアルタイムで容易に且つ安定して測定することが可能となる。よって、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー(カンチレバー1)の実現が可能である。
【0067】
また、カンチレバー1を有するシステムを用いることにより、細胞内での電位分布測定を行うことで、細胞内及び細胞間における電位のナノ細胞マッピングを行うことが可能となる。
【0068】
(第2の実施の形態)
図10から図17は本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの第2の実施の形態に係り、図10から図13はカンチレバーを有するシステムを用いて細胞内に被導入物質を導入する方法を説明するための説明図であり、図14から図17はカンチレバーを有するシステムを用いて細胞内から細胞内物質を取り出す方法を説明するための説明図である。
尚、図10から図17は前記第1の実施の形態のカンチレバー1及びシステムと同様な構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0069】
第2の実施の形態のカンチレバー1は、前記第1の実施の形態のカンチレバー1と略同様に構成されているが、導電性探針7の少なくとも先端部分が、細胞内の物質又は細胞内に導入する被導入物質を付着し易くするための表面処理を施した表面修飾部40を有して構成されている。
【0070】
前記表面修飾部40は、水素、酸素、フッ素、アミノ酸、シラン、有機分子又は生体分子のいずれか1つを用いて表面処理を施すことにより形成されるようになっている。
【0071】
尚、この表面修飾部40は、例えば、導電性探針7の先端面7a又は露出部と、先端面4aを形成する絶縁膜8の先端面又は露出部との少なくとも一方に形成されても良い。
【0072】
また、表面修飾部40は、探針部4の先端部には限定されることはなく、探針部4の先端部から周囲にかけて前記材料を用いて表面処理を施して形成しても良い。
【0073】
さらに、表面修飾部40を形成させるための方法としては、前記表面処理に限定されることはなく、物理的な結合を含む如何なる方法を用いて表面修飾部を形成しても良い。
【0074】
また、表面修飾部40は必ずしも必要ではないが、後述するように、細胞内及び細胞間の微小空間への被導入物質の導入又は細胞内からの細胞内物質の取り出しにあたっては、表面修飾部40を形成した方が有効である。
【0075】
したがって、このようなカンチレバー1では、探針部4の先端部近傍に表面処理を施して表面修飾部40を形成したことにより、後述する被導入物質53を探針部4の先端部に付着させ易くなるとともに、細胞内及び細胞間の微小空間から細胞内物質54を取り出す際に、細胞内及び細胞間の微小空間からの細胞内物質54を探針部4の先端部に付着させ易くなる。
【0076】
そして、このようなカンチレバー1を用いて、細胞内に被導入物質を導入又は細胞内からの細胞内物質の取り出しを行うためのシステムを構成すると、図10に示すような構成となる。
【0077】
すなわち、このシステムは、図10に示すように、表面修飾部40を有するカンチレバー1を有し、第1の実施の形態の電位計12に替えて、第1電源V1及び第2電源V2を有する電源部14を設けると共に、これらの第1電源V1と第2電源V2とを切り替えるスイッチSWを設けている。また、このシステムでは、導電性ステージ13が接地電位となるように接続されている。
【0078】
電源部14の第1電源V1の正極側には、スイッチSWの一方の端子が接続され、負極側には、導電性ステージ13からの接続線11が接続されている。
【0079】
また、電源部14の第2電源V2の負極側には、スイッチSWの他方の端子が接続され、正極側には、導電性ステージ13からの接続線11が接続されている。
【0080】
そして、スイッチSWは、カンチレバー1の電極パッド6からの接続線11が接続されており、電源部14の第1電源V1側の一方の端子に切り替えた場合にはカンチレバー1側に正極の電位が印加され、一方、電源部14の第2電源V2側の他方の端子に切り替えた場合にはカンチレバー1側に極性が反転した負極の電位が印加されるようになっている。
【0081】
尚、このスイッチSWは、オフすることにより、カンチレバー1には第1電源V1又は第2電源V2からの電位を与えないフローティング状態に切り替えることも可能である。
【0082】
次に、このような構成のカンチレバー1を有するシステムを用いて細胞内に被導入物質を導入する方法、及び細胞内から細胞内物質を取り出す方法について説明する。
まず、細胞内に被導入物質を導入する方法について、図10から図14を参照しながら説明する。
【0083】
尚、図10はカンチレバー1の探針部4に負の電位を印加して被導入物質53を吸着させた状態を示し、図11は探針部4を電気的にフローティング状態にして探針部4を細胞50内に挿入する状態を示し、図12はカンチレバー1の探針部4に正の電位を印加して細胞50内に被導入物質53を分離する状態を示し、図13は探針部4を電気的にフローティング状態にして探針部4のみを細胞50内から抜いた状態を示している。
いま、オペレータは、図10に示すように構成されたシステムを用いて、細胞50内に被導入物質53を導入するものとする。この場合、オペレータは、予め、導電性ステージ13の配置面13a上に細胞50を配置させる。
【0084】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図10に示すように、スイッチSWを第2電源V2側の他方の端子に切り替えるように操作する。
【0085】
すると、カンチレバー1の探針部4には、第2電源V2から負電位が印加される。このことにより、正に帯電した遺伝子やタンパク質等の被導入物質53の探針部4の先端部近傍への吸着を電気的に促進させることが可能となる。
【0086】
その後、オペレータは、図11に示すように、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態とする。そして、オペレータは、この状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50に向けて移動させてこの細胞50内に挿入させる。
【0087】
次に、カンチレバー1の探針部4が細胞内の所望の位置に到達したことを確認後、オペレータは、図12に示すように、スイッチSWを第1電源V1側の一方の端子に切り替えるように操作する。
【0088】
すると、カンチレバー1の探針部4には、第1電源V2から正電位が印加される。すなわち、探針部4に印加する電位の極性を切り替えて正電位が印加されると、細胞50内及び細胞50間の微小空間で探針部4の先端部に付着された被導入物質53の分離を促進させることが可能となる。
【0089】
その後、オペレータは、図13に示すように、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態とする。そして、オペレータは、この状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50内から抜くことにより、遺伝子やタンパク質等の被導入物質53を細胞50内及び細胞50間の微小空間に留まらせることになる。
【0090】
次に、細胞内から細胞内物質を取り出す方法について、図14から図17を参照しながら説明する。
尚、図14はカンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態にして細胞50の挿入前の状態を示し、図15は探針部4を電気的にフローティング状態のままで細胞50内に挿入した状態を示し、図16はカンチレバー1の探針部4に負の電位を印加して細胞50内の細胞内物質54を吸着した状態を示し、図17は探針部4に負の電位を印加した状態のままで吸着した細胞内物質54とともに探針部4を細胞内から抜いた状態を示している。
【0091】
いま、オペレータは、図14に示すように構成されたシステムを用いて、細胞50内から細胞内物質54を取り出すものとする。尚、予め導電性ステージ13の配置面13a上に、細胞内物質54を内部に有する細胞50を配置させておく。
【0092】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図14に示すように、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態にする。
【0093】
そして、オペレータは、図15に示すように、このフローティング状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50に向けて移動させてこの細胞50内に挿入させる。
【0094】
次に、カンチレバー1の探針部4が細胞50内の所望の位置、具体的には細胞内物質54を取り出すのに好適に位置に到達したことを確認後、オペレータは、図16に示すように、スイッチSWを第2電源V2側の他方の端子に切り替えるように操作する。
【0095】
すると、カンチレバー1の探針部4には、第2電源V2から負電位が印加される。このことにより、正に帯電した遺伝子やタンパク質等の被導入物質53の探針部4の先端部近傍への吸着を電気的に促進させることが可能となる。
【0096】
その後、オペレータは、図17に示すように、探針部4に細胞内物質54が吸着しているのを確認後、カンチレバー1の探針部4に負電位を印加している状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50内から抜くように操作する。このことより、細胞50内から遺伝子やタンパク質等の細胞内物質54を容易に取り出すことが可能となる。
【0097】
尚、探針部4から取り出した細胞内物質54を分離させる場合には、オペレータは、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態として、探針部4から細胞内物質54を分離させれば良い。
【0098】
以上、説明した方法により、遺伝子又はタンパク質等を容易に安定して細胞及び細胞間の微小空間内に導入、又は細胞内及び細胞間の微小空間から取り出しを容易に行うことが可能となる。
【0099】
尚、第2の実施の形態では、カンチレバー1の探針部4に印加する電位は、前記した第2の実施の形態とは逆の極性の電位を印加しても良い。
【0100】
また、細胞内及び細胞間の微小空間にカンチレバー1の探針部4を挿入、又は抜くときに探針部4を電気的にフローティング状態としたことについて説明したが、電位を印加した状態で行っても良い。
【0101】
従って、第2の実施の形態によれば、前記第1の実施の形態と同様の効果が得られる他に、細胞50が配置された導電性ステージ13とカンチレバー1の電気的極性と電位を制御することにより、細胞50内及び細胞50間の微小空間に被導入物質53を容易に導入できると共に、細胞50内及び細胞50間の微小空間から細胞内物質54を容易に取り出すことが可能となる。
【0102】
また、この場合、カンチレバー1の探針部4の先端部近傍に表面修飾部40を形成することにより、目的の被導入物質53を確実に細胞50内及び細胞50間の微小空間に導入することが可能となり、また、細胞50内及び細胞50間の微小空間の目的の細胞内物質54を選択的且つ確実に取り出すことも可能となる。
【0103】
(第3の実施の形態)
図18から図20は本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの第3の実施の形態に係り、カンチレバーを有するシステムを用いて探針部を細胞内に挿入し易くする方法を説明するための説明図で、図18は抵抗計をオンして導電性ステージと探針部との間に抵抗を計測し探針部と細胞膜との接触を検知する状態を示し、図19は探針部と細胞膜との接触を検知した場合にパルス発生部をオンしてパルス波電位を印加した状態を示し、図20は探針部が細胞内に挿入された後にパルス発生部をオフしてパルス波電位の印加を停止した状態を示している。
尚、図18から図20は前記第1及び第2の実施の形態のカンチレバー1及びシステムと同様な構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0104】
第3の実施の形態のカンチレバー1及びシステムは、前記第2の実施の形態のカンチレバー1及びシステムと略同様に構成されているが、電源部14に替えて抵抗計15及びパルス発生部16を設けるとともに、これら抵抗計15とパルス発生部16とを切り替えるためのスイッチSW1を有して構成されている。
【0105】
すなわち、このような構成とすることで、探針部4と細胞膜との接触を抵抗計15による測定結果によって検知し、また、検知した場合に、パルス発生部16によってパルス波電位を印加することにより、細胞50内への探針部4の挿入をより容易に行うようにしている。
【0106】
尚、スイッチSW1は、カンチレバー1の電極パッド6からの接続線11が接続されており、抵抗計15側の一方の端子に切り替えた場合には導電性ステージ13と探針部4との間の抵抗の測定を可能にし、一方、パルス発生部16側の他方の端子に切り替えた場合には導電性ステージ13と探針部4との間にパルス波電位が印加されるようになっている。
【0107】
尚、このスイッチSW1は、オフすることにより、前記パルス発生部16からのパルス波電位の印加を停止させることも可能である。
【0108】
具体的な、探針部4の細胞内への挿入方法について、図18から図20を参照しながら説明する。
いま、オペレータは、図18に示すように構成されたシステムを用いて、カンチレバー1の探針部4を細胞50内に挿入するものとする。尚、予め導電性ステージ13の配置面13a上に細胞50を配置させておく。
【0109】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図18に示すように、スイッチSW1を抵抗計15側の一方の端子に切り替えるように操作する。このことにより、導電性ステージ13と探針部4との間は抵抗計15を介して電気的に接続されるので、導電性ステージ13と探針部4との間の抵抗の測定して、探針部4と細胞50(細胞膜52)との接触を検知する。
【0110】
ここで、オペレータの操作によって、図19に示すように、探針部4を細胞50に接触させたとする。この場合、抵抗計15には導電性ステージ13と探針部4との所定の抵抗値が測定される。このことにより、探針部4が細胞50に接触したことが検知される。
【0111】
その後、オペレータは、抵抗計15によって探針部4が細胞50に接触したと検知した場合には、図19に示すように、スイッチSW1をパルス発生部16側の他方の端子に切り替えるように操作する。
【0112】
すると、パルス発生部16はオンすることになり、導電性ステージ13と探針部4との間にはパルス波電位が印加されることになる。
【0113】
そして、オペレータは、パルス波電位を印加しながら、カンチレバー1の探針部4を細胞50に向けて移動させてこの細胞50内に挿入させる。このとき、探針部4の導電性探針7にはパルス波電位が印加されているので、細胞50の細胞膜52(図示せず)を容易に開口させて細胞50内に挿入させることが可能となる。
【0114】
その後、オペレータは、カンチレバー1の探針部4が細胞50内の所望の位置に到達したことを確認後、図20に示すように、スイッチSW1をオフすることにより、パルス発生部16からのパルス波電位の印加を停止させる。
【0115】
尚、第3の実施の形態では、探針部4と細胞50との接触の検知方法は、導電性ステージ13とカンチレバー1の探針部4との抵抗測定の代わりに、カンチレバー1の光学反射膜10を用いて行う力学的検知方法を用いても良い。
【0116】
また、導電性ステージ13とカンチレバー1の探針部4との間に印加する電位は、交流(高周波)でも直流でも良い。
【0117】
さらに、カンチレバー1の探針部4を細胞50に接触させる以前からパルス発生部16をオンしてパルス波電位を印加させても良い。
【0118】
従って、第3の実施の形態によれば、前記第2の実施の形態と同様の効果が得られる他に、カンチレバー1の探針部4を細胞50内に挿入する際、カンチレバー1の力学的な操作に加えて細胞膜52に電気的な刺激を与えることにより、カンチレバー1の探針部4の細胞50内及び細胞50間の微小空間への挿入を容易に行うことが可能となる。このことにより、カンチレバー1の探針部4の先端部の径が比較的大きくても、容易に探針部4を細胞50内に挿入することが可能となる。
【0119】
本発明は、以上述べた実施の形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの外観構成を示す斜視図。
【図2】図1の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおけるA−A’線に沿ったレバー部の一部破断した断面図。
【図3】図1の探針部の突出方向に対して鉛直方向における断面図。
【図4】図1の探針部の突出方向における先端部分の断面図。
【図5】探針部の第1の変形例を示す先端部分の断面図。
【図6】探針部の第2の変形例を示す先端部分の断面図。
【図7】探針部の第3の変形例を示す探針部及びレバー部の一部破断した断面図。
【図8】第1の実施の形態のカンチレバーを備えたシステム全体の概略構成を示す模式図。
【図9】細胞内電位差測定を行う場合のカンチレバーの探針部及び細胞内の拡大図。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの探針部に負の電位を印加して被導入物質を吸着させた状態を示す説明図。
【図11】探針部を電気的にフローティング状態にして探針部を細胞内に挿入する状態を示す説明図。
【図12】カンチレバーの探針部に正の電位を印加して細胞内に被導入物質を分離する状態を示す説明図。
【図13】探針部を電気的にフローティング状態にして探針部のみを細胞内から抜いた状態を示す説明図。
【図14】カンチレバーの探針部を電気的にフローティング状態にして細胞の挿入前の状態を示す説明図。
【図15】探針部を電気的にフローティング状態のままで細胞内に挿入した状態を示す説明図。
【図16】カンチレバーの探針部に負の電位を印加して細胞内の細胞内物質を吸着した状態を示す説明図。
【図17】探針部に負の電位を印加した状態のままで吸着した細胞内物質とともに探針部を細胞内から抜いた状態を示す説明図。
【図18】本発明の第3の実施の形態に係り、抵抗計をオンして導電性ステージと探針部との間に抵抗を計測し探針部と細胞膜との接触を検知する状態を示す説明図。
【図19】探針部と細胞膜との接触を検知した場合にパルス発生部をオンしてパルス波電位を印加した状態を示す説明図。
【図20】探針部が細胞内に挿入された後にパルス発生部をオフしてパルス波電位の印加を停止した状態を示す説明図。
【図21】従来技術における針状材料を用いた細胞穿刺操作を示す説明図。
【図22】従来技術におけるポリリジン修飾した針に静電吸着させた状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0121】
1…カンチレバー、
2…支持部、
3…レバー部、
3A…レバー本体部、
4、4A〜4C…探針部、
4a…先端面、
4a1〜4a3…先端部、
5…配線部、
6…電極パッド、
7…導電性探針、
7a…先端面、
7b…基端面、
7a1〜7a3…先端部、
7c…突出部、
8…絶縁膜、
8a…係合部、
9…保護膜、
9a…開口、
10…光学反射膜、
11…接続線、
12…電位計、
13…導電性ステージ、
13a…配置面、
14…電源部、
15…抵抗計、
16…パルス発生部、
40…表面修飾部、
50…細胞、
51…核、
52…細胞膜、
53…被導入物質、
54…細胞内物質、
SW、SW1…スイッチ、
V1…第1電源、
V2…第2電源。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に適した細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ分野において、細胞の生体機能の解明又は制御を行うことが注目されている。
このような細胞の生体機能の解明又は制御を行うためには、細胞内及び細胞間の微小空間の電位差の計測や細胞内に遺伝子等を導入したり取り出す等の操作が必要不可欠となっている。
【0003】
そこで、従来より、細胞内に遺伝子等の被導入物質を導入する方法又は装置に関する提案が数多くなされており、例えば、特許文献1及び特許文献2によって開示されたものがある。
【0004】
特許文献1は、細胞操作装置及びこれを用いた細胞操作方法に関する提案である。そして、この特許文献1には、遺伝子の導入から発現に至るまでの間、細胞に表れる経時的な動態変化をリアルタイムで詳細に観察でき、また、細胞分化の解明又は制御に対しても適用でき、さらに、遺伝子等の導入時における細胞のダメージを極力低減し得る細胞操作手段として、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)の探針に、遺伝子あるいは遺伝子の発現に関与する物質を固定化して細胞内に挿入するための針状物を設けた構成に関する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、この特許文献1に記載の従来技術では、遺伝子又は遺伝子発現に関与する物質は針状物に固定化されたままであり、針を抜去しても遺伝子等は細胞内に恒常的に保持されないため、遺伝子組換体を作製できないと問題点があった。
【0006】
そこで、このような問題点に鑑みてなされた提案が前記特許文献2である。すなわち、特許文献2は、細胞に対して物質を導入する方法に関する提案である。
そして、この特許文献2には、被導入物質を中間的な結合力で針状材料に結合し、この針状材料を細胞内に穿刺した際に被導入物質が残留することにより、被導入物質を細胞内に導入するといった方法に関する技術が開示されており、また、細胞内への針状材料の穿刺検知方法並びに被導入物質を細胞内に導入する導入装置として、原子間力顕微鏡(AFM)を使用する構成に関する技術が開示されている。
【0007】
具体的には、特許文献2に記載の方法では、図21に示すように、AFMカンチレバー100に設けられた探針101を集束イオンビームでエッチングすることで、針状材料として構成し、そして、この針状材料である探針101を用いて、細胞103及び細胞103内の核104内に穿刺操作を行うようにしている。
【0008】
また、特許文献2には、被導入物質を中間的な結合力で針状材料に結合する方法の一つとして静電気結合に関する技術が開示されている。このような静電気結合は、弱い結合であるため、細胞内で容易に被導入物質を分離することが可能である。また、この場合の静電気結合には、一般的にカチオン性ポリマーが用いられるようになっている。
【0009】
具体的には、特許文献2に記載の方法では、図22の模式図に示すように、シリコン製AFM探針をエッチングにより先鋭化した針状材料104にチオール基を導入してスクシンイミド活性エステルを表面に修飾し、ポリリジンを固定化した後に被導入物質であるプラスミドphrGFPを静電気結合させて、細胞内へ導入するようにしている。
【特許文献1】特開2003−3174号公報
【特許文献2】特開2006−166884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献2に記載の従来技術では、静電気結合は弱いため結合が外れ、細胞内に導入する以前に被導入物質が取れてしまう可能性があるため、所望の物質を細胞内に導入できない恐れがあるといった問題点があった。
【0011】
また、前記特許文献2に記載の従来技術には、細胞内から物質を取り出すこと、及び細胞内の電位分布計測に関してなんら示唆も開示もされてはおらず、このため、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行える具体的な装置が望まれている。
【0012】
そこで、本発明は前記問題点に鑑みてなされたもので、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、ナノ細胞マッピング、つまり細胞内及び細胞間の微小空間での測定と物質の導入及び取り出しを容易且つばらつきを抑えて再現性良く安定に行うことを可能にする細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーは、支持部と、前記支持部から突出するように前記支持部に設けられたレバー部と、前記レバー部の自由端近傍に設けられた探針部とを備え、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられる細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおいて、前記探針部は、炭素系材料からなる導電性探針と、前記導電性探針の周囲を被覆した絶縁膜とで構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することができる。
また、本発明によれば、ナノ細胞マッピング、つまり細胞内及び細胞間の微小空間での測定と物質の導入及び取り出しを容易且つばらつきを抑えて再現性良く安定に行うことを可能にする細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1から図7は本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの第1の実施の形態に係り、図1は第1の実施の形態の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの外観構成を示す斜視図、図2は図1の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおけるA−A’線に沿ったレバー部の一部破断した断面図、図3は図1の探針部の突出方向に対して鉛直方向における断面図、図4は図1の探針部の突出方向における先端部分の断面図、図5は探針部の第1の変形例を示す先端部分の断面図、図6は探針部の第2の変形例を示す先端部分の断面図、図7は探針部の第3の変形例を示す探針部及びレバー部の一部破断した断面図である。
【0018】
図1に示すように、第1の実施の形態の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー(以下、カンチレバー1と称す)1は、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられるものである。
【0019】
具体的には、カンチレバー1は、支持部2と、前記支持部2から突出するように前記支持部2に設けられたレバー部3と、前記レバー部3の自由端近傍に設けられた探針部4と、前記レバー部3の前記支持部2側の基端部に設けられた電極パッド6と、前記探針部4の後述する導電性探針7と前記電極パッド6とを前記レバー部3内部を介して電気的に接続するための配線部5とを有して構成されている。
【0020】
支持部2は、細胞内及び細胞間の微小空間計測又は操作を行う場合には、図示しない細胞操作装置内のカンチレバーホルダ等に保持される。また、この支持部2の例えば底面部には、レバー部3の基端側部分が支持された状態で固定されている。尚、レバー部3の支持部2への取付方法は、特に限定されることはなく、いずれの方法で取り付けても良い。
【0021】
レバー部3は、例えば、酸化シリコン又は窒化シリコン等の材料を用いて構成されている。具体的な構成については後述する。
【0022】
探針部4は、前記レバー部3の自由端近傍に形成されている。また、探針部4は、レバー部3の長手方向に対して鉛直方向に突出するように設けられている。
尚、第1の実施の形態では、探針部4は、レバー部3に対して鉛直方向に設けた構成について説明したが、これに限定されるものではなく、レバー部3に対していずれの方向に傾けるように形成しても良い。
【0023】
次に、カンチレバー1の主要部分であるレバー部3及び探針部4の具体的な構成について、図2から図7を参照しながら説明する。
本発明では、図2に示すように、探針部4は、炭素系材料からなる導電性部材である導電性探針7と、この導電性探針7の周囲を被覆するように設けられた絶縁膜8とを有して構成されている。
【0024】
また、図3には、探針部4の突出方向に対して鉛直方向における探針部4の断面の構成が示されている。すなわち、図3に示すように、第1の実施の形態では、探針部4の形状は、例えば円柱状に形成されている。そして、探針部4を構成する導電性探針7の形状は、例えば円柱状に形成されている。
【0025】
尚、探針部4及び導電性探針7の形状は、円柱状に限らず、それ以外の形状に形成しても良く、例えば、楕円柱又は多角柱などの柱状体形状、又は円錐や多角錘などの錐体形状に形成しても良い。但し、細胞へのダメージを低減するために、前記したように円柱状に形成することが望ましい。
【0026】
絶縁膜8は、このような形状の導電性探針7の周囲を被覆するように設けられている。従って、絶縁膜8の形状を変えることによって導電性探針7の形状はそのままで探針部4自体の形状を変えるように構成しても良い。尚、この絶縁膜8は、導電性探針7の周囲を完全に被覆して絶縁性が確保できれば、その形状や厚さ等は特に限定することはなく、柱状体形状でも錐体形状に構成しても良い。
【0027】
また、探針部4の先端面4aは、図2及び図4に示すように、例えば平面形状に形成されている。この先端面4aには、導電性探針7の先端面7aが設けられている。この先端面7aは、探針部4の先端面と同一面となるように設けられている。また、導電性探針7の先端面7aとは逆側の基端部には、基端面7bが形成されている。
絶縁膜8の下部には、前記レバー部3に係合して固定するための係合部8aが設けられている。
【0028】
ここで、探針部4を構成する導電性探針7及び絶縁膜8の材料について説明する。
具体的には、導電性探針7を構成する炭素系材料は、例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つである。そして、このような炭素系材料にボロン又はリン等をドープすることにより、導電性探針7として構成されるようになっている。
【0029】
したがって、このような炭素系材料を用いて導電性探針7を構成することにより、炭素系材料の導電性探針7は高剛性を有しているため、耐久性が向上すると共に、また、酸化されにくい特性を有しているため、信頼性が得られる。よって、このような耐久性及び信頼性のある導電性探針7を用いて探針部4を構成しているので、細胞内での安定した測定又は操作を容易に且つ安定して行うことが可能となる。
【0030】
また、絶縁膜8は、酸化膜、窒化膜又は有機膜のいずれか1層、又は酸化膜、窒化膜又は有機膜の少なくとも1つを含む積層膜で構成されている。このような積層膜は、一般的な方法で形成可能である。このため、絶縁膜8は、容易に導電性探針7を覆うように形成することが可能である。
【0031】
また、絶縁膜8は、前記積層膜に替えて、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つを含む炭素系材料を用いて形成しても良い。尚、第1の実施の形態では、絶縁膜8を形成する材料としては、生体への適合性及び、被導入物質の付着性向上のための表面処理(後述する表面修飾部を形成するための表面処理)性を考慮すると、炭素系材料を用いることが望ましい。
【0032】
したがって、導電性探針7の周囲を絶縁膜8で覆うことにより、後述するが、細胞内及び細胞間の微小空間での電位計測を正確に行うのに好適な構成となる。また、被導入物質を細胞内及び細胞間の微小空間の所望の位置に導入し易くなると共に、所望の位置から物質を取り出すことを可能にするのに好適な構成となる。
【0033】
尚、探針部4は、先端部の径が1μm以下、好ましくは400nm以下となるように形成することが望ましい。また、探針部4の長さは、2μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上となるように形成することが望ましい。
【0034】
このような構成の探針部4の導電性探針7は、図2に示すように、基端面7bがレバー部3内の配線部5と接触することにより、この配線部5と電気的に接続されるようになっている。
【0035】
ここで、レバー部3の構成を説明すると、レバー部3は、図2に示すように、前記探針部4の絶縁膜8の係合部8aと係合することにより探針部4自体を固定するとともに、内部の配線部5を保護するための保護膜9と、この保護膜9の次に配設される前記配線部5と、この配線部5を前記保護膜9とで挟持するレバー本体部3Aと、このレバー本体部3Aの外表面にコーティング処理された光学反射膜10とを有して構成されている。
【0036】
保護膜9は、絶縁性部材で構成されたもので、レバー部3の片側全面に亘って覆うように設けられている。また、この保護膜9は、図示はしないが支持部2の同じ側の全面に亘って設けられている。
【0037】
保護膜9の探針部4近傍には、絶縁膜8の係合部8aが露出するように開口9aが形成されている。尚、第1の実施の形態では、保護膜9の探針部4近傍に開口9aを設けた構成について説明したが、これに限定されることはなく、開口9aを設けずに、探針部4の絶縁膜8の周囲全体を覆うように形成しても良い。このことにより、探針部4を強固にレバー部3に固定することが可能となる。
【0038】
また、図示はしないが、保護膜9は、支持部2上の電極パッド6の対応する部分においては、内部の配線部5と電極パッド6との電気的な接続を行うために開口している。
【0039】
尚、第1の実施の形態では、保護膜9を設けた構成について説明したが、これに限定されることはなく、必要に応じて保護膜9を設けずに構成しても良い。
【0040】
配線部5は、導電性探針7の基端面7bと接触することにより、この導電性探針7と電気的に接続されている。そして、この配線部5の支持部2側の基端部は、例えば電位計等の外部装置と電気的に接続するための電極パッド6に電気的に接続されている。
【0041】
尚、配線部5の材料としては、白金又はイリジウムが望ましい。これは、炭素系材料の導電性探針7を堆積成長させ易いためである。また、配線部の5の材料としては、導電性探針7との密着性が確保できれば、その他の金属を用いて構成しても良い。また、その他に、ポリシリコン等の半導体材料を用いて配線部5を構成しても良い。
【0042】
また、配線部5とレバー本体部3Aとの間に、チタン又はクロム等の導電性材料を形成して、配線部5とレバー本体部3Aとの密着性を向上させるように構成しても良い。また、同様に配線部5と保護膜9との間に、チタン又はクロム等の導電性材料を形成して、配線部5と保護膜9との密着性を向上させるように構成しても良い。
【0043】
また、電極パッド6は、配線部5自体で形成しても良いが、その上に金、銅又はアルミニウム等の電極層を形成して、半田接続又はワイヤボンディング等による外部端子との電気的接続を取り易いように構成しても良い。この場合、電極パッド6と電極層との密着性を向上させるために、電極パッド6と電極層との間にチタン又はクロム等の導電性材料を形成しても良い。
【0044】
レバー本体部3Aの外表面に設けられた光学反射膜10は、アルミニウム又は金によってコーティング処理することによって形成されている。尚、このようなコーティング処理に限定されることはなく、他の方法を用いて光学反射膜10を構成しても良い。また、多層膜を設けて光学反射膜10を構成しても良い。
【0045】
この光学反射膜10は、例えば、このカンチレバー1と、外部光学系機器及びパーソナルコンピュータ等の外部装置とでシステムを構成した場合には、外部光学系機器から照射される光の反射角又は反射量を検出するためのものである。そして、このようなシステムでは、パーソナルコンピュータによって、光学反射膜10による検出結果を分析することにより、探針部4が細胞膜に接触したか否かを力学的に検知することが可能となるので、細胞内及び細胞間の微小空間での測定又は操作を行うのに有効である。
【0046】
従って、以上説明したように構成することによって、細胞に対して低侵襲なカンチレバー1を構成することができ、細胞内及び細胞間の微小空間でのばらつきを抑えて再現性良く安定した様々な測定又は操作が容易に行うことが可能となる。
【0047】
また、レバー部3及び電極パッド6を除く支持部2上を保護膜9にて覆うため、細胞が培養液又は生理食塩水等の水系溶液に浸っている場合等、さまざまな環境下においても、細胞内及び細胞間の微小空間での安定した測定や操作が容易に行うことができる。
【0048】
さらに、耐久性及び信頼性のある導電性探針7を用いて探針部4を構成しているので、高耐久性及び高信頼性のあるカンチレバー1を構成することが可能となる。
【0049】
尚、第1の実施の形態では、前記探針部4は、導電性探針7の先端面7aと絶縁膜8と同一平面ではなく、図5の第1の変形例に示す探針部4Aのように、導電性探針7の先端部7a1が絶縁膜8よりも突出する形状に先端部4a1を構成しても良い。
【0050】
この場合、探針部4Aの先端部4a1及び導電性探針7の先端部7a1は、例えば円錐又は多角錘等の錐体形状に構成される。
【0051】
また、前記探針部4は、図6の第2の変形例に示す探針部4Bのように、導電性探針7の先端部7a2が絶縁膜8よりも突出する形状に先端部4a2を構成した場合に、この導電性探針7の先端部7a2を半球状、楕円球状等の円弧形状に形成するとともに、この先端部7a2周囲の絶縁膜8の先端部についても半球状、楕円球状等の円弧形状に形成しても良い。すなわち、探針部4Bの先端部4a2を円弧形状に形成することにより、細胞へのダメージを低減できるといった効果がある。
【0052】
さらに、前記探針部4は、図7の第3の変形例に示す探針部4Cのように、導電性探針7の先端面7a3が絶縁膜8よりも突出する形状に先端部4a3を構成した場合に、導電性探針7の突出する突出部7cを設けるとともに、この突出部7cの先端面7a3と絶縁膜8の先端面とが同一平面ではなく、それぞれ異なる位置に設けられるように構成しても良い。すなわち、導電性探針7の突出部7cを設けたことにより、導電性探針7の露出する表面面積が大きくなるので、被導入物質及び細胞内物質の付着性能を向上させるのに有効である。
【0053】
次に、このような構成のカンチレバー1を用いて、実際に細胞内及び細胞間の微小空間電位差測定を行うためのシステムとして構成した場合の構成例及び動作について、図8及び図9を参照しながら説明する。
図8は第1の実施の形態のカンチレバー1を備えたシステム全体の概略構成を示す模式図、図9は細胞内電位差測定を行う場合のカンチレバー1の探針部4及び細胞内の拡大図である。
【0054】
図8に示すように、システムは、図1に示すカンチレバー1と、このカンチレバー1の電極パッド6に電気的に接続される接続線11と、この接続線11に電気的に接続され、カンチレバー1の探針部4の先端部と後述する導電ステージとの電位差を計測可能な電位計12と、この電位計12からの接続線11に電気的に接続され、細胞50を配置する配置面13aを有する導電性の部材で構成された導電性ステージ13とを有して構成されている。
【0055】
このような構成により、カンチレバー1と導電性ステージ13とが、接続線11及び電位計12を介して電気的に接続される。尚、説明簡略化のため、カンチレバー1の支持部2を保持するカンチレバーホルダ及びその他のパーソナルコンピュータ等の外部装置については説明を省略し、主要部のみの構成及び動作について説明する。
【0056】
いま、オペレータは、図8に示すように構成されたシステムを用いて、細胞内電位差測定を行うものとする。この場合、オペレータは、導電性ステージ13の配置面13a上に細胞50を配置させる。
【0057】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図9に示すように、カンチレバー1の探針部4を細胞50に向けて移動させる。尚、細胞50は、周知のように細胞内の核51と、細胞膜52とを有している。
【0058】
すると、カンチレバー1の探針部4の先端面4aが細胞50の細胞膜52に接触する。この場合、第1の実施の形態では、カンチレバー1の探針部4が細胞膜52に接触したことを、電位計12によって電気的に検知し又は前記したように光学反射膜10からの反射光等によって力学的に検知しても良く、いずれの検知方法で検知しても良い。
【0059】
その後、オペレータは、図9に示すように、カンチレバー1の探針部4を細胞膜52を突き破るようにして細胞50内に挿入させる。
【0060】
そして、オペレータは、電位計12を用いて、細胞50内の探針部4の先端面4aと導電性ステージ13との電位差を測定する。このときの測定結果は、図示しないパーソナルコンピュータ等によって記録されることになる。
【0061】
ここで、第1の実施の形態では、オペレータは、前記したような方法で細胞50内に探針部4を刺し直し、刺し直し毎に電位差を測定する。このことにより、細胞50内での所望位置における電位分布の測定結果が得られる。
【0062】
例えば、刺し直し回数は、数十回〜100回程度が望ましいが、特に限定されるものではなく、必要に応じた回数で行えば良い。この場合、探針部4を数十回刺し直しても、細胞50は死んでしまうことはない。また、細胞50内に刺し直す位置については、必要に応じた所望の位置を設定すれば良い。
【0063】
このように探針部4を細胞50内に複数回刺し直しながら、それぞれの電位差を測定することで、前記したようなシステムを用いることにより、細胞50での所望位置における微細電位分布の測定が可能になり、電位分布でのナノ細胞マッピングを行うことが可能となる。
【0064】
尚、ナノ細胞マッピングは、組織・気官に存在する細胞内及び細胞間の物質や電位等の物理的パラメータや、特定の生物機能の強弱の微細分布をマッピングするもので、電位分布に限るものではない。
【0065】
また、探針部4及びレバー部3がそれぞれ絶縁膜8及び保護膜9に覆われているため、細胞50が培養液又は生理食塩水等の水系溶液に浸っていても電位差及び電位分布の測定が可能である。
【0066】
従って、第1の実施の形態によれば、細胞内と細胞膜との電位差が容易に且つ安定して測定することができ、さらに、細胞内又は細胞間での電位分布もリアルタイムで容易に且つ安定して測定することが可能となる。よって、細胞内での安定した測定又は操作を容易に行うことが可能であり、耐久性及び信頼性のある、細胞に低侵襲な細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー(カンチレバー1)の実現が可能である。
【0067】
また、カンチレバー1を有するシステムを用いることにより、細胞内での電位分布測定を行うことで、細胞内及び細胞間における電位のナノ細胞マッピングを行うことが可能となる。
【0068】
(第2の実施の形態)
図10から図17は本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの第2の実施の形態に係り、図10から図13はカンチレバーを有するシステムを用いて細胞内に被導入物質を導入する方法を説明するための説明図であり、図14から図17はカンチレバーを有するシステムを用いて細胞内から細胞内物質を取り出す方法を説明するための説明図である。
尚、図10から図17は前記第1の実施の形態のカンチレバー1及びシステムと同様な構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0069】
第2の実施の形態のカンチレバー1は、前記第1の実施の形態のカンチレバー1と略同様に構成されているが、導電性探針7の少なくとも先端部分が、細胞内の物質又は細胞内に導入する被導入物質を付着し易くするための表面処理を施した表面修飾部40を有して構成されている。
【0070】
前記表面修飾部40は、水素、酸素、フッ素、アミノ酸、シラン、有機分子又は生体分子のいずれか1つを用いて表面処理を施すことにより形成されるようになっている。
【0071】
尚、この表面修飾部40は、例えば、導電性探針7の先端面7a又は露出部と、先端面4aを形成する絶縁膜8の先端面又は露出部との少なくとも一方に形成されても良い。
【0072】
また、表面修飾部40は、探針部4の先端部には限定されることはなく、探針部4の先端部から周囲にかけて前記材料を用いて表面処理を施して形成しても良い。
【0073】
さらに、表面修飾部40を形成させるための方法としては、前記表面処理に限定されることはなく、物理的な結合を含む如何なる方法を用いて表面修飾部を形成しても良い。
【0074】
また、表面修飾部40は必ずしも必要ではないが、後述するように、細胞内及び細胞間の微小空間への被導入物質の導入又は細胞内からの細胞内物質の取り出しにあたっては、表面修飾部40を形成した方が有効である。
【0075】
したがって、このようなカンチレバー1では、探針部4の先端部近傍に表面処理を施して表面修飾部40を形成したことにより、後述する被導入物質53を探針部4の先端部に付着させ易くなるとともに、細胞内及び細胞間の微小空間から細胞内物質54を取り出す際に、細胞内及び細胞間の微小空間からの細胞内物質54を探針部4の先端部に付着させ易くなる。
【0076】
そして、このようなカンチレバー1を用いて、細胞内に被導入物質を導入又は細胞内からの細胞内物質の取り出しを行うためのシステムを構成すると、図10に示すような構成となる。
【0077】
すなわち、このシステムは、図10に示すように、表面修飾部40を有するカンチレバー1を有し、第1の実施の形態の電位計12に替えて、第1電源V1及び第2電源V2を有する電源部14を設けると共に、これらの第1電源V1と第2電源V2とを切り替えるスイッチSWを設けている。また、このシステムでは、導電性ステージ13が接地電位となるように接続されている。
【0078】
電源部14の第1電源V1の正極側には、スイッチSWの一方の端子が接続され、負極側には、導電性ステージ13からの接続線11が接続されている。
【0079】
また、電源部14の第2電源V2の負極側には、スイッチSWの他方の端子が接続され、正極側には、導電性ステージ13からの接続線11が接続されている。
【0080】
そして、スイッチSWは、カンチレバー1の電極パッド6からの接続線11が接続されており、電源部14の第1電源V1側の一方の端子に切り替えた場合にはカンチレバー1側に正極の電位が印加され、一方、電源部14の第2電源V2側の他方の端子に切り替えた場合にはカンチレバー1側に極性が反転した負極の電位が印加されるようになっている。
【0081】
尚、このスイッチSWは、オフすることにより、カンチレバー1には第1電源V1又は第2電源V2からの電位を与えないフローティング状態に切り替えることも可能である。
【0082】
次に、このような構成のカンチレバー1を有するシステムを用いて細胞内に被導入物質を導入する方法、及び細胞内から細胞内物質を取り出す方法について説明する。
まず、細胞内に被導入物質を導入する方法について、図10から図14を参照しながら説明する。
【0083】
尚、図10はカンチレバー1の探針部4に負の電位を印加して被導入物質53を吸着させた状態を示し、図11は探針部4を電気的にフローティング状態にして探針部4を細胞50内に挿入する状態を示し、図12はカンチレバー1の探針部4に正の電位を印加して細胞50内に被導入物質53を分離する状態を示し、図13は探針部4を電気的にフローティング状態にして探針部4のみを細胞50内から抜いた状態を示している。
いま、オペレータは、図10に示すように構成されたシステムを用いて、細胞50内に被導入物質53を導入するものとする。この場合、オペレータは、予め、導電性ステージ13の配置面13a上に細胞50を配置させる。
【0084】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図10に示すように、スイッチSWを第2電源V2側の他方の端子に切り替えるように操作する。
【0085】
すると、カンチレバー1の探針部4には、第2電源V2から負電位が印加される。このことにより、正に帯電した遺伝子やタンパク質等の被導入物質53の探針部4の先端部近傍への吸着を電気的に促進させることが可能となる。
【0086】
その後、オペレータは、図11に示すように、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態とする。そして、オペレータは、この状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50に向けて移動させてこの細胞50内に挿入させる。
【0087】
次に、カンチレバー1の探針部4が細胞内の所望の位置に到達したことを確認後、オペレータは、図12に示すように、スイッチSWを第1電源V1側の一方の端子に切り替えるように操作する。
【0088】
すると、カンチレバー1の探針部4には、第1電源V2から正電位が印加される。すなわち、探針部4に印加する電位の極性を切り替えて正電位が印加されると、細胞50内及び細胞50間の微小空間で探針部4の先端部に付着された被導入物質53の分離を促進させることが可能となる。
【0089】
その後、オペレータは、図13に示すように、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態とする。そして、オペレータは、この状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50内から抜くことにより、遺伝子やタンパク質等の被導入物質53を細胞50内及び細胞50間の微小空間に留まらせることになる。
【0090】
次に、細胞内から細胞内物質を取り出す方法について、図14から図17を参照しながら説明する。
尚、図14はカンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態にして細胞50の挿入前の状態を示し、図15は探針部4を電気的にフローティング状態のままで細胞50内に挿入した状態を示し、図16はカンチレバー1の探針部4に負の電位を印加して細胞50内の細胞内物質54を吸着した状態を示し、図17は探針部4に負の電位を印加した状態のままで吸着した細胞内物質54とともに探針部4を細胞内から抜いた状態を示している。
【0091】
いま、オペレータは、図14に示すように構成されたシステムを用いて、細胞50内から細胞内物質54を取り出すものとする。尚、予め導電性ステージ13の配置面13a上に、細胞内物質54を内部に有する細胞50を配置させておく。
【0092】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図14に示すように、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態にする。
【0093】
そして、オペレータは、図15に示すように、このフローティング状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50に向けて移動させてこの細胞50内に挿入させる。
【0094】
次に、カンチレバー1の探針部4が細胞50内の所望の位置、具体的には細胞内物質54を取り出すのに好適に位置に到達したことを確認後、オペレータは、図16に示すように、スイッチSWを第2電源V2側の他方の端子に切り替えるように操作する。
【0095】
すると、カンチレバー1の探針部4には、第2電源V2から負電位が印加される。このことにより、正に帯電した遺伝子やタンパク質等の被導入物質53の探針部4の先端部近傍への吸着を電気的に促進させることが可能となる。
【0096】
その後、オペレータは、図17に示すように、探針部4に細胞内物質54が吸着しているのを確認後、カンチレバー1の探針部4に負電位を印加している状態を保持したままの状態で、カンチレバー1を細胞50内から抜くように操作する。このことより、細胞50内から遺伝子やタンパク質等の細胞内物質54を容易に取り出すことが可能となる。
【0097】
尚、探針部4から取り出した細胞内物質54を分離させる場合には、オペレータは、スイッチSWを操作して電源部14をオフすることにより、カンチレバー1の探針部4を電気的にフローティング状態として、探針部4から細胞内物質54を分離させれば良い。
【0098】
以上、説明した方法により、遺伝子又はタンパク質等を容易に安定して細胞及び細胞間の微小空間内に導入、又は細胞内及び細胞間の微小空間から取り出しを容易に行うことが可能となる。
【0099】
尚、第2の実施の形態では、カンチレバー1の探針部4に印加する電位は、前記した第2の実施の形態とは逆の極性の電位を印加しても良い。
【0100】
また、細胞内及び細胞間の微小空間にカンチレバー1の探針部4を挿入、又は抜くときに探針部4を電気的にフローティング状態としたことについて説明したが、電位を印加した状態で行っても良い。
【0101】
従って、第2の実施の形態によれば、前記第1の実施の形態と同様の効果が得られる他に、細胞50が配置された導電性ステージ13とカンチレバー1の電気的極性と電位を制御することにより、細胞50内及び細胞50間の微小空間に被導入物質53を容易に導入できると共に、細胞50内及び細胞50間の微小空間から細胞内物質54を容易に取り出すことが可能となる。
【0102】
また、この場合、カンチレバー1の探針部4の先端部近傍に表面修飾部40を形成することにより、目的の被導入物質53を確実に細胞50内及び細胞50間の微小空間に導入することが可能となり、また、細胞50内及び細胞50間の微小空間の目的の細胞内物質54を選択的且つ確実に取り出すことも可能となる。
【0103】
(第3の実施の形態)
図18から図20は本発明の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの第3の実施の形態に係り、カンチレバーを有するシステムを用いて探針部を細胞内に挿入し易くする方法を説明するための説明図で、図18は抵抗計をオンして導電性ステージと探針部との間に抵抗を計測し探針部と細胞膜との接触を検知する状態を示し、図19は探針部と細胞膜との接触を検知した場合にパルス発生部をオンしてパルス波電位を印加した状態を示し、図20は探針部が細胞内に挿入された後にパルス発生部をオフしてパルス波電位の印加を停止した状態を示している。
尚、図18から図20は前記第1及び第2の実施の形態のカンチレバー1及びシステムと同様な構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0104】
第3の実施の形態のカンチレバー1及びシステムは、前記第2の実施の形態のカンチレバー1及びシステムと略同様に構成されているが、電源部14に替えて抵抗計15及びパルス発生部16を設けるとともに、これら抵抗計15とパルス発生部16とを切り替えるためのスイッチSW1を有して構成されている。
【0105】
すなわち、このような構成とすることで、探針部4と細胞膜との接触を抵抗計15による測定結果によって検知し、また、検知した場合に、パルス発生部16によってパルス波電位を印加することにより、細胞50内への探針部4の挿入をより容易に行うようにしている。
【0106】
尚、スイッチSW1は、カンチレバー1の電極パッド6からの接続線11が接続されており、抵抗計15側の一方の端子に切り替えた場合には導電性ステージ13と探針部4との間の抵抗の測定を可能にし、一方、パルス発生部16側の他方の端子に切り替えた場合には導電性ステージ13と探針部4との間にパルス波電位が印加されるようになっている。
【0107】
尚、このスイッチSW1は、オフすることにより、前記パルス発生部16からのパルス波電位の印加を停止させることも可能である。
【0108】
具体的な、探針部4の細胞内への挿入方法について、図18から図20を参照しながら説明する。
いま、オペレータは、図18に示すように構成されたシステムを用いて、カンチレバー1の探針部4を細胞50内に挿入するものとする。尚、予め導電性ステージ13の配置面13a上に細胞50を配置させておく。
【0109】
そして、オペレータは、システムの電源を投入した上で、図18に示すように、スイッチSW1を抵抗計15側の一方の端子に切り替えるように操作する。このことにより、導電性ステージ13と探針部4との間は抵抗計15を介して電気的に接続されるので、導電性ステージ13と探針部4との間の抵抗の測定して、探針部4と細胞50(細胞膜52)との接触を検知する。
【0110】
ここで、オペレータの操作によって、図19に示すように、探針部4を細胞50に接触させたとする。この場合、抵抗計15には導電性ステージ13と探針部4との所定の抵抗値が測定される。このことにより、探針部4が細胞50に接触したことが検知される。
【0111】
その後、オペレータは、抵抗計15によって探針部4が細胞50に接触したと検知した場合には、図19に示すように、スイッチSW1をパルス発生部16側の他方の端子に切り替えるように操作する。
【0112】
すると、パルス発生部16はオンすることになり、導電性ステージ13と探針部4との間にはパルス波電位が印加されることになる。
【0113】
そして、オペレータは、パルス波電位を印加しながら、カンチレバー1の探針部4を細胞50に向けて移動させてこの細胞50内に挿入させる。このとき、探針部4の導電性探針7にはパルス波電位が印加されているので、細胞50の細胞膜52(図示せず)を容易に開口させて細胞50内に挿入させることが可能となる。
【0114】
その後、オペレータは、カンチレバー1の探針部4が細胞50内の所望の位置に到達したことを確認後、図20に示すように、スイッチSW1をオフすることにより、パルス発生部16からのパルス波電位の印加を停止させる。
【0115】
尚、第3の実施の形態では、探針部4と細胞50との接触の検知方法は、導電性ステージ13とカンチレバー1の探針部4との抵抗測定の代わりに、カンチレバー1の光学反射膜10を用いて行う力学的検知方法を用いても良い。
【0116】
また、導電性ステージ13とカンチレバー1の探針部4との間に印加する電位は、交流(高周波)でも直流でも良い。
【0117】
さらに、カンチレバー1の探針部4を細胞50に接触させる以前からパルス発生部16をオンしてパルス波電位を印加させても良い。
【0118】
従って、第3の実施の形態によれば、前記第2の実施の形態と同様の効果が得られる他に、カンチレバー1の探針部4を細胞50内に挿入する際、カンチレバー1の力学的な操作に加えて細胞膜52に電気的な刺激を与えることにより、カンチレバー1の探針部4の細胞50内及び細胞50間の微小空間への挿入を容易に行うことが可能となる。このことにより、カンチレバー1の探針部4の先端部の径が比較的大きくても、容易に探針部4を細胞50内に挿入することが可能となる。
【0119】
本発明は、以上述べた実施の形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの外観構成を示す斜視図。
【図2】図1の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおけるA−A’線に沿ったレバー部の一部破断した断面図。
【図3】図1の探針部の突出方向に対して鉛直方向における断面図。
【図4】図1の探針部の突出方向における先端部分の断面図。
【図5】探針部の第1の変形例を示す先端部分の断面図。
【図6】探針部の第2の変形例を示す先端部分の断面図。
【図7】探針部の第3の変形例を示す探針部及びレバー部の一部破断した断面図。
【図8】第1の実施の形態のカンチレバーを備えたシステム全体の概略構成を示す模式図。
【図9】細胞内電位差測定を行う場合のカンチレバーの探針部及び細胞内の拡大図。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーの探針部に負の電位を印加して被導入物質を吸着させた状態を示す説明図。
【図11】探針部を電気的にフローティング状態にして探針部を細胞内に挿入する状態を示す説明図。
【図12】カンチレバーの探針部に正の電位を印加して細胞内に被導入物質を分離する状態を示す説明図。
【図13】探針部を電気的にフローティング状態にして探針部のみを細胞内から抜いた状態を示す説明図。
【図14】カンチレバーの探針部を電気的にフローティング状態にして細胞の挿入前の状態を示す説明図。
【図15】探針部を電気的にフローティング状態のままで細胞内に挿入した状態を示す説明図。
【図16】カンチレバーの探針部に負の電位を印加して細胞内の細胞内物質を吸着した状態を示す説明図。
【図17】探針部に負の電位を印加した状態のままで吸着した細胞内物質とともに探針部を細胞内から抜いた状態を示す説明図。
【図18】本発明の第3の実施の形態に係り、抵抗計をオンして導電性ステージと探針部との間に抵抗を計測し探針部と細胞膜との接触を検知する状態を示す説明図。
【図19】探針部と細胞膜との接触を検知した場合にパルス発生部をオンしてパルス波電位を印加した状態を示す説明図。
【図20】探針部が細胞内に挿入された後にパルス発生部をオフしてパルス波電位の印加を停止した状態を示す説明図。
【図21】従来技術における針状材料を用いた細胞穿刺操作を示す説明図。
【図22】従来技術におけるポリリジン修飾した針に静電吸着させた状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0121】
1…カンチレバー、
2…支持部、
3…レバー部、
3A…レバー本体部、
4、4A〜4C…探針部、
4a…先端面、
4a1〜4a3…先端部、
5…配線部、
6…電極パッド、
7…導電性探針、
7a…先端面、
7b…基端面、
7a1〜7a3…先端部、
7c…突出部、
8…絶縁膜、
8a…係合部、
9…保護膜、
9a…開口、
10…光学反射膜、
11…接続線、
12…電位計、
13…導電性ステージ、
13a…配置面、
14…電源部、
15…抵抗計、
16…パルス発生部、
40…表面修飾部、
50…細胞、
51…核、
52…細胞膜、
53…被導入物質、
54…細胞内物質、
SW、SW1…スイッチ、
V1…第1電源、
V2…第2電源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部と、前記支持部から突出するように前記支持部に設けられたレバー部と、前記レバー部の自由端近傍に設けられた探針部とを備え、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられる細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおいて、
前記探針部は、炭素系材料からなる導電性探針と、前記導電性探針の周囲を被覆した絶縁膜とで構成したことを特徴とする細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項2】
前記導電性探針の炭素系材料は、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項3】
前記絶縁膜は、酸化膜、窒化膜又は有機膜のいずれか1層、又は酸化膜、窒化膜又は有機膜の少なくとも1つを含む積層膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項4】
前記絶縁膜は、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つを含む炭素系材料であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項5】
前記導電性探針には電気的に配線部が接続され、
前記配線部は、前記探針部の下部から前記レバー部を介して前記支持部の一部まで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項6】
前記配線部は、絶縁性保護膜で覆われて形成していることを特徴とする請求項5に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項7】
前記導電性探針の少なくとも先端部分は、細胞内の物質又は細胞内に導入する被導入物質を付着し易くするための表面処理を施した表面修飾部を有していることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項8】
前記表面修飾部は、水素、酸素、フッ素、アミノ酸、シラン、有機分子又は生体分子のいずれか1つを用いて表面処理を施すことにより形成されることを特徴とする請求項7に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項1】
支持部と、前記支持部から突出するように前記支持部に設けられたレバー部と、前記レバー部の自由端近傍に設けられた探針部とを備え、細胞内及び細胞間の微小空間の計測又は操作に用いられる細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバーにおいて、
前記探針部は、炭素系材料からなる導電性探針と、前記導電性探針の周囲を被覆した絶縁膜とで構成したことを特徴とする細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項2】
前記導電性探針の炭素系材料は、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項3】
前記絶縁膜は、酸化膜、窒化膜又は有機膜のいずれか1層、又は酸化膜、窒化膜又は有機膜の少なくとも1つを含む積層膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項4】
前記絶縁膜は、多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、及びアモルファスカーボンの少なくとも1つを含む炭素系材料であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項5】
前記導電性探針には電気的に配線部が接続され、
前記配線部は、前記探針部の下部から前記レバー部を介して前記支持部の一部まで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項6】
前記配線部は、絶縁性保護膜で覆われて形成していることを特徴とする請求項5に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項7】
前記導電性探針の少なくとも先端部分は、細胞内の物質又は細胞内に導入する被導入物質を付着し易くするための表面処理を施した表面修飾部を有していることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【請求項8】
前記表面修飾部は、水素、酸素、フッ素、アミノ酸、シラン、有機分子又は生体分子のいずれか1つを用いて表面処理を施すことにより形成されることを特徴とする請求項7に記載の細胞内及び細胞間の微小空間計測用カンチレバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−199936(P2008−199936A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38446(P2007−38446)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月21日 ニューダイヤモンドフォーラム発行の「第20回ダイヤモンドシンポジウム 講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)/ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノ細胞マッピング用ダイヤモンド・ナノ針の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月21日 ニューダイヤモンドフォーラム発行の「第20回ダイヤモンドシンポジウム 講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)/ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノ細胞マッピング用ダイヤモンド・ナノ針の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】
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