説明

細胞内標識検出方法

【課題】細胞染色時の非特異的染色により、特異的な検出が困難になる。
【解決手段】非特異的染色に伴う、粒子の発光を除去し、細胞の発光を特異的に検出する方法に関する。蛍光染色後の対象細胞を含む検体を染色し、染色後に蛍光染色試薬の発光強度を低下させる緩衝液で洗浄し、非特異的染色の影響を低減させ、目的の発光を安定的に検出するものである。大腸菌の場合、メンブレンフィルタ1で回収した大腸菌2を事前に核酸染色試薬で染色し、核酸3に結合蛍光試薬4が存在する状態とする。これをトリス塩酸緩衝液で洗浄し、粒子5の表面に付着した蛍光試薬の発光を低減化させるが、細胞内の結合蛍光試薬は細胞膜、細胞壁の効果により影響を受けにくい。これにより、目的の大腸菌2の発光を明確化させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の標識と細胞外の標識の標識変化時間差を利用して細胞内の標識を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の標識は蛍光法や着色法が利用されてきた(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
これは、細胞の特異的な部位を標識試薬で標識し、顕微拡大処理や波形などを利用して検出する手法であり、細胞の特定手段や観察手段として利用されている。これらの手法は、細胞の特異的な部位に対して付着するものであり、その特異性を利用して、目的の細胞かどうかを判断する手段として利用されており、容易に情報を特定することができる。
【特許文献1】特表2006−509514号公報
【特許文献2】特開平7−8292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の細胞内標識検出方法は、細胞の特定部位を標識し、観察や検出を行なうものであり、特異的に検出することができるものであるが、標識が必ずしも特定部位にのみ到着するものではなく、別の部位に付着する場合がある。例えば、核酸など細胞内の特異部位を染色する場合、細胞壁や細胞膜を浸透する試薬が有効であるが、浸透に際して、細胞壁や細胞膜に付着し、そのまま残存する場合がある。その結果、これらの余計な付着が正確な情報を引き出す妨げになる場合がある。さらに、付着は目的の対象に類似した場所に起こる場合もある。例えば、核酸と類似した構造の粒子が存在する場合、前述の試薬はこの粒子を染色する。そのため、誤検出の要因となりうる。
【0005】
そこで特定部位に付着した標識のみを、より特異的に検出する方法が要求されている。
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、細胞内の特定部位への付着と細胞外の目的部位以外の付着を見分ける方法であり、その結果、対象の部位への標識の付着を高い特異性で検出することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の細胞内標識検出方法は、上記課題を解決するために、細胞内の目的部位へ標識を付着させた後、細胞外の環境を変化させ、細胞外標識の変動と、細胞内標識の変動の差を利用し、細胞内の標識のみを特異的に検出することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外の環境変化をpHの変化とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外の環境変化を加温による温度変化とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外の環境変化を酸化反応による有機物の分解とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外の環境変化を光の照射による有機物の分解とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、変化させる細胞外の環境変化をpHと温度の変化など少なくとも二種の細胞外環境変化とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、変化させる細胞外の環境変化を緩衝液との接触によりpHを変化させることとした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外の環境変化を起こす方法を、加温による温度変化とし、その温度を30℃から100℃とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、有機物の分解を促進する酸化反応をラジカル反応とした細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外環境変化を可視光の照射により、細胞内外の標識形態の変化を起こす細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞外環境変化を400ナノメートル以下の紫外光の照射により、細胞内外の標識形態の変化を起こす細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、標識を着色剤の染色により検出する細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の細胞内標識検出方法は、細胞標識方法を蛍光剤による染色により検出する細胞内標識検出方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞を標識した際に生じる場合がある非特異的な標識と目的の標識の違いを特定することができる。事前に着色剤や蛍光発光試薬などで染色したものを利用するが、その細胞外の非特異的な付着に伴う標識は、その細胞外環境を変動させることで、標識の変化が生ずる。一方、細胞内の特異的な付着に伴う標識は、細胞壁あるいは細胞膜により保護される若しくは、影響を遅れて受ける。そのためその差を利用することで、標識の目的の付着を特異的に検出できるものである。環境変化としては、緩衝液などを利用したpHの変化、加温に伴う温度変化、ラジカルのような酸化剤を利用した酸化反応、可視光や紫外光のような光の照射を利用した細胞外付着標識の分解などが挙げられる。これらは一種ではなく、複数種併用することで高い効果が期待され、より特異的な検出が可能となる。
【0020】
これにより、従来は非特異的な標識を目視確認し、形状など異なる情報をもって目的の標識かどうかを判断してきたが、細胞外と細胞内の環境変化に伴う標識の変化を利用することで、より特異的な目的標識の検出が可能となる細胞内標識検出方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の請求項1記載の発明は、細胞を標識後、細胞内の標識を特異的に検出する方法であって、細胞外標識の非特異的吸着などは、細胞外の環境変化に影響されやすいのに対し、細胞外の環境変化に伴う細胞内標識の変化は、細胞の細胞壁や細胞膜に保護されており、影響を受けにくい。または、影響を受けても、細胞外標識の影響に対し、遅れて影響を受ける。この差を利用し細胞内の標識を検出するという作用を有する。
【0022】
また、請求項2記載の発明は、細胞外標識の非特異的吸着を変化させる手段としてpHを利用したものであり、pHに感受性のある標識の性質を変化させることができるという作用を有する。
【0023】
また、請求項3記載の発明は、細胞外標識の非特異的吸着を変化させる手段として温度を利用したものであり、温度の上昇に伴う標識の分解などによりその性質を変化させることができるという作用を有する。
【0024】
また、請求項4記載の発明は、細胞外標識の非特異的吸着を変化させる手段として酸化反応を利用したものであり、酸化反応を利用することで標識の分解が起こり、その性質を変化させることができるという作用を有する。
【0025】
また、請求項5記載の発明は、細胞外標識の非特異的吸着を変化させる手段として光の照射を利用したものであり、光に対して感受性を持つ標識の分解などによりその性質を変化させることができるという作用を有する。
【0026】
また、請求項6記載の発明は、細胞外標識の非特異的吸着を変化させる手段を少なくとも二種、若しくはそれ以上を併用したものであり、標識の性能変化を促進させることができるという作用を有する。
【0027】
また、請求項7記載の発明は、細胞外環境変化を起こす方法を緩衝液とすることで、トリス塩酸緩衝液(弱塩基性側)や燐酸緩衝液(中性付近)など標識に合わせた性能の緩衝液を利用することで、様々な標識に対応させることができるという作用を有する。
【0028】
また、請求項8記載の発明は、細胞外環境変化を起こす方法を加温とし、その温度を30℃から100℃とすることで標識の変化を促進し、迅速な変化を見ることができるという作用を有する。
【0029】
また、請求項9記載の発明は、細胞外環境変化を起こす方法を酸化剤との接触による酸化反応とし、その反応をラジカルとすることで標識の変化を強い反応とし、迅速な変化を見ることができるという作用を有する。
【0030】
また、請求項10記載の発明は、細胞外環境変化を起こす方法を光の照射とし、その照射を可視光とすることで様々な種類の標識に対応させ、また、その変化を促進し、迅速な変化を見ることができるという作用を有する。
【0031】
また、請求項11記載の発明は、細胞外環境変化を起こす方法を光の照射とし、その照射を400ナノメートル以下の紫外光とすることで様々な種類の標識に対応させ、また、その変化を強いエネルギーによって促進し、迅速な変化を見ることができるという作用を有する。
【0032】
また、請求項12記載の発明は、細胞標識方法を着色剤による染色とすることで、細胞外の付着標識と細胞内の付着標識を分類することが可能となり、また、目視で判断することができるという作用を有する。
【0033】
また、請求項13記載の発明は、細胞標識方法を蛍光剤による蛍光標識とすることで、細胞外の付着標識と細胞内の付着標識を分類することが可能となり、また、高感度に判断することができるという作用を有する。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
(実施の形態1)
これまで細胞の標識の検出方法には着色法や蛍光法が利用されてきた。これらの方法は、目視観察を補助し、その感度を向上させるのに一助を与えるものである。細胞標識に利用される標識試薬は、細胞内の情報を検出できるものがあり、これらは、細胞内に取り込まれた後、特定部位を標識する。これらの手法で利用する薬剤は、標識対象が限定されていることから高い特異性を持つものであるが、その一方で、標識対象と類似した構造物が存在する場合、同様に染色される。その結果、観察を妨害し、正確な判断の妨げになる場合があった。そこで、より精度高く検出できる細胞標識の特異的検出方法が求められている。
【0036】
標識試薬はその性質から環境変化に伴い、その発色、発光を変化させる。特にpHや温度、酸化に関する薬剤、光の照射などにより、分解されたり、発光の波長が変わったりする。これにより、目的の発色、発光とは異なり、目的の細胞内標識とそれ以外の細胞外標識との差を把握することができる。
【0037】
一方、細胞には、細胞膜または細胞壁、またはその両方が表面にあり、細胞内と細胞外を分別している。そのため、細胞外の変化が細胞内の特定の部位にまで到達するのは時間が掛かる。あるいは、細胞膜または細胞壁、またはその両方により、細胞外の変化が細胞内には影響しない場合がある。この時間差や影響度合いの変化を利用することで、細胞外に環境変化を与え、細胞外の付着標識の性質と細胞内付着標識の性質の違いを利用し、細胞内の標識を特異的に検出するものである。
【0038】
細胞をメチレンブルーやトリパンブルーといった着色剤や4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、6−カルボキシフルオレセインダイアセテート、蛍光標識グルコースなど細胞壁内部や核酸を標識する標識色素、細胞内酵素活性を評価する標識色素、細胞の取り込み活性を指標とする標識色素などが利用される。これらの試薬は細胞表面や細胞以外の粒子に結合し、それぞれ細胞と類似した発光をすることがあり、誤検出の要因となりうる。そこで、細胞外の環境を変化させ、細胞内と細胞外の変化した環境に対する標識色素の変動の違いを利用して細胞内の標識を特異的に検出する方法である。細胞外の環境変化としては、トリス塩酸緩衝液や燐酸緩衝液などの緩衝液によるpH変化、30℃から100℃の加温による変化、ラジカル反応などの酸化反応を利用した試薬の分解、可視光や紫外光の照射に伴う細胞外標識の消光などが挙げられる。これらを単独または複数種利用することにより、高効率で細胞内外の違いを見るものである。これらを染色後の細胞に施すことで、細胞外若しくは細胞以外の付着試薬の影響を低減化し、細胞内の標識を引き立て、特異的に検出するものである。これらを併用することで、より高感度に細胞内の標識を特定できる。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0040】
本技術は細胞内外に存在する標識色素に対し、細胞外の環境を変化させることで、細胞外と細胞内での標識色素の変化の違いを利用し、細胞内の標識色素を特異的に検出することで目的の細胞や標識対象を高感度で検出する技術である。目的の検体中に含まれる対象の細胞を検出する際に、目的の検体中へ直接試薬を添加し、対象の細胞を染色する。対象の細胞は、試薬と反応できる部位があれば、試薬と反応することができるが、同時に検体中に含まれる対象の細胞の反応部位と類似した構造があれば、それも同様に染色される。
【0041】
細胞を染色する試薬として、4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールの場合、核酸にインターカレートされ、発光する。発光は励起光として紫外光を当てると蛍光発光するため、核酸を有する粒子、即ち細胞を検出するものである。しかしながら、酸化アルミニウムやシリカの表面のように核酸と同様大きさの多孔質である場合、その中に4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールが入り、励起光に対し蛍光発光する場合がある。この場合、粒子が対象の細胞と類似した構造である場合、分別が難しく、正確に計数することができなくなる。つまり、誤検出の要因となりうる。
【0042】
そこで以下の通り、細胞表面もしくは対象外粒子表面の付着した試薬を除去するものである。細胞を含む検体を4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールで染色した後、これらをメンブレンフィルタなどの上に回収する。メンブレンフィルタは、細菌などの細胞を回収できる0.4マイクロメートルレベルのものが望ましい。メンブレンフィルタ表面には、対象の細胞だけでなく、対象外の粒子も捕捉されている可能性がある。捕捉された対象の細胞ならびに粒子にpH8.3のトリス塩酸緩衝液を滴下し、ろ過除去する。トリス塩酸緩衝液pH8.3は、細胞表面に強く作用し、細胞内部にはすぐには浸透しない。そこで、トリス塩酸緩衝液pH8.3で細胞表面を処理後、すぐに蛍光顕微鏡で観察する。細胞表面や対象外粒子の表面に付着した4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールは、トリス塩酸緩衝液のpHにより、発光が弱まり、細胞内pHとの差別化が容易となる。
【0043】
その結果、残存している発光は細胞内の蛍光発光、即ち、対象の細胞の発光であることが分かる。
【0044】
また、細胞外環境変化を温度とした場合、例えば、6−カルボキシフルオレセインダイアセテートは、細胞内のエステラーゼによって分解され、フルオレセインが遊離し、青色励起光に対し緑色蛍光発光をするものであるが、6−カルボキシフルオレセインダイアセテートは、高い温度で分解される。例えば、6−カルボキシフルオレイセインダイアセテート染色した対象細胞を含む検体を、予め温度を約50℃付近にまで上昇させた水浴槽に入れ、1分から5分程度放置する。その結果、細胞外の6−カルボキシフルオレセインダイアセテートは分解され、構造が変化し、消光する。一方、細胞内の6−カルボキシフルオレセインダイアセテートは分解されフルオレセインのまま維持され、細胞外と細胞内の発光差が生じ、対象の細胞を把握しやすくなる。
【0045】
あるいは、酸化反応として次亜塩素酸ナトリウムなどが挙げられる。予め4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールで蛍光染色した細胞を含む検体に0.05ppmから1.00ppmに調整した次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、それをメンブレンフィルタで回収したり、あるいはスライドガラス上に塗抹したりして、蛍光顕微鏡で観察する。次亜塩素酸ナトリウムは、細胞外の4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールに強く反応し、細胞内の4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールには、大きく影響を与えないため、細胞内の4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールの発光は維持される。
【0046】
これにより、蛍光顕微鏡観察時に細胞の発光と細胞以外の発光物の差が明確になり、観察、判断しやすくなる。また、蛍光試薬のように光を照射することでその構造が変化し、消光してしまう場合、光を短時間照射することも有効である。具体的には、予め蛍光標識グルコースなどの蛍光染色試薬で染色した細胞を含む検体をメンブレンフィルタなどで回収し、その表面に可視光を照射するものである。蛍光標識グルコースは青色励起光に対し緑色発光するものであり、発光している細胞を含む検体に水銀ランプなどから分光フィルタを経て発せられる波長450ナノメートルから500ナノメートルレベルの青色励起光を約10秒間照射した後、蛍光顕微鏡で目視確認する。その結果、細胞外の対象外粒子や背景の蛍光標識グルコースが分解され、目的の細胞との蛍光発光強度の差が大きくなり、観察がしやすくなるものである。
【0047】
これらの処理は、単独でも効果があるが、染色剤の種類によっては、複数を合わせて利用することでより高い効果をもたらす場合もある。
【0048】
また、細胞標識方法は、蛍光だけではなく、着色も有効である。メチレンブルーのように細胞壁の構造体内部に浸透し、着色するものは、細胞外環境変化の影響を受けにくく、前述と同様の処理により、表面の発色度合いに差が生じ、観察が容易となる。
【0049】
大細菌を4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール染色した時とトリス塩酸緩衝液pH8.3処理した時の蛍光試薬の一態様を示す概念図を図1に示す。
【0050】
標準寒天培地上で前培養した大腸菌のコロニーを回収し、生理食塩水中に懸濁する。懸濁後、5ppmの4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール水溶液となるように5mlの懸濁液に添加し、室温で5分間染色する。染色後、0.4マイクロメートルの孔径を有する直径48mmのメンブレンフィルタ1でろ過し、メンブレンフィルタ表面に蛍光発光する大腸菌2を濃縮する。濃縮直後の状態を図1(a)に示す。濃縮された蛍光発光する大腸菌2の細胞内部の核酸3には、結合蛍光試薬4として、4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールがインターカレートされており、紫外光に対し、蛍光発光する。その一方で、細胞ではない粒子5にも4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールが付着している。このメンブレンフィルタ1を5mlのトリス塩酸緩衝液pH8.3で洗浄し、5分以内に蛍光顕微鏡観察する。洗浄直後の状態を図1(b)に示す。トリス塩酸緩衝液pH8.3の作用により、粒子5の表面の4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールが構造変化し、消光している。一方、細胞内の核酸にインターカレートした4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールは、細胞外のトリス塩酸緩衝液pH8.3の影響を受けずに発光が残存しており、粒子5に影響され難い観察が可能となる。この結果、粒子5に受ける影響が低減化され、より特異的に大腸菌2を観察できるようになる。
【実施例2】
【0051】
図2に検体中の発光変化の概念図を示す。図2の縦軸には蛍光強度、横軸には経時変化を示す。標準寒天培地上で前培養した大腸菌のコロニーを回収し、生理食塩水中に懸濁する。懸濁後、5ppmの4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール水溶液となるように5mlの懸濁液に添加し、室温で5分間染色する。染色後、ガラスセルに移し、そこへ、0.5ppmの次亜塩素酸ナトリウムを加え、分光光度計で蛍光強度の変化を追った。その結果、傾き5と傾き6が得られた。細胞外蛍光に関する傾き6のように早い時間に消光する傾きは細胞外の発光を、細胞内蛍光に関する傾き7のように遅れて消光する傾きは細胞内の発光を示す。時間が経てば、次亜塩素酸ナトリウムの影響により細胞内の4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールも分解され消光するが、両者には経時的な相違があるため、それぞれの発光の違いを利用し、傾き6の発光から目的の細胞の発光量を推定できる。
【0052】
なお、検出手段は、顕微拡大するものに限らず、蛍光分光光度計など蛍光発光の変化を読み取れるものであれば利用できる。その際、検体はガラスセルに移し、経時的に変化を捉えるものである。
【0053】
なお、pHを調整するものとして緩衝液に限らず、酢酸や希水酸化ナトリウムなどpHに影響を与えるものであれば良い。
【0054】
なお、温度を利用するものである場合は、検体を入れる容器を温度の伝導性の高いものを利用することで早い反応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)本発明の実施例1の蛍光染色した細胞の緩衝液処理前を示す図、(b)同実施例の緩衝液処理後を示す図
【図2】本発明の実施例2の酸化剤処理による経時変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0056】
1 メンブレンフィルタ
2 大腸菌
3 核酸
4 結合蛍光試薬
5 粒子
6 細胞外蛍光に関する傾き
7 細胞内蛍光に関する傾き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内の目的部位へ標識を付着させた後、細胞外の環境を変化させ、細胞外標識の変動と、細胞内標識の変動の差を利用し、細胞内の標識のみを特異的に検出する細胞内標識検出方法。
【請求項2】
変化させる細胞外の環境をpHとした前記請求項1記載の細胞内標識検出方法。
【請求項3】
細胞外の環境変化を加温による温度変化とした前記請求項1記載の細胞内標識検出方法。
【請求項4】
酸化反応により細胞外標識を変化させる前記請求項1記載の細胞内標識検出方法。
【請求項5】
光の照射により細胞外標識を変化させる前記請求項1記載の細胞内標識検出方法。
【請求項6】
請求項2乃至5記載の細胞内標識検出方法の内、少なくとも二種を利用した細胞内標識検出方法。
【請求項7】
緩衝液との接触によりpHを変化させることを特徴とした請求項2または6記載の細胞内標識検出方法。
【請求項8】
加温する温度を30℃から100℃とした前記請求項3または6記載の細胞内標識検出方法。
【請求項9】
酸化反応をラジカル反応とした前記請求項4または6記載の細胞内標識検出方法。
【請求項10】
照射する光を可視光とした前記請求項5または6記載の細胞内標識検出方法。
【請求項11】
照射する光を400ナノメートル以下の紫外光とした前記請求項5または6記載の細胞内標識検出方法。
【請求項12】
標識を着色剤の染色により検出することを特徴とした請求項1乃至11記載の細胞内標識検出方法。
【請求項13】
標識を蛍光剤による染色により検出することを特徴とした請求項1乃至11記載の細胞内標識検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−88365(P2010−88365A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262535(P2008−262535)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】