説明

細胞処理装置

【課題】不純物の混入を防止するとともに、効率的に最終生成物を回収することができる細胞処理装置を提供する。
【解決手段】細胞懸濁液を収容する容器10と、容器10を回転軸線L回りに回転させるモータと、容器10内に配置され、所定の圧力以上で細胞懸濁液を通過させる一方、所定の圧力未満で細胞懸濁液の通過を禁止するフィルタ15とを備え、フィルタ15が、容器10内を上下方向に区画して、上方に形成される第1の収容部11と下方に形成される第2の収容部12とに分割し、第1の収容部11が、フィルタ15から回転軸線Lに沿う方向上方に向かって回転軸線Lから離間するように形成された第1の傾斜面21を有し、第2の収容部12が、底面23から回転軸線Lに沿う方向上方に向かって回転軸線Lから離間するように形成された第2の傾斜面22を有する細胞処理装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、消化工程を行う消化チャンバーが、遠心分離工程を行う遠心チャンバーに連結された細胞処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この細胞処理装置は、遠心チャンバーにおいて、遠心分離により濃縮した細胞ペレットに、洗浄液をジェット噴射してほぐし、消化チャンバー底部に落とすことで、細胞を吸引回収できるようになっている。このように消化工程を行なうチャンバーと遠心分離チャンバーを一体化することで、装置をコンパクトにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/133874号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に開示されている細胞処理装置では、最終生成物を消化チャンバー底部に戻してから回収している。ここで、消化チャンバー内には未消化物や異物等が残りやすいため、最終生成物にこれら不純物が混入する可能性があるという不都合がある。
【0005】
また、上記の特許文献1には、消化チャンバーにおいて消化を行った後に、一旦外部のフィルタを通して、消化チャンバーを洗浄後に消化物を再び戻すことも記載されているが、チャンバーを十分に洗浄するには時間もかかり、外部フィルタで消化物をろ過するにも手間や時間がかかってしまうという不都合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、不純物の混入を防止するとともに、効率的に最終生成物を回収することができる細胞処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、細胞懸濁液を収容する容器と、該容器を回転軸線回りに回転させるモータと、前記容器内に配置され、所定の圧力以上で細胞懸濁液を通過させる一方、所定の圧力未満で細胞懸濁液の通過を禁止するフィルタとを備え、前記フィルタが、前記容器内を上下方向に区画して、上方に形成される第1の収容部と下方に形成される第2の収容部とに分割し、前記第1の収容部が、前記フィルタから前記回転軸線に沿う方向上方に向かって前記回転軸線から離間するように形成された第1の傾斜面を有し、前記第2の収容部が、底面から前記回転軸線に沿う方向上方に向かって前記回転軸線から離間するように形成された第2の傾斜面を有する細胞処理装置を採用する。
【0008】
本発明によれば、フィルタにより容器内が区画され、第1の収容部と第2の収容部とが上下方向に形成される。このうち、下方に配置される第2の収容部に生体組織及び消化酵素液を収容し、モータを作動させて容器(第1の収容部および第2の収容部)を回転軸線回りに低速で回転させることで、第2の収容部内において、生体組織が消化されて細胞懸濁液が生成される。すなわち、第2の収容部は、生体組織を消化して細胞懸濁液を生成する消化部として機能する。
【0009】
そして、容器を回転軸線回りに高速で回転させることで、細胞懸濁液が、遠心力により、第2の収容部内に形成された第2の傾斜面(回転軸線に沿う方向上方に向かって回転軸線から離間するように形成された傾斜面)に沿って上方に押し上げられて、フィルタに到達する。ここで、フィルタは、所定の圧力以上で細胞懸濁液を通過させる一方、所定の圧力未満で細胞懸濁液の通過を禁止するように構成されている。したがって、第1の収容部と第2の収容部との圧力差が所定値以上となった場合に、細胞懸濁液は、フィルタを通過して第1の収容部内に浸入する。
【0010】
第1の収容部内に浸入した細胞懸濁液は、遠心力により、第1の収容部内に形成された第1の傾斜面(底面から回転軸線に沿う方向上方に向かって回転軸線から離間するように形成された傾斜面)に沿って、回転軸線に直交する方向外方に移動させられる。そして、比重の違いにより細胞懸濁液中の各成分が遠心分離される。具体的には、第1の収容部の側面(回転軸線に直交する方向外方)には比重の大きな細胞群が集められ、その内方には脂質や血漿等の上清が集められる。すなわち、第1の収容部は、細胞懸濁液を濃縮する濃縮部として機能する。
【0011】
上記のように、本発明によれば、フィルタにより容器内を区画し、下方に配置される第2の収容部に関しては、生体組織を消化酵素を用いて消化することによって細胞懸濁液を生成する消化部として機能させ、上方に配置される第1の収容部に関しては、細胞懸濁液を濃縮する濃縮部として機能させることができる。このように、消化工程および濃縮工程を1つの装置を用いて閉鎖系で行うことができるので、異物等が混入する危険性を低減するとともに、容器を移し替える作業を無くして作業者の手間を省くことができる。
【0012】
上記発明において、前記所定の圧力が、前記モータにより前記容器を前記回転軸線回りに高速回転させた場合に、細胞懸濁液により前記フィルタに加えられる圧力であることとしてもよい。
このようなフィルタ特性とすることで、モータを高速回転させた場合に第2の収容部から第1の収容部へ細胞懸濁液を通過させる一方、第1の収容部から第2の収容部への細胞懸濁液の通過を禁止して第1の収容部に貯留することができる。
【0013】
上記発明において、前記フィルタが撥水性の素材で構成され、前記フィルタの目開きが、10μm以上100μm以下であることとしてもよい。
このようにフィルタを構成することで、モータを高速回転させた場合に第2の収容部から第1の収容部へ細胞懸濁液を通過させる一方、第1の収容部から第2の収容部への細胞懸濁液の通過を禁止して第1の収容部に貯留することができる。なお、フィルタの目開きは、10μm以上100μm以下、より好ましくは20μm程度が望ましい。
【0014】
上記発明において、前記フィルタが撥水性のコーティングが施され、前記フィルタの目開きが、10μm以上100μm以下であることとしてもよい。
このようにフィルタを構成することで、モータを高速回転させた場合に第2の収容部から第1の収容部へ細胞懸濁液を通過させる一方、第1の収容部から第2の収容部への細胞懸濁液の通過を禁止して第1の収容部に貯留することができる。
【0015】
上記発明において、前記フィルタが10μm以上100μm以下の複数の孔を有し、該孔の周囲に撥水処理が施されていることとしてもよい。
このようにフィルタを構成することで、モータを高速回転させた場合に第2の収容部から第1の収容部へ細胞懸濁液を通過させる一方、第1の収容部から第2の収容部への細胞懸濁液の通過を禁止して第1の収容部に貯留することができる。
【0016】
上記発明において、前記第1の収容部内において前記回転軸線に直交する方向外方に向けて洗浄液を噴射する噴射ノズルと、前記第1の収容部内において前記フィルタ近傍に開口し、前記フィルタ上に貯留された液体を吸引する吸引ノズルと備えることとしてもよい。
このようにすることで、第1の収容部内において遠心分離された細胞群に洗浄液を噴射ノズルから噴射し、噴射された洗浄液を吸引ノズルから細胞群中の不純物とともに吸引することができる。これにより、細胞群に含まれた消化酵素等の不純物を除去して、細胞群の洗浄を行うことができる。また、上記動作をモータの低速回転中または停止中に行うことで、第1の収容部の側面(回転軸線に直交する方向外方)に押し固められたペレット状の細胞群を洗浄液によりほぐして(再懸濁させて)、吸引ノズルから回収することができる。
【0017】
上記発明において、前記フィルタの略中央部に凹部が設けられ、前記吸引ノズルが前記凹部の底部近傍に開口していることとしてもよい。
このようにすることで、フィルタ上の上清を、凹部に集めて吸引ノズルにより排出することができる。これにより、細胞群の洗浄効率を向上することができる。また、細胞群の洗浄後には、ペレット状の細胞群がほぐされて再懸濁された細胞懸濁液を凹部に集めて吸引ノズルにより回収することができる。これにより、細胞群の回収効率を向上することができる。
【0018】
上記発明において、前記第2の収容部に設けられ、前記第2の収容部内を吸引して、前記第1の収容部内の液体に前記フィルタを通過させる第2の吸引ノズルを備えることとしてもよい。
このようにすることで、第2の吸引ノズルの吸引力により第1の収容部と第2の収容部との圧力差が所定値以上となった場合に、フィルタ上(第1の収容部内)の上清は、フィルタを通過して第2の収容部内に浸入する。そして、第2の収容部内に浸入した上清は、第2の吸引ノズルにより第2の収容部から外部へ排出される。これにより、上清を効率的に排出することでき、細胞群の洗浄効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不純物の混入を防止するとともに、効率的に最終生成物を回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞処理装置の概略構成図である。
【図2】図1のフィルタの部分拡大図である。
【図3】図1の細胞処理装置による消化工程の状態を示す図である。
【図4】図1の細胞処理装置による細胞懸濁液移送工程(フィルタ通過前)の状態を示す図である。
【図5】図1の細胞処理装置による細胞懸濁液移送工程(フィルタ通過後)の状態を示す図である。
【図6】図1の細胞処理装置による遠心分離工程(分離前)の状態を示す図である。
【図7】図1の細胞処理装置による遠心分離工程(分離後)の状態を示す図である。
【図8】図1の細胞処理装置による遠心分離後にモータを停止させた状態を示す図である。
【図9】図1の細胞処理装置による上清排出工程の状態を示す図である。
【図10】図1の細胞処理装置による洗浄液供給工程の状態を示す図である。
【図11】図1の細胞処理装置において遠心分離された細胞群が再懸濁された状態を示す図である。
【図12】図1の細胞処理装置による細胞回収工程の状態を示す図である。
【図13】図1の変形例に係るフィルタの部分拡大図である。
【図14】図1の第1の変形例に係る細胞処理装置の概略構成図である。
【図15】図1の第2の変形例に係る細胞処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る細胞処理装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る細胞処理装置1は、図1に示すように、生体組織内の細胞が単離された細胞懸濁液を収容する容器10と、容器10を回転軸線L回りに回転させるモータ20と、容器10内に配置されたフィルタ15とを備えている。
【0022】
容器10は、細胞懸濁液を収容する密閉容器であり、略円錐型の形状を有し、頂点(底部23)を下方に向けて配置されている。容器10は、モータ20により回転軸線L回りに回転されるようになっている。ここで、細胞懸濁液は、例えば脂肪組織等の生体組織に消化酵素を加えて攪拌することで、脂肪組織を構成する脂肪由来細胞等(細胞群)が単離されて浮遊した懸濁液である。
【0023】
容器10は、その内部において略水平方向(回転軸線Lに直交する方向)にフィルタ15が配置されている。これにより、容器10内は、フィルタ15により上下方向に区画され、上方に形成される第1の収容部11と下方に形成される第2の収容部12とに分割されている。
【0024】
容器10の上方に形成された第1の収容部11は、フィルタ15から回転軸線Lに沿う方向上方に向かって広がるように形成されている。すなわち、第1の収容部11は、フィルタ15から回転軸線Lに沿う方向上方に向かって回転軸線Lから離間するように形成された第1の傾斜面21を有している。また、第1の収容部11の側面底部(回転軸線Lに直交する方向外方)には、凹型に形成されたポケット部13が設けられている。このポケット部13は、後述するように、濃縮された細胞懸濁液(細胞ペレット)を収容する細胞収容部として機能する。
【0025】
第1の収容部11には、その外部から回転軸線Lに沿う方向に、噴射ノズル16と吸引ノズル17とが挿入されている。
噴射ノズル16は、洗浄液を噴射するノズルであり、第1の収容部11内において、回転軸線Lに直交する方向に湾曲した形状を有している。このような構成を有することで、噴射ノズル16は、第1の収容部11内において、回転軸線Lに直交する方向外方(ポケット部13)に向けて洗浄液を噴射するようになっている。
【0026】
吸引ノズル17は、第1の収容部11内においてフィルタ15近傍に開口しており、フィルタ15上に貯留された液体を吸引するようになっている。このような構成を有することで、吸引ノズル17は、後述するように、噴射ノズル16により噴射された洗浄液を細胞群中の不純物とともに吸引することができるようになっている。また、後述するように、吸引ノズル17は、ポケット部13に収容された細胞群が再懸濁された細胞懸濁液を吸引することができるようになっている。
【0027】
容器10の下方に形成された第2の収容部12は、底面23から回転軸線Lに沿う方向上方に向かって広がるように形成されている。すなわち、第2の収容部12は、底面23から回転軸線Lに沿う方向上方に向かって、回転軸線Lから離間するように形成された第2の傾斜面22を有している。
【0028】
第2の収容部12には、例えば脂肪組織等の生体組織が導入される組織導入口18と、脂肪細胞を消化する消化酵素液が導入される酵素導入口19とが設けられている。組織導入口18から第2の収容部12内に脂肪組織を導入するとともに、酵素導入口19から第2の収容部12内に消化酵素液を導入し、モータ20により第2の収容部12(容器10)を回転軸線L回りに回転させることで、内部の混合液が攪拌され、脂肪組織の消化が促進されて、細胞懸濁液が生成されるようになっている。
【0029】
フィルタ15は、図2に示すように、撥水性の素材で構成され、その目開きが10μm以上100μm以下、より好ましくは20μmとなるように構成されている。ここで、細胞懸濁液中の細胞は10μm〜20μmである。したがって、上記構成を有することで、フィルタ15は、所定の圧力以上で細胞懸濁液を通過させる一方、所定の圧力未満で細胞懸濁液の通過を禁止するようになっている。
【0030】
ここで、上記の所定の圧力とは、モータ20により容器10を回転軸線L回りに高速回転させた場合に、細胞懸濁液により第2の収容部12から第1の収容部11に加えられる圧力である。
このようなフィルタ15を用いることで、モータ20を高速回転させた場合には、第2の収容部12から第1の収容部11へ細胞懸濁液を通過させる一方、モータ20の低速回転または停止させた場合には、細胞懸濁液の通過を禁止して第1の収容部11に貯留することができる。
【0031】
上記構成を有する細胞処理装置1の作用について以下に説明する。
まず、図3に示すように、組織導入口18から第2の収容部12内に脂肪組織Aを導入するとともに、酵素導入口19から第2の収容部12内に消化酵素液Bを導入し、モータ20により第2の収容部12(容器10)を回転軸線L回りに回転させる。これにより、内部の混合液が攪拌され、消化酵素液Bによる脂肪組織Aの消化が促進されて、細胞懸濁液Cが生成される。すなわち、第2の収容部12は、生体組織を消化して細胞懸濁液Cを生成する消化部として機能する。
【0032】
次に、モータ20により容器10を回転軸線L回りに高速で回転させる。これにより、図4に示すように、第2の収容部12内の細胞懸濁液Cが、遠心力により、第2の収容部12内に形成された第2の傾斜面22に沿って上方に押し上げられて、フィルタ15に到達する。ここで、フィルタ15は、所定の圧力以上で細胞懸濁液Cを通過させる一方、所定の圧力未満で細胞懸濁液Cの通過を禁止するように構成されている。したがって、第1の収容部11と第2の収容部12との圧力差が所定値以上となった場合に、図5に示すように、細胞懸濁液Cは、フィルタ15を通過して第1の収容部11内に浸入する。
【0033】
この状態において、さらに、モータ20により容器10を回転軸線L回りに高速で回転させる。これにより、図6に示すように、第1の収容部11内に浸入した細胞懸濁液Cは、遠心力により、第1の収容部11内に形成された第1の傾斜面21に沿って、回転軸線Lに直交する方向外方(第1の収容部11の側面)に移動させられる。
【0034】
この状態において、さらに、モータ20により容器10を回転軸線L回りに高速で回転させる。これにより、図7に示すように、細胞懸濁液Cは、比重の違いにより細胞懸濁液C中の各成分が遠心分離される。具体的には、第1の収容部11の側面(回転軸線Lに直交する方向外方)に形成されたポケット部13には比重の大きな細胞群Dが集められ、その内方には脂質や血漿等の上清Eが集められる。すなわち、第1の収容部11は、細胞懸濁液Cを濃縮する濃縮部として機能する。
【0035】
次に、モータ20を停止させ、容器10の回転を停止する。これにより、図8に示すように、第1の収容部11の側面に形成されたポケット部13にはペレット状の細胞群Dが残留するとともに、フィルタ15上には上清Eが貯留される。
この状態において、図9に示すように、フィルタ15近傍に開口した吸引ノズル17により、フィルタ15上に貯留された上清Eを吸引する。
【0036】
次に、図10に示すように、回転軸線Lに直交する方向に湾曲した噴射ノズル16から、回転軸線Lに直交する方向外方(ポケット部13)に向けて洗浄液Fを噴射する。この際、モータ20により容器10を回転軸線L回りに低速で回転させることとしてもよい。
これにより、ペレット状の細胞群Dが洗浄液Fによりほぐされて、洗浄液F中に再懸濁される。これにより、図11に示すように、再懸濁された細胞懸濁液Gが、フィルタ15上に貯留される。
上記の図6から図11に示す動作を繰り返すことで、細胞群Dに含まれた消化酵素等の不純物を除去して、細胞群Dの洗浄を行うことができる。
【0037】
次に、図12に示すように、上記のように洗浄が行われ、フィルタ15上に貯留された細胞懸濁液Gを、フィルタ15近傍に開口した吸引ノズル17により吸引する。これにより、洗浄および濃縮が行われた最終生成物である細胞懸濁液G(細胞群D)を回収することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る細胞処理装置1によれば、フィルタ15により容器10内を区画し、下方に配置される第2の収容部12に関しては、生体組織を消化酵素を用いて消化することによって細胞懸濁液Cを生成する消化部として機能させ、上方に配置される第1の収容部11に関しては、細胞懸濁液Cを濃縮する濃縮部として機能させることができる。このように、消化工程および濃縮工程を1つの装置を用いて閉鎖系で行うことができるので、異物等が混入する危険性を低減するとともに、容器10を移し替える作業を無くして作業者の手間を省くことができる。
【0039】
また、第1の収容部11内において回転軸線Lに直交する方向外方に向けて洗浄液Fを噴射する噴射ノズル16と、第1の収容部11内においてフィルタ15近傍に開口し、フィルタ15上に貯留された液体を吸引する吸引ノズル17とを備えることで、第1の収容部11内において遠心分離された細胞群Dに洗浄液Fを噴射ノズル16から噴射し、噴射された洗浄液Fを吸引ノズル17から細胞群D中の不純物とともに吸引することができる。これにより、細胞群Dに含まれた消化酵素等の不純物を除去して、細胞群Dの洗浄を行うことができる。また、上記動作をモータの低速回転中または停止中に行うことで、第1の収容部11のポケット部13に押し固められた細胞群Dを洗浄液Fによりほぐして(再懸濁させて)、吸引ノズル17から回収することができる。
【0040】
また、フィルタ15を撥水性の素材で構成し、その目開きを10μm以上100μm以下とすることで、モータ20を高速回転させた場合には、第2の収容部12から第1の収容部11へ細胞懸濁液Cを通過させる一方、第1の収容部11から第2の収容部12への細胞懸濁液Cの通過を禁止して第1の収容部11に貯留することができる。なお、フィルタ15の目開きは、10μm以上100μm以下、より好ましくは20μm程度が好適である。
【0041】
なお、フィルタ15は、撥水性のコーティングを施し、その目開きを10μm以上100μm以下としてもよい。
また、フィルタ15は、図13に示すように、10μm以上100μm以下の複数の孔31を有し、これら孔31の周囲に撥水パターン(撥水処理)32を施すこととしてもよい。この場合、フィルタ15は、孔31および撥水パターン32以外の部分は親水部33で形成する。なお、図13は、フィルタ15を回転軸線Lに沿う方向上方から見た上視図であり、符号34はポケット部13から吸引ノズル17に向かう最終生成物(細胞懸濁液G)の流れを示している。
【0042】
[第1の変形例]
次に、本発明の第1の変形例について以下に説明する。
本変形例に係る細胞処理装置2は、図14に示すように、細胞処理装置1の構成(図1参照)に加えて、フィルタ15の略中央部(回転軸線Lとの交点近傍)に凹部38が設けられている。また、吸引ノズル17が、凹部38の底部近傍まで延びている。
【0043】
この凹部38は、フィルタ15の上面、すなわち、第1の収容部11に開口をあけて形成されており、フィルタ15上の液体を集めて貯留する貯留部として機能する。そして、凹部38に貯留された液体を吸引ノズル17により吸引することができる。
【0044】
上記構成を有する細胞処理装置2によれば、フィルタ15上の上清Eを、凹部38に集めて吸引ノズル17により排出することができる。これにより、細胞群Dの洗浄効率を向上することができる。また、細胞群Dの洗浄後には、ペレット状の細胞群Dがほぐされて再懸濁された細胞懸濁液Gを凹部38に集めて吸引ノズル17により回収することができる。これにより、細胞群Dの回収効率を向上することができる。
【0045】
なお、本変形例に係る細胞処理装置2において、フィルタ15を、周辺部から中央部(凹部38)に向けて下方に傾斜するように構成することとしてもよい。このようにすることで、フィルタ15上の液体(上清E、細胞懸濁液G)を凹部38に効率的に集めることができ、細胞群Dの洗浄効率および細胞群Dの回収効率を向上することができる。
【0046】
[第2の変形例]
次に、本発明の第2の変形例について以下に説明する。
本変形例に係る細胞処理装置3は、図15に示すように、細胞処理装置1の構成(図1参照)に加えて、第2の収容部12の底部23近傍に吸引ノズル(第2の吸引ノズル)39が設けられている。
【0047】
この吸引ノズル39は、細胞懸濁液Cを細胞群Dと上清Eとに分離した状態において、作動するようになっている。すなわち、図8に示すように、第1の収容部11の側面に形成されたポケット部13にはペレット状の細胞群Dが残留するとともに、フィルタ15上には上清Eが貯留された状態において、吸引ノズル39を作動させる。
【0048】
そして、吸引ノズル39の吸引力により第1の収容部11と第2の収容部12との圧力差が所定値以上となった場合に、フィルタ15上(第1の収容部11内)の上清Eは、フィルタ15を通過して第2の収容部12内に浸入する。
第2の収容部12内に浸入した上清Eは、吸引ノズル39により第2の収容部12から外部へ排出される。
【0049】
上記構成を有する細胞処理装置3によれば、フィルタ15上の上清Eを、フィルタ15を通過させて第2の収容部12に設けられた吸引ノズル39により排出することができる。これにより、細胞群Dの洗浄効率を向上することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、本実施形態において、容器10は、略円錐型の形状を有していることとして説明したが、第1の収容部11に第1の傾斜面21が設けられているともに、第2の収容部12に前述の条件(高速回転させた場合にフィルタ15を通過させる傾斜角度)を満たす第2の傾斜面22が設けられていればどのような形状でもよく、例えば三角錐や四角錐等の多角錐や球体でもよい。
【符号の説明】
【0051】
A 脂肪組織
B 消化酵素液
C 細胞懸濁液
D 細胞群
E 上清
F 洗浄液
G 細胞懸濁液
L 回転軸線
1,2,3 細胞処理装置
10 容器
11 第1の収容部
12 第2の収容部
13 ポケット部
15 フィルタ
16 噴射ノズル
17 吸引ノズル
18 組織導入口
19 酵素導入口
20 モータ
21 第1の傾斜面
22 第2の傾斜面
23 底面
39 吸引ノズル(第2の吸引ノズル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を収容する容器と、
該容器を回転軸線回りに回転させるモータと、
前記容器内に配置され、所定の圧力以上で細胞懸濁液を通過させる一方、所定の圧力未満で細胞懸濁液の通過を禁止するフィルタとを備え、
前記フィルタが、前記容器内を上下方向に区画して、上方に形成される第1の収容部と下方に形成される第2の収容部とに分割し、
前記第1の収容部が、前記フィルタから前記回転軸線に沿う方向上方に向かって前記回転軸線から離間するように形成された第1の傾斜面を有し、
前記第2の収容部が、底面から前記回転軸線に沿う方向上方に向かって前記回転軸線から離間するように形成された第2の傾斜面を有する細胞処理装置。
【請求項2】
前記所定の圧力が、前記モータにより前記容器を前記回転軸線回りに高速回転させた場合に、細胞懸濁液により前記フィルタに加えられる圧力である請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項3】
前記フィルタが撥水性の素材で構成され、
前記フィルタの目開きが、10μm以上100μm以下である請求項2に記載の細胞処理装置。
【請求項4】
前記フィルタが撥水性のコーティングが施され、
前記フィルタの目開きが、10μm以上100μm以下である請求項2に記載の細胞処理装置。
【請求項5】
前記フィルタが10μm以上100μm以下の複数の孔を有し、
該孔の周囲に撥水処理が施されている請求項2に記載の細胞処理装置。
【請求項6】
前記第1の収容部内において前記回転軸線に直交する方向外方に向けて洗浄液を噴射する噴射ノズルと、
前記第1の収容部内において前記フィルタ近傍に開口し、前記フィルタ上に貯留された液体を吸引する吸引ノズルと備える請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項7】
前記フィルタの略中央部に凹部が設けられ、
前記吸引ノズルが前記凹部の底部近傍に開口している請求項6に記載の細胞処理装置。
【請求項8】
前記第2の収容部に設けられ、前記第2の収容部内を吸引して、前記第1の収容部内の液体に前記フィルタを通過させる第2の吸引ノズルを備える請求項6に記載の細胞処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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