説明

細胞分取装置、細胞分取チップ及び細胞分取方法

【課題】流速の遅い環境下においても応答性がよくしかも確実に細胞を分取することができる細胞分取装置、細胞分取チップ及び細胞分取方法を提供すること。
【解決手段】この細胞分取装置は、流路と、電場印加部と、分岐部とを具備する。流路は、細胞を含む流体が流れる。電場印加部は、前記流路の第1の位置で前記流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を、細胞の分取を指示する分取信号に応じて印加することが可能である。分岐部は、前記流路の第1の位置より下流の第2の位置で前記電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的とする細胞を分取するための細胞分取装置、細胞分取チップ及び細胞分取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を分取する装置として、蛍光フローサイトメータやセルソータが知られている。これらの装置では、各細胞が適切な振動条件(一般には、出口流速は数m/sであり、振動数は数10kHzである。)の下で周囲流体によって吐出口にて気液界面に閉じ込めら、同時に各細胞には電荷を与えられる。各細胞は、静電場が印加された空中を荷電量に応じた方向へ液滴として飛翔し、最終的に流路外に設けた分取用容器内に分取される。
【0003】
この技術は流速が前述のように比較的速い場合において有用であるが、流速の遅いフローサイトメータや誘電サイトメータにおいては、液滴化および吐出条件を満足することは困難である。このため、むしろ分岐を設けた流路内で分取動作を行い、その後段で細胞を保持することが望ましい。
【0004】
流路内での分取機構として、例えばピエゾ素子等を用いることによって流体の流れ方向を変え、流体中の細胞を間接的に駆動する方法が提案されている。しかしながら、その機械的素子の応答性はミリ秒程度であり、流路の圧力波の応答性を考慮すると、細胞の分取速度には限界がある。
【0005】
一方、細胞を直接駆動する方法として、誘電泳動法が提案されている。特許文献1では、細胞種間での誘電泳動力の差と沈降速度の差を利用して、電極を敷設した流路を流れる細胞を種類別に分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−507739号公報(図1〜図2など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、誘電泳動力に寄与する細胞の大きさなどに比べると、細胞種間での誘電泳動力の差は非常に小さく、しかも細胞径や細胞周期等、本質的に細胞が持ち合わせている同種細胞の中でのばらつきを考慮すると、実際にはそういった分別はうまく機能しないものと予想される。
【0008】
従って、本発明の目的は、流速の遅い環境下においても応答性がよくしかも確実に細胞を分取することができる細胞分取装置、細胞分取チップ及び細胞分取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る細胞分取装置は、流路と、電場印加部と、分岐部とを具備する。
流路は、細胞を含む流体が流れる。
【0010】
電場印加部は、前記流路の第1の位置で前記流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を、細胞の分取を指示する分取信号に応じて印加することが可能である。
分岐部は、前記流路の第1の位置より下流の第2の位置で前記電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐する。
【0011】
本発明では、電場の勾配が誘電泳動力に寄与する度合いが細胞種間での誘電泳動力の差などに比べると非常に大きいことに着目してものである。予め何らかの手法による測定部ないし測定値解析部などから発せられる分取信号に応じて、電場をオン・オフまたは振幅変調し、選択的に細胞に電場を印加して誘電泳動力を与える。これにより、細胞径や物性にばらつきを持った細胞群であっても、例えば分取対象である細胞についてのみ、十分な誘電泳動力によって、流速の遅い環境下においても応答性がよくしかも確実に細胞を分取することができる。
【0012】
本発明の一形態として、前記電場印加部は、前記電場を形成するための電極対を複数有し、これら電極対のそれぞれ、又はいくつかに分けられた電極対グループのそれぞれは、個別に電場の制御が可能であってもよい。
【0013】
本発明では、誘電泳動力を発するための電場を形成する電極対が例えば流路中に設けられており、これら電極対のそれぞれ、又はいくつかに分けられた電極対グループのそれぞれは、個別に電場の制御が可能である。従って、電極対が設けられている分取領域において複数の細胞が存在していても、電場の制御によってそれぞれの細胞を確実に選択的に分取することが可能である。
【0014】
本発明の一形態として、前記電場印加部は、前記電場を形成するための電極対を複数有し、前記各電極対は、前記各電極対において誘電泳動力が極大となる位置が誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞の平均的な軌跡に沿うように、設けられていてもよい。
【0015】
本発明では、このように各電極対を設けることで、誘電泳動力の位置依存性を効果的に用いることができる。これにより、電極対の数を減らし、コスト低減などを図ることができる。
【0016】
本発明の一形態として、前記電場印加部は、前記勾配を有する電場を形成するため、信号が印加される印加電極とコモン電極とからなる電極対を有し、前記印加電極は、前記勾配を有する電場を形成するため領域以外の領域では、前記コモン電極との間隔が一定とされていてもよい。
【0017】
本発明では、主流方向(細胞を含む流体が流れる方向)における電極対と電極対との間のある部分において、細胞に対して逆向きの力が発生する箇所が存在してしまうが、このようなコモン電極により、主流方向に細胞が泳動する際、逆向きの誘電泳動力は、その力が働く区間がない、あるいは正の向きの領域に比べて無視できるほど小さくなる。
本発明に係る細胞分取チップは、基板と、入力部と、流路と、電極対と、分岐部とを具備する。
流路は、基板に設けられ、細胞を含む流体が流れる。
入力部は、基板に設けられ、細胞を分取するための分取信号が入力される。
電極対は、流路の第1の位置に設けられ、前記入力部から分取信号を使って前記流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を印加する。
分岐部は、流路の第1の位置より下流の第2の位置で前記電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐する。
【0018】
本発明では、このような構成の細胞分取チップを用いることで、細胞径や物性にばらつきを持った細胞群であっても、分取対象である細胞についてのみ、十分な誘電泳動力によって、流速の遅い環境下においても応答性がよくしかも確実に細胞を分取することができる。
【0019】
本発明に係る細胞分取方法は、流路に細胞を含む流体を流す。流路の第1の位置で流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を分取信号に応じて選択的に印加する。そして、流路の第1の位置より下流の第2の位置で電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐することで、細胞を分取する。
【0020】
本発明では、このような方法によって、細胞径や物性にばらつきを持った細胞群であっても、分取対象である細胞についてのみ、十分な誘電泳動力によって、流速の遅い環境下においても応答性がよくしかも確実に細胞を分取することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流速の遅い環境下においても応答性がよくしかも確実に細胞を分取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る細胞機能分析・分取システムの概念的な図である。
【図2】図1に示した細胞機能分析・分取システムに適用することが可能な細胞分取チップの構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示した分取部の構成(分取信号オフ)を示す平面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図2に示した分取部の構成(分取信号オン)を示す平面図である。
【図6】電場印加部の他の構成(その1)を示す平面図である。
【図7】図6に示した電極印加部における各グループに対する電場印加を制御するための構成を示すブロック図である。
【図8】図7に示した増幅器に入力されるイネーブル信号のタイミングを示す図である。
【図9】電場印加部の他の構成(その2)を示す平面図である。
【図10】電場印加部の他の構成(その3)を示す平面図である。
【図11】電場印加部の他の構成(その4)を示す平面図である。
【図12】電場印加部の他の構成(その5)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
(細胞機能分析・分取システムの概略)
図1は本発明に係る細胞機能分析・分取システムの概念的な図である。
【0024】
図1に示すように、細胞機能分析・分取システム1は、マイクロ流路(以下、単に「流路」と呼ぶ。)2に沿って、その上流より投入部3、測定部4、分取部5、細胞取出部6、7、流出部10が設けられている。
投入部3は、サンプリングされた細胞Cを含む液体が例えばポンプを使って投入される。
流路2は、投入部3より投入された液体が流れる。
【0025】
測定部4は、流路2中を流れる一個一個の細胞Cに対して、細胞Cの誘電緩和現象が起こる周波数範囲(例えば0.1 MHzから50 MHz)の多点周波数(3点以上、典型的には10から20点程度)にわたり、それらの細胞Cの複素誘電率を測定する。測定部4は、測定した細胞Cの複素誘電率に基づき分取すべき細胞Cかを判断し、分取すべき細胞Cの場合には分取信号を出力する。測定部4は、例えば電極対から構成される信号検出部と、検出された信号に基づき細胞Cの機能を分析する細胞機能分析部とから構成してもよい。
【0026】
分取部5は、投入部3から投入された複数種類の細胞Cのうち、所望とする細胞Cを細胞取出部5に、それ以外の細胞Cを細胞取出部6に分取する。分取部5は、電場印加部8と、分岐部9とを有する。
【0027】
電場印加部8は、流体が流れる方向Xとは異なる方向、例えばX方向とは直交するY方向に勾配を有する電場を印加することが可能である。例えば、電場印加部8は、分取信号を入力されていないときには電場を印加しないが、分取信号を入力すると、電場を印加する。もちろん、その逆であっても構わない。
【0028】
分岐部9は、電場印加部8で電場が印加されない細胞Cについては分岐流路2bを通り細胞取出部7に流れるように分岐し、電場印加部8で電場が印加された細胞Cについては分岐流路2aを通り細胞取出部6に流れるように分岐する。
細胞取出部6、7は流路2を介して流出部10へ通じており、細胞取出部6、7を通過した液体は流出部10より例えばポンプを使って外部に排出される。
【0029】
ここで、液体中に存在する細胞Cに電場を印加すると、媒質と細胞Cの分極率の違いにより誘起双極子モーメントが生じる。印加電場が不均一である場合、電場強度が細胞C周囲で異なるために、誘起双極子によって式(1)に示す誘電泳動力が生じる。式(1)において、ε’m は媒質の複素比誘電率(複素比誘電率は式(2)によって定義)の実部、εv は真空誘電率、R は細胞半径、Ermsは印加された電場のRMS値である。また、K は式(3)に示されるClausius-Mossotti関数であり、同式中のε*pとε*mはそれぞれ細胞Cと媒質の誘電率である。
【0030】
【数1】

既に説明したとおり、特許文献1では、細胞種間のKの違いに着目して誘電泳動法単独で細胞Cを分別している。これに対して、この細胞機能分析・分取システム1では、細胞種類ごとの誘電泳動力の違いは周波数依存性を敢えて用いず、予め何らかの別の手法による測定部ないし測定値解析部から発せられる分取信号に応じて、電場をオン・オフまたは振幅変調して印加し、細胞径や物性にばらつきを持った細胞群であっても、分取対象である細胞Cについてのみ、十分な誘電泳動力によって分取する。
【0031】
(細胞機能分析・分取用のチップ)
図2は図1に示した細胞機能分析・分取システム1に適用することが可能な細胞分取チップの構成を示す斜視図である。
図2に示すように、チップ11は、基板12及び高分子膜等からなるシート状の部材13を有する。基板12には、流路2、分岐流路2a、2b、投入部3としての液体投入部3a、分岐部9、細胞取出部6、7、流出部10が設けられている。これらは、基板12の表面に溝などを形成し、その表面をシート状の部材13で覆うことで構成される。
【0032】
細胞Cを含め液体が投入される細胞投入部3bは、シート状の部材13の微細な孔を設けて構成され、その上にピペットで細胞Cを含む液体を垂らすと、微細な孔を介して流路2を流れる液体に巻き込まれるように流路2の下流に流れていく。微細な孔であることから、細胞Cは複数まとめて流路2に流れ込むことなく、1個ずつ流路2に流れ込んでいく。
【0033】
微細な孔を挟むように一対の信号検出電極4a、4bが設けれている。一方の信号検出電極4aはシート状の部材13の表面に、他方の信号検出電極4bはシート状の部材13の裏面に設けられている。電場印加部8を構成する電極対(後述する)もシート状の部材13の裏面に設けられている。
細胞取出部6、7はその上部がシート状の部材13により覆われているが、シート状の部材13にピペットを刺してピペットを介して細胞Cが取り出される。
【0034】
電極パッド14は信号検出電極4a、4bで検出された信号を外部に取り出す。取り出された信号は例えば細胞機能分析部(図示を省略する。)に送られる。入力部としての電極パット15は細胞機能分析部から出力される分取信号が入力される。入力された分取信号は電場印加部8を構成する電極対に送られる。
貫通孔26は、チップ11が細胞機能分析部等を有する装置本体に装着されたときの位置決め用の孔である。
【0035】
(分取部の構成)
図3は図2に示した分取部5の構成を示す平面図、図4は図3の断面図である。
図3及び図4に示すように、分取部5は、電場印加部8と、分岐部9とを有する。
電場印加部8は、流路2の所定の位置に設けられた電極16、17を有する。例えば、電極16と電極17とが流路2を流れる流体の方向(X方向)とは異なる例えばY方向に流路2を挟むように対向して配置されている。
【0036】
電極16、17は、シート状の部材13の裏面(流路2内の天面)に設けられている。電極16は、例えば信号が印加される電極で、電極17に向けて多数の電極指16aが突出するように構成される。電極17は、例えばコモン電極で、電極16に対して凹凸を持たないように構成される。以下では、一つの電極指16aと電極17との組み合わせを電極対18と呼ぶ。
このように電極対18を構成することで、電極16、17に信号が印加されたときに、各電極対18でそれぞれY方向に勾配を有する電場が印加される。
【0037】
分岐部9は、流路2の電場印加部8より下流の所定の位置で、電場印加部8により電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞Cを分岐する。分岐部9は、流路2がY字状に分岐して構成され、一つは分岐流路2aを通り細胞取出部6に向けて分岐し、もう一つは分岐流路2bを通り細胞取出部7に向けて分岐する。
【0038】
例えば、投入部3においては細胞Cが細胞取出部7側の偏った位置に投入される。このように細胞取出部7側の偏った位置に投入された細胞Cは、分取対象でない細胞Cが電場印加部8を通過するときには電場印加部8で電場が印加されず(non−active)、図3に示したように、流路2をその偏った位置側を流れそのまま分岐流路2bを通り細胞取出部7に流れる。しかし、分取対象の細胞Cが電場印加部8を通過するときには電場印加部8で電場が印加され(active)て細胞Cに誘電泳動力が与えられ、図5に示すように、細胞Cの流れ方向が細胞取出部6側に変わり、その分取対象の細胞Cは分岐部9により分岐流路2aを通り細胞取出部6側に分岐される。
【0039】
このように構成された電場印加部8では、各電極対18でそれぞれY方向に勾配を有する電場が印加されるので、電場印加部8を通過する細胞Cが徐々に行路を変えて分岐流路2aを通り細胞取出部6側に分岐することが可能となる。
【0040】
(電場印加部の他の構成(その1))
細胞Cが致命的ダメージを受けない程度の電場下で細胞Cが受ける誘電泳動力は、mm/s程度の流速で水中を流れる細胞Cが受ける粘性抵抗力に比べて、一般に非常に小さい。従って、流れに直交する方向の誘電泳動力を積極的に形成するための不均一電場、あるいはそれを形成するための電極対18の列は、多数必要になる。図3及び図5に示したように、この多数の電極対18に同時に電圧を印加した場合、その電極列分取領域を排他的に使用せねばならず、スループットが上がらない場合がある。
【0041】
そこで、図6に示すように、電極対18の列をグループG1〜G5に分け、これらのグループG1〜G5に対して個別に印加電圧を制御することにより、電場印加部8を通過する細胞Cの多重化を許してスループット向上を図ることが可能である。すなわち、図3及び図5に示した構成の電場印加部8では、1つの細胞Cが電場印加部8を通過するまでは、その後からくる細胞Cが電場印加部8に侵入しないようなタイミングで流路2に細胞Cを流すようにしなければならない。これに対して、図6に示した構成の電場印加部8では、例えばグループG5を通過している細胞Cは電場を印加して、グループG4を通過している細胞Cは電場を印加しないような制御が可能なので、結果として5つのグループG1〜G5においてそれぞれ細胞Cの分取制御が可能となる。
図7はこのような電極印加部8における各グループG1〜G5に対する電場印加を制御するための構成を示すブロック図である。
【0042】
図7に示すように、電場を印加するための交流源19からの信号は、それぞれ増幅器201〜205により増幅され、各グループG1〜G5に対して供給される。遅延回路付信号発生器21は、信号解析部22から分取信号を入力すると、図8に示すように、増幅器201から順番に、202、203、204、205に対してイネーブル信号を出力する。各増幅器201〜205に出力するイネーブル信号の期間は、分取すべき細胞Cが当該グループG1〜G5を通過している期間に一致する。これにより、電極印加部8の領域に入った細胞Cが分取すべきものである場合、その細胞CがグループG1から順番に、G2、G3、G4、G5においてそれぞれ通過する際に電場が印加され、細胞Cの流れ方向が順次変わっていき細胞取出部6側に分岐される。
なお、グループ単位ではなく、電極対単位で上記の制御を行ってももちろん構わない。
【0043】
(電場印加部の他の構成(その2))
図9は電場印加部8の他の構成を示す平面図である。
図9に示すように、この電場印加部8は、各電極対18において誘電泳動力が極大となる位置が、誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞Cの平均的な軌跡に沿うように、各電極対18が設けられている。電極対18において誘電泳動力が極大となる位置は、通常、電極指16aの先端部16bであるから、これらの先端部16bが上記の軌跡に沿うように、各電極対18が設けられている。
【0044】
本発明に係る電極対18の列は、目的とする細胞Cを分取する上で効率的な不均一電場を形成するように設計されているが、不均一電場ゆえに電極対18間(電極指16aと電極17との間)において誘電泳動力の位置依存性が存在する。すなわち、電極指16aと電極17との間では、誘電泳動力は一定とはならず、電極指16aの先端部16bが誘電泳動力が極大となる。図9に示した電場印加部8では、このような誘電泳動力の位置依存性を効果的に用いることで電極対の数を減らし、コスト低減などを図ることができる。
【0045】
(電場印加部の他の構成(その3))
図10は電場印加部8の他の構成を示す平面図である。
図10に示すように、この電場印加部8では、各電極16の電極指16aは流路2を横切るように等間隔で配置され、各電極17の電極指17aは隣り合う電極16の電極指16a間に流路2を横切るように等間隔で配置されている。各電極16の電極指16aは長方形状であり、対向する2辺は流路2を液体が流れる方向と直交している。各電極17の電極指17aは二等辺三角形状であり、隣接する電極16の電極指16aに対して傾斜する辺となっている。各電極16の電極指16aに対してその両側の隣接する電極17の電極指17aは鏡面対称となっている。
【0046】
このように構成された電場印加部8では、各電極16(17)間における電場の勾配は均一となり、分取対象となる細胞Cは電場印加時にはその電場勾配の2乗に比例した大きさで紙面上向きに移動する。
【0047】
(電場印加部の他の構成(その4))
図11は電場印加部8の他の構成を示す平面図である。
図11に示すように、この電場印加部8では、各電極16の電極指16aは流路2に対して突出しており、各電極指16aを囲うように電極17が設けられている。この電場印加部8では、図10に示した電極の構造と異なり、電極指16aが勾配を有する電場を形成するため領域以外の領域では、電極17との間隔が一定とされている。すなわち、上記領域において、電極17は電極指16aと隣接する部分において平行になっているので、主流方向に細胞Cが泳動する際、逆向きの誘電泳動力が働く区間がない、あるいは正の向きの領域に比べて無視できるほど小さい。
【0048】
(電場印加部の他の構成(その5))
図12は電場印加8部の他の構成を示す斜視図である。
図12に示すように、この電場印加部8では、図3に示した電極印加部が流路2の床面と天井面の2か所に設けられている(電極印加部8a、8b)。電極印加部8aと電極印加部8bとは、流路2を流れる細胞Cに対して逆方向(細胞取出部6側とは細胞取出部7側)に誘電泳動力を与える。
このような構成を有することで、投入部3において細胞Cを偏った位置より投入する必要もなく、またより確実に細胞Cの分取が可能となる。
【0049】
(作用効果)
予め何らかの別の手法による分取信号の発生が必要となるものの、細胞径や物性にばらつきを持った細胞群であっても、分取対象である細胞Cについてのみ、十分な誘電泳動力によって分取することが可能できるため、誘電泳動力感受率の違いによって分取する方法に比べ、分取精度が向上し、細胞治療等に用いるうえで絶対的に必要となる信頼性が高まる。
なお、本発明は、上記の実施形態には限定されず、その技術思想の範囲内で様々な変形が可能あり、その変形の範囲も本発明の技術的範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0050】
2 マイクロ流路
5 分取部
8 電場印加部
9 分岐部
11 細胞分取チップ
12 基板
15 電極パット(入力部)
16、17 電極
16a 電極指
18 電極対
C 細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む流体が流れる流路と、
前記流路の第1の位置で前記流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を、細胞の分取を指示する分取信号に応じて印加することが可能な電場印加部と、
前記流路の第1の位置より下流の第2の位置で前記電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐する分岐部と
を具備する細胞分取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞分取装置であって、
前記電場印加部は、前記電場を形成するための電極対を複数有し、
これら電極対のそれぞれ、又はいくつかに分けられた電極対グループのそれぞれは、個別に電場の制御が可能である
細胞分取装置。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞分取装置であって、
前記電場印加部は、前記電場を形成するための電極対を複数有し、
前記各電極対は、前記各電極対において誘電泳動力が極大となる位置が誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞の平均的な軌跡に沿うように、設けられている
細胞分取装置。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞分取装置であって、
前記電場印加部は、前記勾配を有する電場を形成するため、信号が印加される印加電極とコモン電極とからなる電極対を有し、
前記印加電極は、前記勾配を有する電場を形成するため領域以外の領域では、前記コモン電極との間隔が一定とされている
細胞分取装置。
【請求項5】
基板と、
基板に設けられ、細胞を含む流体が流れる流路と、
基板に設けられ、細胞を分取するための分取信号が入力される入力部と、
前記流路の第1の位置に設けられ、前記入力部から分取信号を使って前記流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を印加する電極対と、
前記流路の第1の位置より下流の第2の位置で前記電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐する分岐部と
を具備する細胞分取チップ。
【請求項6】
流路に細胞を含む流体を流し、
前記流路の第1の位置で前記流体が流れる方向とは異なる方向に勾配を有する電場を、細胞の分取を指示する分取信号に応じて印加し、
前記流路の第1の位置より下流の第2の位置で前記電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞を分岐することで、細胞を分取する
細胞分取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−98075(P2012−98075A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244096(P2010−244096)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)