説明

細胞分離装置

【課題】細胞を高い精度で分離しつつ健全な状態で回収する装置の提供。
【解決手段】誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路6と、該流路6内において流動方向の途中位置に配置された電極4と、該電極4からの距離に応じて電位傾度が変化する不平等電界を発生させるように電極4に電圧を印加する電圧供給部5と、電極4を覆い、細胞の径寸法より小さい径寸法の孔を有する電気絶縁材料からなる絶縁部材3とを備える細胞分離装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞が有する誘電泳動特性を利用して細胞を種類によって分離する装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−227111号公報
【特許文献2】特開2008−263847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞が誘電泳動力によって電極側へ引き寄せられたときに、電極に接触して電気的な衝撃を受けることにより損傷を受けてしまうという問題がある。また、細胞の電極への接触を防ぐために電極に印加する電圧を小さくして電位傾度を小さくすると、誘電泳動特性による細胞の分離の精度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞を高い精度で分離しつつ健全な状態で回収することができる細胞分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路と、該流路内において流動方向の途中位置に配置された電極と、該電極からの距離に応じて電位傾度が変化する不平等電界を発生させるように前記電極に電圧を印加する電圧供給部と、前記電極を覆い、前記細胞の径寸法より小さい径寸法の孔を有する電気絶縁材料からなる絶縁部材とを備える細胞分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、電圧供給部により電極から不平等電界を発生させた流路内へ細胞浮遊液を流動させると、各細胞には、不平等電界中において誘電泳動特性に応じた、電極に近接または電極から離間する方向の誘電泳動力が発生し、細胞の種類によって流路内の移動速度に差が生じることにより、細胞浮遊液中の細胞を種類によって分離することができる。
【0008】
この場合に、電極から発生した不平等電界は絶縁部材の孔内を通って流路内へ広がり、また、細胞が誘電泳動力によって電極に引き寄せられても、絶縁部材によって電気的な衝撃から保護される。
これにより、不平等電界の電位傾度を小さくすることなく細胞が電極によって損傷を受けることを防止して、細胞を高い精度で分離しつつ健全な状態で回収することができる。
【0009】
上記発明においては、前記孔の径寸法が、5μm以下であることが好ましい。
このようにすることで、細胞が絶縁部材を通過するのをより確実に禁止して細胞の損傷をより確実に防ぐことができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記絶縁部材が、ポリエチレン、ポリエスエルおよびポリウレタンのうち少なくとも1つからなることとしてもよく、不織布からなることとしてもよい。
このようにすることで、絶縁部材による細胞への影響を低減しつつ、絶縁部材を安価にかつ簡略に設けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞を高い精度で分離しつつ健全な状態で回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置の全体構成図である。
【図2】図1の分離容器と電極の構成を示す平面図である。
【図3】図2の電極および絶縁部材の構成を示す断面図である。
【図4】櫛歯状電極により形成される高周波不平等電界および細胞の分離方法を説明する概念図である。
【図5】図1の細胞分離装置の変形例を示す図である。
【図6】針状電極と平板状電極とにより形成される高周波不平等電界および細胞の分離方法を説明する概念図である。
【図7】図5の細胞分離装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1について、図1〜図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1に示されるように、細胞浮遊液を収容する収容容器2と、絶縁部材3により覆われた電極4および高周波電源(電圧供給部)5を備える分離容器(流路)6と、該分離容器6から流出した細胞浮遊液を回収する回収容器7と、各容器2,6,7を接続するチューブ8内に送りをかける送液ポンプ9とを備えている。
【0014】
収容容器2は、分離すべき複数の種類の細胞を含んだ細胞浮遊液を収容している。本実施形態においては、説明を簡略にするために、正および負の誘電泳動特性を有する2種類の細胞A,Bを含むこととする。
分離容器6は、対向する面に入口6aと出口6bとが設けられた直方体であり、入口6aを略鉛直上方に、出口6bを略鉛直下方に向けて配置されている。また、分離容器6内には電極4が、分離容器6外には電極4に接続された高周波電源5が配置されている。
【0015】
電極4は、図2に示されるように、複数の直棒状電極4a,4bが略水平面内において間隔を空けて略平行に配列した2つの櫛歯状電極4A,4Bからなり、各櫛歯状電極4A,4Bの直棒状電極4a,4bが交互に噛み合わされて配置されている。
また、電極4は、図3に示されるように、多数の孔3aを有する絶縁部材3によって表面全体が覆われている。絶縁部材3には、例えば、ポリエチレン、ポリエステルまたはポリウレタンなどの生体適合性が高く絶縁性に優れたプラスチック材料が用いられる。孔3aの径寸法は、細胞A,Bの径寸法より小さく、電極4から発生した高周波不平等電界(不平等電界)が遮断されずに絶縁部材3の外部へ伝搬可能な大きさ、例えば、1μm程度が好ましい。
【0016】
高周波電源5は、櫛歯型電極4A,4B間に接続され、発生させる高周波電圧の大きさおよび周波数を調節可能になっている。
高周波電源5により櫛歯状電極4A,4Bに高周波電圧を印加すると、各直棒状電極4a,4bから発生した電界が、絶縁部材3の多数の孔3aから絶縁部材3の外部へ伝搬して広がる。そして、図4に示されるように、直棒状電極4a,4bから上下方向に距離が離れるにしたがって電気力線の密度が小さくなる、すなわち、電位傾度が小さくなる高周波不平等電界が電極4近傍に形成される。
【0017】
高周波不平等電界中において、正の誘電泳動特性を有する細胞Aには直棒状電極4a,4に近接する方向の、負の誘電泳動特性を有する細胞Bには直棒状電極4a,4bから離間する方向の誘電泳動力が作用する。このときに、負の誘電泳動特性を有する細胞Bに働く誘電泳動力と重力および細胞浮遊液の流れによる力とが釣り合うように、高周波電圧の大きさが設定されている。
【0018】
回収容器7は、分離すべき細胞の種類に合わせて複数、本実施形態では2つ設けられている。
チューブ8は、収容容器2から分離容器6の入り口6aへ、また、分離容器6の出口6bから3方バルブV1を介して各回収容器7へ接続されている。
【0019】
送液ポンプ9は、チューブ8内および分離容器6内において細胞浮遊液が層流を形成しながら流動するように、流量が調節されている。
送液ポンプ9を作動させると、収容容器2内から分離容器6内へ流入した細胞浮遊液が分離容器6内を略鉛直下方に向かって流動し、分離容器6の出口6bから流出した細胞浮遊液は、3方バルブV1によって選択された一方の回収容器7内に回収されるようになっている。
【0020】
このように構成された細胞分離装置1の動作および作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて細胞浮遊液内の正または負の誘電泳動特性を有する細胞A,Bを分離するには、電極4に高周波電圧を印加した状態で細胞浮遊液を収容容器2から回収容器7へ向けて流動させる。
【0021】
負の誘電泳動特性を有する細胞Bは、電極4の近傍に近付くと、細胞浮遊液の流れに抗する方向の誘電泳動力によって電極4の上流側に留まる。一方、正の誘電泳動特性を有する細胞Aは、電極4に引き寄せられつつ、重力と細胞浮遊液の流れによって電極4を通過して一方の回収容器7内に回収される。続いて、細胞浮遊液を回収する回収容器7を他方に切り替え、高周波電圧の印加を解除すると、それまで電極4の上流に留まっていた負の誘電泳動特性を有する細胞Bは、誘電泳動力が失われて流れに沿って流動して他方の回収容器7内に回収される。
【0022】
この場合に、本実施形態によれば、正の誘電泳動特性を有する細胞Aが電極4に引き寄せられて接触しても、絶縁部材3によって細胞Aは電極4から電気的に絶縁されるため、細胞Aが電気的な衝撃を受けることが防止される。これにより、高周波不平等電界の電位傾度を小さくすることなく正の誘電泳動特性を有する細胞Aの損傷を防止して、細胞A,Bの分離の精度を高く維持したまま、健全な状態でいずれの細胞A,Bも回収することができるという利点がある。また、細胞浮遊液の流動方向を重力と略同一の方向にすることにより、正の誘電泳動特性を有する細胞Aを分離容器6内においてよりスムーズに流動させることができるという利点がある。
【0023】
上記実施形態においては、絶縁部材3として絶縁性のプラスチックを用いることしたが、これに代えて、不織布を用いることしてもよい。
このようにしても、細胞A,Bの通過を禁止して電極4との電気的接触を防止しつつ、高周波不平等電界を分離容器6内に正常に発生させることができる。
【0024】
また、上記実施形態においては、電極4として櫛歯状電極4A,4Bを用いることとしたが、これに代えて、図5に示されるように、対向して配置された針状電極4cと平板状電極4dとを用いることとしてもよい。
針状電極4cと平板状電極4dは、分離容器6内の流動方向に交差する方向に対向して配置される。針状電極4cは、流動方向に沿って間隔を空けて複数配置されていることが好ましい。また、絶縁部材3は、少なくとも針状電極4cの表面に、好ましくは両方の電極4c,4dの表面に設けられる。
【0025】
針状電極4cと平板状電極4dとの間に高周波電圧を印加すると、図6に示されるように、針状電極4cから平板状電極4dへ向かって電位傾度が小さくなる高周波不平等電界が形成される。これにより、正の誘電泳動特性を有する細胞Aは針状電極4cに引き寄せられて針状電極4c近傍に捕集され、負の誘電泳動特性を有する細胞Bは平板状電極4d側へ引き寄せられつつ細胞浮遊液の流れに乗って回収容器7へ流動する。この場合、上記実施形態と異なり、始めに負の誘電泳動特性を有する細胞Bを回収容器7に回収した後、高周波電圧の印加を解除して正の誘電泳動特性を有する細胞Aを他方の回収容器7に回収する。
【0026】
このようにしても、高い分離精度を維持しつつ、健全な状態で各種類の細胞A,Bを回収することができる。また、電極4に形状が簡易なものを用いることにより、絶縁部材3の形状も簡易にすることができる。
【0027】
また、この場合に、針状電極4cを覆う絶縁部材3に代えて、図7に示されるように、針状電極4cと平板状電極4dとを区画する電気絶縁材料からなるフィルタ3bを設けることとしてもよい。フィルタ3bは、細胞A,Bの径寸法よりも小さい孔径のものが用いられる。
【0028】
針状電極4cと平板状電極4dとの間に高周波不平等電界を形成させた状態で細胞浮遊液を平板状電極4d側の空間に流動させると、正の誘電泳動特性を有する細胞Aがフィルタ3bの表面に沿って捕集される。このようにしても、簡易な構成で正の誘電泳動特性を有する細胞Aと針状電極4cとの電気的な接触を防止して、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 細胞分離装置
2 収容容器
3 絶縁部材
3a 孔
3b フィルタ
4 電極
4A,4B 櫛歯状電極
4a,4b 直棒状電極
4c 針状電極
4d 平板状電極
5 高周波電源(電圧供給部)
6 分離容器(流路)
6a 入口
6b 出口
7 回収容器
8 チューブ
9 送液ポンプ
V1 3方バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路と、
該流路内において流動方向の途中位置に配置された電極と、
該電極からの距離に応じて電位傾度が変化する不平等電界を発生させるように前記電極に電圧を印加する電圧供給部と、
前記電極を覆い、前記細胞の径寸法より小さい径寸法の孔を有する電気絶縁材料からなる絶縁部材とを備える細胞分離装置。
【請求項2】
前記孔の径寸法が、5μm以下である請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記絶縁部材が、ポリエチレン、ポリエスエルおよびポリウレタンのうち少なくとも1つからなる請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記絶縁部材が、不織布からなる請求項1に記載の細胞分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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