説明

細胞分離装置

【課題】滅菌性を担保しながら、活性化された状態で細胞を回収する、脂肪組織から幹細胞などを含む脂肪由来細胞を分離する細胞分離装置を提供する。
【解決手段】生体組織を消化して該生体組織から細胞を遊離させた細胞懸濁液を生成する分解処理部2と、該分解処理部2において生成された細胞懸濁液を濃縮する細胞濃縮部3と、細胞懸濁液を収容する収容容器8と、分解処理部2、細胞濃縮部3および収容容器8に接続され、細胞懸濁液を搬送する搬送経路6と、収容容器8内に収容された細胞懸濁液の状態を表す状態量を測定する状態量測定部11と、収容容器8内に収容された細胞懸濁液に含まれる細胞に刺激を与える細胞刺激手段10と、状態量測定部11により測定された状態量に基づいて、細胞刺激手段10により細胞に与える刺激の大きさを制御する制御部7とを備える細胞分離装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体から採取した脂肪組織から幹細胞などを含む脂肪由来細胞を分離する細胞分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。分離された脂肪由来細胞は、例えば、体内に移植されるなどして治療に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−136168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体内から取り出されて様々な処理が施された脂肪由来細胞は機能が低下した状態で回収され、この状態のまま続けて治療に用いても十分な治療効果を得ることが難しい。したがって、治療に使用する前に脂肪由来細胞に刺激を与えて賦活化することが望まれる。しかしながら、細胞を賦活化させる操作は煩雑であり、雑菌の混入等の問題を引き起こす可能性があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、滅菌性を担保しながら、活性化された状態で細胞を回収することができる細胞分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を消化して該生体組織から細胞を遊離させた細胞懸濁液を生成する分解処理部と、該分解処理部において生成された細胞懸濁液を濃縮する細胞濃縮部と、前記細胞懸濁液を収容する収容容器と、前記分解処理部、前記細胞濃縮部および前記収容容器に接続され、前記細胞懸濁液を搬送する搬送経路と、前記収容容器内に収容された細胞懸濁液の状態を示す状態量を測定する状態量測定部と、前記収容容器内に収容された細胞懸濁液に含まれる細胞に刺激を与える細胞刺激手段と、前記状態量測定部により測定された状態量に基づいて、前記細胞刺激手段により前記細胞に与える刺激の大きさを制御する制御部とを備える細胞分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、分解処理部において生体組織を消化して生成された細胞懸濁液を、搬送経路を介して細胞濃縮部に搬送して濃縮することにより、生体組織から分離された細胞の濃縮物を得ることができる。
この場合に、細胞懸濁液は、処理の途中において一旦収容容器内に収容されると、そのときの状態量が状態量測定部によって測定される。そして、制御部によって適切に制御された大きさの刺激が細胞刺激手段により細胞懸濁液中の細胞に与えられる。これにより、閉鎖系の中で滅菌性を担保しながら細胞を賦活化して、活性化された状態の細胞を得ることができる。
【0008】
上記発明においては、前記状態量測定部が、前記収容容器内の細胞懸濁液の温度を測定する温度センサであり、前記細胞刺激手段が、前記収容容器内を加温するヒータを備え、前記制御部が、前記温度センサにより測定された前記細胞懸濁液の温度に基づいて、前記ヒータの温度を制御することとしてもよい。
このようにすることで、熱により細胞を賦活化することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記収容容器内を撹拌する撹拌手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液を撹拌しながら加温することにより、細胞懸濁液の各位置における温度を均一にし、各細胞を満遍なく賦活化することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記状態量測定部が、前記収容容器内の前記細胞懸濁液の液量を測定する液量センサであり、前記細胞刺激手段が、前記収容容器内に超音波を発生させる超音波振動子を備え、前記制御部が、前記液量センサにより測定された前記細胞懸濁液の液量に基づいて、前記超音波振動子により発生させる超音波の出力を制御することとしてもよい。
このようにすることで、超音波により細胞を賦活化することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記状態量測定部が、前記収容容器に収容された前記細胞懸濁液の酸素濃度を測定する酸素濃度センサであり、前記細胞刺激手段が、前記収容容器内に空気より低い酸素濃度のガスを供給する低酸素ガス供給部を備え、前記制御部が、前記酸素濃度センサにより測定された酸素濃度に基づいて、前記低酸素ガス供給部から前記収容容器内に供給する前記ガスの供給量を制御することとしてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液の酸素濃度を低下させて細胞を賦活化することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記状態量測定部が、前記収容容器に収容された前記細胞懸濁液の液量を測定する液量センサであり、前記細胞刺激手段が、前記収容容器内に前記細胞を賦活化する賦活化剤を供給する賦活化剤供給部を備え、前記制御部が、前記液量センサにより測定された液量に基づいて、前記賦活化剤供給部から前記収容容器内に供給する前記賦活化剤の供給量を制御することとしてもよい。
このようにすることで、賦活化剤により細胞を賦活化することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記賦活化剤を除去する賦活化剤除去手段を備えることが好ましい。
このようにすることで、細胞を賦活化した後には不要な賦活化剤を除去することができる。
また、上記発明においては、前記賦活化剤が、成長因子または一酸化窒素生産因子であることとしてもよい。
このようにすることで、細胞を効率的に賦活化することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記状態量測定部が、前記収容容器内の前記細胞懸濁液に含まれる前記細胞の密度を測定する細胞密度計であり、前記細胞刺激手段が、前記収容容器内において、前記細胞懸濁液に含まれる前記細胞を互いに接触させることにより前記細胞に刺激を与え、前記制御部が、前記細胞密度計により測定された密度に基づいて、前記搬送経路により前記収容容器内に供給する前記細胞懸濁液の供給量を制御する請求項1に記載の細胞分離装こととしてもよい。
このようにすることで、細胞を適切な条件で互いに接触させることにより賦活化することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記細胞刺激手段は、前記収容容器の内面が、前記細胞が接着しない非接着材料により被覆されていることにより、前記細胞を凝集させることとしてもよい。
前記細胞刺激手段は、前記収容容器の底面に溝が形成されていることにより、前記溝内で前記細胞を凝集させることとしてよい。
このようにすることで、簡便に効率良く細胞を凝集させて互いに接触させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、滅菌性を担保しながら、活性化された状態の細胞を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る細胞分離装置の全体構成図である。
【図2】温度と賦活化された脂肪由来細胞の数との関係を示すグラフである。
【図3】加温時間と賦活化された脂肪由来細胞の数との関係を示すグラフである。
【図4】図1の細胞分離装置の変形例であり、超音波により脂肪由来細胞を賦活化するときの構成を示す図である。
【図5】図1の細胞分離装置のもう1つの変形例であり、細胞懸濁液を低酸素状態にすることにより脂肪由来細胞を賦活化するときの構成を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る細胞分離装置の全体構成図である。
【図7】細胞刺激容器の変形例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る細胞分離装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態について、図1〜図5を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1に示されるように、脂肪組織(生体組織)を消化することにより脂肪由来細胞(細胞)の細胞懸濁液を生成する分解処理部2と、遠心分離により脂肪由来細胞を洗浄および濃縮する細胞濃縮部3と、洗浄液を収容する洗浄液バッグ4と、分解処理部2および細胞濃縮部3で生じた廃液が排出される廃液バッグ5と、分解処理部2、細胞濃縮部3および各バッグ4,5の間で溶液を搬送する搬送経路6と、分解処理部2、細胞濃縮部3および搬送経路6の動作を制御するコンピュータ(制御部)7とを備えている。
【0019】
分解処理部2は、脂肪組織を収集する収集容器(収容容器)8と、該収集容器8を振とうさせる振とう機(撹拌手段)9と、収集容器8内を加温するヒータ(細胞刺激手段)10と、収集容器8内の温度を測定する温度センサ(状態量測定部)11とを備えている。
【0020】
収集容器8は、上部に設けられた導入口8aに図示しないカニューレが接続され、該カニューレによりヒトの体内から吸引されてきた脂肪組織を収集する。収集容器8の底面8bは一方向に傾斜し、その最も低い位置に排出口が設けられている。排出口は、脂肪組織を捕捉し脂肪由来細胞を通過させるフィルタ8cにより覆われている。また、収集容器8は、操作者による操作により、上部の酵素供給口8dからシリンジ等を用いて消化酵素液が供給される。
【0021】
振とう機9は、上部が開放された筒状の台9aを有し、収集容器8を台9aの内部に収納して台9aを並進回転させることにより、収集容器8の内容物を撹拌する。
ヒータ10は、例えば、シート状であり、台9aの内面に設けられている。
温度センサ11は、赤外線式または熱電対が用いられる。温度センサ11は、台9aに貫通して設けられた窓に設置され、赤外線式の場合は、収集容器8の側壁との間に隙間を空けて配置され、熱電対の場合は、収集容器8の側壁に接触して配置される。
【0022】
収集容器8内に収集された脂肪組織は、消化酵素液とともに振とう機9により撹拌されて消化される。これにより、脂肪組織に結合していた脂肪由来細胞が消化酵素液内に遊離して細胞懸濁液が生成される。また、生成された細胞懸濁液は、撹拌後に収集容器8を静置することにより脂肪組織の残渣と層分離して下層に貯留し、この状態で排出口から排出すると細胞懸濁液が選択的に収集容器8から排出されるようになっている。
【0023】
細胞濃縮部3は、1対の遠心分離容器12と、該遠心分離容器12を、底部を半径方向外方に向けて回転させる遠心分離機(賦活化剤除去手段)13とを備えている。
遠心分離容器12は、搬送経路6を介して収集容器8から排出された細胞懸濁液を収容する。遠心分離容器12は、深さ方向の途中位置まで配管12aが挿入され、搬送経路6により配管12a内を吸引すると遠心分離容器12内の溶液が所定量を残して排出される。このときに、細胞懸濁液を遠心分離してから配管12aを介して排出すると、沈殿した脂肪由来細胞を底部に残したまま上清が選択的に排出されるようになっている。
【0024】
洗浄液バッグ4は、洗浄液として、例えば、生理食塩水や乳酸リンゲン緩衝液などを収容している。
搬送経路6は、継手14を介して各容器8,12および各バッグ4,5を接続するチューブ15と、該チューブ15の途中位置に配置され、チューブ15内の液体に非接触で送りをかける送液ポンプ16と、該ポンプ16による送液経路を切り替えるバルブV1〜V10とを備えている。
【0025】
コンピュータ7は、記憶部およびCPU(中央演算装置)を備え、脂肪組織の処理手順に従って作成されたプログラムが記憶部に記憶されている。コンピュータ7は、図示しない配線を介して、振とう機9、ヒータ10、温度センサ11、遠心分離機13、ポンプ16および各バルブV1〜V10と接続され、これらをプログラムに従って動作させるようになっている。
【0026】
このときに、コンピュータ7は、収集容器8内で脂肪組織を消化するときは、温度センサ11により測定される温度が37℃に保たれるようにヒータ10の温度を制御しながら、振とう機9により所定時間収集容器8内を撹拌させる。続いて、コンピュータ7は、ヒータ11の温度を上げて、温度センサ10により測定される温度が38〜42℃、より好ましくは40℃に保たれるようにヒータ11の温度を制御しながら、所定時間、好ましくは、30分間程度、振とう機9により収集容器8内を撹拌させるようになっている。このときに、温度センサ10により測定される温度、すなわち、細胞懸濁液の温度が42℃を超えると、脂肪由来細胞内のタンパク質が凝集するなどして脂肪由来細胞の機能が失われる可能性があるため好ましくない。
【0027】
このように構成された細胞分離装置1の動作および作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、収集容器8内に脂肪組織が収集され、操作者により消化酵素液が供給されると、脂肪組織と消化酵素液とを所定時間撹拌することにより細胞懸濁液を生成する。続いて、細胞分離装置1は、細胞懸濁液の温度を37℃から上昇させ、38〜42℃に保った状態でさらに細胞懸濁液の撹拌を続けた後、収集容器8を静置させてから細胞懸濁液を遠心分離容器12に搬送する。次に、細胞分離装置1は、細胞懸濁液を遠心分離することにより脂肪由来細胞を沈降させ、配管12aを介して上清を排出した後、洗浄液の供給、遠心分離、上清の排出を数回繰り返す。これにより、細胞懸濁液に含まれていた消化酵素液が除去され、遠心分離容器12内に純度の高い脂肪由来細胞の濃縮物が得られる。
【0028】
この場合に、本実施形態によれば、脂肪組織の消化後に細胞懸濁液の温度を37℃からさらに上昇させることにより、それまで機能が低下していた細胞懸濁液中の脂肪由来細胞が刺激される。これにより、脂肪由来細胞が賦活化されて活性が高められた状態となり、回収されてからそのまま治療に使用しても、迅速に十分な治療効果を得ることができるという利点がある。また、熱を利用して非接触で脂肪由来細胞に刺激を与えることにより、閉鎖系であっても簡便な構成および操作で脂肪由来細胞を活性化させることができるとともに、脂肪由来細胞の滅菌性を担保することができるという利点がある。
【0029】
図2に、温度を変化させたときの脂肪由来細胞の活性の状態を測定した結果を示す。
まず、ヒトの脂肪組織から分離した脂肪由来細胞を、30分間所定の温度で保温することにより熱処理した。次に、日本ベクトン・ディッキソン社製のBD BioCoatマトリゲルインベージョンチャンバーを用いて、このチャンバー内を移動した脂肪由来細胞(以下、遊走細胞という。)の数を計測した。具体的には、ウェルに100ng/mlのSDF−1を添加した10%FBS培地を入れ、セルカルチャーインサート内に熱処理した脂肪由来細胞を入れて24時間培養した後、セルカルチャーインサートからウェルに移動した遊走細胞数をカウントした。
【0030】
以上の実験を、略同一の細胞数に調製した脂肪由来細胞の細胞懸濁液を用いて、37,38,40,42および43℃で熱処理した場合について行った。これにより、SDF−1およびFBSに誘引されて移動した十分に高い活性を有する脂肪由来細胞の数を計測し、熱処理による賦活化の効果を評価した。図2は、各温度で計測された遊走細胞数を、37℃のときに計測された遊走細胞数を1としたときの比率に換算して表している。図2から、遊走細胞数は、37℃から温度の上昇とともに増加して40℃で最大となった後に減少し、43℃では37℃のときの値を下回っていることが分かる。すなわち、ヒトの脂肪由来細胞は、40℃で最も活性の高い状態となることが確認された。
【0031】
また、図3に、ヒトの脂肪組織から分離した脂肪由来細胞の細胞懸濁液を40℃に加温したときの、加温時間と遊走細胞数との関係を測定した結果を示す。遊走細胞数の計測は、図2に示される実験と同様にして行った。図3から、40℃の熱が与えられてから時間とともに遊走細胞数が増加し、30分が経過したときは十分に活性が高められた状態となることが確認された。
【0032】
上記実施形態においては、収集容器8内において脂肪由来細胞を賦活化することとたが、これに代えて、遠心分離容器(収容容器)12内において脂肪由来細胞を賦活化することとしてもよい。この場合、ホルダ13aに図示しないヒータと温度センサとが別途設けられる。このようにすることで、脂肪由来細胞が賦活化されてから治療に使用されるまでの時間が短縮され、活性がより高く維持された状態で脂肪由来細胞を治療に用いることができる。
【0033】
また、上記実施形態においては、脂肪由来細胞を加温することにより賦活化することとしたが、これに代えて、超音波を照射することにより賦活化することとしてもよい。
この場合、図4に示されるように、収集容器8の側面近傍に超音波振動子(細胞刺激手段)17が設けられ、図示しない超音波発生器から超音波振動子17に高周波電力を供給することにより、収集容器8内に超音波が発生するようになっている。
【0034】
また、この場合、収集容器8内の細胞懸濁液の界面を検出する界面センサ(状態量測定部)18が設けられる。界面センサ18は、収集容器8の深さ方向の各位置においてレーザ光Lを略水平方向に出射するとともに、収集容器8を通過してきたレーザ光Lを収集容器8の深さ方向の各位置において受光する。これにより、界面センサ18は、各位置で受光されたレーザ光Lの強度の差から、細胞懸濁液と脂肪組織の残渣との界面を検出するようになっている。
【0035】
コンピュータ7は、収集容器8内で脂肪組織の消化が終了すると、所定時間待って収集容器8内で細胞懸濁液と脂肪組織の残渣とを層分離させてから、界面センサ18により細胞懸濁液と脂肪組織の残渣との界面の深さ位置を検出させる。そして、コンピュータ7は、検出された界面の深さ位置に基づいて、超音波発生器から超音波振動子17に供給する超音波の出力を設定し、収集容器8内に超音波を発生させる。
このようにしても、非接触で脂肪由来細胞を賦活化することができる。また、細胞懸濁液の液量に応じて発生させる超音波の出力を制御することにより、適切な大きさの刺激を脂肪由来細胞に与えることができる。
【0036】
なお、界面センサ18には、超音波式または磁気式のものを用いることとしてもよい。この場合、細胞懸濁液の上層に脂肪組織の残渣が存在すると、細胞懸濁液の液量が正しく測定されないので、遠心分離容器12内、または、別途設けられた図示しない収容容器内で細胞懸濁液の液面を検出して超音波を発生させることが好ましい。
また、界面センサ18に代えて、収集容器8の重量を測定する重量センサ(図示略、状態量測定部)を設け、コンピュータ7が、重量センサにより測定された収集容器8の内容物の重量に応じて超音波の出力を制御することとしてもよい。
【0037】
また、上記実施形態においては、脂肪由来細胞の周辺環境を低酸素にすることにより脂肪由来細胞を賦活化することとしてもよい。
この場合、図5に示されるように、溶存酸素計(状態量測定部、酸素濃度センサ)19が収集容器8に設けられ、ガスボンベ(細胞刺激手段、低酸素ガス供給部)20に接続された配管20aがバルブV11を介して収集容器8内の底部近傍まで挿入される。ガスボンベ20内のガスは、脂肪由来細胞への影響を抑えながら細胞懸濁液中の酸素を効果的に希釈できるもの、例えば、純窒素などの不活性ガスが好ましい。コンピュータ7は、溶存酸素計19により測定される溶存酸素濃度が所定値まで低下するまで、バルブV11を開放してガスを細胞懸濁液内に供給するようになっている。配管20aの途中位置にはガス中の塵埃を除去するエアフィルタ21が設けられていてもよい。
【0038】
または、洗浄液バッグ4の材質にガス透過性材料を使用し、洗浄液バッグ4を密閉された容器(図示略)内に設置する。そして、容器内を低酸素雰囲気にすることにより溶存酸素量を低下させた洗浄液を細胞懸濁液に供給することとしてもよい。
このようにしても、簡便な操作と構成で脂肪由来細胞の滅菌性を保持しながら脂肪由来細胞を賦活化することができる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態について、図6および図7を参照して以下に説明する。
なお、本実施形態においては、第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と異なる点について主に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図6に示されるように、細胞刺激容器(収容容器、細胞刺激手段)22と、チューブ15の途中位置に配置された濁度センサ(状態量測定部、細胞密度計)23とを備えている。
【0040】
細胞刺激容器22は、脂肪由来細胞が容易に接着しない非接着性材料により内面がコートされている。非接着性材料としては、例えば、シリコーン、リン脂質、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などが用いられる。これにより、細胞刺激容器22内に細胞懸濁液が収容されると、内壁に接着することができない脂肪由来細胞は、互いに接着して凝集するようになっている。
濁度センサ23は、収集容器8から細胞刺激容器22に細胞懸濁液が搬送されるチューブ15の途中位置に配置され、チューブ15内を通過する細胞懸濁液の濁度を測定する。一般に、細胞懸濁液中の細胞密度と濁度とは正の比例関係にあることが知られている。
【0041】
コンピュータ7は、例えば、予め脂肪由来細胞の密度が既知の細胞懸濁液の濁度を測定することにより、濁度と脂肪由来細胞の密度との関係が記憶されている。これにより、コンピュータ7は、濁度センサ23により測定された濁度から、細胞懸濁液に含まれる脂肪由来細胞の密度を算出するようになっている。また、コンピュータ7は、細胞刺激容器22内へ供給する細胞数が予め設定され、算出した脂肪由来細胞の密度に基づいて、細胞刺激容器22へ供給する細胞懸濁液の供給量を算出し、ポンプ15による送液時間を設定するようになっている。
【0042】
このように構成された細胞分離装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、収集容器8内で細胞懸濁液を生成すると、収集容器8から細胞刺激容器22へ細胞懸濁液を送液する。そして、細胞刺激容器22内の細胞数が所定の値に達すると、細胞分離装置1は、細胞懸濁液の送液を停止し、所定時間待つことにより細胞刺激容器22内で脂肪由来細胞を互いに凝集させる。続いて、細胞分離装置1は、細胞刺激容器22から遠心分離容器12へ細胞懸濁液を搬送して脂肪由来細胞を洗浄し濃縮する。
【0043】
この場合に、本実施形態によれば、脂肪由来細胞が細胞刺激容器22内において適切な細胞数で互いに接触することにより賦活化される。これにより、閉鎖系を保ちながら、簡便な構成と操作で活性の高い状態の脂肪由来細胞を得ることができるという利点がある。
【0044】
上記実施形態においては、細胞刺激容器22の内面が非接着材料によりコートされていることとしたが、これに代えて、図7に示されるように、細胞刺激容器22の底面に溝22aが形成されていてもよい。このようにしても、脂肪由来細胞Aが溝22a内に凝集しなら沈んで互いに接触することにより、脂肪由来細胞Aを賦活化することができる。このときに、溝22aは、脂肪由来細胞Aの凝集塊の大きさにばらつきが生じないように、底面全面に均一に形成されていることが好ましい。
【0045】
次に、本発明の第3の実施形態について、図8を参照して以下に説明する。
なお、本実施形態においても第2の実施形態と同様に、第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と異なる点について主に説明することとする。
【0046】
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図8に示されるように、賦活化剤溶液を収容する薬剤バッグ(細胞刺激手段、賦活化剤供給部)24と、収集容器8の外側に設けられた界面センサ(状態量測定部)18と、ホルダ13aに設けられたヒータ25と、収集容器の温度を測定する温度センサ26とを備えている。ヒータ25および温度センサ26は、第1の実施形態で説明したヒータ10および温度センサ11と同様の構成のものでよい。
【0047】
薬剤バッグ24は、搬送経路6を介して遠心分離容器12内へ接続されている。薬剤バッグ24は、使用時より高い濃度に調製された賦活化剤溶液を収容している。賦活化剤としては、成長因子およびNO発生因子が用いられる。
【0048】
成長因子としては、bFGF、HGFまたはSDF-1などが用いられる。NO発生因子としては、endothlial NO synthaseが用いられる。その他、mitochondtial potassuium channel openner、ACE inhibitor、tatin、angiotensin-converting enzyme inhibitor、angiotensin II tipe 1 receptor blocker、PPAR-gamma agonist、ertythropietin、Haeme Oxygenase、sphingosin-1-phosphate、FTY720、PPAR-gamma、agonist pioglitazoneなどを用いることも可能である。
【0049】
コンピュータ7は、脂肪組織を消化した後に、細胞懸濁液を収集容器8から遠心分離容器12に送液する前に、界面センサ22により収集容器8内の細胞懸濁液の界面を検出することにより、細胞懸濁液の液量を測定する。そして、コンピュータ7は、測定した細胞懸濁液の液量から、細胞懸濁液に賦活化剤溶液を供給したときの賦活化剤の最終濃度が所定値になるように、賦活化剤溶液の供給量を算出し、算出した供給量の賦活化剤溶液を遠心分離容器12に供給するようになっている。また、コンピュータ7は、温度センサ24により測定される温度が設定値に保たれるように、ヒータ23の温度を制御する。温度センサ24の温度の設定値は、賦活化剤が最も効率良く脂肪由来細胞に作用するように、使用される賦活化剤によって適宜選択されることが好ましい。
【0050】
このように構成された細胞分離装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、収集容器8内で細胞懸濁液を生成すると、該細胞懸濁液の液量を測定してから、細胞懸濁液を遠心分離容器12へ搬送する。続いて、細胞分離装置1は、遠心分離容器12内に、賦活化剤の濃度が所定値になるように賦活化剤溶液を供給し、所定時間待つことにより脂肪由来細胞と賦活化剤とを十分に反応させてから、脂肪由来細胞を洗浄して消化酵素液とともに賦活化剤を除去する。
【0051】
このように、本実施形態によれば、脂肪由来細胞に賦活化剤を添加することによっても、簡便な構成と操作で脂肪由来細胞を賦活化し、その後に行われる治療の効果を向上することができるという利点がある。また、細胞懸濁液の液量に応じて賦活化剤溶液の供給量を制御し、所定の温度で脂肪由来細胞と賦活化剤とを反応させることにより、脂肪由来細胞を効率的に賦活化することができるという利点がある。
【符号の説明】
【0052】
1 細胞分離装置
2 分解処理部
3 細胞濃縮部
4 洗浄液バッグ
5 廃液バッグ
6 搬送経路
7 コンピュータ(制御部)
8 収集容器(収容容器)
8a 導入口
8b 底面
8c 脂肪組織捕捉フィルタ
8d 酵素供給口
9 振とう機(撹拌手段)
10 ヒータ(細胞刺激手段)
11 温度センサ(状態量測定部)
12 遠心分離容器
12a 配管
13 遠心分離機(賦活化剤除去手段)
13a ホルダ
14 継手
15 チューブ
16 送液ポンプ
17 超音波振動子(細胞刺激手段)
18 界面センサ(状態量測定部)
19 溶存酸素センサ(酸素濃度センサ、状態量測定部)
20 ガスボンベ(細胞刺激手段、低酸素ガス供給部)
20a 配管
21 エアフィルタ
22 細胞刺激容器(収容容器)
23 濁度センサ(状態量測定部、細胞密度計)
24 薬剤バッグ(細胞刺激手段、賦活化剤供給部)
25 ヒータ
26 温度センサ
A 脂肪由来細胞
V1〜V13 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を消化して該生体組織から細胞を遊離させた細胞懸濁液を生成する分解処理部と、
該分解処理部において生成された細胞懸濁液を濃縮する細胞濃縮部と、
前記細胞懸濁液を収容する収容容器と、
前記分解処理部、前記細胞濃縮部および前記収容容器に接続され、前記細胞懸濁液を搬送する搬送経路と、
前記収容容器内に収容された細胞懸濁液の状態を表す状態量を測定する状態量測定部と、
前記収容容器内に収容された細胞懸濁液に含まれる細胞に刺激を与える細胞刺激手段と、
前記状態量測定部により測定された状態量に基づいて、前記細胞刺激手段により前記細胞に与える刺激の大きさを制御する制御部とを備える細胞分離装置。
【請求項2】
前記状態量測定部が、前記収容容器内の細胞懸濁液の温度を測定する温度センサであり、
前記細胞刺激手段が、前記収容容器内を加温するヒータを備え、
前記制御部が、前記温度センサにより測定された前記細胞懸濁液の温度に基づいて、前記ヒータの温度を制御する請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記収容容器内を撹拌する撹拌手段を備える請求項2に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記状態量測定部が、前記収容容器内の前記細胞懸濁液の液量を測定する液量センサであり、
前記細胞刺激手段が、前記収容容器内に超音波を発生させる超音波振動子を備え、
前記制御部が、前記液量センサにより測定された前記細胞懸濁液の液量に基づいて、前記超音波振動子により発生させる超音波の出力を制御する請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項5】
前記状態量測定部が、前記収容容器に収容された前記細胞懸濁液の酸素濃度を測定する酸素濃度センサであり、
前記細胞刺激手段が、前記収容容器内に空気より低い酸素濃度のガスを供給する低酸素ガス供給部を備え、
前記制御部が、前記酸素濃度センサにより測定された酸素濃度に基づいて、前記低酸素ガス供給部から前記収容容器内に供給する前記ガスの供給量を制御する請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項6】
前記状態量測定部が、前記収容容器に収容された前記細胞懸濁液の液量を測定する液量センサであり、
前記細胞刺激手段が、前記収容容器内に前記細胞を賦活化する賦活化剤を供給する賦活化剤供給部を備え、
前記制御部が、前記液量センサにより測定された液量に基づいて、前記賦活化剤供給部から前記収容容器内に供給する前記賦活化剤の供給量を制御する請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項7】
前記賦活化剤を除去する賦活化剤除去手段を備える請求項6に記載の細胞分離装置。
【請求項8】
前記賦活化剤が、成長因子または一酸化窒素生産因子である請求項6に記載の細胞分離装置。
【請求項9】
前記状態量測定部が、前記収容容器内の前記細胞懸濁液に含まれる前記細胞の密度を測定する細胞密度計であり、
前記細胞刺激手段が、前記収容容器内において、前記細胞懸濁液に含まれる前記細胞を互いに接触させることにより前記細胞に刺激を与え、
前記制御部が、前記細胞密度計により測定された密度に基づいて、前記搬送経路により前記収容容器内に供給する前記細胞懸濁液の供給量を制御する請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項10】
前記細胞刺激手段は、前記収容容器の内面が、前記細胞が接着しない非接着材料により被覆されていることにより、前記細胞を凝集させる請求項9に記載の細胞分離装置。
【請求項11】
前記細胞刺激手段は、前記収容容器の底面に溝が形成されていることにより、前記溝内で前記細胞を凝集させる請求項9に記載の細胞分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−172545(P2011−172545A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41117(P2010−41117)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】