説明

細胞分離装置

【課題】生体組織から細胞を高濃度に回収する。
【解決手段】細胞懸濁液内に含有されている細胞Cと他の成分とを分離する遠心分離機と、遠心分離機による細胞Cと他の成分との分離前の細胞懸濁液、または、遠心分離機による細胞Cと他の成分との分離中の細胞懸濁液に対して、細胞懸濁液に含まれる赤血球E中のヘモグロビンに選択的に吸収される波長帯域のレーザ光を照射するレーザ照射装置18とを備える細胞分離装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織から脂肪由来幹細胞群(以下、単に「細胞」という。)を分離する細胞分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の細胞分離装置は、脂肪組織等の生体組織を含む細胞懸濁液を収容した遠心分離容器を遠心分離容器から離れた軸線回りに回転させることにより、細胞懸濁液内に含有されている細胞と他の成分とを分離させ、細胞を濃縮して回収することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞懸濁液の中には赤血球が含まれており、遠心分離では比重がほぼ等しい細胞と赤血球とを分離することができないため、回収する最終生成物に赤血球が含まれてしまう。そのため、赤血球が含まれる分だけ、最終生成物における必要な細胞の濃度が低減するという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞を高濃度に回収することができる細胞分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、細胞懸濁液に含まれる細胞と他の成分とを分離する分離部と、該分離部による細胞と他の成分との分離前または分離中の前記細胞懸濁液に対して、ヘモグロビンに選択的に吸収される波長帯域のレーザ光を照射する照射部とを備える細胞分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、照射部から発せられたレーザ光を細胞懸濁液に照射し、細胞懸濁液に含まれる赤血球中のヘモグロビンにレーザ光を吸収させることにより、ヘモグロビンを加熱して赤血球を選択的に破壊する。分離部により、赤血球が破壊された細胞懸濁液中の細胞と他の成分とを分離することで、赤血球の容積が低減した分だけ最終生成物における細胞の濃度を向上することができる。したがって、細胞を高濃度に回収することができる。
【0008】
上記発明においては、前記分離部が、有底円筒状の遠心容器を所定の揺動軸線回りに揺動自在に支持可能な回転アームと、前記揺動軸線に対して離間した回転軸線回りに前記回転アームを回転させる回転駆動部とを備えることとしてもよい。
【0009】
このように構成することで、回転駆動部の作動により、遠心容器を支持させた回転アームを回転させると、遠心容器が回転軸線回りに回転させられ、その底部が半径方向外方に向かうように揺動軸線回りに揺動させられる。遠心容器に細胞懸濁液を収容して回転駆動部を作動させれば、細胞懸濁液に半径方向外方に向かう遠心力が作用し、細胞懸濁液中の細胞と他の成分とが遠心分離される。すなわち、比重の大きな細胞が遠心容器の底部に集められ、比重の小さい他の成分が細胞の上層に集められる。
【0010】
この場合において、細胞と赤血球は比重がほぼ等しいが、照射部からのレーザ照射により赤血球を予め破壊しておくか遠心分離中に破壊することで、細胞懸濁液中の細胞を赤血球を含む他の成分から容易かつ高効率に分離することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記細胞懸濁液に含まれる前記赤血球の数を測定する測定部と、該測定部により測定された前記赤血球の数に応じて、前記照射部において発生するレーザ光の強度を制御する制御部とを備えることとしてもよい。
【0012】
このように構成することで、制御部の作動により、測定部によって検体ごとに測定して得られる赤血球の数に応じた強度のレーザ光を照射部から細胞懸濁液に照射させることができる。したがって、必要最小限のレーザ照射により赤血球を破壊し、細胞懸濁液における赤血球周辺の細胞へのレーザ照射によるダメージ、および、細胞懸濁液における赤血球周辺の温度上昇による細胞へのダメージを抑えることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記細胞と前記他の成分とが分離する前の前記細胞懸濁液を収容する収容容器と、該収容容器より小さい断面積を有し、該収容容器内の前記細胞懸濁液を外部に流通させる配管とを備え、前記照射部が前記配管に設けられていることとしてもよい。
【0014】
このように構成することで、照射部により、配管を流通中の細胞懸濁液にレーザ光が照射されて赤血球が破壊される。配管を流通中の細胞懸濁液は、配管の断面積に従いその密度が制限されるので、断面積が大きい収容容器に収容されている細胞懸濁液にレーザ光を照射する場合のように、深部まで到達する程のレーザ強度や多量の赤血球に一括で照射するためのレーザ強度を必要としなくて済む。したがって、レーザ光の強度を比較的低減することができ、細胞懸濁液における赤血球周辺の細胞へのダメージを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞を高濃度に回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る前処理ユニットの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る遠心分離ユニットの概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態の変形例に係る前処理ユニットの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置100は、図1および図2に示すように、細胞懸濁液に含まれる細胞Cと他の成分とを分離する前に細胞懸濁液中の赤血球Eを破壊する前処理ユニット10と、前処理ユニット10により赤血球Eが破壊された細胞懸濁液中の細胞Cと他の成分とを分離する遠心分離ユニット30とを備えている。
【0018】
前処理ユニット10は、図1に示すように、前処理前(赤血球Eを破壊する前)の細胞懸濁液を収容する細胞収集容器(収容容器)11と、前処理後の細胞懸濁液を収容する細胞分離容器13と、細胞収集容器11と細胞分離容器13とを連結し細胞懸濁液を流通させる配管15とを備えている。
【0019】
配管15は、流通方向に直交する断面積が細胞収集容器11の深さ方向に直交する断面積より小さく、光学特性が安定する形状と材質で形成されている。この配管15には、細胞収集容器11から細胞分離容器13へ送られる細胞懸濁液に含まれる赤血球Eの数を測定する計測器(測定部)17と、管内を流通している細胞懸濁液にレーザ光を照射するレーザ照射装置(照射部)18と、レーザ照射装置18から発するレーザ光の強度を制御する制御部19とが備えられている。
【0020】
計測器17は、細胞懸濁液中の赤血球Eを判別し、その数を光学的に計測するセンサ(図示略)を備えている。
レーザ照射装置18は、赤血球中のヘモグロビンに選択的に吸収される波長帯域(例えば、約400nmから約600nmの範囲)のレーザ光を発するようになっている。
これらの計測器17とレーザ照射装置18は、それぞれ2つずつ設けられ、細胞収集容器11側から細胞分離容器13側に向かって計測器17、レーザ照射装置18の順に交互に配置されている。
【0021】
制御部19は、計測器17により測定された赤血球Eの数に応じて、レーザ照射装置18から発生させるレーザ光の強度を制御するようになっている。すなわち、制御部19は、細胞懸濁液中に赤血球Eの数が多いとレーザ強度を強め、細胞懸濁液中に赤血球Eの数が少ないとレーザ強度を弱めるようになっている。
【0022】
遠心分離ユニット30は、図2に示すように、細胞懸濁液を収容する有底円筒状の2つの遠心容器1と、これらの遠心容器1を各遠心容器1から離れた回転軸線A回りに回転させる遠心分離機(分離部)20とを備えている。
【0023】
遠心容器1は、一端を閉塞する底部3および他端に開口する開口部5を有する容器本体7と、容器本体7の開口部5を閉塞する蓋体9とを備えている。容器本体7は、深さ方向の途中位置から底部3にかけて、次第に先細になる略円錐形状に形成されている。また、遠心容器1には、蓋体9の中央から容器本体7の軸線に沿って延び、洗浄液を供給したり上清を吸引したりする共通管(図示略)や、最終生成物としての細胞Cを含む細胞懸濁液を吸引する吸引管(図示略)等が備えられている。
【0024】
遠心分離機20は、内部にモータ(回転駆動部)21を収容するベース22と、ベース22により鉛直方向に支持され、モータ21によりベース22に対して回転軸線A回りに回転駆動させられる回転軸23と、回転軸23に固定され、回転軸線Aに対して直交する方向に延びる梁状の回転アーム25と、回転アーム25の両端に設けられ、遠心容器1を揺動可能に支持する水平な2つの揺動軸(揺動軸線)27とを備えている。
【0025】
回転アーム25は、回転軸23が回転することにより、遠心容器1を回転軸線A回りに回転させるようになっている。この場合において、遠心容器1は、遠心力の作用により揺動軸27回りに揺動させられ、図2に示すように回転軸線A方向下方に底部3を向けた姿勢から、半径方向外方に底部3を向けるように姿勢を変化して回転させられるようになっている。
【0026】
次に、このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置100の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置100を用いて細胞懸濁液から細胞Cを回収するには、まず、前処理ユニット10において、細胞分離処理前の細胞懸濁液に含まれる赤血球Eを破壊する前処理を行う。
【0027】
前処理は、細胞収集容器11に収容されている細胞懸濁液を配管15を介して細胞分離容器13へ送る際に、配管15を流通中の細胞懸濁液に対してレーザ照射装置18からレーザ光を照射することにより細胞懸濁液中の赤血球Eを選択的に破壊する。
【0028】
具体的には、計測器17の作動により、計測器17の前を通過する細胞懸濁液中の赤血球Eの数が計測され、計測値が制御部19に送られる。制御部19は、計測器17により計測された赤血球Eの数に応じて、その細胞懸濁液がレーザ照射装置18の前を通過するときに発するレーザ照射装置18のレーザ強度を設定する。
【0029】
続いて、レーザ照射装置18の作動により、レーザ照射装置18の前を通過する細胞懸濁液に対して、ヘモグロビンに選択的に吸収される波長帯域のレーザ光が照射される。細胞懸濁液にレーザ光が照射されると、細胞懸濁液に含まれる赤血球E中のヘモグロビンにそのレーザエネルギーが吸収される。これにより、ヘモグロビンが加熱され赤血球Eが破壊される。
【0030】
この場合において、制御部19の作動により、レーザ照射装置18の前を通過する細胞懸濁液に対してそこに含まれる赤血球Eの数に応じた強度のレーザ光がレーザ照射装置18から発せられることで、必要最小限のレーザ照射により赤血球Eを選択的に破壊することができる。これにより、細胞懸濁液における赤血球E周辺の細胞Cへのレーザ照射によるダメージや、細胞懸濁液における赤血球E周辺の温度上昇による細胞Cへのダメージを抑えることができる。
【0031】
また、配管15を流通中の細胞懸濁液は、配管15の断面積に従いその密度が制限されるので、断面積が大きい細胞収集容器11に収容されている細胞懸濁液にレーザ光を照射する場合のように、深部まで到達する程のレーザ強度や多量の赤血球に一括で照射するためのレーザ強度を必要としなくて済む。したがって、レーザ光の強度を比較的低減することができ、細胞懸濁液における赤血球E周辺の細胞へのダメージを抑えることができる。
【0032】
続いて、2つ目の計測器17により細胞懸濁液中に残存する赤血球Eの数が計測され、制御部19の作動により、その赤血球Eの数に応じた強度のレーザ光がレーザ照射装置18から細胞懸濁液に照射される。
【0033】
前処理においては、細胞懸濁液内の赤血球Eの数が所定値以下になるまで、細胞収集容器11と細胞分離容器13との間で細胞懸濁液を往復させ、計測器17による赤血球Eの数の計測とレーザ照射装置18によるレーザ照射とを繰り返す。そして、赤血球Eの数が所定値以下となったら、細胞懸濁液を細胞分離容器13に完全に送給する。
【0034】
次に、細胞分離容器13内の赤血球Eが破壊された細胞懸濁液を遠心分離ユニット30により遠心分離する。
まず、細胞分離容器13に収容されている細胞懸濁液を、ペリスタポンプやシリンジポンプ等を用いて遠心容器1に注入する。この段階では、図2に示すように、遠心容器1は回転軸線A方向下方に底部3を向けた姿勢で静止させておく。
【0035】
次に、モータ21を作動させ、回転軸23を回転軸線A回りに回転させる。回転軸23と共に回転アーム25が回転すると、遠心力により遠心容器1が揺動軸27回りに揺動し、底部3を半径方向外方に向けた姿勢に変化して回転軸線A回りに回転させられる。
【0036】
これにより、遠心容器1内の細胞懸濁液に遠心力が作用し、細胞懸濁液内の細胞Cと他の成分とが比重差によって遠心容器1の深さ方向に積層状態に分離される。具体的には、比重の大きな細胞Cが遠心容器1の底部3に集められ、比重の小さい消化酵素等が細胞Cの上層に集められる。遠心分離が終わったら、遠心容器1を静止状態に戻し、底部3に堆積している細胞Cを回収する。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る細胞分離装置100によれば、細胞懸濁液に含まれている細胞Cと比重が同じ赤血球Eをレーザ照射により予め選択的に破壊することで、その後の分離処理において細胞懸濁液中の細胞Cを赤血球Eを含む他の成分から容易かつ高効率に分離することができる。これにより、赤血球Eの容積が低減した分だけ最終生成物としての細胞Cを高濃度に回収することができる。
【0038】
本実施形態においては、分離部として、遠心分離機20を例示して説明したが、細胞懸濁液に含まれる細胞Cと他の成分とを分離することができればよく、例えば、細胞懸濁液に含まれる細胞Cをフィルタリングにより分離するフィルタリング装置を採用することとしてもよい。
【0039】
また、本実施形態においては、配管15を流通中の細胞懸濁液にレーザ光を照射することとしたが、これに代えて、例えば、遠心容器1に収容されている細胞懸濁液にレーザ光を照射することとしてもよい。また、分離処理前に細胞懸濁液にレーザ照射することとしたが、遠心分離中に細胞懸濁液にレーザ照射することとしてもよい。
【0040】
本実施形態は、以下のように変形することができる。
例えば、本実施形態においては、配管15に計測器17とレーザ照射装置18をそれぞれ2つずつ設けることとしたが、図3に示すように、配管15に計測器17とレーザ照射装置18をそれぞれ1つずつ設けることとしてもよい。
【0041】
この場合、細胞収集容器11と細胞分離容器13との間で細胞懸濁液を往復させて、細胞懸濁液中の赤血球Eの数が所定値以下となるまで赤血球Eの数の計測とレーザ照射を繰り返すこととすればよい。このようにすることで、配管15に計測器17とレーザ照射装置18をそれぞれ複数設ける場合と比較して、細胞分離装置100を小型化し安価に製造することができる。
また、配管15に計測器17とレーザ照射装置18をそれぞれ3つずつ以上設けることとしてもよい。このようにすることで、前処理に必要な時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 遠心容器
3 底部
11 細胞収集容器(収容容器)
15 配管
17 計測器(測定部)
18 レーザ照射装置(照射部)
19 制御装置(制御部)
20 遠心分離機(分離部)
21 モータ(回転駆動部)
25 回転アーム
27 揺動軸(揺動軸線)
100 細胞分離装置
A 回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液に含まれる細胞と他の成分とを分離する分離部と、
該分離部による細胞と他の成分との分離前または分離中の前記細胞懸濁液に対して、ヘモグロビンに選択的に吸収される波長帯域のレーザ光を照射する照射部とを備える細胞分離装置。
【請求項2】
前記分離部が、有底円筒状の遠心容器を所定の揺動軸線回りに揺動自在に支持可能な回転アームと、
前記揺動軸線に対して離間した回転軸線回りに前記回転アームを回転させる回転駆動部とを備える請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記細胞懸濁液に含まれる前記赤血球の数を測定する測定部と、
該測定部により測定された前記赤血球の数に応じて、前記照射部において発生するレーザ光の強度を制御する制御部とを備える請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記細胞と前記他の成分とが分離する前の前記細胞懸濁液を収容する収容容器と、
該収容容器より小さい断面積を有し、該収容容器内の前記細胞懸濁液を外部に流通させる配管とを備え、
前記照射部が前記配管に設けられている請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−95618(P2012−95618A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247402(P2010−247402)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】