説明

細胞培養のための膨潤性の合成マイクロキャリア

細胞培養マイクロキャリアは、(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーを含む混合物の共重合から形成されたポリマーを含む。マイクロキャリアは、例えば、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーに由来するカルボキシル基を介して、マイクロキャリアの表面に共役した、細胞接着を促進するポリペプチドなどのポリペプチドをさらに含んでいてもよい。一部のマイクロキャリアは、ヒト胚幹細胞の接着を支持する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年5月28日出願の米国仮特許出願第61/181,776の利益を主張する。この文献の内容、ならびに本明細書に記載される刊行物、特許、および特許文献の開示全体が、参照することによって取り込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は細胞培養マイクロキャリアに関し、さらに具体的には、合成の化学的に定義されたマイクロキャリアに関する。
【0003】
配列表に関する陳述
本願は、8kbの大きさを有する「SP10173_ST25.txt」という名称でファイルされ、2010年5月27日に作成されたテキストとして、EFS−Webによって米国特許商標庁に電子的に提出された配列表を含む。
【背景技術】
【0004】
マイクロキャリアは、接着依存性の細胞を高収率で提供する目的で、細胞培養に用いられている。マイクロキャリアは、典型的には細胞培地中で攪拌またはかき混ぜられ、より伝統的な培養装置と比較して、体積比に対し、非常に大きい接着および増殖表面積を提供する。
【0005】
最近利用可能なマイクロキャリアは、細胞増殖用キャリアへの細胞の非特異的な接着を提供する。有用なこれらのマイクロキャリアは生体特異的な細胞接着を生じさせず、ひいては、培養細胞の特徴の調整を容易には生じさせない。例えば、非特異的な相互作用に起因して、分化の特定の状態における幹細胞などの細胞を維持すること、または細胞を特定の方法で分化させることは困難でありうる。
【0006】
幾つかの現在利用可能なマイクロキャリアは生体特異性の接着を提供するが、コラーゲンまたはゼラチンなどの動物由来のコーティングを使用する。このような動物由来のコーティングは、細胞が治療目的で使用される場合に、細胞を、患者に移動するかもしれない潜在的に有害なウイルスまたは他の感染性因子に曝露してしまう可能性がある。加えて、これらのウイルスまたは他の感染性因子は、培養細胞の一般的な培養および維持を危険にさらしかねない。さらには、これらの生物学的生産物はバッチ変動に対して弱く、保存寿命が限られる傾向にある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
とりわけ、本開示は、細胞培養に有用な合成の化学的に定義されたマイクロキャリアについて述べる。本明細書に記載のマイクロキャリアは、さまざまな実施の形態において、ミクロスフェアが非常に膨潤性であっても、細胞の接着および増殖を維持すると同時に、攪拌に耐えるのに十分に耐久性がある。
【0008】
さまざまな実施の形態において、マイクロキャリアは、(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーを含む混合物の共重合から形成されたポリマーを含む。マイクロキャリアは、例えば、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーに由来するカルボキシル基を介してマイクロキャリアの表面に共役する、細胞接着を促進するポリペプチドなど、ポリペプチドをさらに含みうる。好ましくは、ポリマー性のベースは細胞の非特異的な接着を可能にせず、ポリペプチドは生体特異性の細胞結合を提供することが好ましい。
【0009】
さまざまな実施の形態において、細胞培養マイクロキャリアを製造する方法は、モノマーの混合物を共重合化してマイクロキャリアベースを形成する工程を有してなる。モノマーの混合物は、(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーを含む。一部の実施の形態では、モノマーの混合物は、油中水型の共重合によって共重合される。本方法は、さらに、ポリペプチドをマイクロキャリアベースに共役してマイクロキャリアを形成する工程をさらに有してなる。
【0010】
多くの実施の形態において、細胞を培養する方法は、細胞を、マイクロキャリアを有する細胞培地と接触させる工程を有してなる。マイクロキャリアは、(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーを含むモノマーの混合物から形成されるポリマー性のベースを含み;ポリマーに共役するポリペプチドを含む。本方法は、細胞を培地において培養する工程をさらに含む。細胞は胚幹細胞などの幹細胞であって差し支えなく、培地は化学的に定義された培地でありうる。
【0011】
本明細書において提示されるさまざまな実施の形態の1つ以上は、細胞を培養するための従前の物品およびシステムに対し、1つ以上の利点を提供する。例えば、本明細書に記載の合成マイクロキャリアは、病原体の混入の危険性を制限する動物由来のバイオコーティングを必要とせずに、細胞接着を支持することを示している。これは、細胞が細胞療法に捧げられる場合に特に関連性がある。さらには、本明細書に記載のマイクロキャリアを使用することにより、ヒト胚幹細胞(hESC)を含めた細胞の大規模培養が可能になる。これらのマイクロキャリアはまた、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチンなどの動物由来の生成物の存在が望ましくないか、または禁止されている場合、幹細胞以外の細胞の培養にも有利に使用されうる。本明細書に記載の方法は、剛性、膨潤性、界面化学などの広範な特性を有するマイクロキャリアの調製を可能にし、細胞が攪拌槽内で培養される場合に細胞傷害を阻む、柔軟な膨潤性の基材を有するマイクロキャリアを提供することができる。さらには、マイクロキャリアはモノリス型であって差し支えなく、多くの市販のマイクロキャリアのようにコーティングされておらず、製造の複雑性および細胞適合性に関して心配すべき構成要素の数を低減する。これらおよび他の利点は、添付の図面と併せて読む場合に、以下の詳細な説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1に従って調製した代表的なマイクロキャリアの顕微鏡画像。
【図2】実施例1に従って調製した代表的なマイクロキャリアの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図3】さまざまな倍率における、PBS緩衝液での洗浄後に得られた代表的なミクロスフェアのSEM画像。
【図4】実施例1にしたがって調製したマイクロキャリア粒子の粒度分布のグラフを示す図。
【図5】GRGDSペプチドでグラフト化したマイクロキャリアにおけるCHO−M1細胞の付着画像。
【図6】GRGDSペプチドでグラフト化したマイクロキャリアにおけるHEK293細胞の付着画像。
【図7】GRGDSペプチドでグラフト化したマイクロキャリアにおけるMRC5細胞の付着画像。
【図8】実施例6にしたがって調製した代表的なマイクロキャリアの顕微鏡画像。
【図9】それぞれ実施例7および8において論じる、マイクロキャリアにグラフトしたビトロネクチンポリペプチド(A)およびRGEポリペプチド(B)に付着したHT1080細胞の位相差顕微鏡法による画像。
【図10】攪拌速度の関数として得られたマイクロキャリアの大きさを示すグラフを表す図。
【図11】マイクロキャリア上で2時間インキュベーションした後のHT1080細胞の接着を示す位相差顕微鏡画像。
【図12】本明細書に提示される教示に従って調製した、スピナーフラスコ内のVNグラフト化マイクロキャリア上(図12AおよびB)、または比較例のCytodex(商標)3マイクロキャリア上(図12CおよびD)で2時間および4日間培養後のHT1080細胞の接着および増殖を示す一連の位相差顕微鏡画像。
【図13】さまざまな種類のマイクロキャリア上での細胞増殖、ならびに、Solohill pronectinFマイクロキャリア上での報告された増殖のグラフを示す図。すべての条件について、細胞は、断続的な攪拌下で4日間、スピナーフラスコ内で増殖された。
【図14】無血清条件、および10μmのY27632ROCKキナーゼ阻害剤の存在下、ペプチドグラフト化マイクロキャリア上で48時間培養後のES−D3マウス多能性胚幹細胞の接着および増殖の位相差顕微鏡画像。
【図15】実施例15における実験の終わりに行った細胞抽出物中のアルカリホスファターゼ活性を示すグラフ。STOマウス線維芽細胞を陰性対照として用いた。
【図16】実施例14のマイクロキャリア(μHG14)上に接着するES−D3マウス胚幹細胞を示す位相差顕微鏡画像。細胞は、mTeSR1無血清培地中、ビーズとともに、18時間インキュベートされた。
【図17】播種後5日間の、ペプチドグラフト化マイクロキャリア上のBG01V細胞の接着を示す顕微鏡画像。
【図18】攪拌条件下、さまざまな種類のマイクロキャリア上でのBG01V細胞増殖の結果を示すグラフ。Matrigel(Mg)でコーティングしたガラスキャリアを究極の判断基準として用い、非コーティング(KO)ガラスビーズを陰性対照として用いた。
【図19】VNペプチド負荷(nmol/mg)と架橋剤の重量パーセントとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面に関して述べられ、装置、システムおよび方法の幾つかの具体的な実施の形態が例証として示されている。他の実施の形態も意図されており、それらは、本開示の範囲または精神から逸脱せずになされうることが理解されるべきである。したがって、以下の詳細な説明は限定的な意味で捉えられるべきではない。
【0014】
本明細書で用いられる科学用語および技術用語はすべて、他に特に規定がなければ、当技術分野で通常用いられる意味を有する。本明細書で与えられる定義は、本明細書で頻繁に用いられるある特定の用語の理解を容易にするためであって、本開示の範囲を制限することは意味しない。
【0015】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、「または」という用語は、一般に、その内容が特に明確に指示しないかぎり、「および/または」を含む意味で用いられる。
【0016】
ポリペプチド配列は、本明細書では、それらの1文字のアミノ酸コードおよび3文字のアミノ酸コードによって表される。これらのコードは、区別せずに用いられることがある。
【0017】
本明細書では「モノマー」とは、別のモノマーとともに重合することができる化合物を意味し、(「モノマー」がもう1つのモノマーと同一化合物であるか異なる化合物であるかにかかわらず)、この化合物は、約1000未満の分子量を有する。多くの場合、モノマーは約400未満の分子量を有する。
【0018】
本明細書では、「マイクロキャリアベース」は、その上にポリペプチドが共役されうる、ポリマー性マイクロキャリアを意味する。「マイクロキャリアベース」と「ポリマー性マイクロキャリア」は、しばしば、同じ意味で用いられる。マイクロキャリアは、細胞培養に使用するための、そこに細胞が付着しうる、小さい離散性の粒子である。マイクロキャリアは、ロッド、球形などのいずれかの適切な形状であって差し支えなく、多孔性でも非多孔性であってもよい。
【0019】
本明細書では「ペプチド」および「ポリペプチド」は、化学的に合成または組換えされていてもよいが、動物源由来のタンパク質全体として単離されたものではない、アミノ酸配列を意味する。本開示の目的では、ペプチドおよびポリペプチドは総タンパクではない。ペプチドおよびポリペプチドはタンパク質の断片であるアミノ酸配列を含みうる。例えば、ペプチドおよびポリペプチドは、RGDなどの細胞接着配列として知られる配列を含みうる。ポリペプチドは、3〜30アミノ酸長など、適切な長さであって差し支えない。ポリペプチドは、例えばエクソペプチダーゼなどによる分解からペプチドを保護するために、アセチル化(例えばAc−LysGlyGly)またはアミド化(例えばSerLysSer−NH2)されてもよい。これらの修飾は、配列を開示する際に予定されることが理解されよう。
【0020】
本明細書では「(メタ)アクリレートモノマー」とは、メタクリレートモノマーまたはアクリレートモノマーを意味する。本明細書では「(メタ)アクリルアミドモノマー」とは、メタクリルアミドまたはアクリルアミドのモノマーを意味する。(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドモノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和部分を有する。「ポリ(メタ)アクリレート」とは、本明細書では、少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーを含む、1つ以上のモノマーから形成されたポリマーを意味する。「ポリ(メタ)アクリルアミド」とは、本明細書では、少なくとも1つの(メタ)アクリルアミドモノマーを含む、1つ以上のモノマーから形成されたポリマーを意味する。
【0021】
本明細書では「平衡含水率」とは、ポリマー材料の吸水特性のことを称し、式1に示す平衡含水率(EWC)によって定義され、測定される:
式1: EWC(%)=[(Wgel − Wdry)/(Wgel)]×100。
【0022】
本明細書では、「有する」、「有している」、「含む」、「含んでいる」、「備える」、「備えている」等の語句は、オープンエンドの意味で用いられ、一般に、「含むが、それらに限定されない」ことを意味する。当然ながら「実質的に〜からなる」、「〜からなる」等の語句は、「含んでいる」などに包含される。したがって、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および親水性の多官能性不飽和モノマーを含むモノマーの混合物から形成されるマイクロキャリアベースは、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および親水性の多官能性不飽和モノマーから実質的になる、または、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および親水性の多官能性不飽和モノマーからなる混合物から形成されうる。
【0023】
本明細書では、モノマーに関連して「親水性」とは、水中油型エマルションの水相に分離されるモノマーを意味する。例えば、モノマーの95%以上;例えば98%以上が水相に分離される。当然、水相中に留まるモノマーの量は、エマルションの成分(例えば、油相および存在する場合には乳化剤の成分)に応じて決まる。例えば、油相がシリコーン油またはフッ素化溶媒である多くのエマルションでは、エチレングリコール・ジメタクリレートなどの典型的には非常に親水性であるとはみなされないモノマーは、水相中に分散して留まりうる(したがって、本明細書では「親水性」であるとみなされる)。水中油型エマルションにおいて水相中に留まるこのモノマーの能力は、マイクロキャリアが水中油型の共重合を経て形成される場合には重要である。モノマーが水相中に留まらない場合、マイクロキャリアを形成する能力は損なわれうる。したがって、多くの実施の形態では、水に溶解する場合に、少なくとも5重量パーセントの溶液を形成するためには、モノマーは、少なくとも水混和性であり、水溶性であることが好ましい。一部の実施の形態では、親水性のモノマーは、1.9未満、1.8未満、1.7未満、1.6未満、1.5未満、または1.4未満のオクタノール/水の分配係数を有する。
【0024】
本開示は、とりわけ、細胞培養のための合成マイクロキャリアについて説明する。さまざまな実施の形態において、マイクロキャリアは、化学的に定義された培地における未分化の幹細胞の増殖および維持を支持するように構成される。
【0025】
1.マイクロキャリア
マイクロキャリアは、本明細書に記載されるように、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および親水性の多官能性不飽和モノマーを含むモノマー混合物の重合によって形成される。一部の実施の形態では、マイクロキャリアのポリマー性ベースは、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および親水性の多官能性不飽和モノマーからなる、またはそれらから実質的になるモノマーの混合物から形成される。
【0026】
A.ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー
ヒドロキシル基を有する任意の適切な非荷電性の親水性不飽和モノマーが用いられて差し支えない。「非荷電性」のモノマーとは、ポリマー性のマイクロキャリアに組み込まれるときに、所定の細胞培養条件下において荷電した基を含まないモノマーである。細胞培養条件下において荷電部分を有するマイクロキャリアは、結果的に、細胞の非特異的な接着を生じうる。さまざまな実施の形態では、マイクロキャリアにグラフト化されたポリペプチドに対して生体特異的かつ選択的であることが、細胞とマイクロキャリアとの相互作用にとって望ましい。
【0027】
さまざまな実施の形態において、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーは、式(I)の(メタ)アクリレートモノマーであり:
【化1】

【0028】
ここで、AはHまたはメチルであり、BはC1−C6の直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテルである。一部の実施の形態では、BはC1−C4の直鎖または分岐鎖アルコールである。例として、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸グリセロール、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどが使用されうる。
【0029】
さまざまな実施の形態において、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーは、式(II)の(メタ)アクリルアミドモノマーであり:
【化2】

【0030】
ここで、Aは水素またはメチルであり、BはC1−C6の直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテルである。一部の実施の形態では、BはC1−C4の直鎖または分岐鎖アルコールである。例えば、非荷電性の親水性不飽和モノマーは、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミドエトキシエタノール、N−ヒドロキシエチルアクリルアミドなどであって差し支えない。
【0031】
B.親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー
任意の適切な親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーが用いられて差し支えない。さまざまな実施の形態において、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーは、式(III)の(メタ)アクリレートモノマーであり:
【化3】

【0032】
ここで、Aは水素またはメチルであり、Dは、カルボキシル基(−COOH)で置換されたC1−C6の直鎖または分岐鎖アルキルである。一部の実施の形態では、Dは、カルボキシル基で置換されたC1−C3の直鎖または分岐鎖アルキルである。例として、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーは、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリル酸2−カルボキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸などでありうる。
【0033】
さまざまな実施の形態において、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーは式(IV)の(メタ)アクリルアミドモノマーであり:
【化4】

【0034】
ここで、Aは水素またはメチルであり、Dは、カルボキシル基(−COOH)で置換されたC1−C6の直鎖または分岐鎖アルキルである。一部の実施の形態では、Dは、カルボキシル基で置換されたC1−C3の直鎖または分岐鎖アルキルである。例として、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーは、2−カルボキシエチルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸などでありうる。
【0035】
C.親水性の多官能性不飽和モノマー
任意の適切な親水性の多官能性不飽和モノマーが用いられて差し支えない。本明細書では「多官能性のモノマー」とは、重合化可能な2つ以上の基を有するモノマーを意味する。多官能性のモノマーは架橋剤としての役割をしうる。多官能性のモノマーは、二官能性、三官能性、またはそれより多官能性でありうる。さまざまな実施の形態において、多官能性のモノマーは二官能性である。多官能性のモノマーは、任意の適切な重合可能な基を有しうる。さまざまな実施の形態では、多官能性のモノマーは、ビニル基;例えば(メタ)アクリレート基または(メタ)アクリルアミド基を有する。適切な多官能性のモノマーの例としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジアクリレート、プロピレングリコールグリセロレートジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレートなどが挙げられる。
【0036】
さまざまな実施の形態では、親水性の多官能性不飽和モノマーは、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートよりも親水性である。例えば、親水性の多官能性不飽和モノマーは、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートのオクタノール/水の分配係数より低いオクタノール/水の分配係数を有しうる。一部の実施の形態では、親水性モノマーは、1.9未満、1.8未満、1.7未満、または1.6未満のオクタノール/水の分配係数を有する。多くの実施の形態では、水に溶解させる場合、少なくとも5重量パーセントの溶液を形成するためには、モノマーは少なくとも水混和性であり、水溶性であることが好ましい。
【0037】
しかしながら、一部の実施の形態では、親水性の多官能性不飽和モノマーに加えて、疎水性または親水性に乏しい不飽和の多官能性モノマーが用いられる。例えば、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートを、メチレンビスアクリルアミドなどの親水性の多官能性不飽和モノマーに加えて用いてもよい(例えば実施例17参照)。
【0038】
D.ポリマー性のマイクロキャリアベースの形成
マイクロキャリアは、モノマーの混合物の任意の適切な重合反応を経て形成されうる。混合物中、任意の適切な量の、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および親水性の多官能性不飽和モノマーが用いられて差し支えない。さまざまな実施の形態では、マイクロキャリアの形成に用いられるモノマーの混合物は、(i)約30〜約70重量部の、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)約20〜約60重量部の親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)1〜15重量部の親水性の多官能性不飽和モノマーを含む。あるいは、実施の形態において、マイクロキャリアの形成に用いられるモノマーの混合物は、(i)約30〜約70、約30〜約60、約30〜約55、約30〜約50、約30〜約45または約30〜約40重量部の、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)20を超える、約20〜約60、約30〜約60、約35〜約60、約40〜約60、約45〜約60または約50〜約60重量部の親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)約1〜15または約1〜約10重量部の親水性の多官能性不飽和モノマーを含む。「約」という言葉はこれらの範囲を説明するために用いられるが、当然ながら、これらの範囲は定義され、「約」という言葉を含むまたは含まないと理解することができる。上述のように、親水性の多官能性不飽和モノマー(例えば、メチレンビスアクリルアミドまたはジヒドロエチレンビスアクリルアミド)は、親水性に劣るまたは疎水性の不飽和モノマー(例えば、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート)と組み合わせて使用してもよい。これらの実施の形態の多くにおいて、架橋剤(多官能性の不飽和モノマー)の総量は、モノマーの混合物の15重量部を超えず、より親水性の多官能性不飽和モノマーはモノマーの混合物の少なくとも1重量%である。多官能性の不飽和モノマーの重量パーセントは、二官能性モノマーにとって特に適している。当然ながら、三官能性またはさらに高次の官能性モノマーを架橋剤として用いる場合には、使用する架橋剤の比は、容易に変更して差し支えない(例えば減らすなど)。
【0039】
架橋剤の比は、変更されうる。例えば、図19に示すように、使用する架橋剤のパーセンテージは、マイクロキャリア上へのペプチド負荷に影響を与ええる場合がある。例えば、より高い架橋剤の重量パーセントは、マイクロキャリアにおける低い負荷と相関している。加えて、架橋剤の割合は、マイクロキャリアのEWCにも影響を与えうる。
【0040】
さまざまな実施の形態では、ポリマー性マイクロキャリアのペンダントカルボキシル基含量(親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー由来)は、約1ミリ当量/gを超える、約2ミリ当量/gを超える、約3ミリ当量/gを超える、または約4ミリ当量/gを超える。さまざまな実施の形態では、ポリマー性マイクロキャリアの架橋密度(親水性の多官能性不飽和モノマー由来)は約1×10-4〜5×10-3モル/g、約1.5×10-3〜2.5×10-3モル/g、または約1.7×10-3モル/gである。
【0041】
当然ながら、モノマーの相対量およびモノマーの特性は、結果として生じるポリマー性マイクロキャリアの所望の特性に影響を与える。例えば、ポリマー性マイクロキャリアの平衡含水率(EWC)は、マイクロキャリアを形成するために選択されるモノマーによって調節されて差し支えない。例えば、使用するモノマーの親水性が高い場合、ポリマー性マイクロキャリアのEWCも高くなる。しかしながら、これは、架橋性モノマー(親水性の多官能性不飽和モノマー)の割合または官能性を増大させることによって弱まる場合があり、SA層の膨潤能力を低減し、したがって、EWCを低減させてしまう。理論に縛られることは意図していないが、ポリマー性マイクロキャリアのEWCは、マイクロキャリアが培養において支持できる細胞型の決定における重要な変数でありうると考えられている。マイクロキャリアの剛性および膨潤力は、ある特定の細胞がよく増殖する環境を模倣しうる。同時係属中の特許出願である、米国特許出願第12/362,924号および同第12/362,974号の各明細書に提示されるように、約5%〜約70%のEWCを有する膨潤性の表面は、少なくとも5継代の期間、未分化の状態のヒト胚幹細胞の培養に適していた。これらの同時係属中の特許出願において、膨潤性の(メタ)アクリレート層は、基板上にその場形成された。EWCが高すぎる場合、細胞培養などの水性環境に曝露されると、層が膨潤しすぎて剥離してしまう。しかしながら、本明細書に記載のマイクロキャリアは基板上の層として形成されないことから、剥離を心配する必要はなく、EWCは高くてもよい。多くの点で、高いEWCを有するマイクロキャリアは、低い剛性を有する傾向にあり、したがって、生物組織の剛性に非常に酷似するため、望ましい。それらは、「柔らかい」表面を有する。それらはまた、高い含水量に起因して、非常に透明であり、攪拌培養における衝突の際の細胞損傷を防ぐまたは低減しうる。しかしながら、マイクロキャリアが柔らかすぎる場合には、それらは取り扱いが困難になるか、または凝集してしまう可能性があり、したがって、培養培地への分散が困難になりうる。架橋剤の割合および架橋剤の化学的性質を調整することによって、EWCを調整することができる。
【0042】
本明細書に記載のマイクロキャリアは任意の適切なEWCを有しうるが、さまざまな実施の形態において、本明細書に記載のマイクロキャリアは、約60%を超える、約65%を超える、約70%を超える、約75%を超える、約80%を超える、約85%を超える、または約90%を超えるEWCを有する。一部には、本明細書に記載されるさまざまな実施の形態のマイクロキャリアにカルボキシル基含有モノマーを使用していること起因して、EWCはpH依存性でありうる。例えば、特定のマイクロキャリアのEWCは、蒸留した脱イオン水(pH〜5)中よりもリン酸緩衝液(pH7.4)中の方が高い場合がある。さまざまな実施の形態では、蒸留した脱イオン水中のマイクロキャリアのEWCは、約60%を超える、約65%を超える、約70%を超える、約75%を超える、約80%を超える、約85%を超える、または約90%を超える。
【0043】
以下にさらに論じるように、1つ以上のポリペプチドがマイクロキャリアに共役されてもよく、これは、マイクロキャリアのEWCに影響を与えうる(典型的にはEWCの増大)。マイクロキャリアに共役するポリペプチドの量は変化しやすい傾向にあり、マイクロキャリアの大きさ(例えば直径)に応じて変化しうる。したがって、標準的なプロトコルに従って調製した共役ポリペプチドを有するマイクロキャリアのEWCは変化しうる。再現性の目的のため、ポリペプチドとの共役の前にマイクロキャリアのEWCを測定することが望ましい。これとともに、一部の実施の形態では、マイクロキャリアがポリペプチドと共役した後、マイクロキャリア−ポリペプチド複合体の実施の形態のEWCは、
水中、約50%を超える、約55%を超える、約60%を超える、約65%を超える、約70%を超える、約75%を超える、約80%を超える、約85%を超える、または約90%を超える。
【0044】
適切な量の適切なモノマーを選択した後、ポリマー性マイクロキャリアは重合反応を経て形成されうる。マイクロキャリアを形成するモノマーに加えて、マイクロキャリアを形成するための組成物は、界面活性剤、湿潤剤、光開始剤、熱開始剤、触媒、および活性剤など、1つ以上の追加の成分を含みうる。
【0045】
任意の適切な重合開始剤を使用して差し支えない。当業者は、モノマーと一緒に使用するのに適した、例えばラジカル開始剤またはカチオン開始剤などの適切な開始剤を容易に選択することができる。さまざまな実施の形態では、UV光を使用してフリーラジカルモノマーを生成し、連鎖重合を開始する。重合開始剤の例としては、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、またはそれらの混合物が挙げられる。適切な市販の、紫外線で活性化される、および可視光で活性化される光開始剤の例としては、米国ニューヨーク州タリタウン所在のCiba Specialty Chemicalsから市販されるIRGACURE 651、IRGACURE 184、IRGACURE 369、IRGACURE 819、DAROCUR 4265およびDAROCUR 1173、およびBASF(米国ノースカロライナ州シャーロット)から市販されるLUCIRIN TPOおよびLUCIRIN TPO−Lなどの商品名を有するものが挙げられる。
【0046】
光増感剤もまた適切な開始剤系に含めて差し支えない。代表的な光増感剤は、カルボニル基または第3級アミノ基またはそれらの混合物を有する。カルボニル基を有する光増感剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジル、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、キサントン、チオキサントン、9,10−アントラキノン、および他の芳香族ケトンが挙げられる。第3級アミンを有する光増感剤としては、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニルメチル−エタノールアミン、およびジメチルアミノエチルベンゾエートが挙げられる。市販の光増感剤としては、Biddle Sawyer Corp社から市販されるQUANTICURE ITX、QUANTICURE QTX、QUANTICURE PTX、QUANTICURE EPDが挙げられる。
【0047】
一般に、光増感剤または光開始剤系の量は、約0.01〜10重量%の間で変化しうる。
【0048】
用いられうるカチオン開始剤の例としては、アリールスルホニウム塩などのオニウム陽イオンの塩、ならびに、イオン・アレーン系などの有機金属塩が挙げられる。
【0049】
使用して差し支えないフリーラジカル開始剤の例としては、2,2'−アゾビス(ジメチル−バレロニトリル)、アゾビス(イソブチロニトリル)、アゾビス(シクロヘキサン−ニトリル)、アゾビス(メチル−ブチロニトリル)などのアゾ型の開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、メチルエチルケトンペルオキシド、イソプロピルペルオキシカーボネート、2,5−ジエチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル−ペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクロロ過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム、および過硫酸カリウム、重硫酸ナトリウムなどの組合せなどの過酸化物開始剤、ならびにそれらの混合物が挙げられる。当然ながら、任意の他の適切なフリーラジカル開始剤も使用して差し支えない。開始剤の効果的な量は、一般に、反応混合物の0.1重量%〜約10重量%または約0.1重量%〜約8重量%など、反応混合物の約0.1重量%〜約15重量%の範囲内である。
【0050】
さまざまな実施の形態において、1つ以上のモノマーは、重合される前に水で希釈される。
【0051】
(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、または他の適切なモノマーは、当技術分野で知られるように合成して差し支えなく、あるいは、Polysciences,inc.、Sigma Aldrich,Inc.、およびSartomer,inc.などの製造供給元から入手してもよい。
【0052】
E.油中水型エマルションの共重合
マイクロキャリアは、任意の適切な方法で形成されうる。当然ながら、結果として生じるポリマー性マイクロキャリアの大きさおよび形状は、用いる反応条件の影響を受ける。多くの実施の形態では、球形のマイクロキャリアを形成するために、油中水型の共重合が用いられる。このような反応スキームおよび反応系を用いて、親水性のモノマーを水に溶かし、油性または疎水性の溶液または懸濁液に加えることができる。デカン、ドデカン、ヘキサデカン、重鉱油、シリコーン油、フッ素化溶媒などを含めた、オクタノール、トルエン、ヘプタン、ヘキサンまたはより高次のアルカンなどのアルカン等、任意の適切な疎水性液体が用いられうる。油中水型エマルションの形成を促進するために、乳化剤を加えてもよい。9未満のHLB値(親水性親油性バランス)を有するものなど、不水溶性の(油溶性)乳化剤が好ましい。このような乳化剤の例としては、ソルビタントリオレアート(Span 85)HLB=1.8、ソルビタントリステアレート(Span 65)HLB=2.1、セスキオレイン酸ソルビタン(Arlacel 83)HLB=3.7、モノステアリン酸グリセリン、HLB=3.8、ソルビタンモノオレエート、(Span 80)HLB=4.3、ソルビタンモノステアレート、(Span 60)HLB=4.7、ソルビタンモノパルミタート、(Span 40)HLB=6.7、ソルビタンモノラウレート、(Span 20)HLB=8.6が挙げられる。さまざまな極性の成分から作られた、疎水的に改質された水溶性のポリマーまたはランダム共重合体またはブロックまたはグラフト共重合体は、適切な乳化剤のさらなる例である。疎水的に改質された水溶性のポリマー乳化剤の一例は、エチルセルロースである。当然ながら、他のこのような乳化剤も使用して差し支えない。
【0053】
マイクロキャリアの調製方法に関わらず、実施の形態では、マイクロキャリアは、周囲媒質からのマイクロキャリアの分離を促進するために、懸濁される細胞培地よりもわずかに大きい密度を有する。さまざまな実施の形態において、マイクロキャリアは、約1.01〜1.10g/cm3の密度を有する。このような密度を有するマイクロキャリアは、穏やかに攪拌される細胞培地において、容易に懸濁が維持されなければならない。マイクロキャリアの密度は、水のモノマーに対する比を変化させることによって容易に調整可能であることが予想される。
【0054】
加えて、すべてではないにしてもほとんどのマイクロキャリアが、穏やかな攪拌によって懸濁できることを確実にするために、マイクロキャリアのサイズ変化は小さいことが好ましい。例として、マイクロキャリアの形態的粒度分布(geometric size distribution)は約1〜1.4でありうる。マイクロキャリアは任意の適切な大きさであって差し支えない。例えば、マイクロキャリアは約20μm〜1000μmの直径寸法を有しうる。このような直径を有する球形のマイクロキャリアは、マイクロキャリア1つあたり数百〜数千個の細胞の接着を支持できる。油中水型の共重合技術を経て形成されたマイクロキャリアの大きさは、攪拌速度または使用する乳化剤の種類を変化させることによって容易に調整することができる。例えば、攪拌速度を速めると、より小さい粒径が得られる傾向にある(例えば図10参照)。加えて、エチルセルロースなどのポリマー性乳化剤の使用は、より小さい分子量の乳化剤と比較して、より大きい粒子を可能にすると考えられる。したがって、攪拌速度または攪拌強度および乳化剤を容易に改質して、所望の粒径のマイクロキャリアを得ることができる。
【0055】
油中水型エマルションの共重合は、非多孔性の球形のマイクロキャリアを生じうることが見出された。本明細書では「非多孔性」とは、細孔を有しないか、または、マイクロキャリアとともに培養する細胞よりも小さい、例えば約0.5〜1マイクロメートル未満の平均細孔サイズを有することを意味する。マクロ多孔性のマイクロキャリアの細孔に入り込む細胞を取り除くことは困難であることから、非多孔性のミクロスフェアはマイクロキャリアが分解性ではない場合に望ましい。しかしながら、例えばマイクロキャリアが酵素または他の方法で分解可能な架橋剤を含むなど、マイクロキャリアが分解性の場合には、マイクロキャリアはマクロ多孔性であることが望ましい場合もある。
【0056】
一部の実施の形態では、マイクロキャリアは随意的に透明であり、細胞とマイクロキャリアとの相互作用の容易な顕微鏡観察を可能にする。透明なマイクロキャリアは、マイクロキャリアの反対面(見えている側に対して)における細胞の観察を可能にする。マイクロキャリアが透明なほど、顕微鏡で相互作用を容易に観察することができる。メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−カルボキシエチルおよびジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドから形成されるマイクロキャリアは非常に透明であることが見出された(実施例6および図8参照)。他の(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーから形成されるマイクロキャリアも、特に、モノマーが(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドモノマーである場合には、非常に透明である。
【0057】
理論に縛られることは意図していないが、より膨潤性のマイクロキャリアまたは高いEWCを有するマイクロキャリアは、高い水分量に起因して、それらが培地を吸収することから、透明なマイクロキャリアを形成する傾向にあると考えられる。
【0058】
F.ポリマー性マイクロキャリアへのポリペプチドの共役
任意の適切なポリペプチドはマイクロキャリアに共役しうる。ポリペプチドは、例えば親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーから形成される遊離のカルボキシル基を介してマイクロキャリアと共役することができるアミノ酸を含むことが好ましい。例として、例えばアミド結合の形成を介した、求核付加が可能な官能性を有する任意の天然または生体模倣アミノ酸を、マイクロキャリアに共役する目的でポリペプチドに含めてもよい。リジン、ホモリジン、オルニチン、ジアミノプロピオン酸、およびジアミノブタン酸は、マイクロキャリアのカルボキシル基に共役するのに適した特性を有するアミノ酸の例である。加えて、N−末端アミンがキャップ化されていない場合には、ポリペプチドのN−末端αアミンをカルボキシル基との共役に利用してもよい。さまざまな実施の形態において、マイクロキャリアと共役するポリペプチドのアミノ酸は、ポリペプチドのカルボキシ末端位置またはアミノ末端位置に存在する。
【0059】
多くの実施の形態において、ポリペプチド、またはそれらの一部は、細胞接着活性を有する;例えば、ポリペプチドがマイクロキャリアに共役する場合、ポリペプチドは、細胞を、ペプチド含有マイクロキャリアの表面に接着可能にする。例として、ポリペプチドは、インテグリン群に由来するタンパク質によって認識される、または細胞接着を持続することができる細胞分子との相互作用につながるアミノ酸配列、またはそれらの細胞接着部分を含みうる。例えば、ポリペプチドは、コラーゲン、ケラチン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、骨シアロタンパク質(BSP)などに由来するアミノ酸配列、またはそれらの一部を含みうる。さまざまな実施の形態において、ポリペプチドは、ArgGlyAsp(RGD)のアミノ酸配列を含む。
【0060】
本明細書に記載のマイクロキャリアは、任意の適切な接着ポリペプチドまたはそれら組合せが共役しうる合成表面を提供し、未知の成分を有する生体基質または血清に代わる物を提供する。現在の細胞培養の実施において、一部の細胞型は、細胞が表面に付着し、持続的に培養されるためには、培養表面上に生物学的ポリペプチドまたはそれらの組合せの存在を必要とすることが知られている。例えば、HepG2/C3A肝細胞は、血清の存在下においてプラスチックの培養容器に付着することができる。血清は、プラスチックの培養容器に付着して、ある特定の細胞が付着できる表面を提供することが可能なポリペプチドを提供することができることも知られている。しかしながら、生物学的に誘導された基質および血清は未知の成分を含んでいる。細胞接着を引き起こす血清または生物学的に誘導された基質の特定の成分またはそれらの組合せ(ペプチド)が知られている細胞では、これらの既知のポリペプチドを合成することができ、本明細書に記載のマイクロキャリアに施用して、細胞を、起源または組成が分からない成分を有しないか、またはほとんど有しない合成表面上で培養できるようにする。
【0061】
本明細書で論じられるポリペプチドのいずれにおいても、当然ながら、保存アミノ酸は、明確に同定されたまたは既知のアミノ酸の代替となりうる。「保存アミノ酸」とは、本明細書では、第2のアミノ酸と機能的に似たアミノ酸のことをいう。これらのアミノ酸は、周知の技術に従ったポリペプチドの構造または機能に対する軽微な障害を伴って、ポリペプチドにおいて互いに代わりをしうる。次の5つの群は、それぞれ、互いに同類置換するアミノ酸を含む:脂肪族:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I);芳香族:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);含硫:メチオニン(M)、システイン(C);塩基性:アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H);酸性:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)。
【0062】
繰り返しポリ(エチレングリコール)リンカーまたは他の適切なリンカーなどのリンカーまたはスペーサーは、ポリペプチドからマイクロキャリアの表面までの距離を増大するために用いられうる。リンカーは任意の適切な長さであって差し支えない。例えば、リンカーが繰り返しポリ(エチレングリコール)リンカーである場合、リンカーは2〜10の繰り返しエチレングリコール単位を含みうる。一部の実施の形態では、リンカーは、約4の繰り返しエチレングリコール単位を有する繰り返しポリ(エチレングリコール)リンカーである。ポリペプチドのすべてまたは一部が、リンカーを介してマイクロキャリアに共役していてもよく、あるいは共役していなくてもよい。用いられうる他の潜在的なリンカーとしては、ポリ(グリシン)またはポリ(β−アラニン)などのポリペプチドリンカーが挙げられる。
【0063】
ポリペプチドは、任意の密度、好ましくは未分化の幹細胞または他の細胞型の培養を支持するのに適した密度でマイクロキャリアに共役しうる。例えば、ポリペプチドは、マイクロキャリア表面1mm2あたり約1pmol/mm2〜約50pmol/mm2の密度でマイクロキャリアに共役しうる。例えば、ポリペプチドは、マイクロキャリア表面1mm2あたり5pmol/mm2を超える密度、6pmol/mm2を超える密度、7pmol/mm2を超える密度、8pmol/mm2を超える密度、9pmol/mm2を超える密度、10pmol/mm2を超える密度、12pmol/mm2を超える密度、15pmol/mm2を超える密度、または20pmol/mm2を超える密度で存在しうる。当然ながら、存在するポリペプチドの量は、マイクロキャリアの組成、マイクロキャリアの大きさ、ポリペプチド自体の性質、および培養する細胞型に応じて変化しうる。
【0064】
理論に縛られることは意図していないが、胚幹細胞を含めた幹細胞は、例えば、HT1080細胞などの一部の他のタイプの細胞よりも、細胞接着を支持するために高いペプチド密度を必要としうると考えられる(例えば実施例17参照)。加えて、細胞は、静止状態と比べて攪拌条件下では、マイクロキャリアに十分に接着するために、高いペプチド密度を必要としうる。さまざまな実施の形態では、マイクロキャリアは、マイクロキャリアベース1ミリグラムあたり50nmolを超える共役ポリペプチドを有する。例えば、マイクロキャリアは、マイクロキャリアベース1ミリグラムあたり、60nmolを超える、70nmolを超える、80nmolを超える、90nmolを超える、または100nmolを超える共役ポリペプチドを有しうる。マイクロキャリアを幹細胞の培養に使用することが意図されている一部の実施の形態では、マイクロキャリアは、マイクロキャリアベース1ミリグラムあたり100nmolを超える共役ポリペプチドを有する。
【0065】
ポリペプチドは、任意の適切な技術を介して重合したマイクロキャリアに共役しうる。ポリペプチドは、アミノ末端アミノ酸、カルボキシ末端アミノ酸、または内部アミノ酸を介して重合したマイクロキャリアに共役しうる。適切な技術の1つは、当技術分野で一般的に知られるように、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)/N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)の化学に関与する。EDCおよびNHSまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)は、膨潤性の(メタ)アクリレート層のカルボキシル基と反応してアミン反応性のNHSエステルを生成することができる。EDCは、膨潤性の(メタ)アクリレート層のカルボキシル基と反応して、加水分解の影響を受けやすいアミン反応性のO−アシルイソ尿素中間体を生成する。NHSまたはスルホ−NHSの添加は、アミン反応性のO−アシルイソ尿素中間体を安定化させ、アミン反応性のNHSまたはスルホ−NHSエステルに変換し、二段階法を可能にする。膨潤性の(メタ)アクリレート層の活性化の後、ポリペプチドが加えられ、ポリペプチドの末端アミンはアミン反応性エステルと反応して安定なアミド結合を形成することができ、従って、ポリペプチドを膨潤性の(メタ)アクリレート層に共役する。EDC/NHSの化学を用いてポリペプチドを膨潤性の(メタ)アクリレート層に共役させる場合、N−末端アミノ酸は、リジン、オルニチン、ジアミノ酪酸、またはジアミノプロピオン酸などのアミン含有アミノ酸が好ましい。当然ながら、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、ヒドロキシルなど、任意の許容される求核試薬を使用して差し支えない。
【0066】
EDC/NHSの化学は、マイクロキャリアに対するポリペプチドのゼロ長の架橋を生じる。末端アミンを有する、ポリ(エチレングリコール)リンカー(例えば、Quanta BioDesign,Ltd.社から市販される)などのリンカーまたはスペーサーをポリペプチドのN−末端アミノ酸に加えてもよい。リンカーをN−末端アミノ酸に加える場合、リンカーは、N−PG−アミド−PEGX−酸が好ましく、ここで、PGはFmoc基、BOC基、CBZ基または、ペプチド合成に従う他の基などの保護基であり、Xは2、4、6、8、12、24または利用可能でありうる他の離散性PEGである。
【0067】
さまざまな実施の形態では、1μM〜10,000μMのポリペプチド流体組成物、例えば溶液、懸濁液などを活性化マイクロキャリアと接触させてポリペプチドを共役させる。例えば、ポリペプチド濃度は約100μM〜約2000μM、約500μM〜約1500μM、または約1000μMでありうる。当然ながら、ポリペプチド組成物の体積および濃度は、マイクロキャリアに共役するポリペプチドの所望の密度を達成するために変化させて差し支えない。
【0068】
ポリペプチドは環状であるか、または環状部分を含んでいてもよい。環状ポリペプチドを形成するための任意の適切な方法を用いて構わない。例えば、アミド結合は、適切なアミノ酸側鎖上の遊離のアミノ官能基と適切なアミノ酸側鎖の遊離のカルボキシル基を環化させることによって生じうる。また、ジスルフィド結合は、ペプチド配列における適切なアミノ酸の側鎖の有利のスルフヒドリル基間に生じうる。環状ポリペプチド(またはそれらの一部)を形成するために、任意の適切な技術を使用して差し支えない。例として、例えば国際公開第1989/005150号パンフレットに記載される方法を使用して環状ポリペプチドを形成してもよい。ポリペプチドがカルボキシ末端とアミノ末端との間にアミド結合を有する、頭−尾結合の環状ポリペプチドを用いてもよい。ジスルフィド結合の代替として、2つのセレノシステインを用いるジセレニド結合またはセレニド/スルフィド結合の混合が挙げられ、例えば、Koide et al, 1993, Chem. Pharm. Bull. 41(3):502-6; Koide et al.,1993, Chem. Pharm. Bull. 41(9):1596-1600;または Besse and Moroder, 1997, Journal of Peptide Science, vol. 3, 442-453に記載されている。
【0069】
ポリペプチドは当技術分野で知られているように合成(または代案として、分子生物学的手法を通じて生成)して差し支えなく、あるいは、American Peptide Company、CEM Corporation、またはGenScript Corporationなどの製造供給元から入手してもよい。リンカーは、当技術分野で知られているように合成して差し支えなく、あるいは、Quanta BioDesign,Ltd.から市販される離散ポリエチレングリコール(dPEG)リンカーなど、製造供給元から入手してもよい。
【0070】
マイクロキャリアに共役しうるポリペプチドの例は、N−末端に加えられた追加の「KGG」配列を有する骨シアロタンパク質由来のRGD含有配列である、KGGNGEPRGDTYRAY(配列番号:1)を含むポリペプチドである。リジン(K)は化学結合のための適切な求核試薬としての機能を果たし、2つのグリシンアミノ酸(GG)はスペーサーとしての機能を果たす。使用した共役法に応じて、シスチン(C)または別の適切なアミノ酸を、代わりに化学結合に使用してもよい。もちろん、共役またはスペーサー配列(例えばKGGまたはCGG)は、存在していてもしていなくてもよい。マイクロキャリアと共役するための適切なポリペプチドの追加の例(共役またはスペーサー配列あり、またはなし)は、NGEPRGDTYRAY、(配列番号:2)、GRGDSPK(配列番号:3)(短鎖フィブロネクチン)AVTGRGDSPASS(配列番号:4)(長鎖FN)、PQVTRGDVFTMP(配列番号:5)(ビトロネクチン)、RNIAEIIKDI(配列番号:6)(ラミニンβ1)、KYGRKRLQVQLSIRT(配列番号:7)(mLMα1 res 2719−2730)、NGEPRGDTRAY(配列番号:8)(BSP−Y)、NGEPRGDTYRAY(配列番号:9)(BSP)、KYGAASIKVAVSADR(配列番号:10)(mLMα1 res 2122−2132)、KYGKAFDITYVRLKF(配列番号:11)(mLMγ1 res 139−150)、KYGSETTVKYIFRLHE(配列番号:12)(mLMγ1 res 615−627)、KYGTDIRVTLNRLNTF(配列番号:13)(mLMγ1 res 245−257)、TSIKIRGTYSER(配列番号:14)(mLMγ1 res 650−261)、TWYKIAFQRNRK(配列番号:15)(mLMα1 res 2370−2381)、SINNNRWHSIYITRFGNMGS(配列番号:16)(mLMα1 res 2179−2198)、KYGLALERKDHSG(配列番号:17)(tsp1 res 87−96)、またはGQKCIVQTTSWSQCSKS(配列番号:18)(Cyr61 res 224−240)を含むポリペプチドである。
【0071】
一部の実施の形態では、ペプチドは、Lys4とAsp17が一緒にアミド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGK4DGEPRGDTYRATD17(配列番号:19);Lys4とAsp13が一緒にアミド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGL4EPRGDTYRD13(配列番号:20);Cys4とCys17が一緒にジスルフィド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGC4NGEPRGDTYRATC17(配列番号:21);Cys4とCys13が一緒にジスルフィド結合を形成して、ポリペプチドの一部を環化する、KGGC4EPRGDTYRC13(配列番号:22)、またはKGGAVTGDGNSPASS(配列番号:23)を含む。
【0072】
実施の形態では、ポリペプチドはアセチル化またはアミド化されていて差し支えなく、あるいは、その両方であってもよい。これらの例を提示したが、当業者は、いかなるペプチドまたはポリペプチド配列も本明細書に記載されるマイクロキャリアに共役されうることを認識するであろう。
【0073】
2.細胞培養物品
本明細書に記載のマイクロキャリアは、いかなる適切な細胞培養系にも使用して差し支えない。典型的には、マイクロキャリアおよび細胞培地は適切な細胞培養物品に入れられ、マイクロキャリアは培地中で攪拌または混合される。適切な細胞培養物品としては、WAVE BIOREACTOR(登録商標)(Invitrogen社製)などのバイオリアクター、単一ウェルプレートおよび、6、12、96、384、および1536ウェルプレートなどのマルチウェルプレート、広口瓶、ペトリ皿、フラスコ、マルチレイヤーフラスコ、ビーカー、プレート、ローラーボトル、管、バッグ、膜、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバー、バイオリアクター、CELLTACK(登録商標)培養チャンバー(Corning Incorporated社製)および発酵槽などが挙げられる。
【0074】
3.共有ポリペプチドを含むマイクロキャリアを有する培地における細胞のインキュベート
上述の共役ポリペプチドを含む培地を格納する細胞培養物品に、細胞を播種して差し支えない。使用される共役ポリペプチドは、培養される細胞の種類に基づいて選択されうる。細胞は、いかなる細胞型であってもよい。例えば、細胞は、結合組織細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、骨または平滑筋細胞、心筋細胞、腸細胞、腎細胞、または他の臓器に由来する細胞、幹細胞、小島細胞、血管細胞、リンパ球、癌細胞、初代細胞、細胞株などでありうる。細胞は、哺乳動物細胞、好ましくはヒトの細胞でありうるが、細菌、酵母、または植物細胞などの非哺乳動物細胞であってもよい。
【0075】
多くの実施の形態において、細胞は、当技術分野で一般に理解されるように、幹細胞であり、継続的に分割する能力(自己再生)を有し、さまざまな特異性細胞へと分化することができる細胞を称する。一部の実施の形態では、幹細胞は、被験体の器官または組織から単離されうる多分化能、分化全能性、または多能性幹細胞である。これらの細胞は、完全に分化したまたは成熟した細胞型を生じさせることができる。幹細胞は、骨髄由来幹細胞、自己または他の、神経幹細胞、または胚幹細胞でありうる。幹細胞は、ネスチン陽性でありうる。幹細胞は造血幹細胞でありうる。幹細胞は、上皮および脂肪組織、臍帯血、肝臓、脳または他の臓器に由来する多系統細胞でありうる。さまざまな実施の形態において、幹細胞は、哺乳動物から単離された多分化能胚幹細胞などの多能性幹細胞である。適切な哺乳動物としては、マウスまたはラットなどの齧歯動物、ヒトおよびヒトではない霊長類を含む霊長類が挙げられる。さまざまな実施の形態において、共役ポリペプチドを有するマイクロキャリアは、5代以上の継代、7代以上の継代、または10代以上の継代のための未分化の胚幹細胞の培養を支持する。典型的には、幹細胞は約75%の培養密度に到達した後は、新しい表面に移される。細胞が75%の培養密度に到達する時間は、培地、播種密度および当業者に既知の他の因子に応じて決まる。
【0076】
ヒト胚幹細胞(hESC)は未分化の状態で継続的に培養液中で増殖する能力を有することから、本明細書に記載のマイクロキャリアとともに使用するためのhESCは、確立された細胞株から入手されうる。確立されているヒト胚幹細胞株の例としては、限定はしないが、H1、H7、H9、H13またはH14(ウィスコンシン大学で確立されたWiCellから入手可能)(Thompson (1998) Science 282:1145);hESBGN−01、hESBGN−02、hESBGN−03(BresaGen,Inc.社(米国ジョージア州アセンズ所在)から入手);HES−1、HES−2、HES−3、HES−4、HES−5、HES−6(ES Cell International,Inc.社(シンガポール所在)から入手);HSF−1、HSF−6(米国サンフランシスコ所在のカリフォルニア大学から入手);I3、I3.2、I3.3、I4、I6、I6.2、J3、J3.2(イスラエル工科大学(イスラエル、ハイファ所在)に由来);UCSF−1およびUCSF−2(Genbacev et al., Fertil. Steril. 83(5):1517-29, 2005);細胞株HUES1〜17(Cowan et al., NEJM 350(13):1353-56, 2004);および細胞株CT−14(Klimanskaya et al., Lancet, 365(9471):1636-41, 2005)が挙げられる。胚幹細胞は、一次胚組織から直接入手してもよい。典型的には、これは、そうでなければ廃棄されるであろう胞胚期の凍結したインビトロ受精卵を用いて行われる。
【0077】
多能性幹細胞の他の供給源としては、誘発された霊長類の多能性幹(iPS)細胞が挙げられる。iPS細胞とは、hESCなどの多能性幹細胞の表現型を獲得するように再プログラミングされるように、例えば、1つ以上の適切なベクターを用いてトランスフェクションすることによって遺伝子組み換えされた、ヒトなどの若年または成年の哺乳働物から得られる細胞のことを称する。これらの再プログラミングされた細胞によって獲得した表現型形質としては、胚盤胞ならびに表面抗原発現から単離された形態的に似ている幹細胞、遺伝子発現およびテロメラーゼ活性が似ている胚盤胞に由来する胚幹細胞が挙げられる。iPS細胞は、典型的には、一次胚葉:外胚葉、内胚葉および中胚葉のそれぞれから少なくとも1つの細胞型に分化する能力を有する。hESCなどのiPS細胞は、免疫不全マウス、例えば、SCIDマウスに注入するときに奇形腫も形成する。(Takahashi et al., (2007) Cell 131(5):861; Yu et al., (2007) Science318:5858)。
【0078】
幹細胞を未分化の状態で維持するためには、表面に取り付けられたポリペプチドとの選択的接着をもたらすと同時に、細胞とマイクロキャリア表面との非特異的な相互作用または接着を模倣することが望ましい。ポリペプチドを共役する前に、共役ポリペプチドを用いずにマイクロキャリア表面に接着する幹細胞の能力を試験して、マイクロキャリアにおける幹細胞の非特異的な相互作用または接着が皆無かそれに近いものであるか否かを決定してもよい。適切なマイクロキャリアの選択後、マイクロキャリアを含んだ培地に細胞を播種して差し支えない。
【0079】
細胞の播種前に、細胞型に関わらず、細胞は採取されて、例えば成長培地などの適切な培地に懸濁され、播種後にそこで細胞が培養される。例えば、細胞は、血清含有培地、馴化培地、または化学的に定義された培地に懸濁され、培養されうる。本明細書では「化学的に定義された培地」とは、組成が未知である成分を含まない細胞培地を意味する。化学的に定義された細胞培地は、さまざまな実施の形態において、組成が未知のタンパク質、ヒドロシレート、またはペプチドを含まない。一部の実施の形態では、化学的に定義された培地は、遺伝子組み換え成長ホルモンなど、既知の組成のポリペプチドまたはタンパク質を含む。化学的に定義された培地のすべての成分は既知の化学構造を有することから、培養条件のばらつき、ならびにそれによる細胞応答のばらつきを低減することができ、したがって、再現性が増大する。加えて、汚染の可能性も低減される。さらには、少なくとも一部には上述の要因に起因して、スケールアップがより容易にできるようになる。化学的に定義された細胞培地は、Invitrogen社(Invitrogen Corporation(米国カリフォルニア州カールズバッド所在))から、胚幹細胞の成長および増殖をもたらす特別に処方された全血清およびフィーダーフリー(SFM)のSTEM PROとして市販され、Lonza社からXvivoとして市販され、Stem Cell Technologies,inc.からヒト胚幹細胞用のmTeSR(商標)1維持培地として市販される。
【0080】
ポリペプチドを共役したマイクロキャリアとともに細胞をインキュベートする培地に、1つ以上の成長または他の因子を加えてもよい。因子は、細胞増殖、接着、自己再生、分化などを促進しうる。培地に加える、または培地に含まれる因子の例としては、筋肉形成因子(muscle morphogenic factor)(MMP)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、アクチビンAなどのアクチビン(ACT)、造血成長因子、レチノイン酸(RA)、インターフェロン、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの線維芽細胞成長因子、骨形成タンパク質(BMP)、ペプチド成長因子、ヘパリン結合性増殖因子(HBGF)、肝細胞増殖因子、腫瘍壊死因子、インスリン様成長因子(IGF)IおよびII、形質転換成長因子−β1(TGFβ1)などの形質転換成長因子、およびコロニー刺激因子が挙げられる。
【0081】
細胞は、適切な濃度で播種されうる。典型的には、細胞は、マイクロキャリア1cm2あたり約10,000細胞/cm2〜約500,000細胞/cm2の濃度で播種される。例えば、細胞は、基材1cm2あたり約50,000細胞/cm2〜約150,000細胞/cm2の濃度で播種されうる。しかしながら、これよりも高濃度および低濃度でも容易に使用することができる。インキュベーションの時間および、温度、CO2およびO2レベル、成長培地などの条件は、培養する細胞の性質に応じて決まり、容易に修正することができる。細胞をマイクロキャリアとともに培養する時間量は、所望の細胞応答に応じて変動しうる。
【0082】
培養細胞は、(i)調査研究または治療用途の開発に使用するために、化学的に定義された培地の合成表面上で培養される十分な量の未分化の幹細胞の入手、(ii)培養細胞の調査研究、(iii)治療用途の開発、(iv)治療目的、(v)例えばcDNAライブラリを作成することによる遺伝子発現の研究、(vi)薬物および毒性スクリーニングの研究、および(vii)同様のものを含めた、いかなる適切な目的にも使用することができる。
【0083】
細胞が未分化であるか否かを決定するための適切な方法の1つは、OCT4マーカーの存在を判定することである。さまざまな実施の形態において、5代、7代、または10代以上の継代の期間、本明細書に記載のマイクロキャリア上で培養される未分化の幹細胞は、分化能を保持する。
【0084】
4.概要
本明細書に記載のマイクロキャリアは、(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーを含むモノマーから形成されたマイクロキャリアベースを有する。任意の適切なモノマーを使用して差し支えない。さまざまな実施の形態において、モノマーは、親水性の(メタ)アクリレートモノマーまたは親水性の(メタ)アクリルアミドモノマーである。
【0085】
例えば、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーは、上述の化学式Iまたは化学式IIを有するモノマーでありうる。使用されうる適切な非荷電性の親水性不飽和モノマーの例としては、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリセロール、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミドエトキシエタノール、およびN−ヒドロキシエチルアクリルアミドが挙げられる。
【0086】
親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーは、上述の化学式IIIまたはIVに従ったモノマーでありうる。具体的な例としては、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリル酸2−カルボキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリルアミド、およびアクリルアミドグリコール酸が挙げられる。
【0087】
適切な親水性の多官能性不飽和モノマーの例としては、二官能性、三官能性またはそれより高次の官能性(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドモノマーが挙げられ、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジアクリレート、プロピレングリコールグリセロレートジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレートなどである。上述のように、二官能性、三官能性またはそれより高次の官能性(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドモノマーなど、任意の適切な疎水性架橋モノマーでありうる、疎水性架橋モノマーを含むことが望ましい。使用して差し支えない疎水性の架橋性モノマーの例は、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートである。さまざまな実施の形態では、疎水性の多官能性不飽和モノマーは、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートまたはテトラ(エチレングリコール)ジアクリレートよりも疎水性である。
【0088】
マイクロキャリアベースは、上述のモノマーのいずれかの適切な混合物から形成されうる。さまざまな実施の形態では、マイクロキャリアの形成に使用されるモノマーの混合物は、(i)約30〜約70重量部のヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)約20〜約60重量部の親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および(iii)1〜15重量部の親水性の多官能性不飽和モノマーを含む。親水性の多官能性不飽和モノマー(例えば、メチレンビスアクリルアミドまたはジヒドロキシエチレンビスアクリルアミド)は、親水性に乏しいまたは疎水性の不飽和モノマー(例えば、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート)と組み合わせて使用して差し支えない。これらの実施の形態の多くでは、架橋剤(多官能性の不飽和モノマー)の総量は、モノマーの混合物の15重量部を超えず、さらなる親水性の多官能性不飽和モノマーは、モノマーの混合物の少なくとも1重量%である。
【0089】
マイクロキャリアベースのさまざまな実施の形態は、水中、約70%を超える、約75%を超える、約80%を超える、約85%を超える、または約90%を超えるEWCを有する。
【0090】
さまざまな実施の形態では、ポリマー性マイクロキャリアのペンダントカルボキシル基含量(親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーに由来)は、1ミリ当量/gを超える、2ミリ当量/gを超える、3ミリ当量/gを超える、または約4ミリ当量/gである。
【0091】
本開示は、マイクロキャリアを形成するさまざまなモノマーを含む組成物について説明しており、これらが意図されている。例えば、マイクロキャリアを形成するための組成物は(油中水型エマルション共重合を経るかまたは他の方法であるかに関わらず)、上述したものなど、(i)ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、(ii)親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および(iii)親水性の多官能性不飽和モノマーを含みうる。モノマーは、マイクロキャリアベースに関して上述したものなど、任意の適切な比で組成物中に存在して差し支えない。
【0092】
マイクロキャリアベースは、任意の適切な方法に従って調製されうる。さまざまな実施の形態では、油中水型エマルションの共重合を使用してマイクロキャリアベースを形成する。これらの反応スキームおよび反応系を使用して、親水性モノマーを水に溶解し、油または疎水性の溶液または懸濁液を加えることができる。オクタノール、トルエン、デカン、ドデカン、ヘキサデカンを含めた、ヘプタン、ヘキサンまたはより高次のアルカンなどのアルカン、重鉱油、シリコーン油、フッ素化溶媒など、任意の適切な疎水性液体が用いられうる。乳化剤を加えて油中水型エマルションの形成を促進してもよい。9未満のHLB値(親水性親油性バランス)を有するものなど、不水溶性(油溶性)の乳化剤が好ましい。これらの乳化剤の例として、ソルビタントリオレアート(Span 85)HLB=1.8、ソルビタントリステアレート(Span 65)HLB=2.1、セスキオレイン酸ソルビタン(Arlacel 83)HLB=3.7、モノステアリン酸グリセリン、HLB=3.8、ソルビタンモノオレエート、(Span 80)HLB=4.3、ソルビタンモノステアレート、(Span 60)HLB=4.7、ソルビタンモノパルミタート、(Span 40)HLB=6.7、ソルビタンモノラウレート、(Span 20)HLB=8.6がある。適切な乳化剤のさらなる例として、疎水的に改質された水溶性のポリマー、または、極性の異なる成分で構成される、ランダム共重合体またはブロックまたはグラフト共重合体がある。疎水的に改質された水溶性のポリマー乳化剤の一例は、エチルセルロースである。当然ながら他のこのような乳化剤も使用して差し支えない。
【0093】
本明細書に記載のマイクロキャリアは、マイクロキャリアベースに共役したポリペプチドを含んでいてもよい。任意の適切な方法を用いてポリペプチドを共役して差し支えない。さまざまな実施の形態では、ポリペプチドは、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー由来のカルボン酸基に共役する。EDC/NHSまたは任意の他の適切な化学を使用して、ポリペプチドをマイクロキャリアベースのカルボン酸基に共役させてもよい。マイクロキャリアは、マイクロキャリアベース1ミリグラムあたり60nmolを超える、70nmolを超える、80nmolを超える、90nmolを超える、または100nmolを超える共役ポリペプチドを有しうる。マイクロキャリアを幹細胞の培養に使用することが意図されている一部の実施の形態では、マイクロキャリアはマイクロキャリアベース1ミリグラムあたり100nmolを超える共役ポリペプチドを有する。
【0094】
任意の適切なポリペプチドがマイクロキャリアベースに共役されうる。ポリペプチドは、生体特異的方法でマイクロキャリアへの細胞接着を促進することが好ましい。さまざまな実施の形態では、ポリペプチドは、インテグリンタイプのタンパク質によって認識されるか、または細胞接着を維持することができる細胞分子との相互作用を生じるアミノ酸配列、またはそれらの一部を含む。例えば、ポリペプチドは、コラーゲン、ケラチン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、骨シアロタンパク質(BSP)などのアミノ酸配列、またはそれらの一部を含みうる。さまざまな実施の形態では、ポリペプチドは、ArgGlyAsp(RGD)のアミノ酸配列を含む。
【0095】
マイクロキャリアベースに共役しうるポリペプチドの例としては、KGGNGEPRGDTYRAY(配列番号:1);NGEPRGDTYRAY(配列番号:2);GRGDSPK(配列番号:3);AVTGRGDSPASS(配列番号:4);PQVTRGDVFTMP(配列番号:5);RNIAEIIKDI(配列番号:6);KYGRKRLQVQLSIRT(配列番号:7);NGEPRGDTRAY(配列番号:8);NGEPRGDTYRAY(配列番号:9);KYGAASIKVAVSADR(配列番号:10);KYGKAFDITYVRLKF(配列番号:11);KYGSETTVKYIFRLHE(配列番号:12);KYGTDIRVTLNRLNTF(配列番号:13);TSIKIRGTYSER(配列番号:14);TWYKIAFQRNRK(配列番号:15);SINNNRWHSIYITRFGNMGS(配列番号:16);KYGLALERKDHSG(配列番号:17);GQKCIVQTTSWSQCSKS(配列番号:18);Lys4とAsp17が一緒にアミド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGK4DGEPRGDTYRATD17(配列番号:19);Lys4とAsp13が一緒にアミド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGL4EPRGDTYRD13(配列番号:20);Cys4とCys17が一緒にジスルフィド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGC4NGEPRGDTYRATC17(配列番号:21);Cys4とCys13が一緒にジスルフィド結合を形成してポリペプチドの一部を環化する、KGGC4EPRGDTYRC13(配列番号:22)、KGGAVTGDGNSPASS(配列番号:23);およびAc−Lys−Gly−Gly−Pro−Gln−Val−Thr−Arg−Gly−Asp−Val−Phe−Thr−Met−Pro−NH2(配列番号:24)が挙げられる。
【0096】
ポリペプチドは、いかなる密度でマイクロキャリアに共役してもよく、未分化の幹細胞または他の細胞型の培養を支持するのに適した密度が好ましい。ポリペプチドは、マイクロキャリア表面1mm2あたり約1pmol/mm2〜約50pmol/mm2の密度でマイクロキャリアに共役されうる。例えば、ポリペプチドは、マイクロキャリア表面1mm2あたり、5pmol/mm2を超える、6pmol/mm2を超える、7pmol/mm2を超える、8pmol/mm2を超える、9pmol/mm2を超える、10pmol/mm2を超える、12pmol/mm2を超える、15pmol/mm2を超える、または20pmol/mm2を超える密度で存在しうる。
【0097】
本明細書に記載のマイクロキャリアは、バイオリアクター、単一ウェルプレートおよびマルチウェルプレート、広口瓶、ペトリ皿、フラスコ、ビーカー、ローラーボトル、管、袋、膜、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバー、発酵槽など、いかなる適切な系にも使用することができる。
【0098】
マイクロキャリアは、適切な系において、任意の適切な細胞の培養に使用して差し支えなく、例えば、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞、または、細菌、酵母、または植物細胞などの非哺乳動物細胞が挙げられる。本明細書に記載のマイクロキャリアとともに培養されうる哺乳動物細胞の例としては、結合組織細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、骨または平滑筋細胞、心筋細胞、腸細胞、腎細胞、または他の臓器由来の細胞、幹細胞、小島細胞、血管細胞、リンパ球、癌細胞、初代細胞、細胞株などが挙げられる。多くの実施の形態では、細胞は、多分化能、分化全能性、または多能性幹細胞などの幹細胞である。一部の実施の形態では、細胞は胚幹細胞である。本明細書に示すように、記載されるマイクロキャリアを使用して、化学的に定義された培地で胚幹細胞を培養して差し支えない。
【0099】
培養細胞は、(i)調査研究または治療用途の開発に使用するために、化学的に定義された培地の合成表面上で培養される十分な量の未分化の幹細胞の入手、(ii)培養細胞の調査研究、(iii)治療用途の開発、(iv)治療目的、(v)例えばcDNAライブラリを作成することによる遺伝子発現の研究、(vi)薬物および毒性スクリーニングの研究、および(vii)同様のものを含めた、いかなる適切な目的にも使用することができる。
【0100】
第1の態様では、(i)ヒドロキシル基を有する親水性の(メタ)アクリレートモノマーおよびヒドロキシル基を有する親水性の(メタ)アクリルアミドモノマーから選択されるヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;(ii)カルボン酸含有(メタ)アクリレートモノマーおよびカルボン酸含有(メタ)アクリルアミドモノマーから選択される親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および(iii)親水性の多官能性の(メタ)アクリレートモノマーおよび親水性の多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーから選択される第1の親水性の多官能性不飽和モノマー、および、前記マイクロキャリアーにに共役したポリペプチドを含む、モノマーの混合物の共重合から形成されるポリマー性マイクロキャリアベースを備えており、前記マイクロキャリアベースが75%を超える平衡含水率を有する、細胞培養のためのマイクロキャリアが提供される。第2の態様では、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および親水性の多官能性不飽和モノマーの全重量に対し、重量パーセントで、(i)30〜70重量部の、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、(ii)20〜60重量部の親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および(iii)1〜15重量部の第1の親水性の多官能性不飽和モノマーを含む、態様1に従ったマイクロキャリアが提供される。第3の態様では、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーが、式(I)または式(II)に従ったモノマーである、態様1または2に従ったマイクロキャリアが提供され:
【化5】

【0101】
ここで、AはHまたはメチルであり、Bは、C1−C6の直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテルである。一部の実施の形態では、BはC1−C4の直鎖または分岐鎖アルコールであり;または
【化6】

【0102】
ここで、AはHまたはメチルであり、Bは、C1−C6の直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテルである。第4の態様では、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーが、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリセロール、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミド−エトキシエタノール、およびN−ヒドロキシエチルアクリルアミドからなる群より選択される、態様1または2に従ったマイクロキャリアが提供される。第5の態様では、ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチルである、態様1または2に従ったマイクロキャリアが提供される。第6の態様では、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーが式(III)または式(IV)に従ったモノマーである、態様1〜5のいずれかに従ったマイクロキャリアが提示され:
【化7】

【0103】
ここで、Aは水素またはメチルであり、Dは、カルボキシル基(−COOH)で置換されたC1−C6の直鎖または分岐鎖アルキルであり;または
【化8】

【0104】
ここで、Aは水素またはメチルであり、Dは、カルボキシル基(−COOH)で置換されたC1−C6の直鎖または分岐鎖アルキルである。第7の態様では、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーが、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリル酸2−カルボキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリルアミド、およびアクリルアミドグリコール酸からなる群より選択される、態様1〜5のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第8の態様では、親水性のカルボン酸含有不飽和モノマーが2−カルボキシエチルメタクリレートである、態様1〜5のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第9の態様では、第1の親水性の多官能性不飽和モノマーが、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジアクリレート、プロピレングリコールグリセロレートジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、およびグリセリン1,3−ジグリセロラートジアクリラートからなる群より選択される、態様1〜8のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第10の態様では、第1の親水性の多官能性不飽和モノマーが、メチレンビスアクリルアミドおよびジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドからなる群より選択される、態様1〜8のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第11の態様では、モノマーの混合物が、多官能性の不飽和(メタ)アクリレートモノマーまたは多官能性の不飽和(メタ)アクリルアミドモノマーからなる群より選択される第2の多官能性の不飽和モノマーをさらに含む、態様1〜10のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第12の態様では、第2の多官能性の不飽和モノマーが、第1の親水性の多官能性不飽和モノマーよりも親水性に乏しい、態様11に従ったマイクロキャリアが提供される。第13の態様では、第2の多官能性の不飽和モノマーがテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートである、態様11または請求項12に従ったマイクロキャリアが提供される。第14の態様では、第1の親水性の多官能性不飽和モノマーと第2の多官能性の不飽和モノマーを合わせて、モノマーの混合物の15重量部を超えない、態様11〜13のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第15の態様では、ポリペプチドがRGD含有ポリペプチドである、態様1〜14のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第16の態様では、ポリペプチドが、BSPポリペプチド、ビトロネクチンポリペプチド、フィブロネクチンポリペプチド、およびコラーゲンポリペプチドからなる群より選択される、態様1〜14のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第17の態様では、マイクロキャリアがマイクロキャリアベース1ミリグラムあたり100nmolを超える共役ポリペプチドを有する、態様1〜16のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第18の態様では、マイクロキャリアベースがモノリス型である、態様1〜17のいずれかに従ったマイクロキャリアが提供される。第19の態様では、ヒト胚幹細胞を培養する方法であって、前記細胞を、請求項1〜18のいずれかに従ったマイクロキャリアを有する細胞培養培地と接触させ;前記細胞を前記培地中で培養する、各工程を有してなる方法が提供される。第20の態様では、マイクロキャリアベースが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−カルボキシエチルメタクリレート、および(i)メチレンビスアクリルアミドまたは(ii)ジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドを含むモノマーの混合物から形成され、前記モノマーの混合物が、(i)30〜70重量部のメタクリル酸2−ヒドロキシエチル;(ii)20〜60重量部の2−カルボキシエチルメタクリレート;および(iii)1〜15重量部のメチレンビスアクリルアミドまたはジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドを含み、前記ポリペプチドがRGD含有ポリペプチドである、態様19に従った方法が提供される。第21の態様では、前記ポリペプチドがビトロネクチンポリペプチドである、態様20に従った方法が提供される。第22の態様では、前記モノマーの混合物が、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートをさらに含み、前記テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートと前記メチレンビスアクリルアミドの組合せまたは前記テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートと前記ジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドとの組合せがモノマーの混合物の15重量部を超えない、態様20または21に従った方法が提供される。
【0105】
以下に、上述のマイクロキャリアおよび方法のさまざまな実施の形態を説明する、非限定的な例を提示する。
【実施例】
【0106】
実施例1:マイクロキャリアの調製
250gの乾燥トルエンおよび15gのSPAN85乳化剤を、温度の自動調節器つきの覆いおよび下部ドレイン、滴下漏斗、アンカースターラーおよび不活性ガスバブリングチューブを備えた500ミリリットルの反応器に入れた。反応器の温度を40℃に設定し、混合物を、アルゴンバブリング下、少なくとも15分間、500rpmで攪拌した。次に、NaOHを用いてpH8〜10に調整した、22ミリリットルの脱イオン水、6.3gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート、1.8gのアクリル酸2−カルボキシエチル・ナトリウム塩および1gのメチレンビスアクリルアミドを含む均質の混合物を調製した。0.5gの過硫酸アンモニウムを、透明かつ均質な溶液が得られるまで、この水溶液に溶解させた。次いで、この溶液を、40℃で、攪拌したトルエン/SPAN85混合物に滴下漏斗を用いて滴下した。混合物は、油中水型エマルションの形成に起因して、急速に乳状に変化した。15分間の混合の後、100マイクロリットルのテトラメチルエチレンジアミンを攪拌エマルションに素早く加えた。2時間の反応後、温度を20℃まで冷却し、反応器の下部ドレインを用いて反応器からマイクロキャリアを回収した。不水溶性の乳化剤および未反応の材料を除去するため、得られたマイクロキャリアをアセトンで十分に洗浄した。乾燥後、マイクロキャリアの粉末は、特別な条件を用いずに、室温で保管可能な白色の自由流動粉末であった。
【0107】
マイクロキャリアは、篩にかけずに顕微鏡下で観察して、概ね球形であるように見え、狭い粒度分布を有していた。代表的な画像を図1に示す。
【0108】
次に、マイクロキャリアを走査型電子顕微鏡で観察した。簡潔に言えば、ビーズを6nmの金−パラジウムで金属化した。電界効果型電子銃の走査型電子顕微鏡を用いて観察した(ref.LEO1550)。球形のマイクロキャリア表面は、滑らかで非多孔性に見えた(それぞれ、500倍(図2A)および2,000倍(図2B)の倍率の画像を示す、図2AおよびB参照)。図3は、異なる倍率におけるPBS緩衝液洗浄後に得られたミクロスフェアのSEM画像を示している。
【0109】
次に、マイクロキャリアを粒度分布を決定するためのレーザー回折粒径解析器に供した。水性液体モジュールを備えた多重波長のBeckman Coulter(商標)LS 13 320および水道水を用いて解析を行った。粒子の粒度分布のグラフを図4に示す。得られた粒子は101.8マイクロメートル(±24.42マイクロメートル)の直径を有していた。実施例6、8、および9(下記参照)は、より大きい直径を有するマイクロキャリアの合成について論じている。
【0110】
ミクロスフェアは水中でも膨潤した(20ミリリットルの水中、1.5立方センチメートルの乾燥マイクロキャリア)。ミクロスフェアは約4.5立方センチメートルの体積まで膨潤した。
【0111】
実施例2:クリスタルバイオレットを用いたCOOH含量の評価
実施例1に従って調製した10マイクログラムの乾燥マイクロキャリアを2ミリリットルの脱イオン水に懸濁し、10マイクロリットルの5%wt/vのクリスタル・バイオレット水溶液を加えた。沈殿後、無色の上清が得られるまで、染色したマイクロキャリアを脱イオン水で洗浄した。洗浄したマイクロキャリアを2ミリリットルの脱イオン水に懸濁した。染色の一様分布が得られ(データは示さず)、カルボキシル基がマイクロキャリア表面に沿って均等に分布したことを示唆した。
【0112】
実施例3:Alexa Fluor(商標)488カップリングを用いて評価するアミン結合
実施例1に従って調製した10マイクログラムのマイクロキャリアをエッペンドルフ・プラスチックチューブに入れて計量し、900マイクロリットルの水を加えて振とうすることによってマイクロキャリアを分散させた。次に、100マイクロリットルの200mM EDCおよび50mM NHSまたはスルホ−NHSを加えた。活性化を30分間行った。マイクロキャリアを遠心分離によって沈降させた後、マイクロキャリアを1mlの脱イオン水ですすいだ。すすぎを3回繰り返した。次いで、活性化マイクロキャリアを400マイクロリットルのホウ酸緩衝液pH9.2に懸濁し、Invitrogen Molecular Probes(商標)から市販される100マイクロリットルの1mM Alexa Fluor(商標)488を加えた。1時間のカップリングの後、遠心分離してマイクロキャリアを回収し、PBS緩衝液で3回すすいだ。
【0113】
EDC/NHSおよびスルホ−EDC/NHSアミン介在性カップリングを用いて実質的な蛍光を観察し(データ示さず)、いずれも、ミクロスフェア表面へのポリペプチドの共役に使用することができることを示唆した。スルホ−EDC/NHSはEDC/NHSよりもわずかに多く蛍光を生じた。
【0114】
実施例4:ペプチドグラフト化
概念実証の目的で、EDC/スルホ−NHSまたはEDC/NHS介在性カップリングを用いて、実施例1に記載されるように調製したマイクロキャリア上にGRGDS(配列番号:26)ペプチドをグラフトした。上述のように、インテグリンタイプに由来するタンパク質によって潜在的に認識されるか、または、細胞接着を維持することができる細胞分子との相互作用を生じる他の対象ペプチド、例えばアミノ酸配列を含むものなどは、同様のプロトコルを用いてグラフト化することができる。簡潔に言えば、10マイクログラムの乾燥マイクロキャリアをエッペンドルフチューブ中で計量し、900マイクロリットルの脱イオン水中に分散させた。次に、100マイクロリットルの20mM EDCおよび5mM スルホ−NHSを加え、30分間静置し、カルボン酸基を活性化させた。活性化マイクロキャリアを遠心分離によって回収し、脱イオン水で3回すすいだ。つぎに、それらを400マイクロリットルのホウ酸緩衝液(pH9)に再懸濁し、100マイクロリットルの5mM GRGDS(配列番号:26)ペプチドを加え、1時間反応させた。
【0115】
マイクロキャリアを遠心分離によって回収し、1mlのPBS緩衝液pH7.4を用いて3回洗浄した。最後に、1mlのエタノールアミンで30分間ブロックすることによって過剰の活性化エステルを不活性化させた。ペプチドグラフト化およびブロック化したマイクロキャリアを回収し、PBSで3回すすいだ。PBSですすいだ後、マイクロキャリアを70:30%v/vのエタノール/水で2回すすぎ、このエタノール/水溶液を細胞培養前に保管した。
【0116】
実施例5:ペプチドグラフト化マイクロキャリア上での細胞培養
CHO−M1細胞(ATCC# CRL−1984)を、10%のウシ胎仔血清(Hyclone社)およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したF−12 Kaighnの改変培地(Gibco社)で増殖させた。細胞を、37℃、5%のCO、湿潤雰囲気のインキュベータ内に保管し、3日ごとに培地を交換し、細胞をトリプシン処理し、培養密度未満に維持する必要がある場合には希釈した。
【0117】
細胞の播種前に、エタノール/水溶液(70/30)中に保管した、実施例4に従って調製したマイクロキャリアをHBSS緩衝液(Gibco社製)で3回洗浄した。最後に、マイクロキャリアを細胞培地に懸濁し、Corning(登録商標)ULAプレートに分散した。
【0118】
トリプシン処理による細胞の指数増殖期の間に、マイクロキャリア上に播種するための細胞を回収した。細胞をカウントし、HBSS緩衝液で洗浄した。細胞濃度を10細胞/ミリリットルに調整し、細胞をマイクロキャリア上に分散し、少なくとも4時間、インキュベータ内でインキュベートした。
【0119】
最初の4時間のインキュベーション後に、ペプチドをグラフトしたマイクロキャリア上の細胞接着を観察した。キャリア上に付着したCHO−M1の画像を図5に提示する。画像Aは、播種4時間後の細胞を示しており:円形の細胞は接着の初期段階の特徴である。16時間のインキュベーション後(画像B)、表面に拡散する細胞が明白に確認でき、インテグリンの係合および焦点接着形成を示唆している。この段階の細胞は、さらに増殖させるために懸濁培養容器に移すべきである。
【0120】
HEK293(ATCC# crl−1573)細胞を、異なる段階でペプチドグラフト化したマイクロキャリア上に播種し、DMEM Gibco+10% FBS(Hyclone社)中で培養させた。ペプチドおよびエタノールアミン処理なしでは細胞接着は見られなかった(データ示さず)。図6は、GRGDSペプチドでグラフト化したマイクロキャリア上に付着するHEK293細胞の画像である。簡潔に言えば、HEK293細胞を、異なる段階でペプチドグラフト化したマイクロキャリア上に播種した。ペプチドおよびエタノールアミン処理なしでは細胞接着は観察されなかった。
【0121】
MRC5細胞(ATCC# CCL−171)を異なる段階でペプチドグラフト化したマイクロキャリア上に播種し、DMEM Gibco+10% FBS(Hyclone社製)中で培養した。ペプチドおよびエタノールアミン処理なしでは細胞接着は観察されなかった(データ示さず)。図7は、GRGDS(配列番号:26)ペプチドでグラフト化したマイクロキャリア上に付着するMRC5細胞の画像である。
【0122】
これらの結果は、これらの培養条件に用いられるマイクロキャリアには毒性がないことを実証している。
【0123】
実施例6:マイクロキャリアの調製
250gの乾燥トルエンおよび15gのSPAN85乳化剤を、温度の自動調節器つきの覆いおよび下部ドレイン、滴下漏斗、アンカースターラーおよび不活性ガスのバブリングチューブを備えた500ミリリットルの反応器に入れた。反応器の温度を40℃に設定し、混合物を、アルゴンバブリング下で少なくとも15分間、260rpmで攪拌した。次いで、NaOHを用いてpH8〜10に調整した、22ミリリットルの脱イオン水、6.3gのメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、1.8gのアクリル酸2−カルボキシエチル・ナトリウム塩および0.5gのジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドを含む均質の混合物を調製した。0.5gの過硫酸アンモニウムを、透明かつ均質な溶液が得られるまで、この水溶液に溶解させた。次に、この溶液を、40℃で、滴下漏斗を用いて、攪拌したトルエン/SPAN85混合物に滴下して加えた。混合物は、油中水型エマルションの形成に起因して乳状に変化した。15分間の混合後、100マイクロリットルのテトラメチルエチレンジアミンを攪拌エマルションに素早く加えた。2時間の反応後、温度を20℃まで冷却し、反応器の下部ドレインを利用して反応器からマイクロキャリアを回収した。不水溶性の乳化剤および未反応の材料を除去するため、得られたマイクロキャリアをアセトンで十分に洗浄した。乾燥後、マイクロキャリアの粉末は、ミクロスフェアの凝集を防ぐために4℃で保管可能な、白色粉末であった。
【0124】
マイクロキャリアは、篩にかけずに顕微鏡下で観察して、極めて球形であるように見え、許容される粒度分布および非常に高い透明性を有していた。代表的な画像を図8に示す。
【0125】
実施例7:ビトロネクチン−ペプチドグラフト化
EDC/スルホ−NHS介在性カップリングを用いて、ビトロネクチン−ペプチドを、実施例6に記載されるように調製したマイクロキャリア上にグラフトした。簡潔に言えば、10マイクログラムの乾燥マイクロキャリアをエッペンドルフチューブに入れて計量し、900マイクロリットルの脱イオン水中に分散した。次に、100マイクロリットルの200mM EDCおよび50mM スルホ−NHSを加え、30分間静置してカルボン酸基を活性化した。活性化マイクロキャリアを遠心分離によって回収し、脱イオン水で3回すすいだ。つぎに、それらを、1000マイクロリットルのホウ酸緩衝剤pH9.2中、10mMのビトロネクチン・ペプチド(Ac−Lys−Gly−Gly−Pro−Gln−Val−Thr−Arg−Gly−Asp−Val−Phe−Thr−Met−Pro−NH(配列番号:24)のアミノ酸配列を有する、American Peptide Company inc.社(米国カリフォルニア州所在)から市販されるref 341587(ID#VN))に再懸濁し、2時間反応させた。マイクロキャリアを遠心分離によって回収し、1mlのPBS緩衝液pH7.4で3回洗浄した。最後に、過剰の活性化エステルを、1mlのエタノールアミンで30分間ブロックすることによって不活性化させた。ペプチドクラフト化およびブロック化マイクロキャリアを回収し、PBSで3回すすいだ。PBSですすいだ後、マイクロキャリアを70:30%v/vのエタノール/水で2回すすぎ、細胞培養前に、このエタノール/水溶液中で保管した。
【0126】
実施例8:RGE−ペプチドグラフト化
アミノ酸配列Ac−Gly−Arg−Gly−Glu−Ser−Pro−Ile−Ile−Lys−NH2(配列番号:25))を有する、American Peptide Company inc.(米国カリフォルニア州所在)から得られたRGE−ペプチド(ref 348454(ID#RGE)を、実施例7から得られたビトロネクチン・ペプチドの代わりに利用したことを除き、実施例7と同一の手順を反復した。RGEコアを含むペプチドでグラフトしたこれらのマイクロキャリアを陰性対照として使用した。
【0127】
実施例9:ビトロネクチン−ペプチドおよびRGE−ペプチドをグラフトしたマイクロキャリア上でのHT1080細胞培養
HT−1080細胞(ATCC# CCL−121)を、10%のウシ胎仔血清(Hyclone社製)を加えたIMDM培地(Gibco社製)で増殖させた。
【0128】
接着アッセイでは、10mgの、実施例7および8から得られたペプチドをグラフトしたマイクロキャリアをD−PBSを用いて洗浄し、無血清培地に再懸濁し、24ウェルのマルチウェルプレートに移した。HT1080細胞をトリプシン処理し、カウントし、500,000細胞をあらかじめ調製したビーズと混合した。プレートを37℃で1時間インキュベートし、図9に示すように、位相差顕微鏡法を用いて細胞接着を観察した。図9Aは、VN配列を有するマイクロキャリア上で増殖する細胞を示している。図9Bは、RGEペプチド配列を有するマイクロキャリアとともに培養した細胞を示している。画像AとBの比較から、細胞接着がビトロネクチン・ペプチドのRGDコアに特異的であることが判明した。
【0129】
実施例10:マイクロキャリアの調製
攪拌速度が260rpmであったことを除き、実施例1と同一の手順を反復した。330μmの平均粒径が観察された(図10参照)。
【0130】
実施例11:マイクロキャリアの調製
攪拌速度が300rpmであったことを除き、実施例1と同一の手順を反復した。210μmの平均粒径が観察された(図10参照)。
【0131】
実施例12:マイクロキャリアの調製(μHG07)
200gの乾燥トルエンおよび15gのSPAN85乳化剤を、温度の自動調節器つきの覆いおよび下部ドレイン、滴下漏斗、アンカースターラーおよび不活性ガスのバブリングチューブを備えた500ミリリットルの反応器に入れた。反応器の温度を40℃に設定し、混合物を、アルゴンバブリング下で少なくとも15分間、260rpmで攪拌した。次に、10ミリリットルの脱イオン水、3.1gのメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、5.0gのアクリル酸2−カルボキシエチル、0.15gのメチレンビスアクリルアミド、0.40gのジメタクリル酸テトラエチレングリコールおよび1mlのエタノールを含む均質な混合物を調製した。pHを、約4.45gの10M 水酸化ナトリウムを滴下して加えることによってpH8〜9に調整した。次いで、0.63gの過硫酸アンモニウムを、透明かつ均質な溶液が得られるまで、この水溶液に溶解した。次に、この溶液を、乾燥アルゴンを用いて1分間バブリングし、攪拌したトルエン/SPAN85混合物に、40℃で、滴下漏斗を用いて滴下して加えた。15分間の混合後、100マイクロリットルのテトラメチルエチレンジアミンを攪拌エマルションに素早く加えた。4時間の反応後、温度を20℃まで冷却し、マイクロキャリアを、反応器の下部ドレインを利用して反応器から回収した。界面活性剤および未反応の材料を除去するため、得られたマイクロキャリアをアセトンで十分に洗浄した。ビーズを水中で2時間膨潤させ、100、200および400μmのナイロンメッシュの篩を用いて湿式篩にかけた。風乾後、200〜400μmの大きさを有する、篩にかけたマイクロキャリアを、後述するさらなるペプチド共役に使用した。
【0132】
実施例13:ビトロネクチン−ペプチドのグラフト化
EDC/NHS介在性カップリングを用いて、ビトロネクチン−ペプチドを実施例12に従って調製したマイクロキャリアに共役させた。簡潔に言えば、実施例12から得た10マイクログラムの乾燥マイクロキャリアをエッペンドルフチューブに入れて計量し、900マイクロリットルの脱イオン水に分散した。次に、100マイクロリットルの200mM EDCおよび50mM NHSを加え、30分間静置して、カルボン酸基を活性化した。活性化したマイクロキャリアを遠心分離によって回収し、脱イオン水で3回すすいだ。次いで、ホウ酸緩衝液pH9.2中、American Peptide Company inc.(米国カリフォルニア州所在)から市販される1000マイクロリットルの2.5mM ビトロネクチンペプチド(ref 341587(ID#VN)、Ac−Lys−Gly−Gly−Pro−Gln−Val−Thr−Arg−Gly−Asp−Val−Phe−Thr−Met−Pro−NH(配列番号:24)のアミノ酸配列を有する)を加え、懸濁液を30分間反応させ、チューブを10分毎に振とうした。マイクロキャリアを遠心分離によって回収し、1mlのPBS緩衝液pH7.4で3回洗浄した。最後に、過剰の活性化エステルを、1mlの1M エタノールアミンpH8.4で30分間ブロックすることによって不活性化した。ペプチドグラフト化およびブロック化マイクロキャリアを回収し、PBSで3回すすいだ。PBSですすいだ後、マイクロキャリアを70:30%v/vのエタノール/水で2回すすぎ、細胞培養の前に、このエタノール/水溶液を保管した。これらのマイクロキャリアは本明細書においてμHG07と称される。
【0133】
実施例14:マイクロキャリアの調製(μHG14)
200gの乾燥トルエンおよび15gのSPAN85乳化剤を、温度の自動調節器つきの覆いおよび下部ドレイン、滴下漏斗、アンカースターラーおよび不活性ガスのバブリングチューブを備えた500ミリリットルの反応器に入れた。反応器の温度を40℃に設定し、混合物を、アルゴンバブリング下、少なくとも15分間、330rpmで攪拌した。次に、10ミリリットルの脱イオン水、3.1gのメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、5.0gのアクリル酸2−カルボキシエチル、0.8gのグリセリン1,3−ジグリセロラートジアクリラートを含む均質な混合物を調製した。pHを、約4.46gの10M 水酸化ナトリウムを滴下して加えることによって、pH8〜9に調整した。次に、0.63gの過硫酸アンモニウムを、透明かつ均質な溶液が得られるまで、この水溶液に溶解した。次いで、この溶液を乾燥アルゴンで1分間バブリングし、40℃で、滴下漏斗を用いて、攪拌したトルエン/SPAN85混合物にて気化して加えた。15分間の混合後、150マイクロリットルのテトラメチルエチレンジアミンを攪拌エマルションに素早く加えた。3時間の反応後、温度を20℃まで冷却し、マイクロキャリアを、反応器の下部ドレインを使用して反応器から回収した。界面活性剤および未反応の材料を除去するために、得られたマイクロキャリアをアセトンで十分に洗浄した。ビーズを水中で2時間膨潤させ、100、200および400μmのナイロンメッシュの篩を用いて湿式篩にかけた。風乾後、200〜400μmの大きさを有する、篩にかけたマイクロキャリアを、実施例13から得たプロトコルに従ったペプチド共役に用いた。
【0134】
実施例15:HT1080細胞を用いた細胞接着アッセイ
接着アッセイでは、実施例13から得た5mgのVNペプチドグラフト化マイクロキャリアをD−PBSで洗浄し、ウシ血清アルブミン(BSA)で飽和し、血清を含まない培地に再懸濁し、24穴のマルチウェル超低接着性(ULA)プレートに移した。
【0135】
HT1080ヒト線維肉腫細胞(ATCC# CCL−121)を、10%のウシ胎仔血清(FBS)およびペニシリン、ストレプトマイシンの抗生物質を補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(Gibco社)で増殖させた。細胞を、5%のCOを含む湿潤雰囲気下、37℃でインキュベータ内に保管した。細胞を、培養密度に達する前に、必要に応じてトリプシン処理によって分裂させた。
【0136】
HT1080細胞を、トリプシン処理し、洗浄し、カウントし、無血清培地中500,000細胞を、あらかじめ調製したビーズと混合した。プレートを37℃で2時間インキュベートし、位相差顕微鏡法を用いて細胞付着を観察した。定量化が必要とされる場合は、調製物をPBS中3.7%のホルムアルデヒドで固定し、細胞の画像を定量化した。
【0137】
播種後2時間の時点で撮影した位相差顕微鏡画像である、μHG07マイクロキャリアに付着するHT1080細胞の代表的な画像を図11に示す。実施例9に関して先に簡単に論じたように、HT1080細胞の接着は、グラフト化RGEポリペプチド(μHG0×RGE)を有するマイクロキャリア上では観察されなかったが、VNペプチドグラフト化マイクロキャリア上では観察され、細胞結合がペプチド特異的であり、マイクロキャリアベースへの非特異的な結合が生じることは皆無かそれに近いことを示唆している(図9参照)。
【0138】
足場依存性のHT1080細胞がμHG0X−VNマイクロキャリアシリーズ(すなわち、本明細書に提示する実施例において調製されるもの)に結合し、拡大する能力および攪拌培養条件下で結合および増殖を維持する能力を試験し、正に帯電した、足場依存性細胞の非特異的結合を支持すると考えられるCytodex(商標)1マイクロキャリア(GE Healthcare Biosciences AB Ltd)、または、「Cytodex」3およびsolohill pronectin(登録商標)Fキャリアを含めた他の市販されるキャリアと比較した。簡潔に言えば、100mgのペプチドグラフト化マイクロキャリア、または市販のマイクロキャリア(「Cytodex」1、「Cytodex」3、「SoloHill pronectin」F)をD−PBS中で洗浄し、培地に再懸濁し、125mLのスピナーフラスコ(Corning,Inc.社製)に移した。HT1080細胞をトリプシン処理し、カウントし、2,500,000細胞を、あらかじめ調製したビーズと混合した。攪拌なしで、10mLの最終的な培地体積における最初の2時間の付着時間の後、培地体積を30mLに調整し、1時間ごとに15分間の攪拌を設定した。サンプルを毎日回収し、位相差顕微鏡法で評価した。図12に示すように、HT1080細胞は、「Cytodex」3ビーズと同様またはそれより良好に、μHG0X−VNマイクロキャリアに接着し、拡大した。μHG07−VNは特に、最も高い膨張率を可能にした。図12の位相差画像は、μHG07−VNマイクロキャリア上に細胞を播種後2時間および4日後に撮影した。
【0139】
4〜5日後、細胞保有キャリアを遠心分離によって回収し、PBS緩衝液で洗浄し、トリプシン処理によって細胞を採取した。トリパンブルー色素排除試験後、Malassez細胞を用いてカウントすることによって、生細胞の数を決定した。結果を図13に提示し、ProFマイクロキャリア上で測定した増殖についての最終的な細胞数を報告している。図13に示すように、足場依存性のHT1080細胞は、「Cytodex」1、「Cytodex」3、およびProFマイクロキャリアよりもμHG07マイクロキャリア上で良好に増殖した。
【0140】
本明細書が提示する結果は、ヒドロゲルマイクロキャリアが、無血清条件下、ペプチド特異的方法などで、HT1080細胞などの足場依存性細胞の接着および増殖を支持することができることを示している。このようなマイクロキャリアへの細胞の結合は、攪拌条件下での培養を支持するのに十分である。さらには、細胞は、他の市販のマイクロキャリアよりもこれらのマイクロキャリア上で良好に接着および増殖するように見える。
【0141】
実施例16:多能性マウス胚幹細胞の接着
長期間の接着アッセイでは、5mgのVNペプチドグラフト化マイクロキャリアをD−PBSで洗浄し、血清を含まない培地(mTeSR(StemCell Technologies社))に再懸濁し、24ウェルのマルチウェルULAプレートに移した。
【0142】
ES−D3多能性マウス胚幹細胞(ATCC# CRL−11632)を、ATCCが推奨するように15%のFBSおよび0.1mMのβ−メルカプトエタノールを補充したDMEM培地で増殖させた。Matrigelでコーティングしたプレート上で細胞を定期的に増殖させ、トリプシン処理し、培養密度に達する前に希釈した。
【0143】
ES−D3細胞をトリプシン処理し、洗浄し、カウントした。1x10細胞をmTeSR無血清培地に再懸濁し、実施例12に記載されるようにあらかじめ調製したビーズと混合した。プレートを37℃で48時間インキュベートし、位相差顕微鏡法を用いて、細胞接着を48時間観察した(図14参照)。多能性マウス胚幹細胞は、試験したマイクロキャリアに上手く接着することができる。我々は、攪拌していないにもかかわらず、マイクロキャリアが凝集物を形成する傾向が制限されることを見出した。
【0144】
実験の最後に、多能性胚幹細胞によって特異的に発現する酵素であるアルカリホスファターゼ活性の投与による、細胞の多分化能を調査した。結果を図15に示すが、これは、陽性対照(「Cytodex」3)に見られるものと比較して、ある程度予想されるように、細胞の多分化能が維持されることを示唆している。予想していた細胞が多能性ではなく、アルカリホスファターゼを発現しないことから、ATCCが推奨するTCT上で増殖したSTOマウス線維芽細胞(ATCC# CRL−1503)は、陰性対照として使用した。
【0145】
ES−D3 mESCもまた、図15に示すように、実施例14のように調製したマイクロキャリア上に付着することができた。
【0146】
これらの結果は、本明細書に記載のマイクロキャリアがヒト胚幹細胞などの多能性幹細胞の培養を支持するという示唆を裏付けている。
【0147】
実施例16:ヒト胚幹細胞の接着および拡大
BG01V/hOG細胞(Invitrogen社)を、MatrigelでコーティングしたTCT75フラスコ(Corning社製)内で、50μg/mlのハイグロマイシンB(STEMCELL Technologie社)を含む無血清mTeSR1培地で維持した。最初の48時間の培養後に、毎日の培地交換を開始した。細胞を、コラゲナーゼIV(Invitrogen社)および機械的剥離を用いて5〜6日毎に継代した。
【0148】
アッセイのため、凝集したコロニーを採取し、新鮮なmTeSR1無血清培地に再懸濁した。細胞を、上述のように調製したVN−ペプチドグラフト化μHG07マイクロキャリア、または比較例としてGE Healthcareから市販される「Cytodex」3マイクロキャリアを含む24ウェルのCorning超低接着マイクロプレート(1.5×105細胞/cm2)に播種した。培地を用いて体積を600マイクロリットルに調整した。細胞は、攪拌せずに、48時間、マイクロキャリアに接着することができた。播種後2日間、Ziess Axiovert 200M 倒立顕微鏡を使用して、細胞の接着および拡散を評価した。
【0149】
図17に示すように、μHG07−VNビーズ上におけるBG01V/hOG細胞コロニーの良好な拡散が見られた。「Cytodex」3ビーズ上では、細胞は接着することができず、代わりに、浮遊する胚体を形成した。
【0150】
攪拌培養では、5×10細胞を、先に説明したように、スピナーフラスコ中の最終体積15mLのmTeSR1培地における50mgのマイクロキャリア上に播種し、攪拌せずに2日間、細胞をインキュベートし、2日間毎に15分間、培養液を穏やかに攪拌した。48時間後に培地交換を開始し、培地の80%を毎日交換した。5日目にマイクロキャリアを回収し、細胞をトリプトファン処理によって回収し、トリパンブルー色素排除法を用いてカウントした。得られた結果を図18に提示するが、これは、ヒドロゲルマイクロキャリア上で観察される細胞増殖と、究極の判断基準として用いられる、Matrigelでコーティングしたガラスビーズ上で観察されたものとの比較を示している。陰性対照として用いたコーティングしていないガラスビーズでは顕著な増殖は見られなかった。この実験は、数日間の攪拌条件下における未分化のヒト胚幹細胞の増殖を支持する、本明細書に記載のマイクロキャリアの適合性を実証している。
【0151】
実施例17:細胞接着の支持についてのさまざまなマイクロキャリアの比較
異なる濃度におけるさまざまなモノマーからマイクロキャリアを形成し、さまざまな細胞の物理的性質およびマイクロキャリアに接着する能力を試験した。先の実施例に一般的に記載されるようにマイクロキャリアベースを調製し、ビトロネクチンポリペプチドをマイクロキャリアベースに共役させて、先の実施例に記載される細胞培養のためのマイクロキャリアを形成した。マイクロキャリアベースの膨潤係数および平衡含水率(EWC)。得られたマイクロキャリアのペプチド密度を先の実施例に記載されるように評価した。先の実施例に記載される細胞培養条件下における、HT1080細胞、ESD3細胞、およびBG01 V/Hogヒト胚幹細胞の、マイクロキャリアへの接着能力についても、顕微鏡観察によって評価した。
【0152】
さまざまなマイクロキャリアベースの形成に用いられたモノマーを表1に記載する。
【表1】

【0153】
表1に提示される数字は、g単位で用いられるモノマーの量を表している;HEMA=2−メタクリル酸2−ヒドロキシエチル;CEA=アクリル酸2−カルボキシエチル;MBA=メチレンビスアクリルアミド;TEGDMA=テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート;GDGDA=グリセリン1,3−ジグリセロラートジアクリラート。
【0154】
マイクロキャリアベースはすべて、1gあたり約4ミリ当量のカルボン酸官能基を有するが、ポリペプチドの共役方法は同一であっても、マイクロキャリア間でのポリペプチド密度は変動した。使用する架橋剤の量はポリペプチド密度と相関しており(図19参照)、ポリペプチド密度は、架橋剤の%が増大するにつれて減少した。各マイクロキャリアベースの特定の推定のCOOH官能性、重量パーセントの架橋剤およびポリペプチド密度を表2に示す。
【表2】

【0155】
マイクロキャリアの膨潤能および各マイクロキャリアの平衡含水率を評価し、結果を表3に示した。
【表3】

【0156】
得られたマイクロキャリアの膨潤係数およびEWCは、同時係属の米国特許出願第12/362,924号および同第12/362,974号の各明細書の実施例において形成される膨潤性の(メタ)アクリレート層よりもはるかに高い。これは、実施例に記載されるマイクロキャリアに用いられるカルボン酸含有モノマーの重量パーセントの増大に起因すると考えられる。同時係属の米国特許出願第12/362,924号および同第12/362,974号の各明細書では、膨潤性の(メタ)アクリレート層は、基板上にその場形成された。EWCが高すぎる場合、層は膨潤し過ぎて剥離してしまう。しかしながら、本明細書に記載のマイクロキャリアは基板上の層として形成されないことから、剥離の心配はしなくてもよく、EWCははるかに高なってもよい。高いEWCを有するマイクロキャリアは、剛性が低い傾向にあり、したがって、生物組織の剛性にさらによく似ており、水分量の高さに起因して非常に透明であり、攪拌培養における衝突による細胞損傷を妨げ、または低減することから、多くの点で、高EWCマイクロキャリアは望ましい。
【0157】
これらのマイクロキャリアの細胞接着を支持する能力は、表4に示すように、さまざまであった。
【表4】

【0158】
試験したマイクロキャリアがすべて、HT1080細胞の接着に関して、良好または優れていた。対照的に、ESD3幹細胞では、一部のマイクロキャリアにのみ接着が見られた。100nmol/mg以上のポリペプチド密度を有するマイクロキャリアは、ESD3細胞の接着を支持することができたのに対し、100nmol/mg以下のポリペプチド密度を有するものは、すべての培養条件または攪拌培養条件(スピナーフラスコ)において、ESD3細胞の接着を支持することができなかった。ヒト胚幹細胞であるBGO1V/hOGに関しては、試験したすべてのマイクロキャリアに対し、接着は良好であった。試験していないが、攪拌条件下における一部のマイクロキャリアに対するヒト胚幹細胞の能力は、攪拌条件下では良好ではない場合がある。それにもかかわらず、本明細書が提示する結果は、本明細書に記載されるさまざまなマイクロキャリアがさまざまな細胞型を支持することを示している。
【0159】
この実施例に提示される結果に基づいて、架橋剤の濃度および種類は、EWCおよびペプチド負荷に影響を与え、ひいては、マイクロキャリアがさまざまな細胞型の培養を支持する能力にも影響を与える可能性があるように思われる。したがって、架橋剤ならびに他のモノマーの性質および量を容易に修正して、所望の細胞型の培養を支持するマイクロキャリアを調製することができる。
【0160】
このように、細胞培養のための合成マイクロキャリアの実施の形態が開示される。当業者は、本明細書に記載される配列、組成、キットおよび方法が、開示される以外の実施の形態を用いて実施可能であることを認識するであろう。開示される実施の形態は、例証の目的で提示され、限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養のためのマイクロキャリアであって、
(i)ヒドロキシル基を有する親水性(メタ)アクリレートモノマーまたはヒドロキシル基を有する親水性(メタ)アクリルアミドモノマーから選択されるヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー、
(ii)アクリル酸2−カルボキシエチルを含む親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー、および
(iii)親水性の多官能性(メタ)アクリレートモノマーまたは親水性の多官能性(メタ)アクリルアミドモノマーから選択される第1の親水性の多官能性不飽和モノマー
を含む、モノマーの混合物の共重合から形成されたポリマー性マイクロキャリアベースと、
前記マイクロキャリアベースに共役したRGD配列を含むポリペプチドと
を備え、
前記マイクロキャリアベースが75%を超える平衡含水率を有する、
マイクロキャリア。
【請求項2】
前記モノマーの混合物が、
(i)30〜70重量部の、前記ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマー;
(ii)20〜60重量部の、前記親水性のカルボン酸含有不飽和モノマー;および
(iii)1〜15重量部の、前記第1の親水性の多官能性不飽和モノマー。
を含むことを特徴とする請求項1記載のマイクロキャリア。
【請求項3】
前記ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーが、式(I)または式(II)に従ったモノマーであることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロキャリア:
【化1】

ここで、AはHまたはメチルであり、Bは、C1−C6の直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテルであるか;あるいは
【化2】

ここで、AはHまたはメチルであり、Bは、C1−C6の直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテルである。
【請求項4】
前記ヒドロキシル基を有する非荷電性の親水性不飽和モノマーが、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリセロール、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミド−エトキシエタノール、およびN−ヒドロキシエチルアクリルアミドからなる群より選択されることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロキャリア。
【請求項5】
前記第1の親水性の多官能性不飽和モノマーが、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジアクリレート、プロピレングリコールグリセロレートジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、およびグリセリン1,3−ジグリセロラートジアクリラートからなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のマイクロキャリア。
【請求項6】
前記モノマーの混合物が、多官能性の不飽和(メタ)アクリレートモノマーまたは多官能性の不飽和(メタ)アクリルアミドモノマーから選択される第2の多官能性の不飽和モノマーをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のマイクロキャリア。
【請求項7】
前記第2の多官能性の不飽和モノマーが、テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートであることを特徴とする請求項6記載のマイクロキャリア。
【請求項8】
前記マイクロキャリアが、マイクロキャリアベース1ミリグラムあたり100nmolを超える共役ポリペプチドを有することを特徴とする請求項1記載のマイクロキャリア。
【請求項9】
ヒト胚幹細胞を培養する方法であって、
前記細胞を、請求項1〜8いずれか1項記載のマイクロキャリアを有する細胞培養培地と接触させ;
前記細胞を、前記培地中で培養する、
各工程を有してなる方法。
【請求項10】
前記マイクロキャリアベースが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−カルボキシエチルメタクリレート、および(i)メチレンビスアクリルアミドまたは(ii)ジヒドロキシエチレンビスアクリルアミドを含むモノマーの混合物から形成され、
前記モノマーの混合物が、
(i)30〜70重量部の前記メタクリル酸2−ヒドロキシエチル;
(ii)20〜60重量部の前記2−カルボキシエチルメタクリレート;および
(iii)1〜15重量部のメチレンビスアクリルアミドまたはジヒドロキシエチレンビスアクリルアミド
を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2012−527902(P2012−527902A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513250(P2012−513250)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/036380
【国際公開番号】WO2010/138702
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】