説明

細胞培養容器

【課題】細胞培養空間外からの微生物を含む粒子の侵入や細胞培養空間からの液漏れを防止できる細胞培養容器の構造を提供する。
【解決手段】細胞培養容器は、培地保持部と蓋部と、培地保持部への流路と蓋部との間に弁材を有し、蓋部には管状部材を挿入可能な穴部を備える。弁材は所定領域に切り欠き部を形成し、切り欠き部を含む領域が前記穴部を介して挿入される管状部材を接触可能に配置される。さらに、容器の開口部付近の培地流路には管状部材受部が設けられ、管状部材が切り欠き部を貫通しないように位置規制されている。これにより、管状部材接合、非接合時に関わらず、培地保持部が密閉に保たれる構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置に用いる閉鎖系の細胞培養容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シャーレ等の細胞培養容器に接着した細胞を増殖させるためには、栄養分である培地(培養液)を定期的に交換しなければならない。その操作は培養容器の蓋を開け、古い培地を吸引し、新しい培地を導入することにより成される。このような操作は定期的に行う必要があり、従来は作業者が手作業で行っていた。
【0003】
省力化や品質安定化を目的として、細胞培養操作を自動化する方法には、例えば特許文献1及び2に示すような細胞培養装置を用いた手法が提案されている。このような装置では培地の交換が自動で行われるために、作業者の負担は軽減できるものの、培養容器の蓋を開けるといった開放系の作業工程が含まれるために、微生物を含む粒子混入の危険性が残る。そこで、培地の交換は閉鎖系の培養容器によってなされることが望まれる。
【0004】
これに対して、例えば特許文献3に示すような閉鎖系の細胞培養装置が提案されている。これによると、細胞培養容器を密閉構造として、容器に備え付けられている弾性部材のスリットを介して送廃液管を挿入し培地を交換することで、閉鎖系空間を保つ工夫がなされている。
【0005】
ところが、特許文献3においては、弾性部材のスリットに送廃液管を通すことにより生じる通気口からの液漏れ、その通気口を介した細胞培養空間外からの微生物を含む粒子の混入が問題となっていた。これを解決するための手段としては、例えば特許文献4に、スリットを有する弾性部材からなる弁に送廃液管を通すことで、培地漏洩を回避する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−262856号公報
【特許文献2】特開2008−054690号公報
【特許文献3】特開2006−149237号公報
【特許文献4】特開2006−317309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4では、送廃液管を挿入した場合に、送廃液管とスリットが形成されたシール部材との間に空間(通気口)ができてしまう(特許文献4の図3参照)。このため、スリットの両端にできた通気口を介して毛細管現象により培地漏洩が起きたり、通気口を介して細胞培養空間外から微生物を含む粒子の混入が生じたりする危険性がある。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、細胞培養容器において、細胞培養空間外からの微生物を含む粒子の侵入や細胞培養空間からの液漏れを防ぐことができる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、切り欠き部を有する弁材に管状部材を貫通させずに押し当てるようにしている。
【0010】
即ち、本発明の第1の形態においては、細胞培養容器が、培地を保持する培地保持部と、培地を供給又は排出するための開口部と、開口部から培地保持部まで通ずる培地流路と、開口部に固定され、切り欠き部が形成された弁材と、を備えている。そして、細胞培養装置の管状部材が開口部から挿入され、培地を細胞培養容器に供給、又はそこから排出される。このとき、管状部材の挿入深さを規制する管状部材受部が、培地流路の開口部付近に設けられている。
【0011】
管状部材が細胞培養容器の開口部に挿入され、その先端が管状部材受部に当接したとき、切り欠き部の開口箇所の最大値をL1、切り欠き部の一方の端部から他方の端部までの長さをL2、管状部材の内径をR1、管状部材の外径をR2とすると、R1>L1>R1/2、及び、R2>L2>R1の関係を満足することが好ましい。
【0012】
また、培地流路の直径は、管状部材の内径より大きく、外径より小さいことが好ましい。さらに、容器開口部から管状部材受部までの距離は、管状部材の外径の1/2に相当する長さであることが好ましい。
【0013】
さらに、細胞培養容器には、管状部材が装着された継手部材を固定するための継手固定部材が挿入される穴部が形成されている。
【0014】
本発明の第2の形態においては、管状部材の先端部は、液漏れ防止部材と、先端管部と、を有している。そして、液漏れ防止部材は、丸み形状を有し、管状部材を開口部に挿入したときに管状部材受部に当接する。また、液漏れ防止部材が管状部材受部に当接したときに、先端管部は、管状部材受部より深く前記培地流路に挿入される。この状態において、切り欠き部の長さをl1、管状部材の前記先端管部の直径をr1、液漏れ防止部材の直径をr2とすると、r2>l1>r1の関係を満足することが好ましい。
【0015】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞培養容器において、細胞培養空間外からの微生物を含む粒子の侵入や細胞培養空間からの液漏れを防ぐことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】細胞培養容器と、継手部材を有する細胞培養装置の側面図である。
【図2】細胞培養容器にかん合する継手部材の形状を示図であって、図2(a)は複数の管状部材を有する継手部材を示す側面図、図2(b)は1つの管状部材を有する継手部材を示す側面図である。
【図3】培養空間が1層構造の細胞培養容器を示す図であって、図3(a)は上面図、図3(b)はA−A断面図、図3(c)はB−B断面図である。
【図4】培養空間が2層構造の細胞培養容器を示す図であって、図4(a)は上面図、図4(b)はA−A断面図、図4(c)はB−B断面図である。
【図5】細胞培養容器の外観を示す模式図である。
【図6】細胞培養容器と蓋部で弁材を固定する方法を示す図である。
【図7】管状部材を細胞培養容器の弁材に接合させた時の状態を示した図であって、図7(a)は接合前の状態を示す側面図、図7(b)は接合後の状態を示す側面図である。
【図8】継手部材を細胞培養容器にかん合させる方法を示す側面図である。
【図9】管状部材を細胞培養容器の弁材に接合させた時の状態を示した図であって、図9(a)は接合前の状態を示す側面図、図9(b)は接合後の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0019】
(1)第1の実施形態
<細胞培養装置の構成>
図1は、本発明による細胞培養装置であって、細胞培養容器21が内部に配置され、管状部材を保持する継手部材を有する細胞培養装置36の全体の構成を示す図である。この細胞培養装置の全体構成については第1及び第2の実施形態で共通のものである。
【0020】
図1において、細胞培養装置36は、細胞培養容器21を保持する培養ステージ37と、培養ステージ37を回転運動させるために駆動軸38と、を有している。また、細胞培養容器に嵌合する管状部材6と繋がる送液管39および廃液管40は、制御部41を介して培地保管層42および廃液層43と接続されている。培地保管層と廃液層は例えば4℃の保冷庫44に収納されている。そして、培地は適宜制御部41で37℃に温められてから細胞培養容器21に供給される。
【0021】
培養ステージ37の下には、移動軸45を具備した細胞観察用機器46が設けられており、必要に応じて培養している細胞の状態をモニタ及び記録することができるようになっている。
【0022】
また、培地の充填は、細胞培養容器21に気泡が発生しないように以下のように行う。即ち、制御部41は、細胞培養容器21に繋がる送液管39が下になるように、駆動軸38により培養ステージ37を矢印A方向に垂直に立て、細胞と培地の混合液を細胞培養容器21に充填する。細胞を充填後、培養ステージ37を駆動軸38により水平にして、所定の温度、湿度、ガス組成および濃度で所定時間培養を実施する。培養途中に培地を交換する時は、細胞培養容器21に繋がる廃液管40が下になるように駆動軸38により培養ステージ37を矢印B方向に垂直に立て、細胞培養容器21から培地を吸引する。吸引後、細胞培養容器21に繋がる送液管39が下になるように培養ステージ37を垂直に立て、細胞培養容器21に培地を充填する。培地を充填後、再び培養ステージ37を駆動軸38により水平にして、所定の温度、湿度、ガス組成および濃度で所定時間培養を再開する。
【0023】
なお、図2に示されるように、管状部材6を保持する継手部材の形態としては、複数個の管状部材を有する継手部材34を採用したり、1つの管状部材を有する継手部材35を採用したりすることが可能である。
【0024】
<細胞培養容器の構造>
図3は、本発明による細胞培養容器の構造を示す図である。図3(a)は上面図、図3(b)は図3(a)のA−A断面図、図3(c)は図3(a)のB−B断面図である。細胞培養容器21は、1辺が例えば46mmの正方形で扁平形状の容器であって、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレンなどの可塑性と共に剛性有するプラスチックで構成される。枠体22は、射出成形などにより円部23及び24(23が円部の上部、24がその下部)が形成され、その円部23及び24にはそれぞれガス透過膜25及び26が形成されている。ガス透過膜の円部への溶着は、細胞の生存に影響を及ぼす接着剤を使用しない熱溶着や超音波溶着が好ましい。ガス透過膜の素材は、ポリカーボネートやポリスチレンといったガス透過性を有するものであればよいが、これに限定されるものではない。ただし、熱溶着、超音波溶着で対象物を接合させる場合、融点の関係で枠体22とガス透過膜の材質は同一がよい。
【0025】
弁材1は細胞培養容器21の所定の場所に設けられ、少なくとも1つの切り欠き部(図7参照)を有し、蓋部4により固定されている。蓋部4は管状部材が挿入可能な円形の穴部7を備えており、1箇所の穴部7につき、その穴部付近に2箇所の長方形の穴部12を備えている。蓋部4の長方形穴部12は、天板4の穴部13と重なるように所定の位置に合わせられている。この穴部12及び13は、管状部材6を備える継手部材8(34又は35)を固定するためのものである。なお、この継手部材8を固定するための穴部12及び13の場所は、穴部7付近に限定されず、継手部材を固定することができる任意の場所でよい。
【0026】
上述のような構造をもつ細胞培養容器21は、枠体22の円部23及び24に形成される膜25及び26によって形成される培地保持部を培地で充填することで、密閉空間における細胞培養が可能となる。
【0027】
また、図4は、培地保持部が2層構造となっている細胞培養容器の構造を示す図である。細胞培養容器27では、上述(図3)のように培地保持部が1層構造である必要はなく、培養する細胞種に応じて、細胞培養容器が保持する弁材1を4つとして、培地保持部を2層構造としてもよい。図4(a)は細胞培養容器27の上面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図、図4(c)は図4(a)のB−B断面図である。
【0028】
細胞培養容器27は、1辺が例えば46mmの正方形で扁平形状の容器であって、枠体22は射出成形などにより円部28、29及び30が形成されている。そして、円部28にはガス透過膜31、円部29には物質透過膜32、円部30にはガス透過膜33が形成されている。物質透過膜の円部への溶着は、上記ガス透過膜と同様に、細胞の生存に影響を及ぼす接着剤を使用しない熱溶着や超音波溶着が好ましい。物質透過膜の平均孔径は、タンパク質等は通過するが、細胞は通過しない大きさがよい。
【0029】
このような構造をもつ細胞培養容器27は、枠体22に備わる物質透過膜およびガス透過膜、31、32及び33によって形成される培地保持部を培地で充填することで、密閉空間における細胞培養が可能となる。培地保持部に培地を充填する際には、気泡が発生しないようにするために、図4の下側の孔3が下になるように培養容器を立て、下側の孔3から培地を注入して、上側の孔3から培地を排出する。そのために、2層構造の細胞培養容器27の場合は、効率的な上下層への注液のため、図5のように細胞培養容器の孔3(上2つの孔同士、及び下2つの孔同士)が水平に維持されている必要がある。また、各孔3から円形の培地保持部(培養空間)までの培地流路2は、細胞培養容器を垂直にしたときの培養空間の最頂部及び最底部に接続されている。これにより、効率的に培地注入及び排出することができる。また、本発明による細胞培養容器の中央は円形又は楕円形(ほぼ円柱又は楕円柱)の空間となっている。これは、例えば角膜等、円形の培養対象を円形のままで回収するためである。
【0030】
培養容器の蓋部4は、弁材1を固定する役割を有する。図6は、弁材1の固定方法の一例を示す図である。図6において、蓋部4は、爪部48を備え、枠体22に備えた爪保持部49と嵌合させることで弁材を保持している。なお、図6では、蓋部4は一枚板(天板)で構成されているが、これに限られるものではなく、孔3の個数分も受けられるようにしてもよい。ただし、天板を用いれば、弁を固定することができると共に、継手部材と接続面を水平に保つことができる。
【0031】
<細胞培養容器と細胞培養装置の継ぎ手の接続>
図7は、本発明の第1の実施形態による細胞培養容器と細胞培養装置の継ぎ手の接続関係を示す図である。詳しくは、図7(a)は、細胞培養容器における弁材を保持する部分と細胞培養装置における管状部材の拡大図および弁材の下面図を示している。また、図7(b)は、弁材と管状部材を接合させ、弁材の切れ欠き部が開口した時の拡大図および弁材の下面図である。
【0032】
図7(a)において、弁材1は培地保持部に続く培地流路2に設けられた孔3と蓋部4の間に嵌合し、超音波溶着等の方法で固定されている。弁材1の素材はシリコンなどの弾性体が望ましい。孔3の深さ5は弁材の厚みと等しく設計されているため、一端面は平面となり培地流路2と蓋部4を精度よく固定できる。
【0033】
蓋部4は、弾性体で構成され、先端部分が丸みを帯びた(又は先端部分が胴体部分よりも細い)管状部材6が挿入可能な穴部7を備えている。当該管状部材6は継手部材8に嵌合させた後、接着剤などで継手部材8に固定されている。そして、管状部材6は、細胞培養装置に接続される。なお、管状部材6は継手部材8と一体成形であってもよい。ここで、管状部材6はポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックから成り、弁材との接着性や管状部材内部のぬれ性を高めるためにプラズマ処理やコロナ処理がなされていることが望ましい。培地の表面張力を考慮し管状部材内部のぬれ性を高めておくことで、培地の流れを一定にすることが期待できる。また、管状部材6と弁材1の密着性を高めるために、管状部材6の外面に弾性体を被覆させるようにしてもよい。
【0034】
弁材1には、管状部材6を接合させた際に弁材1が開口するように、一文字(I字形状)の切り欠き部9が設けられている。この切り欠き部9の形状は、一文字に限らず十字形状等切り込みの個数が複数であっても良い。切り欠き部9を一定時間開口させておくためには、管状部材6を固定しなければならない。その固定方法としては、管状部材6を保持する継手部材8に、バネ部材10を固定部材11で継手部材8に固定し、蓋部4と細胞培養容器に設けた穴部12及び13に継手部材8のバネ部材10を嵌合させる方式が考えられるが、この方式に限定されない。なお、継手部材8には、蓋部4と接着する領域に弾性体47またはOリングを装備させ、密着性を高めてもよい。
【0035】
細胞培養容器の培地流路2における培地供給/排出口には、管状部材6を弁材1に接合させた際に、管状部材6が弁材1を貫通しないように、管状部材受部14が設けられている。また、培地流路2の培地供給/排出口の径は、管状部材6の外径18よりも小さく、内径15より大きい。また、蓋部4から管状部材受部14の距離19は、切り欠き部9を起点とする弁材1の劣化を防止するために、弁材1を保持する蓋部の穴部7半径(つまり、管状部材6の外径の半分)に相当する長さであることが望ましい。管状部材受部14の距離19が穴部7の半径以上である場合、弁材1の切り欠き部9が劣化する可能性があるからである。
【0036】
次に、管状部材6と弁材1の関係について、図7(b)を用いて説明する。管状部材6の中空部の直径15をR1、管状部材6と弁材1を接合した際に弁材1が切り欠き部9に対して垂直方向に開口する箇所の最大幅16をL1とした時に、L1はR1>L1>R1/2であることが望ましい。L1<R1/2である場合、培地の表面張力により通液できないからである。
【0037】
また、弁材1の切り欠き部9の長さ17をL2とし、管状部材6の直径18をR2とすると、L2はR2>L2>R1であることが望ましい。R2<L2である場合、管状部材と弁材の切れ欠き部に隙間が生じ、そこから液漏れが発生する。管状部材6は弁材1が蓋部4から管状部材受部14の距離19まで開口する力で、弁材と接合することが望ましい。切り欠き部9の形状が一文字形状以外の場合であっても、対向するそれぞれの切り欠き部分の一方の端部から他方の端部までの長さL2及び開口の最大幅L1に関して、R1>L1>R1/2、R2>L2>R1の条件を満たせば良い。
【0038】
上述のような継手部材を細胞培養容器に嵌合(接続)する方法であれば、逐次で管状部材を弁材に接合可能である。なお、常時接合の場合は、図8に示すように管状部材6を保持する継手部材8にツメ部材20を設け、蓋部4と細胞培養容器に設けた穴部12及び13に嵌合させてもよい。
【0039】
(2)第2の実施形態
図9は、本発明の第2の実施形態による、細胞培養容器と細胞培養装置の継手部材の接続関係を示す図である。詳しくは、図9(a)は細胞培養容器における弁材を保持する部分と細胞培養装置における管状部材の拡大図および弁材の下面図、図9(b)は弁材と管状部材を接合させ、弁材の切れ欠き部が開口した時の拡大図および弁材の下面図である。
【0040】
図9(a)において、管状部材50は弾性体で構成され、先端が球形又は丸みを有する液漏れ防止部材51を備えている。液漏れ防止部材51はネジ部材により継手部材52に嵌合され、ネジ止め部材53により固定されている。継手部材52は固定部材54に固定された弾性体からなる管状部材(送液管又は廃液管)55を介して細胞培養容器に接続される。
【0041】
弁材1には管状部材6を接合させた際に弁材が開口するように、切り欠き部9を設けている。切り欠き部9を一定時間開口させておくためには、継手部材52を固定しなければならない。その固定方法の1形態としては、管状部材50を保持する継手部材52に、弾性体からなるOリング56を設け、蓋部4に設けた穴部57とかん合する方式が考えられるが、この方式に限定されない。
【0042】
次に、管状部材50と液漏れ防止部材51と弁材1との関係について図9(b)を用いて説明する。弁材1の切り欠き部9の長さ58をl1とし、管状部材50の直径をr1、液漏れ防止部材51の直径59をr2とすると、l1はr2>l1>r1であることが望ましい。l1<r2である場合、液漏れ防止部材51と弁材の切れ欠き部9に隙間が生じ、そこから液漏れが発生するため、管状部材50の周辺には液漏れ防止部材51が必要不可欠である。
【0043】
(3)まとめ
本発明の第1の実施形態においては、細胞培養容器が、培地を保持する培地保持部と、培地を供給又は排出するための開口部と、開口部から培地保持部まで通ずる培地流路と、開口部に固定され、切り欠き部が形成された弁材と、を備えている。そして、細胞培養装置の管状部材が開口部から挿入され、培地を細胞培養容器に供給、又はそこから排出される。このとき、管状部材の挿入深さを規制する管状部材受部が、培地流路の開口部付近に設けられている。このようにすることで、管状部材を弁材に貫通させることがなくなり、管状部材とスリットが形成されたシール部材との間に空間(通気口)が形成されることを防止することができる。よって、培地流路及び培地保持部内を密閉状態に保つことができ、弁材切り欠き部からの培地漏洩あるいは微生物の混入を防止することができるようになる。また、弁材に管状部材を貫通させないために、細胞培養中に弁材と管状部材の脱着を繰り返す場合や、長時間管状部材を弁材に接合させる場合において、弁材の切り欠け部を劣化させるおそれがない。従って、培養容器を管状部材から外した際に、開口した当該弁材が元の形状に戻り、培養工程途中あるいは培養工程終了後における培地保持部の密閉性が確保できる。
【0044】
より具体的には、管状部材が細胞培養容器の開口部に挿入され、その先端が管状部材受部に当接したとき、切り欠き部の開口箇所の最大値をL1、切り欠き部の一方の端部から他方の端部までの長さをL2、管状部材の内径をR1、管状部材の外径をR2とすると、R1>L1>R1/2、及び、R2>L2>R1の関係を満足することが好ましい。また、培地流路の直径は、管状部材の内径より大きく、外径より小さいことが好ましい。さらに、容器開口部から管状部材受部までの距離は、管状部材の外径の1/2に相当する長さであることが好ましい。このような条件を満足すれば、管状部材が弁材を決して貫通することはない。
【0045】
本発明の第2の形態においては、管状部材の先端部は、液漏れ防止部材と、先端管部と、を有している。そして、液漏れ防止部材は、丸み形状を有し、管状部材を開口部に挿入したときに管状部材受部に当接する。また、液漏れ防止部材が管状部材受部に当接したときに、先端管部は、管状部材受部より深く前記培地流路に挿入される。この状態において、切り欠き部の長さをl1、管状部材の前記先端管部の直径をr1、液漏れ防止部材の直径をr2とすると、r2>l1>r1の関係を満足することが好ましい。第2の実施形態によっても、上述した第1の実施形態と同様の効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0046】
1・・・弁材、2・・・培地流路、3・・・孔、4・・・蓋部、5・・・孔の深さ、6及び9・・・管状部材、7・・・穴部、8及び52・・・継手部材、10・・・バネ部材、11・・・固定部材、12及び13・・・穴部、14・・・管状部材受部、15・・・管状部材中空部の直径、16・・・切り欠き部の開口長、17及び58・・・切り欠き部の長さ、18・・・管状部材の外径、19・・・管状部材先端の導入の長さ、20・・・ツメ部材、21及び27・・・細胞培養容器、22・・・枠体、23及び24・・・円部、25、26、31及び33・・・ガス透過膜、28、29及び30・・・円部、32・・・物質透過膜、34及び35・・・継手部材、36・・・細胞培養装置、37・・・培養ステージ、38・・・駆動軸、39・・・送液管、40・・・廃液管、41・・・制御部、42・・・培地保管層、43・・・廃液層、44・・・保冷庫、45・・・移動軸、46・・・細胞観察用機器、47・・・弾性体、48・・・爪部、49・・・爪保持部、50・・・継手管状部材52に取り付けられた管状部材、51・・・液漏れ防止部材、53・・・ネジ止め部材、54・・・固定部材、55・・・管状部材(送液管又は廃液管)、56・・・Oリング、57・・・穴部、59・・・液漏れ防止部材の直径、60・・・管状部材の直径(外径)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養装置に装着され、細胞を保持・培養する細胞培養容器であって、
培地を保持する培地保持部と、
培地を供給又は排出するための開口部と、
前記開口部から前記培地保持部まで通ずる培地流路と、
前記開口部に固定され、切り欠き部が形成された弁材と、を備え、
前記培地流路は、前記細胞培養装置の管状部材であって、前記開口部から挿入され、前記培地を細胞培養容器に供給、又はそこから排出するための管状部材の挿入深さを規制する管状部材受部を有することを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
請求項1において、
前記管状部材を前記開口部に挿入し、前記管状部材の先端部が前記管状部材受部に当接したとき、前記切り欠き部の開口箇所の最大値をL1、前記切り欠き部の一方の端部から他方の端部までの長さをL2、前記管状部材の内径をR1、前記管状部材の外径をR2とすると、R1>L1>R1/2、及び、R2>L2>R1の関係を満足することを特徴とする細胞培養容器。
【請求項3】
請求項2において、
前記培地流路の直径は、前記管状部材の内径より大きく、外径より小さいことを特徴とする細胞培養容器。
【請求項4】
請求項2において、
前記開口部から管状部材受部までの距離は、前記管状部材の外径の1/2に相当する長さであることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項5】
請求項1において、
さらに、前記管状部材が装着された継手部材を固定するための継手固定部材が挿入される穴部が形成されていることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項6】
請求項1において、
前記管状部材の先端部は、液漏れ防止部材と、先端管部と、を有し、
前記液漏れ防止部材が丸み形状を有し、前記管状部材を前記開口部に挿入したときに前記管状部材受部に当接し、
前記液漏れ防止部材が前記管状部材受部に当接したときに、前記先端管部は、前記管状部材受部より深く前記培地流路に挿入され、
この状態において、前記切り欠き部の長さをl1、前記管状部材の前記先端管部の直径をr1、前記液漏れ防止部材の直径をr2とすると、r2>l1>r1であることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項7】
細胞培養容器内で細胞を培養する細胞培養装置であって、
細胞培養容器を保持する培養ステージと、
培地を保管するための培地保管部と、
廃液を溜めるための廃液収容部と、
前記培地保管部から前記細胞培養容器まで前記培地を供給するための送液管と、
前記細胞培養容器から廃液を回収し、当該廃液を前記廃液収容部まで送る廃液管と、
前記送液管と前記廃液管が接続され、管状部材を有する継手部材と、を備え、
前記細胞培養容器の開口部に挿入される前記管状部材の先端部が、丸みを帯びた形状をなしていることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記細胞培養容器は、培地を保持する培地保持部と、培地を供給又は排出するための開口部と、前記開口部から前記培地保持部まで通ずる培地流路と、前記開口部に固定され、切り欠き部が形成された弁材と、を備え、前記培地流路は、前記管状部材の挿入深さを規制する管状部材受部を有し、
前記管状部材を前記開口部に挿入し、前記管状部材の先端部が前記管状部材受部に当接したとき、前記切り欠き部の開口箇所の最大値をL1、前記切り欠き部の一方の端部から他方の端部までの長さをL2、前記管状部材の内径をR1、前記管状部材の外径をR2とすると、R1>L1>R1/2、及び、R2>L2>R1の関係を満足することを特徴とする細胞培養装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記管状部材の先端部は、液漏れ防止部材と、先端管部と、によって構成され、
前記液漏れ防止部材が丸みを帯びた形状を有し、前記管状部材を前記開口部に挿入したときに前記管状部材受部に当接し、
前記液漏れ防止部材が前記管状部材受部に当接したときに、前記先端管部が、前記管状部材受部より深く前記培地流路に挿入され、
この状態において、前記切り欠き部の長さをl1、前記管状部材の前記先端管部の直径をr1、前記液漏れ防止部材の直径をr2とすると、r2>l1>r1であることを特徴とする細胞培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−10599(P2011−10599A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157424(P2009−157424)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【特許番号】特許第4602460号(P4602460)
【特許公報発行日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/組織再生移植に向けたナノバイオインターフェイス技術の開発(再)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】