細胞培養容器
【課題】本発明は、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、上記細胞培養部を覆う蓋部と、を有する細胞培養容器であって、上記蓋部の内面には、上記細胞培養部の上記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とする細胞培養容器を提供することにより、上記目的を達成する。
【解決手段】本発明は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、上記細胞培養部を覆う蓋部と、を有する細胞培養容器であって、上記蓋部の内面には、上記細胞培養部の上記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とする細胞培養容器を提供することにより、上記目的を達成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞を効率的に培養するには、生育に適した条件下で培養する必要がある。このため、通常、所定の温度・湿度に保つことができる培養用恒温槽内で細胞の培養が行われる。
また、培養中の細胞の状態を観察する際には、細胞が入った細胞培養容器を恒温槽から取り出す必要があるが、恒温槽から取り出した際のコンタミネーションを防止するため、通常、細胞培養容器として蓋つきの細胞培養容器が用いられる。
ここで、例えば、ヒト等の細胞では37℃程度の温度条件が用いられるが、このような温度条件下で長時間配置された細胞培養容器を恒温槽から取り出し、室温条件下に置くと、細胞培養容器内に含まれる水蒸気が細胞培養容器を覆う蓋内面に結露し、多量の水滴が付着した状態となる。その結果、蓋により覆った状態での細胞の観察が困難となるといった問題があった。
【0003】
このような問題に対して、蓋の内面にワイパーを備えたもの(特許文献1)や、蓋の内面に親水性ポリマー層を有し、さらに蓋の外周部に親水性ポリマー層に付着した水を受ける鍔部を有するもの(特許文献2)等が開示されている。このような方法によれば、蓋内面に結露した水が水滴状に付着することを防ぐことができ、細胞を視認性良く観察することができる。
しかしながら、特許文献1のように蓋の内面にワイパーを設けたものは、培養容器の観察可能面積が減少することや、作業者の手間などの不具合があった。
また、特許文献2は蓋部に設けられた水受け部へ結露水がたまることが特徴とされているが、このような構造は本来の培養容器に比べ、ハンドリング性が悪くなること、培地交換などの実験操作において溜まった水が流出、飛散することにより、コンタミネーションのリスクが増大するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−184349号公報
【特許文献2】特開2010−51200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、上記細胞培養部を覆う蓋部と、を有する細胞培養容器であって、上記蓋部の内面には、上記細胞培養部の上記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とする細胞培養容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、上記蓋部の内面に上記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように水膜形成部が形成されていることにより、培養用恒温槽から取り出した際に蓋内面に水滴の付着を防止することができ、優れた防曇性を発揮することができる。
また、上記蓋部の内面に上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することにより、コンタミネーションを安定的に防止することができる。
【0008】
本発明においては、上記水膜形成部が、親水性部または微細凹凸部であることが好ましい。水膜形成部への水滴の付着を防止することができ、安定的に水膜を形成することができるからである。
【0009】
本発明においては、水遮断部が疎水性部、水吸収部、および/または段差部を含むことが好ましい。このような部位を含むことにより、水膜形成部に付着した水が細胞培養部外に流出することを安定的に防止することができるからである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器を提供できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の細胞培養容器の一例を示す概略断面図である。
【図2】図3のX−X線断面図である。
【図3】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略平面図である。
【図4】本発明における細胞培養部を説明する説明図である。
【図5】本発明における細胞培養部を説明する説明図である。
【図6】本発明における側壁を説明する説明図である。
【図7】本発明における側壁を説明する説明図である。
【図8】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図12】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図13】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、細胞培養容器に関するものである。
以下、本発明の細胞培養容器について詳細に説明する。
【0013】
本発明の細胞培養容器は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、上記細胞培養部を覆う蓋部と、を有する細胞培養容器であって、上記蓋部の内面には、上記細胞培養部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とするものである。
【0014】
このような本発明の細胞培養容器について図を参照して説明する。図1は、本発明の細胞培養容器の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の細胞培養容器20は、周囲が側壁1により囲まれた凹部2を有する細胞培養部3と、上記細胞培養部3を覆う蓋部10と、を有するものである。上記蓋部10は主に蓋基材13からなり、蓋基材13の内面には、上記細胞培養部3の凹部2の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部11および上記水膜形成部11を囲うように形成され、かつ、上記側壁1の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部12を有するものである。
【0015】
本発明によれば、上記蓋部の内面に上記開口部の一部と平面視上重なるように水膜形成部が形成されていることにより、培養用恒温槽から取り出した際に蓋内面に水滴ができるのを防止し水膜を形成することができる。その結果、このような水膜形成部において優れた防曇性を発揮することができ、凹部内で培養中の細胞を良好に観察する観察領域として用いることができる。
また、上記蓋部の内面に上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することにより、水膜形成部に付着した水が、平面視上、細胞培養部外に流出することを防止することができる。このため、細胞培養容器の外部と、細胞培養部内の培養液とが結露により蓋に付着した水を介して接触することを防止することができる。その結果、コンタミネーションを安定的に防止することができる。
これに対して、平面視上、水膜形成部が細胞培養部の凹部の開口部より広く配置されている場合には、水膜形成部に付着した結露水が、例えば、細胞培養部の側壁の上面に落下し、その後、側壁の上面を伝って、細胞培養容器の外部まで流出する可能性がある。そして、細胞培養部内から細胞培養容器の外部まで水が移動することにより形成された連続した水跡が、細胞培養部の凹部内と細胞培養容器外とを接続した状態とし、細胞培養容器外から細胞培養部の凹部内へのコンタミネーションの可能性を高くするのである。
【0016】
本発明の細胞培養容器は細胞培養部および蓋部を少なくとも有するものである。
以下、本発明の細胞培養容器の各構成について詳細に説明する。
【0017】
1.細胞培養部
本発明に用いられる細胞培養部は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有するものである。また、本発明における凹部で細胞および培地を保持し、細胞の培養が行われるものである。
【0018】
このような細胞培養部としては、少なくとも一つの凹部を有し、蓋部により覆われることができるものであれば特に限定されるものではない。このような細胞培養部としては、一体として形成されているものであれば2以上の凹部を有するものであっても良く、例えば、既に説明した図1に示すようなシャーレ、図2および図3に例示するようなマルチウェルプレートや、培養用フラスコ等の細胞培養瓶等、一般的な細胞培養容器と同様とすることができる。
なお、図2は図3のX−X線断面図であり、図3は細胞培養容器の他の例を示す概略平面図である。また、図2〜図3中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0019】
本発明における細胞培養部を構成する材料としては、細胞の培養および観察を容易に行うことができるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な細胞培養容器と同様とすることができる。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ウレタンアクリレート等のアクリル系材料、セルロース、ガラス等が挙げられる。また、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマー等の樹脂等を用いることができる。
本発明においては、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートを好ましく用いることができ、特に、ポリスチレンを好ましく用いることができる。細胞毒性が低いからである。
【0020】
本発明における凹部は、細胞を収納し培養できれば、その形状、容積などに制限はなく、一般的な細胞培養に用いられるものと同様とすることができる。例えば、既に説明した図1〜図3に示すような、側壁が垂直に立設している円柱状のものや、図4に例示するように、側壁が傾斜している円錐台状、円錐状、多角錐状、多角錐台状のものや、図5に例示するように、側壁が湾曲しているもの等を用いることができる。
なお、図4〜図5中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。また、図4および図5中の、Aで示す部位は、側壁の上面を示すものである。
【0021】
本発明における凹部の表面については、上記細胞培養部を構成する材料が露出するものであっても良いが、必要に応じて表面処理がされたものであっても良い。
このような表面処理としては、紫外線照射、コロナ処理、プラズマ処理や、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリL−リジン、等を含むコーティング液の塗布を挙げることができる。
【0022】
なお、本発明における細胞培養部の凹部の開口部は、上記水膜形成部と平面視上重なるものであるが、ここでいう、細胞培養部の凹部の開口部とは、凹部の上側(蓋部と対向する側)の開口領域をいうものであり、側壁の上面により囲まれた領域を指すものである。
また、本発明における細胞培養部の側壁の上面は、上記水遮断部と平面視上重なるものであるが、ここでいう側壁の上面とは、側壁の上面のみならず、側壁の上面と連続し、かつ、同程度の高さの上面を有する部位の上面も含むものである。ここで、同程度の高さとは、表面に凹凸形状が付与されている場合も本発明における上面に含むことを示すものである。具体的には、既に説明した図2に示すように、平坦な板状の部材に凹部が形成されたものである場合には、その板状部材の表面のうち、凹部が形成された部位以外の全てが側壁の上面となる。また、細胞培養部が、図6に例示するように複数の凹部が開口部側で連結されたような形状である場合、または図7に例示するように複数の凹部が底側で連結されたような形状である場合には、それぞれ、Aで示す部位が側壁の上面となる。さらに、既に説明した図4〜図5に示すように、細胞培養部の側壁が傾斜しているものや、側壁が湾曲しているものでは、それぞれ、Aで示す、蓋部と対向する部位が側壁の上面となる。
なお、図6〜図7中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0023】
2.蓋部
本発明における蓋部は、上記細胞培養部を覆うものであり、内面に水膜形成部および水遮断部を有するものである。
【0024】
(1)水膜形成部
本発明における水膜形成部は、上記細胞培養部の開口部の一部と平面視上重なるように形成されるものであり、結露により付着した水により水膜を形成する部位である。
【0025】
本発明における水膜形成部の形成箇所としては、上記細胞培養部の開口部の一部と平面視上重なるように形成されるものであれば良いが、平面視上、開口部の中央部と重なる箇所であることが好ましい。細胞培養部の凹部内で培養される細胞を視認性良く観察することができるからである。
【0026】
本発明においては、開口部の面積の80%以上の面積で水膜形成部が形成されることが好ましく、なかでも、90%〜98%の範囲内の面積で水膜形成部が形成されることが好ましい。上記面積で水膜形成部が形成されることにより、細胞培養部の凹部で培養される細胞を視認性良く観察することができるからである。また、水膜形成部上の水が、凹部外に移動することを防止することができるからである。
【0027】
このような水膜形成部としては、安定的に水膜を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、親水性部や微細凹凸部からなるもの等を挙げることができる。
【0028】
(a)親水性部
本発明における親水性部は、親水性を有し、付着した結露水が水膜を形成できるものである。
本発明においては、なかでも、表面の水接触角が、50°以下であることが好ましく、特に、30°以下であることが好ましい。上記水接触角であることにより、水膜を安定的に形成できるからである。
なお、水接触角とは、水、もしくは同等の接触角を有する液体との接触角をいうものであり、親水性部の表面上に純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間経過後、顕微鏡またはCCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める方法を用いて計測することができる。
より具体的には接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから純水の液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得ることができる。
また、上記水接触角の下限としては小さい程効果を発揮することができるため特に限定されるものではなく、上記親水性部の形成性や構成する材料のコスト等に応じて適宜設定することができる。
【0029】
このような親水性部を構成する材料としては、蓋部上から細胞培養部内の細胞を観察できる程度の透明性を有し、水膜を安定的に形成できる親水性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、所定の表面処理を施したポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリカーボネート等の樹脂材料やガラス等、さらには、酸化珪素等の無機材料、自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したもの等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、所定の表面処理を施したポリスチレンおよびポリエチレンテレフタレート等を好ましく用いることができる。このような材料を用いることにより、親水性の高い親水性部を容易に形成することができるからである。
なお、樹脂材料に施される所定の表面処理としては、具体的には、界面活性剤等の防曇剤の塗布や、プラズマ、コロナ、マイクロウェーブ、電子線および紫外線等の照射等を挙げることができる。
なお、このような所定の表面処理が施された樹脂材料としては、具体的には、ポリスチレンからなるシートに防曇剤が施されたポリスチレンシート(サンディック株式会社製サンディックシート)を挙げることができる。
【0030】
ここで、上記材料が酸化珪素である場合、すなわち、親水性部が酸化珪素膜である場合、酸化珪素膜に含まれる酸素原子の割合としては、Si原子数100に対して150〜300、中でも180〜250の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、酸化珪素膜に含まれる炭素原子の割合が、Si原子数100に対して50以下、中でも20以下の範囲内であることが好ましい。
【0032】
酸化珪素膜における酸素原子の割合が上記範囲内であることにより、酸化珪素膜を、例えば炭素原子やフッ素原子等の不純物が少ない純度の高い酸化珪素膜とすることが可能となる。また、酸化珪素膜中において疎水性を示す炭素原子の割合が上記範囲内であることにより、より高い親水性の酸化珪素膜とすることが可能となるからである。
【0033】
ここで、本発明における酸化珪素膜における成分割合は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)で測定された値である。XPSによる分析法を以下説明する。真空中で固体表面にX線を照射すると、X線によりエネルギ−を与えられた表面原子から電子が飛散する。この電子は、X線などの光照射によって発生するため光電子と呼ばれ、この光電子は、元素固有のエネルギーを有することから、エネルギ−分布を測定することにより元素の定性分析や定量分析が可能となる。また、表面から深いところで発生した光電子は、表面に出てくる前にそのエネルギーを失うため測定が困難であり、1000eVの運動エネルギーを有する電子の脱出深さは、数nm(数十原子層)であることから、最表面の情報を得ることが可能となる。さらに、深部を測定するためには、表面をアルゴン等のイオンによりスパッタリングする必要があり、元素の種類により選択的なスパッタリングが生じるので、定量の際には補正が必要となる。
【0034】
また、上記材料が自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したものである場合における自己組織化単分子膜とは、固体/液体もしくは固体/気体界面で、有機分子同士が自発的に集合し、会合体を形成しながら自発的に単分子膜を形作ってなる有機薄膜である。例として、ある特定の材料でできた基板を、その基板材料と化学的親和性の高い有機分子の溶液または蒸気に曝すと、有機分子は基板表面で化学反応し吸着する。その有機分子が、化学的親和性の高い官能基と、基板との化学反応を全く起こさないアルキル基との2つのパートからなり、親和性の高い官能基がその末端にある場合、分子は反応性末端である化学的親和性の高い官能基が基板側を向き、アルキル基が外側を向いて吸着する。アルキル基同士が集合すると、全体として安定になるため、化学吸着の過程で有機分子同士は自発的に集合する。分子の吸着には、基板と末端官能基との間で化学反応が起こることが必要であることから、一旦基板表面が有機分子でおおわれ単分子膜ができあがると、それ以降は分子の吸着は起こらない。その結果、分子が密に集合し、配向性の揃った有機単分子膜ができる。このような膜を本発明においては、自己組織化単分子膜とする。ここで、上記の基板と結合する反応性末端基を吸着基、外側を向いて配向する基を配向基とする。
したがって、本発明における自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したものとは、上記自己組織化単分子膜が形成された後に、上記配向基がヒドロキシル基に置換されたものである。
なお、配向基をヒドロキシル基に置換する方法としては、反応性雰囲気下における高エネルギー照射する方法が挙げられる。なかでも、酸素ガスを含む雰囲気下におけるプラズマ照射、あるいは酸素含有雰囲気下における紫外線照射する方法が望ましい。
【0035】
ここで、上記自己組織化単分子膜は、下記の一般式(1)で示される自己組織化単分子膜形成物質を原料として形成されたものであることが好ましい。
【0036】
R1αXR2β (1)
【0037】
ここで、R1は、炭素数1〜30までのアルキル基あるいはアリール基(ベンゼン環)であり、炭素基は部分的に分岐鎖や多重結合を有するものも含まれる。また、炭素に結合する元素としてはフッ素や塩素等のハロゲン、水素あるいは窒素等も含まれる。また、R2は、ハロゲン、または−OR3(R3は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはアリル基である。なお、炭素が酸素や水素だけでなく、ハロゲンや窒素と結合しているものも含まれる。)で示される置換基である。また、Xは、Si、Ti、Al、CおよびSからなる群から選択される一つの元素である。ここで、αおよびβは1以上の整数であり、α+βは2から4である。
【0038】
ここで、R1は上述の配向基、R2は上述の吸着基、Xは自己組織化単分子膜の核となる物質である。上記構造の物質が自己組織化単分子膜を形成するのである。
【0039】
上記に示した自己組織化単分子膜形成物質の具体的な例として、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメトキシジクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルジメチル(ジメチルアミノ)シラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルメチルジクロロシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルジクロロシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルエチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキシルジクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルメチルジクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシラン等を挙げることができる。
【0040】
本発明においては、中でもオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシランが好ましく、特にオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0041】
本発明における親水性部の厚みとしては、所望の親水性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではなく、材料等に応じて適宜設定することができ、例えば、1nm〜1mm程度とすることができる。より具体的には、親水性部を構成する材料が酸化珪素等の無機材料や、自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したもの等である場合には、1nm〜150nmの範囲内であることが好ましく、なかでも1nm〜100nmであることが好ましく、特に1nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。親水性部を安定的に形成することができるからである。また、親水性部が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の樹脂材料からなるシートを蓋基材に貼り付けることにより形成されるものである場合には、100μm〜1mm程度であることが好ましい。貼り付けが容易だからである。
【0042】
本発明における親水性部の形成方法としては、所望の親水性を有する親水性部を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、蓋基材上に上記材料を含む塗工液を塗布し、乾燥させることで親水性部を形成する方法や、親水性部を形成した後、蓋基材上に貼り付ける方法等を用いることができる。
また、上記材料が酸化珪素等の無機材料の場合には蒸着法等を用いる方法であっても良い。
【0043】
(b)微細凹凸部
本発明における微細凹凸部は、表面の微細凹凸により付着した水が膜状となるものである。
このような微細凹凸部の微細凹凸としては、水膜を形成することができ、さらに水膜が形成された場合であっても透明性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、算術平均粗さRaが5nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、なかでも5nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、特に5nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。上記微細凹凸の表面粗さが上述の範囲内であることにより、水膜を安定的に形成することができるからである。
なお、算術平均粗さRaは、JISB 0601で規定されるものである。
より具体的には、表面粗さは、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定して得ることができる。
【0044】
本発明における微細凹凸部を構成する材料としては、透明性を有し、表面に所望の微細凹凸を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、反応性雰囲気下で、高エネルギーを照射されることにより、表面に微細凹凸が形成される材料であることが好ましく、中でもプラズマ照射、または紫外光照射されることにより、表面に微細凹凸が形成される材料であることが好ましい。これにより、微細凹凸を、プラズマ照射や紫外光照射により得ることが可能となり、製造効率やコストの面からも好ましいからである。
【0045】
このような材料としては、例えば、エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)系樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン系樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)系樹脂、ポリサルホン(PS)系樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)系樹脂、ポリアリレート(PAR)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等の樹脂材料を用いることができる。
【0046】
また、上記に挙げた樹脂材料以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを基材として用いることも可能である。さらに、ガラスやシリコンウエハーのような固体表面にこれらの樹脂をコーティングした基材でも良く、ガラスやシリコン等の無機材料を用いても良い。さらに、上述のような親水性部を構成する材料を用いるものであっても良い。
【0047】
本発明においては、なかでも、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂またはポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂の中でも特にポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートであることが好ましい。上記材料が、これらの物質であることにより、表面の微細凹凸の形成が容易であり、加工が容易となるからである。
【0048】
本発明においては、上記材料が樹脂材料である場合には、上記微細凹凸部が未延伸なものでも良いが、中でも延伸されたものであること、すなわち、上記材料からなる層(以下、微細凹凸部形成用層とする場合がある。)が延伸されたものに微細凹凸を形成してなるものであることが好ましい。微細凹凸部形成用層が延伸されることで、規則的な配向が可能となり、表面全体に微細凹凸が規則的に形成されやすく、その微細凹凸により水膜をより安定的に形成できるものとすることが可能となるからである。なお、未延伸の場合にも、ランダムな微細凹凸が形成されるため、水膜を安定的に形成できるものとすることが可能となる。
【0049】
具体的な延伸の方法としては、未延伸の微細凹凸部形成用層を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、微細凹凸部形成用層の流れ(縦軸)方向、または微細凹凸部形成用層の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することができる。この場合の延伸倍率は、微細凹凸部形成用層の原料となる材料に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0050】
本発明における微細凹凸部の形成方法としては、所望のサイズの微細凹凸を有する微細凹凸部を精度良く形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、蓋基材上に微細凹凸を形成する前の微細凹凸部形成用層を形成した後、微細凹凸を形成する方法や、微細凹凸部を形成した後、蓋基材上に貼り付ける方法等を用いることができる。
なお、微細凹凸部形成用層の形成方法については親水性部の形成方法と同様とすることができる。
【0051】
本発明における微細凹凸の形成方法として、上記材料からなる微細凹凸部形成用層表面に所望のサイズの微細凹凸を形成することが可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、例えばレジスト等に微小孔を形成し現像する等の溶液処理等を用いることも可能であるが、本発明においては、反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することが好ましい。これにより、反応性雰囲気中のガスが励起されて高エネルギー状態となり、上記微細凹凸部形成用層表面の特定部位と反応することにより、上記微細凹凸部形成用層表面上に微細な凹凸を容易に形成することが可能となるからである。
【0052】
ここで、本発明における反応性雰囲気とは、上記高エネルギーの照射により活性化される物質を含有する雰囲気であり、上記高エネルギーの照射の方法により、異なるものであるが、具体的には、O2、N2O、NO、NO2、CO2、CO、H2、He、N2、Ar等のガスの雰囲気を挙げることができ、中でも酸素原子を含んだガスであることが好ましい。
【0053】
また、高エネルギーの照射の方法として、具体的には、プラズマ照射や、イオン照射、ラジカル照射、光照射等が挙げられ、中でもプラズマ照射および紫外光照射であることが好ましい。
【0054】
本発明における上記微細凹凸を形成する方法としては、上記の中でも酸素原子を含んだガスを用い、プラズマを照射するプラズマ処理、または酸素含有雰囲気下で真空紫外光を照射するドライ処理を用いることが好ましい。これにより、上記微細凹凸部形成用層表面に微細凹凸を形成するのと同時に、上記微細凹凸部形成用層表面に親水基を導入することが可能であり、水膜の形成安定性をより向上させることができるからである。
【0055】
(2)水遮断部
本発明における水遮断部は、上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成されるものであり、水膜形成部に付着した水が、本発明の細胞培養容器の外部に移動することを防ぐ部位である。
ここで、上記側壁の上面と平面視上重なるとは、実質的に側壁の上面の全てを覆うことを示すものであり、本発明の効果を阻害しない範囲で上面の一部が被覆されない場合も含むものである。本発明においては、側壁の上面の面積の90%以上が覆われることが好ましく、なかでも、95%以上が覆われることが好ましく、特に100%、すなわち、全てが覆われることが好ましい。
したがって、通常は、図8に示すように、少なくともA領域の全てを覆うように水遮断部が形成されることになる。
なお、図8中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0056】
本発明における水遮断部の形成個所としては、上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成されるものであれば特に限定されるものではなく、水膜形成部と隣接していても、隣接していなくても良いが、図9に例示するように側壁の上面と連続して形成された部位と平面視上重なる箇所を含むものであることが好ましく、なかでも、開口部以外の部位の全てと平面視上重なる箇所を含むものであることが好ましく、特に、開口部の一部と平面視上重なる箇所を含むものであることが好ましく、なかでも特に、水膜形成部が形成される領域以外の全ての内面であることが好ましい。上記形成個所に水遮断部が形成されることにより、より安定的に水の移動を防止することができるからである。
なお、図9中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0057】
このような水遮断部としては、安定的に水の移動を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、疎水性部、水吸収部、段差部等を含むものを挙げることができる。
【0058】
(a)疎水性部
本発明における疎水性部は、疎水性を有することにより、水膜形成部に付着した結露水の細胞培養容器の外部への移動を防止するものである。
本発明においては、なかでも、表面の水接触角が、60°以上であることが好ましく、特に、80°以上であることが好ましい。上記水接触角であることにより、水の移動を安定的に防止することができるからである。
なお、上記水接触角の上限については、大きい程効果を発揮することができるため特に限定されるものではなく、このような疎水性部の形成性や構成する材料のコスト等に応じて適宜設定することができる。
【0059】
本発明における疎水性部を構成する材料としては、水の移動を安定的に防止できる疎水性を有するものであれば特に限定されるものではなく、透明であっても良く、不透明であっても良いが、後述するような蓋基材を構成する材料を用いることができる。すなわち、一般的な細胞培養容器における蓋部の露出した部位を疎水性部として用いることができる。具体的には、上記細胞培養部を構成する材料と同様とすることができる。
【0060】
本発明における疎水性部の厚みとしては、所望の疎水性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記親水性部と同様とすることができる。
【0061】
本発明における疎水性部の形成方法としては、所望の疎水性を有する疎水性部を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、上記親水性部と同様の方法を用いることができる。
【0062】
(b)水吸収部
本発明における水吸収部は、水膜形成部から移動してきた水を吸収することにより、水膜形成部に付着した結露水の細胞培養容器の外部への移動を防止するものである。
このような水吸収部としては、吸水性を有するものであれば特に限定されるものではないが、1m3当たりの吸水量(g/m3)が1〜60の範囲内となるものであることが好ましく、なかでも、5〜30の範囲内となるものであることが好ましい。上記吸水性を有することにより、安定的に水の移動を防止することができるからである。
なお、吸水量は、デシケーターにより乾燥した、絶乾状態の質量を測定した後、4℃の水中で1時間浸漬した後の質量を測定することにより求めるものである。
【0063】
本発明における水吸収部を構成する材料としては、所望量の水を吸収することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等のゲルや、ポリウレタン等の多孔質、ポリエステル等の繊維材料等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、ポリアクリル酸ナトリウムであることが好ましい。上記材料であることにより、吸水性に優れた水吸収部を容易に形成することができるからである。
【0064】
本発明における水吸収部の厚みとしては、所望の吸水性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記親水性部と同様とすることができる。
【0065】
本発明における吸水性部の形成方法としては、所望の吸水性を有する吸水性部を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、上記親水性部と同様の方法を用いることができる。
【0066】
(c)段差部
本発明における段差部は、水膜形成部から移動してきた水を段差によりせき止めることにより、水膜形成部に付着した結露水の細胞培養容器の外部への移動を防止するものである。
このような段差部としては、隣接する開口部側の部材と厚みが異なるものであれば特に限定されるものではないが、隣接する開口部側の部材との厚みの差が、5μm以上であることが好ましく、なかでも10μm以上であることが好ましい。上記厚みの差が上述の範囲内であることにより、水の外部への移動を安定的に防止することができるからである。
ここで、隣接する開口部側の部材と厚みが異なる具体例としては、水遮断部としての段差部が開口部側で水膜形成部と隣接する場合には水膜形成部の厚みと異なるものとなり、水膜形成部との間に疎水性部等の他の水遮断部が存在する場合には、他の水遮断部の厚みと異なるものであり、水膜形成部との間に水遮断部以外の他の中間部等が存在する場合には、その中間部の厚みと異なるものとなる。
なお、厚みの差の上限としては大きい程効果を発揮することができるため特に限定されるものではないが、上記段差部の形成性や、上記細胞培養部の表面までの距離等、本発明の細胞培養容器のサイズ等に応じて適宜設定することができる。
【0067】
また、厚みが異なるとは、上記段差部が、隣接する開口部側の部材より厚いものであっても良く、薄いものであっても良い。
【0068】
本発明における段差部の形状としては、少なくとも、隣接する開口部側の部材との境界部分で、厚みが異なるものであれば特に限定されるものではないが、本発明においては、なかでも、厚みが一定の形状であることが好ましい。上記形状であることにより段差部の形成が容易だからである。
【0069】
本発明における段差部を構成する材料としては、所望の厚みで段差部を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、後述する蓋基材と同様の材料や、上記疎水性部や水吸収部を構成する材料と同様とすることができるが、なかでも、疎水性部を構成する材料であること、すなわち、段差部が疎水性部でもあることが好ましい。水の移動をより安定的に防止することができるからである。
【0070】
本発明における段差部の形成方法としては、所望の厚みの段差部を形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、上記親水性部と同様の方法を用いることができる。
【0071】
(d)水遮断部
本発明における水遮断部は、安定的に水の移動を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではなく、1種類であっても良く、2種類以上を組み合わせたものであっても良い。例えば、上述した疎水性部、水吸収部または段差部のみからならものであっても良く、これらを組み合わせたもの、より具体的には、図10や図11に示すように、水遮断部12が、水膜形成部11に隣接して疎水性部21を形成し、疎水性部21を囲むように水吸収部22または段差部23を有するものや、図12に示すように、疎水性部21、段差部23および水吸収部22からなるものとすることができる。
なお、図10〜図12中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0072】
(3)蓋部
本発明における蓋部は、細胞培養部を覆うものであり、内面に上記水膜形成部および水遮断部を有するものである。また、少なくとも観察時に、水膜形成部および水遮断部はそれぞれ上記細胞培養部の開口部および側壁の上面を覆うように形成されるものである。
本発明においては、蓋部が細胞培養部を覆った際に、平面視上、細胞培養部に対して移動し得るものである場合には、そのような移動が生じた場合であっても水膜形成部および水遮断部が上記所定の領域と平面視上重なることができるように形成されるものであることが好ましい。
【0073】
本発明における蓋部としては、上記水膜形成部および水遮断部からなるものであっても良く、蓋基材と、蓋基材の内面に水膜形成部および水遮断部が形成されたものであっても良い。
また、本発明における蓋部は、必要に応じて水膜形成部および水遮断部以外のその他の構成を有するものであっても良い。
【0074】
本発明において、蓋基材を構成する材料としては、透明性を有し、上記水膜形成部および水遮断部を安定的に形成できるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な細胞培養容器における蓋部を構成する材料と同様とすることができる。具体的には、上記細胞培養部を構成する材料と同様とすることができる。
すなわち、一般的な細胞培養容器として市販されるシャーレやマルチウェルプレート等の蓋部を、蓋基材として用いることができる。
【0075】
本発明における蓋部の平面視形状としては、円形や、既に説明した図3に示すように多角形状等、一般的な細胞培養容器と同様とすることができる。
また、蓋部の断面視形状としては、既に説明した図1、図2に示すように、通常、上記細胞培養部の側面の一部を覆う蓋側面部を有するものである。
本発明においては、細胞培養部の外周部にねじ切加工がなされている場合、このような蓋側面部の内部表面にねじ切加工がなされたものであっても良い。
【0076】
3.細胞培養容器
本発明の細胞培養容器は、上記細胞培養部および蓋部を少なくとも有するものであり、るが、必要に応じて、その他の構成を有するものであっても良い。
このようなその他の構成としては、例えば、図13に例示するように、本発明の細胞培養容器が複数の細胞培養部を有する場合において、複数の細胞培養部を支持する皿部31を挙げることができる。
なお、図13中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0077】
本発明の細胞培養容器を用いて培養される細胞としては、種々の細胞を用いることができ、例えば、細胞培養部の凹部表面等の足場に接着する足場依存性細胞であっても良く、足場依存性を有しない浮遊性細胞であっても良い。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【0080】
[実施例]
高い親水性により防曇機能を有したポリスチレンシート(サンディック株式会社製サンディックシート210、300μm厚)を32mmφに切り取り、BD(べクトン・ディッキンソン)社製35mmφの細胞培養シャーレの蓋面中央に貼付した。貼付にはPDMS(ポリジメチルシロキサン:DowCorning社製Sylgard(登録商標)184)を用いた。硬化前のPDMSをシャーレ蓋面に塗布し、その上にポリスチレンシートを乗せ、一晩静置することで、貼付した。こうして得られたシャーレを37℃のインキュベータ内に1時間置き、その後取り出し室温で静置したところ、ポリスチレンシート上には水膜が形成され、良好な観察領域を確保することができた。一方ポリスチレンシートが貼付されていない周囲の領域はシャーレの蓋材が露出しているため、水膜が形成されていなかった。また、貼付したポリスチレンシートは300μm厚であったため、蓋面とポリスチレンシートの間には300μm段差があり、これにより水膜がポリスチレンシート上の範囲内に限定されている様子が確認できた。
なお、各材料の水接触角は、以下のとおりであった。
・ポリスチレンシート:10°以下
・細胞培養シャーレの蓋内面:80°
【符号の説明】
【0081】
1 … 側壁
2 … 凹部
3 … 細胞培養部
10 … 蓋部
11 … 水膜形成部
12 … 水遮断部
13 … 蓋基材
20 … 細胞培養容器
21 … 疎水性部
22 … 水吸収部
23 … 段差部
31 … 皿部
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞を効率的に培養するには、生育に適した条件下で培養する必要がある。このため、通常、所定の温度・湿度に保つことができる培養用恒温槽内で細胞の培養が行われる。
また、培養中の細胞の状態を観察する際には、細胞が入った細胞培養容器を恒温槽から取り出す必要があるが、恒温槽から取り出した際のコンタミネーションを防止するため、通常、細胞培養容器として蓋つきの細胞培養容器が用いられる。
ここで、例えば、ヒト等の細胞では37℃程度の温度条件が用いられるが、このような温度条件下で長時間配置された細胞培養容器を恒温槽から取り出し、室温条件下に置くと、細胞培養容器内に含まれる水蒸気が細胞培養容器を覆う蓋内面に結露し、多量の水滴が付着した状態となる。その結果、蓋により覆った状態での細胞の観察が困難となるといった問題があった。
【0003】
このような問題に対して、蓋の内面にワイパーを備えたもの(特許文献1)や、蓋の内面に親水性ポリマー層を有し、さらに蓋の外周部に親水性ポリマー層に付着した水を受ける鍔部を有するもの(特許文献2)等が開示されている。このような方法によれば、蓋内面に結露した水が水滴状に付着することを防ぐことができ、細胞を視認性良く観察することができる。
しかしながら、特許文献1のように蓋の内面にワイパーを設けたものは、培養容器の観察可能面積が減少することや、作業者の手間などの不具合があった。
また、特許文献2は蓋部に設けられた水受け部へ結露水がたまることが特徴とされているが、このような構造は本来の培養容器に比べ、ハンドリング性が悪くなること、培地交換などの実験操作において溜まった水が流出、飛散することにより、コンタミネーションのリスクが増大するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−184349号公報
【特許文献2】特開2010−51200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、上記細胞培養部を覆う蓋部と、を有する細胞培養容器であって、上記蓋部の内面には、上記細胞培養部の上記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とする細胞培養容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、上記蓋部の内面に上記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように水膜形成部が形成されていることにより、培養用恒温槽から取り出した際に蓋内面に水滴の付着を防止することができ、優れた防曇性を発揮することができる。
また、上記蓋部の内面に上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することにより、コンタミネーションを安定的に防止することができる。
【0008】
本発明においては、上記水膜形成部が、親水性部または微細凹凸部であることが好ましい。水膜形成部への水滴の付着を防止することができ、安定的に水膜を形成することができるからである。
【0009】
本発明においては、水遮断部が疎水性部、水吸収部、および/または段差部を含むことが好ましい。このような部位を含むことにより、水膜形成部に付着した水が細胞培養部外に流出することを安定的に防止することができるからである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、培養用恒温槽から取り出した際の防曇性およびコンタミネーション防止性に優れた細胞培養容器を提供できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の細胞培養容器の一例を示す概略断面図である。
【図2】図3のX−X線断面図である。
【図3】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略平面図である。
【図4】本発明における細胞培養部を説明する説明図である。
【図5】本発明における細胞培養部を説明する説明図である。
【図6】本発明における側壁を説明する説明図である。
【図7】本発明における側壁を説明する説明図である。
【図8】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図12】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【図13】本発明の細胞培養容器の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、細胞培養容器に関するものである。
以下、本発明の細胞培養容器について詳細に説明する。
【0013】
本発明の細胞培養容器は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、上記細胞培養部を覆う蓋部と、を有する細胞培養容器であって、上記蓋部の内面には、上記細胞培養部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とするものである。
【0014】
このような本発明の細胞培養容器について図を参照して説明する。図1は、本発明の細胞培養容器の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の細胞培養容器20は、周囲が側壁1により囲まれた凹部2を有する細胞培養部3と、上記細胞培養部3を覆う蓋部10と、を有するものである。上記蓋部10は主に蓋基材13からなり、蓋基材13の内面には、上記細胞培養部3の凹部2の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部11および上記水膜形成部11を囲うように形成され、かつ、上記側壁1の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部12を有するものである。
【0015】
本発明によれば、上記蓋部の内面に上記開口部の一部と平面視上重なるように水膜形成部が形成されていることにより、培養用恒温槽から取り出した際に蓋内面に水滴ができるのを防止し水膜を形成することができる。その結果、このような水膜形成部において優れた防曇性を発揮することができ、凹部内で培養中の細胞を良好に観察する観察領域として用いることができる。
また、上記蓋部の内面に上記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することにより、水膜形成部に付着した水が、平面視上、細胞培養部外に流出することを防止することができる。このため、細胞培養容器の外部と、細胞培養部内の培養液とが結露により蓋に付着した水を介して接触することを防止することができる。その結果、コンタミネーションを安定的に防止することができる。
これに対して、平面視上、水膜形成部が細胞培養部の凹部の開口部より広く配置されている場合には、水膜形成部に付着した結露水が、例えば、細胞培養部の側壁の上面に落下し、その後、側壁の上面を伝って、細胞培養容器の外部まで流出する可能性がある。そして、細胞培養部内から細胞培養容器の外部まで水が移動することにより形成された連続した水跡が、細胞培養部の凹部内と細胞培養容器外とを接続した状態とし、細胞培養容器外から細胞培養部の凹部内へのコンタミネーションの可能性を高くするのである。
【0016】
本発明の細胞培養容器は細胞培養部および蓋部を少なくとも有するものである。
以下、本発明の細胞培養容器の各構成について詳細に説明する。
【0017】
1.細胞培養部
本発明に用いられる細胞培養部は、周囲が側壁により囲まれた凹部を有するものである。また、本発明における凹部で細胞および培地を保持し、細胞の培養が行われるものである。
【0018】
このような細胞培養部としては、少なくとも一つの凹部を有し、蓋部により覆われることができるものであれば特に限定されるものではない。このような細胞培養部としては、一体として形成されているものであれば2以上の凹部を有するものであっても良く、例えば、既に説明した図1に示すようなシャーレ、図2および図3に例示するようなマルチウェルプレートや、培養用フラスコ等の細胞培養瓶等、一般的な細胞培養容器と同様とすることができる。
なお、図2は図3のX−X線断面図であり、図3は細胞培養容器の他の例を示す概略平面図である。また、図2〜図3中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0019】
本発明における細胞培養部を構成する材料としては、細胞の培養および観察を容易に行うことができるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な細胞培養容器と同様とすることができる。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ウレタンアクリレート等のアクリル系材料、セルロース、ガラス等が挙げられる。また、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマー等の樹脂等を用いることができる。
本発明においては、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートを好ましく用いることができ、特に、ポリスチレンを好ましく用いることができる。細胞毒性が低いからである。
【0020】
本発明における凹部は、細胞を収納し培養できれば、その形状、容積などに制限はなく、一般的な細胞培養に用いられるものと同様とすることができる。例えば、既に説明した図1〜図3に示すような、側壁が垂直に立設している円柱状のものや、図4に例示するように、側壁が傾斜している円錐台状、円錐状、多角錐状、多角錐台状のものや、図5に例示するように、側壁が湾曲しているもの等を用いることができる。
なお、図4〜図5中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。また、図4および図5中の、Aで示す部位は、側壁の上面を示すものである。
【0021】
本発明における凹部の表面については、上記細胞培養部を構成する材料が露出するものであっても良いが、必要に応じて表面処理がされたものであっても良い。
このような表面処理としては、紫外線照射、コロナ処理、プラズマ処理や、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリL−リジン、等を含むコーティング液の塗布を挙げることができる。
【0022】
なお、本発明における細胞培養部の凹部の開口部は、上記水膜形成部と平面視上重なるものであるが、ここでいう、細胞培養部の凹部の開口部とは、凹部の上側(蓋部と対向する側)の開口領域をいうものであり、側壁の上面により囲まれた領域を指すものである。
また、本発明における細胞培養部の側壁の上面は、上記水遮断部と平面視上重なるものであるが、ここでいう側壁の上面とは、側壁の上面のみならず、側壁の上面と連続し、かつ、同程度の高さの上面を有する部位の上面も含むものである。ここで、同程度の高さとは、表面に凹凸形状が付与されている場合も本発明における上面に含むことを示すものである。具体的には、既に説明した図2に示すように、平坦な板状の部材に凹部が形成されたものである場合には、その板状部材の表面のうち、凹部が形成された部位以外の全てが側壁の上面となる。また、細胞培養部が、図6に例示するように複数の凹部が開口部側で連結されたような形状である場合、または図7に例示するように複数の凹部が底側で連結されたような形状である場合には、それぞれ、Aで示す部位が側壁の上面となる。さらに、既に説明した図4〜図5に示すように、細胞培養部の側壁が傾斜しているものや、側壁が湾曲しているものでは、それぞれ、Aで示す、蓋部と対向する部位が側壁の上面となる。
なお、図6〜図7中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0023】
2.蓋部
本発明における蓋部は、上記細胞培養部を覆うものであり、内面に水膜形成部および水遮断部を有するものである。
【0024】
(1)水膜形成部
本発明における水膜形成部は、上記細胞培養部の開口部の一部と平面視上重なるように形成されるものであり、結露により付着した水により水膜を形成する部位である。
【0025】
本発明における水膜形成部の形成箇所としては、上記細胞培養部の開口部の一部と平面視上重なるように形成されるものであれば良いが、平面視上、開口部の中央部と重なる箇所であることが好ましい。細胞培養部の凹部内で培養される細胞を視認性良く観察することができるからである。
【0026】
本発明においては、開口部の面積の80%以上の面積で水膜形成部が形成されることが好ましく、なかでも、90%〜98%の範囲内の面積で水膜形成部が形成されることが好ましい。上記面積で水膜形成部が形成されることにより、細胞培養部の凹部で培養される細胞を視認性良く観察することができるからである。また、水膜形成部上の水が、凹部外に移動することを防止することができるからである。
【0027】
このような水膜形成部としては、安定的に水膜を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、親水性部や微細凹凸部からなるもの等を挙げることができる。
【0028】
(a)親水性部
本発明における親水性部は、親水性を有し、付着した結露水が水膜を形成できるものである。
本発明においては、なかでも、表面の水接触角が、50°以下であることが好ましく、特に、30°以下であることが好ましい。上記水接触角であることにより、水膜を安定的に形成できるからである。
なお、水接触角とは、水、もしくは同等の接触角を有する液体との接触角をいうものであり、親水性部の表面上に純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間経過後、顕微鏡またはCCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める方法を用いて計測することができる。
より具体的には接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから純水の液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得ることができる。
また、上記水接触角の下限としては小さい程効果を発揮することができるため特に限定されるものではなく、上記親水性部の形成性や構成する材料のコスト等に応じて適宜設定することができる。
【0029】
このような親水性部を構成する材料としては、蓋部上から細胞培養部内の細胞を観察できる程度の透明性を有し、水膜を安定的に形成できる親水性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、所定の表面処理を施したポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリカーボネート等の樹脂材料やガラス等、さらには、酸化珪素等の無機材料、自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したもの等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、所定の表面処理を施したポリスチレンおよびポリエチレンテレフタレート等を好ましく用いることができる。このような材料を用いることにより、親水性の高い親水性部を容易に形成することができるからである。
なお、樹脂材料に施される所定の表面処理としては、具体的には、界面活性剤等の防曇剤の塗布や、プラズマ、コロナ、マイクロウェーブ、電子線および紫外線等の照射等を挙げることができる。
なお、このような所定の表面処理が施された樹脂材料としては、具体的には、ポリスチレンからなるシートに防曇剤が施されたポリスチレンシート(サンディック株式会社製サンディックシート)を挙げることができる。
【0030】
ここで、上記材料が酸化珪素である場合、すなわち、親水性部が酸化珪素膜である場合、酸化珪素膜に含まれる酸素原子の割合としては、Si原子数100に対して150〜300、中でも180〜250の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、酸化珪素膜に含まれる炭素原子の割合が、Si原子数100に対して50以下、中でも20以下の範囲内であることが好ましい。
【0032】
酸化珪素膜における酸素原子の割合が上記範囲内であることにより、酸化珪素膜を、例えば炭素原子やフッ素原子等の不純物が少ない純度の高い酸化珪素膜とすることが可能となる。また、酸化珪素膜中において疎水性を示す炭素原子の割合が上記範囲内であることにより、より高い親水性の酸化珪素膜とすることが可能となるからである。
【0033】
ここで、本発明における酸化珪素膜における成分割合は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)で測定された値である。XPSによる分析法を以下説明する。真空中で固体表面にX線を照射すると、X線によりエネルギ−を与えられた表面原子から電子が飛散する。この電子は、X線などの光照射によって発生するため光電子と呼ばれ、この光電子は、元素固有のエネルギーを有することから、エネルギ−分布を測定することにより元素の定性分析や定量分析が可能となる。また、表面から深いところで発生した光電子は、表面に出てくる前にそのエネルギーを失うため測定が困難であり、1000eVの運動エネルギーを有する電子の脱出深さは、数nm(数十原子層)であることから、最表面の情報を得ることが可能となる。さらに、深部を測定するためには、表面をアルゴン等のイオンによりスパッタリングする必要があり、元素の種類により選択的なスパッタリングが生じるので、定量の際には補正が必要となる。
【0034】
また、上記材料が自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したものである場合における自己組織化単分子膜とは、固体/液体もしくは固体/気体界面で、有機分子同士が自発的に集合し、会合体を形成しながら自発的に単分子膜を形作ってなる有機薄膜である。例として、ある特定の材料でできた基板を、その基板材料と化学的親和性の高い有機分子の溶液または蒸気に曝すと、有機分子は基板表面で化学反応し吸着する。その有機分子が、化学的親和性の高い官能基と、基板との化学反応を全く起こさないアルキル基との2つのパートからなり、親和性の高い官能基がその末端にある場合、分子は反応性末端である化学的親和性の高い官能基が基板側を向き、アルキル基が外側を向いて吸着する。アルキル基同士が集合すると、全体として安定になるため、化学吸着の過程で有機分子同士は自発的に集合する。分子の吸着には、基板と末端官能基との間で化学反応が起こることが必要であることから、一旦基板表面が有機分子でおおわれ単分子膜ができあがると、それ以降は分子の吸着は起こらない。その結果、分子が密に集合し、配向性の揃った有機単分子膜ができる。このような膜を本発明においては、自己組織化単分子膜とする。ここで、上記の基板と結合する反応性末端基を吸着基、外側を向いて配向する基を配向基とする。
したがって、本発明における自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したものとは、上記自己組織化単分子膜が形成された後に、上記配向基がヒドロキシル基に置換されたものである。
なお、配向基をヒドロキシル基に置換する方法としては、反応性雰囲気下における高エネルギー照射する方法が挙げられる。なかでも、酸素ガスを含む雰囲気下におけるプラズマ照射、あるいは酸素含有雰囲気下における紫外線照射する方法が望ましい。
【0035】
ここで、上記自己組織化単分子膜は、下記の一般式(1)で示される自己組織化単分子膜形成物質を原料として形成されたものであることが好ましい。
【0036】
R1αXR2β (1)
【0037】
ここで、R1は、炭素数1〜30までのアルキル基あるいはアリール基(ベンゼン環)であり、炭素基は部分的に分岐鎖や多重結合を有するものも含まれる。また、炭素に結合する元素としてはフッ素や塩素等のハロゲン、水素あるいは窒素等も含まれる。また、R2は、ハロゲン、または−OR3(R3は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはアリル基である。なお、炭素が酸素や水素だけでなく、ハロゲンや窒素と結合しているものも含まれる。)で示される置換基である。また、Xは、Si、Ti、Al、CおよびSからなる群から選択される一つの元素である。ここで、αおよびβは1以上の整数であり、α+βは2から4である。
【0038】
ここで、R1は上述の配向基、R2は上述の吸着基、Xは自己組織化単分子膜の核となる物質である。上記構造の物質が自己組織化単分子膜を形成するのである。
【0039】
上記に示した自己組織化単分子膜形成物質の具体的な例として、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメトキシジクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルジメチル(ジメチルアミノ)シラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルメチルジクロロシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルジクロロシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルエチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキシルジクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルメチルジクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシラン等を挙げることができる。
【0040】
本発明においては、中でもオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ノニルクロロシラン、オクテニルトリクロロシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルジメチルクロロシラン、シクロヘキシルメチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシランが好ましく、特にオクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0041】
本発明における親水性部の厚みとしては、所望の親水性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではなく、材料等に応じて適宜設定することができ、例えば、1nm〜1mm程度とすることができる。より具体的には、親水性部を構成する材料が酸化珪素等の無機材料や、自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換したもの等である場合には、1nm〜150nmの範囲内であることが好ましく、なかでも1nm〜100nmであることが好ましく、特に1nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。親水性部を安定的に形成することができるからである。また、親水性部が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の樹脂材料からなるシートを蓋基材に貼り付けることにより形成されるものである場合には、100μm〜1mm程度であることが好ましい。貼り付けが容易だからである。
【0042】
本発明における親水性部の形成方法としては、所望の親水性を有する親水性部を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、蓋基材上に上記材料を含む塗工液を塗布し、乾燥させることで親水性部を形成する方法や、親水性部を形成した後、蓋基材上に貼り付ける方法等を用いることができる。
また、上記材料が酸化珪素等の無機材料の場合には蒸着法等を用いる方法であっても良い。
【0043】
(b)微細凹凸部
本発明における微細凹凸部は、表面の微細凹凸により付着した水が膜状となるものである。
このような微細凹凸部の微細凹凸としては、水膜を形成することができ、さらに水膜が形成された場合であっても透明性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、算術平均粗さRaが5nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、なかでも5nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、特に5nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。上記微細凹凸の表面粗さが上述の範囲内であることにより、水膜を安定的に形成することができるからである。
なお、算術平均粗さRaは、JISB 0601で規定されるものである。
より具体的には、表面粗さは、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定して得ることができる。
【0044】
本発明における微細凹凸部を構成する材料としては、透明性を有し、表面に所望の微細凹凸を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、反応性雰囲気下で、高エネルギーを照射されることにより、表面に微細凹凸が形成される材料であることが好ましく、中でもプラズマ照射、または紫外光照射されることにより、表面に微細凹凸が形成される材料であることが好ましい。これにより、微細凹凸を、プラズマ照射や紫外光照射により得ることが可能となり、製造効率やコストの面からも好ましいからである。
【0045】
このような材料としては、例えば、エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)系樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン系樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)系樹脂、ポリサルホン(PS)系樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)系樹脂、ポリアリレート(PAR)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等の樹脂材料を用いることができる。
【0046】
また、上記に挙げた樹脂材料以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを基材として用いることも可能である。さらに、ガラスやシリコンウエハーのような固体表面にこれらの樹脂をコーティングした基材でも良く、ガラスやシリコン等の無機材料を用いても良い。さらに、上述のような親水性部を構成する材料を用いるものであっても良い。
【0047】
本発明においては、なかでも、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂またはポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂の中でも特にポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートであることが好ましい。上記材料が、これらの物質であることにより、表面の微細凹凸の形成が容易であり、加工が容易となるからである。
【0048】
本発明においては、上記材料が樹脂材料である場合には、上記微細凹凸部が未延伸なものでも良いが、中でも延伸されたものであること、すなわち、上記材料からなる層(以下、微細凹凸部形成用層とする場合がある。)が延伸されたものに微細凹凸を形成してなるものであることが好ましい。微細凹凸部形成用層が延伸されることで、規則的な配向が可能となり、表面全体に微細凹凸が規則的に形成されやすく、その微細凹凸により水膜をより安定的に形成できるものとすることが可能となるからである。なお、未延伸の場合にも、ランダムな微細凹凸が形成されるため、水膜を安定的に形成できるものとすることが可能となる。
【0049】
具体的な延伸の方法としては、未延伸の微細凹凸部形成用層を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、微細凹凸部形成用層の流れ(縦軸)方向、または微細凹凸部形成用層の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することができる。この場合の延伸倍率は、微細凹凸部形成用層の原料となる材料に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0050】
本発明における微細凹凸部の形成方法としては、所望のサイズの微細凹凸を有する微細凹凸部を精度良く形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、蓋基材上に微細凹凸を形成する前の微細凹凸部形成用層を形成した後、微細凹凸を形成する方法や、微細凹凸部を形成した後、蓋基材上に貼り付ける方法等を用いることができる。
なお、微細凹凸部形成用層の形成方法については親水性部の形成方法と同様とすることができる。
【0051】
本発明における微細凹凸の形成方法として、上記材料からなる微細凹凸部形成用層表面に所望のサイズの微細凹凸を形成することが可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、例えばレジスト等に微小孔を形成し現像する等の溶液処理等を用いることも可能であるが、本発明においては、反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することが好ましい。これにより、反応性雰囲気中のガスが励起されて高エネルギー状態となり、上記微細凹凸部形成用層表面の特定部位と反応することにより、上記微細凹凸部形成用層表面上に微細な凹凸を容易に形成することが可能となるからである。
【0052】
ここで、本発明における反応性雰囲気とは、上記高エネルギーの照射により活性化される物質を含有する雰囲気であり、上記高エネルギーの照射の方法により、異なるものであるが、具体的には、O2、N2O、NO、NO2、CO2、CO、H2、He、N2、Ar等のガスの雰囲気を挙げることができ、中でも酸素原子を含んだガスであることが好ましい。
【0053】
また、高エネルギーの照射の方法として、具体的には、プラズマ照射や、イオン照射、ラジカル照射、光照射等が挙げられ、中でもプラズマ照射および紫外光照射であることが好ましい。
【0054】
本発明における上記微細凹凸を形成する方法としては、上記の中でも酸素原子を含んだガスを用い、プラズマを照射するプラズマ処理、または酸素含有雰囲気下で真空紫外光を照射するドライ処理を用いることが好ましい。これにより、上記微細凹凸部形成用層表面に微細凹凸を形成するのと同時に、上記微細凹凸部形成用層表面に親水基を導入することが可能であり、水膜の形成安定性をより向上させることができるからである。
【0055】
(2)水遮断部
本発明における水遮断部は、上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成されるものであり、水膜形成部に付着した水が、本発明の細胞培養容器の外部に移動することを防ぐ部位である。
ここで、上記側壁の上面と平面視上重なるとは、実質的に側壁の上面の全てを覆うことを示すものであり、本発明の効果を阻害しない範囲で上面の一部が被覆されない場合も含むものである。本発明においては、側壁の上面の面積の90%以上が覆われることが好ましく、なかでも、95%以上が覆われることが好ましく、特に100%、すなわち、全てが覆われることが好ましい。
したがって、通常は、図8に示すように、少なくともA領域の全てを覆うように水遮断部が形成されることになる。
なお、図8中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0056】
本発明における水遮断部の形成個所としては、上記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、上記側壁の上面と平面視上重なるように形成されるものであれば特に限定されるものではなく、水膜形成部と隣接していても、隣接していなくても良いが、図9に例示するように側壁の上面と連続して形成された部位と平面視上重なる箇所を含むものであることが好ましく、なかでも、開口部以外の部位の全てと平面視上重なる箇所を含むものであることが好ましく、特に、開口部の一部と平面視上重なる箇所を含むものであることが好ましく、なかでも特に、水膜形成部が形成される領域以外の全ての内面であることが好ましい。上記形成個所に水遮断部が形成されることにより、より安定的に水の移動を防止することができるからである。
なお、図9中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0057】
このような水遮断部としては、安定的に水の移動を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、疎水性部、水吸収部、段差部等を含むものを挙げることができる。
【0058】
(a)疎水性部
本発明における疎水性部は、疎水性を有することにより、水膜形成部に付着した結露水の細胞培養容器の外部への移動を防止するものである。
本発明においては、なかでも、表面の水接触角が、60°以上であることが好ましく、特に、80°以上であることが好ましい。上記水接触角であることにより、水の移動を安定的に防止することができるからである。
なお、上記水接触角の上限については、大きい程効果を発揮することができるため特に限定されるものではなく、このような疎水性部の形成性や構成する材料のコスト等に応じて適宜設定することができる。
【0059】
本発明における疎水性部を構成する材料としては、水の移動を安定的に防止できる疎水性を有するものであれば特に限定されるものではなく、透明であっても良く、不透明であっても良いが、後述するような蓋基材を構成する材料を用いることができる。すなわち、一般的な細胞培養容器における蓋部の露出した部位を疎水性部として用いることができる。具体的には、上記細胞培養部を構成する材料と同様とすることができる。
【0060】
本発明における疎水性部の厚みとしては、所望の疎水性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記親水性部と同様とすることができる。
【0061】
本発明における疎水性部の形成方法としては、所望の疎水性を有する疎水性部を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、上記親水性部と同様の方法を用いることができる。
【0062】
(b)水吸収部
本発明における水吸収部は、水膜形成部から移動してきた水を吸収することにより、水膜形成部に付着した結露水の細胞培養容器の外部への移動を防止するものである。
このような水吸収部としては、吸水性を有するものであれば特に限定されるものではないが、1m3当たりの吸水量(g/m3)が1〜60の範囲内となるものであることが好ましく、なかでも、5〜30の範囲内となるものであることが好ましい。上記吸水性を有することにより、安定的に水の移動を防止することができるからである。
なお、吸水量は、デシケーターにより乾燥した、絶乾状態の質量を測定した後、4℃の水中で1時間浸漬した後の質量を測定することにより求めるものである。
【0063】
本発明における水吸収部を構成する材料としては、所望量の水を吸収することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等のゲルや、ポリウレタン等の多孔質、ポリエステル等の繊維材料等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、ポリアクリル酸ナトリウムであることが好ましい。上記材料であることにより、吸水性に優れた水吸収部を容易に形成することができるからである。
【0064】
本発明における水吸収部の厚みとしては、所望の吸水性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記親水性部と同様とすることができる。
【0065】
本発明における吸水性部の形成方法としては、所望の吸水性を有する吸水性部を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、上記親水性部と同様の方法を用いることができる。
【0066】
(c)段差部
本発明における段差部は、水膜形成部から移動してきた水を段差によりせき止めることにより、水膜形成部に付着した結露水の細胞培養容器の外部への移動を防止するものである。
このような段差部としては、隣接する開口部側の部材と厚みが異なるものであれば特に限定されるものではないが、隣接する開口部側の部材との厚みの差が、5μm以上であることが好ましく、なかでも10μm以上であることが好ましい。上記厚みの差が上述の範囲内であることにより、水の外部への移動を安定的に防止することができるからである。
ここで、隣接する開口部側の部材と厚みが異なる具体例としては、水遮断部としての段差部が開口部側で水膜形成部と隣接する場合には水膜形成部の厚みと異なるものとなり、水膜形成部との間に疎水性部等の他の水遮断部が存在する場合には、他の水遮断部の厚みと異なるものであり、水膜形成部との間に水遮断部以外の他の中間部等が存在する場合には、その中間部の厚みと異なるものとなる。
なお、厚みの差の上限としては大きい程効果を発揮することができるため特に限定されるものではないが、上記段差部の形成性や、上記細胞培養部の表面までの距離等、本発明の細胞培養容器のサイズ等に応じて適宜設定することができる。
【0067】
また、厚みが異なるとは、上記段差部が、隣接する開口部側の部材より厚いものであっても良く、薄いものであっても良い。
【0068】
本発明における段差部の形状としては、少なくとも、隣接する開口部側の部材との境界部分で、厚みが異なるものであれば特に限定されるものではないが、本発明においては、なかでも、厚みが一定の形状であることが好ましい。上記形状であることにより段差部の形成が容易だからである。
【0069】
本発明における段差部を構成する材料としては、所望の厚みで段差部を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、後述する蓋基材と同様の材料や、上記疎水性部や水吸収部を構成する材料と同様とすることができるが、なかでも、疎水性部を構成する材料であること、すなわち、段差部が疎水性部でもあることが好ましい。水の移動をより安定的に防止することができるからである。
【0070】
本発明における段差部の形成方法としては、所望の厚みの段差部を形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、上記親水性部と同様の方法を用いることができる。
【0071】
(d)水遮断部
本発明における水遮断部は、安定的に水の移動を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではなく、1種類であっても良く、2種類以上を組み合わせたものであっても良い。例えば、上述した疎水性部、水吸収部または段差部のみからならものであっても良く、これらを組み合わせたもの、より具体的には、図10や図11に示すように、水遮断部12が、水膜形成部11に隣接して疎水性部21を形成し、疎水性部21を囲むように水吸収部22または段差部23を有するものや、図12に示すように、疎水性部21、段差部23および水吸収部22からなるものとすることができる。
なお、図10〜図12中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0072】
(3)蓋部
本発明における蓋部は、細胞培養部を覆うものであり、内面に上記水膜形成部および水遮断部を有するものである。また、少なくとも観察時に、水膜形成部および水遮断部はそれぞれ上記細胞培養部の開口部および側壁の上面を覆うように形成されるものである。
本発明においては、蓋部が細胞培養部を覆った際に、平面視上、細胞培養部に対して移動し得るものである場合には、そのような移動が生じた場合であっても水膜形成部および水遮断部が上記所定の領域と平面視上重なることができるように形成されるものであることが好ましい。
【0073】
本発明における蓋部としては、上記水膜形成部および水遮断部からなるものであっても良く、蓋基材と、蓋基材の内面に水膜形成部および水遮断部が形成されたものであっても良い。
また、本発明における蓋部は、必要に応じて水膜形成部および水遮断部以外のその他の構成を有するものであっても良い。
【0074】
本発明において、蓋基材を構成する材料としては、透明性を有し、上記水膜形成部および水遮断部を安定的に形成できるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な細胞培養容器における蓋部を構成する材料と同様とすることができる。具体的には、上記細胞培養部を構成する材料と同様とすることができる。
すなわち、一般的な細胞培養容器として市販されるシャーレやマルチウェルプレート等の蓋部を、蓋基材として用いることができる。
【0075】
本発明における蓋部の平面視形状としては、円形や、既に説明した図3に示すように多角形状等、一般的な細胞培養容器と同様とすることができる。
また、蓋部の断面視形状としては、既に説明した図1、図2に示すように、通常、上記細胞培養部の側面の一部を覆う蓋側面部を有するものである。
本発明においては、細胞培養部の外周部にねじ切加工がなされている場合、このような蓋側面部の内部表面にねじ切加工がなされたものであっても良い。
【0076】
3.細胞培養容器
本発明の細胞培養容器は、上記細胞培養部および蓋部を少なくとも有するものであり、るが、必要に応じて、その他の構成を有するものであっても良い。
このようなその他の構成としては、例えば、図13に例示するように、本発明の細胞培養容器が複数の細胞培養部を有する場合において、複数の細胞培養部を支持する皿部31を挙げることができる。
なお、図13中の符号については、図1中のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0077】
本発明の細胞培養容器を用いて培養される細胞としては、種々の細胞を用いることができ、例えば、細胞培養部の凹部表面等の足場に接着する足場依存性細胞であっても良く、足場依存性を有しない浮遊性細胞であっても良い。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【0080】
[実施例]
高い親水性により防曇機能を有したポリスチレンシート(サンディック株式会社製サンディックシート210、300μm厚)を32mmφに切り取り、BD(べクトン・ディッキンソン)社製35mmφの細胞培養シャーレの蓋面中央に貼付した。貼付にはPDMS(ポリジメチルシロキサン:DowCorning社製Sylgard(登録商標)184)を用いた。硬化前のPDMSをシャーレ蓋面に塗布し、その上にポリスチレンシートを乗せ、一晩静置することで、貼付した。こうして得られたシャーレを37℃のインキュベータ内に1時間置き、その後取り出し室温で静置したところ、ポリスチレンシート上には水膜が形成され、良好な観察領域を確保することができた。一方ポリスチレンシートが貼付されていない周囲の領域はシャーレの蓋材が露出しているため、水膜が形成されていなかった。また、貼付したポリスチレンシートは300μm厚であったため、蓋面とポリスチレンシートの間には300μm段差があり、これにより水膜がポリスチレンシート上の範囲内に限定されている様子が確認できた。
なお、各材料の水接触角は、以下のとおりであった。
・ポリスチレンシート:10°以下
・細胞培養シャーレの蓋内面:80°
【符号の説明】
【0081】
1 … 側壁
2 … 凹部
3 … 細胞培養部
10 … 蓋部
11 … 水膜形成部
12 … 水遮断部
13 … 蓋基材
20 … 細胞培養容器
21 … 疎水性部
22 … 水吸収部
23 … 段差部
31 … 皿部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、
前記細胞培養部を覆う蓋部と、
を有する細胞培養容器であって、
前記蓋部の内面には、前記細胞培養部の前記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および前記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、前記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
前記水膜形成部が、親水性部であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記水膜形成部が、微細凹凸部であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記水遮断部が、疎水性部を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記水遮断部が、水吸収部を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記水遮断部が、段差部を含むことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の細胞培養容器。
【請求項1】
周囲が側壁により囲まれた凹部を有する細胞培養部と、
前記細胞培養部を覆う蓋部と、
を有する細胞培養容器であって、
前記蓋部の内面には、前記細胞培養部の前記凹部の開口部の一部と平面視上重なるように形成された水膜形成部および前記水膜形成部を囲うように形成され、かつ、前記側壁の上面と平面視上重なるように形成された水遮断部を有することを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
前記水膜形成部が、親水性部であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記水膜形成部が、微細凹凸部であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記水遮断部が、疎水性部を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記水遮断部が、水吸収部を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記水遮断部が、段差部を含むことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の細胞培養容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−200178(P2012−200178A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66638(P2011−66638)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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