説明

細胞培養施設

【課題】 細胞調製室内の清浄度を高く維持すると共に、細胞調製室内の空気の物理的封じ込めを実現することができる細胞培養施設を提供する。
【解決手段】 本発明の細胞培養施設1は、細胞調製に関わる作業を行うための細胞調製室6と、細胞調製室6のエアーロック前室5と、エアーロック後室7とを備え、細胞調製室6を大気圧とすると共に、エアーロック前室5を細胞調製室6より高い室圧とし、エアーロック後室7を細胞調製室6より低い室圧とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、再生医療に用いられる細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えた細胞培養施設に関するものであり、詳しくは、GMP(Good Manufacturing Practice)基準に定められている封じ込めレベルを充足する細胞培養施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を利用した再生医療に関する研究開発が進められており、その成果に大きな期待が寄せられている。従来の医療では、病変した患部に対する治療は、投薬や手術による手法が主に用いられており、係る治療方法では、病変した患部の進行を抑制するのみに止まっていた。そのため、不全とされた臓器や組織の治療は、臓器移植に委ねざるを得なかった。しかしながら、臓器移植の場合、脳死判定をめぐる倫理面の問題に加え、圧倒的なドナー不足の問題がある。また、拒絶反応が避けられないことから、当該拒絶反応を抑制するための免疫抑制剤の投与が必須であった。
【0003】
これに対し、近年の再生医療では、細胞培養により目的とする組織や臓器を人工的に作製することが可能となるため、臓器移植に伴うドナー不足の解消や拒絶反応の軽減を図ることができる。細胞培養には、受精卵内に存在する未分化な幹細胞(所謂ES細胞)である胚性幹細胞や、既にできあがった体内の各器官に存在する未分化な幹細胞、例えば造血幹細胞や神経管細胞などの体性幹細胞などが用いられる。これら幹細胞は、あらゆる組織や臓器に分化する可能性を有している。尚、胚性幹細胞については、あらゆる組織や臓器に分化する可能性を有する万能細胞であるが、ヒトの生命の萌芽であるヒト胚を用いることについて倫理上の問題がある。
【0004】
これら幹細胞は、様々な材料と複合させて、細胞を増殖させ、分化誘導し、細胞を張り付かせる等の種々の技術を経て、所定の臓器のかたちへと作製される。作製された臓器や組織は、個々の患者に移植・輸注されるため、係る細胞の培養操作は、所定の基準、例えば、GMPを充足した環境にて行われることが必要条件とされる。
【0005】
従来より係る細胞の培養操作等を行う細胞培養施設には、細胞調製室内を所定の清浄度を有する環境とすると共に、当該細胞調製室に従事する関係者や担当者をウイルスから保護し、且つ、細胞調製室内空気を封じ込めることで、周辺環境の汚染を防止することができる施設が提案されている(特許文献1参照。)。
【0006】
この細胞培養施設では、上述したように再生治療で使用することのできる細胞の培養が行われるので、無菌的管理・無菌操作が必要となる。そのため、当該細胞培養施設内に形成される各部屋は、空気の清浄度を維持するため、通常、使用されているクリーンルームの構造が採用されており、給気系には、HEPAフィルタ等のフィルタを用いることで、清浄な空気の供給を行っている。
【0007】
また、細胞調整前と調整後の作業者などが接触するのを防止するため、施設内は、作業者は玄関から更衣室に入り、そこで無塵衣に着替えてから準備室、第1のエアーロック前室、細胞調製室及びエアーロック後室の順に各室を移動し、滅菌処理室を経て更衣室で無塵衣を脱いで外へ出るという制限された人動線を移動するように構成されている。滅菌処理室では、全ての廃棄物や搬出物を外部に搬出する以前に高圧蒸気滅菌器により滅菌する。このように、作業者及び原材料や細胞調製に必要な器具類の人動線を一方向に制限することで、前回、細胞調製することにより生じたウイルスなどから、未作業者や未使用器具等を保護している。
【特許文献1】特開2003−47457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、細胞調製室の清浄度をより高めるためには、当該調製室の室内圧力を例えば+50Pa程度に調整し、外部からの空気の流入を抑制することができる構成とすることが好ましい。しかしながら、上述した如き細胞培養施設は、パネル工法により構築されているため、パネル接合部(目地)の部分や、コンセントボックスや、天井裏等から細胞調製室内の空気の流出が発生する。そのため、当該調製室の密閉性を担保することができないこととなり、調整室内で作業が行われている細胞が自らもつウイルスや菌などが外部へ流出する不都合が生じる。外部に流出したウイルスなどは、未作業者や未使用器具等を汚染するだけでなく、施設外部にまで流出する可能性があり、施設の周囲環境にまで悪影響を及ぼす問題がある。
【0009】
また、従来、細胞調製室内の空気の清浄度を高めるために、給気系等にHEPAフィルタを設け、流入する空気の清浄処理を行っていた。また、これに加えて、細胞調製室内の空気を殺菌処理するため、紫外線照射装置が用いられていた。紫外線照射装置から照射される紫外線は、人体に照射されると悪影響を及ぼすため、当該紫外線照射装置は、細胞調製室内の例えば中央などに設置され、作業が行われていない状態で、調整室内に紫外線を照射し、調整室内の殺菌処理を行っていた。
【0010】
しかしながら、調整室内の空気の殺菌処理が非作業時に限定されてしまうという問題があった。また、調整室内には、細胞調製に必須とされるCO2インキュベータ、遠心分離機などの機器が設置されている。これら機器は、通常、表面が樹脂により構成されていることから、紫外線が照射されることで、当該樹脂表面が変質し、発塵することで、調整室内の清浄度が低下する問題があった。
【0011】
他方、細胞培養施設において作業間隔が大きく開く場合であっても、作業が行われている期間以外は、空運転が実行されていた。しかしながら、作業時と同様の運転条件では、湿度が高いことから、チャタテ虫や真菌などが繁殖する問題があった。そのため、調整室内に繁殖したチャタテ虫や真菌などを死滅させるため、細胞調整前に、調整室内を殺虫剤などで消毒する必要があった。
【0012】
そのため、虫等を死滅処理するためだけに、調整室内の清浄環境を再構築しなければならない問題があった。これにより、細胞調製を行う以前の作業が煩雑となると共に、当該再構築に要するコストが高騰する問題があった。
【0013】
そこで本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、細胞調製室内の清浄度を高く維持することができる細胞培養施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えてなるものであって、調製室のエアーロック前室と、調製室のエアーロック後室とを備え、調製室を大気圧とすると共に、エアーロック前室を調製室より高い室圧とし、エアーロック後室を調製室より低い室圧とすることを特徴とする。
【0015】
また、請求項2の発明の細胞培養施設は、上記発明において、調整室内、エアーロック前室内、及び、エアーロック後室内の空気をそれぞれ排出する排気経路と、各排気経路に設けられた排気ダンパーを備え、各室へ導入される外気の量を一定とし、各排気経路の排気ダンパーをそれぞれ調整することにより、各室内の室圧を制御することを特徴とする。
【0016】
また、請求項3の発明の細胞培養施設は、上記各発明において、外気を室内に導入する以前に処理する前処理手段を備え、該前処理手段にて処理された後の空気を調整室、エアーロック前室、及び、エアーロック後室に分配供給することを特徴とする。
【0017】
また、請求項4の発明の細胞培養施設は、上記各発明において、少なくとも調製室には、当該調整室内の空気を送風機により循環しながらHEPAフィルタにより清浄化する空気循環経路を備え、該空気循環経路は、調整室内の空気を吸い込んでHEPAフィルタに送るリターン経路と、HEPAフィルタを経た空気を調整室内に戻す給気経路から成り、リターン経路内には、当該リターン経路内を通過する空気に紫外線を照射する紫外線照射装置が設けられていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項5の発明の細胞培養施設は、上記発明において、HEPAフィルタの空気上流側であって、且つ、送風機の吸込側にプレフィルタを設けたことを特徴とする。
【0019】
また、請求項6の発明の細胞培養施設は、上記各発明において、発塵の可能性のある機器を調製室内を流通する空気の下流側に設置したことを特徴とする。
【0020】
また、請求項7の発明の細胞培養施設は、上記請求項4又は請求項5の発明において、発塵の可能性のある機器を調製室のリターン経路内に配置したことを特徴とする。
【0021】
また、請求項8の発明の細胞培養施設は、上記発明において、リターン経路には、紫外線照射装置から機器に直接紫外線が照射されることを阻止する遮蔽手段が設けられることを特徴とする。
【0022】
また、請求項9の発明の細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための調製室と、該調製室内に清浄空気を供給するための給気経路と、調製室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成るものであって、調製室と隣接して排気経路を構成する排気処理室を形成すると共に、発塵の可能性のある機器のメンテナンス面を排気処理室に臨んで設置したことを特徴とする。
【0023】
また、請求項10の発明の細胞培養施設は、上記発明において、機器の吸気口を調整室内に面して配置すると共に、機器の排気口を排気処理室に面して配置したことを特徴とする。
【0024】
また、請求項11の発明の細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えて成るものであって、非細胞調整時は、少なくとも調製室内を高温低湿度の環境に維持することを特徴とする。
【0025】
また、請求項12の発明の細胞培養施設は、上記発明において、少なくとも調整室内の空気を循環させる空気循環経路を備え、該空気循環経路に加熱手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えてなる細胞培養施設において、調製室のエアーロック前室と、調製室のエアーロック後室とを備え、調製室を大気圧とすると共に、エアーロック前室を調製室より高い室圧とし、エアーロック後室を調製室より低い室圧とするので、例えば、パネル工法により当該施設を構成した場合であっても、調整室内の環境を封じ込めるために低圧とした場合に、パネル接合部から外気が侵入し、当該調整室内の清浄空気が著しく汚染される不都合を防止することができる。そのため、調製室の清浄度を高く維持することが可能となり、より細胞の調整に適した環境を構築することが可能となる。
【0027】
また、調製室のエアーロック前室を調製室よりも高い室圧とし、エアーロック後室を調製室よりも低い室圧とすることで、これら室間における空気の流れを、エアーロック前室、調製室、エアーロック後室とすることができる。
【0028】
そのため、作業前のエアーロック室に調整室内の空気が流入し、作業前の作業者や未使用の作業衣に、それ以前に調整室内にて行われた作業によって調整室内に浮遊する菌が付着する不都合を抑制することができるようになる。また、調整室内の空気は、エアーロック後室に流入することから、外部の空気が調整室内に流入し、清浄度が低下する不都合を回避することができるようになる。
【0029】
また、請求項2の発明によれば、上記発明において、調整室内、エアーロック前室内、及び、エアーロック後室内の空気をそれぞれ排出する排気経路と、各排気経路に設けられた排気ダンパーを備え、各室へ導入される外気の量を一定とし、各排気経路の排気ダンパーをそれぞれ調整することにより、各室内の室圧を制御するので、各室の室圧調整を容易に行うことができるようになり、上記発明を容易に実現することができるようになる。
【0030】
また、請求項3の発明によれば、上記各発明において、外気を室内に導入する以前に処理する前処理手段を備え、該前処理手段にて処理された後の空気を調整室、エアーロック前室、及び、エアーロック後室に分配供給するので、一旦、前処理手段にて処理された後各室に供給することができる。
【0031】
そのため、各室の空気を清浄化する処理手段に加わる負荷を軽減し、当該処理手段の長寿命化を図ることができるようになる。これにより、各室におけるメンテナンス作業の回数を減少させることができ、当該メンテナンス作業に伴う室内の環境ブレイクの回数を減少させることができる。これによって、環境ブレイク後に再度所定の清浄環境を構築する煩雑な作業の回数を減少させることができると共に、当該環境構築に要するコストを低減させることができる。
【0032】
また、請求項4の発明によれば、上記各発明において、少なくとも調製室には、当該調整室内の空気を送風機により循環しながらHEPAフィルタにより清浄化する空気循環経路を備え、該空気循環経路は、調整室内の空気を吸い込んでHEPAフィルタに送るリターン経路と、HEPAフィルタを経た空気を調整室内に戻す給気経路から成り、リターン経路内には、当該リターン経路内を通過する空気に紫外線を照射する紫外線照射装置が設けられているので、リターン経路内の空気を紫外線による殺菌処理を行うことで、調整室内に作業者がいる場合であっても紫外線による殺菌処理を継続して行うことができる。
【0033】
また、紫外線照射装置がリターン経路内に設けられることで、調整室内に設置される機器等の樹脂製の表面が紫外線により変質する不都合を回避することができる。そのため、変質した樹脂により発塵する不都合を回避することができ、より一層効果的に清浄レベルの維持を図ることができるようになる。
【0034】
また、請求項5の発明によれば、上記発明において、HEPAフィルタの空気上流側であって、且つ、送風機の吸込側にプレフィルタを設けたので、プレフィルタの空気下流側を負圧とすることができ、当該プレフィルタの交換時に、フィルタや内部の送風機等に付着した塵や埃が室内側に飛散する不都合を回避することができる。
【0035】
そのため、細胞調整時であっても、プレフィルタの交換作業を行うことが可能となり、当該プレフィルタの交換のためだけに当該細胞培養施設を非稼働時とする不都合を回避することができるようになる。
【0036】
また、請求項6の発明によれば、上記各発明において、発塵の可能性のある機器を調製室内を流通する空気の下流側に設置したので、当該機器から生じた塵や埃などが調整室内に飛散し、清浄レベルが低下する不都合を回避することができるようになる。
【0037】
また、請求項7の発明によれば、上記請求項4又は請求項5の発明において、発塵の可能性のある機器を調製室のリターン経路内に配置したので、当該機器から発生した塵や埃などを調整室内に持ち込むことなく、直接リターン経路からHEPAフィルタにより処理することが可能となる。そのため、発塵の可能性のある機器から発生した塵や埃などにより調整室内の清浄空気が汚染される不都合を抑制することができるようになる。
【0038】
また、請求項8の発明によれば、上記発明において、リターン経路には、紫外線照射装置から機器に直接紫外線が照射されることを阻止する遮蔽手段が設けられるので、リターン経路内において、紫外線が直接、機器に照射され、表面樹脂が変質する不都合を回避することができる。そのため、変質した樹脂により発塵する不都合を回避することができる。
【0039】
また、請求項9の発明によれば、細胞調製に関わる作業を行うための調製室と、該調製室内に清浄空気を供給するための給気経路と、調製室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成る細胞培養施設において、調製室と隣接して排気経路を構成する排気処理室を形成すると共に、発塵の可能性のある機器のメンテナンス面を排気処理室に臨んで設置したので、当該機器のメンテナンス作業を調整室内に入ることなく排気処理室から行うことができるようになる。これにより、メンテナンス作業に伴う清浄環境を構築する作業を簡素化することができるようになる。
【0040】
また、請求項10の発明によれば、上記発明において、機器の吸気口を調整室内に面して配置すると共に、機器の排気口を排気処理室に面して配置したので、当該機器の構成に不可欠な吸気口及び排気口を利用して、調整室内の空気循環を行うことができるようになる。
【0041】
これにより、当該機器内に空気が滞留することで塵や埃が堆積する不都合を回避することができ、調整室内の清浄レベルを維持することができるようになる。
【0042】
また、請求項11の発明によれば、細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えて成る細胞培養施設において、非細胞調整時は、少なくとも調製室内を高温低湿度の環境に維持するので、非細胞調整時において、例えばチャタテ虫や真菌などが増殖する不都合を抑制することができるようになる。
【0043】
また、請求項12の発明によれば、上記発明において、少なくとも調整室内の空気を循環させる空気循環経路を備え、該空気循環経路に加熱手段を設けたので、非細胞調整時において、好適に高温環境を形成することができるようになる。これにより、容易に上記発明を実現することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
次に、図面に基づき本発明の実施の形態を詳述する。図1は本発明の一実施例を示す細胞培養施設1の平面図を示している。本実施例の細胞培養施設1は、遺伝子治療・再生治療で使用することのできる細胞を培養する施設であり、細胞調製に関わる作業を行うための複数の作業室が設けられている。
【0045】
作業室は、サプライ室4、エアーロック前室(二次ガウニング室)5、細胞調製室6、及び、エアーロック後室(デガウニング室)7などにより構成されている。これらの各作業室は、細胞調整に欠かせない部屋であり、その他に、エントランス2、更衣室(一次ガウニング室)3や、細胞を保存すると共に、品質管理やデータ管理を行う保存・管理室8などの作業室を備えている。尚、保存・管理室8は、細胞の保存の他にも、施設1全体を監視し、制御するための制御室を兼ねている。尚、本実施例において、細胞培養施設1は、パネル工法により構築されるものであり、独立した一つの建家内に納められている場合に限らず、集合建家の一画に設けられても良いものとする。
【0046】
次に、各室の説明を行う。エントランス2は、外部から持ち込んだ物品の受入、外観検査及び表面に付着した塵や埃などを払拭するための部屋である。尚、図中12は、清拭台であり、外部から持ち込んだ物品を一旦、当該清拭台12において表面に付いた塵や埃などを払拭するために用いるものである。更衣室3は、当該細胞培養施設1内専用の作業着に着替えるための部屋であり、内部には、更衣ロッカー13や、専用のキャップ、手袋、オーバーシューズなどを収納する棚14が配設されている。
【0047】
サプライ室4は、細胞調製に必要な試薬等の材料の保存や例えば培養ボトル等の器具類の保管などが行われる部屋であり、薬用保冷庫17、−30℃フリーザー18、消耗品保管移動棚19等が設置されている。このサプライ室4に保管される消耗品は、上述したGMPの基準値を満たすものである。
【0048】
エアーロック前室5は、当該前室5に隣接して設けられる細胞調製室6内の空気(この場合、危険性を含む物質や汚染物が浮遊している可能性のある空気)が、サプライ室4に漏出してしまうのを防止するための作業室であり、更衣室を兼ねている。即ち、前述した如き更衣室3において施設内専用の作業着とは別に、滅菌保証済みの無塵衣の着衣を行うための部屋である。このエアーロック前室5には、当該無塵衣を保管するための無塵衣棚20が設置されている。
【0049】
細胞調製室6は、遺伝子を利用した病気治療の研究や、新薬の研究開発、或いは、再生治療で使用することのできる細胞の培養調整を行う部屋である。再生治療で使用することのできる細胞としては胚性幹細胞や神経幹細胞、成体幹細胞などが挙げられるが、本実施例における細胞調製室6では、再生治療で使用される細胞の一つとして例えば角膜細胞の生産等が行われる。また、この作業室ではウイルスの病原性の削除、治療用遺伝子の取り出し、ウイルスの遺伝子との組み込み、或いは、培地の調製・交換などの処理が行われる。
【0050】
細胞調製室6内には、危険なウイルスを安全に取り扱うため、且つ、幹細胞をより清浄度の高い環境で扱うため、格別な空調装置が設けられた安全キャビネット22が設けられている。この安全キャビネット22は、例えば筺体の前面開口に上下移動自在の開閉扉が設けられ、内部に形成された作業空間内に作業台が設けられている。
【0051】
安全キャビネット22の作業空間内は、空調装置によって細胞調製室6内よりも陰圧に制御されており、安全キャビネット22内で取り扱う危険なウイルスが外部(細胞調製室6内)に漏れ出ないように考慮されている。尚、安全キャビネット22内の空気の排気系には、微生物を捕捉する作用を有するフィルタが取り付けられている。フィルタの種類としては、ミクロ単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタ(high−efficiency particulate air)が適している。尚、安全キャビネット22内がウイルスに対して安全に構成されている技術については、従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0052】
細胞調製室6内は、安全キャビネット22の中に原材料や器具類を置き、ゴム手袋などを介して細胞調製室6側から手を入れ、細胞調製作業を行えるように構成されている。従って、作業中に、細胞内に潜む病原性ウイルスが、細胞調製室6に漏出してしまう危険性は低い。しかし、作業前後には細胞調製室6の中で、ウイルスのハンドリングなどが行われるので、細胞調製室6は最も危険性が高い場所である。この危険性を回避するための対策、すなわち安全性を確保するための対策については、後で説明する。
【0053】
また、細胞調製室6内には、細胞の調整に必須とされる機器、例えば、顕微鏡24、CO2インキュベータ25、保冷庫26、遠心分離機27が設置されている。CO2インキュベータは、庫内温度及びCO2濃度を制御することが可能な装置であり、例えば+37℃、CO2濃度5%等に設定されている。尚、当該のCO2インキュベータにおける温度及びCO2濃度データは、通信回線を介して検体管理システム33に送信され、自動的に記録されるものとする。尚、保冷庫26や遠心分離機27等運転することで発塵する可能性が高い機器に関しては、詳細は後述する如く細胞調製室6内に形成された機器室(排気処理室。リターン経路の一部を構成する)30に配置されるものとする。
【0054】
エアーロック後室7は、汚染の可能性がある無塵衣の脱衣を行うための部屋である。また、汚染の可能性のある無塵衣をエアーロック後室7から外に持ち出すと外部に汚染物質を拡散する危険性があるため、この部屋には、無塵衣を湿式高温滅菌するための滅菌器(オートクレーブ)28が設けられている。これにより、エアーロック後室7で着脱された無塵衣や使用済みの容器等はこの滅菌器28で滅菌処理される。尚、滅菌処理は、さらに滅菌処理の確実性を高めるための処理であり、+1.2気圧、+121℃程度の条件で処理するのが好ましい。
【0055】
尚、エアーロック後室7の滅菌器28で滅菌処理された無塵衣は、所定時間以上(約1時間〜2時間)経過後、取り出されてエアーロック前室5に設けられた無塵衣棚20内に運ばれ再度使用される。これにより、一度脱いだ無塵衣をエアーロック後室7から外に持ち出して再度着てしまうなどの危険性を防止している。また、脱いだ無塵衣を滅菌器28で滅菌することにより再度使用することができるので、無塵衣の無駄使いが無くなり、省コスト化を図ることができる。
【0056】
また、保存・管理室8は、製品である細胞を一時保管すると共に、調整細胞の品質調査及び製造工程における品質管理を行うための部屋である。そのため、室内には、細胞保存を行うための液体窒素保存容器29、29及びプログラム機能を備えたフリーザー31等が設置されている。また、室内には、細胞培養施設1全体の装置や各作業室内の空気圧を監視し、正常な状態を維持する制御を行う検体管理システム33が設置されている。
【0057】
本実施例における細胞培養施設1では、前提条件として、取り扱う細胞に潜在しているウイルス等の危険物質が他の細胞等に付着又は感染することを阻止しなければならない。そのため、施設1内における作業者の人動線や取り扱われる物の動線が交差することで、作業(培養)前の人(物)と作業(培養)後の人との接触による交差汚染が生じることを禁止する必要がある。また、取り扱う細胞の調整は、清浄度の高い環境で行うと共に、当該細胞調製が行われる部屋の環境の物理的封じ込めの必要がある。
【0058】
そこで、本実施例における細胞培養施設1では、各作業室との関係を以下の構成とすることにより、一方向に規制された人動線及び物動線を確保し、細胞調製室6やエアーロック前室5及びエアーロック後室7等の所謂バイオハザードルームの物理的封じ込め更には、エアーロック前室5及び細胞調製室6の高い清浄度の維持を実現する。
【0059】
エントランス2には、サプライ室4が隣接している壁面に物品受渡口11が設けられる。当該物品受渡口11は、内部に図示しない載置台を備え、エントランス2側及びサプライ室4側の両側にそれぞれ開閉扉が設けられている。それぞれの扉は、電子錠により施解錠制御が行われており、一方の扉を開放している際には、他方の扉の開放を禁止する構成とされている。これにより、エントランス2側の空気が当該物品受渡口11を介して直接サプライ室4側に流入する不都合を回避することができる。また、この物品受渡口11は、エントランス2側からサプライ室4側方向への物品の移動のみを許容することとする。即ち、エントランス2側の開閉扉が開閉操作した後でなければ、サプライ室4側の開閉扉が開放されないものとする。尚、物品受渡口11における各扉の開閉制御は、前記検体管理システム33により、制御されると共に、当該開閉時刻や係る物品については、バーコードなどの識別手段を用いて管理されるものとする。
【0060】
エントランス2の更衣室3と隣接する側の壁面には、双方向から開放可能とされると共に、インターロック付きの電子錠を備えた扉10が設けられている。尚、当該扉10の開閉制御についても、前記検体管理システム33により制御されると共に、扉10の開閉による進入者、退出者及び開閉時刻についても、各作業者に割り当てられたバーコードなどの識別手段を用いて管理されるものとする。
【0061】
更衣室3には、更に、サプライ室4と隣接する側の壁面に、扉15が設けられていると共に、保存・管理室8と隣接する側の壁面には、扉16が設けられている。これら扉15、16は、双方向から開放可能とされる。そのため、この更衣室3からはエントランス2、サプライ室4及び保存・管理室8に出入りできる構成とされている。尚、エントランス2への扉10、サプライ室4への扉15及び保存・管理室8への扉16はそれぞれインターロック付きの電子錠にて構成されており、何れか一つの扉が開放されると同時に他の扉の開放を禁止するように制御されるものとする。尚、当該扉15、16についても上記扉10と同様に進入者、退出者及び開閉時刻などが前記検体管理システム33により管理されるものとする。
【0062】
サプライ室4には、細胞調製室6と隣接する側の壁面に物品受渡口35が設けられる。当該物品受渡口35は、前記物品受渡口11と同様に内部に図示しない載置台を備え、サプライ室4側及び細胞調製室6側の両側にそれぞれ開閉扉が設けられている。それぞれの扉は、電子錠により施解錠制御が行われており、一方の扉を開放している際には、他方の扉の開放を禁止する構成とされている。これにより、サプライ室4及び細胞調製室6の空気の流通が物品受渡口35を介して行われる不都合を回避することができる。また、この物品受渡口35は、サプライ室4側から細胞調製室6側方向への物品の移動のみを許容することとする。即ち、サプライ室4側の開閉扉が開閉操作された後でなければ、細胞調製室6側の開閉扉が開放されないものとする。尚、物品受渡口35における各扉の開閉制御についても、前記検体管理システム33により管理されるものとする。また、当該物品受渡口35は、細胞調製室6側への突出箇所を最小限とするため、サプライ室4側に突出して形成されているものとする。
【0063】
また、サプライ室4には、更に、エアーロック前室5と隣接する側の壁面に、扉36が設けられている。この扉36はインターロック付きの電子錠にて構成されており、作業者の動線をサプライ室4からエアーロック前室5方向のみと規制するため、サプライ室4側からのみ開放可能とする。また、前記扉15と共に、どちらか一方の扉が開放されると、同時に他方の扉の開放を禁止するように制御されている。更に、エアーロック前室5には、細胞調製室6と隣接する側の壁面に、扉37が設けられている。当該扉37もインターロック付きの電子錠にて構成されており、作業者の動線をエアーロック前室5から細胞調製室6方向のみと規制するため、エアーロック前室5からのみ開放可能とする。また、扉36と共に、どちらか一方の扉が開放されると、同時に他方の扉の開放を禁止するように制御されている。尚、当該扉36及び37についても上記扉10と同様に進入者、退出者及び開閉時刻などが前記検体管理システム33により管理されるものとする。
【0064】
細胞調製室6には、エアーロック後室7と隣接する側の壁面に、扉38が設けられており、この扉38はインターロック付きの電子錠にて構成されており、作業者の動線を細胞調製室6からエアーロック後室7方向のみと規制するため、細胞調製室6側からのみ開放可能とする。また、扉37と共に、どちらか一方の扉が開放されると、同時に他方の扉の開放を禁止するように制御されている。
【0065】
更に、エアーロック後室7には、保存・管理室8と隣接する側の壁面に、扉39が設けられており、この扉39はインターロック付きの電子錠にて構成されており、作業者の動線をエアーロック後室7から保存・管理室8方向のみと規制するため、エアーロック後室7からのみ開放可能とする。また、扉38と共に、どちらか一方の扉が開放されると、同時に他方の扉の開放を禁止するように制御されている。また、当該扉39は、前記扉16と共に、どちらか一方の扉が開放されると、同時に他方の扉の開放を禁止するように制御されている。
【0066】
更に、保存・管理室8の細胞調製室6と隣接する側の壁面には、上述した如き物品受渡口35と同様の物品受渡口40が設けられている。尚、この物品受渡口40は、細胞調製室6側から保存・管理室8側方向への物品の移動のみを許容するものとする。即ち、物品受渡口40は、細胞調製室6側の開閉扉が開閉操作した後でなければ、保存・管理室8側の開閉扉を開閉することができない。また、保存・管理室8の施設1外部と隣接する側の壁面には、同様に物品受渡口41が設けられている。尚、この物品受渡口41は、保存・管理室8側から外部方向への物品の移動のみを許容するものとする。即ち、物品受渡口41は、保存・管理室8側の開閉扉が開閉操作した後でなければ、外部側の開閉扉を開閉することができない。
【0067】
上記構成により、サプライ室4からエアーロック前室5に入室した作業者は、図2に実線で示すようにエアーロック前室5側から扉36を開放することができないため、扉37を開放して細胞調製室6に移動することとなる。また、細胞調製室6に入室した作業者は、同様に細胞調製室6側から扉37を開放することができないため、扉38を開放してエアーロック後室7に移動することとなる。更に、エアーロック後室7に入室した作業者は、同様にエアーロック後室7側から扉38を開放することができないため、扉39を開放して保存・管理室8に移動することとなる。
【0068】
これにより、バイオハザードルーム間の移動は、エアーロック前室5、細胞調製室6、エアーロック後室7を順次経る経路のみが許容されることから、細胞調製室6における細胞培養前の作業者と細胞培養後の作業者が接触するころにより生じる交差汚染を抑制することができるようになる。そのため、細胞調製室6において細胞調製により汚染された可能性のある作業者が無塵衣が保管されるエアーロック前室5へ入室することを禁止することができることから、無塵衣の清浄状態を維持することができるようになる。
【0069】
他方、物品受渡口11を介してエントランス2からサプライ室4に持ち込まれた物品は、図2に点線で示すように物品受渡口35を介してサプライ室4から細胞調製室6に持ち込まれた後は、再び細胞調製室6からサプライ室4に移動させることができない。また、物品受渡口40を介して細胞調製室6から保存・管理室8に持ち込まれた後は、再び保存・管理室8から細胞調製室6に移動させることができない。更に、物品受渡口41を介して保存・管理室8から外部に持ち出された物品は、再び外部から保存・管理室8に移動させることができない。
【0070】
そのため、物品の動線は、エントランス2からサプライ室4、サプライ室4から細胞調製室6、細胞調製室6から保存・管理室8、保存・管理室8から外部と移動する経路のみが許容されることとなる。これにより、細胞調製室6における細胞培養前の物品と細胞培養後の物品が接触することにより生じる交差汚染を抑制することができるようになる。
【0071】
他方、各作業室は、それぞれ個別の空気調和機により環境構築が行われている。本実施例では、施設1外部から取り入れた空気は、図3のブロック図に示すように、先ず、電磁開閉弁50を介して一旦外気処理装置51に取り込まれる。当該外気処理装置51は、直接外部から取り入れた空気をフィルタ、本実施例では図4に示すようにプレフィルタ52、中性能フィルタ53、ミクロ単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタ54により塵や埃などを除去した後、当該空気を図示しない空気調和機により適切な温度、例えば、+20℃〜+25℃に調整するものである。
【0072】
そして、この外気処理装置51にて、一度清浄化処理され、所定の温度に調整された空気は、それぞれの作業室、本実施例では、エントランス2、更衣室3、サプライ室4、エアーロック前室5、細胞調製室6、エアーロック後室7、保存・管理室8に分配される。各作業室へはそれぞれ電磁開閉弁2A、3A、4A、5A、6A、7A及び8Aが介設された配管(給気経路)2B、3B、4B、5B、6B、7B及び8Bを介して各作業室を個別に空気調整する各空気調和機2C、3C、4C、5C、6C、7C及び8Cに接続される。
【0073】
ここで、図4のエアーロック前室5又はエアーロック後室7の概略構成図及び図5の細胞調製室6の概略構成図を参照して、各作業室の概略構成について説明する。
【0074】
細胞培養施設1は、危険性のある細胞を取り扱うことがあるため、それぞれ各室の汚染空気を他の作業室に流出させないようにする必要がある。この場合、上述した如き人動線を通る作業室の前後に差圧空間を設けることにより、汚染空気を他の作業室に流出させない構成としている。即ち、前記エアーロック前室5は、その前後の作業室(サプライ室4及び細胞調製室6)に対するバリアとしての役割を持っており、細胞調製室6内の危険性のある物質や汚染物が浮遊している可能性のある空気が、サプライ室4に漏出してしまう不都合を防止する。また、エアーロック前室5及びエアーロック後室7などのエアーロック室は、当該エアーロック室を挟んで前後に配置されている作業室間の空気の流れを遮断すると共に、前後の作業室に対してバッファー空間の役割を果たす。
【0075】
また、本実施例におけるエアーロック前室5及びエアーロック後室7は、それぞれバッファー空間としての役割を果たす以外にも、無塵衣の着脱衣を行う更衣室としての役割を果たしている。そのため、これらエアーロック室5及び7は、細胞調製室6等の作業室に比して空間容積が小さく構成されている。
【0076】
そこで、本実施例では、図4に示すように、前記外気処理装置51から供給された空気は配管5B又は7Bを介して各エアーロック室5又は7に分配される。配管5B又は7Bには、それぞれ所定時間当たりの風量を一定とする定風量装置5D又は7D、前記空気調和機5C、7C、送風機を備えたHEPAフィルタ55、給気口56が順次配設されている。そのため、各エアーロック室5、7に供給される外気は、外気処理装置51にて一旦清浄化処理された後、定風量装置5D又は7Dにて風量調整が行われ、更に、空気調和機5C又は7Cにて、所定温度、例えば+22℃などに調整された後、ミクロ単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタにより更に処理され、給気口56を介して室内に供給される。尚、給気口56は、エアーロック室5又は7の天井面に設けられているものとする。そのため、エアーロック室5又は7には、一定風速の清浄な空気が天井面から供給されることとなる。
【0077】
他方、エアーロック室5又は7の天井面には、図4に示す如くミクロ単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタ57を備えた排気口58が形成される。また、この排気口58には、HEPAフィルタ57の空気上流側に位置してプレフィルタ57Aが設けられている。そして、この排気口58は、更に排気ダンパー60、送風機61が順次配設されるダクト配管(排気経路)62を介して施設1外部に開放される。
【0078】
排気ダンパー60は、モーターボリュームダンパーにより構成されており、エアーロック室5又は7の室内に設けられた室圧センサ63の出力に基づき、当該エアーロック室5又は7の室圧が所定の室圧となるように開閉制御が行われる。また、送風機61も当該ダンパー制御に連動して運転制御が行われる。これにより、エアーロック室5又は7は、給気が一定風速で行われるのに対し、排気が室圧センサ63の出力に基づき排気ダンパー60及び送風機61が制御されることで、所定の室圧に調整される。尚、各エアーロック室5又は7の室圧設定及び温度設定については、上述した如き検体管理システム33にて行われるものとする。
【0079】
本発明では、エアーロック前室5を細胞調製室6よりも高い室圧とし、エアーロック後室7を細胞調製室6よりも低い室圧に調整する。本実施例では、詳細は後述する如く細胞調製室6の室圧を0Pa即ち、大気圧とするため、エアーロック前室5の室圧は例えば+35Paとし、エアーロック後室7の室圧は例えば−15Paとする。
【0080】
これにより、前記扉37、38の開閉や物品受渡口35、40の開閉が行われた場合におけるこれら室間における空気の流れを、エアーロック前室5から細胞調製室6、細胞調製室6からエアーロック後室7とすることができる。そのため、作業前のエアーロック前室5に細胞調製室6内の空気が流入し、作業前の作業者や未使用の無塵衣に、それ以前に細胞調製室6内にて行われた作業によって細胞調製室6内に浮遊する菌が付着する不都合を抑制することができるようになる。また、細胞調整室6内の空気は、エアーロック後室7に流入することから、外部の空気が細胞調製室6内に流入し、清浄度が低下する不都合を回避することができるようになる。
【0081】
また、本実施例では、各エアーロック室5又は7へ導入される外気の量を一定とし、各排気ダクト62の排気ダンパー60をそれぞれ調整することにより、各エアーロック室5又は7内の室圧を制御するので、室圧調整を容易に行うことができるようになる。
【0082】
尚、エアーロック室5及び7は、細胞調製室6等の作業室に比して空間容積が小さく構成されているため、それぞれ給気口56から導入された外気は、すべて排気ダクト62を介して外部に排出する構成とすることができる。そのため、適切な室内温度を確保しながら、常に、清浄な空気を室内に満たすことが可能となる。
【0083】
他方、本実施例では、図5に示すように、前記外気処理装置51から供給された空気は配管6Bを介して細胞調製室6にも分配される。配管6Bには、所定時間当たりの風量を一定とする定風量装置6D、前記空気調和機6C、送風機を備えたHEPAフィルタ65、給気口66が順次配設されている。そのため、細胞調製室6に供給される外気は、外気処理装置51にて一旦清浄化処理された後、定風量装置6Dにて風量調整が行われ、更に、空気調和機6Cにて、所定温度、例えば+22℃などに調整された後、ミクロ単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタにより更に処理され、給気口66を介して室内に吐出される。尚、給気口66は、細胞調製室6の天井面に設けられているものとする。そのため、細胞調製室6には、一定風速の清浄な空気が天井面から供給されることとなる。
【0084】
他方、細胞調製室6内には、室内の流通空気下流側に位置して、前記機器室30が形成される。当該機器室30は、図5に示すように天井面から所定寸法だけ降下した位置にまで上部仕切パネル67が設けられると共に、床面から所定寸法だけ上昇した位置にまで下部仕切パネル68が設けられることで、区画形成される。尚、当該上部仕切パネル67及び下部仕切パネル68との間に形成される隙間寸法は、細胞調製室6内の空気を当該機器室30内に取り込むことができると共に、機器室30内に配置される機器の操作性に影響を与えない寸法であるものとする。
【0085】
また、この機器室30の天井面には、図示しない排気口が形成されており、当該排気口には、前記定風量装置6Dと空気調和機6Cとの間に位置する前記配管6Bに接続される循環用配管69が接続されている。尚、前記リターン経路は、機器室30及び循環用配管69により構成され、当該リターン経路と前記配管6Bにより空気循環経路が構成されるものとする。
【0086】
これにより、細胞調製室6の天井面から供給される空気の一部は、室内を循環した後、機器室30内に進入し、当該天井面に形成された排気口より配管69を介して再び空気調和機6Cに帰還する。細胞調製室6に供給された空気の一部を再度循環させて、温度調整及びフィルタによる清浄化を行うことができ、効率的に細胞調製室6内の温度調整を行うことができると共に、浄化された空気を循環させることができるようになる。
【0087】
また、細胞培養には欠かせない機器であって、圧縮機やモータなどを搭載しているため発塵の可能性の高い機器である保冷庫26や遠心分離機27をリターン経路を構成する機器室30内に配置することにより、これら機器から発生した塵や埃などを細胞調整室6内に持ち込むことなく、リターン経路を介してHEPAフィルタ65により処理することが可能となる。そのため、発塵の可能性のある機器から発生した塵や埃などにより細胞調整室6内の清浄空気が汚染される不都合を抑制することができる。
【0088】
更にまた、この機器室30の上部には、紫外線照射装置64が設置されている。この紫外線照射装置64は、機器室30上部の空気を紫外線を照射することで殺菌処理する装置である。ただし、この機器室30下部に設置される保冷庫26や遠心分離機27等の機器に当該紫外線が照射されると、機器を構成する樹脂等の変質を招くため、当該紫外線照射装置64は、これら機器に直接紫外線が照射されることを阻止する遮蔽板(遮蔽手段)64Aを備えているものとする。尚、当該遮蔽板64Aは、機器室30内から紫外線照射装置64の例えば交換等のメンテナンス作業が行えるように構成されているものとする。即ち、本実施例では、図5に示すように、上部仕切パネル67と遮蔽板64Aとで、細胞調製室6とは反対側の面が開放される断面略L字状を構成している。そのため、遮蔽板64Aの端部と機器室30の側壁との間に形成された隙間から手を挿入し、紫外線照射装置69のメンテナンス作業を行うことができる。
【0089】
これにより、機器室30内を通過する空気に紫外線を照射することで、当該機器室30内の空気を殺菌処理することができる。そのため、細胞調製室6内に作業者がいる場合であっても紫外線による殺菌処理を継続して行うことができる。また、紫外線照射装置64が機器室30内に設けられることで、細胞調製室6内に設置されるCO2インキュベータ25等の機器の樹脂製の表面が紫外線により変質する不都合を回避することができる。そのため、変質した樹脂により発塵する不都合を回避することができ、より一層効果的に清浄度の維持を図ることができるようになる。
【0090】
更にまた、この紫外線照射装置64には、遮蔽板64Aが設けられているため、機器室30内において、紫外線が直接、保冷庫26や遠心分離機27等の機器に照射され、表面樹脂が変質する不都合を回避することができる。そのため、変質した樹脂により発塵する不都合を回避することができる。
【0091】
尚、本実施例の如く、発塵の可能性の高い機器を配置する機器室30が設けられていない細胞調製室6とする場合には、図6に示す如く天井面に形成される給気口80と離間した位置に排気口81を形成する。そして、これら給気口80と排気口81により構成される空気流通経路において、発塵の可能性の高い機器から順に、空気の下流側に配置するものとする。即ち、発塵の可能性の低い機器、例えばCO2インキュベータ25を空気の上流側に設置し、発塵の可能性の高い機器、例えば保冷庫26、遠心分離機27を空気の下流側に配置するものとする。
【0092】
これにより、発塵の可能性の高い機器から生じた塵や埃などが細胞調製室6内に飛散し、清浄度が低下する不都合を回避することができるようになる。
【0093】
また、細胞調製室6内には、作業の邪魔とならない箇所に物品収納庫70が設けられており、この物品収納庫70内にダクトを形成している。物品収納庫70は、物品を納出可能な角筒形を呈している。本実施例では、物品収納庫70内には細胞調製室6内で使用する滅菌清掃用掃除用具(モップなど)が収納できるように構成されている。当該掃除用具は、清浄度及び物理的封じ込めの観点から、原則として、使い捨てタイプのものを使用し、使用後については滅菌処理をした上で廃棄される。尚、物品収納庫70はダクトであるため、物品収納庫70内を塞がないように物品を収納する必要がある。
【0094】
この物品収納庫70には、図5に示すように床面に略接して吸込口71が形成されており、この吸込口71にガラリ板72が設けられている。このガラリ板72は物品収納庫70の下部、或いは、下部近傍(この場合、細胞調製室6の床面、或いは、床面近傍)に設けられると共に、ガラリ板72は細胞調製室6内に面して設けられている。細胞調製室6内はガラリ板72を介して物品収納庫70内に連通している。物品収納庫70の前面には内部に掃除用具などを収納するために開閉可能とする開閉扉73が設けられている。尚、給気口66と吸込口71は同じ室内で、できる限り離間した位置に配置するのが好ましい。これにより、給気口66から吹き出された空気がそのまま吸込口71から吸い込まれる、所謂ショートサーキットが生じてしまうのを防止することができる。
【0095】
物品収納庫70の上部には、ミクロ単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタ75を備えた排気口74が形成される。また、この排気口74には、HEPAフィルタ75の空気上流側に位置してプレフィルタ75Aが設けられている。そして、この排気口74は、更に排気ダンパー76、送風機77が順次配設されるダクト配管(排気経路)78を介して施設1外部に開放される。
【0096】
排気ダンパー76は、モーターボリュームダンパーにより構成されており、細胞調製室6の室内に設けられた室圧センサ79の出力に基づき当該細胞調製室6の室圧が所定の室圧となるように開閉制御が行われる。また、送風機77も当該ダンパー制御に連動して運転制御が行われる。これにより、細胞調製室6は、給気が一定風速で行われるのに対し、排気が室圧センサ79の出力に基づき排気ダンパー76及び送風機77が制御されることで、所定の室圧に調整される。尚、当該細胞調製室6の室圧設定及び温度設定は、前記検体管理システム33にて行われるものとする。
【0097】
本発明では、細胞調製室6の室圧は、0Pa、即ち、大気圧と略同等となるように制御するものとする。これにより、本実施例の如くパネル工法により当該施設1を構成した場合であっても、細胞調整室6内の環境を封じ込めるために低圧とした場合に、パネル接合部から外気が侵入し、当該細胞調製室6内の清浄空気が著しく汚染される不都合を防止することができる。そのため、調製室の清浄度を高く維持することが可能となり、より細胞の調整に適した環境を構築することが可能となる。
【0098】
係る構成により送風機77が運転されると、図5の白抜き矢印で示すように吸気口71から細胞調製室6内の空気の一部が物品収納庫70内(排気ダクト78内)内に吸い込まれる。物品収納庫70内に吸い込まれた空気は、プレフィルタ75A及びHEPAフィルタ75を通過する過程で、塵、埃、更には、ウイルス等がフィルタ75A及び75に捉えられ、浄化されて清浄な空気となり、排気ダクト78の開口から施設1外部に排出される。従って、ウイルスに汚染された空気が排気ダクト78から施設1外部に排出されてしまうなどの危険性を確実に防止することができる。
【0099】
ここで、プレフィルタ75Aは、上述した如くHEPAフィルタ75の空気上流側であって、送風機77の吸込側に位置しているため、送風機77の運転によりプレフィルタ75Aの空気下流側を負圧とすることができる。これにより、プレフィルタ75Aの交換時に、当該フィルタ75Aや内部の送風機77等に付着したチリやホコリが物品収納庫70内、延いては、当該物品収納庫70とガラリ板72の吸込口71を介して連通される細胞調製室6内に飛散する不都合を回避することができる。
【0100】
そのため、細胞調整時であっても、プレフィルタ75Aの交換作業を行うことが可能となり、当該プレフィルタ75Aの交換のためだけに当該細胞培養施設1を非稼働とする不都合を回避することができるようになる。
【0101】
尚、上述した如きエアーロック前室5、エアーロック後室7及び細胞調製室6のみに限らず、他の作業室にもこれら作業室と同様に、空気温度調節手段や室圧調整手段が設けられているものとする。尚、これら作業室に設けられる空気温度調整手段や室圧調整手段については、上記エアーロック室5、7及び細胞調製室6にて説明しているため、説明を省略する。また、本実施例では、物品収納庫70は、細胞調製室6のみに設けられていることとしているが、これ以外にも、各室に設けても良いものとする。ただし、必ずしもすべての室に設けられている必要はない。
【0102】
上述した如く各作業室内には、外気を各室内に導入する以前に外気処理装置51にて前処理した後の空気を分配供給することができることから、各作業室ごとに設けられる空気調和装置やHEPAフィルタにおける負担を軽減することができる。そのため、各室のHEPAフィルタ等の長寿命化を図ることができるようになり、各室におけるメンテナンス作業の回数を減少させることができる。これにより、当該メンテナンス作業に伴う室内の清浄度を著しく低下させる環境ブレイクの回数を減少させることができる。これによって、環境ブレイク後に再度所定の清浄環境を構築する煩雑な作業の回数を減少させることができると共に、当該環境構築に要するコストを低減させることができるようになる。
【0103】
エアーロック前室5と隣接するサプライ室4の室圧は、陽圧であって、且つ、エアーロック前室5の室圧よりも低いものとする。本実施例では+20Paとする。これにより、より清浄度を高く維持する必要があるエアーロック前室5からサプライ室4への空気の流れを形成することができ、無塵衣が保管されるエアーロック前室5の清浄度を高く維持することが可能となる。
【0104】
また、エアーロック後室7と隣接する保存・管理室8の室圧は、陽圧であって、且つ、エアーロック後室7の室圧よりも高いものとする。本実施例では+20Paとする。これにより、細胞調製室6からの空気の流入があるエアーロック後室7から保存・管理室8への空気の流入を抑制することができ、細胞調製室6にて浮遊した危険性のあるウイルスなどを含む空気を細胞調製室6及びエアーロック後室7に物理的に封じ込めることが可能となる。
【0105】
尚、サプライ室4及び保存・管理室8は、上述した如く給気経路に設けられた送風機と排気ダクト内に設けられた送風機が駆動制御されることにより、空調装置は、給気経路から各室内に吹き出す空気の量と、排気経路から施設1外部に排出する空気量を調整して、各室内圧に差圧を設け、それぞれ所定の物理的封じ込めレベルに制御している。
【0106】
また、本実施例では、細胞調製室6を0Pa、エアーロック前室5を+35Pa、エアーロック後室7を−15Pa、サプライ室4、保存・管理室8、更衣室3を20Pa、エントランス2を陽圧としている。係る空調装置によって各室内の圧力を物理的封じ込めレベルに制御する技術については、従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0107】
このように、上述した如くエアーロック前室5を細胞調製室6より陽圧とし、エアーロック後室7を細胞調製室6より陰圧とする。更に保存・管理室8をエアーロック後室7より陽圧とし、サプライ室4をエアーロック前室5より陰圧とする。また、エントランス2を施設1外部より陽圧とし、更衣室3より陰圧とする。
【0108】
これにより、無塵衣が保管されるエアーロック前室5を施設1全体で一番高い室圧とすることができ、外部からの空気の流入を抑制することで、清浄度を高く保持することが可能となる。尚、本実施例では、当該エアーロック前室5の清浄度を常にグレードB、即ち、作業者が入室し、作業を行っている時点で(所謂 in operation)、0.5μm以上の粒子数が1m3当たり10000個以下のレベル(以下、CLASS10,000とする。)に維持する制御を行っているものとする。
【0109】
尚、この清浄度に関する規格については、文献「EUーGMP、日本薬局方(第14改正日本薬局方・第2部参考情報・平成13年発行)」に記載されている。EU−GMPの最新版(2003年5月30日)によれば、製品が空気に暴露され操作される場所(安全キャビネット22内)をクラス100(グレードA)の清浄度、即ち作業時及び休憩時(所謂at rest)で0.5μm以上の粒子数が1m3当たり100個以下のレベルに設定している。係るグレードAは、清浄度が最も高いことを示すものでCLASS100を示し、グレードBは清浄度がAの次に高いCLASS10,000を示し、グレードCは清浄度がBの次に高いCLASS100,000(作業時)を示し、グレードDは清浄度が最も低いCLASS100,000(休憩時)を示している。
【0110】
また、上述した如き各作業室の室圧管理により生じる差圧によってエアーロック前室5から空気の流出が生じる細胞調製室6は、エアーロック前室5と同様の清浄度即ち、グレードB(尚、安全キャビネット22内のみグレードA)を維持する制御を行うものとする。これにより、安全な細胞調製環境を構築している。
【0111】
また、室圧管理により生じる差圧によって細胞調製室6から空気の流出が生じるエアーロック後室7は、細胞調製室6と隣接していることからも、清浄度がグレードCを維持する制御が行われている。尚、エアーロック後室7の清浄度は、細胞調製室6と比してグレードが一つ低い設定とされているが、実際に、扉38を開放した場合には、室圧差によってエアーロック後室7の空気が細胞調製室6内に進入することは殆どない。
【0112】
また、差圧により前記エアーロック前室5からの空気の流出が生じるサプライ室4及び、エアーロック後室7への空気の流出が生じる保存・管理室8、これらサプライ室4及び保損・管理室8と室圧差のない更衣室3は、清浄度がグレードCを維持するように制御が行われているものとする。これにより、内部の清浄度を一定グレードに保持している。
【0113】
また、外気と接する可能性のあるエントランス2については、陽圧とされているとともに、清浄度がグレードDとなるように制御が行われている。
【0114】
本実施例では、上述した如き各作業室の清浄度の維持及び細胞調製室6及びエアーロック後室7の空気の物理的封じ込めをより一層効果的に実行するため、本施設1に設けられる扉は、すべて室圧が低い方から高い方へ開放可能とする構成とする。これにより、各作業室の室圧差により常に扉が閉鎖方向に押圧を受けることとなり、各作業室の密閉度を向上させることができるようになる。
【0115】
また、保存・管理室8に設置される検体管理システム33は、それぞれの細胞調製に携わった管理状況、例えば各作業室における保存期間、取扱者、作業状態、作業環境(例えば、温度、湿度、室圧、清浄度)、保存管理環境(例えば、温度、湿度、室圧、清浄度)などすべての検体管理に関するデータの整備及び記録の管理を集中して行うものとする。これにより、当該細胞調製に関する調整管理、品質管理を確実なものとすることができるようになる。そのため、上述した如きGMPの基準をより一層、厳格に、実現することができるようになる。
【0116】
本実施例における細胞培養施設1は、例えば、一度の細胞培養に約2週間ほど使用される。使用時は、上述した如き各作業室を所定の清浄度に形成・維持するため、それぞれの空気調和装置や送風機等が運転される。これに対し、実際に細胞培養に使用されていない場合、即ち、非細胞調整時には、前記検体管理システム33により、細胞調製室6の室内温度を高温度、例えば、虫や真菌の繁殖を抑制するのに適した温度+40℃〜+50℃に設定する。
【0117】
これにより、非細胞調整時における細胞調製室6内の温度を高温とすることで、室内の相対湿度が例えば20%以下に低下し、例えばチャタテ虫や当該チャタテ虫等が持ち込む真菌などの繁殖を抑制することができるようになる。そのため、細胞調整時に虫を駆除する作業を格別に行う必要がなくなり、細胞調製に適した環境を構築するために必要なコストや煩雑な作業を低減することができるようになる。
【0118】
尚、当該室温を+40℃〜+50℃にまで上昇させることが通常の空気調和装置では、困難である場合には、当該細胞調製室6内の空気が循環する空気循環経路中に、加熱手段としてのヒータを設けても良いものとする。これにより、容易かつ好適に高温環境を形成することができるようになる。
【0119】
次に、図7を参照して本発明の他の実施例としての細胞培養施設1の細胞調製室90を示している。該細胞培養施設1及び細胞調製室90は、前述の実施形態と略同じ構成を有している。以下、異なる部分について説明する。尚、前述の実施の形態と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。前述した如き細胞調製室90では所定の高い清浄度を維持する必要がある。しかしながら、細胞培養には、発塵の可能性の高い機器、例えば、保冷庫91や遠心分離機27が欠かせない。そこで、図7に示す如き細胞調製室90では、上記実施例における機器室30(本実施例では機器メンテナンス室93)を細胞調製室90とは機器、本実施例では保冷庫91を介して仕切パネル92により別室として区画形成したものである。
【0120】
即ち、機器メンテナンス室93は、仕切パネル92により細胞調製室90とは、独立した作業室を構成し、当該機器メンテナンス室93は、細胞調製室90外から進入可能とする扉94を備えている。そして、この保冷庫91は、メンテナンス面(本実施例における保冷庫91は、背面に構成されている。)及び本体側面を機器メンテナンス室93内に配置すると共に、当該保冷庫91庫内への物品の納出を行う扉91Aが形成される前面のみを細胞調製室90内に配置する。
【0121】
当該保冷庫91の前面には、本体と扉91Aとの間に本体後方と連通する吸込口91Bが形成されている。尚、当該吸込口91Bは、通常、保冷庫91を運転するのに必要とする圧縮機やコンデンサの空冷を行うためのものである。
【0122】
そのため、上記実施冷却貯蔵庫と同様に給気口66から吐出された清浄空気の一部は、室内を循環した後、保冷庫91に形成される吸込口91Bを介して機器メンテナンス室93内に進入する。吸込口91Bから吸い込まれた空気は、保冷庫91の機械室内を通過した後、背面から排出され、機器メンテナンス室93内を上昇する。そして、当該機器メンテナンス室93の天井面に形成された排気口より配管69を介して再び空気調和機6Cに帰還する。
【0123】
細胞調製室90に供給された空気の一部を再度循環させて、温度調整及びフィルタによる清浄化を行うことができ、効率的に細胞調製室90内の温度調整を行うことができると共に、浄化された空気を循環させることができるようになる。
【0124】
これにより、発塵の可能性のある機器の構成に不可欠な吸気口及び排気口を利用して細胞調製室90内の空気循環を行うことができるようになる。また、この場合において、機器の機械室内に生じた粉塵や埃などは、当該流通する清浄な空気と共に、HEPAフィルタ65にて処理されることとなるため、より一層、細胞調製室90内の清浄度の維持を図ることができるようになる。機器の機械室内に空気が滞留することで塵や埃が堆積する不都合を回避することができ、これによっても、細胞調製室90内の清浄度を維持することができるようになる。尚、細胞調製室90側における機器の凹凸が減少することから、埃溜の発生箇所を減少させることができ、細胞調製室90内の清掃作業も簡素化される。
【0125】
また、当該保冷庫91等のメンテナンスを行う際には、前述した如き細胞調製室90とは別の作業室から進入可能とされる扉94から機器メンテナンス室93に進入してメンテナンス作業を行うものとする。
【0126】
これにより、機器のメンテナンス作業を細胞調製室90内に入ることなく機器メンテナンス室93から行うことができるようになる。これにより、メンテナンス作業に伴う細胞調製室90の清浄環境を構築する作業を簡素化することができるようになる。
る。
【0127】
尚、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の一実施例を示す細胞培養施設の平面図である。
【図2】図1の人動線及び物動線を記載した平面図である。
【図3】図1の細胞培養施設の空気循環を示すブロック図である。
【図4】図1の細胞培養施設におけるエアーロック室の概略説明図である。
【図5】図1の細胞培養施設における細胞調製室の概略説明図である。
【図6】他の実施例の細胞調製室の概略説明図である。
【図7】もう一つの他の実施冷却貯蔵庫の細胞調製室の概略説明図である。
【符号の説明】
【0129】
1 細胞培養施設
2 エントランス
2B〜8B 配管
2C〜8C 空気調和機
3 更衣室(一次ガウニング室)
4 サプライ室
5 エアーロック前室(二次ガウニング室)
5D、6D、7D 定風量装置
6、90 細胞調製室
7 エアーロック後室(デガウニング室)
8 保存・管理室
10、15、16、36、37、38 扉
11、35、40、41 物品受渡口
22 安全キャビネット
25 CO2インキュベータ
26、91 保冷庫
27 遠心機
30 機器室
33 検体管理システム
51 外気処理装置
54、57、65、75 HEPAフィルタ
57A、75A プレフィルタ
56、66、74、80 給気口
58、81 排気口
60、76 排気ダンパー
61、77 送風機
62、78 ダクト配管(排気経路)
63、79 室圧センサ
93 機器メンテナンス室
91A 扉
91B 吸込口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えてなる細胞培養施設において、
前記調製室のエアーロック前室と、前記調製室のエアーロック後室とを備え、
前記調製室を大気圧とすると共に、前記エアーロック前室を前記調製室より高い室圧とし、前記エアーロック後室を前記調製室より低い室圧とすることを特徴とする細胞培養施設。
【請求項2】
前記調整室内、前記エアーロック前室内、及び、前記エアーロック後室内の空気をそれぞれ排出する排気経路と、各排気経路に設けられた排気ダンパーを備え、
前記各室へ導入される外気の量を一定とし、前記各排気経路の排気ダンパーをそれぞれ調整することにより、各室内の室圧を制御することを特徴とする請求項1の細胞培養施設。
【請求項3】
外気を室内に導入する以前に処理する前処理手段を備え、該前処理手段にて処理された後の空気を前記調整室、前記エアーロック前室、及び、前記エアーロック後室に分配供給することを特徴とする請求項1又は請求項2の細胞培養施設。
【請求項4】
少なくとも前記調製室には、当該調整室内の空気を送風機により循環しながらHEPAフィルタにより清浄化する空気循環経路を備え、
該空気循環経路は、前記調整室内の空気を吸い込んで前記HEPAフィルタに送るリターン経路と、前記HEPAフィルタを経た空気を前記調整室内に戻す給気経路から成り、
前記リターン経路内には、当該リターン経路内を通過する空気に紫外線を照射する紫外線照射装置が設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3の細胞培養施設。
【請求項5】
前記HEPAフィルタの空気上流側であって、且つ、前記送風機の吸込側にプレフィルタを設けたことを特徴とする請求項4の細胞培養施設。
【請求項6】
発塵の可能性のある機器を前記調製室内を流通する空気の下流側に設置したことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5の細胞培養施設。
【請求項7】
発塵の可能性のある機器を前記調製室のリターン経路内に配置したことを特徴とする請求項4又は請求項5の細胞培養施設。
【請求項8】
前記リターン経路には、前記紫外線照射装置から前記機器に直接紫外線が照射されることを阻止する遮蔽手段が設けられることを特徴とする請求項7の細胞培養施設。
【請求項9】
細胞調製に関わる作業を行うための調製室と、該調製室内に清浄空気を供給するための給気経路と、前記調製室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成る細胞培養施設において、
前記調製室と隣接して前記排気経路を構成する排気処理室を形成すると共に、
発塵の可能性のある機器のメンテナンス面を前記排気処理室に臨んで設置したことを特徴とする細胞培養施設。
【請求項10】
前記機器の吸気口を前記調整室内に面して配置すると共に、前記機器の排気口を前記排気処理室に面して配置したことを特徴とする請求項9の細胞培養施設。
【請求項11】
細胞調製に関わる作業を行うための調製室を備えて成る細胞培養施設において、
非細胞調整時は、少なくとも前記調製室内を高温低湿度の環境に維持することを特徴とする細胞培養施設。
【請求項12】
少なくとも前記調整室内の空気を循環させる空気循環経路を備え、
該空気循環経路に加熱手段を設けたことを特徴とする請求項11の細胞培養施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−223207(P2006−223207A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42019(P2005−42019)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(302010448)三洋電機バイオメディカ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】