説明

細胞培養施設

【課題】 本来余剰スペースとなっていた作業室内のダクト内空間を有効利用することができる細胞培養施設を提供する。
【解決手段】 細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための作業室(細胞調製室2)と、この作業室(細胞調製室2)内に清浄空気を供給するための給気経路24と、作業室(細胞調製室2)内の空気を清浄化した後、排出する排気経路28とを備える。排気経路28の作業室(細胞調製室2)内に位置する部分を、物品の納出が可能な物品収納庫18とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞調製に関わる作業を行うための作業室と、この作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えた細胞培養施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年治療用遺伝子を利用する病気治療の研究や、細胞を利用した再生医療などの研究開発が進められており、それらの治療用遺伝子や細胞などによって先端医療が行われ、その成果に大きな期待が寄せられている。この遺伝子治療には、治療用遺伝子を運ぶ役割をするベクターと呼ばれる遺伝子組み替え体が用いられる。ベクターは、ウイルスの内部に治療用遺伝子を導入することによって作製される場合が多い。
【0003】
本来、ウイルスは、細胞に感染すると、ウイルスの内部の遺伝子を放出する性質を持っている。したがって、ウイルス内部に治療用遺伝子が導入されたベクターを用いると、ベクターであるウイルスが治療する細胞に感染した際に、ウイルスに導入された治療用遺伝子を放出する。そのために、ベクターによる遺伝子治療の効果を発揮させることができる。
【0004】
また、ウイルスは元来病原性を持っており、人体に対する悪影響も懸念され非常に危険である。該ウイルスやベクターは肉眼では見ることができないためその存在を確認することはできない。ベクターの作製や実験は作業室で行われるが、ベクターの作製や実験を行う上で、特に重要な管理事項は人体を危険なウイルスから保護する安全性の確保である。これら人体に対する危険性を払拭しなければ、安心してベクターの作製や実験を行うことができない。
【0005】
そこで、作業室で従事する関係者や担当者をウイルスから保護し、かつこれらの関係者や担当者が作業室に出入りする際、着衣等を介してウイルスが作業室外に流出して周辺環境が汚染されてしまう不都合を防止する必要がある。そこで、作業室で従事する関係者や担当者をウイルスから保護し、かつ作業室の周辺環境の汚染を防止することができる細胞培養施設が提案されている。
【0006】
該細胞培養施設では、再生治療で使用することのできる細胞の培養が行われるので、無菌的管理・無菌操作が必要となるため、作業者は玄関から更衣室に入り、そこで無塵衣を着てから準備室、第1のエアロック前室、ベクター作製室およびエアロック後室の順に各作業室を移動し、滅菌処理室を経て更衣室で無塵衣を脱いで外へ出るという制限された人動線を移動するようになっている。滅菌処理室では、全ての廃棄物や搬出物を外部に搬出する以前に高圧蒸気滅菌器により滅菌する。このように、作業者および原材料やベクター作製に必要な器具類の人動線を一方向に制限して、ベクター作製前と作製後の作業者などが接触するのを防止して、作業室で従事する関係者や担当者をウイルスから保護するものである。
【0007】
また、各作業空間にはドアが設けられるとともに、各作業室の室内圧力を調節する調節手段(例えば空調装置)が設けられている。そして、当該調節手段によって第1のエアロック前室の圧力を準備室及びベクター作製室の圧力より低いか、または高くし、エアロック後室の圧力はベクター作製室及び滅菌処理室の圧力より低いか、または高くし、かつ、ベクター作製室及び滅菌処理室の圧力は大気圧より低く維持している。これにより、ベクター作製室の圧力がその周囲に位置する他の作業室の圧力に比べて最も低くすることができ、ベクター作製室内の空気(特に汚染された空気)が外部に漏れ出してしまうのを防止して、最も物理的な封じ込めレベルの高さが要求されるベクター作製室からその周囲に向かう汚染空気の流出を防止していた(特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−47457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の細胞培養施設は各作業室に空気を流入させる給気口と、流入した空気を流出させる流出口とを備えている。該流出口は空気を流通させるため、その流出口周囲にはダクトを確保しなければならない。このため、作業室の流出口周囲にダクト用のスペースを確保しなければならないという問題があった。
【0010】
本発明は、係る従来技術の課題を解決するために成されたものであり、本来余剰スペースとなっていた作業室内のダクト内空間を有効利用することができる細胞培養施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための作業室と、この作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成るものであって、排気経路の作業室内に位置する部分を、物品の納出が可能な物品収納庫としたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2の発明の細胞培養施設は、上記において、物品収納庫は、作業室からの空気が流入する吸込口と、この吸込口から流入した空気が流出する流出口とを備え、この流出口にHEPAフィルタが設けられると共に、このHEPAフィルタと吸込口との間には殺菌灯が配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3の発明の細胞培養施設は、請求項2に加えて、給気経路の吹出口を作業室の天井若しくはその近傍に設けると共に、吸込口を物品収納庫の下部に形成したことを特徴とする。
【0014】
また、請求項4の発明の細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための作業室と、この作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成るものであって、作業室内での作業に必要な無塵衣を脱ぐ脱衣室を備え、この脱衣室に無塵衣を滅菌するための滅菌器を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項5の発明の細胞培養施設は、細胞調製に関わる作業を行うための複数の作業室と、各作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、各作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成るものであって、各作業室の床面を、当該作業室の清浄度に応じて色分けしたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項6の発明の細胞培養施設は、請求項5において、清浄度の高い作業室の床面を、暖色系の何れの色としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排気経路の作業室内に位置する部分を、物品の納出が可能な物品収納庫としたので、例えばダクト内のスペースを掃除用具入れ等に利用することができる。従って、各作業室内に設けたダクト内の余剰スペースを有効利用することができ、細胞培養施設の利便性を大幅に向上させることができるようになるものである。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、上記において、物品収納庫は、作業室からの空気が流入する吸込口と、この吸込口から流入した空気が流出する流出口とを備え、この流出口にHEPAフィルタが設けられると共に、このHEPAフィルタと吸込口との間には殺菌灯が配置されているので、殺菌灯にて殺菌された綺麗な空気だけをHEPAフィルタを通過させることができる。これにより、危険なウイルスがHEPAフィルタに付着してしまうなどの不都合を防止し、空気の清浄化を向上させることができる。従って、HEPAフィルタがウイルスで汚染されてしまうのを防止することができるので、HEPAフィルタの交換やメンテナンスも改善され、HEPAフィルタの大幅な長寿命化を図ることができるようになるものである。
【0019】
また、請求項3の発明によれば、請求項2に加えて、給気経路の吹出口を作業室の天井若しくはその近傍に設けると共に、吸込口を物品収納庫の下部に形成したので、給気経路の吹出口と吸込口との間でショートサーキットが生じ難くなる。従って、各作業室内の空気の清浄化を円滑に行うことができるようになる。
【0020】
また、請求項4の発明によれば、作業室内での作業に必要な無塵衣を脱ぐ脱衣室を備え、この脱衣室に無塵衣を滅菌するための滅菌器を設けたので、脱衣室で脱いだ無塵衣を脱衣室から出さずにその場で殺菌することができる。このため、脱衣室で脱いだ無塵衣を何かのケースに入れて外部に持ち出し、滅菌室で滅菌するという面倒な取り扱いも解消することができる。従って、作業室で使用した無塵衣を容易に取り扱うことができ、便利である。
【0021】
また、請求項5の発明によれば、各作業室の床面を、当該作業室の清浄度に応じて色分けしたので、その床面の色によって各作業室の清浄度を確実に把握することができる。これにより、例えばどのレベルで作業しているか作業者自身に自覚をさせることができる。従って、作業者は各作業室の清浄度を床面の色によって把握できるので、極めて安全に各作業室での作業を行うことができるようになる。
【0022】
また、請求項6の発明によれば、請求項5において、清浄度の高い作業室の床面を、暖色系の何れかの色としたので、例えば作業者の健康度を向上し、作業能率を向上させることができる。特に、作業者の多くが女性の場合、ピンク色にすることにより、女性の気持ちを落ち着かせることができる。これにより、更に作業能率を向上させることができるようになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、作業室内に設けたダクト内のスペースを有効利用することを特徴とする。ダクト内の余剰スペースを有効利用するという目的を、ダクト内の余剰スペース部分に掃除用具などを入れる物品収納庫を設けることにより実現した。
【実施例1】
【0024】
次に、図面に基づき本発明の実施の形態を詳述する。図1は本発明の一実施例を示す細胞培養施設の平面図、図2は本発明の一実施例を示す細胞培養施設に設けた物品収納庫18の概念図をそれぞれ示している。本発明の細胞培養施設は、遺伝子治療・再生治療で使用することのできる細胞を培養する施設であり、細胞調製に関わる作業を行うための複数の作業室が設けられている。この作業室は、準備室3、エアロック前室5、細胞調製室2、及び、脱衣室7(デガウニング室)などにより構成されている。これらの各作業室は、細胞調整・ベクターの作製に欠かせない部屋であり、その他に、材料保存室16、着衣室10(二次デガウニング室)、滅菌室8や、細胞・ベクターを保存する細胞保存室12、品質管理室13、データ管理室14などの作業室を備えている。尚、データ管理室14は施設全体を監視し、制御するための制御室を兼ねている。また、これらの各室は、一つの建家1に収められている。
【0025】
次に、建家1を上方から見た場合の各室の配置例を説明する。建家1は図1に示すように横長略矩形状に形成され、図中下側の中央より少し左側に寄った位置に玄関40が配置されている。また、準備室3は横長略矩形状に形成され、建家1の右下角部に配置されている。準備室3の上側には細胞調製室2が配置されている。この細胞調製室2は、縦長略矩形状の第1細胞調製室2Aと、これもまた縦長略矩形状の第2細胞調製室2Bの2室とからなる。尚、細胞調製室2の室数は1室でもよく、また3室以上でもよい。
【0026】
第1細胞調製室2Aは建家1の右端に配置され、第2細胞調製室2Bは第1細胞調製室2Aの左側に並設されている。第2細胞調製室2Bの上側には仕切壁K3を隔てて廊下42が配置され、廊下42の右側には仕切壁K4を隔てて前記第1細胞調製室2Aが配置されている。前記準備室3は、第1、第2細胞調製室2A、2Bと仕切壁K1、K5を隔てて下側に配置されている。エアロック前室5は、略矩形状に形成され、第1細胞調製室2A内の左下側に配置されている。脱衣室7も略矩形状に形成され、第2細胞調製室2B内の右上に配置されると共に脱衣室7はエアロック室を兼ねている。
【0027】
準備室3の左側に設けられた仕切壁K2、及び、第2細胞調製室2Bの下側に設けられた仕切壁K5を隔てて材料保存室16が配置されている。材料保存室16は、第2細胞調製室2Bの左側略中央から第2細胞調製室2Bの下側略中央に渡ってL字状に形成されている。準備室3と材料保存室16との間には横長略矩形状の着衣室10が配置され、着衣室10と第2細胞調製室2Bとの間に前記仕切壁K2が設けられている。
【0028】
前記玄関40の左側には縦長略矩形状のデータ管理室14が配置され、データ管理室14の左側には略矩形状の品質管理室13が仕切壁K6を隔てて並設されている。データ管理室14と品質管理室13の上側には仕切壁K7を隔てて略矩形状の細胞保存室12が配置されている。玄関40の上側にはドアD2を隔てて、更衣室17(一次デガウニング室)が配置され、その上側にはドアD17を隔てて廊下42が配置されている。
【0029】
前記滅菌室8は略矩形状に形成され、廊下42の左上隅に配置されている。更衣室17上側のドアD17を隔てて配置された廊下42は、材料保存室16に沿って滅菌室8を避けて迂回し、前記第2細胞調製室2Bの上側まで続いている。また、品質管理室13の右下にはデータ管理室14に隣接して横長略矩形状の更衣室44が配置されている。
【0030】
次に、主な作業室の説明を行う。細胞調製室2は、遺伝子を利用した病気治療の研究や、新薬の研究開発、或いは、再生治療で使用することのできる細胞が培養される。再生治療で使用することのできる細胞としては胚性幹細胞や神経幹細胞、成体幹細胞などが挙げられるが、細胞調製室2では再生治療で使用される細胞の一つとして例えば角膜細胞の生産・ベクター産生細胞の調製・ベクター生産などが行われる。また、この作業室ではウイルスの病原性の削除、治療用遺伝子の取り出し、ウイルスの遺伝子との組み込み、或いは、培地の調製・交換などの処理が行われる。第1細胞調製室2A内には、危険なウイルスを安全に取り扱うための格別な空調装置が設けられた安全キャビネット32が設けられている。この安全キャビネット32は、例えば筺体の前面開口に上下移動自在の開閉扉が設けられ、内部に形成された作業空間内に作業台が設けられている。
【0031】
作業空間内は、空調装置によって第1細胞調製室2A内よりも陰圧に制御されていて、安全キャビネット32内で取り扱う危険なウイルスが外部(第1細胞調製室2A内)に漏れ出ないように考慮されている。尚、第2細胞調製室2B内及び品質管理室13にも同様の安全キャビネット32が設けられている。また、安全キャビネット32内の空気の排気系には、微生物を捕捉する作用を持つフィルタが取り付けられている。フィルタの種類としては、HEPAフィルタ50(high−efficiency particulate air)が適している。尚、安全キャビネット32内がウイルスやベクターに対して安全に造られている技術については、従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0032】
細胞調製室2内での細胞調製・ベクターの作製作業は、安全キャビネット32の中に原材料や器具類を置き、ゴム手袋などを介して細胞調製室2側から手を入れ、作業を行えるようになっている。したがって、作業中に、細胞内に潜む病原性ウイルスや遺伝子導入用ベクターが、細胞調製室2に漏れ出てしまう危険性は低い。しかし、作業前後には細胞調製室2の中で、ウイルスのハンドリングやベクターの培養が行われるので、細胞調製室2は最も危険性が高い場所である。この危険性を回避するための対策、すなわち安全性を確保するための対策については、後で説明する。
【0033】
材料保存室16は、ベクターの作製に必要な材料の保存や器具類の保管などが行われる。準備室3は、ベクター作製のための準備や予備処理、前工程などを行うための作業室である。この準備室3は、細胞調製室2での煩雑な処理を極力少なくする必要があるので、ベクターの作製に必要なウイルス、組み替え用遺伝子、作業に必要な器具、容器などを取り扱う作業が円滑に行えるように前準備を行う。
【0034】
滅菌室8は、細胞調製・ベクター作製作業に用いられた器具や汚染された可能性のある廃棄物などの滅菌を行うための作業室である。この滅菌室8には、危険性のある物質や汚染物が外部に出ないように、建家1から外部に搬出する以前に滅菌処理を行うための高圧蒸気滅菌器(図示せず)が備え付けられている。また、高圧蒸気滅菌器によるオートクレープ処理(滅菌処理)は、さらに滅菌処理の確実性を高めるための処理であり、+1.2気圧、+121℃程度の条件で処理するのがよい。
【0035】
エアロック前室5は、細胞調製室2内の空気(この場合、危険性を含む物質や汚染物が浮遊している可能性のある空気)が、準備室3に漏れ出てしまうのを防止するための作業室である。また、脱衣室7は、作業の際に着用した無塵衣(作業着)を着替える部屋である。細胞調製室2で汚染されている可能性のある無塵衣を脱衣室7から外に持ち出すと危険性がある。そこで、脱衣室7には無塵衣を高圧蒸気により滅菌する滅菌器30が設けられており、脱衣室7で脱いだ無塵衣はこの滅菌器30で滅菌される。
【0036】
脱衣室7の滅菌器30で滅菌した無塵衣は、所定時間以上(約1時間〜2時間)経過後、取り出されて更衣室17に設けられたロッカー36、或いは、材料保存室16内に設けられたロッカー(図示せず)内に運ばれ再度使用される。これにより、一度脱いだ無塵衣を脱衣室7から外に持ち出して再度着てしまうなどの危険性を防止している。また、脱いだ無塵衣を滅菌器30で滅菌することにより再度使用することができるので、無塵衣の無駄使いが無くなり、省コスト化を図ることができる。
【0037】
更衣室17は、無塵衣の保管或いはコートなど外着を脱ぐ部屋であり、着衣室10は、第1、第2細胞調製室2A、2B内での作業に必要な無塵衣を着る部屋である。また、細胞保存室12は、製品であるベクターを一時保管する部屋であり、品質管理室13は、ベクターの品質調査および製造工程における品質管理を行うための部屋である。データ管理室14は、細胞培養施設全体の装置や作業室内の空気圧を監視し、正常な状態を維持するように制御するための部屋で、集中データ管理室としての機能を果たす作業室である。
【0038】
ここで細胞培養施設は、危険性のあるベクターを取り扱うため、それぞれ各室の汚染空気を他の作業室に流出させないようにする必要がある。この場合、人動線を通る作業室の前後に差圧空間を設けることにより、汚染空気を他の作業室に流出させないようにしている。即ち、前記エアロック前室5は、その前後の作業室(準備室3及び第1、第2細胞調製室2A、2B)に対するバリアとしての役割を持っており、細胞調製室2(ベクター作製室)内の危険性のある物質や汚染物が浮遊している可能性のある空気が、準備室3に漏れ出てしまうのを防止する。また、エアロック前室5及び脱衣室7などのエアロック室は、エアロック室を挟んで前後に配置されている作業室間の空気の流れを遮断すると共に、前後に作業室に対してバッファー空間の役割を果たす。
【0039】
バッファー空間の両側の作業室は、バッファー空間より高いか低いかの何れかになる。そこで、細胞培養施設では、後述する給気経路に設けられた送風機(図示せず)とダクト46内に設けられた送風機48が駆動制御されることにより、空調装置は、給気経路から各室内に吹き出す空気の量と、排気経路から建家1外部に排出する空気量を調整して、各室内圧に差圧を設け、それぞれ所定の物理的封じ込めレベルに制御している。即ち、実施例では、例えば第1細胞調製室2Aを±0Pa、第2細胞調製室2Bを±0Pa、エアロック前室5を+30Pa、脱衣室7を−30Pa、準備室3を+15Pa、着衣室10を+30Pa、材料保存室16を+15Pa、廊下42を+15Pa、更衣室17を+15Pa、滅菌室8を+15Pa、細胞保存室12を±0Pa、品質管理室13を±0Pa、データ管理室14を+15Pa、玄関40を大気圧としている。係る空調装置によって各室内の圧力を物理的封じ込めレベルに制御する技術については、従来より周知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0040】
このように、エアロック前室5を細胞調製室2より陽圧、準備室3より陰圧にすると共に、脱衣室7を細胞調製室2及び廊下42より陰圧にしている。この場合、エアロック前室5の空気は細胞調製室2に流れるので、細胞調製室2の空気がエアロック前室5を介して準備室3に漏れ出てしまうのを防止することができる。また、廊下42の空気は脱衣室7に流れるので、細胞調製室2の空気が脱衣室7を介して廊下42に漏れ出てしまうのを防止することができる。これにより、細胞調製室2からエアロック前室5や脱衣室7に危険性物質が漏れ出てしまうのを遮断することができる。従って、細胞調製室2で作製されたベクターや空気中に浮遊する危険性のある汚染物などが、細胞調製室2から外部へ漏れ出してしまうのを確実に防止することができる。
【0041】
一方、各室内の邪魔にならない箇所に物品収納庫18が設けられており、この物品収納庫18内にダクト(図3に図示)を形成している。物品収納庫18は、物品を納出可能な角筒形を呈しており、第1細胞調製室2A内の右上隅に物品収納庫18A、第2細胞調製室2B内の左上隅に物品収納庫18Bが設けられている。また、材料保存室16の上側に物品収納庫18C、細胞保存室12の右上隅に物品収納庫18D、品質管理室13の右下隅に物品収納庫18Eが設けられている。これらの物品収納庫18内には各室で使用する滅菌清掃用掃除用具(モップなど)が収納できるようになっている。当該掃除用具は、清浄度及び物理的封じ込めの観点から、原則として、使い捨てタイプのものを使用し、使用後については滅菌処理をした上で廃棄される。尚、物品収納庫18、18A〜18Eは略同一に構成されている。また、物品収納庫18内には掃除用具以外各室で使用する他の品物を収納しても良いが、物品収納庫18はダクトであるため、物品収納庫18内を塞がないように収納する必要がある。
【0042】
そして、この細胞培養施設でベクターの作製作業を行う場合に、作業者および原材料やベクター作製に必要な器具類は、図1の実線矢印で示すように玄関40から更衣室17、材料保存室16、着衣室10を経て準備室3に入り、エアロック前室5、細胞調製室2(第1、第2細胞調製室2A、2Bのどちらか一方)および脱衣室7の順に各室を移動する。そして、脱衣室7から廊下42に出て玄関40に戻るという一方向に流れる制限された人動線が形成される。尚、玄関40からは更衣室17、データ管理室14、更衣室44、品質管理室13に、また廊下42からは細胞保存室12、滅菌室8、脱衣室7、更衣室17に出入りできるようになっている。脱衣室7の左右と前のドアD9、D10、D11はインターロック付の電子錠にて構成されており、何れか一つのドアが開くと同時に他のドアは開かないようになっている。
【0043】
また、各作業室はそれぞれ個別に室内圧(室内圧については後で詳しく説明する)の調節が行われる。そのために、各室の入口側と出口側には、各室を仕切るドアが設けられている。玄関40の入口には玄関ドアD1、玄関40と更衣室17との間には前述した如きドアD2、更衣室17と材料保存室16との間にはドアD3が設けられている。材料保存室16と着衣室10の間にはドアD4、着衣室10と準備室3との間にはドアD5が設けられている。着衣室10前後のドアD4、D5もインターロック付の電子錠にて構成されており、一つのドアが開くと他のドアは同時に開かないようになっている。また、玄関40内周囲のドア(玄関ドアD1、ドアD2、D12)及び、入口と出口が設けられた作業室のドアのうち何れか一つのドアが開くと他のドアは開かないようになっている。
【0044】
準備室3とエアロック前室5との間にはドアD6、エアロック前室5と細胞調製室2(第1細胞調製室2A)の間にはドアD7、エアロック前室5と細胞調製室2(第2細胞調製室2B)の間にはドアD8が設けられている。また、玄関40とデータ管理室14の間にはドアD12、データ管理室14と更衣室44の間にはドアD13、更衣室44と品質管理室13との間にはドアD14が設けられている。廊下42と細胞保存室12の間にはドアD15、廊下42と滅菌室8の間にはドアD16が設けられている。そして、これらのドアは、各室における仕切壁またはその近傍に設けられている。
【0045】
また、材料保存室16と準備室3とを仕切る仕切壁K2、準備室3と第1細胞調製室2Aとを仕切る仕切壁K1、準備室3と第2細胞調製室2Bとを仕切る仕切壁K5、第1細胞調製室2Aと廊下42を仕切る仕切壁K4、第2細胞調製室2Bと廊下42を仕切る仕切壁K3にはそれぞれ製品受け渡し口34が設けられている。これらの製品受け渡し口34は、図1の点線矢印で示すように材料保存室16から準備室3へ、準備室3から第1細胞調製室2A、第1細胞調製室2Aから廊下42へ、準備室3から第2細胞調製室2B、第2細胞調製室2Bから廊下42へ物を移動させる物動線である。
【0046】
また、廊下42と細胞保存室12とを仕切る仕切壁K8、細胞保存室12と品質管理室13とを仕切る仕切壁K7、廊下42と材料保存室16とを仕切る仕切壁K9にも製品受け渡し口34が設けられている。これらの製品受け渡し口34は、図1の点線矢印で示すように廊下42から細胞保存室12へ、細胞保存室12から品質管理室13へ、廊下42から材料保存室16へ物を移動させるための物動線である。なお、細胞保存室12および品質管理室13は、作業者が材料保存室16や準備室3に入ることなく出入りできるように、設置位置およびドアの位置が決められている。
【0047】
上記のような構成を持つ本発明に係る細胞培養施設について、以下に詳しく説明する。図1に示した細胞培養施設は、本発明の好ましい実施の形態に係る施設である。細胞培養施設は、一つの建家1内で、ベクター作製のための準備、ベクターの作製、ベクターの保管および品質管理などのすべてが行えるように設計されている。さらに、作業者および原材料・製品などが一方向に流れるように設計されている。
【0048】
玄関40の内側に更衣室17があり、更衣室17へは玄関ドアD1および更衣室17の入口ドアD2を経て入るようになっている。更衣室17の隣には材料保存室16、着衣室10を介して準備室3が設けられており、更衣室17からはドアD3を経て材料保存室16に、材料保存室16からはドアD4を経て着衣室10に、着衣室10からはドアD5を経て準備室3へ移動するようになっている。
【0049】
準備室3からはドアD6を経てエアロック前室5、エアロック前室5からはドアD7を経て第1細胞調製室2Aへ移動するようになっている。また、エアロック前室5からはドアD8を経て第2細胞調製室2Bへ移動するようになっている。
【0050】
第1細胞調製室2Aに対する工程上の下流側はドアD9を経て脱衣室7へ、第2細胞調製室2Bに対する工程上の下流側はドアD10を経て脱衣室7へ移動可能になっている。脱衣室7は、第1、第2細胞調製室2A、2B内で作業時に着た無塵衣を脱いで、直ぐに殺菌することにより、汚染された無塵衣を外に持ち出さないための作業室で、この脱衣室7には無塵衣を滅菌するための高圧蒸気の滅菌器30が設けられている。滅菌器30での無塵衣を滅菌する時間は前述した如き約1時間〜2時間である。
【0051】
この脱衣室7は、ドアD11を経て廊下42へ、廊下42から脱衣室7内に移動が可能になっている。これにより、滅菌器30で滅菌した無塵衣を廊下42から脱衣室7内に入り取り出せるようになっている。また、滅菌室8へは、廊下42からドアD16を経て入り、ドアD16から廊下42へ出られるようになっている。
【0052】
一方、細胞培養施設には、各室の室内圧を調節するための空調装置(図示せず)が設けられている。空調装置は、各室内に空気を吹き出す送風機と、各室内の空気を建家1外部に排出する送風機48(図2に図示)などを備えている。そして、空調装置により、建家1の外の空気を清浄して図示しない給気経路から各室に供給し、各室の空気を排気経路28(図2図示)に吸い込んで清浄し建家1の外に排出することにより、各室の清浄化を図っている。各室の天井若しくは天井近傍には、各室内に空気を吹き出すための吹出口26が設けられており、この吹出口26は空調装置の給気経路に連通している。また、図1は細胞培養施設の平面図であるが、天井若しくは天井近傍に設けられた吹出口26も示している。
【0053】
前記物品収納庫18には、図2に示すように床面に略接して吸込口20が設けられており、この吸込口20にガラリ板21が設けられている。このガラリ板21は物品収納庫18の下部、或いは、下部近傍(この場合、第1細胞調製室2Aの床面、或いは、床面近傍)に設けられると共に、ガラリ板21は第1細胞調製室2A内に面して設けられている。第1細胞調製室2A内はガラリ板21を介して物品収納庫18内に連通している。物品収納庫18の前面には物品収納庫18内に掃除用具などを収納するためのガラリ板21と共に開閉可能な、開閉ドア19が設けられている。尚、吹出口26と吸込口20は同じ室内で、でき得る限り離間した位置に配置するのが好ましい。これにより、吹出口26から吹き出された空気がそのまま吸込口20から吸い込まれる、所謂ショートサーキットが生じてしまうのを防止することができる。
【0054】
物品収納庫18Aの上部には流出口22が形成されており、この流出口22に建家1外部に開口するダクト46が連通している。即ち、ダクト46は各室に設けられた吸込口20から物品収納庫18内、流出口22を経て建家1外部に連通する排気経路28を形成している。流出口22には、ミクロン単位の塵の除去やウイルスを除去可能なHEPAフィルタ50が設けられている。また、物品収納庫18A内に殺菌灯52が設けられており、この殺菌灯52はHEPAフィルタ50と吸込口20との間となるHEPAフィルタ50下側に設けられている。殺菌灯52は、HEPAフィルタ50及び物品収納庫18A内全体を照らし、HEPAフィルタ50及び物品収納庫18A内に収納された掃除用具等からウイルスや細菌が繁殖するのを防止する。
【0055】
前記送風機48は、ダクト46内に配設されている。そして、送風機48が運転されると、図2の白抜き矢印で示すように吸込口20から第1細胞調製室2A内の空気が物品収納庫18A内(ダクト46内)内に吸い込まれる。物品収納庫18A内に吸い込まれた空気は、HEPAフィルタ50を通過する過程で、塵やウイルスがHEPAフィルタ50に捉えられ、浄化されて清浄な空気になりダクト46の開口から建家1外部に排出される。また、物品収納庫18A内に吸い込まれた空気は、物品収納庫18A内に設けた殺菌灯52により殺菌されると共に、HEPAフィルタ50に捉えられたウイルスも殺菌灯52により殺菌される。これにより、危険なウイルスがHEPAフィルタ50を通過してしまうなどの不都合を防止し、空気の清浄化を向上させることができる。従って、ウイルスに汚染された空気がダクト46から建家1外部に排出されてしまうなどの危険性を確実に防止することができる。尚、他の各室に設けた物品収納庫18B、18C、18D、18Eも同様に構成されている。また、吹出口26及び物品収納庫18は各室に設けられていることが望ましい。ただし、前述のように、必ずしもすべての室に設けられている必要はない。
【0056】
このように、細胞培養施設は、排気経路28の作業室内に位置するダクト46部分を、物品の納出が可能な物品収納庫18としているので、物品収納庫18内に掃除用具入れ等に利用することができる。これにより、各作業室内の排気経路28の余剰スペースを有効利用することができ、細胞培養施設の利便性を大幅に向上させることができる。
【0057】
また、物品収納庫18は、作業室からの空気が流入する吸込口20と、この吸込口20から流入した空気が流出する流出口22とを備えている。そして、この流出口22にHEPAフィルタ50を設けると共に、このHEPAフィルタ50と吸込口20との間に殺菌灯52を設けているので、殺菌灯52にて殺菌した綺麗な空気をHEPAフィルタ50に流入させることができる。これにより、HEPAフィルタ50がウイルスで汚染されてしまうような不都合を防止することができるので、空気の清浄化を大幅に向上させることができる。
【0058】
また、給気経路の吹出口26を各作業室の天井若しくはその近傍に設けると共に、吸込口20を吹出口26から離間した物品収納庫18の下部の床面近傍に形成している。この場合、吹出口26から吹き出された空気がそのまま吸込口20から吸い込まれるショートサーキットによって、各作業室内の清浄が行えなくなってしまうなどの不都合を防止することができる。これにより、各作業室内の空気の清浄化を円滑に行うことができ、各作業室内の安全性を確実に確保することができるようになる。
【実施例2】
【0059】
次に、図3には本発明の他の細胞培養施設を示している。該細胞培養施設は、前述の実施形態と略同じ構成を有している。以下、異なる部分について説明する。尚、前述の実施の形態と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。前述した如き細胞培養施設では危険な病原性の恐れのある細胞やウイルスを安全に取り扱わなければならない。そこで、細胞培養施設は図3に示すように各作業室の床面を、当該作業室内の清浄度に対応して色分けを行っている。
【0060】
ここで、各作業室内における空気清浄度をA乃至Dの4つにゾーンに区別して安全性の向上を図っている。清浄度を管理する際の規格は文献「EUーGMP、日本薬局方(第14改正日本薬局方・第2部参考情報・平成13年発行)」に記載されており、EU−GMPの最新版(2003年5月30日)によれば、製品が空気に暴露され操作される場所(安全キャビネット32内)をクラス100の清浄度に設定している。係るゾーンAは清浄度が最も高いことを示すものでCLASS100未満を、ゾーンBは清浄度がAの次に高いCLASS10000未満を示し、ゾーンCは清浄度がBの次に高いCLASS100000未満を示し、ゾーンDは清浄度が最も低いCLASS100000以上をそれぞれ示している。
【0061】
即ち、本発明では細胞培養施設で安全に作業ができるように各室をそれぞれ清浄度ゾーンに合わせて色分け区分を行って、関係者や作業者などがその箇所の危険度を容易に把握できるようにしている。色分け区分としては、各室の床面を着色することにより区分を行っている。区分色としては、最も高いゾーンAは安全キャビネット32内となり床面は存在しないの床面の色分けは無し(図中横平行線)、次に清浄度が高いゾーンBの床面を暖色系のピンク色(図中略等間隔の縦横点線)、次に清浄度が高いゾーンCの床面をグリーン色(図中格子状の斜線)、そして清浄度が最も低いゾーンDの床面をグレー色(図中斜線)に着色している。
【0062】
細胞培養施設では作業者の多くが女性であることから、ゾーンBの床面の色を暖色系のピンク色にしている。作業者は密閉された各室で作業を行うことになるが、ピンク色から受けるイメージは開放感があるので、狭い空間で開放感を如何に演出するかはとても重要な要素となる。係る暖色系の色としては、色相環の半分ピンク色、茶色を含む「赤色、橙色、黄色」は暖かみを感じさせる色であり、特にピンク色は、女性の気持ちを落ち着かせる効果があるといわれている。これにより、狭い作業室で作業者の作業能率を向上させられるようにしている。
【0063】
また、ゾーンCの床面をグリーン色にした場合、ゾーンDのグレー色の作業室よりも居心地の良さ(清潔感)を感じさせることができる。これにより、落ち着いて作業ができ、作業者の作業能率を向上させることができるようになる。また、ゾーンDに対応する床面をグレー色にした場合、清潔か否か良く解らない不透明な意味合いをイメージさせることができるようになる。これにより、容易に作業室でないことが判り便利である。尚、ゾーンBのピンク色の床面を、グレー色系である紺色系にした場合、汚染物で汚染されたのが非常に視認し難くなる。ピンク色であれば、汚染物で床面が汚染されたことが容易に視認でき、汚染物が他に飛散してしまうなどの危険性を未然に阻止することができる。
【0064】
このように、各作業室の床面を清浄度に対応して色分けしているので、その床面の色によって各作業室の清浄度を把握することができる。これにより、作業者は特別な清浄度の作業室に入室したか否かを容易に知ることができ、どの清浄度のゾーンで作業しているか作業者自身が自覚することができる。従って、作業者は各作業室の清浄度を床面の色によって一目瞭然に把握することができ、各ゾーンの作業室で極めて安全に作業を行うことができる。特に、各室の床面を、清浄度に対応して色分けしているので、危険度の高い箇所では壁や機器・机などに寄りかからない、手を突かない、手袋を脱がない、会話を最小限にするなど危険に結びつく動作、言動を最小限に抑えるなど安全に作業ができるようになる。
【0065】
また、清浄度の高い作業室(細胞調製室2)の床面を、暖色系のピンク色としているので、作業者の健康度を向上させることができて、作業能率を向上させることができる。特に、作業者の多くが女性であることから、床面をピンク色にすることにより、女性の気持ちを落ち着かせることができる。また、上述のように細胞培養施設を構成することにより安全に、生産性よくベクターを作製することができる。従って、更に作業能率を向上させることができるようになる。
【実施例3】
【0066】
次に、図4には本発明の他の細胞培養施設を示している。細胞培養施設は、前述の各実施形態と略同じ構成を有している。以下、異なる部分について説明する。尚、前述の実施の形態と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。本発明の他の一実施形態の細胞培養施設は図4に示すように前記空調装置56を各室別に設けている。
【0067】
図中上側は細胞調製室2、その下側は細胞保存室12、その下側は材料保存室16を示しており、これらの各室にはそれぞれ空調装置56が設けられている。空調装置56は、前述した如き各室内に空気を吹き出すための図示しない送風機と、各室内の空気を建家1外部に排出する送風機48(図2に図示)を有している。第1細胞調製室2A(細胞調製室2)の天井若しくは天井近傍に吹出口26が設けられると共に、第1細胞調製室2A内には物品収納庫18A(物品収納庫18)が設けられている。吹出口26は、給気経路24を介して空調装置56A(空調装置56)に接続され、物品収納庫18Aは排気経路28を介して、空調装置56Aに接続されている。
【0068】
細胞保存室12も第1細胞調製室2A同様、細胞保存室12内の天井若しくは天井近傍に吹出口26が設けられると共に、細胞保存室12内に物品収納庫18D(物品収納庫18)が設けられている。吹出口26は、給気経路24を介して空調装置56B(空調装置56)に接続され、物品収納庫18Dは排気経路28を介して、空調装置56Bに接続されている。
【0069】
材料保存室16も第1細胞調製室2A同様、材料保存室16内の天井若しくは天井近傍に吹出口26が設けられると共に、材料保存室16内に物品収納庫18C(物品収納庫18)が設けられている。吹出口26は、給気経路24を介して空調装置56C(空調装置56)に接続され、物品収納庫18Cは排気経路28を介して、空調装置56Cに接続されている。
【0070】
そして、給気経路24に設けられた送風機(図示せず)とダクト46内に設けられた送風機48が駆動制御されることにより、空調装置56は、給気経路24から各室内に吹き出す空気量と、排気経路28から建家1外部に排出する空気量を調整して、各室内圧をそれぞれ所定の清浄度に制御する。尚、各室内に設けた物品収納庫18は、吹出口26に対してでき得る限り離間した位置若しくは離間した位置近傍に設けられている。これにより、吹出口26から吹き出された空気がそのまま各物品収納庫18に設けた吸込口20から吸い込まれてしまうショートサーキットを好適に防止することができる。これによって、各作業室内の清浄化に不都合が発生してしまうのを防止することができ、各作業室内の安全性を確実に確保することができる。
【0071】
また、天井若しくは天井近傍に吹出口26を設けると共に、床面に略接して吸込口20を設けているので、吹出口26から吹き出した空気は下方の吸込口20に向かって移動する。これにより、危険性のある物質や汚染物が浮遊してしまうのを防止することができる。従って、ベクターの作製時に作業台上で扱っているベクターや、作業室内で浮遊する危険性のある物質や汚染物を作業者が吸い込んでしまうなどの不都合を確実に防止することができ、極めて、安全性のある細胞培養施設を提供することができる。
【0072】
このように、各室(細胞調製室2、細胞保存室12、材料保存室16)にそれぞれ空調装置56を設けているので、各室を循環した空気が他の作業室の空調装置56の給気経路24や排気経路28に流入してしまうのを防止することができる。これにより、各室に対する交差汚染を避けることが可能となるので、複数室内の空気を、単独の空調装置56で所定の清浄度に清浄する場合に比較して、例えば、不慮の事故により1室内の汚染された空気が他の室内に吹き出されてしまうなどの危険性を確実に防止することができる。従って、各室を極めて安全に管理することができるようになる。尚、実施例3では、各室を細胞調製室2、細胞保存室12、材料保存室16にて説明しているが、他の各室も同様にそれぞれ空調装置56が設けられて、それぞれ単独で各室の空気を所定の清浄度に清浄できるように構成されている。ただし、前述のように、必ずしもすべての室に空調装置56が設けられている必要もない。
【0073】
尚、実施例では細胞培養施設をベクターの作製で説明したが、細胞培養施設はベクターの作製に限らず、他の危険な細菌の培養実験や危険なガスや薬品、或いは、組み替えDNA実験などにおいても本発明は有効である。
【0074】
また、各室に吹出口26と物品収納庫18とを一箇所設けたが、吹出口26と物品収納庫18は各室に一箇所に限らず、複数カ所設けても差し支えない。この場合、吹出口26と物品収納庫18の流速や、各室内に吹き出す風速を抑えることができるので、吹出口26から吹き出す空気によって目に見えないゴミや埃が舞い上がるなどの不都合を防止することができる。これにより、ベクター作製時にベクターが浮遊したり周囲に飛散してしまうなどの不都合も防止することができて、細胞培養施設の利便性を大幅に向上させることができるようになる。また、吹出口26と物品収納庫18を複数設けることにより、各室内の清浄化を短時間で行うことができるようになる。これにより、各室内の汚染の広がりを最小限に抑えることができ、各室内の安全性を確実に確保することができるようになる。
【0075】
また、実施例1では、エアロック前室5を細胞調製室2より陽圧、準備室3より陰圧にすると共に、脱衣室7を細胞調製室2及び廊下42より陰圧にして危険性のある汚染物が細胞調製室2から外部へ漏れ出してしまうのを防止したが、細胞調製室2を陽圧にして、エアロック前室5を細胞調製室2より陰圧、準備室3をエアロック前室5より陽圧にすると共に、脱衣室7を細胞調製室2より陰圧、廊下42を脱衣室7より陽圧にしても良い。また、細胞調製室2を陰圧にして、エアロック前室5を細胞調製室2より陽圧、準備室3をエアロック前室5より陰圧にすると共に、脱衣室7を細胞調製室2より陽圧、廊下42を脱衣室7より陰圧にしてもよい。これにより、エアロック前室5及び脱衣室7をバリアとしての役割を果たすことができるので、危険性のある汚染物が細胞調製室2から外部へ漏れ出してしまうのを防止することができる。
【0076】
また、本発明は上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施例を示す細胞培養施設の平面図である(実施例1)。
【図2】本発明の一実施例を示す細胞培養施設に設けた物品収納庫の概念図である。
【図3】本発明の一実施例である各室の清浄度を示す細胞培養施設の平面図である(実施例2)。
【図4】本発明の一実施例を示す細胞培養施設の模式図である(実施例3)。
【符号の説明】
【0078】
1 建家
2 細胞調製室
2A 第1細胞調製室
2B 第2細胞調製室
3 準備室
5 エアロック前室
7 脱衣室
8 滅菌室
10 着衣室
12 細胞保存室
13 品質管理室
14 データ管理室
16 材料保存室
17 更衣室
18 物品収納庫
20 吸込口
22 流出口
24 給気経路
26 吹出口
28 排気経路
30 滅菌器
32 安全キャビネット
34 製品受け渡し口
42 廊下
46 ダクト
48 送風機
50 HEPAフィルタ
52 殺菌灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞調製に関わる作業を行うための作業室と、該作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、前記作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成る細胞培養施設において、
前記排気経路の前記作業室内に位置する部分を、物品の納出が可能な物品収納庫としたことを特徴とする細胞培養施設。
【請求項2】
前記物品収納庫は、前記作業室からの空気が流入する吸込口と、該吸込口から流入した空気が流出する流出口とを備え、該流出口にHEPAフィルタが設けられると共に、該HEPAフィルタと前記吸込口との間には殺菌灯が配置されていることを特徴とする請求項1の細胞培養施設。
【請求項3】
前記給気経路の吹出口を前記作業室の天井若しくはその近傍に設けると共に、前記吸込口を前記物品収納庫の下部に形成したことを特徴とする請求項2の細胞培養施設。
【請求項4】
細胞調製に関わる作業を行うための作業室と、該作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、前記作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成る細胞培養施設において、
前記作業室内での作業に必要な無塵衣を脱ぐ脱衣室を備え、該脱衣室に前記無塵衣を滅菌するための滅菌器を設けたことを特徴とする細胞培養施設。
【請求項5】
細胞調製に関わる作業を行うための複数の作業室と、各作業室内に清浄空気を供給するための給気経路と、前記各作業室内の空気を清浄化した後、排出する排気経路とを備えて成る細胞培養施設において、
前記各作業室の床面を、当該作業室の清浄度に応じて色分けしたことを特徴とする細胞培養施設。
【請求項6】
清浄度の高い前記作業室の床面を、暖色系の何れの色としたことを特徴とする請求項5の細胞培養施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−94754(P2006−94754A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284199(P2004−284199)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(302010448)三洋電機バイオメディカ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】