説明

細胞濃縮装置、細胞濃縮システムおよび細胞濃縮方法

【課題】
負の誘電泳動力を利用して、培地中の細胞を細胞への負荷少なくかつ効率よく濃縮する装置を提供する。
【解決手段】
培地6に含まれる細胞7を濃縮する細胞濃縮装置であって、細胞が含まれる培地を入れる細胞懸濁液の容器5と、前記細胞懸濁液の容器に対して移動するピストン型容器1と、前記ピストン型容器の底面に配置される電極2と、前記電極間に設けた前記ピストン容器の底面を貫通する貫通孔と、前記電極に交流を印加する電源3と、細胞懸濁液の容器に対して、前記ピストン型容器を上下移動させる駆動機構8と、前記貫通孔を通って前記ピストン型容器に入る培地を排出する排出機構9と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞濃縮装置、細胞濃縮システムおよび細胞濃縮方法に関し、特に、負の誘電泳動力を利用した細胞濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞やバクテリアの濃縮に関しては、これまで多くの方法が提案され実用化されている。例えば、膜分離法、遠心分離法、沈降分離法などがある。しかし、膜分離法は、目詰まりが起こりやすい、膜の孔より小さい細胞に効果がない、ランニングコストが高いなどの課題がある。遠心分離法は、処理量が少ない、遠心力による細胞への負荷が大きい、遠心分離装置が大型で高価などの課題がある。沈降分離法は、濃縮の時間が長いという課題がある。
【0003】
細胞を操作する有効な技術としては、誘電泳動が注目されている。誘電泳動に関する系統的な研究と理論解析は、1970年代にPohlによって始められた(非特許文献1)。バクテリアや細胞などのマイクロサイズ生体物質は、初期の研究から既に主な操作対象として取り上げられており、バイオテクノロジーは主要な応用分野の一つであった。
【0004】
誘電体粒子に働く誘電泳動力FDEPは、以下の式1で与えられる(非特許文献1)。以下、誘電体粒子が細胞である場合を例として説明する。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、a:球形近似したときの細胞の半径、ε:真空の誘電率、ε:培地の比誘電率、E:電界強度であり、∇は勾配を表す演算子である。この場合、∇Eは、電界強度の二乗Eの勾配なので、その位置でどれだけEが傾斜をもっているか、つまり電界が空間的にどれだけ急に変化をするかを意味する。また、Kはクラウジウス・モソッティ数と呼ばれ、式2で表される。ここで、εおよびεはそれぞれ、細胞および培地の複素誘電率を表す。Re[K]は、クラウジウス・モソッティ数の実部を表すと定義すると、Re[K]>0は正の誘電泳動を表し、細胞は電界勾配と同方向、つまり、電界集中部に向かって泳動される。Re[K]<0は負の誘電泳動を表し、電界集中部から遠ざかる方向、すなわち弱電界部に向かって泳動される。
【0007】
【数2】

【0008】
一般に複素誘電率εは式3で表される。
【0009】
【数3】

【0010】
ここで、ε:細胞あるいは培地の比誘電率、σ:細胞あるいは培地の導電率、ω:印加電界の角周波数を表す。式1、式2、式3から、誘電泳動力は、細胞の半径、クラウジウス・モソッティ数の実部および電界強度に依存することがわかる。また、クラウジウス・モソッティ数の実部は、培地および細胞の複素誘電率、電界周波数に依存して変化することがわかる。
【0011】
誘電泳動を利用した微生物数測定法として、誘電泳動とインピーダンス計測を組合せたDEPIM法が提案されている。DEPIM法では、これらのパラメータを適切に選択し、微生物に働く正の誘電泳動力を十分に大きくし、微生物を電極ギャップに捕集すると同時に、電気的計測を行い、試料液中の微生物数を定量測定することを特徴としている(非特許文献2)。
【0012】
また、負の誘電泳動を利用して細胞懸濁液内から不要細胞を除外して必要な細胞を高濃度で培養する培養装置が公開されている(特許文献1、特許文献2)。
【0013】
また、正の誘電泳動を利用して目的の領域に細胞を効率よく捕捉し、かつ機能性細胞の活性を損なわないで捕捉する方法と装置が公開されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−291097号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0057505号明細書
【特許文献3】特開2008−54511号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】H.Pohl:Dielectrophoresis,Cambridge University Press,Cambridge(1978)
【非特許文献2】J.Suehiro,R.Yatsunami,R.Hamada,M.Hara,J.Phys.D:Appl.Phys.32(1999)2814−2820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、誘電泳動原理を利用した細胞の濃縮方法はまだ報告されていない。
本発明は、負の誘電泳動を利用して、培地中の細胞を細胞への負荷少なくかつ効率よく濃縮する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願において開示される発明のうち代表的なものを挙げれば、次の通りである。
【0018】
本発明の細胞濃縮装置は、培地に含まれる細胞を濃縮する細胞濃縮装置であって、細胞が含まれる培地を入れる細胞懸濁液の容器と、前記細胞懸濁液の容器に対して移動するピストン型容器と、前記ピストン型容器の底面に配置される電極と、前記電極間に設けた前記ピストン容器の底面を貫通する貫通孔と、前記電極に交流を印加する電源と、細胞懸濁液の容器に対して、前記ピストン型容器を上下移動させる駆動機構と、前記貫通孔を通って前記ピストン型容器に入る培地を排出する排出機構と、を有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の細胞濃縮装置において、更に、前記ピストン底面の電極と前記細胞懸濁液容器の底面電極の間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置を有し、計測したインピーダンスによって培地中の細胞数を推定するようにしても良い。
また、本発明の細胞濃縮装置において、更に、前記電極の位置を計測する位置センサを有し、計測した電極の位置から細胞懸濁液の体積を求め、細胞濃度を計測するようにしても良い。
【0020】
本発明の細胞濃縮装置は、培地に含まれる細胞を濃縮する細胞濃縮装置であって、細胞が含まれる培地を入れる細胞懸濁液の容器と、前記細胞懸濁液の容器の内壁に多層状に配置される複数の電極と、前記電極間に設けた貫通孔と、前記電極に交流を印加する電源と、
交流を印加する、前記複数の電極を切り替えるスイッチと、前記細胞懸濁液の容器に入る培地を排出する排出機構と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、培地中の細胞を細胞への負荷少なくかつ効率よく濃縮することが可能となる。また、電気信号による細胞濃度の計測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1の細胞濃縮装置を示す図である。
【図2】交流電界の周波数とクラウジウス・モソッティ数の実部Re[K]の関係を示す図である。
【図3】本発明に係る誘電泳動による細胞濃縮を示す原理図である。
【図4】本発明の実施例1の細胞濃縮装置の濃縮の流れA〜Dを示す図である。
【図5】本発明の実施例2の細胞濃縮装置を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の細胞濃縮装置の濃度計測の流れA〜Dを示す図である。
【図7】電極間の細胞の等価回路を説明する図である。
【図8】本発明の実施例3の細胞濃縮システムを示す図である。
【図9】本発明の実施例3の細胞濃縮システムの制御フローチャートを示す図である。
【図10】本発明の実施例4の多層電極構造を有する細胞濃縮装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。各図面において、同一の構成要素には同一の番号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【実施例1】
【0024】
本発明の実施例1の細胞濃縮装置の一構成例を、図1に基づいて説明する。
【0025】
図1において、1はピストン型容器、2はピストン型容器1の底面に設ける電極対2a,2bを含む濃縮電極である。3は交流電源、4は濃縮電極2と交流電源3の間のスイッチである。5は細胞懸濁液の容器、6は細胞7が含まれた培地である。8は支持機構8Aを備える駆動機構である。9は排出チューブ10を備える排出機構である。
【0026】
ピストン型容器1底面の濃縮電極2は、金属ワイヤなどで直接形成する、または、ガラス、シリコン、石英、またはプラスチック類およびポリマー類等の絶縁性の固体基板に金属を蒸着または固定し、さらに電極間に貫通孔を設けることによって形成することが可能である。さらに、上記電極や支持体は、培地との化学反応や細胞への影響を抑える材質とすることが望ましい。電極の材料は、白金、金、クロム、パラジウム、ロジウム、銀、アルミニウム、タングステン、ITO、またはこれらの組み合わせの材料からなるものを用いることができる。なお、濃縮電極の断面形状は、円形が望ましいが、四角形や多角形などの形状でもよいことは言うまでもない。
【0027】
細胞培養、特に動物細胞培養には、イオンリッチの高導電率培地(1000mS/m以上)が一般的に使われている。図2は、交流電界の周波数とクラウジウス・モソッティ数の実部Re[K]の関係を示す図である。培地の導電率が1000mS/m以上になると、誘電泳動が周波数10Hz以内において全て負の誘電泳動になることがわかる。つまり、細胞は電界集中部から遠ざかる方向、すなわち弱電界部に向かって泳動される。なお、誘電泳動力は、Re[K]の大きさに比例するため、印加周波数は10Hz以内が望ましい。
【0028】
本発明の細胞濃縮原理を図3に基づいて説明する。培地6に置かれる細胞7には、重力G、浮力F、粘性力FDRAGが働く。ここで、前記交流電圧を印加する濃縮電極2が細胞7に近づくと、さらに細胞7には誘電泳動力FDEPが働く。垂直の上方向から濃縮電極2を細胞懸濁液の容器5に挿入する場合、FDEP+G>FDRAG+Fの条件に満足できれば、培地中の細胞7は濃縮電極2と共に、細胞懸濁液の容器5の底方向に移動される。それと同時に、培地は濃縮電極2の電極間の孔を通過してピストン型容器1に入り、排出される。その結果、細胞濃縮が実現できる。
【0029】
なお、本実施例では、濃縮電極2は細胞懸濁液の容器5の垂直の上から挿入する方法を説明したが、濃縮電極2は下からまたは横から挿入してもよいことはいうまでもない。しかし、重力Gと誘電泳動力の同方向を利用することで細胞濃縮効果を高めることができるため、垂直の上から挿入する方法が望ましい。
【0030】
本実施例の細胞濃縮の流れを、図4A〜Dに基づいて説明する。まず、図4Aにおいて、スイッチ4を閉にし、濃縮電極2に交流を加える。次に、図4Bに示すように、駆動機構8によりピストン型容器1を細胞懸濁液の容器5に移動させる。細胞7は、誘電泳動力により容器5の底に集積するのに対し、培地6は濃縮電極2の貫通孔を通り抜けて、上部へ移動する。次に、図4Cに示すように、排出機構9と排出チューブ10を利用して、上部へ移動した培地6を細胞懸濁液の容器5から外部に排出する。最後に、図4Dに示すように、スイッチ4を開にして、駆動機構8によりピストン型容器1を図4Aの元の位置に移動させる。上記動作により、細胞懸濁液の容器5中の細胞懸濁液を濃縮することができる。
【0031】
ここで、細胞濃縮電極2のギャップ間距離、印加電圧および印加周波数について説明する。
【0032】
細胞濃縮電極間の電界強度Eは、式4で表すことができる。
【0033】
【数4】

【0034】
ここで、E:電界強度、V:印加電圧、d:電極ギャップ間距離を表す。
【0035】
細胞培養用培地の主な組成である水は、理論上1.23Vで電気分解を起こすため、印加電圧Vは1.23V以下にする必要がある。また、式1に示すように、誘電泳動力は印加電圧に比例し、20mVより低くなると誘電泳動力が小さくなり、細胞を動かす力が小さくなるので、印加電圧Vは20mV以上が好ましい。
【0036】
また、細胞を操作する場合では、電界強度Eは、1×10V/m以上にする必要があるため、電極ギャップ間距離dは、123μm以下になる。さらに、濃縮対象細胞が動物細胞の場合では、平均直径が10μmとなるため、電極ギャップ間の距離は20μm〜30μmが望ましい。
【0037】
式5は、上記電極間のインピーダンスの大きさを表す。
【0038】
【数5】

【0039】
式中のSは、電極間対向面積である。式5より、電極ギャップ間距離dが一定となる時、印加周波数fが大きくなればなるほど、インピーダンスが小さくなることがわかる。つまり、高周波数を印加すると、電極間の抵抗が小さくなり、流れる電流が大きくなる。その結果、培地の温度が上昇し、細胞に適した培養環境を逸脱し、電流制御系の複雑化を招く。さらに、高周波発生装置の実現手段などを考慮すると、印加周波数は、10MHz以下が望ましい。また、培地の電気伝導率が大きくなると、低周波の交流電圧を印加しても電気分解が起こるので、印加周波数は100Hz以上が好ましい。
【0040】
本実施形態によれば、本発明の細胞濃縮装置は、従来の膜分離法、遠心分離法、沈降分離法などの代わりに、誘電泳動力で簡便かつ高効率に細胞を濃縮することができる。
【実施例2】
【0041】
本実施例は、本発明における濃縮電極と底面電極間のインピーダンスを計測することによって細胞濃度を計測するものである。本実施例を、図5に基づいて説明する。以下、実施例1と同じ部品には同符号を付してその説明を省略し、異なる部品のみ説明する。
【0042】
13は細胞懸濁液容器の底面に設ける底面電極、11は底面電極13に電気的繋ぐインピーダンス計測装置、12は濃縮電極2とインピーダンス計測装置を繋ぐスイッチである。14は濃縮電極の位置センサ、15は位置センサ用の磁気シートである。
【0043】
本実施例の細胞濃度計測の流れを図6A〜Dに基づいて説明する。まず、図6Aにおいて、スイッチ4を閉、スイッチ12を開にする。次に、図6Bに示すように、駆動機構8によりピストン型容器1を細胞懸濁液の容器5の方向に移動させる。細胞7は、誘電泳動力により容器5の底に集積するのに対し、培地6は濃縮電極2の貫通孔を通り抜けて、上部へ移動する。次に、図6Cに示すように、排出機構9と排出チューブ10を利用して、上部へ移動した培地6を細胞懸濁液の容器5から外部に排出する。ここで、スイッチ4を開、スイッチ12を閉にする。インピーダンス計測装置11は濃縮電極2と底面電極13の間のインピーダンスを計測して培地中の細胞数を推定する。さらに位置センサ14により細胞懸濁液の体積を計測する。その結果、濃縮後の細胞濃度を計測することができる。最後に、図6Dに示すように、スイッチ12を開にして駆動機構8によりピストン型容器1を図6Aの元の位置に移動させる。上記動作により、細胞懸濁液の容器5中の細胞懸濁液を濃縮し、さらに濃縮後の細胞濃度を計測することができる。
【0044】
ここで、濃縮電極2と底部電極13間のインピーダンスを計測することによって細胞濃度を計測する方法について説明する。
【0045】
以下、濃縮電極と底部電極間のインピーダンスをZ、静電容量をC、リアクタンスをx、レジスタンスをr、抵抗をRとして、図7と式6〜式10を用いて説明する。
【0046】
【数6】

【0047】
【数7】

【0048】
【数8】

【0049】
【数9】

【0050】
【数10】

【0051】
式6はCR並列等価回路の合成インピーダンスZを表す式、式7はCR並列等価回路のレジスタンスrを表す式、式8はCR並列等価回路のリアクタンスxを表す式、式9はCR並列等価回路の抵抗Rを表す式、式10はCR並列等価回路の静電容量Cを表す式である。
【0052】
図7は、培養容器の下部電極16間の電気的状態を等価回路で示したものである。電極16間には細胞を含んだ培地が存在している。細胞が電極間のギャップに移動する前には、培地を電極間誘電体として構成される静電容量C17と培地による電気伝導抵抗R18とが、並列に電極16間を結んでいる。
【0053】
培地は均一な液体である。これに対し、細胞はほとんど絶縁性に近い細胞膜がついているので、電気的な静電気容量と電気抵抗は培地とくらべて大きな差がある。言い換えれば、予め培地の静電容量と電気抵抗を計測しておいて、細胞が培地に入った時、その静電容量と電気抵抗の変化量で細胞数を計測する。インピーダンスは静電容量と電気抵抗で評価することができるので、予め細胞数とインピーダンスの関係を評価しておいて、インピーダンスから細胞数を推定できる。つまり、濃縮電極と底部電極間のインピーダンスによって細胞の数を推定することができる。
【実施例3】
【0054】
本発明の実施例3の細胞濃縮システムについて、図8を用いて説明する。
【0055】
図8において、制御処理器19、モニタ20以外の部分については実施例2と同様である。なお、図8中の破線は制御処理器19と各電気制御部品に繋ぐ電気信号線である。
【0056】
図8の細胞濃縮システムでは、前記実施例2で述べた細胞濃縮および細胞濃度計測を制御しモニタリングすることができる。まず、スイッチ4を閉、スイッチ12を開にする。次に、駆動機構8によりピストン型容器1を細胞懸濁液の容器5に移動させる。次に、排出機構9と排出チューブ10を利用して、培地6を細胞懸濁液の容器5から外部に排出する。ここで、スイッチ4を開、スイッチ12を閉にする。インピーダンス計測装置11は、濃縮電極2と底面電極13の間のインピーダンスを計測して培地中の細胞数を推定する。さらに、位置センサ14により細胞懸濁液の体積を計測する。その結果、濃縮後の細胞濃度を計測することができる。最後に、スイッチ12を開にして駆動機構8によりピストン型容器1を元の位置に移動させる。上記動作により、細胞懸濁液の容器5中の細胞懸濁液を濃縮し、さらに、濃縮後の細胞濃度を計測する。ここで、駆動機構8の駆動速度、濃縮電極の位置、細胞懸濁液の体積および細胞濃度をモニタリングできる。
【0057】
上記機能を利用すれば、目標細胞濃度に細胞を濃縮することが可能となる。その制御フローチャートを、図9に示す。まず、処理が開始されると、ステップST1において設定細胞濃度になっているかを判断する。満足する場合は、ステップST2に進み、スイッチ4開、スイッチ12開にしてステップST2が終了すると、ステップST5において制御がメインルーチンに移される。一方、満足しない場合は、処理がステップST3に進み、スイッチ4閉、交流電源3ON、駆動機構8が下に駆動することにより、培地中の細胞が濃縮される。さらに、処理がステップST4に進みスイッチ4開、スイッチ12閉、交流電源OFF、インピーダンス計測装置11ONとなり、インピーダンス計測および位置計測を実施する。ST3の設定細胞濃度に近づく処理、およびST4の計測処理をステップST1の条件を満足するまで行なう。
【実施例4】
【0058】
本発明の実施例4の細胞濃縮装置について、図10を用いて説明する。以下、実施例1,2の説明と同じ部品には同符号を付してその説明を省略し、異なる部品のみ説明する。
【0059】
ここで、濃縮電極2は細胞懸濁液の容器5の壁に多層構造の電極2A〜2Cで配置される。それぞれの濃縮電極2と交流電源3の間にそれぞれのスイッチ4A〜4Cを設ける。
【0060】
本実施例の細胞濃縮の流れを図10A〜Cに基づいて説明する。まず、図10Aにおいて、スイッチ4A閉、スイッチ4B開、スイッチ4C開にし、濃縮電極2Aに交流を加えて、濃縮電極2Aの下方に細胞を集積する。次に、スイッチ4A開、スイッチ4B閉、スイッチ4C開にし、濃縮電極2Bに交流を加えて、濃縮電極2Bの下方に細胞を集積する。次に、図10Bに示すように、スイッチ4A開、スイッチ4B開、スイッチ4C閉にし、濃縮電極2Cに交流を加えて、濃縮電極2Cの下方に細胞を集積する。最後に、図10Cに示すように、排出機構9と排出チューブ10を利用して、濃縮電極2Cの上方の培地6を細胞懸濁液の容器5から外部に排出する。上記動作により、細胞懸濁液の容器5中の細胞懸濁液を濃縮することができる。なお、本実施例では、3層の濃縮電極を説明したが、2層でも、或いは4層以上でもよいことは言うまでもない。
【0061】
上記本発明に関する説明は、主に細胞濃縮について述べたが、本発明の装置とシステムを逆に利用すれば、要求細胞濃度への希釈も実現できる。
【0062】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1‥ピストン型容器
2‥濃縮電極
3‥交流電源
4‥スイッチ
5‥細胞懸濁液の容器
6‥培地
7‥細胞
8‥駆動機構
8A‥支持機構
9‥排出機構
10‥排出チューブ
11‥インピーダンス計測装置
12‥スイッチ
13‥底面電極
14‥位置センサ
15‥磁気シート
16‥電極
17‥静電容量C
18‥抵抗R
19‥制御処理器
20‥モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地に含まれる細胞を濃縮する細胞濃縮装置であって、
細胞が含まれる培地を入れる細胞懸濁液の容器と、
前記細胞懸濁液の容器に対して移動するピストン型容器と、
前記ピストン型容器の底面に配置される電極と、
前記電極間に設けた前記ピストン容器の底面を貫通する貫通孔と、
前記電極に交流を印加する電源と、
細胞懸濁液の容器に対して、前記ピストン型容器を上下移動させる駆動機構と、
前記貫通孔を通って前記ピストン型容器に入る培地を排出する排出機構と、
を有することを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞濃縮装置において、
前記ピストン型容器の底面に配置される電極が、負の誘電泳動力によって細胞懸濁液中の細胞を前記細胞懸濁液の容器の底に押すことを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞濃縮装置において、更に、
前記ピストン底面の電極と前記細胞懸濁液容器の底面電極の間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置を有し、
計測したインピーダンスによって培地中の細胞数を推定することを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項4】
請求項3に記載の細胞濃縮装置において、更に、
前記電極の位置を計測する位置センサを有し、計測した電極の位置から細胞懸濁液の体積を求め、細胞濃度を計測することを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項5】
培地に含まれる細胞を濃縮する細胞濃縮装置であって、
細胞が含まれる培地を入れる細胞懸濁液の容器と、
前記細胞懸濁液の容器の内壁に多層状に配置される複数の電極と、
前記電極間に設けた貫通孔と、
前記電極に交流を印加する電源と、
交流を印加する、前記複数の電極を切り替えるスイッチと、
前記細胞懸濁液の容器に入る培地を排出する排出機構と、
を有することを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項6】
請求項5に記載の細胞濃縮装置において、
前記細胞懸濁液の容器の内壁に多層状に配置される複数の電極が、負の誘電泳動力によって細胞懸濁液中の細胞を前記細胞懸濁液の容器の底に押すことを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の細胞濃縮装置において、
前記電極間の電場印加電圧は20mV〜1.23Vとすることを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の細胞濃縮装置において、
前記電極間の電場印加周波数は100Hz〜10MHzとすることを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の細胞濃縮装置において、
前記電極間のギャップ距離は123μm以下とすることを特徴とする細胞濃縮装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の細胞濃縮装置において、
前記電極が、白金、金、クロム、パラジウム、ロジウム、銀、アルミニウム、タングステン、ITO、またはこれらの組み合わせの材料からなる細胞濃縮装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の細胞濃縮装置と、当該細胞濃縮装置の各構成を制御する制御処理器を備えた細胞濃縮システム。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載の細胞濃縮装置を用いた細胞濃縮方法であって、
前記細胞懸濁液の容器に細胞が含まれる培地を入れるステップと、
前記電極に交流を印加しつつ、前記ピストン型容器を下方に移動させるステップと、
前記貫通孔を通って前記ピストン型容器に入った培地を排出するステップと
を備えることを特徴とする細胞濃縮方法。
【請求項13】
請求項4に記載の細胞濃縮装置を用いた細胞濃縮方法であって、
前記細胞懸濁液の容器に細胞が含まれる培地を入れるステップと、
前記電極に交流を印加しつつ、前記ピストン型容器を下方に移動させるステップと、
前記貫通孔を通って前記ピストン型容器に入った培地を排出するステップと、
前記インピーダンス計測装置により、前記ピストン底面の電極と前記細胞懸濁液容器の底面電極の間のインピーダンスを計測し、前記位置センサにより、細胞懸濁液の体積を求めるステップと、
計測したインピーダンスと細胞懸濁液の体積から、細胞濃度を求めるステップと、
求めた細胞濃度が設定細胞濃度に達していれば、細胞の濃縮を終了し、設定細胞濃度以下であれば、前記ピストン型容器を下方に移動させるステップに移行するステップと
を備えることを特徴とする細胞濃縮方法。
【請求項14】
請求項5または請求項6に記載の細胞濃縮装置を用いた細胞濃縮方法であって、
前記細胞懸濁液の容器に細胞が含まれる培地を入れるステップと、
前記スイッチを切り替えることにより、前記多層状に配置される複数の電極に、一端から順に交流を印加するステップと、
前記貫通孔を通って前記細胞懸濁液の容器に入った培地を排出するステップと
を備えることを特徴とする細胞濃縮方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−42682(P2013−42682A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181369(P2011−181369)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】