細胞観察チェンバー
細胞観察チェンバー30おいて、骨格的な外殻構造部品をなす中間支持体32の底支持体31への装着、カバーブロック体33の、中間支持体32を装着した底支持体31への装着に、カム機構を内蔵したレバー機構36、37やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なうようにする。カム機構は、底支持体31に回動自在に支持されるコの字状レバー36、37の両脚部内面にそれぞれ形成されたカム溝36b、37bと、該カム溝内を滑動し、中間支持体32およびカバーブロック体33の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピン40、41とから構成される。これにより、細胞走化性検出・走化性細胞分離装置に使用される細胞観察チェンバーおいて、骨格的な外殻構造部品をなす中間支持体、カバーブロック体の組立・分解作業が簡易化されて、操作性が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、細胞観察チェンバーに関し、特に細胞が自力で一定の方向に移動するか否かの判定、細胞が自力で一定の方向に移動する状態の観察、自力で一定の方向に移動した細胞の数の計測および自力で一定の方向に移動する細胞の分離等のために使用される装置、すなわち、細胞走化性検出・走化性細胞分離装置において、その心臓部をなす、細胞を入れる複数のウエルと細胞の流路、細胞の動きを観察する窓等を備えて成る細胞観察チェンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞走化性検出・走化性細胞分離装置としては、種々のものが提案され、市販されているが、特に走化性因子による細胞の走化性または走化性因子阻害剤による細胞の走化性阻害を検出するに当たり、少量の細胞試料を用いて、細胞の自力に基づく動きを正確、しかも、その過程を容易に観察、定量し得るようにした装置として、特開2002−159287号公報に記載されたものがある。このものにおいては、また、細胞の走化性を利用して、細胞を分離することも可能である。
【0003】
上記公報に記載された細胞走化性検出・走化性細胞分離装置において、細胞観察チェンバーは、次のように構成されている。
図16に図示されるように、その細胞観察チェンバー00は、底部中央に細胞の動きを観察する窓01cを備えた円形の浅い皿状の底支持体01と、底支持体01の底部01a上に載置されるガラス基板08と、底支持体01に装着されて、後述するカバー04の底支持体01へのねじ結合により、ガラス基板08を上方から圧し、これを底部01a上に固定する皿状の中間支持体02と、中間支持体02の底部中央に形成された矩形状の開口部02cに嵌め込まれて、ガラス基板08上に定置される基板07およびパッキン部材010と、中間支持体02の中央凹部に嵌め込まれて、基板07をパッキン部材010を介して圧し、図示されない押しねじによりこれをガラス基板08上に固定するブロック体09と、底支持体01にねじ結合により装着されて、ブロック体09を上方から圧し、これを固定するカバー04とから成っている。基板07は、シリコン単結晶素材から製作されている。
【0004】
底支持体01と中間支持体02との結合は、底支持体01の胴体部内周面に形成された雌ねじ01dに、中間支持体02の胴体部外周面に形成された雄ねじ02dがねじ込まれることによって、さらに、底支持体01とカバー04とのねじ結合によってなされる。この底支持体01とカバー04とのねじ結合は、カバー04の袖部内周面に形成された雌ねじ04aに、底支持体01の外周面に形成された雄ねじ01eがねじ込まれることによってなされる。中間支持体02は、そのフランジ部02bの下面に形成されたガイドピン受孔02fに底支持体01の胴体部上面に立設されたガイドピン(図示されず)が挿通されることによって、底支持体01上に位置決めされる。また、ブロック体09は、その底面に形成されたガイドピン受孔09aに中間支持体02の底面に立設されたガイドピン013が挿通されることによって、中間支持体02内に位置決めされる。
【0005】
そして、これらの部品が一体に組み立てられて、使用される状態においては、基板07とガラス基板08との間に、少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とが形成される。これらのウエルのうちの一方のウエルには、細胞浮遊液が入れられ、他方のウエルには、走化性因子含有溶液が入れられて、細胞が、走化性因子に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動する。その状態の観察や移動する細胞の数の計測が、窓01cを通して顕微鏡観察により行なわれる。
【0006】
基板07とガラス基板08との間に形成される一方のウエルへの細胞浮遊液の注入、他方のウエルへの走化性因子含有溶液の注入は、マイクロピペットを用いて、ブロック体09、パッキン部材010、基板07にそれぞれ形成された専用の通孔を連ねて行なわれる。底支持体01、中間支持体02、カバー04を組み立てた後、底支持体01に充填された各溶液が漏れないように、中間支持体02とガラス基板08との間には、Oリング011が介装されている。他方、パッキン部材010も、基板07とブロック体09との間にあって、両ウエルとそれらの間を結ぶ流路から溶液が漏れないようにするために役立つ。
【0007】
従来の細胞観察チェンバーは、前記のように構成されているので、中間支持体02の底支持体01への装着、カバー04の底支持体01への装着は、いずれもねじ結合によって行なわれており、このため、それらの圧接には一定の圧力を必要とするため、専用の組立工具が必要となり、分解・組立の操作性が良くなく、煩雑なものであった。
【特許文献1】特開2002−159287号公報
【特許文献1】特開2003−088357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の発明は、従来の細胞観察チェンバーが有する前記のような問題点を解決して、中間支持体の底支持体への装着、カバーと一体化したブロック体の、中間支持体を装着した底支持体への装着に、専用の組立工具を必要とせず、関連部品相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、組立・分解の操作性が格段に向上された、細胞観察チェンバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明によれば、このような課題は、次のような細胞観察チェンバーにより解決される。
すなわち、その細胞観察チェンバーは、細胞の走化性の検出や走化性細胞の分離のために用いられる装置における細胞観察チェンバーであって、底部中央に細胞の動きを観察するための窓が設けられた皿状の底支持体と、前記底支持体の底面上に載置されるガラス基板と、底部中央に開口部が形成され、前記底支持体に装着されて、前記ガラス基板を上方から圧し、これを前記底支持体の底面上に固定する皿状の中間支持体と、細胞浮遊液および走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されるとともに、前記ガラス基板の中央部の表面上に定置されて、前記ガラス基板との間に少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを形成する凹凸形状が、前記ガラス基板との対向面に形成されている基板と、前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体の底部中央に形成された前記開口部に嵌め込まれ、前記基板を上方から圧するパッキン部材と、底部中央に前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体が装着される底支持体に装着され、前記基板を前記パッキン部材を介して上方から圧して、これを前記ガラス基板上に固定する皿状のカバーブロック体とを備えて成り、前記一対のウエルのうちの一方のウエルには、前記細胞浮遊液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの1つの通孔を連ねて供給もしくは採取され、他方のウエルには、前記走化性因子含有溶液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの他の1つの通孔を連ねて供給もしくは採取されて、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って細胞が移動する状態およびその数が、前記底支持体に設けられた窓を通して観察、計測されるようになっており、前記中間支持体の前記底支持体への装着、前記カバーブロック体の前記底支持体への装着は、カム機構を内蔵したレバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれていることを特徴としている。
【0010】
この細胞観察チェンバーによれば、その中間支持体の底支持体への装着、カバーブロック体の底支持体への装着は、カム機構を内蔵した(一対の)レバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれているので、組立・分解のための専用の工具が不要となり、組立・分解の操作性を格段に向上させることができる。また、これにより、装着に関連する部品相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、チェンバー内溶液の漏れを確実に防ぐことができる。
【0011】
好ましい実施形態では、カム機構は、底支持体に回動自在に支持される2本のコの字状レバーの両脚部にそれぞれ形成されたカム溝と、該カム溝内を滑動し、中間支持体およびカバーブロック体の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピンとから成るものとされる。これにより、カム機構の構造がきわめて簡単になるとともに、それぞれのコの字状レバーを回動操作するだけで、中間支持体の底支持体への装着と離脱、カバーブロック体の底支持体への装着と離脱とを行なうことができるので、カム機構の操作がきわめて容易になる。
【0012】
別の好ましい実施形態では、カバーブロック体には、さらに、ガイドブロック体が装着されており、該ガイドブロック体には、細胞浮遊液および走化性因子含有溶液のいずれかを吸入したマイクロピペットをガイドする通孔が、上下方向に複数貫通形成されているようにされる。これにより、マイクロピペットを用いた、細胞観察チェンバー内の一方のウエルへの細胞浮遊液の注入もしくは採取作業、他方のウエルへの走化性因子含有溶液の注入もしくは採取作業がきわめて容易になる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したとおり、本願の発明によれば、中間支持体の底支持体への装着、カバーブロック体の底支持体への装着が、カム機構を内蔵したレバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれているので、組立・分解のための専用の工具が不要となり、組立・分解の操作性を格段に向上させることができる。また、これにより、装着に関連する部品相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、チェンバー内溶液の液漏れを確実に防ぐことができる。
【0014】
また、カバーブロック体に、さらに、マイクロピペットをガイドする通孔が複数貫通形成されたガイドブロック体が装着される場合には、マイクロピペットを用いたウエルへの細胞浮遊液や走化性因子含有溶液の注入、採取作業がきわめて容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願の発明の細胞観察チェンバーの作動原理を示す、ウエル、流路および通孔を含む装置ユニット部分の縦断面図である。
【図2】同下面図である。
【図3】同流路部分の拡大横断面図である。
【図4】同流路部分の下面図である。
【図5】同流路部分の縦断面図である。
【図6】本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置の全体斜視図である。
【図7】本実施例の細胞観察チェンバーの全体斜視図である。
【図8】同平面図である。
【図9】同前側面図である。
【図10】同右側面図である。
【図11】同XI−XI線矢視断面図である。
【図12】同XII−XII線矢視断面図である。
【図13】同一部分解斜視図である。
【図14】さらに分解を進めた同一部分解斜視図である。
【図15】チェンバー内混合液の温度制御システムのブロック線図である。
【図16】従来の細胞観察チェンバーの分解図である。
【符号の説明】
【0016】
1…細胞の流路、2(2A、2B)…ウエル、3、3’、3−1、3−2…通孔、4、4’、4−1、4−2…通孔、5…溝、6…障壁、7…基板、8…ガラス基板、9…ブロック体、10…細胞走化性検出・走化性細胞分離装置、20…ケーシング、21…水準器、22…明るさ調整つまみ、23…位置調整つまみ、24…焦点調整レバー、30…細胞観察チェンバー、31…底支持体、31a…底部、31b…胴体部、31c…窓、32…中間支持体、32a…底部、32b…フランジ部、32c…開口部、33…カバーブロック体、33a…底部、33b…フランジ部、33c…中央凹部、34…ガイドブロック体、34a…中央膨大部、34b…アーム部、34c…通孔、35…温度センサー、35a…台座部分、35b…温度感知部、36…カム操作レバー、36a…脚部の端部、36b…カム溝、37…カム操作レバー、37a…脚部の端部、37b…カム溝、38…支持軸、39、40、41…ピン、42、43…Oリング、44…パッキン部材、45…液溜め室、46、47…ピン、50…ノート型パソコン、60…チェンバー内混合液温度制御システム、61…コンピュータ、62、63…温度調節器、64…加熱部、65…温度センサー、66…温度調節スイッチ、67…切り替えスイッチ、68…リレー、69…ソリッドステートリレー(SSR)、70…顕微鏡、a…中心線、L…液レベル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
細胞観察チェンバーを構成する中間支持体の底支持体への装着、同じくカバーブロック体の底支持体への装着を、カム機構を内蔵したレバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なうようにする。この場合において、カム機構は、底支持体に回動自在に支持される2本のコの字状レバーの両脚部にそれぞれ形成されたカム溝と、該カム溝内を滑動し、中間支持体およびカバーブロック体の外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピンとから成るものとし、中間支持体の底支持体への装着、カバーブロック体の底支持体への装着のために、それぞれ専用のカム機構を設けるようにする。また、カバーブロック体には、マイクロピペットの針先の出し入れを容易にするためのガイドブロック体を装着するのが望ましい。
【実施例】
【0018】
次に、本願の発明の一実施例について説明する。
先ず、本願の発明が適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置におけるチェンバーの作動原理について説明する。このチェンバーは、複数のウエルが流路を挟んで結合し、互いに連通しており、それぞれのウエルには、試料を注入もしくは採取するための管および試料の注入もしくは採取によるウエル内の昇圧もしくは減圧を回避するための管の2本の管が設けられている。この管は、ブロックに形成された通孔により形成されてもよい。ここで、流路とは、2つのウエルを連通させている部分であり、一方のウエルから他方のウエルに細胞が移動するときに、細胞が通過する通路である。この装置によれば、試料を注入・採取する際、流路において相対するウエルに向かう方向の液流が生じにくく、流路の両端にあるウエルの液体が互いに混ざり合うことがなく、その結果、細胞が専ら走化性因子の作用のみによって移動する場合を検出することができる。
【0019】
図に基づいて、その原理を説明すると、図1および図2において、1は流路、2は細胞浮遊液や検体溶液等の試料を収納するウエルであり、一対のウエル2A、2Bから成る。これらの試料は、マイクロピペット等により、ブロック体9に形成された通孔3を通じてウエル2に供給され、また、ウエル2から採取される。ウエル2の一方のウエル2Aに細胞浮遊液を入れたとき、細胞は、他方のウエル2Bに入れられた検体溶液が走化性因子を含むもの(走化性因子含有溶液)である場合には、ウエル2Bに向かって移動しようとし、流路1を通過する。
【0020】
試料の1つである細胞浮遊液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Aに供給する際、注入する液圧により、細胞が流路1を通過して反対側のウエル2Bに移動してしまうことが生じる。この事態が生ずると、細胞の移動が検体の有する走化性因子によるのか否かの判定に混乱を与える要因になるとともに、細胞の分離を目的とする場合には、所望の細胞に他の細胞が混入してしまうことになり、目的が達せられないことになる。この問題点を解決するために、この装置においては、通孔3に加わる注入圧を通孔4の方に逃がし、流路1に向かって細胞が強制的に流されることを防止している。
【0021】
同様に、検体溶液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Bに供給する際にも、注入する液圧により、検体溶液が流路1を通過して反対側のウエル2Aに入り、細胞浮遊液と混合する事態が生じ、細胞がその走化性により流路1を通過する現象が混乱ないし阻害される。このような事態の発生を防止するために、検体を収納するウエル2Bにおいても、通孔4を設けるようにしている。
【0022】
このようにして、試料を注入する通孔3に連通する通孔4を設けることにより、水平方向への液圧の影響を最小にすることができ、検体溶液が走化性を有するか否かの判定をより正確に行なうことができる。通孔4による圧力差の緩和作用は、ウエルから細胞などの試料を採取する際の減圧を緩和する上でも有効であり、試料の採取を容易にする。
【0023】
本装置において、ウエル2に試料を注入する場合を、図1により説明すると、予め各ウエル2A、2Bおよび流路1を細胞等張液で満たしておき、ウエル2Aの通孔3から細胞浮遊液を、ウエル2Bの通孔3から走化性因子含有溶液を、それぞれ略等量ずつ注入する。このようにすることにより、試料注入時の昇圧は、通孔4により緩和される。
【0024】
流路1は、図3ないし図5に図示されるように、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向と直交する方向に走る障壁6に、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向に沿わせて形成された1本ないし複数本、例えば、約100本の溝5により構成されている。これらの溝5は、細胞の径もしくはその変形能に合わせた幅に形成される。このような溝5を設けることによって、細胞を個々のレベルで観察することが可能になり、また、細胞を所望の種類毎に分離することが可能になる。
なお、図1ないし図3における符号7aは、ウエル2Aとウエル2Bとの間に形成される土手を示し、図3および図4における符号7bは、土手7aに形成されるテラスを示している。テラス7bは、障壁6を囲む平坦部である。
【0025】
細胞が流路1を移動する状態の観察、流路1を通過中もしくは通過後の細胞数の計測は、図3に図示されるように、流路1に検知装置、例えば、顕微鏡70をセットすることによって行なわれる。また、顕微鏡とビデオカメラあるいはCCDカメラとを組み合わせることにより、自動的に細胞が移動する経過を記録することができる。
【0026】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成る装置を1ユニットとして、複数のユニットを集積させることにより、他種類の検体または他種類の細胞を対象として、同時に細胞の移動(走化性)の検出や走化性細胞の分離を行なうことができる装置を構成することができる。このような装置は、全体的に小型化されており、試料の処理を微量で行なうことができる。また、液体の注入・採取量のプログラム制御により、処理を自動化して行なうことが容易である。
【0027】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットは、実際には、次のようにして製作される。
ウエル2A、2B、流路1の内部形状は、シリコン単結晶素材から成る基板7の表面上に、既知の集積回路の製作技術を応用することによって形成することができる。このようにして、その表面上にウエル2A、2B、流路1の内部形状を写した凹凸形状が刻設された基板7をガラス基板8と対面させて、重ね合わせれば、それら両基板7、8の間にウエル2A、2B、流路1が形成される。
【0028】
基板7には、また、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通しているとともに、ブロック体9に上下方向に貫通形成された通孔3、4にそれぞれ連通している。なお、基板7とブロック体9との間には、実際には、パッキンが介在させられて、それらの間の液封がなされるようになっている。
【0029】
次に、前記したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットが複数組み込まれて成る本実施例の細胞観察チェンバーについて、詳細に説明する。
先ず、本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置の全体構造のあらましについて説明する。
【0030】
図6に図示されるように、本実施例の細胞観察チェンバー30が適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置10は、比較的高さの低い直方体形状のケーシング20の上面からその一部が露出するようにして、細胞観察チェンバー30が収納されている。また、そのケーシング20の上面には、ノート型パソコン50が設置されており、このノート型パソコン50の作動により、細胞浮遊液等含有溶液の温度制御部に対する指令、同温度データや細胞観察データの解析、記録、モニター表示等が行なわれる。このモニター表示には、細胞の実際の動きの映像表示も含まれる。
【0031】
ケーシング20の上面には、他に水準器21が取り付けられており、装置10の水平を常時監視することができる。また、ケーシング20の前側面には、図6において右下方から左上方に向かって順に、顕微鏡による細胞観察画像の明るさ(ライトの強弱)調整つまみ22、顕微鏡の位置調整つまみ23、焦点調整レバー24等が取り付けられている。図示されない顕微鏡の光学系光軸は、ケーシング20内において水平に配置されているので、ケーシング20、牽いては装置10の全高を低くすることができ、机上に置かれた本装置10に対して、座位にて細胞走化性の検出、走化性細胞の分離、計数等の作業を行なうことができ、操作性が大きく改善される。
【0032】
細胞観察チェンバー30は、次のようにして構成されている。
図7〜図10、図13および図14に図示されるように、本細胞観察チェンバー30は、その外観および後述するカム操作レバー36、37の簡単な回動操作によるその一部分解から、次のようにして構成されていることが理解されるであろう。すなわち、最下段に配置される円形皿状の底支持体31の上には、同じく円形皿状の中間支持体32が装着され、中間支持体32の上には、同じく円形皿状で、底部33aが比較的厚く、外周フランジ部33bが比較的幅広のカバーブロック体33が装着され、カバーブロック体33の上には、該カバーブロック体33の中央凹部33cを跨ぎ、その中央膨大部34aを該中央凹部33cに沈めるようにして、ガイドブロック体34が装着され、カバーブロック体33の上面には、温度センサー35の台座部分35aが着座させられている。
【0033】
そして、カバーブロック体33は、カム操作レバー36を回動することにより、中間支持体32に上方から圧接され、これにより、中間支持体32が、底支持体31に上方から圧接されて、最終的には、カバーブロック体33が、底支持体31に装着される。また、中間支持体32は、カム操作レバー37を回動することにより、底支持体31に上方から圧接されて、これに装着されている。なお、実際の装着の順序は、中間支持体32が底支持体31に装着されてから、カバーブロック体33が底支持体31に装着されることになる。分解の場合には、この逆の順序になる。カバーブロック体33は、従来の細胞観察チェンバー00(図16参照)におけるブロック体09とカバー04とが合体されたものに相当している。
【0034】
カム操作レバー36、37は、いずれも平面視コの字状をなしており、それらの両脚部の端部36a、37aは、円形皿状の底支持体31の胴体部31bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置に植設された一対の支持軸38の回りに回動自在に支持されている。また、それらの両脚部の端部36a、37aは、正面視矩形状に膨大化されていて、それらの内面には、カム操作レバー36については、カム溝36bが、カム操作レバー37については、カム溝37bが、それぞれ湾曲状に形成されている(図13、図14参照)。
【0035】
円形皿状のカバーブロック体33の外周フランジ部33bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン40が植設されている(図14、図11参照)。このピン40は、カム操作レバー36のカム溝36bに嵌まり込んで、カム操作レバー36が回動操作されるとき、カム溝36b内を滑動する。これにより、カバーブロック体33は、その外周フランジ部33bの下面が中間支持体32の外周フランジ部32bの上面に上方から接近して、これに当接し、最終的には、中間支持体32の開口部32cに嵌め込まれたパッキング部材44と基板7とをガラス基板8に押し付けながら、底支持体31に装着される。また、カム操作レバー36を逆に回動操作することにより、カバーブロック体33は、底支持体31から取り外される。カバーブロック体33の外周フランジ部33bと中間支持体32の外周フランジ部32bとの間には、カバーブロック体33が中間支持体32に装着されたとき、これらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するために、Oリング42が介装されている。
【0036】
同様に、円形皿状の中間支持体32の外周フランジ部32bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン41が植設されている(図11参照)。このピン41は、カム操作レバー37のカム溝37bに嵌まり込んで、カム操作レバー37が回動操作されるとき、カム溝37b内を滑動する。これにより、中間支持体32は、その外周フランジ部32bの下面が底支持体31の胴体部31bの上面に上方から接近して、これに当接し、底支持体31に堅固に装着される。また、カム操作レバー37を逆に回動操作することにより、中間支持体32は、底支持体31から取り外される。
【0037】
ガイドブロック体34の中央膨大部34aには、上下方向に貫通し、ガイドブロック体34の長さ方向に一列に整列させられて、細い6個の通孔34cが形成されている。これらの通孔34cは、作業者が細胞浮遊液や検体溶液等の試料を含んだマイクロピペット(図示されず)の針先をチェンバー30内に挿入し、また、そこから抜き出すときに、マイクロピペットの針先をガイドするとともに、マイクロピペットから吐出されたそれらの溶液を後述するウエル(このウエルは、前記した、一対のウエル2A、2B(図1)のうちのいずれかのウエルと同じものである。)に導くのに役立つ。6個の通孔34cの整列位置は、ガイドブロック体34を平面視幅方向に二分する中心線aから片方にわずかに変位させられている(図8参照)。
【0038】
ガイドブロック体34は、その中央膨大部34aを挟んだ両側のアーム部34b、34bとカバーブロック体33のフランジ部33bとの間にピン39が通されることにより、位置決めされて、フランジ部33b上に着脱自在に装着されている。したがって、ガイドブロック体34は、これをカバーブロック体33から取り外し、両側のアーム部34b、34bの位置が入れ替わるように180度回転させて、反転前と同様にピン39により位置決めすることにより、カバーブロック体33のフランジ部33b上に再び着脱自在に装着することができる。このとき、6個の通孔34cの整列位置は、反転前の整列位置と中心線aに関して対称の位置にある。
【0039】
カバーブロック体33と中間支持体32との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン46a、46bが、カバーブロック体33と中間支持体32とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている。同様に、中間支持体32と底支持体31との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン47a、47bが、中間支持体32と底支持体31とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている。ピン46aとピン46b、ピン47aとピン47bは、それぞれ異なる径を持ち、組立時の組み間違いを未然に防止する機能を果している。
【0040】
次に、本細胞観察チェンバー30の内部構造について、詳細に説明する。
底支持体31は、その底部31aの中央に、細胞の動きを観察する窓31cが設けられている。また、その底面上には、透明なガラス基板8が載置されている。このガラス基板8は、中間支持体32が底支持体31に装着されたとき、中間支持体32の底部32aにより底部31aに強く押し付けられて、そこに固定される。底部32aとガラス基板8との間には、それらの外周側に、Oリング43が介装されており、これにより、それらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するようになっている。
【0041】
ガラス基板8の中央部の表面上には、基板7が載置されている。これらガラス基板8、基板7は、前記した、図1におけるガラス基板08、基板07と基本的に同じ構造の同じものである。したがって、基板7のガラス基板8と対向する側の表面上には、一対のウエル2A、2Bと、これらを連通させる流路1の内部形状を写した凹凸形状が6ユニット分、刻設されており、これがガラス基板8と対面させられて、重ね合わされた状態においては、それら両基板7、8間に6ユニット分のウエル2A、2B、流路1の組合せ構造が形成される。
【0042】
基板7には、また、前記のとおり、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通している。
【0043】
中間支持体32の底部32aの中央部には、開口部32cが形成されており、この開口部32cには、底部32aの厚さよりもわずかに厚いパッキン部材44が嵌め込まれる。このパッキン部材44は、カバーブロック体33が前記のようにして底支持体31に装着されると、その開口部32cから突出して、ガラス基板8上に載置された基板7を上方から圧し、これをガラス基板8に押し付ける。
基板7は、非常に薄いので、図11、図12においては、ガラス基板8とパッキン部材44とに挟まれた太い実線の線分として描かれている。基板7に形成される通孔3’、4’、ウエル2A、2B、流路1の形状は、図示されていない。
【0044】
このパッキン部材44には、基板7に貫通形成された通孔3’、4’にそれぞれ連通する通孔3−1、4−1が、通孔3’、4’の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。通孔3’、4’は、それらの一対がウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに形成されているから、1ユニットについて合計4個の通孔が形成されていることになり、それが6ユニット分集積されるから、総計24個の通孔(通孔3−1、4−1の群)が縦横に整列させられて形成されていることになる。通孔3−1は、図11において、紙面と直交する奥方および手前側にあり、図示されていない。
【0045】
なお、パッキン部材44に貫通形成される通孔3−1、4−1は、必ずしも分離して別々に形成される必要はなく、通孔3−1が通孔4−1に合体させられてもよい。このようにしても、例えば、流下する溶液と上昇しようとする気体とが混じり合ってしまうことはなく、気体は、流下する溶液中を抜けて、その上の通孔4−2を通って排気されるから、ウエル内の昇圧を緩和する機能に支障は生じない。図12には、このようにされたパッキン部材44の構造が図示されている。また、そのためには、カバーブロック体33に形成される通孔3−2、4−2の下端部をわずかな長さ切除して、そこに小さな空所を形成するようにすると、昇圧・降圧緩和の機能を一層確実に保持することができる(図12中、通孔3−2、4−2直下の左右2つの小さな空白部参照)。
【0046】
カバーブロック体33が底支持体31に装着されるとき、カバーブロック体33の底部33aの下面は、パッキン部材44の上面に当接して、これを圧する。したがって、基板7は、結局、パッキン部材44を介してカバーブロック体33により押圧されて、ガラス基板8上に固定されることになる。
【0047】
カバーブロック体33の底部33aの周縁寄りの1個所には、チェンバー30内の混合液が中央凹部33cに出入りするための比較的大径の通孔33dが上下方向に貫通形成されている。また、底部33aの中央部には、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1に連通する通孔3−2、4−2が、通孔3−1、4−1の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。これら底部33aの中央部に形成された通孔群のうち、ウエル2A側に属する通孔4−2の6ユニット分、すなわち、ウエル2A側に属する整列させられた6個の通孔4−2は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している。
【0048】
ガイドブロック体34を図8に図示される姿勢から180度回転させて、両側のアーム部34b、34bの位置を入れ替えれば、今度は、ウエル2B側に属する整列させられた6個の通孔4−2が、ガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応することになる。ガイドブロック体34のこのような姿勢の転換は、例えば、マイクロピペットによる細胞浮遊液のウエル2Aへの注入と、マイクロピペットによる走化性因子含有溶液のウエル2Bへの注入とが、引き続いて行なわれる場合に、採られることができる。
【0049】
以上の説明から明らかなとおり、基板7に貫通形成された通孔3’、4’、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1、カバーブロック体33の底部33aに貫通形成された通孔3−2、4−2は、それぞれ互いに連通し合っており、このようにして連通し合う通孔4’、4−1、4−2から形成される1本の通孔集合体の6ユニット分は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34に形成された6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している(図11、図12参照)。なお、基板7に貫通形成された通孔3’、4’は、非常に微小であるので、図11、図12においては、図示されていない。通孔4−1、4−2から成る通孔の集合体は、図1における通孔4に相当している。
【0050】
したがって、今、ウエル2A、2B、通路1に細胞等張液が満たされ、ウエル2Bに走化性因子含有溶液が注入されているとし、ウエル2Aにマイクロピペットにより細胞浮遊液を注入しようとするとき、マイクロピペットの先端を使用対称となるユニットのウエル2Aに通ずる通孔34cに挿入して、これにガイドさせながら所要深さまで進入させ、そこで細胞浮遊液を吐出すると、吐出された細胞浮遊液は、次いで、通孔4−2、4−1、4’を順次流下して、ウエル2Aに到る。このとき、ウエル2A内の圧力上昇は、通孔3’、3−1、3−2を経て外部に逃がすことができ、走化性因子含有溶液に反応する細胞の走化性に対する圧力変動の影響を最小限にすることができる。
【0051】
ウエル2Bにマイクロピペットにより走化性因子含有溶液を注入しようとするときも、同じ要領にて行ない、マイクロピペットから吐出された走化性因子含有溶液を、今度は、ウエル2B側に属する通孔4−2、4−1、4’を順次流下させて、ウエル2Bに到らせることができる。
【0052】
ウエル2Aに供給された細胞浮遊液中の細胞は、ウエル2B内の走化性因子含有溶液に反応すると、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する。その状態および数を、細胞レベルで、窓31cを通して顕微鏡により観察、計測することができる。
【0053】
このようにして、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する細胞の走化性の検出、その性質を利用した細胞の分離などの作業を行なうのには、これらの領域を満たしている混合液の温度を、その細胞の活動に適した温度に管理する必要がある。また、細胞の温度変化による反応等をより正確に計測、分析したいときにも、混合液の温度管理は必要である。なお、ここで、これらの領域を満たしている混合液とは、細胞等張液と細胞浮遊液との混合液、細胞等張液と走化性因子含有溶液との混合液であり、両混合液の温度は、略等しい。
【0054】
上記の目的のために、本実施例においては、図15に図示されるように、2台の温度調節器62、63を用い、そのうちの1台目の温度調節器62は、温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測し、ヒータにより加熱される加熱部64を、チェンバー30をその上にセットした状態で、温度制御して、温度管理の精度を高める。また、2台目の温度調節器63は、加熱部64を事前に加熱しておき、混合液の温度が所望の温度に調節できるまでの時間を短縮できるようにする。この温度調節器63は、また、加熱部64の過熱防止の機能をも備えている。
【0055】
温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測するために、温度センサー35の温度感知部35bは、図12に図示されるように、台座部分35aから下方に伸びて、混合液と同等の溶液で満たされた液溜め室45内に直接沈められている。この液溜め室45内の溶液は、加熱部64による間接的な加熱を一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液と等しく受けて、その溶液の温度と等しい温度に昇温することができ、温度センサー35は、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液の温度と略等しい温度を測定することができる。液溜め室45内の溶液の液位レベルは、カバーブロック体33内の混合液の液位レベルLと略同等である。
【0056】
液溜め室45は、カバーブロック体33の胴体部の外周壁の一部が上下方向に削り取られて形成された凹部が、中間支持体32の内周壁により周囲を囲まれて形成されたものである。この液溜め室45は、ウエル2A、2B、通路1およびこれらに連通する領域から隔離されて設けられるのが望ましい。このために、液溜め室45の下方部において、液溜め室45がウエル2A、2B、通路1およびこれらに連通する領域と接続する個所にパッキン(図示されず)を介装するようにする。このようにすることにより、1台目の温度調整器62の温度感知部35bは、一対のウエル2A、2Bや流路1内に満たされた細胞を含む溶液を汚染することなく、その溶液の温度を正確に測定することができる。
【0057】
図15に図示されるブロック線図により、チェンバー内混合液の温度制御システム60について、さらに詳細に説明すると、先ず、温度調節スイッチ66がONにされ、切り替えスイッチ67の予熱側がONにされることにより、温度調節器63による調節下での加熱部64の予熱が開始される。この予熱は、加熱部64の温度をセンサ65により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。予熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。このコンピュータ61は、ノート型パソコン50に内蔵されるものである。69は、ソリッドステートリレー(SSR)である。
【0058】
加熱部64の温度が所定の予熱温度に到達し、加熱部64の上に細胞観察チェンバー30が載置されると、切り替えスイッチ67の加熱側がONになるように切り替えられ、温度調節器62による調節下での加熱部64の加熱が開始される。この加熱は、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱することを目的としており、チェンバー内混合液の温度をセンサ35により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。加熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。加熱部64は、前記した予熱により、所定の温度にまで上昇しているので、この加熱により、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱するのは、短時間で行なわれる。
【0059】
チェンバー内混合液の温度が所定の温度に到達すると、温度調節器62は、その温度を維持するように加熱部64の加熱制御を行なう。何らかの原因、例えば、チェンバー30が加熱部64に接触していない、などにより、加熱部64の温度が異常(例えば、43°C)に上昇すると、温度調節器63がリレー68を作動させ、回路を遮断する。なお、温度調節器62も、チェンバー内混合液の温度が異常(例えば、38〜40°C)に上昇すると、リレー68を作動させ、回路を遮断するようになっている。
【0060】
コンピュータ61は、加熱部64の温度、チェンバー内混合液の温度、センサ35、65の状態等を常時モニターし、ディスプレイに表示し、また、温度調節器62、温度調節器63に加熱温度、予熱温度の指定をそれぞれ行なう。
【0061】
なお、ここで、本実施例の細胞観察チェンバー30の実際の組立の手順について、詳細に説明しておく。
先ず、底支持体31にガラス基板8を装着する。次いで、底支持体31に中間支持体32を嵌め合わせ、カム操作レバー37を回動することにより、中間支持体32を上方からOリング43を介して底支持体31に圧接させて、これに装着する。これにより、媒質の漏洩が防止されて、これらの部品組立体に容器としての機能を持たせることができる。次いで、中間支持体32の底部32aの中央部に形成された開口部32cにガイドさせながら、基板7をガラス基板8上に載置し、底面部にパッキン部材44が装着されたカバーブロック体33を中間支持体32に嵌め合わせ、カム操作レバー36を回動することにより、パッキン部材44を上方から基板7に圧接させるとともに、基板7をガラス基板8に圧接させる。同時に、カバーブロック体33は、Oリング42を介して中間支持体32に圧接されて、媒質の漏洩が防止され、これらの部品全体から成る組立体(細胞観察チェンバー30)にも、容器としての機能を持たせることができる。
【0062】
本実施例の細胞観察チェンバー30は、前記のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
中間支持体32の底支持体31への装着、カバーブロック体33の底支持体31への装着は、カム機構を内蔵したレバー機構(カム操作レバー)36、37を用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれているので、組立・分解のための専用の工具が不要となり、組立・分解の操作性を格段に向上させることができる。また、これにより、装着に関連する部品(底支持体31、中間支持体32、カバーブロック体33)相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、チェンバー内溶液の漏れを確実に防ぐことができる。
【0063】
また、カム機構は、底支持体31に回動自在に支持される2本のコの字状レバー36、37の両脚部にそれぞれ形成されたカム溝36b、37bと、該カム溝36b、37b内を滑動し、カバーブロック体33および中間支持体31の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピン40、41とから成るものとされているので、カム機構の構造がきわめて簡単になるとともに、コの字状レバー36、37を回動操作するだけで、中間支持体32の底支持体31への装着と離脱、カバーブロック体33の中間支持体32への装着と離脱とを行なうことができるので、カム機構の操作がきわめて容易になる。
【0064】
また、カバーブロック体33には、さらに、ガイドブロック体34が装着されており、該ガイドブロック体34には、細胞浮遊液および走化性因子含有溶液のいずれかを吸入したマイクロピペットをガイドする通孔34cが、上下方向に複数貫通形成されているので、マイクロピペットを用いた、細胞観察チェンバー30内のウエルへの細胞浮遊液や走化性因子含有溶液の注入もしくは採取作業がきわめて容易になる。
その他、前記したような種々の効果を奏することができる。
【0065】
なお、本願の発明は、以上の実施例に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
例えば、カム操作レバー36、37のような、カム機構を内蔵したレバー機構に代えて、トグルクランプ方式や、押圧後に爪がクランプする圧縮クランプ方式によるクランプ機構などの採用も可能である。
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、細胞観察チェンバーに関し、特に細胞が自力で一定の方向に移動するか否かの判定、細胞が自力で一定の方向に移動する状態の観察、自力で一定の方向に移動した細胞の数の計測および自力で一定の方向に移動する細胞の分離等のために使用される装置、すなわち、細胞走化性検出・走化性細胞分離装置において、その心臓部をなす、細胞を入れる複数のウエルと細胞の流路、細胞の動きを観察する窓等を備えて成る細胞観察チェンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞走化性検出・走化性細胞分離装置としては、種々のものが提案され、市販されているが、特に走化性因子による細胞の走化性または走化性因子阻害剤による細胞の走化性阻害を検出するに当たり、少量の細胞試料を用いて、細胞の自力に基づく動きを正確、しかも、その過程を容易に観察、定量し得るようにした装置として、特開2002−159287号公報に記載されたものがある。このものにおいては、また、細胞の走化性を利用して、細胞を分離することも可能である。
【0003】
上記公報に記載された細胞走化性検出・走化性細胞分離装置において、細胞観察チェンバーは、次のように構成されている。
図16に図示されるように、その細胞観察チェンバー00は、底部中央に細胞の動きを観察する窓01cを備えた円形の浅い皿状の底支持体01と、底支持体01の底部01a上に載置されるガラス基板08と、底支持体01に装着されて、後述するカバー04の底支持体01へのねじ結合により、ガラス基板08を上方から圧し、これを底部01a上に固定する皿状の中間支持体02と、中間支持体02の底部中央に形成された矩形状の開口部02cに嵌め込まれて、ガラス基板08上に定置される基板07およびパッキン部材010と、中間支持体02の中央凹部に嵌め込まれて、基板07をパッキン部材010を介して圧し、図示されない押しねじによりこれをガラス基板08上に固定するブロック体09と、底支持体01にねじ結合により装着されて、ブロック体09を上方から圧し、これを固定するカバー04とから成っている。基板07は、シリコン単結晶素材から製作されている。
【0004】
底支持体01と中間支持体02との結合は、底支持体01の胴体部内周面に形成された雌ねじ01dに、中間支持体02の胴体部外周面に形成された雄ねじ02dがねじ込まれることによって、さらに、底支持体01とカバー04とのねじ結合によってなされる。この底支持体01とカバー04とのねじ結合は、カバー04の袖部内周面に形成された雌ねじ04aに、底支持体01の外周面に形成された雄ねじ01eがねじ込まれることによってなされる。中間支持体02は、そのフランジ部02bの下面に形成されたガイドピン受孔02fに底支持体01の胴体部上面に立設されたガイドピン(図示されず)が挿通されることによって、底支持体01上に位置決めされる。また、ブロック体09は、その底面に形成されたガイドピン受孔09aに中間支持体02の底面に立設されたガイドピン013が挿通されることによって、中間支持体02内に位置決めされる。
【0005】
そして、これらの部品が一体に組み立てられて、使用される状態においては、基板07とガラス基板08との間に、少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とが形成される。これらのウエルのうちの一方のウエルには、細胞浮遊液が入れられ、他方のウエルには、走化性因子含有溶液が入れられて、細胞が、走化性因子に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動する。その状態の観察や移動する細胞の数の計測が、窓01cを通して顕微鏡観察により行なわれる。
【0006】
基板07とガラス基板08との間に形成される一方のウエルへの細胞浮遊液の注入、他方のウエルへの走化性因子含有溶液の注入は、マイクロピペットを用いて、ブロック体09、パッキン部材010、基板07にそれぞれ形成された専用の通孔を連ねて行なわれる。底支持体01、中間支持体02、カバー04を組み立てた後、底支持体01に充填された各溶液が漏れないように、中間支持体02とガラス基板08との間には、Oリング011が介装されている。他方、パッキン部材010も、基板07とブロック体09との間にあって、両ウエルとそれらの間を結ぶ流路から溶液が漏れないようにするために役立つ。
【0007】
従来の細胞観察チェンバーは、前記のように構成されているので、中間支持体02の底支持体01への装着、カバー04の底支持体01への装着は、いずれもねじ結合によって行なわれており、このため、それらの圧接には一定の圧力を必要とするため、専用の組立工具が必要となり、分解・組立の操作性が良くなく、煩雑なものであった。
【特許文献1】特開2002−159287号公報
【特許文献1】特開2003−088357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の発明は、従来の細胞観察チェンバーが有する前記のような問題点を解決して、中間支持体の底支持体への装着、カバーと一体化したブロック体の、中間支持体を装着した底支持体への装着に、専用の組立工具を必要とせず、関連部品相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、組立・分解の操作性が格段に向上された、細胞観察チェンバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明によれば、このような課題は、次のような細胞観察チェンバーにより解決される。
すなわち、その細胞観察チェンバーは、細胞の走化性の検出や走化性細胞の分離のために用いられる装置における細胞観察チェンバーであって、底部中央に細胞の動きを観察するための窓が設けられた皿状の底支持体と、前記底支持体の底面上に載置されるガラス基板と、底部中央に開口部が形成され、前記底支持体に装着されて、前記ガラス基板を上方から圧し、これを前記底支持体の底面上に固定する皿状の中間支持体と、細胞浮遊液および走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されるとともに、前記ガラス基板の中央部の表面上に定置されて、前記ガラス基板との間に少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを形成する凹凸形状が、前記ガラス基板との対向面に形成されている基板と、前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体の底部中央に形成された前記開口部に嵌め込まれ、前記基板を上方から圧するパッキン部材と、底部中央に前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体が装着される底支持体に装着され、前記基板を前記パッキン部材を介して上方から圧して、これを前記ガラス基板上に固定する皿状のカバーブロック体とを備えて成り、前記一対のウエルのうちの一方のウエルには、前記細胞浮遊液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの1つの通孔を連ねて供給もしくは採取され、他方のウエルには、前記走化性因子含有溶液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの他の1つの通孔を連ねて供給もしくは採取されて、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って細胞が移動する状態およびその数が、前記底支持体に設けられた窓を通して観察、計測されるようになっており、前記中間支持体の前記底支持体への装着、前記カバーブロック体の前記底支持体への装着は、カム機構を内蔵したレバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれていることを特徴としている。
【0010】
この細胞観察チェンバーによれば、その中間支持体の底支持体への装着、カバーブロック体の底支持体への装着は、カム機構を内蔵した(一対の)レバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれているので、組立・分解のための専用の工具が不要となり、組立・分解の操作性を格段に向上させることができる。また、これにより、装着に関連する部品相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、チェンバー内溶液の漏れを確実に防ぐことができる。
【0011】
好ましい実施形態では、カム機構は、底支持体に回動自在に支持される2本のコの字状レバーの両脚部にそれぞれ形成されたカム溝と、該カム溝内を滑動し、中間支持体およびカバーブロック体の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピンとから成るものとされる。これにより、カム機構の構造がきわめて簡単になるとともに、それぞれのコの字状レバーを回動操作するだけで、中間支持体の底支持体への装着と離脱、カバーブロック体の底支持体への装着と離脱とを行なうことができるので、カム機構の操作がきわめて容易になる。
【0012】
別の好ましい実施形態では、カバーブロック体には、さらに、ガイドブロック体が装着されており、該ガイドブロック体には、細胞浮遊液および走化性因子含有溶液のいずれかを吸入したマイクロピペットをガイドする通孔が、上下方向に複数貫通形成されているようにされる。これにより、マイクロピペットを用いた、細胞観察チェンバー内の一方のウエルへの細胞浮遊液の注入もしくは採取作業、他方のウエルへの走化性因子含有溶液の注入もしくは採取作業がきわめて容易になる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したとおり、本願の発明によれば、中間支持体の底支持体への装着、カバーブロック体の底支持体への装着が、カム機構を内蔵したレバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれているので、組立・分解のための専用の工具が不要となり、組立・分解の操作性を格段に向上させることができる。また、これにより、装着に関連する部品相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、チェンバー内溶液の液漏れを確実に防ぐことができる。
【0014】
また、カバーブロック体に、さらに、マイクロピペットをガイドする通孔が複数貫通形成されたガイドブロック体が装着される場合には、マイクロピペットを用いたウエルへの細胞浮遊液や走化性因子含有溶液の注入、採取作業がきわめて容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願の発明の細胞観察チェンバーの作動原理を示す、ウエル、流路および通孔を含む装置ユニット部分の縦断面図である。
【図2】同下面図である。
【図3】同流路部分の拡大横断面図である。
【図4】同流路部分の下面図である。
【図5】同流路部分の縦断面図である。
【図6】本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置の全体斜視図である。
【図7】本実施例の細胞観察チェンバーの全体斜視図である。
【図8】同平面図である。
【図9】同前側面図である。
【図10】同右側面図である。
【図11】同XI−XI線矢視断面図である。
【図12】同XII−XII線矢視断面図である。
【図13】同一部分解斜視図である。
【図14】さらに分解を進めた同一部分解斜視図である。
【図15】チェンバー内混合液の温度制御システムのブロック線図である。
【図16】従来の細胞観察チェンバーの分解図である。
【符号の説明】
【0016】
1…細胞の流路、2(2A、2B)…ウエル、3、3’、3−1、3−2…通孔、4、4’、4−1、4−2…通孔、5…溝、6…障壁、7…基板、8…ガラス基板、9…ブロック体、10…細胞走化性検出・走化性細胞分離装置、20…ケーシング、21…水準器、22…明るさ調整つまみ、23…位置調整つまみ、24…焦点調整レバー、30…細胞観察チェンバー、31…底支持体、31a…底部、31b…胴体部、31c…窓、32…中間支持体、32a…底部、32b…フランジ部、32c…開口部、33…カバーブロック体、33a…底部、33b…フランジ部、33c…中央凹部、34…ガイドブロック体、34a…中央膨大部、34b…アーム部、34c…通孔、35…温度センサー、35a…台座部分、35b…温度感知部、36…カム操作レバー、36a…脚部の端部、36b…カム溝、37…カム操作レバー、37a…脚部の端部、37b…カム溝、38…支持軸、39、40、41…ピン、42、43…Oリング、44…パッキン部材、45…液溜め室、46、47…ピン、50…ノート型パソコン、60…チェンバー内混合液温度制御システム、61…コンピュータ、62、63…温度調節器、64…加熱部、65…温度センサー、66…温度調節スイッチ、67…切り替えスイッチ、68…リレー、69…ソリッドステートリレー(SSR)、70…顕微鏡、a…中心線、L…液レベル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
細胞観察チェンバーを構成する中間支持体の底支持体への装着、同じくカバーブロック体の底支持体への装着を、カム機構を内蔵したレバー機構やクランプ機構などを用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なうようにする。この場合において、カム機構は、底支持体に回動自在に支持される2本のコの字状レバーの両脚部にそれぞれ形成されたカム溝と、該カム溝内を滑動し、中間支持体およびカバーブロック体の外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピンとから成るものとし、中間支持体の底支持体への装着、カバーブロック体の底支持体への装着のために、それぞれ専用のカム機構を設けるようにする。また、カバーブロック体には、マイクロピペットの針先の出し入れを容易にするためのガイドブロック体を装着するのが望ましい。
【実施例】
【0018】
次に、本願の発明の一実施例について説明する。
先ず、本願の発明が適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置におけるチェンバーの作動原理について説明する。このチェンバーは、複数のウエルが流路を挟んで結合し、互いに連通しており、それぞれのウエルには、試料を注入もしくは採取するための管および試料の注入もしくは採取によるウエル内の昇圧もしくは減圧を回避するための管の2本の管が設けられている。この管は、ブロックに形成された通孔により形成されてもよい。ここで、流路とは、2つのウエルを連通させている部分であり、一方のウエルから他方のウエルに細胞が移動するときに、細胞が通過する通路である。この装置によれば、試料を注入・採取する際、流路において相対するウエルに向かう方向の液流が生じにくく、流路の両端にあるウエルの液体が互いに混ざり合うことがなく、その結果、細胞が専ら走化性因子の作用のみによって移動する場合を検出することができる。
【0019】
図に基づいて、その原理を説明すると、図1および図2において、1は流路、2は細胞浮遊液や検体溶液等の試料を収納するウエルであり、一対のウエル2A、2Bから成る。これらの試料は、マイクロピペット等により、ブロック体9に形成された通孔3を通じてウエル2に供給され、また、ウエル2から採取される。ウエル2の一方のウエル2Aに細胞浮遊液を入れたとき、細胞は、他方のウエル2Bに入れられた検体溶液が走化性因子を含むもの(走化性因子含有溶液)である場合には、ウエル2Bに向かって移動しようとし、流路1を通過する。
【0020】
試料の1つである細胞浮遊液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Aに供給する際、注入する液圧により、細胞が流路1を通過して反対側のウエル2Bに移動してしまうことが生じる。この事態が生ずると、細胞の移動が検体の有する走化性因子によるのか否かの判定に混乱を与える要因になるとともに、細胞の分離を目的とする場合には、所望の細胞に他の細胞が混入してしまうことになり、目的が達せられないことになる。この問題点を解決するために、この装置においては、通孔3に加わる注入圧を通孔4の方に逃がし、流路1に向かって細胞が強制的に流されることを防止している。
【0021】
同様に、検体溶液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Bに供給する際にも、注入する液圧により、検体溶液が流路1を通過して反対側のウエル2Aに入り、細胞浮遊液と混合する事態が生じ、細胞がその走化性により流路1を通過する現象が混乱ないし阻害される。このような事態の発生を防止するために、検体を収納するウエル2Bにおいても、通孔4を設けるようにしている。
【0022】
このようにして、試料を注入する通孔3に連通する通孔4を設けることにより、水平方向への液圧の影響を最小にすることができ、検体溶液が走化性を有するか否かの判定をより正確に行なうことができる。通孔4による圧力差の緩和作用は、ウエルから細胞などの試料を採取する際の減圧を緩和する上でも有効であり、試料の採取を容易にする。
【0023】
本装置において、ウエル2に試料を注入する場合を、図1により説明すると、予め各ウエル2A、2Bおよび流路1を細胞等張液で満たしておき、ウエル2Aの通孔3から細胞浮遊液を、ウエル2Bの通孔3から走化性因子含有溶液を、それぞれ略等量ずつ注入する。このようにすることにより、試料注入時の昇圧は、通孔4により緩和される。
【0024】
流路1は、図3ないし図5に図示されるように、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向と直交する方向に走る障壁6に、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向に沿わせて形成された1本ないし複数本、例えば、約100本の溝5により構成されている。これらの溝5は、細胞の径もしくはその変形能に合わせた幅に形成される。このような溝5を設けることによって、細胞を個々のレベルで観察することが可能になり、また、細胞を所望の種類毎に分離することが可能になる。
なお、図1ないし図3における符号7aは、ウエル2Aとウエル2Bとの間に形成される土手を示し、図3および図4における符号7bは、土手7aに形成されるテラスを示している。テラス7bは、障壁6を囲む平坦部である。
【0025】
細胞が流路1を移動する状態の観察、流路1を通過中もしくは通過後の細胞数の計測は、図3に図示されるように、流路1に検知装置、例えば、顕微鏡70をセットすることによって行なわれる。また、顕微鏡とビデオカメラあるいはCCDカメラとを組み合わせることにより、自動的に細胞が移動する経過を記録することができる。
【0026】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成る装置を1ユニットとして、複数のユニットを集積させることにより、他種類の検体または他種類の細胞を対象として、同時に細胞の移動(走化性)の検出や走化性細胞の分離を行なうことができる装置を構成することができる。このような装置は、全体的に小型化されており、試料の処理を微量で行なうことができる。また、液体の注入・採取量のプログラム制御により、処理を自動化して行なうことが容易である。
【0027】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットは、実際には、次のようにして製作される。
ウエル2A、2B、流路1の内部形状は、シリコン単結晶素材から成る基板7の表面上に、既知の集積回路の製作技術を応用することによって形成することができる。このようにして、その表面上にウエル2A、2B、流路1の内部形状を写した凹凸形状が刻設された基板7をガラス基板8と対面させて、重ね合わせれば、それら両基板7、8の間にウエル2A、2B、流路1が形成される。
【0028】
基板7には、また、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通しているとともに、ブロック体9に上下方向に貫通形成された通孔3、4にそれぞれ連通している。なお、基板7とブロック体9との間には、実際には、パッキンが介在させられて、それらの間の液封がなされるようになっている。
【0029】
次に、前記したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットが複数組み込まれて成る本実施例の細胞観察チェンバーについて、詳細に説明する。
先ず、本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置の全体構造のあらましについて説明する。
【0030】
図6に図示されるように、本実施例の細胞観察チェンバー30が適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置10は、比較的高さの低い直方体形状のケーシング20の上面からその一部が露出するようにして、細胞観察チェンバー30が収納されている。また、そのケーシング20の上面には、ノート型パソコン50が設置されており、このノート型パソコン50の作動により、細胞浮遊液等含有溶液の温度制御部に対する指令、同温度データや細胞観察データの解析、記録、モニター表示等が行なわれる。このモニター表示には、細胞の実際の動きの映像表示も含まれる。
【0031】
ケーシング20の上面には、他に水準器21が取り付けられており、装置10の水平を常時監視することができる。また、ケーシング20の前側面には、図6において右下方から左上方に向かって順に、顕微鏡による細胞観察画像の明るさ(ライトの強弱)調整つまみ22、顕微鏡の位置調整つまみ23、焦点調整レバー24等が取り付けられている。図示されない顕微鏡の光学系光軸は、ケーシング20内において水平に配置されているので、ケーシング20、牽いては装置10の全高を低くすることができ、机上に置かれた本装置10に対して、座位にて細胞走化性の検出、走化性細胞の分離、計数等の作業を行なうことができ、操作性が大きく改善される。
【0032】
細胞観察チェンバー30は、次のようにして構成されている。
図7〜図10、図13および図14に図示されるように、本細胞観察チェンバー30は、その外観および後述するカム操作レバー36、37の簡単な回動操作によるその一部分解から、次のようにして構成されていることが理解されるであろう。すなわち、最下段に配置される円形皿状の底支持体31の上には、同じく円形皿状の中間支持体32が装着され、中間支持体32の上には、同じく円形皿状で、底部33aが比較的厚く、外周フランジ部33bが比較的幅広のカバーブロック体33が装着され、カバーブロック体33の上には、該カバーブロック体33の中央凹部33cを跨ぎ、その中央膨大部34aを該中央凹部33cに沈めるようにして、ガイドブロック体34が装着され、カバーブロック体33の上面には、温度センサー35の台座部分35aが着座させられている。
【0033】
そして、カバーブロック体33は、カム操作レバー36を回動することにより、中間支持体32に上方から圧接され、これにより、中間支持体32が、底支持体31に上方から圧接されて、最終的には、カバーブロック体33が、底支持体31に装着される。また、中間支持体32は、カム操作レバー37を回動することにより、底支持体31に上方から圧接されて、これに装着されている。なお、実際の装着の順序は、中間支持体32が底支持体31に装着されてから、カバーブロック体33が底支持体31に装着されることになる。分解の場合には、この逆の順序になる。カバーブロック体33は、従来の細胞観察チェンバー00(図16参照)におけるブロック体09とカバー04とが合体されたものに相当している。
【0034】
カム操作レバー36、37は、いずれも平面視コの字状をなしており、それらの両脚部の端部36a、37aは、円形皿状の底支持体31の胴体部31bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置に植設された一対の支持軸38の回りに回動自在に支持されている。また、それらの両脚部の端部36a、37aは、正面視矩形状に膨大化されていて、それらの内面には、カム操作レバー36については、カム溝36bが、カム操作レバー37については、カム溝37bが、それぞれ湾曲状に形成されている(図13、図14参照)。
【0035】
円形皿状のカバーブロック体33の外周フランジ部33bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン40が植設されている(図14、図11参照)。このピン40は、カム操作レバー36のカム溝36bに嵌まり込んで、カム操作レバー36が回動操作されるとき、カム溝36b内を滑動する。これにより、カバーブロック体33は、その外周フランジ部33bの下面が中間支持体32の外周フランジ部32bの上面に上方から接近して、これに当接し、最終的には、中間支持体32の開口部32cに嵌め込まれたパッキング部材44と基板7とをガラス基板8に押し付けながら、底支持体31に装着される。また、カム操作レバー36を逆に回動操作することにより、カバーブロック体33は、底支持体31から取り外される。カバーブロック体33の外周フランジ部33bと中間支持体32の外周フランジ部32bとの間には、カバーブロック体33が中間支持体32に装着されたとき、これらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するために、Oリング42が介装されている。
【0036】
同様に、円形皿状の中間支持体32の外周フランジ部32bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン41が植設されている(図11参照)。このピン41は、カム操作レバー37のカム溝37bに嵌まり込んで、カム操作レバー37が回動操作されるとき、カム溝37b内を滑動する。これにより、中間支持体32は、その外周フランジ部32bの下面が底支持体31の胴体部31bの上面に上方から接近して、これに当接し、底支持体31に堅固に装着される。また、カム操作レバー37を逆に回動操作することにより、中間支持体32は、底支持体31から取り外される。
【0037】
ガイドブロック体34の中央膨大部34aには、上下方向に貫通し、ガイドブロック体34の長さ方向に一列に整列させられて、細い6個の通孔34cが形成されている。これらの通孔34cは、作業者が細胞浮遊液や検体溶液等の試料を含んだマイクロピペット(図示されず)の針先をチェンバー30内に挿入し、また、そこから抜き出すときに、マイクロピペットの針先をガイドするとともに、マイクロピペットから吐出されたそれらの溶液を後述するウエル(このウエルは、前記した、一対のウエル2A、2B(図1)のうちのいずれかのウエルと同じものである。)に導くのに役立つ。6個の通孔34cの整列位置は、ガイドブロック体34を平面視幅方向に二分する中心線aから片方にわずかに変位させられている(図8参照)。
【0038】
ガイドブロック体34は、その中央膨大部34aを挟んだ両側のアーム部34b、34bとカバーブロック体33のフランジ部33bとの間にピン39が通されることにより、位置決めされて、フランジ部33b上に着脱自在に装着されている。したがって、ガイドブロック体34は、これをカバーブロック体33から取り外し、両側のアーム部34b、34bの位置が入れ替わるように180度回転させて、反転前と同様にピン39により位置決めすることにより、カバーブロック体33のフランジ部33b上に再び着脱自在に装着することができる。このとき、6個の通孔34cの整列位置は、反転前の整列位置と中心線aに関して対称の位置にある。
【0039】
カバーブロック体33と中間支持体32との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン46a、46bが、カバーブロック体33と中間支持体32とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている。同様に、中間支持体32と底支持体31との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン47a、47bが、中間支持体32と底支持体31とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている。ピン46aとピン46b、ピン47aとピン47bは、それぞれ異なる径を持ち、組立時の組み間違いを未然に防止する機能を果している。
【0040】
次に、本細胞観察チェンバー30の内部構造について、詳細に説明する。
底支持体31は、その底部31aの中央に、細胞の動きを観察する窓31cが設けられている。また、その底面上には、透明なガラス基板8が載置されている。このガラス基板8は、中間支持体32が底支持体31に装着されたとき、中間支持体32の底部32aにより底部31aに強く押し付けられて、そこに固定される。底部32aとガラス基板8との間には、それらの外周側に、Oリング43が介装されており、これにより、それらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するようになっている。
【0041】
ガラス基板8の中央部の表面上には、基板7が載置されている。これらガラス基板8、基板7は、前記した、図1におけるガラス基板08、基板07と基本的に同じ構造の同じものである。したがって、基板7のガラス基板8と対向する側の表面上には、一対のウエル2A、2Bと、これらを連通させる流路1の内部形状を写した凹凸形状が6ユニット分、刻設されており、これがガラス基板8と対面させられて、重ね合わされた状態においては、それら両基板7、8間に6ユニット分のウエル2A、2B、流路1の組合せ構造が形成される。
【0042】
基板7には、また、前記のとおり、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通している。
【0043】
中間支持体32の底部32aの中央部には、開口部32cが形成されており、この開口部32cには、底部32aの厚さよりもわずかに厚いパッキン部材44が嵌め込まれる。このパッキン部材44は、カバーブロック体33が前記のようにして底支持体31に装着されると、その開口部32cから突出して、ガラス基板8上に載置された基板7を上方から圧し、これをガラス基板8に押し付ける。
基板7は、非常に薄いので、図11、図12においては、ガラス基板8とパッキン部材44とに挟まれた太い実線の線分として描かれている。基板7に形成される通孔3’、4’、ウエル2A、2B、流路1の形状は、図示されていない。
【0044】
このパッキン部材44には、基板7に貫通形成された通孔3’、4’にそれぞれ連通する通孔3−1、4−1が、通孔3’、4’の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。通孔3’、4’は、それらの一対がウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに形成されているから、1ユニットについて合計4個の通孔が形成されていることになり、それが6ユニット分集積されるから、総計24個の通孔(通孔3−1、4−1の群)が縦横に整列させられて形成されていることになる。通孔3−1は、図11において、紙面と直交する奥方および手前側にあり、図示されていない。
【0045】
なお、パッキン部材44に貫通形成される通孔3−1、4−1は、必ずしも分離して別々に形成される必要はなく、通孔3−1が通孔4−1に合体させられてもよい。このようにしても、例えば、流下する溶液と上昇しようとする気体とが混じり合ってしまうことはなく、気体は、流下する溶液中を抜けて、その上の通孔4−2を通って排気されるから、ウエル内の昇圧を緩和する機能に支障は生じない。図12には、このようにされたパッキン部材44の構造が図示されている。また、そのためには、カバーブロック体33に形成される通孔3−2、4−2の下端部をわずかな長さ切除して、そこに小さな空所を形成するようにすると、昇圧・降圧緩和の機能を一層確実に保持することができる(図12中、通孔3−2、4−2直下の左右2つの小さな空白部参照)。
【0046】
カバーブロック体33が底支持体31に装着されるとき、カバーブロック体33の底部33aの下面は、パッキン部材44の上面に当接して、これを圧する。したがって、基板7は、結局、パッキン部材44を介してカバーブロック体33により押圧されて、ガラス基板8上に固定されることになる。
【0047】
カバーブロック体33の底部33aの周縁寄りの1個所には、チェンバー30内の混合液が中央凹部33cに出入りするための比較的大径の通孔33dが上下方向に貫通形成されている。また、底部33aの中央部には、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1に連通する通孔3−2、4−2が、通孔3−1、4−1の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。これら底部33aの中央部に形成された通孔群のうち、ウエル2A側に属する通孔4−2の6ユニット分、すなわち、ウエル2A側に属する整列させられた6個の通孔4−2は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している。
【0048】
ガイドブロック体34を図8に図示される姿勢から180度回転させて、両側のアーム部34b、34bの位置を入れ替えれば、今度は、ウエル2B側に属する整列させられた6個の通孔4−2が、ガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応することになる。ガイドブロック体34のこのような姿勢の転換は、例えば、マイクロピペットによる細胞浮遊液のウエル2Aへの注入と、マイクロピペットによる走化性因子含有溶液のウエル2Bへの注入とが、引き続いて行なわれる場合に、採られることができる。
【0049】
以上の説明から明らかなとおり、基板7に貫通形成された通孔3’、4’、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1、カバーブロック体33の底部33aに貫通形成された通孔3−2、4−2は、それぞれ互いに連通し合っており、このようにして連通し合う通孔4’、4−1、4−2から形成される1本の通孔集合体の6ユニット分は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34に形成された6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している(図11、図12参照)。なお、基板7に貫通形成された通孔3’、4’は、非常に微小であるので、図11、図12においては、図示されていない。通孔4−1、4−2から成る通孔の集合体は、図1における通孔4に相当している。
【0050】
したがって、今、ウエル2A、2B、通路1に細胞等張液が満たされ、ウエル2Bに走化性因子含有溶液が注入されているとし、ウエル2Aにマイクロピペットにより細胞浮遊液を注入しようとするとき、マイクロピペットの先端を使用対称となるユニットのウエル2Aに通ずる通孔34cに挿入して、これにガイドさせながら所要深さまで進入させ、そこで細胞浮遊液を吐出すると、吐出された細胞浮遊液は、次いで、通孔4−2、4−1、4’を順次流下して、ウエル2Aに到る。このとき、ウエル2A内の圧力上昇は、通孔3’、3−1、3−2を経て外部に逃がすことができ、走化性因子含有溶液に反応する細胞の走化性に対する圧力変動の影響を最小限にすることができる。
【0051】
ウエル2Bにマイクロピペットにより走化性因子含有溶液を注入しようとするときも、同じ要領にて行ない、マイクロピペットから吐出された走化性因子含有溶液を、今度は、ウエル2B側に属する通孔4−2、4−1、4’を順次流下させて、ウエル2Bに到らせることができる。
【0052】
ウエル2Aに供給された細胞浮遊液中の細胞は、ウエル2B内の走化性因子含有溶液に反応すると、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する。その状態および数を、細胞レベルで、窓31cを通して顕微鏡により観察、計測することができる。
【0053】
このようにして、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する細胞の走化性の検出、その性質を利用した細胞の分離などの作業を行なうのには、これらの領域を満たしている混合液の温度を、その細胞の活動に適した温度に管理する必要がある。また、細胞の温度変化による反応等をより正確に計測、分析したいときにも、混合液の温度管理は必要である。なお、ここで、これらの領域を満たしている混合液とは、細胞等張液と細胞浮遊液との混合液、細胞等張液と走化性因子含有溶液との混合液であり、両混合液の温度は、略等しい。
【0054】
上記の目的のために、本実施例においては、図15に図示されるように、2台の温度調節器62、63を用い、そのうちの1台目の温度調節器62は、温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測し、ヒータにより加熱される加熱部64を、チェンバー30をその上にセットした状態で、温度制御して、温度管理の精度を高める。また、2台目の温度調節器63は、加熱部64を事前に加熱しておき、混合液の温度が所望の温度に調節できるまでの時間を短縮できるようにする。この温度調節器63は、また、加熱部64の過熱防止の機能をも備えている。
【0055】
温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測するために、温度センサー35の温度感知部35bは、図12に図示されるように、台座部分35aから下方に伸びて、混合液と同等の溶液で満たされた液溜め室45内に直接沈められている。この液溜め室45内の溶液は、加熱部64による間接的な加熱を一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液と等しく受けて、その溶液の温度と等しい温度に昇温することができ、温度センサー35は、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液の温度と略等しい温度を測定することができる。液溜め室45内の溶液の液位レベルは、カバーブロック体33内の混合液の液位レベルLと略同等である。
【0056】
液溜め室45は、カバーブロック体33の胴体部の外周壁の一部が上下方向に削り取られて形成された凹部が、中間支持体32の内周壁により周囲を囲まれて形成されたものである。この液溜め室45は、ウエル2A、2B、通路1およびこれらに連通する領域から隔離されて設けられるのが望ましい。このために、液溜め室45の下方部において、液溜め室45がウエル2A、2B、通路1およびこれらに連通する領域と接続する個所にパッキン(図示されず)を介装するようにする。このようにすることにより、1台目の温度調整器62の温度感知部35bは、一対のウエル2A、2Bや流路1内に満たされた細胞を含む溶液を汚染することなく、その溶液の温度を正確に測定することができる。
【0057】
図15に図示されるブロック線図により、チェンバー内混合液の温度制御システム60について、さらに詳細に説明すると、先ず、温度調節スイッチ66がONにされ、切り替えスイッチ67の予熱側がONにされることにより、温度調節器63による調節下での加熱部64の予熱が開始される。この予熱は、加熱部64の温度をセンサ65により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。予熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。このコンピュータ61は、ノート型パソコン50に内蔵されるものである。69は、ソリッドステートリレー(SSR)である。
【0058】
加熱部64の温度が所定の予熱温度に到達し、加熱部64の上に細胞観察チェンバー30が載置されると、切り替えスイッチ67の加熱側がONになるように切り替えられ、温度調節器62による調節下での加熱部64の加熱が開始される。この加熱は、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱することを目的としており、チェンバー内混合液の温度をセンサ35により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。加熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。加熱部64は、前記した予熱により、所定の温度にまで上昇しているので、この加熱により、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱するのは、短時間で行なわれる。
【0059】
チェンバー内混合液の温度が所定の温度に到達すると、温度調節器62は、その温度を維持するように加熱部64の加熱制御を行なう。何らかの原因、例えば、チェンバー30が加熱部64に接触していない、などにより、加熱部64の温度が異常(例えば、43°C)に上昇すると、温度調節器63がリレー68を作動させ、回路を遮断する。なお、温度調節器62も、チェンバー内混合液の温度が異常(例えば、38〜40°C)に上昇すると、リレー68を作動させ、回路を遮断するようになっている。
【0060】
コンピュータ61は、加熱部64の温度、チェンバー内混合液の温度、センサ35、65の状態等を常時モニターし、ディスプレイに表示し、また、温度調節器62、温度調節器63に加熱温度、予熱温度の指定をそれぞれ行なう。
【0061】
なお、ここで、本実施例の細胞観察チェンバー30の実際の組立の手順について、詳細に説明しておく。
先ず、底支持体31にガラス基板8を装着する。次いで、底支持体31に中間支持体32を嵌め合わせ、カム操作レバー37を回動することにより、中間支持体32を上方からOリング43を介して底支持体31に圧接させて、これに装着する。これにより、媒質の漏洩が防止されて、これらの部品組立体に容器としての機能を持たせることができる。次いで、中間支持体32の底部32aの中央部に形成された開口部32cにガイドさせながら、基板7をガラス基板8上に載置し、底面部にパッキン部材44が装着されたカバーブロック体33を中間支持体32に嵌め合わせ、カム操作レバー36を回動することにより、パッキン部材44を上方から基板7に圧接させるとともに、基板7をガラス基板8に圧接させる。同時に、カバーブロック体33は、Oリング42を介して中間支持体32に圧接されて、媒質の漏洩が防止され、これらの部品全体から成る組立体(細胞観察チェンバー30)にも、容器としての機能を持たせることができる。
【0062】
本実施例の細胞観察チェンバー30は、前記のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
中間支持体32の底支持体31への装着、カバーブロック体33の底支持体31への装着は、カム機構を内蔵したレバー機構(カム操作レバー)36、37を用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれているので、組立・分解のための専用の工具が不要となり、組立・分解の操作性を格段に向上させることができる。また、これにより、装着に関連する部品(底支持体31、中間支持体32、カバーブロック体33)相互間の圧接の圧力を常に一定に保持することができて、チェンバー内溶液の漏れを確実に防ぐことができる。
【0063】
また、カム機構は、底支持体31に回動自在に支持される2本のコの字状レバー36、37の両脚部にそれぞれ形成されたカム溝36b、37bと、該カム溝36b、37b内を滑動し、カバーブロック体33および中間支持体31の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピン40、41とから成るものとされているので、カム機構の構造がきわめて簡単になるとともに、コの字状レバー36、37を回動操作するだけで、中間支持体32の底支持体31への装着と離脱、カバーブロック体33の中間支持体32への装着と離脱とを行なうことができるので、カム機構の操作がきわめて容易になる。
【0064】
また、カバーブロック体33には、さらに、ガイドブロック体34が装着されており、該ガイドブロック体34には、細胞浮遊液および走化性因子含有溶液のいずれかを吸入したマイクロピペットをガイドする通孔34cが、上下方向に複数貫通形成されているので、マイクロピペットを用いた、細胞観察チェンバー30内のウエルへの細胞浮遊液や走化性因子含有溶液の注入もしくは採取作業がきわめて容易になる。
その他、前記したような種々の効果を奏することができる。
【0065】
なお、本願の発明は、以上の実施例に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
例えば、カム操作レバー36、37のような、カム機構を内蔵したレバー機構に代えて、トグルクランプ方式や、押圧後に爪がクランプする圧縮クランプ方式によるクランプ機構などの採用も可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の走化性の検出や走化性細胞の分離のために用いられる装置における細胞観察チェンバーであって、
底部中央に細胞の動きを観察するための窓が設けられた皿状の底支持体と、
前記底支持体の底面上に載置されるガラス基板と、
底部中央に開口部が形成され、前記底支持体に装着されて、前記ガラス基板を上方から圧し、これを前記底支持体の底面上に固定する皿状の中間支持体と、
細胞浮遊液および走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されるとともに、前記ガラス基板の中央部の表面上に定置されて、前記ガラス基板との間に少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを形成する凹凸形状が、前記ガラス基板との対向面に形成されている基板と、
前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体の底部中央に形成された前記開口部に嵌め込まれ、前記基板を上方から圧するパッキン部材と、
底部中央に前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体が装着される前記底支持体に装着され、前記基板を前記パッキン部材を介して上方から圧して、これを前記ガラス基板上に固定する皿状のカバーブロック体と
を備えて成り、
前記一対のウエルのうちの一方のウエルには、前記細胞浮遊液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの1つの通孔を連ねて供給もしくは採取され、他方のウエルには、前記走化性因子含有溶液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの他の1つの通孔を連ねて供給もしくは採取されて、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って細胞が移動する状態およびその数が、前記底支持体に設けられた窓を通して観察、計測されるようになっており、
前記中間支持体の前記底支持体への装着、前記カバーブロック体の前記底支持体への装着は、カム機構を内蔵したレバー機構もしくはクランプ機構を用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれている
ことを特徴とする細胞観察チェンバー。
【請求項2】
前記カム機構は、前記底支持体に回動自在に支持される2本のコの字状レバーの両脚部にそれぞれ形成されたカム溝と、該カム溝内を滑動し、前記中間支持体および前記カバーブロック体の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピンとから成ることを特徴とする請求項1に記載の細胞観察チェンバー。
【請求項3】
前記カバーブロック体には、さらに、ガイドブロック体が装着されており、該ガイドブロック体には、前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液のいずれかを吸入したマイクロピペットをガイドする通孔が、上下方向に複数貫通形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞観察チェンバー。
【請求項1】
細胞の走化性の検出や走化性細胞の分離のために用いられる装置における細胞観察チェンバーであって、
底部中央に細胞の動きを観察するための窓が設けられた皿状の底支持体と、
前記底支持体の底面上に載置されるガラス基板と、
底部中央に開口部が形成され、前記底支持体に装着されて、前記ガラス基板を上方から圧し、これを前記底支持体の底面上に固定する皿状の中間支持体と、
細胞浮遊液および走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されるとともに、前記ガラス基板の中央部の表面上に定置されて、前記ガラス基板との間に少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを形成する凹凸形状が、前記ガラス基板との対向面に形成されている基板と、
前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体の底部中央に形成された前記開口部に嵌め込まれ、前記基板を上方から圧するパッキン部材と、
底部中央に前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液を通す通孔が上下方向に複数貫通形成されていて、前記中間支持体が装着される前記底支持体に装着され、前記基板を前記パッキン部材を介して上方から圧して、これを前記ガラス基板上に固定する皿状のカバーブロック体と
を備えて成り、
前記一対のウエルのうちの一方のウエルには、前記細胞浮遊液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの1つの通孔を連ねて供給もしくは採取され、他方のウエルには、前記走化性因子含有溶液が、前記カバーブロック体、前記パッキン部材および前記基板にそれぞれ形成された複数の通孔のうちの他の1つの通孔を連ねて供給もしくは採取されて、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って細胞が移動する状態およびその数が、前記底支持体に設けられた窓を通して観察、計測されるようになっており、
前記中間支持体の前記底支持体への装着、前記カバーブロック体の前記底支持体への装着は、カム機構を内蔵したレバー機構もしくはクランプ機構を用いて、それぞれの当接面同志を上下方向に圧接させることによって行なわれている
ことを特徴とする細胞観察チェンバー。
【請求項2】
前記カム機構は、前記底支持体に回動自在に支持される2本のコの字状レバーの両脚部にそれぞれ形成されたカム溝と、該カム溝内を滑動し、前記中間支持体および前記カバーブロック体の各外周面上の対応する2点にそれぞれ植設されたピンとから成ることを特徴とする請求項1に記載の細胞観察チェンバー。
【請求項3】
前記カバーブロック体には、さらに、ガイドブロック体が装着されており、該ガイドブロック体には、前記細胞浮遊液および前記走化性因子含有溶液のいずれかを吸入したマイクロピペットをガイドする通孔が、上下方向に複数貫通形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞観察チェンバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【国際公開番号】WO2005/028611
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514027(P2005−514027)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013297
【国際出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(391032358)平田機工株式会社 (107)
【出願人】(500201406)株式会社 エフェクター細胞研究所 (12)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/013297
【国際出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(391032358)平田機工株式会社 (107)
【出願人】(500201406)株式会社 エフェクター細胞研究所 (12)
【Fターム(参考)】
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