説明

細胞評価モデル生成装置、細胞評価装置、インキュベータ、プログラム、および、培養方法

【課題】細胞を評価する場合に、比較的簡易な手法で、細胞が分裂する残存回数を得ることができる細胞評価モデル生成装置を提供する。
【解決手段】細胞評価モデル生成装置が、同一培養容器内で培養された複数の細胞を異なる時間に撮像することによって得られた複数の画像と、当該細胞が分裂する残存回数を示す情報が入力される入力部と、画像内の細胞の形態的な特徴を示す特徴量を出力する特徴量演算部と、各々の画像に対応する特徴量と残存回数を示す情報とに基づいて、細胞に対しての残存回数を算出する計算モデルを構築する残存回数計算モデル構築部と、を備えており、残存回数計算モデル構築部は、特徴量を変数とした重回帰分析により計算モデルを構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞評価モデル生成装置、細胞評価装置、インキュベータ、プログラム、および、培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養状態を評価する技術は、再生医療などの先端医療分野や医薬品のスクリーニングを含む幅広い分野での基盤技術となっている。例えば、再生医療分野では、インビトロで細胞を増殖、分化させるプロセスが存在する。そして、上記のプロセスでは、細胞の分化の成否、細胞の癌化や感染の有無を管理するために、細胞の培養状態を的確に評価することが不可欠となる。一例として、特許文献1には、マーカーとして転写因子を用いたがん細胞の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−195533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、評価対象の各細胞において転写因子の発現を確認する実験が必要となるため非常に煩雑である。そのため、比較的簡易な手法で細胞を精度よく評価することがなお要請されている。
【0005】
ところで、たとえば細胞を評価する場合、細胞培養を行い実験に用いる分の細胞数を確保する必要がある。株化されているがん細胞等を実験に用いる場合と異なり、初代培養細胞を実験に用いる場合には、細胞の分裂回数は限られている。そのため初代培養細胞を培養する場合、この細胞が分裂する残存回数が十分でないと、適切に細胞を培養できない可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、比較的簡易な手法で、細胞が分裂する残存回数を得ることができる細胞評価モデル生成装置、細胞評価装置、インキュベータ、プログラム、および、培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、同一培養容器内で培養された複数の細胞を異なる時間に撮像することによって得られた複数の画像と、当該細胞が分裂する残存回数を示す情報が入力される入力部と、前記画像内の前記細胞の形態的な特徴を示す特徴量を出力する特徴量演算部と、各々の前記画像に対応する前記特徴量と前記残存回数を示す情報とに基づいて、前記細胞に対しての残存回数を算出する計算モデルを構築する残存回数計算モデル構築部と、を備えており、前記残存回数計算モデル構築部は、前記特徴量を変数とした重回帰分析により前記計算モデルを構築する、ことを特徴とする細胞評価モデル生成装置である。
【0008】
また、この発明は、前記特徴量演算部は、各々の前記画像で、前記細胞の形態的な特徴を示す特徴量とその特徴量をもつ前記細胞の数とを示す度数分布を出力する度数分布演算部を有し、前記残存回数計算モデル構築部は、前記度数分布演算部から出力された度数分布を用いて、前記計算モデルを構築することを特徴とする上記に記載の細胞評価モデル生成装置である。
【0009】
また、この発明は、細胞を培養する培養容器を収納するとともに、所定の環境条件に内部を維持可能な恒温室と、前記恒温室内で前記培養容器に含まれる前記細胞の画像を撮像する撮像装置と、上記に記載の細胞評価モデル生成装置または細胞評価装置と、を備えることを特徴とするインキュベータである。
【0010】
また、この発明は、コンピュータを、上記に記載の細胞評価モデル生成装置または細胞評価装置として機能させることを特徴とするプログラムである。
【0011】
また、この発明は、上記に記載の細胞評価装置により算出された残存回数に基づき、前記培養容器内で培養されている細胞の培養条件を変更することを特徴とする細胞の培養方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、比較的簡易な手法で、細胞が分裂する残存回数を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1の実施形態によるインキュベータの概要を示すブロック図である。
【図2】図1のインキュベータの正面図である。
【図3】図1のインキュベータの平面図である。
【図4】残存ダブリング数の一例を示す図である。
【図5】手技に対しての残存ダブリング数の変化を示す図である。
【図6】図1のインキュベータによる観察動作の一例を示す流れ図である。
【図7】第1の実施形態によるインキュベータのCPU42が、計算モデルを生成する場合の処理の一例を示す流れ図である。
【図8】本実施形態で用いられる各特徴量の概要を示す図である。
【図9】ANNの概要を示す図である。
【図10】FNNの概要を示す図である。
【図11】FNNにおけるシグモイド関数を示す図である。
【図12】第1の実施形態によるインキュベータのCPU42が、細胞を評価する場合の処理の一例を示す流れ図である。
【図13】この発明の第2の実施形態によるインキュベータの概要を示すブロック図である。
【図14】第2の実施形態によるインキュベータのCPU42が、計算モデルを生成する場合の処理の一例を示す流れ図である。
【図15】特徴量の経時的変化の例を示すヒストグラムである。
【図16】正常な細胞群をタイムラプス観察した顕微鏡画像を示す図である。
【図17】正常な細胞にがん細胞を混在した細胞群をタイムラプス観察した顕微鏡画像を示す図である。
【図18】第2の実施形態によるインキュベータのCPU42が、細胞を評価する場合の処理の一例を示す流れ図である。
【図19】筋芽細胞の培養状態例を示す図である。
【図20】筋芽細胞の培養時における「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムを示す図である。
【図21】筋芽細胞の培養時における「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムを示す図である。
【図22】実施例の第1の予測モデルでの各サンプルの予測結果を示すグラフを示す図である。
【図23】実施例の第2の予測モデルでの各サンプルの予測結果を示すグラフを示す図である。
【図24】予測した残存ダブリング数と、実測された残存ダブリング数との関係を説明する図である。
【図25】本実施形態による細胞評価装置を用いた細胞の培養方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、第1の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータの概要を示すブロック図である。また、図2,図3は、第1の実施形態のインキュベータの正面図および平面図である。
【0015】
第1の実施形態のインキュベータ11は、上部ケーシング12と下部ケーシング13とを有している。インキュベータ11の組立状態において、上部ケーシング12は下部ケーシング13の上に載置される。なお、上部ケーシング12と下部ケーシング13との内部空間は、ベースプレート14によって上下に仕切られている。
【0016】
まず、上部ケーシング12の構成の概要を説明する。上部ケーシング12の内部には、細胞の培養を行う恒温室15が形成されている。この恒温室15は温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bを有しており、恒温室15内は細胞の培養に適した環境(例えば温度37℃、湿度90%の雰囲気)に維持されている(なお、図2,図3での温度調整装置15a、湿度調整装置15bの図示は省略する)。
【0017】
恒温室15の前面には、大扉16、中扉17、小扉18が配置されている。大扉16は、上部ケーシング12および下部ケーシング13の前面を覆っている。中扉17は、上部ケーシング12の前面を覆っており、大扉16の開放時に恒温室15と外部との環境を隔離する。小扉18は、細胞を培養する培養容器19を搬出入するための扉であって、中扉17に取り付けられている。この小扉18から培養容器19を搬出入することで、恒温室15の環境変化を抑制することが可能となる。なお、大扉16、中扉17、小扉18は、パッキンP1,P2,P3によりそれぞれ気密性が維持されている。
【0018】
また、恒温室15には、ストッカー21、観察ユニット22、容器搬送装置23、搬送台24が配置されている。ここで、搬送台24は、小扉18の手前に配置されており、培養容器19を小扉18から搬出入する。
【0019】
ストッカー21は、上部ケーシング12の前面(図3の下側)からみて恒温室15の左側に配置される。ストッカー21は複数の棚を有しており、ストッカー21の各々の棚には培養容器19を複数収納することができる。なお、各々の培養容器19には、培養の対象となる細胞が培地とともに収容されている。
【0020】
観察ユニット22は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の右側に配置される。この観察ユニット22は、培養容器19内の細胞のタイムラプス観察を実行することができる。
【0021】
ここで、観察ユニット22は、上部ケーシング12のベースプレート14の開口部に嵌め込まれて配置される。観察ユニット22は、試料台31と、試料台31の上方に張り出したスタンドアーム32と、位相差観察用の顕微光学系および撮像装置(34)を内蔵した本体部分33とを有している。そして、試料台31およびスタンドアーム32は恒温室15に配置される一方で、本体部分33は下部ケーシング13内に収納される。
【0022】
試料台31は透光性の材質で構成されており、その上に培養容器19を載置することができる。この試料台31は水平方向に移動可能に構成されており、上面に載置した培養容器19の位置を調整できる。また、スタンドアーム32にはLED光源35が内蔵されている。そして、撮像装置34は、スタンドアーム32によって試料台31の上側から透過照明された培養容器19の細胞を、顕微光学系を介して撮像することで細胞の顕微鏡画像を取得できる。
【0023】
容器搬送装置23は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の中央に配置される。この容器搬送装置23は、ストッカー21、観察ユニット22の試料台31および搬送台24との間で培養容器19の受け渡しを行う。
【0024】
図3に示すように、容器搬送装置23は、多関節アームを有する垂直ロボット34と、回転ステージ35と、ミニステージ36と、アーム部37とを有している。回転ステージ35は、垂直ロボット34の先端部に回転軸35aを介して水平方向に180°回転可能に取り付けられている。そのため、回転ステージ35は、ストッカー21、試料台31および搬送台24に対して、アーム部37をそれぞれ対向させることができる。
【0025】
また、ミニステージ36は、回転ステージ35に対して水平方向に摺動可能に取り付けられている。ミニステージ36には培養容器19を把持するアーム部37が取り付けられている。
【0026】
次に、下部ケーシング13の構成の概要を説明する。下部ケーシング13の内部には、観察ユニット22の本体部分33や、インキュベータ11の制御装置41が収納されている。
【0027】
制御装置41は、温度調整装置15a、湿度調整装置15b、観察ユニット22および容器搬送装置23とそれぞれ接続されている。この制御装置41は、所定のプログラムに従ってインキュベータ11の各部を統括的に制御する。
【0028】
一例として、制御装置41は、温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bをそれぞれ制御して恒温室15内を所定の環境条件に維持する。また、制御装置41は、所定の観察スケジュールに基づいて、観察ユニット22および容器搬送装置23を制御して、培養容器19の観察シーケンスを自動的に実行する。さらに、制御装置41は、観察シーケンスで取得した画像に基づいて、細胞の培養状態の評価を行う培養状態評価処理を実行する。
【0029】
<残存ダブリング数と手技との関係>
ここで、図4と図5とを用いて、残存ダブリング数と手技との関係について説明する。図4は、継代数と細胞が分裂する残存回数(細胞の残存ダブリング数)との関係を示すグラフである。この図4において、横軸は継代数であり、縦軸は細胞が分裂する残存回数(細胞の残存ダブリング数)の平均数(細胞数/フラスコ(培養容器19))である。
【0030】
この図4に示されるように、継代数がP3、P4・・・P9と増加するに従い、培養されている時間および継代手技による外因的ストレスが蓄積するので、細胞が分裂する残存回数(細胞の残存ダブリング数)の平均数は、徐々に減少していく。そして、ある時間細胞がある一定以上の劣化のストレスを受けると(この場合、継代数がP10に相当する時間と手技の繰り返し)、細胞が分裂する残存回数(細胞の残存ダブリング数)の平均数は、急激に減少する。よって、ある一定以上の培養時間または継代手技のストレスが、細胞の許容量を超えた場合、この細胞を培養したとしても、細胞がその後分裂できる平均回数が少ない状態になってしまっているため、培養して得られる細胞の数が少なくなることになる。
【0031】
そのため、たとえばユーザが所望の数の細胞を得るために、この細胞を培養する場合、細胞がどのような劣化ストレス(経過時間または手技の外因的ストレス)を受けたかを知らずに培養すると、ユーザは所望の数の細胞が得られないことなる。劣化ストレスとして、経過時間は一つの尺度であるが、手技の外因的ストレスが大きければ、経過時間が短くても所望の細胞数は得られない。手技の外因的ストレスが小さくとも、経過時間が長すぎると、所望の細胞数が得られない。このような、どちらがどれだけ細胞の劣化に影響をするかは、細胞の種類や状態によって千差万別であるため、ストレスの主要因を明確にすることは通常できない。
【0032】
そして、仮に細胞の形が、見本データ内のある一定の残存ダブリング数を持った細胞の形と一致することがあれば、所望の数の細胞を得るために細胞を培養する場合、どのような残存ダブリング数を有している細胞の状態かを、推定することができ、推定結果に応じて、対象の細胞を培養するか否かを判定することが考えられる。たとえば、細胞の残存ダブリング数が大きい細胞の形と近似した細胞形態情報である場合には、残存ダブリング数が大きいだろうと推定して当該細胞を培養し、細胞の残存ダブリング数が小さい細胞と近似した細胞形態情報である場合には、残存ダブリング数は小さいだろうと推定して当該細胞を培養しないと判定することが考えられる。なお、当該細胞を培養しないと判定された場合には、他の細胞を新たに培養する、添加因子を加えて栄養成分を補給するなど、所望の数の細胞に近づくような操作的な処理を行うことも可能である。
【0033】
このように、細胞を培養する場合、残存ダブリング数に基づいて、細胞を培養するか否かを判定することにより、ユーザは所望の数の細胞を得ることができる。
【0034】
次に、図5を用いて、手技と継代数との関係について説明する。
図5には、細胞を一度フリーズストックし、再度起こし直して培養した場合と、通常通りに培養した場合(凍結ありの場合となしの場合)、および、継代時のトリプシン処理において手技的に不備があり細胞にダメージを与えた場合と、通常通りにトリプシン処理した場合(酵素ダメージがありの場合と通常手技の場合)のそれぞれについて、時間経過(h:時間)に対しての細胞数(cells/視野)の変化を示すグラフが、所定の継代数を経た細胞毎に示されている。ここでは、所定の継代数を経た細胞として、継代数P4、P7、および、P10の細胞についてのグラフが示されている。
【0035】
なお、「凍結あり」の場合とは、細胞をストックする通常の方法により、細胞を−80℃中に置いた後、再度融解し、培養した状態、すなわち細胞にダメージを与えてしまった場合をいう。「凍結なし」の場合とは、「凍結あり」の場合と対比して、細胞にダメージを与えず培養した状態をいう。
また、「酵素ダメージあり」の場合とは、初代培養細胞をトリプシン処理するに際し、処理時間やトリプシンの量が適当でなく、細胞にダメージを与えてしまった場合をいう。「酵素ダメージなし」の場合とは、トリプシン処理が適切に行われ、細胞にダメージを与えず培養した状態をいう。このように、初代培養細胞の継代はトリプシン処理に熟練を要するため、手技的に未熟な場合は、細胞に余計なダメージを与えてしまう。
【0036】
図5の左上のグラフは、凍結なしの場合であり、かつ、酵素ダメージなしの場合のグラフである。図5の左下のグラフは、凍結ありの場合であり、かつ、酵素ダメージなしの場合のグラフである。図5の右上のグラフは、凍結なしの場合であり、かつ、酵素ダメージありの場合のグラフである。図5の右下のグラフは、凍結ありの場合であり、かつ、酵素ダメージありの場合のグラフである。
【0037】
この図5に示されているグラフより、図5の左上、図5の左下、および、図5の右上のグラフの場合、時間経過(h:時間)に対しての細胞数(cells/視野)の変化は、P4、P7、および、P10と継代数が異なる場合であっても、大きな相違はない。いずれの場合においても、時間経過(h:時間)に従い、細胞数(cells/視野)は増加している。
【0038】
また、図5の右下のグラフの場合、時間経過(h:時間)に対しての細胞数(cells/視野)の変化は、継代数がP4とP7との場合には、図5の左上、図5の左下、および、図5の右上の場合と同様に、大きな相違はない。
【0039】
しかし、この図5の右下のグラフの場合には、時間経過(h:時間)に対しての細胞数(cells/視野)の変化は、継代数がP10の場合には、急激に減少している。詳細には、この図5の右下のグラフの場合には、時間経過(h:時間)に従い、細胞数(cells/視野)は増加しているものの、その増加率が、図5の左上、図5の左下、図5の右上の場合、および、図5の右下の場合であって継代数がP4とP7との場合に対比して、減少している。
【0040】
すなわち、この場合、凍結ありの場合であり、かつ、酵素ダメージありの場合である場合のみ、ある継代数(この場合、継代数がP10)を超えると、細胞の増加率が減少することになる。そして、凍結または酵素ダメージのうちいずれか1方のみが「あり」の場合は、または、いずれも「なし」の場合は、継代数がP10になっても、凍結ありの場合であり、かつ、酵素ダメージありの場合である場合に対比して、細胞の増加率は減少しない。
【0041】
すなわち、凍結ありの場合で、かつ、酵素ダメージありの継代数P10の細胞は、図4で示されたように、凍結ありのみの条件、および酵素ダメージのみの条件に比べて、予想に反して残存ダブリング数が残り僅かであると推定され、細胞に多大なダメージが蓄積されてしまっているため、良好な細胞増殖が得られないと考えられ、培養をしないという判断を行うことができる。
【0042】
このように、培養時間や継代数が同じであっても、手技的熟練度や時間というストレスと継代というストレスのコンビネーションによって、細胞の有する残存ダブリング数は大きく左右されてしまい、細胞の増加率が予測不能な場合がある。
【0043】
そのため、細胞を培養する場合おいて、細胞を培養するか否かを判定する場合、残存ダブリング数のみでなく手技にも基づいて、細胞を培養するか否かを判定することにより、より適切に、細胞を培養するか否かを判定することができる。これにより、ユーザは所望の数の細胞を得ることができる。
【0044】
また、酵素ダメージありの場合、たとえ細胞を十分な数まで培養できたとしても、培養された細胞には酵素ダメージがあるため、細胞を評価する場合に、当該培養した細胞は適してない可能性がある。そのため、手技として、酵素ダメージがある場合に培養された細胞は、その後の細胞を評価する処理には用いないようにすることが考えられる。
【0045】
図1の説明に戻り、制御装置41の構成について説明する。この制御装置41は、CPU42および記憶部43を有している。
【0046】
記憶部43は、ハードディスクや、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体などで構成される。この記憶部43には、ストッカー21に収納されている各培養容器19に関する管理データと、撮像装置で撮像された顕微鏡画像のデータとが記憶されている。さらに、記憶部43には、CPU42によって実行されるプログラムが記憶されている。
【0047】
なお、上記の管理データには、(a)個々の培養容器19を示すインデックスデータ、(b)ストッカー21での培養容器19の収納位置、(c)培養容器19の種類および形状(ウェルプレート、ディッシュ、フラスコなど)、(d)培養容器19で培養されている細胞の種類、(e)培養容器19の観察スケジュール、(f)タイムラプス観察時の撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点等)、などが含まれている。また、ウェルプレートのように複数の小容器で同時に細胞を培養できる培養容器19については、各々の小容器ごとにそれぞれ管理データが生成される。
【0048】
CPU42は、入力部4201と、特徴量演算部4202と、画像読込部4203と、手技評価計算モデル構築部(判定基準作成部)4211と、手技評価部(画像判定部)4212と、細胞評価計算モデル構築部(残存回数計算モデル構築部)4221と、細胞評価部(残存回数算出部)4222とを備えている。このCPU42は、たとえば、制御装置41の各種の演算処理を実行するプロセッサである。なお、CPU42は、プログラムの実行によって、入力部4201と、特徴量演算部4202と、画像読込部4203と、手技評価計算モデル構築部4211と、手技評価部4212と、細胞評価計算モデル構築部4221と、細胞評価部4222としてそれぞれ機能してもよい。
【0049】
入力部4201は、培養容器内で培養される複数の細胞が時系列に撮像されている複数の画像を記憶部43から読み込む。また、この入力部4201は、記憶部43から画像を読込む場合、この画像に撮像されている細胞についての情報も読込む(または、入力される)。この細胞についての情報とは、学習する対象となる情報のことであり、たとえば、各画像に対応する手技を示す情報、または、各画像に対応する残存ダブリング数を示す情報のことである。
【0050】
すなわち、この入力部4201には、培養容器内で培養された複数の細胞が撮像されている画像と、当該細胞が培養された場合の手技を示す情報が入力される。また、この入力部4201には、同一培養容器内で培養された複数の細胞を異なる時間に撮像することによって得られた複数の画像と、当該細胞が分裂する残存回数(残存ダブリング数)を示す情報が入力される。
【0051】
なお、この「手技を示す情報」とは、たとえば、図5を用いて説明した4つの手技のそれぞれに対して予め定められている識別情報である。なお、「手技を示す情報」は、図5を用いて説明した4つの手技に限られるものではなく、識別される条件は任意であってもよいし、識別される手技の数も任意であってもよい。
【0052】
特徴量演算部4202は、入力部4201または画像読込部4203で読み込まれた画像から、画像に写されている細胞の特徴量を出力する。また、この特徴量演算部4202は、画像に含まれる各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量を画像からそれぞれ求め、求めた特徴量を出力する。
【0053】
画像読込部4203は、培養容器内で培養された細胞が撮像されている画像を読み込む。すなわち、この画像読込部4203は、評価対象となる細胞が撮像されている画像を読み込む。また、画像読込部4203には、評価対象となる細胞の画像であって、培養容器内で培養される複数の細胞が時系列に撮像されている画像が入力される。
【0054】
たとえば、評価対象となる細胞が撮像されている画像が予め記憶部43に記憶されており、画像読込部4203は、評価対象となる細胞が撮像されている画像を記憶部43から読み込んでもよい。また、画像読込部4203は、評価対象となる細胞が撮像されている画像を、インターネットなどの通信網を介して受信することにより、読み込んでもよい。
【0055】
手技評価計算モデル構築部4211は、画像に写された細胞の評価データと細胞の特徴量とに基づいて、細胞の特徴量における判定基準を作成する。この「画像に写された細胞の評価データと細胞の特徴量」とは、特徴量演算部4202から出力された特徴量のことである。また、この「画像に写された細胞の評価データ」とは、細胞に行われた手技に関する情報のことである。また、この「細胞の特徴量における判定基準」とは、細胞が培養された場合の手技を判定するための判定基準であって、細胞の特徴量に対しての基準である。また、この基準とは、特徴量ごとの基準であってもよいし、複数の特徴量が組み合わせられている特徴量に対しての基準であってもよい。
【0056】
たとえば、この手技評価計算モデル構築部4211は、画像内の細胞の特徴量と、手技を示す情報とに基づいて、細胞が培養された場合の手技を評価する手技評価計算モデルを構築する。この「画像内の細胞の特徴量」とは、特徴量演算部4202から出力された特徴量のことである。また、この「手技を示す情報」とは、入力部4201に入力された「手技を示す情報」のことである。また、「手技評価計算モデル」は、一例としては、図5に示されたそれぞれの手技を判定する計算モデルである。
【0057】
手技評価部4212は、手技評価計算モデル構築部4211により作成された判定基準を基に、新たに入力した画像に写された細胞の特徴量から、細胞の評価を行う細胞評価計算モデルを構築するために利用データとして適用可能な否かを判定する。
【0058】
たとえば、手技評価部4212は、特徴量演算部4202により求められた特徴量を、手技評価計算モデル構築部4211により構築された計算モデルに入力することにより、画像読込部4203に入力された画像に撮像されている細胞(評価対象となる細胞)が培養された場合の手技を評価する。
【0059】
細胞評価計算モデル構築部4221は、特徴量演算部4202により求められた形態的な特徴量を基に、細胞の評価を行う細胞評価計算モデルを構築する。また、細胞評価計算モデル構築部4221は、手技評価部4212により適用可能と判定された画像を用いて、特徴量演算部4202で求められる形態的な特徴量を基に細胞の評価を行う細胞評価計算モデルを構築する。この「手技評価部4212により適用可能と判定された画像を用いて、特徴量演算部4202で求められる形態的な特徴量」とは、手技評価部4212により適用可能と判定された画像に対して、特徴量演算部4202により求められた形態的な特徴量のことである。
【0060】
たとえば、細胞評価計算モデル構築部4221は、各々の画像に対応する特徴量と残存回数を示す情報とに基づいて、細胞に対しての残存回数(残存ダブリング数)を算出する細胞評価計算モデルを構築する。また、評価値としては、細胞の分裂可能数の残存回数以外にも、様々な評価値を出力できるようにしても良い。なお、本実施の形態では、この「各々の画像に対応する特徴量」とは、特徴量演算部4202から出力された特徴量のことである。また、この「残存回数を示す情報」とは、入力部4201に入力された「細胞が分裂する残存回数を示す情報」のことである。
【0061】
一例としては、細胞評価計算モデル構築部4221は、たとえば、教師付き学習により細胞評価計算モデルを求める。なお、この細胞評価計算モデルは、細胞における特性を評価した結果を、評価情報として出力する。この「細胞における特性」とは、たとえば、細胞の種類や状態を示す符号や指数であったり、残存ダブリング数のことである。
【0062】
また、この細胞評価計算モデル構築部4221は、画像読込部4203に入力された画像に対して特徴量演算部4202により求められた特徴量のうち、手技評価部4212により評価された手技の結果が、画像読込部4203に読み込まれた画像に撮像されている細胞を評価する細胞評価計算モデルを構築する場合に適切であると判定された特徴量に基づいて、細胞評価計算モデルを構築する。
【0063】
なお、この、手技評価部4212により評価された手技の結果が、画像読込部4203に読み込まれた画像に撮像されている細胞を評価する細胞評価計算モデルを構築する場合に適切であるか否かは、手技評価部4212により評価された手技の結果、予め定められている手技であるか否かを判定することにより実行される。
【0064】
一例としては、手技評価部4212により評価された手技の結果が、図5を用いて説明したように、酵素ダメージがあるような手技である場合(図5の右上と右下の場合)、細胞評価計算モデル構築部4221は、この手技で培養された画像は、細胞評価計算モデルを構築する場合に適切ではないと判定する。
【0065】
また、手技評価部4212により評価された手技の結果が、図5を用いて説明したように、酵素ダメージがないような手技である場合(図5の左上と左下の場合)、細胞評価計算モデル構築部4221は、この手技で培養された画像は、細胞評価計算モデルを構築する場合に適切であると判定する。
【0066】
細胞評価部4222は、特徴量演算部4202から出力された特徴量を、細胞評価計算モデル構築部4221により構築された細胞評価計算モデルに入力することにより、評価情報を算出し、算出した評価情報を出力する。なお、細胞評価部4222により算出され出力される評価情報は、たとえば、評価対象となる細胞の残存ダブリング数を示す情報である。このようにして、細胞評価部4222は、画像読込部4203に読み込まれた画像の細胞を評価する。
【0067】
なお、手技評価装置は、上述した入力部4201と、特徴量演算部4202と、手技評価計算モデル構築部4211とを含めて構成されている。この手技評価装置は、さらに、画像読込部4203と、手技評価部4212とを含んで構成されていてもよい。また、細胞評価モデル構築装置は、この手技評価装置と、細胞評価計算モデル構築部4221とを含めて構成されている。
【0068】
また、細胞評価計算モデル装置は、上述した入力部4201と、特徴量演算部4202と、手技評価計算モデル構築部4211とを含めて構成されている。
【0069】
また、細胞評価装置は、上述した画像読込部4203と、特徴量演算部4202と、細胞評価部4222とを含めて構成されている。この細胞評価装置は、さらに、入力部4201と、手技評価計算モデル構築部4211とを含めて構成されていてもよい。また、この細胞評価装置は、細胞評価計算モデル構築部4221と、細胞評価部4222とを含めて構成されていてもよい。
【0070】
なお、細胞評価部4222は、細胞評価計算モデル構築部4221で細胞評価計算モデル構築時に用いた細胞の特徴量を取得するためにも使用される特徴量演算部4202から、評価する細胞の特徴量を得ている。このようにすることで、少ない構成で細胞評価計算モデル構築と細胞評価の両方をなし得る装置構成となっている。
しかしながら、細胞の特徴量を出力する構成(特徴量演算部4202)は、細胞評価計算モデル構築部4221と細胞評価部4222とに対応させて、異なる構成としてもよい。たとえば、細胞評価計算モデル構築部4221を備えている細胞評価計算モデル装置は、特徴量演算部4202を備えており、細胞評価部4222を備えている細胞評価装置は、特徴量演算部4202と同様の構成を有している残存回数算出用特徴量演算部を備えていてもよい。
また、入力部4201と画像読込部4203とは、一体として構成されていてもよい。
【0071】
<第1の実施形態における観察動作の例>
次に、図6の流れ図を参照しつつ、第1の実施形態におけるインキュベータ11での観察動作の一例を説明する。この図6は、恒温室15内に搬入された培養容器19を、登録された観察スケジュールに従ってタイムラプス観察する動作例を示している。
【0072】
ステップS101:CPU42は、記憶部43の管理データの観察スケジュールと現在日時とを比較して、培養容器19の観察開始時間が到来したか否かを判定する。観察開始時間となった場合(YES側)、CPU42はS102に処理を移行させる。一方、培養容器19の観察時間ではない場合(NO側)には、CPU42は次の観察スケジュールの時刻まで待機する。
【0073】
ステップS102:CPU42は、観察スケジュールに対応する培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19をストッカー21から搬出して観察ユニット22の試料台31に載置する。なお、培養容器19が試料台31に載置された段階で、スタンドアーム32に内蔵されたバードビューカメラ(不図示)によって培養容器19の全体観察画像が撮像される。
【0074】
ステップS103:CPU42は、観察ユニット22に対して細胞の顕微鏡画像の撮像を指示する。観察ユニット22は、LED光源35を点灯させて培養容器19を照明するとともに、撮像装置34を駆動させて培養容器19内の細胞の顕微鏡画像を撮像する。
【0075】
このとき、撮像装置34は、記憶部43に記憶されている管理データに基づいて、ユーザーの指定した撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点)に基づいて顕微鏡画像を撮像する。例えば、培養容器19内の複数のポイントを観察する場合、観察ユニット22は、試料台31の駆動によって培養容器19の位置を逐次調整し、各々のポイントでそれぞれ顕微鏡画像を撮像する。なお、S103で取得された顕微鏡画像のデータは、制御装置41に読み込まれるとともに、CPU42の制御によって記憶部43に記録される。
【0076】
ステップS104:CPU42は、観察スケジュールの終了後に培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19を観察ユニット22の試料台31からストッカー21の所定の収納位置に搬送する。その後、CPU42は、観察シーケンスを終了してS101に処理を戻す。
【0077】
この図6の流れ図を用いた説明により、インキュベータ11により観察された時系列の画像データが、記憶部43に記憶される。
【0078】
<第1の実施形態における培養状態評価処理>
次に図7を用いて、上述した図6の処理により記憶部43に記憶された画像データを用いて、制御装置41が、手技評価計算モデルおよび細胞評価計算モデルを構築する一例について説明する。
【0079】
ここでは、一例として、培養容器19をタイムラプス観察して取得した複数の顕微鏡画像を用いて、培養容器19の培養細胞において、細胞に対しての残存ダブリング数を制御装置41が推定する場合について説明する。
【0080】
また、ここでは、図6の処理において、培養容器19のタイムラプス観察は、培養開始から0.33日目(8時間)経過後を初回として、0.33日おきに13.67日目まで行われているものとして説明する。また、ここでは、複数の培養容器19がそれぞれタイムラプス観察されており、上記のサンプルの顕微鏡画像が記憶部43に記憶されているものとして説明する。なお、制御装置41は、同じ培養容器19の複数ポイント(例えば5点観察または培養容器19の全体)を同じ観察時間帯で撮影した複数の顕微鏡画像を、タイムラプス観察の1回分の画像として扱うようにしてもよい。
【0081】
なお、当該タイムラプス観察された細胞については、手技が既知となっているものとする。たとえば、培養容器19でタイムラプス観察された細胞に対して、予め手技が予め定められていてもてよい。
【0082】
また、当該タイムラプス観察された細胞については、残存ダブリング数が既知となっているものとする。これは、たとえば、培養容器19でタイムラプス観察された細胞に対して、任意の実験により、残存ダブリング数が調べられていてもよい。この任意の実験は、本実施形態によるタイムラプス観察が終了した後に行われる実験であってもよい。
【0083】
そして、制御装置41には、培養容器19毎の細胞の画像と、手技を示す情報とが、培養容器19毎に入力されるものとする。また、制御装置41には、培養容器19毎の細胞の画像と、当該培養容器19で培養された細胞の残存ダブリング数を示す情報とが、培養容器19毎に入力されるものとする。なお、手技を示す情報および細胞の残存ダブリング数を示す情報は、インキュベータ11により観察された時系列の画像データと関連付けられて、培養容器19毎に、記憶部43に記憶されていてもよい。
【0084】
ステップS201:CPU42は、予め用意されたサンプルの顕微鏡画像のデータを記憶部43から読み込む。なお、ステップS201でのCPU42は、各画像に対応する手技を示す情報と残存ダブリング数を示す情報とを、この時点で取得するものとする。
【0085】
ステップS202:CPU42は、上記のサンプルの顕微鏡画像(ステップS201)のうちから、処理対象となる画像を指定する。ここで、ステップS202でのCPU42は、予め用意されているサンプルの顕微鏡画像のすべてを処理対象として順次指定してゆくものとする。
【0086】
ステップS203:CPU42の特徴量演算部4202は、処理対象の顕微鏡画像(ステップS202)について、画像内に含まれる細胞を抽出する。例えば、位相差顕微鏡で細胞を撮像すると、細胞壁のように位相差の変化の大きな部位の周辺にはハロが現れる。そのため、特徴量演算部4202は、細胞壁に対応するハロを公知のエッジ抽出手法で抽出するとともに、輪郭追跡処理によってエッジで囲まれた閉空間を細胞と推定する。これにより上記の顕微鏡画像から個々の細胞を抽出することができる。
【0087】
ステップS204:CPU42の特徴量演算部4202は、ステップS203で画像から抽出した各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量を画像からそれぞれ求める。このステップS204において、CPU42の特徴量演算部4202は、上述した複数の異る特徴量として、16種類の特徴量を、ステップS203で画像から抽出した各々の細胞について求めるものとする。
【0088】
ステップS205:CPU42の特徴量演算部4202は、処理対象の顕微鏡画像(ステップS202)について、各細胞の16種類の特徴量(ステップS204)をそれぞれ記憶部43に記録する。
【0089】
ステップS206:CPU42は、全ての顕微鏡画像が処理済み(全てのサンプルの顕微鏡画像で各細胞の特徴量が取得済みの状態)であるか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、CPU42はステップS209に処理を移行させる。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、CPU42はステップS202に戻って、未処理の他の顕微鏡画像を処理対象として上記動作を繰り返す。
【0090】
ステップS209:CPU42の手技評価計算モデル構築部4211は、記憶部43から読み出した画像内の細胞の特徴量と、手技を示す情報とに基づいて、細胞が培養された場合の手技を評価する手技評価計算モデルを構築する。
【0091】
ステップS210:CPU42の手技評価計算モデル構築部4211は、ステップS209で構築して求めた手技評価計算モデルの情報(計算式に用いる各指標を示す情報、計算式で各々の指標に対応する係数値の情報など)を記憶部43に記録する。
【0092】
ステップS211:手技評価部4212は、特徴量演算部4202により求められた特徴量を、記憶部43から読み出した手技評価計算モデル(または、ステップS209において手技評価計算モデル構築部4211により構築された計算モデル)に入力することにより、画像読込部4203に入力された画像に撮像されている細胞(評価対象となる細胞)が培養された場合の手技を評価する。このとき手技評価部4212は、まず、細胞毎に手技を評価し、培養容器19毎の手技の平均を算出する。
次に、手技評価部4212は、算出した結果に基づいて、手技を培養容器19毎に評価してもよい。次に、細胞評価計算モデル構築部4221は、この手技の評価に基づいて、細胞評価計算モデルを構築するための画像を抽出する。この抽出される画像とは、培養容器19毎に抽出された画像であってもよい。
【0093】
ステップS212:細胞評価計算モデル構築部4221は、ステップS211で抽出した画像と、当該画像に対応する特徴量(記憶部43から読み出した特徴量)とに基づいて、細胞評価計算モデルを構築する。
【0094】
ステップS213:CPU42の細胞評価計算モデル構築部4221は、ステップS212で構築して求めた細胞評価計算モデルの情報(計算式に用いる各指標を示す情報、計算式で各々の指標に対応する係数値の情報など)を記憶部43に記録する。以上で、図7の説明を終了する。
【0095】
なお、この図7の説明においては、制御装置41が、手技評価計算モデルと細胞評価計算モデルとを構築する場合について説明したが、制御装置41は、手技評価計算モデルは予め構築されていてもよい。たとえば、予め構築されている手技評価計算モデルが記憶部43に記憶されている場合には、制御装置41は、上記図7のステップS209とS210とを省略して、手技評価計算モデルを再度構築することなしに、細胞評価計算モデルを構築することができる。また、手技評価計算モデルのみを構築する場合には、制御装置41は、ステップS210で処理を終了してもよい。
【0096】
<図7のステップS204:CPU42の特徴量演算部4202による処理の詳細>
次に、図8を用いて、図7のステップS204におけるCPU42の特徴量演算部4202による処理について詳細に説明する。この特徴量演算部4202は、各細胞について以下の16種類の特徴量をそれぞれ求める。
【0097】
・Total area(図8の(a)参照)「Total area」は、注目する細胞の面積を示す値である。例えば、特徴量演算部4202は、注目する細胞の領域の画素数に基づいて「Total area」の値を求めることができる。
【0098】
・Hole area(図8の(b)参照)「Hole area」は、注目する細胞内のHoleの面積を示す値である。ここで、Holeは、コントラストによって、細胞内における画像の明るさが閾値以上となる部分(位相差観察では白に近い状態となる箇所)を指す。例えば、細胞内小器官の染色されたリソソームなどがHoleとして検出される。また、画像によっては、細胞核や、他の細胞小器官がHoleとして検出されうる。なお、特徴量演算部4202は、細胞内における輝度値が閾値以上となる画素のまとまりをHoleとして検出し、このHoleの画素数に基づいて「Hole area」の値を求めればよい。
【0099】
・relative hole area(図8の(c)参照)「relative hole area」は、「Hole area」の値を「Total area」の値で除した値である(relative hole area=Hole area/Total area)。この「relative hole area」は、細胞の大きさにおける細胞内小器官の割合を示すパラメータであって、例えば細胞内小器官の肥大化や核の形の悪化などに応じてその値が変動する。
【0100】
・Perimeter(図8の(d)参照)「Perimeter」は、注目する細胞の外周の長さを示す値である。例えば、特徴量演算部4202は、細胞を抽出するときの輪郭追跡処理により「Perimeter」の値を取得することができる。
【0101】
・Width(図8の(e)参照)「Width」は、注目する細胞の画像横方向(X方向)での長さを示す値である。
【0102】
・Height(図8の(f)参照)「Height」は、注目する細胞の画像縦方向(Y方向)での長さを示す値である。
【0103】
・Length(図8の(g)参照)「Length」は、注目する細胞を横切る線のうちの最大値(細胞の全長)を示す値である。
【0104】
・Breadth(図8の(h)参照)「Breadth」は、「Length」に直交する線のうちの最大値(細胞の横幅)を示す値である。
【0105】
・Fiber Length(図8の(i)参照)「Fiber Length」は、注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の長さを示す値である。特徴量演算部4202は、下式(1)により「Fiber Length」の値を求める。
【0106】
【数1】

【0107】
但し、本明細書の式において「P」はPerimeterの値を示す。同様に「A」はTotal Areaの値を示す。
【0108】
・Fiber Breadth(図8の(j)参照)「Fiber Breadth」は、注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の幅(Fiber Lengthと直交する方向の長さ)を示す値である。特徴量演算部4202は、下式(2)により「Fiber Breadth」の値を求める。
【0109】
【数2】

【0110】
・Shape Factor(図8の(k)参照)「Shape Factor」は、注目する細胞の円形度(細胞の丸さ)を示す値である。特徴量演算部4202は、下式(3)により「Shape Factor」の値を求める。
【0111】
【数3】

【0112】
・Elliptical form Factor(図8の(l)参照)「Elliptical form Factor」は、「Length」の値を「Breadth」の値で除した値(Elliptical form Factor=Length/Breadth)であって、注目する細胞の細長さの度合いを示すパラメータとなる。
【0113】
・Inner radius(図8の(m)参照)「Inner radius」は、注目する細胞の内接円の半径を示す値である。
【0114】
・Outer radius(図8の(n)参照)「Outer radius」は、注目する細胞の外接円の半径を示す値である。
【0115】
・Mean radius(図8の(o)参照)「Mean radius」は、注目する細胞の輪郭を構成する全点とその重心点との平均距離を示す値である。
【0116】
・Equivalent radius(図8の(p)参照)「Equivalent radius」は、注目する細胞と同面積の円の半径を示す値である。この「Equivalent radius」のパラメータは、注目する細胞を仮想的に円に近似した場合の大きさを示している。
【0117】
ここで、CPU42の特徴量演算部4202は、細胞に対応する画素数に誤差分を加味して上記の各特徴量を求めてもよい。このとき、特徴量演算部4202は、顕微鏡画像の撮影条件(撮影倍率や顕微光学系の収差など)を考慮して特徴量を求めるようにしてもよい。なお、「Inner radius」、「Outer radius」、「Mean radius」、「Equivalent radius」を求めるときには、特徴量演算部4202は、公知の重心演算の手法に基づいて各細胞の重心点を求め、この重心点を基準にして各パラメータを求めればよい。
【0118】
<図7のステップS212:CPU42の細胞評価計算モデル構築部4221による処理の詳細>
次に、図9から図11を用いて、図7のステップS212におけるCPU42の細胞評価計算モデル構築部4221による処理について詳細に説明する。
【0119】
なお、本実施形態においては、たとえば、時系列における特徴量において、全ての時系列における特徴量を細胞評価計算モデルに用いることも可能であるし、時系列における一部の時刻の特徴量を細胞評価計算モデルに用いることも可能である。この「時系列における一部の時刻の特徴量」とは、たとえば、「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が3.00日目の値、「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が3.33日目の値、・・・「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が13.67日目の値と、それぞれの値のことである。ここでは、「時系列における一部の時刻の特徴量」を、「指標」として説明する。すなわち、測定された経過日数ごとの特徴量それぞれの値が、指標となる。
【0120】
ここでは、細胞評価計算モデル構築部4221が、ファジーニューラルネットワーク(Fuzzy Neural Network:FNN)解析によって上記の細胞評価計算モデルを求める場合について説明する。
【0121】
また、ここでは、細胞評価計算モデル構築部4221が、特徴量に基づいて、各々の顕微鏡画像のセットにおいて、がん細胞の数(予測値)を求める場合の細胞評価計算モデルを求める場合について説明する。なお、ここでは、細胞評価計算モデル構築部4221が、がん細胞の数(予測値)を求める場合の細胞評価計算モデルを構築する場合について説明しているが、残存ダブリング数を推定する場合の細胞評価計算モデルを構築する場合でも、細胞評価計算モデルの構築方法は同様である。
【0122】
FNNとは、人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN)とファジィ推論とを組み合わせた方法である。このFNNでは、ファジイ推論の欠点であるメンバーシップ関数の決定を人間に頼るという部分を回避すべく、ANNをファジィ推論に組み込んでその自動決定を行う。
【0123】
学習機械のひとつであるANN(図9参照)は、生体の脳における神経回路網を数学的にモデル化したものであり、以下の特徴を持つ。ANNにおける学習は、目的の出力値(教師値)をもつ学習用のデータ(入力値:X)を用いて、バックプロパゲーション(Back propagation:BP)法により教師値と出力値(Y)との誤差が小さくなるように、ノード(図9において丸で示す)間をつなぐ回路における結合荷重を変え、その出力値が教師値に近づくようにモデルを構築する過程である。このBP法を用いれば、ANNは学習により自動的に知識を獲得することができる。そして、最終的に学習に用いていないデータを入力することにより、そのモデルの汎用性を評価できる。
【0124】
従来、メンバーシップ関数の決定は、人間の感覚に頼っていたが、上で述べたようなANNをファジイ推論に組み込むことで自動的なメンバーシップ関数の同定が可能になる。これがFNNである。FNNでは、ANNと同様に、BP法を用いることによりネットワークに与えられた入出力関係を、結合荷重を変化させることで自動的に同定しモデル化できる。FNNは、学習後のモデルを解析することでファジィ推論のように人間に理解しやすい言語的なルール(一例として図10の右下の吹き出しを参照)として知識を獲得できるという特徴をもっている。つまり、FNNは、その構造、特徴から、細胞の形態的特徴を表した数値のような変数の組み合わせにおける最適なファジィ推論の組み合わせを自動決定し、予測目標に関する推定と、予測に有効な特徴量(指標)の組み合わせを示すルールの生成を同時に行うことができる。
【0125】
FNNの構造は、「入力層」、シグモイド関数に含まれるパラメータWc、Wgを決定する「メンバーシップ関数部分(前件部)」、Wfを決定するとともに入力および出力の関係をルールとして取り出すことが可能な「ファジィルール部分(後件部)」、「出力層」の4層から成り立っている(図10参照)。FNNのモデル構造を決定する結合荷重にはWc、Wg、Wfがある。結合荷重Wcは、メンバーシップ関数に用いられるシグモイド関数の中心位置、Wgは中心位置での傾きを決定する(図11参照)。モデル内では、入力値がファジィ関数により、人間の感覚的に近い柔軟性を持って表現される(一例として図10の左下の吹き出しを参照)。結合荷重Wfは各ファジイ領域の推定結果に対する寄与を表しており、Wfよりファジィルールを導くことができる。即ち、モデル内の構造はあとから解読でき、ルールとして書き起こすことができる(一例として図10中右下の吹き出しを参照)。
【0126】
FNN解析におけるファジィルールの作成には結合荷重のひとつであるWf値が用いられる。Wf値が正の値で大きいと、そのユニットは「予測に有効である」と判定されることに対する寄与が大きく、そのルールに当てはまった指標は「有効である」と判断される。Wf値が負の値で小さいと、そのユニットは「予測に有効でない」と判定されることに対する寄与が大きく、そのルールに当てはまった指標は「有効でない」と判断される。
【0127】
一例として、ステップS209での細胞評価計算モデル構築部4221は、以下の(A)から(H)の処理により、上記の細胞評価計算モデルを求める。
【0128】
(A)細胞評価計算モデル構築部4221は、複数の指標のうちから1つの指標を選択する。
【0129】
(B)細胞評価計算モデル構築部4221は、(A)で選択された指標を変数とした計算式により、各々の顕微鏡画像のセットでのがん細胞の数(予測値)を求める。
【0130】
仮に、1つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1」(但し、「Y」はがん細胞の計算値(例えばがん細胞の増加数を示す値)、「X1」は上記の選択された指標の値、「α」はX1に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。このとき、細胞評価計算モデル構築部4221は、αに任意の値を代入するとともに、X1に各セットにおける値をそれぞれ代入する。これにより、各セットでのがん細胞の計算値(Y)が求められる。
【0131】
(C)細胞評価計算モデル構築部4221は、各々の顕微鏡画像のセットについて、(B)で求めた計算値Yと、実際のがん細胞の数(教師値)との誤差をそれぞれ求める。なお、上記の教師値は、ステップS201で読み込んだがん細胞の数の情報に基づいて、細胞評価計算モデル構築部4221が求めるものとする。
【0132】
そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、各顕微鏡画像のセットでの計算値の誤差がより小さくなるように、教師付き学習により上記の計算式の係数αを修正する。
【0133】
(D)細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の(B)および(C)の処理を繰り返し、上記(A)の指標について、計算値の平均誤差が最も小さくなる計算式のモデルを取得する。
【0134】
(E)細胞評価計算モデル構築部4221は、複数の指標の各指標について、上記(A)から(D)の各処理を繰り返す。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、各指標における計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなる指標を、評価情報の生成に用いる(評価情報を計算する細胞評価計算モデルを構築するために用いる)1番目の指標とする。
【0135】
(F)細胞評価計算モデル構築部4221は、上記(E)で求めた1番目の指標と組み合わせる2番目の指標を求める。このとき、細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の1番目の指標と残りの127の指標とを1つずつペアにしてゆく。次に、細胞評価計算モデル構築部4221は、各々のペアにおいて、計算式でがん細胞の予測誤差を求める。
【0136】
仮に、2つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1+βX2」(但し、「Y」はがん細胞の計算値、「X1」は1番目の指標の値、「α」はX1に対応する係数値、「X2」は、選択された指標の値、「β」はX2に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の(B)および(C)と同様の処理により、計算値の平均誤差が最も小さくなるように、上記の係数α、βの値を求める。
【0137】
その後、細胞評価計算モデル構築部4221は、各々のペアで求めた計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなるペアを求める。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、平均誤差が最も低くなるペアの指標を、評価情報の生成に用いる1番目および2番目の指標とする。
【0138】
(G)細胞評価計算モデル構築部4221は、所定の終了条件を満たした段階で演算処理を終了する。例えば、細胞評価計算モデル構築部4221は、指標を増やす前後の各計算式による平均誤差を比較する。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、指標を増やした後の計算式による平均誤差が、指標を増やす前の計算式による平均誤差より高い場合(または両者の差が許容範囲に収まる場合)には、ステップS209の演算処理を終了する。
【0139】
(H)一方、上記(G)で終了条件を満たさない場合、細胞評価計算モデル構築部4221は、さらに指標の数を1つ増やして、上記(F)および(G)と同様の処理を繰り返す。これにより、上記の細胞評価計算モデルを求めるときに、ステップワイズな変数選択によって指標の絞り込みが行われることとなる。
【0140】
このようにして、細胞評価計算モデル構築部4221は、一例としては、FNN解析によって細胞評価計算モデルを求めることができる。
【0141】
なお、ここでは、細胞評価計算モデル構築部4221が、FNN解析によって上記の細胞評価計算モデルを求める場合について説明したが、細胞評価計算モデルを求める方法はFNN解析に限られるものではない。たとえば、細胞評価計算モデル構築部4221は、上述した複数の特徴量を説明変量として、細胞の特性を評価する任意の形式の多変量解析により細胞評価計算モデルを構築してもよい。この多変量解析とは、重回帰分析、判別分析、ロジスティック回帰分析、または、主成分分析などであってもよい。
【0142】
<図7のステップS209:CPU42の手技評価計算モデル構築部4211による処理の詳細>
次に、図7のステップS209におけるCPU42の手技評価計算モデル構築部4211による処理について詳細に説明する。
【0143】
この手技評価計算モデル構築部4211は、上記に図9から図11を用いて説明した細胞評価計算モデル構築部4221と同様に、手技評価計算モデルを構築する。その相違点は、次に説明するように評価する対象の違いである。
【0144】
まず、細胞評価計算モデル構築部4221は、評価する対象として、残存ダブリング数などの細胞の特性を、複数の指標を組み合わせにより評価する細胞評価計算モデルを構築する。これに対して、手技評価計算モデル構築部4211は、評価する対象として、細胞を培養する場合の手技を、複数の指標を組み合わせにより評価する手技評価計算モデルを構築する。
【0145】
そして、細胞評価計算モデル構築部4221と手技評価計算モデル構築部4211とは、評価する対象は異なるが、その複数の指標を組み合わせにより、評価する対象を推定する計算モデルを構築する点は同様である。
【0146】
よって、手技評価計算モデル構築部4211は、評価する対象として、細胞を培養する場合の手技を、複数の指標を組み合わせにより評価する手技評価計算モデルを、細胞評価計算モデル構築部4221と同様にFNN解析や、重回帰分析、判別分析、ロジスティック回帰分析、または、主成分分析などの任意の形式の多変量解析により、構築する。
【0147】
なお、細胞評価計算モデル構築部4221と手技評価計算モデル構築部4211とは、指標に基づいて、異なる形式の解析方法により、それぞれの評価対象を推定する計算モデルを構築してもよい。たとえば、細胞評価計算モデル構築部4221はFNN解析により細胞評価計算モデルを構築し、手技評価計算モデル構築部4211は重回帰分析により手技評価計算モデルを構築してもよい。
【0148】
(細胞を評価する場合の処理の例)
次に、図12の流れ図を用いて、第1の実施形態による細胞評価装置が、評価対象となる細胞に対して評価する場合の処理について説明する。ここでは、評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータが、記憶部43に記憶されているものとして説明する。なお、評価対象の顕微鏡画像は、細胞群を培養した培養容器19をインキュベータ11によって同一視野を同一の撮影条件でタイムラプス観察して取得されたものとする。また、この場合のタイムラプス観察は、図7の例と条件を揃えるために、培養開始から0.33日目(8時間目)経過後を初回として0.33日(8時間)おきに13.67日目まで行われているものとする。
【0149】
ステップS301:CPU42は、評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータを、画像読込部4203を介して記憶部43から読み込む。
【0150】
ステップS302:CPU42の特徴量演算部4202は、読み込んだ評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータに対して、図7のステップS203、ステップS204、および、ステップS205の場合と同様に、複数の特徴量(指標)を抽出する。
【0151】
ステップS303:CPU42の手技評価部4212は、記憶部43から手技評価計算モデルの情報(図7のステップS210で記録されたもの)を読み込む。
【0152】
ステップS305:CPU42の手技評価部4212は、ステップS302で特徴量演算部4202により抽出された複数の特徴量(複数の指標)を、ステップS303で読み込んだ手技評価計算モデルに入力する。これにより、CPU42の手技評価部4212は、ステップS301で入力された評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータに撮像されている細胞についての培養における手技を評価する。
【0153】
このステップS305による手技に対しての評価の結果が、適切である場合には、CPU42は処理をステップS306に進め、適切でない場合には、CPU42は処理をステップS309に進める。ここで、「手技に対しての評価の結果が適切である場合」とは、たとえば、図5を用いて説明したように、手技が図5の左上または左下の場合のことである。逆に、「手技に対しての評価の結果が適切でない場合」とは、たとえば、図5を用いて説明したように、手技が図5の右上または右下の場合のことである。
【0154】
ステップS306:CPU42の細胞評価部4222は、記憶部43から細胞評価計算モデルの情報(図7のステップS213で記録されたもの)を読み込む。
【0155】
ステップS307:CPU42の細胞評価部4222は、ステップS302で求めた複数の特徴量(複数の指標)を、ステップS306で読み出した細胞評価計算モデルに代入して演算を行う。
【0156】
ステップS308:CPU42の細胞評価部4222は、ステップS307での演算結果に基づいて、評価対象の顕微鏡画像に対しての評価を示す評価情報を生成する。その後、CPU42の細胞評価部4222は、この評価情報を不図示のモニタ等に表示して出力する。また、CPU42は、ステップS305でCPU42の手技評価部4212により評価された手技を示す情報を、評価情報とともに出力してもよい。
【0157】
ステップS309:CPU42の手技評価部4212は、ステップS310で入力された評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータは、本細胞評価装置では評価できないことを示す情報を、不図示のモニタ等に表示して出力する。また、以上で、図12の説明を終了する。
【0158】
このようにして、本実施形態による細胞評価装置は、細胞の画像のみにより、細胞が培養された手技、および、細胞の残存ダブリング数を推定することができる。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、比較的簡易な手法で手技および細胞を評価することができる。
【0159】
また、本実施形態による細胞評価計算モデル構築部4221は、図7のステップS211において説明したように、手技が適切である細胞の画像情報に基づいて、細胞評価計算モデルを構築している。
【0160】
ここで、仮に、手技が適切でない細胞の画像情報に基づいて、または、手技が適切でない細胞の画像情報と手技が適切である細胞の画像情報とに基づいて、細胞評価計算モデルが構築されてしまうとする。この場合、この細胞評価計算モデルにより、手技が適切である細胞の画像情報に対して、この細胞を評価したとすると、その評価性能が低減する可能性がある。
【0161】
これに対して、本実施形態においては、図7のステップS211において説明したように、細胞評価計算モデル構築部4221は、手技が適切であると手技評価部4212により判定された細胞の画像情報に基づいて、細胞評価計算モデルを構築している。そのため、この細胞評価計算モデルは、手技が適切である細胞の画像情報に対して、その細胞を、適切に評価することができる。
【0162】
また、図12を用いて説明したように、評価対象となる細胞の画像情報に対して細胞を評価する場合、手技評価部4212は、図12のステップS305で説明したように、評価対象となる細胞の画像情報に対して細胞の手技が適切であるか否かを判定する。そして、手技評価部4212により手技が適切と判定された画像のみが、図12のステップS307において、細胞評価部4222により評価される。
【0163】
なお、このステップS307で、細胞評価部4222は、図7を用いて説明したように、手技が適切である細胞の画像情報に対して、その細胞を、適切に評価することができる細胞評価計算モデルに基づいて、細胞の手技が適切であると判定された細胞を評価する。そのため、この細胞評価部4222は、適切に細胞を評価することができる。
【0164】
よって、本実施形態よる細胞評価装置は、継代操作等の細胞培養に必要な操作が手技的に適切でない場合であっても、比較的簡易な手法で、細胞を適切に評価することができる。また、細胞評価計算モデルが、細胞の画像から残存ダブリング数を算出できるように構築されているために、細胞評価部4222は、比較的簡易な手法で、細胞が分裂する残存回数(残存ダブリング数)を算出することができる。よって、ユーザは、比較的簡易な手法で、細胞が分裂する残存回数を得ることができる。
【0165】
また、本実施形態によれば、制御装置41は、タイムラプス観察で取得した顕微鏡画像を用いて、特徴量に基づいて細胞を精度よく評価することができる。また、本実施形態の制御装置41は、ありのままの細胞を評価対象にできるので、例えば医薬品のスクリーニングや再生医療の用途で培養される細胞を評価するときに極めて有用である。
【0166】
なお、本実施形態では、顕微鏡画像から細胞を評価する例を説明したが、例えば、制御装置41を、顕微鏡画像からがん細胞の混在率を評価することに用いることや、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)の分化誘導の度合いの評価に用いることも可能である。また、本実施形態で求めた評価情報は、評価対象の培養細胞群における分化・脱分化・腫瘍化・活性劣化・細胞のコンタミネーション等の異常検出手段や、評価対象の培養細胞群の品質を工学的に管理するときの手段として用いることができる。
【0167】
ところで、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を培養する場合、たとえば、これらの細胞のコロニーから、コロニーの一部の細胞を切り出し、この切り出した細胞を培養して増殖させることがある。そして、コロニーから細胞が切り出されることは、一度とは限らず、複数回の場合もある。この場合、コロニーから細胞を切り出すという「手技」が複数回行われることになる。
【0168】
よって、このような場合、複数回の手技において、いずれかの場合に、「手技」が不適切となる可能性がある。もし、「手技」が不適切であるとすると、その細胞を培養したとしても、実験などで用いるのに適切な細胞ではない可能性がある。
【0169】
これに対して、上述した細胞評価装置によれば、簡易な方法により、その細胞に対しての「手技」を推定できる。そのため、実験などで用いるのに適切な細胞ではないことを、簡易に判定することができる。
【0170】
また、上記の場合、細胞を培養して増殖させることを目標としているが、もし、この細胞の残存ダブリング数が残り僅かであるとすると、その細胞を培養したとしても、本来の適切な細胞数、または、所望する細胞数まで、細胞を増殖させることができない可能性がある。
【0171】
これに対して、上述した細胞評価装置によれば、簡易な方法により、その細胞に対しての「残存ダブリング数」を推定できる。よって、ユーザは、本来の適切な細胞数、または、所望する細胞数まで、細胞を増殖させることができる。
【0172】
このように、複数回の手技が介在するような場合に、本実施形態による細胞評価装置は好適である。そのため、本実施形態における細胞評価装置は、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を培養して実験を行う場合に、好適である。また、同様に、本実施形態における細胞評価装置は、化粧品や医薬品の開発においても好適である。
【0173】
また、本実施形態による細胞評価装置は画像に基づいて、手技や残存ダブリング数を推定する。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、細胞に対して非侵襲に、手技や残存ダブリング数を推定することができる。よって、細胞を培養しながら、その細胞そのものを撮像した画像に基づいて、細胞に対しての手技や残存ダブリング数を推定することができる。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、細胞の培養において、好適である。
【0174】
なお、上記の説明のおいては、細胞評価計算モデル構築部4221が、細胞に対しての残存回数(残存ダブリング数)を算出する細胞評価計算モデルを構築し、細胞評価部4222が、構築された細胞評価計算モデルに基づいて、残存ダブリング数を算出して、細胞の残存ダブリング数を評価する場合について説明した。
【0175】
しかし、これに限られるものではなく、細胞評価計算モデル構築部4221は、各々の画像に対応する特徴量と、細胞に対して予め定められた任意の特性(既知の特性)とに基づいて、細胞に対して予め定められた任意の特性を算出する細胞評価計算モデルを構築してもよい。そして、細胞評価部4222は、このようにして構築された細胞評価計算モデルに基づいて、予め定められた任意の特性を算出して、細胞に対しての任意の特性を評価してもよい。
【0176】
この場合にも、手技評価部4212により評価された画像に基づいて、細胞評価計算モデル構築部4221は、細胞評価計算モデルを構築する。そのため、細胞評価計算モデル構築部4221は、より安定して精度よく、細胞評価計算モデルを構築することができる。また、細胞評価計算モデルがより安定して精度よく構築されているため、細胞評価部4222は、より安定して精度よく、細胞に対しての任意の特性を評価することができる。
【0177】
<第2の実施形態>
次に、図13を用いて、この発明の第2の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータの構成について説明する。同図において図1の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。なお、ここでは、がん細胞の数(予測値)を求める場合について説明するが、第1の実施形態のように、残存ダブリング数を推定する場合も、同様である。
【0178】
また、ここでは、細胞評価計算モデル構築部4221が細胞評価計算モデルを構築する場合について説明する。なお、第1の実施形態において説明したように、手技評価計算モデル構築部4211が手技評価計算モデルを構築する場合も、この細胞評価計算モデル構築部4221が細胞評価計算モデルを構築する場合と同様である。
【0179】
図13に示されている第2の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータは、図1に示された第1の実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータに対して、更に、度数分布演算部4204を備えている。
【0180】
この度数分布演算部4204は、特徴量演算部4202により抽出された特徴量について、各々の画像に対応する特徴量の度数分布を、複数の特徴量の種類ごとに生成する。そして、度数分布演算部4204は、特徴量の度数分布を、特徴量として細胞評価計算モデル構築部4221に出力する。たとえば、度数分布演算部4204は、特徴量の度数分布を、指標として細胞評価計算モデル構築部4221に出力する。なお、この度数分布演算部4204は、各々の度数分布における度数の区分を、特徴量の種類ごとの標準偏差を用いてそれぞれ正規化してもよい。
【0181】
そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、第1の実施形態において説明した特徴量演算部4202により求められた特徴量と、度数分布演算部4204により求められた度数分布とを、それぞれ指標として、細胞評価計算モデルを構築する。すなわち、細胞評価計算モデル構築部4221は、第1の実施形態において説明した特徴量演算部4202により求められた特徴量という指標と、度数分布演算部4204により求められた度数分布という指標とを、任意に組み合わせて、細胞評価計算モデルを構築する。
【0182】
なお、細胞評価計算モデル構築部4221は、画像間での度数分布の変化に基づいて、細胞評価計算モデルを構築してもよい。また、細胞評価計算モデル構築部4221は、画像間での度数分布の差分を用いて、細胞評価計算モデルを構築してもよい。また、細胞評価計算モデル構築部4221は、複数の特徴量の種類毎に生成された度数分布の変化の情報に基づいて、細胞評価計算モデルを構築してもよい。
【0183】
また、細胞評価計算モデル構築部4221は、画像の撮影時間および特徴量の種類がそれぞれ異なる複数の度数分布の組み合わせのうちから、細胞評価計算モデルの構築に用いる度数分布の組み合わせを抽出し、細胞評価計算モデルを構築してもよい。
【0184】
なお、細胞評価部4222は、細胞評価計算モデル構築部4221で細胞評価計算モデル構築時に用いた細胞の特徴量の度数分布を取得するためにも使用される度数分布演算部4204から、評価する細胞の特徴量の度数分布を得ている。このようにすることで、少ない構成で細胞評価計算モデル構築と細胞評価装置との両方をなし得る装置構成となっている。
しかしながら、細胞の特徴量の度数分布を出力する構成(度数分布演算部4204)は、細胞評価計算モデル構築部4221と細胞評価部4222とに対応させて、異なる構成としてもよい。たとえば、細胞評価計算モデル構築部4221を備えている細胞評価計算モデル装置は、度数分布演算部4204を備えており、細胞評価部4222を備えている細胞評価装置は、度数分布演算部4204と同様の構成を有している残存回数算出用度数分布演算部を備えていてもよい。
【0185】
次に、図14を用いて、第2の実施形態による細胞評価装置の動作について説明する。なお、同図において、図7を用いて説明した第1の実施形態による細胞評価装置の動作と同一のステップについては同一のステップ番号を付し、その説明を省略し、相違点のみについて説明する。
【0186】
この図14に示されている第2の実施形態による細胞評価装置の動作は、図7に示されている第1の実施形態による細胞評価装置の動作に対比して、ステップS206とS209との間に、ステップS207とS208とが更に追加されている。
【0187】
ここでは、培養容器19のタイムラプス観察は、培養開始から8時間経過後を初回として、8時間おきに72時間目まで行われている場合について説明する。そのため、細胞評価装置は、培養容器19および観察ポイントが共通するサンプルの顕微鏡画像について、9枚分(8h,16h,24h,32h,40h,48h,56h,64h,72h)を1セットとして取得することになる。なお、ここでは、複数の培養容器19がそれぞれタイムラプス観察されており、上記のサンプルの顕微鏡画像が複数セット分、記憶部43に予め記憶されているものとして説明する。
【0188】
この図14の場合、ステップS206において、CPU42は、全ての顕微鏡画像が処理済み(全てのサンプルの顕微鏡画像で各細胞の特徴量が取得済みの状態)であるか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、CPU42はステップS207に処理を移行させる。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、CPU42はステップS202に戻って、未処理の他の顕微鏡画像を処理対象として上記動作を繰り返す。
【0189】
ステップS207:度数分布演算部4204は、各々の顕微鏡画像について特徴量の種類ごとにそれぞれ特徴量の度数分布を求める。したがって、ステップS207での度数分布演算部4204は、1回の観察で取得される顕微鏡画像に対して16種類の特徴量の度数分布を求めることとなる。
【0190】
ステップS208:度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、特徴量の種類ごとにそれぞれ上記の度数分布の経時的変化を求める。
【0191】
ステップS208での度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、1セット分の顕微鏡画像から取得した度数分布(9×16)のうち、特徴量の種類が同じで撮影時間の異なる2つの度数分布を組み合わせる。一例として、度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、特徴量の種類が同じで撮影時間の異なる9つの度数分布について、8時間目および16時間目の度数分布と、8時間目および24時間目の度数分布と、8時間目および32時間目の度数分布と、8時間目および40時間目の度数分布と、8時間目および48時間目の度数分布と、8時間目および56時間目の度数分布と、8時間目および64時間目の度数分布と、8時間目および72時間目の度数分布とをそれぞれ組み合わせる。つまり、1セット分における1種類の特徴量に注目したとき、その特徴量の度数分布につき、計8通りの組み合わせが発生する。
【0192】
そして、度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、上記8通りの組み合わせについて、以下の式(4)により度数分布の変化量(画像間での度数分布の差分の絶対値を積分したもの)をそれぞれ求める。
【0193】
【数4】

【0194】
但し、式(4)において、「Control」は初期状態の度数分布(8時間目)における1区間分の度数(細胞数)を示す。また、「Sample」は、比較対象の度数分布における1区間分の度数を示す。また、「i」は、度数分布の区間を示す変数である。
【0195】
度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、特徴量の種類ごとに上記演算を行うことで、すべての特徴量についてそれぞれ8通りの度数分布の変化量を取得できる。すなわち、1セット分の顕微鏡画像について、16種類×8通りで128の度数分布の組み合わせをとることができる。ここでは、上記の度数分布の組み合わせの1つを単に「指標」と表記する。なお、ステップS208での度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、複数の顕微鏡画像のセットにおいて、各指標に対応する128の度数分布の変化量をそれぞれ求めることはいうまでもない。
【0196】
ステップS211:細胞評価計算モデル構築部4221は、128の指標のうちから、細胞の培養状態をよく反映する指標を多変量解析により1以上指定する。この指標の組合せの選択は、後述するファジーニューラルネットワークと同等の非線形モデル以外にも、細胞とその形態の複雑性に応じて線形モデルの利用も有効である。このような指標の組合せの選択と共に、細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の指定された1以上の指標を用いて、顕微鏡画像からがん細胞の数を導出する細胞評価計算モデルを求める。
【0197】
<ステップS207の一例>
次に、ステップS207の一例について詳細に説明する。
ステップS207において、度数分布演算部4204は、上述したように、各々の顕微鏡画像について特徴量の種類ごとにそれぞれ特徴量の度数分布を求める。したがって、ステップS207での度数分布演算部4204は、1回の観察で取得される顕微鏡画像に対して16種類の特徴量の度数分布を求めることとなる。
【0198】
ここで、度数分布演算部4204は、各々の度数分布において、特徴量の各区分に対応する細胞の数を頻度(%)として求めるものとする。また、ステップS207での度数分布演算部4204は、上記の度数分布における度数の区分を、特徴量の種類ごとの標準偏差を用いて正規化する。
【0199】
ここでは一例として、「Shape Factor」の度数分布での区分を決定する場合を説明する。
【0200】
まず、度数分布演算部4204は、各々の顕微鏡画像から求めた全ての「Shape Factor」の値の標準偏差を算出する。次に、度数分布演算部4204は、上記の標準偏差の値をFisherの式に代入して、「Shape Factor」の度数分布における度数の区分の基準値を求める。このとき、度数分布演算部4204は、全ての「Shape Factor」の値の標準偏差(S)を4で除するとともに、小数点以下3桁目を四捨五入して上記の基準値とする。なお、本実施形態での度数分布演算部4204は、度数分布をヒストグラムとして図示する場合、20級数分の区間をモニタ等に描画させるものとする。
【0201】
一例として、「Shape Factor」の標準偏差Sが259のとき、259/4=64.750から「64.75」が上記の基準値となる。そして、注目する画像の「Shape Factor」の度数分布を求めるとき、度数分布演算部4204は、「Shape Factor」の値に応じて0値から64.75刻みで設定された各クラスに細胞を分類し、各クラスでの細胞の個数をカウントすればよい。
【0202】
このように、度数分布演算部4204が、特徴量の種類毎に標準偏差で度数分布の区分を正規化するため、異なる特徴量の間でも度数分布の傾向を大局的に近似させることができる。よって、本実施形態では、異なる特徴量間で細胞の培養状態と度数分布の変化との相関を求めることが比較的容易となる。
【0203】
ここで、図15(a)は、がん細胞の初期混在率が0%のときの「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。図15(b)は、がん細胞の初期混在率が6.7%のときの「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。図15(c)は、がん細胞の初期混在率が25%のときの「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。
【0204】
また、図15(d)は、がん細胞の初期の混在率が0%のときの「Fiber Length」の経時的変化を示すヒストグラムである。ただし、この図では理解しやすさのため、ヒストグラムをFiber Length=323までで省略してある。図15(e)は、がん細胞の初期の混在率が6.7%のときの「Fiber Length」の経時的変化を示すヒストグラムである。図15(f)は、がん細胞の初期の混在率が25%のときの「Fiber Length」の経時的変化を示すヒストグラムである。
【0205】
ここで、本実施形態において度数分布の経時的変化に注目する理由を説明する。図16は、正常な細胞群(がん細胞の初期混在率0%)をインキュベータ11で培養してタイムラプス観察したときの顕微鏡画像をそれぞれ示す。なお、図16の各顕微鏡画像から求めた「Shape Factor」の度数分布を示すヒストグラムは、図15(a)で示している。
【0206】
この場合、図16の各画像では時間の経過に伴って細胞の数は増加するものの、図15(a)に示す「Shape Factor」のヒストグラムでは、各画像に対応する度数分布はいずれもほぼ同じ形状を保っている。
【0207】
一方、図17は、正常な細胞群に予めがん細胞を25%混在させたものをインキュベータ11で培養してタイムラプス観察したときの顕微鏡画像をそれぞれ示す。なお、図17の各顕微鏡画像から求めた「Shape Factor」の度数分布を示すヒストグラムは、図15(c)で示している。
【0208】
この場合、図17の各画像では時間の経過に伴って、正常細胞と形状の異なるがん細胞(丸みを帯びた細胞)の比率が増加する。これにより、図15(c)に示す「ShapeFactor」のヒストグラムでは、時間の経過に応じて各画像に対応する度数分布の形状に大きな変化が現れる。よって、度数分布の経時的変化が、がん細胞の混在と強い相関を有することが分かる。本発明者らは、上記知見に基づいて、度数分布の経時的変化の情報から培養細胞の状態を評価するものである。
【0209】
<ステップS212の一例>
ここで、第2の実施形態における図14のステップS212で実行される処理の一例について説明する。この場合、ステップS212での細胞評価計算モデル構築部4221は、以下の(A)から(H)の処理により、上記の細胞評価計算モデルを求める。ここでは、指標として、上述した度数分布の経時的変化の情報を用いた場合について説明する。すなわち、128の指標を用いる場合について説明する。
【0210】
(A)細胞評価計算モデル構築部4221は、128の指標のうちから1つの指標を選択する。
【0211】
(B)細胞評価計算モデル構築部4221は、(A)で選択された指標による度数分布の変化量を変数とした計算式により、各々の顕微鏡画像のセットでのがん細胞の数(予測値)を求める。
【0212】
仮に、1つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1」(但し、「Y」はがん細胞の計算値(例えばがん細胞の増加数を示す値)、「X1」は上記の選択された指標に対応する度数分布の変化量(ステップS208で求めたもの)、「α」はX1に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。このとき、細胞評価計算モデル構築部4221は、αに任意の値を代入するとともに、X1に各セットにおける度数分布の変化量をそれぞれ代入する。これにより、各セットでのがん細胞の計算値(Y)が求められる。
【0213】
(C)細胞評価計算モデル構築部4221は、各々の顕微鏡画像のセットについて、(B)で求めた計算値Yと、実際のがん細胞の数(教師値)との誤差をそれぞれ求める。なお、上記の教師値は、ステップS201で読み込んだがん細胞の数の情報に基づいて、細胞評価計算モデル構築部4221が求めるものとする。
【0214】
そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、各顕微鏡画像のセットでの計算値の誤差がより小さくなるように、教師付き学習により上記の計算式の係数αを修正する。
【0215】
(D)細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の(B)および(C)の処理を繰り返し、上記(A)の指標について、計算値の平均誤差が最も小さくなる計算式のモデルを取得する。
【0216】
(E)細胞評価計算モデル構築部4221は、128の各指標について、上記(A)から(D)の各処理を繰り返す。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、128の各指標における計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなる指標を、評価情報の生成に用いる1番目の指標とする。
【0217】
(F)細胞評価計算モデル構築部4221は、上記(E)で求めた1番目の指標と組み合わせる2番目の指標を求める。このとき、細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の1番目の指標と残りの127の指標とを1つずつペアにしてゆく。次に、細胞評価計算モデル構築部4221は、各々のペアにおいて、計算式でがん細胞の予測誤差を求める。
【0218】
仮に、2つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1+βX2」(但し、「Y」はがん細胞の計算値、「X1」は1番目の指標に対応する度数分布の変化量、「α」はX1に対応する係数値、「X2」は、選択された指標に対応する度数分布の変化量、「β」はX2に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、上記の(B)および(C)と同様の処理により、計算値の平均誤差が最も小さくなるように、上記の係数α、βの値を求める。
【0219】
その後、細胞評価計算モデル構築部4221は、各々のペアで求めた計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなるペアを求める。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、平均誤差が最も低くなるペアの指標を、評価情報の生成に用いる1番目および2番目の指標とする。
【0220】
(G)細胞評価計算モデル構築部4221は、所定の終了条件を満たした段階で演算処理を終了する。例えば、細胞評価計算モデル構築部4221は、指標を増やす前後の各計算式による平均誤差を比較する。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、指標を増やした後の計算式による平均誤差が、指標を増やす前の計算式による平均誤差より高い場合(または両者の差が許容範囲に収まる場合)には、ステップS212の演算処理を終了する。
【0221】
(H)一方、上記(G)で終了条件を満たさない場合、細胞評価計算モデル構築部4221は、さらに指標の数を1つ増やして、上記(F)および(G)と同様の処理を繰り返す。これにより、上記の細胞評価計算モデルを求めるときに、ステップワイズな変数選択によって指標の絞り込みが行われることとなる。
【0222】
これにより、第1の実施形態の場合と同様に、指標に対応する度数分布の変化量を用いて、第2の実施形態でも細胞評価計算モデルを構築することができる。なお、第2の実施形態のいては、指標に対応する度数分布の変化量を用いて細胞評価計算モデルが構築されている。そのため、第2の実施形態による細胞評価計算モデルは、第1の実施形態による細胞評価計算モデルに対比して、より精度を高くすることができる。
【0223】
このようにして、第2の実施形態により、上記の細胞評価計算モデルの指標として、『「Shape Factor」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Perimeter」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Length」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』との3つを用いた場合、がん細胞の予測精度が93.2%となる細胞評価計算モデルを得ることができた。
【0224】
また、上記の細胞評価計算モデルの指標として、『「Shape Factor」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Fiber Breadth」の8時間目、56時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「relative hole area」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Shape Factor」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、72時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、64時間目の度数分布の組み合わせ』との6つを用いた場合、がん細胞の予測精度が95.5%となる細胞評価計算モデルを得ることができた。
【0225】
なお、上記に説明した図14のステップS207の処理においては、度数分布演算部4204は、8時間目を基準として、1種類の特徴値に対して8通りの指標を求め、16種類の特徴値に対して合計128(16種類×8通り)の指標を求めた。しかし、指標としてはこれに限られるものではなく、評価情報生成部46は、8時間目、16時間目、24時間目、32時間目、40時間目、48時間目、56時間目、64時間目、および、72時間目の各々を基準として、1種類の特徴値に対して36(=9×8÷2)通りの指標をそれぞれ求め、16種類の特徴値に対して合計576(16種類×36通り)の指標を求めてもよい。
このような基準となる時刻が異なる指標を用いることにより、細胞評価計算モデル構築部4221は、より予測精度が高い細胞評価計算モデルを構築することができる。
【0226】
なお、指標としては、第2の実施形態において説明した度数分布の経時的変化の情報と、第1の実施形態において説明した各時刻ごとの特徴量の値とを、任意に組み合わせてもよい。これにより、細胞評価計算モデル構築部4221は、より予測精度が高い細胞評価計算モデルを構築することができる。
【0227】
次に、図18の流れ図を用いて、第2の実施形態による細胞評価装置が、評価対象となる細胞に対して評価する場合の処理について説明する。ここでは、図12を用いて説明した第1の実施形態による細胞評価装置が、評価対象となる細胞に対して評価する場合の処理との相違点のみについて説明する。
【0228】
この図18の流れ図においては、図12の流れ図に対して、ステップS302とステップS304との間に、ステップS303が追加されている。このステップS303において、度数分布演算部4204(または、細胞評価計算モデル構築部4221)は、特徴量の種類ごとにそれぞれ上記の度数分布の経時的変化を求める。これは、上記に図14のステップS208において説明した処理と同様の処理である。ただし、ステップS303とステップS208とでは、対象とする画像が異なる。
【0229】
その後、図18のステップS307において、CPU42の細胞評価部4222は、ステップS301で求めた複数の特徴量と、ステップS303で求めた度数分布の経時的変化とを、ステップS306で読み出した細胞評価計算モデルに代入して演算を行う。これにより、第2の実施形態によるCPU42の細胞評価部4222は、複数の特徴量と、度数分布の経時的変化とを指標として、細胞を評価することができる。
【0230】
このCPU42の細胞評価部4222と同様に、CPU42の手技評価部4212は、複数の特徴量と、度数分布の経時的変化とを指標として、手技を評価することができる。
【0231】
なお、図13の説明においては、度数分布演算部4204は、CPU42に備えられているものとして説明した。しかし、この度数分布演算部4204は、特徴量演算部4202に備えられていてもよい。また、度数分布演算部4204と特徴量演算部4202とは、一体として構成されていてもよい。また、この度数分布演算部4204は、細胞評価計算モデル構築部4221または細胞評価計算モデル構築部4221に、備えられていてもよい。
【0232】
<実施例>
以下、上記に説明した第1または第2の実施形態の1実施例として、筋芽細胞の分化予測の例を説明する。この筋芽細胞の分化予測は、例えば、心臓病治療の一つとして行われる筋芽細胞シート移植での品質管理や、筋組織の再生治療での品質管理などで応用が期待されている。
【0233】
筋芽細胞の培養時に血清濃度の低下により培地の成分を変化させると、筋芽細胞から筋管細胞への分化が起こり、筋肉組織を作ることができる。図19(a)は筋芽細胞の培養状態の一例を示し、図19(b)は筋芽細胞を分化させた状態の例を示している。
【0234】
また、図20、図21は、筋芽細胞の培養時における「Shape Factor」の経時的変化を示すヒストグラムである。図20は、筋芽細胞に分化が認められた場合(血清4%)における0時間目および112時間目の「Shape Factor」の度数分布をそれぞれ示している。図21は、筋芽細胞に分化が認められない場合(高血清状態)における0時間目および112時間目の「Shape Factor」の度数分布をそれぞれ示している。なお、図20、図21では、0時間目の度数分布をそれぞれ破線で示し、112時間目の度数分布をそれぞれ実線で示す。
【0235】
図20の2つのヒストグラムを比較すると、両者の形状は大きな変化を示す。一方、図21の2つのヒストグラムを比較すると、両者の形状にはさほど大きな変化はみられない。そのため、筋芽細胞の分化度(分化する筋芽細胞の混在率)の変化に応じて、ヒストグラムにも変化が生じることが分かる。
【0236】
ここで、実施例では、第1または第2の実施形態のインキュベータによって、筋芽細胞の72個のサンプルについてそれぞれ8時間間隔で5日目までタイムラプス観察を行った。そして、制御装置(細胞評価装置)は、以下の2段階の処理によって筋芽細胞の分化予測を行った。
【0237】
第1段階では、上記の細胞評価計算モデルの生成処理に準拠して、筋芽細胞の分化の有無を二者択一的に判別する2群判別モデルを制御装置に生成させた。一例として、制御装置は、観察開始後8時間目から32時間目までの顕微鏡画像から得られる全指標のうちから指標を選択し、筋芽細胞の分化度を求める第1判定モデルと、第1判定モデルで求めた分化度から閾値で分化の有無を判別する第2判定モデルとを構築した。そして、制御装置は、上記の第1判定モデルおよび第2判定モデルによる判別分析で、72個のサンプルをそれぞれ分化の有無に応じて2つのグループに分別した。その結果、制御装置は、72個のサンプルで分化の有無をいずれも正しく判別できた。
【0238】
第2段階では、上記の細胞評価計算モデルの生成処理に準拠して、筋芽細胞の5日目(120時間目)の分化度を予測する予測モデルを制御装置に生成させた。実施例では、72個のサンプルのうち、第1段階の処理で「分化する」と判別された42個のサンプルのみを用いて、制御装置により2種類の予測モデル(第1の予測モデル、第2の予測モデル)を構築した。
【0239】
第1の予測モデルは、『「Breadth」の8時間目、48時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、32時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Inner radius」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Length」の8時間目、104時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Hole area」の8時間目、96時間目の度数分布の組み合わせ』との5つの指標を用いた予測モデルである。
【0240】
図22は、実施例における第1の予測モデルでの各サンプルの予測結果を示すグラフである。図22の縦軸は、第1の予測モデルが予測した5日目のサンプルの分化度を示している。図22の横軸は、5日目の時点でサンプルの分化度を熟練者が評価した値(見かけの分化度)を示している。そして、図22では、1つのサンプル毎に1つの点がグラフ上にプロットされる。なお、図22において、グラフの右上から左下に延びる直線の近くに点がプロットされるほど、予測の精度が高いこととなる。この第1の予測モデルでは、分化の予測精度(正答率)が90.5%(誤差±5%)となった。
【0241】
また、第2の予測モデルは、『「Breadth」の8時間目、48時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Breadth」の8時間目、32時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Inner radius」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Orientation(細胞配向性)」の8時間目、16時間目の度数分布の組み合わせ』と、『「Modified Orientation(細胞の向きのバラツキ度)」の8時間目、24時間目の度数分布の組み合わせ』との5つの指標を用いた予測モデルである。
【0242】
なお、上記の「Orientation」は、各細胞の長軸と画像の水平方向(X軸)とがなす角度を示す特徴量である。この「Orientation」の値が同じであれば、細胞は同じ方向に配向していることとなる。また、上記の「Modified Orientation」は、フィルタリングにより画像内の細胞をデフォルメした状態で各細胞の角度を数値化し、そのバラツキを算出した特徴量である。この「ModifiedOrientation」の値は、細胞の角度が多様であるほど大きな値を示す特性をもつ。
【0243】
図23は、実施例における第2の予測モデルでの各サンプルの予測結果を示すグラフである。この図23の見方については、図22と同様であるので重複説明は省略する。この第2の予測モデルでは、2日目(48時間目)までの観察結果に基づいて分化の予測を行い、その予測精度が85.7%(誤差±5%)となった。したがって、本実施例での第2の予測モデルによれば、通常では非常に困難な筋細胞の分化予測を、2日目までの観察結果によって高い精度で定量予測できた。
【0244】
次に、図24を用いて、本実施形態により予測した残存ダブリング数と、実測された残存ダブリング数との関係について説明する。ここでは、図24(a)に示すように、24時間(24h)おきに細胞を撮像し、この撮像により得られた位相差画像が用いられる実験が行われているものとする。この実験においては、3日おきに培地が交換されている。なお、この培養される細胞は、ほぼ6日毎に、1継代を経る。また、ここでは、手技として、凍結なしの場合(たとえば、図5の左上の場合)と、凍結ありの場合(たとえば、図5の左下の場合)との、それぞれの場合について実験が行われている。
【0245】
図24(b)には、凍結なしの場合(たとえば、図5の左上の場合)について、この実験により得られた残存ダブリング数を横軸にし、本実施形態により予測された残存ダブリング数を縦軸にして、実験結果毎に記号「○」がプロットされている。なお、この図において、実験結果と予測結果とが完全に一致する場合には、プロットされる記号「○」は、同図に示す原点を通る傾き1の直線上にプロットされることになる。
【0246】
ここでは、細胞評価計算モデル構築部4221は、重回帰分析(MRA)により、細胞評価計算モデルを構築している。そして、細胞評価部4222は、重回帰分析(MRA)により構築された細胞評価計算モデルにより、残存ダブリング数を算出して予測している。
【0247】
この図24(b)の場合には、指標として、『「Shape Factor」の48時間目と24時間目』と、『「Fiber Length」の72時間目および24時間目』と、『「Fiber Breadth」の24時間目』との5つの指標を用いた重回帰分析(MRA)により、細胞評価計算モデルが構築されている。
【0248】
図24(c)には、凍結ありの場合(たとえば、図5の左下の場合)について、図24(b)と同様のグラフが示されている。
【0249】
この図24(c)の場合には、指標として、『「Fiber Length」の24時間目と96時間目との差』と、『「Fiber Length」の96時間目』と、『「Fiber Breadth」の48時間目と96時間目の差』との3つの指標を用いた重回帰分析(MRA)により、細胞評価計算モデルが構築されている。
【0250】
図24(b)の場合には、相関係数(R)は0.976であり、標準誤差は1.63である。図24(c)の場合には、相関係数(R)は0.958であり、標準誤差は1.60である。このように、凍結なしと凍結ありのいずれの場合においても、細胞評価計算モデル構築部4221は、重回帰分析(MRA)により細胞評価計算モデルを構築すると、非常に精度よく、残存ダブリング数を算出できる。
【0251】
なお、図24(b)と図24(c)とを用いて説明したように、手技に応じて、残存ダブリング数を算出する細胞評価計算モデルに用いる指標(または、細胞評価計算モデル)は異なる方が、予測精度が高いことがある。
【0252】
そこで、細胞評価計算モデル構築部4221は、細胞評価計算モデルを構築する場合、手技毎に、細胞評価計算モデルを構築してもよい(図)。そして、細胞評価計算モデル構築部4221は、構築した細胞評価計算モデルを、手技を示す情報と関連付けて記憶部41に記憶しておく。
【0253】
その後、評価対象となる細胞を評価する場合、細胞評価部4222は、評価対象となる細胞が培養された場合の手技に対応する細胞評価計算モデルを、記憶部41から読み出す。そして、細胞評価部4222は、この読み出した細胞評価計算モデルに基づいて、評価対象となる細胞を評価する。
【0254】
本実施形態においては、このように手技毎に細胞評価計算モデルが構築することにより、図24(b)と図24(c)とを用いて説明したように、より精度を高めることができる。
【0255】
なお、ここでいう「手技」とは、手技評価部4212により算出された「手技」であってもよい。また、「手技」が既知である場合には、ここでいう「手技」とは、入力された既知の「手技」であってもよい。なお、手技評価部4212により算出された「手技」の場合には、予め手技が既知でない場合であっても、細胞評価計算モデル構築部4221は手技毎に細胞評価計算モデルが構築でき、かつ、細胞評価部4222は手技毎に構築された細胞評価計算モデルに基づいて、細胞についての残存ダブリング数などの特性を、より精度良く予測することができる。
【0256】
図25は、本実施形態の細胞評価装置を用いた細胞の培養方法を説明するためのフローチャートである。本フローチャートでは、増殖させたい所望の細胞が培養されている培養容器19が、インキュベータ11のストッカー21が有する複数の棚のうちのいずれかに、収納されているものとして説明する。
【0257】
まず、ステップS1201において、CPU42は、予め決められた培養条件(例えば所定の温度、湿度等)で細胞を培養するよう温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを制御する。所定期間経過後、ステップS1202において、CPU42は、記憶部43から読み出した本発明の実施形態の細胞評価プログラムを実行し、細胞を評価する。この「細胞を評価した結果(細胞の評価結果)」としては、手技であってもよいし、細胞の残存ダブリング数であってもよい。
【0258】
次に、ステップS1203において、CPU42は、細胞の評価結果に基づき、培養を中止するか、培養条件を変更するか、または現在の培養条件で培養を続行するか判定する。
【0259】
次に、ステップS1204において、CPU42が培養を中止すると判定した場合(ステップS1204 YES)、CPU42は培養の中止を示す情報を不図示のモニタ等に表示させ、処理を終了する。
一方、CPU42は培養を中止すると判定しなかった場合(ステップS1204 NO)、CPU42はステップS1205の処理に進む。
【0260】
次に、ステップS1205において、CPU42が培養条件を変更すると判定した場合(ステップS1205 YES)、CPU42は、細胞の状態の評価結果と関係付けられた培養条件(例えば所定の温度、湿度等)に変更するよう温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを制御する(ステップS1206)。その後、CPU42は、ステップS1202に処理を戻す。
一方、CPU42が現在の培養条件で培養を続行すると判定した場合(ステップS1205 NO)、CPU42はステップS1207に処理を進める。
【0261】
次に、ステップS1207において、CPU42は、予め決められた時間の経過毎に、撮像装置34により撮像された画像から、細胞が撮像されている画像の領域を細胞ごとに抽出し、この抽出した細胞が撮像されている画像の領域の数すなわち細胞数を計数する。
【0262】
次に、ステップS1208において、計数された細胞数が所定の細胞数に到達していない場合(ステップS1208 NO)、計数された細胞数に応じた時間が経過した後、CPU42はステップS1202に処理を戻す。
一方、計数された細胞数が所定の細胞数に到達した場合(ステップS1208 YES)、CPU42はその細胞の培養が完了した旨を示す情報を、不図示のモニタ等に表示させる。以上で、本フローチャートは、終了する。
【0263】
以上により、本発明の細胞の培養方法を用いれば、細胞の評価に基づいて動的に培養条件を変更することができるので、所望の細胞を容易に増殖させることができる。
【0264】
なお、図25の処理において、CPU42は、判定した結果を表示部などに表示してもよい。そして、ユーザは、この表示部に表示された結果に応じて、培養条件などを変更する情報を、入力部を介してCPU42に入力する。このようにして、CPU42は、ユーザにより入力された情報に基づいて、培養条件などを変更してもよい。
【0265】
<実施形態の補足事項>
(1)上記の第1または第2の実施形態では、インキュベータ11の制御装置41に細胞評価装置を組み込んだ例を説明したが、本発明の細胞評価装置は、インキュベータ11から顕微鏡画像を取得して解析を行う外部の独立したコンピュータで構成されていてもよい(この場合の図示は省略する)。
【0266】
(2)本発明の細胞評価装置は、複数の細胞評価計算モデルを組み合わせて、これらの細胞評価計算モデルによる演算結果の多数決(あるいは重み付け平均)によって、最終的な評価情報を生成するようにしてもよい。この場合には、例えば、ある場合にはMRAが強く、ある場合にはFNNが強いというように、一方の細胞評価計算モデルでは精度の低い状況を他のモデルによってカバーすることができ、評価情報の精度をより高めることができる。
【0267】
(3)また、細胞評価装置は、評価情報の細胞評価計算モデルを求めるときに、最初に複数の指標を組み合わせての計算結果を演算し、変数増減法により指標を増減させるようにしてもよい。また、データの精度が高ければ指標を全て用いても良い。
【0268】
(4)上記の第2の実施形態では、2つの度数分布の差分の絶対値和を用いて、度数分布の変化量を求める例を説明したが、2つの度数分布の差分の二乗和から度数分布の変化量を求めてもよい。また、上記の第1または第2の実施形態で示した計算式はあくまで一例に過ぎず、例えば2次以上のn次方程式などであってもよい。
【0269】
(5)上記の実施形態や実施例に示した特徴量はあくまで一例にすぎず、評価対象の細胞の種類などに応じて他の特徴量のパラメータを採用することも勿論可能である。
【0270】
上記の(1)から(5)は、細胞評価計算モデルに対してのみではなく、手技評価計算モデルに対しても、同様である。
【0271】
なお、図1または図13における制御装置41が備える各構成は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
なお、この図1または図13の制御装置41が備える各構成は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、この制御装置41が備える各構成はメモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、制御装置41が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0272】
また、図1または図13における制御装置41が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより制御装置41が備える各構成による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0273】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0274】
また、本実施の形態の細胞評価装置は、細胞評価を行うための細胞評価計算モデル構築部(細胞評価計算モデル構築装置)と細胞評価部(細胞評価装置)とが同一装置に組み込まれているが、本発明はこのような構成に限られない。例えば、細胞の評価計算モデル構築のために必要な機能を有した細胞評価モデル構築装置と、細胞評価モデル構築装置によって作成された細胞の評価計算モデルが導入された細胞評価部及び細胞の特徴量演算部などの細胞の評価に必要な機能を有した細胞評価装置とが別々になっていても良い。また細胞評価計算モデル構築装置または細胞評価装置と同様に、手技評価装置も、これら装置と異なる装置として構成されてもよい。
【0275】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。
【符号の説明】
【0276】
11…インキュベータ、15…恒温室、19…培養容器、22…観察ユニット、34…撮像装置、41…制御装置、42…CPU、43…記憶部、4201…入力部、4202…特徴量演算部、4203…画像読込部、4204…度数分布演算部、4211…手技評価計算モデル構築部(判定基準作成部)、4212…手技評価部(画像判定部)、4221…細胞評価計算モデル構築部(残存回数計算モデル構築部)、4222…細胞評価部(残存回数算出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一培養容器内で培養された複数の細胞を異なる時間に撮像することによって得られた複数の画像と、当該細胞が分裂する残存回数を示す情報が入力される入力部と、
前記画像内の前記細胞の形態的な特徴を示す特徴量を出力する特徴量演算部と、
各々の前記画像に対応する前記特徴量と前記残存回数を示す情報とに基づいて、前記細胞に対しての残存回数を算出する計算モデルを構築する残存回数計算モデル構築部と、
を備えており、
前記残存回数計算モデル構築部は、
前記特徴量を変数とした重回帰分析により前記計算モデルを構築する、
ことを特徴とする細胞評価モデル生成装置。
【請求項2】
前記特徴量演算部は、各々の前記画像で、前記細胞の形態的な特徴を示す特徴量とその特徴量をもつ前記細胞の数とを示す度数分布を出力する度数分布演算部を有し、
前記残存回数計算モデル構築部は、
前記度数分布演算部から出力された度数分布を用いて、前記計算モデルを構築する
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞評価モデル生成装置。
【請求項3】
培養容器内で培養された細胞が撮像されている画像を読み込む画像読込部を更に備え、
前記特徴量演算部は、前記画像読込部により読み込まれた画像から、前記画像に写されている細胞の前記特徴量を出力する残存回数算出用特徴量演算部と、
前記残存回数算出用特徴量演算部から出力された前記特徴量を、請求項1または請求項2に記載の前記細胞評価モデル生成装置の前記細胞評価計算モデル構築部により構築された計算モデルに入力することで、前記画像読込部に読み込まれた画像の細胞が分裂する残存回数を算出する残存回数算出部と、
を備えていることを特徴とする細胞評価装置。
【請求項4】
前記残存回数算出用特徴量演算部は、前記画像読込部により読み込まれた画像に写されている前記細胞の形態的な特徴を示す特徴量とその特徴量をもつ前記細胞の数とを示す度数分布を出力する残存回数算出用度数分布演算部を有し、
前記残存回数算出部は、
前記残存回数算出用度数分布演算部から出力された度数分布を、前記計算モデルに入力することで、前記残存回数を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の細胞評価装置。
【請求項5】
細胞を培養する培養容器を収納するとともに、所定の環境条件に内部を維持可能な恒温室と、前記恒温室内で前記培養容器に含まれる前記細胞の画像を撮像する撮像装置と、
請求項1または請求項2に記載の細胞評価モデル生成装置、または、請求項3または請求項4に記載の細胞評価装置と、
を備えることを特徴とするインキュベータ。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1または請求項2に記載の細胞評価モデル生成装置、または、請求項3または請求項4に記載の細胞評価装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
請求項3または請求項4に記載の細胞評価装置により算出された残存回数に基づき、前記培養容器内で培養されている細胞の培養条件を変更することを特徴とする細胞の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−229411(P2011−229411A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100164(P2010−100164)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】