説明

細胞走化性検出装置

本発明は、微量の細胞を用い、細胞の注入及び位置の調整における制御がより簡単に行われ、かつ、ウエル内において所定の位置に設定された細胞や注入された検体試料の不測の移動を確実に防止することを目的とした細胞走化性検出装置であって、二つのウエルが細胞の通過に対して抵抗性を有する流路を介して相互に連通しており、夫々のウエルには細胞又は検体試料を注入するための開口部が設けられており、(1)液体を移動させる手段及び液体の注入又は吸引排出後にその移動を停止させる手段を備えていること、及び(2)細胞注入側及び検体試料注入側の何れか一方又は双方の開口部を閉塞する手段を備えていることを特徴とする細胞走化性検出装置に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、細胞走化性検出装置に関わる。より詳しくは、微量の細胞を用いて細胞の走化性を検出できる装置であって、微小なウエルの内部で細胞の位置の設定を容易に調節することができ、且つ、走化性因子等の検体試料が流路において形成する濃度勾配を安定に保持することができる構造を備えた細胞走化性検出装置に関わる。
【背景技術】
本発明者等は、微量の細胞を用いて細胞の走化性を検出できる装置であって、ウエルの一つに細胞懸濁液を、他方のウエルに検体試料を夫々入れ、ウエル間に設けた流路を通って、細胞が検体試料の収納されているウエルに向かって移動するか否かを検出する細胞走化性検出装置について、後述するような幾つかの提案をして来た。細胞の走化性を検出するための装置が、1個ずつの細胞のレベルで観察乃至検出できるスケールのものであり、10乃至100個程度の数で細胞の測定が可能であれば、希少な細胞の検査をも容易に行うことができると共に、細胞の反応を定量的に分析し検討することも可能となるという利点がある。しかし、流路を通じて相互に連通するウエルの夫々に細胞注入口や検体試料注入口が設けられている構造においては、流路を介してウエルが相互に連通管を形成するために、特に流路における液の移動が起こり易い。即ち、細胞等の試料をウエルに注入する際に、注入による昇圧の影響が生じやすく、そのために細胞や検体試料が不測の移動を起こしやすい。また、注入後においてウエルが完全に水平に維持されていない場合や振動などにより液面に微細な動きが生じた場合も、流路における液体の移動が増幅され、細胞や検体試料の移動が起こり易い。細胞や検体試料の不測の移動は、検体が走化性因子であるのか否かの判定を混乱させる原因となる。よって、細胞が検体試料の拡散濃度勾配を感知して検体試料を収納するウエルに向かって移動することを正確に検出するためには、流路を含め、ウエル内の液の不測の移動を厳密に防止することが必要である。更に、細胞の走化性をより正確に把握するためには、ウエル内の細胞がスタート時に流路に対して同一の状態、即ち、一列に並んでいることが好ましい。
本発明者等は先に、マイクロピペット等により細胞や走化性因子等の試料を注入し又は吸出するための管を備えているウエルに試料を注入し又は吸出する際において、ウエル内における圧力の急激な変化を緩和させ、ウエル内における試料の不測の移動を防ぐために、試料を注入し又は吸出するための管と連通する関係にある管を備えることを提案した(特開2002−159287号)。これは、連通管を通して、試料を注入し又は吸出する際の圧力を分散させる構造を採用している。
更に本発明者等は、複数のウエルが流体に対して抵抗性を有する部分を介して相互に連通しており、且つ夫々のウエルが試料を注入・吸出するための管及び、必要に応じ、注入・吸出時の圧力の変化を緩和するための管を備えている構造において、それ等複数の管が上端部において液体を収納できる空間を共有している微量試料処理装置、例えば細胞走化性検出装置を提案した(WO 02/46356)。各ウエルに設けられている総ての管の上端部が液体を収納できる空間を共有する構造を採用することにより、試料注入時やその後の液の移動を防止することを可能とするものである。更に、この装置では、注入された細胞のウエル内における位置を移動させ、細胞を流路の一端のスタートラインに並べることも可能であり、そのために、ウエル内の液体の注入・排出を精密に制御する手段を備えている。
しかし、ウエル内に注入した細胞を流路の一端のスタートラインに並べるためにはウエル内の液体を移動させる必要があるが、そのために微妙なコントロールが必要であり、また、その後の流路における液の移動を防止するために、再び液を管の上端部の空間に戻す必要がある等、複雑で厳密に制御された操作が必要であった。
本発明者等の上記提案以外にも、細胞や検体を収納するウエルを流路でつなぎ、ウエルに設けられている細胞や検体の注入口を必要に応じ閉塞させる手段を備えた細胞走化性検出装置が知られている(USP5744366)。しかし、これはウエル内において細胞の位置を調節することができないため、スタート時における細胞の条件を整えることができない。
本発明は、かかる装置を更に改良し、微量の細胞を用いて、その走化性をより正確に検出するための構造を提供することを目的とするもので、細胞や検体の注入を容易に行うことができ、注入後の細胞の位置の調整のための制御がより簡単に行われ、且つ、ウエル内において所定の位置に設定された細胞や注入された検体試料の不測の移動が確実に防止されるため試料検体の拡散による濃度勾配が安定に維持され、更には、操作・制御の自動化に一層適した細胞走化性検出装置を提供することを目的とする。
関連文献
1.特開2002−159287号
2.WO 02/46356
3.USP5744366
【発明の開示】
本発明は、(1)二つのウエルが流路を介して相互に連通しており、夫々のウエルには細胞又は検体試料を注入するための開口部が設けられている構造において、ウエル内で浮遊細胞の位置を調節するために液体を移動させる手段及び液体の注入又は吸引排出後にその移動を停止させる手段を備えており、且つ、細胞注入側及び検体試料注入側の何れか一方又は双方の開口部を閉塞する手段を備えている細胞走化性検出装置である。
ここで、(2)液体を移動させる手段及び液体の注入又は吸引排出後にその移動を停止させる手段を共に備えている装置の好ましい例として、脈動ポンプ又はシリンジを挙げることができる。
また、(3)該開口部を閉塞する手段の好ましい例としては、柔軟な密栓、スライド式開閉装置、弁、バルブの何れかまたはそれ等の組合せを挙げることができる。
本発明の一態様として、二つのウエルが土手を介して設けられている基板とそれに密着するガラス基板とから構成され、土手がガラス基板との間で、浮遊細胞の通過に対して抵抗性を有する流路を形成する細胞走化性検出装置を挙げることができる。ここで、該基板又は該基板と該ガラス基板との間に液体を移動させるための開口部が設けられており、該開口部に、液体を注入又は吸引排出することにより移動させ、その後液体の移動を停止させる手段/装置が設けられ、且つ、基板に設けられたウエルの何れか一方に細胞注入口を、他方のウエルに検体試料注入口が設けられ、それ等注入口の何れか一方又は双方を閉鎖する手段/装置が設けられている。
ここで、基板に設けられた土手はガラス基板との間で浮遊細胞の通過に対して抵抗性を有する流路を形成し、土手の上部にテラスを設けることができ、該テラスとガラス基板との間で細胞の径又はその変形能に合わせた隙間を形成させることができる。或いは、流路において、土手の上部のテラスに細胞の径又はその変形能に合わせた幅の溝を1乃至複数本構成する障壁を設け、必要に応じ、該障壁もガラス基板との間で細胞の径又はその変形能に合わせた隙間を形成することができる。更には、流路において、溝を構成する障壁の列がテラス上の2箇所に形成されていても良い。また、流路に設けられた土手に、ガラス基板との間で異なる深さの隙間を形成するべく、テラスが多段に形成されていてもよい。
本発明の他の態様として、基板およびガラス基板が一体のものとして構成されており、少なくとも一方の片面が透明である構造を挙げることができる。
本発明は、上記した細胞走化性検出装置を単位ユニットとして、その同一又は複数種のユニットを複数個集積させてなる集積ユニットよりなる集積型細胞走化性検出装置を含み、更には、該集積ユニットを単位ユニットとして、その同一又は複数種のユニットを複数個集積させてなる集積型細胞走化性検出装置を含む。
【図面の簡単な説明】
図1は、細胞注入口側からの液体の輸送により細胞を土手端に集めるタイプの細胞走化性検出装置の一例を示す概念図。矢印は、装置を満たす液体の移動する方向を示す。
図2は、図1の脈動ポンプに代えて、シリンジを用いる場合の概念図。
図3は、閉塞手段としてバルブを採用した場合の例を示す概念図。矢印は、装置を満たす液体の移動する方向を示す。
図4は、閉塞手段としてスライド式開閉装置を採用した場合の概念図。
図5は、図4の構造に加えて、検体試料注入口の開閉も行う構造の概念図。
図6は、閉塞手段として柔軟な密栓を採用した場合の概念図。
図7は、検体試料注入口側からの液体の吸引排出により細胞を土手端に集めるタイプの細胞走化性検出装置の一例を示す概念図。矢印は、装置を満たす液体の移動する方向を示す。
図8は、図7のタイプにおいて、液体を循環させる構造の概念図。矢印は装置を満たす液体の移動する方向を示す。
図9は、図8のタイプにおいて、細胞注入口を閉塞する構造の概念図。(1)及び(3)は断面図であり、(2)及び(4)は夫々の上面図である。矢印は装置を満たす液体の移動する方向を示す。
図10は、細胞注入口及び検体試料注入口の双方を閉塞する構造の概念図。
図11は、図6のタイプの単位ユニットを複数集積させた場合の概念図。
図12は、図10のタイプの単位ユニットを複数集積させた場合の概念図。
図13は、土手及び流路の構造の一例を示す断面図。
図14は、流路に障壁と溝を設けた場合の一例を示す。
図15は、土手に設けられたテラスの両側に障壁の列を2箇所に形成した例を示す。(1)は上面図、(2)は断面図である。
【符号の説明】
1:基板
2:土手
3:細胞収納ウエル
4:検体試料収納ウエル
5:細胞注入口
6:検体試料注入口
7:脈動ポンプ
8:注入パイプ
9:細胞の通過に対して抵抗性を有する流路
10:ガラス基板
11:検出器
12:細胞
13:シリンジ
14:液体注入手段
15:細胞懸濁液貯蔵槽
16:バルブ
17:スライド式開閉装置
18:液体注入口
19:柔軟な密栓
20:細胞注入器
21:吸引排出パイプ
22:検体試料注入器
23:テラス
24:障壁
25:流路を挟んで相対するウエルに向かう方向の溝
26:画面の位置決めのための印
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に関わる細胞走化性検出装置は、二つのウエルが細胞の通過に対して抵抗性を有する流路で相互に連通しており、ウエルの一つに細胞懸濁液を入れた後、細胞を流路の一端に並べ、他方のウエルに検体試料を入れ、検体試料の濃度勾配を感知した細胞が検体試料が収納されているウエルに向かって流路を通過する状態を観察し、或いは通過中又は通過した細胞数を計数することができる装置である。
上記に云う、細胞の通過に対して抵抗性を有する流路とは、非吸着状態で細胞がとりうる形態(通常は球形)では通過できないが、細胞が有する変形能により形態が扁平に変化した時に通過できる隙間を有する細胞の通路である。ここに、細胞の変形能とは、細胞が弾力性を有するものであるとき、その弾力性のために容易に形を変え、扁平状やひも状などの形態をとり、通常、細胞が自由空間でとる形状(球状)において有する径よりも狭い間隔の溝や隙間を通り抜けることを言う。
本発明に関わる細胞走化性検出装置の特徴とするところは、上記の基本的構造に加えて、ウエル内において細胞の位置を調節するために液体を注入又は吸引排出する手段及び液体の注入又は吸引排出後に液体の移動を停止させる手段を備え、且つ、ウエル内への細胞注入後、細胞注入側及び検体試料注入側の何れか一方又は双方の開口部を閉塞する手段を備えていることである。液体を注入又は吸引排出することにより細胞を移動させる手段を備えることにより、細胞を流路の一端のスタートラインに並べることが容易になる。また、細胞注入側及び検体試料注入側の何れか一方又は双方の開口部を閉塞することにより、流路を介して連通管を構成するウエルの液面の移動はなくなり、流路における液の移動もなくなる。即ち、装置に振動が加えられても細胞の不測の移動や流路に形成される検体試料の濃度勾配が変動することが抑止される。液体の注入又は吸引排出後にその移動を停止させる手段は開口部の閉塞を完全に行うために必要である。
この構造を、図1(1)及び(2)の概念図により説明すれば、基板1には突起状の土手2が設けられており、土手2とガラス基板10との間で細胞の通過に対して抵抗性を有する流路9が形成されている。まず、細胞懸濁液は液体注入手段(図1では、7で示す脈動ポンプ)により注入パイプ8を経て細胞注入口5から細胞収納ウエル3に送り込まれる。細胞は、液体の流れにより細胞の通過に対して抵抗性を有する流路9の端に集り、余分な液体は検体試料注入口6から排出される((2)の12参照)。流路9の端に来た細胞は液の流れを遮るため、流れは細胞のない箇所を通る。その結果、別の細胞がこの空間を埋めることになり、かくして細胞は流路9の端に列になって並ぶことになる。細胞懸濁液の注入速度は、特に厳密に設定する必要はないが、例えば、好中球や好酸球の場合は流路の隙間が5μmの場合、30〜40μm/秒程度の移動速度が好ましい。次いで,脈動ポンプ7による液体の輸送を停止すると共に注入パイプ8を閉塞させることにより、細胞注入口が閉塞されることになる。その後、検体試料注入口6から走化性因子を注入する。この時、細胞注入口が閉塞されているため、液体の逆流が防止され、流路9の端に集っている細胞の並びが乱されることがなく、また、流路における液の不測の移動が起きることもない。かくして、細胞は、流路9に安定に形成された走化性因子等の検体試料の濃度勾配を感知して、検体試料収納ウエル側に移動するべく、変形して流路9を通過する。その通過の状態をガラス基板10を通して検出器11で観察する。
液体注入手段として用いる脈動ポンプの一例としては、空気圧を変化させることによる脈動を利用して、液体輸送パイプを通して少量の液体を輸送する装置を挙げることができる。これは、1μl乃至10分の1μlのオーダーで液体を定量的に輸送することが可能であり、また、輸送パイプを閉塞することができる。例えば、Fluidigm Corporation(South San Francisco,CA)製のMSL Active Microfluidic Chip Control Hardware(商品名)が知られている。この他にも、脈動を利用する液体輸送手段として、上記の他に、圧電素子の振動を利用する装置も知られている。本発明の液体注入手段としては、これらの何れも使用できる。なお、圧電素子の振動を利用する装置は流体輸送後、パイプを閉塞することができないため、閉塞手段を別途設けることが必要である。
液体注入手段として、脈動ポンプ以外にも種々の手段を採用することが出来、例えば、図2の13に示すようなシリンジを採用することもできる。シリンジは、ステッピングモーター(パルスモーターとも呼ばれる)で駆動させることにより、定量的に液体を輸送することができる。また、シリンジを用いると、液体の輸送停止がそのまま注入口5の閉塞となり、液体の逆流を生じさせないため、好ましい手段であると云える。
例えば図3(1)、(2)に示すように、注入口の閉塞をバルブで行うことも出来る。(1)では、注入パイプ8にバルブ16を設けた場合の例示であり、(2)は細胞懸濁液貯蔵槽15と注入パイプ8の間にバルブ16を設けた場合の例示である。なお、図3における14は、脈動ポンプ、シリンジ等の液体注入手段である。バルブ16の代わりに、バルブと同様な機能を有するものを使用することもでき、例えば、柔軟で弾力性のある材質で作られたパイプを圧力で潰すことにより液流を止めても良い。
基板に設けられた細胞注入口又は検体試料注入口を閉塞する手段は種々有る。例えば、図4の17に示すようなスライド式開閉装置を採用することもできる。(1)は細胞を注入するために細胞注入口5が開いている状態を示す。細胞注入口5から細胞を注入後、(2)に示すように、スライド式開閉装置17をスライドさせて細胞注入口5を閉塞する。次いで、注入された細胞は液体注入手段14により注入パイプ8を通って輸送される液体(例えば、緩衝液)の流れに乗って流路9の端まで運ばれる。細胞の移動後に注入パイプ8の閉塞を行うが、その手段は上記した手段から適宜選択して採用される。スライド式開閉装置17の開閉操作は、例えば回転数を制御できるステッピングモーター等により容易に行うことができる。
図5は、図4の構造の変形例であり、スライド式開閉装置17が、細胞注入口5を開いた状態にあるときは検体試料注入口6を閉じており(1)、細胞注入口5を閉じたとき検体試料注入口6が開く(2)構造の例を示している。
図6は細胞注入口5の閉塞を柔軟な密栓19で行う場合の例示である。例えば、弾力性に富んだ膜状のシリコンゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、生ゴム等で細胞注入口5を密栓する(図6(1))。細胞の注入は、密栓19を貫通する細胞注入器20で行う(図6(2))。細胞注入後、注入器20を引き抜くと密栓19はその弾力性により貫通口が閉塞され、細胞12は液体注入口18から輸送される液体により流路9の端に集る(図6(3))。なお、密栓の代わりに、通常は軽く閉じているが、注入器が容易に貫通できる弁等も採用することができる。
図1〜6の構造に代えて、例えば図7に示すように、土手2を隔てて細胞収納ウエル3と逆の位置にある検体試料収納ウエル4の側から液体を吸引排出することにより細胞12を細胞収納ウエル3の流路9の端に集める構造とすることもできる。なお、図7では液体の吸引をシリンジ13で行う場合を示しているが、同様な機能を有する他の手段、例えば脈動ポンプなどでで置き換えることもできる。
本発明の装置は液体(細胞懸濁液の媒体)を循環させるタイプにすることもできる。図8(1)〜(4)にその概念図を示す。図8(1)は、細胞収納ウエル3に注入管8が、検体試料収納ウエル4に吸引排出パイプ21がそれぞれ設けられ、検体試料注入口6が柔軟な密栓19で閉塞されている場合を示している。液体の循環は(4)に示すように、液体を一方向に移動させる手段、例えば脈動ポンプ7で行われる。(1)及び(2)は細胞注入口5から細胞を注入した状態を示しており、(3)及び(4)は液体を矢印の方向に移動させ、その結果、細胞が流路9の端に集まる状態を示している。この場合、因子は、検体試料注入口6から、密栓19を貫通して注入される。なお、検体試料注入口6の閉塞は、密栓以外の手段、例えばスライド式開閉装置、バルブ、弁等で行うこともできる。
図9は、図8の構造に代えて、細胞注入口5を閉塞させる場合を例示している。細胞注入口5の閉塞は、図9に示すように柔軟な密栓19で行うこともできるが、スライド式開閉装置、バルブ、弁等で行うこともできる。
図10は、本発明の装置の他の変形例を示すもので、細胞注入口5及び検体試料注入口6の双方が閉塞されている場合の概念図である。図10では、夫々の注入口5、6は柔軟な密栓19で閉塞されている場合を例示しており、細胞及び因子は各密栓を貫通して注入される。細胞を流路9の端に集めるためには、例えば、図示するように、細胞収納ウエル3側及び検体試料収納ウエル4側の双方に例えばシリンジ13のような、液体輸送後に液体の移動を停止させる手段を備えている液体輸送手段を設け、それ等の連動により液体を細胞収納ウエル3側から検体試料収納ウエル4側に移動させる。注入口の閉塞手段として、密栓以外の手段、例えばスライド式開閉装置等を採用し得ることは云うまでもない。
以上述べてきた本発明の装置において、基板とガラス基板を一体化したものとして構成することができ、少なくとも一方の片面が光透過性、即ち、透明である構造をとることができる。
本発明は、以上説明した装置を単位ユニットとして、それ等の複数を集積させた装置をも含む。例えば、図11にその概念図を示すように、細胞注入口5を閉塞させたユニットを注入パイプ8でつなぎ、細胞収納ウエルに存在する細胞を同時に土手端に集める装置を組立てることができる。図11の場合、細胞注入口5側の閉塞を確実に行うために夫々のユニット毎に注入パイプ8をバルブ16等により閉塞することが好ましい。検体試料注入口及びパイプの閉塞手段は、今まで述べてきたように、種々な手段から適宜選択して採用することができる。
図12は、図10のタイプのユニットを集積させた場合の概念図である。図の密栓19は他の手段で置き換えることができる。この装置により、一種類の細胞につき、種々の検体試料の影響を一度に調べることができる。なお、図12の装置において、細胞注入口5と検体試料注入口6の位置を逆にしても良い。かくすることにより、一種類の検体試料に対して種々の細胞の反応を一度に調べることができる。
更に本発明は、複数の集積ユニットを集積させたタイプ、複数種の集積ユニットを集積させたタイプの装置をも含む。
本発明によれば、かかる装置の全体を小型化することが可能であり、試料の処理を微量で行うことができ、しかも各ユニットを多数集積させることにより、多数検体の処理を同時に行うことが可能となる。更に、液体の吸引・注入量のプログラム制御が容易であり、自動化装置の組み立てに適している。
以下に、本発明の装置の部分について具体例を挙げて説明するが、これ等は説明のための例示であり、本発明の技術思想に基づいて適宜変更することは可能であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
1)ユニットの構造
図1その他の図に例示するように、土手2及びウエル3、4は基板1上に一体的に構築されることが好ましい。基板1の下面には光学研磨したガラス基板10を圧着させる。なお、基板1とガラス基板10は熱処理により接合してもよい。
2)ウエル
ウエル3,4は、細胞懸濁液又は走化性因子含有溶液、同阻害剤含有溶液等の検体試料を収納するもので、容積は、特に制限は無く、必要最小限の液量を収納できればよい。例えば、深さ0.05〜0.1mm程度、幅、長さ各1.2mm程度あれば充分である。
3)流路
流路9(図1参照)の構造の一例を図13により説明すれば次の通りである。流路9は、両端のウエル3とウエル4を隔てる土手2(基板1における突出部)及びガラス基板10により構成される。土手の下面に、平面であるテラス23が設けられる。土手2のサイズは、特に限定されるものではないが、例えば、高さ、即ちガラス基板10からテラス23までの距離は0.003〜0.03mm程度、相対するウエルに向かう方向における長さとして0.1〜0.5mm程度、相対するウエルに向かう方向に直交する方向における長さとして1.2mm程度あればよい。なお、これらのサイズが、対象とする細胞の相違など、目的に応じて適宜変更できることは云うまでもない。
なお、テラス23とガラス基板10との距離は、取扱う細胞に応じて適宜設定することができ、通常3〜30μmから選ばれる。好中球、好酸球、好塩基球、単球・マクロファージ、T細胞、B細胞等の場合は3〜8μm、例えば4、5、又は8μmから選ばれ、がん細胞や組織に存在する細胞の場合は6〜20μmから選ばれる。
ここで、細胞が流路9の端に集まり易くするために、テラス23を多段式に形成することもできる。
好ましい態様の一つとして、土手2の下面(テラス23)に、図14(1)、(2)に例示されるような複数の障壁24を設け、細胞が通過する溝25を形成させる。ここで、(1)は障壁24を設けた土手2の断面図であり、(2)はテラス23と障壁24及び溝25を示す上面図である。
テラス23に障壁24を設ける場合、障壁24により構成される溝25の断面は、V字型断面、凹型断面、半円型断面等、任意の形状とすることができる。溝25の幅及び深さは、細胞の径又はその変形能に合わせた幅であるように設定される。
なお、図14(3)は溝25がV字型をしている場合を示す断面図である。
溝25の幅は通常3〜50μmから選ばれ、細胞の種類に合わせて好適な幅が選ばれる。好中球、好酸球、好塩基球、単球・マクロファージ、T細胞、B細胞等の場合は3〜20μm、例えば4、8又は10μmから選ばれ、がん細胞や組織に存在する細胞の場合は8〜20μmの幅が選ばれる。溝25の数は、流路9の幅に対する障壁24の幅と溝25の幅で決定される。例えば、流路9の幅1mm、障壁24の幅10μm、溝25の幅5μmの場合、溝25の数は最大で66本となる。
土手2に設けられたテラス23の両側に 障壁24の列を2箇所に形成することもできき(図15(1)、(2)参照)、かかる構造とすることにより、溝を通過した後の細胞の観察・計数が容易に行われる。また、中央のテラス23の適当な箇所にマーク26を設けることにより、カメラや顕微鏡の位置決めが容易になる(図15における26)。なお、中央のテラスの大きさは、顕微鏡の視野でカバーできる大きさであることが望ましい。図15において、(1)は上面図、(2)は断面図である。
4)ウエルと流路の作製
基板1の材質としては、微細加工が容易で、細胞に対し比較的不活性な材質であることが好ましく、例えば、シリコン単結晶を挙げることができる。障壁24及び溝25は、このシリコン単結晶に集積回路の製作で使用されるフォトリソグラフィやエッチング、例えばウエットエッチングやドライエッチング等を適用することにより容易に工作される。ウエル3、4は障壁24や溝25に比べれば比較的大きいので様々な既知の工作技術を適用して作製することができる。例えば、サンドトラスト法やドライエッチング法を適用することができる。
シリコン単結晶以外にも、硬質ガラス、硬質プラスチック、金属等も流路における微細な構造が構築可能であれば使用できる。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)は微細構造の形成に適したプラスチックの例である。プラスチックを使用する場合は、表面に親水性を付与するための処理、例えば、表面に親水性薄膜を形成させる処理を行うことが好ましく、また、細胞の観察を容易にするために、少なくともテラス23を含む表面に銀蒸着等による鏡面加工を行うことが好ましい。なお、土手2とウエル3,4を夫々別に作製し、組合わせてもよい。
5)ガラス基板
ガラス基板10は、図1他に例示するように、基板1に圧着して液体を収納する空間を構成し、且つ流路を通過する細胞の観察を可能とするもので、光学的に透明且つ平面性を保持し、細胞が接着する面を提供するものである。かかる目的に適うものであれば、ガラス以外にも、透明アクリル等のプラスチックも使用できる。厚さは、基板に圧着させる際にゆがみが生じない限り特に限定されるものではないが、0.1〜2mmあれば充分である。なお、細胞の構成要素を蛍光標識して観察する場合は、ガラス基板10が薄い方が好ましい。
基板1がシリコンウエハーで構成されている場合、そのガラス基板10との圧着により一体化できるが、両者は200〜400℃の熱処理によって接合一体化できる。但し、その場合、基板1とガラス基板10の熱膨張率及び熱収縮率が一致するように材質を選ぶことが必要である
6)パイプ
注入パイプ8、吸引排出パイプ21は、一般的には柔軟な材質であることが好ましく、特に脈動ポンプ7を用いる場合は微細な動きに対応できるものであることが必要である。例えば、PDMS、ポリエチレン、塩化ビニル等を挙げることができる。
7)多数のユニットの配列
流路を介して連通した二つのウエルを1ユニットとして、複数のユニットを1枚の基板上に配置乃至集積して多数検体を同時に処理する装置とすることができる。同じタイプのユニットを並列に配置し、又は、異種のユニットを配列することも可能である。配列は、目的に応じて種々の組み合わせを採ることができる。例えば、2つのウエルが流路を介して連通してなるユニットの1ユニットの大きさを長辺が2.9mm、短辺が1.2mmとするとき、幅が16mm、長さが10mmの長方形である一枚の基板1上に、0.8mmの間隔で7列×2行の計14個を配置することができる。
また、上記の多数ユニットの集積を更に集積させたることもでき、互いに異なったタイプのユニットの集積であることもできる。
これら、多数のユニットを集積させる場合において、ガラス基板10は、ユニット全体をカバーするように1個又は1枚とすることができる。
8)検出手段
本発明において用いられる検出手段は、流路9を移動する細胞又は移動した後の細胞を検出できる手段であればよく、必要に応じ検出結果を記録するための手段を含む。細胞を検出・記録するために知られている手段であれば何れも使用可能であり、例えば、顕微鏡、顕微鏡とビデオカメラの組合せ等である。対物レンズにCCDカメラを取り付けた構造を採用することもできる。集積ユニットの検出においては、対物レンズが各ユニットの流路を順次スキャンする構造を採用することが好ましい。
検出手段は、通常は、図1他に示すように、ユニットの流路9の下方に設定されるが、多数ユニットを集積させた自動装置においては、所定の位置に設置された検出部に各ユニットの列が順次移動し、検出・記録を行う構造を採ることもできる。検出は、直線上に並んでいる各ユニットの流路を検出器がスキャンすることにより行われる。スキャンする検出器11は1個でも良いし、複数個でもよい。かくすることにより、比較的少ない数の検出装置で多数の集積ユニットに対応することが可能となる。
流路9を通過する細胞の検出・計数は、細胞を直接顕微鏡で捉えることにより行うことができるが、常法に従い、予め細胞を発光・蛍光物質でマーキングしておき、その発光・蛍光を捕捉することにより容易に検出・計数することもできる。
9)自動制御機構
本発明の装置は、容易に自動制御とすることができる。例えば、細胞、因子等の検体試料の注入には移動及び液体の排出をコンピューターで制御できるオートピペットを、液体輸送手段に脈動ポンプやステッピングモーターで駆動されるシリンジを、注入口の開閉にスライド式開閉装置を夫々用い、それ等の作動順序及び作動量をコンピュータープログラムで制御する。注入口の開閉にスライド式開閉装置の代わりに密栓を用いる場合は、開閉操作の制御は不要となる。
集積型装置おいて使用されるピペットは、マルチチャネルシリンジを有するタイプのものが好ましい。
【産業上の利用可能性】
本発明の構造によれば、注入された細胞のウエル内における位置を調整して細胞を流路の一端に集めて一列に並ばせると共に、その状態を保持することができ、且つ、流路における走化性因子等の検体試料の拡散による濃度勾配を安定に保持することができるため、走化性因子又は阻害剤の作用と細胞の性質を忠実に反映させた、定量的な結果を得ることができる。
更に、本発明の構造を採用することにより、装置に不測の振動が加えられた時でも、細胞の列及び検体試料の濃度勾配の乱れを抑制し、細胞の運動を正確に捉えることができる。
本発明の構造によれば、装置の小型化を図ることができ、細胞走化性検出又は走化細胞分離装置に適用すれば、使用する細胞の量を、従来使用されてきたボイデンチャンバーに比べ、500分の1乃至1000分の1とすることが可能である。即ち、本発明の装置においては、試料として全血のような生体試料そのものを用いることができ、かくして全血を試料としたとき、好中球の走化性を検出する場合は0.1μl以下の血液でよく、好酸球、単球又は好塩基球では1μl程度の血液で測定可能である。
本発明の構造によれば、細胞のウエル内における位置の調節に際し、微妙な調整が可能であるところから装置の自動化が容易に行えるというメリットがある。
本発明に関わる装置の単位ユニットは微小なものとすることができるため、多数のユニットを集積させることが容易であり、多数検体の同時処理が可能な装置を組み立てることができる。また、その場合、液体の注入及び検出が自動化された装置とすることが容易である。
多数のユニットを集積させるに当たり、異なったタイプのユニットを組み合わせて集積させることにより、目的を異にする検出・分離を同時に行うことができ、処理の効率を上げることが可能となる。例えば、細胞走化性検出装置の場合、同一種の細胞に対して種々の走化性因子またはその阻害剤の検索を行うとき、或いは、同一の走化性因子について異なる細胞の走化性を調べるとき等においてその検索を一度に行うことが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つのウエルが細胞の通過に対して抵抗性を有する流路を介して相互に連通しており、夫々のウエルには細胞又は検体試料を注入するための開口部が設けられている構造において、(1)液体を移動させる手段及び液体の注入又は吸引排出後にその移動を停止させる手段を備えていること、及び(2)細胞注入側及び検体試料注入側の何れか一方又は双方の開口部を閉塞する手段を備えていることを特徴とする細胞走化性検出装置。
【請求項2】
液体の移動及び移動を停止させる手段が、脈動ポンプ又はシリンジから選ばれることを特徴とする請求項1記載の細胞走化性検出装置。
【請求項3】
開口部を閉塞する手段が、柔軟な密栓、スライド式開閉装置、弁、バルブの何れか又はそれ等の組み合わせから選ばれることを特徴とする請求項1記載の細胞走化性検出装置。

【国際公開番号】WO2004/090090
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505320(P2005−505320)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005088
【国際出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(500201406)株式会社 エフェクター細胞研究所 (12)
【Fターム(参考)】