説明

細胞電気生理センサの製造方法および製造装置

【課題】測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明は、センサチップ14を保持する工程と、このセンサチップ14の側面外周を囲むガラス管13を保持する工程と、このガラス管13の外方からガラス管13側面に向けて風圧を与えるとともに、ガラス管13を溶融させてセンサチップ14の側面とガラス溶着させる工程とを備えるものとした。これにより本発明は、センサチップ14の外周を親水性の高いガラス管13で囲むことができ、結果として測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の薬理反応分析等に利用できる細胞電気生理センサの製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネルを測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心ごとであり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
しかし、一方でパッチクランプ法は測定技術に微細なマイクロピペットを1個の細胞に高い精度で挿入するという極めて高い能力を必要としているため、熟練作業者が必要であり、高いスループットで測定を必要とする場合には適切な方法でない。
【0004】
このため、個々の細胞についてマイクロピペットの挿入を必要とせず、減圧を行うだけで自動的に細胞を固定・測定を行うことができる自動化システムの開発が進んでいる。
【0005】
従来の細胞電気生理センサは、図9に示すように樹脂からなる実装基板1と、この実装基板1の貫通孔2に挿入されたシリコンからなるセンサチップ3と、実装基板1の上方および下方にそれぞれ配置された電極4、5とを備えている。
【0006】
また、センサチップ3は、導通孔6を備えている。そして実装基板1の貫通孔2内および実装基板1上に配置された電解槽7と、下側に配置された電解槽8とは、共に電解液で満たされ、これらの電解槽7、8は実装基板1とセンサチップ3とで仕切られている。
【0007】
そして、この細胞電気生理センサは電解槽7に細胞9を注入し、導通孔6の上方から加圧、あるいは下方から減圧することで細胞9を導通孔6の開口部に吸引し捕捉することができる。そして、例えばこの細胞9の上から薬剤を投与し、電解槽7、8間の電位差を電極4、5で測定すれば、細胞9の薬理反応を判断することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2002−518678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のセンサチップ3は、細胞電気生理センサの測定精度が低いという課題があった。
【0009】
その理由は、センサチップ3の導通孔6近傍に気泡10が付着しやすいからである。
【0010】
すなわち、従来の細胞電気生理センサはセンサチップ3の外周が実装基板1の貫通孔2内壁で囲まれている。そして、この実装基板1は疎水性のため、貫通孔2内は気泡が発生しやすく、この気泡がセンサチップ3の導通孔6近傍に付着すると、細胞9と導通孔6開口部との密着性が弱まり、あるいは細胞9の吸引が妨げられ、結果として細胞電気生理センサの測定精度が低下するのである。
【0011】
そこで、本発明は、測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため本発明は、センサチップを保持する工程と、このセンサチップの側面外周を囲むガラス管を保持する工程と、このガラス管の外方からガラス管側面に向けて風圧を与えるとともに、このガラス管を溶融させてセンサチップの側面とガラス溶着させる工程とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
これにより、本発明は、測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することができる。
【0014】
すなわち、本発明によれば、センサチップの外周を親水性の高いガラス管で囲むことができる。従って、センサチップの周辺において、気泡が発生しにくい細胞電気生理センサを製造することができる。
【0015】
そしてその結果、導通孔近傍に気泡が付着しにくく、測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態における細胞電気生理センサは、実装基板11と、この実装基板11の貫通孔12内に挿入されたガラス管13と、このガラス管13の下端部に挿入されたセンサチップ14とを備えている。
【0017】
そして、ガラス管13内部および実装基板11の貫通孔12内は電解槽15として用いられる。また、実装基板11の下方には流路基板16が当接され、この流路基板16と実装基板11との間の空間は電解槽17として用いられる。
【0018】
また、これらの電解槽15、17内には、各電解槽15、17に注入される電解液と電気的に接続される電極18、19がそれぞれ配置されている。
【0019】
さらに、センサチップ14は、図2に示すように、円板状の薄板20と、この薄板20上に配置された円筒状の枠体21とからなる。
【0020】
本実施の形態では、このセンサチップ14は二酸化シリコン層の両面をシリコン層で挟んだいわゆるSOI基板をドライエッチングすることにより形成される。
【0021】
そして、薄板20はシリコン層と二酸化シリコン層との積層体であり、枠体21がシリコン層からなる。すなわち本実施の形態では、薄板20の細胞捕捉面22が二酸化シリコン層で構成されている。また、薄板20にはドライエッチングにより導通孔23が形成され、この導通孔23により図1の電解槽15、17間が連通できる。
【0022】
また、薄板20は厚み10μm〜100μm、導通孔23は開口径1μm〜3μmφとした。なお、この導通孔23の開口径は5μm以下が細胞を保持するために適している。
【0023】
また、ガラス管13は、水との接触角が0度以上10度以下の親水性の高いガラスで形成されていることがのぞましい。従って、ガラス管13の材料としては、二酸化ケイ素を含むガラスであることが好ましく、例えばホウケイ酸ガラス(コーニング;#7052、#7056)、アルミノケイ酸塩ガラスまたはホウケイ酸鉛ガラス(コーニング;#8161)などが挙げられる。
【0024】
なお、水との接触角とは、固体表面の上に純水などの液滴を乗せ、平衡になった状態で、液滴表面と固体表面のなす角度をいう。そして、その測定方法は一般的にθ/2法を用いることができる。その方法は液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求めることができる。または分度器などを用いて測ることも可能である。
【0025】
さらに、図2に示すようにガラス管13の内径d1は、センサチップ14の外径d2よりも大きく、1400μmとした。またガラス管13の外径d3は、2000μmとした。
【0026】
そして、本実施の形態では、ガラス管13の内側面とセンサチップ14外側面との距離d4が0.05mmから0.4mm程度とした。このようにガラス管13とセンサチップ14との間に隙間を設けることにより、これらを溶着する前段階でセンサチップ14とガラス管13とが接触し、これらが破損するのを抑制することができる。
【0027】
さらに、ガラス管13の長さd5はセンサチップ14の長さd6よりも長く、2000μmとした。
【0028】
また、ガラスの軟化点は作業性の観点から重要な要素である。ガラス管13をセンサチップ14側面にガラス溶着するために都合の良い温度は、ガラスの軟化点以上であり、そしてより好ましくは500〜900℃の範囲である。500℃より低いガラスを用いると強度が不十分であり、900℃を越えると作業性が悪くなるからである。
【0029】
さらに、図1に示すような実装基板11および流路基板16は樹脂で構成しておくと成形しやすく、また組み立ても容易である。材料としてより好ましくは熱可塑性樹脂である。これにより、これらの材料は射出成型などの手段を用いることによって生産性良く、高均質な成形体を得ることができる。さらに好ましくは、これらの熱可塑性樹脂はポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、オレフィンポリマー、ポリメタクリル酸メチルアセテート(PMMA)のいずれか、またはこれらの組み合わせである。これらの材料からなる実装基板11は、紫外線硬化型の接着剤24を用いることによって、容易に親水性に優れたガラス管13と接合することができる。さらに好ましくは、これらの熱可塑性樹脂として、環状オレフィンポリマー、線状オレフィンポリマー、またはこれらが重合した環状オレフィンコポリマー、またはポリエチレン(PE)とすることが作業性、製造コストおよび材料の入手性の観点から好ましい。
【0030】
特に、環状オレフィンコポリマーは透明性、アルカリ・酸などの無機系薬剤に対する耐性が強く、本発明の製造方法もしくは使用環境に適している。また、これらの材料は紫外線を透過させることができることから、紫外線硬化型の接着剤24を用いる時に効果を発揮する。
【0031】
なお、本実施の形態のように、センサチップ14を実装基板11に実装する方法は、実装基板11全体をシリコン基板で形成し、実装基板11に導通孔(図2の23)を直接形成した場合と比較してコストも下がり、歩留まりも向上するとともに、一部に不良の導通孔23が存在した場合においてリペア性を有する。
【0032】
次に、本実施の形態における細胞電気生理センサの動作について説明する。
【0033】
図1に示すように、実装基板11の貫通孔12内(ガラス管13内部を含む)の電解槽15に細胞外液を貯留し、細胞内液を下側の電解槽17内に充填する。ここで、細胞外液とは例えば哺乳類筋細胞の場合、代表的にはK+イオンが4mM程度、Na+イオンが145mM程度、Cl-イオンが123mM程度添加された電解液であって、細胞内液とは、K+イオンが155mM、Na+イオンが12mM程度、Cl-イオンが4.2mM程度添加された電解液である。
【0034】
この状態で、細胞外液と電気的に接続された電極18と、細胞内液と電気的に接続された電極19との間で、100kΩ〜10MΩ程度の導通抵抗値を観測することができる。これは導通孔(図2の23)を介して細胞内液あるいは細胞外液が浸透し、二つの電極18、19間で電気回路が形成されるからである。
【0035】
次に、上側の電解槽15へ細胞を投入する。
【0036】
そして、その後下側の電解槽17を減圧すると、細胞は導通孔23開口部に引き付けられ、導通孔23開口部を塞ぐことによって、細胞外液と細胞内液との間の電気抵抗が1GΩ以上の十分に高い状態となる(ギガシールと呼ぶ)。このギガシール状態では、細胞の電気生理活動によって細胞内外の電位が変化すれば、わずかな電位差あるいは電流であっても高精度に測定できる。
【0037】
次に、本実施の形態における細胞電気生理センサの製造装置を説明する。
【0038】
この製造装置は、図3に示すようにセンサチップ14を保持する保持ヘッド25と、この保持ヘッド25外周に配置されたガラス管保持機構26と、ガラス管13の外方からガラス管13側面に向けて局所的に風圧を与えるとともに、ガラス管13を溶融する一つの燃焼装置(バーナー27)とを備えており、保持ヘッド25およびガラス管保持機構26はセンサチップ14とガラス管13とをその垂直軸を中心に回転させる機能を有している。
【0039】
なお、保持ヘッド25は、センサチップ14側面をつまんで保持する機構でもよいが、本実施の形態では吸着により保持する機構を用いた。この吸着する機構では、微細なセンサチップへの応力負荷を低減することができる。
【0040】
また、ガラス管保持機構26も保持ヘッド25と同様に吸着する機構でもよいが、ガラス管13はセンサチップ14と比較して外形が大きく、機械的強度も高いため、本実施の形態では、ガラス管13の側面を挟みこむチャック機構とした。
【0041】
さらに、本実施の形態では、燃焼装置として風圧と燃焼炎とを同時に付与できるバーナー27を用いたが、例えばガラス管13の外方からガラス管13側面に向けて局所的に風圧を与えるモータなどの風圧発生手段とガラス管を溶融するIHやヒーター、レーザーなどの加熱手段とを併用してもよい。この場合は、ガラス管13側面に風圧を与えながら、この風圧印加領域を加熱することによって、後述のようにガラス管13を内側に熱変形させることができる。
【0042】
また、本実施の形態では、ガラス溶着する工程において、燃焼炎を用いたが、熱風を用いてもよい。すなわち、製造装置としてはバーナー27の替わりに、ガラス管13の外方からガラス管13側面に向けて、風圧を与えながらガラス管13を溶融できる熱風発生手段を備えていてもよい。
【0043】
このような製造装置では、いずれも風圧と熱とでガラス管13を内側のセンサチップ14に向けて湾曲させながら変形させることができ、ガラス管13とセンサチップ14との間に隙間があっても容易に溶着できる。
【0044】
また、この製造装置は、保持ヘッド25の先端、すなわちセンサチップ14吸着面の断面の直径d7は、センサチップ14の外径d8よりも小さくなるよう設計されている。これにより溶融したガラスが保持ヘッド25に付着するのを抑制することができる。
【0045】
さらに、この保持ヘッド25およびガラス管保持機構26は、ともに後述のガラス溶着工程における熱に絶えうるよう、耐熱性の高い材料で形成した。そして、特に本実施の形態では、保持ヘッド25はガラス管保持機構26よりも熱伝導性の高い超合金からなり、ガラス溶着工程の際に、センサチップ14に温度ムラが生じるのを抑制している。また、ガラス管保持機構26は保持ヘッド25よりも断熱性の高いセラミックからなり、これにより、ガラス溶着工程の際に、装置内部で雰囲気温度が低下するのを抑制している。
【0046】
次に、本実施の形態における細胞電気生理センサの製造方法を説明する。
【0047】
まず、図4(a)に示すようにセンサチップ14を保持ヘッド25で吸引しながら吸着保持する。
【0048】
次に、図4(b)(c)に示すようにセンサチップ14を吸着保持した状態で、センサチップ14が保持ヘッド25の中央に位置するようにセンタリングを行う。
【0049】
その後、図4(d)(e)に示すようにセンサチップ14を保持した保持ヘッド25を、整列させたガラス管13内に挿入し、ガラス管保持機構26でガラス管13を保持する(チャッキング)。
【0050】
なお、ガラス管13を保持する工程はセンサチップ14を保持するより前に行っても良いが、本実施の形態ではセンサチップ14を保持する工程の後、ガラス管13を保持した。この順序の方が、センサチップ14が破損しにくいと共に、ガラス管とセンサチップの位置関係を中央に保持できるためである。
【0051】
次に、図4(f)に示すようにバーナー27をガラス管13の外方からガラス管13の下端部側面に向け、ガラス管13の水平断面とほぼ平行に(すなわち図2の薄板20と平行に)燃焼炎を勢いよく噴出させる。この時、保持ヘッド25とガラス管保持機構26の回転機能を用い、センサチップ14とガラス管13とを、センサチップ14の垂直軸を中心に回転させることで、バーナー27が一個で燃焼炎が一方向からの噴出であっても容易かつ均一にセンサチップ14を360°溶着することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、センサチップ14の枠体(図2の21)およびガラス管13は共に円筒型のため、加熱時の均熱性が高く、均一な溶着が可能である。
【0053】
ここで、本実施の形態ではバーナー27を用いたため、強力な集中炎を噴出できる。従って図4(g)に示すようにこの炎の勢いで、炎が直に接触するガラス管13の下端は内側(センサチップ14側)へと湾曲するように溶融する。これにより、ガラス管13の内径(図2のd1)がセンサチップ14の外径(図2のd2)よりも大きい場合も、ガラス管13とセンサチップ14とを密着して接合することができる。
【0054】
その後、図4(h)に示すようにセンサチップ14とガラス管13との一体物を設置する。
【0055】
そして次に、図5(a)に示すようにこのセンサチップ14とガラス管13との一体物を実装基板11の貫通孔12に挿入し、図5(b)に示すように、接着剤24等で接合すれば本実施の形態における細胞電気生理センサが製造できる。
【0056】
なお、本実施の形態では、貫通孔12内壁に突起28を設けているため、ガラス管13の位置決めが容易となる。
【0057】
次に、センサチップ14の吸着とセンタリングを効率良く行う別の製造方法について図面を用いて説明する。
【0058】
図6(a)〜図6(c)は別の吸着方法を説明するための断面図であり、まず図6(a)に示すようにステンレスなどの耐熱性を有する中空状の金属管29を準備し、この金属管29の中空内部に水などの所定の表面張力を有する液体30を充填し、圧力を制御しながら金属管29の先端部に液滴30aを形成する。このため、中空状態の金属管29に液体30を充填すること、および中空内部を減圧状態とするためのバルブ制御装置を設けることが好ましい。
【0059】
また、液滴30aの液滴の大きさ(特に幅寸法)はセンサチップ14の形状よりも大きな形状とすることが好ましい。そして、金属管29の先端に液滴30aを形成するため、容易に中空形状に加工できる金属材料を用いることが好ましい。
【0060】
さらに、後工程において、ガラス溶着を行うことから耐熱性を有する金属材料あるいは高温で安定なセラミック材料または耐熱性ガラスなどを用いることも可能である。
【0061】
次に、図6(b)に示すように、この液滴30aの表面にセンサチップ14を接触させると、センサチップ14は表面張力によって液滴30aに吸着された状態となる。
【0062】
その後、図6(c)に示すように前記液滴30aの表面に接触したセンサチップ14は液滴30aの表面張力によってセンサチップ14は球面状を形成した液滴30aの先端中央部へ引き寄せられることが分かった。
【0063】
そして、このような実験を繰り返した結果、金属管29の先端部に形成した液滴30aに引き寄せられたセンサチップ14の保持位置は液滴30aのほぼ中央先端部に引き寄せられていることが分かった。これによって、センサチップ14と金属管29とは中心軸を共有して吸着することができる。
【0064】
従って、中空構造を形成した所定寸法の金属管29の先端部に液滴30aを形成し、この液滴30aの表面張力を利用した吸着方法を用いることによって、センサチップ14の吸着とセンタリングを液滴30aを介して簡単に行うことができる。その後、バルブ操作などによって真空吸引することによって金属管29の中空内部に存在する液体30および液滴30aを除去するとともに、中空内部を減圧状態に維持することによって、センサチップ14を金属管29の先端中央部に真空吸着した状態を実現することができる。
【0065】
このような方法でセンサチップ14を吸着した後、図4(b)の工程以降の製造方法を経ることによって、所定の位置に配置した細胞電気生理センサを作製することができる。
【0066】
以上説明してきたような製造方法を用いることによって、センサチップ14に機械的応力を負荷することなく微小なセンサチップ14を保持することが可能となり、センサチップ14のカケ、ワレなどの構造欠陥を大幅に低減できる製造方法を提供することができる。
【0067】
以下本実施の形態における効果を説明する。
【0068】
本実施の形態では測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することができる。
【0069】
すなわち、図9に示すように従来の細胞電気生理センサは、センサチップ3を実装基板1に直接挿入し、接着剤等で固定することにより製造されていた。ここで実装基板1は疎水性のため、実装基板1の貫通孔2内は気泡が発生しやすい。
【0070】
そして、図9に示すように気泡10がセンサチップ3の導通孔6近傍に付着すると、細胞9と導通孔6開口部との密着性が弱まり、あるいは導通孔6の上下間で導通が阻害され、細胞電気生理センサの測定精度が低下するのであった。
【0071】
これに対して、本実施の形態における製造方法および製造装置を用いれば、測定度の高い細胞電気生理センサを製造することができる。
【0072】
その理由は、本実施の形態ではセンサチップ14の導通孔23近傍に気泡の付着しにくいセンサチップ14を形成することができるからである。
【0073】
すなわち、本実施の形態の製造方法および製造装置を用いれば、図1に示すように、センサチップ14の外周、すなわち本実施の形態においては実装基板11の貫通孔12とセンサチップ14との間に、親水性の高いガラス管13を介在させることができる。従って、センサチップ14の周辺、すなわち貫通孔12内に発生する気泡を低減できる。従って、導通孔23開口部近傍に付着する気泡を低減することができ、結果として測定精度の高い細胞電気生理センサが製造できる。
【0074】
また、本実施の形態ではセンサチップ14の上方の周りをガラス管13が囲っている。これにより、センサチップ14の上方を気泡が覆ってしまうのを抑制することができる。
【0075】
すなわち、図9のような従来の構成では、センサチップ3の周りを貫通孔2内壁が囲っている。そして、従来はセンサチップ3も貫通孔2の内壁も疎水性の材料で構成されているため、電解液を充填する際、センサチップ3の上方から枠体内部全体を気泡が覆ってしまい、測定ができなくなることがあった。
【0076】
これに対して、本実施の形態で製造したセンサチップ14は、その上方の周りを親水性のガラス管13が囲っている為、気泡がセンサチップ14上方を覆うのを抑制することができる。
【0077】
また、本実施の形態では、微細なセンサチップ14の外周を、より外径の大きいガラス管13で密着固定することができ、このガラス管13ごと実装基板11に実装すればよいため、実装が容易となる。また、シリコンからなるセンサチップ14の外径を大きくするよりも、安価なガラス管13を用いることで材料コストを低減できる。
【0078】
また、ガラス管13とセンサチップ14とはガラス溶着により接合されているため、接合強度が高く、気密性に優れている。従って、ガラス管13とセンサチップ14との隙間に電解液が流れ込むのを抑制することができ、リーク電流の低減に寄与する。すなわち本実施の形態の製造方法および製造装置を用いれば、測定精度の高い細胞電気生理センサを製造することができる。
【0079】
また、本実施の形態によれば、燃焼炎をガラス管13の水平断面に対して平行に、勢いよく噴出したため、燃焼炎がガラス管13の下端部に集中して当たり、この下端部における外側面(図2の29)が内側へ湾曲するように形成することができる。これにより、ガラス管13は実装基板11の貫通孔12内に挿入しやすくなる。
【0080】
また、本実施の形態によれば、ガラス管13下端部における内壁(図2の30)も内側へ湾曲する。このように湾曲していれば、角部が形成される場合と比較して気泡が発生しにくくなる。
【0081】
また、本実施の形態では、バーナー27を用いたことにより、勢いよく燃焼炎を噴出するとともに、局所的に燃焼炎を当てることができる。従って、ガラス管13とセンサチップ14との間に隙間がある場合でも、この炎の勢いを利用してガラス管13の一部をセンサチップ14側へと寄せることができる。
【0082】
また、燃焼炎は多方向から一度に噴出してもよいが、本実施の形態のようにバーナー27を一領域のみに設置し、燃焼炎を一方向からのみ噴出することが好ましい。
【0083】
すなわち、多方向からバーナー27を用いると、燃焼炎による熱風が干渉しあい、炎の勢いが弱まって、ガラス管13を内側へ湾曲させにくくなるからである。
【0084】
なお、本実施の形態ではバーナー27を用いて熱風を発生させているが、例えばモータ等を用いて風を発生させる場合も、風を一方向からガラス管13の側面に向けて発生させるとより望ましい。多方向から風を発生させると、干渉により風圧が低下することがあるからである。
【0085】
ただし、ガラス管13とセンサチップ14との隙間が狭い場合などは、風圧が低くてもガラス管13とセンサチップ14とを容易に接合できるため、バーナー27を多数用いてもよく、この場合はバーナー27を放射状に配置すれば均一に溶着できる。そしてバーナー27を多数用いた場合は溶着時間を短縮することができる。
【0086】
なお、本実施の形態では、センサチップ14はガラス管13の下端部に挿入したが、例えば図7に示すように上端部に挿入してもよく、あるいは図8に示すように中央に挿入してもよい。この場合は、いずれもセンサチップ14の下方にガラス管13が存在することになり、ガラス管13内部を下側の電解槽として用いることができる。従って導通孔23の出口近傍に気泡が付着するのを抑制することができる。従って、例えば電解槽(図1の17)を減圧して細胞を吸引する際、気泡によって圧力が上側の電解槽15に伝達されなくなるのを防ぐことができる。また、導通孔(図2の23)上下間において電気的導通が阻害されるのを抑制することができる。そしてその結果、細胞電気生理センサの測定精度が向上する。
【0087】
なお、センサチップ14の向きは上下逆でもよいが、本実施の形態ではSOI基板を用いているため、二酸化シリコン層が細胞捕捉面(図2の22)となる向きに配置することが好ましい。すなわち、二酸化シリコン層はシリコン層と比較して高い絶縁性を有する為、センサチップ14を介するリーク電流を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明にかかる細胞電気生理センサは、複数の細胞を一括して効率よく高精度に測定できるため、細胞の電気生理現象の測定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサの断面図
【図2】同細胞電気生理センサの要部拡大断面図
【図3】同細胞電気生理センサの製造装置の模式断面図
【図4】(a)〜(h)同細胞電気生理センサの製造方法を示す図
【図5】(a)(b)同細胞電気生理センサの製造方法を示す図
【図6】(a)〜(c)同別の吸着方法を説明するための断面図
【図7】同別の例の細胞電気生理センサの断面図
【図8】同さらに別の例の細胞電気生理センサの断面図
【図9】従来の細胞電気生理センサの断面図
【符号の説明】
【0090】
11 実装基板
12 貫通孔
13 ガラス管
14 センサチップ
15 電解槽
16 流路基板
17 電解槽
18 電極
19 電極
20 薄板
21 枠体
22 細胞捕捉面
23 導通孔
24 接着剤
25 保持ヘッド
26 ガラス管保持機構
27 バーナー
28 突起
29 金属管
30 液体
30a 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサチップを保持する工程と、
このセンサチップの側面外周を囲むガラス管を保持する工程と、
このガラス管の外方からこのガラス管側面に向けて風圧を与えるとともに、
このガラス管を溶融させて前記センサチップの側面とガラス溶着させる工程とを備えた細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項2】
前記センサチップを保持する工程において、筒状または棒状の保持具の先端に球面状の液滴を形成し、この液滴の表面にセンサチップを接触させ、液滴の表面張力によって前記センサチップを保持具の中央部に整列させて保持する請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス溶着工程では、前記ガラス管の外方からガラス管側面に向けて燃焼炎を噴出する請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス溶着工程において、
風圧の方向は一方向である請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス溶着工程において、
燃焼炎を一方向から前記ガラス管の側面に向けて噴出する請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項6】
前記ガラス溶着工程において、
前記ガラス管を内側へ湾曲させる請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス溶着工程において、
前記ガラス管およびその内方のセンサチップを、このセンサチップの垂直軸を中心に回転させる請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項8】
前記センサチップを保持した後に、
前記ガラス管を保持する請求項1に記載の細胞電気生理センサの製造方法。
【請求項9】
センサチップを保持する保持ヘッドと、
この保持ヘッドの外周に配置され、ガラス管を保持するガラス管保持機構と、
前記ガラス管の外方からガラス管側面に向けて風圧を与えるとともにこのガラス管を溶融する燃焼装置とを備えた細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項10】
前記燃焼装置はバーナーとした請求項9に記載の細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項11】
センサチップを保持する保持ヘッドと、
この保持ヘッドの外周に配置され、ガラス管を保持するガラス管保持機構と、
前記ガラス管の外方からガラス管側面に向けて風圧を与える風圧発生手段と、
前記ガラス管を溶融する加熱手段とを備えた細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項12】
センサチップを保持する保持ヘッドと、
この保持ヘッドの外周に配置され、ガラス管を保持するガラス管保持機構と、
前記ガラス管の外方からガラス管側面に向けて風圧を与えるとともに、
このガラス管を溶融する熱風発生手段とを備えた細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項13】
前記保持ヘッドおよび前記ガラス管保持機構は、
前記ガラス管およびセンサチップを、このセンサチップの垂直軸を中心に回転させる機能を有する請求項9、11、12のいずれか一つに記載の細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項14】
前記保持ヘッドの先端における断面は、前記センサチップの外径よりも小さな外径である請求項9、11、12のいずれか一つに記載の細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項15】
前記保持ヘッドは、前記ガラス管保持機構よりも熱伝導性の高い材料からなる請求項9、11、12のいずれか一つに記載の細胞電気生理センサの製造装置。
【請求項16】
前記ガラス管保持機構は、前記保持ヘッドよりも断熱性の高い材料からなる請求項9、11、12のいずれか一つに記載の細胞電気生理センサの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−168794(P2009−168794A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194473(P2008−194473)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】