説明

細長いリンナノ構造

細長いリンナノ構造及びそれの製造方法が開示されており、ここで、該方法は、リン蒸気を形成させるステップ及びその蒸気を適切な温度で不活性雰囲気下又は真空下に金属触媒と接触させるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン元素から形成されたチューブ状及び/又は棒状のナノ構造、並びに、そのような構造を形成させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、よく知られている。それらは、ナノスケールの直径を有し、また、巻かれて継ぎ目のない円筒を形成している黒鉛の1以上の層として視覚化可能な構造を有している。それらは、黒鉛の電気的アーク蒸発又はレーザーアブレーション、及び、有機蒸気の接触分解などを包含する多くの異なった方法で合成することができる。黒鉛は、弱い面間結合によって互いに保持されている炭素原子の面を含む積層構造を有しているので、環状構造を形成することが可能である。それは、該層がひとたび円筒状に曲げられると、単一の低エネルギー表面が存在するからである。
【0003】
このようなカーボンナノチューブは、グラフェンシートがどのように巻かれているかに厳密に依存して、金属特性又は半導体的特性のいずれかを示す。カーボンナノチューブの既存の製造方法では、金属ナノチューブ又は半導体ナノチューブのいずれかを優先的に選択的に形成させるのが困難である。
【0004】
カーボンナノチューブは、他とは異なった電子的特性、並はずれた熱伝導率並びに高い引張強さ及び柔軟性を有しているので、ナノスケールの電子回路、コンデンサー/燃料電池電極における構成材料としての用途及び透明な帯電防止コーティングとしての用途などを包含する、カーボンナノチューブの多くの用途が提案されている。しかしながら、これらの用途の多くでは、金属ナノチューブ又は半導体ナノチューブのいずれかを制御製造することが必要であるか又は望ましい。
【0005】
非カーボンナノチューブの合成も同様に知られている。例えば、Bi、Sb、BxCyNz、MoS2、WS2、TiO2、NiCl2、MoSe2、NbS2、GaN、InS、ZnS及びV2O5から形成させたナノチューブは、全て、既に記述されているが、元素ナノチューブは、まれである。
【0006】
リンの黒色の同素体は、そのバルク形態中に積層構造を有していることが知られており、また、黒鉛との類推から、十中八九、ナノスケールの管状構造を形成するリンの同素体であると考えられる。従来、黒色のリン同素体は、Bridgmanの方法(Phys. Rev. 3 187 (1914))に従って白色リンを高温高圧に付すことにより、又は、Krebsらの方法(Z. Anorg. Allg. Chemie 280 (1955) 119)を用いて白色リンに水銀を触媒的に作用させることにより、形成されてきた。
【0007】
リンは、例えばP8、P12及びP14などの、小さなクラスターを形成することが知られている。そのようなクラスターの一部は、A.Pfitznerらによって、シアン化カリウム水溶液中のそれらのヨウ化銅付加体から単離されている(Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 4228-4231)。
【0008】
リンナノチューブは、リンの可能な管状形態のエネルギーを最小にするために密度関数理論を用いて理論的に研究されてきた(G. Seifert and E. Hernandez, Chem. Phys. Lett. 318, 355 (2000))。この研究により、リンの環状構造は適度に安定であること、及び、その存在を期待し得ることが示され、また、それらは、カーボンナノチューブの平均直径分布よりも僅かに大きな平均直径分布を有するはずであることが示された。
【0009】
G.Seifert及びT.Frauenheimによって、リンナノチューブの理論上の安定性についての関連する研究が公表された(J. Kor. Phys. Soc., 37(2), 89 (2000))。また、I.Cabria及びJ.W.Mintmireによって、それらの電子構造についての理論的な予測が報告された(Europhys. Lett. 65(1), 82 (2004))。
【発明の開示】
【0010】
本発明者らは、リンナノ構造の制御可能な合成法を開発した。
【0011】
第1の態様において、本発明は、細長いリンナノ構造を提供する。その細長いナノ構造は、中空のナノチューブであり得るか、又は、中実のナノロッドであり得る。好ましくは、細長いナノ構造は、ナノチューブである。
【0012】
該リンナノ構造が棒状構造(「ナノロッド」)である場合、それらは、横断面が中実である。
【0013】
該リンナノ構造がナノチューブである場合、それらは、その内部に、ナノチューブの主軸と実質的に平行に延びている、好ましくは、そのナノチューブの主軸に実質的に沿って延びているチャンネルを有する。
【0014】
ナノロッド及びナノチューブは、いずれも、通常、均一な円形又は多角形の横断面を有していて、該軸に沿ってプリズム状に延びている。ナノチューブは、多くの場合、本質的に、一方の端部又は両方の端部がキャップされている。いずれの構造も、通常一方の端部において、触媒粒子により終結されていてもよい。ナノロッド又はナノチューブの直径、形状、ねじれ、結合又は分枝が変化しているさらに複雑な構造も、基本構造から誘導することができる。
【0015】
該リンナノ構造は、単独で存在し得るか、又は、ナノ構造の形態ではない異質の物質と一緒に存在し得る。第2の態様において、本提案は、5%より多い、好ましくは、10%より多いか又は20%より多いか又は30%より多い、さらに好ましくは、50%より多いか又は70%より多いか又は80%よりも多く、場合によっては95%までの細長いリンナノ構造を含む材料に関する。好ましくは、上記異質の物質は、バルクリンであり、さらに好ましくは、バルク黒リン又はバルク赤リンである。上記異質の物質は、残存触媒又は未反応出発物質又は当該合成方法の副生物を含み得る。
【0016】
さらに、第2の態様は、10%より多いか又は25%より多く、場合によっては50%より多く、有利には、75%より多いか又は90%より多いナノ構造を含むリン、好ましくは、黒リンに関する。
【0017】
これらの提案の第2の態様において、細長いナノ構造としては存在していないリン物質は、リンの任意の同素体として、例えば、白リン、赤リン又は黒リンとして、好ましくは、黒リン又は赤リンとして存在し得る。
【0018】
第3の態様において、本発明は、細長いリンナノ構造を形成させる方法を提供し、ここで、該方法は、リン蒸気を生成させるステップ、及び、その蒸気を、不活性雰囲気下又は真空下、適切な温度で、金属触媒と接触させるステップを含む。
【0019】
「不活性」雰囲気は、細長いリンナノ構造を形成させるための当該方法における反応体及び中間体に対する反応性及び当該ナノ構造自体に対する反応性が空気と比較して低減されている雰囲気を意味する。好ましくは、これは、酸素が減じられている雰囲気、例えば、Arガスなどである。好ましくは、「不活性」雰囲気は、空気と比較して、水分含有量も低減されている。さらに好ましくは、本発明で使用される「不活性」雰囲気は、空気と比較して、水分含有量が低減されているのと同時に酸素も低減されている雰囲気、例えば、乾燥Arガスなどである。
【0020】
好ましい方法においては、該不活性雰囲気中の酸素の濃度は、1容量%未満、好ましくは、0.1容量%未満、さらに好ましくは、0.01容量%未満である。そのような不活性雰囲気は、任意の非反応性ガスであってよく、アルゴン、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、六フッ化硫黄又はこれらのうちのいずれか2種類以上の混合物から選択することができる。さらに、上記反応は、減圧下で、例えば、10-2ミリバール未満、10-4ミリバール未満又は10-6ミリバール未満の減圧下で実施することができる。
【0021】
好ましくは、該不活性雰囲気の水分含有量は、1重量%未満、好ましくは、0.1重量%未満、さらに好ましくは、0.01重量%未満である。
【0022】
該不活性雰囲気についての好ましい選択は、好ましくは、反応前の雰囲気、即ち、反応前に反応容器内に入れるときの雰囲気に関する。
【0023】
本提案の第3の態様において、細長いリンナノ構造を合成するために使用される方法で形成されるリン蒸気は、リン原子を含むどのような蒸気であってもよく、好ましくは、白リンを蒸発させることによって形成されるP4蒸気である。
【0024】
さらに、本提案の第3の態様の方法において、該金属触媒は、好ましくは、該合成温度で液体である金属触媒である。さらに好ましくは、該金属触媒は、リンで飽和したとき、該合成温度で液体である。
【0025】
該金属触媒は、任意の金属でありうるが、有利には、リンが少なくとも難溶性である金属又は合金である。成長条件下の温度及びリン濃度において、該触媒金属又は合金は、その液体形態にあるのが有利である。さらに好ましくは、リンで飽和した触媒金属又は合金は、当該合成温度において、固体リン元素(好ましくは、黒リン)と熱力学的平衡にある。理想的には、この平衡は、広範囲の温度及び広範囲の金属/リン比率にわたって存在すべきである。リンは、触媒と容易に反応して金属間化合物又は別の化合物を形成することのないことが好ましい。最も好ましくは、該触媒金属は、以下の非限定的な金属の群のうちの1種類以上から選択される:水銀、ビスマス、鉛及びアンチモン。
【0026】
該金属触媒は、1以上のフラグメントとして、溶融物として、若しくは、蒸気として存在していもよく、又は、微粉固体粒子又は溶融した粒子若しくは液滴(これらは、いずれも、高表面積支持体上に又は機能的支持体上に分散させることができる)であってもよい。
【0027】
適切な高表面積支持体としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ゼオライト、ガラスウール、石英ウール、Aerosil(商標)、エーロゲル、分散シリカ、カーボンブラック、及び、別の燻蒸若しくはゾルゲル誘導酸化物などを挙げることができる。
【0028】
機能的支持体としては、電子工学用途のためのウェハー、例えば、単結晶シリコン、サファイア、GaAs、InP又はGaPなどを挙げることができる。
【0029】
好ましくは、本発明の第3の態様の方法は、高温下で実施する。有利には、該方法は、リンナノ構造の成長速度がそれらの蒸発速度よりも大きい温度及び圧力の条件下で実施する。好ましい態様においては、該方法は、45℃より高い温度で、好ましくは、275℃より高い温度で、さらに好ましくは、350℃より高い温度で実施する。第3の態様の該方法は、380℃より高い温度で、又は、390℃より高い温度で、又は、410℃より高い温度で実施することができる。好ましくは、本提案の第3の態様の方法は、600℃以下の温度で、場合によってはそれ以上の温度で実施し、さらに好ましくは、約380℃で実施する。
【0030】
好ましい方法では、反応容器内における、リン蒸気をそこから形成させるリンに対する金属触媒の比率は、可能な限り低くして、リンナノ構造の成長を確実なものとしながら最終生成物の触媒による汚染を最小限にする。好ましくは、金属触媒のリンに対する比率は、1:1〜1:1000(重量基準)であり、好ましくは、この範囲内の下端、例えば、1:100〜1:1000(重量基準)、又は、1:500〜1:1000(重量基準)であり、又は、1:800〜1:1000(重量基準)であり得る。反応容器内に存在させる金属触媒の濃度は、僅か、0.1〜1at.%であり得る。しかしながら、金属触媒のリンに対する比率が1:1〜1:100(重量基準)でもナノ構造を形成させることができ、場合によっては、1:1〜1:50(重量基準)又は1:5〜1:10(重量基準)でもナノ構造を形成させることができる。
【0031】
有利には、当該反応は、密封容器内で行う。
【0032】
第4の態様において、本発明は、上記第3の態様の方法によって得ることができるリンナノ構造を提供する。
【0033】
本発明の細長いリンナノ構造は、好ましくは、比較的大きなアスペクト比を有する。該ナノ構造のアスペクト比は、以下のように定義される:
アスペクト比=長さ/直径
好ましい実施形態では、該ナノ構造のアスペクト比は、50よりも大きく、好ましくは、100よりも大きく、さらに好ましくは、200よりも大きく、そして、最大で、1000に達し得るか又はそれ以上であり得る。
【0034】
本発明のナノ構造の直径は、サンプル間でも、また、与えられたサンプルの範囲内でも、さまざまであり得る。しかしながら、該ナノ構造の直径は、好ましくは、特定の範囲内にある。その範囲の下限値は、好ましくは、1nm、好ましくは、1.2nm、さらに好ましくは、5nm、さらに好ましくは、20nmである。その範囲の上限値は、好ましくは、5μm、好ましくは、200nm、さらに好ましくは、100nmであり、又は、該上限値は、50nm若しくは10nmであり得る。該直径の範囲についてのこれらの上限値及び下限値は、全て、独立して組み合わせることが可能である。即ち、該直径の範囲は、上記下限値のうちのいずれか1つを有することが可能であり、また、それとは独立して、上記上限値のうちのいずれか1つを有することが可能である。
【0035】
個々のリンナノ構造は、それらの長さに沿って、ナノロッドの形を取る部分とナノチューブの形を取る部分を有し得る。
【0036】
該リンナノ構造は、任意の細長い形を取り得る。それらは、実質的に直線状であってもよく、又は、任意の方向に、曲がっていてもよく、若しくはねじれていてもよい。さらに、それらは、分枝鎖構造であってもよい。好ましくは、該リンナノ構造は、実質的に直線状である。
【0037】
黒鉛型構造内の炭素原子からなる六角形は各平面内において平らな状態にあり、それにより、カーボンナノチューブが「滑らか」な外面を有しているのに対して、リン原子によって形成される六角形の環は、当該リン原子の不対電子に起因して、折れ曲がった構造を有している。その結果、リンナノチューブの外面は、「ざらざらした」ものとなる。本提案の好ましい態様においては、リンの六角形は、いわゆる「いす型」又は「舟形」のいずれかである。
【0038】
リンナノチューブの内壁は、上記で記載したように、リン原子からなる折れ曲がった六方格子が実質的に円筒状に巻かれ、延長されたものから形成されていると考えることができる。
【0039】
6員よりも多いか又は少ない(例えば、4員、5員、7員又は8員)リン原子からなる環が折れ曲がった六方格子内に存在していることに起因して、実質的に円筒形のナノチューブ壁に欠陥が生じ得る。これらの欠陥が原因となって、例えば、当該ナノチューブの伸長の方向が変わる可能性があり、当該ナノチューブのその長さに沿った直径が変わる可能性があり、又は、これらの欠陥が点欠陥をもたらす可能性がある。そのような点欠陥では、当該ナノチューブの物理的特性(例えば、伝導率又は化学反応性など)がそのナノチューブの残りの部分とは異なったものとなり得る。これらの欠陥はまた、円錐形又は半球形のキャップを形成することにより、当該ナノチューブを閉じる場合もある。あるいは、当該ナノチューブの端部は、開いたままであってもよい。
【0040】
該リンナノチューブは、リン原子からなる単一壁から形成されていてもよく、又は、「ロシア人形(Russian-doll)」の構造で互いにその内部に同心状に配置されたリンの円筒からなる複数の壁を有していてもよい。あるいは、該ナノチューブは、横断面がらせん状の配置となるように巻かれたリン原子の単層から形成されていてもよい。好ましくは、該ナノチューブは、単一壁を有するか、又は、互いにその内部に配置された複数の壁を有する。さらに好ましくは、該ナノチューブは、単一壁を有し、また、1〜10nmの直径を有する。
【0041】
リン原子の「シート」がどのように巻かれているかに応じて、即ち、原子の面内のどの結晶ベクトルがナノチューブの軸と平行にあるかに応じて、本発明のリンナノチューブの特性は変わり得る。これにより、該ナノチューブの電子的特性がある程度画定され得る。本発明のリンナノチューブは、好ましくは、半導体的な挙動を示す。
【0042】
本提案のナノロッドも、好ましくは、半導体的な挙動を示し得る。
【0043】
図面
図1は、本発明のサンプルのSEM像である。
【0044】
図2は、本発明のリン繊維のTEM像である。
【実施例】
【0045】
実施例
Leibigコンデンサーが取り付けてあるQuickfit装置の中で白リンを蒸留した。加熱テープを用いて白リンを蒸発させた。その装置は、ガラスウールで絶縁し、アルミ箔で包んだ。留出物は、冷水中に直接排出させた。
【0046】
新たに蒸留した1gの白リンを、アルゴン雰囲気下、ガラス製アンプルに添加した。鋼鉄製アンビル上でビスマス金属の結晶性サンプル(Zhuzhou Kete Metals Test Works, PRC.)をハンマーで打って、ビスマスの小粒子を得た。0.1gの微粉化ビスマス金属をホウケイ酸塩ガラスウール製プラグの上に投下し、そのガラスウール製プラグ及びビスマス金属を、アルゴン雰囲気下、該アンプルの首に押し込んだ。次いで、そのアンプルをフレームシールした。
【0047】
シールしたアンプルを鋼鉄製ボンベの中に置き、温度を5℃/時間の速度で380℃まで上昇させた。その鋼鉄製ボンベを380℃に2日間維持し(3日間及び8日間でも、実質的に同様の結果が得られた)、次いで、温度を8時間かけて室温まで低下させた。
【0048】
検査した結果、実験中にガラスウールの色が暗くなったことが示された。アンプルの内壁を被覆している赤リンの痕跡も見られた。
【0049】
乾燥箱条件下でガラスウールを除去し、2×5mLのCS2で洗浄して、未反応の全ての白リンを除去した。次いで、そのガラスウールを真空下で乾燥させた。
【0050】
透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)による調査のために、2種類の異なった以下の方法でサンプルを調製した:
1. 超音波浴内で、ガラスウールの暗色のサンプルを乾燥エタノール中で超音波処理した。この懸濁液のサンプル(2〜3滴)を、穴のあいた炭素膜(Agar Scientific)でコーティングされている銅製の電子顕微鏡サンプルグリッドの上に滴下し、乾燥させた。
【0051】
2. ガラスウール製プラグから、目で見える黒色粒子を支持しているガラスウールの暗色サンプルのストランドを注意深く除去し、蝶形電子顕微鏡サンプルグリッド内に捕捉した。
【0052】
Oxford Instruments EDX検出器が取り付けてあるJEOL 2000FX顕微鏡又はJEOL 2010FX顕微鏡を用いて、上記サンプルについて調べた。
【0053】
図1は、このサンプルの代表的な部分のSEM像を示している。比較的大きな直径の繊維1は、当該サンプルがそこで成長しているガラスウール製支持体である。もつれた集合体の繊維2は、リンナノ構造で構成されている。SEMでは当該ナノ構造の詳細な構造を観察することはできないが、この実験の生成物についてのTEMによる検査から、そこからナノ構造が成長しているビスマス粒子の直径に基づいて、これらのナノ構造はナノロッドであると考えられる。個々のナノ構造は、その寸法が直径約10nm〜約5μmの範囲にあると見積もられる。これは、この実験で用いた触媒ビスマス粒子のおおよその直径の分布と一致している。
【0054】
図2は、この実験の生成物から得られたリン繊維の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示している。図2では内部空洞を見ることができないが、これは、当該構造が中実のリンナノロッドであることを示唆している。
【0055】
図2において、当該構造の頭部3は胴部4よりも画像コントラストが高いが、これは、当該構造の頭部3が胴部4とは異なったより高密度の材料物質で作られていることを示唆している。
【0056】
図2に示されている構造のエネルギー分散型X線(EDX)微量分析を、当該構造の胴部3及び頭部4から得た。
【0057】
当該構造の胴部3のEDXスペクトルは、リンの強いシグナルを示したが、このことは、それが主にリン原子で構成されていることを示している。
【0058】
当該構造の頭部4のEDXスペクトルは、Pシグナルに加えて、強いBiシグナルを示した。このことは、当該構造の頭部4における高密度の材料物質が主にBiで構成されていて、おそらく、その周囲をリンの外層が囲んでいることをを示している。
【0059】
図2に示されているリンナノロッドの胴部3の直径は、その長さに沿って、約460nmと約550nmの間で変動している。
【0060】
図2に示されているビスマス頭部4の直径は、約630nmである。
【0061】
直径が比較的小さなリンナノ構造はTEMにおける電子ビームの過酷な環境の中では不安定である可能性があり、従って、TEM検査に際して分解された可能性がある。
【0062】
該ナノ構造は、密閉容器内で乾燥剤と一緒に貯蔵された場合、又は、アルゴンを流した密閉容器内で貯蔵された場合、数日間安定である。しかしながら、それらは、大気中では数日間のうちに劣化すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のサンプルのSEM像を示す図である。
【図2】本発明のリン繊維のTEM像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いリンナノ構造。
【請求項2】
中空のナノチューブである、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項3】
中実のナノロッドである、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項4】
前記構造が、一方の端部において、触媒粒子によって終結されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細長いリンナノ構造を5%を超えて含む材料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細長いリンナノ構造を50%を超えて含む、請求項5に記載の材料。
【請求項7】
前記材料の残部がバルクリンを含む、請求項5又は6に記載の材料。
【請求項8】
前記バルクリンが、バルク黒リン又はバルク赤リンである、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細長いリンナノ構造を形成する方法であって、リン蒸気を生成させるステップ、及び、その蒸気を、不活性雰囲気下又は真空下、適切な温度で、金属触媒と接触させるステップを含む、前記方法。
【請求項10】
前記不活性雰囲気が、酸素が減じられている雰囲気である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記不活性雰囲気が、アルゴンガスである、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リン蒸気が、白リンを蒸発させることにより生成させたP4蒸気である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属触媒が、当該合成温度では液体である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属触媒が、水銀、ビスマス、鉛及びアンチモンから選択される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法を45℃よりも高い温度で実施する、請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法で得ることができる、細長いリンナノ構造。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−534430(P2008−534430A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504847(P2008−504847)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001277
【国際公開番号】WO2006/106349
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507333007)アールジービー リサーチ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】