組換え型ポリクローナルタンパク質の製造方法
【課題】組換え型ポリクローナルタンパク質組成物、特に組換え型ポリクローナル抗体組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】収集物中の各々の細胞が、特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードし、かつ前記収集物中の個別細胞のゲノム内で同じ単一の部位にある前記ライブラリーの1成員でトランスフェクションされこの成員を発現する能力を有しており、前記核酸配列が細胞と天然に会合されていない、変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を得る段階を含む。核酸配列は、部位特異的組込みのためベクターライブラリーでのトランスフェクションにより細胞内に導入される。当該方法は、組換え型ポリクローナル抗体を製造するために適しており、かくして血漿由来の治療用免疫グロブリン製品のより優れた代替品が入手可能となる。
【解決手段】収集物中の各々の細胞が、特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードし、かつ前記収集物中の個別細胞のゲノム内で同じ単一の部位にある前記ライブラリーの1成員でトランスフェクションされこの成員を発現する能力を有しており、前記核酸配列が細胞と天然に会合されていない、変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を得る段階を含む。核酸配列は、部位特異的組込みのためベクターライブラリーでのトランスフェクションにより細胞内に導入される。当該方法は、組換え型ポリクローナル抗体を製造するために適しており、かくして血漿由来の治療用免疫グロブリン製品のより優れた代替品が入手可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、さまざまな感染症、炎症性疾患、移植片拒絶、癌及びアレルギーの治療、改善又は予防における新規の療法として使用するべき、例えば可溶性又は膜結合形態のB又はT細胞レセプタなどの免疫グロブリンスーパーファミリー由来のタンパク質といったような、組換え型ポリクローナルタンパク質を生産するための技術的基盤の基礎を成すものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術
数多くの感染性疾患及び癌には、効率の良い療法が欠如している。モノクローナル抗体認識からの免疫学的回避をひき起こす複合標的の可変性および標的タンパク質の適応突然変異を一部の原因として、モノクローナル抗体はこれらの標的に対して一般に成功をおさめていない。一方、ポリクローナル抗体は、例えばウイルス又は癌細胞上で複数の動的標的をターゲティングすることができる。同様に、ポリクローナル抗体は、抗原突然変異の場合に活性を保持する最高の確率を有している。
【0003】
1)正常なヒト供与体の血液から単離した正常なヒト免疫グロブリン;2)以前に感染症又はワクチン接種のいずれかを通して遭遇した例えばウイルスなどの特定の疾病標的に対する抗体を担持する個別ヒト供与体の血液に由来するヒト超免疫性免疫グロブリン;及び3)免疫化された動物の血液に由来する動物の超免疫性免疫グロブリンを含めた、市販のさまざまなポリクローナル抗体療法が存在している。
【0004】
ヒトの血液から精製された免疫グロブリンが、B型肝炎ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、サイトメガロウイルス及びその他のヘルペスウイルス、狂犬病ウイルス、ボツリヌス毒素などの感染に対して、ならびに新生児アカゲザルD予防において、有効であることが証明されてきた。ヒトT細胞で免疫化されたウサギの血液から精製された免疫グロブリンが、移植片拒絶反応の治療又は予防においてT細胞免疫抑制を提供するために使用される(例えばサイモグロブリン)。免疫不全症患者の免疫系をブーストするためならびにさまざまな自己免疫障害の療法において、正常なヒト免疫グロブリンが利用されてきた。
【0005】
それでも、供与体の血液原材料の供給に制約があること、バッチ間のバラつきに関する問題及び安全性の可変性に起因して、免疫グロブリンを広く使用することは制限されてきた。特に動物由来の免疫グロブリンは、1980年代及び1990年代に動物由来のモノクローナル抗体について見られたものと同じ免疫原性の問題に直面している。
【0006】
最後に、その他の血液製品の場合と同様、HIV、ヘルペス又は肝炎ウイルス又はプリオンといったような感染物質の伝染の危険性が残っている。従って、臨床医は、ポリクローナル抗体が一部の状況において好ましい療法であることを認めているものの、その使用は、きわめて制限されてきた。
【0007】
遺伝子導入動物技術と共に、ヒト免疫グロブリンを生成する新しいアプローチが現われた。ヒト免疫グロブリン遺伝子座を担持する遺伝子導入マウスが、作り出された(特許文献1)。これらのマウスは、完全ヒト免疫グロブリンを産生し、特異的標的に対する抗体は、通常の免疫化技術により発生させることができる。しかしながら、マウスのサイズが比較的小さいことから、より大量の抗体収量には制限がある。例えばウシ、ヒツジ、ウサギ及びニワトリといったようなさらに大型の動物も同様に遺伝子導入型にされてきた(非特許文献1)。しかしながら、かかる動物の血液から療法用のポリクローナル抗体を産生することには、複雑さが伴う。まず第1に、動物及びヒトの免疫生理は、著しい差異を示し、これが結果としての免疫レパートリ、機能的再配置及び抗体応答の多様性の差異をひき起こし得る。第2に、導入された免疫グロブリン遺伝子座の分裂不安定性が抗体の長期産生に影響を及ぼし得る。第3に、例えば動物抗体産生がヒト抗体の産生を上回らないように動物自身の免疫グロブリンを欠失させることは、技術的に難しいことである。第4に、ウイルス、プリオン又はその他の病原体といった感染物質の伝染の危険性が、動物の体内で産生されたヒト抗体の投与に随伴する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,111,166号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】クロイワ Y.(Kuroiwa Y.)ら、ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology;2002;20:889−893)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、安全な臨床用途を目的としてバッチ間のバラつきが最小限である状態で、充分大量に抗体といったような組換え型ポリクローナルタンパク質を産生するための製造技術に対する必要性が存在している。真核生物(特に哺乳動物)の発現細胞系統を用いて同型の組換え型タンパク質を製造するための効率の良い方法が、モノクローナル抗体、インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子、凝固因子VII、VIII及びIXを含めたさまざまなタンパク質の産生のために開発されてきた。これらの技術の多くは、発現細胞系統のゲノム内への問題の遺伝子のトランスフェクション及び無作為組込み及びそれに続く高産生発現クローンの選択、増幅及び特徴づけ及びマスター発現細胞系統としてのこのクローンの増殖に基づいている。
【0011】
挿入された外来性遺伝子の発現は、周囲のゲノミックDNAからの「位置効果」によって影響されるかもしれない。数多くのケースにおいて、遺伝子は、位置効果が、導入された遺伝子の産物の合成を阻害するのに充分使い部位の中に挿入される。さらに、発現は、往々にして、周囲の染色体宿生DNAにより課せられるサイレンシングメカニズム(すなわちメチル化)に起因して不安定である。
【0012】
特定のゲノム位置における哺乳動物細胞内の問題の遺伝子の組込み及び発現を可能にするシステムが、同型組換え型タンパク質組成物の発現のために開発されてきた(米国特許第4,959,317号明細書,米国特許第5,654,182号明細書,国際公開第98/41645号パンフレット,国際公開第01/07572号パンフレット)。国際公開第98/41645号パンフレットは、例えば抗体などを分泌する哺乳動物細胞系統の産生のための部位特異的組込みについて記載している。しかしながら、この発現はモノクローナルであり、ベクターライブラリーでトランスフェクションを実施できるという表示は全く存在しない。さらに、ライブラリー内の特異的VH−VL組合せにより生成された当初の多様性をいかに維持するかの示唆も全く存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリクローナルタンパク質を構成する個別成員の間での多大な偏向を回避する、組換え型ポリクローナルタンパク質の発現及び産生のための細胞系統の製造に関する解決法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、ポリクローナルタンパク質の産生において動物を利用せず、従って、かかるアプローチに付随する倫理的かつ臨床的問題点を未然に防いでいる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】以下の要素を含む「頭−頭プロモーター」発現ベクターの概略的表現:Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC origin=pUC複製開始点。制限酵素部位:NotI及びEcoRI。プロモーターA/プロモーターB=リーダー配列(例えばCMV/MPSV)を含む頭−頭プロモーターカセット。V Heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C Heavy Chain=定常重鎖についてコードする配列(例えばマウスIgG1又はIgG2B定常重鎖のための配列)。R−B−globin pA=ウサギ β−グロビンpoly A配列。bGH polyA=ウシ成長ホルモンpoly A配列。V Kappa=GOIの可変カッパについてコードする配列。C Kappa chain=定常カッパ鎖についてコードする配列。FRT site=FRT組換え部位。Hygromycin=ハイグロマイシン耐性用遺伝子。SV40 polyA=polyAシグナル配列。
【図2】以下の要素を含む一方向発現用発現ベクターの概略的表現:Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC ori=pUC複製開始点。プロモーターA=リーダー配列(例えばAdMLP)を含む哺乳動物プロモーター。V Heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C Heavy Chain=定常重鎖についてコードする配列(例えばマウスIgG1定常重鎖のための配列)。hGHpolyA=ヒト成長ホルモンpoly A配列。bGH polyA=ウシ成長ホルモンpoly A配列。VKappa=GOIの可変カッパ重鎖についてコードする配列。C Kappa=定常カッパ鎖についてコードする配列。FRT=FRT組換え部位。Hygromycin=ハイグロマイシン耐性用遺伝子。SV40 polyA=polyAシグナル配列。hGHpolyA及びプロモーターAの配列は、IRES構造によって置換され得る。
【図3】組換え型ポリクローナル製造細胞系統の生成及び組換え型ポリクローナルタンパク質の産生を概略的に示す流れ図。1)バルクトランスフェクション戦略を例示する;2)半バルクトランスフェクション戦略を例示する、及び3)個別トランスフェクション戦略を例示する。A) ベクターライブラリー(水平ライン)を例示し、矢印の頭はベクターのグループ化を例示する。戦略1では、ベクターは、バルク状にグループ化され、戦略2では、より小さい画分(半バルク)にグループ化され、一方戦略3では、これらは互いに別々に保たれる(個別)。B)は、トランスフェクションを例示しており、ここでチューブの数は、ライブラリーを構成するベクターのグループ化により左右される。C)はGOIを宿主細胞ゲニム内に部位特異的に組込んだ細胞の選択を例示し、D)は、ポリクローナルGOIライブラリーストックの生成を例示しており、ここで組込まれたライブラリーを構成する選択された細胞はフリーザーの中に保存されている。任意には、個別クローンを貯蔵するか又はクローンをプールする。E)は製造段階の始まりを例示しており、ここでストックからのクローンは(個別により小さい画分からか又はプールから)解凍され、懸濁状態での成長に適合させられる。無血清培地に対する適応は、選択段の後又はこの段において実施可能である。F)は、より大きい生物反応器の播種のためにポリクローナル細胞系統が増殖させられる、生産内の段を例示している。(中間播種ステップは、例示されていないものの1つのオプションである)。戦略2及び3では、これは、ポリクローナル細胞クローンストックがもはや個別クローン又は半バルク画分として保たれず、細胞収集物内にプールされて組換え型ポリクローナル製造細胞系統を形成する段である。G)は、生物反応器製造から得られた最終的生産を例示する。生産段階の後、ポリクローナルタンパク質組成物は、産物の精製及び特徴づけのために収獲される。
【図4】哺乳動物発現ベクターの生成を例示する流れ図。(A) GOIの一成員をコードする配列を担持するファージミドベクターpSymvc10の概略的表現。P tac及びP lacZ=細菌頭−頭プロモーターカセット。V kappa=GOIの可変カッパ軽鎖をコードする配列。C kappa chain=マウス定常カッパ軽鎖についてコードする配列。V heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C heavy chain=定常重鎖CH1ドメインについてコードする配列。制限酵素部位:EcoRI、NotI、SacI及びXhoI。cpIII=ファージタンパク質III。Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC Ori=pUC複製開始点。ステップ1: SacIおよびXhoIでの制限消化により、細菌プロモーターカセットは、pSymvc10から切除され得、かつ連結により同じくSacI及びXhoIでの制限消化によって調製された哺乳動物のプロモーターカセット(B)と置換され得る。(C)哺乳動物頭−頭プロモーターカセットでのプロモーター交換の後の、GOIからの配列を担持するファージミドベクターpSymvc12の概略的表現。プロモーターA/プロモーターB=選択した選択−選択プロモーターカセット(例えばCMV/MPSV。Vkappa=GOIの可変カッパ軽鎖についてコードする配列。C Kappa chain=マウス定常カッパ鎖についてコードする配列。V heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C heavy chain=定常重鎖CH1ドメインについてコードする配列。制限酵素部位:NotI、SacI、XhoI及びEcoRI。cpIII=ファージタンパク質III。Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC Ori=pUC複製開始点。ステップ2: EcoRI及びNotIでのpSymvc12の制限消化により、カッパ、プロモーターカセット及びVheavyの全体を含有する核酸フラグメントを、pSymvc12から切除し、同じくEcoRI及びNotIでの制限消化により調製されたpSymvc20といったイソタイプコーディングベクター内に連結させ、かくして哺乳動物発現ベクター pSymvc21(E)を生成することができる。(E)抗体発現のための、GOIからの可変重及びカッパ領域を伴う、哺乳動物発現ベクターpSymvc21の概略的表現。この哺乳動物発現ベクターは、以下の要素を含んでいる:Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC Ori=pUC複製開始点。制限酵素部位:NotI及びEcoRI。プロモーターA/プロモーターB=選択した頭−頭プロモーターカセット(例えばCMV/MPSV)。V kappa=GOIの可変カッパ軽鎖についてコードするVカッパ配列。C Kappa chain=哺乳動物定常カッパ鎖についてコードする、配列。(例えば、マウス定常カッパ鎖)。V heavy=GOIの可変重鎖についてコードするV重配列。C heavy chain=哺乳動物定常重鎖についてコードする配列(例えばマウスIgG1又はIgG2B定常重鎖のための配列)。R−B−globin pA=ウサギβ−グロビンpolyA配列。bGH polyA=ウシ成長ホルモンpolylA配列。FRT site=FRT組換え部位。Hygromycin=ハイグロマイシン耐性用遺伝子。SV40polyA=SV40polyA配列配列。当然のことながら、ステップ1及び2の順序は、カッパ、細菌プロモーターカセット及びVheavyの全体を含有するmSymvc10からのフラグメントが、EcoRI及びNotI制限消化を用いてpSymc10から切除され得、これが次に例えば、pSymvc20といったイソタイプコーディングベクター内に連結され得るような形で、逆転可能である。このときプロモーター交換は、例えば図4Bのように、SacI及びXhoIを用いた制限消化物及びSacI+XhoIで消化された哺乳動物プロモーターカセットフラグメントとの連結により、pSymvc20上で実施することができる。
【図5】プラスミド調製物1で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム。Em223−228というのは、それぞれ、抗−β2−ミクログロブリン(抗・B2M)、抗−アルカリホスフェート(抗−AP)、抗−オボアルブミン(抗−OVA)、抗−因子VIII(抗−FVIII)、抗−リゾチーム(抗−LYS)、抗−ハプトグロビン(抗−HAP)をコードする細菌プロモーターを伴うベクターを意味する。Em223〜228は、pSymvc10タイプのベクターである。RFLPにより決定されたフラグメントパターンに類似する個別遺伝子型の数は、採集されたコロニーの合計数のうちの個別コロニーの数に対応する。
【図6】プラスミド調製物2で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム。Em229−234というのは、それぞれ、抗−β2−ミクログロブリン(抗−B2M)、抗−アルカリホスフェート(抗−AP)、抗−オボアルブミン(抗−OVA)、抗−因子VIII(抗−FVIII)、抗−リゾチーム(抗−LYS)、抗−ハプトグロビン(抗−HAP)をコードする哺乳動物プロモーター(CMV/MPSV)を伴うベクターを意味する。Em229〜234は、pSymvc12タイプのベクターである。クローンの数は、そのEmタイプのRFLPにより決定された配列パターンと類似する観察されたクローンの数を表わしている。(完全な配列分析は実行されなかった。)
【図7】プラスミド調製物3で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム。Em235−240というのは、それぞれ、抗−β2−ミクログロブリン(抗−B2M)、抗−アルカリホスフェート(抗−AP)、抗−オボアルブミン(抗−OVA)、抗−因子VIII(抗−FVIII)、抗−リゾチーム(抗−LYS)、抗−ハプトグロビン(抗−HAP)をコードする(ウサギβ−グロビンpolyAシグナルを含む)マウスIgG1哺乳動物発現ベクターを意味する。Em235〜240は、pSymvc21タイプのベクターである。クローンの数は、そのEmタイプのRFLPにより決定された配列パターンと類似する観察されたクローンの数を表わしている。(完全な配列分析は実行されなかった。)
【図8】2重消化/連結プラスミド調製物で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム(プラスミド調製物1ステップの後のE.coli中でのDNA増幅の無い哺乳動物発現ベクター内への大量移送)。
【図9】トランスフェクション後 A)16日目及びB)34日目の6つの問題の遺伝子をコードする哺乳動物発現ベクターの混合物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞内での遺伝子型分布を示すヒストグラム。
【図10】6つの問題の遺伝子をコードする発現ベクターの混合物でのバルクトランスフェクションの後34日目のCHO−Flp−In細胞から誘導された上清の抗原特異的ELISA。
【図11】1つの問題の遺伝子をコードする単一の発現ベクター又は6つの問題の遺伝子をコードする発現ベクターの混合物のいずれかでのトランスフェクション後34日目のCHO−Flp−In細胞のプールから誘導された上清の抗カッパコートELISA。
【図12】6つの問題の遺伝子をコードする発現ベクターの混合物でのバルクトランスフェクション後17日目、31日目、45日目、59日目及び73日目におけるCHO Flp−Inクローン019から誘導された上清の定量的抗原特異的ELISA。A、B及びCは、3つの異なるトランスフェクション実験を表わす。
【図13】ミニ−シックスライブラリーの個別成員を発現するCHO Flp−In細胞系統を混合物した後、8、17、30、45、57、72及び85日目におけるCHO Flp−In 細胞培養から誘導された上清の抗原特異的ELISA。結果は、3つの独立した実験の平均±SDとして示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、免疫グロブリンスーパーファミリーの中から往々にして選択される組換え型ポリクローナルタンパク質の産生のための組換え型ポリクローナル製造細胞系統を産生する方法を提供する。特にポリクローナル抗体、ポリクローナルT細胞レセプタ又はそのポリクローナルフラグメントが問題となっている。本発明は、医薬組成物中で使用するための組換え型ポリクローナルタンパク質の商業的生産を可能にする。本発明の1つの重要な特長は、製造プロセス中に、ポリクローナルタンパク質を構成する個別分子の偏向した発現が、有意でないレベルに保たれ、望ましくないバッチ間のバラつきを最小限におさえるという点にある。
【0017】
本発明の1つの態様は、問題の細胞組換え型ポリクローナルタンパク質の製造方法であって、前記ポリクローナルタンパク質が、特定の抗原を結合させる別個の成員を含んで(又は構成して)おり、a)変異体核酸配列のライブラリーを含む細胞収集物を提供する段階であって、前記核酸配列の各々が前記ポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードし、前記核酸配列の各々が前記細胞収集物内の各々個別の細胞のゲノムの同じ単一の部位にて組込まれている、段階;b)前記ポリクローナルタンパク質の発現を容易にする条件の下で、前記細胞収集物を培養する段階;及びc)細胞培養、細胞画分又は細胞培地から前記発現されたポリクローナルタンパク質を回収する段階、を含む方法に関する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞の収集物を生成するための方法であって、a)変異体核酸配列の集合を含むベクターライブラリーを提供する段階であって、前記ベクターの各々が1)特定の抗原を結合させる別個の成員を含む(又はそれで構成されている)ポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードする別個の核酸配列の1つの単一コピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階;b)宿主細胞系統内に前記ベクターライブラリーを導入する段階であって、前記宿主細胞系統の各々の個別細胞のゲノムが、そのゲノム内の単一の特異的部位で前記ベクターものと整合するリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階;c)段階(a)の変異体核酸配列が宿主細胞系統の細胞内で部位特異的に組込まれるような形で1つ以上のリコンビナーゼの前記細胞内での存在を保証する段階であって、ここで、前記1つ以上のリコンビナーゼは、i)前記核酸配列が中に導入される前記細胞により発現されるか;(ii)段階aのベクターにより操作可能な形でコードされるか;iii)第2のベクターから発現を通して提供されるか;又はiv)1つのタンパク質として細胞に提供されるかのいずれかである、段階;及びd)変異体核酸配列の前記ライブラリーから、組込まれたコピーを含む細胞を選択する段階、を含む方法に関する。
【0019】
本発明の両方の方法において、ポリクローナルタンパク質は通常、発現がもたらされる細胞と天然に会合させられていないポリクローナルタンパク質であるということが理解されるだろう。
【0020】
本発明は、ポリクローナル製造細胞系統として適した細胞収集物を生成するべく宿主細胞系統内に変異体核酸配列のライブラリーを導入できる複数の方法を記載する。これらの方法には、ライブラリーでの細胞収集物のバルクトランスフェクション、ライブラリーの画分での細胞アリコットの半バルクトランスフェクション又は、選択時点で生成されたクローンをプールすることが後続する、ライブラリーの個別成員で宿主細胞がトランスフェクションされる個別のトランスフェクション、が含まれる。好ましくは、本発明は哺乳動物細胞(細胞系統又は細胞型)を宿主細胞系統として利用する。
【0021】
本発明の1つの態様においては、ポリクローナルタンパク質の個別成員は、独立した遺伝子セグメントの対からコードされる。個別の成員が2つのポリペプチド鎖から成っているポリクローナルタンパク質は、可溶性又は膜結合形態の抗体及びT細胞レセプタを含む。本発明のさらなる実施形態においては、遺伝子セグメント対は、抗体重鎖及び軽鎖可変領域又は、T細胞レセプタアルファ鎖及びベータ鎖可変領域又はT細胞レセプタガンマ鎖及びデルタ鎖可変領域をコードする。
【0022】
本発明はさらに、変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を含む組換え型ポリクローナル産生細胞系統であって、収集物中の各々の細胞が、特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードし、かつ前記収集物内の個別の細胞のゲノム内で同じ単一の部位にあるライブラリーの1成員でトランスフェクションされこの成員を発現する能力を有しており、記核酸配列が収集物中の前記細胞と天然に会合されていない組換え型ポリクローナル製造細胞系統を提供する。細胞系統は好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/0細胞、NS0)、YB2/0、NIH3T3、線維芽細胞又はHeLa細胞、HEK293細胞、又はPER.C6といったような不死化されたヒト細胞といった哺乳動物細胞系統に由来している。しかしながら、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、細菌、真菌などの哺乳動物でない真核生物又は原核生物細胞も使用可能である。
【0023】
同様に本発明に包含されているのは、天然に発生する変異体核酸配列の集合を含む部位特異的組込み用ベクターライブラリーであって、前記ベクターの各々が、1)特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードする別個の核酸配列の1つのコピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、ベクターライブラリーである。
【0024】
もう1つの態様においては、本発明は、活性成分として、好ましくは本発明の方法によって得られた組換え型ポリクローナル抗体(又はそのフラグメント)又はポリクローナルT細胞レセプタ(又はそのフラグメント)を含む医薬組成物を提供する。該組成物の組換え型ポリクローナルタンパク質は、予め定められた疾病標的について特異的であるか又はこれに対して反応性を有する。かかる医薬組成物は、ヒト、家畜又はペットといった哺乳動物における、癌、感染症、炎症性疾患、アレルギー、喘息又はその他の呼吸器疾患、自己免疫疾患、免疫機能不良、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝及び内分泌疾患、移植片拒絶反応又は望まれない妊娠といった疾病の治療、改善又は予防のために使用可能である。
【0025】
定義
「タンパク質」又は「ポリペプチド」というのは、長さ又は翻訳後の修飾の如何に関わらず、あらゆるアミノ酸鎖を意味する。タンパク質は、2つ以上の組合わされたポリペプチド鎖、タンパク質フラグメント、ポリペプチド、オリゴペプチド又はペプチドを含む単量体又は多量体として存在し得る。
【0026】
本書で使用されているように、「ポリクローナルタンパク質」又は「ポリクローナル性」という語は、好ましくは免疫グロブリンスーパーファミリーから選択された異なる、ただし相同のタンパク質分子を含むタンパク質組成物を意味する。かくして各々のタンパク質分子は、該組成物のもう1つの分子と相同であるものの、同様に、ポリクローナルタンパク質の個別成員の間のアミノ酸配列の差異によって特徴づけされる1つ以上の可変的ポリペプチド配列のストレッチをも含む。かかるポリクローナルタンパク質の既知の例としては、抗体又は免疫グロブリン分子、T細胞レセプタ及びB細胞レセプタが含まれる。ポリクローナルタンパク質は、例えば所望の標的抗原に対するポリクローナルタンパク質の場合には所望の標的に向かっての共有の結合活性といったような共通の特長により定義されてきた、明確なタンパク質分子サブセットで構成されていてよい。
【0027】
「問題のポリクローナルタンパク質」という語は、例えば別々のタンパク質、微生物、寄生虫、細胞型、アレルゲン、又は炭水化物分子又は特異的抗体結合の標的となり得るその他のあらゆる構造、分子又は物質のうちの1つ以上のもの又は前記抗原の混合物である標的抗原に対する結合活性又は特異性によって表現されるポリクローナル抗体の場合において、所望の標的に向かう結合特性などといった共通の特徴を共有する明確なポリクローナルタンパク質サブセットを網羅する。
【0028】
「組換え型ポリクローナルタンパク質組成物の一成員」又は「組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員」という語は、各々のタンパク質分子が組成物のもう一方の分子と相同であるがポリクローナルタンパク質の個別成員の間のアミノ酸配列の差異により特徴づけされる1つ以上の可変的ポリペプチド配列のストレッチをも内含している、異なるが相同なタンパク質分子を含むタンパク質組成物の1つのタンパク質分子を意味している。
【0029】
「可変ポリペプチド配列」及び「可変領域」という語は、互換的に使用される。
【0030】
「組換え型ポリクローナルタンパク質の別個の成員」という語は、各々のタンパク質分子が組成物のもう一方の分子と相同であるもがポリクローナルタンパク質の個別成員の間のアミノ酸配列の差異により特徴づけされる1つ以上の可変的ポリペプチド配列のストレッチをも内含している、異なるが相同なタンパク質分子を含むタンパク質組成物の1つのタンパク質分子を意味している。
【0031】
「抗体」という語は、血清の1つの機能的成分を表わし、往々にして1つの分子収集物(抗体又は免疫グロブリン)又は1分子(抗体分子又は免疫グロブリン分子)のいずれかに関連する。抗体分子は、それ自体免疫学的エフェクタメカニズムの誘発を導き得る特異的抗原決定基(抗原又は抗原エピトープ)に対し結合するか又はそれと反応する能力をもつ。個別の抗体分子は通常単一特異的であり、抗体分子の組成物は、モノクローナル(すなわち同一の抗体分子から成る)又はポリクローナル(すなわち同じ抗原上又さらには別個の抗原上でさえ同じ又は異なるエピトープと反応する異なる抗体分子から成る)であり得る。各々の抗体分子は、その対応する抗原に特異的に結合できるようにする独特の構造を有しており、全ての天然の抗体分子は、2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖の同じ全体的基本構造を有している。抗体は同様に、集合的に免疫グロブリンとしても知られている。本書で用いられている抗体(単数又は複数)という語は、同様に、キメラ又は一本鎖抗体ならびにFab、Fvフラグメント又はscFvフラグメントといったような抗体の結合フラグメント、ならびに2量体IgA分子又は五価のIgMといったような多量体形態を内含するべく意図されている。
【0032】
「ポリクローナル抗体」という語は、同じ又は異なる抗原上の複数の異なる特異的抗原決定基に結合するか又はそれと反応する能力をもつ異なる抗体分子の組成物を表現する。通常は、ポリクローナル抗体の可変性は、そのポリクローナル抗体のいわゆる可変領域内に位置設定されるものと考えられている。しかしながら、本発明の情況下においては、ポリクローナル性は、同様に、例えばヒトイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2、又はマウスイソタイプIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、及びIgAといったような2つ以上の抗体イソタイプを含む抗体混合物の場合のように、いわゆる定常領域内に常在する個別抗体分子の間の差異を表現するものとしても理解され得る。
【0033】
「問題の組換え型ポリクローナル抗体」というのは、1つの所望の標的又は標的セットに結合する能力により特徴づけされ、前記標的が例えば別々のタンパク質、微生物、寄生虫、細胞、アレルゲン又は炭水化物分子又は、特異的抗体結合の標的でありうるもう1つの構造、分子又は基質又はそれらの混合物である、明確な組換え型ポリクローナルタンパク質サブセットを表わす。
【0034】
「免疫グロブリン」という語は、一般的には、血液又は血清中に発見される抗体の混合物の集合的呼称として用いられるが、その他の供給源から誘導された抗体の混合物を呼称するためにも使用し得る。
【0035】
「免疫グロブリン分子」という語は、例えば免疫グロブリンの一部分又は任意のポリクローナル又はモノクローナル抗体組成物の一部分としての個別抗体分子を表わす。
【0036】
1つのポリクローナルタンパク質の一成員が1つの抗原に結合すると言う場合、それは本書では、1mM未満、好ましくは100nM未満、さらに一層好ましくは10nM未満の結合定数を有する結合を意味する。
【0037】
「問題の変異体核酸分子のライブラリー」という語は、「問題の組換え型ポリクローナルタンパク質」を集合的にコードする核酸分子の収集物を表現するために使用される。トランスフェクションのために用いられる場合、問題の変異体核酸分子ライブラリーは、発現ベクターのライブラリー内に含まれている。かかるライブラリーは標準的に、少なくとも3、5、10、20、50、1000、104、105又は106個の別個の成員を有する。
【0038】
本書で使用する場合の「問題の別個の核酸配列の1つのコピー」は、文字通り単一の遺伝子セグメントに対応する核酸の単一のストレッチとしてではなくむしろ、問題のタンパク質の1つの分子の全てのサブユニットを産生するために必要とされ例えばベクターといった1つの核酸分子の形に組立てられた全ての遺伝子セグメントの1つのコピーとして考えられるべきである。問題のタンパク質の完全な分子を発生させるのに通常複数の遺伝子セグメントが必要とされるいくつかの例としては、B細胞レセプタ、抗体及び、Fabの及び可変ドメイン又はT細胞レセプタといったような抗体フラグメントが含まれる。細胞内に導入された場合、問題の完全に組立てられたタンパク質を共にコードする遺伝子セグメントは同じベクター内に常在し、かくして、場合によっては異なるプロモーターの制御下での別々の転写要素として、1つの核酸配列内で一緒にリンクされる。
【0039】
本書で使用される場合の「問題の遺伝子」という語は、問題のタンパク質の1つの成員をコードする1つ以上の遺伝子セグメント(ゲノム又はcDNA)で構成された核酸配列を意味する。複数形態の「問題の遺伝子」は、1つの問題のポリクローナルタンパク質をコードする核酸配列のライブラリーを意味する。「GOI」という語は、(a)問題の遺伝子(単複)の略号として用いられる。
【0040】
本書で使用されているように、「ベクター」という語は、異なる遺伝的環境の間での輸送及び/又は宿主細胞内での発現のために核酸配列を挿入できる核酸分子を意味している。ゲノム内の予め定められた特異的遺伝子座において宿主細胞のゲノム内への組込みを行う能力をもつベクターが、本書で「部位特異的組込み用ベクター」と名付けられる。ベクターがその中に挿入された核酸配列の転写用の調節要素を担持している場合(少なくとも1つの適切なプロモーター)、該ベクターは本書では「発現ベクター」と呼ばれる。発現ベクターが宿主細胞のゲノム内で予め定められた特異的遺伝子座に組込む能力を有する場合、該発現ベクターを「部位特異的組込み用の発現ベクター」と呼んでもよい。上述の同定されたベクター内に挿入された核酸配列が本書で定義されている通りの問題のタンパク質をコードする場合、「問題のベクター」、「部位特異的組換え用の問題のベクター」、「問題の発現ベクター」及び「部位特異的組込み用の問題の発現ベクター」といった語が用いられる。「イソタイプコーディングベクター」という語は、抗体イソタイプをコードする核酸配列を担持するベクターを意味する。本明細書では、「ファージミドベクター」及び「ファージベクター」が互換的に用いられる。「プラスミド」及び「ベクター」という語は、互換的に用いられる。本発明は、適切な宿主内の所望のタンパク質の産生を導くことのできる任意の核酸分子又はプラスミド、ファージミド及びウイルスゲノムといった、同等の機能に用いられるその他の形態のベクターを内含するように意図されている。
【0041】
核酸配列が問題の組換え型ポリクローナルタンパク質についてコードする、問題のベクターライブラリーから誘導された別個の核酸配列を伴う個別ベクター分子を表現するために、「問題のベクターライブラリーの各成員」という語が用いられる。
【0042】
「大量移送」という語は、1つのベクター集団からもう1つのベクター集団まで問題の核酸配列を移送することそして、個別問題のDNAの単離を行わずに同時に各々のDNAについてそれを行なうことを表現するために用いられる。かかるベクター集団は、例えば問題の可変領域、プロモーター、リーダー又は増強要素を含有するライブラリーであり得る。これらの配列はこのとき、例えばファージベクターから哺乳動物の発現ベクターへと、先行する単離を伴わずに移動され得る。特に抗体配列について、この技術は、例えば選択ベクター(例えばファージ提示ベクター)から哺乳動物発現ベクターへとライブラリーを移動させる間にVHとVLの多様性の間のリンケージが失われないよう保証している。かくして、VHとVLの当初の対合が保持される。
【0043】
「トランスフェクション」という語は、ここでは、1つの細胞内に外来性DNAを導入するための広義の語として用いられる。この語は同様に、供与体細胞及び受容体細胞の融合、形質転換、感染、形質導入などといったような1つの細胞内へと外来性DNAを導入するその他の機能的に同等の方法を網羅するように意図されている。
【0044】
「選択」という語は、細胞が或る特性を獲得した場合にその特性を獲得していない細胞からの単離を可能にする方法を表現するために用いられる。かかる特性は、細胞毒性薬に対する耐性又は必須栄養素、酵素又は色の生成であり得る。
【0045】
「選択可能なマーカー遺伝子」、「選択マーカー遺伝子」、「選択遺伝子」及び「マーカー遺伝子」という語は、問題の遺伝子(単複)と合わせて細胞内に同時導入される選択可能マーカーをコードする遺伝子(例えば、或る種の抗生物質といったような一部の細胞毒性薬に対する耐性を付与する遺伝子、成長培地から枯渇され得る必須栄養素を産生する能力をもつ遺伝子、分析可能な代謝産物を産生する酵素をコードする遺伝子又は、例えばFACSにより選別され得る着色タンパク質をコードする遺伝子)を表現するべく使用される。
【0046】
「組換え型タンパク質」という語は、該タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターでのトランスフェクションを受けた細胞系統から発現されるタンパク質を表現するために使用される。
【0047】
本書で使用されているように、「作動可能に連結された」という語は、その他のセグメントと機能的関係に置かれた場合のもう1つのセグメントにリンクされているセグメントを意味する。例えば、シグナル配列をコードするDNAは、それが小胞体に対するポリペプチドの移送に参加するリーダーとして発現された場合にポリペプチドをコードするDNAに操作可能な形でリンクされている。同様に、プロモーター又はエンハンサは、それがその配列の転写を刺激する場合に、コーディング配列に対し操作可能な形でリンクされている。
【0048】
「個々の細胞の大部分」という語は、80%を超える、好ましくは85%を超える、より好ましくは90%、95%さらには99%以上といったような細胞の百分率を意味している。
【0049】
本書で使用されているように、「ゲノム」という語は、当初細胞内に存在する染色体の正常な補体として文字通り解釈されるべきではなく、細胞内に導入され維持され得る外部染色体要素でもある。かかる外部染色体要素は、制限的な意味なく、ミニ染色体、YAC(酵母人工染色体)、MAC(マウス人工染色体)又はHAC(ヒト人工染色体)を含むことができる。
【0050】
「プロモーター」という語は、転写を開始するためRNAポリメラーゼを結合することに関与するDNAの領域を意味する。
【0051】
「頭−頭(head-to-head)プロモーター」という語は、プロモーターにより駆動される2つの遺伝子フラグメントの転写が反対方向に発生するような形で、近接してプロモーター対が置かれていることを意味する。頭−頭プロモーターは、2つのプロモーターの間に無関係な核酸から成る詰込みを伴ってでも構成され得る。かかる詰込みフラグメントは、500を超えるヌクレオチドを難なく含むことができる。
【0052】
「抗生物質耐性遺伝子」というのは、抗生物質の存在下で細胞の存続及び増殖の続行を確保し、細胞に対し抗生物質が有する阻害性又は毒性効果を克服できるタンパク質をコードする遺伝子である。
【0053】
「内部リボソーム進入部位」又は「IRES」という語は、mRNA上の正常な5′−cap構造とは異なる構造を表現している。両方の構造共、翻訳を開始するべくAUGコドンについての走査を開始するためにリボソームにより認識され得る。1つのプロモーター配列及び2つの開始AUGを用いることにより、単一のmRNAから第1のおよび第2のポリペプチド配列を翻訳することができる。かくして、単一の2−シストロンmRNAからの第1及び第2のポリヌクレオチド配列の同時翻訳を可能にするため、IRES配列の下流側のポリヌクレオチド配列の翻訳を可能にするIRES配列を含むリンカー配列を介して、第1及び第2のポリヌクレオチド配列を転写的に融合させることができる。この場合、転写されたバイシストロンRNA分子は、キャッピングされた5′末端及びバイシストロンRNA分子の内部IRES配列の両方から翻訳され、かくして第1及び第2の両方のポリペプチドを産生することになる。
【0054】
「誘発可能な発現」という語は、発現が起こるためには誘発因子分子またはコリプレッサー分子および調節タンパク質の相互作用を要する発現を記載するのに用いる。
【0055】
「構成性発現」という語は、通常誘発可能でない発現を意味している。
【0056】
「リコンビナーゼ」という語は、2つ以上の組換え部位の間の組換えの触媒として作用する酵素を意味する。本発明において有用であるリコンビナーゼは、特定のリコンビナーゼにより認識される特異的な核酸配列である特異的組換え部位における組換えの触媒として作用する。
【0057】
「スクランブルリング」という語は、例えば免疫グロブリンスーパーファミリーからの2つの異なるポリペプチド鎖を含むポリクローナルタンパク質の2つ以上の別個の成員が個別細胞から発現される状況を表現している。この状況は、各遺伝子セグメント対がポリクローナルタンパク質の別個の1つの成員をコードする複数の遺伝子セグメント対をゲノム内に組込んだときに発生する。かかる状況下では、遺伝子セグメントから発現されたポリペプチド鎖の意図されていない組合せが行なわれる可能性がある。これらのポリペプチド鎖の意図されていない組合せは、いかなる治療上の効果ももたない可能性がある。
【0058】
「VH−VL鎖スクランブリング」という語は、上述のスクランブリングの一例である。この例では、VH及びVLコーディング遺伝子は、1つの遺伝子セグメント対を構成している。該スクランブリングは、2つの異なるVH及びVLコーディング遺伝子セグメント対が同じ細胞内に組込まれている細胞からVH及びVLポリペプチドの意図されていない組合せが生み出されるときに発生する。かかるスクランブリングを受けた抗体分子は、当初の特異性を保持する確率が低く、かくして、いかなる治療的効果ももたない可能性がある。
【0059】
「組換え型ポリクローナル製造細胞系統」という語は、一緒に組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する個別細胞が、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員をコードする問題の別個の核酸配列の1つのコピーのみを担持し、かつ各コピーが各細胞のゲノムの同じ部位内に組込まれるように問題の変異体核酸配列のライブラリーでのトランスフェクションを受けるタンパク質発現細胞の集合を意味している。該組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する細胞は、例えば抗生物質選択により問題の別個の核酸配列の組込まれたコピーを保持するその能力のために選択される。かかる製造細胞系統を構成し得る細胞は、例えば細菌、真菌、真核細胞例えば酵母、昆虫細胞又は哺乳動物細胞、特に不死哺乳動物細胞系統、例えばCHO細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/O細胞、NS0)、NIH3T3、YB2/0及び不死化ヒト細胞例えばHeLa細胞、HEK293 細胞、又はPER.C6であり得る。
【0060】
「ホットスポット細胞系統」内にあるような「ホットスポット」という語は、その部位内への発現ベクターの組込み時点で選択又は生成され、問題の組込まれた核酸配列のきわめて効率の良い転写について特徴づけされた細胞のゲノムの予め確立された遺伝子座を意味している。
【0061】
「偏向」という語は、無作為の遺伝子突然変異、個別細胞間の増殖反応速度差、異なる発現構築物配列の間の発現レベル差又はDNAのクローニング効率の差に起因してポリクローナルベクター、ポリクローナル細胞系統又はポリクローナルタンパク質の組合せが経時的に改変する、組換え型ポリクローナルタンパク質産生中の現象を示すために用いられる。
【0062】
「RFLP」という語は、核酸分子フラグメントの移動性ゲルパターンを制限酵素での分裂の後に分析する方法である「制限フラグメント長多形現象」を意味する。
【0063】
「HDS」という語は、多数のテスト化合物を、一定の与えられた活性について同時にスクリーニングされるような形で膜上で並行してテストする高密度スクリーニング方法を意味する。
【0064】
本書で使用されているように、「TaqMan PCR」というのは、ホランド(Holland)P.M.ら,Proc.Natl.Acad.Sci,U.S.A.88;7276−7280(1991)によって記載されたTaqManシステムに基づいたPCR検定を意味する。
【0065】
「5′UTR」という語は、mRNAの5′未翻訳領域を意味している。
【0066】
「Pfu PCR」という語は、既知の熱安定性ポリメラーゼの中で最高の信頼性をもつという理由で利用されている、Pfu DNAポリメラーゼ(Pyrococcus furiosusから単離されたもの)を用いて実施されたPCR反応を意味する。
【0067】
略号:「CMV」=(ヒト)サイトメガロウイルス。「MSPSV」=骨髄増殖性肉腫ウイルス。「AdMLP」=アデノウイルス主要後期プロモーター。SV40PolyA=サルウイルス40PolyAシグナル配列。GFP=緑色螢光タンパク質。PVDF=ポリビニリデンジフルオリド。TcR=T細胞レセプタ。ELISA=酵素結合免疫吸着検定法。LTR=長末端反復。
【0068】
組換え型ポリクローナルタンパク質発現系
本発明は、好ましくは免疫グロブリン様ドメインを伴うタンパク質ファミリーである免疫グロブリンスーパーファミリーから選択される組換え型ポリクローナルタンパク質の一貫性ある製造のための方法を提供する。成員の大部分は、細胞表面認識事象に関与する。配列相同性は、抗体、T細胞レセプタ、MHC分子、一部の細胞付着分子及びサイトカインレセプタが密な相同性を共有することを示唆する。特に、可変領域を含むこのファミリーの成員が、本発明に従った組換え型ポリクローナルタンパク質の生成に適している。かかる成員には、抗体、膜結合抗体(B細胞レセプタ)、Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント、T細胞レセプタ(TcRs)、可溶性TcRs、TcR可変ドメインフラグメント、ポリペプチドリンカーによりリンクされたTcR可変ドメインフラグメント又はその他の抗体又はTcR由来のフラグメントが含まれる。特に、本発明は、組換え型治療用ポリクローナル抗体又はTcRsを含む新しい種類の治療薬を大規模に製造及び生産する可能性を開くことになると考えられる。
【0069】
本発明の製造方法の主要な利点の1つは、組換え型ポリクローナルタンパク質を構成する成員全てを、1基〜約10基の生物反応器又はその等価物の中で生産できるという点にある。さらに、該組換え型ポリクローナルタンパク質組成物は、プロセス中に組換え型ポリクローナルタンパク質を構成する個別成員を分離する必要なく、単一の調製物として反応器から精製可能である。対照的に、精製されたモノクローナル抗体(例えば国際公開第91/16074号パンフレット内に提案されているようなもの)を混合することによって組換え型ポリクローナル抗体組成物を模倣したい場合には、組成物内に内含されるべき各抗体を1つの生物反応器内で別々に製造することが必要となり、おそらくは、抗体は同様に個別に精製されることになるだろう。モノクローナル混合物のこのような生産は、本書で記載されているような組換え型ポリクローナル抗体又はその他のポリクローナルタンパク質の生産方法に比べて非常にコストが高くつき、時間及び空間を要するものと思われる。かくして、国際公開第91/16074号パンフレット内に記載されている通りの方法は、当然のことながら、かかる混合物中に含まれ得るモノクローナル抗体の数に対する実際的な限界(おそらくは10未満)をもたらす結果となるが、これに対し、本書に記載されている通りの技術は、一般に望まれるだけの個別成員をもつポリクローナル抗体を生産することができる。
【0070】
組換え型ポリクローナル製造細胞系統からの組換え型ポリクローナルタンパク質の予測可能な発現を得るためには、ゲノム組込み部位の調節特性を適度に充分理解すべきである。
【0071】
無作為組込みを用いた従来のトランスフェクション及び組換え型タンパク質発現技術は、該プロセスの無作為性が、組込まれた核酸配列の数及び位置を細胞毎に変動させることになるため、組換え型ポリクローナルタンパク質の生産のためには望ましいものではない。かくして、このような従来のプロトコルにより組換え型ポリクローナルタンパク質が生産された場合、ポリクローナルタンパク質の個別成員の可変的発現速度をもつ不均質な細胞培養、及び組込まれたDNAの位置効果に起因する遺伝的不安定性が結果としてもたらされる確率が高くなる。こうして、ポリクローナルタンパク質を構成する成員の偏向した発現がもたらされる確率が最も高くなる。
【0072】
従って、予め定められたゲノム部位内への導入が望ましく、このことは原則として、相同的組換えによって達成可能である。しかしながら、非正統的組換え事象が優勢であることから、相同的組換えは、非常に効率が悪い。
【0073】
その上、ポリクローナルタンパク質が抗体又はT細胞レセプタ(TcR)である場合、もう1つの問題が、無作為組込みを結果としてもたらす従来のトランスフェクションプロトコルの使用に付随して浮上する。抗体及びTcRsは、独立した遺伝子セグメント対、つまり抗体については軽鎖及び重鎖コーディング配列そしてTcRsについてはアルファ及びベータ鎖又はデルタ及びガンマコーディング配列からコードされる。これらの遺伝子セグメントからのポリペプチド産物は、抗体分子又はTcRの細胞内プロセシング中に共有結合によりリンクされた状態になる。無作為組込みを結果としてもたらす従来のトランスフェクション技術は、同じ細胞内での異なる重鎖及び軽鎖又はアルファ及びベータ鎖の複数のコピーの導入を導き、その結果、重鎖及び軽鎖の無作為組合せ、すなわち、いわゆるVH−VL鎖スクランブリング又はアルファベータ鎖スクランブリングがもたらされる。その結果、このことが発現された抗体又はTcRsの性能を劣化させ、親和力及び/又は特異性の損失、新しい特異性の発生及び/又は特異的活性の低下の可能性がひき起こされる。
【0074】
これらの問題を回避するため、本発明の発現系は、個別宿主細胞のゲノム内への部位特異的組込みを使用する。本発明の系は、問題の変異体核酸配列を含む問題のベクターライブラリーが、リコンビナーゼで媒介されたカセット交換手順により予め特徴づけされた染色体位置内に確実に挿入され得るようにし、かくして、個別細胞が問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の単一の別個の成員を発現する1つの細胞系統が生成される。上述のように、組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する細胞の一部の中で多数の組込みが発生しうる。しかしながら、これは、個々の細胞の大部分が組換え型ポリクローナルタンパク質の単一の別個の成員を発現するかぎりにおいて問題を提起しないとみなされる。
【0075】
Cre、Flp、ベータ−リコンビナーゼ、Gin、Pin、PinB、PinD、R/RS、ラムダインテグラーゼ又はファージφC31インテグラーゼといったようなリコンビナーゼを使用することができる。染色体位置内に組込むための適切なリコンビナーゼは、(i)前記核酸配列が導入されるその細胞自体のゲノムからの発現によってか、(ii)細胞内に挿入された核酸配列によって操作可能な形でコードされることによってか、(iii)第2の核酸分子からの発現を通してか又は(iv)タンパク質として提供され得る。好ましい実施形態においては、問題のベクター内に含まれた変異体核酸配列は、いわゆる「ホットスポット」である問題の核酸配列の高レベルの転写及び発現を媒介する遺伝子座内に組込まれる。
【0076】
使用される宿主細胞系統は好ましくは、生物薬剤的タンパク質発現のために標準的に使用されるもの、例えばCHO細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/0細胞、NS0)、YB2/0、NIH3T3及び不死化ヒト細胞、例えばHeLa細胞、HEK293細胞又はPER.C6を含む哺乳動物細胞系統である。本発明においては、CHO細胞が使用された。しかしながら、当業者であれば記載されたとおりのその他の哺乳動物細胞でCHO細胞を置き換え、さらには植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、真菌及び細菌を含めたその他のタイプの細胞を利用することさえ容易にできると思われる。かくして、細胞型の選択は、本発明を制限するように意図されたものではない。好ましい実施形態においては、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の高い発現レベルを媒介する、予め特徴づけされたホットスポットを含有する哺乳動物細胞が製造のために使用される。
【0077】
本発明のさらなる実施形態においては、宿主細胞内の同じ染色体組込み部位を利用する部位特異的な形で、問題の変異体核酸配列が組込まれる。単一の特異的部位内へのこのような組込みは、そうでなければゲノム内の多重部位内への組込み又は無作為組込みの場合に見られる位置効果を最小限におさえる。特に、複数のポリペプチド鎖から成るポリクローナルタンパク質を発現する場合には、ゲノム内への部位特異的組込みが発生する単一の部位を有することがさらに適切である。これは、単一の細胞が複数の組込み体を発現する場合に、サブユニット間のスクランブリングが発生する確率が高いという事実に起因している。
【0078】
部位特異的組込み系において、個別宿主細胞は、例えば抗体又はTcRの抗原結合領域といった問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の可変領域内で観察される差異は別として同じタンパク質構造全体を発現している。従って、このような細胞プール内の細胞の大部分は、生産性及び遺伝的安定性に関して類似の特性を示しているべきであり、かくしてこの技術は、例えば組換え型ポリクローナル抗体又はTcRsといった組換え型ポリクローナルタンパク質の制御された生産の可能性を提供する。
【0079】
本発明の組換え型ポリクローナルタンパク質は、天然に可変的な、異なるが相同なタンパク質分子を含むタンパク質組成物を網羅するものとして意図されており、これはすなわち、好ましい実施形態において、変異体核酸ライブラリーが天然に発生する多様性を含むことを意味する。かくして、各々のタンパク質分子は、組成物のその他の分子と相同であるがポリクローナルタンパク質の個別成員間のアミノ酸配列の差によって特徴づけされる可変的ポリペプチド配列の1つ以上のストレッチをも含有する。可変的ポリペプチド配列を構成するアミノ酸配列(単複)の差は、アミノ酸1個といったわずかなものであり得る。好ましくは、アミノ酸配列の差異は、複数のアミノ酸を構成する。
【0080】
通常、ポリクローナル抗体又はTcRの天然の可変性は、ポリペプチド鎖のいわゆる可変領域又はV−領域内にあるものとみなされる。
【0081】
本発明の1態様においては、ポリクローナルタンパク質内の個別成員は、長さがおよそアミノ酸80〜120個である可変領域を含む。可変領域は、例えば相補性決定領域(CDR)といった超可変ドメインを含有する可能性がある。
【0082】
天然に発生するTcRsにおいては、各々の可変領域内に4つのCDRが存在する。天然に発生する抗体においては、重鎖内の3つのCDR及び軽鎖内の3つのCDRが存在する。
【0083】
本発明の付加的な態様においては、ポリクローナルタンパク質の個別成員の可変領域は、長さがアミノ酸1〜26個、好ましくは4〜16個である少なくとも1つの超可変ドメインを含有する。この超可変ドメインはCDR3領域に対応し得る。抗体については、各々の可変領域は、好ましくは3つの超可変ドメインを構成する。これらは、CDR1、CDR2及びCDR3に対応し得る。TcRについては、各々の可変領域は、好ましくは4つの超可変ドメインを構成する。これらは、CDR1、CDR2、CDR3及びCDR4に対応し得る。超可変ドメインは、単独で、本発明の組換え型ポリクローナルタンパク質の可変領域内の可変配列を構成する可能性がある。
【0084】
本発明に関連して、ポリペプチド配列内の可変性(ポリクローナル性)は同様に、例えば、ヒトイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2又はマウスイソタイプIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、及びIgAといったような2つ以上の異なる抗体イソタイプを含有する抗体混合物の場合のように、抗体ポリペプチド鎖のC領域又はいわゆる定常領域内に常在する個別の抗体分子の間の差異を表現するものとして理解することもできる。かくして、組換え型ポリクローナル抗体は、可変領域(V領域)又は定常領域(C領域)又はその両方において個別の抗体分子間の配列差により特徴づけられる抗体分子を含み得る。
【0085】
特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする変異体核酸配列を提供するためには、当該技術分野において既知の数多くの方法を利用することができる。標準的には、本発明は、特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする核酸の同定及び/又は単離を可能にするスクリーニング手順の使用に由来する恩恵を享受することになる。これらの方法のいくつかは、当該技術分野において全て既知でかつ本発明の実施において全て有利な補助的手段となる方法である、ファージ提示(カング(Kang)A.S.ら、1991、Proc Natl Acad Sci USA88、4363−4366)、リボソーム提示(シャフィッツェル(Schaffitzel)C.ら、1999.J.Immunol.Methods 231、119−135)、DNA提示(カル(Cull)M.G.ら、1992、Proc Natl Acad Sci USA89、1865−1869)、RNA−ペプチド提示(ロバート(Roberts)R.W.、スゾスタク(Szostak)J.W.、1997.Proc Natl Acad Sci USA94、12297−12302)、共有提示(国際公開第98/37186号パンフレット)、細胞表面提示(フーク(Fuchs)P.ら、1991、Biotechnology 9、1369−1372)、酵母表面提示(ボーダ(Boder)E.T.、ウィットラップ(Wittrup)K.D.、1997.Nat Biotechnol 15,553−557)及び真核ウイルス提示(グラブヘル(Grabherr)R.、エルネスト(Ernst)W.、2001、Comb.Chem.High Throughput、Screen、4、185−192)といった技術から知られているいわゆるバイオパニングステップを含んでいる。ELISA(ドレハー(Dreher)、M.L.ら、1991、J.Immunol.Methods 139、197−205)及びELISPOT(チェルキンスキー(Czerkinsky)C.C.ら、1983、J.Immunol.Methods.65,109−21)も同様に、バイオパニングステップに後続してか又は単独で使用することができる。
【0086】
問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の組成物は、例えば、所望の標的抗原に対するポリクローナル抗体の場合において、所望の標的に向かう共有の結合活性といったような共通の特長により定義されてきた明確なタンパク質サブセットを含んでいる。標準的には、ポリクローナルタンパク質組成物は、少なくとも3、4、5、10、20、50、100、1000、104、105又は106個の別個の変異体成員を有する。ポリクローナルタンパク質組成物内で必要とされる別個の成員の数は、標的の複雑性によって左右されることになる。抗体の場合、ターゲティングされる抗原(単複)の複雑性は、ポリクローナル抗体組成物内で必要な別個の変異体成員の数に影響を及ぼすことになる。例えば小型タンパク質といったような小さいか又は非常に複雑な標的の場合、3〜100の別個の変異体成員を含むポリクローナル抗体組成物で充分となり、変異体の数は、90又さらには80又は70を上回らないことが好ましい。数多くのケースで、別個の変異体の数は60又は50を上回らず、変異体の数が5〜30の間といったような5〜40の範囲内にあることが好まれる。一方、より複雑な標的、例えば複雑な又は互換性ある表面タンパク質を伴うか又は複数のウイルス亜型を包含するウイルスについては、20〜500の別個の変異体成員を含むポリクローナル抗体組成物で充分となる。抗原が数多くの異なる分子を含む非常に複雑な標的については、50〜10,000の別個の変異体成員を含むポリクローナル抗体組成物が必要とされるかもしれない。
【0087】
哺乳動物では、抗体又は免疫グロブリン分子といったような血液中で自由に循環しているか又はT細胞レセプタ及びB細胞レセプタといったように細胞表面上に存在する、天然に発生するポリクローナルタンパク質の複数の既知の例が存在する。これらの天然に発生するポリクローナルタンパク質の多様性は、一部の哺乳動物においては、これらのタンパク質の可変領域をコードする遺伝子の遺伝的組換えによって達成される。抗体は、体細胞突然変異によりその多様性を増大させるものとしてさらに知られている。本発明は、多様性の原因である配列(例えば、免疫グロブリン分子又はTcRsの可変ドメイン又はCDR領域)を単離しそれらから1つのライブラリーを生成することによってこれらの天然の多様性を利用することができる。例えば抗体可変重鎖及び可変軽鎖、TcRa鎖及びβ鎖又はTcRδ鎖及びγ鎖などの2つの独立した遺伝子セグメントからコードされたタンパク質については、ライブラリー内の各々のベクターが、これらの可変領域コーディング配列の対を構成することになる。可変領域コーディング配列対のライブラリーの生成は、当該技術分野において周知である。
【0088】
天然に発生する多様性を含むライブラリーは、例えば、組合せライブラリー(可変領域コーディング配列の無作為対合)ならびに同族対ライブラリー(同じ細胞から誘導された可変領域コーディング配列の対)である。抗体又はTcR可変領域といったような適切な枠組内に取込まれている単離されたCDR遺伝子フラグメントから生成されたさらなるライブラリー(例えば、ソダーリンド(Soderlind)E.ら,2000、Nat.Biotechnol.18,852−856)が、本発明で応用可能である。ライブラリーは、好ましくは、所望の特異性をもつサブライブラリー(問題のライブラリー)を得るためにスクリーニングされる。
【0089】
多様なタンパク質を、例えば合成又は突然変異による人工的な要領で作ることもできる。突然変異は、単一のタンパク質をコードする核酸配列の無作為又は点突然変異のいずれかであり得、かくして、単一のタンパク質のポリクローナル集団を生成する。人工的抗体ライブラリーを生成するもう1つの例が、CDRのもう1つのライブラリーと組合わせられ得る可変領域の枠組のライブラリーを生成することに基づく1つの方法である欧州特許第0 859 841号明細書中で記載されている。
【0090】
本発明の好ましい実施形態においては、組換え型ポリクローナルタンパク質は、組換え型ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントである。
【0091】
本発明のもう1つの好ましい実施形態においては、組換え型ポリクローナルタンパク質は、組換え型ポリクローナルTcR又はTcRフラグメントである。
【0092】
いわゆる可変領域内の遺伝的及び体細胞組換えにより達成される多様性に加えて、重鎖により定義される異なる免疫グロブリンのイソタイプが存在する。主要なイソタイプはIgM、IgG、IgA、IgD及びIgEである。
【0093】
従って、本発明の組換え型ポリクローナルタンパク質は同様に、異なるイソタイプから又はより好ましくは異なるサブクラスから構成され得る。免疫グロブリンのポリクローナル性は、定常部分内又は免疫グロブリン分子の可変ドメイン内又は定常部分と可変ドメインの両方の中で発生し得る。
【0094】
いわゆる定常領域特に抗体の重鎖内のポリクローナル性は、抗体の治療的応用に関して有利なものである。さまざまな免疫グロブリンイソタイプは、天然の免疫応答の異なる局面に異なる免疫グロブリンイソタイプが関与し得ることから、治療のために抗体を利用する場合に組合せることが望ましい可能性のある異なる生物学的機能(表1中に要約されているもの)を有している(カンフィールド(Canfield)及びモリソン(Morrison)1991、J.Exp.Med.173、1483−91;カンペル(Kumpel)ら、2002、Transfus.Clin.Biol.9、45〜53;スターナデル(Stirnadel)ら、2000.Epidemiol、Infect.124、153−162)。
【0095】
表1:ヒト免疫グロブリンイソタイプの生物学的機能
【表1】
【0096】
本発明のさらなる実施形態は、変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を含む組換え型ポリクローナル製造細胞系統において、前記収集物中の各々の細胞が、特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードしかつ前記収集物内の個別の細胞のゲノム内で同じ単一の部位にある前記ライブラリーの1成員でトランスフェクションされ、この成員を発現する能力を有しており、前記核酸配列が前記収集物中の前記細胞と天然においては関連していない組換え型ポリクローナル製造細胞系統である。
【0097】
上述の実施形態の付加的な実施形態においては、(好ましくは免疫グロブリンスーパーファミリーからの)ポリクローナルタンパク質をコードする変異体核酸配列は全て、例えば供与体から単離された自然に発生する配列から誘導される。
【0098】
各細胞内のゲノム内で単一の特異的部位に位置設定された変異体核酸を含有する細胞組成物が国際公開第02/44361号パンフレット中で記載されてきた。この文書は、望ましい特性を有する分子を同定するための細胞の使用を開示しているが、該参考文献は、生産システムの提供又は抗原に対する特異的結合による特徴づけされるポリクローナルタンパク質の提供を取扱っていない。
【0099】
クローン多様性
ポリクローナルタンパク質の特徴の1つは、各々のタンパク質分子が該ポリクローナルタンパク質のその他の分子と相同であるものの該ポリクローナルタンパク質の個別成員間のアミノ酸配列の差異により特徴づけされる可変性をも有している、一定数の個別のタンパク質分子によりそれが構成されているという点にある。好ましくは、差異は、ポリクローナルタンパク質の全体的構造の別個の部域に限定される。かかる部域は、例えば抗体又はTcRの可変領域であり、場合によってはさらにこれらの部域内のCDR領域に限定される。この可変性は同様に、核酸レベルならびにタンパク質の機能レベル、例えば標的に向かっての特異性及び親和力の差異の両方で同定可能な多様性としても表現できる。
【0100】
組換え型ポリクローナルタンパク質を発現する細胞プールからの単離されたクローンについてのRFLP(又は(RT)−PCR産物の配列決定)により、細胞系統のクローン多様性を分析することができる。
【0101】
該多様性は、細胞系統により産生された組換え型ポリクローナルタンパク質についての機能的試験(例えばELISA)により分析することもできる。
【0102】
クローン偏向(すなわち、ポリクローナル抗体を構成する個別抗体の内容の漸進的変化)が存在する場合、これはトランスフェクションのために用いられる初期ライブラリーのクローン多様性を、組換え型ポリクローナルタンパク質を発現する細胞プール(細胞系統)内に見られる多様性と比較することによって、推定することができる。
【0103】
細胞系統から発現されたポリクローナルタンパク質のクローン多様性は、ポリクローナルタンパク質による標的カバレッジとして評価可能である。この場合、所望の標的分子の約25〜100%がポリクローナルタンパク質により結合させられている場合に、充分な多様性が獲得されたとみなされる。例えば、ポリクローナル抗体の場合、標的抗原の表面上の非同一性エピトープの少なくとも25%に対する抗体の結合は、組成物内の充分な多様性を提供する。好ましくは、標的カバレッジによるクローン多様性は、少なくとも50%、さらに一層好ましくは少なくとも75%である。抗体については、このような標的カバレッジは、例えばエピトープマッピングにより評価可能である。
【0104】
代替的には、ポリクローナル組成物の個別成員の分布としてクローン多様性を評価することが可能である。この分布は、トランスフェクションの間に細胞系統内に当初導入された異なるコーディング配列の数と比較した、最終的なポリクローナルタンパク質組成物内の異なる個別成員の合計数として評価され得る。この場合、トランスフェクションにおいて当初使用されたコーディング配列の少なくとも50%そして好ましくは少なくとも75%を最終的ポリクローナルタンパク質の異なる個別成員として同定できた時点で、充分な多様性が獲得されたとみなされる。
【0105】
ポリクローナル組成物の個別成員の分布は同様に、個別成員の間での相互分布に関連して評価することもできる。この場合、組成物のどの単一の成員も、最終ポリクローナルタンパク質組成物中の個別成員の合計数の75%を上回る割合を構成していない場合に、充分なクローン多様性が獲得されたとみなされる。好ましくは、いかなる個別成員も、最終ポリクローナル組成物中の個別成員合計数の50%、さらに好ましくは25%そして最も好ましくは10%を上回らない。ポリクローナル組成物内の個別成員の分布に基づくクローン多様性の評価は、ポリクローナル組成物の特徴づけのための後述するアプローチといったような、RFLP分析、配列分析及びタンパク質分析によって実施可能である。
【0106】
クローン多様性は、a)クローニングプロセス中に、b)細胞増殖の変動の結果として、又は c)多数の組込み体のスクランブリングを通して発生しうるクローン偏向の結果として、削減され得る。このような偏向が発生した場合、クローン多様性の喪失のこれらの原因の各々は、本書に記載されている通りの方法に対しわずかな修正を加えることにより容易に是正される。
【0107】
適切なベクター内への可変ドメインのクローニングにより導入される偏向を制限するために、1つのベクターからもう1つのベクターへの問題の遺伝子の移送を、クローニング偏向が制限されるような形で設計することができる。増幅のために使用されるE.coli菌株の入念な選択及び大量移送技術が、クローニング偏向を削減できる。もう1つの可能性は、本発明のベクター間で、ポリクローナルタンパク質の個別成員をコードする各々のポリヌクレオチドの個別移送を実施することである。
【0108】
細胞系統内の個別細胞の細胞増殖速度の変動が、長期にわたり組換え型ポリクローナルタンパク質発現に偏向を導入して、その細胞系統により発現された組換え型ポリクローナルタンパク質の一部の成員の存在を増大又は低減し得るという可能性がある。増殖速度のこのような変動の1つの理由は、初期トランスフェクションのために使用された出発細胞系統を構成する細胞集団が不均一であるということにあると考えられる。1つの細胞系統中の個別細胞が長期間にわたり異なる形で発達するということが知られている。より均一な出発材料を確保するため、単細胞レベルまでのその細胞系統の限界希釈法を用い、新しい細胞集団まで各々の単細胞を成長させること(いわゆる限界希釈法による細胞サブクローニング)により、問題のライブラリーでのトランスフェクションに先立つ細胞系統のサブクローニングを実施することができる。これらの細胞集団のうちの1つ以上のものが、このとき、その増殖及び発現特性に基づき出発材料として選択される。
【0109】
さらに、部位特異的組込み体を受け入れた細胞のみが生き延びることになるようにするために使用される選択圧は、ポリクローナル細胞系統内部の個別細胞の増殖速度に影響を及ぼす可能性がある。これは、選択圧に適合させるべく或る種の遺伝的変化を受ける細胞に有利に働くことに起因する可能性がある。かくして、選択マーカーの選択も、増殖速度により誘発される偏向に影響を及ぼす可能性がある。これが起こった場合、異なる選択マーカーを試験してみるべきである。選択が細胞にとって有毒な物質に基づいている場合、最適な濃度、ならびに生産期間全体を通して選択が必要とされるか又は初期段階においてのみ必要とされるかを、入念に試験すべきである。
【0110】
明確な細胞集団を確保するための付加的なアプローチは、トランスフェクション及び選択の手順後に蛍光励起された細胞選別(FACS)を使用することにある。IgG構築物のトランスフェクションを受けた細胞のプールから誘導された生産性の高い細胞について富化するためには、螢光標識された抗体を使用することができる(ブレジンスキー(Brezinsky)ら、J.2003.Immunol Methods277、141−155)。この方法は同様に、類似のレベルの免疫グロブリンを発現する細胞を選別し、かくして生産性に関して均一な細胞集団を作り上げるためにも使用可能である。同様にして、螢光染料5,6−カルボキシルフルオレセインジアセテートスクシニミジルエステル(CFSE)での標識を使用することにより、FACS方法により、類似の増幅速度を示す細胞を選択することができる。
【0111】
増殖速度により誘発された偏向が実際に発生したとしても、最終組換え型ポリクローナルタンパク質産物の多様性必要条件及び多様性の経時的安定性に応じて、個別成員の喪失又は過剰な出現は、必ずしも危機的ではない可能性がある。
【0112】
部位特異的単一組込み体においては、細胞は、発現されるべき抗体の可変領域の配列についてのみ異なることになる。従って、組込み部位及び遺伝子調節要素の変動により課せられる異なる細胞効果は無くなり、細胞増殖速度に対し最小限の効果しかもたない。スクランブリングも多重組込みも、稀な事象であることから、製造細胞系統の増殖速度に問題をひき起こす確率は低い。無作為組込みは一般に約10−5の効率で発生し、一方部位特異的組込みは約10−3の効率で起こる。多重組込みが予想外に問題をひき起こした場合、上述の通り事象が再発する確率は非常に小さいことから、代替案は問題のベクターライブラリーでのトランスフェクションをくり返すことである。付加的な代替案は、以下の例3で記されている。
【0113】
望ましくないクローン偏向を制御するもう1つの方法は、複数のサブプール内で問題のベクターライブラリー全体でのトランスフェクションを実施するか又は、サブプール内へのトランスフェクション後に早期時点で細胞プールを分割することにある。この時点で、偏向は、有意なものとなってしまっていてはならず、又は、望ましくない増殖利点をもつクローンが欠如したサブプールを獲得することが統計的に可能でなくてはならない。結果としての望ましくないクローンの排除は、最終的組換え型ポリクローナルタンパク質産物における多様性の必要条件と一致していなければならない。統計を考慮すると、多数の細胞のバルクトランスフェクションも又、望まれないクローン偏向を回避する一つの方法を構成する。このアプローチにおいては、宿主細胞系統が変異体核酸配列ライブラリーとまとめてトランスフェクションされる。このようなライブラリーは、その各々の別個の成員の数多くのコピーを構成する。これらのコピーは、好ましくは多数の宿主細胞内に組込まれるべきである。好ましくは、少なくとも100、1000、10000又は100000の個別細胞が変異体核酸配列ライブラリーの別個の成員のコピーでトランスフェクションされる。かくして、別個の変異体核酸配列ライブラリーが、各々1000個の個別細胞内に組込まれる1000の別個の成員で構成されている場合、部位特異的に組込まれたGOIを含有する106個のクローンがトランスフェクションから発生するべきである。この要領で、個別細胞倍増速度のガウス曲線は、非常にわずかな程度でしか一般集団に影響を及ぼさないはずである。こうして、製造細胞の低い百分率が異常な増殖及び/又は発現特性を示すはずであるとしても、経時的にクローン組成物を一定に保つ確率は高くなる。
【0114】
代替的には、問題のベクターライブラリーを、そのライブラリーのおよそ5〜50の個別ベクターを含む画分へと分割することができる。好ましくは、ライブラリーの一画分は、10〜15の個別ベクターを構成する。各々の画分はこのとき細胞アリコート内へとトランスフェクションされる。このとき、個別の細胞アリコートを一定の期間追跡調査してそのうちのいずれかにクローン偏向が発生しているか見ることができる。これが起こっている場合には、残りの細胞アリコートをプールすることにより細胞収集物が再構築される前に、かかる細胞アリコートを削除することができる。任意には、細胞アリコートは生産全体を通して別々に保たれ、ポリクローナル抗体組成物は、生産前に複数の細胞アリコートではなく各々のアリコートの産物を組合せることにより組立てられる。取扱うことのできるプールの数は、5〜10の間にあると予想される(モノクローナル抗体についての以上の記載を参照のこと)。
【0115】
代替的には、問題のベクターの初期ライブラリーからの単一クローンに基づいてベクター及び細胞を用いて別々に細胞がトランスフェクションされる高速大量処理方法を実施することができる。こうして、トランスフェクション及び組込みの間に考えられるあらゆる配列偏向を無くすることができる。任意には、単一のトランスフェクタントを遺伝子型特定することそして、生産の直前か又は該当する場合にはより早い時期に完全な多様性をもつ細胞プールを組立てることができる。代替的には、変異体核酸配列ライブラリーの同じ別個の成員で多くのクローンを生成する多数の細胞の個別トランスフェクションは、個別にトランスフェクションされた細胞がポリクローナルタンパク質の製造前にプールされている場合、バルクトランスフェクションについて記載されたものと同じ統計的利点を生み出す可能性がある。
【0116】
宿主細胞
適切な宿主細胞は、そのゲノムの1領域の中に、1つ以上の適切な組換え部位、すなわち1つ以上のリコンビナーゼ酵素により認識可能な核酸配列を含む。組込み体(すなわち組込み部位内に問題の核酸配列の組込まれたコピーを有する細胞)について選択する能力を有するために、組換え部位は、それに対し3’のところにある第1の選択遺伝子(例えば抗生物質耐性遺伝子)に操作可能な形でリンクされる。さらに、耐性マーカーコーディング領域の一部を成す組換え部位に対し5’のところに、弱いプロモーター(例えば切形SV40早期プロモーター)及び転写開始コドンが位置づけされ得る。かくして、転写開始コドンは、ポリクローナルタンパク質をコードする発現ベクターのライブラリーでのトランスフェクションの前に宿主細胞内の選択遺伝子の転写開始を先導する。
【0117】
上述の通りの部位特異的組込みのための宿主細胞は、DNAをその染色体内に取込むか又はミニ染色体、YAC(酵母人工染色体)、MAC(マウス人工染色体)、又はHAC(ヒト人工染色体)といったような外部染色体要素を保持することのできるあらゆる細胞から生成可能である。MAC及びHACについては、本明細書に参照により援用されている国際公開第97/40183号パンフレットの中で記載されている。好ましくは哺乳動物細胞例えばCHO細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/0又はNS0細胞)、NIH3T3といった線維芽細胞、及びHeLa細胞、HEK293細胞又はPER.C6といった不死化ヒト細胞が使用される。ただし、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、真菌、E.coli細胞などといったような哺乳動物以外の真核又は原核細胞も同様に利用可能である。
【0118】
本発明の1実施形態においては、出発材料として用いられるべき細胞系統は、単細胞レベルまでその細胞系統のいわゆる限界希釈法を実施し、その後続いて、問題のベクターライブラリーでのトランスフェクションに先立ち新しい細胞集団まで各々の単細胞を成長させることによってサブクローニングされる。かかるサブクローニングは、同様に、望まれる場合、正しい細胞系統を選択するプロセスにおいて後に実施することも可能である。
【0119】
部位特異的組込みのための宿主細胞は、弱いプロモーター(例えば切形SV40早期プロモーター)、転写開始コドン、開始コドンに対し3’のところにある組換え部位を含む、無作為組込み用プラスミドでのトランスフェクションによって得ることができる。好ましくは、組込み用プラスミドは同様に、第1の選択遺伝子にカップリングされたマーカー遺伝子をも含んでいる。かかる組込み用プラスミドの1例としては、インビトロジェン(Invitrogen)(カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))からのpFRT/LacZeo2がある。問題の核酸配列を挿入するために使用されるゲノム位置での発現の相対的強度を評価するためにマーカー遺伝子を使用することができる。マーカー遺伝子(例えばベータガラクトシダーゼ(LacZ)、緑色螢光タンパク質(GFP)又は細胞表面マーカー)を、第1の選択遺伝子及びマーカー遺伝子の同時発現が起こるような形でIRES(内部リボソーム進入部位)により転写的にリンクさせるか又は遺伝子融合内で第1の選択遺伝子にリンクさせることができる。細胞系統から細胞系統への相対的発現レベルの評価を可能にするマーカーと組合せられた細胞に対する存続圧(例えば薬物耐性又は栄養枯渇)を確立する選択遺伝子の使用は、ゲノム内部に組込まれたプラスミドを維持する高産生細胞を確保するための効率の良い方法である。特に活発な転写を伴うスポットで挿入された組換え配列を伴う細胞が、例えばGFP又はLacZといったマーカー遺伝子の高い発現を導くことになる。高発現体は、蛍光励起細胞選別(FACS)により選択されクローニングされ得る。この時点で、組込み体が単一の組込み体であるか否かも分析すべきである。これはリアルタイムPCR及びサザンブロット法により実施可能である。
【0120】
組込み用プラスミドでのトランスフェクションを受けた細胞から相対的発現レベルを評価するためのもう1つの方法は、上述の通りに生成された細胞上で付加的な組込み−切除ステップを実施することにある。選択された細胞のこのプールは、組込み用プラスミドの組換え部位に対応するリコンビナーゼをコードするプラスミド、及び第1の組込み用プラスミドに同様に対応する組換え配列が先行するコーディング領域を有する、開始コドン無しの第2の選択マーカーを含む第2のプラスミドで、再度トランスフェクションされる。この第2のプラスミドは同様に、哺乳動物プロモーターによって駆動された蛍光マーカータンパク質(例えばGFP(又は等価の蛍光タンパク質))のためのコーディング配列をも含んでいる。リコンビナーゼは、組込み用プラスミドにより予め類似の組換え配列が挿入されている宿主細胞ゲノム内へのこのプラスミドの組込みを媒介する。特に活発な転写を伴うスポットに挿入された組換え配列を伴う細胞が、蛍光タンパク質の高い発現を導くことになる。高発現体は、蛍光励起細胞選別(FACS)により選択されクローニングされる。一貫して高い発現を伴い、挿入されたプラスミドの1つのコピーを含むクローンがリコンビナーゼでトランスフェクションされ、第1の選択マーカーにより選択され、第2のプラスミド配列がリコンビナーゼにより除去されてしまっている細胞を同定し、第1の選択マーカーを再度働かせる。これらの細胞はさらに、転写ホットスポットで挿入された第1の組換え配列をも含み、今や問題の遺伝子の発現のために使用可能である。
【0121】
プラスミドの単一コピーの組込み時点でマーカー遺伝子の高い発現を達成する細胞系統が、問題の遺伝子でのトランスフェクションのために使用される。宿主細胞内の組換え部位は好ましくは、特に活発な発現の遺伝子又は領域すなわちいわゆるホットスポットの中にある。
【0122】
部位特異的組込み用ベクター
適切なベクターは、宿主細胞の構築のために用いられる選択遺伝子とは異なる適切な選択遺伝子にリンクされた適切な組換え部位を含む。哺乳動物細胞発現において使用するための適切な選択遺伝子には、栄養選択を可能にする遺伝子、例えばチミジンキナーゼ遺伝子(TK)、グルタミンシンセターゼ遺伝子(GS)、トリプトファンシンターゼ遺伝子(trpB)又はヒスチジノールジヒドロゲナーゼ遺伝子(hisD)が含まれるが、これらに制限されるわけではない。さらに、選択マーカーは、薬物耐性を付与する代謝拮抗剤耐性遺伝子、例えば、ヒポキサンチン及びチミジン欠損培地で選択可能でありさらにはメトトレキセートで選択可能であるジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)、マイコフェノール酸で選択可能であるキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、真核細胞内のG418又は原核細胞内のネオマイシン又はカナマイシンで選択可能なネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)、ハイグロマイシンで選択可能であるハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg、hph、hpt)遺伝子、ピューロマイシンで選択可能であるピューロマイシンN−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(pac)又はブラスチシジンで選択可能であるブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子(Bsd)である。最後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)、神経成長因子レセプタ(NGFR)又はその他の膜タンパク質又はベータ−ガラクトシダーゼ(LacZ)といったような、例えばフローサイトメトリによる選別を可能にするタンパク質をコードする遺伝子も、選択マーカーとして使用可能である。
【0123】
本発明の1態様においては、選択可能な遺伝子は、プロモーターにより先行されず、又翻訳開始コドンも備わっていない。プロモーター及びATGコドンは、選択された部位特異的組換え部位に提供されている。このベクターが、宿主細胞のゲノム内に選択された組換え部位以外の場所で組込まれている場合、この第2の選択遺伝子の発現は、プロモーター及び開始コドンの欠如に起因して全く発生し得ない。組込みが宿主細胞のゲノム内で選択された部位で起こる場合、第2の選択遺伝子は発現され、第1の選択遺伝子の発現は失なわれる。
【0124】
組込みは、例えば、Saccharomyces cerevisiae由来のFlpリコンビナーゼ又はその突然変異体と共に部位特異的組込み用ベクター上で、ゲノム内のいわゆるFRT部位(5’−gaagttcctattccgaagttcctattctctagaaagtataggaacttc−3’(配列番号1)及びその変異体)を用いて実施され得る。しかしながら、attP部位及びattB部位の間の組換えを実施するファージインテグラーゼφC31又はラムダインテグラーゼを用いることによって(A.C.グロス(Groth)ら,PNAS2000,97;5995−6000)か又は、バクテリオファージP1からのloxP又はその変異体又は突然変異体例えばlox66、lox71、lox76、lox75、lox43、lox44及びlox511といったようなさまざまなlox部位(C、ゴーマン及びC.バロック(C.Gorman and C.Bullock)Curr.Opinion in Biotechnology 2000,11:455−460)及びCreリコンビナーゼのものを含め、その他のリコンビナーゼ系も同等にうまく使用することができる。本発明で利用可能なさらなるリコンビナーゼ系としては、細菌プラスミドpSM19035からのβ−リコンビナーゼ−six系、バクテリオファージMuからのGin−gix系又はZygo saccharomyces rouxii由来のR−RS系があるが、これらに制限されるわけではない。
【0125】
部位特異的組換え系に対するさらなる変形形態は、非相同組換え部位を使用することにある。このような系においては、2つの同一でない組換え部位が、特異的標的部位の生成のため宿主ゲノム内に導入される。標的部位をフランキングするものに対応する組換え部位が、同様に、問題の遺伝子を含む構築物をもフランキングする。かかる系については、本明細書に参照により援用されている国際公開第99/25854号パンフレット内で記載されてきた。非相同組換え部位の使用は、染色体からのGOIの切除を抑制することが示された。非同一組換え部位は、対応するリコンビナーゼが提供されるかぎりにおいて上述の組換え部位のいずれかで構成され得る。例えば、非同一組換え部位は、組込みのためにFlpリコンビナーゼを利用するFRT部位及び突然変異体FRT部位、又は組込みのためにFip及びCreリコンビナーゼを利用するFRT部位及びloxP部位から成ると考えられる。
【0126】
さらに、2つの異なるFRT部位を用いた系は、バーホーエン(Verhoeyen)ら、Hum.Gene Ther.2001 12、933−44で記載されてきた。このアプローチでは、組込み用プラスミドは、レトロウイルス感染によって宿主細胞に移送される。該プラスミドは、リポータ遺伝子及び第1の選択マーカー遺伝子ならびに感染に必要とされるレトロウイルス要素の組合せで構成されている。レトロウイルス3’LTRは2つの異なるFRT部位を含んでいる。プロモーター及び翻訳開始コドンが欠如した非機能的な第2の選択マーカー遺伝子が、これらの部位に対し3’のところに位置設定されている。レトロウイルス感染プロセス中、3’LTR配列は、5’LTRにコピーされる。この結果、各々の側で2つの異なるFRT部位によりリポータ遺伝子及び第1の選択マーカーがフランキングされている。外部FRT部位の間の配列は強いプロモーターの制御下でGOIに対して交換可能である。GOIを含むカセットは、FRT部位の同じセットによりフランキングされている。反応はFlpリコンビナーゼによる触媒作用を受ける。トランスフェクションを受けた交換プラスミドにおいては、IRES要素及び翻訳開始コドンがGOIのさらに下流側に位置設定されている。組込まれたカセットの置換の後、FRT部位の外側の3’LTR配列内に位置設定された非機能的選択マーカー遺伝子は、GOI構成カセットによって提供される翻訳開始コドンによって活性化される。交換状態は、組込みベクター内に負の選択マーカー(例えばチミジンキナーゼ)が存在する場合に、さらに富化され得る。
【0127】
組込み用ベクターは、同様に、標準トランスフェクションによって宿主細胞に移送され得る。この場合、組込み用カセットは5’末端でFRTにより、そして3’末端で異なるFRT’部位によりフランキングされる。ATGが欠損した第2の耐性マーカー遺伝子は、3’FRT’部位のさらに下流側に位置づけされている。GOIについての交換は、レトロウイルス系について記載されている通りに進行する。
【0128】
染色体内へのその部位特異的組込みの後のGOIの切除を妨げるもう1つの系は、同じく以上で言及したφC31インテグラーゼである。この系については、その全体が本明細書に参照により援用されている特許出願国際公開第01/07572号パンフレット及び国際公開第02/08409号パンフレットの中で徹底的に記載されてきた。
【0129】
発明のさらなる一態様においては、問題の遺伝子の部位特異的組込み用のベクターはさらに、任意にはタンパク質の発現を導くその独自の哺乳動物プロモーターが先行している、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一つの成員をコードするDNAを含んでいる。問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員が複数のタンパク質鎖を含む場合、例えば該成員が抗体又はT細胞レセプタである場合、タンパク質の鎖をコードするDNAには、その各々の鎖の高レベルの発現(双方向又は単方向、それぞれ図1及び2を参照のこと)を導く独自の哺乳動物プロモーターが先行している可能性がある。双方向発現においては、発現ベクター内の頭−頭のプロモーター形態を使用することができ、単方向発現のためには、発現用に例えばIRES配列と組合わされた1つのプロモーター又は2つのプロモーターを使用することができる。適切な頭−頭のプロモーター形態としては、例えば、両方の方向性でのマウスメタロチオネイン−1プロモーターと合わせたAdMLPプロモーター、両方の方向性での伸長因子−1プロモーターと合わせたAdMLPプロモーター又は両方の方向性でのMPSVプロモーターと合わせたCMVプロモーターであるが、これらに限定されるわけではない。
【0130】
細胞小器官といったような細胞内の特定の場所又は小胞体に遺伝子産物を導くため、発現ベクター内に機能的リーダー配列をコードする核酸配列を含み入れることができる。強いポリアデニル化シグナルは、タンパク質コーディングDNA配列の3’のところに位置づけされ得る。ポリアデニル化シグナルは、未完成RNA写しの終結及びポリアデニル化を確保し、メッセージ安定性と相関される。問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員をコードするDNAは例えば、抗体又は複数の抗体フラグメントの重鎖及び軽鎖の両方をコードすることができ、ここで各々の遺伝子配列には任意には、独自の哺乳動物プロモーター要素が先行しかつ/又は2つの鎖の各々の高レベル発現を導く強いpolyAシグナルが後続している。
【0131】
部位特異的組込みのための発現ベクターは、組込み部位における発現の増大のため、エンハンサ又はUCOE(遍在性染色質開放要素)といったような付加的な転写調節要素を担持することができる。エンハンサは、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する核酸配列である。UCOEは、染色質を開放するか又は開放状態で染色質を維持し、(その全体が本明細書に参照により援用されている国際公開第00/05393号パンフレットの中で詳述されている)作動可能に連結された遺伝子の再現可能な発現を容易にする。以上で記載した調節要素のうちの1つ以上のものが宿主細胞の染色体内に組込まれた時点で、これらは異種調節要素と呼ばれる。
【0132】
タンパク質の高レベル発現のための発現系を確立する。
1つの細胞内に核酸配列を導入するための方法は、当該技術分野において既知である。これらの方法は、標準的に、細胞、ゲノム又は外部染色体要素内に問題の配列を導入するためのDNAベクターの使用を含んでいる。細胞のトランスフェクションは、リン酸カルシウム沈降、電気穿孔法、マイクロインジェクション、リポゾーム融合、RBCゴースト融合、原形質融合などを含めた、当業者にとって既知の一定数の方法によって達成され得る。
【0133】
宿主細胞系統のトランスフェクションのためには、各ベクターが問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の1つの成員をコードする核酸配列のコピーを1つだけ含む、問題のベクターライブラリーが使用される。この問題の発現ベクターライブラリーは、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質を集合的にコードする。部位特異的組込みのための適切なベクターが前節内で記載された。問題の変異体核酸配列ライブラリーを構成する個別ベクターを、一緒に単一の組成物へと混合させることができ、そうでなければ、各ライブラリー成員をコードする個別ベクターを、別々の組成物内に又は1つの組成物内のライブラリーの約5〜50の個別ベクターの混合物内に保つことができる。
【0134】
組換え型ポリクローナル製造細胞系統の生成及びかかる細胞系統からの組換え型ポリクローナルタンパク質の産生は、複数の異なるトランスフェクション及び製造戦略によって得ることができる。これらの戦略は、図3で概略的に説明されている。
【0135】
1つのやり方は、宿主細胞系統のトランスフェクションのために単一の組成物の形に混合されたベクターライブラリーを使用することである。この方法は、バルクトランスフェクション又は大量トランスフェクションと呼ばれる。一般に、以前に記載されたベクター及び宿主細胞の設計は、適切な選択の時点でポリクローナル細胞が確実に得られるようにすることになる。このような細胞系統では、個々の細胞の大部分は、問題の核酸配列ライブラリーからゲノム内へ、組換え型ポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードする核酸分子の1つのコピーを組込んでいた。核酸配列の単一のコピーは、細胞収集物内の各細胞のゲノムの単一の特定的部位内に組込まれ、かくして、問題のポリクローナルタンパク質の個別成員を発現する個別細胞から成るポリクローナル細胞系統を生成する。組換え型ポリクローナルタンパク質の製造開始の前にポリクローナル細胞系統の凍結ストックが生成される。
【0136】
もう1つの方法は、トランスフェクションのために、1つの組成物内にライブラリーの約5〜50の個別ベクターを含む、画分に分割されたベクターライブラリーを使用することである。好ましくは、ライブラリーの画分は10〜20個の個別ベクターを構成する。各組成物はこのとき宿主細胞アリコート内にトランスフェクションされる。この方法は、半バルクトランスフェクションと呼ばれる。トランスフェクションを受けるアリコートの数は、ライブラリーのサイズ及び各画分内の個別ベクターの数によって左右されることになる。ライブラリーが例えば、1組成物内に20の別個の変異的成員を含む画分に分割される100の別個の変異的成員を構成する場合、5つの宿主細胞アリコートが、オリジナルのライブラリーの別個の画分を構成するライブラリー組成物でのトランスフェクションを受ける必要があると思われる。宿主細胞アリコートは、部位特異的組込みについて選択される。好ましくは、別個のアリコートは別々に選択される。ただし、これらは同様に、選択前にプールされてもよい。アリコートは、そのクローン多様性について分析可能であり、充分な多様性をもつものだけが、ポリクローナルGOIライブラリーのストックを生成するのに使用されることになる。製造用の所望のポリクローナル細胞系統を得るためには、アリコートを、ストックからそれらが回収された直後、又は短かい増殖及び適応時間の後に、冷凍ストックを生成する前に混合することができる。任意には、細胞アリコートは、生産全体を通して別々に保たれ、ポリクローナルタンパク質組成物は、生産の前の細胞アリコートではなく各アリコートの産物を組合せることによって組立てられる。
【0137】
第3のやり方は、問題のライブラリーを構成する個別ベクターを用いて宿主細胞が別々にトランスフェクションされる、高速大量処理方法である。この方法は、個別トランスフェクションと呼ばれる。個別にトランスフェクションを受けた宿主細胞は好ましくは、部位特異的組込みについて別々に選択される。しかしながら、これらを選択の前にプールすることもできる。選択時点で生成された個別細胞クローンは、増殖時間及び組込みパターンに関して分析され得、類似の成長速度及び単一の部位特異的組込みをもつものが、ポリクローナルGOIライブラリーストックを生成するために使用される。ストックから回収された直後又は短かい増殖及び適応時間の後、ストックを生成する前に所望のポリクローナル細胞系統を得るべく、個別細胞クローンを混合することができる。
【0138】
このアプローチは、トランスフェクション、組込み及び選択の間に考えられるあらゆる残留配列偏向を除去することができる。代替的には、個別にトランスフェクションを受けた宿主細胞は、選択が実施される前に混合され、こうしてトランスフェクションに起因する配列偏向の制御が可能となる。
【0139】
以上で概略的に記した製造戦略における共有の特長は、組換え型ポリクローナルタンパク質を構成する全ての個別成員を、約10基を最大として、1基又は制限された数の生物反応器の中で生産できるという点にある。唯一の差異は、組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する細胞収集物を生成することを選択する段にある。
【0140】
問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の発現及び産生のために使用されるべき宿主細胞系統は、リコンビナーゼ酵素(単複)により認識可能な1つ以上の核酸分子を有する(例えば、米国特許第5,677,177号明細書中に記載されているようなゲノム内の予め定められた場所にFRT部位をもつ予め調製された細胞)。
【0141】
部位特異的組込み用のベクターは、好ましくは、高レベル発現を媒介する所定のゲノム遺伝子座、つまりいわゆるホットスポット内に組込まれる。
【0142】
発現レベルを増大させる必要がある場合、DHFR遺伝子又はグルタミンシンセターゼ(GS)遺伝子についての選択を用いて、遺伝子増幅を実施することができる。これには、このような選択マーカーを含むベクターを使用することが必要となる。
【0143】
ポリクローナルタンパク質の製造のためには、各タンパク質成員が3つ以上のポリペプチド鎖で構成されている場合、鎖の組合せは、それらが形成するタンパク質の親和性、特異性及び活性にとって重要なものであり得る。このことは例えば、抗体及びTcRcについて見られる。例えば、抗体可変重鎖及び可変軽鎖の組合せは、鎖から形成される抗体の親和性及び特異性に影響を及ぼすことが知られている。かくして、或る種の標的に対する親和性をもつ抗体を生成するその能力のために抗体コーディング配列の1つのライブラリーが選択された場合、最終的産物内の可変重鎖及び可変軽鎖の組合せがこれに確実に対応するようにすることが望ましい。この理由から、ポリクローナルタンパク質の個別成員を構成するポリペプチド鎖は、組込みのために用いられるのと同じベクター内に置かれ、かくしてそれらが確実にプロセス全体を通して一緒に保たれるようにする。
【0144】
以下の記載は、鎖のスクランブリングが存在したとしても最小限である、組換え型ポリクローナル抗体発現細胞系統の獲得方法の1例である。
【0145】
可変重鎖及びカッパ軽鎖全体によりとり囲まれた頭−頭の構造といったような反対の転写方向に置かれた2つのプロモーターをもつ構成的発現用の汎用プロモーターカセットが構築され、FRT部位及びハイグロマイシン耐性遺伝子及び重鎖定常領域を含む部位特異的組込み用ベクター内への構築物全体の移送を可能にした。誘発的発現用プロモーターカセットも同じく使用可能であると考えられている。その上、反対方向での転写を結果としてもたらす尾−尾(tail-to-tail)又は単方向転写用の尾−頭(tail-to-head)の関係にプロモーターを置くこともできる。lacZ−ゼオシン融解遺伝子を安定した形で発現するCHO−Flp−In細胞(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))が実験のために使用され、細胞に抗生物質ゼオシン耐性を付与した。細胞は、ゼオシンを含有する培地の中に維持された。Flpリコンビナーゼを発現するプラスミドと合わせて異なる選択マーカー(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)及びポリクローナル抗体をコードする部位特異的組込み用のベクターライブラリーで、細胞をまとめてトランスフェクションに付した。発現の制御のためには、誘発可能なプロモーターも同様に使用可能である。トランスフェクションの後、ハイグロマイシンの存在下で細胞を培養した。ハイグロマイシン耐性を有する細胞をその後、従来の小型培養フラスコ、Nunc多層セルファクトリ、小型高収率生物反応器(ミニパーム(MiniPerm)、インテグラセルライン(INTEGRA−CELLine))及びスピナーフラスコから中空繊維−及び生物反応器に至るまでといった異なる培養システムの中で成長させた。ELISAを用いて、抗体産生について細胞をテストした。長時間、選択圧無しで、血清を含まない培地中での懸濁液成長の可変性についてポリクローナル細胞系統を選択した。細胞系統のストックをハイグロマイシンの存在下で成長させた。
【0146】
発現系内のポリクローナル性の保存の評価
本発明に従うと、ポリクローナル性が実際に改変された時点で産生を停止させることが可能であるような形で、産生中に発現系内のポリクローン性が重大な改変を受けないように保証することが往々にして重要である。これは、変異体核酸配列の相対的発現レベルを監視することによって本発明に従って行なわれる。発現レベルは例えば、RFLP分析、アレイ又はリアルタイムPCRなどを用いてmRNAレベルで、又は2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動、質量分析法又はさまざまなクロマトグラフィ技術を用いてタンパク質レベルで、監視可能である。これらの技術を用いて、一定数の個別発現レベル全てについて基準値を確立し、その後、発現レベルが(合計して及び相対的にの両方で)変化したか否かを評価するべく産生中培養から試料を取り出すことが可能となる。発明の通常の実践においては、基準値をとり囲む値の範囲を確立することができ、相対的発現レベルがその範囲外にあることがわかった場合には、産生は終結される。
【0147】
発現系の安定性及び再現性を評価することができるように、ニワトリオボアルブミン(OVA)、ウシアルカリホスフォターゼ(AP)、ヒトβ2−ミクログロブリン(β2m)、ヒト−ハプトグロビン(HAP)、ヒト第VIII因子(FVIII)及びニワトリ卵白リゾチーム(LYS)に対する反応性をもつ6つの別個のFabフラグメントをコードするベクター(ミニ6ライブラリー)が調製された。異なるFab フラグメントコーディング配列は同一ではなく、従って、異なるRFLPパターンを示し、かくして遺伝子型組成を分析するためにRFLPを使用することができる。
【0148】
ミニシックス(mini six)ライブラリーは、頭−頭のプロモーターカセットを伴う発現ベクターを用いたトランスフェクションによりCHO−Flp−In細胞内に導入された。CHO−Flp−In細胞を、既知の組合せでの6つの抗体を発現するポリクローナル細胞系統を結果としてもたらす6つの別個の抗体をコードする問題の発現ベクターの混合物とまとめてトランスフェクションさせるか又は、問題の発現ライブラリーの1成員で細胞を個別にトランスフェクションに付し、その後トランスフェクションを受けた細胞を混合し、既知の組合せで6つの抗体を発現する組換え型ポリクローナル抗体発現細胞系統を生成させた。このようにして、組換え型ポリクローナル抗体発現細胞系統の1つ又は複数の個別クローンに対する偏向無く哺乳動物細胞のトランスフェクションが発生しているか否かをテストすることが可能であった。さらに、増殖偏向及び抗体のポリクローナル組成物の精製によってひき起こされる偏向を検査することが可能であった。
【0149】
抗−オボアルブミン組換え型ポリクローナル製造細胞系統の確立
関連するクローンを同定するため、ファージ提示及びELISAを用いてオボアルブミン結合ファージクローンを選択した。オボアルブミン結合クローンから抗体を同定するために、2つの構成すなわち、オボアルブミンでコーティングされたELISAプレート又はPVDF膜上のオボアルブミンの固定化に基づく高密度スクリーニング方法(HDS)を使用した。この要領で、一群の抗体が得られ、その一部分は、ELISAプレート上で固定化されたオボアルブミンを認識し、その他はPVDF膜上に固定化されたオボアルブミンを認識する。
【0150】
選択されたオボアルブミン結合ファージクローンは、哺乳動物プロモーターにリンクされかつ抗体発現のためpSymvc20型(図4D)のベクター内に移送されてpSymvc21型(図4E)のクローン収集物を生成する可変重鎖及びカッパ鎖DNA配列を有していてよい。CHO−Flp−In細胞は、pSymvc21クローンの混合物でまとめてトランスフェクションを受けるか、又は、細胞は1つのpSymvc21抗体発現プラスミドで個別にトランスフェクションを受けその後その他のオボアルブミン結合抗体を発現するトランスフェクションを受けた細胞が混合される。抗オボアルブミンポリクローナル抗体産生細胞系統を作り上げる手順は、個別の抗体発現細胞のDNA配列決定、TaqMan PCR及びRFLP分析ならびに、産生された抗体混合物のELISA、2次元(2D)液体クロマトグラフィ(LC)及び質量分析法(MS)によって監視できる。
【0151】
細胞の培養及び組換え型ポリクローナル抗体の産生
上述の通りに産生されたポリクローナル細胞系統は、細胞のゲノム内に挿入された変異体核酸配列によりコードされた問題のポリクローナルタンパク質を発現するのに適した条件下で適切な培地内で成長させられる。細胞培養は、複数のステップで実施可能である。第1のステップは、部位特異的の組込み体についてポリクローナル細胞系統が選択されるステップである。哺乳動物細胞を使用する場合、選択された細胞は次に好ましくは懸濁状態での成長ならびに無血清条件に適合される。これは、1ステップ又は2ステップで、選択圧を用いて又は用いずに実施可能である。ポリクローナル細胞系統が適切な条件に適合された時点で、スケールアップを開始することができる。この時点で、作業用細胞ストックを凍結させることができる。好ましくは30〜100リットルの間の生物反応器が用いられるが、それより小さい又は大きい生物反応器を利用してもよい。適切な生産時間及び生物反応器サイズの選択は、バッチからのタンパク質の所望の収率及び細胞系統からの発現レベルによって左右される。時間は、数日から3ヵ月まで変動し得る。発現された組換え型ポリクローナルタンパク質は、細胞又は上清から単離される。組換え型タンパク質は、当業者により既知の手順に従って特徴づけされる。精製及び特徴づけ手順の例が以下で列挙されている。
【0152】
培養上清からの組換え型ポリクローナルタンパク質の精製
培養上清からの特定のタンパク質の単離は、タンパク質の物理化学特性の差、例えば分子量、正味電荷、疎水性又は特定のリガンド又はタンパク質に向かう親和力の差を利用するさまざまなクロマトグラフィ技術を用いて可能である。かくして、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて分子量に従って、又は、イオン交換(カチオン/アニオン)クロマトグラフィを用いて又代替的にはクロマトフォーカシングを用いて正味電荷に従ってタンパク質を分離することができる。同様にして、特定の固定化されたリガンド又はタンパク質に向かう親和力の差を利用するアフィニティクロマトグラフィ又は疎水性相互作用クロマトグラフィを用いて、疎水性に従ってタンパク質を分離することもできる。タンパク質の複合混合物の分離は、かくして、さまざまなクロマトグラフィ原理の逐次的組合せによって達成可能である。かくして、イオン交換クロマトグラフィを用いて例えば正味電荷に従ってタンパク質の混合物を最初に分離し、これに続いて、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて分子量に従って又は、選択された高濃度の塩の存在下で疎水性相互反応クロマトグラフィを用いて疎水性に従って、類似の正味電荷のタンパク質を分離することができる。
【0153】
例えば腹水、細胞培養上清及び血清といった異なる供給源からのIgG(ポリクローナルならびにモノクローナル)及びTcRの精製のためには、イオン交換クロマトグラフィ、疎水性相互作用及びゲルろ過といったようなその後の精製ステップと組合わせたアフィニティクロマトグラフィが使用されることが多かった。分離がタンパク質(単複)とクロマトグラフィマトリクスにカップリングされた特定のリガンドの間の可逆的相互作用に基づいている親和力分離は、高い選択性、通常は高い容量及びより小さい体積への濃縮を提供する容易かつ迅速な方法である。2つの細菌細胞表面タンパク質であるプロテインA及びプロテインGは、Fc領域に対する高い親和力を有し、固定化された形態で、さまざまな種からのポリクローナルIgG及びそのサブクラスの精製及び免疫複合体の吸収及び精製を含めた数多くの常套的適用のために使用されてきた。
【0154】
宿主細胞タンパク質、漏出したプロテインA及びDNAを除去するためには、以下のアフィニティクロマトグラフィ、下流側クロマトグラフィステップ、例えばイオン交換及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィを実施することができる。
【0155】
最終精製ステップとしてのゲルろ過を、2量体及びその他の凝集体といったような汚染物質分子を除去しかつ試料を貯蔵用緩衝液中に移送する目的で使用することができる。供給源及び発現条件に応じて、要求される抗体純度レベルを達成するための付加的な精製ステップを内含することが必要であるかもしれない。かくして、治療用途で抗体を精製するためには、プロテインA及びゲルろ過クロマトグラフィとの組合せで、疎水性相互作用クロマトグラフィ又はイオン交換クロマトグラフィが使用されることが多い。
【0156】
その他の抗体クラスを精製するためには、プロテインA及びGがIgA及びIgMを結合させないことから、代替的なアフィニティクロマトグラフィ媒質を使用しなければならない。免疫親和力精製を使用することができ(固相にカップリングされた抗−IgA又は抗IgMモノクローナル抗体)、そうでなければ、イオン交換及び疎水性相互反応を含めた多重ステップ精製戦略を利用することができる。
【0157】
構造的特徴づけ
抗体及びTcRといったポリクローナルタンパク質の構造的特徴づけには、混合物の複雑性に起因して高い分解能が必要となる(クローン多様性及びグリコシル化)。ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ又は電気泳動といったような従来のアプローチは、個別抗体の間で弁別するのに充分な分解能を有していない可能性がある。複合タンパク質混合物のプロファイリングのためには2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)が使用されてきており、その後に、質量分析法(MS)又は液体クロマトグラフィ(LC)−MS(例えばプロテオミクス)が行なわれた。タンパク質の電荷及び質量に基づく分離を組合せた2D−PAGEが、血清試料中のポリクローナル、オリゴクローナル及びモノクローナル免疫グロブリンの間での弁別のために有用であることが立証された。しかしながら、この方法には、いくつかの制限がある。クロマトグラフィ技術、特にエレクトロスプレーイオン化MSにカップリングされた毛管及びLCクロマトグラフィは、複合ペプチド混合物の分析のために応用されることが増々多くなってきている。LC−MSはモノクローナル抗体の特徴づけのために使用されてきており、最近はポリクローナル抗体軽鎖のプロファイリングにも使用されている。非常に複雑な試料の分析は、2次元(又はそれ以上)での分離により得ることのできるクロマトグラフィシステムのより高い分解能を必要とする。かかるアプローチは、第1の次元ではイオン交換に基づき、任意にはMSにカップリングされた第2の次元では逆相クロマトグラフィ(又は疎水性相互作用)に基づくものである可能性がある。
【0158】
機能的特徴づけ
ポリクローナルタンパク質は、例えば、同じ標的に向かっての特異性又は類似の活性をもつポリクローナルタンパク質との比較可能性研究を通して機能的に特徴づけすることができる。かかる研究は、インビトロでもインビボでも実施可能である。
【0159】
ポリクローナル抗体のインビトロでの機能的特徴づけというのは、例えば、未精製細胞溶解物からの標的抗原の分析的分離のためのきわめて特異的な技術である免疫沈降であり得る。免疫沈降をSDS−PAGEとそれに続くタンパク質染色(クマシーブルー、銀染色又はビオチン標識)及び/又は免疫ブロット法といったその他の技術と組合せることによって、例えば抗原を検出及び定量化すること及びかくして抗体の機能的特性のいくつかを評価することが可能である。この方法は、抗体分子の数の推定もその結合親和力も与えないものの、標的タンパク質の視覚化ひいては選択性を提供する。この方法は、同様に、発現プロセス中に抗原に向かう抗体の潜在的差異(クローン多様性の無欠性)を監視するために使用できる。
【0160】
ポリクローナル抗体のインビボでの機能的特徴づけは例えば感染研究であり得る。マウスといったような実験動物を、例えばポリクローナル抗体を発生させる対象である特定のウイルスに感染させることが可能である。この感染の阻害の程度が、ポリクローナル抗体の機能性を表わすことになる。
【0161】
治療用組成物
本発明の一実施形態においては、その活性成分として免疫グロブリンスーパーファミリーから選択された組換え型ポリクローナルタンパク質を含む医薬組成物は、癌、感染症、炎症性疾患、アレルギー、喘息及びその他の呼吸器疾患、自己免疫疾患、免疫機能不全、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝及び内分泌疾患、移植片拒絶及び望まれない妊娠といったような哺乳動物の疾病の治療及び予防用に意図されている。該哺乳動物は、好ましくは、ヒト、家畜又はペットである。
【0162】
本発明の好ましい実施形態においては、該医薬組成物は、活性成分としての組換え型ポリクローナル抗体又は抗体フラグメント及び薬学的に受容可能な賦形剤を含む。
【0163】
本発明のもう1つの好ましい実施形態においては、該医薬組成物は、活性成分としての組換え型ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメント及び薬学的に受容可能な賦形剤を含む。
【0164】
感染症の治療又は予防用には、本発明に従った医薬組成物は、細菌、マイコバクテリア、ウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、スピロヘータ、原虫、真菌、蠕虫及び外部寄生虫の中から選択された微生物といったような感染性微生物と反応するか又はこれに結合する能力をもつ問題の組換え型ポリクローナルタンパク質を含む。
【0165】
組換え型ヒトポリクローナルタンパク質は、単位剤形の形で薬学的に受容可能な希釈剤、担体又は賦形剤の中に入って投与され得る。例えば過剰な細胞増殖によってひき起こされる疾病を患う患者に該化合物を投与するための適切な処方又は組成物を提供するには、従来の薬学的実践方法を利用してもよい。投与は、患者が症状を示す前に始まってよい。任意の適切な投与経路を利用してよく、例えば、投与は非経口、静脈内、動脈内、皮下、筋内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、関節包内、髄腔内、槽内、腔腔内、鼻腔内、エアゾル、座薬又は経口投与でありうる。例えば、治療用処方は、液体溶液又は懸濁液の形をしていてよく、経口投与のためには、処方は錠剤又はカプセルチューインガム、パスタの形をしていてよく、皮ふに塗布するのに適した組成物は、クリーム、軟こう、ローション、ジェル、パッドその他の形をしていてよく、膣又は泌尿生殖器粘膜上への適用に適した組成物は、vagitories、ジェル他の形をしていてよく、鼻腔内処方については、粉剤、点鼻薬又はエアゾルの形をしていてよい。
【0166】
本発明の医薬組成物は、それ自体既知の要領、例えば従来の溶解、凍結乾燥、混合、造粒及び調合プロセスを用いて調製される。該医薬組成物は、従来の薬学的実践方法に従って処方可能である(例えば、レミントン(Remington:薬学の科学と実践(The Science and Practice of Pharmacy)(第20版)、A.R.ジェンナロ(Gennaro)編、2000、Lippincott Williams & Wilkins、ペンシルバニア州フィラデルフィア(Philadelphia,PA)、及び薬学技術百科辞典(Encyclopedia of Pharmaceutical Technology)、J.スワーブリック(Swarbrick)及びJ.C.ボイラン(Boylan)編、1988−1999、Marcel Dekker、ニューヨーク州ニューヨークを参照のこと)。
【0167】
活性成分の溶液と同様、懸濁液も、そして特に等張水溶液又は懸濁液が好んで用いられ、例えば活性成分を単独で又はマンニトールといった担体と合わせて含む凍結乾燥された組成物の場合には、このような溶液又は懸濁液を使用に先立って生成することが可能である。該医薬組成物は、滅菌されていてよく、かつ/又は例えば防腐剤、安定剤、湿潤剤及び/又は乳化剤、可溶化剤、浸透圧調節用の塩及び/又は緩衝液などの賦形剤を含んでいてよく、それ自体既知の要領、例えば従来の溶解又は凍結乾燥プロセスを用いて調製される。前記溶液又は懸濁液は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン又はゼラチンといった造粘物質を含み得る。
【0168】
注射用組成物は、無菌条件下で通例の要領で調製される。同じことは、アンプル又はガラスビン内への組成物の導入及び容器の密封にもあてはまる。
【0169】
経口投与のための医薬組成物は、固体担体と活性成分を組合せ、望まれる場合には、結果として得られた混合物を造粒し、望ましいか又は必要である場合には、適切な賦形剤の添加後混合物を錠剤、糖剤コア又はカプセルの形に加工することによって得ることができる。活性成分が規定された量で拡散するか又は放出されるようにするプラスチック担体の中にそれらを包含させることも同じく可能である。
【0170】
医薬組成物は、約1%〜約95%、好ましくは約20%〜約90%の活性成分を含む。本発明に従った医薬組成物は、例えばアンプル、ガラスビン、座薬、糖剤、錠剤又はカプセルといった単位剤形をとり得る。
【0171】
処方は、疾病又は身体条件に対する療法を提供するべく治療上有効な量(例えば、病的状態を防止、削除又は低減する量)でヒトの患者に投与することができる。投与されるべき治療薬の好ましい投薬量は、障害のタイプ及び程度、特定の患者の全身的健康状態、化合物賦形剤の処方、及びその投与経路といった変数によって左右される確率が高い。
【0172】
望ましい場合には、組換え型ヒトポリクローナル抗体での治療を、より伝統的な療法と組合わせることができる。例えば、癌治療においては、かかる組合せ療法は、外科手術又は化学療法又はその他の抗癌剤の投与の形をとり得る。
【0173】
発明のもう1つの実施形態においては、本発明に従った医薬組成物は、細菌、マイコバクテリア、ウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、スピロヘータ、原虫、真菌、蠕虫及び外部寄生虫の中から選択された微生物といったような感染性微生物と反応するか又はこれに結合する能力をもつ問題の組換え型ポリクローナルタンパク質を含む。
【0174】
発明に従った組成物の治療的使用
本発明に従った医薬組成物は、哺乳動物における疾病の治療、改善又は予防用に使用可能である。当該医薬組成物で治療できる疾病としては、癌、感染性疾患、炎症性疾患、アレルギー、喘息及びその他の呼吸器疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝及び内分泌疾患、移植片拒絶及び望まれない妊娠が含まれる。
【0175】
本発明の1つの態様は、組換え型ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントが有効量投与される、動物における疾病の治療、改善又は予防用の方法である。さらなる態様においては、組換え型ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントが有効量投与される。
【0176】
本発明の付加的な形態は、癌、感染症、炎症性疾患、アレルギー、喘息又はその他の呼吸器疾患、免疫機能不全、自己免疫疾患、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝疾患、内分泌疾患、移植片拒絶及び望まれない妊娠から成る群から選択された疾病の治療用の組成物の調製を目的とする、組換え型ポリクローナル抗体又は組換え型ポリクローナルT細胞レセプタ又は抗体又はT細胞レセプタのフラグメントの使用にある。
【0177】
診断用途及び環境検出用途
発明のもう1つの実施形態は、診断用キット及び環境検出用途向けキットならびにこれらのキットの使用方法に向けられている。本発明に従ったキットは、検出可能な標識で標識されているか又は非標識検出用に標識されていない本発明に従って調製された組換え型ポリクローナルタンパク質を含んでいる。標識されている場合、当該組換え型ポリクローナルタンパク質は、標的分子を含有している疑いのある試料に対し添加され得、該標識の有無が標的分子の有無を表わす。テストされるべき試料は、血液、血清、血漿、髄液、リンパ又は尿といったような体液の試料又は汚染物質が隠れている疑いのある環境供給源からの試料といった哺乳動物以外の試料であり得る。哺乳動物以外の試料は、水、空気又は汚染土であり得る。非標識検出は、標的分子を捕捉するために組換え型ポリクローナルタンパク質が使用される、結合時点でのBIA coreの屈折変化の測定を包含する。
【実施例】
【0178】
以下の実施例は、予め特徴づけされた染色体「ホットスポット」部位内への部位特異的組込みによって問題の遺伝子(単複)/ベクター(単複)が挿入されている高産生細胞系統内で、組換え型ポリクローナル抗体がいかに発現され産生されるかについて記載する。
【0179】
実施例では、宿主細胞としてCHO細胞が利用された。その利点としては、適切な成長培地の入手可能性、培養中で高密度に至るまで効率よく成長できるその能力、及び生物学的に活性な形での抗体といった哺乳動物タンパク質を発現するその能力、がある。
【0180】
一般に、本発明に従ったE.coliの形質転換及び哺乳動物細胞のトランスフェクションは、従来の方法に従って実施されることになる。本発明をより良く理解できるように、以下の実施例は、ベクター例の構築及び組換え型ポリクローナルタンパク質発現のための組換え型ポリクローナル製造細胞系統を生産する上でのその利用について記載する。
【0181】
以下の実施例は、本発明を例示しているが、本発明の範囲を制限するものとみなされるべきものではない。
【0182】
実施例1
部位特異的組込み対無作為組込み
以下のトランスフェクション実験のためには、CHOFlp−In−細胞(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)が使用された。リポータ遺伝子としてヒト分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)を用いて、系の効率をテストした。次の2つのプラスミド構築物を調製した:
1.pcDNA3.1 hygro+(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)内に挿入されたSEAP(無作為組込み用)。
2.pcDNA5/FRT(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)内に挿入されたSEAP(部位特異的組込み用)。
【0183】
2つのプラスミド構築物は、調節要素すなわちプロモーター、ポリアデニル化などに関しきわめて類似しており、このため部位特異的組込みと無作為組込みを比較するためにこれらのプラスミドを使用することが可能になっている。
【0184】
CHOFlp−In 細胞を、プラスミド構築物1単独か又はリコンビナーゼコーディングプラスミドpOG44と合わせたプラスミド構築物2で、インビトロジェン(Invitrogen)によって記載された手順に従ってトランスフェクションに付された。トランスフェクタントをハイグロマイシンを用いて選択し、トランスフェクタントのプールからのSEAPの産生を測定した。
【0185】
部位特異的組込みによるトランスフェクションを受けた細胞は、無作為組込みによるトランスフェクションを受けた細胞に比べて約6倍産生し、該系及び該細胞系統の効率を証明した。
【0186】
実施例2
宿主細胞内の部位特異的組込みのための発現ベクターの設計と調製
宿主細胞のホットスポット染色体領域内への部位特異的組込みに適した、以下のDNA要素を含む発現ベクターを、組立てることができる:
【0187】
a)ハイグロマイシン耐性遺伝子にリンクされたFRT組換え部位、
b)pUC複製開始点、
c)アンピシリン耐性遺伝子(bla)
d)アンピシリン(bla)耐性遺伝子の発現を可能にするbla−プロモーター、
e)問題のタンパク質をコードする遺伝子(単複)(GOI)、
f)GOIの発現を可能にするプロモーター(単複);及び
g)任意には、組込み部位又はIRESにおける発現を増大するための、エンハンサ又はUCOEといった付加的な転写又は翻訳調節要素。
【0188】
発現ベクターの構築をより良く理解できるようにするため、各要素についてさらに詳しく記載する:
【0189】
a)大部分の単一組込み体を伴う1つの細胞系統のFlpリコンビナーゼ媒介組込み及び選択のためハイグロマイシン耐性遺伝子にリンクされたFRT組換え部位が使用された。ハイグロマイシン遺伝子にはプロモーターも先行しておらず、又は転写開始コドンも備わっていないが、遺伝子の3’のところでポリアデニル化シグナルが付加された。使用されたFRT部位は、5’−gaagttcctattccgaagttcctattctctagaaagtataggaacttc−3(配列番号1)であった。
【0190】
b)E.coli宿主細胞内での高コピー数の複製を可能にするため、pUC複製開始点を内含させた。
【0191】
c)E.coli形質転換体の選択を可能にするアンピシリン(bla)耐性遺伝子(β−ラクタマーゼ)を内含させた。
【0192】
d)bla−プロモーターは、E.coli内のアンピシリン(bla)耐性遺伝子の発現を可能にした。
【0193】
e)問題のタンパク質をコードするGOI、例えば組換え型ポリクローナルタンパク質、抗体、抗体の重鎖及び軽鎖、ならびに抗体分子の定常領域又は可変領域のいずれかの全て又は一部分をコードするヌクレオチド配列、及び任意には抗体分子の発現を制御する調節ヌクレオチド配列の全て又は一部分を内含させた。
【0194】
重鎖のための免疫グロブリン遺伝子座としては、V.D.J及びスイッチ領域(イントロンとしても知られる介在配列を含めたもの)及び特定の重鎖定常領域遺伝子に付随する又はこれに隣接するフランキング配列の全て又は一部分が含まれ得るがこれらに制限されるわけではなく、これには、定常領域(イントロンを含む)内又はその下流にある領域が含まれ得る。
【0195】
軽鎖のための免疫グロブリン遺伝子座としては、V、J領域、その上流側フランキング配列及び軽鎖定常領域遺伝子に付随する又はこれに隣接する介在配列(イントロン)が含まれ得るがこれらに制限されるわけではなく、これには、定常領域(イントロンを含む)内又はその下流にある領域が含まれ得る。
【0196】
抗体の定常領域の全て又は一部分の修飾のためには、本発明の修飾配列には、特定のエフェクタ機能、クラス及び/又は由来をもつ抗体定常領域(例えばヒト免疫グロブリン又はその他の任意の種のIgG、IgA、IgM、IgD又はIgE定常領域)又は、該抗体の定常領域の活性又は特性を修飾する定常領域の一部分、ならびに例えば酵素、毒素などといった修飾済み抗体分子に幾分かの新しい機能を付与するその他の分子をコードする遺伝子が含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0197】
問題のタンパク質をコードする遺伝子(単複)は、分泌経路に遺伝子産物を導く機能的リーダー配列をコードするヌクレオチド配列に操作可能な形でリンクされていてよい。
【0198】
さらに、例えば重鎖及び軽鎖を含むポリクローナル抗体といったような問題のタンパク質をコードするGOIに対し3’のところには、強いポリアデニル化シグナルが存在し得る。以下の実施例の中でのマウスイソタイプIgG1の使用は、例示を目的としたものであって、本発明の範囲を制限する意図をもつものではない。
【0199】
f)GOIの発現を可能にするプロモーターが提供される。従って、発現のためのプロモーター及びエンハンサ要素を含むカセットが記載されている。発現ベクターの中では、各々の抗体遺伝子は、転写カセットの一方向、双方向又は尾−尾方向性のいずれが使用されるかに関わらず、2つの鎖の各々の高レベル発現を導く独自の哺乳動物プロモーター要素によって先行され得る。
【0200】
双方向の発現方向性では、頭−頭プロモーター形態を使用することができる(かかる系の構築は、その全体が本発明に参照により援用されている米国特許第5,789,208号明細書の中で詳述されている)。一方向発現系においては、発現のために例えばIRES配列と組合わされた2つのプロモーター又は1つのプロモーターも同様に使用できる。
【0201】
頭−頭プロモーターの構築のためには、プロモーターのPfu PCR増幅が個別に実施される。5’−プライマはプロモーターの最も5’の塩基上で開始することになり、3’末端プライマは、XbaI部位といったようなユニーク制限部位を含むことになる。PCR増幅に続いてフラグメントは、アガロースゲル上で分離され得、Qla Quickカラム(キアゲン(Qiagen))を用いてゲルから単離され得る。この後、XbaI制限消化、65℃で20分間の熱不活性化及びQiaQuickを用いたフラグメントのカラム精製が続く。フラグメントはこのとき混合され、付着末端を優先的に連結する酵素であるE.coliリガーゼ(ニューイングランドバイオラブ(New England Biolabs(NEB))を用いて合わせて連結される。連結混合物は、各プロモーターの5’−プライマでPCR増幅されて、完全な頭−頭プロモーター(プロモーターA/プロモーターB)フラグメントを生成する。このフラグメントは、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)(NEB)でキナーゼ処理され、該酵素は、20分間65℃で不活性化され、フラグメント(平滑末端)は、問題のベクター(増幅に用いられたプライマがプロモーター領域の各々の側でアニールしてプロモーターを除いた全てを増幅する、PCR増幅されたpSymvc10(図4参照)フラグメント)の中に、T4リガーゼ(NEB)を用いて連結される。
【0202】
図1及び2は、それぞれに双方向及び一方向向けのプロモーターを含む発現ベクターを示す。これらのプロモーターは、本発明におけるプロモーターの選択を例示する意図をもつが、それを制限するわけではない。
【0203】
g) 発現ベクターは、組込み及び/又はIRES部位における増大した発現のため、エンハンサ及び/又はUCOEといった付加的な転写及び/又は翻訳調節要素を担持することができる。
【0204】
実施例3
開発された製造系内でのポリクローナル性保存の評価
製造系の安定性及び再現性を評価できるようにするため、既知の組合せでの別個の抗体のポリクローナル組成物を発現する細胞系統を調製した。該ポリクローナル抗体組成物は、ミニシックス組成物と呼ばれた。ミニシックス組成物をコードする核酸配列ライブラリーは、ミニシックスライブラリーと呼ばれた。
【0205】
(a)クローン起源
この実施例では、抗原1〜6に対する反応性をもつFabフラグメント(問題の遺伝子)をコードする以下の配列を使用した:
1.オボアルブミン(OVA)。Fabコーディングフラグメントは、マウス抗−OVAファージ提示ライブラリーから選択された。
2.アルカリホスファターゼ(AP)。Fabコーディングフラグメントは、マウス抗APファージ提示ライブラリーから選択された。
3.β2−ミクログロブリン(β2m)。Fabコーディングフラグメントは、β2mに対して生成されたハイブリドーマBBM.1(デンマークのL.φ、ペデルセン(Pedersen)博士から寄贈されたもの)からクローニングされた。
4.ヒトハプトグロブリン(HAP)、Fabコーディングフラグメントは、マウス抗ヒトハプトグロビンファージ提示ライブラリーから選択された。
5.第VIII因子(FVIII)。このFabフラグメントの親モノクローナル抗体は、FVIIIF25モノクローナル抗体(デンマーク、ノボノルディスク(Novo Nordiskから寄贈されたもの)であった。このFabフラグメントのVH及び完全カッパ鎖をコードするDNAは、ファージミドへとサブクローニングされ、その後、原核性プロモーターカセットが構築物内に挿入された。
6.ニワトリ卵白リゾチーム(LYS)。この構築物は、VH及びVKフラグメントのPCR増幅及びファージミドへのクローニングによって、D1.3scFvクローン(ブロット(Boulot)G.ら、J.Mol.Bio.,213(4)(1990)617−619)から生成された。
【0206】
ファージミドクローンは、形質転換済み大腸菌菌株TG1グリセロールストック(−80℃に保たれたもの)の中か又はファージミドDNA調製物として存在する。
【0207】
(b) ミニシックスライブラリーのRFLP分析及びDNA配列決定
Fabフラグメントの重鎖をコードするヌクレオチド配列を以下のようにRFLPによって分析した;NlaIII及びHinfI酵素でのPCRで生成されたフラグメントの消化の後に得られたバンドパターンを検討した。異なるFabフラグメントコーディング配列は非常に異なる容易に区別可能なパターンを示した。VH及びVLフラグメントをコードするヌクレオチド配列を配列決定し、RFLPパターンに対応する配列を発見した。さらに、ヌクレオチド配列は、読取り枠をコードし、明確なポリペプチドに翻訳した。
【0208】
(c)ミニシックス組成物のELISA分析
クローンから発現されたFabフラグメントを、ELISAを用いて分析し、この中で、全てのFabフラグメントを全ての抗原との反応性について分析した。抗カッパELISAを用いてFab発現を監視した。ELISA内では、全てのFabフラグメントを、デュプリケートでテストした。全てのクローンはFabフラグメントを発現し、Fabフラグメントはその関連する抗原と特異的に反応した。ELISA分析においては、いかなるバックグラウンド問題も見られなかった。
【0209】
個別に形質転換された大腸菌菌株TG1グリセロールストックの中に6つのファージミドクローンが存在し、これらが以下に記載されている通り接種のためのモデル系の中で使用された。
【0210】
(d)既知の組合せでの6つの別個の抗体を伴うポリクローナルモデル系の設計
関連する抗原に対する発現されたFabフラグメントの反応性をテストすることにより、6つの選択されたFab発現クローン(抗−OVA、抗−AP、抗−β2m、抗−HAP、抗−FVIII、及び抗−LYS)を特徴づけした。これらのクローンは、既知の組合せでの6つの別個の抗体(ミニシックス組成物)の発現及び産生をテストするためのポリクローナルモデル系の一部を成していた。ヌクレオチド配列をコードする全てのFabフラグメント(ミニシックスライブラリー)をファージミドベクター(pSymvc10により例示されているもの、図4A)内に移送した。
【0211】
(d.1) ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへのGOIの個別移送
ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへの問題の遺伝子(ミニシックスライブラリー)の移送は、この例では、2ステップ手順によって実施された。第1のステップは、頭−頭方向性で哺乳動物プロモーターカセットで原核性プロモーターを置換することにあった。このステップの後、以下で詳述された図4に例示されているように、GOIの可変領域、プロモーターカセット及び定常のカッパが発現ベクターに移送された。
【0212】
頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)は、SacI/XhoI消化を用いそれに続いて細菌から哺乳動物へのプロモーターの交換を結果としてもたらす連結を行なうことによって、各クローンについてファージミドベクター内に挿入された。その後、EcoRI及びNotI消化物を用いて、可変的重鎖、頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)及び完全カッパ鎖(EcoRI/NotIフラグメント)をファージミドベクターから発現ベクターまで移動させた。
【0213】
各クローンの個別移送の一例は、図4に流れ図と共に示されている。この図は、pSymvc12を生成するSacI/XhoIフラグメント移送を用いて細菌プロモーターを置換するべく頭−頭哺乳動物プロモーターカセット構築物が中に連結されたファージミドベクターの中に問題の重及びカッパコーディング配列(例えばge032OVA)が存在している、プラスミドpSymvc10を示す。
【0214】
この構築物から、カッパ鎖コーディング配列全体及びプロモーターカセットを含む可変重鎖コーディング配列は、NotI/EcoRI移送により哺乳動物イソタイプ−コーディングベクター(pSymvc20)内に移送された。結果としてのベクター(pSymvc21)は、問題のマウス抗体(例えば抗−OVA IgG1抗体)を発現した。
【0215】
6つのクローンの各々からの全カッパ鎖コーディング配列、哺乳動物プロモーターカセット及び可変重鎖コーディング配列は、個別にNotI/EcoRI移送により移送され、結果として哺乳動物発現ベクターpSymvc21をもたらし、このベクターはマウスIgG1抗体としてGOIコードされた抗体配列の各々を発現する。
【0216】
6つのGOIを含む6つの個別pSymvc21クローンは、TG1グリセロールストックとして保たれた。
【0217】
CHO Fip−In細胞内へのトランスフェクションのためには、TG1ストックを個別に増殖させ、E.coli細胞の数についてのOD600正規化の後、6つの培養を混合させ、プラスミド調製のために使用した。組換え型ポリクローナルタンパク質発現のための哺乳動物細胞のバルクトランスフェクションのために、6つのGOI(ミニシックスライブラリー)を含むこのプラスミド調製物を使用した。
【0218】
(d.2)ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクター内へのGOIの大量移送
ファージミドベクター内に位置設定され6つの別個のFabフラグメント(抗OVA、抗AP、抗−β2m、抗HAP、抗−FVIII及び抗−LYS)についてコードするGOI(ミニシックスライブラリー)(ここではEcoRI/NotIフラグメント)を、6つのベクター構築物の混合物として哺乳動物発現用ベクター内にまとめて移送し、結果として6つの別個の発現ベクターをもたらした。
【0219】
大量移送に関する実験的手順は、それがまとめて実施された、すなわち(頭−頭プロモーターカセット及び完全カッパ鎖を含め、可変重鎖をコードする)6つのGOI全てが6つのファージミドベクターの混合物として同時に移送された、という点を除いて、(d.1)に記載した手順に従っている。
【0220】
ミニシックスライブラリーのプラスミド調製物
プラスミド調製物1は、(抗体コーディング配列がベクターpSymvc10内に含まれている状態で)6つのファージミドベクターの混合物のプラスミド調製物を意味する。
【0221】
プラスミド調製物2は、哺乳動物プロモーターカセット構築物との原核性プロモーターの交換を結果としてもたらす、大量移送ステップ1後のベクターpSymvc12(図4c)に含まれるコーディング配列を伴う6つのファージミドベクターのプラスミド調製物を意味する。
【0222】
プラスミド調製物3というのは、哺乳動物発現ベクター(pSymvc21)に対するpSymvc12からの可変重鎖、頭−頭プロモーターカセット及び完全カッパ鎖の交換を提供し、かくして全長マウスIgG1抗体としての6つの選択された抗体の発現を可能にする大量移送ステップ2の後のプラスミド調製物(図4D参照)を意味する。
【0223】
大量移送において使用されたプラスミド調製物で形質転換されたTG1細胞の遺伝子型特定
TG1細胞を、まとめて電気穿孔によってミニシックスライブラリーで形質転換させ、2xYT(SigmaY2627)プレート上での一晩のインキュベーションの後、個別コロニーを採集した。各々の実験において、180のコロニーを採集し、2xYT液体培地内で4時間、96ウェルのフォーマットでインキュベートした。培養のアリコートを水で希釈し、変性させ、PCR内で鋳型として使用した。全ての実験において、可変重鎖を増幅した。ファージミドベクター(pSymvc10−型)のプライマ配列は、以下のとおりであった:
5’−GCATTGACAGGAGGTTGAGGC−3’(配列番号2)及び5’−GCTGCCGACCGCTGCTGCTGGTC−3’(配列番号3)
【0224】
哺乳動物プロモーターカセットを伴うベクターのためのプライマは(pSymvc12−型)、以下のとおりであった:
5’−GCATTGACAGGAGGTTGAGGC−3’(配列番号4)及び5’−GTGTCCACTCTGAGGTTCAG−3’(配列番号5)
【0225】
pSymvc21構築物のためのプライマは以下のとおりであった:
5’−CAAATAGCCCTTGACCAGGC−3’(配列番号6)及び5’−GTGTCCACTCTGAGGTTCAG−3’(配列番号7)。
【0226】
明白な遺伝子型特定を確実にするため、全てのPCR産物をNlaIII及びHinfIの両方で消化した。消化フラグメントをアガロースゲル電気泳動によって分析し、EtBr染色によりバンドを視覚化した。RFLPにより決定されたフラグメントパターンと類似する個別遺伝子型の数は、採集されたコロニーの合計数の中の6つの抗体の各々を表わす個別のコロニーの数に対応する。
【0227】
(d.2a)E.coli細胞内でのDNA増幅(2−ステップ増幅方法)の後のファージミドベクターから哺乳動物ベクターへの大量移送
プラスミド調製物1を、ミニシックスライブラリーを構成する6つのファージミドベクターのうちの1つを含む6つのE.coliTG1グリセロールストックの各々から調製した。ストックを個別に調製し、E.coliの数についてのOD600正規化の後、6つの培養を等量で混合し、プラスミド調製のために使用して結果としてプラスミド調製物1を得た。エレクトロコンピテントTG1細胞への形質転換及びその後のRFLP分析によって、プラスミド調製物1内の6つのファージミドベクターの遺伝子型分布をテストした。TG1細胞内の異なる遺伝子型の分布は図5に示されている。
【0228】
6つの選択されたFabフラグメント遺伝子型の等しい混合物を発現するポリクローナルファージミドベクターを含むプラスミド調製物1をSacI/XhoIで消化させた。その後、連結により、頭−頭プロモーターカセット(CMVプロモーター/MPSVプロモーター)を挿入した。ベクター内のプロモーター交換後のベクターの遺伝子型分布を、連結ステップからのDNAでの形質転換後にTG1細胞内でテストした(図6)。
【0229】
細胞をプレート固定し、大きい(245mm×245mm)2×YT寒天プレート上で成長させ、今や頭−頭プロモーターカセットを含有するファージミドベクター(pSymvc12)を生成するためにプラスミド調製物を調製した。
【0230】
プラスミド調製物2から、プロモーターカセット及び完全カッパ鎖配列を含む可変重鎖コーディング配列をNotI/EcoRI消化物によりファージミドベクターから切り取り、すでにマウスIgG1の定常領域ドメインを含むベクター(pSymvc20)内に移送した。こうして、pSymvc21ベクターの収集物が結果としてもたらされ、これは、全長マウスIgG1抗体として6つの選択された抗体クローンの可変領域を発現する。
【0231】
代替的には、プロモーター移送は、イソタイプをコードする哺乳動物ベクターにおいて、哺乳動物ベクターに対する問題のDNAの移送のためのNotI/EcoRIで始まる制限消化物そして次にプロモーター領域の挿入のためのSacI/XhoI制限消化物フラグメントの順序を逆転させて実施することもできる。
【0232】
可変重鎖コーディング配列、プロモーターカセット及び全カッパ鎖コーディング配列を発現ベクター内に移送した後の遺伝子型の分布を、第2の連結ステップからのDNAでTG1細胞を形質転換することによってテストした(図7)。細胞を大きい(245mm×245mm)2×YT寒天プレート上に固定し、6つのクローンの可変領域がマウスIgG1抗体枠組の状況下で発現されているプラスミド調製物3を調製した(pSymvc21)。
【0233】
プラスミド調製物3は、組換え型ポリクローナル抗体発現のための組換え型ポリクローナル製造細胞系統を生成するべく哺乳動物細胞のバルクトランスフェクションのために用いることができる。
【0234】
E.coli細胞内のDNA増幅の後のファージミドベクターからイソタイプコーディング哺乳動物ベクターへの大量移送の結果は、個別に増殖させ混合させた後に6つのベクター構築物の均衡のとれた分布を得ることが可能であるということを示した(プラスミド調製物1、図5)。6つの構築物は、プロモーターカセットの交換後(プラスミド調製物2、図6)ならびにマウスIgG1イソタイプコーティングベクター内への挿入後(プラスミド調製物3、図7)、全て比較可能なレベルで検出可能であった。
【0235】
(d.2b)プラスミド調製物1ステップ後のE.coliにおけるDNA増幅無しのファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへの大量移送(1ステップ増幅方法)
6つの選択されたFabフラグメント遺伝子型の等しい混合物を発現するポリクローナルファージミドベクター(pSymvc10)を含むプラスミド調製物1からのDNA(ここでは25μgを使用)を、プロモーターの交換のためSacI/XhoIで消化させた。SacI/XhoIベクターフラグメントを精製し、頭−頭プロモーターカセット(CMVプロモーター/MPSVプロモーター)と連結させた。いかなる増幅も実施せずにプロモーターを交換した後、CMV/MPSVプロモーターカセットを伴うベクターを、大量移送用ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへと、プロモーターカセット及び全カッパ鎖コーディング配列を含めた可変重鎖コーディング配列で全領域を切取るためにNotI/EcoRIで消化させた。可変重鎖、プロモーターカセット及びカッパ鎖をコードするNotI/EcoRIフラグメントをマウスIgG1−コーディングベクター(pSymvc20)内に連結させた後、マウスIgG1全長抗体という状況下で6つの選択されたクローンの可変領域を発現する発現ベクターを獲得した。この発現ベクターの組成は、図1に例示されている。
【0236】
ベクター内のプロモーター交換及び可変重鎖、プロモーターカセット及び完全カッパ鎖をコードするヌクレオチド配列の哺乳動物発現用ベクター内への移送を結果としてもたらす大量移送の後、第2の連結ステップからのプラスミドによるTG1細胞の形質転換により、遺伝子型の分布をテストした。大きい(245mm×245mm)2×YT寒天プレート上に細胞を固定し、この2重消化/連結プラスミド調製物というプラスミド調製物を調製した(ベクターpSymvc21、この中では、6つのクローンの可変領域は、d、2aからのプラスミド調製物3に対応する、マウスIgG1抗体という状況下で発現される)。1ステップ増幅方法からのプラスミド調製物による形質転換後のTG1細胞内の遺伝子型分布は、図8に示されている。
【0237】
1ステップ増幅方法は、E.coli内での増幅中では通常削除されている望ましくない連結産物の生成の結果としてもたらされる6つのFabコーディング配列からの重鎖及び軽鎖の間の幾分かのスクランブリングを導入する可能性がある。しかしながら、このようなスクランブリングが発生した場合、充分なクローン多様性を確実に維持できるようにするためスクリーニングステップを導入することができる。
【0238】
(d.2c)プロモーター交換後の哺乳動物細胞の直接的トランスフェクション
2ステップ増幅方法又は1ステップ増幅方法のいずれかからのミニシックスライブラリーのプラスミド調製物からの産物を、組換え型ポリクローナル抗体発現のために哺乳動物細胞をまとめてトランスフェクションすることに直接使用することができる。
【0239】
(d.3)トランスフェクションを受けた哺乳動物細胞の試験
ミニシックスポリクローナルモデル系の既知の抗体組合せを使用してテストを行ない、哺乳動物細胞内への大量移送及びトランスフェクションを、クローン多様性を維持するような形でかつトランスフェクション及びその後の培養中の抗体可変配列遺伝子型の組成に偏向を導入することなく確実に発生させることができる。大量移送、バルクトランスフェクション及び哺乳動物発現のプロセス全体を通して遺伝子型組成を監視する方法には、以下のものが含まれ得る:
−単離されたクローンのDNA配列決定、
−個別クローンのRFLP分析、
−産生された抗体混合物のELISA、
−産生された抗体混合物の質量分析、
−異なる重鎖及び軽鎖を発現するmRNA及びゲノム配列の相対的組成物のTaqmanPCR。
【0240】
トランスフェクションプロセス中に導入された遺伝子型組成の偏差は、それが万一発生する場合、無作為組込み又は多重組込み体によりひき起こされ得る。「発明を実施するための最良の形態」の中で記載しているように、部位特異的組込み用に予め設計された宿主細胞系統を用いた場合に問題がひき起こされる確率は低い。しかしながら、これをさまざまな形で制御することは可能である。無作為ゲノム位置(部位特異的位置以外の場所)における組込みに反対する選択は、例えばリポフェクタミンでトランスフェクションを実施する場合には1μg/107個の細胞又電気穿刺法によりトランスフェクションを行なう場合には0.2μg/107個の細胞といったような非常に少量のDNAを用いて行なうことができる。同様に、組込まれるべきDNAは、無作為組込みのためには不利であるものとして知られている形態であるスーパーコイル状の形で供給され得る。
【0241】
予め設計された標的部位の外側での単一の又は多数の組込みは、選択可能マーカーがプロモーター又は開始コドン無くゲノム内に存在することになるため、負の選択により除去されることになる。従って、これらの無作為組込み事象の受容細胞は選択プロセスを生き延びる事ができない。
【0242】
組換え事象の1つが標的部位において発生する多数の組込みを有する形質転換体は、選択プロセスを生き延びることになる。ただし、このタイプの多重組込みの確率はきわめて低い。従って、この事象は、ポリクローナルタンパク質の最小のスクランブリングを導く。さらに、たとえ異所性発現が高くても、同じ組換え型ポリクローナルタンパク質をコードする100〜1000個のその他のクローンが存在すると思われることから、多重組込みが発生した場合のスクランブリング効果は、約1%未満となるだろう。前述のとおり、異所性組込みの確率は、該方法で使用されるDNAの数量を減少させることによって低減され得る。
【0243】
最も確率の低い事象は、標的部位における多重縦列組込みである。ここで記載されているFlpリコンビナーゼ系を用いると、染色体からの切除活性が組込み活性よりも著しく高いことから、このタイプの事象は稀になる。ただし、万一受容できないほど高い頻度で縦列組込みが発生した場合には、Flp系は、単一のコピーインサートのみが可能であるものと交換され得る(例えば、参照により援用されている国際公開第99/25854号パンフレットを参照のこと)。
【0244】
(e) 哺乳動物細胞内の既知の組合せでの6つの別個の抗体の発現
一般に可変増殖速度を最小限におさえるためには、各々の特異的GOI(この場合は、ミニシックスライブラリーの各々の個別成員)を少なくとも100、好ましくは1000そして最も好ましくは10000個の細胞内に組込むことが好ましい。全てのGOIについて同じGOIを発現する多数の個別細胞を含むポリクローナル細胞系統が、個別細胞の増殖速度差により受ける影響がより少なく、最終的ポリクローナルタンパク質組成の偏向の可能性が低いということが、統計的に予想されている。
【0245】
さらに、発現のための均質な宿主細胞系統を確保するのが有利である可能性がある。これは、トランスフェクションに先立ち宿主細胞系統をサブクローニングすることによって達成され得る。このプロセスは、クローン多様性に関する段落で記載されている。
【0246】
さらなる偏向制御が望まれるポリクローナルライブラリーについては、ポリクローナルタンパク質産物の最終組成は、発現ベクタープラットフォーム内に誘発可能な転写制御要素を導入することによって制御され得る。適切な誘発可能な制御要素としては、例えば、BDTetオン/オフ(BDバイオサイエンス(BD Bioscience)ニュージャージ州フランクリンレイクス(FranklinLakes,NJ))及びジーンスイッチ(Gene Switch)(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)が含まれる。これらの転写スイッチは、遺伝子発現又はタンパク質産物内の変動に起因するあらゆる増殖偏向を最小限におさえるため、適切な時点(例えば細胞プールが充分に拡張した時点)で誘発可能である。当該実験は、かかる制御要素では実施されなかった。
【0247】
(d.1)に記載されているように個別に又は(d.2)に記載されているような大量移送によりファージミドベクターから哺乳動物発現ベクターまで6つの選択されたGOIを移送した後、以下に記載されているように、6つの別個の抗体を発現するため部位特異的組込みを使用することによりCHO−Flp−In細胞系統内のホットスポットにトランスフェクションを行なうために、哺乳動物発現ベクターを使用した。
【0248】
個別に移送されたGOI(d.1)用として、プラスミドDNAを個別に増殖させ、CHO Flp−In細胞内への個別トランスフェクションのために使用するか、そうでなければTG1ストックを個別に増殖させ、E.coli細胞の数についてのOD600正規化の後、6つの培養を混合し、プラスミド調製物のために使用した。問題の6つの遺伝子を含有するこのプラスミド調製物は、組換え型ポリクローナル抗体発現のため、哺乳動物細胞のバルクトランスフェクションに用いられた。
【0249】
大量移送されたGOI(d、2a又はd、2b)については、プラスミドDNAがCHO−Flp−In細胞内にトランスフェクションされるか又は、(d、2a又はd2、b)に記載された手順に従って増幅され精製され(プラスミド調製物3)次にバルクトランスフェクションのために用いられる。
【0250】
(e.1) 細胞培養
グルタミン(2mM)及びFCS(10%)及び100μg/mlのゼオシン(インビトロジェン、カリフォルニア州カールスバッド)を添加しながら、ハムのF−12培地内にCHO−Flp−In 宿主細胞系統(インビトロジェン、カリフォルニア州、カールスバッド)を維持した。サブクローニングのためには、細胞をトリプシンで離脱させ、メーカーの指示に従って分割させた。細胞を37℃、5%CO2で成長させた。培地及び培地添加剤は、ギブコ(Gibco)製のものであった。
【0251】
この細胞系統は、lacZ−ゼオシン融合遺伝子を安定した形で発現させ、外来性遺伝子の部位特異的組込みの時点で失なわれる耐性である抗生物質ゼオシンに対する耐性を細胞に付与する。細胞は、Flp組換え標的(FRT)部位の単一コピーを含有し、かくしてFlp−In系(インビトロジェン、カリフォルニア州カールスバッド)の使用により部位特異的組込みのための宿主細胞系統としていつでも使用できる状態にある。
【0252】
(e.2) CHO細胞のトランスフェクション
6つのウェルを伴う組織培養プレートに、4.0×105個のCHO−Flp−In細胞/ウェルを接種し、これらのプレートを37℃/5%CO2でO/Nインキュベートした。メーカーの指示に従い、FuGENETM6(ロッシュ(Roche))、LipofectineTM、LipofectAminTM、又はLipofect AMINE2000TM(ジブコ(Gibco))を用いて異なるTFN方法をテストして、これらの細胞のトランスフェクションを実施した。この例では、トランスフェクション試薬としてLipofectAMINE2000TMを使用した。簡単に言うと、トランスフェクションの前日に、上述のとおりに、指数増殖するCHO−Flp−In細胞を播種し、37℃/5%CO2でO/Nインキュベートした。同時トランスフェクションのために、85〜95%の細胞集密度をもつウェルを使用した。
【0253】
以下の中味を有する2本のチューブを調製した:
チューブ1: (d.1)で記載されているGOIを伴う個別の発現ベクター0.5μg(例えばOVAを伴うpSymvc21)+4.5μgのmp040(pOG44のマキシプレップ)(リコンビナーゼFlpを発現するプラスミド)を、250μlのOptimem(1.5mlのエッペンドルフ管)に添加した。
【0254】
チューブ2: 250μlのOptimem(1.5mlのエッペンドルフ管)に対して、7.5μlのLipofect AMINE2000TMを添加し、5分間室温(RT)でインキュベートした。
【0255】
チューブ2の中味を試験管1に移送し、その後20分間RTでインキュベートした。
【0256】
メーカーの指示に従ってDNA−リポフェクタミン複合体を、細胞を伴うウェルに移した。
【0257】
24時間後に、トリプシンによって細胞を離脱させ、(1:3)に分割し、T−25フラスコと100mm入りペトリ皿に分配し、選択圧として900μgのハイグロマイシンB/mlを伴う新鮮な栄養混合物F−12Ham+10%FCS+2mMのL−グルタミン培地内で培養した。
【0258】
(e.3) 部位特異的組込み体の選択及びトランスフェクションを受けた細胞の二次培養
2〜3週間ハイグロマイシンB選択圧下で細胞を培養し、この期間中、2−4日毎に同じ濃度の選択用作用物質を含有する新しい培地で細胞をリフレッシュした。T−25フラスコ及びペトリ皿内の生き延びた細胞プールをトリプシンにより離脱させ、(1:6)で分割させ、上述の選択圧下でのさらなる増殖のためT−フラスコに分配した。(d.1)に記載された方法に従って生成された形質転換体を含有するペトリ皿から(いわゆるクローニングシリンダを用いて)いくつかの単一クローンを採集し、増殖及び発現レベル研究用に新しいウェルに移送した。
【0259】
閾値ハイグロマイシンB濃度に対する耐性をもつ細胞又は単一クローンの各プールをその後、6ウェルプレート内で集密状態となるまで成長させ、ペトリ皿、T−25、T80及びT−175フラスコ内でそのそれぞれの培地プラスハイグロマイシンBの中で再度プレート固定した。指数増殖中の細胞がT80組織培養フラスコ内で80%の集密度に達した時点で、各々の細胞系統のガラスビンを凍結させ、液体窒素N2(L)−フリーザー内に貯蔵した。
【0260】
6つの問題の遺伝子を含有するプラスミド混合物(ミニシックスライブラリー)でのトランスフェクションのために、6つの個別培養を、E.coliの数についてOD600で正規化し、混合し、6つの問題の遺伝子を含有するポリクローナルプラスミド調製物のために使用した。上述のものの7.5倍もの試薬及び細胞を用いたトランスフェクション手順を実施し、6つの別個の抗体の混合物を発現する組換え型ポリクローナル細胞系統を産生させた。
【0261】
選択された抗体の個別成員を発現する6つの細胞系統及び6つの別個の抗体の混合物を発現する細胞系統を、培養及び増殖の間、抗原特異的ELISAにより抗体産生についてテストした。
【0262】
(f) 既知の組合せの6つの別個の抗体を発現するポリクローナル細胞系統の組成の監視
発現ベクター内にある6つの選択された問題の遺伝子の混合物を生成しその後バルクトランスフェクション及びCHO−Flp−In細胞内への部位特異的組込みを行なうことにより、6つの別個の抗体を発現するポリクローナル細胞系統を生成した。
【0263】
34日間、細胞系統を追跡調査し、ここで遺伝子型分布、抗体発現及び増殖速度を追跡した。結果は以下で記載されている。
【0264】
(f.1) OD600正規化された細胞混合物からのプラスミド調製物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞中の6つの選択された問題の遺伝子の遺伝子型分布
ポリクローナルCHO−Flp−In細胞系統をトリプシン処理し、細胞懸濁液を10個の細胞/mlまで希釈させた。その後、合計10枚の96ウェルプレートの各ウェルに200μlを移送した。約10日後、単一コロニーをもつウェルを顕微鏡検査により同定した。単一コロニーを伴うウェルをPBS中で1回洗浄し、50μlの水を添加した。プレートを10分間80℃でインキュベートし、溶解物をもう1つの96ウェルプレートに移した。10μlの溶解物を、以下のプライマと共に25μlのOneStep RT−PCR(キアゲン(Qiagen))中で使用した。
5’−CAAATAGCCCTTGACCAGGC−3’(配列番号6)及び
5’−GTGTCCACTCTGAGGTTCAG−3’(配列番号7)
【0265】
2時間37℃でインキュベートさせた15μlの反応中の10μlのRT−PCR混合物上でHinfI及びNlaIIIを用いて、RFLPを実施した。消化フラグメントをアガロースゲル電気泳動とそれに続くゲルのEtBr染色を用いて視覚化した。経時的に(トランスフェクションから16日及び34日後)抗−OVA、抗−AP、抗β2m、抗−HAP、抗−FVIII及び抗−LYSを産生する細胞の遺伝子型分布を追跡調査した。図9を参照のこと。
【0266】
(f.2)E.coliのOD600正規化混合物(d.1)からのプラスミド調製物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞に由来する試料のELISA
ポリクローナルCHO−Flp−In細胞系統(e.3)をトリプシン処理し、T−75フラスコ内でF−12HAM+10%FCS+2mMのL−グルタミン及び900μgのハイグロマイシン中で、3×106個の細胞をプレート固定した。培地を毎日変え、3日目にELISAのために上清を選択した。50mMの炭酸塩緩衝液中で10μg/mlに至るまで、抗原(β−ミクログロブリン)(コペンハーゲン大学から寄贈されたもの)、アルカリホスファターゼ(シグマ(Sigma))、オボアルブミン(シグマ)、第VIII因子(デンマークのノボノルディスク(Novo Nordisk)より寄贈されたもの)、ニワトリ卵白リゾチーム(シグマ)及びハプトグロピン(シグマ))を希釈させた。ELISAプレートに抗原(各ウェルに50μl)をコーティングし、4℃でO/Nインキュベートした。洗浄用緩衝液(1×PBS/0.05%のツィーン(Tween)20)で4回ウェルを洗浄し、洗浄用緩衝液(各ウェルに対し100μl)中2%のスキムミルク粉末で1時間遮断した。ウェルに50μlの試料を添加し、プレートをRTで1時間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、1時間二次抗体(ヤギ抗マウスIgG/HRP接合体(シグマ))を添加し、ひき続き4回洗浄した。ELISAをTMB基質(各ウェル中50μl、DAKO S1600)で5分間展開させ、1MのH2SO450μlを添加することにより、反応を停止させた。プレートを450nmで直ちに読みとった。問題の6つの遺伝子をコードする発現ベクターの混合物でのトランスフェクション後34日目に誘導された溶解物中での6つの問題の抗体全ての発現を実証するデータが、図10に示されている。図10に提示されているデータは6つの異なる抗原特異的ELISA検定から誘導されていることから、OD450の読取り値は抗体の数量に関し直接比較可能ではないということを指摘すべきである。
【0267】
抗体発現レベルは、各々の個別GOI又は6つのGOIの混合物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞のプール内で抗カッパコートELISAによってさらに分析された。この結果は図11に示されている。これは、抗体発現レベルが、個別にトランスフェクションされた細胞系統の間で匹敵するものであることを示している(例えば、抗−β2mコーディングベクターでのトランスフェクションを受けた細胞系統は、抗AP抗体をコードするベクターでのトランスフェクションを受けた細胞系統に比べ匹敵する量の抗体を発現する)。個別GOIでのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞のプールという語がここで使用されているのは、個別細胞系統が単一クローンから誘導されずe.3で記載されているように複数のクローンプールから誘導されているからである。
【0268】
(g) 実験からの結論
まず第1に、製造系におけるポリクローン性の保存についてのこれらの評価(試験)は、ファージミドベクターから哺乳動物発現ベクターへの(抗OVA、抗AP、抗β2m、抗HAP、抗−FVIII、及び抗LYSをコーディングする)ミニシックスライブラリーからの6つの選択された問題の遺伝子の大量移送が、選択又は増殖偏向の導入なく可能であり(図7)、かくして、6つの選択された問題の遺伝子に関して匹敵する頻度で終了するということを示した。
【0269】
第2に、6つの選択された問題の遺伝子を含む構築物の混合物でのCHO−Flp−In細胞のバルクトランスフェクションは同様に、単離された哺乳動物細胞内の構築物の比較可能な分布を結果としてもたらした。経時的な(トランスフェクション後16日目及び34日目)6つの選択された問題の遺伝子の遺伝子型分布も同様に類似であり(図9)、このことは、発現系が34日目まで、増殖偏向を導入することなく6つの遺伝子型の当初の等しい分布を維持しているということを示していた。
【0270】
第3に、6つの問題の遺伝子の混合物でのバルクトランスフェクションを受けた細胞は、トランスフェクション後34日目に細胞からの上清についての抗原特異的ELISAにより検査された通り、6つの抗体全ての発現を示した(図10)。異なる抗原についてのELISAの結果は、異なる結合親和力に起因して、抗体量に関して直接比較可能ではない。
【0271】
しかしながら、a)(d.1)で記載されているようなベクター調製物を用いて生成された6つの個別にトランスフェクションされたCHO−Flp−In細胞系統からの上清及び、b)6つの選択された問題の遺伝子の混合物を発現するポリクローナル細胞系統の上清について実施されたヤギ抗マウスカッパ鎖抗体でのコーティングに基づく捕捉ELISAは、6つの遺伝子型から匹敵する抗体発現レベルを示した。
【0272】
要約すると、ファージミドベクターから哺乳動物発現ベクターへとポリクローナルGOIをまとめて移送することが実現可能なものであることが実証された。このことは以前にシャロン(Sharon)(米国特許第5,789,208号明細書)で記載されてきた。さらに、哺乳動物発現構築物の混合物は、哺乳動物細胞内にまとめてトランスフェクションされ得、少なくともトランスフェクション後34日目まで匹敵する頻度に維持され得る。
【0273】
実施例3A
ミニシックスライブラリーでのCHO−Flp−In細胞系統からのサブクローンのバルクトランスフェクションにより生成された細胞培地内のポリクローン性保存の評価。
【0274】
(a)「オリジナルの」CHOFlp−In細胞系統のサブクローニング
記載された通りに(実施例3、第e.1項)、オリジナルのCHO Flp−in細胞系統(インビトロジェン)を培養した。トリプシン処理細胞を計数し、96ウェルの培養プレート内でウェルあたり1個の細胞でプレート固定した。約14日後、単一のコロニーをもつ20のウェルを同定し、細胞をトリプシン処理し、24ウェルプレートに移送した。成長挙動ならびに発現レベルの特徴づけの後、今後の研究のために、サブクローン、CHO−Flp−Inクローン019の1つを選択した。
【0275】
(b)CHO−Flp−Inクローン019細胞のバルクトランスフェクション及び選択
トランスフェクションをトリプリケートで実施し、CHO−Flp−Inクローン019細胞の選択は基本的に、pSymvc21中でネオマイシン選択マーカーがハイグロマイシンマーカーで置換されたという点を除いて(図4.e)、記載されている通りに(実施例3、第e.2項及び第e.3項)で実施した。その結果、細胞の選択及び培養中、ハイグロマイシンBの代りにゲニチシン(450μg/ml)が使用された。
【0276】
(c)ミニシックスライブラリーでのバルクトランスフェクションを受けたCHO Flp−Inクローン019細胞から得た試料のELISA
トランスフェクション後73日間細胞を培養し、17、31、45、59及び73日目にELISA用試料を採取した。記載された通りに(実施例3、第f、2項)、(個別に精製されたミニシックス抗体を標準として用いて)定量的ELISAを実施した。3つの独立したトランスフェクションからの結果は図12に示されている。異なるトランスフェクションの間で異なる発現プロフィールが観察された。しかしながら、6つの抗体は全て、59日目まで全ての実験において検出可能であった。
【0277】
(d)実験からの結論
CHO Flp−Inクローン019細胞についてのネオマイシン選択系での実験は、バルクトランスフェクションの後2ヵ月間、個別バッチの比較的保存された発現プロフィールを示した(図12)。かかる安定性期間は、製造目的で充分なものである。観察されたバッチ間の変動は、生産に先立ち個別バッチの大きな凍結ストックを生成し貯蔵することによって処理できる。
【0278】
実施例3B
選択後の個別にトランスフェクションを受けたCHO Flp−In細胞を混合することによる細胞培地内のポリクローン性保存の評価
(a)CHO Flp−In細胞の個別トランスフェクション及び選択
ミニシックスライブラリーの個別成員を発現する6つの細胞系統の生成のための実験的手順については、先に記載した(実施例3、第e.3項)。等数(各細胞系統5×105個)での選択後直ちに、ミニシックスライブラリーの個別成員を発現する6つの細胞系統を混合し、混合細胞集団を85日間培養した。個別細胞系統から3つの個別混合物を作った。
【0279】
(b)(a)で生成されたポリクローナル細胞培養から得られた試料のELISA
試料を2週間後毎に採取し、ミニシックスライブラリーから発現された抗体の組成を、記載された通り(実施例3、第f.2項)ELISAにより決定した。ELISAを、混合後8、17、30、45、57、72及び85日目に実施した。結果(トリプリケートでの実験の平均±SD)は、図13に示されている。6つの抗体はすべて、混合物から85日後に検出可能であった。先に記載した通り(実施例3、第f.2項)、異なる抗体についての読取り値は直接比較可能ではなく、図13で提示されているデータは、少なくとも混合後45日目まで比較的安定した発現プロフィールを示し、その後、生産性の全体的降下が見られる。さらに、3つの独立した混合物から得られた結果の比較は、ミニシックス抗体の経時的に類似した発現プロフィールを示し、これは結果が再現可能であることを表していた。
【0280】
(c)実験からの結論
ミニシックスライブラリーの別個の成員でのトランスフェクションを個別に受けた細胞の混合物から成るポリクローナル細胞培養は、少なくとも混合から45日目までは、組成の保存を示した。45日間の組成保存は、大部分の場合、製造目的で充分な時間となる。その上、トリプリケートでの実験は類似の結果を示しており、かくして、異なる構築物での個別のトランスフェクションを受けた細胞の混合が低いバッチ間変動をもつ混合された細胞培養を結果としてもたらすことを示唆した。
【0281】
実施例4
抗オボアルブミン組換え型ポリクローナル抗体製造細胞系統の確立
(a)抗オボアルブミンポリクローナル抗体組成物の発現
完全に特徴づけされたオボアルブミン結合ファージクローンの収集物を以下の通りに同定した。生後8週の雌のBALB/Cマウス4匹を完全フロイドアジュバント中の50μgのOVAで、腹腔内及び皮下で免疫化させ、免疫化0日から21日目及び42日目に不完全フロインドアジュバント中のOVAでブーストし、全ての動物が、抗原特異的ELISAにより測定される通りOVAに対抗して変換された血清を有していることが確認された。31日目及び52日目に、最も良く応答したマウスから脾臓を収獲した。前述したように、ファージミドベクター(Symvc10)を用いて、脾臓RNAからFab提示ファージミドライブラリーを生成した。結果として得たライブラリーは、およそ106個の独立したクローンを含んでいて、これらのライブラリーの選択は、NUNCイムノチューブ上にコーティングされたOVAと5×1011個のFab提示ファージミドを反応させることによって実施された。第1ラウンドのパニングからの溶出液は、OVA結合剤を高い割合で含んでいたことから、第1及び第2ラウンドのパニングからの溶出液がOVA結合ファージクローンについてスクリーニングされた。
【0282】
最初に、ELISAによってOVA−反応性ファージクローンを同定した。簡単に言うと、ELISAプレートをOVAでコーティングし、ファージ提示されたFabsと反応させ、その後、HRP−接合された二次抗体と反応させた。負の対照としては、無関係の抗原(BSA)又は無関係のファージ提示されたFabs(抗−AP)を使用した。
【0283】
さらに、PVDF膜上のOVA固定化に基づいたHDS方法が確立された。これら2つの方法の結果として、別々のクローンサブセットすなわち1つのセットアップでOVAを認識しもう1つのセットアップでは認識しなかった一部のクローン及びその逆が同定されることとなった。ELISA又はHDSのいずれかによりOVAと反応したFab提示ファージクローンについては、VHの可変ドメインをコードするヌクレオチド配列を、DNA配列決定によって決定し、ベクターNTIソフトウェアパッケージを用いて、系統発生解析により遺伝子多様性を推定した。結果として得た一団には、127のOVA結合クローンが含まれ、その全てについてVHの可変部分のヌクレオチド配列が確立された。
【0284】
127個のOVA結合クローンによって発現されたFabフラグメントは全て、未変性及び変性形態のいずれかのオボアルブミンに結合する能力を有する。このセットから、我々は、大量移送及び哺乳動物発現のために使用すべき例えばpSymvc10といったファージミドベクター内に含まれたほぼ30の異なるクローンを同定した。これらの抗体は、マウスIgA、IgG2A又はIgG2B抗体のいずれかの形で発現される。我々は、これらの抗体産生クローンのDNA配列を完全に特徴づけしていたことから、実施例3に記載された6つの別個の抗体をもつモデル系について使用されたものと同じ方法を用いて、大量移送及び哺乳動物発現手順全体を通して遺伝子型の分布を監視することができる。
【0285】
(b)哺乳動物発現用ベクターへのOVA特異的抗体配列の大量移送
ファージミドベクターから発現ベクターへの問題の遺伝子の移送は、2ステップ手順(図4に例示)であり、ここで第1ステップは、選択された哺乳動物プロモーターの頭−頭方向性をもつプロモーターカセットとのプロモーター交換であり、この後に、問題の遺伝子の可変領域及びプロモーターカセットを発現ベクターまで移送する。頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)は、SacI/XhoI消化物を用いることによって各クローンのファージミドベクター内に挿入でき、その後連結されてその結果、細菌から哺乳動物プロモーター(pSymvc12)へのプロモーター交換がもたらされる。
【0286】
このとき、EcoRI及びNotI消化物が、ファージミドベクター(pSymvc12)からイソタイプコーディングベクターpSymvc20まで、可変重鎖、頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)及び完全カッパ鎖をコードする配列を移動させることになる。pSymvc20ベクターは、ファージミドベクターからあらゆるNotI/EcoRIフラグメントを受容することができる。このフラグメントは、pSymvc20内で定常重鎖配列と接続すべき可変重鎖をコードする配列ならびにbGH PolyA配列と接続されるべきカッパ鎖をコードする配列全体を移送すると思われる。この大量移送は、この移送の後マウスIgG2B抗体として可変重領域及びカッパ鎖全体を発現する図1に示されているような発現ベクターを結果としてもたらすことになる。
【0287】
ベクターpSymvc20は、IgA、IgG2A、IgG2B、IgE又はIgG1遺伝子の重鎖のマウス定常領域を含有でき、かくして、選択された関連するマウス免疫グロブリンイソタイプのいずれでも発現する能力を有する。
【0288】
(c)抗オボアルブミン組換え型ポリクローナル抗体の発現
大量移送により、重鎖の可変領域、プロモーター及びカッパ鎖全体をコードする配列が、ファージベクタライブラリーからイソタイプコーディングベクターまで移動させられ、ポリクローナル哺乳動物発現ベクター組成物を結果としてもたらす。この後には、トランスフェクションとCHO−Flp−In細胞系統への部位特異的組込みが続き、組換え型ポリクローナル製造細胞系統が生成される。この後者の細胞系統は、トランスフェクションを受けた各々の細胞のゲノム内の同じ特定の場所に組換え型ポリクローナルタンパク質の各々の成員をコードする問題の遺伝子をターゲティングすると同時に、トランスフェクションを受けた各々の細胞内の前記核酸配列を含む発現構築物の1つのコピーのみを組込むことによって、生成される。
【0289】
細胞培養及びトランスフェクション及び選択手順は、実施例3(e.1−e.3)に記載されているものと同じである。
【0290】
(d)組成安定性の監視
大量移送及び哺乳動物細胞内へのトランスフェクションがクローニング、発現及び個別クローン間の多様性に関する多大な偏向を導入すること無く確実に行なわれるようにするため、以下の方法を用いて、大量移送及び哺乳動物発現のプロセスを監視することができる。
【0291】
1) トランスフェクションを受けた各々の構築物からの細胞プールの生成時間の分析、
2) トランスフェクションを受けた各々の構築物からの細胞プールの発現レベルの分析、
3) 単細胞上のRFLPによる分析、
4) 産生された抗体混合物のELISA、
5) 産生された抗体混合物の質量分析法、
6) 各々の異なるクローンの比率を同定するための、V領域特異的プライマを用いた明確なバッチサイズについてのTaqman PCR(リアルタイムPCR)による分析、又は
7) 選択圧(ハイグロマイシン)を伴って及び伴わずに経時的培養されたパッチの分析は、以下のパラメータについて実施可能である:
a) クローナル分布
b) タンパク質発現レベル(数量及び分布)
c) ゲノム安定性
d) 無血清培地に対する適合の効果
【0292】
(e)抗オボアルブミン組換え型ポリクローナル抗体組成物の産生
従来の小型培養フラスコ、Nunc多層セルファクトリ及び小型高収量生物反応器(MiniPerm, INTEGRA−CELLine)を含めた、異なる培養系の中で、組換え型ポリクローナル抗体産生CHO−Flp−In細胞系統を産生させる。さらに、細胞系統は、スピナーフラスコ、中空ファイバ及び生物反応器内のその後の培養のため無血清懸濁液に適合されている。
【0293】
選択された細胞系統を成長させるために用いられる培地は、メーカー(インビトロジェン、B&D、ハイクローン(Hyclone))により推奨されている通りの無血清、無タンパク質であるか又は化学的に明確な培地である。
【0294】
選択(ハイグロマイシン)無しで培養される付着又は懸濁細胞からの上清が収集される。収集された上清は、記載通りに(3f)分析され特徴づけされる。産生された抗体の産生収率、機能性及び品質は、供給されたバッチ又は灌流条件下での細胞の成長中及びその後に検査される。懸濁液中の細胞は、より大きいスピナーフラスコ又は生物反応器の接種のために使用される。
【0295】
収集された上清からのポリクローナル抗体を、その後動物研究で使用するために精製する。
【0296】
本発明のその他の実施形態及び用途は、本書で開示された本発明の明細及び実践を考慮することで当業者には明らかになることだろう。明細書及び実施例は例としてのみみなされるものとして意図されており、発明の真の範囲及び精神は、特許請求の範囲によって表わされている。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、さまざまな感染症、炎症性疾患、移植片拒絶、癌及びアレルギーの治療、改善又は予防における新規の療法として使用するべき、例えば可溶性又は膜結合形態のB又はT細胞レセプタなどの免疫グロブリンスーパーファミリー由来のタンパク質といったような、組換え型ポリクローナルタンパク質を生産するための技術的基盤の基礎を成すものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術
数多くの感染性疾患及び癌には、効率の良い療法が欠如している。モノクローナル抗体認識からの免疫学的回避をひき起こす複合標的の可変性および標的タンパク質の適応突然変異を一部の原因として、モノクローナル抗体はこれらの標的に対して一般に成功をおさめていない。一方、ポリクローナル抗体は、例えばウイルス又は癌細胞上で複数の動的標的をターゲティングすることができる。同様に、ポリクローナル抗体は、抗原突然変異の場合に活性を保持する最高の確率を有している。
【0003】
1)正常なヒト供与体の血液から単離した正常なヒト免疫グロブリン;2)以前に感染症又はワクチン接種のいずれかを通して遭遇した例えばウイルスなどの特定の疾病標的に対する抗体を担持する個別ヒト供与体の血液に由来するヒト超免疫性免疫グロブリン;及び3)免疫化された動物の血液に由来する動物の超免疫性免疫グロブリンを含めた、市販のさまざまなポリクローナル抗体療法が存在している。
【0004】
ヒトの血液から精製された免疫グロブリンが、B型肝炎ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、サイトメガロウイルス及びその他のヘルペスウイルス、狂犬病ウイルス、ボツリヌス毒素などの感染に対して、ならびに新生児アカゲザルD予防において、有効であることが証明されてきた。ヒトT細胞で免疫化されたウサギの血液から精製された免疫グロブリンが、移植片拒絶反応の治療又は予防においてT細胞免疫抑制を提供するために使用される(例えばサイモグロブリン)。免疫不全症患者の免疫系をブーストするためならびにさまざまな自己免疫障害の療法において、正常なヒト免疫グロブリンが利用されてきた。
【0005】
それでも、供与体の血液原材料の供給に制約があること、バッチ間のバラつきに関する問題及び安全性の可変性に起因して、免疫グロブリンを広く使用することは制限されてきた。特に動物由来の免疫グロブリンは、1980年代及び1990年代に動物由来のモノクローナル抗体について見られたものと同じ免疫原性の問題に直面している。
【0006】
最後に、その他の血液製品の場合と同様、HIV、ヘルペス又は肝炎ウイルス又はプリオンといったような感染物質の伝染の危険性が残っている。従って、臨床医は、ポリクローナル抗体が一部の状況において好ましい療法であることを認めているものの、その使用は、きわめて制限されてきた。
【0007】
遺伝子導入動物技術と共に、ヒト免疫グロブリンを生成する新しいアプローチが現われた。ヒト免疫グロブリン遺伝子座を担持する遺伝子導入マウスが、作り出された(特許文献1)。これらのマウスは、完全ヒト免疫グロブリンを産生し、特異的標的に対する抗体は、通常の免疫化技術により発生させることができる。しかしながら、マウスのサイズが比較的小さいことから、より大量の抗体収量には制限がある。例えばウシ、ヒツジ、ウサギ及びニワトリといったようなさらに大型の動物も同様に遺伝子導入型にされてきた(非特許文献1)。しかしながら、かかる動物の血液から療法用のポリクローナル抗体を産生することには、複雑さが伴う。まず第1に、動物及びヒトの免疫生理は、著しい差異を示し、これが結果としての免疫レパートリ、機能的再配置及び抗体応答の多様性の差異をひき起こし得る。第2に、導入された免疫グロブリン遺伝子座の分裂不安定性が抗体の長期産生に影響を及ぼし得る。第3に、例えば動物抗体産生がヒト抗体の産生を上回らないように動物自身の免疫グロブリンを欠失させることは、技術的に難しいことである。第4に、ウイルス、プリオン又はその他の病原体といった感染物質の伝染の危険性が、動物の体内で産生されたヒト抗体の投与に随伴する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,111,166号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】クロイワ Y.(Kuroiwa Y.)ら、ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology;2002;20:889−893)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、安全な臨床用途を目的としてバッチ間のバラつきが最小限である状態で、充分大量に抗体といったような組換え型ポリクローナルタンパク質を産生するための製造技術に対する必要性が存在している。真核生物(特に哺乳動物)の発現細胞系統を用いて同型の組換え型タンパク質を製造するための効率の良い方法が、モノクローナル抗体、インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子、凝固因子VII、VIII及びIXを含めたさまざまなタンパク質の産生のために開発されてきた。これらの技術の多くは、発現細胞系統のゲノム内への問題の遺伝子のトランスフェクション及び無作為組込み及びそれに続く高産生発現クローンの選択、増幅及び特徴づけ及びマスター発現細胞系統としてのこのクローンの増殖に基づいている。
【0011】
挿入された外来性遺伝子の発現は、周囲のゲノミックDNAからの「位置効果」によって影響されるかもしれない。数多くのケースにおいて、遺伝子は、位置効果が、導入された遺伝子の産物の合成を阻害するのに充分使い部位の中に挿入される。さらに、発現は、往々にして、周囲の染色体宿生DNAにより課せられるサイレンシングメカニズム(すなわちメチル化)に起因して不安定である。
【0012】
特定のゲノム位置における哺乳動物細胞内の問題の遺伝子の組込み及び発現を可能にするシステムが、同型組換え型タンパク質組成物の発現のために開発されてきた(米国特許第4,959,317号明細書,米国特許第5,654,182号明細書,国際公開第98/41645号パンフレット,国際公開第01/07572号パンフレット)。国際公開第98/41645号パンフレットは、例えば抗体などを分泌する哺乳動物細胞系統の産生のための部位特異的組込みについて記載している。しかしながら、この発現はモノクローナルであり、ベクターライブラリーでトランスフェクションを実施できるという表示は全く存在しない。さらに、ライブラリー内の特異的VH−VL組合せにより生成された当初の多様性をいかに維持するかの示唆も全く存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリクローナルタンパク質を構成する個別成員の間での多大な偏向を回避する、組換え型ポリクローナルタンパク質の発現及び産生のための細胞系統の製造に関する解決法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、ポリクローナルタンパク質の産生において動物を利用せず、従って、かかるアプローチに付随する倫理的かつ臨床的問題点を未然に防いでいる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】以下の要素を含む「頭−頭プロモーター」発現ベクターの概略的表現:Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC origin=pUC複製開始点。制限酵素部位:NotI及びEcoRI。プロモーターA/プロモーターB=リーダー配列(例えばCMV/MPSV)を含む頭−頭プロモーターカセット。V Heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C Heavy Chain=定常重鎖についてコードする配列(例えばマウスIgG1又はIgG2B定常重鎖のための配列)。R−B−globin pA=ウサギ β−グロビンpoly A配列。bGH polyA=ウシ成長ホルモンpoly A配列。V Kappa=GOIの可変カッパについてコードする配列。C Kappa chain=定常カッパ鎖についてコードする配列。FRT site=FRT組換え部位。Hygromycin=ハイグロマイシン耐性用遺伝子。SV40 polyA=polyAシグナル配列。
【図2】以下の要素を含む一方向発現用発現ベクターの概略的表現:Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC ori=pUC複製開始点。プロモーターA=リーダー配列(例えばAdMLP)を含む哺乳動物プロモーター。V Heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C Heavy Chain=定常重鎖についてコードする配列(例えばマウスIgG1定常重鎖のための配列)。hGHpolyA=ヒト成長ホルモンpoly A配列。bGH polyA=ウシ成長ホルモンpoly A配列。VKappa=GOIの可変カッパ重鎖についてコードする配列。C Kappa=定常カッパ鎖についてコードする配列。FRT=FRT組換え部位。Hygromycin=ハイグロマイシン耐性用遺伝子。SV40 polyA=polyAシグナル配列。hGHpolyA及びプロモーターAの配列は、IRES構造によって置換され得る。
【図3】組換え型ポリクローナル製造細胞系統の生成及び組換え型ポリクローナルタンパク質の産生を概略的に示す流れ図。1)バルクトランスフェクション戦略を例示する;2)半バルクトランスフェクション戦略を例示する、及び3)個別トランスフェクション戦略を例示する。A) ベクターライブラリー(水平ライン)を例示し、矢印の頭はベクターのグループ化を例示する。戦略1では、ベクターは、バルク状にグループ化され、戦略2では、より小さい画分(半バルク)にグループ化され、一方戦略3では、これらは互いに別々に保たれる(個別)。B)は、トランスフェクションを例示しており、ここでチューブの数は、ライブラリーを構成するベクターのグループ化により左右される。C)はGOIを宿主細胞ゲニム内に部位特異的に組込んだ細胞の選択を例示し、D)は、ポリクローナルGOIライブラリーストックの生成を例示しており、ここで組込まれたライブラリーを構成する選択された細胞はフリーザーの中に保存されている。任意には、個別クローンを貯蔵するか又はクローンをプールする。E)は製造段階の始まりを例示しており、ここでストックからのクローンは(個別により小さい画分からか又はプールから)解凍され、懸濁状態での成長に適合させられる。無血清培地に対する適応は、選択段の後又はこの段において実施可能である。F)は、より大きい生物反応器の播種のためにポリクローナル細胞系統が増殖させられる、生産内の段を例示している。(中間播種ステップは、例示されていないものの1つのオプションである)。戦略2及び3では、これは、ポリクローナル細胞クローンストックがもはや個別クローン又は半バルク画分として保たれず、細胞収集物内にプールされて組換え型ポリクローナル製造細胞系統を形成する段である。G)は、生物反応器製造から得られた最終的生産を例示する。生産段階の後、ポリクローナルタンパク質組成物は、産物の精製及び特徴づけのために収獲される。
【図4】哺乳動物発現ベクターの生成を例示する流れ図。(A) GOIの一成員をコードする配列を担持するファージミドベクターpSymvc10の概略的表現。P tac及びP lacZ=細菌頭−頭プロモーターカセット。V kappa=GOIの可変カッパ軽鎖をコードする配列。C kappa chain=マウス定常カッパ軽鎖についてコードする配列。V heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C heavy chain=定常重鎖CH1ドメインについてコードする配列。制限酵素部位:EcoRI、NotI、SacI及びXhoI。cpIII=ファージタンパク質III。Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC Ori=pUC複製開始点。ステップ1: SacIおよびXhoIでの制限消化により、細菌プロモーターカセットは、pSymvc10から切除され得、かつ連結により同じくSacI及びXhoIでの制限消化によって調製された哺乳動物のプロモーターカセット(B)と置換され得る。(C)哺乳動物頭−頭プロモーターカセットでのプロモーター交換の後の、GOIからの配列を担持するファージミドベクターpSymvc12の概略的表現。プロモーターA/プロモーターB=選択した選択−選択プロモーターカセット(例えばCMV/MPSV。Vkappa=GOIの可変カッパ軽鎖についてコードする配列。C Kappa chain=マウス定常カッパ鎖についてコードする配列。V heavy=GOIの可変重鎖についてコードする配列。C heavy chain=定常重鎖CH1ドメインについてコードする配列。制限酵素部位:NotI、SacI、XhoI及びEcoRI。cpIII=ファージタンパク質III。Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC Ori=pUC複製開始点。ステップ2: EcoRI及びNotIでのpSymvc12の制限消化により、カッパ、プロモーターカセット及びVheavyの全体を含有する核酸フラグメントを、pSymvc12から切除し、同じくEcoRI及びNotIでの制限消化により調製されたpSymvc20といったイソタイプコーディングベクター内に連結させ、かくして哺乳動物発現ベクター pSymvc21(E)を生成することができる。(E)抗体発現のための、GOIからの可変重及びカッパ領域を伴う、哺乳動物発現ベクターpSymvc21の概略的表現。この哺乳動物発現ベクターは、以下の要素を含んでいる:Amp pro=アンピシリン耐性遺伝子の発現を可能にするプロモーター。Amp=アンピシリン耐性遺伝子。pUC Ori=pUC複製開始点。制限酵素部位:NotI及びEcoRI。プロモーターA/プロモーターB=選択した頭−頭プロモーターカセット(例えばCMV/MPSV)。V kappa=GOIの可変カッパ軽鎖についてコードするVカッパ配列。C Kappa chain=哺乳動物定常カッパ鎖についてコードする、配列。(例えば、マウス定常カッパ鎖)。V heavy=GOIの可変重鎖についてコードするV重配列。C heavy chain=哺乳動物定常重鎖についてコードする配列(例えばマウスIgG1又はIgG2B定常重鎖のための配列)。R−B−globin pA=ウサギβ−グロビンpolyA配列。bGH polyA=ウシ成長ホルモンpolylA配列。FRT site=FRT組換え部位。Hygromycin=ハイグロマイシン耐性用遺伝子。SV40polyA=SV40polyA配列配列。当然のことながら、ステップ1及び2の順序は、カッパ、細菌プロモーターカセット及びVheavyの全体を含有するmSymvc10からのフラグメントが、EcoRI及びNotI制限消化を用いてpSymc10から切除され得、これが次に例えば、pSymvc20といったイソタイプコーディングベクター内に連結され得るような形で、逆転可能である。このときプロモーター交換は、例えば図4Bのように、SacI及びXhoIを用いた制限消化物及びSacI+XhoIで消化された哺乳動物プロモーターカセットフラグメントとの連結により、pSymvc20上で実施することができる。
【図5】プラスミド調製物1で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム。Em223−228というのは、それぞれ、抗−β2−ミクログロブリン(抗・B2M)、抗−アルカリホスフェート(抗−AP)、抗−オボアルブミン(抗−OVA)、抗−因子VIII(抗−FVIII)、抗−リゾチーム(抗−LYS)、抗−ハプトグロビン(抗−HAP)をコードする細菌プロモーターを伴うベクターを意味する。Em223〜228は、pSymvc10タイプのベクターである。RFLPにより決定されたフラグメントパターンに類似する個別遺伝子型の数は、採集されたコロニーの合計数のうちの個別コロニーの数に対応する。
【図6】プラスミド調製物2で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム。Em229−234というのは、それぞれ、抗−β2−ミクログロブリン(抗−B2M)、抗−アルカリホスフェート(抗−AP)、抗−オボアルブミン(抗−OVA)、抗−因子VIII(抗−FVIII)、抗−リゾチーム(抗−LYS)、抗−ハプトグロビン(抗−HAP)をコードする哺乳動物プロモーター(CMV/MPSV)を伴うベクターを意味する。Em229〜234は、pSymvc12タイプのベクターである。クローンの数は、そのEmタイプのRFLPにより決定された配列パターンと類似する観察されたクローンの数を表わしている。(完全な配列分析は実行されなかった。)
【図7】プラスミド調製物3で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム。Em235−240というのは、それぞれ、抗−β2−ミクログロブリン(抗−B2M)、抗−アルカリホスフェート(抗−AP)、抗−オボアルブミン(抗−OVA)、抗−因子VIII(抗−FVIII)、抗−リゾチーム(抗−LYS)、抗−ハプトグロビン(抗−HAP)をコードする(ウサギβ−グロビンpolyAシグナルを含む)マウスIgG1哺乳動物発現ベクターを意味する。Em235〜240は、pSymvc21タイプのベクターである。クローンの数は、そのEmタイプのRFLPにより決定された配列パターンと類似する観察されたクローンの数を表わしている。(完全な配列分析は実行されなかった。)
【図8】2重消化/連結プラスミド調製物で形質転換されたTG1細胞内の遺伝子型分布を示すヒストグラム(プラスミド調製物1ステップの後のE.coli中でのDNA増幅の無い哺乳動物発現ベクター内への大量移送)。
【図9】トランスフェクション後 A)16日目及びB)34日目の6つの問題の遺伝子をコードする哺乳動物発現ベクターの混合物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞内での遺伝子型分布を示すヒストグラム。
【図10】6つの問題の遺伝子をコードする発現ベクターの混合物でのバルクトランスフェクションの後34日目のCHO−Flp−In細胞から誘導された上清の抗原特異的ELISA。
【図11】1つの問題の遺伝子をコードする単一の発現ベクター又は6つの問題の遺伝子をコードする発現ベクターの混合物のいずれかでのトランスフェクション後34日目のCHO−Flp−In細胞のプールから誘導された上清の抗カッパコートELISA。
【図12】6つの問題の遺伝子をコードする発現ベクターの混合物でのバルクトランスフェクション後17日目、31日目、45日目、59日目及び73日目におけるCHO Flp−Inクローン019から誘導された上清の定量的抗原特異的ELISA。A、B及びCは、3つの異なるトランスフェクション実験を表わす。
【図13】ミニ−シックスライブラリーの個別成員を発現するCHO Flp−In細胞系統を混合物した後、8、17、30、45、57、72及び85日目におけるCHO Flp−In 細胞培養から誘導された上清の抗原特異的ELISA。結果は、3つの独立した実験の平均±SDとして示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、免疫グロブリンスーパーファミリーの中から往々にして選択される組換え型ポリクローナルタンパク質の産生のための組換え型ポリクローナル製造細胞系統を産生する方法を提供する。特にポリクローナル抗体、ポリクローナルT細胞レセプタ又はそのポリクローナルフラグメントが問題となっている。本発明は、医薬組成物中で使用するための組換え型ポリクローナルタンパク質の商業的生産を可能にする。本発明の1つの重要な特長は、製造プロセス中に、ポリクローナルタンパク質を構成する個別分子の偏向した発現が、有意でないレベルに保たれ、望ましくないバッチ間のバラつきを最小限におさえるという点にある。
【0017】
本発明の1つの態様は、問題の細胞組換え型ポリクローナルタンパク質の製造方法であって、前記ポリクローナルタンパク質が、特定の抗原を結合させる別個の成員を含んで(又は構成して)おり、a)変異体核酸配列のライブラリーを含む細胞収集物を提供する段階であって、前記核酸配列の各々が前記ポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードし、前記核酸配列の各々が前記細胞収集物内の各々個別の細胞のゲノムの同じ単一の部位にて組込まれている、段階;b)前記ポリクローナルタンパク質の発現を容易にする条件の下で、前記細胞収集物を培養する段階;及びc)細胞培養、細胞画分又は細胞培地から前記発現されたポリクローナルタンパク質を回収する段階、を含む方法に関する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞の収集物を生成するための方法であって、a)変異体核酸配列の集合を含むベクターライブラリーを提供する段階であって、前記ベクターの各々が1)特定の抗原を結合させる別個の成員を含む(又はそれで構成されている)ポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードする別個の核酸配列の1つの単一コピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階;b)宿主細胞系統内に前記ベクターライブラリーを導入する段階であって、前記宿主細胞系統の各々の個別細胞のゲノムが、そのゲノム内の単一の特異的部位で前記ベクターものと整合するリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階;c)段階(a)の変異体核酸配列が宿主細胞系統の細胞内で部位特異的に組込まれるような形で1つ以上のリコンビナーゼの前記細胞内での存在を保証する段階であって、ここで、前記1つ以上のリコンビナーゼは、i)前記核酸配列が中に導入される前記細胞により発現されるか;(ii)段階aのベクターにより操作可能な形でコードされるか;iii)第2のベクターから発現を通して提供されるか;又はiv)1つのタンパク質として細胞に提供されるかのいずれかである、段階;及びd)変異体核酸配列の前記ライブラリーから、組込まれたコピーを含む細胞を選択する段階、を含む方法に関する。
【0019】
本発明の両方の方法において、ポリクローナルタンパク質は通常、発現がもたらされる細胞と天然に会合させられていないポリクローナルタンパク質であるということが理解されるだろう。
【0020】
本発明は、ポリクローナル製造細胞系統として適した細胞収集物を生成するべく宿主細胞系統内に変異体核酸配列のライブラリーを導入できる複数の方法を記載する。これらの方法には、ライブラリーでの細胞収集物のバルクトランスフェクション、ライブラリーの画分での細胞アリコットの半バルクトランスフェクション又は、選択時点で生成されたクローンをプールすることが後続する、ライブラリーの個別成員で宿主細胞がトランスフェクションされる個別のトランスフェクション、が含まれる。好ましくは、本発明は哺乳動物細胞(細胞系統又は細胞型)を宿主細胞系統として利用する。
【0021】
本発明の1つの態様においては、ポリクローナルタンパク質の個別成員は、独立した遺伝子セグメントの対からコードされる。個別の成員が2つのポリペプチド鎖から成っているポリクローナルタンパク質は、可溶性又は膜結合形態の抗体及びT細胞レセプタを含む。本発明のさらなる実施形態においては、遺伝子セグメント対は、抗体重鎖及び軽鎖可変領域又は、T細胞レセプタアルファ鎖及びベータ鎖可変領域又はT細胞レセプタガンマ鎖及びデルタ鎖可変領域をコードする。
【0022】
本発明はさらに、変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を含む組換え型ポリクローナル産生細胞系統であって、収集物中の各々の細胞が、特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードし、かつ前記収集物内の個別の細胞のゲノム内で同じ単一の部位にあるライブラリーの1成員でトランスフェクションされこの成員を発現する能力を有しており、記核酸配列が収集物中の前記細胞と天然に会合されていない組換え型ポリクローナル製造細胞系統を提供する。細胞系統は好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/0細胞、NS0)、YB2/0、NIH3T3、線維芽細胞又はHeLa細胞、HEK293細胞、又はPER.C6といったような不死化されたヒト細胞といった哺乳動物細胞系統に由来している。しかしながら、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、細菌、真菌などの哺乳動物でない真核生物又は原核生物細胞も使用可能である。
【0023】
同様に本発明に包含されているのは、天然に発生する変異体核酸配列の集合を含む部位特異的組込み用ベクターライブラリーであって、前記ベクターの各々が、1)特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードする別個の核酸配列の1つのコピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、ベクターライブラリーである。
【0024】
もう1つの態様においては、本発明は、活性成分として、好ましくは本発明の方法によって得られた組換え型ポリクローナル抗体(又はそのフラグメント)又はポリクローナルT細胞レセプタ(又はそのフラグメント)を含む医薬組成物を提供する。該組成物の組換え型ポリクローナルタンパク質は、予め定められた疾病標的について特異的であるか又はこれに対して反応性を有する。かかる医薬組成物は、ヒト、家畜又はペットといった哺乳動物における、癌、感染症、炎症性疾患、アレルギー、喘息又はその他の呼吸器疾患、自己免疫疾患、免疫機能不良、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝及び内分泌疾患、移植片拒絶反応又は望まれない妊娠といった疾病の治療、改善又は予防のために使用可能である。
【0025】
定義
「タンパク質」又は「ポリペプチド」というのは、長さ又は翻訳後の修飾の如何に関わらず、あらゆるアミノ酸鎖を意味する。タンパク質は、2つ以上の組合わされたポリペプチド鎖、タンパク質フラグメント、ポリペプチド、オリゴペプチド又はペプチドを含む単量体又は多量体として存在し得る。
【0026】
本書で使用されているように、「ポリクローナルタンパク質」又は「ポリクローナル性」という語は、好ましくは免疫グロブリンスーパーファミリーから選択された異なる、ただし相同のタンパク質分子を含むタンパク質組成物を意味する。かくして各々のタンパク質分子は、該組成物のもう1つの分子と相同であるものの、同様に、ポリクローナルタンパク質の個別成員の間のアミノ酸配列の差異によって特徴づけされる1つ以上の可変的ポリペプチド配列のストレッチをも含む。かかるポリクローナルタンパク質の既知の例としては、抗体又は免疫グロブリン分子、T細胞レセプタ及びB細胞レセプタが含まれる。ポリクローナルタンパク質は、例えば所望の標的抗原に対するポリクローナルタンパク質の場合には所望の標的に向かっての共有の結合活性といったような共通の特長により定義されてきた、明確なタンパク質分子サブセットで構成されていてよい。
【0027】
「問題のポリクローナルタンパク質」という語は、例えば別々のタンパク質、微生物、寄生虫、細胞型、アレルゲン、又は炭水化物分子又は特異的抗体結合の標的となり得るその他のあらゆる構造、分子又は物質のうちの1つ以上のもの又は前記抗原の混合物である標的抗原に対する結合活性又は特異性によって表現されるポリクローナル抗体の場合において、所望の標的に向かう結合特性などといった共通の特徴を共有する明確なポリクローナルタンパク質サブセットを網羅する。
【0028】
「組換え型ポリクローナルタンパク質組成物の一成員」又は「組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員」という語は、各々のタンパク質分子が組成物のもう一方の分子と相同であるがポリクローナルタンパク質の個別成員の間のアミノ酸配列の差異により特徴づけされる1つ以上の可変的ポリペプチド配列のストレッチをも内含している、異なるが相同なタンパク質分子を含むタンパク質組成物の1つのタンパク質分子を意味している。
【0029】
「可変ポリペプチド配列」及び「可変領域」という語は、互換的に使用される。
【0030】
「組換え型ポリクローナルタンパク質の別個の成員」という語は、各々のタンパク質分子が組成物のもう一方の分子と相同であるもがポリクローナルタンパク質の個別成員の間のアミノ酸配列の差異により特徴づけされる1つ以上の可変的ポリペプチド配列のストレッチをも内含している、異なるが相同なタンパク質分子を含むタンパク質組成物の1つのタンパク質分子を意味している。
【0031】
「抗体」という語は、血清の1つの機能的成分を表わし、往々にして1つの分子収集物(抗体又は免疫グロブリン)又は1分子(抗体分子又は免疫グロブリン分子)のいずれかに関連する。抗体分子は、それ自体免疫学的エフェクタメカニズムの誘発を導き得る特異的抗原決定基(抗原又は抗原エピトープ)に対し結合するか又はそれと反応する能力をもつ。個別の抗体分子は通常単一特異的であり、抗体分子の組成物は、モノクローナル(すなわち同一の抗体分子から成る)又はポリクローナル(すなわち同じ抗原上又さらには別個の抗原上でさえ同じ又は異なるエピトープと反応する異なる抗体分子から成る)であり得る。各々の抗体分子は、その対応する抗原に特異的に結合できるようにする独特の構造を有しており、全ての天然の抗体分子は、2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖の同じ全体的基本構造を有している。抗体は同様に、集合的に免疫グロブリンとしても知られている。本書で用いられている抗体(単数又は複数)という語は、同様に、キメラ又は一本鎖抗体ならびにFab、Fvフラグメント又はscFvフラグメントといったような抗体の結合フラグメント、ならびに2量体IgA分子又は五価のIgMといったような多量体形態を内含するべく意図されている。
【0032】
「ポリクローナル抗体」という語は、同じ又は異なる抗原上の複数の異なる特異的抗原決定基に結合するか又はそれと反応する能力をもつ異なる抗体分子の組成物を表現する。通常は、ポリクローナル抗体の可変性は、そのポリクローナル抗体のいわゆる可変領域内に位置設定されるものと考えられている。しかしながら、本発明の情況下においては、ポリクローナル性は、同様に、例えばヒトイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2、又はマウスイソタイプIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、及びIgAといったような2つ以上の抗体イソタイプを含む抗体混合物の場合のように、いわゆる定常領域内に常在する個別抗体分子の間の差異を表現するものとしても理解され得る。
【0033】
「問題の組換え型ポリクローナル抗体」というのは、1つの所望の標的又は標的セットに結合する能力により特徴づけされ、前記標的が例えば別々のタンパク質、微生物、寄生虫、細胞、アレルゲン又は炭水化物分子又は、特異的抗体結合の標的でありうるもう1つの構造、分子又は基質又はそれらの混合物である、明確な組換え型ポリクローナルタンパク質サブセットを表わす。
【0034】
「免疫グロブリン」という語は、一般的には、血液又は血清中に発見される抗体の混合物の集合的呼称として用いられるが、その他の供給源から誘導された抗体の混合物を呼称するためにも使用し得る。
【0035】
「免疫グロブリン分子」という語は、例えば免疫グロブリンの一部分又は任意のポリクローナル又はモノクローナル抗体組成物の一部分としての個別抗体分子を表わす。
【0036】
1つのポリクローナルタンパク質の一成員が1つの抗原に結合すると言う場合、それは本書では、1mM未満、好ましくは100nM未満、さらに一層好ましくは10nM未満の結合定数を有する結合を意味する。
【0037】
「問題の変異体核酸分子のライブラリー」という語は、「問題の組換え型ポリクローナルタンパク質」を集合的にコードする核酸分子の収集物を表現するために使用される。トランスフェクションのために用いられる場合、問題の変異体核酸分子ライブラリーは、発現ベクターのライブラリー内に含まれている。かかるライブラリーは標準的に、少なくとも3、5、10、20、50、1000、104、105又は106個の別個の成員を有する。
【0038】
本書で使用する場合の「問題の別個の核酸配列の1つのコピー」は、文字通り単一の遺伝子セグメントに対応する核酸の単一のストレッチとしてではなくむしろ、問題のタンパク質の1つの分子の全てのサブユニットを産生するために必要とされ例えばベクターといった1つの核酸分子の形に組立てられた全ての遺伝子セグメントの1つのコピーとして考えられるべきである。問題のタンパク質の完全な分子を発生させるのに通常複数の遺伝子セグメントが必要とされるいくつかの例としては、B細胞レセプタ、抗体及び、Fabの及び可変ドメイン又はT細胞レセプタといったような抗体フラグメントが含まれる。細胞内に導入された場合、問題の完全に組立てられたタンパク質を共にコードする遺伝子セグメントは同じベクター内に常在し、かくして、場合によっては異なるプロモーターの制御下での別々の転写要素として、1つの核酸配列内で一緒にリンクされる。
【0039】
本書で使用される場合の「問題の遺伝子」という語は、問題のタンパク質の1つの成員をコードする1つ以上の遺伝子セグメント(ゲノム又はcDNA)で構成された核酸配列を意味する。複数形態の「問題の遺伝子」は、1つの問題のポリクローナルタンパク質をコードする核酸配列のライブラリーを意味する。「GOI」という語は、(a)問題の遺伝子(単複)の略号として用いられる。
【0040】
本書で使用されているように、「ベクター」という語は、異なる遺伝的環境の間での輸送及び/又は宿主細胞内での発現のために核酸配列を挿入できる核酸分子を意味している。ゲノム内の予め定められた特異的遺伝子座において宿主細胞のゲノム内への組込みを行う能力をもつベクターが、本書で「部位特異的組込み用ベクター」と名付けられる。ベクターがその中に挿入された核酸配列の転写用の調節要素を担持している場合(少なくとも1つの適切なプロモーター)、該ベクターは本書では「発現ベクター」と呼ばれる。発現ベクターが宿主細胞のゲノム内で予め定められた特異的遺伝子座に組込む能力を有する場合、該発現ベクターを「部位特異的組込み用の発現ベクター」と呼んでもよい。上述の同定されたベクター内に挿入された核酸配列が本書で定義されている通りの問題のタンパク質をコードする場合、「問題のベクター」、「部位特異的組換え用の問題のベクター」、「問題の発現ベクター」及び「部位特異的組込み用の問題の発現ベクター」といった語が用いられる。「イソタイプコーディングベクター」という語は、抗体イソタイプをコードする核酸配列を担持するベクターを意味する。本明細書では、「ファージミドベクター」及び「ファージベクター」が互換的に用いられる。「プラスミド」及び「ベクター」という語は、互換的に用いられる。本発明は、適切な宿主内の所望のタンパク質の産生を導くことのできる任意の核酸分子又はプラスミド、ファージミド及びウイルスゲノムといった、同等の機能に用いられるその他の形態のベクターを内含するように意図されている。
【0041】
核酸配列が問題の組換え型ポリクローナルタンパク質についてコードする、問題のベクターライブラリーから誘導された別個の核酸配列を伴う個別ベクター分子を表現するために、「問題のベクターライブラリーの各成員」という語が用いられる。
【0042】
「大量移送」という語は、1つのベクター集団からもう1つのベクター集団まで問題の核酸配列を移送することそして、個別問題のDNAの単離を行わずに同時に各々のDNAについてそれを行なうことを表現するために用いられる。かかるベクター集団は、例えば問題の可変領域、プロモーター、リーダー又は増強要素を含有するライブラリーであり得る。これらの配列はこのとき、例えばファージベクターから哺乳動物の発現ベクターへと、先行する単離を伴わずに移動され得る。特に抗体配列について、この技術は、例えば選択ベクター(例えばファージ提示ベクター)から哺乳動物発現ベクターへとライブラリーを移動させる間にVHとVLの多様性の間のリンケージが失われないよう保証している。かくして、VHとVLの当初の対合が保持される。
【0043】
「トランスフェクション」という語は、ここでは、1つの細胞内に外来性DNAを導入するための広義の語として用いられる。この語は同様に、供与体細胞及び受容体細胞の融合、形質転換、感染、形質導入などといったような1つの細胞内へと外来性DNAを導入するその他の機能的に同等の方法を網羅するように意図されている。
【0044】
「選択」という語は、細胞が或る特性を獲得した場合にその特性を獲得していない細胞からの単離を可能にする方法を表現するために用いられる。かかる特性は、細胞毒性薬に対する耐性又は必須栄養素、酵素又は色の生成であり得る。
【0045】
「選択可能なマーカー遺伝子」、「選択マーカー遺伝子」、「選択遺伝子」及び「マーカー遺伝子」という語は、問題の遺伝子(単複)と合わせて細胞内に同時導入される選択可能マーカーをコードする遺伝子(例えば、或る種の抗生物質といったような一部の細胞毒性薬に対する耐性を付与する遺伝子、成長培地から枯渇され得る必須栄養素を産生する能力をもつ遺伝子、分析可能な代謝産物を産生する酵素をコードする遺伝子又は、例えばFACSにより選別され得る着色タンパク質をコードする遺伝子)を表現するべく使用される。
【0046】
「組換え型タンパク質」という語は、該タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターでのトランスフェクションを受けた細胞系統から発現されるタンパク質を表現するために使用される。
【0047】
本書で使用されているように、「作動可能に連結された」という語は、その他のセグメントと機能的関係に置かれた場合のもう1つのセグメントにリンクされているセグメントを意味する。例えば、シグナル配列をコードするDNAは、それが小胞体に対するポリペプチドの移送に参加するリーダーとして発現された場合にポリペプチドをコードするDNAに操作可能な形でリンクされている。同様に、プロモーター又はエンハンサは、それがその配列の転写を刺激する場合に、コーディング配列に対し操作可能な形でリンクされている。
【0048】
「個々の細胞の大部分」という語は、80%を超える、好ましくは85%を超える、より好ましくは90%、95%さらには99%以上といったような細胞の百分率を意味している。
【0049】
本書で使用されているように、「ゲノム」という語は、当初細胞内に存在する染色体の正常な補体として文字通り解釈されるべきではなく、細胞内に導入され維持され得る外部染色体要素でもある。かかる外部染色体要素は、制限的な意味なく、ミニ染色体、YAC(酵母人工染色体)、MAC(マウス人工染色体)又はHAC(ヒト人工染色体)を含むことができる。
【0050】
「プロモーター」という語は、転写を開始するためRNAポリメラーゼを結合することに関与するDNAの領域を意味する。
【0051】
「頭−頭(head-to-head)プロモーター」という語は、プロモーターにより駆動される2つの遺伝子フラグメントの転写が反対方向に発生するような形で、近接してプロモーター対が置かれていることを意味する。頭−頭プロモーターは、2つのプロモーターの間に無関係な核酸から成る詰込みを伴ってでも構成され得る。かかる詰込みフラグメントは、500を超えるヌクレオチドを難なく含むことができる。
【0052】
「抗生物質耐性遺伝子」というのは、抗生物質の存在下で細胞の存続及び増殖の続行を確保し、細胞に対し抗生物質が有する阻害性又は毒性効果を克服できるタンパク質をコードする遺伝子である。
【0053】
「内部リボソーム進入部位」又は「IRES」という語は、mRNA上の正常な5′−cap構造とは異なる構造を表現している。両方の構造共、翻訳を開始するべくAUGコドンについての走査を開始するためにリボソームにより認識され得る。1つのプロモーター配列及び2つの開始AUGを用いることにより、単一のmRNAから第1のおよび第2のポリペプチド配列を翻訳することができる。かくして、単一の2−シストロンmRNAからの第1及び第2のポリヌクレオチド配列の同時翻訳を可能にするため、IRES配列の下流側のポリヌクレオチド配列の翻訳を可能にするIRES配列を含むリンカー配列を介して、第1及び第2のポリヌクレオチド配列を転写的に融合させることができる。この場合、転写されたバイシストロンRNA分子は、キャッピングされた5′末端及びバイシストロンRNA分子の内部IRES配列の両方から翻訳され、かくして第1及び第2の両方のポリペプチドを産生することになる。
【0054】
「誘発可能な発現」という語は、発現が起こるためには誘発因子分子またはコリプレッサー分子および調節タンパク質の相互作用を要する発現を記載するのに用いる。
【0055】
「構成性発現」という語は、通常誘発可能でない発現を意味している。
【0056】
「リコンビナーゼ」という語は、2つ以上の組換え部位の間の組換えの触媒として作用する酵素を意味する。本発明において有用であるリコンビナーゼは、特定のリコンビナーゼにより認識される特異的な核酸配列である特異的組換え部位における組換えの触媒として作用する。
【0057】
「スクランブルリング」という語は、例えば免疫グロブリンスーパーファミリーからの2つの異なるポリペプチド鎖を含むポリクローナルタンパク質の2つ以上の別個の成員が個別細胞から発現される状況を表現している。この状況は、各遺伝子セグメント対がポリクローナルタンパク質の別個の1つの成員をコードする複数の遺伝子セグメント対をゲノム内に組込んだときに発生する。かかる状況下では、遺伝子セグメントから発現されたポリペプチド鎖の意図されていない組合せが行なわれる可能性がある。これらのポリペプチド鎖の意図されていない組合せは、いかなる治療上の効果ももたない可能性がある。
【0058】
「VH−VL鎖スクランブリング」という語は、上述のスクランブリングの一例である。この例では、VH及びVLコーディング遺伝子は、1つの遺伝子セグメント対を構成している。該スクランブリングは、2つの異なるVH及びVLコーディング遺伝子セグメント対が同じ細胞内に組込まれている細胞からVH及びVLポリペプチドの意図されていない組合せが生み出されるときに発生する。かかるスクランブリングを受けた抗体分子は、当初の特異性を保持する確率が低く、かくして、いかなる治療的効果ももたない可能性がある。
【0059】
「組換え型ポリクローナル製造細胞系統」という語は、一緒に組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する個別細胞が、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員をコードする問題の別個の核酸配列の1つのコピーのみを担持し、かつ各コピーが各細胞のゲノムの同じ部位内に組込まれるように問題の変異体核酸配列のライブラリーでのトランスフェクションを受けるタンパク質発現細胞の集合を意味している。該組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する細胞は、例えば抗生物質選択により問題の別個の核酸配列の組込まれたコピーを保持するその能力のために選択される。かかる製造細胞系統を構成し得る細胞は、例えば細菌、真菌、真核細胞例えば酵母、昆虫細胞又は哺乳動物細胞、特に不死哺乳動物細胞系統、例えばCHO細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/O細胞、NS0)、NIH3T3、YB2/0及び不死化ヒト細胞例えばHeLa細胞、HEK293 細胞、又はPER.C6であり得る。
【0060】
「ホットスポット細胞系統」内にあるような「ホットスポット」という語は、その部位内への発現ベクターの組込み時点で選択又は生成され、問題の組込まれた核酸配列のきわめて効率の良い転写について特徴づけされた細胞のゲノムの予め確立された遺伝子座を意味している。
【0061】
「偏向」という語は、無作為の遺伝子突然変異、個別細胞間の増殖反応速度差、異なる発現構築物配列の間の発現レベル差又はDNAのクローニング効率の差に起因してポリクローナルベクター、ポリクローナル細胞系統又はポリクローナルタンパク質の組合せが経時的に改変する、組換え型ポリクローナルタンパク質産生中の現象を示すために用いられる。
【0062】
「RFLP」という語は、核酸分子フラグメントの移動性ゲルパターンを制限酵素での分裂の後に分析する方法である「制限フラグメント長多形現象」を意味する。
【0063】
「HDS」という語は、多数のテスト化合物を、一定の与えられた活性について同時にスクリーニングされるような形で膜上で並行してテストする高密度スクリーニング方法を意味する。
【0064】
本書で使用されているように、「TaqMan PCR」というのは、ホランド(Holland)P.M.ら,Proc.Natl.Acad.Sci,U.S.A.88;7276−7280(1991)によって記載されたTaqManシステムに基づいたPCR検定を意味する。
【0065】
「5′UTR」という語は、mRNAの5′未翻訳領域を意味している。
【0066】
「Pfu PCR」という語は、既知の熱安定性ポリメラーゼの中で最高の信頼性をもつという理由で利用されている、Pfu DNAポリメラーゼ(Pyrococcus furiosusから単離されたもの)を用いて実施されたPCR反応を意味する。
【0067】
略号:「CMV」=(ヒト)サイトメガロウイルス。「MSPSV」=骨髄増殖性肉腫ウイルス。「AdMLP」=アデノウイルス主要後期プロモーター。SV40PolyA=サルウイルス40PolyAシグナル配列。GFP=緑色螢光タンパク質。PVDF=ポリビニリデンジフルオリド。TcR=T細胞レセプタ。ELISA=酵素結合免疫吸着検定法。LTR=長末端反復。
【0068】
組換え型ポリクローナルタンパク質発現系
本発明は、好ましくは免疫グロブリン様ドメインを伴うタンパク質ファミリーである免疫グロブリンスーパーファミリーから選択される組換え型ポリクローナルタンパク質の一貫性ある製造のための方法を提供する。成員の大部分は、細胞表面認識事象に関与する。配列相同性は、抗体、T細胞レセプタ、MHC分子、一部の細胞付着分子及びサイトカインレセプタが密な相同性を共有することを示唆する。特に、可変領域を含むこのファミリーの成員が、本発明に従った組換え型ポリクローナルタンパク質の生成に適している。かかる成員には、抗体、膜結合抗体(B細胞レセプタ)、Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント、T細胞レセプタ(TcRs)、可溶性TcRs、TcR可変ドメインフラグメント、ポリペプチドリンカーによりリンクされたTcR可変ドメインフラグメント又はその他の抗体又はTcR由来のフラグメントが含まれる。特に、本発明は、組換え型治療用ポリクローナル抗体又はTcRsを含む新しい種類の治療薬を大規模に製造及び生産する可能性を開くことになると考えられる。
【0069】
本発明の製造方法の主要な利点の1つは、組換え型ポリクローナルタンパク質を構成する成員全てを、1基〜約10基の生物反応器又はその等価物の中で生産できるという点にある。さらに、該組換え型ポリクローナルタンパク質組成物は、プロセス中に組換え型ポリクローナルタンパク質を構成する個別成員を分離する必要なく、単一の調製物として反応器から精製可能である。対照的に、精製されたモノクローナル抗体(例えば国際公開第91/16074号パンフレット内に提案されているようなもの)を混合することによって組換え型ポリクローナル抗体組成物を模倣したい場合には、組成物内に内含されるべき各抗体を1つの生物反応器内で別々に製造することが必要となり、おそらくは、抗体は同様に個別に精製されることになるだろう。モノクローナル混合物のこのような生産は、本書で記載されているような組換え型ポリクローナル抗体又はその他のポリクローナルタンパク質の生産方法に比べて非常にコストが高くつき、時間及び空間を要するものと思われる。かくして、国際公開第91/16074号パンフレット内に記載されている通りの方法は、当然のことながら、かかる混合物中に含まれ得るモノクローナル抗体の数に対する実際的な限界(おそらくは10未満)をもたらす結果となるが、これに対し、本書に記載されている通りの技術は、一般に望まれるだけの個別成員をもつポリクローナル抗体を生産することができる。
【0070】
組換え型ポリクローナル製造細胞系統からの組換え型ポリクローナルタンパク質の予測可能な発現を得るためには、ゲノム組込み部位の調節特性を適度に充分理解すべきである。
【0071】
無作為組込みを用いた従来のトランスフェクション及び組換え型タンパク質発現技術は、該プロセスの無作為性が、組込まれた核酸配列の数及び位置を細胞毎に変動させることになるため、組換え型ポリクローナルタンパク質の生産のためには望ましいものではない。かくして、このような従来のプロトコルにより組換え型ポリクローナルタンパク質が生産された場合、ポリクローナルタンパク質の個別成員の可変的発現速度をもつ不均質な細胞培養、及び組込まれたDNAの位置効果に起因する遺伝的不安定性が結果としてもたらされる確率が高くなる。こうして、ポリクローナルタンパク質を構成する成員の偏向した発現がもたらされる確率が最も高くなる。
【0072】
従って、予め定められたゲノム部位内への導入が望ましく、このことは原則として、相同的組換えによって達成可能である。しかしながら、非正統的組換え事象が優勢であることから、相同的組換えは、非常に効率が悪い。
【0073】
その上、ポリクローナルタンパク質が抗体又はT細胞レセプタ(TcR)である場合、もう1つの問題が、無作為組込みを結果としてもたらす従来のトランスフェクションプロトコルの使用に付随して浮上する。抗体及びTcRsは、独立した遺伝子セグメント対、つまり抗体については軽鎖及び重鎖コーディング配列そしてTcRsについてはアルファ及びベータ鎖又はデルタ及びガンマコーディング配列からコードされる。これらの遺伝子セグメントからのポリペプチド産物は、抗体分子又はTcRの細胞内プロセシング中に共有結合によりリンクされた状態になる。無作為組込みを結果としてもたらす従来のトランスフェクション技術は、同じ細胞内での異なる重鎖及び軽鎖又はアルファ及びベータ鎖の複数のコピーの導入を導き、その結果、重鎖及び軽鎖の無作為組合せ、すなわち、いわゆるVH−VL鎖スクランブリング又はアルファベータ鎖スクランブリングがもたらされる。その結果、このことが発現された抗体又はTcRsの性能を劣化させ、親和力及び/又は特異性の損失、新しい特異性の発生及び/又は特異的活性の低下の可能性がひき起こされる。
【0074】
これらの問題を回避するため、本発明の発現系は、個別宿主細胞のゲノム内への部位特異的組込みを使用する。本発明の系は、問題の変異体核酸配列を含む問題のベクターライブラリーが、リコンビナーゼで媒介されたカセット交換手順により予め特徴づけされた染色体位置内に確実に挿入され得るようにし、かくして、個別細胞が問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の単一の別個の成員を発現する1つの細胞系統が生成される。上述のように、組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する細胞の一部の中で多数の組込みが発生しうる。しかしながら、これは、個々の細胞の大部分が組換え型ポリクローナルタンパク質の単一の別個の成員を発現するかぎりにおいて問題を提起しないとみなされる。
【0075】
Cre、Flp、ベータ−リコンビナーゼ、Gin、Pin、PinB、PinD、R/RS、ラムダインテグラーゼ又はファージφC31インテグラーゼといったようなリコンビナーゼを使用することができる。染色体位置内に組込むための適切なリコンビナーゼは、(i)前記核酸配列が導入されるその細胞自体のゲノムからの発現によってか、(ii)細胞内に挿入された核酸配列によって操作可能な形でコードされることによってか、(iii)第2の核酸分子からの発現を通してか又は(iv)タンパク質として提供され得る。好ましい実施形態においては、問題のベクター内に含まれた変異体核酸配列は、いわゆる「ホットスポット」である問題の核酸配列の高レベルの転写及び発現を媒介する遺伝子座内に組込まれる。
【0076】
使用される宿主細胞系統は好ましくは、生物薬剤的タンパク質発現のために標準的に使用されるもの、例えばCHO細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/0細胞、NS0)、YB2/0、NIH3T3及び不死化ヒト細胞、例えばHeLa細胞、HEK293細胞又はPER.C6を含む哺乳動物細胞系統である。本発明においては、CHO細胞が使用された。しかしながら、当業者であれば記載されたとおりのその他の哺乳動物細胞でCHO細胞を置き換え、さらには植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、真菌及び細菌を含めたその他のタイプの細胞を利用することさえ容易にできると思われる。かくして、細胞型の選択は、本発明を制限するように意図されたものではない。好ましい実施形態においては、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の高い発現レベルを媒介する、予め特徴づけされたホットスポットを含有する哺乳動物細胞が製造のために使用される。
【0077】
本発明のさらなる実施形態においては、宿主細胞内の同じ染色体組込み部位を利用する部位特異的な形で、問題の変異体核酸配列が組込まれる。単一の特異的部位内へのこのような組込みは、そうでなければゲノム内の多重部位内への組込み又は無作為組込みの場合に見られる位置効果を最小限におさえる。特に、複数のポリペプチド鎖から成るポリクローナルタンパク質を発現する場合には、ゲノム内への部位特異的組込みが発生する単一の部位を有することがさらに適切である。これは、単一の細胞が複数の組込み体を発現する場合に、サブユニット間のスクランブリングが発生する確率が高いという事実に起因している。
【0078】
部位特異的組込み系において、個別宿主細胞は、例えば抗体又はTcRの抗原結合領域といった問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の可変領域内で観察される差異は別として同じタンパク質構造全体を発現している。従って、このような細胞プール内の細胞の大部分は、生産性及び遺伝的安定性に関して類似の特性を示しているべきであり、かくしてこの技術は、例えば組換え型ポリクローナル抗体又はTcRsといった組換え型ポリクローナルタンパク質の制御された生産の可能性を提供する。
【0079】
本発明の組換え型ポリクローナルタンパク質は、天然に可変的な、異なるが相同なタンパク質分子を含むタンパク質組成物を網羅するものとして意図されており、これはすなわち、好ましい実施形態において、変異体核酸ライブラリーが天然に発生する多様性を含むことを意味する。かくして、各々のタンパク質分子は、組成物のその他の分子と相同であるがポリクローナルタンパク質の個別成員間のアミノ酸配列の差によって特徴づけされる可変的ポリペプチド配列の1つ以上のストレッチをも含有する。可変的ポリペプチド配列を構成するアミノ酸配列(単複)の差は、アミノ酸1個といったわずかなものであり得る。好ましくは、アミノ酸配列の差異は、複数のアミノ酸を構成する。
【0080】
通常、ポリクローナル抗体又はTcRの天然の可変性は、ポリペプチド鎖のいわゆる可変領域又はV−領域内にあるものとみなされる。
【0081】
本発明の1態様においては、ポリクローナルタンパク質内の個別成員は、長さがおよそアミノ酸80〜120個である可変領域を含む。可変領域は、例えば相補性決定領域(CDR)といった超可変ドメインを含有する可能性がある。
【0082】
天然に発生するTcRsにおいては、各々の可変領域内に4つのCDRが存在する。天然に発生する抗体においては、重鎖内の3つのCDR及び軽鎖内の3つのCDRが存在する。
【0083】
本発明の付加的な態様においては、ポリクローナルタンパク質の個別成員の可変領域は、長さがアミノ酸1〜26個、好ましくは4〜16個である少なくとも1つの超可変ドメインを含有する。この超可変ドメインはCDR3領域に対応し得る。抗体については、各々の可変領域は、好ましくは3つの超可変ドメインを構成する。これらは、CDR1、CDR2及びCDR3に対応し得る。TcRについては、各々の可変領域は、好ましくは4つの超可変ドメインを構成する。これらは、CDR1、CDR2、CDR3及びCDR4に対応し得る。超可変ドメインは、単独で、本発明の組換え型ポリクローナルタンパク質の可変領域内の可変配列を構成する可能性がある。
【0084】
本発明に関連して、ポリペプチド配列内の可変性(ポリクローナル性)は同様に、例えば、ヒトイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2又はマウスイソタイプIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、及びIgAといったような2つ以上の異なる抗体イソタイプを含有する抗体混合物の場合のように、抗体ポリペプチド鎖のC領域又はいわゆる定常領域内に常在する個別の抗体分子の間の差異を表現するものとして理解することもできる。かくして、組換え型ポリクローナル抗体は、可変領域(V領域)又は定常領域(C領域)又はその両方において個別の抗体分子間の配列差により特徴づけられる抗体分子を含み得る。
【0085】
特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする変異体核酸配列を提供するためには、当該技術分野において既知の数多くの方法を利用することができる。標準的には、本発明は、特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする核酸の同定及び/又は単離を可能にするスクリーニング手順の使用に由来する恩恵を享受することになる。これらの方法のいくつかは、当該技術分野において全て既知でかつ本発明の実施において全て有利な補助的手段となる方法である、ファージ提示(カング(Kang)A.S.ら、1991、Proc Natl Acad Sci USA88、4363−4366)、リボソーム提示(シャフィッツェル(Schaffitzel)C.ら、1999.J.Immunol.Methods 231、119−135)、DNA提示(カル(Cull)M.G.ら、1992、Proc Natl Acad Sci USA89、1865−1869)、RNA−ペプチド提示(ロバート(Roberts)R.W.、スゾスタク(Szostak)J.W.、1997.Proc Natl Acad Sci USA94、12297−12302)、共有提示(国際公開第98/37186号パンフレット)、細胞表面提示(フーク(Fuchs)P.ら、1991、Biotechnology 9、1369−1372)、酵母表面提示(ボーダ(Boder)E.T.、ウィットラップ(Wittrup)K.D.、1997.Nat Biotechnol 15,553−557)及び真核ウイルス提示(グラブヘル(Grabherr)R.、エルネスト(Ernst)W.、2001、Comb.Chem.High Throughput、Screen、4、185−192)といった技術から知られているいわゆるバイオパニングステップを含んでいる。ELISA(ドレハー(Dreher)、M.L.ら、1991、J.Immunol.Methods 139、197−205)及びELISPOT(チェルキンスキー(Czerkinsky)C.C.ら、1983、J.Immunol.Methods.65,109−21)も同様に、バイオパニングステップに後続してか又は単独で使用することができる。
【0086】
問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の組成物は、例えば、所望の標的抗原に対するポリクローナル抗体の場合において、所望の標的に向かう共有の結合活性といったような共通の特長により定義されてきた明確なタンパク質サブセットを含んでいる。標準的には、ポリクローナルタンパク質組成物は、少なくとも3、4、5、10、20、50、100、1000、104、105又は106個の別個の変異体成員を有する。ポリクローナルタンパク質組成物内で必要とされる別個の成員の数は、標的の複雑性によって左右されることになる。抗体の場合、ターゲティングされる抗原(単複)の複雑性は、ポリクローナル抗体組成物内で必要な別個の変異体成員の数に影響を及ぼすことになる。例えば小型タンパク質といったような小さいか又は非常に複雑な標的の場合、3〜100の別個の変異体成員を含むポリクローナル抗体組成物で充分となり、変異体の数は、90又さらには80又は70を上回らないことが好ましい。数多くのケースで、別個の変異体の数は60又は50を上回らず、変異体の数が5〜30の間といったような5〜40の範囲内にあることが好まれる。一方、より複雑な標的、例えば複雑な又は互換性ある表面タンパク質を伴うか又は複数のウイルス亜型を包含するウイルスについては、20〜500の別個の変異体成員を含むポリクローナル抗体組成物で充分となる。抗原が数多くの異なる分子を含む非常に複雑な標的については、50〜10,000の別個の変異体成員を含むポリクローナル抗体組成物が必要とされるかもしれない。
【0087】
哺乳動物では、抗体又は免疫グロブリン分子といったような血液中で自由に循環しているか又はT細胞レセプタ及びB細胞レセプタといったように細胞表面上に存在する、天然に発生するポリクローナルタンパク質の複数の既知の例が存在する。これらの天然に発生するポリクローナルタンパク質の多様性は、一部の哺乳動物においては、これらのタンパク質の可変領域をコードする遺伝子の遺伝的組換えによって達成される。抗体は、体細胞突然変異によりその多様性を増大させるものとしてさらに知られている。本発明は、多様性の原因である配列(例えば、免疫グロブリン分子又はTcRsの可変ドメイン又はCDR領域)を単離しそれらから1つのライブラリーを生成することによってこれらの天然の多様性を利用することができる。例えば抗体可変重鎖及び可変軽鎖、TcRa鎖及びβ鎖又はTcRδ鎖及びγ鎖などの2つの独立した遺伝子セグメントからコードされたタンパク質については、ライブラリー内の各々のベクターが、これらの可変領域コーディング配列の対を構成することになる。可変領域コーディング配列対のライブラリーの生成は、当該技術分野において周知である。
【0088】
天然に発生する多様性を含むライブラリーは、例えば、組合せライブラリー(可変領域コーディング配列の無作為対合)ならびに同族対ライブラリー(同じ細胞から誘導された可変領域コーディング配列の対)である。抗体又はTcR可変領域といったような適切な枠組内に取込まれている単離されたCDR遺伝子フラグメントから生成されたさらなるライブラリー(例えば、ソダーリンド(Soderlind)E.ら,2000、Nat.Biotechnol.18,852−856)が、本発明で応用可能である。ライブラリーは、好ましくは、所望の特異性をもつサブライブラリー(問題のライブラリー)を得るためにスクリーニングされる。
【0089】
多様なタンパク質を、例えば合成又は突然変異による人工的な要領で作ることもできる。突然変異は、単一のタンパク質をコードする核酸配列の無作為又は点突然変異のいずれかであり得、かくして、単一のタンパク質のポリクローナル集団を生成する。人工的抗体ライブラリーを生成するもう1つの例が、CDRのもう1つのライブラリーと組合わせられ得る可変領域の枠組のライブラリーを生成することに基づく1つの方法である欧州特許第0 859 841号明細書中で記載されている。
【0090】
本発明の好ましい実施形態においては、組換え型ポリクローナルタンパク質は、組換え型ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントである。
【0091】
本発明のもう1つの好ましい実施形態においては、組換え型ポリクローナルタンパク質は、組換え型ポリクローナルTcR又はTcRフラグメントである。
【0092】
いわゆる可変領域内の遺伝的及び体細胞組換えにより達成される多様性に加えて、重鎖により定義される異なる免疫グロブリンのイソタイプが存在する。主要なイソタイプはIgM、IgG、IgA、IgD及びIgEである。
【0093】
従って、本発明の組換え型ポリクローナルタンパク質は同様に、異なるイソタイプから又はより好ましくは異なるサブクラスから構成され得る。免疫グロブリンのポリクローナル性は、定常部分内又は免疫グロブリン分子の可変ドメイン内又は定常部分と可変ドメインの両方の中で発生し得る。
【0094】
いわゆる定常領域特に抗体の重鎖内のポリクローナル性は、抗体の治療的応用に関して有利なものである。さまざまな免疫グロブリンイソタイプは、天然の免疫応答の異なる局面に異なる免疫グロブリンイソタイプが関与し得ることから、治療のために抗体を利用する場合に組合せることが望ましい可能性のある異なる生物学的機能(表1中に要約されているもの)を有している(カンフィールド(Canfield)及びモリソン(Morrison)1991、J.Exp.Med.173、1483−91;カンペル(Kumpel)ら、2002、Transfus.Clin.Biol.9、45〜53;スターナデル(Stirnadel)ら、2000.Epidemiol、Infect.124、153−162)。
【0095】
表1:ヒト免疫グロブリンイソタイプの生物学的機能
【表1】
【0096】
本発明のさらなる実施形態は、変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を含む組換え型ポリクローナル製造細胞系統において、前記収集物中の各々の細胞が、特定の抗原を結合させるポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードしかつ前記収集物内の個別の細胞のゲノム内で同じ単一の部位にある前記ライブラリーの1成員でトランスフェクションされ、この成員を発現する能力を有しており、前記核酸配列が前記収集物中の前記細胞と天然においては関連していない組換え型ポリクローナル製造細胞系統である。
【0097】
上述の実施形態の付加的な実施形態においては、(好ましくは免疫グロブリンスーパーファミリーからの)ポリクローナルタンパク質をコードする変異体核酸配列は全て、例えば供与体から単離された自然に発生する配列から誘導される。
【0098】
各細胞内のゲノム内で単一の特異的部位に位置設定された変異体核酸を含有する細胞組成物が国際公開第02/44361号パンフレット中で記載されてきた。この文書は、望ましい特性を有する分子を同定するための細胞の使用を開示しているが、該参考文献は、生産システムの提供又は抗原に対する特異的結合による特徴づけされるポリクローナルタンパク質の提供を取扱っていない。
【0099】
クローン多様性
ポリクローナルタンパク質の特徴の1つは、各々のタンパク質分子が該ポリクローナルタンパク質のその他の分子と相同であるものの該ポリクローナルタンパク質の個別成員間のアミノ酸配列の差異により特徴づけされる可変性をも有している、一定数の個別のタンパク質分子によりそれが構成されているという点にある。好ましくは、差異は、ポリクローナルタンパク質の全体的構造の別個の部域に限定される。かかる部域は、例えば抗体又はTcRの可変領域であり、場合によってはさらにこれらの部域内のCDR領域に限定される。この可変性は同様に、核酸レベルならびにタンパク質の機能レベル、例えば標的に向かっての特異性及び親和力の差異の両方で同定可能な多様性としても表現できる。
【0100】
組換え型ポリクローナルタンパク質を発現する細胞プールからの単離されたクローンについてのRFLP(又は(RT)−PCR産物の配列決定)により、細胞系統のクローン多様性を分析することができる。
【0101】
該多様性は、細胞系統により産生された組換え型ポリクローナルタンパク質についての機能的試験(例えばELISA)により分析することもできる。
【0102】
クローン偏向(すなわち、ポリクローナル抗体を構成する個別抗体の内容の漸進的変化)が存在する場合、これはトランスフェクションのために用いられる初期ライブラリーのクローン多様性を、組換え型ポリクローナルタンパク質を発現する細胞プール(細胞系統)内に見られる多様性と比較することによって、推定することができる。
【0103】
細胞系統から発現されたポリクローナルタンパク質のクローン多様性は、ポリクローナルタンパク質による標的カバレッジとして評価可能である。この場合、所望の標的分子の約25〜100%がポリクローナルタンパク質により結合させられている場合に、充分な多様性が獲得されたとみなされる。例えば、ポリクローナル抗体の場合、標的抗原の表面上の非同一性エピトープの少なくとも25%に対する抗体の結合は、組成物内の充分な多様性を提供する。好ましくは、標的カバレッジによるクローン多様性は、少なくとも50%、さらに一層好ましくは少なくとも75%である。抗体については、このような標的カバレッジは、例えばエピトープマッピングにより評価可能である。
【0104】
代替的には、ポリクローナル組成物の個別成員の分布としてクローン多様性を評価することが可能である。この分布は、トランスフェクションの間に細胞系統内に当初導入された異なるコーディング配列の数と比較した、最終的なポリクローナルタンパク質組成物内の異なる個別成員の合計数として評価され得る。この場合、トランスフェクションにおいて当初使用されたコーディング配列の少なくとも50%そして好ましくは少なくとも75%を最終的ポリクローナルタンパク質の異なる個別成員として同定できた時点で、充分な多様性が獲得されたとみなされる。
【0105】
ポリクローナル組成物の個別成員の分布は同様に、個別成員の間での相互分布に関連して評価することもできる。この場合、組成物のどの単一の成員も、最終ポリクローナルタンパク質組成物中の個別成員の合計数の75%を上回る割合を構成していない場合に、充分なクローン多様性が獲得されたとみなされる。好ましくは、いかなる個別成員も、最終ポリクローナル組成物中の個別成員合計数の50%、さらに好ましくは25%そして最も好ましくは10%を上回らない。ポリクローナル組成物内の個別成員の分布に基づくクローン多様性の評価は、ポリクローナル組成物の特徴づけのための後述するアプローチといったような、RFLP分析、配列分析及びタンパク質分析によって実施可能である。
【0106】
クローン多様性は、a)クローニングプロセス中に、b)細胞増殖の変動の結果として、又は c)多数の組込み体のスクランブリングを通して発生しうるクローン偏向の結果として、削減され得る。このような偏向が発生した場合、クローン多様性の喪失のこれらの原因の各々は、本書に記載されている通りの方法に対しわずかな修正を加えることにより容易に是正される。
【0107】
適切なベクター内への可変ドメインのクローニングにより導入される偏向を制限するために、1つのベクターからもう1つのベクターへの問題の遺伝子の移送を、クローニング偏向が制限されるような形で設計することができる。増幅のために使用されるE.coli菌株の入念な選択及び大量移送技術が、クローニング偏向を削減できる。もう1つの可能性は、本発明のベクター間で、ポリクローナルタンパク質の個別成員をコードする各々のポリヌクレオチドの個別移送を実施することである。
【0108】
細胞系統内の個別細胞の細胞増殖速度の変動が、長期にわたり組換え型ポリクローナルタンパク質発現に偏向を導入して、その細胞系統により発現された組換え型ポリクローナルタンパク質の一部の成員の存在を増大又は低減し得るという可能性がある。増殖速度のこのような変動の1つの理由は、初期トランスフェクションのために使用された出発細胞系統を構成する細胞集団が不均一であるということにあると考えられる。1つの細胞系統中の個別細胞が長期間にわたり異なる形で発達するということが知られている。より均一な出発材料を確保するため、単細胞レベルまでのその細胞系統の限界希釈法を用い、新しい細胞集団まで各々の単細胞を成長させること(いわゆる限界希釈法による細胞サブクローニング)により、問題のライブラリーでのトランスフェクションに先立つ細胞系統のサブクローニングを実施することができる。これらの細胞集団のうちの1つ以上のものが、このとき、その増殖及び発現特性に基づき出発材料として選択される。
【0109】
さらに、部位特異的組込み体を受け入れた細胞のみが生き延びることになるようにするために使用される選択圧は、ポリクローナル細胞系統内部の個別細胞の増殖速度に影響を及ぼす可能性がある。これは、選択圧に適合させるべく或る種の遺伝的変化を受ける細胞に有利に働くことに起因する可能性がある。かくして、選択マーカーの選択も、増殖速度により誘発される偏向に影響を及ぼす可能性がある。これが起こった場合、異なる選択マーカーを試験してみるべきである。選択が細胞にとって有毒な物質に基づいている場合、最適な濃度、ならびに生産期間全体を通して選択が必要とされるか又は初期段階においてのみ必要とされるかを、入念に試験すべきである。
【0110】
明確な細胞集団を確保するための付加的なアプローチは、トランスフェクション及び選択の手順後に蛍光励起された細胞選別(FACS)を使用することにある。IgG構築物のトランスフェクションを受けた細胞のプールから誘導された生産性の高い細胞について富化するためには、螢光標識された抗体を使用することができる(ブレジンスキー(Brezinsky)ら、J.2003.Immunol Methods277、141−155)。この方法は同様に、類似のレベルの免疫グロブリンを発現する細胞を選別し、かくして生産性に関して均一な細胞集団を作り上げるためにも使用可能である。同様にして、螢光染料5,6−カルボキシルフルオレセインジアセテートスクシニミジルエステル(CFSE)での標識を使用することにより、FACS方法により、類似の増幅速度を示す細胞を選択することができる。
【0111】
増殖速度により誘発された偏向が実際に発生したとしても、最終組換え型ポリクローナルタンパク質産物の多様性必要条件及び多様性の経時的安定性に応じて、個別成員の喪失又は過剰な出現は、必ずしも危機的ではない可能性がある。
【0112】
部位特異的単一組込み体においては、細胞は、発現されるべき抗体の可変領域の配列についてのみ異なることになる。従って、組込み部位及び遺伝子調節要素の変動により課せられる異なる細胞効果は無くなり、細胞増殖速度に対し最小限の効果しかもたない。スクランブリングも多重組込みも、稀な事象であることから、製造細胞系統の増殖速度に問題をひき起こす確率は低い。無作為組込みは一般に約10−5の効率で発生し、一方部位特異的組込みは約10−3の効率で起こる。多重組込みが予想外に問題をひき起こした場合、上述の通り事象が再発する確率は非常に小さいことから、代替案は問題のベクターライブラリーでのトランスフェクションをくり返すことである。付加的な代替案は、以下の例3で記されている。
【0113】
望ましくないクローン偏向を制御するもう1つの方法は、複数のサブプール内で問題のベクターライブラリー全体でのトランスフェクションを実施するか又は、サブプール内へのトランスフェクション後に早期時点で細胞プールを分割することにある。この時点で、偏向は、有意なものとなってしまっていてはならず、又は、望ましくない増殖利点をもつクローンが欠如したサブプールを獲得することが統計的に可能でなくてはならない。結果としての望ましくないクローンの排除は、最終的組換え型ポリクローナルタンパク質産物における多様性の必要条件と一致していなければならない。統計を考慮すると、多数の細胞のバルクトランスフェクションも又、望まれないクローン偏向を回避する一つの方法を構成する。このアプローチにおいては、宿主細胞系統が変異体核酸配列ライブラリーとまとめてトランスフェクションされる。このようなライブラリーは、その各々の別個の成員の数多くのコピーを構成する。これらのコピーは、好ましくは多数の宿主細胞内に組込まれるべきである。好ましくは、少なくとも100、1000、10000又は100000の個別細胞が変異体核酸配列ライブラリーの別個の成員のコピーでトランスフェクションされる。かくして、別個の変異体核酸配列ライブラリーが、各々1000個の個別細胞内に組込まれる1000の別個の成員で構成されている場合、部位特異的に組込まれたGOIを含有する106個のクローンがトランスフェクションから発生するべきである。この要領で、個別細胞倍増速度のガウス曲線は、非常にわずかな程度でしか一般集団に影響を及ぼさないはずである。こうして、製造細胞の低い百分率が異常な増殖及び/又は発現特性を示すはずであるとしても、経時的にクローン組成物を一定に保つ確率は高くなる。
【0114】
代替的には、問題のベクターライブラリーを、そのライブラリーのおよそ5〜50の個別ベクターを含む画分へと分割することができる。好ましくは、ライブラリーの一画分は、10〜15の個別ベクターを構成する。各々の画分はこのとき細胞アリコート内へとトランスフェクションされる。このとき、個別の細胞アリコートを一定の期間追跡調査してそのうちのいずれかにクローン偏向が発生しているか見ることができる。これが起こっている場合には、残りの細胞アリコートをプールすることにより細胞収集物が再構築される前に、かかる細胞アリコートを削除することができる。任意には、細胞アリコートは生産全体を通して別々に保たれ、ポリクローナル抗体組成物は、生産前に複数の細胞アリコートではなく各々のアリコートの産物を組合せることにより組立てられる。取扱うことのできるプールの数は、5〜10の間にあると予想される(モノクローナル抗体についての以上の記載を参照のこと)。
【0115】
代替的には、問題のベクターの初期ライブラリーからの単一クローンに基づいてベクター及び細胞を用いて別々に細胞がトランスフェクションされる高速大量処理方法を実施することができる。こうして、トランスフェクション及び組込みの間に考えられるあらゆる配列偏向を無くすることができる。任意には、単一のトランスフェクタントを遺伝子型特定することそして、生産の直前か又は該当する場合にはより早い時期に完全な多様性をもつ細胞プールを組立てることができる。代替的には、変異体核酸配列ライブラリーの同じ別個の成員で多くのクローンを生成する多数の細胞の個別トランスフェクションは、個別にトランスフェクションされた細胞がポリクローナルタンパク質の製造前にプールされている場合、バルクトランスフェクションについて記載されたものと同じ統計的利点を生み出す可能性がある。
【0116】
宿主細胞
適切な宿主細胞は、そのゲノムの1領域の中に、1つ以上の適切な組換え部位、すなわち1つ以上のリコンビナーゼ酵素により認識可能な核酸配列を含む。組込み体(すなわち組込み部位内に問題の核酸配列の組込まれたコピーを有する細胞)について選択する能力を有するために、組換え部位は、それに対し3’のところにある第1の選択遺伝子(例えば抗生物質耐性遺伝子)に操作可能な形でリンクされる。さらに、耐性マーカーコーディング領域の一部を成す組換え部位に対し5’のところに、弱いプロモーター(例えば切形SV40早期プロモーター)及び転写開始コドンが位置づけされ得る。かくして、転写開始コドンは、ポリクローナルタンパク質をコードする発現ベクターのライブラリーでのトランスフェクションの前に宿主細胞内の選択遺伝子の転写開始を先導する。
【0117】
上述の通りの部位特異的組込みのための宿主細胞は、DNAをその染色体内に取込むか又はミニ染色体、YAC(酵母人工染色体)、MAC(マウス人工染色体)、又はHAC(ヒト人工染色体)といったような外部染色体要素を保持することのできるあらゆる細胞から生成可能である。MAC及びHACについては、本明細書に参照により援用されている国際公開第97/40183号パンフレットの中で記載されている。好ましくは哺乳動物細胞例えばCHO細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えばSp2/0又はNS0細胞)、NIH3T3といった線維芽細胞、及びHeLa細胞、HEK293細胞又はPER.C6といった不死化ヒト細胞が使用される。ただし、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、真菌、E.coli細胞などといったような哺乳動物以外の真核又は原核細胞も同様に利用可能である。
【0118】
本発明の1実施形態においては、出発材料として用いられるべき細胞系統は、単細胞レベルまでその細胞系統のいわゆる限界希釈法を実施し、その後続いて、問題のベクターライブラリーでのトランスフェクションに先立ち新しい細胞集団まで各々の単細胞を成長させることによってサブクローニングされる。かかるサブクローニングは、同様に、望まれる場合、正しい細胞系統を選択するプロセスにおいて後に実施することも可能である。
【0119】
部位特異的組込みのための宿主細胞は、弱いプロモーター(例えば切形SV40早期プロモーター)、転写開始コドン、開始コドンに対し3’のところにある組換え部位を含む、無作為組込み用プラスミドでのトランスフェクションによって得ることができる。好ましくは、組込み用プラスミドは同様に、第1の選択遺伝子にカップリングされたマーカー遺伝子をも含んでいる。かかる組込み用プラスミドの1例としては、インビトロジェン(Invitrogen)(カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))からのpFRT/LacZeo2がある。問題の核酸配列を挿入するために使用されるゲノム位置での発現の相対的強度を評価するためにマーカー遺伝子を使用することができる。マーカー遺伝子(例えばベータガラクトシダーゼ(LacZ)、緑色螢光タンパク質(GFP)又は細胞表面マーカー)を、第1の選択遺伝子及びマーカー遺伝子の同時発現が起こるような形でIRES(内部リボソーム進入部位)により転写的にリンクさせるか又は遺伝子融合内で第1の選択遺伝子にリンクさせることができる。細胞系統から細胞系統への相対的発現レベルの評価を可能にするマーカーと組合せられた細胞に対する存続圧(例えば薬物耐性又は栄養枯渇)を確立する選択遺伝子の使用は、ゲノム内部に組込まれたプラスミドを維持する高産生細胞を確保するための効率の良い方法である。特に活発な転写を伴うスポットで挿入された組換え配列を伴う細胞が、例えばGFP又はLacZといったマーカー遺伝子の高い発現を導くことになる。高発現体は、蛍光励起細胞選別(FACS)により選択されクローニングされ得る。この時点で、組込み体が単一の組込み体であるか否かも分析すべきである。これはリアルタイムPCR及びサザンブロット法により実施可能である。
【0120】
組込み用プラスミドでのトランスフェクションを受けた細胞から相対的発現レベルを評価するためのもう1つの方法は、上述の通りに生成された細胞上で付加的な組込み−切除ステップを実施することにある。選択された細胞のこのプールは、組込み用プラスミドの組換え部位に対応するリコンビナーゼをコードするプラスミド、及び第1の組込み用プラスミドに同様に対応する組換え配列が先行するコーディング領域を有する、開始コドン無しの第2の選択マーカーを含む第2のプラスミドで、再度トランスフェクションされる。この第2のプラスミドは同様に、哺乳動物プロモーターによって駆動された蛍光マーカータンパク質(例えばGFP(又は等価の蛍光タンパク質))のためのコーディング配列をも含んでいる。リコンビナーゼは、組込み用プラスミドにより予め類似の組換え配列が挿入されている宿主細胞ゲノム内へのこのプラスミドの組込みを媒介する。特に活発な転写を伴うスポットに挿入された組換え配列を伴う細胞が、蛍光タンパク質の高い発現を導くことになる。高発現体は、蛍光励起細胞選別(FACS)により選択されクローニングされる。一貫して高い発現を伴い、挿入されたプラスミドの1つのコピーを含むクローンがリコンビナーゼでトランスフェクションされ、第1の選択マーカーにより選択され、第2のプラスミド配列がリコンビナーゼにより除去されてしまっている細胞を同定し、第1の選択マーカーを再度働かせる。これらの細胞はさらに、転写ホットスポットで挿入された第1の組換え配列をも含み、今や問題の遺伝子の発現のために使用可能である。
【0121】
プラスミドの単一コピーの組込み時点でマーカー遺伝子の高い発現を達成する細胞系統が、問題の遺伝子でのトランスフェクションのために使用される。宿主細胞内の組換え部位は好ましくは、特に活発な発現の遺伝子又は領域すなわちいわゆるホットスポットの中にある。
【0122】
部位特異的組込み用ベクター
適切なベクターは、宿主細胞の構築のために用いられる選択遺伝子とは異なる適切な選択遺伝子にリンクされた適切な組換え部位を含む。哺乳動物細胞発現において使用するための適切な選択遺伝子には、栄養選択を可能にする遺伝子、例えばチミジンキナーゼ遺伝子(TK)、グルタミンシンセターゼ遺伝子(GS)、トリプトファンシンターゼ遺伝子(trpB)又はヒスチジノールジヒドロゲナーゼ遺伝子(hisD)が含まれるが、これらに制限されるわけではない。さらに、選択マーカーは、薬物耐性を付与する代謝拮抗剤耐性遺伝子、例えば、ヒポキサンチン及びチミジン欠損培地で選択可能でありさらにはメトトレキセートで選択可能であるジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)、マイコフェノール酸で選択可能であるキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、真核細胞内のG418又は原核細胞内のネオマイシン又はカナマイシンで選択可能なネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)、ハイグロマイシンで選択可能であるハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg、hph、hpt)遺伝子、ピューロマイシンで選択可能であるピューロマイシンN−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(pac)又はブラスチシジンで選択可能であるブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子(Bsd)である。最後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)、神経成長因子レセプタ(NGFR)又はその他の膜タンパク質又はベータ−ガラクトシダーゼ(LacZ)といったような、例えばフローサイトメトリによる選別を可能にするタンパク質をコードする遺伝子も、選択マーカーとして使用可能である。
【0123】
本発明の1態様においては、選択可能な遺伝子は、プロモーターにより先行されず、又翻訳開始コドンも備わっていない。プロモーター及びATGコドンは、選択された部位特異的組換え部位に提供されている。このベクターが、宿主細胞のゲノム内に選択された組換え部位以外の場所で組込まれている場合、この第2の選択遺伝子の発現は、プロモーター及び開始コドンの欠如に起因して全く発生し得ない。組込みが宿主細胞のゲノム内で選択された部位で起こる場合、第2の選択遺伝子は発現され、第1の選択遺伝子の発現は失なわれる。
【0124】
組込みは、例えば、Saccharomyces cerevisiae由来のFlpリコンビナーゼ又はその突然変異体と共に部位特異的組込み用ベクター上で、ゲノム内のいわゆるFRT部位(5’−gaagttcctattccgaagttcctattctctagaaagtataggaacttc−3’(配列番号1)及びその変異体)を用いて実施され得る。しかしながら、attP部位及びattB部位の間の組換えを実施するファージインテグラーゼφC31又はラムダインテグラーゼを用いることによって(A.C.グロス(Groth)ら,PNAS2000,97;5995−6000)か又は、バクテリオファージP1からのloxP又はその変異体又は突然変異体例えばlox66、lox71、lox76、lox75、lox43、lox44及びlox511といったようなさまざまなlox部位(C、ゴーマン及びC.バロック(C.Gorman and C.Bullock)Curr.Opinion in Biotechnology 2000,11:455−460)及びCreリコンビナーゼのものを含め、その他のリコンビナーゼ系も同等にうまく使用することができる。本発明で利用可能なさらなるリコンビナーゼ系としては、細菌プラスミドpSM19035からのβ−リコンビナーゼ−six系、バクテリオファージMuからのGin−gix系又はZygo saccharomyces rouxii由来のR−RS系があるが、これらに制限されるわけではない。
【0125】
部位特異的組換え系に対するさらなる変形形態は、非相同組換え部位を使用することにある。このような系においては、2つの同一でない組換え部位が、特異的標的部位の生成のため宿主ゲノム内に導入される。標的部位をフランキングするものに対応する組換え部位が、同様に、問題の遺伝子を含む構築物をもフランキングする。かかる系については、本明細書に参照により援用されている国際公開第99/25854号パンフレット内で記載されてきた。非相同組換え部位の使用は、染色体からのGOIの切除を抑制することが示された。非同一組換え部位は、対応するリコンビナーゼが提供されるかぎりにおいて上述の組換え部位のいずれかで構成され得る。例えば、非同一組換え部位は、組込みのためにFlpリコンビナーゼを利用するFRT部位及び突然変異体FRT部位、又は組込みのためにFip及びCreリコンビナーゼを利用するFRT部位及びloxP部位から成ると考えられる。
【0126】
さらに、2つの異なるFRT部位を用いた系は、バーホーエン(Verhoeyen)ら、Hum.Gene Ther.2001 12、933−44で記載されてきた。このアプローチでは、組込み用プラスミドは、レトロウイルス感染によって宿主細胞に移送される。該プラスミドは、リポータ遺伝子及び第1の選択マーカー遺伝子ならびに感染に必要とされるレトロウイルス要素の組合せで構成されている。レトロウイルス3’LTRは2つの異なるFRT部位を含んでいる。プロモーター及び翻訳開始コドンが欠如した非機能的な第2の選択マーカー遺伝子が、これらの部位に対し3’のところに位置設定されている。レトロウイルス感染プロセス中、3’LTR配列は、5’LTRにコピーされる。この結果、各々の側で2つの異なるFRT部位によりリポータ遺伝子及び第1の選択マーカーがフランキングされている。外部FRT部位の間の配列は強いプロモーターの制御下でGOIに対して交換可能である。GOIを含むカセットは、FRT部位の同じセットによりフランキングされている。反応はFlpリコンビナーゼによる触媒作用を受ける。トランスフェクションを受けた交換プラスミドにおいては、IRES要素及び翻訳開始コドンがGOIのさらに下流側に位置設定されている。組込まれたカセットの置換の後、FRT部位の外側の3’LTR配列内に位置設定された非機能的選択マーカー遺伝子は、GOI構成カセットによって提供される翻訳開始コドンによって活性化される。交換状態は、組込みベクター内に負の選択マーカー(例えばチミジンキナーゼ)が存在する場合に、さらに富化され得る。
【0127】
組込み用ベクターは、同様に、標準トランスフェクションによって宿主細胞に移送され得る。この場合、組込み用カセットは5’末端でFRTにより、そして3’末端で異なるFRT’部位によりフランキングされる。ATGが欠損した第2の耐性マーカー遺伝子は、3’FRT’部位のさらに下流側に位置づけされている。GOIについての交換は、レトロウイルス系について記載されている通りに進行する。
【0128】
染色体内へのその部位特異的組込みの後のGOIの切除を妨げるもう1つの系は、同じく以上で言及したφC31インテグラーゼである。この系については、その全体が本明細書に参照により援用されている特許出願国際公開第01/07572号パンフレット及び国際公開第02/08409号パンフレットの中で徹底的に記載されてきた。
【0129】
発明のさらなる一態様においては、問題の遺伝子の部位特異的組込み用のベクターはさらに、任意にはタンパク質の発現を導くその独自の哺乳動物プロモーターが先行している、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一つの成員をコードするDNAを含んでいる。問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員が複数のタンパク質鎖を含む場合、例えば該成員が抗体又はT細胞レセプタである場合、タンパク質の鎖をコードするDNAには、その各々の鎖の高レベルの発現(双方向又は単方向、それぞれ図1及び2を参照のこと)を導く独自の哺乳動物プロモーターが先行している可能性がある。双方向発現においては、発現ベクター内の頭−頭のプロモーター形態を使用することができ、単方向発現のためには、発現用に例えばIRES配列と組合わされた1つのプロモーター又は2つのプロモーターを使用することができる。適切な頭−頭のプロモーター形態としては、例えば、両方の方向性でのマウスメタロチオネイン−1プロモーターと合わせたAdMLPプロモーター、両方の方向性での伸長因子−1プロモーターと合わせたAdMLPプロモーター又は両方の方向性でのMPSVプロモーターと合わせたCMVプロモーターであるが、これらに限定されるわけではない。
【0130】
細胞小器官といったような細胞内の特定の場所又は小胞体に遺伝子産物を導くため、発現ベクター内に機能的リーダー配列をコードする核酸配列を含み入れることができる。強いポリアデニル化シグナルは、タンパク質コーディングDNA配列の3’のところに位置づけされ得る。ポリアデニル化シグナルは、未完成RNA写しの終結及びポリアデニル化を確保し、メッセージ安定性と相関される。問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の一成員をコードするDNAは例えば、抗体又は複数の抗体フラグメントの重鎖及び軽鎖の両方をコードすることができ、ここで各々の遺伝子配列には任意には、独自の哺乳動物プロモーター要素が先行しかつ/又は2つの鎖の各々の高レベル発現を導く強いpolyAシグナルが後続している。
【0131】
部位特異的組込みのための発現ベクターは、組込み部位における発現の増大のため、エンハンサ又はUCOE(遍在性染色質開放要素)といったような付加的な転写調節要素を担持することができる。エンハンサは、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する核酸配列である。UCOEは、染色質を開放するか又は開放状態で染色質を維持し、(その全体が本明細書に参照により援用されている国際公開第00/05393号パンフレットの中で詳述されている)作動可能に連結された遺伝子の再現可能な発現を容易にする。以上で記載した調節要素のうちの1つ以上のものが宿主細胞の染色体内に組込まれた時点で、これらは異種調節要素と呼ばれる。
【0132】
タンパク質の高レベル発現のための発現系を確立する。
1つの細胞内に核酸配列を導入するための方法は、当該技術分野において既知である。これらの方法は、標準的に、細胞、ゲノム又は外部染色体要素内に問題の配列を導入するためのDNAベクターの使用を含んでいる。細胞のトランスフェクションは、リン酸カルシウム沈降、電気穿孔法、マイクロインジェクション、リポゾーム融合、RBCゴースト融合、原形質融合などを含めた、当業者にとって既知の一定数の方法によって達成され得る。
【0133】
宿主細胞系統のトランスフェクションのためには、各ベクターが問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の1つの成員をコードする核酸配列のコピーを1つだけ含む、問題のベクターライブラリーが使用される。この問題の発現ベクターライブラリーは、問題の組換え型ポリクローナルタンパク質を集合的にコードする。部位特異的組込みのための適切なベクターが前節内で記載された。問題の変異体核酸配列ライブラリーを構成する個別ベクターを、一緒に単一の組成物へと混合させることができ、そうでなければ、各ライブラリー成員をコードする個別ベクターを、別々の組成物内に又は1つの組成物内のライブラリーの約5〜50の個別ベクターの混合物内に保つことができる。
【0134】
組換え型ポリクローナル製造細胞系統の生成及びかかる細胞系統からの組換え型ポリクローナルタンパク質の産生は、複数の異なるトランスフェクション及び製造戦略によって得ることができる。これらの戦略は、図3で概略的に説明されている。
【0135】
1つのやり方は、宿主細胞系統のトランスフェクションのために単一の組成物の形に混合されたベクターライブラリーを使用することである。この方法は、バルクトランスフェクション又は大量トランスフェクションと呼ばれる。一般に、以前に記載されたベクター及び宿主細胞の設計は、適切な選択の時点でポリクローナル細胞が確実に得られるようにすることになる。このような細胞系統では、個々の細胞の大部分は、問題の核酸配列ライブラリーからゲノム内へ、組換え型ポリクローナルタンパク質の別個の成員をコードする核酸分子の1つのコピーを組込んでいた。核酸配列の単一のコピーは、細胞収集物内の各細胞のゲノムの単一の特定的部位内に組込まれ、かくして、問題のポリクローナルタンパク質の個別成員を発現する個別細胞から成るポリクローナル細胞系統を生成する。組換え型ポリクローナルタンパク質の製造開始の前にポリクローナル細胞系統の凍結ストックが生成される。
【0136】
もう1つの方法は、トランスフェクションのために、1つの組成物内にライブラリーの約5〜50の個別ベクターを含む、画分に分割されたベクターライブラリーを使用することである。好ましくは、ライブラリーの画分は10〜20個の個別ベクターを構成する。各組成物はこのとき宿主細胞アリコート内にトランスフェクションされる。この方法は、半バルクトランスフェクションと呼ばれる。トランスフェクションを受けるアリコートの数は、ライブラリーのサイズ及び各画分内の個別ベクターの数によって左右されることになる。ライブラリーが例えば、1組成物内に20の別個の変異的成員を含む画分に分割される100の別個の変異的成員を構成する場合、5つの宿主細胞アリコートが、オリジナルのライブラリーの別個の画分を構成するライブラリー組成物でのトランスフェクションを受ける必要があると思われる。宿主細胞アリコートは、部位特異的組込みについて選択される。好ましくは、別個のアリコートは別々に選択される。ただし、これらは同様に、選択前にプールされてもよい。アリコートは、そのクローン多様性について分析可能であり、充分な多様性をもつものだけが、ポリクローナルGOIライブラリーのストックを生成するのに使用されることになる。製造用の所望のポリクローナル細胞系統を得るためには、アリコートを、ストックからそれらが回収された直後、又は短かい増殖及び適応時間の後に、冷凍ストックを生成する前に混合することができる。任意には、細胞アリコートは、生産全体を通して別々に保たれ、ポリクローナルタンパク質組成物は、生産の前の細胞アリコートではなく各アリコートの産物を組合せることによって組立てられる。
【0137】
第3のやり方は、問題のライブラリーを構成する個別ベクターを用いて宿主細胞が別々にトランスフェクションされる、高速大量処理方法である。この方法は、個別トランスフェクションと呼ばれる。個別にトランスフェクションを受けた宿主細胞は好ましくは、部位特異的組込みについて別々に選択される。しかしながら、これらを選択の前にプールすることもできる。選択時点で生成された個別細胞クローンは、増殖時間及び組込みパターンに関して分析され得、類似の成長速度及び単一の部位特異的組込みをもつものが、ポリクローナルGOIライブラリーストックを生成するために使用される。ストックから回収された直後又は短かい増殖及び適応時間の後、ストックを生成する前に所望のポリクローナル細胞系統を得るべく、個別細胞クローンを混合することができる。
【0138】
このアプローチは、トランスフェクション、組込み及び選択の間に考えられるあらゆる残留配列偏向を除去することができる。代替的には、個別にトランスフェクションを受けた宿主細胞は、選択が実施される前に混合され、こうしてトランスフェクションに起因する配列偏向の制御が可能となる。
【0139】
以上で概略的に記した製造戦略における共有の特長は、組換え型ポリクローナルタンパク質を構成する全ての個別成員を、約10基を最大として、1基又は制限された数の生物反応器の中で生産できるという点にある。唯一の差異は、組換え型ポリクローナル製造細胞系統を構成する細胞収集物を生成することを選択する段にある。
【0140】
問題の組換え型ポリクローナルタンパク質の発現及び産生のために使用されるべき宿主細胞系統は、リコンビナーゼ酵素(単複)により認識可能な1つ以上の核酸分子を有する(例えば、米国特許第5,677,177号明細書中に記載されているようなゲノム内の予め定められた場所にFRT部位をもつ予め調製された細胞)。
【0141】
部位特異的組込み用のベクターは、好ましくは、高レベル発現を媒介する所定のゲノム遺伝子座、つまりいわゆるホットスポット内に組込まれる。
【0142】
発現レベルを増大させる必要がある場合、DHFR遺伝子又はグルタミンシンセターゼ(GS)遺伝子についての選択を用いて、遺伝子増幅を実施することができる。これには、このような選択マーカーを含むベクターを使用することが必要となる。
【0143】
ポリクローナルタンパク質の製造のためには、各タンパク質成員が3つ以上のポリペプチド鎖で構成されている場合、鎖の組合せは、それらが形成するタンパク質の親和性、特異性及び活性にとって重要なものであり得る。このことは例えば、抗体及びTcRcについて見られる。例えば、抗体可変重鎖及び可変軽鎖の組合せは、鎖から形成される抗体の親和性及び特異性に影響を及ぼすことが知られている。かくして、或る種の標的に対する親和性をもつ抗体を生成するその能力のために抗体コーディング配列の1つのライブラリーが選択された場合、最終的産物内の可変重鎖及び可変軽鎖の組合せがこれに確実に対応するようにすることが望ましい。この理由から、ポリクローナルタンパク質の個別成員を構成するポリペプチド鎖は、組込みのために用いられるのと同じベクター内に置かれ、かくしてそれらが確実にプロセス全体を通して一緒に保たれるようにする。
【0144】
以下の記載は、鎖のスクランブリングが存在したとしても最小限である、組換え型ポリクローナル抗体発現細胞系統の獲得方法の1例である。
【0145】
可変重鎖及びカッパ軽鎖全体によりとり囲まれた頭−頭の構造といったような反対の転写方向に置かれた2つのプロモーターをもつ構成的発現用の汎用プロモーターカセットが構築され、FRT部位及びハイグロマイシン耐性遺伝子及び重鎖定常領域を含む部位特異的組込み用ベクター内への構築物全体の移送を可能にした。誘発的発現用プロモーターカセットも同じく使用可能であると考えられている。その上、反対方向での転写を結果としてもたらす尾−尾(tail-to-tail)又は単方向転写用の尾−頭(tail-to-head)の関係にプロモーターを置くこともできる。lacZ−ゼオシン融解遺伝子を安定した形で発現するCHO−Flp−In細胞(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))が実験のために使用され、細胞に抗生物質ゼオシン耐性を付与した。細胞は、ゼオシンを含有する培地の中に維持された。Flpリコンビナーゼを発現するプラスミドと合わせて異なる選択マーカー(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)及びポリクローナル抗体をコードする部位特異的組込み用のベクターライブラリーで、細胞をまとめてトランスフェクションに付した。発現の制御のためには、誘発可能なプロモーターも同様に使用可能である。トランスフェクションの後、ハイグロマイシンの存在下で細胞を培養した。ハイグロマイシン耐性を有する細胞をその後、従来の小型培養フラスコ、Nunc多層セルファクトリ、小型高収率生物反応器(ミニパーム(MiniPerm)、インテグラセルライン(INTEGRA−CELLine))及びスピナーフラスコから中空繊維−及び生物反応器に至るまでといった異なる培養システムの中で成長させた。ELISAを用いて、抗体産生について細胞をテストした。長時間、選択圧無しで、血清を含まない培地中での懸濁液成長の可変性についてポリクローナル細胞系統を選択した。細胞系統のストックをハイグロマイシンの存在下で成長させた。
【0146】
発現系内のポリクローナル性の保存の評価
本発明に従うと、ポリクローナル性が実際に改変された時点で産生を停止させることが可能であるような形で、産生中に発現系内のポリクローン性が重大な改変を受けないように保証することが往々にして重要である。これは、変異体核酸配列の相対的発現レベルを監視することによって本発明に従って行なわれる。発現レベルは例えば、RFLP分析、アレイ又はリアルタイムPCRなどを用いてmRNAレベルで、又は2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動、質量分析法又はさまざまなクロマトグラフィ技術を用いてタンパク質レベルで、監視可能である。これらの技術を用いて、一定数の個別発現レベル全てについて基準値を確立し、その後、発現レベルが(合計して及び相対的にの両方で)変化したか否かを評価するべく産生中培養から試料を取り出すことが可能となる。発明の通常の実践においては、基準値をとり囲む値の範囲を確立することができ、相対的発現レベルがその範囲外にあることがわかった場合には、産生は終結される。
【0147】
発現系の安定性及び再現性を評価することができるように、ニワトリオボアルブミン(OVA)、ウシアルカリホスフォターゼ(AP)、ヒトβ2−ミクログロブリン(β2m)、ヒト−ハプトグロビン(HAP)、ヒト第VIII因子(FVIII)及びニワトリ卵白リゾチーム(LYS)に対する反応性をもつ6つの別個のFabフラグメントをコードするベクター(ミニ6ライブラリー)が調製された。異なるFab フラグメントコーディング配列は同一ではなく、従って、異なるRFLPパターンを示し、かくして遺伝子型組成を分析するためにRFLPを使用することができる。
【0148】
ミニシックス(mini six)ライブラリーは、頭−頭のプロモーターカセットを伴う発現ベクターを用いたトランスフェクションによりCHO−Flp−In細胞内に導入された。CHO−Flp−In細胞を、既知の組合せでの6つの抗体を発現するポリクローナル細胞系統を結果としてもたらす6つの別個の抗体をコードする問題の発現ベクターの混合物とまとめてトランスフェクションさせるか又は、問題の発現ライブラリーの1成員で細胞を個別にトランスフェクションに付し、その後トランスフェクションを受けた細胞を混合し、既知の組合せで6つの抗体を発現する組換え型ポリクローナル抗体発現細胞系統を生成させた。このようにして、組換え型ポリクローナル抗体発現細胞系統の1つ又は複数の個別クローンに対する偏向無く哺乳動物細胞のトランスフェクションが発生しているか否かをテストすることが可能であった。さらに、増殖偏向及び抗体のポリクローナル組成物の精製によってひき起こされる偏向を検査することが可能であった。
【0149】
抗−オボアルブミン組換え型ポリクローナル製造細胞系統の確立
関連するクローンを同定するため、ファージ提示及びELISAを用いてオボアルブミン結合ファージクローンを選択した。オボアルブミン結合クローンから抗体を同定するために、2つの構成すなわち、オボアルブミンでコーティングされたELISAプレート又はPVDF膜上のオボアルブミンの固定化に基づく高密度スクリーニング方法(HDS)を使用した。この要領で、一群の抗体が得られ、その一部分は、ELISAプレート上で固定化されたオボアルブミンを認識し、その他はPVDF膜上に固定化されたオボアルブミンを認識する。
【0150】
選択されたオボアルブミン結合ファージクローンは、哺乳動物プロモーターにリンクされかつ抗体発現のためpSymvc20型(図4D)のベクター内に移送されてpSymvc21型(図4E)のクローン収集物を生成する可変重鎖及びカッパ鎖DNA配列を有していてよい。CHO−Flp−In細胞は、pSymvc21クローンの混合物でまとめてトランスフェクションを受けるか、又は、細胞は1つのpSymvc21抗体発現プラスミドで個別にトランスフェクションを受けその後その他のオボアルブミン結合抗体を発現するトランスフェクションを受けた細胞が混合される。抗オボアルブミンポリクローナル抗体産生細胞系統を作り上げる手順は、個別の抗体発現細胞のDNA配列決定、TaqMan PCR及びRFLP分析ならびに、産生された抗体混合物のELISA、2次元(2D)液体クロマトグラフィ(LC)及び質量分析法(MS)によって監視できる。
【0151】
細胞の培養及び組換え型ポリクローナル抗体の産生
上述の通りに産生されたポリクローナル細胞系統は、細胞のゲノム内に挿入された変異体核酸配列によりコードされた問題のポリクローナルタンパク質を発現するのに適した条件下で適切な培地内で成長させられる。細胞培養は、複数のステップで実施可能である。第1のステップは、部位特異的の組込み体についてポリクローナル細胞系統が選択されるステップである。哺乳動物細胞を使用する場合、選択された細胞は次に好ましくは懸濁状態での成長ならびに無血清条件に適合される。これは、1ステップ又は2ステップで、選択圧を用いて又は用いずに実施可能である。ポリクローナル細胞系統が適切な条件に適合された時点で、スケールアップを開始することができる。この時点で、作業用細胞ストックを凍結させることができる。好ましくは30〜100リットルの間の生物反応器が用いられるが、それより小さい又は大きい生物反応器を利用してもよい。適切な生産時間及び生物反応器サイズの選択は、バッチからのタンパク質の所望の収率及び細胞系統からの発現レベルによって左右される。時間は、数日から3ヵ月まで変動し得る。発現された組換え型ポリクローナルタンパク質は、細胞又は上清から単離される。組換え型タンパク質は、当業者により既知の手順に従って特徴づけされる。精製及び特徴づけ手順の例が以下で列挙されている。
【0152】
培養上清からの組換え型ポリクローナルタンパク質の精製
培養上清からの特定のタンパク質の単離は、タンパク質の物理化学特性の差、例えば分子量、正味電荷、疎水性又は特定のリガンド又はタンパク質に向かう親和力の差を利用するさまざまなクロマトグラフィ技術を用いて可能である。かくして、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて分子量に従って、又は、イオン交換(カチオン/アニオン)クロマトグラフィを用いて又代替的にはクロマトフォーカシングを用いて正味電荷に従ってタンパク質を分離することができる。同様にして、特定の固定化されたリガンド又はタンパク質に向かう親和力の差を利用するアフィニティクロマトグラフィ又は疎水性相互作用クロマトグラフィを用いて、疎水性に従ってタンパク質を分離することもできる。タンパク質の複合混合物の分離は、かくして、さまざまなクロマトグラフィ原理の逐次的組合せによって達成可能である。かくして、イオン交換クロマトグラフィを用いて例えば正味電荷に従ってタンパク質の混合物を最初に分離し、これに続いて、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて分子量に従って又は、選択された高濃度の塩の存在下で疎水性相互反応クロマトグラフィを用いて疎水性に従って、類似の正味電荷のタンパク質を分離することができる。
【0153】
例えば腹水、細胞培養上清及び血清といった異なる供給源からのIgG(ポリクローナルならびにモノクローナル)及びTcRの精製のためには、イオン交換クロマトグラフィ、疎水性相互作用及びゲルろ過といったようなその後の精製ステップと組合わせたアフィニティクロマトグラフィが使用されることが多かった。分離がタンパク質(単複)とクロマトグラフィマトリクスにカップリングされた特定のリガンドの間の可逆的相互作用に基づいている親和力分離は、高い選択性、通常は高い容量及びより小さい体積への濃縮を提供する容易かつ迅速な方法である。2つの細菌細胞表面タンパク質であるプロテインA及びプロテインGは、Fc領域に対する高い親和力を有し、固定化された形態で、さまざまな種からのポリクローナルIgG及びそのサブクラスの精製及び免疫複合体の吸収及び精製を含めた数多くの常套的適用のために使用されてきた。
【0154】
宿主細胞タンパク質、漏出したプロテインA及びDNAを除去するためには、以下のアフィニティクロマトグラフィ、下流側クロマトグラフィステップ、例えばイオン交換及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィを実施することができる。
【0155】
最終精製ステップとしてのゲルろ過を、2量体及びその他の凝集体といったような汚染物質分子を除去しかつ試料を貯蔵用緩衝液中に移送する目的で使用することができる。供給源及び発現条件に応じて、要求される抗体純度レベルを達成するための付加的な精製ステップを内含することが必要であるかもしれない。かくして、治療用途で抗体を精製するためには、プロテインA及びゲルろ過クロマトグラフィとの組合せで、疎水性相互作用クロマトグラフィ又はイオン交換クロマトグラフィが使用されることが多い。
【0156】
その他の抗体クラスを精製するためには、プロテインA及びGがIgA及びIgMを結合させないことから、代替的なアフィニティクロマトグラフィ媒質を使用しなければならない。免疫親和力精製を使用することができ(固相にカップリングされた抗−IgA又は抗IgMモノクローナル抗体)、そうでなければ、イオン交換及び疎水性相互反応を含めた多重ステップ精製戦略を利用することができる。
【0157】
構造的特徴づけ
抗体及びTcRといったポリクローナルタンパク質の構造的特徴づけには、混合物の複雑性に起因して高い分解能が必要となる(クローン多様性及びグリコシル化)。ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ又は電気泳動といったような従来のアプローチは、個別抗体の間で弁別するのに充分な分解能を有していない可能性がある。複合タンパク質混合物のプロファイリングのためには2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)が使用されてきており、その後に、質量分析法(MS)又は液体クロマトグラフィ(LC)−MS(例えばプロテオミクス)が行なわれた。タンパク質の電荷及び質量に基づく分離を組合せた2D−PAGEが、血清試料中のポリクローナル、オリゴクローナル及びモノクローナル免疫グロブリンの間での弁別のために有用であることが立証された。しかしながら、この方法には、いくつかの制限がある。クロマトグラフィ技術、特にエレクトロスプレーイオン化MSにカップリングされた毛管及びLCクロマトグラフィは、複合ペプチド混合物の分析のために応用されることが増々多くなってきている。LC−MSはモノクローナル抗体の特徴づけのために使用されてきており、最近はポリクローナル抗体軽鎖のプロファイリングにも使用されている。非常に複雑な試料の分析は、2次元(又はそれ以上)での分離により得ることのできるクロマトグラフィシステムのより高い分解能を必要とする。かかるアプローチは、第1の次元ではイオン交換に基づき、任意にはMSにカップリングされた第2の次元では逆相クロマトグラフィ(又は疎水性相互作用)に基づくものである可能性がある。
【0158】
機能的特徴づけ
ポリクローナルタンパク質は、例えば、同じ標的に向かっての特異性又は類似の活性をもつポリクローナルタンパク質との比較可能性研究を通して機能的に特徴づけすることができる。かかる研究は、インビトロでもインビボでも実施可能である。
【0159】
ポリクローナル抗体のインビトロでの機能的特徴づけというのは、例えば、未精製細胞溶解物からの標的抗原の分析的分離のためのきわめて特異的な技術である免疫沈降であり得る。免疫沈降をSDS−PAGEとそれに続くタンパク質染色(クマシーブルー、銀染色又はビオチン標識)及び/又は免疫ブロット法といったその他の技術と組合せることによって、例えば抗原を検出及び定量化すること及びかくして抗体の機能的特性のいくつかを評価することが可能である。この方法は、抗体分子の数の推定もその結合親和力も与えないものの、標的タンパク質の視覚化ひいては選択性を提供する。この方法は、同様に、発現プロセス中に抗原に向かう抗体の潜在的差異(クローン多様性の無欠性)を監視するために使用できる。
【0160】
ポリクローナル抗体のインビボでの機能的特徴づけは例えば感染研究であり得る。マウスといったような実験動物を、例えばポリクローナル抗体を発生させる対象である特定のウイルスに感染させることが可能である。この感染の阻害の程度が、ポリクローナル抗体の機能性を表わすことになる。
【0161】
治療用組成物
本発明の一実施形態においては、その活性成分として免疫グロブリンスーパーファミリーから選択された組換え型ポリクローナルタンパク質を含む医薬組成物は、癌、感染症、炎症性疾患、アレルギー、喘息及びその他の呼吸器疾患、自己免疫疾患、免疫機能不全、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝及び内分泌疾患、移植片拒絶及び望まれない妊娠といったような哺乳動物の疾病の治療及び予防用に意図されている。該哺乳動物は、好ましくは、ヒト、家畜又はペットである。
【0162】
本発明の好ましい実施形態においては、該医薬組成物は、活性成分としての組換え型ポリクローナル抗体又は抗体フラグメント及び薬学的に受容可能な賦形剤を含む。
【0163】
本発明のもう1つの好ましい実施形態においては、該医薬組成物は、活性成分としての組換え型ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメント及び薬学的に受容可能な賦形剤を含む。
【0164】
感染症の治療又は予防用には、本発明に従った医薬組成物は、細菌、マイコバクテリア、ウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、スピロヘータ、原虫、真菌、蠕虫及び外部寄生虫の中から選択された微生物といったような感染性微生物と反応するか又はこれに結合する能力をもつ問題の組換え型ポリクローナルタンパク質を含む。
【0165】
組換え型ヒトポリクローナルタンパク質は、単位剤形の形で薬学的に受容可能な希釈剤、担体又は賦形剤の中に入って投与され得る。例えば過剰な細胞増殖によってひき起こされる疾病を患う患者に該化合物を投与するための適切な処方又は組成物を提供するには、従来の薬学的実践方法を利用してもよい。投与は、患者が症状を示す前に始まってよい。任意の適切な投与経路を利用してよく、例えば、投与は非経口、静脈内、動脈内、皮下、筋内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、関節包内、髄腔内、槽内、腔腔内、鼻腔内、エアゾル、座薬又は経口投与でありうる。例えば、治療用処方は、液体溶液又は懸濁液の形をしていてよく、経口投与のためには、処方は錠剤又はカプセルチューインガム、パスタの形をしていてよく、皮ふに塗布するのに適した組成物は、クリーム、軟こう、ローション、ジェル、パッドその他の形をしていてよく、膣又は泌尿生殖器粘膜上への適用に適した組成物は、vagitories、ジェル他の形をしていてよく、鼻腔内処方については、粉剤、点鼻薬又はエアゾルの形をしていてよい。
【0166】
本発明の医薬組成物は、それ自体既知の要領、例えば従来の溶解、凍結乾燥、混合、造粒及び調合プロセスを用いて調製される。該医薬組成物は、従来の薬学的実践方法に従って処方可能である(例えば、レミントン(Remington:薬学の科学と実践(The Science and Practice of Pharmacy)(第20版)、A.R.ジェンナロ(Gennaro)編、2000、Lippincott Williams & Wilkins、ペンシルバニア州フィラデルフィア(Philadelphia,PA)、及び薬学技術百科辞典(Encyclopedia of Pharmaceutical Technology)、J.スワーブリック(Swarbrick)及びJ.C.ボイラン(Boylan)編、1988−1999、Marcel Dekker、ニューヨーク州ニューヨークを参照のこと)。
【0167】
活性成分の溶液と同様、懸濁液も、そして特に等張水溶液又は懸濁液が好んで用いられ、例えば活性成分を単独で又はマンニトールといった担体と合わせて含む凍結乾燥された組成物の場合には、このような溶液又は懸濁液を使用に先立って生成することが可能である。該医薬組成物は、滅菌されていてよく、かつ/又は例えば防腐剤、安定剤、湿潤剤及び/又は乳化剤、可溶化剤、浸透圧調節用の塩及び/又は緩衝液などの賦形剤を含んでいてよく、それ自体既知の要領、例えば従来の溶解又は凍結乾燥プロセスを用いて調製される。前記溶液又は懸濁液は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン又はゼラチンといった造粘物質を含み得る。
【0168】
注射用組成物は、無菌条件下で通例の要領で調製される。同じことは、アンプル又はガラスビン内への組成物の導入及び容器の密封にもあてはまる。
【0169】
経口投与のための医薬組成物は、固体担体と活性成分を組合せ、望まれる場合には、結果として得られた混合物を造粒し、望ましいか又は必要である場合には、適切な賦形剤の添加後混合物を錠剤、糖剤コア又はカプセルの形に加工することによって得ることができる。活性成分が規定された量で拡散するか又は放出されるようにするプラスチック担体の中にそれらを包含させることも同じく可能である。
【0170】
医薬組成物は、約1%〜約95%、好ましくは約20%〜約90%の活性成分を含む。本発明に従った医薬組成物は、例えばアンプル、ガラスビン、座薬、糖剤、錠剤又はカプセルといった単位剤形をとり得る。
【0171】
処方は、疾病又は身体条件に対する療法を提供するべく治療上有効な量(例えば、病的状態を防止、削除又は低減する量)でヒトの患者に投与することができる。投与されるべき治療薬の好ましい投薬量は、障害のタイプ及び程度、特定の患者の全身的健康状態、化合物賦形剤の処方、及びその投与経路といった変数によって左右される確率が高い。
【0172】
望ましい場合には、組換え型ヒトポリクローナル抗体での治療を、より伝統的な療法と組合わせることができる。例えば、癌治療においては、かかる組合せ療法は、外科手術又は化学療法又はその他の抗癌剤の投与の形をとり得る。
【0173】
発明のもう1つの実施形態においては、本発明に従った医薬組成物は、細菌、マイコバクテリア、ウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、スピロヘータ、原虫、真菌、蠕虫及び外部寄生虫の中から選択された微生物といったような感染性微生物と反応するか又はこれに結合する能力をもつ問題の組換え型ポリクローナルタンパク質を含む。
【0174】
発明に従った組成物の治療的使用
本発明に従った医薬組成物は、哺乳動物における疾病の治療、改善又は予防用に使用可能である。当該医薬組成物で治療できる疾病としては、癌、感染性疾患、炎症性疾患、アレルギー、喘息及びその他の呼吸器疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝及び内分泌疾患、移植片拒絶及び望まれない妊娠が含まれる。
【0175】
本発明の1つの態様は、組換え型ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントが有効量投与される、動物における疾病の治療、改善又は予防用の方法である。さらなる態様においては、組換え型ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントが有効量投与される。
【0176】
本発明の付加的な形態は、癌、感染症、炎症性疾患、アレルギー、喘息又はその他の呼吸器疾患、免疫機能不全、自己免疫疾患、心臓血管疾患、中枢神経系疾患、代謝疾患、内分泌疾患、移植片拒絶及び望まれない妊娠から成る群から選択された疾病の治療用の組成物の調製を目的とする、組換え型ポリクローナル抗体又は組換え型ポリクローナルT細胞レセプタ又は抗体又はT細胞レセプタのフラグメントの使用にある。
【0177】
診断用途及び環境検出用途
発明のもう1つの実施形態は、診断用キット及び環境検出用途向けキットならびにこれらのキットの使用方法に向けられている。本発明に従ったキットは、検出可能な標識で標識されているか又は非標識検出用に標識されていない本発明に従って調製された組換え型ポリクローナルタンパク質を含んでいる。標識されている場合、当該組換え型ポリクローナルタンパク質は、標的分子を含有している疑いのある試料に対し添加され得、該標識の有無が標的分子の有無を表わす。テストされるべき試料は、血液、血清、血漿、髄液、リンパ又は尿といったような体液の試料又は汚染物質が隠れている疑いのある環境供給源からの試料といった哺乳動物以外の試料であり得る。哺乳動物以外の試料は、水、空気又は汚染土であり得る。非標識検出は、標的分子を捕捉するために組換え型ポリクローナルタンパク質が使用される、結合時点でのBIA coreの屈折変化の測定を包含する。
【実施例】
【0178】
以下の実施例は、予め特徴づけされた染色体「ホットスポット」部位内への部位特異的組込みによって問題の遺伝子(単複)/ベクター(単複)が挿入されている高産生細胞系統内で、組換え型ポリクローナル抗体がいかに発現され産生されるかについて記載する。
【0179】
実施例では、宿主細胞としてCHO細胞が利用された。その利点としては、適切な成長培地の入手可能性、培養中で高密度に至るまで効率よく成長できるその能力、及び生物学的に活性な形での抗体といった哺乳動物タンパク質を発現するその能力、がある。
【0180】
一般に、本発明に従ったE.coliの形質転換及び哺乳動物細胞のトランスフェクションは、従来の方法に従って実施されることになる。本発明をより良く理解できるように、以下の実施例は、ベクター例の構築及び組換え型ポリクローナルタンパク質発現のための組換え型ポリクローナル製造細胞系統を生産する上でのその利用について記載する。
【0181】
以下の実施例は、本発明を例示しているが、本発明の範囲を制限するものとみなされるべきものではない。
【0182】
実施例1
部位特異的組込み対無作為組込み
以下のトランスフェクション実験のためには、CHOFlp−In−細胞(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)が使用された。リポータ遺伝子としてヒト分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)を用いて、系の効率をテストした。次の2つのプラスミド構築物を調製した:
1.pcDNA3.1 hygro+(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)内に挿入されたSEAP(無作為組込み用)。
2.pcDNA5/FRT(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)内に挿入されたSEAP(部位特異的組込み用)。
【0183】
2つのプラスミド構築物は、調節要素すなわちプロモーター、ポリアデニル化などに関しきわめて類似しており、このため部位特異的組込みと無作為組込みを比較するためにこれらのプラスミドを使用することが可能になっている。
【0184】
CHOFlp−In 細胞を、プラスミド構築物1単独か又はリコンビナーゼコーディングプラスミドpOG44と合わせたプラスミド構築物2で、インビトロジェン(Invitrogen)によって記載された手順に従ってトランスフェクションに付された。トランスフェクタントをハイグロマイシンを用いて選択し、トランスフェクタントのプールからのSEAPの産生を測定した。
【0185】
部位特異的組込みによるトランスフェクションを受けた細胞は、無作為組込みによるトランスフェクションを受けた細胞に比べて約6倍産生し、該系及び該細胞系統の効率を証明した。
【0186】
実施例2
宿主細胞内の部位特異的組込みのための発現ベクターの設計と調製
宿主細胞のホットスポット染色体領域内への部位特異的組込みに適した、以下のDNA要素を含む発現ベクターを、組立てることができる:
【0187】
a)ハイグロマイシン耐性遺伝子にリンクされたFRT組換え部位、
b)pUC複製開始点、
c)アンピシリン耐性遺伝子(bla)
d)アンピシリン(bla)耐性遺伝子の発現を可能にするbla−プロモーター、
e)問題のタンパク質をコードする遺伝子(単複)(GOI)、
f)GOIの発現を可能にするプロモーター(単複);及び
g)任意には、組込み部位又はIRESにおける発現を増大するための、エンハンサ又はUCOEといった付加的な転写又は翻訳調節要素。
【0188】
発現ベクターの構築をより良く理解できるようにするため、各要素についてさらに詳しく記載する:
【0189】
a)大部分の単一組込み体を伴う1つの細胞系統のFlpリコンビナーゼ媒介組込み及び選択のためハイグロマイシン耐性遺伝子にリンクされたFRT組換え部位が使用された。ハイグロマイシン遺伝子にはプロモーターも先行しておらず、又は転写開始コドンも備わっていないが、遺伝子の3’のところでポリアデニル化シグナルが付加された。使用されたFRT部位は、5’−gaagttcctattccgaagttcctattctctagaaagtataggaacttc−3(配列番号1)であった。
【0190】
b)E.coli宿主細胞内での高コピー数の複製を可能にするため、pUC複製開始点を内含させた。
【0191】
c)E.coli形質転換体の選択を可能にするアンピシリン(bla)耐性遺伝子(β−ラクタマーゼ)を内含させた。
【0192】
d)bla−プロモーターは、E.coli内のアンピシリン(bla)耐性遺伝子の発現を可能にした。
【0193】
e)問題のタンパク質をコードするGOI、例えば組換え型ポリクローナルタンパク質、抗体、抗体の重鎖及び軽鎖、ならびに抗体分子の定常領域又は可変領域のいずれかの全て又は一部分をコードするヌクレオチド配列、及び任意には抗体分子の発現を制御する調節ヌクレオチド配列の全て又は一部分を内含させた。
【0194】
重鎖のための免疫グロブリン遺伝子座としては、V.D.J及びスイッチ領域(イントロンとしても知られる介在配列を含めたもの)及び特定の重鎖定常領域遺伝子に付随する又はこれに隣接するフランキング配列の全て又は一部分が含まれ得るがこれらに制限されるわけではなく、これには、定常領域(イントロンを含む)内又はその下流にある領域が含まれ得る。
【0195】
軽鎖のための免疫グロブリン遺伝子座としては、V、J領域、その上流側フランキング配列及び軽鎖定常領域遺伝子に付随する又はこれに隣接する介在配列(イントロン)が含まれ得るがこれらに制限されるわけではなく、これには、定常領域(イントロンを含む)内又はその下流にある領域が含まれ得る。
【0196】
抗体の定常領域の全て又は一部分の修飾のためには、本発明の修飾配列には、特定のエフェクタ機能、クラス及び/又は由来をもつ抗体定常領域(例えばヒト免疫グロブリン又はその他の任意の種のIgG、IgA、IgM、IgD又はIgE定常領域)又は、該抗体の定常領域の活性又は特性を修飾する定常領域の一部分、ならびに例えば酵素、毒素などといった修飾済み抗体分子に幾分かの新しい機能を付与するその他の分子をコードする遺伝子が含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0197】
問題のタンパク質をコードする遺伝子(単複)は、分泌経路に遺伝子産物を導く機能的リーダー配列をコードするヌクレオチド配列に操作可能な形でリンクされていてよい。
【0198】
さらに、例えば重鎖及び軽鎖を含むポリクローナル抗体といったような問題のタンパク質をコードするGOIに対し3’のところには、強いポリアデニル化シグナルが存在し得る。以下の実施例の中でのマウスイソタイプIgG1の使用は、例示を目的としたものであって、本発明の範囲を制限する意図をもつものではない。
【0199】
f)GOIの発現を可能にするプロモーターが提供される。従って、発現のためのプロモーター及びエンハンサ要素を含むカセットが記載されている。発現ベクターの中では、各々の抗体遺伝子は、転写カセットの一方向、双方向又は尾−尾方向性のいずれが使用されるかに関わらず、2つの鎖の各々の高レベル発現を導く独自の哺乳動物プロモーター要素によって先行され得る。
【0200】
双方向の発現方向性では、頭−頭プロモーター形態を使用することができる(かかる系の構築は、その全体が本発明に参照により援用されている米国特許第5,789,208号明細書の中で詳述されている)。一方向発現系においては、発現のために例えばIRES配列と組合わされた2つのプロモーター又は1つのプロモーターも同様に使用できる。
【0201】
頭−頭プロモーターの構築のためには、プロモーターのPfu PCR増幅が個別に実施される。5’−プライマはプロモーターの最も5’の塩基上で開始することになり、3’末端プライマは、XbaI部位といったようなユニーク制限部位を含むことになる。PCR増幅に続いてフラグメントは、アガロースゲル上で分離され得、Qla Quickカラム(キアゲン(Qiagen))を用いてゲルから単離され得る。この後、XbaI制限消化、65℃で20分間の熱不活性化及びQiaQuickを用いたフラグメントのカラム精製が続く。フラグメントはこのとき混合され、付着末端を優先的に連結する酵素であるE.coliリガーゼ(ニューイングランドバイオラブ(New England Biolabs(NEB))を用いて合わせて連結される。連結混合物は、各プロモーターの5’−プライマでPCR増幅されて、完全な頭−頭プロモーター(プロモーターA/プロモーターB)フラグメントを生成する。このフラグメントは、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)(NEB)でキナーゼ処理され、該酵素は、20分間65℃で不活性化され、フラグメント(平滑末端)は、問題のベクター(増幅に用いられたプライマがプロモーター領域の各々の側でアニールしてプロモーターを除いた全てを増幅する、PCR増幅されたpSymvc10(図4参照)フラグメント)の中に、T4リガーゼ(NEB)を用いて連結される。
【0202】
図1及び2は、それぞれに双方向及び一方向向けのプロモーターを含む発現ベクターを示す。これらのプロモーターは、本発明におけるプロモーターの選択を例示する意図をもつが、それを制限するわけではない。
【0203】
g) 発現ベクターは、組込み及び/又はIRES部位における増大した発現のため、エンハンサ及び/又はUCOEといった付加的な転写及び/又は翻訳調節要素を担持することができる。
【0204】
実施例3
開発された製造系内でのポリクローナル性保存の評価
製造系の安定性及び再現性を評価できるようにするため、既知の組合せでの別個の抗体のポリクローナル組成物を発現する細胞系統を調製した。該ポリクローナル抗体組成物は、ミニシックス組成物と呼ばれた。ミニシックス組成物をコードする核酸配列ライブラリーは、ミニシックスライブラリーと呼ばれた。
【0205】
(a)クローン起源
この実施例では、抗原1〜6に対する反応性をもつFabフラグメント(問題の遺伝子)をコードする以下の配列を使用した:
1.オボアルブミン(OVA)。Fabコーディングフラグメントは、マウス抗−OVAファージ提示ライブラリーから選択された。
2.アルカリホスファターゼ(AP)。Fabコーディングフラグメントは、マウス抗APファージ提示ライブラリーから選択された。
3.β2−ミクログロブリン(β2m)。Fabコーディングフラグメントは、β2mに対して生成されたハイブリドーマBBM.1(デンマークのL.φ、ペデルセン(Pedersen)博士から寄贈されたもの)からクローニングされた。
4.ヒトハプトグロブリン(HAP)、Fabコーディングフラグメントは、マウス抗ヒトハプトグロビンファージ提示ライブラリーから選択された。
5.第VIII因子(FVIII)。このFabフラグメントの親モノクローナル抗体は、FVIIIF25モノクローナル抗体(デンマーク、ノボノルディスク(Novo Nordiskから寄贈されたもの)であった。このFabフラグメントのVH及び完全カッパ鎖をコードするDNAは、ファージミドへとサブクローニングされ、その後、原核性プロモーターカセットが構築物内に挿入された。
6.ニワトリ卵白リゾチーム(LYS)。この構築物は、VH及びVKフラグメントのPCR増幅及びファージミドへのクローニングによって、D1.3scFvクローン(ブロット(Boulot)G.ら、J.Mol.Bio.,213(4)(1990)617−619)から生成された。
【0206】
ファージミドクローンは、形質転換済み大腸菌菌株TG1グリセロールストック(−80℃に保たれたもの)の中か又はファージミドDNA調製物として存在する。
【0207】
(b) ミニシックスライブラリーのRFLP分析及びDNA配列決定
Fabフラグメントの重鎖をコードするヌクレオチド配列を以下のようにRFLPによって分析した;NlaIII及びHinfI酵素でのPCRで生成されたフラグメントの消化の後に得られたバンドパターンを検討した。異なるFabフラグメントコーディング配列は非常に異なる容易に区別可能なパターンを示した。VH及びVLフラグメントをコードするヌクレオチド配列を配列決定し、RFLPパターンに対応する配列を発見した。さらに、ヌクレオチド配列は、読取り枠をコードし、明確なポリペプチドに翻訳した。
【0208】
(c)ミニシックス組成物のELISA分析
クローンから発現されたFabフラグメントを、ELISAを用いて分析し、この中で、全てのFabフラグメントを全ての抗原との反応性について分析した。抗カッパELISAを用いてFab発現を監視した。ELISA内では、全てのFabフラグメントを、デュプリケートでテストした。全てのクローンはFabフラグメントを発現し、Fabフラグメントはその関連する抗原と特異的に反応した。ELISA分析においては、いかなるバックグラウンド問題も見られなかった。
【0209】
個別に形質転換された大腸菌菌株TG1グリセロールストックの中に6つのファージミドクローンが存在し、これらが以下に記載されている通り接種のためのモデル系の中で使用された。
【0210】
(d)既知の組合せでの6つの別個の抗体を伴うポリクローナルモデル系の設計
関連する抗原に対する発現されたFabフラグメントの反応性をテストすることにより、6つの選択されたFab発現クローン(抗−OVA、抗−AP、抗−β2m、抗−HAP、抗−FVIII、及び抗−LYS)を特徴づけした。これらのクローンは、既知の組合せでの6つの別個の抗体(ミニシックス組成物)の発現及び産生をテストするためのポリクローナルモデル系の一部を成していた。ヌクレオチド配列をコードする全てのFabフラグメント(ミニシックスライブラリー)をファージミドベクター(pSymvc10により例示されているもの、図4A)内に移送した。
【0211】
(d.1) ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへのGOIの個別移送
ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへの問題の遺伝子(ミニシックスライブラリー)の移送は、この例では、2ステップ手順によって実施された。第1のステップは、頭−頭方向性で哺乳動物プロモーターカセットで原核性プロモーターを置換することにあった。このステップの後、以下で詳述された図4に例示されているように、GOIの可変領域、プロモーターカセット及び定常のカッパが発現ベクターに移送された。
【0212】
頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)は、SacI/XhoI消化を用いそれに続いて細菌から哺乳動物へのプロモーターの交換を結果としてもたらす連結を行なうことによって、各クローンについてファージミドベクター内に挿入された。その後、EcoRI及びNotI消化物を用いて、可変的重鎖、頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)及び完全カッパ鎖(EcoRI/NotIフラグメント)をファージミドベクターから発現ベクターまで移動させた。
【0213】
各クローンの個別移送の一例は、図4に流れ図と共に示されている。この図は、pSymvc12を生成するSacI/XhoIフラグメント移送を用いて細菌プロモーターを置換するべく頭−頭哺乳動物プロモーターカセット構築物が中に連結されたファージミドベクターの中に問題の重及びカッパコーディング配列(例えばge032OVA)が存在している、プラスミドpSymvc10を示す。
【0214】
この構築物から、カッパ鎖コーディング配列全体及びプロモーターカセットを含む可変重鎖コーディング配列は、NotI/EcoRI移送により哺乳動物イソタイプ−コーディングベクター(pSymvc20)内に移送された。結果としてのベクター(pSymvc21)は、問題のマウス抗体(例えば抗−OVA IgG1抗体)を発現した。
【0215】
6つのクローンの各々からの全カッパ鎖コーディング配列、哺乳動物プロモーターカセット及び可変重鎖コーディング配列は、個別にNotI/EcoRI移送により移送され、結果として哺乳動物発現ベクターpSymvc21をもたらし、このベクターはマウスIgG1抗体としてGOIコードされた抗体配列の各々を発現する。
【0216】
6つのGOIを含む6つの個別pSymvc21クローンは、TG1グリセロールストックとして保たれた。
【0217】
CHO Fip−In細胞内へのトランスフェクションのためには、TG1ストックを個別に増殖させ、E.coli細胞の数についてのOD600正規化の後、6つの培養を混合させ、プラスミド調製のために使用した。組換え型ポリクローナルタンパク質発現のための哺乳動物細胞のバルクトランスフェクションのために、6つのGOI(ミニシックスライブラリー)を含むこのプラスミド調製物を使用した。
【0218】
(d.2)ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクター内へのGOIの大量移送
ファージミドベクター内に位置設定され6つの別個のFabフラグメント(抗OVA、抗AP、抗−β2m、抗HAP、抗−FVIII及び抗−LYS)についてコードするGOI(ミニシックスライブラリー)(ここではEcoRI/NotIフラグメント)を、6つのベクター構築物の混合物として哺乳動物発現用ベクター内にまとめて移送し、結果として6つの別個の発現ベクターをもたらした。
【0219】
大量移送に関する実験的手順は、それがまとめて実施された、すなわち(頭−頭プロモーターカセット及び完全カッパ鎖を含め、可変重鎖をコードする)6つのGOI全てが6つのファージミドベクターの混合物として同時に移送された、という点を除いて、(d.1)に記載した手順に従っている。
【0220】
ミニシックスライブラリーのプラスミド調製物
プラスミド調製物1は、(抗体コーディング配列がベクターpSymvc10内に含まれている状態で)6つのファージミドベクターの混合物のプラスミド調製物を意味する。
【0221】
プラスミド調製物2は、哺乳動物プロモーターカセット構築物との原核性プロモーターの交換を結果としてもたらす、大量移送ステップ1後のベクターpSymvc12(図4c)に含まれるコーディング配列を伴う6つのファージミドベクターのプラスミド調製物を意味する。
【0222】
プラスミド調製物3というのは、哺乳動物発現ベクター(pSymvc21)に対するpSymvc12からの可変重鎖、頭−頭プロモーターカセット及び完全カッパ鎖の交換を提供し、かくして全長マウスIgG1抗体としての6つの選択された抗体の発現を可能にする大量移送ステップ2の後のプラスミド調製物(図4D参照)を意味する。
【0223】
大量移送において使用されたプラスミド調製物で形質転換されたTG1細胞の遺伝子型特定
TG1細胞を、まとめて電気穿孔によってミニシックスライブラリーで形質転換させ、2xYT(SigmaY2627)プレート上での一晩のインキュベーションの後、個別コロニーを採集した。各々の実験において、180のコロニーを採集し、2xYT液体培地内で4時間、96ウェルのフォーマットでインキュベートした。培養のアリコートを水で希釈し、変性させ、PCR内で鋳型として使用した。全ての実験において、可変重鎖を増幅した。ファージミドベクター(pSymvc10−型)のプライマ配列は、以下のとおりであった:
5’−GCATTGACAGGAGGTTGAGGC−3’(配列番号2)及び5’−GCTGCCGACCGCTGCTGCTGGTC−3’(配列番号3)
【0224】
哺乳動物プロモーターカセットを伴うベクターのためのプライマは(pSymvc12−型)、以下のとおりであった:
5’−GCATTGACAGGAGGTTGAGGC−3’(配列番号4)及び5’−GTGTCCACTCTGAGGTTCAG−3’(配列番号5)
【0225】
pSymvc21構築物のためのプライマは以下のとおりであった:
5’−CAAATAGCCCTTGACCAGGC−3’(配列番号6)及び5’−GTGTCCACTCTGAGGTTCAG−3’(配列番号7)。
【0226】
明白な遺伝子型特定を確実にするため、全てのPCR産物をNlaIII及びHinfIの両方で消化した。消化フラグメントをアガロースゲル電気泳動によって分析し、EtBr染色によりバンドを視覚化した。RFLPにより決定されたフラグメントパターンと類似する個別遺伝子型の数は、採集されたコロニーの合計数の中の6つの抗体の各々を表わす個別のコロニーの数に対応する。
【0227】
(d.2a)E.coli細胞内でのDNA増幅(2−ステップ増幅方法)の後のファージミドベクターから哺乳動物ベクターへの大量移送
プラスミド調製物1を、ミニシックスライブラリーを構成する6つのファージミドベクターのうちの1つを含む6つのE.coliTG1グリセロールストックの各々から調製した。ストックを個別に調製し、E.coliの数についてのOD600正規化の後、6つの培養を等量で混合し、プラスミド調製のために使用して結果としてプラスミド調製物1を得た。エレクトロコンピテントTG1細胞への形質転換及びその後のRFLP分析によって、プラスミド調製物1内の6つのファージミドベクターの遺伝子型分布をテストした。TG1細胞内の異なる遺伝子型の分布は図5に示されている。
【0228】
6つの選択されたFabフラグメント遺伝子型の等しい混合物を発現するポリクローナルファージミドベクターを含むプラスミド調製物1をSacI/XhoIで消化させた。その後、連結により、頭−頭プロモーターカセット(CMVプロモーター/MPSVプロモーター)を挿入した。ベクター内のプロモーター交換後のベクターの遺伝子型分布を、連結ステップからのDNAでの形質転換後にTG1細胞内でテストした(図6)。
【0229】
細胞をプレート固定し、大きい(245mm×245mm)2×YT寒天プレート上で成長させ、今や頭−頭プロモーターカセットを含有するファージミドベクター(pSymvc12)を生成するためにプラスミド調製物を調製した。
【0230】
プラスミド調製物2から、プロモーターカセット及び完全カッパ鎖配列を含む可変重鎖コーディング配列をNotI/EcoRI消化物によりファージミドベクターから切り取り、すでにマウスIgG1の定常領域ドメインを含むベクター(pSymvc20)内に移送した。こうして、pSymvc21ベクターの収集物が結果としてもたらされ、これは、全長マウスIgG1抗体として6つの選択された抗体クローンの可変領域を発現する。
【0231】
代替的には、プロモーター移送は、イソタイプをコードする哺乳動物ベクターにおいて、哺乳動物ベクターに対する問題のDNAの移送のためのNotI/EcoRIで始まる制限消化物そして次にプロモーター領域の挿入のためのSacI/XhoI制限消化物フラグメントの順序を逆転させて実施することもできる。
【0232】
可変重鎖コーディング配列、プロモーターカセット及び全カッパ鎖コーディング配列を発現ベクター内に移送した後の遺伝子型の分布を、第2の連結ステップからのDNAでTG1細胞を形質転換することによってテストした(図7)。細胞を大きい(245mm×245mm)2×YT寒天プレート上に固定し、6つのクローンの可変領域がマウスIgG1抗体枠組の状況下で発現されているプラスミド調製物3を調製した(pSymvc21)。
【0233】
プラスミド調製物3は、組換え型ポリクローナル抗体発現のための組換え型ポリクローナル製造細胞系統を生成するべく哺乳動物細胞のバルクトランスフェクションのために用いることができる。
【0234】
E.coli細胞内のDNA増幅の後のファージミドベクターからイソタイプコーディング哺乳動物ベクターへの大量移送の結果は、個別に増殖させ混合させた後に6つのベクター構築物の均衡のとれた分布を得ることが可能であるということを示した(プラスミド調製物1、図5)。6つの構築物は、プロモーターカセットの交換後(プラスミド調製物2、図6)ならびにマウスIgG1イソタイプコーティングベクター内への挿入後(プラスミド調製物3、図7)、全て比較可能なレベルで検出可能であった。
【0235】
(d.2b)プラスミド調製物1ステップ後のE.coliにおけるDNA増幅無しのファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへの大量移送(1ステップ増幅方法)
6つの選択されたFabフラグメント遺伝子型の等しい混合物を発現するポリクローナルファージミドベクター(pSymvc10)を含むプラスミド調製物1からのDNA(ここでは25μgを使用)を、プロモーターの交換のためSacI/XhoIで消化させた。SacI/XhoIベクターフラグメントを精製し、頭−頭プロモーターカセット(CMVプロモーター/MPSVプロモーター)と連結させた。いかなる増幅も実施せずにプロモーターを交換した後、CMV/MPSVプロモーターカセットを伴うベクターを、大量移送用ファージミドベクターから哺乳動物発現用ベクターへと、プロモーターカセット及び全カッパ鎖コーディング配列を含めた可変重鎖コーディング配列で全領域を切取るためにNotI/EcoRIで消化させた。可変重鎖、プロモーターカセット及びカッパ鎖をコードするNotI/EcoRIフラグメントをマウスIgG1−コーディングベクター(pSymvc20)内に連結させた後、マウスIgG1全長抗体という状況下で6つの選択されたクローンの可変領域を発現する発現ベクターを獲得した。この発現ベクターの組成は、図1に例示されている。
【0236】
ベクター内のプロモーター交換及び可変重鎖、プロモーターカセット及び完全カッパ鎖をコードするヌクレオチド配列の哺乳動物発現用ベクター内への移送を結果としてもたらす大量移送の後、第2の連結ステップからのプラスミドによるTG1細胞の形質転換により、遺伝子型の分布をテストした。大きい(245mm×245mm)2×YT寒天プレート上に細胞を固定し、この2重消化/連結プラスミド調製物というプラスミド調製物を調製した(ベクターpSymvc21、この中では、6つのクローンの可変領域は、d、2aからのプラスミド調製物3に対応する、マウスIgG1抗体という状況下で発現される)。1ステップ増幅方法からのプラスミド調製物による形質転換後のTG1細胞内の遺伝子型分布は、図8に示されている。
【0237】
1ステップ増幅方法は、E.coli内での増幅中では通常削除されている望ましくない連結産物の生成の結果としてもたらされる6つのFabコーディング配列からの重鎖及び軽鎖の間の幾分かのスクランブリングを導入する可能性がある。しかしながら、このようなスクランブリングが発生した場合、充分なクローン多様性を確実に維持できるようにするためスクリーニングステップを導入することができる。
【0238】
(d.2c)プロモーター交換後の哺乳動物細胞の直接的トランスフェクション
2ステップ増幅方法又は1ステップ増幅方法のいずれかからのミニシックスライブラリーのプラスミド調製物からの産物を、組換え型ポリクローナル抗体発現のために哺乳動物細胞をまとめてトランスフェクションすることに直接使用することができる。
【0239】
(d.3)トランスフェクションを受けた哺乳動物細胞の試験
ミニシックスポリクローナルモデル系の既知の抗体組合せを使用してテストを行ない、哺乳動物細胞内への大量移送及びトランスフェクションを、クローン多様性を維持するような形でかつトランスフェクション及びその後の培養中の抗体可変配列遺伝子型の組成に偏向を導入することなく確実に発生させることができる。大量移送、バルクトランスフェクション及び哺乳動物発現のプロセス全体を通して遺伝子型組成を監視する方法には、以下のものが含まれ得る:
−単離されたクローンのDNA配列決定、
−個別クローンのRFLP分析、
−産生された抗体混合物のELISA、
−産生された抗体混合物の質量分析、
−異なる重鎖及び軽鎖を発現するmRNA及びゲノム配列の相対的組成物のTaqmanPCR。
【0240】
トランスフェクションプロセス中に導入された遺伝子型組成の偏差は、それが万一発生する場合、無作為組込み又は多重組込み体によりひき起こされ得る。「発明を実施するための最良の形態」の中で記載しているように、部位特異的組込み用に予め設計された宿主細胞系統を用いた場合に問題がひき起こされる確率は低い。しかしながら、これをさまざまな形で制御することは可能である。無作為ゲノム位置(部位特異的位置以外の場所)における組込みに反対する選択は、例えばリポフェクタミンでトランスフェクションを実施する場合には1μg/107個の細胞又電気穿刺法によりトランスフェクションを行なう場合には0.2μg/107個の細胞といったような非常に少量のDNAを用いて行なうことができる。同様に、組込まれるべきDNAは、無作為組込みのためには不利であるものとして知られている形態であるスーパーコイル状の形で供給され得る。
【0241】
予め設計された標的部位の外側での単一の又は多数の組込みは、選択可能マーカーがプロモーター又は開始コドン無くゲノム内に存在することになるため、負の選択により除去されることになる。従って、これらの無作為組込み事象の受容細胞は選択プロセスを生き延びる事ができない。
【0242】
組換え事象の1つが標的部位において発生する多数の組込みを有する形質転換体は、選択プロセスを生き延びることになる。ただし、このタイプの多重組込みの確率はきわめて低い。従って、この事象は、ポリクローナルタンパク質の最小のスクランブリングを導く。さらに、たとえ異所性発現が高くても、同じ組換え型ポリクローナルタンパク質をコードする100〜1000個のその他のクローンが存在すると思われることから、多重組込みが発生した場合のスクランブリング効果は、約1%未満となるだろう。前述のとおり、異所性組込みの確率は、該方法で使用されるDNAの数量を減少させることによって低減され得る。
【0243】
最も確率の低い事象は、標的部位における多重縦列組込みである。ここで記載されているFlpリコンビナーゼ系を用いると、染色体からの切除活性が組込み活性よりも著しく高いことから、このタイプの事象は稀になる。ただし、万一受容できないほど高い頻度で縦列組込みが発生した場合には、Flp系は、単一のコピーインサートのみが可能であるものと交換され得る(例えば、参照により援用されている国際公開第99/25854号パンフレットを参照のこと)。
【0244】
(e) 哺乳動物細胞内の既知の組合せでの6つの別個の抗体の発現
一般に可変増殖速度を最小限におさえるためには、各々の特異的GOI(この場合は、ミニシックスライブラリーの各々の個別成員)を少なくとも100、好ましくは1000そして最も好ましくは10000個の細胞内に組込むことが好ましい。全てのGOIについて同じGOIを発現する多数の個別細胞を含むポリクローナル細胞系統が、個別細胞の増殖速度差により受ける影響がより少なく、最終的ポリクローナルタンパク質組成の偏向の可能性が低いということが、統計的に予想されている。
【0245】
さらに、発現のための均質な宿主細胞系統を確保するのが有利である可能性がある。これは、トランスフェクションに先立ち宿主細胞系統をサブクローニングすることによって達成され得る。このプロセスは、クローン多様性に関する段落で記載されている。
【0246】
さらなる偏向制御が望まれるポリクローナルライブラリーについては、ポリクローナルタンパク質産物の最終組成は、発現ベクタープラットフォーム内に誘発可能な転写制御要素を導入することによって制御され得る。適切な誘発可能な制御要素としては、例えば、BDTetオン/オフ(BDバイオサイエンス(BD Bioscience)ニュージャージ州フランクリンレイクス(FranklinLakes,NJ))及びジーンスイッチ(Gene Switch)(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールスバッド)が含まれる。これらの転写スイッチは、遺伝子発現又はタンパク質産物内の変動に起因するあらゆる増殖偏向を最小限におさえるため、適切な時点(例えば細胞プールが充分に拡張した時点)で誘発可能である。当該実験は、かかる制御要素では実施されなかった。
【0247】
(d.1)に記載されているように個別に又は(d.2)に記載されているような大量移送によりファージミドベクターから哺乳動物発現ベクターまで6つの選択されたGOIを移送した後、以下に記載されているように、6つの別個の抗体を発現するため部位特異的組込みを使用することによりCHO−Flp−In細胞系統内のホットスポットにトランスフェクションを行なうために、哺乳動物発現ベクターを使用した。
【0248】
個別に移送されたGOI(d.1)用として、プラスミドDNAを個別に増殖させ、CHO Flp−In細胞内への個別トランスフェクションのために使用するか、そうでなければTG1ストックを個別に増殖させ、E.coli細胞の数についてのOD600正規化の後、6つの培養を混合し、プラスミド調製物のために使用した。問題の6つの遺伝子を含有するこのプラスミド調製物は、組換え型ポリクローナル抗体発現のため、哺乳動物細胞のバルクトランスフェクションに用いられた。
【0249】
大量移送されたGOI(d、2a又はd、2b)については、プラスミドDNAがCHO−Flp−In細胞内にトランスフェクションされるか又は、(d、2a又はd2、b)に記載された手順に従って増幅され精製され(プラスミド調製物3)次にバルクトランスフェクションのために用いられる。
【0250】
(e.1) 細胞培養
グルタミン(2mM)及びFCS(10%)及び100μg/mlのゼオシン(インビトロジェン、カリフォルニア州カールスバッド)を添加しながら、ハムのF−12培地内にCHO−Flp−In 宿主細胞系統(インビトロジェン、カリフォルニア州、カールスバッド)を維持した。サブクローニングのためには、細胞をトリプシンで離脱させ、メーカーの指示に従って分割させた。細胞を37℃、5%CO2で成長させた。培地及び培地添加剤は、ギブコ(Gibco)製のものであった。
【0251】
この細胞系統は、lacZ−ゼオシン融合遺伝子を安定した形で発現させ、外来性遺伝子の部位特異的組込みの時点で失なわれる耐性である抗生物質ゼオシンに対する耐性を細胞に付与する。細胞は、Flp組換え標的(FRT)部位の単一コピーを含有し、かくしてFlp−In系(インビトロジェン、カリフォルニア州カールスバッド)の使用により部位特異的組込みのための宿主細胞系統としていつでも使用できる状態にある。
【0252】
(e.2) CHO細胞のトランスフェクション
6つのウェルを伴う組織培養プレートに、4.0×105個のCHO−Flp−In細胞/ウェルを接種し、これらのプレートを37℃/5%CO2でO/Nインキュベートした。メーカーの指示に従い、FuGENETM6(ロッシュ(Roche))、LipofectineTM、LipofectAminTM、又はLipofect AMINE2000TM(ジブコ(Gibco))を用いて異なるTFN方法をテストして、これらの細胞のトランスフェクションを実施した。この例では、トランスフェクション試薬としてLipofectAMINE2000TMを使用した。簡単に言うと、トランスフェクションの前日に、上述のとおりに、指数増殖するCHO−Flp−In細胞を播種し、37℃/5%CO2でO/Nインキュベートした。同時トランスフェクションのために、85〜95%の細胞集密度をもつウェルを使用した。
【0253】
以下の中味を有する2本のチューブを調製した:
チューブ1: (d.1)で記載されているGOIを伴う個別の発現ベクター0.5μg(例えばOVAを伴うpSymvc21)+4.5μgのmp040(pOG44のマキシプレップ)(リコンビナーゼFlpを発現するプラスミド)を、250μlのOptimem(1.5mlのエッペンドルフ管)に添加した。
【0254】
チューブ2: 250μlのOptimem(1.5mlのエッペンドルフ管)に対して、7.5μlのLipofect AMINE2000TMを添加し、5分間室温(RT)でインキュベートした。
【0255】
チューブ2の中味を試験管1に移送し、その後20分間RTでインキュベートした。
【0256】
メーカーの指示に従ってDNA−リポフェクタミン複合体を、細胞を伴うウェルに移した。
【0257】
24時間後に、トリプシンによって細胞を離脱させ、(1:3)に分割し、T−25フラスコと100mm入りペトリ皿に分配し、選択圧として900μgのハイグロマイシンB/mlを伴う新鮮な栄養混合物F−12Ham+10%FCS+2mMのL−グルタミン培地内で培養した。
【0258】
(e.3) 部位特異的組込み体の選択及びトランスフェクションを受けた細胞の二次培養
2〜3週間ハイグロマイシンB選択圧下で細胞を培養し、この期間中、2−4日毎に同じ濃度の選択用作用物質を含有する新しい培地で細胞をリフレッシュした。T−25フラスコ及びペトリ皿内の生き延びた細胞プールをトリプシンにより離脱させ、(1:6)で分割させ、上述の選択圧下でのさらなる増殖のためT−フラスコに分配した。(d.1)に記載された方法に従って生成された形質転換体を含有するペトリ皿から(いわゆるクローニングシリンダを用いて)いくつかの単一クローンを採集し、増殖及び発現レベル研究用に新しいウェルに移送した。
【0259】
閾値ハイグロマイシンB濃度に対する耐性をもつ細胞又は単一クローンの各プールをその後、6ウェルプレート内で集密状態となるまで成長させ、ペトリ皿、T−25、T80及びT−175フラスコ内でそのそれぞれの培地プラスハイグロマイシンBの中で再度プレート固定した。指数増殖中の細胞がT80組織培養フラスコ内で80%の集密度に達した時点で、各々の細胞系統のガラスビンを凍結させ、液体窒素N2(L)−フリーザー内に貯蔵した。
【0260】
6つの問題の遺伝子を含有するプラスミド混合物(ミニシックスライブラリー)でのトランスフェクションのために、6つの個別培養を、E.coliの数についてOD600で正規化し、混合し、6つの問題の遺伝子を含有するポリクローナルプラスミド調製物のために使用した。上述のものの7.5倍もの試薬及び細胞を用いたトランスフェクション手順を実施し、6つの別個の抗体の混合物を発現する組換え型ポリクローナル細胞系統を産生させた。
【0261】
選択された抗体の個別成員を発現する6つの細胞系統及び6つの別個の抗体の混合物を発現する細胞系統を、培養及び増殖の間、抗原特異的ELISAにより抗体産生についてテストした。
【0262】
(f) 既知の組合せの6つの別個の抗体を発現するポリクローナル細胞系統の組成の監視
発現ベクター内にある6つの選択された問題の遺伝子の混合物を生成しその後バルクトランスフェクション及びCHO−Flp−In細胞内への部位特異的組込みを行なうことにより、6つの別個の抗体を発現するポリクローナル細胞系統を生成した。
【0263】
34日間、細胞系統を追跡調査し、ここで遺伝子型分布、抗体発現及び増殖速度を追跡した。結果は以下で記載されている。
【0264】
(f.1) OD600正規化された細胞混合物からのプラスミド調製物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞中の6つの選択された問題の遺伝子の遺伝子型分布
ポリクローナルCHO−Flp−In細胞系統をトリプシン処理し、細胞懸濁液を10個の細胞/mlまで希釈させた。その後、合計10枚の96ウェルプレートの各ウェルに200μlを移送した。約10日後、単一コロニーをもつウェルを顕微鏡検査により同定した。単一コロニーを伴うウェルをPBS中で1回洗浄し、50μlの水を添加した。プレートを10分間80℃でインキュベートし、溶解物をもう1つの96ウェルプレートに移した。10μlの溶解物を、以下のプライマと共に25μlのOneStep RT−PCR(キアゲン(Qiagen))中で使用した。
5’−CAAATAGCCCTTGACCAGGC−3’(配列番号6)及び
5’−GTGTCCACTCTGAGGTTCAG−3’(配列番号7)
【0265】
2時間37℃でインキュベートさせた15μlの反応中の10μlのRT−PCR混合物上でHinfI及びNlaIIIを用いて、RFLPを実施した。消化フラグメントをアガロースゲル電気泳動とそれに続くゲルのEtBr染色を用いて視覚化した。経時的に(トランスフェクションから16日及び34日後)抗−OVA、抗−AP、抗β2m、抗−HAP、抗−FVIII及び抗−LYSを産生する細胞の遺伝子型分布を追跡調査した。図9を参照のこと。
【0266】
(f.2)E.coliのOD600正規化混合物(d.1)からのプラスミド調製物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞に由来する試料のELISA
ポリクローナルCHO−Flp−In細胞系統(e.3)をトリプシン処理し、T−75フラスコ内でF−12HAM+10%FCS+2mMのL−グルタミン及び900μgのハイグロマイシン中で、3×106個の細胞をプレート固定した。培地を毎日変え、3日目にELISAのために上清を選択した。50mMの炭酸塩緩衝液中で10μg/mlに至るまで、抗原(β−ミクログロブリン)(コペンハーゲン大学から寄贈されたもの)、アルカリホスファターゼ(シグマ(Sigma))、オボアルブミン(シグマ)、第VIII因子(デンマークのノボノルディスク(Novo Nordisk)より寄贈されたもの)、ニワトリ卵白リゾチーム(シグマ)及びハプトグロピン(シグマ))を希釈させた。ELISAプレートに抗原(各ウェルに50μl)をコーティングし、4℃でO/Nインキュベートした。洗浄用緩衝液(1×PBS/0.05%のツィーン(Tween)20)で4回ウェルを洗浄し、洗浄用緩衝液(各ウェルに対し100μl)中2%のスキムミルク粉末で1時間遮断した。ウェルに50μlの試料を添加し、プレートをRTで1時間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、1時間二次抗体(ヤギ抗マウスIgG/HRP接合体(シグマ))を添加し、ひき続き4回洗浄した。ELISAをTMB基質(各ウェル中50μl、DAKO S1600)で5分間展開させ、1MのH2SO450μlを添加することにより、反応を停止させた。プレートを450nmで直ちに読みとった。問題の6つの遺伝子をコードする発現ベクターの混合物でのトランスフェクション後34日目に誘導された溶解物中での6つの問題の抗体全ての発現を実証するデータが、図10に示されている。図10に提示されているデータは6つの異なる抗原特異的ELISA検定から誘導されていることから、OD450の読取り値は抗体の数量に関し直接比較可能ではないということを指摘すべきである。
【0267】
抗体発現レベルは、各々の個別GOI又は6つのGOIの混合物でのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞のプール内で抗カッパコートELISAによってさらに分析された。この結果は図11に示されている。これは、抗体発現レベルが、個別にトランスフェクションされた細胞系統の間で匹敵するものであることを示している(例えば、抗−β2mコーディングベクターでのトランスフェクションを受けた細胞系統は、抗AP抗体をコードするベクターでのトランスフェクションを受けた細胞系統に比べ匹敵する量の抗体を発現する)。個別GOIでのトランスフェクションを受けたCHO−Flp−In細胞のプールという語がここで使用されているのは、個別細胞系統が単一クローンから誘導されずe.3で記載されているように複数のクローンプールから誘導されているからである。
【0268】
(g) 実験からの結論
まず第1に、製造系におけるポリクローン性の保存についてのこれらの評価(試験)は、ファージミドベクターから哺乳動物発現ベクターへの(抗OVA、抗AP、抗β2m、抗HAP、抗−FVIII、及び抗LYSをコーディングする)ミニシックスライブラリーからの6つの選択された問題の遺伝子の大量移送が、選択又は増殖偏向の導入なく可能であり(図7)、かくして、6つの選択された問題の遺伝子に関して匹敵する頻度で終了するということを示した。
【0269】
第2に、6つの選択された問題の遺伝子を含む構築物の混合物でのCHO−Flp−In細胞のバルクトランスフェクションは同様に、単離された哺乳動物細胞内の構築物の比較可能な分布を結果としてもたらした。経時的な(トランスフェクション後16日目及び34日目)6つの選択された問題の遺伝子の遺伝子型分布も同様に類似であり(図9)、このことは、発現系が34日目まで、増殖偏向を導入することなく6つの遺伝子型の当初の等しい分布を維持しているということを示していた。
【0270】
第3に、6つの問題の遺伝子の混合物でのバルクトランスフェクションを受けた細胞は、トランスフェクション後34日目に細胞からの上清についての抗原特異的ELISAにより検査された通り、6つの抗体全ての発現を示した(図10)。異なる抗原についてのELISAの結果は、異なる結合親和力に起因して、抗体量に関して直接比較可能ではない。
【0271】
しかしながら、a)(d.1)で記載されているようなベクター調製物を用いて生成された6つの個別にトランスフェクションされたCHO−Flp−In細胞系統からの上清及び、b)6つの選択された問題の遺伝子の混合物を発現するポリクローナル細胞系統の上清について実施されたヤギ抗マウスカッパ鎖抗体でのコーティングに基づく捕捉ELISAは、6つの遺伝子型から匹敵する抗体発現レベルを示した。
【0272】
要約すると、ファージミドベクターから哺乳動物発現ベクターへとポリクローナルGOIをまとめて移送することが実現可能なものであることが実証された。このことは以前にシャロン(Sharon)(米国特許第5,789,208号明細書)で記載されてきた。さらに、哺乳動物発現構築物の混合物は、哺乳動物細胞内にまとめてトランスフェクションされ得、少なくともトランスフェクション後34日目まで匹敵する頻度に維持され得る。
【0273】
実施例3A
ミニシックスライブラリーでのCHO−Flp−In細胞系統からのサブクローンのバルクトランスフェクションにより生成された細胞培地内のポリクローン性保存の評価。
【0274】
(a)「オリジナルの」CHOFlp−In細胞系統のサブクローニング
記載された通りに(実施例3、第e.1項)、オリジナルのCHO Flp−in細胞系統(インビトロジェン)を培養した。トリプシン処理細胞を計数し、96ウェルの培養プレート内でウェルあたり1個の細胞でプレート固定した。約14日後、単一のコロニーをもつ20のウェルを同定し、細胞をトリプシン処理し、24ウェルプレートに移送した。成長挙動ならびに発現レベルの特徴づけの後、今後の研究のために、サブクローン、CHO−Flp−Inクローン019の1つを選択した。
【0275】
(b)CHO−Flp−Inクローン019細胞のバルクトランスフェクション及び選択
トランスフェクションをトリプリケートで実施し、CHO−Flp−Inクローン019細胞の選択は基本的に、pSymvc21中でネオマイシン選択マーカーがハイグロマイシンマーカーで置換されたという点を除いて(図4.e)、記載されている通りに(実施例3、第e.2項及び第e.3項)で実施した。その結果、細胞の選択及び培養中、ハイグロマイシンBの代りにゲニチシン(450μg/ml)が使用された。
【0276】
(c)ミニシックスライブラリーでのバルクトランスフェクションを受けたCHO Flp−Inクローン019細胞から得た試料のELISA
トランスフェクション後73日間細胞を培養し、17、31、45、59及び73日目にELISA用試料を採取した。記載された通りに(実施例3、第f、2項)、(個別に精製されたミニシックス抗体を標準として用いて)定量的ELISAを実施した。3つの独立したトランスフェクションからの結果は図12に示されている。異なるトランスフェクションの間で異なる発現プロフィールが観察された。しかしながら、6つの抗体は全て、59日目まで全ての実験において検出可能であった。
【0277】
(d)実験からの結論
CHO Flp−Inクローン019細胞についてのネオマイシン選択系での実験は、バルクトランスフェクションの後2ヵ月間、個別バッチの比較的保存された発現プロフィールを示した(図12)。かかる安定性期間は、製造目的で充分なものである。観察されたバッチ間の変動は、生産に先立ち個別バッチの大きな凍結ストックを生成し貯蔵することによって処理できる。
【0278】
実施例3B
選択後の個別にトランスフェクションを受けたCHO Flp−In細胞を混合することによる細胞培地内のポリクローン性保存の評価
(a)CHO Flp−In細胞の個別トランスフェクション及び選択
ミニシックスライブラリーの個別成員を発現する6つの細胞系統の生成のための実験的手順については、先に記載した(実施例3、第e.3項)。等数(各細胞系統5×105個)での選択後直ちに、ミニシックスライブラリーの個別成員を発現する6つの細胞系統を混合し、混合細胞集団を85日間培養した。個別細胞系統から3つの個別混合物を作った。
【0279】
(b)(a)で生成されたポリクローナル細胞培養から得られた試料のELISA
試料を2週間後毎に採取し、ミニシックスライブラリーから発現された抗体の組成を、記載された通り(実施例3、第f.2項)ELISAにより決定した。ELISAを、混合後8、17、30、45、57、72及び85日目に実施した。結果(トリプリケートでの実験の平均±SD)は、図13に示されている。6つの抗体はすべて、混合物から85日後に検出可能であった。先に記載した通り(実施例3、第f.2項)、異なる抗体についての読取り値は直接比較可能ではなく、図13で提示されているデータは、少なくとも混合後45日目まで比較的安定した発現プロフィールを示し、その後、生産性の全体的降下が見られる。さらに、3つの独立した混合物から得られた結果の比較は、ミニシックス抗体の経時的に類似した発現プロフィールを示し、これは結果が再現可能であることを表していた。
【0280】
(c)実験からの結論
ミニシックスライブラリーの別個の成員でのトランスフェクションを個別に受けた細胞の混合物から成るポリクローナル細胞培養は、少なくとも混合から45日目までは、組成の保存を示した。45日間の組成保存は、大部分の場合、製造目的で充分な時間となる。その上、トリプリケートでの実験は類似の結果を示しており、かくして、異なる構築物での個別のトランスフェクションを受けた細胞の混合が低いバッチ間変動をもつ混合された細胞培養を結果としてもたらすことを示唆した。
【0281】
実施例4
抗オボアルブミン組換え型ポリクローナル抗体製造細胞系統の確立
(a)抗オボアルブミンポリクローナル抗体組成物の発現
完全に特徴づけされたオボアルブミン結合ファージクローンの収集物を以下の通りに同定した。生後8週の雌のBALB/Cマウス4匹を完全フロイドアジュバント中の50μgのOVAで、腹腔内及び皮下で免疫化させ、免疫化0日から21日目及び42日目に不完全フロインドアジュバント中のOVAでブーストし、全ての動物が、抗原特異的ELISAにより測定される通りOVAに対抗して変換された血清を有していることが確認された。31日目及び52日目に、最も良く応答したマウスから脾臓を収獲した。前述したように、ファージミドベクター(Symvc10)を用いて、脾臓RNAからFab提示ファージミドライブラリーを生成した。結果として得たライブラリーは、およそ106個の独立したクローンを含んでいて、これらのライブラリーの選択は、NUNCイムノチューブ上にコーティングされたOVAと5×1011個のFab提示ファージミドを反応させることによって実施された。第1ラウンドのパニングからの溶出液は、OVA結合剤を高い割合で含んでいたことから、第1及び第2ラウンドのパニングからの溶出液がOVA結合ファージクローンについてスクリーニングされた。
【0282】
最初に、ELISAによってOVA−反応性ファージクローンを同定した。簡単に言うと、ELISAプレートをOVAでコーティングし、ファージ提示されたFabsと反応させ、その後、HRP−接合された二次抗体と反応させた。負の対照としては、無関係の抗原(BSA)又は無関係のファージ提示されたFabs(抗−AP)を使用した。
【0283】
さらに、PVDF膜上のOVA固定化に基づいたHDS方法が確立された。これら2つの方法の結果として、別々のクローンサブセットすなわち1つのセットアップでOVAを認識しもう1つのセットアップでは認識しなかった一部のクローン及びその逆が同定されることとなった。ELISA又はHDSのいずれかによりOVAと反応したFab提示ファージクローンについては、VHの可変ドメインをコードするヌクレオチド配列を、DNA配列決定によって決定し、ベクターNTIソフトウェアパッケージを用いて、系統発生解析により遺伝子多様性を推定した。結果として得た一団には、127のOVA結合クローンが含まれ、その全てについてVHの可変部分のヌクレオチド配列が確立された。
【0284】
127個のOVA結合クローンによって発現されたFabフラグメントは全て、未変性及び変性形態のいずれかのオボアルブミンに結合する能力を有する。このセットから、我々は、大量移送及び哺乳動物発現のために使用すべき例えばpSymvc10といったファージミドベクター内に含まれたほぼ30の異なるクローンを同定した。これらの抗体は、マウスIgA、IgG2A又はIgG2B抗体のいずれかの形で発現される。我々は、これらの抗体産生クローンのDNA配列を完全に特徴づけしていたことから、実施例3に記載された6つの別個の抗体をもつモデル系について使用されたものと同じ方法を用いて、大量移送及び哺乳動物発現手順全体を通して遺伝子型の分布を監視することができる。
【0285】
(b)哺乳動物発現用ベクターへのOVA特異的抗体配列の大量移送
ファージミドベクターから発現ベクターへの問題の遺伝子の移送は、2ステップ手順(図4に例示)であり、ここで第1ステップは、選択された哺乳動物プロモーターの頭−頭方向性をもつプロモーターカセットとのプロモーター交換であり、この後に、問題の遺伝子の可変領域及びプロモーターカセットを発現ベクターまで移送する。頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)は、SacI/XhoI消化物を用いることによって各クローンのファージミドベクター内に挿入でき、その後連結されてその結果、細菌から哺乳動物プロモーター(pSymvc12)へのプロモーター交換がもたらされる。
【0286】
このとき、EcoRI及びNotI消化物が、ファージミドベクター(pSymvc12)からイソタイプコーディングベクターpSymvc20まで、可変重鎖、頭−頭プロモーターカセット(プロモーターA/プロモーターB)及び完全カッパ鎖をコードする配列を移動させることになる。pSymvc20ベクターは、ファージミドベクターからあらゆるNotI/EcoRIフラグメントを受容することができる。このフラグメントは、pSymvc20内で定常重鎖配列と接続すべき可変重鎖をコードする配列ならびにbGH PolyA配列と接続されるべきカッパ鎖をコードする配列全体を移送すると思われる。この大量移送は、この移送の後マウスIgG2B抗体として可変重領域及びカッパ鎖全体を発現する図1に示されているような発現ベクターを結果としてもたらすことになる。
【0287】
ベクターpSymvc20は、IgA、IgG2A、IgG2B、IgE又はIgG1遺伝子の重鎖のマウス定常領域を含有でき、かくして、選択された関連するマウス免疫グロブリンイソタイプのいずれでも発現する能力を有する。
【0288】
(c)抗オボアルブミン組換え型ポリクローナル抗体の発現
大量移送により、重鎖の可変領域、プロモーター及びカッパ鎖全体をコードする配列が、ファージベクタライブラリーからイソタイプコーディングベクターまで移動させられ、ポリクローナル哺乳動物発現ベクター組成物を結果としてもたらす。この後には、トランスフェクションとCHO−Flp−In細胞系統への部位特異的組込みが続き、組換え型ポリクローナル製造細胞系統が生成される。この後者の細胞系統は、トランスフェクションを受けた各々の細胞のゲノム内の同じ特定の場所に組換え型ポリクローナルタンパク質の各々の成員をコードする問題の遺伝子をターゲティングすると同時に、トランスフェクションを受けた各々の細胞内の前記核酸配列を含む発現構築物の1つのコピーのみを組込むことによって、生成される。
【0289】
細胞培養及びトランスフェクション及び選択手順は、実施例3(e.1−e.3)に記載されているものと同じである。
【0290】
(d)組成安定性の監視
大量移送及び哺乳動物細胞内へのトランスフェクションがクローニング、発現及び個別クローン間の多様性に関する多大な偏向を導入すること無く確実に行なわれるようにするため、以下の方法を用いて、大量移送及び哺乳動物発現のプロセスを監視することができる。
【0291】
1) トランスフェクションを受けた各々の構築物からの細胞プールの生成時間の分析、
2) トランスフェクションを受けた各々の構築物からの細胞プールの発現レベルの分析、
3) 単細胞上のRFLPによる分析、
4) 産生された抗体混合物のELISA、
5) 産生された抗体混合物の質量分析法、
6) 各々の異なるクローンの比率を同定するための、V領域特異的プライマを用いた明確なバッチサイズについてのTaqman PCR(リアルタイムPCR)による分析、又は
7) 選択圧(ハイグロマイシン)を伴って及び伴わずに経時的培養されたパッチの分析は、以下のパラメータについて実施可能である:
a) クローナル分布
b) タンパク質発現レベル(数量及び分布)
c) ゲノム安定性
d) 無血清培地に対する適合の効果
【0292】
(e)抗オボアルブミン組換え型ポリクローナル抗体組成物の産生
従来の小型培養フラスコ、Nunc多層セルファクトリ及び小型高収量生物反応器(MiniPerm, INTEGRA−CELLine)を含めた、異なる培養系の中で、組換え型ポリクローナル抗体産生CHO−Flp−In細胞系統を産生させる。さらに、細胞系統は、スピナーフラスコ、中空ファイバ及び生物反応器内のその後の培養のため無血清懸濁液に適合されている。
【0293】
選択された細胞系統を成長させるために用いられる培地は、メーカー(インビトロジェン、B&D、ハイクローン(Hyclone))により推奨されている通りの無血清、無タンパク質であるか又は化学的に明確な培地である。
【0294】
選択(ハイグロマイシン)無しで培養される付着又は懸濁細胞からの上清が収集される。収集された上清は、記載通りに(3f)分析され特徴づけされる。産生された抗体の産生収率、機能性及び品質は、供給されたバッチ又は灌流条件下での細胞の成長中及びその後に検査される。懸濁液中の細胞は、より大きいスピナーフラスコ又は生物反応器の接種のために使用される。
【0295】
収集された上清からのポリクローナル抗体を、その後動物研究で使用するために精製する。
【0296】
本発明のその他の実施形態及び用途は、本書で開示された本発明の明細及び実践を考慮することで当業者には明らかになることだろう。明細書及び実施例は例としてのみみなされるものとして意図されており、発明の真の範囲及び精神は、特許請求の範囲によって表わされている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞の収集物を生成するための方法であって、
a)変異体核酸配列の集合を含むベクターライブラリーを提供する段階であって、前記ベクターの各々が1)特定の抗原を結合させる全く異なる成員を含むポリクローナルタンパク質の全く異なる成員をコードする全く異なる核酸配列の1つの単一コピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階、
b)宿主細胞系統内に前記ベクターライブラリーを導入する段階であって、前記宿主細胞系統の各々の個別細胞のゲノムが、そのゲノム内の単一の特異的部位で前記ベクターものと整合するリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階;
c)段階(a)の前記変異体核酸配列が前記宿主細胞系統の前記細胞内で部位特異的に組込まれるような形で1つ以上のリコンビナーゼの前記細胞内での存在を保証する段階であって、ここで、前記1つ以上のリコンビナーゼは、i)前記核酸配列が中に導入される前記細胞により発現されるか;(ii)段階aの前記ベクターにより操作可能な形でコードされるか;iii)第2のベクターから発現を通して提供されるか;又はiv)1つのタンパク質として前記細胞に提供されるかのいずれかである、段階;及び
d)変異体核酸配列の前記ライブラリーから、組込まれたコピーを含む細胞を選択する段階、
を含む方法。
【請求項2】
前記ポリクローナルタンパク質が前記細胞収集物と天然においては関連していない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナル抗体又は抗体フラグメントである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ベクターライブラリーが、このベクターライブラリーを用いた前記宿主細胞の収集物のバルクトランスフェクションにより前記宿主細胞系統内に導入される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ベクターライブラリーが、前記ベクターライブラリーのうちの5〜50個のベクターを含む画分での前記宿主細胞のアリコートの半バルクトランスフェクションにより前記宿主細胞系統内に導入され、前記細胞が、段階(d)の選択に先立ち又はそれに後続して組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞収集物を形成するべくプールされている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
部位特異的組込みのための前記ベクターライブラリーが、前記ベクターライブラリーの個別成員で別々に前記宿主細胞をトランスフェクションすることによって前記宿主細胞系統内に導入され、前記細胞が、段階(d)の選択に先立ち又はそれに後続して組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞収集物を形成するべくプールされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
段階(a)中の変異体核酸の集合が、前記特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする核酸の同定及び/又は単離を可能にするスクリーニング手順を用いて単離又は同定される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
スクリーニング手順がバイオパニング段階及び/又は免疫検出検定を内含している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スクリーニング手順が、ファージ提示法、リボソーム提示法、DNA提示法、RNAペプチド提示法、共有結合提示法、細菌表面提示法、酵母表面提示法、真核生物ウイルス提示法、ELISA及びELISPOTから成る群から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記変異体核酸配列のライブラリーが少なくとも3つの変異体核酸配列を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
変異体核酸配列の前記ライブラリーの個別成員が、前記細胞収集物内の個別細胞の単一の予め定義されたゲノム遺伝子座内に組込まれており、前記遺伝子座が前記組換え型ポリクローナルタンパク質の各成員の高レベル発現を媒介する能力をもつ、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
各々の全く異なる核酸配列が、2つの異なるポリペプチド鎖から成るポリクローナルタンパク質の一成員をコードする一対の遺伝子セグメントを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子セグメント対が、抗体重鎖可変領域コーディング配列及び抗体軽鎖可変領域コーディング配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記遺伝子セグメント対が、T細胞レセプタアルファ鎖可変領域コーディング配列及びT細胞レセプタベータ鎖可変領域コーディング配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子セグメント対が、T細胞レセプタガンマ鎖可変領域コーディング配列及びT細胞レセプタデルタ鎖可変領域コーディング配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記変異体核酸配列ライブラリーが、前記変異体核酸配列内部にある天然に発生する多様性を含んでいる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
天然に発生する多様性が、前記変異体核酸配列内に存在するCDR領域内に位置している、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞収集物が、哺乳動物細胞系統又は細胞型に由来する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物細胞系統が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、BHK細胞、YB2/0、NIH3T3、骨髄腫細胞、線維芽細胞、HeLa、HEK293、PER.C6及びそれらから誘導された細胞系統から成る群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
組換え型ポリクローナルタンパク質の製造方法であって、前記ポリクローナルタンパク質が、特定の抗原を結合させる全く異なる成員を含んでおり、
a)変異体核酸配列のライブラリーを含む細胞収集物を提供する段階であって、前記核酸配列の各々が前記ポリクローナルタンパク質の全く異なる成員をコードし、前記核酸配列の各々が前記細胞収集物内の各々個別の細胞のゲノムの同じ単一の部位にて組込まれている、段階、
b)前記ポリクローナルタンパク質の発現を容易にする条件の下で、前記細胞収集物を培養する段階;及び
c)細胞培養細胞又は細胞培養上清から前記発現されたポリクローナルタンパク質を回収する段階、
を含む方法。
【請求項22】
段階(a)内の前記細胞収集物が、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法に従って生成される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ポリクローナルタンパク質を発現する細胞収集物が1つの生物反応器にて培養される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリクローナルタンパク質が前記細胞収集物と天然においては関連していない、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
段階(a)中の前記変異体核酸ライブラリーが、前記特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする核酸の同定及び/又は単離を可能にするスクリーニング手順を用いて、より早期の段階で単離又は同定される、請求項21〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記スクリーニング手順がバイオパニング段階及び/又は免疫検出検定を内含している、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記スクリーニング手順が、ファージ提示法、リボソーム提示法、DNA提示法、RNAペプチド提示法、共有結合提示法、細菌表面提示法、酵母表面提示法、真核生物ウイルス提示法、ELISA及びELISPOTから成る群から選択される、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナル抗体又は抗体フラグメントである、請求項21〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントである、請求項21〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記変異体核酸配列の前記相対的発現レベルが監視される、請求項21〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記発現レベルがmRNAレベル及び/又はタンパク質レベルで監視される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
段階(b)での前記培養は、遅くとも前記相対的発現レベルが予め定められた範囲外となった時点で終結される、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項21〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
特定の抗原に結合するポリクローナルタンパク質をコードする変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を含む組換え型ポリクローナル製造細胞系統であって、前記収集物中の各々の細胞が、前記ライブラリーの一成員でトランスフェクションされ、ポリクローナルタンパク質の全く異なる一成員を発現し得、かつ、前記変異体核酸配列は、前記収集物内の個別の細胞のゲノム内で同じ単一の部位にあり、前記核酸配列が前記収集物中の前記細胞と天然においては関連していない組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項35】
前記変異体核酸配列ライブラリーが、ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントの個別成員の間で天然に発生する多様性を有する前記ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントをコードする、請求項34に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項36】
前記変異体核酸配列ライブラリーが、ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントの個別成員の間で天然に発生する多様性を有する前記ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントをコードする、請求項34に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項37】
前記細胞収集物が、哺乳動物細胞系統又は細胞型に由来する、請求項34〜36のいずれか1項に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項38】
前記哺乳動物細胞系統が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、BHK細胞、YB2/0、NIH3T3、骨髄腫細胞、線維芽細胞、HeLa、HEK293、PER.C6及びそれらから誘導された細胞系統から成る群から選択される、請求項37に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項39】
組換え型ポリクローナル抗体またはそのフラグメントの商業的生産に適している、請求項35に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項40】
VHおよびVL遺伝子セグメントのペアーのライブラリーでトランスフェクトされた細胞収集物を含み、特定の抗原に結合する組換え型ポリクローナル抗体を発現し得るポリクローナル抗体製造細胞系統であって、各VHおよびVL遺伝子ペアーは、ポリクローナル抗体の異なる成員をコードし、かつ、細胞系統中の各細胞が、ライブラリーのVHおよびVL遺伝子の1のペアーにてトランスフェクトされており、該ペアーを発現しうるものであり、かつ、VHおよびVL遺伝子の各ペアーは、該細胞系統中の個々の細胞のゲノム中の同じ単一部位に存在しており、該遺伝子セグメントが収集物中の該細胞と天然においては関連していないものである、細胞系統。
【請求項41】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項40に記載の細胞系統。
【請求項42】
組換え型ポリクローナル抗体の商業的生産に適している、請求項41に記載の細胞系統。
【請求項43】
VHおよびVL遺伝子セグメントのペアーのライブラリーが、天然の変異体核酸配列の集合を含む部位特異的組込み用ベクターのライブラリーであって、前記ベクターの各々が、1)特定の抗原に結合するポリクローナル抗体またはそのフラグメントの全く異なる成員をコードする全く異なる核酸配列の1つのコピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、請求項40に記載の細胞系統。
【請求項1】
組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞の収集物を生成するための方法であって、
a)変異体核酸配列の集合を含むベクターライブラリーを提供する段階であって、前記ベクターの各々が1)特定の抗原を結合させる全く異なる成員を含むポリクローナルタンパク質の全く異なる成員をコードする全く異なる核酸配列の1つの単一コピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階、
b)宿主細胞系統内に前記ベクターライブラリーを導入する段階であって、前記宿主細胞系統の各々の個別細胞のゲノムが、そのゲノム内の単一の特異的部位で前記ベクターものと整合するリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、段階;
c)段階(a)の前記変異体核酸配列が前記宿主細胞系統の前記細胞内で部位特異的に組込まれるような形で1つ以上のリコンビナーゼの前記細胞内での存在を保証する段階であって、ここで、前記1つ以上のリコンビナーゼは、i)前記核酸配列が中に導入される前記細胞により発現されるか;(ii)段階aの前記ベクターにより操作可能な形でコードされるか;iii)第2のベクターから発現を通して提供されるか;又はiv)1つのタンパク質として前記細胞に提供されるかのいずれかである、段階;及び
d)変異体核酸配列の前記ライブラリーから、組込まれたコピーを含む細胞を選択する段階、
を含む方法。
【請求項2】
前記ポリクローナルタンパク質が前記細胞収集物と天然においては関連していない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナル抗体又は抗体フラグメントである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ベクターライブラリーが、このベクターライブラリーを用いた前記宿主細胞の収集物のバルクトランスフェクションにより前記宿主細胞系統内に導入される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ベクターライブラリーが、前記ベクターライブラリーのうちの5〜50個のベクターを含む画分での前記宿主細胞のアリコートの半バルクトランスフェクションにより前記宿主細胞系統内に導入され、前記細胞が、段階(d)の選択に先立ち又はそれに後続して組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞収集物を形成するべくプールされている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
部位特異的組込みのための前記ベクターライブラリーが、前記ベクターライブラリーの個別成員で別々に前記宿主細胞をトランスフェクションすることによって前記宿主細胞系統内に導入され、前記細胞が、段階(d)の選択に先立ち又はそれに後続して組換え型ポリクローナル製造細胞系統として適切な細胞収集物を形成するべくプールされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
段階(a)中の変異体核酸の集合が、前記特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする核酸の同定及び/又は単離を可能にするスクリーニング手順を用いて単離又は同定される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
スクリーニング手順がバイオパニング段階及び/又は免疫検出検定を内含している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スクリーニング手順が、ファージ提示法、リボソーム提示法、DNA提示法、RNAペプチド提示法、共有結合提示法、細菌表面提示法、酵母表面提示法、真核生物ウイルス提示法、ELISA及びELISPOTから成る群から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記変異体核酸配列のライブラリーが少なくとも3つの変異体核酸配列を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
変異体核酸配列の前記ライブラリーの個別成員が、前記細胞収集物内の個別細胞の単一の予め定義されたゲノム遺伝子座内に組込まれており、前記遺伝子座が前記組換え型ポリクローナルタンパク質の各成員の高レベル発現を媒介する能力をもつ、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
各々の全く異なる核酸配列が、2つの異なるポリペプチド鎖から成るポリクローナルタンパク質の一成員をコードする一対の遺伝子セグメントを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子セグメント対が、抗体重鎖可変領域コーディング配列及び抗体軽鎖可変領域コーディング配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記遺伝子セグメント対が、T細胞レセプタアルファ鎖可変領域コーディング配列及びT細胞レセプタベータ鎖可変領域コーディング配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子セグメント対が、T細胞レセプタガンマ鎖可変領域コーディング配列及びT細胞レセプタデルタ鎖可変領域コーディング配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記変異体核酸配列ライブラリーが、前記変異体核酸配列内部にある天然に発生する多様性を含んでいる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
天然に発生する多様性が、前記変異体核酸配列内に存在するCDR領域内に位置している、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞収集物が、哺乳動物細胞系統又は細胞型に由来する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物細胞系統が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、BHK細胞、YB2/0、NIH3T3、骨髄腫細胞、線維芽細胞、HeLa、HEK293、PER.C6及びそれらから誘導された細胞系統から成る群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
組換え型ポリクローナルタンパク質の製造方法であって、前記ポリクローナルタンパク質が、特定の抗原を結合させる全く異なる成員を含んでおり、
a)変異体核酸配列のライブラリーを含む細胞収集物を提供する段階であって、前記核酸配列の各々が前記ポリクローナルタンパク質の全く異なる成員をコードし、前記核酸配列の各々が前記細胞収集物内の各々個別の細胞のゲノムの同じ単一の部位にて組込まれている、段階、
b)前記ポリクローナルタンパク質の発現を容易にする条件の下で、前記細胞収集物を培養する段階;及び
c)細胞培養細胞又は細胞培養上清から前記発現されたポリクローナルタンパク質を回収する段階、
を含む方法。
【請求項22】
段階(a)内の前記細胞収集物が、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法に従って生成される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ポリクローナルタンパク質を発現する細胞収集物が1つの生物反応器にて培養される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリクローナルタンパク質が前記細胞収集物と天然においては関連していない、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
段階(a)中の前記変異体核酸ライブラリーが、前記特定の抗原を結合させるタンパク質をコードする核酸の同定及び/又は単離を可能にするスクリーニング手順を用いて、より早期の段階で単離又は同定される、請求項21〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記スクリーニング手順がバイオパニング段階及び/又は免疫検出検定を内含している、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記スクリーニング手順が、ファージ提示法、リボソーム提示法、DNA提示法、RNAペプチド提示法、共有結合提示法、細菌表面提示法、酵母表面提示法、真核生物ウイルス提示法、ELISA及びELISPOTから成る群から選択される、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナル抗体又は抗体フラグメントである、請求項21〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリクローナルタンパク質がポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントである、請求項21〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記変異体核酸配列の前記相対的発現レベルが監視される、請求項21〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記発現レベルがmRNAレベル及び/又はタンパク質レベルで監視される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
段階(b)での前記培養は、遅くとも前記相対的発現レベルが予め定められた範囲外となった時点で終結される、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項21〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
特定の抗原に結合するポリクローナルタンパク質をコードする変異体核酸配列ライブラリーでトランスフェクションされた細胞収集物を含む組換え型ポリクローナル製造細胞系統であって、前記収集物中の各々の細胞が、前記ライブラリーの一成員でトランスフェクションされ、ポリクローナルタンパク質の全く異なる一成員を発現し得、かつ、前記変異体核酸配列は、前記収集物内の個別の細胞のゲノム内で同じ単一の部位にあり、前記核酸配列が前記収集物中の前記細胞と天然においては関連していない組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項35】
前記変異体核酸配列ライブラリーが、ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントの個別成員の間で天然に発生する多様性を有する前記ポリクローナル抗体又は抗体フラグメントをコードする、請求項34に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項36】
前記変異体核酸配列ライブラリーが、ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントの個別成員の間で天然に発生する多様性を有する前記ポリクローナルT細胞レセプタ又はT細胞レセプタフラグメントをコードする、請求項34に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項37】
前記細胞収集物が、哺乳動物細胞系統又は細胞型に由来する、請求項34〜36のいずれか1項に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項38】
前記哺乳動物細胞系統が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、BHK細胞、YB2/0、NIH3T3、骨髄腫細胞、線維芽細胞、HeLa、HEK293、PER.C6及びそれらから誘導された細胞系統から成る群から選択される、請求項37に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項39】
組換え型ポリクローナル抗体またはそのフラグメントの商業的生産に適している、請求項35に記載の組換え型ポリクローナル製造細胞系統。
【請求項40】
VHおよびVL遺伝子セグメントのペアーのライブラリーでトランスフェクトされた細胞収集物を含み、特定の抗原に結合する組換え型ポリクローナル抗体を発現し得るポリクローナル抗体製造細胞系統であって、各VHおよびVL遺伝子ペアーは、ポリクローナル抗体の異なる成員をコードし、かつ、細胞系統中の各細胞が、ライブラリーのVHおよびVL遺伝子の1のペアーにてトランスフェクトされており、該ペアーを発現しうるものであり、かつ、VHおよびVL遺伝子の各ペアーは、該細胞系統中の個々の細胞のゲノム中の同じ単一部位に存在しており、該遺伝子セグメントが収集物中の該細胞と天然においては関連していないものである、細胞系統。
【請求項41】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項40に記載の細胞系統。
【請求項42】
組換え型ポリクローナル抗体の商業的生産に適している、請求項41に記載の細胞系統。
【請求項43】
VHおよびVL遺伝子セグメントのペアーのライブラリーが、天然の変異体核酸配列の集合を含む部位特異的組込み用ベクターのライブラリーであって、前記ベクターの各々が、1)特定の抗原に結合するポリクローナル抗体またはそのフラグメントの全く異なる成員をコードする全く異なる核酸配列の1つのコピー、及び2)1つ以上のリコンビナーゼ認識配列を含んでいる、請求項40に記載の細胞系統。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C−4D】
【図4E】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C−4D】
【図4E】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−268806(P2010−268806A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155716(P2010−155716)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【分割の表示】特願2006−500508(P2006−500508)の分割
【原出願日】平成16年1月7日(2004.1.7)
【出願人】(505257682)シムフォゲン・アクティーゼルスカブ (24)
【氏名又は名称原語表記】SYMPHOGEN A/S
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【分割の表示】特願2006−500508(P2006−500508)の分割
【原出願日】平成16年1月7日(2004.1.7)
【出願人】(505257682)シムフォゲン・アクティーゼルスカブ (24)
【氏名又は名称原語表記】SYMPHOGEN A/S
【Fターム(参考)】
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