説明

組換え型栄養要求性BCGパスツール株及び、寄生虫によって引き起こされるヒトの感染症を制御するための同株の使用

【課題】抗生物質耐性マーカを持たないBCGにおける異種抗原発現のための、より安定的なプラスミドベクターを開発する。
【解決手段】本発明は、マンソン住血吸虫Sm14タンパク質を発現する組換えBCGマイコバクテリウム・ボビスのワクチン株(BCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14)に関する。本発明のワクチン株は、寄生虫(特に、マンソン住血吸虫)によって引き起こされる感染の制御に用いられる。ワクチン株は、コンストラクトpΔK410−hsp60−Sm14を用いた遺伝子組換え後にロイシンを相補するBCGパスツール亜株によって得られるロイシン栄養要求性株である。本発明において、組換え型Sm14抗原をインビボで発現することによってマンソン住血吸虫感染を制御するためのBCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60*−Sm14株の有効性が示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンソン住血吸虫のSm14抗原を発現するマイコバクテリウム・ボビスBCGの組換え型ワクチン株に関する。本発明のワクチン株は、寄生虫(特に、マンソン住血吸虫)によって引き起こされる感染症を制御するために用いられる。ワクチン株は、BCGパスツール(BCG Pasteur)亜株の遺伝子改変によって得られるロイシン栄養要求性BCG株である。
【背景技術】
【0002】
人間に寄生する5つの住血吸虫属種のうちの1つに感染している人は少なくとも2億人いると推定されている。それ以外にも、さらに6億人が、この寄生虫による感染症のリスクにさらされている。
【0003】
吸虫駆除剤プラジカンテルによる化学療法は、主な制御方法であるが、再感染率が高い[非特許文献1及び非特許文献2]。
【0004】
従って、適切な化学療法と併用される有効なワクチンを開発できれば、効果的な長期制御戦略を示すことができよう[非特許文献3及び非特許文献4]。
【0005】
世界保健機関(WHO)は、抗住血吸虫ワクチン候補としてのヒト臨床試験用の優先標的分子として、マンソン住血吸虫脂肪酸結合タンパク質14(Sm14)及びビルハルツ住血吸虫由来の28kDaのグルタチオンS−トランスフェラーゼ(Sh28−GST)を選択した[非特許文献5、非特許文献6及び非特許文献7]。Sm14抗原の選択は、大腸菌内で産出された組換えSm14タンパク質が、げっ歯類モデル[非特許文献8及び非特許文献9]及びヒツジ[非特許文献10]におけるチャレンジ感染(challenge)時の感染虫体数の減少によって決定されるようなマンソン住血吸虫(35〜60%)及び肝蛭に対する防御免疫を誘導したという観察結果に基づくものであった。さらに、このタンパク質のコード化遺伝子が、DNAワクチンとの関連で[非特許文献11]、または弱毒化生組換え菌すなわちチフス菌(Salmonella enterica var. Typhimurium)を通して[非特許文献12]、または世界的に用いられている結核ワクチンであるマイコバクテリウム・ボビスのBCG株(カルメット・ゲラン桿菌)の形質転換から得られるBCG組換え体として[非特許文献13及び非特許文献14]、投与されたときに、Sm14の防御免疫原生が確認された。
【0006】
幾つかの利点は、異種抗原提示系としてのrBCGの使用に関連している[非特許文献15]。これに関連して、非特許文献13には、マイコバクテリウム・フォーチュイタムのβラクタマーゼ(rBCG/PL73−Sm14)と融合させた、Sm14を発現するrBCG株を1用量用いてワクチン接種(免疫化)することにより、rSm14を3用量用いて得られるものと同等の、マンソン住血吸虫のセルカリア(有尾幼虫)によるチャレンジ感染に対する防御を与えることが既に報告されている[非特許文献13]。このコンストラクトから得られたSm14発現の全体レベルは、同一または類似の発現ベクターを用いて他の抗原に対して記録されたレベルに比べて相対的に低かった[非特許文献16]。しかし、rBCG株が防御免疫を誘発するために必要な最小レベルの抗原産出に関するコンセンサスはないが、低レベルの抗原発現は、潜在的制限要因の代表的なものであると考えられていたことに留意されたい[非特許文献17及び非特許文献18]。
【0007】
この問題に対処するため、より高レベルの標的抗原を発現することができる2つの新たなrBCGコンストラクトが開発された[非特許文献19]。これらのコンストラクトは、2つのプラスミドベクターpUS977及びpAU5を用いていた。
【0008】
pAU5ベクターは、非特許文献20の中で開発された。pAU5ベクターは、プラスミドpUS973の変化形態である[非特許文献21及び非特許文献22]。このプラスミド(pAU5)は、hsp60プロモータ配列の第1の塩基対の消失と、プロモータ領域のすぐ上流での4つの塩基対の欠失とが原因で、派生元のpUS973に比べて安定性の増加を示していた。
【0009】
これらのrBCGコンストラクトがスイスマウスにマンソン住血吸虫のセルカリアのチャレンジ感染に対する防御を与える能力は、2つの別々の実験で確認された[非特許文献19]。この調査では、高レベル(pAU5ベクターの場合にPL73−Sm14により得られるものより約32倍大きい)のSm14の発現で形質転換されたrBCGコンストラクトは、rBCG/PL73−Sm14コンストラクトを用いて記録されたものと比べて防御レベルの向上につながらなかったことが観察された。さらに、rBCG−/pAU5−Sm14及びrBCGr/pUS977−Sm14株はまた、組換えSm14タンパク質の細胞内位置に関して、rBCG/PL73−Sm14株と異なることに留意することが重要である。具体的には、タンパク質は、rBCG−/pAU5−Sm14の場合には、rBCG/PL73−Sm14の場合に見られるような膜結合融合タンパク質の形態ではなく、細菌細胞質内で産出された。
【0010】
全体的に見ると、これらのデータは、コンストラクトpAU5−Sm14に存在する改変hsp60プロモータによって発現が駆動されるような、rBCGr細胞質内で産出される組換えSm14タンパク質が、住血吸虫症の予防手段(rBCG−/pAU5−Sm14)としての潜在能力を持っているという仮説を支持する。
【0011】
これまでに開発されたプラスミドコンストラクトは全て、アミノグリコシド系抗生物質であるカナマイシンに対する耐性をコード化する遺伝子を含む染色体外環状プラスミドDNA分子に基づくものであった。カナマイシン遺伝子は、これらのコンストラクトに存在し、プラスミドをBCGに導入した後に形質転換菌(形質転換体)を積極的に選択する手段を与える。この遺伝子の2次的機能は、実験ワクチンを作るために用いられるカナマイシンを含む培養液中の細菌の成長中に、プラスミドを確実に維持することである。
【0012】
しかし、抗生物質に対する耐性をコード化する遺伝子の存在は、インビボでのプラスミドの維持のための選択を与えない。さらに、ヒトワクチン接種のために抗生物質への耐性コード化配列を含むプラスミドを持つ組換え型BCGを用いることは、安全上の懸念がある[非特許文献23]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Al-Sherbiny M, Osman A, Barakat R, El Morshedy H, Bergquist R & Olds R (2003). In vitro cellular and humoral responses to Schistosoma mansoni vaccine candidate antigens. Acta Trop. 88: 117-130
【非特許文献2】Capron A, Riveau GJ, Bartley PB & McManus DP (2002). Prospects for a schistosome vaccine. Curr Drug Targets Immune Endocr Metabol Disord. 2: 281-290
【非特許文献3】Pearce EJ (2003) Progress towards a vaccine for schistosomiasis. Acta Trop. 86: 309-313
【非特許文献4】Bergquist NR (2002) Schistosomiasis: from risk assessment to control. Trends Parasitol. 18: 309-314.
【非特許文献5】Bergquist, Feb 2004, http://who.int/tdr/publication/tdrnews/news71/schisto.html)
【非特許文献6】Bergquist R, Al-Sherbiny M, Barakat R & Olds R. (2002) Blueprint for schistosomiasis vaccine development. Acta Trop. 82: 183-192
【非特許文献7】Bergquist NR (1998) Schistosomiasis vaccine development: progress and prospects. Mem Inst Oswaldo Cruz. 93 Suppl 1: 95-101.
【非特許文献8】Vilar, M. M.; Barrientos, F; Almeida, M; Garrat, R; Tendler, M. An Experimental Bivalent Peptide Vaccine against schistosomiasis and Fascioliasis with r-Sm14 peptides. Vaccine, v. 22, p. 137-144, 2003
【非特許文献9】Tendler M, Brito CA, Vilar MM, Serra-Freire N, Diogo CM, Almeida MS, et al. (1996) A Schistosoma mansoni fatty acid-binding protein, Sm14, is the potential basis of a dual purpose anti-helminth vaccine. Proc Natl Acad Sci USA. 93: 269-273.
【非特許文献10】Almeida MS, Torloni H, Lee-Ho P, Vilar MM, Thaumaturgo N, Simpson AJ & Tendler M (2003) Vaccination against Fasciola hepatica infection using a Schistosoma mansoni defined recombinant antigen, Sm14. Parasite Immunol. 25: 135-137
【非特許文献11】Nascimento E, Leao IC, Pereira VR, Gomes YM, Chikhlikar P, August T, et al (2002) Protective immunity of single and multi-antigen DNA vaccines against schistosomiasis. Mem Inst Oswaldo Cruz. 97 Suppl 1: 105-109
【非特許文献12】Pacheco LG, Zucconi E, Mati VL, Garcia RM, Miyoshi A, Oliveira SC, et al., (2005) Oral administration of a live Aro attenuated Salmonella vaccine strain expressing 14-kDa Schistosoma mansoni fatty acid-binding protein induced partial protection against experimental schistosomiasis. Acta Trop. 95: 132-142.
【非特許文献13】Varaldo PB, Leite LC, Dias WO, Miyaji EN, Torres FI, Gebara VC, et al (2004) Recombinant Mycobacterium bovis BCG expressing the Sm14 antigen of Schistosoma mansoni protects mice from cercarial challenge. Infect Immun. 72: 3336-3343
【非特許文献14】Varaldo, P.B., Leite, L.c.c., Dias, W.O., Miyaj, E.N., Armoa, G.R.G., Campos, A.S., Vilar, M.M., McFadden, J., Almeida, M.S., Tendler, M and McIntosh, D. (2006). Mycobacterial codon optimization of the gene encoding the Sm14 gene of Schistosoma mansoni in recombinant Mycobacterium bovis Bacille Calmette-Guerin enhances protein expression but not protection against cercarial challenge in mice. FEMS Medical Microbiology and Immunology, 48, 132-139.
【非特許文献15】Ohara N and Yamada T (2001) Recombinant BCG vaccines. Vaccine. 19: 4089-4098.
【非特許文献16】Mederle I, Bourguin I, Ensergueix D, Badell E, Moniz-Pereira J, Gicquel B & Winter N ( 2002) Plasmidic versus insertional cloning of heterologous genes in Mycobacterium bovis BCG: impact on in vivo antigen persistence and immune responses. Infect Immun. 70: 303-314.
【非特許文献17】Kanekiyo M, Matsuo K, Hamatake M, Hamano T, Ohsu T, Matsumoto S, et al., (2005) Mycobacterial codon optimization enhances antigen expression and virus-specific immune responses in recombinant Mycobacterium bovis bacille Calmette-Guerin expressing human immunodeficiency virus type 1 Gag. J Virol. 79: 8716-8723
【非特許文献18】Kawahara M, Matsuo K, Nakasone T, Hiroi T, Kiyono H, Matsumoto S, et al (2002) Combined intrarectal/intradermal inoculation of recombinant Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG) induces enhanced immune responses against the inserted HIV-1 V3 antigen. Vaccine. 21: 158-166
【非特許文献19】修士論文:Construcao do M. bovis BCG recombinate Sm14r e avaliacao da sua capacidade contra esqistossomose no modelo murino. A.P.C. Argondizzo in 2005, in Oswaldo Cruz Foundation, Rio de Janeiro, Brasil
【非特許文献20】修士論文:Avaliacao da estabilidade estrutural e funcional de vetores plasmidiais recombinantes bifuncionais (Escherichia coli - Mycobacterium) em Mycobacterium bovis BCG, J.P.S Santos in 2002, Oswaldo Cruz Foundation, Rio de Janeiro, oriented by Dr. Douglas McIntosh, visiting researcher of FIOCRUZ and Prof. Walter Martim R. Oelemann, teacher at Universidade Federal de Rio de Janeiro
【非特許文献21】Medeiros, M., Dellagostin, O.A., Armoa, G.R.G, Degrave, W.M., Mendonca-Lima, L., Lopes, M.Q., Costa, J.F., McFadden, J. G.M.B.
【非特許文献22】McIntosh, D. (2002) Comparative evaluation of Mycobacterium vaccae as a surrogate cloning host for use in the study of mycobacterial genetics. Microbiology 148, 1999-2009
【非特許文献23】Burlein JE, Stover CK, Offcut S & Hanson, M.S. (1994) Expression of foreign genes in mycobacteria. Washington DC: ASM Press.
【非特許文献24】Parish, T. & Stoker, N.G. (2000) [Use of a flexible cassette method to generate a double unmarked Mycobacterium tuberculosis tlyA plcABC mutant by gene replacement. Microbiology. 146: 1969-1975
【非特許文献25】Medeiros, M., Dellagostin, O.A., Armoa, G.R.G., Degrave, W.M, Mendonca-Lima, L., Lopes, M.Q., Costa, J.F., McFadden, J. G.M.B., and McIntosh, D. (2002) Comparative evaluation of Mycobacterium vaccae as a surrogate cloning host for use in the study of mycobacterial genetics. Microbiology 148, 1999-2009
【非特許文献26】Borsuk, S., et al. in Auxotrophic complementation as a selectable marker for stable expression of foreign antigens in Mycobacterium bovis BCG, Tuberculosis, Vol. 87, Magazine 6, pp 474-480, published online in September 24 2007
【非特許文献27】Parish, T & Stoker, N.G (2000). Use of a flexible cassette method to generate a double unmarked Mycobacterium tuberculosis tlyA plcABC mutant by gene replacement. Microbiology. 146: 1969-1975
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
抗生物質耐性マーカを持たないBCGにおける異種抗原発現のための、より安定的なプラスミドベクターを開発することができれば、それが望ましいことは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、マンソン住血吸虫のSm14抗原を発現するBCGマイコバクテリウム・ボビスの組換え型ワクチン株に関する。本発明のワクチン株は、寄生虫(特に、マンソン住血吸虫)によって引き起こされる感染症を制御するために用いられる。ワクチン株は、BCGパスツール亜株の遺伝子改変によって得られるロイシン栄養要求性BCG株である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】相補ベクターpUP410の開発の概略を示す図である。
【図2】コンストラクトpAU5−Sm14を鋳型DNAとして発現カセットhsp60−Sm14をPCR増幅した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、マンソン住血吸虫のSm14のインビボ発現に基づき、マンソン住血吸虫及び関連する寄生虫感染症の制御のためのワクチン株を得るための、BCGΔleuD株及び相補ベクターpUP410の使用に関する。
【0018】
本発明の主目的は、選択可能なマーカとして栄養要求性の相補性を用いたBCGにおけるSm14抗原の発現系の作製を通じて達成することができる。本発明に用いた発現系は、「ラテンアメリカにおける反芻動物の支配的な寄生虫病及び流行病のための組換えBCGマルチワクチン及び相補的診断法の開発(Development of recombinant BCG multivaccine and complementary diagnostics for predominant parasitic and epizootic disease of ruminants in Latin America.)」という研究プロジェクトのために、英国サリー大学生物科学学部のジョンジョー・マックファーデン博士(Dr. Johnjoe Mcfadden)及びブラジル国ペロタス連邦大学バイオテクノロジーセンターのオディール・デラゴスティン博士(Dr. Odir Dellagostin)のグループによって開発された。
【0019】
栄養要求性の相補性を用いたこのBCG系の構成要素及び特徴は、アミノ酸であるロイシンに対して栄養要求性であるBCGパスツール株(BCGΔleuD)と、ロイシンに対するBCGの栄養要求性を相補することができるLeuD配列の産物をコード化するプラスミドベクターファミリーである。パリッシュ・T及びストーカーN.G.[非特許文献24]によって報告されている方法を用いて、BCGパスツールのゲノムに存在するLeuD配列の遺伝子置換によって、ロイシンを欠いた培地中で成長することができない栄養要求性BCG株が得られた。相補ベクターは、ベクターpUS77から得られるものであり[非特許文献25]、栄養失調(栄養要求性)の相補体としても、選択可能なマーカとしても働き、pANプロモータによって発現が駆動されるLeuD遺伝子を含む。さらに、これらのベクターは、ベクターへの抗原発現カセットのクローニングを可能にする制限エンドヌクレアーゼのための固有の部位を持ち、また、大腸菌内での選択に必要なカナマイシン耐性遺伝子(制限酵素の消化及びそれに続くBCG形質転換前の再ライゲーションによって除去されることができる)も持っている。インビボと同様にインビトロ(ミドルブルック成長培地7H9ブロスまたは7H10寒天)におけるロイシンの欠如は、rBCGに相補プラスミドを維持させる一定の選択圧を与える。BCGΔleuD株及び一連の相補ベクターを作製するために用いた方法の詳細は、非特許文献26に記載されている。相補ベクターファミリーから得られる相補ベクターpUP410の開発に含まれるステップを図1に示す。
【0020】
図1に表されているステップによれば、pUP410ベクターを得るためのステップは以下の通りである。
−プライマーleuDI(5´-AAT CTA GAA CAG CTA GGG GAT C-3´)及びleuDII(5´TCC TGCA GTT CTA CGC CTC A-3´)を用い、マイコバクテリウム・ボビスBCG P3(ISOGEN)DNAを鋳型として、PCR法により(leuD遺伝子コード配列を獲得し、
−酵素XbaI及びPstIを用いて増幅断片(617bp)を消化し、
−続いて、pUS77プラスミド(非特許文献25)をクローニングしてpUP400と呼ばれるベクターを得る。
【0021】
KpnI酵素[非特許文献27]による消化によってPGOAL19ベクターからhygR遺伝子(1575bp)を得、同じ酵素により消化されたpU400ベクターに結合させた。この手順により、pU401ベクターが得られた。HindIIIによる消化及びその後の再ライゲーションによってカナマイシン耐性遺伝子を除去するために、HindIII部位と酵素PacIに適合する末端とを持つアダプタを合成した。1μgのAdap F(5´GAT ATC AAG CTT AAG ACG CGT TAA3´)及びAdap R(5´TAA CGC GTC TTA AGC TTG ATA TCT A 3´)配列を、1分間煮沸し、その後室温で3時間インキュベートすることによって、ハイブリダイズした。その後、500ナノグラム(ng)のオリゴヌクレオチドを用いて、PacIにより消化されたpUP401ベクター200ngと結合反応させた。ライゲーション産物を70℃で10分間加熱し、すぐに1%アガロースゲル中で電気泳動で分離して切り出し、ゲルから溶出した。1つのハイブリダイゼーションバッファ(10mMのトリス塩酸pH8.5、100mMのNaCl、1mMのEDTA)を溶出したDNAに加え、80℃で5分間加熱した。その後、DNAを3時間かけて室温まで冷まし、5μLを大腸菌TOP10株の形質転換に用いた。HindIIIを用いた消化及びDNA配列決定により、組換えクローンを同定した。結果的に得られたコンストラクトをpUP402と名付けた。その後、Kpn1の消化によってhyg遺伝子を除去し、ベクターpUP410を得た。
【0022】
ここで、幾つかの例を参照しながら本発明について説明する。これらの例は、本発明を限定すると見なされるべきではない。
【0023】
A.ロイシン(BCGrパスツールΔleuD/pΔKan−hsp60−Sm14)を相補する栄養要求性rBCGパスツールの作製
【0024】
ベクターpAU5−Sm14を鋳型として改変hsp60プロモータ及びSm14発現カセットのPCR増幅が行えるように、プライマーPSm14F(TAT ATA TAT ATA TAG GCG CCA CCA CAA CGA CGC GC)及びPSm14R(CGC GGG CGC CTT AGG ATG ATC GTT TAT A)を設計した。PCR(図2)によって得られた816bpアンプリコンを、酵素Nar1を用いて消化し、その後、ベクターpUP410にクローニングして同じ酵素を用いて消化した。DNA配列の解析により、発現カセットが所望の位置で挿入されることが確認された。図2においては、レーン1=マーカφX174RF/HaeIII、レーン2=hsp60−Sm14アンプリコンである。
【0025】
代用クローニング宿主(マイコバクテリウム・バッカエ)において、Sm14抗原を発現するコンストラクトpUP410−hsp60−Sm14の能力を評価した。そのため、カナマイシンを含むプレート上で選択された5つの個別の形質転換体を用いて、培養液を作製し、これを、非特許文献25に記載されているような免疫ブロット法による発現の解析に用いるために処理した。マウスポリクローナル抗Sm14抗血清を使用し、二次抗体としてアルカリホスファターゼ結合抗マウスIgGを使用して、抗原発現を検出した。5つのコロニー全てが、pAU5−Sm14(発現陽性対照)で形質転換されたマイコバクテリウム・バッカエに見られるレベルと等しいレベルでSm14を発現することが分かった。
【0026】
その後、HindIII制限エンドヌクレアーゼによる消化によって、pUP410−hsp60−Sm14からカナマイシン耐性遺伝子を除去し、T4リガーゼを用いてベクターを再環状化することにより、コンストラクトpΔK410−hsp60−Sm14を生じさせ、これを用いてBCGパスツールの栄養要求性株(BCGΔleuD)を形質転換した。得られた形質転換体を、ミドルブルック7H10寒天(ロイシン不含)のプレート上で選択し、カナマイシンの存在下での成長能力をテストした。その後、カナマイシンに敏感な3つの個別の形質転換体がSm14タンパク質を発現する能力の観点からのインビトロ安定性について、ミドルブルック7H9ブロス(ロイシン不含)において60世代後に、及び感染したヒト及びマウスの単球内で10日後に、既に報告されている方法(Varaldo et al, 2002)を用いて評価した。
【0027】
この目的のために、マウスまたはヒトの単球に、コンストラクトpΔK410−hsp60−Sm14でインビトロで形質転換された安定的なBCGの2つのクローンを感染させた。ヘペス10mM、L−グルタミン2mM及び1%のウシ胎児血清が補充されたRPMI1640を培養手段として用い、マクロファージ(1ウェル当たり5×10)を24ウェルのプレート上で前もって培養した。その後、1マクロファージ当たり約10の細菌細胞の感染多重度(MOI:multiplicity of infection)を得るために、細菌単層を、各BCG組換え体に等しいレベルに暴露した。
【0028】
光学顕微鏡法による直接計数に基づいて、対数増殖期に培養液を所望の濃度まで希釈することによって、マイコバクテリアの接種菌液を調製した。マクロファージをBCG組換え体に暴露した4時間後、24時間後、5日後及び10日後に、試料(1培養液当たり6ウェル)を採取した。単層を0.1%のトゥウィーン80とともに蒸留水(1ウェル当たり200μL)に溶解した後で採取し、続いて溶解物を段階希釈し、その後、寒天7H10プレート上または同じ手段にカナマイシンを補充したものに接種した。
【0029】
暴露から4時間後に採取した試料の分析から得たマイコバクテリアの成長のレベルを用いて、相対的な感染能力を計算した。他の点のコロニーを形成する単位(unit)の計数から得た値を用いて、細胞内残留性のレベルを計算した。既に説明されているプロトコル(非特許文献25)に従って、免疫ブロット法によって機能的安定性(抗原Sm14の発現)を解析した。
【0030】
全ての場合において、形質転換体は、pAU5−Sm14(発現陽性対照)で形質転換されたマイコバクテリウム・ボビスBCGに見られるレベルと等しいレベルでタンパク質Sm14を発現することが観察された。従って、非細胞手段と、マウス及びヒトの細胞の培養液との両者において、発現系の安定性が確認された。
【0031】
B.BCGrパスツールΔleuD/pΔKan−hsp60−Sm14は、マンソン住血吸虫のセルカリアのチャレンジ感染からマウスを防御する
【0032】
生きたマンソン住血吸虫のセルカリアからマウスを防御するrBCGパスツールΔleuD/pΔKan−hsp60−Sm14の能力について、2つの別々の実験で評価した。各実験には、各群が2週齢のメスのスイスマウスを10匹含む6つの実験群(表1)を用いた。rBCG−(pΔK21−Sm14)を1用量(1×10cfu=標準量、または1×10cfu=少量)のみ鼻腔内に投与した場合のワクチン接種の有効性を、非特許文献13において既に説明されているように、同様に1用量のrBCG−(pAU5−Sm14)または3用量のrSm14タンパク質(10μgを水酸化アルミニウムとともに)を脚に投与して得られるものと比較した。BCGrに基づくワクチン1用量の投与と同日に、組換えタンパク質の最後の用量を投与した。プロテクションアッセイのために、最初のワクチン接種から30日後(実験1)または60日後(実験2)に、マウスに100匹のマンソン住血吸虫のセルカリアを皮下(sc)チャレンジ感染し、チャレンジ感染から45日後に灌流した。非特許文献9の記載に従って、異なるチャレンジ群における寄生虫体数及び防御レベルを計算した。スチューデントのt検定により、統計的意義を評価した。
【表1】

【0033】
チャレンジ感染の結果を表2に示す。ワクチンを接種された群は全て、対照動物(生理食塩水群)に比べて寄生虫体数の著しい減少を示したことが認められる。この結果は、ワクチン接種の30日後及び60日後共にはっきりしていた。全体として、このデータは、rBCGパスツールΔleuD/pΔKan−hsp60−Sm14が30日間防御免疫応答を誘発することができること、及びこの応答がワクチン接種後60日間有効であることをはっきりと示している。その上、新たなワクチン株は、先行文献の上記記載に従うBCGr/pAU5−Sm14株と同程度に防御性があった。最後に、鼻腔内に投与された1用量(1×10cfu=標準量及び1×10cfu=少量の両者)のBCGrパスツールΔleuD/pΔKan−hsp60−Sm14により達成された防御レベルは、アジュバントとして水酸化アルミニウムを配合した3用量の組換えSm14タンパク質により得られるものと同等の防御レベルを与えることができた。
【表2】

【0034】
ここまでの報告及び説明に従って、本願出願人は、未変性のSm14抗原の発現に基づいて、マンソン住血吸虫及び関連する寄生虫感染の制御のためのワクチン株を得るための、BCGパスツールΔleuD株及び相補ベクターpΔK410−hsp60−Sm14の有効性を確認している。
【0035】
本明細書に記載の発明及び上記した態様は、可能な実施形態と考えられるものである。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、当業者は、本明細書において紹介したいかなる特定の特性も、本発明の理解を容易にするための説明にすぎないと理解されるべきであることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンソン住血吸虫Sm14タンパク質を発現するアミノ酸であるロイシンを相補する組換え型栄養要求性BCGパスツール株(rBCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14)であって、
(a)pAU5−Sm14ベクターを鋳型として、プライマーPSm14F(TAT ATA TAT ATA TAG GCG CCA CCA CAA CGA CGC GC)及びPSm14R(CGC GGG CGC CTT AGG ATG ATC GTT TAT A)を用いて、改変hsp60プロモータを含むSm14発現カセットを含む断片をPCR増幅し、
(b)PCRによって得られた816bpのアンプリコン(hsp60−Sm14)を、Nar1酵素を用いて消化し、
(c)前記Nar1酵素により消化されたpUP410ベクター内の前記hsp60−Sm14アンプリコンをクローニングしてコンストラクトpUP410−hsp60−Sm14を作製し、
(d)前記コンストラクトpUP410−hsp60−Sm14がマイコバクテリウム・バッカエにおいてSm14タンパク質を発現する能力を評価し、
(e)制限エンドヌクレアーゼHindIIIによる消化によって、前記pUP410−hsp60−Sm14からカナマイシンに耐性を持つ遺伝子を除去し、
(f)カナマイシンをコード化する遺伝子なしで前記pUP410−hsp60−Sm14コンストラクトを再環状化することによって、栄養要求性BCGパスツール株(BCGΔleuD)を形質転換するために用いられるpUP410−hsp60−Sm14コンストラクトを作製し、マンソン住血吸虫Sm14タンパク質を発現するアミノ酸であるロイシンを相補する組換え型栄養要求性BCGパスツール株(BCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14)を作製することによって得られる、BCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14株。
【請求項2】
マンソン住血吸虫などの寄生虫によって引き起こされるヒトの感染症を制御するための、請求項1に記載のBCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14株の使用。
【請求項3】
肝蛭によって引き起こされる動物の感染症を制御するための、請求項1に記載のBCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14株の使用。
【請求項4】
結核菌による感染症を制御するための、請求項1に記載のBCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14株の使用。
【請求項5】
新生物を制御するための、請求項1に記載のBCGパスツールΔleuD/pΔK410−hsp60−Sm14株の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−519496(P2012−519496A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553235(P2011−553235)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/BR2010/000065
【国際公開番号】WO2010/102363
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511219537)
【Fターム(参考)】