説明

組立ボードに対するねじ保持力を補強したインサートナット

【課題】 発泡樹脂素材やハニカムコア等、比重が小さく硬度も小さい素材を採用した軽量組立ボードに対して、場所を選ばずに打ち込むことで大きなねじ保持力が得られるインサートナットを提供する。
【解決手段】 鍔状の頭部120を備えた筒状のナット本体110と、ナット本体110の内周に設けた雌ネジ部130と、ナット本体110の外周に設けたネジ山140を備えたインサートナット100において、ネジ山140をナット本体110に対して軸対称に設けた多数枚の板状体140とし、少なくとも板状体140のうち最も頭部120に近いものをナット本体110に対して斜めに取り付けている。ナット本体110を回転させると、頭部120に近い板状体140−1と頭部120との間隔が狭まり、被締結対象物を頭部120の下面と頭部に近い板状体140−1の上面の間で挟んで締め上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂素材やハニカムコアなどの紙素材を芯材として使用した軽量化組立ボードに対して埋設するインサートナットであって、組立ボーのどこにねじを打っても適度なねじの保持力が得られる構造的強度を補強せしめたインサートナットに関する。組立ボードとしては表面の化粧板に木材を使用した木材ボード、表面の化粧板に金属板を使用した金属板ボードなどがあり、家具や住居の内装建材等に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
従来、机や棚などの木製家具や住居の内装建材等に使用される板状材料として木材ボードが広く使用されている。無垢木材の代替品となる木材ボードとしてパーティクルボードがある。
パーティクルボードは、端材などの材木をチップ化し、合成樹脂のバインダーを加えて加熱圧縮成形して板状としたものである(例えば、特開平07−47514号公報)。また、木材小片に代えてウレタンなどの発泡素材を芯材として表面に化粧板を貼り合わせたパーティクルボードも知られている(例えば、特開平07−178708号公報)。パーティクルボードは、表面に貼られた木質を活かしながら、無垢の木材や合板等に比べて比較的安価ではあるとともに密度が小さいため軽量化されているという利点がある。そのために机や棚などの木製家具や住居の内装建材等に使用される板状材料として広く普及している。
【0003】
これらの木材ボードを用いて木製の家具や棚などを組み立ててゆく際、一片の木材ボードと他の木材ボードを連結・接合する方法としては、ねじ打ち、連結金具など種々の方法がある。
【0004】
ネジによる2以上の部材の締結においては、被締結部材にねじを締め込むための雌ネジが形成されることが一般的である。
しかし、上記のような従来のパーティクルボードでは、無垢の木材や合板等に比べて密度が低く、ねじの保持力が低いという問題があった。パーティクルボードの芯材は、発泡樹脂素材を板状体に形成したものや、木質小片や熱硬化性樹脂のバインダーで結合させて板状体に形成したものなどが使用されているため、天然の木材に比べどうしても摩擦力に欠け、ネジを打ち込む部材部材がパーティクルボードなどの発泡樹脂材等の軟質材で成る場合には、十分なネジ保持力が確保できない。
【0005】
そのため芯材部分に何の補強もしないでネジ部材を固定すると、結局、表面の化粧板のみが集中的に荷重を支えることとなる。パーティクルボードを貫通して接合ネジを打ち込む場合、裏面側の化粧板にもネジ部材が固定でき、表裏両方の化粧板で荷重を支えることができるが、パーティクルボードの接合には、美観上の条件から接合ネジを貫通させずに表面にネジなどの金具を露出させないよう接合するというニーズがある。この場合、プラスチック発泡材である芯材はそれ自体の機械的強度が低いため、芯材に対してネジ部材を固定しようとしても、荷重の分散にはならない。
【0006】
上記の点を考慮して化粧板を厚くしたり、また、発泡樹脂などの芯材の密度を高くしたりするとコストを大幅に引き上げてしまうことになる。もし、化粧板全面ではなく、ネジ部材の取付け位置の周辺のみについて部分的に厚みを大きくする工夫をする場合、パーティクルボードの切断箇所や切断形状が限定されてしまい、汎用性がなくなってしまう。
【0007】
従来技術において、合板などに打ち込むネジの保持力を補強する技術として、被締結部材に直接ネジを打ち込まずに、被締結部材に金属製またはアルミ、真鍮等の非金属製のインサートナットやブラインドナットを固定し、これを雌ネジとして雄ネジを螺合してゆくという技術がある。
【0008】
例えば、従来のインサートナット(実開平06−29022号公報)は、図11に示すように、内周部に雌ネジ101が形成された円筒形状を成し、その外周面にローレット目102が刻設されているものが一般的である。このインサートナット100は、組立ボードに形成された穴に圧入され、外周面のローレット目102が組立ボードに食い込むことによって組立ボードに固定される。インサートナットとは、このように内周面に雌ねじが形成されており、外周面には組立ボードへ噛み込む多数のローレット目が形成されている。
【0009】
なお、熱可塑性の材料で構成される組立ボードにインサートナット100を圧入する場合には、インサートナット100を予め高温に加熱しておいてから圧入することも行われる。これにより、圧入時に組立ボードがインサートナットの圧入にともなって溶融し、これがローレット目に流入するため、被締結部材再凝固後の被締結部材とインサートナット100との結合が強固になる。
【0010】
【特許文献1】特開平07−47514号公報
【特許文献2】特開平07−178708号公報
【特許文献3】実開平06−29022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、発泡樹脂素材やハニカムコア等を芯材とするパーティクルボードに対して従来のインサートナットやブラインドナットを利用するには以下の問題がある。
【0012】
まず、実開平06−29022号公報に記載した従来のインサートナットでは、発泡樹脂素材やハニカムコア等を芯材とするパーティクルボードに対してはネジ保持力が大きく得られないという問題がある。従来のインサートナットは外周面360度にわたって複数列のローレット目が組立ボードに食い込むことによって組立ボードに固定される。そのためにはローレット目が触れる芯材すべてに対してネジ保持力が得られることが前提となるが、発泡樹脂素材等を芯材とするパーティクルボードでは発泡樹脂素材やハニカムコアの硬度が低いためローレット目との間に大きなネジ保持力が発生しない。実際には、化粧板と接するローレット目部分しかネジ保持力が得られないこととなる。また、図12に示すように化粧板と接するローレット目部分が小さく、摩擦力得られる範囲が狭く、ネジが逆回りして緩んでしまうおそれも高くなる。
【0013】
上記問題点に鑑み、本発明は、発泡樹脂素材やハニカムコア等、比重が小さく硬度も小さい素材を採用した軽量組立ボードに対して、場所を選ばずに打ち込むことで大きなねじ保持力が得られるインサートナットを提供することを目的とする。軽量組立ボードの使用目的は多様であり、例えば、机や棚などの木製家具や金属製家具などの組立部材として使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のインサートナットは、鍔状の頭部を備えた筒状のナット本体と、前記ナット本体の内周に設けた雌ネジ部と、前記ナット本体の外周に設けたネジ山と、前記頭部上面に設けたドライバーの差込口を備えたインサートナットにおいて、前記ネジ山が前記ナット本体の外周に設けた多数枚の板状体であり、少なくとも前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体が、その長辺方向の軸が前記鍔状の頭部の裏面に対して平行かつその上面が前記鍔状の頭部の裏面に対して斜めとなるように取り付けられたことを特徴とするものである。
【0015】
上記構成において、例えば、前記鍔状の頭部の裏面が前記ナット本体の軸に対して直角に設けられているものであれば、前記ナット本体を回転させると、前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体と前記鍔状の頭部との間隔が狭まり、被締結対象物を前記鍔状の頭部の下面と前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体の上面の間で挟んで締め上げるものとなる。
【0016】
従来のインサートナットは複数のねじ山が被締結対象物に埋設され、それぞれが歯として立って摩擦力が増すためにネジ保持力が生まれるわけであるが、本発明のインサートナットは、上記構成により、少なくとも最も鍔状の頭部に近い板状体は、鍔状の頭部の下面と当該板状体の上面との間で被締結対象物を挟んで締め上げるものであり、ここに、鍔状の頭部の下面と被締結対象物、および、当該板状体の上面と被締結対象物との間に大きな摩擦力が発生し、その結果、大きなネジ保持力が発生するものである。
一方、従来のインサートナットなどのネジ類ではネジを被対象物の奥方に打ち込みやすいように鍔状の頭部に近いネジ山の高さはきわめて低くなっており、鍔状の頭部の下面と最も鍔状の頭部に近いネジ山の上面との間で被締結対象物を挟んで締め上げる構造とはなっていない。
【0017】
また、さらに、上記構成において、前記ナット本体の軸から前記板状体の外周方向先端にかけての前記インサートナットの断面において、前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体の断面における上辺と前記鍔状の頭部の断面の下辺が略平行であることが好ましい。典型的には、両者とも水平な辺である。
【0018】
上記に説明したように、鍔状の頭部の下面と被締結対象物、および、当該板状体の上面と被締結対象物との間に大きな摩擦力が発生するわけであるが、上記の関係であれば、前記ナット本体に近い内周側も前記ナット本体から遠い外周側も鍔状の頭部の下面と当該板状体の上面の間の距離が等間隔となり、摩擦が発生する面積が最大化される。
【0019】
ここで、上記構成は、鍔状の頭部と最も当該頭部に近い板状体との関係であるが、他の複数枚の板状体についても同様の構造とすることができる。
つまり、前記多数枚の板状体が、前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体と、前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体が交互に並べられたものとし、前記ナット本体を回転させると、前記板状体のうち前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体と、前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体との間隔が狭まり、前記被締結対象物を、各々の前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体の上面と前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体の下面の間で締め上げるものとすれば良い。
【0020】
上記構成とすれば、複数の箇所において被締結対象物を強く挟んで締め上げて大きな摩擦力が発生することとなり、インサートナット全体として大きな摩擦力が発生し、ネジ保持力が大きくなる。
【0021】
また、上記同様、被締結対象物を挟んで締め上げる面積を最大化するために、前記ナット本体の軸から前記板状体の外周方向先端にかけての前記インサートナットの断面において、前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体の断面における上辺が、前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体の断面の下辺と略平行である構成とすることが好ましい。
【0022】
なお、本発明のインサートナットが適用される組立ボードは多様な製品組立に利用され得る。軽量木材ボードの場合、例えば、組立式の木製家具などの組立ボードとして適用することができる。また、軽量金属ボードとして提供する場合、例えば、組立式のスチール家具などの組立ボードとして適用するこができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の組立ボードによれば、少なくとも最も鍔状の頭部に近い板状体は、鍔状の頭部の下面と当該板状体の上面との間で被締結対象物を挟んで締め上げるものとなり、鍔状の頭部の下面と被締結対象物、および、当該板状体の上面と被締結対象物との間に大きな摩擦力が発生し、その結果、大きなネジ保持力が発生するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の組立ボードの実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例1に係るインサートナット100について説明する。例として、板状体のうち最も鍔状の頭部に近い板状体がナット本体に対して斜めに取り付けられ、他の板状体はすべて水平である構成例とする。
【0026】
図1は、本発明の実施例1に係るインサートナット100の構成例を模式的に示す図である。図1(a)は斜視図、図1(b)は平面図、図1(c)は正面図、図1(d)は右側面図を示している。
【0027】
図1に示すように、インサートナット100は、ナット本体110、頭部120、頭部上面に設けた六角ドライバーの差込口121、雌ネジ部130、ネジ山である板状体140を備えたものとなっている。インサートナットの素材は金属や硬質プラスチックなど限定されないが、例えばステンレス鋼とする。
【0028】
ナット本体110は、この構成例では円筒体である。この構成例では図1(b)に示すように径がR1となっている。
【0029】
頭部120は、ナット本体110の上面に設けられ、鍔状の形状となっている。この構成例では、図1(b)に示すように、径がR2となっている。ここで、頭部120の径R2はナット本体110の径R1よりも大きく、R1<R2の関係となっている。
【0030】
頭部120の上端面には六角ドライバーの差込口121が設けられており、差込口121に対して六角ドライバーの突起部分を差し込むことで嵌合させて回すことによりインサートナット100全体に回転運動を伝導する。図1の構成例では、差込口121の形状は六角穴形状となっており六角ドライバーに合致するものとなっているが、マイナスドライバーに合致する差込口121の形状であればマイナス形状、プラスドライバーに合致する差込口121の形状であればプラス形状にする必要がある。
【0031】
雌ネジ部130は、ナット本体110の内周に設けられた螺旋状の雌ネジであり、インサートナット110を組立ボード200に取り付けた後、ボルトに相当する接合ネジを受け入れる部分となる。
【0032】
ネジ山である板状体140は、ナット本体110の外周に設けたネジ山であり、図1の構成例では、ナット本体110に対して軸対称に4枚ずつの板状体が設けられた例となっている。ここでは各々の板状体140に対して、上段から140−1、140−2、・・・、140−8とする。なお、左右の板状体140が軸を中心に180度開いた関係に限定されるものでなく、軸を中心に170度開いた関係なども除外するものではない。
【0033】
なお、この構成例では板状体140の長さは従来の鬼目ナットなどに見られるインサートナットのねじ山に比べて長いものとなっており、図1(b)に示すように左右の板状体140の端部から端部までの間隔はR3となっている。板状体140の端部から端部までの間隔R3が大きくなると組立ボード200に組み込んだ場合、芯材に対して食い込む長さが大きくなり、より大きな摩擦力が得られるという効果がある。
なお、頭部120の径R2は、左右の板状体140の端部から端部までの間隔はR3と同一または少し大きく、R2≧R3という関係となることが好ましい。後述するように組立ボード200への取り付け時には、組立ボード200には左右の板状体140の大きさに対応したインサートナット100取り付け用の穴240(長辺が略R3の長さ)を開けるが、頭部120の径R2の方がR3より大きいものであれば、インサートナット100を取り付けることにより頭部120によりインサートナット100取り付け用の穴240が完全に隠されることとなり、審美性を損なうことがないからである。
【0034】
ここで、図1(a)の側面図に示すように、板状体140のうち最も上段、つまり鍔状の頭部に近い板状体140−1、140−2の2枚が、その長辺方向の軸が鍔状の頭部の裏面に対して平行かつその上面が鍔状の頭部の裏面に対して斜めとなるようにナット本体110に対して取り付けられている。
【0035】
なお、ここで、“板状体140がナット本体110に対して斜めに取り付けられている”状態とは、図1(d)に示されているように、板状体140のナット本体110への取り付け軸がナット本体110の軸に対して直交する方向で、さらにその取り付け軸を中心に回転させて斜めになるように取り付けることをいう。つまり、板状体はナット本体110から横方向に水平に設けられた状態から、図1(d)に示すように、その取り付け軸Aを回転軸としてやや斜め方向に回転させたものとなっている。
このように、最も上段の板状体140−1、140−2が、ナット本体110に対して斜めに取り付けられていることにより、以下の原理により大きな摩擦力が得られるというメリットが得られる。
【0036】
図2は、図1の構成のインサートナット100を回転させた場合の動作を模式的に示した図である。差込口121に差した六角ドライバー(図示せず)を回すと、インサートナット100全体が回転する。実際には、六角ドライバーでインサートナット100を回転させると、インサートナット100がネジ打ちの進行方向(図中の下方向)へ次第に移動していくが、ここでは、インサートナット100の回転方向の動作が分かりやすいように、インサートナットがネジ打ちの進行方向への移動を省略し、回転方向の動作のみを採り上げて説明する。
【0037】
まず、頭部120は水平に設けられた鍔であるので、特に上下することなく、その場で回転するのみである。つまり、鍔状の頭部120の下面は水平面を保ったままである。
【0038】
次に、板状体140のうち最も上段にある板状体140−1、140−2は、ナット本体110に対して斜めに取り付けられているので、鍔状の頭部120の下面と最も上段にある板状体140−1の上面との間に挟まれた組立ボードの中板は、図2(a)から図2(b)に示すように、回転角が大きくなるにつれ、次第に板状体140−1の上面と頭部120の下面との間隔Lが狭まるように締め上げられる事が分かる。つまり、六角ドライバーによるインサートナット100のネジ打ちが進み、上段の板状体140−1、140−2が組立ボード200の芯材の中に埋まるまで進むと図2(a)から図2(b)の状態が進み、組立ボードの芯材に対して食い込んでいく。組立ボード200の芯材はパーティクルボード等であると発泡樹脂素材や紙素材のハニカムコアなどであるので硬度は小さいので板状体140−1の上面と頭部120の下面から上下に圧迫されて挟まれて締め上げられ、潰れて行くことにより次第に密度・硬度が大きくなってゆく。このように、板状体140−1の上面と頭部120の下面は芯材から大きな抗力を受け、板状体140−1の上面と芯材、頭部120の下面と芯材の間に極めて大きな摩擦力が発生することとなる。このように大きな摩擦力が得られると、インサートナット100の組立ボード200内でのネジ保持力が大きく得られることとなる。
【0039】
次に、摩擦力の得られる面積を増やす工夫について説明する。
図3は、ナット本体110の軸から板状体140の外周方向先端にかけてのインサートナット100の断面を示す図である。図3(a)に示すように、ナット本体110の軸から板状体の外周方向先端にかけてのインサートナット100の断面において、板状体140−1の断面における上辺と、頭部120の断面の下辺が略平行となっている。図3(a)の例では、板状体140−1、板状体140−2の断面、頭部120の断面とも略長方形である。
【0040】
上記の図2に示したように、鍔状の頭部120の下面と被締結対象物、および、板状体120−1の上面と被締結対象物との間に大きな摩擦力が発生するわけであるが、このように板状体140−1の断面における上辺と、頭部120の断面の下辺が略平行であれば、ナット本体110に近い内周側もナット本体110から遠い外周側も鍔状の頭部120の下面と板状体140−1の上面の間の距離が等間隔となり、図3(b)に示すように、ナット本体110に近い内周側からナット本体110から遠い外周側まですべての辺において摩擦が発生するため、摩擦力発生面積が最大化される。もし、インサートナット100の断面において、板状体140−1の断面における上辺と頭部120の断面の下辺が略平行でない場合、例えば、図3(e)に示すように、ナット本体110に近い内周側の間隔が狭く(高さが低く)、ナット本体110から遠い外周側の間隔が広く(高さが高く)なっている場合、図3(f)に示すように、摩擦力がナット本体110に近い内周側に大きく発生するが、ナット本体110に遠い外周側にはあまり発生しないこととなってしまう。つまり、図3(e)に示す断面の場合は、摩擦力が発生する箇所が図3(f)に示すように“点”であるのに対して、図3(a)に示す断面の場合は、摩擦力が発生する箇所が図3(b)に示すように“面”となり、摩擦力発生面積が大きくなる。
【0041】
なお、図3(c)に示すように断面が三角形や台形であっても、板状体140−1の断面における上辺と、頭部120の断面の下辺が略平行(この例ではいずれも水平)であるので、摩擦力が発生する箇所が、図3(d)に示すように“面”となり、摩擦力発生面積が大きくなることが分かる。
【0042】
次に、本発明のインサートナット100を組立ボード200に取り付ける例を通して、本発明のインサートナット100の動作を説明する。本発明のインサートナットが適用される組立ボードは、特に限定なく多様な製品組立に利用され得る。軽量木材ボードの場合、例えば、組立式の木製家具などの組立ボードとして適用することができる。また、軽量金属ボードとして提供する場合、例えば、組立式のスチール家具などの組立ボードとして適用するこができる。一例として、組立ボードは木製家具用の組立ボード200として説明する。
【0043】
図4は、本発明の実施例1の組立ボード200の構成例を模式的に示す図である。図4(a)が外観斜視図、図4(b)は組立ボード200の断面図、図4(c)は平面図を示している。図4(b)に示すように、芯材となる中板230と、中板の表面に接着する第1の化粧板210と、中板230の裏面に接着する第2の化粧板220とを備えた構造となっている。
【0044】
第1の化粧板210および第2の化粧板220は、この例では綺麗に表面加工された木材であり、例えば、木材家具の表面を形成するものである。
【0045】
中板230は、組立ボードの中央部分を占める芯材であるが、図4の構成例では、芯材となる中板230は、木材よりも比重と硬度が小さい素材、例えば、発泡樹脂素材が選ばれている。発泡樹脂素材は圧に対して或る程度の剛性を持つが比重が小さく軽いため、芯材である中板230を発泡樹脂素材とすることにより、組立ボード200全体として重量が軽くなるという効果が得られる。
【0046】
図4(c)の平面図に示すように、組立ボード200にはインサートナット100取り付け用の穴240が開けられている。この構成例では略長方形の穴が設けられており、横の長さが略R3、縦の長さが略R4となっている。このように穴240の形状と大きさは、インサートナット100の板状体140の形状と大きさに対応するものとなっている。なお、図4(c)および図5(a)に示した例では、さらに穴240の中心部分にナット本体110に対応する穴も開けた形となっている。つまり、板状体140とナット本体110の外周を結ぶような輪郭の形に穴240が開けられている。このように中央部分にナット本体110に対応する形の穴があれば、インサートナット100を差し込む際に中心が定まりやすくなる。
【0047】
図5は、図4の組立ボード200の穴240にインサートナット100を埋め込んで頭部の差込口121に六角ドライバー(図示せず)を差し込んで回動させ、ネジ打ちする様子を示す図である。
【0048】
まず、図5(a)から図5(b)に示すように、組立ボード200の穴240にインサートナット100を埋め込む。穴240の形状と大きさはインサートナット100の板状体140の形状と大きさに対応しているので、頭部120の鍔が化粧板210に当接するまで嵌入する。
【0049】
次に、図5(c)に示すように、頭部の差込口121に六角ドライバー(図示せず)を差し込んで回動させる。ここでは、略90度回転させたものとなっている。図5(c)のようにインサートナット100を回転させると、上記した図3に示したように、発泡樹脂素材等の芯材が板状体140−1の上面と頭部120の下面から上下に圧迫されて挟まれて締め上げられ、次第に密度・硬度が大きくなってゆき、板状体140−1の上面と芯材、頭部120の下面と芯材の間に極めて大きな摩擦力が発生することとなる。
【実施例2】
【0050】
実施例2として、実施例1に示した頭部120と上段の板状体140−1、140−2との関係を他の複数枚の板状体についても適用し、複数個所において大きな摩擦力を得るようにした構成例を示す。
【0051】
図6は、本発明の実施例2に係るインサートナット100aの構成例を模式的に示す図である。図6に示すように、インサートナット100aは、ナット本体110、頭部120、差込口121、雌ネジ部130、ネジ山である板状体140を備えた点は実施例1の図1と同様であるが、板状体140の配設状態が異なっている。図1の例では、最も上段の板状体140−1、140−2が、ナット本体110に対して斜めに取り付けられていたが、実施例2のインサートナット100aでは、ナット本体110に対して斜めに取り付けられた板状体140と、ナット本体110に対して略直角に取り付けられた板状体140が交互に並べられたものとなっている。図6の例では、最上段の140−1、140−2がナット本体110に対して斜めに配設され、2段目の140−3、140−4がナット本体110に対して略直角に配設され、3段目の140−5、140−6がナット本体110に対して斜めに配設され、4段目の140−7、140−8がナット本体110に対して略直角に配設された例となっている。
【0052】
図7は、図6の構成のインサートナット100aを回転させた場合の動作を模式的に示した図である。インサートナット100aを回転させると、回転角が大きくなるにつれ、実施例1で示した図2と同様、最上段の板状体140−1、140−2の上面と頭部120の下面との間隔Lが狭まるように動作するが、図7の例では、ナット本体110に対して斜めに取り付けられた板状体140−5、140−6の上面と、ナット本体110に対して略直角に取り付けられた板状体140−3、140−4の下面との間隔Lが狭まり、組立ボード200の芯材を締め上げるものとなる。
【0053】
つまり、実施例1の構成に比べ、複数の箇所(ここでは2カ所)において組立ボードの芯材を強く挟んで締め上げて大きな摩擦力が発生することとなり、インサートナット100a全体として大きな摩擦力が発生し、ネジ保持力が大きくなるという効果が得られる。
【0054】
また、実施例1と同様、組立ボードの芯材を挟んで締め上げる面積を最大化する工夫をすることができる。
図8は、ナット本体110の軸から板状体140の外周方向先端にかけてのインサートナット100aの断面を示す図である。図8(a)に示すように、ナット本体110の軸から板状体の外周方向先端にかけてのインサートナット100aの断面において、板状体140−1の断面における上辺と、頭部120の断面の下辺が略平行となっている。また、板状体140−5の断面における上辺と、板状体140−3の断面における下辺が略平行となっている。図8(a)の例では、板状体140−1の断面、板状体140−3、板状体140−5、頭部120の断面とも略長方形である。
【0055】
図8に示したように、ナット本体110に近い内周側もナット本体110から遠い外周側も、鍔状の頭部120の下面と板状体140−1の上面の間の距離L、板状体140−3の断面における下面と板状体140−5の断面における上面の間の距離Lがそれぞれ等間隔となり、図8(b)に示すように、ナット本体110に近い内周側からナット本体110から遠い外周側まですべての辺において摩擦が発生するため、摩擦力発生面積が最大化される。
【0056】
インサートナット100aを回転させると、組立ボード200の発泡樹脂素材等の芯材が頭部120の下面と板状体140−1の上面、また、板状体140−3の下面と板状体140−5の上面から上下に圧迫されて挟まれて締め上げられ、次第に密度・硬度が大きくなってゆき、頭部120の下面と芯材、板状体140−1の上面と芯材、板状体140−3の下面と芯材、板状体140−5の上面と芯材の間に極めて大きな摩擦力が発生することとなる原理は実施例1と同様に理解されよう。
【実施例3】
【0057】
実施例3は、組立ボードとして、出願人の別の発明にかかる新規な多層構造を備え、軽量化を図った組立ボード200aに対して、本発明のインサートナット100aを用いた取り付け例を説明する。なお、この実施例3で説明する組立ボード200aは、本願出願時点ではまだ未公開である新規な発明品である。
【0058】
実施例3の組立ボード200aは、中板230が多層化されており、そのうち少なくとも一層は、中板230の芯材Aの比重と硬度よりも大きな比重と硬度を持つ補強板Bが設けられた構成となっている。図9の構成例では、中板230は、表面側から第1層231、第2層232、第3層233の3層構造を備えた構造となっており、第1層231と第3層233が芯材A、第2層が補強板Bとなっている例である。
【0059】
ここで、図9の構成例では、芯材Aは、例えば、発泡樹脂素材が選ばれ、補強材Bは、芯材Aよりも比重と硬度が大きい素材、例えば、木材が選ばれている。 つまり、実施例1の組立ボード全体としては、全体として、第1の化粧板210および第2の化粧板220のために木質ボードとしての高級感を持つとともに、中板230内の第1層231と第3層の発泡樹脂素材のために全体が軽量化されるとともに、中板230内の第2層232の木材のためにねじ接合保持力が大きく得られる。
【0060】
実施例2の構成例では、頭部120の下面と板状体140−1の上面の間に挟まれる中板230の芯材Aは第1の化粧板210とともに挟まれるため、構造的強度が大きくなっているが、板状体140−3の下面と板状体140−5の上面に挟まれる部材は芯材Aのみであるため、上下に圧迫されて挟まれて締め上げられ、次第に密度・硬度が大きくなってゆく過程で上下に潰れて行くため、破壊されないように注意が必要であるが、実施例3の構成では、中板230の中に補強板(この例では第2層232)が存在し、補強板が設けられている深さが板状体140−3の下面と板状体140−5の上面に位置するようにしておけば、図10に示すように、インサートナット100aを回転させて板状体140−3の下面と板状体140−5の上面の間の被締結対象物を締め上げて行く際に、発泡樹脂素材である芯材Aとともに板材である補強板Bが併せて挟まれることとなり、化粧板210と同様、構造的強度が大きくなる。
【0061】
つまり、図10に示すように、第1の化粧板210の厚みがD0、中板230の第1層231の厚みがD1、第2層232の厚みがD2、第3層233の厚みがD3、第2の化粧板220の厚みがD4とし、インサートナット100aにおいて、頭部120から板状体140−3の下面までの距離がL3、板状体140−5の上面までの距離がL4とすると、両者の間に以下の関係が成立すれば良い。
【0062】
L3<D0+D1,D0+D1+D2<L4
【0063】
上記の関係にあれば、インサートナット100aを回転させて板状体140−3の下面と板状体140−5の上面の間の被締結対象物を締め上げて行く際に、発泡樹脂素材である芯材Aとともに板材である補強板Bが併せて挟まれることとなる。
【0064】
なお、インサートナット100aを組立ボード200aの表面側から打ち込んでも裏面側から打ち込んでもいずれも打ち込まれた接合ねじの保持力を得られるように工夫するためには、第3層33の厚さD3、第2の化粧板20の厚さD4と、頭部120から板状体140−3の下面までの距離がL3、板状体140−5の上面までの距離がL4との関係も以下に示すような関係に調整しておく必要がある。
【0065】
L3<D4+D3,D4+D3+D2<L4
【0066】
以上、表裏を区別してインサートナット100aを打つものであれば、第1の化粧板10の厚さD0と第2の化粧板の厚さD4が異なる大きさであっても良く、第2層32の第1の化粧板10からの距離(深さ)の調整を行えば良い(つまり、組立ボード200が上下対称形でなくとも良い)が、表裏区別せずにインサートナット100aを打つものであれば、第1の化粧板10の厚さD0と第2の化粧板の厚さD4が同じ大きさ、中板30の第1層31の厚さD1と第3層33の厚さD3が同じ大きさとする必要があり、第2層32の表面からの距離(深さ)と裏面からの距離(深さ)が同じとするように調整を行うこととなる(つまり、組立ボード200が上下対称形となる)。
【0067】
なお、組立ボード200は図9に示すように、平板で層状の平板であるため、組立ボード200を切断する箇所やインサートナット100aをねじ打ちする箇所は特に限定されない。つまり、設計に応じて切断して部材の形を整え、組み立て時に自由自在な箇所を選んでインサートナット100aを打ち込めば、図10の関係が満たされるものとなっている。
【0068】
なお、上記構成例では、中板230の芯材Aが発泡樹脂素材であり、第1の化粧板および第2の化粧板が木材である例であるが、他の構成例、例えば、第1の化粧板210および第2の化粧板220が金属板、中板230の芯材Aが発泡樹脂素材、補強板Bが金属板であり、軽量金属板ボードとして提供される組立ボード200aや、第1の化粧板および第2の化粧板が木板、中板230の芯材Aが紙素材のハニカムコア、補強板Bが木材であり、軽量木材ボートとして提供される組立ボード200bなどの構成であっても、本発明のインサートナット100aを適用することは可能である。
【0069】
第1の化粧板210、中板230の第1層231、第2層232、第3層233、第2の化粧板220の各々の厚みとインサートナット100aの板状体の深さの関係については、実施例3で考察した関係を満たせば良い。
【0070】
以上、本発明の組立ボードの構成例における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のインサートナットは、組み立て木製家具や組み立てスチール家具など、一般需要者が組み立てる部材である組立ボードの接合部材として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施例1に係るインサートナット100の構成例を模式的に示す図
【図2】実施例1に係るインサートナット100を回転させた場合の動作を模式的に示した図
【図3】ナット本体110の軸から板状体140の外周方向先端にかけてのインサートナット100の断面を示す図
【図4】本発明の実施例1の組立ボード200の構成例を模式的に示す図
【図5】組立ボード200の穴240にインサートナット100を埋め込んでネジ打ちする様子を示す図
【図6】本発明の実施例2に係るインサートナット100aの構成例を模式的に示す図
【図7】図6の構成のインサートナット100aを回転させた場合の動作を模式的に示した図
【図8】ナット本体110の軸から板状体140の外周方向先端にかけてのインサートナット100aの断面を示す図
【図9】実施例3の組立ボード200aの構成例を模式的に示す図
【図10】出願人の別の発明にかかる新規な多層構造を備えた組立ボード200aに対して、本発明のインサートナット100aを用いた取り付け例を説明する図
【図11】従来のインサートナット(実開平06−29022号公報)を示す図
【符号の説明】
【0073】
100 インサートナット
110 ナット本体
120 頭部
121 ドライバーの差込口
130 雌ネジ部
140 板状体
200 組立ボード
210 第1の化粧板
220 第2の化粧板
230 中板
231 第1層
232 第2層
233 第3層
200 接合ネジ
240 取り付け用の穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍔状の頭部を備えた筒状のナット本体と、前記ナット本体の内周に設けた雌ネジ部と、前記ナット本体の外周に設けたネジ山と、前記頭部上面に設けたドライバーの差込口を備えたインサートナットにおいて、
前記ネジ山が前記ナット本体の外周に設けた多数枚の板状体であり、少なくとも前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体が、その長辺方向の軸が前記鍔状の頭部の裏面に対して平行、かつ、その上面が前記鍔状の頭部の裏面に対して斜めとなるように取り付けられたことを特徴とするインサートナット。
【請求項2】
前記鍔状の頭部の裏面が前記ナット本体の軸に対して直角に設けられており、前記ナット本体を回転させると、前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体と前記鍔状の頭部との間隔が狭まり、被締結対象物を前記鍔状の頭部の下面と前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体の上面の間で挟んで締め上げることを特徴とする請求項1に記載のインサートナット。
【請求項3】
前記ナット本体の軸から前記板状体の外周方向先端にかけての前記インサートナットの断面において、前記板状体のうち最も前記鍔状の頭部に近い前記板状体の断面における上辺と前記鍔状の頭部の断面の下辺が略平行であることを特徴とする請求項1または2に記載のインサートナット。
【請求項4】
前記多数枚の板状体が、前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体と、前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体が交互に並べられたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインサートナット。
【請求項5】
前記ナット本体を回転させると、前記板状体のうち前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体と、前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体との間隔が狭まり、前記被締結対象物を、各々の前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体の上面と前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体の下面の間で締め上げることを特徴とする請求項4に記載のインサートナット。
【請求項6】
前記ナット本体の軸から前記板状体の外周方向先端にかけての前記インサートナットの断面において、前記ナット本体に対して斜めに取り付けられた前記板状体の断面における上辺が、前記ナット本体に対して略直角に取り付けられた前記板状体の断面の下辺と略平行であることを特徴とする請求項4または5に記載のインサートナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−141014(P2011−141014A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3306(P2010−3306)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(509317243)株式会社シカタ (3)