説明

組織状蛋白素材及びその製造方法

【課題】乾式法でありながら湿式法に近い組織や食感を有する組織状蛋白素材の製造方法を提供する。
【解決手段】2軸エクストルーダーを用い、大豆由来原料を用い、加圧加熱下に押し出して組織状蛋白を製造する方法において、2価の金属化合物及び有機酸を併用することを特徴とする繊維的食感を有する蛋白素材の製造方法である。また、繊維的食感を有する組織状蛋白であって2価の金属及び有機酸を含むことを特徴とする蛋白素材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維的食感に優れ、かつ歯ごたえのある組織状蛋白素材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から大豆に由来する原料を用いて繊維状構造を有する蛋白素材を製造する試みが多くなされてきた。その製造法は、あえて分類するなら「湿式法」と「乾式法」に大別される。
湿式法の主な方法としては、大豆蛋白をアルカリ溶液に溶解させ細い孔から酸性液の中へ押し出して凝固させその繊維を紡ぐ、所謂紡糸法が古く、次に、大豆蛋白酸沈殿カードを熱交換パイプ中で高温下に溶解させ背圧をかけてオリフィスを通して常圧へ押し出してフィブリル構造に富む繊維性蛋白素材を製造する方法などが知られている。
乾式法としては、主に大豆蛋白やその他の原料に加水し押出機(エクストルーダー)で加圧加熱下にダイから押し出して組織状蛋白を製造する方法が知られている。
【0003】
例えば、フィブリル構造を有する繊維状蛋白を製造する湿式法の一例として、特許文献1(特公昭50-25535号公報、米国特許第3662671号公報)や特許文献2(特公昭50-26625号公報、米国特許第3662672号公報)には、大豆蛋白スラリーを加熱流動下に分子的配向を付与し減圧部へ放出する方法が開示されている。
【0004】
湿式法で製造された製品は水分を含んだものである一方、乾式法で製造された製品は乾燥されたもので、用いるときに湯戻しする場合が多い。
湿式法と乾式法では、製造された製品の物性や食感は異なり、それぞれに持ち味があり独特の特徴がある。
湿式法の最大の特徴は、繊維状構造がはっきりしていることである。そして食感も肉に近似した、しっかりした歯ごたえを有することである。
そこで、製品の繊維状構造には劣るものの、生産性に勝る乾式法においても、湿式法で得られるような繊維的食感を出す工夫が試みられてきた。例えば、原料の一部に澱粉を用いることで、製品を湯戻しする際、澱粉部分が湯に溶解することにより、残った蛋白部分が繊維性を発揮し、繊維的食感を発現するという発明などがその1つである。
しかし、乾式法で調製したものの多くは、湯戻ししただけの状態では、湿式法により調製したもののような、繊維的食感は得られていなかった。
【0005】
湿式法の別の特徴は風味が優れていることである。本願出願人も、乾式法でも湿式法と同様に風味の優れた製品を得るべく、過去に検討を行った。そのうち、カルシウム化合物を用いた例を示す。
まず、大豆由来原料、カルシウム化合物、及び水をエクストルーダーにより加熱、加圧下に反応させダイより押し出す蛋白食品の製造法が特許文献3(特開平06-165644号公報)に開示されている。
【0006】
また、大豆由来原料、および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下に反応させる際、カルシウム化合物および澱粉類を併用して配合し、ダイより押し出す蛋白食品の製造法が特許文献4(特開2000-279099号公報)に開示されている。
また大豆由来原料と、マグネシウムあるいはカルシウムの、塩もしくは水酸化物とが加熱加圧下で混練され、組織化されてなることを特徴とする、蛋白食品の製造法が特許文献5(特開2001-275576号公報、特許第3543723号公報)に開示されている。
以上の特許文献3〜5には、風味の優れた大豆蛋白素材を得ることができる旨記載されている。しかし、歯ごたえなどの食感の点で、湿式法により調製した繊維状蛋白素材に及ばない。
【0007】
粒状大豆蛋白素材においては、風味を改善する方法として、クエン酸を用いる方法も開示されている。
例えば、特許文献6(特開昭56-58460号公報)には、粒状大豆蛋白素材の製造法として、原料の脱脂大豆にクエン酸を添加する旨の記載がある。しかし特許文献6では、クエン酸の添加は風味の改善を目的とするのみであり、当該クエン酸が「組織」に与える影響については、なんら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭50-25535号公報
【特許文献2】特公昭50-26625号公報
【特許文献3】特開平06-165644号公報
【特許文献4】特開2000-279099号公報
【特許文献5】特開2001-275576号公報
【特許文献6】特開昭56-58460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、乾式法でありながら湿式法(特許文献1や2など参照)によるものに近い繊維的食感を有する組織状蛋白素材を目的とした。
より具体的には、湿式法の1つであるオリフィスから背圧下に吐出して得られる繊維状蛋白に近い繊維的食感を口内で感じ、かつ該繊維状蛋白と同等のしっかりした、歯ごたえのある食感を有する組織状蛋白素材を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、課題を解決すべく鋭意研究の結果、エクストルーダーを用いて加圧加熱下に押し出して繊維的食感に優れる組織状蛋白を製造する方法(例えば特許文献4など)を検討するなかで、それまで風味改善効果が見出されていたカルシウム化合物やマグネシウム化合物などの2価の金属化合物とクエン酸を併用することにより目的とする繊維的食感に優れた組織状蛋白素材を得ることを見出した。そして、クエン酸だけでなくその他の有機酸の併用でも同様の効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、
(1)2軸エクストルーダーを用い、大豆由来原料に加水して加圧加熱下に押し出して組織状蛋白素材を製造する方法において、2価の金属化合物及び有機酸を併用することを特徴とする、繊維的食感を有する組織状蛋白素材の製造方法。
(2)2価の金属化合物がカルシウム化合物である、(1)の製造方法。
(3)有機酸がクエン酸である、(1)の製造方法。
(4)繊維的食感を有する組織状蛋白素材であって、2価の金属及び有機酸を含むことを特徴とする組織状蛋白素材。
(5)組織状蛋白素材乾燥固形分中、2価の金属を0.01〜2.5重量%及び有機酸を0.2〜3.5重量%含む(4)の組織状蛋白素材。
に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、エクストルーダーを用いて加圧加熱下に押し出して得る組織状蛋白の製造方法(「乾式法」)でありながら、蛋白スラリーをオリフィスから背圧下に吐出して製造した繊維状蛋白に近い食感を有する製品を得ることができるようになったものである。
即ち優れた繊維的食感と歯ごたえのある組織状蛋白素材を得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の、2軸エクストルーダーを用い、大豆由来原料に加水して加圧加熱下に押し出して組織状蛋白素材を製造する方法において、2価の金属化合物及び有機酸を併用することを特徴とする、繊維的食感を有する組織状蛋白素材の製造方法について説明する。
【0014】
本発明に用いる2軸エクストルーダーは公知のものを利用することができる。
エクストルーダーには、単軸エクストルーダーと2軸以上の多軸エクストルーダーがある。単軸エクストルーダーでは繊維的食感を有する蛋白素材を製造するのは困難である。多軸エクストルーダーが繊維的食感を形成させるには好ましい。実用的には2軸エクストルーダーが市販され多く用いられていて好適である。
このエクストルーダーは、原料供給口、バレル内をスクリューにより原料送り、混合、圧縮、加熱機構を有し、先端バレルに装着したダイを有する。
【0015】
後述の原料を2軸エクストルーダーに供給し、加水しながら加圧加熱下にダイより押し出す。
加熱は先端バレル温度120乃至220℃(好ましくは130乃至180℃)が適当である。
加圧はバレル先端ダイ圧力が2乃至100Kg/平方cm(好ましくは5乃至40Kg/平方cm)が適当である。
ダイは、スクリュー送り方向に押し出すダイでも、送り方向の外周方向に押し出すダイ(いわゆるペリフェラルダイ)でも用いることができる。
ダイの径は求める製品の形態などにより適宜決めることができる。
【0016】
原料をエクストルーダーに供給する際には、適宜加水する。その際の加水はダイから押し出される組織状蛋白素材の状態を観察しながらバルブで調整することができる。より具体的な加水量は、求める繊維的食感が得られる範囲であれば特に限定するものではないが、通常、原料中の水分が12乃至50重量%、好ましくは20乃至44重量%となるように行う。
【0017】
本発明に用いる原料は、大豆由来の原料を主成分とするが、その他の動物性蛋白や植物性蛋白を併せて用いることができる。また澱粉類、穀物類なども併用することができる。
主成分とする大豆由来の原料としては、油分を含んだ全脂大豆粉や脱脂した大豆粉、豆乳粉末、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白等の中から1種または2種以上を利用することができる。
また、併用する「その他の蛋白」としては、落花生、菜種、綿実など油糧種子由来の蛋白や、小麦、トウモロコシ、米など穀物由来の蛋白等加熱ゲル形成性植物性蛋白が好ましく、その他動物由来、微生物由来の蛋白も用いることができる。
本発明の特徴の1つは、組織状蛋白素材の原料中の粗蛋白質含量が、従来の、押出機による組織状蛋白の製造に用いる原料より比較的高いことである。
従来、生産性の観点から比較的安価な脱脂大豆を主原料としたり、その他の穀物蛋白を併用することが行なわれてきた。従って粗蛋白質含量は比較的低いものであった。
【0018】
しかし本発明者は、湿式法による繊維状蛋白素材に匹敵する、しっかりした食感を「乾式法」により得るには、粗蛋白質含量を高めることが必要なことに気がついた。
湿式法の1つである、オリフィスから背圧下に吐出して得られる繊維状蛋白の原料は、酸沈殿大豆蛋白であるから粗蛋白質含量は乾燥固形分で約90重量%前後ある。ただし、食感を柔らかくするために粗蛋白質含量を少なく調整して製造することがある。しかし、それでも粗蛋白質含量が75重量%を下回ることは極めて稀である。
本発明の、組織状蛋白素材の原料中の粗蛋白質含量を高くするには、粗蛋白質含量が高い分離大豆蛋白や卵白を併用することができる。
【0019】
しかしエクストルーダーを使用する方法では、原料の粗蛋白質含量を湿式法のように高くすると膨化が抑制されて繊維的食感が得られるような素材を形成することが困難となる傾向にあった。
研究の結果、2価の金属化合物と有機酸を併用することにより、組織状蛋白素材の原料中の、乾燥固形分中の粗蛋白質含量を好ましくは60〜80重量%、より好ましくは65〜75重量%にすることで目的の繊維状構造を有する組織状蛋白素材を得ることができることを見出した。
なお、組織状蛋白素材の原料中の粗蛋白質含量が高すぎると膨化が抑制されて食感が硬くなるだけでなく、繊維状構造を形成し難くなる場合がある。粗蛋白質含量が低くなりすぎると、繊維の食感が弱くなり繊維状蛋白の食感に比べて極めて弱いものとなり好ましくない場合がある。
【0020】
組織状蛋白素材の、原料中の粗蛋白質含量を調整する手段としては、大豆由来原料のうち、粗蛋白質含量の高いものと低いものを組み合わせたり、さらに卵白など粗蛋白質含量の高い動物性蛋白を併用することもできる。
例えば、粗蛋白質含量の高い(約90重量%前後)分離大豆蛋白と粗蛋白質含量の低い脱脂大豆、全脂大豆、オカラ、濃縮蛋白(コンセントレート)などを組み合わせることができる。濃縮蛋白は酸コンセントレートとアルコールコンセントレートがあるが、いずれも用いることができる。酸コンセントレートはpHが低いので2価金属化合物を炭酸塩にしたり有機酸の量を減らすなど工夫することができる。
また澱粉原料を併用することもでき、これにより更に繊維状構造に優れた組織状蛋白素材とすることができる。ただし、澱粉原料を多く用い過ぎると原料中の蛋白質の割合が低くなりすぎ、繊維状食感が弱くなることがあるので多く用い過ぎないようにする。
【0021】
その他、必要により油脂を用いることができる。
大豆由来原料として、脱脂していない圧扁大豆を併用することで、当該原料に含まれる油脂を利用することができる。
油脂としては大豆、菜種、護摩、パーム、ヤシなどの植物油脂、魚、牛、豚などからの動物油脂、これらの分別、硬化、エステル交換した油脂などを用いることができる。
油脂を適量用いることにより、エクストルーダーから押し出される組織状蛋白素材の膨化を抑制する。膨化が抑制されれば食感は硬くなる方向に進むが、適度な硬さは湿式法による繊維状蛋白素材の食感の硬さに近づける効果がある。
添加する油脂の量は特に限定しないが、通常6重量%未満が適当であり、油脂をエマルジョンとして添加する場合には多く含ませることができ、12重量%未満とすることができる。添加する油脂の量が多すぎると膨化が抑制されすぎて、硬くなりすぎることがある。
【0022】
本発明の特徴は、2価の金属化合物と有機酸を併用するところにある。
どちらが欠けても、目的の繊維的食感に優れる組織状蛋白素材を得ることは極めて困難である。
まず2価の金属化合物から説明する。 2価の金属化合物は本発明の繊維的食感を発現する作用を有するものである。
2価金属化合物の組織状蛋白素材中の乾燥固形分中含有量は、金属として0.01〜2.5重量%が好ましく、より好ましくは0.25〜1.0重量%である。2価金属化合物の量が多すぎても少なすぎても、求める繊維的食感を得ることが難しくなる場合がある。
2価金属化合物としてはカルシウム化合物やマグネシウム化合物を1種または2種以上用いることができるが、1種類の2価金属化合物を使用する場合はカルシウム化合物が好ましい。
【0023】
本発明に用いるカルシウム化合物としてはカルシウム塩が好ましい。例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウムなどを好ましく用いることができる。より好ましくは硫酸カルシウムである。また、水酸化カルシウムを用いることもできる。
従来は風味改善とともに膨化を主目的としていたので炭酸カルシウムのような膨化作用を有するカルシウム化合物が好まれてきた。しかし、本発明では繊維的食感を有しながら、歯ごたえのしっかりしたものにするためには硫酸カルシウムのような膨化を促進しないようなカルシウム化合物が好ましい。
【0024】
マグネシウム化合物を用いる場合も、カルシウム化合物と同様硫酸塩、炭酸塩、塩化物などの塩、及び水酸化物として用いることができ、その中では硫酸マグネシウムがより好ましい。そして、マグネシウム化合物とカルシウム化合物を併用することがさらにより好ましい。
【0025】
次に有機酸について説明する。
本発明に用いる有機酸の組織状蛋白素材中の乾燥固形分中含有量は、0.2〜3.5重量%が好ましく、より好ましくは0.4〜2重量%である。有機酸の量が少なすぎると、得られる蛋白素材は、食感が歯ごたえの少ないものとなり、繊維状蛋白が有する歯ごたえのある硬さには及ばないものとなる場合がある。また多すぎると、得られる蛋白素材の膨化が抑制され繊維的食感が得られにくくなり、細かなポーラス状の硬い食感になる場合がある。すなわち有機酸は、本発明においては「食感」に大きな影響を与えている。
本発明で用いる有機酸は食品添加物として認可されているものが好ましく、具体的には乳酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、ソルビン酸、安息香酸、クエン酸をあげることができる。好ましくはクエン酸である。
以上により得られた組織状蛋白素材は、2価の金属および有機酸を含む、繊維的食感を有するものである。当該繊維的食感は、乾式法で得られたものでありながら、湿式法に匹敵し、風味も良好なものであった。
【実施例】
【0026】
以下に実施例及び比較例を例示する。部はいずれも重量基準を意味する。
実施例1、比較例1、比較例2
実施例1として、脱脂大豆(n-ヘキサンで脱脂した不二製油(株)製」のもの)40重量部、粉末状大豆たん白(不二製油(株)製「フジプロR」)60重量部、コーンスターチ(三和澱粉工業(株)製「コーンスターチY」)5重量部、パーム油(不二製油(株)製「パームエース10」)0.7重量部、硫酸カルシウム(キシダ化学株式会社製「硫酸カルシウムA」)1重量部(カルシウムとして0.3重量部)、クエン酸(扶桑化学工業株式会社製「クエン酸(無水)レギュラー」)0.5重量部を水を添加しながら、下記条件で二軸押出機を用いて組織化した。
比較例1として前記配合からクエン酸を除いた配合で同様に処理した。
比較例2として前記配合から硫酸カルシウムを除いた配合で同様に処理した。
【0027】
なお、使用押出機は幸和工業(株)社製KEI−45−25型ニ軸押出機、使用ダイの直径6.5mm×1穴、処理量:粉体原料流量:30kg/h、スクリュー回転数:200rpmの条件で製造した。
得られた蛋白素材は、長さ1.5cm程度となるようにダイ出口直後にカッターで切断し、乾燥機にて水分8重量%となるように80℃の熱風で乾燥を行った。
この蛋白素材を、25℃30分間水戻ししたものと、フィブリル構造を有する繊維状蛋白(不二製油(株)製「フジピュアSP−300」水分約65%、乾燥固形分中の粗蛋白質78重量%)を20名のパネラーによる評価の比較を行った。結果を次に示す。
評価については、「繊維的食感」、「歯ごたえ」の2つの項目についてそれぞれ行った。繊維的食感とは、繊維状大豆たん白に特有のしなやか(強くてなめらか)で緻密であり、しかも繊維状にほぐれて舌触り、喉通りのよい食感を意味する。歯ごたえとは、噛んだとき歯に返ってくる感じを意味し、硬さと類似する。
【0028】
評価点は5段階評価とし、「フジピュアSP-300」に非常に近いしなやかさと緻密さを有しており、しかも繊維状にほぐれて舌触り、喉通りのよい食感を有するものを5点、ややしなやかさと緻密さが劣り、食感がやや異なるものを3点、しなやかさと緻密さがなく、食感が極端に異なるものを1点として採点を行った。同様に、歯ごたえについては、繊維状大豆たん白「フジピュアSP-300」と比較して、非常に近い歯ごたえであれば5点、硬いあるいは柔らかく、やや異なる歯ごたえであれば3点、硬すぎるあるいは柔らかすぎ、極端に異なる歯ごたえであれば1点として採点を行った。この採点した点数のうち、最も多かった評価の点数をそのサンプルの評価点とした。
【0029】
【表1】



なお、乾燥固形分中の粗蛋白質含量は、コントロールの「フジピュアSP−300」が78重量%であったのに比べ、実施例1、比較例1、比較例2の蛋白素材は73重量%であった。
【0030】
以上のように、硫酸カルシウムおよびクエン酸を併用した実施例1の蛋白素材はしっかりとした肉的な繊維的食感となった。この食感は湿式法により得られた繊維状蛋白に近い歯ごたえのある食感であった。
これに比べ、硫酸カルシウムのみを使用し、クエン酸を使用しない比較例1の蛋白素材は、繊維状蛋白に比べれば歯ごたえなどの食感が不良であった。
【0031】
実施例2
実施例1と同様の方法で、下記配合に従ってサンプルを試作した。
【表2】


【0032】
得られたサンプルを実施例1と同様の方法で評価した結果は下表のとおりであった。
【表3】


【0033】
試験例1は柔らかいものの、繊維的食感と歯ごたえを有していた。
試験例2は試験例1よりもしっかりとした繊維的食感と歯ごたえであった。
試験例3は試験例2よりもさらにしっかりとした繊維的食感であった。
試験例4は試験例3よりもさらにしっかりとした歯ごたえであった。
試験例5は試験例4とほぼ同じような食感であった。
試験例6はやや繊維的食感と歯ごたえはあるものの、全体的にやや硬い傾向があった。
【0034】
実施例3
実施例1と同様の方法で、下記配合に従ってサンプルを試作した。
【表4】

【0035】
得られたサンプルを実施例1と同様の方法で評価した結果は下表のとおりであった。
【表5】


【0036】
試験例7はやや柔らかいものの、繊維的食感と歯ごたえであった。
試験例8は試験例5よりもしっかりした繊維的食感と歯ごたえであった。
試験例9では繊維がち密になりすぎており、繊維的食感と歯ごたえはあるものの、全体的にやや硬い傾向があった。
試験例10はやや柔らかいものの、繊維的食感と歯ごたえであった。
試験例11はしっかりした繊維的食感と歯ごたえであった。
試験例12はやや繊維的食感と歯ごたえはあるものの、膨化がやや不足し、全体的にやや硬い傾向があった。
【0037】
実施例4
実施例1と同様の方法で、下記配合に従ってサンプルを試作した。
【表6】


【0038】
得られたサンプルを実施例1と同様の方法で評価した結果は下表のとおりであった。
【表7】


【0039】
試験例13は硫酸カルシウムの代わりに炭酸カルシウムを使用したことにより、実施例1よりも膨化が促進されたため、繊維的食感が弱くなり、歯ごたえもやや弱くなった。
試験例14のようにクエン酸の代わりにリンゴ酸を用いても、繊維状構造に優れた繊維的食感、歯ごたえのある食感を示した。
試験例15のようにクエン酸の代わりに乳酸を用いても、繊維状構造に優れた繊維的食感、歯ごたえのある食感を示した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
湿式法により製造された蛋白素材は粗蛋白質含量が高く、水分を含んだ状態で流通され流通コストのかかるものであった。
また、繊維状構造に優れ肉に極めて近似したしっかりした歯ごたえを有する食感を有するものの、コストの高いものであり、生産性が高いとは云い難いものであった。
そこで、乾式法により同様のしっかりした歯ごたえを有し繊維的食感に優れた蛋白素材を得ることができれば生産性を向上することができる。
本発明の乾式法により湿式法に劣らないしっかりした歯ごたえを有する蛋白素材を得ることができたものである。
繊維性の点では湿式法による繊維のような明確な繊維は困難であるが湯戻しすると繊維状に手などでほぐすことができる、繊維的食感に優れた蛋白素材を得ることができたものである。
本発明の蛋白素材は乾燥状態で流通し、使用する際に水戻しして繊維的食感に優れる蛋白素材として利用することができるので流通コストも削減することができる。
また湿式法による繊維状蛋白素材より粗蛋白質含量が低いので生産性も向上したものである。
かかる生産性、流通コストのメリットを有する本発明の製造法は産業の発達に大いに寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸エクストルーダーを用い、大豆由来原料に加水して加圧加熱下に押し出して組織状蛋白素材を製造する方法において、2価の金属化合物及び有機酸を併用することを特徴とする、繊維的食感を有する組織状蛋白素材の製造方法。
【請求項2】
2価の金属化合物がカルシウム化合物である、請求項1の製造方法。
【請求項3】
有機酸がクエン酸である、請求項1の製造方法。
【請求項4】
繊維的食感を有する組織状蛋白素材であって、2価の金属及び有機酸を含むことを特徴とする組織状蛋白素材。
【請求項5】
組織状蛋白素材乾燥固形分中、2価の金属を0.01〜2.5重量%及び有機酸を0.2〜3.5重量%含む請求項4の組織状蛋白素材。

【公開番号】特開2011−72230(P2011−72230A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225671(P2009−225671)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)