説明

経口リン吸着剤

【課題】従来の経口リン吸着剤のような毒性、副作用がなく、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域で高いリン吸着性能を示す経口リン吸着剤を提供する。
【解決手段】硫酸基(SO4)の含有量が乾燥物換算で10〜20重量%の含硫酸・酸化チタン様水和物を含む経口リン吸着剤であって、
前記含硫酸・酸化チタン様水和物は、その水和物の乾燥物換算量4gを温度25℃の水100mLに3時間懸濁したときの硫酸イオンの遊離量に起因するpH値が2.3以上であることを特徴とする経口リン吸着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口リン吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高リン血症を伴う慢性腎不全患者は、リン排泄除去が極めて不十分であるため、体内にリンが蓄積し、高リン血症に怠る。高リン血症は、二次副甲状腺機能亢進症およびそれに伴う腎性骨異栄養症の発症原因になり、患者の生命予後やクオリティオブライフ(QOL)に著しい影響を及ぼす。
【0003】
このようなことから、従来、高リン血症の治療には無機系の経口リン吸着剤および有機系の経口リン吸着剤が臨床上で使用されている。無機系の経口リン吸着剤としては、アルミニウム製剤または炭酸カルシウム製剤が、有機系の経口リン吸着剤としてはポリマー性リン吸着剤であるセベラマーハイドロクロライド(sevelamer)が知られている。
【0004】
しかしながら、アルミニウム製剤はアルミニウムの毒性により現在では使用が禁忌となっている。炭酸カルシウム製剤は、高カルシウム血症を引き起こす虞がある。また、これらの無機系経口リン吸着剤の欠点を考慮して開発されたsevelamerは便秘、腹痛、腹部膨満感などの副作用が認められている。
【0005】
一方、本出願人が特許権者である特許文献1にはチタン塩を加水分解して得られるチタン酸化物を酸処理および(または)アルカリ土類金属イオン処理した生成物を有効成分とするリン酸イオン吸着剤が開示されている。
【0006】
特許文献1のリン酸イオン吸着剤は、従来の経口リン吸着剤に比べて毒性、副作用がなく、リンを効率的に吸着できる利点を有する。よく知られているように経口リン吸着剤は、体内の酸性域のみならず、pH9程度の弱アルカリ性域でのリン吸着が求められている。しかしながら、特許文献1のリン酸イオン吸着剤は酸性域で高いリン吸着性能を示すものの、弱アルカリ性域では十分なリン吸着性能を示さず、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域で高いリン吸着性能を有する経口リン吸着剤が要望されている。
【特許文献1】特許第2981574号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の経口リン吸着剤のような毒性、副作用がなく、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域で高いリン吸着性能を示す経口リン吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、硫酸基(SO4)の含有量が乾燥物換算で10〜20重量%の含硫酸・酸化チタン様水和物を含む経口リン吸着剤であって、
前記含硫酸・酸化チタン様水和物は、その水和物の乾燥物換算量4gを温度25℃の水100mLに3時間懸濁したときの硫酸イオンの遊離量に起因するpH値が2.3以上であることを特徴とする経口リン吸着剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の経口リン吸着剤のような毒性、副作用がなく、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域で高いリン吸着性能を示す、すなわち体内の胃から小腸までの広い範囲でのpH変動に影響を受けることなく、高いリン吸着性能を示し、高リン血症の治療に有用な経口リン吸着剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る経口リン吸着剤を詳細に説明する。
【0011】
実施形態に係る経口リン吸着剤は、硫酸基(SO4)の含有量が乾燥物換算で10〜20重量%の含硫酸・酸化チタン様水和物を含む。この含硫酸・酸化チタン様水和物は、その水和物の乾燥物換算量4gを温度25℃の水100mLに3時間懸濁したときの硫酸イオンの遊離量に起因するpH値が2.3以上である。
【0012】
前記硫酸基(SO4)の含有量およびpH測定の基準となる『乾燥物換算』、後述する硫酸イオンの遊離量および酸化チタン量の基準となる『乾燥物換算』とは、含硫酸・酸化チタン様水和物の105℃、3時間の水分乾燥減量(%)から次式に従って求めた値である。
【0013】
含硫酸・酸化チタン様水和物採取量(g)×[1−(水分乾燥減量(%)/100)]
例えば、採取量が5g、水分乾燥減量が20%である場合、乾燥物換算はこれらの値を前記式に導入して求めた4gになる。
【0014】
含硫酸・酸化チタン様水和物中の硫酸基の含有量(乾燥物換算)は、以下の方法で測定する。
【0015】
試料を105℃で3時間乾燥し、その約0.5gを精密に量り、フッ化水素酸2.5mLを加え溶解し、水を加えて正確に100mLとする。この液1mLを正確に量りとり、100ppm硝酸イオン標準液(内標準液)5mLを正確に加えた後、水を加えて正確に100mLとし、これを試料溶液とした。別に、フッ化水素酸2.5mLに水を加えて正確に100mLとした。この液1mLを正確に量りとり、内標準液5mL、100ppm硫酸イオン標準液5mLを正確に加えた後、水を加えて正確に100mLとし、これを標準溶液(5ppm)とした。
【0016】
前記試料溶液および標準溶液を、次の操作条件のイオンクロマトグラフ法により試験を行った。算出方法は、標準溶液の硝酸イオンに対する硫酸イオンの面積比(QS)及び試料溶液の硝酸イオンに対する硫酸イオンの面積比(Qt)より、試料1.0g当たり(乾燥物換算)から含硫酸・酸化チタン様水和物中の硫酸含量(%)として算出した。
【0017】
硫酸含量(%)=5(ppm)×Qt/QS×1/試料採取量(g)
<操作条件>
・装置 :イオンクロマトグラフ(Dionex社製4500i)
・カラム :Dionex社製 IonPac AS4A/AG4A
・カラム温度:室温
・移動相 :1.5mM炭酸水素ナトリウム/1.0mM炭酸ナトリウム水溶液
・流量 :1.5mL/分
・サンプル量:10μL
・バックグラウンド除去装置 :陽イオン交換膜
・バックグラウンド除去液 :12.5mM硫酸水溶液
含硫酸・酸化チタン様水和物において、硫酸基の含有量が乾燥物換算で10重量%未満にすると、リンの吸着時にリン酸イオンとの交換サイトが不足し、高いリン吸着性能が得られなくなる虞がある。一方、硫酸基の含有量が乾燥物換算で20重量%を超えると、リン酸イオンと交換しない硫酸基が存在し、不必要な硫酸基が遊離し、体内に過剰に硫酸基が吸収され、悪影響を及ぼす虞がある。より好ましい含硫酸・酸化チタン様水和物中の硫酸基(SO4)の含有量(乾燥物換算)は、15〜20重量%である。
【0018】
含硫酸・酸化チタン様水和物において、その水和物の乾燥物換算量4gを温度25℃の水100mLに3時間懸濁したときの硫酸イオンの遊離量に起因するpH値が2.3未満になると、高いリン吸着性能が得られなくなる虞がある。より好ましい含硫酸・酸化チタン様水和物の前記pH値は、2.4以上である。特に、含硫酸・酸化チタン様水和物の前記pH値は、2.3以上、3.0以下の範囲、最も好ましいpH値は2.4以上、2.9以下の範囲である。
【0019】
含硫酸・酸化チタン様水和物において、前記条件で懸濁したときの硫酸イオンの遊離量は乾燥物換算で10mg−SO4/g以下であることが好ましい。硫酸イオンの遊離量は、以下の方法で測定した値である。
【0020】
前記pH測定後、懸濁水を濾過した濾液を試料液として以下の手順にて硫酸イオン濃度を測定した。
【0021】
試料液1mL及び1000ppm硝酸イオン標準液(内標準液)2mLをそれぞれ正確に量りとり、0.2M水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6〜8となるように調製し、水で正確に200mLとし、これを試料溶液とした。
【0022】
別に、1000ppm硫酸イオン標準液1mL及び1000ppm硝酸イオン標準液(内標準液)1mLを正確に量りとり、水を加えて正確に100mLとし、標準溶液1とした。同様に1000ppm硫酸イオン標準液2mL及び1000ppm硝酸イオン標準液(内標準液)1mLを正確に量りとり、水を加えて正確に100mLとし、標準溶液2とした。
【0023】
前記試料溶液、標準溶液1及び標準溶液2を、前述したのと同様な操作条件のイオンクロマトグラフ法により試験を行い、内標準液(硝酸イオン)のピーク面積に対する試料溶液、標準溶液1及び標準溶液2の硫酸イオンのピーク面積比QTA、QSA1およびQSA2を求めた。
【0024】
<操作条件>
・装置 :イオンクロマトグラフ(Dionex社製4500i)
・カラム :Dionex社製 IonPac AS4A/AG4A
・カラム温度:室温
・移動相 :1.5mM炭酸水素ナトリウム/1.0mM炭酸ナトリウム水溶液
・流量 :1.5mL/分
・サンプル量:10μL
・バックグラウンド除去装置 :陽イオン交換膜
・バックグラウンド除去液 :12.5mM硫酸水溶液
次いで、標準溶液1および標準溶液2の硫酸イオンの量(ppm)を横軸に、ピーク面積比(QSA1およびQSA2)を縦軸にとり検量線を作成し、試料溶液のピーク面積比(QTA)を用いて試料溶液中の硫酸イオンの量(ppm)を算出し、次式より試料1.0g当たり(乾燥物換算)から遊離した硫酸イオン量(mg−SO4/g)として算出した。
【0025】
遊離硫酸イオン量(mg−SO4/g)
=硫酸イオンの量(ppm)×200/1000×100/試料採取量(g)
硫酸イオンの遊離量が乾燥物換算で10mg−SO4/gを超えると、高いリン吸着性能が得られなくなる虞がある。より好ましい前記条件で懸濁したときの硫酸イオンの遊離量は乾燥物換算で2〜8mg−SO4/gである。
【0026】
含硫酸・酸化チタン様水和物は、105℃、3時間での水分乾燥減量が5〜50%であることが好ましい。水分乾燥減量を5%未満にすると、高いリン吸着性能が得られなくなる虞がある。一方、水分乾燥減量が50%を超えると、含硫酸・酸化チタン様水和物の流動性が低下し取扱いが困難になる。より好ましい含硫酸・酸化チタン様水和物の前記条件での水分乾燥減量は5〜40%、最も好ましい水分乾燥減量は10〜30%である。
【0027】
実施形態に係る経口リン吸着剤は、含硫酸・酸化チタン様水和物からなる顆粒剤、丸剤、乳剤、散剤、錠剤、または含硫酸・酸化チタン様水和物粉末が封入されたカプセルの形態で使用することができる。製剤化するにあたっては、適宜、賦形剤や添加剤等を含硫酸・酸化チタン様水和物に配合し、製造してもよい。
【0028】
次に、実施形態に係る経口リン吸着剤中の含硫酸・酸化チタン様水和物の製造方法を説明する。
【0029】
まず、チタン塩の水溶液を硫酸酸イオンの共存下にて強酸条件下で80〜100℃、好ましくは100℃で加水分解し、冷却する。つづいて、生成沈殿物を濾過し、濾過後に得られた生成物を水洗し、乾燥することにより含硫酸・酸化チタン様水和物を製造する。
【0030】
強酸のチタン塩は、例えば四塩化チタン、四臭化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン等を挙げることができる。この中で、特に四塩化チタンが好ましい。硫酸チタンは、硫酸イオンを含むが、これ以外のチタン塩は硫酸イオンを含まないために硫酸イオン源を別途加えて加水分解を行う。硫酸イオン源としては、例えば硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウム等を用いることができる。
【0031】
加水分解される水溶液中の硫酸/Tiのモル比は、1.0以上にすることが好ましい。
【0032】
水洗は、濾過後に得られた生成物の遊離し易い硫酸イオンが十分に洗い流されるように行うことが好ましく、例えば水洗水の導電率が300μS/cm以下になるまで行うことが好ましい。
【0033】
乾燥は、含硫酸・酸化チタン様水和物が105℃、3時間での水分乾燥減量が5〜50%になるように温度および時間を選択することが好ましい。乾燥時の好ましい温度は、60〜80℃である。
【0034】
以上、本発明の実施形態によれば硫酸基(SO4)の含有量が乾燥物換算で10〜20重量%で、特定の条件で懸濁したときの硫酸イオンの遊離量に起因するpH値が2.3以上である含硫酸・酸化チタン様水和物を含むことによって、従来の経口リン吸着剤のような毒性、副作用がなく、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域で高いリン吸着性能を示す、すなわち体内の胃から小腸までの広い範囲でのpH変動に影響を受けることなく、高いリン吸着性能を示し、高リン血症の治療に有用な経口リン吸着剤を提供できる。
【0035】
特に、含硫酸・酸化チタン様水和物が特定の条件で懸濁したときの硫酸イオンの遊離量を乾燥物換算で10mg−SO4/g以下にすることによって、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域でより高いリン吸着性能を示す経口リン吸着剤を提供できる。
【0036】
また、含硫酸・酸化チタン様水和物は105℃、3時間での水分乾燥減量が5〜50%である物性を持つことによって、酸性域から弱アルカリ性域までの広いpH域でより一層高いリン吸着性能を示す経口リン吸着剤を提供できる。
【0037】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0038】
(実施例1)
まず、攪拌中の水11.5Lに硫酸アンモニウム2.63kgを添加して溶解させ、さらに49%濃度の四塩化チタン(TiCl4)水溶液7.71kgを添加した。pH1以下の強酸性下、100℃で3時間の加熱加水分解を行い、一晩放置して冷却した。得られた生成沈殿物をフィルタープレスで濾過し、水洗水の導電率が300μS/cmになるまで水洗し、60℃で3時間乾燥して含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0039】
(実施例2)
加水分解、冷却、濾過、水洗水の導電率が300μS/cmになるまで水洗した後の乾燥を60℃で6時間行った以外、実施例1と同様な方法により含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0040】
(実施例3)
加水分解、冷却、濾過、水洗水の導電率が300μS/cmになるまで水洗した後の乾燥を60℃で9時間行った以外、実施例1と同様な方法により含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0041】
(実施例4)
加水分解、冷却、濾過、水洗水の導電率が300μS/cmになるまで水洗した後の乾燥を80℃で9時間行った以外、実施例1と同様な方法により含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0042】
(実施例5)
加水分解、冷却、濾過、水洗水の導電率が300μS/cmになるまで水洗した後の乾燥を80℃で12時間行った以外、実施例1と同様な方法により含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0043】
(比較例1):特許第2981574号の実施例5
まず、攪拌中の水11.5Lに硫酸アンモニウム4.92kgを添加して溶解させ、さらに49%濃度の四塩化チタン(TiCl4)水溶液7.71kgを添加した。pH1以下の強酸性下、100℃で3時間の加熱加水分解を行った。得られた生成沈殿物をフィルタープレスで濾過し、水洗した。この水洗水の導電率は1500μS/cmであった。この後、60℃で12時間乾燥して含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0044】
(比較例2)
まず、攪拌中の水11.5Lに硫酸アンモニウム2.63kgを添加して溶解させ、さらに49%濃度の四塩化チタン(TiCl4)水溶液7.71kgを添加した。pH1以下の強酸性下、100℃で3時間の加熱加水分解を行った。一晩放置して冷却後、得られた生成沈殿物をフィルタープレスで濾過し、水洗水の導電率が900μS/cmになるまで水洗し、80℃で12時間乾燥して含硫酸・酸化チタン様水和物を得た。
【0045】
得られた実施例1〜5および比較例1,2の含硫酸・酸化チタン様水和物について、下記方法により酸化チタン(TiO2)含有量[乾燥物換算]を測定し、さらに前述した方法による硫酸基(SO4)含有量[乾燥物換算]および105℃、3時間の水分乾燥減量を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0046】
1)酸化チタン(TiO2)含有量の測定方法
試料を105℃で3時間乾燥し、その約0.2gを精密に量り、300mLビーカに移し、硫酸15mLおよび硫酸アンモニウム6gを加え、時計皿で覆った。初めは緩慢に加熱し、最後に強熱して溶解した。冷却後、水を加えて正確に250mLとした。この液5mLを正確に量り、過酸化水素0,3mLを加え、さらに0.01Mのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム液25mLを正確に加え、水約100mLを加えた。この液を20℃以下に保ちながら、硝酸をpHが1〜2になるように加え、キシレノールオレンジ試液1mLを加えた後、0.01Mの硝酸ビスマス液で滴定した。終点は、液の色が黄色から黄赤色に変わるときとした。別に、同様な操作で空試験を行った。
【0047】
このような方法で得られた硝酸ビスマス液の消費量、空試験における硝酸ビスマス液の消費量を次式に代入することにより酸化チタン(TiO2)含有量を求めた。なお、0.01Mのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム液1mLあたり、0.7988mg TiO2に相当する。
【0048】
TiO2含有量(%)
={(B−T)×f×0.7988×(250/5)/[試料採取量(g)×1000]}
×100
ここでT:0.01Mの硝酸ビスマス液の消費量(mL)
B:空試験における0.01Mの硝酸ビスマス液の消費量(mL)
f:0.01Mの硝酸ビスマス液のファクター
また、実施例1〜5および比較例1,2の含硫酸・酸化チタン様水和物について、含硫酸・酸化チタン様水和物の乾燥物換算量4.0gを温度25℃の水100mLに3時間懸濁したときの懸濁水のpHおよび前述した水和物懸濁水中の遊離硫酸イオン量の測定方法により測定し、さらにリン酸イオン吸着試験方法でリン酸イオン吸着量を測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0049】
2)リン酸イオン吸着試験方法
8.52gのリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)を約800mLの水に溶解し、塩酸でpHを1.2に調整し、水で正確に1000mLとした液をリン酸イオン吸着試験液1(pH1.2−60mM)とした。同様にpHを6.8としたリン酸イオン吸着試験液2(pH6.8−60mM)及びpHを9.0としたリン酸イオン吸着試験液3(pH9.0−60mM)を調製した。
【0050】
リン酸イオン吸着試験は、100mLのリン酸イオン吸着試験液1〜3に含硫酸・酸化チタン様水和物(試料)1.0gをそれぞれ添加し、37℃で3時間攪拌した後、上澄みを濾過した濾液を試料液とした。同様に空試験も行った。
【0051】
試料液1mLおよび1000ppm硝酸イオン標準液(内標準液)2mLをそれぞれ正確に量りとり、0.2M水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6〜8になるように調製し、水で正確に200mLとした液を試料溶液とした。
【0052】
別に、1000ppmリン酸イオン標準液1.5mL及び1000ppm硝酸イオン標準液(内標準液)1mLを正確に量りとり、水を加えて正確に100mLとし、標準溶液1とした。同様に1000ppmリン酸イオン標準液3mL及び1000ppm硝酸イオン標準液(内標準液)1mLを正確に量りとり、水を加えて正確に100mLとし、標準溶液2とした。
【0053】
前記試料溶液、標準溶液1および標準溶液2を、以下の操作条件のイオンクロマトグラフ法により試験を行い、内標準液(硝酸イオン)のピーク面積に対する試料溶液、標準溶液1および標準溶液2のリン酸イオンのピーク面積比QTA、QSA1およびQSA2を求めた。
【0054】
<操作条件>
・装置 :イオンクロマトグラフ(Dionex社製4500i)
・カラム :Dionex社製 IonPac AS4A/AG4A
・カラム温度:室温
・移動相 :1.5mM炭酸水素ナトリウム/1.0mM炭酸ナトリウム水溶液
・流量 :1.5mL/分
・サンプル量:10μL
・バックグラウンド除去装置 :陽イオン交換膜
・バックグラウンド除去液 :12.5mM硫酸水溶液
次いで、標準溶液1および標準溶液2のリン酸イオンの量(ppm)を横軸に、ピーク面積比(QSA1およびQSA2)を縦軸にとり検量線を作成し、試料溶液のピーク面積比(QTA)を用いて試料溶液中のリン酸イオンの量(ppm)を算出し、次式より試料1.0g当たり(乾燥物換算)のリン吸着量(mg−P/g)として算出した。
【0055】
P吸着量(mg-P/g)
=(Ci−Ce)/1000×100×a/b/試料採取量(g)/[1-0.01×水分乾燥減量(%)]
ここで、Ci:リン酸イオン初期濃度(ppm)
Ce:リン酸イオン平衡濃度(ppm)
a:リンの原子量(31)
b:PO4の原子量(95)
【表1】

【0056】
前記表1から明らかなように水和物懸濁水のpH値が2.3以上の実施例1〜5の含硫酸・酸化チタン様水和物(経口リン吸着剤)は、酸性側、中性側においてそのpH値が2.3未満である比較例1の含硫酸・酸化チタン様水和物(pH=2.14)および比較例2の含硫酸・酸化チタン様水和物(pH=2.15)と同等またはそれ以上のリン吸着性能を示し、かつアルカリ性側(pH=9.0)において高いリン吸着性能を示すことがわかる。
【0057】
特に、水和物懸濁水のpH値が2.4以上、水和物懸濁水中の遊離硫酸イオン量が約5mg−SO4/g以下、水分乾燥減量が約19%以上、約43%以下の実施例1〜3の含硫酸・酸化チタン様水和物(経口リン吸着剤)は比較例1、2の含硫酸・酸化チタン様水和物に比べて酸性側、中性側でも高いリン吸着性能を示し、アルカリ性側ではより一層高いリン吸着性能を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸基(SO4)の含有量が乾燥物換算で10〜20重量%の含硫酸・酸化チタン様水和物を含む経口リン吸着剤であって、
前記含硫酸・酸化チタン様水和物は、その水和物の乾燥物換算量4gを温度25℃の水100mLに3時間懸濁したときの硫酸イオンの遊離量に起因するpH値が2.3以上であることを特徴とする経口リン吸着剤。
【請求項2】
前記硫酸イオンの遊離量は、乾燥物換算で10mg−SO4/g以下であることを特徴とする請求項1記載の経口リン吸着剤。
【請求項3】
前記含硫酸・酸化チタン様水和物は、105℃、3時間での水分乾燥減量が5〜50%であることを特徴とする請求項1または2記載の経口リン吸着剤。

【公開番号】特開2009−79031(P2009−79031A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48723(P2008−48723)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【Fターム(参考)】