説明

経口投与用カルバペネム化合物の製造方法

本発明は、経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物の効率的な製造方法を提供する。つまり、本発明は、一般式(1)で表されるβ−ラクタム化合物を出発原料とし、塩基の存在下にチオール化合物(R−SH)と反応させ、必要に応じて保護基Rを脱保護することを特徴とする、一般式(2)で表される1β−メチルカルバペネム化合物の製造方法である。


(式中、R:水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基、R:炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基、R:有機基、R:水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物の効率的かつ極めて有用な製造方法に関する。
【背景技術】
1β−メチルカルバペネム化合物は広範囲の病原菌に対して優れた抗菌作用を示し、かつ生体内での安定性にも優れていることから最も注目されている抗菌剤のひとつである。そのため、近年、経口投与用薬剤の研究開発が精力的に進められている。経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物の製造方法としては、現在、以下のような方法が一般的に用いられている。
例えば、特開平8−53453号公報や、ザ・ジャーナル・オブ・アンチビオティックス(J.Antibiot.)、429〜439頁、1997年に記載されているように、式(6):

で表される化合物を各種チオール化合物(R−SH)と反応させて、式(7):

(式中、Rはチオール残基を示す)で表される化合物を合成し、例えば加水素分解反応や、亜鉛末による還元反応により保護基であるp−ニトロベンジル基を除去し、式(8):

(式中、Rはチオール残基を示す)で表される化合物に変換し、さらに得られた化合物(8)のカルボン酸部位を例えばピバロイルオキシメチル化することにより、式(9):

(式中、Rはチオール残基を示し、Buはtert−ブチル基を示す)で表される化合物を製造する方法である。
上記式(9)で表される化合物としては、例えば、前記特開平8−53453号公報および特開平10−195076号公報には、式(10):

で示される化合物が記載されており、
また、前記ザ・ジャーナル・オブ・アンチビオティックス(J.Antibiot.)、429〜439頁、1997年および特開平10−130270号公報には、式(11):

で示される化合物が記載されており、
さらに、特開平10−152491号公報には、式(12):

で示される化合物が記載されているが、これらは全て上記方法にて合成されている。
しかしながら、これらの製造方法では経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物を合成するのに、カルボン酸保護基の付け換えを必要とし、多段階の反応を経る必要があるため非効率的であり、また、最終物のチオール残基となる比較的高価なチオール化合物を合成初期段階で用いることから、製造コスト面で不利となり、問題となっていた。
また、特開平8−59663号公報および特開2000−344774号公報には、式(13):

(式中、Rは水酸基保護基を示し、Rは生成物である1β−メチルカルバペネム化合物中に含まれるチオール残基を示し、Rは有機基を示す)で表される化合物から、式(14):

(式中、R、R、Rは前記と同じ意味を示し、R、R、Rは全て炭素数1〜4の低級アルコキシ基であるか、あるいはひとつが炭素数1〜4のアルキル基で残りふたつが炭素数1〜4の低級アルコキシ基を示す)で表される化合物を合成し、これを環化させることにより、式(15):

(式中、R、R、Rは前記と同じ意味を示す)で表される化合物を製造する方法が記載されている。
しかしながら、本製造方法においても先述と同様に、最終物のチオール残基となる比較的高価なチオール化合物を合成初期段階で用いることから、製造コスト面で不利であり問題となっていた。
また、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem)、第61巻、7889〜7894頁、1996年、および特開平5−279367号公報には、式(16):

(式中、Meはメチル基を示し、Buは前記と同じ意味を示す)で示される化合物が記載されており、該化合物を各種チオール化合物との反応及び水酸基の脱保護により1β−メチルカルバペネム化合物に導くことが考え得る。しかしながら、上記化合物(16)においては、水酸基の保護基がtert−ブチルジメチルシリル基であるため、Protective Groups in Organic Synthesis(J Wiley & Sons,New York)、44〜46頁、1981年に例示されているように、水酸基部位の脱保護には他の官能基に影響を及ぼすような反応試剤を使用する必要があり、収率等の点で問題がある。本発明者らは脱保護の方法を種々検討したが、容易かつ効率の良い脱保護を行うことは困難であった。
以上のような状況の中、経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物の効率的かつ製造コスト面で有利な製造方法の開発が望まれていた。
発明の要約
上記現状を鑑み、本発明者らは経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物の合成において、最終段階にて一段でチオール化合物が導入できるような製造方法の開発に関して鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、一般式(1):

(式中、Rは水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す)で表される化合物と、一般式(3):

(式中、Rは有機基を示す)で表されるチオール化合物を塩基の存在下に反応させ、必要に応じて保護基Rを脱保護することを特徴とする、一般式(2):

(式中、R、Rは前記と同じ意味を示し、Rは水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示す)で表される化合物の製造方法である。
発明の詳細な開示
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、一般式(1):

で表される化合物と、一般式(3):

で表されるチオール化合物を塩基の存在下に反応させ、必要に応じて保護基Rを脱保護することを特徴とする、一般式(2):

で表される化合物の製造方法である。
まず、各化合物における置換基について説明する。置換基Rは水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示す。置換基Rが水素原子である場合には、置換基Rが水素原子である化合物(2)が得られる。一方、置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である化合物(1)からは、置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である化合物(2)が生成する。この場合、生成物として得られる置換基Rを持つ化合物(2)は、従来知られている前記式(16)で表される化合物とは異なり、容易に水酸基を脱保護することが可能であり、置換基Rが水素原子である化合物(2)を得ることができる。置換基Rは、生成物として得られる化合物(2)の脱保護反応に対して、化合物中の他の官能基部分を極力分解させることなく、穏和な反応条件にて除去できるものとして選定されている。脱保護を容易なものとするため、置換基Rが水酸基保護基である場合には、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である必要があり、トリメチルシリル基が特に好ましい。
置換基Rは最終的に経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物として開発されうる化合物中のカルボン酸エステル残基のアルカノイルオキシメチル基部位に含まれてくるものであり、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
炭素数1〜10のアルキル基の例としてはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ノルマルオクチル基、ノルマルデカニル基等が挙げられる。
炭素数3〜10のシクロアルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としてはメチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としてはシクロプロピル基、シクロヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
置換基Rとしては、なかでも経口投与用カルバペネム化合物の開発でよく使用されるtert−ブチル基が特に好ましい。
置換基Rは有機基を示し、最終的に経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物として開発されうる化合物中のチオール残基に含まれてくるものが好ましい。より好ましくは、一般式(3):

(式中、Rは有機基を示す)で表されるチオール化合物のチオール残基として、次式(4):

で示される、特開平8−53453号公報に記載の化合物のチオール残基、次式(5):

で示される、ザ・ジャーナル・オブ・アンチビオティックス(J.Antibiot.)、429〜439頁、1997年に記載の化合物のチオール残基、次式(19):

で示される、特開平10−152491号公報に記載の化合物のチオール残基等が挙げられる。
置換基Rとして、好ましくは式(4)で示される化合物のチオール残基、式(5)で示される化合物のチオール残基である。
置換基Rは、水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示し、上述したように、置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である場合には、必要に応じ、脱保護を行うことにより、容易に経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物を得ることができる。
次に本発明の製造方法について説明する。
本発明において使用される出発原料の前記式(1)で表される化合物は、下記式(17):

(式中、R′は置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基を示す)で表される化合物から誘導でき、その一例を後記参考例1〜4として詳細に記載した。なお、上記式(17)で表される化合物は、ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブルティン(Chem.Pharm.Bull.)、42巻、1381〜1387頁、1994年の記載に従い、容易に調製可能である。
上記化合物(1)と、前記式(3)で表されるチオール化合物を塩基の存在下に反応させることにより、前記式(2)で表される1β−メチルカルバペネム化合物が得られる。
該反応は化合物(1)を分解させないような不活性溶媒を用いて行われる。不活性溶媒としては特に限定はされないが、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、塩化メチレン、およびそれらの混合溶媒等が挙げられる。反応速度の点から、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリルが特に好ましい。
反応に使用されるチオール化合物(3)の量は、化合物(1)に対して、1.0倍モル量以上必要であり、好ましくは1.1〜3.0倍モル量である。また、チオール化合物(3)は、塩酸塩等の塩を形成していてもよい。
また、使用される塩基としては、有機アミン類、アルカリ金属塩、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属アミド、アルカリ金属水素化物等が挙げられる。
有機アミン類としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデシ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−ノン−5−エン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等が例示される。有機アミン類を使用する場合には、その使用量は化合物(1)に対し1.0倍モル量以上が必要であり、1.1〜3.0倍モル量が好ましい。
アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の炭酸アルカリ塩;重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の重炭酸アルカリ塩等が例示される。その使用量は化合物(1)に対し、炭酸アルカリ塩使用時には0.5倍モル量以上が必要であり、重炭酸アルカリ塩使用時には1.0倍モル量以上が必要であるが、共に1.1〜2.0倍モル量が好ましい。
アルカリ金属アルコキシドとしては、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド等が例示される。アルカリ金属アルコキシドを使用する場合には、その使用量は化合物(1)に対し1.0倍モル量以上が必要であり、1.1〜2.0倍モル量が好ましい。
アルカリ金属アミドとしては、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド等が例示される。アルカリ金属アミドを使用する場合には、その使用量は化合物(1)に対し1.0倍モル量以上が必要であり、1.1〜2.0倍モル量が好ましい。
アルカリ金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウム等が例示される。アルカリ金属水素化物を使用する場合には、その使用量は化合物(1)に対し1.0倍モル量以上が必要であり、1.1〜2.0倍モル量が好ましい。
上記反応は通常−78〜60℃で実施されるが、反応物、生成物の分解抑制の理由から−40〜40℃で行うのが好ましい。
また、反応時間は通常5分〜40時間であるが、上記理由から1〜30時間であることが好ましい。
また、当然のことではあるが、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)といった分析的手段により該反応の経時変化を知ることができる。
反応後の混合物から、通常有機反応においてしばしば用いられるpH調節、抽出、分液、洗浄、濃縮、精製などの操作を経て、目的化合物(2)を単離することができる。
化合物(1)の置換基Rが水素原子である場合には、上記反応にて、置換基Rが水素原子である化合物(2)が得られ、直接、経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物を合成することができる。
一方、置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である場合には、それぞれ置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である化合物(2)へと誘導される。置換基Rが上記の水酸基保護基(トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基)である場合には、容易に離脱できる置換基として選定されているため、反応後の混合物から抽出、洗浄などの操作にてpH調節を行う際、酸性条件とすることで水酸基部位の脱保護を同時に行うことができ、置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である化合物(2)から、容易に置換基Rが水素原子である化合物(2)へと変換され、経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物を取得することができる。
上記で使用される酸性条件はpHが7以下の条件であれば特に制限はないが、pH2〜6であることが好ましく、該pHにて該水酸基保護基が極めて容易に離脱される。また、当該酸性条件とするために、例えば、クエン酸水、塩酸等を抽出液等に添加することができる。
また、置換基Rがトリメチルシリル基またはトリエチルシリル基である場合、化合物(2)を一旦取り出してから、別途脱保護を行ってもよく、この場合の脱保護方法としては、上記方法に加えて、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis(J Wiley & Sons,New York)、39〜50頁、1981年に記載されているような、一般的なシリル保護基の脱保護条件を採用することができる。
本発明により、式(1)で示される化合物と、式(3)で示されるチオール化合物から、式(2)で示される1β−メチルカルバペネム化合物を、短段階にて効率的かつ容易に合成することができる。本発明は、式(3)で示されるチオール化合物として特に式(4)および(5)で示されるチオール化合物を用い、それぞれ式(10);

(式中、Buはtert−ブチル基を示す)、および、式(11);

(式中、Buは前記と同じ意味を示す)で示される経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物を合成する方法として好ましいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例および参考例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および参考例で用いた略号の意味は次のとおりである。
Me:メチル基
Bu:tert−ブチル基
TMS:トリメチルシリル基
TES:トリエチルシリル基
(参考例1)(3S,4S)−4−[(1R)−1−(p−クロロフェニルチオカルボニル)エチル]−3−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニルメチル−2−アゼチジノンの製造

(3S,4S)−1−カルボキシメチル−4−[(1R)−1−(p−クロロフェニルチオカルボニル)エチル]−3−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−2−アゼチジノン8.18g(22.0mmol)をジメチルホルムアミド18mlに室温で溶解させ、塩化ピバロイルオキシメチル5.5ml(40.0mmol)、ヨウ化ナトリウム5.75g(40.3mmol)を順次添加し、ジイソプロピルエチルアミン4.2ml(25.3mmol)を滴下した後、同温度で20時間攪拌した。反応液をトルエン120mlで希釈し、2.5%重曹水および水で数回洗浄して得られたトルエン溶液を、芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去した。得られた油状残渣を室温でトルエン60mlに溶解し、ヘキサン120mlを添加すると結晶が析出した。これをろ別、洗浄することにより標記の白色結晶9.46gを得た(収率92.7%)。
NMRδ(CDCl):1.19(9H,s)、1.32〜1.34(6H,m)、3.11〜3.18(2H,m)、3.87(1H,d,J=18.1Hz)、4.15(1H,dd,J=2.4,4.4Hz)、4.22〜4.24(1H,m)、4.35(1H,d,J=18.1Hz)、5.76(2H,s)、7.31(2H,d,J=8.8Hz)、7.40(2H,d,J=8.8Hz)
(参考例2)(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−トリメチルシリロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの製造

参考例1と同様にして合成した(3S,4S)−4−[(1R)−1−(p−クロロフェニルチオカルボニル)エチル]−3−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニルメチル−2−アゼチジノン1.997g(4.1mmol)をトルエン20mlに溶解させ、室温にてトリエチルアミン0.88mL(6.4mmol)を加え、塩化トリメチルシラン0.78mL(6.2mmol)を滴下した後、同温度で15時間攪拌した。反応液をトルエン5mlで希釈し、水で数回洗浄して得られたトルエン溶液を芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去した。
得られた油状残渣2.63gにテトラヒドロフラン22.5mlを加えて溶解させ、−70℃まで冷却し、カリウムtert−ブトキシドを0.956g(8.5mmol)添加後、15分攪拌した。次いで同温度でヨウ化メチル0.26mL(4.2mmol)を添加し、−35℃まで徐々に昇温しながら25分攪拌後、続けて−35℃にて塩化ジフェニルリン酸1.0mL(4.9mmol)を添加し、−9℃まで徐々に昇温しながら1.8時間攪拌した。反応液をトルエン20mlで希釈し、氷冷下に2.5%重曹水および水で数回洗浄したトルエン溶液を芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去して標記化合物を得た。
反応時の経時変化を追跡する手段として高速液体クロマトグラフィーにて分析を行ったが、反応液および得られた標記化合物をアセトニトリル/水/リン酸=700/300/1で混合した溶離液に溶解させ分析を行ったところ、参考例3で述べる生成物と同じ保持時間に検出されたことから、水酸基保護基であるトリメチルシリル基が容易に脱保護されることを確認した。
NMRδ(CDCl):0.11(9H,s)、1.19〜1.29(15H,m)、3.24(1H,dd,J=2.9,6.6Hz)、3.45〜3.50(1H,m)、4.07〜4.19(2H,m)、5.78(1H,d,J=5.5Hz)、5.81(1H,d,J=5.5Hz)、7.15〜7.40(12H,m)
(参考例3)(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの製造

参考例1と同様にして合成した(3S,4S)−4−[(1R)−1−(p−クロロフェニルチオカルボニル)エチル]−3−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニルメチル−2−アゼチジノン0.97g(2.0mmol)をトルエン5mlに溶解させ、室温にてトリエチルアミン0.50g(5.0mmol)を加え、塩化トリメチルシラン0.39g(3.6mmol)を滴下した後、同温度で15時間攪拌した。反応液をトルエンで希釈し、水で数回洗浄したトルエン溶液を芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去した。
得られた油状残渣にテトラヒドロフランとトルエンの体積比が1対2である混合溶媒15mlを加えて溶解させ、−25℃まで冷却し、カリウムtert−ブトキシドを0.475g(4.2mmol)添加後、1時間攪拌した。次いで同温度でヨウ化メチル0.30g(2.1mmol)を添加し、20分攪拌後、続けて塩化ジフェニルリン酸0.60g(2.2mmol)を添加し、2.5時間攪拌した。
反応液を氷冷下に酢酸エチルと水を添加し、1N塩酸水にて混合溶液のpHを3として分離した酢酸エチル溶液を、重曹水および水で数回洗浄した後、芒硝により乾燥させ、溶媒を留去して標記化合物を得た。
NMRδ(CDCl):1.18〜1.20(12H,m)、1.29(3H,d,J=4.9Hz)、3.28(1H,dd,J=2.4,6.3Hz)、3.45〜3.51(1H,m)、4.17〜4.21(2H,m)、5.77(1H,d,J=5.5Hz)、5.81(1H,d,J=5.5Hz)、7.21〜7.40(12H,m)
(参考例4)(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−トリエチルシリロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの製造

参考例1と同様にして合成した(3S,4S)−4−[(1R)−1−(p−クロロフェニルチオカルボニル)エチル]−3−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニルメチル−2−アゼチジノン0.493g(1.0mmol)をトルエン10mlに溶解させ、室温にてトリエチルアミン0.17g(1.7mmol)を加え、塩化トリエチルシラン0.24g(1.6mmol)を滴下した後、同温度で22時間攪拌した。反応液をトルエン10mlで希釈し、水で数回洗浄して得られたトルエン溶液を芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去した。
得られた油状残渣にテトラヒドロフラン6mlを加えて溶解させ、−25℃まで冷却し、カリウムtert−ブトキシドを0.232g(2.1mmol)添加後、60分攪拌した。次いで同温度で臭化ベンジル0.19g(1.05mmol)を添加し、20分攪拌後、続けて塩化ジフェニルリン酸0.30g(1.1mmol)を添加し、2時間攪拌した。反応液をトルエン50mlで希釈し、氷冷下に2.5%重曹水および水で数回洗浄したトルエン溶液を芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去して標記化合物を得た。
NMRδ(CDCl):0.59〜0.62(6H,m)、0.94(9H,t,J=8.1Hz)、1.19〜1.28(15H,m)、3.23(1H,dd,J=2.9,6.6Hz)、3.42〜3.46(1H,m)、4.13(1H,dd,J=2.9,10.3Hz)、4.18〜4.23(1H,m)、5.78(1H,d,J=5.5Hz)、5.81(1H,d,J=5.5Hz)、7.15〜7.43(12H,m)
(実施例1)ピバロイルオキシメチル(1R,5S,6S)−2−[1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル]チオ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−カルバペン−2−エム−3−カルボキシレートの製造

参考例2にて合成した(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−トリメチルシリロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルを含む黄色油状残渣4.53gをアセトニトリル15mlに溶解させ、式(18):

で示される化合物1.10g(5.1mmol)を添加し、氷冷下にジイソプロピルエチルアミン1.8ml(10.3mmol)を滴下後、同温度にて1.9時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、酢酸エチル40mlおよび水100mlを添加し、重炭酸カリウム水、重曹水により洗浄した。得られた酢酸エチル溶液にクエン酸水を加えて酸性とし水層に抽出した後、酢酸エチル50mlおよび重炭酸カリウムを添加して再度酢酸エチル層へと抽出した。本溶液を重量が12gとなるまで溶媒を留去し、これにヘプタン25ml添加すると結晶が析出した。これをろ別、洗浄することにより標記化合物を含む白色結晶1.87gを得た。
NMRδ(CDCl):1.23(9H,s)、1.23(3H,d,J=7.1)、1.34(3H,d,J=6.4Hz)、3.13〜3.21(1H,m)、3.23(1H,dd,J=2.7,6.8Hz)、3.37(2H,t,J=7.6Hz)、3.94〜4.03(4H,m)、4.10〜4.26(3H,m)、4.36〜4.42(2H,m)、5.84(1H,d,J=5.5Hz)、5.97(1H,d,J=5.5Hz)
(実施例2)ピバロイルオキシメチル(1R,5S,6S)−2−[1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル]チオ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−カルバペン−2−エム−3−カルボキシレートの製造

参考例3と同様にして合成し、精製した(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルを含む油状残渣0.32gをアセトニトリル1mlに溶解させ、式(18):

で示される化合物0.07g(0.33mmol)を添加し、−10℃にてジイソプロピルエチルアミン0.09g(0.70mmol)を滴下後、同温度にて3時間攪拌した。反応終了後、酢酸エチル20mlおよび水20mlを添加し、クエン酸水を加えて水層へ抽出した後、酢酸エチル20mlおよび重炭酸カリウムを添加して再度酢酸エチル層へと抽出した。本溶液を芒硝にて乾燥させた後、溶媒を留去し、NMR分析により標記化合物の生成を確認した。
(実施例3)ピバロイルオキシメチル(1R,5S,6S)−2−[(3R)−5−オキソピロリジン−3−イル]チオ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−カルバペン−2−エム−3−カルボキシレートの製造

参考例2と同様にして合成した(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−トリメチルシリロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルを含む油状残渣4.32gをアセトニトリル15mlに溶解させ、式(5):

で示される化合物0.57g(4.9mmol)を添加し、5℃にてジイソプロピルエチルアミン0.79g(6.1mmol)を滴下後、同温度にて70分攪拌した。反応終了後、アセトニトリルを留去し、酢酸エチル40mlに溶解させ、重曹水にて数回洗浄することにより副生したジフェニルリン酸を除去した。得られた酢酸エチル溶液に水を添加後、1Nの塩酸水をpH3となるまで加えた。分液操作により得られた酢酸エチル溶液を重曹水、水で洗浄した後、本溶液を芒硝にて乾燥させ、さらに溶媒を留去し、アセトン20mLに溶解させた。これにトルエン30mLを添加して、アセトン溶媒を徐々に留去し、白濁溶液となるのを確認した。この白濁溶液を0〜5℃にて1時間攪拌し、ろ別、洗浄することにより白色結晶を得た。再度、アセトンに溶解させ、上記同様、トルエン添加及び溶媒留去、攪拌、ろ別、洗浄の操作を経ることにより、標記化合物を含む白色結晶0.70gを得た。
NMRδ(CDCl):1.22(9H,s)、1.27(3H,d,J=7.1)、1.32(3H,d,J=6.3Hz)、2.39(1H,dd,J=5.1,17.1Hz)、2.83(1H,dd,J=8.1,17.1Hz)、3.26(1H,dd,J=2.4,6.8Hz)、3.31〜3.36(1H,m)、3.84(1H,dd,J=8.1,10.7Hz)、4.01〜4.06(1H,m)、4.22〜4.28(2H,m)、5.82(1H,d,J=5.5Hz)、5.96(1H,d,J=5.5Hz)
(実施例4)ピバロイルオキシメチル(1R,5S,6S)−2−[(3R)−5−オキソピロリジン−3−イル]チオ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−カルバペン−2−エム−3−カルボキシレートの製造

参考例4と同様にして合成した(4R,5R,6S)−6−[(1R)−1−トリエチルシリロキシエチル]−3−ジフェニルホスホリロキシ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルを含む油状残渣0.84gをアセトニトリル5mlに溶解させ、式(5):

で示される化合物0.12g(1.0mmol)を添加し、0〜5℃にてジイソプロピルエチルアミン0.13g(1.0mmol)を滴下後、同温度にて3時間攪拌した。反応終了後、トルエン、水20mlずつを添加し、1Nの塩酸水をpH2となるまで加えた。分液操作により得られたトルエン溶液を重曹水、水で洗浄した後、本溶液を芒硝にて乾燥させ、さらに溶媒を留去し、NMR分析により標記化合物の生成を確認した。
【産業上の利用可能性】
本発明により、近年活発に研究開発がなされている種々の経口投与用1β−メチルカルバペネム化合物の効率的かつ容易な合成が可能となり、本発明は工業的に有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):

(式中、Rは水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す)で表される化合物と、一般式(3):

(式中、Rは有機基を示す)で表されるチオール化合物を塩基の存在下に反応させ、必要に応じて保護基Rを脱保護することを特徴とする、一般式(2):

(式中、R、Rは前記と同じ意味を示し、Rは水素原子、トリメチルシリル基またはトリエチルシリル基を示す)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
がtert−ブチル基である請求の範囲第1項に記載の製造方法。
【請求項3】
が式(4):

で示されるチオール化合物のチオール残基である請求の範囲第1または2項に記載の製造方法。
【請求項4】
が式(5):

で示されるチオール化合物のチオール残基である請求の範囲第1または2項に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/043961
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551227(P2004−551227)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014420
【国際出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】