説明

経皮吸収型製剤

【課題】 経皮吸収性能が高い薬剤を患部に長時間滞留させることができる経皮吸収型薬剤を提供する。
【解決手段】 この経皮吸収型製剤は、ゲル化剤に、経皮吸収性能の高いPH10.5〜PH14に安定化した電解還元水と、ケイ酸アルミニウムマグネシウムあるいはケイ酸ナトリウムマグネシウムを混入してゲル化したものである。この経皮吸収型製剤中に薬剤を混ぜておくと、経皮吸収性能が高い薬剤を患部に長時間滞留させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解還元水を用いた経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
やけどなどの場合、薬を患部に滞留させ、長時間薬を効かせることが要求される。
経皮吸収性能が高い薬剤は、薬を患部に効率力効かせることができる。
そのため、経皮吸収性能の高い薬剤を患部に長時間滞留させることができることが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、経皮吸収性能が高い薬剤は、その性能がゆえに、長時間、患部に滞留させることが難しかった。
そこで本発明では、上述した問題点を解決し、経皮吸収性能が高い薬剤を患部に長時間滞留させることができる経皮吸収型薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した問題を解決するためになされた発明である請求項1に記載の経皮吸収型薬剤は、PH10.5〜PH14に安定化した電解還元水と、ケイ酸アルミニウムマグネシウムあるいはケイ酸ナトリウムマグネシウムと、をゲル化剤を用いてゲル化したことを特徴とする。
【0005】
この経皮吸収型薬剤に用いられている電解還元水は、高い経皮吸収性能を有する。そのため、この電解還元水を単にゲル化剤に混入しても、電解還元水は早期にゲル化剤から放出され、肌に吸収されてしまった。
【0006】
そこで、下記のように実験を行った結果、ケイ酸アルミニウムマグネシウムあるいはケイ酸ナトリウムマグネシウムを混入しておくと、電解還元水が徐々にゲル化剤から放出されるとともに、ゲル化剤としても安定させることができることが明らかになった。
【0007】
従って、本発明の経皮吸収型薬剤中に薬剤を混ぜておくと、経皮吸収性能が高い薬剤を患部に長時間滞留させることができる。
尚、電解還元水は、脱酸素処理を行って純水の溶存酸素を1ppm以下にする脱酸素工程と、この脱酸素工程により脱酸素処理を行った前記純水を電気分解する電気分解工程と、この電気分解工程により電気分解された前記水のうち、陰極室側の前記水を密閉された安定化槽内で4kg/cm2 以上の圧力をかけて安定化させる安定化工程とを経て、前記水を処理することによって製造する。
【0008】
また、電解還元水のPH(水素イオン濃度指数)は、11.5〜12.5がより好ましく、12がもっとも好ましい。
また、この電解還元水は、29〜60dyn/cmのものであることが好ましく、55〜58dyn/cmがより好ましく、さらに約56.1dyn/cmであることが因り好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では、上記発明が適用された実施形態について説明する。
[ 1.緒言 ]
本実施形態では、還元電解水(以下、単に電解水と呼ぶ)とケイ酸アルミニウムマグネシウムを用いてゲル製剤(本発明の経皮吸収型製剤)を調製し、その応用性について考察するため、生体内に存在する各種塩類に対するゲル安定性について検討する。
[ 2.材料 ]
ゲルの調製に用いたケイ酸アルミニウムマグネシウム(以下、スメクトンと略す)は、クニミネ工業株式会社より供与された。
【0010】
また、分散媒にはエー・アイ・システムプロダクト製の電解水S−100及び、比較対照である脱イオン化蒸留水(以下、精製水と略す)を用いた。
また混入する薬剤を想定して各種の塩(NaCl、 KCl、 CaCl2、 MgCl2、 AlCl3)を使用した。
[ 3.ゲルの調整及び判定法 ]
ビーカーに分散媒(電解水あるいは精製水)を入れ、スターラー撹拌下(100rpm)でNaCl、 KCl、 CaCl2、 MgCl2およびAlCl3を添加し、それぞれ最終濃度1〜1000mmol/Lでそれぞれ調製した。15分間撹拌した後、溶解するゲル基剤であるスメクトンを少しずつ添加し、最終濃度を2.0〜4.0(w/w)%として調製した。そして、スメクトンを各溶媒に透明になるまで分散させた後、さらに15分間撹拌し、サンプル管に移し静置した。翌日、そのサンプル管を倒置させ、固体状のままならゲル、流動性を持ち容器内を移動可能ならゾル、沈殿を生じていれば分離と判定した。なお、すべての実験は20℃で行い、サンプル管の倒置については外部からずりをかけないように注意した。
[ 4.結果及び考察 ]
<4.1.スメクトンゲル形成能に対する各種塩の効果>
電解水をゲル化剤の分散媒として用いた各種塩の効果を明らかにするため、温度一定の条件(20℃)におけるゲルに及ぼす各種塩濃度の影響について検討した。
【0011】
まず、精製水および電解水に最終濃度を1〜1000mmol/Lの範囲でNaClを添加し、スメクトンの濃度を2.0〜4.0(w/w)%として相図を作成し、その結果を図1に示した。また、各相図においては、塩濃度におけるスメクトンの状態をゲル、ゾル及び分離で示した。そして、それぞれの面積を百分率(%)で示し、ゲル形成能を比較した。
【0012】
精製水を用いて調製したスメクトンゲルは、NaCl濃度の増加に伴いゲルからゾルへの転換が起こり、さらにゾルから分離状態への転換が起こった(図1(a))。そして、相図全体の面積を100%として、ゲル、ゾルおよび分離の面積を百分率換算したところ、それぞれ29.0%(G)、15.3%(S)および55.7%(P)であった。同様にして、電解水においてもNaClの増加に伴いゲル、ゾルおよび分離状態へ変換した(図1(b))。そして、各面積はそれぞれ56.4%(G)、18.1%(S)および25.5%(P)であった。ここで、図1(a)および図1(b)を比較したところ、ゲルの面積が29.0%から56.4%へ約2倍に、ゾルの面積は15.3%から18.1%へ約1.2倍にそれぞれ増加した。これらの結果から、NaCl濃度の増加に伴い、電解水を用いて調製したゲルは精製水の場合と比較して、ゲル状態での安定性が高いことが確認され、精製水で調製したゲルとは明らかに異なっていた。
【0013】
次に、NaClと同様にして、KClについて検討した。精製水を用いたゲルはKCl濃度の増加に伴い、ゲル、ゾル、分離状態へ転換が起こった(図2(a))。そして、各面積は、それぞれ27.6%(G)、12.4%(S)および60.0%(P)であった。電解水においてもKCl濃度の増加に伴いゲル、ゾル、分離状態へ変換した(図2(b))。そして、各面積は、それぞれ41.0%(G)、20.6%(S)および38.4%(P)であった。ここで、図2(a)および2(b)を比較したところ、ゲル面積が27.6%から41.0%へ約1.5倍に、ゾル面積は12.4%から20.6%へ約1.7倍にそれぞれ増加した。これらの結果から、KCl濃度の増加に伴い、電解水を用いたゲルは精製水の場合と比較して、ゲルおよびゾル状態での安定性が高いことが確認され、精製水のものとは明らかに異なっていた。また、NaClとKClの違いに関して考察したところ、NaClのゲルとゾル状態は、ゲルでは約2倍、ゾルでは約1.2倍の増加に対し、KClでは、ゲルが約1.5倍、ゾルが約1.7倍の増加であった。このことから、1価の塩の種類によっても、ゲルとゾル状態の安定性に違いがあることが示唆された。
【0014】
次に、2価の塩であるCaCl2について検討した。精製水に最終濃度を1−100 mmol/Lの範囲でCaCl2を添加し、スメクトンの濃度を2.0〜4.0(w/w)%として相図を作成し、その結果を図3に示した。精製水を用いて調製したゲルは、CaCl2濃度の増加に伴いゲル、ゾル、分離状態への転換が起こった。そして、ゲル、ゾルおよび分離面積は、それぞれ26.0%(G)、10.2%(S)および63.8%(P)であった。同様にして、電解水にCaCl2を添加したところ、沈殿が生じてしまい、相図を作成することが出来なかった。
【0015】
次に、2価の塩であるMgCl2についても検討した。精製水に最終濃度を1−100 mmol/Lの範囲でMgCl2を添加し、スメクトンの濃度を2.0〜4.0(w/w)%添加して検討したところ、精製水を用いたものは、MgCl2濃度の増加に伴いゲル、ゾル、分離状態へ転換が起こった(図4(a))。そして、各面積を換算したところ、それぞれ11.3%(G)、28.0%(S)および60.7%(P)であった。
【0016】
同様にして、電解水についてもMgCl2濃度の増加に伴いゲルからゾル状態に変換したが、MgCl2の終濃度が25mmol/Lの時点でCaCl2と同様に沈殿を生じ、これ以上の検討ができなかった(図4(b))。ゲルの面積を換算したところ、22.2%(G)であった。そこで、図4(a)および4(b)のゲル面積を比較したところ、11.3%から22.2%へ約2倍に増加した。この結果から、2価のマグネシウム塩に関してはゲル状態での安定性の向上が確認された。
【0017】
次に、3価の塩であるAlCl3について検討した。精製水あるいは電解水に最終濃度を1−100mmol/Lの範囲でAlCl3を添加し、スメクトンの濃度を2.0〜4.0(w/w)%添加したところ、精製水を用いて調製したゲルは、AlCl3濃度の増加に伴いゲル、ゾル、分離状態への転換が起こった(図5(a))。そして、各面積は、それぞれ2.8%(G)、9.4%(S)および87.8%(P)であった。
【0018】
同様にして、電解水を用いたものは、AlCl3濃度の増加に伴いゲル、ゾル、分離状態への転換が起こった(図5(b))。各面積は、それぞれ17.9%(G)、11.9%(S)および70.2%(P)であった。そこで、図5(a)および5(b)のゲル面積を比較したところ、2.8%から17.9%へ約6倍に、ゲル面積は9.4%から11.9%へ約1.3倍に増加した。これらの結果から、3価の塩に関してもゲルおよびゾル状態での安定性の向上が認められた。
【0019】
さらに、塩の種類について(CaCl2を除く)、その違いを比較すると精製水および電解水を用いて調製したゲルでは、塩の価数の増加に伴いゲル領域の割合が著しく減少した(図1,2,4,5)。この結果は、多価の塩よりも1価の塩の方がゲル安定性に及ぼす影響が大きいことを示唆している。
【0020】
以上の結果より、電解水を用いて調製したスメクトンゲルは精製水のものと比較して、明らかに異なる特性を示すことが確認され、電解水を用いたゲルは塩が増加してもゲル状態を安定化することから、塩の影響を防ぐ作用を持っているものと思われる。しかしながら、CaCl2に関しては、電解水にCaCl2を加えた時点で沈殿を生じたことから、電解水中のマイナスイオン類がCa2+とチャージを打ち消し合い、沈殿を生じた可能性が考えられた。
【0021】
さて、スメクトンは層の間にカチオン交換性も持つ金属イオンが存在し、ナトリウムイオンや水が差し込まれ、層間化合物を形成している。また、結晶格子間にも交換性陽イオンを保持しており、コロイド粒子は負に帯電している。さらに、スメクトンは共有結合によらないファンデルワールス力によって結びついているため系全体がゆるい網目構造をとっていると考えられる。親水性コロイドは塩の添加によって構造を強めることが知られているが、スメクトンゲルの場合は塩の濃度が高くなるに従い分離を起こすことから疎水性コロイドであることが判断できる(図1、5)。この疎水性コロイドであるスメクトンは水和しておらず、親水性コロイドと比較して塩の影響を受けやすく、イオンの価数が大きい程より凝析し易いことが考えられる。このことは、懸濁粒子に対してその粒子の電荷と反対符号で価数の大きな電解質を添加した時に、凝析が顕著に見られるというSchuluze-Hardyの規則に従っている。また、スメクトンは1価の陽イオンと1価の陰イオンで構成されているので、交換性カチオンは多価の陽イオンの方が、1価の陽イオンよりも不安定であると考察できる。
【0022】
本実験から、電解水を用いて調製した塩(CaCl2を除く)溶液は、蒸留水を用いて調製した塩溶液と比較して、塩の濃度が高くてもゲル化することが確認された。この結果は1価塩および多価塩の両者に共通している。これは、電解水で調製した塩溶液中のプラスイオンが電解水中のマイナスイオンにより電気的に中和されたことにより、精製水で調製した場合と比較して、塩の効果が抑えていることが考えられる。また、電解水中のマイナスイオンがケイ酸アルミニウムマグネシウムの交換性カチオンと結合し、電気的に中和されることも考えられる。さらに、電気的な中和によりマイナスイオンを失っても、大過剰に存在するマイナスイオンによって、試料中においてはマイナスイオン同士の反発の為に分離せずに安定なゲル状態を維持すると思われる。
【0023】
以上、本実験により1価およびCa+を除く多価の陽イオンは、電解水を用いて調製したゲルに関して、ゲルおよびゾルの安定に影響を及ぼすことが示唆された。特に、1価の陽イオン(Na+、K+)では、大幅にゲル安定性を向上できる事が確認された。
[ 5.結語 ]
本実験では、電解水を用いて調製したゲルが精製水の場合と比較して陽イオンの影響を防ぐ作用がある事が確認できた。そして、電解水を分散媒に使用した場合、ゲル化状態を維持できるDDS製剤が調製可能であることが示唆され、電解水の特性をうまく利用することにより、機能性を保持したゲル化剤の使用により徐放性製剤などの経皮吸収型製剤等の調製に有用であると考察された。
【0024】
尚、上記実施形態では、ゲルの調製用にケイ酸アルミニウムマグネシウムを用いたが、ケイ酸ナトリウムマグネシウムを用いてもよい。
以上説明した本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】経皮吸収型薬剤にNaClを混合したことを想定した実験グラフである。
【図2】経皮吸収型薬剤にKClを混合したことを想定した実験グラフである。
【図3】経皮吸収型薬剤にCaCl2を混合したことを想定した実験グラフである。
【図4】経皮吸収型薬剤にMgCl2を混合したことを想定した実験グラフである。
【図5】経皮吸収型薬剤にAlCl3を混合したことを想定した実験グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PH10.5〜PH14に安定化した電解還元水と、
ケイ酸アルミニウムマグネシウムあるいはケイ酸ナトリウムマグネシウムと、
をゲル化剤を用いてゲル化したことを特徴とする経皮吸収型製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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