説明

経皮吸収製剤の製造装置

【課題】薬液を粘着剤層へ直接塗布し、剥離時の物理的皮膚刺激が少なく、貼付感も良好な経皮吸収製剤を製造し得る製造装置を提供すること。
【解決手段】当該装置は経皮吸収製剤の製造装置であって、帯状の粘着シート3を走行路へ送り出す粘着シート供給部Aを有し、該粘着シートは、少なくとも粘着剤層2を有し、該粘着剤層は、粘着剤を含有しかつ該粘着剤と相溶する液状成分を含有する。また、当該装置は、粘着面2bに薬液を定量塗布する薬液塗布部Bを有し、薬液塗布部Bから後の走行路には、含浸用走行区間Cが設けられており、塗布された薬物が粘着剤層中に含浸するまで薬液塗布面に他の部材が接触することのないように、粘着シートを走行させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収製剤の製造装置に関し、特に、粘着シートの粘着剤層に薬剤を好ましく含浸させ得る装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経皮吸収製剤は、一般に、実質的に薬物不透過性の支持体上に、薬物を含有する粘着剤層が積層して製造される。そのような経皮吸収製剤は、前記のような支持体上に、薬物を含有する粘着剤の有機溶媒溶液を塗工し、粘着剤層を熱風等で乾燥させて粘着剤溶液中の有機溶媒を蒸発させ、所望により粘着剤を架橋させるなどして製造されることが一般的である。
しかし、粘着剤溶液中に薬物を含有させる場合、薬物と粘着剤層成分との組み合わせによっては、薬物と粘着剤層成分との相互作用による望ましくない事象が発生する可能性があるので、そのような処方の決定には時間と費用がかかる検討が必要とされる。
また、粘着剤層に架橋処理を施す場合、ある種の架橋剤と薬物との相互作用により、架橋不良または薬物の変成などの望ましくない事象が発生する可能性があるので、そのような処方の決定には時間と費用がかかる検討が必要とされる。
そのような可能性を排除する観点からは、粘着剤溶液を支持体に塗工しこれを乾燥させ、薬物を含まない粘着シート(以下、「プラセボ」と称することもある。)を作製し、所望により架橋処理を施した後に、粘着剤層面に薬液(即ち、液状の薬物および/または薬物溶液)を塗工し、薬物を粘着剤層に含浸させる製法が有利である。
【0003】
特許文献1には、液体を含む塗布媒体とポリマー基層とを組み合わせることにより、該液体を含有する感圧皮膚接着剤シート材料を連続的に製造する方法が開示されている。
しかし、該文献に開示される製造方法は、感圧皮膚接着剤中に液状成分を含有させることを開示しないので、液体の薬剤を効率的に感圧皮膚接着剤に含浸することが困難な場合が想定される。のみならず、同文献は、感圧皮膚接着剤ではなく、塗布媒体に液体を含有させることを指向しているので、同文献は当業者をして、粘着剤層に液状成分を含有させることへの着眼を阻害する。
また、同文献に開示される製造装置には、薬剤を基層に含浸させる手段について具体的開示はなく、まして、塗布された薬液が粘着剤層中に含浸するまでの時間、粘着シートが走行し得る含浸用走行区間は示唆すらされていない。
【0004】
上記のとおり、従来の技術には、経皮吸収製剤の製造において、粘着剤溶液中に薬物を配合することによる不利益を排除しつつ、簡便かつ効率的に経皮吸収製剤を製造し得る装置は開示も示唆もされていない。
【特許文献1】特表平11−502840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、薬液、即ち、液状の薬物および/または薬物溶液を、粘着剤層へ直接塗布し、剥離時の物理的皮膚刺激が少なく、貼付感も良好な経皮吸収製剤を製造し得る製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、経皮吸収製剤を構成するためのベースとなる粘着シートの粘着剤層を粘着剤と液状成分とによって構成し、かつ薬液が粘着剤層中に含浸し得るようにこれら薬液と粘着剤と液状成分との組み合わせを選択しておけば、粘着シートの粘着面に薬液を塗布した後、そのまま一定距離だけ粘着シートが走行する区間を設けるだけで、目的の経皮吸収製剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)経皮吸収製剤の製造装置であって、
当該装置は、帯状を呈する第一の粘着シートを走行路へ送り出す粘着シート供給部を有し、前記粘着シートは、少なくとも粘着剤層を有し、該粘着剤層は、粘着剤を含有しかつ該粘着剤と相溶する液状成分を含有するものであり、
当該装置は、走行する粘着シートの粘着面に、液状の薬物および/または薬物溶液である薬液を定量塗布する薬液塗布部を有し、薬液と粘着剤と液状成分とは、該薬液が粘着剤層中に含浸し得るように選択されており、
薬液塗布部から後の走行路には、塗布された薬液が粘着剤層中に含浸する間、粘着シートを走行させるための含浸用走行区間が設けられていることを特徴とする、経皮吸収製剤の製造装置。
(2)粘着面に対する薬液の接触角が20度〜60度となるように、薬液と粘着剤と液状成分の組み合わせが選択されている、上記(1)記載の製造装置。
(3)薬液が、薬物溶液または液状の薬物である、上記(1)または(2)記載の製造装置。
(4)薬液塗布部が、粘着面に対して接近させた吐出ヘッドから、薬液を該粘着面に定量吐出し得るように構成されている、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造装置。
(5)薬液が粘着面の全幅の半分以上を覆う領域に吐出されるよう、該吐出ヘッドの吐出口の開口形状が、粘着面の全幅の半分以上をカバーするスロット状となっている、上記(4)記載の製造装置。
(6)走行路には、ローラが粘着シートの背面に接触するように設けられており、該ローラは水平回転軸を有し、該ローラに沿って粘着シートの粘着面が下向きから上向きへと180度回転するように走行路が構成されており、
該ローラの最下点と最上点との間の中間位置を中心として−90度〜+90度の範囲に、吐出ヘッドが設けられている、上記(4)または(5)記載の製造装置。
(7)粘着面と液薬の吐出方向とがなす角度θ1を、吐出ヘッドよりも下流側で計った角度で表すものとして、該角度θ1が80度〜110度となるように、吐出ヘッドが方向付けられている、上記(4)〜(6)のいずれかに記載の製造装置。
(8)さらに、走行路の含浸用走行区間の後には、走行する粘着シートの粘着面に帯状の剥離ライナーを貼り合わせていく剥離ライナー貼り合わせ部が設けられている、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造装置。
(9)さらに、走行路には、含浸用走行区間の後に、帯状を呈する第二の粘着シートを供給する第二の粘着シート供給部が設けられ、
第一の粘着シートの粘着面に、第二の粘着シートの粘着面を貼り合わせるように、第一の粘着シートと第二の粘着シートとを貼り合わせる構成となっている、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造装置は、粘着シートが所定長の走行路を走行中に、薬液塗布部により粘着シート上に塗布された薬液が粘着シートに含浸できるように、含浸用走行区間が特別に設けられている。粘着剤層には、液状成分を含有させているので、粘着シートが走行路を走行する短い時間のうちに、粘着剤層への薬液の含浸が完了することが可能である。また、含浸用走行区間は、粘着剤層の薬液塗布面に他の部材が接触することのないよう粘着シートが走行可能に設けられるので、薬液が粘着シートに実質的に均一に含浸する。従って、本発明の製造装置は、薬液を、液状成分を含む粘着シートに含浸させて経皮吸収製剤を連続的かつ効率的に製造することに特に適する。
また、粘着シートの製造分野の技術者であっても予測できない点として、本発明の製造装置によれば、薬液塗布部により薬液がたとえ液滴状に粘着シート上に塗布された場合であっても、粘着シートが該走行路を走行中に、薬液が粘着シートに含浸され、実用上差し支えない程度に均一に薬物を含有する経皮吸収製剤を製造できるということが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明による製造装置(当該装置)の主要部だけを概略的に示した図である。図中の粘着シートは積層体であるが、各層の厚さは作用効果が判り易いように誇張して描いている。
同図に示すように、当該装置は、帯状を呈する第一の粘着シート3を走行路へ送り出す粘着シート供給部Aを有している。以下、後述の「第二の粘着シート」と区別しなければならない場合を除いて、「帯状を呈する第一の粘着シート」を、単に「粘着シート」と呼んで説明する。
本発明では、粘着シートは、シート状物を連続的に生産し加工を行なうために、該シート状物に裁断する前の原幅を持った長い帯状の形態となっており、その長手方向に走行する。
粘着シート供給部自体の詳細な機構の図示は省略している。走行路は、粘着シートの通過経路であって、ロールやガイド板などによって構成されるものである。
粘着シート3は、粘着剤層2を少なくとも有し、該粘着剤層2は、さらに、粘着剤と液状成分とを含有しており、その液状成分は粘着剤と相溶するものである。粘着剤と液状成分の各材料の詳細は後述する。粘着シートの好ましい態様は、図1に示すように、支持体シート1と粘着剤層2とが積層されたものである。
【0010】
当該装置は、走行する粘着シート3の粘着面2a(即ち、粘着剤層2の両主面のうち薬物を塗布し得るように露出した面)に、薬液4を定量塗布する薬液塗布部Bを有する。
ここで、〔薬液塗布部Bにおいて塗布される薬液〕と、〔粘着シートの粘着剤層に含まれる粘着剤、液状成分〕との関係が当該装置の構成には重要である。本発明では、薬液塗布部Bにおいて塗布された薬液が、粘着面に液体単独として残ることなく、比較的速やかに粘着剤層中に浸透・移行し含浸した状態となければならない。従って、本発明では、前記のように、該薬液を粘着面に塗布した後、該薬液が粘着剤層中に速やかに含浸して経皮吸収及製剤となるような関係にある〔薬液〕と〔粘着剤層に含まれる粘着剤、液状成分〕とを予め選択しておく。具体的な各材料の例示や組み合わせ、薬液の好ましい塗布方法は後述する。
【0011】
上記のように選択された〔薬液〕と〔粘着剤層に含まれる粘着剤、液状成分〕との組み合わせに応じて、当該装置には、走行路の薬液塗布部から後に、含浸用走行区間Cが設けられる。この含浸用走行区間Cは、少なくとも、塗布された薬液が粘着剤層中に全て含浸する間、粘着剤層の薬液塗布面(薬液が塗布された状態の粘着面)に他の部材を触れさせないように該粘着シートを走行させる区間である。
〔塗布された薬液が粘着剤層中に全て含浸する間〕とは、塗布された薬液が粘着剤層中に全て含浸するために要する最小限の時間だけでなく、必要に応じて、余分な時間を含んでいてもよい。
前記した、薬液塗布面に他の部材を触れさせないように粘着シートを走行させる場合の〔他の部材〕とは、粘着シートの進行方向を変えるために粘着面に接するように設けられるロールやガイド板、製品とするために貼りあわせる剥離ライナーなど、粘着面に接して薬液の粘着剤層中への含浸に悪影響を及ぼすような物体である。図1では、含浸用走行区間Cの後、最初に粘着面に接する他の部材は、後述の剥離ライナー貼り合わせ部Eにおいて粘着面に貼り合わせられる剥離ライナー5である。
【0012】
従来の粘着シートの製造装置では、薬物および有機溶媒等を含有する粘着剤溶液を、帯状の支持体または剥離ライナーなどに塗布し、塗布された粘着シートは、塗布直後の走行路に設けられた乾燥装置等の乾燥手段由来の熱風等により、粘着剤溶液中の有機溶媒等を強制的に蒸発させ除去するように構成されている。
従って、そのような従来の装置において、仮に粘着剤層から液状成分を除去することは示唆されるとしても、液状成分を含浸させることの示唆はない。まして、塗布された薬液が粘着剤層中に含浸するまでの所定時間だけ、粘着シートが走行し得る本発明独自の含浸用走行区間は、従来の装置には設けられることの示唆はない。
本願発明の粘着シートの製造装置では、粘着シートに乾燥手段の対象となることなく粘着シートをそのような走行区間を走行させるだけで自発的に薬液が粘着剤層に含浸することが可能である。
よって、本発明の製造装置では、粘着剤溶液を、帯状の支持体または剥離ライナーなどに材料が塗布された後は、粘着剤層中の薬物および粘着剤層は、乾燥手段による熱および風圧などの過酷な条件下におかれることがないので、粘着剤層は悪影響が低減化される。具体的には、従来、薬物が飛散、気散したり熱変成することによって生じていた不良が、本発明では抑制される。
本発明では、含浸用走行区間Cを設けたことによって、粘着面に塗布され該面から盛り上がった状態で付着していた薬液は、少なくともこの区間を通過する間は、他の部材の接触による妨害を受けることなく、自然に粘着剤層内に含浸し、均質で好ましい経皮吸収及製剤が形成される。
【0013】
薬液塗布部Bや含浸用走行区間Cの詳細な態様を説明する前に、それらの好ましい態様を決定するための前提となる、薬液、粘着剤層に含まれる粘着剤と液状成分、製造目的とする経皮吸収剤の態様を次に説明する。
【0014】
本発明でいう薬液には、自体が液状を呈する薬物である液状の薬物、薬物を任意の液体に溶解させた薬物溶液、微粒子状の薬物が任意の液体中に実質的に均一に分散された薬物分散液または、これらの混合物が含まれる。製造工程が簡便である観点から、薬液としては薬物溶液または液状薬物が好ましく、液状薬物がより好ましい。
前記のような液体としては、有機化合物および/または無機化合物などが挙げられ、これらは一種または2種以上の組み合わせでもよい。薬物との相溶性および粘着剤との相溶性の観点から、そのような液体は有機化合物であることが好ましい。そのような液状の有機化合物としては、脂肪酸アルキルエステル、アルコールなどが挙げられる。具体的な有機化合物材料としては、粘着剤層に含有させる液状成分の材料例として後に列挙する液状の有機化合物が挙げられ、それらのなかから、該液状成分に用いる物質とは独立的に選択してよい。
薬液を粘着剤層に効率的に含浸させるためには、薬液に含有される液体と、粘着剤層に含有される液状成分は同種であるのが好ましい。また、薬物溶液は、増粘剤、高分子樹脂などを含有してもよい。
薬液中の薬物の濃度は、薬物が0重量%より多く含まれかつ薬液が液体である限り特に限定されない。薬物溶液または薬物分散液を用いる場合、薬物の濃度は100重量%未満であり、液状の薬物を用いる場合、薬液として液状の薬物を溶媒で希釈せずに用いる。即ち、薬液は、薬物そのものであってもよいので、薬液における薬物の濃度は100重量%以下である。
【0015】
薬物としては、特に限定されず、哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗てんかん薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、抗うつ用薬、禁煙補助薬などが挙げられる。
【0016】
ここにいう液状の薬物とは、室温、すなわち25℃で流動性を有する、すなわち薬物の粘度が0.05〜100,000mPa・sである薬物をいう。そのような液状薬物としては、例えば、エメダスチン、クロタミトン、ガロパミル、ニトログリセリン、テルビナフィン、オキシブチニン、β−ブロッカー、ニコチンおよびそれらの誘導体などが挙げられる。効率的に経皮吸収製剤を製造する観点から、薬液は粘着剤層に速やかに含浸するものが好ましく、このような薬液の例としてニコチンが挙げられる。
薬液の粘度は特に限定されないが、容易に塗布できる観点から、0.05〜100000mPa・sであることが好ましい。ここにいう液状の薬物または薬液の粘度は、該薬液試料を25℃に保温しながらE型粘度計を用いて測定する。
【0017】
粘着剤層に含浸させる薬物の量は、投与目的に応じて適宜設定することができるが、好ましくは粘着剤層の1〜40重量%程度、より好ましくは1〜20重量%、もっとも好ましくは5〜20重量%含有させることが好ましい。1重量%未満の場合治療効果が不十分となる恐れがあり、40重量%を超える場合皮膚刺激が発生し経済的に不利となる恐れがある。
薬液が特定の接触角すなわち90〜180度を示す場合、薬液を通常の粘着剤層に直接塗布すると、薬液が粘着剤層に反発され、薬液が直ちには粘着剤層に含浸されないので、薬液を経皮吸収させるための経皮吸収及製剤を効率的に製造することができないおそれがある。
そこで、後述のように粘着剤層に、薬液の含浸に適合した液状成分を含有させることによって、本発明の製造装置により効率的に経皮吸収製剤が製造できる。
【0018】
当該装置によって製造すべき経皮吸収製剤の好ましい剤型は、粘着剤層が液状成分を多量に含有する点から、支持体シート上に該粘着剤層が形成された積層構造であることが好ましい。また、粘着剤層の粘着面は剥離ライナーで覆われていることが製品として好ましい態様である。
最終的な製剤の形態が前記のような積層体の場合、当該装置において粘着シート供給部から走行路へ送り出される粘着シートは、支持体シート上に粘着剤層が形成された積層体であってもよいし、逆に剥離ライナー上に粘着剤層が形成された積層体であってもよい。いずれの態様でも、粘着剤層表面に薬物を塗布し得る状態で供給されればよい。
剥離ライナー上に粘着剤層が形成された積層体が供給される場合、粘着剤層の両主面のうち、薬物が塗布された粘着面には支持体シートが貼り合わせられ、使用の際には、剥離ライナー側の粘着面が生体に接触する面となる。支持体シートと粘着剤層との間には、必要に応じて、他の層が存在してもよい。
【0019】
当該装置の粘着シート供給部Aは、粘着シートが巻き取られてなる材料ロールを保持し巻き戻して送り出す装置や、その際に剥離ライナーを分離し巻き取る装置など、粘着シートを走行路へと送り出すために必要な機構を備えていてもよい。また、そのような機構は当該装置の外部で連動する他の装置であってもよく、その場合、当該装置の粘着シート供給部は、外部装置から送られる粘着シートを受け入れて走行路へと送り出すための単なる受入口や受入れ装置などの態様となる。当該装置の粘着シート供給部は、そこから粘着シートが走行路へと送り出されるように構成されていればよい。
【0020】
粘着剤層の構成成分である粘着剤は、ゴム系粘着剤、ビニル系粘着剤、アクリル系粘着剤等の経皮吸収製剤の分野で一般に用いられている粘着剤を用いることができるが、架橋処理を施すことができる性質を持っている粘着剤が好ましい。
【0021】
ゴム系粘着剤としては、例えば、シリコーンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム等を主成分とした粘着剤が挙げられる。
ビニル系粘着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルキルエーテル、ポリ酢酸ビニル等を主成分とした粘着剤が挙げられる。
アクリル系粘着剤としては、特に限定されないが、架橋処理のしやすさの点からは(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として共重合した共重合体を用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が4〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル等)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種もしくは2種以上を併せて用いることができる。これらのうち、常温で粘着性を与えるためにガラス転移温度を低下させるモノマーが好ましく、アルキル基の炭素数が4〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル等、好ましくはブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、特に好ましくは2−エチルヘキシルである(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。アルキル基の炭素数が4〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシルが好ましく、なかでもアクリル酸2−エチルへキシルが最も好ましい。
【0022】
また、上記モノマーと共重合する第二の成分として、架橋剤を用いる際の架橋点となりうる官能基を有したモノマーを用いてもよい。本発明では、官能基として水酸基又はカルボキシル基を含有するビニルモノマーを用いることが好ましい。第二の成分のモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例、アクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸などが挙げられる。これらの第二のモノマー成分は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記第二のモノマー成分以外に第三のモノマー成分を共重合してもよい。これらは粘着層の凝集力調整や薬液の溶解性や放出性の調整のために用いることができる。このような第三のモノマー成分としては、例えば、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニルアミド類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、α−ヒドロキシメチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー、(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル等のアルコキシル基含有モノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルモルホリン等のビニル系モノマーなどが挙げられる。これらの第三のモノマー成分は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明において、アクリル系粘着剤として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと上記第二のモノマー成分との共重合体を用いる場合、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル:第二のモノマー=40〜99.9:0.1〜10程度の重量比で配合して共重合させればよい。
さらに、上記第三のモノマー成分を用いる場合は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル:第二のモノマー:第三のモノマー=40〜99.9:0.1〜10:0〜50程度の重量比で配合して共重合させればよい。
重合反応は、自体公知の方法で行うことができ、例えば、上記のモノマーを、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等)を添加して、溶媒(酢酸エチル等)中で、50〜70℃で5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0025】
上記粘着剤のなかでも、架橋剤を用いて架橋処理が容易に行えるという点からは、シリコーンゴム及びアクリル系粘着剤が好ましい粘着剤である。とりわけ、後述の液状成分を含有させることで容易に薬液が粘着剤層に含浸可能である点でアクリル系粘着剤が好ましい。
【0026】
本発明では、上記粘着剤と相溶する液状成分を、粘着剤層に含有させる。
〔液状成分が粘着剤と相溶する〕とは、化学的に溶解する場合のほか、実質的に均質に分散する場合も含まれる。
本発明では、粘着シートに液状成分が含有されているので、塗布時に薬液が粘着剤表面上ではじかれることが抑制され、薬液を均一に塗布することができ、薬液が粘着シートに速やかに含浸される。これによって、薬液を粘着剤層に直接塗布し、高精度な含有量均一性を保持しつつ連続的に経皮吸収製剤を製造することが可能となる。
また、液状成分は、粘着剤を可塑化させてソフト感を付与し、経皮吸収剤を皮膚から剥離する時に皮膚接着力に起因する痛みや皮膚刺激性を低減する効果も奏する。
また、液状成分は、薬物含有前(即ち、薬液塗布前)の粘着剤層に対する薬液の接触角を20〜60°など浸透に適当な値に調節するものである。
従って、液状成分としては、粘着剤に対する可塑化作用を有し、粘着剤層に対する薬液の接触角を調節し、粘着剤層への吸収速度を向上させるなど、経皮吸収製剤の製造を可能とするものである限り、如何なる液状物質を使用してもよい。複数の薬物を併存させる場合には、経皮吸収性を向上させるため吸収促進作用を有するものを用いることも可能である。
【0027】
液状成分としては、粘着剤との相溶性の観点から有機化合物が好ましく、例えば、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリン等の油脂類、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、メチルピロリドン、ドデシルピロリドン等の有機溶剤類、液状の界面活性剤類、アジピン酸ジイソプロピル、フタル酸(ジ)エステル(例、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)等)、セバシン酸ジエチル等の可塑剤類、流動パラフィン等の炭化水素類、脂肪酸アルキルエステル(例、アルキル部分が炭素数1〜13の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキルであるアルコールと、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルなど、具体的には、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリン酸エチル等)、グリセリン脂肪酸エステル(例、グリセリンと炭素数8〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルなど、具体的には、カプリル酸・カプリン酸トリグリセリドなど)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(例、プロピレングリコールと炭素数8〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルなど、具体的には、ジカプリル酸プロピレングリコールなど)、ピロリドンカルボン酸アルキルエステルなどの脂肪酸エステル類、脂肪族ジカルボン酸アルキルエステル(例、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキルであるアルコールと、炭素数6〜16の飽和又は不飽和の脂肪族ジカルボン酸とのエステルなど、具体的には、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチルなど)、オクチルドデカノール等の高級アルコール、シリコーン油、エトキシ化ステアリルアルコールなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を配合して使用することができる。これら液状を呈する有機化合物のなかでも、上記例示の脂肪酸アルキルエステル(例、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピルなど)、グリセリン脂肪酸エステル(例、カプリル酸・カプリン酸トリグリセライドなど)が好ましく、特にミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステルの使用が好ましく、グリセリン脂肪酸エステルの中でもカプリル酸・カプリン酸トリグリセライドが特に好ましい。
【0028】
本発明においては、上記液状成分により、薬物含有前(すなわち、薬液塗布前)の粘着面に対する薬液の接触角を20〜60°に調整するのが好ましい。接触角が60°より大きいと塗布した薬液が粘着面上ではじかれ、均一に塗布することができない。接触角が20°より小さいと、粘着シート上で薬液が流れ、均一に塗布することができない。
また接触角を20°より小さくするためには上記液状成分の比率を非常に大きくする必要があり、粘着力や凝集力、タックなどの粘着物性のバランスが悪くなり、剥れや糊残りが生じる原因となる。接触角は25〜55°の範囲であることがより好ましく、25〜50°の範囲であることが最も好ましい。
【0029】
ここにいう「接触角」とは、特に限定する場合を除き、粘着面上に液滴量1.1μLの薬液液滴を接触させ、1秒後の接触角を室温23±2℃、相対湿度60±10%RHの条件下で測定したときの接触角をいう。
ここにいう粘着面に対する薬液の接触角は、具体的には、以下のように測定する:
ガラス製のスライドグラスに、試料を粘着剤層の粘着面を上にして固定し、装置に装着する。粘着面上に薬液の液滴1.1μLを接触させ、上記条件下、1秒後の接触角を測定する。また、引き続き9秒ごとの接触角の経時変化を3分まで測定する。
詳細には、上記接触角は、協和界面科学株式会社製の接触角測定装置モデルDropMaster 700を用いて測定する。
該測定装置の測定機能は次のとおりである。測定範囲;接触角0〜180°、測定精度;接触角±1°、表示分解能:接触角0.1°、測定位置決定:PC画面にて操作、定量液滴作製:自動、着液制御/着液認識:自動、接触角解析:自動。
ガラス製のスライドグラスに(架橋)粘着剤層を剥離ライナーの面を上向きに固定し、装置に装着する。剥離ライナーを剥がして、露出した粘着剤層の粘着面上に薬液の液滴を接触させ、1秒後の接触角を室温23±2℃、相対湿度60±10%RHの条件下で測定する。薬液の液滴量は1.1μLに調整する。
所望により、引き続き9秒ごとの接触角の経時変化を3分まで測定する。
【0030】
経皮吸収製剤を安定して製造するためには、塗布された薬液が粘着剤層中に急速に吸収されていく過程が必要であり、実際に薬液の粘着剤層中への吸収が確認されている。そのため、粘着面上の薬液の接触角は安定ではなく、薬液の粘着剤への吸収により接触角の低下が観察される。この接触角の低下率(変化率)が大きければ大きいほど安定した製造条件が得られることとなる。
本発明においては、以下の式で定義される粘着剤に対する薬液の接触角において、薬液の滴下1秒後の接触角に対する薬液の滴下3分後の接触角の変化率が15%以上である粘着剤層を用いることが好ましい。
接触角の変化率={(接触角の変化量)/(1秒後の接触角)}×100
ここで、接触角の変化量=(3分後の接触角)−(1秒後の接触角)
【0031】
薬液がニコチンである場合、ニコチンの粘着剤層への含浸速度は、液状成分の種類や量を適宜調整することによって、0.3〜6.7mg/cm2・分の範囲に調整することが好ましい。
含浸速度が0.3mg/cm2・分以上であれば、所定のニコチン量を適度な走行速度と適度な含浸用走行区間にて粘着剤層中に含浸させることができ、ニコチンの含有量バラツキが少ない。含浸速度が6.7mg/cm2・分以下であれば、粘着剤層中の液状成分の比率も好ましい範囲内であり、粘着力や凝集力、タックなどの粘着物性のバランスが良く剥れや糊残りが生じにくい。
【0032】
薬液がニコチンである場合、含浸速度の更に好ましい範囲は0.5〜5.0mg/cm2・分であり、最も好ましい範囲は0.8〜3.8mg/cm2・分の範囲である。この範囲に設定するための粘着剤層中の粘着剤と液状成分との配合割合は、重量比で(1:0.25)〜(1:1.8)、皮膚刺激の観点からは好ましくは(1:0.4)〜(1:1.6)であり、すなわち液状成分を多量に含有させることが好ましい。
薬液がニコチンである場合、特に、液状成分として、脂肪酸アルキルエステル、とりわけミリスチン酸イソプロピル、グリセリン脂肪酸エステル、とりわけカプリル酸・カプリン酸トリグリセリドなどを使用し、かつ粘着剤層中の粘着剤と該液状成分との配合割合を上記の範囲とすることが好ましい。特に良好な経皮吸収性と接着性の良好なバランスを得る観点からは、脂肪酸アルキルエステルとグリセリン脂肪酸エステルとの共存系が好ましい。上記液状成分の配合割合を容易に実現する観点から、架橋されたアクリル系粘着剤が好ましい。
【0033】
粘着剤に添加する液状成分と同じものを、一部薬液に混合して塗布することによっても、粘着剤に対する薬液の接触角が低下する。これは、本発明者らにより見出された現象である。
液状成分を添加する量が多いほど接触角を低下させることができるが、極端に多いと薬液を規定量塗布するために、多くの液を塗布する必要が生じ、好ましくない。また、添加する液状成分が極端に少ないと接触角を低下させる効果が少ない。従って、液状成分を薬液に添加する割合は、薬液と液状成分の混合液全体に対し、液状成分を1〜50重量%添加するのが好ましく、5〜30重量%添加するのがより好ましく、10〜20重量%添加するのがさらにより好ましい。
【0034】
粘着剤層の厚さは、特に限定はされないが、通常40〜250μm程度であり、好ましくは50〜240μm、皮膚接着性や薬液の経皮吸収性の点からは60〜200μmがより好ましく、70〜200μmがさらに好ましい。
【0035】
ヒトなどの皮膚に適用される際に適度な凝集力を提供するためには、粘着剤層に架橋処理を施すのが好ましい。架橋処理としては、例えば、イソシアネート系化合物(例えば、コロネートHL(商品名、日本ポリウレタン製)など)、金属キレート化合物(例えば、チタン、ジルコニウム、亜鉛又はアルミニウムからなる金属キレート化合物、具体的にはアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、有機過酸化物、エポキシ化合物、メラミン樹脂、金属アルコラート等の架橋剤を用いた化学的架橋処理や、UV、γ線、電子線等を用いた物理的架橋処理が挙げられる。中でも、反応性や取り扱い性の観点から、イソシアネート化合物、チタン、ジルコニウム、亜鉛もしくはアルミニウムから構成される金属アルコラート又は金属キレート化合物等の架橋剤を用いた化学的架橋処理が好ましい。これらの架橋剤は、塗布、乾燥までは溶液の増粘現象を起こさず、極めて作業性に優れている。
架橋剤の配合量は、粘着剤100重量部に対し、0.01〜5.0重量部程度である。かかる範囲内であれば、粘着剤層の凝集力と皮膚接着力のバランスが良く、剥離時の糊残りや皮膚刺激の発生が少ない。
【0036】
化学的架橋処理は、自体公知の方法で行えばよく、一般には架橋剤の添加後、架橋反応温度以上に加熱することにより行うことができる。加熱温度、時間は架橋剤の種類に応じて適宜選択すればよい。通常、加熱温度は、50〜140℃程度であり、加熱時間は1日〜1週間程度である。
【0037】
支持体シートの材料や組織は、特に限定はされないが、粘着剤層に含浸される薬液が支持体シートを通って失われて含有量低下を起こさないもの、即ち薬液が不透過性の材質からなるものが好ましい。
好ましい支持体シートとしては、例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、金属箔、ポリエチレンテレフタレート等の単独フィルム、およびこれらの1種または2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルムなどを用いることができる。
これらのうち、支持体シートと粘着剤層との間の接着性(投錨性)を向上させるために、支持体シートを例えば上記の材質からなる無孔シートと下記の多孔シートとのラミネートシートとし、多孔シート側に粘着剤層を形成することが好ましい。このような多孔シートとしては、支持体シートと粘着剤層との投錨性が向上するものであれば特に限定されず、例えば、紙、織布、不織布(例えば、ポリエチレンテレフタレート不織布など)、上記のフィルム(例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、金属箔、ポリエチレンテレフタレート等の単独フィルム、およびこれらの1種または2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルムなど)に機械的に穿孔処理したシートなどが挙げられ、紙、織布、不織布(例えば、ポリエチレンテレフタレート不織布など)が特に好ましい。
【0038】
支持体シートの厚さは、投錨性向上や製剤全体の柔軟性を考慮すると、10〜500μmの範囲とするのが好ましい。
また、多孔シートとして織布や不織布を用いる場合、目付量を5〜50g/mとすることが好ましく、投錨力の向上の点からは8〜40g/mとすることがより好ましい。
無孔シートと多孔シートとのラミネートシートとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムとポリエチレンテレフタレート不織布とのラミネートシートなどが挙げられる。
【0039】
上記した、薬液の粘着剤に対する接触角、粘着剤層への含浸速度は、薬物が薬液以外の場合も同様であって、粘着剤層の厚さ、粘着剤層への架橋処理などは、各薬物に最適な値を適宜選択すればよい。
【0040】
当該装置に供給すべき粘着シートの製造方法としては、以下の態様が例示される。
(i)粘着剤と、液状成分と、必要に応じて加えられる架橋剤との混合溶液をよく撹拌した後、支持体(または剥離ライナー)上に該溶液を塗布し乾燥させて粘着剤層を有する積層体とする。この工程が、当該装置から独立した別の工程である場合、いったん粘着剤層上に剥離ライナー(または支持体)を貼り合わせてもよい。また、必要に応じ加熱などの架橋処理を行ってもよい。
(ii)次いで、薬物を塗布すべき粘着面を露出させた粘着シートを粘着シート供給部から走行路へ送り出す。薬液塗布部と含浸用走行区間とを経た後、剥離ライナーや支持体シートなど、完成品のために必要なシートを適宜貼り合わせる。
【0041】
走行する粘着シートを第一の粘着シートとし、それに対して、帯状を呈する第二の粘着シートを供給し、第一の粘着シートの粘着面と、第二の粘着シートの粘着面とを合わせるように、第一の粘着シートと第二の粘着シートとを貼り合わせてもよい。この加工の目的は、粘着剤層をより厚くすることである。単なる塗布加工だけでは、粘着剤層を一定以上厚くすることは困難であるが、互いに貼り合わせることで、粘着剤層を容易に厚くすることができる。
第二の粘着シートの粘着剤層にも薬物を含有させておき、粘着剤層を厚くすることによって、薬物のトータルの含有量も多くなるため、貼付後に、薬物をより長くより多く供給することが可能となる。
このような製造態様の場合、走行路には、含浸用走行区間の後に、帯状を呈する第二の粘着シートを供給する第二の粘着シート供給部を設け、剥離ライナーを貼り合わせるごとく、走行する第一の粘着シートに対して第二の粘着シートを貼り合わせる構成とすればよい。また、このような製造態様の場合、どちらか一方の支持体シートを剥離シート(剥離ライナー)とすればよい。
さらに、第二の粘着シートの粘着剤層に含まれる薬物は、第一の粘着シートの粘着剤層に含まれる薬物と同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
【0042】
薬液塗布部において、薬液を粘着面に直接塗布する方法としては、印刷分野で用いられている印刷的手法を利用してよく、例えば、グラビアコーター、フレキソコーター、カレンダーコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、ファウンテン式コーター、ダイコーター、インクジェットなどの手法が挙げられる。印刷的手法を用いる際に粘度調整が必要である場合には、経皮吸収性や粘着物性に影響しない程度であれば、適宜添加物を加えてもよい。
これらの方法は、一般に高い精度が要求される薄膜塗工に適用できる方法であり、本発明のように薬物の含有量均一性が要求される場合にはこれらの方法を用いることが有利である。さらに、本発明では薬液を塗布液として用いるので、低粘度の塗布液でも高い塗布精度が達成できる塗布方式であることが好ましい。さらに、薬液は非常に毒性が高いので製造作業者に対して安全性の高い塗布方式が望ましく、開放系ではない塗布方式が望ましい。これらの点を考慮すると、ダイコーターやピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いる方法が、塗工精度に優れ、閉鎖系にすることが容易であるため、特に好ましい。
【0043】
薬液塗布部において薬液を塗布するための最も好ましい装置の構成としては、ダイコーターが挙げられる。ダイコーターでは、薬液は、供給用タンク(図示せず)から計量ポンプ(図示せず)を用いて、「ダイ」と呼ばれる吐出ヘッドb1へ供給される。
図1に示すように、支持体シート1(または剥離ライナー)に支持された粘着剤層(液状成分を含有する)2が、バックアップロールR1と吐出ヘッドb1との間の隙間を通過するように構成され、粘着面2aに対して接近させた吐出ヘッドb1から、該吐出ヘッドb1から薬液が粘着面2a上に定量的に均一に吐出され塗布されるように構成されている。
図1は、吐出ヘッドb1であるダイの先端から薬液が粘着面上へ定量吐出されている状態の一例を模式的に示している。図1の例では、薬液は連続的に吐出されているが、吐出量と、粘着シートの送り量と、粘着面に対する薬液の接触角との関係から、薬液は粘着面上に液層を形成し続けることなく、塗布直後に水滴状へと細分化する。図1は、その様子を模式的に描いている。図2(b)は、ダイの先端から吐出された薬液が、層状態から水滴状へと細分化する状態を模式的に表す斜視図である。
また、図1では、細分化した薬液が、含浸用走行区間において次第に粘着剤層内に浸透していく状態を模式的に示している。同図では、粘着剤層内に浸透して行く薬液をハッチングによって示唆している。なお、薬液の吐出量、粘着シートの送り量および粘着面に対する薬液の接触角の関係によっては、連続的に吐出された薬液が、そのまま粘着シートの粘着面上に液層を形成しつつ、含浸用走行区間において次第に粘着剤層内に浸透される場合もある。
【0044】
ダイコーターの吐出ヘッドであるダイとしては、例えば、カーテンダイ、ウルトラダイ、リップダイ、スロットダイなどが挙げられる。これらのなかでも、薬液を、粘着面の全幅のうちの半分以上、好ましくは幅全体にわたって吐出し得るよう、吐出口の開口形状が、粘着面の全幅のうちの半分以上、好ましくは幅全体をカバーし得るスロット状となっているスロットダイは、低粘度溶液を高精度に塗布することが可能であり好ましい。
スロットダイの吐出口の開口形状は、図2(b)に示すように、微小なスロット間隙tを短辺として有する長方形であって、その長方形の長辺の方向が、粘着面の幅方向と一致するように、吐出ヘッドが配置されている。
【0045】
吐出ヘッドの位置は、吐出口が、粘着シートに対向する限り特に限定されないが、図1に示すように、粘着シートの背面(粘着面とは反対側の面)に、該シートの進行方向を変えるためのローラR1が接触している位置が好ましい。該ローラR1により粘着シートが裏当てされているほうが、粘着剤層表面が平滑に維持され、薬液の正確な塗布量の制御が容易化する。
図1に示すように、水平回転軸を有するローラR1により粘着シートが裏あてされ、粘着面2aが、該ローラに沿って下向きから上向きへと180度回転するような場合では、吐出ヘッドの位置は、粘着シートの裏にローラが存在する範囲(即ち、図3(b)の例では、粘着シートがローラR1に沿って最下点から最上点まで移動する範囲。換言すると、中間位置mを中心とした±90度の範囲)が好ましい範囲である。
この場合、粘着シートの背後にローラが裏当てとして密着しているので、粘着シートの厚さが変動する以外は、粘着剤層表面と吐出ヘッドとの間の隙間が安定している。よって、該隙間の調整も正確になり、生産も安定する。
図3(b)の例では、粘着シートが水平ローラR1に沿って最下点から最上点まで移動する間の中間位置mを中心として−20度〜+80度の範囲が、吐出ヘッドの配置位置としてはより好ましい範囲であり、そのなかでも中間位置mを中心として±20度、特に±10度が、好ましい配置範囲である。
吐出ヘッドを水平ローラの最下点付近に配置したのでは、薬液を略真上に向けて吐出せざるを得なくなり、一部の薬液が吐出ヘッドの外側をつたって流れ落ちる場合がある。また粘着面に塗布された薬液が含浸する前に流れ、薬液が不均一な塗布となる恐れもある。
また、吐出ヘッドを水平ローラの最上点付近に配置したのでは、薬液を略真下に向けて吐出せざるを得なくなる。下方への吐出では、塗布性自体には大きな影響はないが、作業者が微調整を行う場合に、吐出口を下から上へ覗き込んだ姿勢で操作しなければならないことになり、調整時の作業性が困難となる。
これに対して、最下点と最上点との間の中間位置m付近に吐出ヘッドを配置すると、薬液を略水平方向に吐出できるので、塗工状況のモニタリングや微調整などが容易である。
吐出ヘッドの位置は、粘着シートがローラに沿って下向きから上向きへと180°回転する場合のみならず、ローラに沿って180°未満の角度だけ方向を変える場合も同様である。
【0046】
吐出ヘッド(特に、スロットダイ)の姿勢、即ち、粘着面と液薬の吐出方向とがなす角度は、限定はされないが、吐出ヘッドよりも下流側(図3(a)に示すように、粘着シートが吐出ヘッドの位置よりもさらに走行した側)で計った角度をθ1として、該角度θ1を80度〜110度とするのが好ましい範囲であり、85度〜100度がより好ましい範囲である。
粘着面と液薬の吐出方向とがなす角度θ1が80度未満となると、過度に粘着シート供給部側(上流側)へ向って吐出することになり、液だれの恐れがある。逆に、角度θ1が110度を超えると、過度に下流側の方向へ吐出することになり、平滑塗布が困難のおそれがある。
【0047】
図1の態様では、粘着面2aが、吐出ヘッドb1の吐出口の前を上方へ移動するように走行路を構成している。また、該粘着面2aが吐出口の前を通過した直後に、移動方向を90度変え、該粘着面2aが上面となって水平に移動するように走行路を構成している。これによって、製造装置全体が小型化できるという効果を奏する。
【0048】
計量ポンプとしては、例えば、シリンジポンプ、ギアポンプ、モーノポンプ、ダイヤフラムポンプ、マグネットポンプなどが挙げられる。精度の高さなどの点からシリンジポンプが好ましく、また、ギアポンプ、マグネットポンプも好ましい。
ポンプの計量精度は、薬液塗布の均一性に影響する要因として重要である。
計量ポンプの種類はもちろんであるが、ポンプを駆動させるモーターも重要であり、外乱により回転数の変化の少ないサーボ方式のモーターを使用するのが好ましい。
また、薬液を塗布する際の粘着面の移動速度(粘着シートの走行速度)、およびその精度も重要である。薬液の塗布量や塗布精度は、計量ポンプの回転数及び回転精度と走行速度との比率のみで大まかに決定することができる。
本発明の製造方法によれば、薬液の吸収速度が十分に速いため、計量ポンプの回転数とライン速度の比率の精度がそのまま塗布精度となりうる。
【0049】
その他に、薬液塗布の均一性に影響する因子としては、薬液供給ライン内部の圧力変動やダイ内部の薬液の流動特性が挙げられる。
薬液供給ライン内部の圧力変動は、計量ポンプの精度によるもの以外に、供給ラインへの気泡の混入によるものがあり、薬液供給ライン内部の気泡は除去しておくことが望ましい。薬液の供給は、気泡が抜けやすいように、回転軸が水平になるようにバックアップロールR1が設置されている場合、バックアップロールR1の回転軸を通る水平面とバックアップロールR1の外周面とが交わる部位を中心として薬液を供給するのが望ましい。また、気泡トラップ装置(図示せず)をライン中に設置するのが望ましい。
【0050】
薬液供給ラインの配管は、気泡が抜けやすいように細い配管を使用するのが望ましい。配管の径の設計は、薬液の供給量により異なるので一概には言えないが、薬液供給量が約3mL/分の場合は、配管の内径は2〜4mmが望ましい。
該配管の材料は、薬液により腐食されなければ如何なる材質であってもよいが、薬液が毒物であることを考慮するとステンレスが望ましい。配管の材料が薬液により腐食されるような材質であっても、配管内部に薬液に対して耐腐食性を有するコーティングを施せばよい。配管内部の気泡を確認する意味では、テフロン(登録商標)配管を用いることも好ましい。
【0051】
薬物を塗布すべき粘着面は、±50μm程度の微細な凹凸を有していてもよい。また、該粘着面は、粘着剤層の厚さのばらつきによって±50μm程度の大きな波打ちがあってもよい。±50μmを超えると塗布量のバラツキのおそれがある。
【0052】
当該装置では、薬液を溶媒等の補助物質に溶解せずそのまま塗布液として用いるため、塗布液が低粘度であり、塗布のライン速度を大きくすることが可能であり、生産性の向上や塗布精度の向上に非常に有利である。
【0053】
ダイの中での塗布液の流動特性も均一塗布には重要である。特に幅広いダイでの幅方向の均一性はダイ内部の構造に依存するので、薬液塗布用に十分設計されたダイを用いるのが望ましい。
【0054】
薬液に対して不活性な金属フィルムまたはプラスチックフィルムをシムとして用い、これをダイに挟み込むことによって、吐出スロットの隙間を微調整することができる。シムとしては種々の厚さを持ったフィルムを用いることができる。
薬液に対して不活性な金属フィルムとしては、ステンレスフィルム、亜鉛箔フィルム、チタン箔フィルムなどが挙げられる。薬液に対して不活性なプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、テフロン(登録商標)フィルム、酢酸セルロースフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアミドフィルムなどが挙げられる。機械的強度をまた考慮すると、最も好ましいシムの材質としてはポリエチレンテレフタレートフィルム及びステンレスフィルムが挙げられる。シムの厚さは塗布厚や塗布ラインの速度に影響されるが、塗布厚15〜20μmの場合は、20μm〜100μmが好ましい。
【0055】
図2(a)に示すように、ダイの先端面と粘着面2aとの間の隙間gは、50μm〜1000μm、特に、100μm〜800μmが好ましい範囲である。50μm未満だと粘着剤層表面の凹凸に起因する塗布量のバラツキが著しくなる恐れがあり、1000μmを超えると液だれ発生のおそれがある。
【0056】
また、塗布液が毒物であることを考慮して、ダイヘッドやダイの内部、配管、タンクを自動で洗浄する機構を備えておき、薬液の露出部分からの揮発があった場合を考慮して、薬液の露出部分に安全カバーを施したり、作業を行う部屋に排気装置を備え付けることが望ましい。
【0057】
薬液の塗布は、通常、室温下で実施するが、室内の温度変化により、薬液の比重が変化し、塗布量の変動につながるので塗布する薬液の温度は一定に保つことが好ましい。薬液の温度を一定に保つために、ダイや配管、タンクに温度を一定に保つ装置を付属させてもよい。薬液を高温にして塗布すれば、粘着剤層への薬液の浸透速度は速くなるが、薬液の揮散により作業者に危険が及ぶようになる。従って、作業者の安全性の観点からは、低温の薬液の塗布が好ましく、0〜40℃、好ましくは5〜30℃、更に好ましくは10〜25℃に薬液の温度を保つのがよい。温度変化は±2℃以内であるのが好ましい。
【0058】
薬液としてニコチンを採用する場合、ニコチンは吸湿性があるので、湿度管理がされていない高湿度の場所で長時間保存することは避けた方がよい。しかしながら、極端に低湿度下では静電気スパークによるニコチンへの引火の危険がある。従って、相対湿度で40〜60%の一定湿度に湿度管理された場所で塗布するのが望ましい。
【0059】
含浸用走行区間Cの長さは、薬液の種類により異なり得るが、好ましくは70mm〜30000mmであり、より好ましくは1000mm〜20000mmである。70mm未満の場合、含浸時間が十分確保できないおそれがあり、30000mmを超える場合、装置が大型化し経済的に不利となる恐れがある。
薬液がニコチンである場合についてさらに具体的な例を挙げる。薬液としてニコチンを採用するばあい、含浸用走行区間Cの長さは、ニコチンの単位面積当たりの塗布量(供給量)、ニコチンの粘着剤層中への浸透速度、粘着シートの送り速度に応じて決定する。
この含浸用走行区間の長さは、最低限の長さであって、装置をより大掛かりにする余裕があれば、上記範囲を考慮しながら、該区間の後も粘着面に他の固体を接触させないように粘着シートをそのまま走行させてよい。
【0060】
ニコチンの、粘着剤層への含浸速度は、好ましくは0.3mg/cm2・分〜6.7mg/cm2・分、より好ましくは0.5mg/cm2・分〜5.0mg/cm2・分、最も好ましくは0.8mg/cm2・分〜3.8mg/cm2・分である。
6.7mg/cm2・分以下であれば粘着剤層中の液状成分も比率も好ましい範囲内であり、粘着力、凝集力、タックなどの粘着物性のバランスが良く、剥がれや糊残りが生じにくい。含浸速度が0.3mg/cm2・分以上であれば、所定のニコチン量を塗布工程中に効率的に粘着剤層中に含浸させることができる。
【0061】
ニコチンの単位面積当たりの塗布量は治療効果および経済性の観点から好ましくは、最低濃度の製剤では1.6(mg/cm2)、最高濃度の製剤では、5.5(mg/cm2)程度である。
ニコチンの粘着剤層中への浸透速度は、前述の通り、好ましくは0.3〜6.7(mg/cm2・分)程度である(そのような浸透速度となるように粘着剤と液状成分とが混合されている)。
このとき、粘着面上に塗布したニコチンが全て粘着剤層中に浸透するための時間は、好ましくは15秒〜1100秒、より好ましくは20〜660秒、最も好ましくは25〜410秒程度である。少なくともこの時間を、含浸用走行区間によって確保する。
一方、粘着シートのライン走行速度は、粘着シートの強度や、安定な塗布の点からは、好ましくは0.064mm/秒〜2000mm/秒、より好ましくは0.64mm/秒〜200mm/秒、もっとも好ましくは4.7mm/秒〜27mm/秒である。
含浸用走行区間の長さが前記範囲よりも短いと、薬液が液状のまま粘着面に残った状態で他の部材に触れ均一な塗工ができず、また、含浸用走行区間の長さが前記範囲よりも過剰に長いと、それだけ装置全体が大きくなってしまうなどの欠点も現れるので好ましくない。
【0062】
薬液の塗布では、既に述べたように、計量ポンプの回転数と走行路における粘着シートの送り速度の比率のみで塗布精度が決まるので、計量ポンプとライン速度の間の電気的な信号を制御したり、回転数をフィードバックする機構を持たせ、ライン速度を増加させれば自動的にポンプの回転速度が一定の比率で増加するように設計することが望ましい。
【0063】
さらに、走行路の含浸用走行区間の後には、走行する粘着シートの薬物含浸した粘着剤層に帯状の剥離ライナーを貼り合わせていく剥離ライナー貼り合わせ部Eが設けられている。図1の態様では、剥離ライナー貼り合わせ部Eの主要部である2つのローラR2とR3との間を粘着シートが通過する際に、剥離ライナー供給部Dから同期的に供給された剥離ライナー5が粘着シート3に貼り合わせられ、完成品となって製品受取り部Fへと送られている。
剥離ライナー供給部Dにおいて剥離ライナーを供給するための装置の構成、剥離ライナー貼り合わせ部Eにおいて、剥離ライナーを粘着面に同期的に貼り合わせていく機構や技術自体は、従来公知の粘着シートの製造技術を参照してよい。
【0064】
剥離ライナーは、経皮吸収製剤に一般に用いられるものを用いればよい。例えば、公知の剥離処理剤(例えば、長鎖アルキル基含有ポリマー、シリコーンポリマー、フッ素系ポリマーなど)で剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルムなどが挙げられる。剥離ライナーの厚さは、通常25〜500μmである。
【0065】
図1の構成では、走行路の最終部分は、製品受取り部Fとなっている。製品受取り部Fは、剥離ライナー5が付与されて製品として完成した経皮吸収及製剤(帯状物)をロールとして巻き取る部分であってもよいし、当該装置の外部で連動する巻取り装置や、次の加工装置へ経皮吸収及製剤を送り出すための単なる送出口であってもよい。
【0066】
当該装置によって製造され経皮吸収製剤の形状、大きさは、特に限定されず、貼付部位等に合わせて任意の形状、大きさとすればよい。形状としては、例えば、テープ状、シート状等を含む。製剤の大きさは、例えば5〜30cm2が挙げられる。
薬液としてニコチンを使用する場合の本発明の方法により製造される経皮吸収製剤は、喫煙者(特に、禁煙希望者)に対し、習慣的禁煙を抑制するための、従来実施されている又は将来実施される禁煙プログラムに沿った薬物補充療法などに用いることができる。
本発明の方法により製造される経皮吸収製剤による薬物の投与量は、薬物の種類、患者の年齢、体重、疾患の重症度等により異なるが、通常、成人に対して薬物5〜120mgを含有した経皮吸収製剤を、皮膚5〜30cm2に、0.5〜2日あたり1回程度貼付する。
【実施例】
【0067】
(粘着剤溶液の調製)
窒素雰囲気下で、フラスコ内にアクリル酸2−エチルヘキシルエステル72部、N−ビニル−2−ピロリドン25部、アクリル酸3部、および酢酸エチル200部を仕込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.3部を添加し重合を開始させた。
攪拌速度と外浴温度の調節、および酢酸エチルの滴下によって、内浴温度を58〜62℃に制御し、重合反応を行い、粘着剤溶液を調製した。
【0068】
(剥離ライナー上への粘着剤層の形成)
上記粘着剤溶液を粘着剤固形分59.79部換算の量を反応容器に量りとり、パルミチン酸イソプロピルを粘着剤固形分に対し10部添加し、ココナードMT(花王製、カプリル酸・カプリン酸トリグリセリド)を粘着剤固形分に対しそれぞれ30部、さらに架橋剤としてアルミニウムアセチルアセトネート(シグマアルドリッチ製)を粘着剤に対し0.35%添加し、よく攪拌した。
得られた溶液を、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚さが70μmとなるように塗布し、70℃で2分間乾燥させた後、さらに、90℃で2分間乾燥させて粘着剤層を形成した。
【0069】
(支持体の貼り合わせ)
ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層した支持体の不織布側を、上記粘着剤層の粘着面に貼り合せて積層体を作製した。その後、該積層体を密封して60℃で48時間放置し、粘着剤層を架橋させて架橋粘着剤層を調製し、粘着剤層に薬物の含まれていないプラセボ粘着シートを得た。
【0070】
経皮吸収製剤の製造装置として、図1に示す装置を作製した。
プラセボ粘着シートのはじめの剥離ライナーを剥がして、粘着面を露出させながら、粘着シート供給部Aから、剥離ライナーが剥されたプラセボ粘着シート3を走行路へ送り出した。
薬液塗布部Bには、塗布装置としてダイコーターを設けた。ダイコーターを用いて、塩を形成していないフリー体のニコチンを架橋粘着剤層の粘着面に塗布した。厚さ35μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムのシムを設置したダイコーターを水平位置に設置し、ダイの吐出ヘッドは架橋粘着剤層に対して垂直に設定した。
ニコチン経皮吸収製剤の原反で、ニコチン含有量が1.8mg/cm2となるように、ダイ先端と架橋粘着剤層との隙間は500μmとし、塗布部を通過するプラセボ粘着シートのライン速度を2m/分とし、フリー体のニコチンの供給量を3.6mL/分とし、塗布幅を10cmとして塗布した。
このときダイからニコチンが粘着シート面に吐出された直後は、図2(b)に示すようにニコチンは、液滴状に架橋粘着剤層の粘着面に存在していたが、粘着シートが走行路の含浸用走行区間Cを走行中に均一に架橋粘着剤層に含浸された。その後、ニコチン塗布面上に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面を貼り合わせ、幅10cm、長さ78mのニコチン経皮吸収製剤の原反を得た。
【0071】
原反を塗工開始0.5mから2mごとに、原反長手方向の一方のエッジ側の端縁から2cmの位置を中心として、および、他方のエッジ側の端縁から2cmの位置を中心として、それぞれに、5cm2の正方形片を打ち抜いて経皮吸収製剤を得た。
それぞれの経皮吸収製剤のニコチン含有量をHPLCで定量した結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
上記表1から明らかなように、1つの同じ経皮吸収製剤の原反における両方のエッジ側のニコチン含有量は、いずれも平均値(A)1.81mg/cm2、標準偏差(SD)0.02mg/cm2、および相対標準偏差%(CV%、SD÷A×100)1.10%であり、均一にニコチンを含む経皮吸収製剤が製造できていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造装置によって、薬液を粘着剤層へ直接塗布し、熱履歴による分解や飛散などのロスが低減され、剥離時の物理的皮膚刺激が少なく、貼付感も良好な経皮吸収製剤を効率よく製造し得るようになった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明による製造装置の主要部だけを概略的に示した図である。
【図2】本発明による製造装置の薬液塗布部を拡大した図である。図2(a)は、吐出ヘッドを側面から見たときの断面図である。図2(b)は、吐出された薬液が、層状態から水滴状へと細分化する状態を模式的に表している。
【図3】薬液塗布部の好ましい態様を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
A 粘着シート供給部
B 薬液塗布部
C 含浸用走行区間
D 剥離ライナー供給部
E 剥離ライナー貼り合わせ部
F 製品受取り部
1 支持体シート
2 粘着剤層
3 粘着シート
4 薬液
5 剥離ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮吸収製剤の製造装置であって、
当該装置は、帯状を呈する第一の粘着シートを走行路へ送り出す粘着シート供給部を有し、前記粘着シートは、少なくとも粘着剤層を有し、該粘着剤層は、粘着剤を含有しかつ該粘着剤と相溶する液状成分を含有するものであり、
当該装置は、走行する粘着シートの粘着面に、液状の薬物および/または薬物溶液である薬液を定量塗布する薬液塗布部を有し、薬液と粘着剤と液状成分とは、該薬液が粘着剤層中に含浸し得るように選択されており、
薬液塗布部から後の走行路には、塗布された薬液が粘着剤層中に含浸する間、粘着シートを走行させるための含浸用走行区間が設けられていることを特徴とする、経皮吸収製剤の製造装置。
【請求項2】
粘着面に対する薬液の接触角が20度〜60度となるように、薬液と粘着剤と液状成分の組み合わせが選択されている、請求項1記載の製造装置。
【請求項3】
薬液が、薬物溶液または液状の薬物である、請求項1または2記載の製造装置。
【請求項4】
薬液塗布部が、粘着面に対して接近させた吐出ヘッドから、薬液を該粘着面に定量吐出し得るように構成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の製造装置。
【請求項5】
薬液が粘着面の全幅の半分以上を覆う領域に吐出されるよう、該吐出ヘッドの吐出口の開口形状が、粘着面の全幅の半分以上をカバーするスロット状となっている、請求項4記載の製造装置。
【請求項6】
走行路には、ローラが粘着シートの背面に接触するように設けられており、該ローラは水平回転軸を有し、該ローラに沿って粘着シートの粘着面が下向きから上向きへと180度回転するように走行路が構成されており、
該ローラの最下点と最上点との間の中間位置を中心として−90度〜+90度の範囲に、吐出ヘッドが設けられている、請求項4または5記載の製造装置。
【請求項7】
粘着面と液薬の吐出方向とがなす角度θ1を、吐出ヘッドよりも下流側で計った角度で表すものとして、該角度θ1が80度〜110度となるように、吐出ヘッドが方向付けられている、請求項4〜6のいずれかに記載の製造装置。
【請求項8】
さらに、走行路の含浸用走行区間の後には、走行する粘着シートの粘着面に帯状の剥離ライナーを貼り合わせていく剥離ライナー貼り合わせ部が設けられている、請求項1〜7のいずれかに記載の製造装置。
【請求項9】
さらに、走行路には、含浸用走行区間の後に、帯状を呈する第二の粘着シートを供給する第二の粘着シート供給部が設けられ、
第一の粘着シートの粘着面に、第二の粘着シートの粘着面を貼り合わせるように、第一の粘着シートと第二の粘着シートとを貼り合わせる構成となっている、請求項1〜8のいずれかに記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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