説明

経皮導入方法

【課題】従来から用いられてきたイオン導入法と称した皮膚表面に電極を介して電気的刺激を印加する方法では表皮角質バリアを分子量が大きい化粧品や薬剤の有効成分などを通過させることは容易ではなく、より効率よく送達できる方法が求められていた。
【解決手段】本発明は、表皮角質バリア下の真皮層に化粧品や薬剤などの有効成分を効率よく送達する為の方法であって、人体体表面の任意の皮膚領域へ高電圧の極短いパルスと、当該高電圧の極短いパルスより低い電圧であって且つ一つのパルス巾或いは半周期が当該極短い電気パルスの巾より長い時間である電気パルス群を組合せた電気的刺激を皮膚に接触させた電極を介して与えることにより、当該高電圧の極短い電気パルスにより一時的に表皮角質バリアを通過する新たな経路を形成させると共に当該電気パルス群によって前記有効成分を真皮層に効率的に送達せしめるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品や薬剤などの有効成分を経皮的に表皮角質バリア下の真皮層に送達する為の方法であって、皮膚表面に電極を介して電気的刺激を印加することにより、有効成分を効率的に真皮層に送達させる技術に関する方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、表皮角質バリアを通過させて真皮層へ化粧品や薬剤などの有効成分を送達する目的で、皮膚表面に電気的刺激を印加する手法はイオン導入法などと称して従来から行われている。
【0003】
イオン導入法には直流電流、パルス電流、交流電流などの印加方法があり、それぞれ機能を単純化して効果を重視したり皮膚ダメージを最小に抑えたり体感刺激が少ないことを重視したりするなどの理由で選択されている。
【0004】
一方で、極短時間の高電圧を細胞懸濁液に印加することで細胞膜に微細な孔を空け、DNAを細胞内部へ送り込むことで細胞を形質転換することができる電気穿孔法と称する方法が行われるようになって来ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002-520101公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら皮膚表面に前記イオン導入法の電流を流しただけでは、表皮角質バリアを分子量が大きい有効成分などを通過させることは容易ではなく、懸案事項となっていた。
【0007】
一方で、細胞膜に微細な孔を空けることが出来る電気穿孔法では薬剤などの有効成分を真皮層に送達するのには不向きであり、生体にそのまま作用させることも不向きである。
また昨今では高電圧を作用させて、その電場により表皮角質バリアの細胞膜に一時的な再配列を生じさせ、細胞の浸透性を増大させることで周囲の有効成分を取り込み易くさせる方法も取られてきているが、それだけでは連続的且つ効率的に送達できないのが現状である。
【0008】
そんな現状を鑑みて、本発明は、前記の様な従来方法をもってしても送達出来難い有効成分に対しても表皮角質バリアを通過させて内部の真皮層に十分な量を短時間に効率的に送達させることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、人体体表面に高電圧の極短い電気パルスと、当該極短い電気パルスより低い電圧であって且つ一つのパルス巾或いは半周期が当該パルスの巾より長い時間である電気パルス群を組合せた電気的刺激を人体体表面の任意の皮膚領域に接触させた電極を介して与えることを特徴としており、電気パルス群は正負双極性パルス若しくは正弦波である波形であってバースト波状に発生し、当該バースト波状の周期は任意であり、その休止期間は無いことも含む任意の時間であることを特徴とする化粧品や薬剤などの経皮導入方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記高電圧の極短い電気パルスは前記電気パルス群のバースト波状の休止期間中に発生し、休止期間が無い場合はバースト波状の周期の区切りで発生することを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記高電圧の極短い電気パルス並びに前記電気パルス群のそれぞれの具体的数値を表しており、前記高電圧の極短い電気パルスの電圧は皮膚表面に印加した場合、約20ボルトないし約150ボルトの範囲であってパルス巾が5μ秒ないし約100μ秒の範囲であり、一方の前記電気パルス群の一つのパルス電圧或いは波高値が絶対値で1ボルトないし20ボルトの範囲であって、そのパルス巾或いは半周期が約100μ秒ないし約1000μ秒の範囲であることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記電気パルス群の波形は正負双極性パルス列若しくは正弦波であり、正負極性電圧のうち、一方の極性電圧を他方の極性電圧より低い電圧に抑え、この低い電圧をバースト周期毎に交番的に反転して発生させることを特徴としている。
低い電圧に抑える方法は、電圧を圧縮する方法に加え一定電圧以上とならない様に電圧カットする方法としても良い。電圧カットする場合は元の波形が正弦波であった場合は波形の先端が一定電圧でクリップされる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記高電圧の極短い電気パルスと前記電気パルス群とを組合せた電気的刺激を発生しうる電気的刺激発生装置を示す。
【0014】
請求項1に記載の発明では、化粧品や薬剤などの有効成分を経皮的に表皮角質バリア下の真皮層に送達する為に考案されたもので、通常のイオン導入法の様な電気的刺激では送達させにくい高分子の有効成分を、極短時間高電圧を皮膚表面に印加させることで表皮角質バリアの細胞の浸透性を一時的に飛躍的に増大させ、直後に電気パルス群を印加することで増大した浸透性と相まって高効率的に皮下に送達させることが出来るものである。
【0015】
請求項1に記載の発明では、電気パルス群のバースト波状の周期を任意とすることで、高電圧の極短い電気パルスによって表皮角質バリアの細胞の浸透性が一時的に増大した間だけ電気パルス群の電気的刺激を与え続けることが出来るものであり、高電圧の極短い電気パルスの電圧やパルス巾の違いに依存して細胞の浸透性が一時的に増大する継続時間の変化に合わせて、バースト波状の周期の時間を変化出来る様にしたものである。
【0016】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載した前記高電圧の極短い電気パルスと前記電気パルス群との具体的な組合せ構成を表したものであり、図1にその波形の一例を指し示す。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載した電気的刺激の具体的な数値を表したものである。
高電圧の極短い電気パルスについては当該電気パルスに設定された電圧やパルス巾によって皮膚へのトラブルが無いと同時に、電気的刺激感についても痛みや不快感が伴わないことが前提であると同時に十分な効果が得られる電気的な値とする必要があり、実証試験の結果により請求項3に示した値の範囲とした。なお、細胞への遺伝子導入法における電気穿孔法に使用される様な高電圧では、人体に作用させるには非実用的なレベルの苦痛が伴うばかりでなくダメージも過大である。
参考までに皮膚への通電では電圧の単位であるVに対し、電気穿孔法においては薄い細胞膜にかける電位差が問題となるので電場強度の単位であるV/cmなどを用いる場合が多い。
【0018】
請求項4に記載の発明では、電気パルス群の波形のうち、一方の極性電圧を他方の極性電圧より低い電圧にバースト周期毎に交番的に反転して発生させることで電気的に不均衡の状態を作り出し、その直流成分によって化粧品や薬剤などの有効成分を高効率的に送達出来る様にすると共に、不平衡の状態を交番的に反転して交互に繰り返すことで、交互に繰り返さない場合に発生し易い直流成分の過多などによる皮膚での分極を起こし難くすることを同時に図っている。図2にその波形の一例を指し示す。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によって、通常のイオン導入法の様な電気的刺激では送達させにくい高分子の有効成分を、短時間で効率的に皮下に送達させることが出来る様になった。
この実証として、化粧品の導入効果に対しては年齢層20代から50代後半の女性被験者10名をランダムに選出し目視、拡大鏡による目視、弾力度など客観的な外観上の変化に加え、被験者に対し使用感と刺激感、肌のトラブル、効果実感レベル、電気的体感、その他複数の設問を設け、それぞれリッカート尺度による質問を行った結果、従来のイオン導入法との比較において効果に明らかな改善的有意差が認められた。
なお質問の尺度は、非常に・比較的・やや・どちらともいえない・やや・比較的・非常に、の7段階とした。
【0020】
請求項2に記載の発明によって、高電圧の極短い電気パルスによって表皮角質バリアの細胞の浸透性が一時的に増大した直後に電気パルス群の電気的刺激を与え続けることが出来る様になり、化粧品や薬剤などの有効成分を高効率的に皮下に送達させることが出来る様になった。
なお高電圧の極短い電気パルスによって表皮角質バリアの細胞の浸透性が増大する時間は僅かであるので、この組合せ構成が有意に作用することに繋がるものである。
【0021】
請求項3に記載の発明によって、実現性を加味させながら化粧品や薬剤などの有効成分を高効率的に真皮層に送達しうる数値が明らかになり、広く普及させることに繋がる様になった。
【0022】
請求項4に記載の発明によって、電気パルス群の波形のうち、一方の極性電圧を他方の極性電圧より低い電圧に抑えて発生させることによって、発生させなかった場合に比べその直流成分により化粧品や薬剤などの有効成分を高効率的に送達出来る様になった。
【0023】
請求項5に記載の発明によって、簡便に化粧品や薬剤などの有効成分を高効率的に真皮層に送達しうる装置の提供がなされた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】添付図面を参照して本発明の実施の一例を説明する。図1は本実施の形態にかかる電気的刺激の波形例であり、バースト波状の休止期間があるものを表している。
【図2】図2は請求項4を表したもので、図1に対応した波形例を示したものである。なお、バースト波状の立ち上がりは電気的刺激を和らげる目的で緩やかに立ち上がってもよく、包絡線については問わない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧の極短い電気パルスと、当該極短い電気パルスより低い電圧であって且つ一つのパルス巾或いは半周期が当該極短い電気パルスの巾より長い時間である電気パルス群を組合せた電気的刺激を、人体体表面の任意の皮膚領域に接触させた電極を介して与えることを特徴とし、電気パルス群は正負双極性パルス若しくは正弦波である波形であってバースト波状に発生し、当該バースト波状の周期は任意であり、その休止期間は無いことも含む任意の時間であることを特徴とする化粧品や薬剤などの経皮導入方法。
【請求項2】
高電圧の極短い電気パルスは電気パルス群のバースト波状の休止期間中に発生し、休止期間が無い場合はバースト波状の周期の区切りで発生することを特徴とする請求項1に記載の経皮導入方法。
【請求項3】
高電圧の極短い電気パルスの電圧は人体皮膚表面に電極を介して印加した場合、約20ボルトないし約150ボルトの範囲であってパルス巾が5μ秒ないし約100μ秒の範囲であり、一方で電気パルス群の一つのパルス電圧或いは波高値が絶対値で1ボルトないし20ボルトの範囲であってそのパルス巾或いは半周期が約100μ秒ないし約1000μ秒の範囲である、請求項1に記載の経皮導入方法。
【請求項4】
電気パルス群の波形は正負双極性パルス列若しくは正弦波であり、正負極性電圧のうち、一方の極性電圧を他方の極性電圧より低い電圧に抑え、この低い電圧をバースト周期毎に交番的に反転して発生させることを特徴とする請求項1に記載の経皮導入方法。
【請求項5】
高電圧の極短い電気パルスと電気パルス群とを組合せた電気的刺激を発生することが可能な請求項1に記載の経皮導入方法が実現できる電気的刺激発生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−78514(P2013−78514A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220859(P2011−220859)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(711011087)株式会社愛和 (1)
【Fターム(参考)】