説明

経皮拡散促進のための方法および装置

本発明は、独特の複雑な特徴を有する異方性磁場の印加による、物質(医薬品、栄養補助食品、生物製剤および薬用化粧品など)の経皮拡散促進のための方法および装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年5月5日に出願されたオーストラリア特許仮出願第2007902418号からの優先権を主張し、その全体の内容が本参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、独特の複雑な特徴を有する異方性磁場の印加による、物質(医薬品、栄養補助食品、生物製剤および薬用化粧品など)の経皮送達促進のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
疾患、傷害または障害を治療および/または予防するための、(医薬品、栄養補助食品、生物製剤および薬用化粧品などとして調製された)製剤中の活性剤の送達は、現代のヒトおよび動物の医学の基礎となっている。同様に、化粧品の皮膚への送達は、健康および美容市場に不可欠なものとなっている。このような物質が有用な効果を有するためには、物質が有益な効果を及ぼすのに十分な濃度で標的部位において物理的および/または化学的に利用できなければならない。
【0004】
患者に活性剤を送達するために多種多様の異なる方法が存在する。このような1つの経路は、経皮経路である。本経路は、皮膚バリアを越えて薬物送達を引き起こす。ヒト皮膚は、皮膚外面から内側に延在して、角質層、表皮、真皮および皮下組織を含む複数の皮膚組織層を含む、複雑な不均質膜である。
【0005】
経皮送達技法は、それらが活性剤の局所または全身送達を可能にするという点で有利である。このような送達は、消化または肝代謝によって変化または影響を受けない物質の所望の濃度を提供しようとしている。
【0006】
皮膚を通じた活性剤の拡散を促進するために、多数の技法が使用されてきた。化学的浸透促進剤は、化学的手段を使用して角質層の拡散係数を変更することによって物質の拡散を促進できる。化学的浸透促進剤は、活性剤ならびにその賦形剤との未知の相互作用および皮膚刺激などの有害な副作用の可能性のために問題を含む可能性がある。さらに浸透促進剤は、分子の可動性を上昇させることによってではなく、皮膚バリアに影響を及ぼすことによってのみ、拡散を促進する。
【0007】
別の拡散促進技法は、イオン泳動と呼ばれ、そこでは電気エネルギー勾配が帯電した標的活性剤を加速して皮膚を超えさせる。この点で、皮膚は、治療中の所望の電流量に対抗する傾向があるインピーダンスを協同的に与える抵抗および容量特徴の両方を含む熱電特性を有する。これらの特性は、角質層によって支配されることが理解される。角質層は、比較的低い含水率を有し、それゆえ比較的良好な導体として作用する、角質細胞の多層から成る。したがって、皮膚インピーダンス全体の実質的なパーセンテージは角質層に起因するものである。
【0008】
イオン泳動は、重要なイオン構造を持つ特定の活性剤のみに好適である。さらにイオン泳動には、皮膚刺激および痛みを生じさせるため、取り外しが可能になる、粘着性電極の使用が必要である。
【0009】
活性剤の可動性および/または運動方向を生じさせる他の技法は可能であるが、これらは性能が不十分であるため実施が困難である。
【0010】
磁性運動は、そのような技法の1つである。反発磁力の使用は活性剤送達用途で用いられてきたが、その利用は常磁性物質および常磁性体でコーティングされた物質に限定されている。
【0011】
磁性泳動は、特異的に構成された反磁性物質である安息香酸などの物質の経皮送達で使用されている、別の技法である。
【0012】
本発明は、医薬品、栄養補助食品、生物製剤、薬用化粧品または化粧品としての利点を有する活性剤のために、改良された送達プロセスを提供しようとするものであり、このプロセスは真皮を経てこれらの活性剤の指向性浸透を増進する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の態様により、対象に活性剤を送達するのに適したデバイスが提供され、上記デバイスは、各磁場の極性が隣接する磁場の極性と反対であり、磁場の各対が絶縁体によって少なくとも部分的に絶縁されるように、磁場が方向的にオフセットされている磁性材料の異方性アレイを備える。好ましくは、磁性材料は、発生した磁場を妨害しないハウジング内に収容される。本発明の広範な形では、絶縁体は磁性材料の長さに及ばないが、磁場の各対の間で有効な隔離を与える。
【0014】
本発明のさらに詳細な形では、対象に活性剤を送達するのに適したデバイスが提供され、上記デバイスは、各磁場の極性がそれに隣接する磁場の極性と反対であり、磁場の各対が絶縁体によって絶縁されるように、磁性材料によって発生した磁場が反対方向に配列されている磁性材料の二相性アレイを備える。
【0015】
本発明のまた別のさらに詳細な形により、本発明のデバイスは活性剤の運動エネルギーを増大させる手段を含む。活性剤の運動エネルギーの増大を誘起するいずれの手段も、デバイスと併せて使用されることができる。優先的に運動エネルギーは、対象に送達される活性剤、または活性剤が含まれる製剤に、対象の体温を方向付けすることができる熱利用手段を使用して増大される。したがって、熱利用手段は、対象の体温を活性剤中に方向付けて、活性剤を構成する分子に熱力学的運動を引き起こす方法を提供する。活性剤がこのように活性化されるとき、次に磁性材料は、磁場の存在下での分子における続いての上記熱力学的運動の変換によって、これらの分子の方向変位を誘起することができる。
【0016】
本発明のデバイスは、デバイスを使用する皮膚バリアを越える活性剤の対象(患者の対象を含む)内への通過のための手段を提供する。本デバイスの有用性は、活性剤の皮膚バリアの通過を促進するために、デバイスと併せて、またはデバイスと並行してのどちらかで動作する他の薬物送達系とデバイスを組合せることによって、さらに向上させることができる。このような他の薬物送達系は、たとえば、イオン泳動、薬物粘着マトリクス、マイクロニードルおよび超音波泳動を含むことができる。
【0017】
操作中に、活性剤または活性剤を含む製剤をデバイスと対象(患者を含む)との間に配置する。体温は、活性剤または活性剤を含む製剤の皮膚との接触、または熱絶縁手段のどちらかによって、活性剤に向けて方向付けられる。このプロセスによって利用された熱は次に、活性剤で熱力学的運動を引き起こす。次に、本発明のデバイスの磁性特性は、本発明によって生成された複素磁場を通じて、活性剤の方向変位を誘起できる。
【0018】
所望の形では、デバイスは、異方性磁性特性を有する着用型熱絶縁性閉鎖包帯として作製される。着用型熱絶縁性包帯は、皮膚に対向してまたは接触して配置された任意の活性剤に体温を効果的に伝達する目的で熱利用手段を提供することができる。
【0019】
本発明の特定の形により、デバイスは、絶縁性の可撓性磁性材料から作製され、皮膚に配置された活性剤を覆って配置される。このような形では、デバイスは、デバイスが対向して配置される対象の表面に合せて形成することができる。
【0020】
本発明の別の形では、デバイスは、皮膚に配置された物質分子を覆って配置できる絶縁材料に縫い付けられた、または付着された非可撓性磁性材料を含む。好ましくは、上記材料は、デバイスが適用される対象の体肢に適合するように成形される。
【0021】
本発明の別の形において、活性剤は、対象の真皮に近接したデバイスの側面で絶縁磁性材料に対向してまたは近接して配置される。この形では、活性剤は、デバイスと対象の真皮との間に挿入できる、ゲルとしてまたは固体もしくは半固体材料の形で提供されることができる。
【0022】
本発明の別の形では、絶縁磁性材料は、薬物または化粧品パッチ製造で一般に使用される別の裏当て材として使用することができ、それゆえ本発明を標準薬物パッチ形で使用することができる。
【0023】
本発明の他の態様および利点は、以下の例証となる図面を参照して進められる、次の説明の概説から当業者に明らかとなる。
【0024】
本発明はここで、例示のためだけに、添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】個人に適用されるような本発明のデバイスの形の図である。
【図2】個人に適用されるような本発明のデバイスの形の別の図である。
【図3】強化された送達パッチの配置プロセスを説明する、個人に適用されるようなデバイスの断面図である。
【図4】フランツセル拡散試験でのテトラカインのin vitro経皮拡散の向上を示す、本発明のプロセスを使用して実施した実験結果を説明的に示す。データは、受動拡散と比較したときに、本発明の影響下での切除表皮を通じた2%テトラカイン(図4A)および4%テトラカイン(図4B)の拡散の向上を示す。
【図5】フランツセル拡散試験でのスマトリプタンのin vitro経皮拡散の向上を示す、本発明のプロセスを使用して実施した実験結果を説明的に示す。
【図6】本発明の実施形態の詳細な図である。
【図7】本発明を受動拡散と比較するために実施した実験の結果を説明的に示す。
【図8】ニコチン酸メチル送達を説明的に検討する。1つの処置は、ニコチン酸メチル適用の上に480ガウスの磁場強度および1メートル当り300極の極密度を有する本発明の4cm片を含むのに対して、第2の処置は、ニコチン酸メチル上の500極/メートルの極密度を持つ120ガウス磁場から構成されていた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
概要
当業者は、本明細書に記載した本発明が特に記載された以外の変形および修正を受けることを認識するはずである。本発明は、このようなすべての変更および修正を含む。本発明は、本明細書で個別にまたは集合的に言及または指摘したステップ、特徴、製剤および化合物のすべておよびステップまたは特徴のあらゆる組合せまたはいずれか2つ以上も含む。
【0027】
本テキストで引用した各文書、参考文献、特許出願または特許は、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれ、このことはそれが本テキストの一部として読者に読まれ、検討されるべきであることを意味する。本テキストで引用した文書、参考文献、特許出願または特許を本テキストで反復しないのは、簡潔にする目的のためだけである。
【0028】
本明細書および参照により本明細書に含まれる任意の文書で言及した任意の製品の、任意の製造者による説明書、解説書、製品仕様書、および製品シートは、参照により本明細書でここに組み込まれ、本発明の実施で使用されることができる。
【0029】
本発明は、本明細書に記載する詳細な実施形態のいずれによっても範囲を制限されるものではない。これらの実施形態は、例示目的のみであることを意図する。機能的に均等な製品、製剤および方法は明らかに、本明細書に記載する本発明の範囲内である。
【0030】
本明細書に記載する発明は、1つ以上の値(たとえばサイズ、濃度など)の範囲を含む。値の範囲は、範囲を定義する値、およびその範囲に限界を定義する値にすぐ隣接する値と同じまたは実質的に同じ結果をもたらす、範囲に隣接した値を含む、範囲内のすべての値を含むと理解されたい。
【0031】
本明細書を通じて、文脈により別途要求されない限り、「comprise」という用語または「comprise」もしくは「comprising」などの変形は、記載した整数または整数の群を含むことを示唆するが、その他の整数または整数の群の除外は示唆しないこととして理解される。本開示および特に請求項ならびに/または段落において、「含む(「comprises」、「comprised」、「comprising」)」などの用語が、米国特許法でそれに帰する意味を有せること、すなわちそれらが「含む(「includes」、「included」、「including」)」などを意味できること、ならびに「から本質的に成る(「consisting essentially of」および「consists essentially of」)」などの用語が米国特許法でそれらに帰する意味を有すること、たとえばそれらは明示的に列挙されない要素を許容するが、従来技術に見出される、または本発明の基本的もしくは新規特徴に影響を及ぼす要素を除外することにも注目されたい。
【0032】
本明細書で使用する選択された用語の他の定義は、本発明の詳細な説明の中に見出され、全体で適用され得る。別途定義しない限り、本明細書で使用する他のすべての科学および技術用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0033】
好ましい実施形態
本発明の発明者らは、正常な熱力学的な力が治療活性剤のランダム運動および配向を誘起することを明らかにした。このような活性剤が負の磁化率を有するとき、活性剤は磁場に影響されて斥力を生じ、活性剤を形成する分子に、単純拡散またはブラウン運動ではなく集団拡散を受けさせることがある。すなわち、活性剤の電子軌道に作用する磁場によって生成された斥力の量の尺度である、活性剤の反磁性磁化率は、斥力を印加された磁場から遠ざかる方向に発生させる。これは磁場内で活性剤分子の方向性の運動を生じさせる。
【0034】
本発明の発明者らは、運動中の分子が交番磁極性のアレイに暴露されるときに、反対極性の電流が磁性ベクトル変化のために異なる領域で発生することも明らかにしている。このような極性の違いによって電流量の差が生じて、このことが磁場内で発生するときにさらなる力が生じて、この力はそうでなければ弱い反磁性力を強化して、拡散および分配の間の分子の運動に影響するのに十分な大きさの全斥力を生じさせる。
【0035】
本発明の一態様により、各磁場の極性が隣接する磁場の極性と反対であり、磁場の各対が絶縁体によって少なくとも部分的に絶縁されるように、磁場が方向的にオフセットされている磁性材料の異方性アレイを備えた、対象に活性剤を送達するデバイスが提供される。
【0036】
本発明により、磁性材料は、制限なく、
a.帯磁強磁性材料の個々のセグメントまたはセクションが本明細書に記載する構成で組み立てられた機構と、および
b.磁性粒子または要素が固体もしくは半固体マトリクスもしくはベースに、強磁性粒子に印加されたような必要な磁性パターンで配置された機構と、
を含む。
【0037】
本発明は、強磁性特性を示す一連の磁性材料を使用して構築されることができる。このような材料は、ホウ素、炭素、ケイ素、リンまたはアルミニウムなどの半金属成分を含む鉄、コバルトまたはニッケルを含むことができる。代わりにネオジムまたはサマリウム−コバルトなどの希土類材料も使用することができる。このような強磁性材料は、デバイス内で剛性要素として配置されることができる、またはゴムもしくはシリコーンなどの可撓性マトリクスでカプセル化されることができる。
【0038】
好ましくは、磁性材料は、発生した磁場を妨害しないハウジング内に収容される。
【0039】
本発明の最も広い形では、絶縁体は磁性材料の長さに及ぶ必要はない。しかし絶縁体が対になった磁場の間を有効に隔離することが好ましい。
【0040】
隣接する磁性材料の対を絶縁することに加えて、絶縁体は、皮膚から外部環境へ熱エネルギーが逃げるのを制限して、およびまたは活性剤に対する熱運動エネルギーの一様な分布を可能にする手段を提供し得る。絶縁体は、(a)個々のセグメントもしくはセクションの間に挿入された別個の要素、または(b)基材の特性、または(c)強磁性粒子の特性であることができる。
【0041】
本発明のさらに詳細な形では、各磁場の極性がそれに隣接する磁場の極性と反対であり、磁場の各対が絶縁体によって絶縁されるように、磁性材料によって発生した磁場が反対方向に配列されている磁性材料の二相性アレイを備えた、対象に活性剤を送達するのに適したデバイスが提供される。
【0042】
本発明のさらに詳細な形において、デバイスは、磁性材料に隣接して位置する活性物質に実質的に不浸透性である裏当て層ならびに熱活性化型であり、対象に送達される活性剤および複数の異なる活性剤を含有する磁性材料にまた隣接するマトリクス層を備えた、ポリマーコーティングを含む。
【0043】
マトリクスは、たとえばポリイソブチレン、ポリビニルアルコールのエステル、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸エステルから調製されたポリマーまたはコポリマー、天然ゴム、スチレン、イソプレンおよびスチレン−ブタジエンのポリマーまたはシリコーンポリマー、樹脂成分、たとえば飽和および不飽和炭化水素樹脂、アビエチルアルコールの誘導体およびベータピネンの誘導体、可塑剤、たとえばフタル酸エステル、トリグリセリドおよび脂肪酸はもちろんのこと、当業者に公知の一連の他の物質から優先的に調製される。
【0044】
本発明で使用され得るマトリクス生体適合性ポリマーは、化合物、たとえばポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ酸無水物、ポリラクチド−co−グリコリド、ポリアミノ酸、ポリエチレンオキシド、アクリル酸末端ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、スクロース酢酸イソ酪酸(SAIB)、および他のポリマー、たとえばそのそれぞれが参照によりその全体で本明細書に組み込まれている米国特許第6,667,371号、第6,613,355号、第6,596,296号、第6,413,536号、第5,968,543号、第4,079,038号、第4093,709号、第4,131,648号、第4,138,344号、第4,180,646号、第4,304,767号、第4,946,931号に開示されているポリマーを含む。
【0045】
マトリクスは、熱硬化性ポリマー、たとえばエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの四置換エチレンジアミンブロックコポリマー(たとえばポロキサミン)、ポリカルボフィル、およびポリサッカライド、たとえばゲラン、カラゲナン(たとえばカッパ−カラゲナンおよびイオタ−カラゲナン)、キトサンおよびアルギン酸塩ガムからも調製されることができる。
【0046】
マトリクスは、親水性ポリマーによって調製されるゲルであるハイドロゲルでもあり、これらの材料は当分野で周知であり、その内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,631,294号および第6,845,272号に記載されるように、生体医用電極の一部として使用されることが多い。ハイドロゲルの調製に有用な親水性ポリマーの例は、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンイミン)、カルボキシ−メチルセルロース、メチルセルロース、ポリ(アクリルアミドスルホン酸)、ポリアクリロニトリル、ポリ(ビニルピロリドン)、寒天、デキストラン、デキストリン、カラゲナン、キサンタン、およびグアーである。好ましいハイドロゲルは、アクリレートであり、たとえば好ましくは4級塩化物および/または硫酸塩のアクリル酸エステルまたは4級塩化物のアクリルアミドから作製されることができる。この種類のポリマーは、参照により組み込まれている、米国特許第5,800,685号に開示されている。親水性ポリマーは一般に、ハイドロゲルの約1〜約70重量%、好ましくは約5〜約60重量%、さらに好ましくは約10〜約50重量%を構成する。
【0047】
本発明のデバイスによって送達される活性剤は、デバイスと皮膚との間の接触区域の領域全体を被覆することができ、または代わりにその中の島で形成されることができる。好ましい形では、活性剤は本発明のデバイスと対象の真皮との間に位置する。
【0048】
本発明による送達促進のプロセスは、薬剤に作用している力がビヒクル、ゲルまたは溶媒の分子に作用している力とは異なるようにする方式での、活性剤に力を印加するための磁性原理の利用を含む。結果として本発明の有用性を改善する1つの方法は、活性剤の磁気感度または活性剤が中に位置するビヒクル、ゲルもしくは溶媒の磁気感度を、2つの実体の間の磁気感度の相違を増大させることを目的として、選択するまたは化学的に変化させることである。一例として、フェノキシエチルアクリレートなどのライトエステルのジエチルアミノエチルアクリレートポリマーへの添加は、ポリマーの磁気感受性を上昇させるように作用することができ、このように作用することによって、そのビヒクル、ゲルまたは溶媒からの反磁性標的分子の送達を増加させる。
【0049】
本発明によって送達できる好適な活性剤は、負の磁気感受性を示す任意の活性剤および経皮的に(transdermally)、真皮につき(perdermally)、および真皮間に(interdermally)投与したときに、治療的、化粧的、修復的または有益な特性を有する任意の活性剤を含む。
【0050】
活性剤のクラスは、たとえばタンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、抗肥満薬、コルチコステロイド、鎮痛薬、抗真菌剤、腫瘍療法、心血管剤、抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗不整脈剤、抗菌薬、抗凝固薬、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、血圧降下剤、抗腫瘍剤、免疫抑制剤、抗甲状腺剤、抗ウイルス剤、鎮静薬、収斂薬、収斂薬、ベータアドレナリン受容体遮断剤、利尿薬、筋弛緩薬、プロスタグランジン、性ホルモン、抗アレルギー剤、刺激薬、血管拡張薬、キサンテン、抗酸化薬、ビタミン、栄養素、皮膚回復剤ならびに栄養補助食品、薬用化粧品または化粧品として皮膚表面にまたは皮膚表面を通じて送達されるこのような活性剤を含む。
【0051】
以下に、本発明の装置などによって使用され得る活性剤のいくつかの例証的なリストを示す。
a.副交感神経遮断薬、スコポラミン、およびベナクチジンなど。
b.コリン作用薬、たとえばフィゾスチグミン、ニコチンなど。
c.モノアミンオキシダーゼ阻害薬、たとえばトラニルシプロミン、セレギリンなど。
d.交感神経作用薬、たとえばエフェドリン、D−ノルシュードエフェドリン、サルブタモール、フェンフルラミンなど。
e.アドレナリン遮断薬および抗交感神経緊張薬、たとえばプロプラノロール、チモロール、ブプラノロール、クロニジン、ジヒドロエルゴタミン、ナファゾリンなど。
f.H受容体拮抗薬、たとえば、テルフェナジンなど。
g.H受容体拮抗薬、たとえば、ファモチジン、シメチジンおよび塩酸ラニチジンなど。
h.鎮痙薬、たとえばブチル臭化ヒヨスシン。臭化水素ヒヨスシン、アトロピン、臭化メトスコポラミンなど。
i.ベータアドレナリン作用薬、たとえば、拮抗薬−塩酸エスモロール、プロプラノロールHClおよびアテノロール(βアドレナリン作動薬)、作動薬−DL塩酸イソプロテレノールなど。
j.利尿効果剤、たとえばフルセミドなど。
k.抗不整脈剤、たとえば、塩酸アミオダロン、塩酸ベラパミル、塩酸プロカインアミド、ジソピラミド、酢酸フレカイニド、および塩酸リグノカインなど。
l.アドレナリン刺激薬、たとえば、アドレナリン、重酒石酸メタラミノール、塩酸ドブタミン、塩酸イソプレナリン、酒石酸ノルアドレナリンおよび塩酸ドパミンなど。
m.抗片頭痛調製物、たとえば、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、マチンドール、フェンテルミンおよびコハク酸スマトリプタンなど。
n.他の心血管治療剤、たとえば、インドメタシンメチルドパHCl、塩酸ヒドララジン、硝酸イソソルビド、塩酸クロニジン、ベラパミル、トリニトログリセリン、ラウオルフィアアルカロイド、有機硝酸塩、四硝酸ペンタエリスリトール、ジアゾキシドおよびニトロプルシドナトリウムなど。
o.抗ヒスタミン薬(たとえばジフェンヒドラミン、クレマスチン、テルフェナジン)。
p.鎮静薬および催眠薬、たとえば、クロルプロマジンHCl、クロザピン、メソリダジン、メチアピン、レセルピン、チオリダジン ミダゾラム、パラアルデヒド、プロポフォール、コデイン、フェノバルビタール、ペントバルビタールナトリウム、セコバルビタールナトリウム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、メプロバメートおよびテマゼパムなど。
q.抗不安剤、たとえば、ジアゼパム、ドロペリドール、ドパミン拮抗薬、たとえばデカン酸ハロペリドールなど。
r.抗うつ薬、たとえば塩酸デシプラミンなど。
s.向精神薬、たとえば5−ヒドロキシトリプタミン受容体拮抗薬(たとえばオンダンセトロン(ondanstetron)、スマトリプタン、ナラトリプタン(naratryptan))、カフェインを含む酒石酸エルゴタミン、またはメチルセギドなど。
t.抗運動障害剤、たとえばメシル酸ベンズトロピン、フェニトインナトリウム/フェノバルビトンナトリウムおよびクロナゼパムなど。
u.抗パーキンソン病薬、たとえばL−ドーパなど。
v.麻薬性鎮痛薬、たとえばクエン酸フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、硫酸モルヒネ、ジヒドロコジエノン、ヒドロモルフィン、メペリジン、塩酸ペチジン、塩酸フェノペリジン、パパベレタム、塩酸メタドンおよび塩酸ブプレノルフィン(など。
w.麻薬拮抗薬、たとえばナルトレキソンおよびナロキソンなど。
x.非ステロイド剤、たとえばサリチル酸塩、アセトアミノフェン、d−プロポキシフェン、インドメタシン、ナプロキセンおよびケトロラクトロメタモールなど。
y.他の鎮痛薬、たとえば(シクロオキシゲナーゼ阻害薬)、フェナム酸、ピロキシカム、COX−2阻害薬、ジクロフェナク)、ロフェコキシブ、およびイブプロフェンなど。
z.ホルモン調製物、たとえば閉経期ゴナドトロピン、成長ホルモン−ソマトロピン、酢酸デスモプレシン、メシル酸ブロモクリプチン、オクトレオチド、インスリン、グリベンクラミド、塩酸メトホルミン、グリピジドおよびトルブタミドなど。
aa.子宮に作用する薬剤、たとえば、オキシトシンなど。
bb.ステロイド、たとえばスルホンアミド、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾンリン酸ナトリウム、フルオロメトロン、リメキソロン、メドリゾンアルコール、11−デオキシコルチゾール、および酢酸アネコルタブなど。
cc.テストステロンおよびプロピオン酸テストステロン、プロゲステロンおよびエストロゲン、たとえばジエチルスチルベストロール、17−ベータ−エストラジオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メストラノールなど。
dd.プロスタグランジン、たとえば塩酸リトドリンおよび硫酸サルブタモールなど。
ee.鎮咳薬、たとえばデキストロメトルファン、ノスカピンなど。
ff.抗炎症剤、たとえばホルモン剤、クロベタゾール、デキサメタゾン、アセチルサリチル酸、グリシルリジン酸またはグリシルレチン酸、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、非ホルモン剤、アロプリノール、アスピリン、インドメタシン、フェニルブタゾンなど。
gg.気管支痙攣弛緩薬、たとえばアミノフィリン、テオフィリン、硫酸サルブタモール、硫酸オルシプレナリン、臭化イプラトロピウム、臭化水素酸フェノテロール、硫酸テルブタリンおよび酒石酸アドレナリンなど。
hh.抗マラリア薬、たとえば4−アミノキノリン、8−アミノキノリン、ピリメタミンなど。
ii.抗生剤、たとえばセファロスポリン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、カナマイシンA、カナマイシンB、ペニシリン、アンピシリン、ストレプトマイシンA、アンチマイシンA、クロロパンテニオール、メトロニダゾール、オキシテトラサイクリンペニシリンG、テトラサイクリンなど。
jj.性機能障害治療薬、たとえばクエン酸シルデナフィル、タダラフィルおよびバルデナフィルなど。
kk.細胞毒性薬、たとえばチオテパ、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、メトトレキセートなど、強心剤、たとえばジゴキシンなど。
ll.必須アミノ酸などを含む、ビタミンおよび栄養素。
mm.電解質代替物、たとえば塩化カリウムなど。
nn.2〜20アミノ酸残基、好ましくは3〜10アミノ酸残基を含む、治療上の利点または化粧品としての利点のどちらかを備えたペプチド(化粧品用ペプチド、たとえばパルミトイルペンタペプチドまたはアルジルリンなどは−好ましくは皮膚細胞に有益な効果、たとえば美白、フリーラジカル除去、老化防止、コラーゲン合成の刺激、保湿、抗菌、抗炎症、または抗刺激などを有する。
oo.収斂薬、たとえばチョウジ油、メントール、カンファー、ユーカリ油、オイゲノール、乳酸メンチル、ウイッチヘーゼル留出物など。
pp.抗酸化薬またはフリーラジカル除去薬、たとえばアスコルビン酸、その脂肪エステルおよびリン酸塩、トコフェロールおよびその誘導体、N−アセチルシステイン、ソルビン酸およびリポ酸など。
qq.抗座瘡剤、たとえばサリチル酸および過酸化ベンゾイル。
rr.抗菌剤または抗真菌剤、たとえばカプリリルグリコール、トリクロサン、フェノキシエタノール、エリスロマイシン、トルナフテート、ニスタチンまたはクロトリマゾール。
ss.キレート剤、たとえばEDTAなど。
tt.局所鎮痛薬、たとえばベンゾカイン、テトラカイン、リドカインまたはプロカインなど。
uu.中枢性鎮痛薬、たとえばフェンタニル、スフェンタニルなど。
vv.抗リウマチ薬、たとえばインドメタシン、ピロキシカム、ロルノキシカム。
ww.老化防止/抗しわ剤、たとえばレチノイドまたはヒドロキシ酸。
xx.皮膚美白剤、たとえばリコリス、リン酸アスコルビル、ヒドロキノンまたはコウジ酸など。
yy.皮膚調整剤、たとえば種々のおよび密封型などを含む湿潤剤。
zz.抗刺激薬、たとえばコーラ、ビサボロール、アロエベラまたはパンテノールなど。
aaa.脂肪沈着防止剤、たとえばカフェインおよび他のキサンチンなど。
bbb.湿潤剤、たとえばアルキレンポリオールまたはヒアルロン酸など。
ccc.皮膚軟化薬、たとえば油性エステルまたはワセリンなど。
ddd.日焼け防止剤(有機または無機)、たとえばアボベンゾン、オキシベンゾン、メトキシケイ皮酸オクチル、二酸化チタンまたは酸化亜鉛。
eee.角質除去剤(化学的または物理的)、たとえばN−アセチルグルコサミン、リン酸マンノース、ヒドロキシ酸、ラクトビオン酸、トウニン、または海塩など。
fff.セルフタンニング剤、たとえばジヒドロキシアセトン。
【0052】
活性剤の上のリストは、本発明を使用して制御された方式で適用されることができる。このリストは完全ではない。好ましくは、全身的にまたは局所的に送達できるいずれの活性剤も、本発明を使用して潜在的に送達できる。
【0053】
活性剤は、デバイスのみと提供および使用されることができるが、多くの状況では、活性剤は単独でまたは1つ以上の活性剤と組合せて製剤で使用される。製剤が製薬的および生物製剤的利点を提供しようとする場合、製剤に含まれる活性剤の数は優先的に、かなり選択的であることができる。製剤が栄養補助食品、化粧品および/または薬用化粧品を提供する場合、活性剤の数は、はるかに多い数であることができる。
【0054】
送達プロセスで使用される製剤は、添加剤、たとえば他の緩衝剤、希釈剤、担体、アジュバントまたは賦形剤を含むことができる。磁気的に不活性もしくは中性であり、または本質的に常磁性であるか、または送達される活性剤の磁気感受性よりも大きい磁気感受性を有するかのどちらかである、任意の薬理学的に許容される緩衝剤、たとえばトリスまたはリン酸緩衝剤が使用されることができる。他の薬剤は、多様な目的のために製剤で利用されることができる。たとえば緩衝剤、保存料、共溶媒、界面活性剤、油、湿潤剤、皮膚軟化薬、キレート剤、安定剤または抗酸化剤が使用されることができる。使用され得る水溶性保存料は、これに限定されるわけではないが、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、重硫酸ナトリウム、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、エチルアルコール、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、ベンジルアルコールおよびフェニルエチルアルコールを含む。界面活性剤はツイーン80であることができる。使用されることができる他のビヒクルは、これに限定されるわけではないが、ポリビニルアルコール、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、精製水などを含む。浸透圧調整剤は、たとえば塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、グリセリンなどが含まれることができる。抗酸化剤は、これに限定されるわけではないが、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエンなどを含む。
【0055】
製剤中の活性剤の適応、有効用量、禁忌、販売者などは、入手可能であるか、または当業者に公知である。
【0056】
活性剤は、約0.001〜約5重量%および好ましくは約0.01〜約2重量%の個別の量で存在することができる。使用され得る好適な水溶性緩衝剤は、所望の投与経路について米国FDAによって承認されているような、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどである。これらの薬剤は、系のpHを約2〜約9、好ましくは約4〜約8、さらに好ましくは4.5、5、5.5、6、6.5、7または7.5(または間の任意のpH)に維持するのに十分な量で存在することができる。したがって緩衝剤は、製剤全体の重量対重量ベースで約5%もの多さであり得る。適切な場合には、製剤には、これに限定されるわけではないが、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどの電解質も含まれることができる。
【0057】
本発明の非常に好ましい形では、対象に送達される局所製剤は、活性剤の好ましい量を選択することによって調製される。次に薬剤は、好ましくは好適な送達マトリクスに配置される。投与される活性剤の量および局所製剤中の化合物の濃度は、選択した希釈剤、送達系またはデバイス、対象の臨床または美容上の状態、マトリクス中での活性剤の副作用および安定性に依存する。
【0058】
活性剤の送達プロセスにおいて、活性剤の運動エネルギーが最初に上昇する。活性剤での運動エネルギーの上昇を誘起するいずれの手段も、本明細書に記載するデバイスと併せて使用されることができる。優先的に、これは体温を使用して実施され得る。このような熱は、治療分子の温度を、皮膚に配置したときに約20℃から37℃近くまで上昇させることができる。
【0059】
本発明の好ましい形により、活性剤での運動エネルギーを上昇させる手段は優先的に、対象の真皮に対向してまたは接触して配置された任意の活性剤に体温を伝達するのに適した熱利用手段である。したがって熱利用手段は、対象の体温を活性剤中に方向付けて、物質分子に熱力学的運動を引き起こす方法を提供する。このような状態が誘起されるとき、磁性材料は次に、磁場の存在下での物質分子における続いての上記熱力学的運動の変換によって、物質分子の方向変位を誘起することができる。
【0060】
熱利用手段は、確認された絶縁体の一部もしくは使用した磁性材料の特定の性質であることができ、または本発明の独立した成分であることができる。好ましい形において、熱利用手段は絶縁体の一部である。代わりの好ましい形では、熱利用手段は、体によって生成された熱エネルギーを利用する手段を保持および提供するデバイスと関連した別個の成分である。この代わりの形で提供されるとき、熱利用手段は、デバイスが対象に位置決めされた箇所の周囲の領域から体温の散逸を制限する包帯などであり得る。
【0061】
活性剤の運動エネルギーで生じた上昇は、活性剤の分子における電子対軌道の回転運動の増加を引き起こす。回転運動エネルギーのこのような上昇が磁場にて抑制されるとき、斥力が生成され、活性剤の分子を磁場源から離れて皮膚に向けて変位するように作用する。さらに、電子殻軌道の変化によって、表面電荷の誘起が引き起こされて、分子を一時的な電荷担体に変える。本発明によって提供されるような磁場内での荷電担体の運動は、斥力および分子変位をさらに促進する。さらに、熱エネルギーの捕捉によって生じた熱勾配により電荷担体分子は、ネルンスト−エッティングスハウゼン効果に従って、皮膚温度とより低温の外側表面との間に存在する熱勾配に沿って移動する。磁場内での電荷担体のこのような熱駆動運動は、さらなる垂直力を生成して、その運動を促進する。これらの力は、個々では弱い力であるが、薬物分子に作用する全体としての変位力に寄与する。したがって分子を相互に垂直である磁場および温度勾配に暴露することによって、分子における組織化された配列が分子において誘起され、分子モーメントの運動エネルギー成分は、磁場源から離れる方向への反磁性斥力に変換される。
【0062】
本発明により、生成された弱い斥力は、反対に配列された磁場を利用することによってさらに強化することが可能であり、このことによって活性剤の電流量または流動電位の生成を促進する。
【0063】
磁場において回転する溶解した分子の電子軌道を回転させることは、磁場の配向に固有の極性の、小さいが重要な電場を生成するように作用する。印加された温度差によって、治療材料中の帯電した電子が、一方の磁気極性から移動して、このことが分子を効果的に帯電させる。帯電した分子(たとえば伝導帯電子)は、静電気および温度と運動エネルギーとの間の関係による温度勾配に沿って移動する。温度勾配を横断する磁場があり、担体が電気的に帯電しているときに、それらはその移動方向に(温度勾配の方向にも)および磁場に垂直な力を受ける。このプロセスによって、分子に加えられる有益な斥力は効果的に増大する。
【0064】
磁場は、必要な電流を生成するために、開示されているように、一連の密に配列され、交互に配向された磁場の形で提供される。相互に近接した交互極性磁場を有することにより、隣接領域は反対の極性の電場を生じて、治療分子の電流量または流動電位をもたらす。電流量または流動電位は、皮膚バリアを通過する分子を移動させて方向付ける。
【0065】
本発明の発明者らは、このような装置および方法が物質分子の経皮拡散の促進をもたらすことを発見した。
【0066】
本発明の非常に詳細な形では、デバイスは、絶縁材料によって絶縁された磁性材料の平行帯を含み、各帯が反対の極性であるような方式で配列された、バリウムフェライト2相ポリマーとして調製された磁性材料から成る。望ましくは、磁性材料のバリウムフェライト帯は、高さ0.5〜1.00mm、幅2.00〜3.00mmの可撓性ポリマー材料で固定され、各部品を隔離する厚さ0.1mmの絶縁体を有する連続片として配向されている。この点で、上部および下部「フィルム」は、材料を所定の位置に保持するためだけに装備されている。
【0067】
活性剤の経皮拡散を促進するために、活性剤を5mT〜100mTの磁場に暴露させる。好ましくは、磁場の属性は、患者に送達される治療分子に存在する特異的な電子結合特徴に従って選択される。さらに詳細には、磁場の属性は好ましくは、治療される皮膚組織のインピーダンスを克服するために活性剤の熱磁気特徴とより効果的に相互作用するエネルギーの周期的送達を送達するように制御される。
【0068】
本発明のデバイスは、皮膚バリアを越えた活性剤の対象内への通過のための手段を提供する。しかし本デバイスの有用性は、代わりの手段によって角質層の正常な皮膚バリア効果を克服するように設計された技法またはプロセスと組合せることによってさらに向上させることができる。このような技法またはプロセスはたとえば、イオン泳動、薬物粘着マトリクス、化学的増強、マイクロニードルおよび超音波泳動を含むことができる。このような場合、上記技法またはプロセスは、デバイスと併せて、またはデバイスと並行してのどちらかで使用されるとき、活性剤の皮膚バリアへの通過を促進する。
【0069】
操作中に、活性剤をデバイスとその中の対象との間に配置して、対象中への少なくとも物質の経皮拡散を促進する手段を提供する。
【0070】
所望の形では、本発明のデバイスは、磁性特性を有する着用型熱絶縁性閉鎖包帯として作製される。着用型熱絶縁性包帯は、皮膚に対向してまたは接触して配置された任意の活性剤に体温を効果的に伝達する目的で熱利用手段を提供している。体温は物質分子にて熱力学的運動に変換されている。装置の磁気特性は、磁場の存在下での物質分子における続いての上記熱力学的運動の変換によって、物質分子の方向変位を誘起する目的で提供されている。
【0071】
詳細な形により、本発明は、皮膚に配置された物質分子を覆って配置される絶縁性質の可撓性磁性材料を使用する。
【0072】
別の機構では、本発明は、皮膚に配置された物質分子を覆って配置できる絶縁材料に縫い付けられた、または付着された非可撓性磁性材料を使用する。
【0073】
また別の機構では、物質分子を絶縁材料および磁性材料に配置して、または近接して結合させて、治療を必要とする範囲にデバイスとして適用することができるパッチ様デバイスを形成することができる。
【0074】
本発明において、特別に選択された磁場を特別に選択された物質分子に印加することによって、担体、溶媒またはベース分子から独立した物質分子の各方向への運動が結果として引き起こされる。
【0075】
本発明の非制限的な例証
本発明のさらなる特色を、以下の非制限的な実施例でさらに十分に説明する。本説明は、本発明を例示する目的のためだけに含まれている。これは上で述べたような本発明の広範な説明に対する制限として理解されるべきではない。
【0076】
図1は、活性剤(2)を含有する軟膏が対象の腕(1)に配置された、本発明の1つの考えられる実施形態の図による説明を示す。磁気特性および絶縁特性を有する包帯(3)を軟膏の上に当てて、活性剤の経皮送達の促進をもたらす。
【0077】
図2は、磁性源(2)がネオプレンなどの熱絶縁材料と一体化され、腕(1)または物質分子の経皮送達の促進を必要とし得るような他の体の部分に配置するための着用型装具(3)として配置される、別の実施形態を示す。
【0078】
図3は、軟膏(2)が磁性源(3)または装具材料(4)に含浸、結合または付着され、薬物送達が促進されたパッチとして腕(1)または物質分子の経皮送達の促進を必要とし得るような他の体の部分に配置されることができる、さらなる実施形態を示す。
【0079】
図4は、in vitroでのフランツセル拡散試験における、切除した子ブタ耳表皮を通じた物質テトラカインのプロットである。表皮膜は、熱分離によって得た(60℃にて60秒、Kligman and Christophers 1963)。皮膚の完全性は、実験前のコンダクタンス測定によって判定した。各耳からの皮膚切片は、実験ごとに群の上に適合させた。表皮膜をフランツ型拡散セルのレセプタコンパートメントの間に、角質層をドナーチャンバに向けて配置した。表皮膜を受容体溶液(USP PBS、pH7.4)によって30分間平衡にした。セルのレセプタコンパートメントを37±0.5℃の水浴に浸漬して、実験の間、5分ごとに撹拌した。平衡になった後、PBS中の2%塩酸テトラカイン(図4A)または4%塩酸テトラカイン(図4B、Sigma)1mLから成るドナー溶液を添加して、本発明をドナー流体の表面から3mm上(すなわち表皮表面の8mm上)に吊り下げた。受動拡散セルは、同じドナー薬物濃度を受け入れ、パラフィルムのみによって覆われ、すなわち本発明の材料は適用されていなかった。投与期間は0〜1時間であった。レセプタ溶液の試料を除去して、60分の期間にわたって新たな緩衝液と交換した。すべての試料を塩酸テトラカイン含有量について分光光度検出(229nMでの吸収)によって分析した。時間に対するレセプタコンパートメント中の塩酸テトラカインの蓄積量を、両方の実験でプロットした。拡散実験の後、皮膚を拡散チャンバになお固定したままで、標準HE染料によって染色した。拡散範囲での皮膚に対する損傷の発生を顕微鏡下で調べた。皮膚完全性の低い表皮から得たデータは、分析およびグラフ表示から除外した。
【0080】
結果:グラフは、受動拡散と比較したときに、本発明の影響下での、切除表皮を通じた2%テトラカイン(図4A)および4%テトラカイン(図4B)の拡散の向上を示す。
【0081】
図5は、in vitroでのフランツセル拡散試験における、切除した子ブタ耳表皮を通じた物質スマトリプタンのプロットである。2mg/mlの濃度のコハク酸スマトリプタンを拡散セルのドナーコンパートメントに、PBSをレセプタコンパートメントに加えた(3.0mL、絶えず撹拌、37℃の水浴)。実験手順は、比較された処置、適用した薬物、および実験期間(30分間)を除いて、図4で報告した通りであった。1.5mm(厚さ)×10mm(直径)の寸法で構築された本発明を0〜30分間の時間で適用した。レセプタ溶液の試料を除去して、30分の期間にわたって新たな緩衝液と交換した。すべての試料をスマトリプタン含有量について分光光度検出(285nMでの吸収)によって分析した。時間に対するレセプタコンパートメント中のスマトリプタンの蓄積量をプロットした。グラフは、受動拡散と比較したときに、本発明の影響下での、切除表皮を通じたスマトリプタンの拡散の向上を示す。
【0082】
図6は、反対の極性が各材料に隣接して存在するように、反対方向に配列された材料を示す。磁性材料(10、20)の各対の間に絶縁体(30)が配置され、磁性材料および絶縁体の両方が、磁性材料の上下に配置されたポリマーマトリクス(40)に収容されている。図6に示すように、磁性材料は棒状の形で提供され、北−南(10)および南−北(20)配置で共配列され、磁石の各対は絶縁体(30)によって隔離されている。本発明はそれほど制限されておらず、磁性材料の他の配置が本発明で使用され得ることが認識される。
【0083】
図7は、in vivoでのヒト皮膚を通じたニコチン酸メチルの送達についての本発明の促進効果を示す。ニコチン酸メチルレーザドップラー血管拡張モデルを使用した(Hollaway et al,J.Invest Dermatol 69:306−309,1977;Wester et al.,J.Invest Dermatol 83:515−517,1984を参照)。本モデルは、超音波泳動および化学的透過促進などの他の経皮薬物送達プロセスの経皮送達の効率を示すためによく使用されている。手短に言えば、ルビファシエント(rubifacient)のニコチン酸メチルが皮膚を通じて正しく経皮送達されると、明らかな血管拡張、灌流増加および紅斑が生じる。灌流の変化は、経皮送達されたニコチン酸メチルの生物学的利用能に比例することが示され、したがって経皮浸透の尺度である(Guy et al Pharm.Res.1:76−81,1984)。ニコチン酸メチル誘起血管拡張は、非侵襲性レーザドップラー流または灌流計を使用して測定可能であり、データは局所的なin vivo血液灌流に対して正当な数値として提供される。
【0084】
本実験は、ニコチン酸メチル(PBS中5ミリモル)による4cmティッシュペーパー単位の飽和を含んでいた。ニコチン酸メチルのティッシュを前腕掌側の皮膚に当てた。本発明(4cm)および受動代理単位をニコチン酸メチル浸漬ペーパー単位の上に配置した。能動単位1個および受動単位1個を5分間にわたって、前腕皮膚に隣接させて当てた。続いて、すべての材料を皮膚から除去して、軽く叩いて乾燥させた。レーザドップラー灌流プローブ(Moor Instrumentsレーザドップラー灌流計)を両方の範囲の上に置いて、血液灌流速度を30分の期間にわたって監視した。
【0085】
結果:図7のデータは、受動拡散と比較したときに、本発明がヒトの皮膚を通じたニコチン酸メチルの送達促進に有効であることを示している。
【0086】
図8は、本発明の極密度の上昇がより低い磁束を補償して、より低い極密度を持つより強い磁束場と同様の経皮薬物送達レベルを達成できることを示している。
【0087】
一般に、高い磁束を持つ材料のみが反磁性薬物送達に好適であると考えられる。本発明の発明者らは、面積単位当りの密度または極の数がより大きいと、小さい磁束を使用しながら全体的な性能の低下を伴わずに、皮膚を通じて標的分子を送達できることを発見した。
【0088】
図8に示す試験は、2ミリモルのより低いモル濃度を除いて、図7に示す試験と同じニコチン酸メチルプロトコルを使用した。2つの群を比較した。1つの処置は、ニコチン酸メチル適用の上に480ガウスの磁場強度および1メートル当り300極の極密度を有する本発明の4cm片を含むのに対して、第2の処置は、ニコチン酸メチル上の1メートル当り500極の極密度を持つ120ガウス磁場から構成されていた。
【0089】
結果:図8は、第1の処置の磁束は第2の処置を4倍上回ったが、どちらの適用も同様のニコチン酸メチル拡散を生じたことを示している。このデータは、弱い磁束と極密度との間に、一方の低下が他方の対応する上昇によって補償され得るような関係が存在するという、発明者らの発見を裏付けている。
【0090】
多くの変形および修正は、すでに説明されたものに加えて、基本的な発明の概念から逸脱することなく、関連技術分野の当業者が思いつく。このような変形および修正はすべて、本発明の範囲内と見なされるものとし、その性質は上述の説明から判断されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に活性剤を送達するのに適したデバイスであって、各磁場の極性が隣接する磁場の極性と反対であり、磁場の各対が絶縁体によって少なくとも部分的に絶縁されるように、磁場が方向的にオフセットされている磁性材料の異方性アレイを備える、デバイス。
【請求項2】
対象に活性剤を送達するのに適したデバイスであって、各磁場の極性がそれに隣接する磁場の極性と反対であり、磁場の各対が絶縁体によって絶縁されるように、磁性材料によって発生した磁場が反対方向に配列されている磁性材料の二相性アレイを備える、デバイス。
【請求項3】
前記活性剤の運動エネルギーを増大させる手段を含む、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記活性剤の運動エネルギーを増大させる前記手段が熱利用手段である、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
活性剤または前記活性剤を含む製剤を患者に送達する方法であって、前記活性剤または前記活性剤を含む製剤を前記デバイスと前記対象との間に配置するステップを含む、方法。
【請求項6】
前記デバイスが、着用型熱絶縁性閉鎖包帯またはパッチによって前記対象に固定される、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−519638(P2011−519638A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507756(P2011−507756)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000636
【国際公開番号】WO2009/135246
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(510295723)オービージェイ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】