説明

経編機及び編物の製造方法

【課題】緯糸ガイドに起因する緯糸の損傷を抑制でき、製品品質を向上させることができる経編機及び編物の製造方法の提供。
【解決手段】緯糸ガイド体3cを往復させることにより緯糸1を折り返しながら経糸4により拘束して編地2を編成する経編機であって、緯糸1の折り返し端部において、緯糸ガイド体3cを折り返し端部に配された経糸針8の前側を通したのち経糸針8の後方へと経糸ガイド9のスイング動作と同期して移動させる際に、緯糸ガイド体3cを下部が前側に位置するように傾動させる傾動機構19を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経編機及び編物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、中空糸膜のように表面に微細な孔を持つ構造では、編成時に膜に損傷を受けやすい。仮に中空糸膜の極く一部が損傷しても、中空糸膜編物としては全体が不良品となってしまう。従来の緯挿入経編機にあっては、経編地の編成速度を増加させることが製品品質を低下させるという問題につながっていた。このため、製品品質を低下させることなく、編地の編成速度を増加させることができる緯挿入経編地の編成方法と経編機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−59596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、製品品質低下の原因は編成速度の増加に限られるものではなく、例えば、緯糸ガイドから緯糸を繰り出す際に、緯糸ガイドそのものが緯糸に損傷を発生させてしまう可能性があった。具体的には、緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを経糸針の前側を通したのち後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、後方に移動する緯糸ガイドの下部から前方に延出する姿勢となる緯糸は、緯糸ガイドとの角度が小さくなり経糸ガイドに擦れて損傷してしまう。
【0005】
したがって、本発明は、緯糸ガイドに起因する緯糸の損傷を抑制でき、製品品質を向上させることができる経編機及び編物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、緯糸ガイド体を往復させることにより緯糸を折り返しながら経糸により拘束して編地を編成する経編機であって、前記緯糸の折り返し端部において、前記緯糸ガイド体を前記折り返し端部に配された経糸針の前側を通したのち該経糸針の後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、前記緯糸ガイド体を下部が前側に位置するように傾動させる傾動機構を有してなることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記傾動機構が、前記緯糸ガイド体を基本位置から下部が前側に位置するように傾動可能に支持する支持手段と、前記緯糸ガイド体を前記基本位置に位置するように付勢する付勢手段と、前記緯糸ガイド体が前記経糸針の後方へと前記経糸ガイドのスイング動作と同期して移動する際に、前記緯糸ガイド体の下部の後方移動を規制して前記緯糸ガイド体を前記付勢手段の付勢力に抗して下部が前方に位置するように傾動させる移動規制手段とを有してなることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記傾動時に前記緯糸ガイド体から供給元側に延出する前記緯糸を前記緯糸ガイド体に沿う姿勢とする中間ガイドを有することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記緯糸ガイド体は軸方向両側に鍔が形成された円板状のガイドロールであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記緯糸が中空糸膜であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、緯糸ガイド体を往復させることにより緯糸を折り返しながら経糸により拘束して編地を編成する編物の製造方法であって、前記緯糸の折り返し端部において、前記緯糸ガイド体を前記折り返し端部に配された経糸針の前側を通したのち該経糸針の後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、前記緯糸ガイド体を下部が前側に位置するように傾動させることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、前記緯糸が中空糸膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、緯糸ガイド体を経糸針の前側を通したのちその後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、傾動機構が緯糸ガイド体を下部が前側に位置するように傾動させることになるため、後方に移動する緯糸ガイド体の下部から前方に延出する姿勢となる緯糸と緯糸ガイド体との角度を大きく保つことができ、緯糸ガイドに緯糸が擦れてしまうのを抑制できる。したがって、緯糸ガイド体に起因する緯糸の損傷を抑制でき、製品品質を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、緯糸ガイド体を後方へと移動させると、移動規制手段が、緯糸ガイド体の下部の後方移動を規制することになり、これにより、支持手段で傾動可能に支持された緯糸ガイド体を付勢手段の付勢力に抗して下部が前方に位置するように傾動させる。このように、傾動機構が緯糸ガイド体の後方移動を利用して緯糸ガイド体を傾動させることになるため、簡素な構成で緯糸ガイド体を傾動させることができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、傾動時に緯糸ガイド体から供給元側に延出する緯糸を、中間ガイドが緯糸ガイド体に沿う姿勢とするため、緯糸ガイド体から供給元側に延出する緯糸と緯糸ガイド体との角度も大きく保つことができ、経糸ガイドに緯糸が擦れてしまうのを抑制できる。したがって、緯糸ガイド体に起因する緯糸の損傷をさらに抑制でき、製品品質をさらに向上させることができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、緯糸ガイド体が、緯糸と緯糸ガイド体との角度が小さくなることにより緯糸に損傷を生じやすい、軸方向両側に鍔が形成された円板状のガイドロールであるため、緯糸ガイド体に起因する緯糸の損傷を抑制する効果が高くなる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、緯糸が外因により損傷を受けやすい中空糸膜であるため、緯糸ガイド体に起因する緯糸の損傷を抑制する効果が高くなる。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、緯糸ガイド体を経糸針の前側を通したのちその後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、緯糸ガイド体を下部が前側に位置するように傾動させることになるため、後方に移動する緯糸ガイド体の下部から前方に延出する姿勢となる緯糸と緯糸ガイド体との角度を大きく保つことができ、経糸ガイドに緯糸が擦れてしまうのを抑制できる。したがって、緯糸ガイド体に起因する緯糸の損傷を抑制でき、製品品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の緯糸挿入経編機の一例を示す概略構成図である。
【図2】従来の編成部におけるガイドハンガー(緯糸ガイド、経糸ガイド)と経糸針、編地との動きを説明する側面図である。
【図3】従来の編成部における各構成部材の動作を説明する概略説明図である。
【図4】従来の編機の緯糸ガイドの移動軌跡を示す概略説明図である。
【図5】本発明に係る第1実施形態のガイドハンガー(緯糸ガイド、経糸ガイド)と経糸針、編地との動きを説明する側面図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態の編成部における各構成部材の動作を説明する概略説明図である。
【図7】本発明に係る第2実施形態の緯糸ガイドの移動軌跡を示す概略説明図である。
【図8】両側を経糸で拘束した編地を用いて作製した中空糸膜モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る第1実施形態を説明する前に、従来の経編機について図1〜図4を参照して説明する。
【0020】
図1〜図3は、緯糸挿入が可能な代表的な経編機と、その編成時における経糸ガイド及び緯糸ガイドの前後振り動作と、緯糸反転時の緯糸ガイドの反転動作とを模式的に示している。これらの図において、緯糸ガイド3及び経糸ガイド9は同一のガイドハンガー7に取り付けられているが、緯糸ガイド3はガイドハンガー7に対して横振り往復動可能に設けられており、緯糸1を編幅全体に挿入できる。ガイドハンガー7に多数の経糸ガイド9が並列して固定されており、図2(a)及び図2(b)に示すように、ガイドハンガー7がその回動軸7aを中心に前後に揺動(スイング)することにより、多数の前記経糸ガイド9が同経糸ガイド9に対応する数の経糸針8の列を挟んで前後にスイングする。このとき、緯糸ガイド3もガイドハンガー7の前記回転軸7aを中心として同様に(一体に)スイングする。また、このスイング時に多数の経糸針8は針板12に形成された多数の図示せぬ針溝に沿って上下に動き、そのガイドハンガー7の動きに合わせて前記経糸ガイド9は一斉に編幅方向に横振り運動(ショギング)を行う。経糸針8の上下動と、経糸ガイド9のスイングとショギングの複合した動作を行い、経糸4の編目を形成し、これを繰り返すことにより編成が進む。しかしながら、この経糸4の編目が形成されるときに、緯糸ガイド3に対して緯糸挿入のための横振り動作を同時にさせると、緯糸ガイド3と経糸針8とが干渉するため、緯糸ガイド3が経糸針8より後部側に位置している間は、緯糸ガイド3を編幅端部から横振り運動をさせないようにしておく必要がある。
【0021】
すなわち、経糸ガイド9のショギング時(経編目形成時)には緯糸ガイド3を経糸針8の後部側で待機させ、その横振り動作を停止させておく。しかして、前方へのスイング動作によって緯糸ガイド3が経糸針8より前部側の位置に移ると、次回の緯糸挿入のため緯糸ガイド3は横振り動作を開始し、経糸針8の鉤の突出していない前部を編幅全体にわたって移動する。緯糸ガイド3が編幅端部に達すると、そこで横振り動作は一旦停止し、経糸針8の上下動と、経糸ガイド9のスイングとショギングの複合した動作を行い、先に挿入されている緯糸1を、そのとき形成される経編目に挿入して編み込む。緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9が以上の動作を繰り返して編成が進行する。
【0022】
これらの緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9の従来の動きを、図1及び図2に基づいて具体的に説明する。
【0023】
図1に示すように、単一の上記ガイドハンガー7は編成部の全幅にわたって延設されている。図2に示すように、このガイドハンガー7は長尺の円筒軸7bを有し、その中心に上記回転軸7aが挿入され、回転軸7aの回転とともに前記円筒軸7bを回転させる。前記回転軸7aは図1に示す緯糸ガイド駆動装置6と連動して、図示せぬ駆動部により所定の角度の間を正逆回転する。図2に示すように、前記円筒軸7bには、その長さ方向に所定の間隔をおいて平行に固設されたブラケット7cを有しており、ブラケット7cには、緯糸ガイド3の走行を案内するガイドレール7dと、このガイドレール7dと所要の角度で長さ方向に交差するように配された多数の経糸ガイド9を支持する経糸ガイド支持部材7eとが固設されている。
【0024】
緯糸ガイド3は、上下方向に沿う板部材3aと、同板部材3aの上部前面に配され上記ガイドレール7dを上下から挟んで転動する4個の転動ロール3bと、前記板部材3aの下部後面に配され、左右ロール対の間において緯糸1をガイドしつつ繰り出す左右一対の緯糸ガイドロール3c(緯糸ガイド体)と有している。前記経糸ガイド9は、直線状のピン部材からなり、その下端には経糸4を案内する目孔9aが形成されている。経糸ガイド9は細長い円筒部材であってもよく、その場合には経糸4を円筒内部を挿通させてガイドする。
【0025】
回転軸7aを中心としてガイドレール7dとガイド支持部材7eとを前後方向に揺動(スイング)させるための図示せぬ駆動機構と、緯糸ガイド3を横振りさせるための図1に示すエンドレスベルト5を駆動する緯糸ガイド駆動装置6とは連動しており、緯糸ガイド3は、両機構により伝達される運動を複合した複合運動をするようになっている。緯糸ガイド3は、経糸ガイド9のスイング運動とショギング運動に同期して同じくスイングとショギングを行う。そのときの経糸ガイド9の一回のスイング、すなわち緯糸ガイド3の一回のスイング時間は緯糸ガイド3の片道の横振り時間に一致している。
【0026】
図3は、従来の代表的な緯糸挿入経編機の編成部における緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9の動きを示している。
【0027】
いま、図3(A)に示すように、経糸針8が図示せぬ針溝から押し上げられて、針板12の上面から上方に向けて起立状態にあり、経糸ガイド9は経糸4の経編目を形成すべく、経糸4を先に挿入された緯糸1を跨ぐようにして経糸針8の前部右側にガイドしている。この状態から図3(B)に示すように経糸ガイド9は経糸針8の右側を通ってその後側に回り込むスイング動作及びショギング動作の複合した動きをして、経糸4を経糸針8に巻き回す。このとき、緯糸ガイド3もまた経糸ガイド9と同じ動きをする。すなわち、緯糸ガイド3もまた、経糸ガイド9と同様に、経糸針8の左斜め後方に位置するようになる。
【0028】
ここで、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3がスイング動作により経糸針8の後部側から前部側へと移動しながら、経糸針8が針溝を下降して経編目を形成する。このとき緯糸1は、図3(C)に示すように、前記経編目により拘束される。スイング動作により後方から前方へ移動中に、緯糸ガイド3の位置が経糸針8よりも前部側になると、緯糸ガイド3は前記経編目を中心に経糸針8の前部にて折り返し、経糸針8列の前面を通過して右方向へと走行する。
【0029】
緯糸ガイド3が右方向に走行して編幅の右端に達すると、緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9は緯糸ガイド3の折り返し方向を逆にする以外、同様の動きをして、左端部にて右方向に走行してきた緯糸1を拘束しつつ経編目を形成したのち緯糸ガイド3を反転させる。その後、緯糸ガイド3は右端の経糸針8の前部を通過して左方向へと走行する。この走行中の左端部の経糸針8と経糸ガイド9とは図3(D)に示す位置関係にある。ここで、右側から経糸針8列の前面を走行してきた緯糸1が左端部に達すると、図3(A)〜(C)に示す動きをして、新たな緯糸挿入経編目を形成する。このように、緯糸ガイドロール3cを往復させることにより緯糸1を折り返しながら経糸に4より拘束して編地2を編成する。
【0030】
以上の説明から理解できるとおり、この従来の緯糸挿入編機による緯糸挿入経編編成機構では、その緯糸ガイド3の運動軌跡は、図4に示すように、編幅の左右端部において経糸針8と干渉しない外側の位置にて、経糸針8の前後を一旦往復するスイングをして経糸針8の前部へと戻り、そこから経糸針8列の前面を移動する、全体にコ字状を描く。
【0031】
ここで、図2に示すように、緯糸ガイド3の緯糸ガイドロール3cは、軸方向両側に鍔3caが形成された円板状をなしており、これら鍔3ca間に緯糸1を保持して回転する。よって、緯糸1の折り返し端部において、緯糸ガイドロール3cを経糸針8の前側を通したのち後方へと経糸ガイド9のスイング動作と同期して移動させる際に、緯糸1は、図2(a)に示すように、後方に移動する緯糸ガイド3の緯糸ガイドロール3cの下部から前方に延出する姿勢となる。このため、緯糸1は、緯糸ガイド3との角度が直角に近づくように小さくなり、経糸ガイド9の鍔3caの外端部に擦れてしまう。特に、緯糸1が中空糸膜である場合、鍔3caの外端部に擦れることで損傷を受けやすい。
【0032】
これに対し、本発明に係る第1実施形態は、図5に示す構成を採用している。なお、第1実施形態において、従来編機と同様の部分は、同じ部材名及び引用符号を用いている。
【0033】
つまり、緯糸ガイド3が、まず、ヒンジ軸15aと、このヒンジ軸15aを中心に揺動する一対のヒンジ板15b,15cとを有するヒンジ15(支持手段)を有している。このヒンジ15は、ヒンジ軸15aを回動軸7aと平行な姿勢として一方のヒンジ板15bにおいて板部材3aに固定されており、これにより他方のヒンジ板15cが板部材3aに対しヒンジ軸15aを中心に前方に揺動可能となっている。
【0034】
また、緯糸ガイド3は、板部材3aに対し揺動するこのヒンジ板15cに固定される支持板16aと、この支持板16aに直交する支持軸16bと、支持軸16bの支持板16aとは反対側に支持板16aと平行をなして取り付けられる当接板16cとを有する支持部材16(支持手段)を有している。支持板16aと当接板16cとの間の支持軸16bに、緯糸ガイドロール3cが、支持板16a及び当接板16cと平行に支持されている。これにより、緯糸ガイドロール3cは、ヒンジ15及び支持部材16によって、板部材3aに平行でほぼ上下方向に沿う(中心線がほぼ水平に沿う)図5(b)に示す基本位置から、図5(a)に示すように下部が前側に位置するように傾動可能に支持されている。
【0035】
また、緯糸ガイド3は、支持板16aと板部材3aとの間に介装されて、ヒンジ板15c、支持板16a、緯糸ガイドロール3c及び当接板16cを、板部材3aに平行な基本位置に位置するように付勢する引っ張りバネ(付勢手段)17を有している。
【0036】
以上により、緯糸ガイド3の緯糸ガイドロール3cは、図5(a)に示すように下部が前側に位置するように傾動可能となっている。これに対応して、緯糸1の折り返し端部の経糸針8の後方には、緯糸ガイド3が経糸針8の後方へと経糸ガイド9のスイング動作と同期して移動する際に、当接板16cの下部に当接することで、その後方移動を規制して当接板16c、支持軸16b、支持板16a及び緯糸ガイドロール3cを、引っ張りバネ17の付勢力に抗して下部が前方に位置するように傾動させる邪魔板18(移動規制手段)が配置されている。上記したヒンジ15、支持部材16、引っ張りバネ17及び邪魔板18が、緯糸ガイドロール3cを後方に移動させる際に下部が前側に位置するように傾動させる傾動機構19を構成している。
【0037】
図5(b)に示す基本位置に位置する緯糸ガイドロール3cの上方には、中間ガイド20が支持板16aに支持されて設けられている。中間ガイド20は、回動軸7aと平行な姿勢で支持板16aに支持される支持軸20aと、支持軸20aを内側に挿入させることで支持軸20aに回転可能に支持される円筒状の回転体20bとからなっている。
【0038】
上記の傾動機構19により、緯糸1の折り返し端部において、緯糸ガイドロール3cを経糸針8の前側を通したのちその後方へと経糸ガイド9のスイング動作と同期して移動させる際に、図5(a)に示すように、緯糸ガイドロール3cを下部が前側に位置するように傾動させることになる。具体的には、緯糸ガイドロール3cを後方へと移動させると、邪魔板18が、当接板16cに当接して緯糸ガイドロール3cの下部の後方移動を規制することになり、これにより、ヒンジ15で傾動可能に支持された緯糸ガイドロール3cを引っ張りバネ17の付勢力に抗して下部が前方に位置するように傾動させる。このため、後方に移動する緯糸ガイドロール3cの下部から前方に延出する姿勢となる繰り出し側の緯糸1と緯糸ガイドロール3cとの角度を180度近くに大きく保つことができ、緯糸ガイドロール3cの鍔3caの角に、繰り出し側の緯糸1が擦れてしまうのを抑制できる。したがって、緯糸ガイドロール3cに起因する緯糸1の損傷を抑制でき、製品品質を向上させることができる。しかも、傾動機構19が緯糸ガイドロール3cの後方移動を利用して緯糸ガイドロール3cを傾動させることになるため、簡素な構成で緯糸ガイドロール3cを傾動させることができる。
【0039】
また、このように緯糸ガイドロール3cが傾動する傾動時に、緯糸ガイドロール3cの延長上に設けられた中間ガイド20の回転体20bが、緯糸ガイドロール3cから上方の供給元側に延出する緯糸1を緯糸ガイドロール3cに沿う姿勢とする。よって、供給元側の緯糸1と緯糸ガイドロール3cとの角度も180度近くに大きく保つことができ、緯糸ガイドロール3cの鍔3caの角に、供給元側の緯糸1が擦れてしまうのを抑制できる。したがって、緯糸ガイドロール3cに起因する緯糸1の損傷をさらに抑制でき、製品品質をさらに向上させることができる。
【0040】
加えて、緯糸ガイドロール3cが、緯糸1と緯糸ガイドロール3cとの角度が小さくなることにより緯糸1に損傷を生じやすい、軸方向両側に鍔3caが形成された円板状をなすため、緯糸ガイドロール3cに起因する緯糸1の損傷を抑制する効果が高くなる。
【0041】
また、緯糸1を外因により損傷を受けやすい中空糸膜としたため、緯糸ガイドロール3cに起因する緯糸1の損傷を抑制する効果が高くなる。
【0042】
なお、緯糸1の折り返し端部において、緯糸ガイドロール3cは、上記のように経糸針8の後方に移動した後、前方へと移動し戻ることになるが、このとき、傾動機構19は、図5(b)に示すように、邪魔板18から当接板16cが離れることになって緯糸ガイドロール3cが引っ張りバネ17の付勢力で基本位置に戻る。
【0043】
次に、本発明に係る第2実施形態を、主に図6,図7に基づいて説明する。
【0044】
上記した従来および第1実施形態において、緯糸ガイド3は、その移動両端において横振り動作を停止して、経糸針8の下降運動と経糸ガイド9のスイング及びショギングの複合動作とからなる経糸編成の動作を待ったのちに緯糸ガイド3を横振りさせることが必要であった。この停止時間は緯糸1の挿入時間の短縮を阻害する要因となっている。かかる要因は、経糸ガイド9が経糸針8の後部までスイングしショギングを行って経糸編成を行う必要があることと、さらに、経糸針8は後部に向かって突出する鉤状とされており、経糸ガイド9が経糸針8の後部にあるとき、緯糸ガイド3が経糸針8の後部を移動して緯糸1を経糸針8の後ろに挿入しようとすると、緯糸1が経糸針8に引っ掛かってしまい、編地2を編成することが出来ないことによる。
【0045】
このような従来および第1実施形態の構成に対して、第2実施形態にあっては、図6に示すように、上記針板12上に配列された多数の経糸針のうち、編幅方向左右の最端部にある経糸針8の外側(折り返し端側)に隣接させて、緯糸折り返しガイド11を設けている。この緯糸折り返しガイド11は経糸針8と同等の長さをもつピン部材からなることが好ましく、その断面は円形又は楕円形であって、更には上端に向けてその断面積が漸減するような形状であることが望ましい。かかるピン部材からなる緯糸折り返しガイド11が、前記針板12の図示せぬガイド溝に上下動可能に嵌着されている。この緯糸折り返しガイド11の上下駆動は、上記経糸針8の駆動源によりなされ、緯糸折り返しガイド11と全ての経糸針8とが同じタイミングで同一の行程を上下動する。
【0046】
第2実施形態では、上記のように、経糸針8の緯糸反転側に隣接させて、新たに緯糸1を折り返すときに案内する折り返しガイド11を設けている。その他の構成は上記第1実施形態の緯糸挿入経編機と実質的に変わるところがない。従って前記折り返しガイド11以外は、従来及び第1実施形態の編機と同じ部材名及び引用符号を用いている。
【0047】
第2実施形態において、前記折り返しガイド11の形状は真っ直ぐな円柱形状とした。なお、前記折り返しガイド11の形状は、折り返しガイド11を下降させるときに、折り返しガイド11を支点に折り返した緯糸1が折り返しガイド11から抜ければよいので、局部的に摩擦抵抗が生じない楕円形の柱状形状や、上下で太さを変化させた柱状形状など種々選択が可能である。前記折り返しガイド11を支点に緯糸1を折り返し、緯糸ガイド3を経糸針8の後方を走行させて、経糸編成中も緯糸ガイド3を移動させるようにしている。また、本実施形態では緯糸ガイド3は緯糸1(中空糸膜)の損傷をより小さくするためにロールを用いているが、これに限定されるものではなく、例えばリングの中に糸を通してガイドするリングガイドを用いることも可能である。
【0048】
かかる構成を備えた第2実施形態の緯糸挿入経編機の編成部における各構成部材間の編成動作を具体的に説明する。
【0049】
図6(A)に示すように、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3は経糸針8よりも前方にあり、同図の右側から走行してきた緯糸ガイド3は、経糸針8及び折り返しガイド11の前方を通過して、緯糸1を経糸針8及び折り返しガイド11の前側に挿入する。このときは、緯糸1が経糸針8列の前面を通過し、緯糸ガイド3は経糸針8の鉤の突出側とは反対側を通過するため、緯糸1も緯糸ガイド3も経糸針8と干渉することがない。経糸ガイド9及び緯糸ガイド3は、緯糸1が折り返しガイド11を通過するとき、後方へスイングを開始し、緯糸ガイド3を移動端まで移動させる。
【0050】
次いで、図6(B)に示すように、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3を更に後方へスイングさせ続けると同時に反転させて、緯糸ガイド3に反対方向(同図の右方向)の移動を開始させる。すなわち、緯糸1は折り返しガイド11を支点に折り返し、緯糸ガイド3を折り返しガイド11及び経糸針8の後方を通過させて、緯糸1を経糸針8の後方において挿入を開始する。このように経糸ガイド9のスイング動作と同期して後方へと移動する緯糸ガイド3において、第1実施形態と同様、上記の傾動機構19が、邪魔板18に当接板16cを当接させることになり、緯糸ガイドロール3cを下部が前側に位置するように傾動させることになる(図5(a)参照)。
【0051】
このとき、経糸ガイド9は、図6(C)に示すように、ショギング動作により経糸4を経糸針8に掛け回しながら、同時に前方にスイングしたのち、経糸針8が下降して経編目を形成し、既に経糸針8の前部に緯入れされた緯糸1を経糸4の経編目によって拘束する。この前方へのスイングで、第1実施形態と同様、上記の傾動機構19が、邪魔板18から当接板16cを離間させることになり、緯糸ガイドロール3cを基本位置に戻す(図5(b)参照)。このときの経糸針8の下降位置は、図6(C)に示すとおり、既に挿入されて拘束されている緯糸1よりも低い位置となる。経糸針8の下降とともに折り返しガイド11も同様に下降して、折り返しガイド11が緯糸1の折り返し端から抜け出す。この折り返し端から折り返しガイド11が抜かれると、経糸針8もまた下方に位置するため、経糸針8の後方位置を右方向へと走行する緯糸1は、経糸針8により干渉されない。ここで、経糸ガイド9とともに緯糸ガイド3が、針板12の針溝内に退避している経糸針8の前方へとスイングする間に、緯糸1は前記緯糸ガイド3に導かれて経糸針8より前方へと移動する。この移動時に、折り返しガイド11にて反転した緯糸1の折り返し位置は、折り返し側端部の経糸針8の位置、すなわち経糸4の位置に移っている。ここで、図6(D)に示すように、経糸針8と折り返しガイド11が一緒に上昇して、次回の経糸編みの準備が整う。
【0052】
以上の説明から理解できるとおり、第2実施形態による緯糸挿入経編機では、緯糸1は左右の編み幅の一端部において経糸針8の前方を通過して、その後方を折り返しガイド11に案内されて反転した後に、経糸針8及び折り返しガイドが下降して先に挿通されている緯糸を拘束しながら経編目を形成する。折り返しガイド11に案内されて反転した緯糸ガイド3は、そのまま停止することなく、或いは折り返し点で一時的に瞬時停止状態になり、編幅方向の他端側に向かって走行を開始する。この経糸針8が下降している間に、ガイドハンガー7は後方から前方へとスイングするため、それまで経糸針8の後方にあった緯糸1は、経糸針8と折返しガイド11が下降限まで下降して、折返しガイド11が緯糸1の折返し端から抜け出したとき、経糸針8列の前方へと移ることになる。すなわち、前方及び後方へのガイドハンガー7のスイングの運動と左右への緯糸ガイド3の横振り移動の複合運動により、緯糸ガイド3は図7に示すような左右に配された折り返しガイド11を巡って8の字状の軌跡を描く。ここで、図7に示す実施形態では、経糸針8と折り返しガイド11が同一直線上に隣接して配されているが、経糸針8を折り返しガイド11よりも僅かに前方に変位させて配することもできる。
【0053】
経糸針8を上下させる駆動機構と折り返しガイド11を上下させる駆動機構は異なる機構で構成することも可能であるが、同一の機構を用いる方が装置構成が簡単になり好ましい。緯糸ガイド3は折り返しガイド11の外側を通過する必要があるが、経糸針8から折り返しガイド11までの緯糸ガイド3の移動は緯糸挿入工程に直接寄与しない動作であるため、折り返しガイド11は経糸針8に可能な限り近づけて設置するのが好ましい。
【0054】
上記の第1,第2実施形態により、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束して得られる編地2は、例えば図8に示すように、ハウジング24と中空糸膜編地23とからなる中空糸膜モジュール25を作製する場合に用いられる。この場合、中空糸膜編地23の両端をハウジング24に固定するにあたって、中空糸膜編地23の両端が経糸4によって拘束されているため、その緯糸1(中空糸膜)の折り返し端を切断しやすく、ハウジング24への固着もしやすい。
【符号の説明】
【0055】
1 緯糸
2 編地
3 緯糸ガイド
3c 緯糸ガイドロール(緯糸ガイド体)
3ca 鍔
4 経糸
8 経糸針
9 経糸ガイド
15 ヒンジ(支持手段)
16 支持部材(支持手段)
17 引っ張りバネ(付勢手段)
18 邪魔板(移動規制手段)
19 傾動機構
20 中間ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸ガイド体を往復させることにより緯糸を折り返しながら経糸により拘束して編地を編成する経編機であって、
前記緯糸の折り返し端部において、前記緯糸ガイド体を前記折り返し端部に配された経糸針の前側を通したのち該経糸針の後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、前記緯糸ガイド体を下部が前側に位置するように傾動させる傾動機構を有してなることを特徴とする経編機。
【請求項2】
前記傾動機構は、
前記緯糸ガイド体を基本位置から下部が前側に位置するように傾動可能に支持する支持手段と、
前記緯糸ガイド体を前記基本位置に位置するように付勢する付勢手段と、
前記緯糸ガイド体が前記経糸針の後方へと前記経糸ガイドのスイング動作と同期して移動する際に、前記緯糸ガイド体の下部の後方移動を規制して前記緯糸ガイド体を前記付勢手段の付勢力に抗して下部が前方に位置するように傾動させる移動規制手段とを有してなることを特徴とする請求項1記載の経編機。
【請求項3】
前記傾動時に前記緯糸ガイド体から供給元側に延出する前記緯糸を前記緯糸ガイド体に沿う姿勢とする中間ガイドを有することを特徴とする請求項1または2記載の経編機。
【請求項4】
前記緯糸ガイド体は軸方向両側に鍔が形成された円板状のガイドロールであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の経編機。
【請求項5】
前記緯糸が中空糸膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の経編機。
【請求項6】
緯糸ガイド体を往復させることにより緯糸を折り返しながら経糸により拘束して編地を編成する編物の製造方法であって、
前記緯糸の折り返し端部において、前記緯糸ガイド体を前記折り返し端部に配された経糸針の前側を通したのち該経糸針の後方へと経糸ガイドのスイング動作と同期して移動させる際に、前記緯糸ガイド体を下部が前側に位置するように傾動させることを特徴とする編物の製造方法。
【請求項7】
前記緯糸が中空糸膜であることを特徴とする請求項6記載の編物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate